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J Hus

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Big Conspiracy

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米澤慎太朗   Feb 05,2020 UP
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 ロンドンでギャングスタ・ラップから派生し、レゲエ、グライム、ヒップホップ、アフリカ音楽の影響を受けて生まれたジャンル「Afrobeats」、そのジャンルのトップを走るのがラッパーのジェー・ハス(J Hus、文中「ハス」)である。メロディのポップネスとリリックのバッドネスを高い水準で兼ね備えた彼の音楽は高く評価され、デビュー・アルバムの『Common Sense』(2017)はセールス面でもゴールドディスクを獲得した。

 メロディックなフローと、ギャングスタのストーリーや敵に対する暗号めいた煽りが鍵となって人気となったが、ロンドンで増加するナイフ犯罪を助長している音楽としてやり玉に挙げられたりもしている。ハスはそれほどにロンドンのある一面を象徴する存在となっているのだ。

 ハスの家族はガンビアにルーツを持ち、Stratford に生まれ育ったハスは俳優になることを夢見たが、トラブルに巻き込まれ15歳で学校をドロップアウト。2011年~2015年にギャング同志の暴力事件で2回逮捕、起訴され、彼自身も Canning Town の抗争を巡って2度ナイフで刺されている。一時は左半身麻痺となり、軽度のPTSD状態であったといわれる彼は、デビュー・アルバムの大ヒット後の2018年、15センチのナイフの所持で逮捕される。襲撃未遂の嫌疑で1年ほどシーンから姿を消すことになる。彼の不在はシーンに大きな影響を与えたが、昨年は NSG “OT Bop” のヒットなど、アフロビーツの勢いは以前として根強い。

 2019年4月、Drake のロンドン公演のスペシャル・ゲストとして遂に公の場に「帰還」を果たしたハスは、2020年1月3枚目のアルバムとなる『Big Conspiracy』をリリースした。タイトル・トラックの 1. “Big Conspiracy” =大いなる陰謀は、彼の過去の経験に裏打ちさたストリートでの騙しあいを巡るリリックで、それを「鳥の視点」で眺める曲でもある。

みんながスパイみたいに見えるから
俺はレーガンみたいにドラッグにNoと言う
“Big Conspiracy”

 2. “Helicopter” では空の上からヘリコプターで捜査する警察を豚とかけて展開したり、自らを9世紀にスペインにイスラム文化を持ち込んだ「ムーア人」に例えるなど、さまざまな比喩を駆使しながらシンガーの iceè tgm とともにロンドンのギャングスタの景色を切り取っていく。「詐欺師のために銃を持ち歩く」と、過去の逮捕に凝りずに銃とともに生きる彼が、R&Bシンガーの名前を比喩しながら挑発的にラップする 3. “Fight for Your Right”、過去のギャングの物語である 4. “Triumph” と、彼の「リアル」を表現する。

 Burna Boy をサビに迎えた 5. “Play Play” はハスの過去の恋愛についての歌だが、ここでも「gunplay」(銃を撃つ)と「play」(遊ぶ)の言葉遊びで、銃の比喩が一貫して使われる。6. “Cucumber” はうって変わって下ネタと車ネタ全開の1曲で、パトワを用いるスタイルもあいまってダンスホール・レゲエの影響を強く感じさせた。グラミー賞を受賞したレゲエ・アーティスト Koffee を迎えた 7. “Repeat” はこのアルバムでも屈指のポップ・ソングだ。グローバルに活躍するふたりが「お金があるところにどこでもいくぜ」という内容の1曲だが、Giggs からも影響を受けたと語る Koffee とのナイス・コンビで、アフロビーツやヒップホップ、グライムのスラングを混ぜながらレゲエをアップデートしている。

 後半では 11. “Must Be” で事件に関係しているように聞こえる部分が語られる。

お前は敵と一緒に笑ってた、敵と一緒に笑みを浮かべた
敵と一緒に泣いた、敵と一緒に盛り上がった
お前は “繋がり” で汚れているんだ、お前が悪いんだ
“Must Be”

 地元でもあり、逮捕の現場となったのは Stratford Westfield のショッピングモール。ロンドン五輪をきっかけに富裕層を呼び込むために再開発によって生まれ変わった巨大なショッピングモールだ。疑り合うギャングの心性を象徴するこの曲は、再開発で「生まれ変わった」風景の実情を象徴している。巨大資本の再開発とな無縁のストリートで培った “敵か味方か” というギャングの態度。ハスのリリックは敵への恨みにも聞こえるが、裏切られたことの悲しみや孤独も感じられる。疑心暗鬼は彼の成功に亡霊のように付きまとい、人生に暗い影を落としている。

 そんなネガティヴを跳ね返す 12. “Love, Peace and Prosperity” では、彼の宗教であるイスラム教への言及もしつつ、音楽によって救われた彼の人生への賛歌だ。お決まりのコードを新鮮に響かせる Jae 5 のパターンの組み方にも感心させられる。このアルバムのエピローグ的な 13. “Deeper Than Rap” ではスピリチュアルな側面やアフリカへの帰還も示唆される。

 ハスはもはや「ナンバー1のギャングスタ」だけではない。アフロビーツのメロウさや哀愁を武器にポップスを量産する。しかしその裏にはネガティヴや苦難を背負い、いまを生きる人びとの気持ちを代弁するUK随一のリリシストへと成長した。

米澤慎太朗

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