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Teen Daze

Ambient PopElectronic

Teen Daze

Bioluminescence

Flora / PLANCHA

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Jun 12,2019 UP

 美しい間接照明のように穏やかな光の感覚。もしくは静かに、深く、慎ましやかに、感情の奥深くからこみ上げてくる感覚……。
 ティーン・デイズの卓抜な出来栄えを誇る新作『Bioluminescence』を聴いていると、10年代における「エモい」とはこういうことではないかとも思ってしまった。ミニマルにしてエモーショナルな何か。深く強くこみ上げてくる感情。そして、10年代以降の感覚、品の良さ、清潔、ミニマルなセンス。

 ティーン・デイズはカナダのブリティッシュコロンビアを拠点とする音楽家である。彼は2010年代初頭におけるチルウェイヴやベッドルーム・ポップのムーヴメントの中でもとりわけよく知られているアーティストだ。近年は自らレーベルを主宰し、作品を送りだしている。
 新作『Bioluminescence』は、そんな彼が運営するレーベル〈Flora〉からリリースされた最新アルバムである。前作『Themes For A New Earth』以来、2年ぶりにして、6作目のアルバムだ。
 とはいえ本名のジャミソン・イサーク名義で、クラシカル・ミニマルにしてアンビエントを追求したEPシリーズとカセット作品、それらを1枚のCDアルバムにまとめた『Cycle Of The Seasons』をリリースもしていたので、ひさしぶりという気はしない。2016年以降、〈Flora〉の運営・リリースをはじめてからというもの、彼はコンスタントに楽曲を送りだしているのである。

 重要なことは、〈Flora〉からのリリースによって、ティーン・デイズの音楽性が変化したことだ。10年代初頭にカナダのベッドルーム・ポップの新星としてチルウェイヴ・ブームとも交錯するかたちで評価を獲得したティーン・デイズだが、そのようなパブリック・イメージに抗うように、〈Flora〉からはアンビエントなムードを醸し出す楽曲を発表してきた。
 これらの作品において、カナダの自然や季節から地球環境をトレースするように、エコロジカル/オーガニックな音楽性を追求している。それがいまの彼のメロディであり、リズムであり、サウンドなのだろうと思う。いささか騒がしい音楽の流行から距離を置き、やわらかな意志を封じこめたような音楽を生みだすこと。

 『Bioluminescence』も、2017年以降に〈Flora〉からリリースされた3枚のアルバムのサウンドを継承し、発展させた仕上がりである。ミックスは、ダニエル・ロパティン=ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーと競作歴のあるジョエル・フォード、マスタリングは〈Room40〉や〈Umor Rex〉からのリリースでも知られるアンビエント作家ラファエル・アントン・イリサリらが手がけている。
 本作には『Themes For Dying Earth』のようにゲスト・ヴォーカルをまねいたヴォーカル・トラックですらない。ピアノやキーボード、ギターの音色が奏でるミニマルなフレーズを基調にし、ときにアンビエント、ときにテクノへと音楽を変化させていくインストゥルメンタル・トラックを収録しているアルバムなのだ。ティーン・デイズ『Themes For A New Earth』や、ジャミソン・イサーク『Cycle Of The Seasons』を継承・発展したようなアンビエントな作風であり、アンビエントとテクノというエレクトロニック・ミュージックの両極を往復しながら、オーガニックでアトモスフィリックなサウンドが全編にわたって展開しているのである。

 かつてベッドルーム・ポップの代表格のように言われた彼だが、いまのティーン・デイズの音楽は、綺麗に整理されたリヴィングから奏でられる「インテリア・エレクトロニック・ミュージック」のようにも聴こえてくる。居心地のよい自宅のリヴィングで、ミニマムなセットによって創作されたアンビエントやテクノ……。
 人の心の繊細な感情にしみ込むような繊細かつ精密なアンビエントM1 “Near”、アコースティックとエレクトロニックが交錯するM2 “Spring”。バレアリックなムードのM3 “Hidden Worlds”。降り注ぐ太陽の光のごときダンサブルなM4“Ocean Floor”。ミニマルなフレーズを基調としつつ、心地良いアンビエントからエモーショナルなビート・トラックへと変化を遂げるM5 “Longing”。『Cycle Of The Seasons』収録曲を思わせるアンビエントM6 “An Ocean On The Moon”。“Spring”と対を成すようなギターの音色と電子音がまじわるM7 “Drifts”。そこからシームレスに繋がるように、まずはアンビエントで幕を開け、次第に軽やかなリズムがレイヤーされていくM8 “Endless Light”。どの曲もシンプルで素朴なミニマムなメロディをベースにした清潔で、やさしく、ミニマルかつエモーショナルな仕上がりだ。アルバム名の「バイオルミネセンス」は「生物発光」という意味だが、まさに光を放つような電子音楽でもある。
 くわえて日本盤CDは、その後もボーナス・トラックとして“Terraform”と“Ice Age”の2曲が収録されている。2曲とも「ティーン・デイズ流のアンビエントからテクノへと変化するトラック」の完成形ともいえる重要曲だ。アルバムの世界の「その後」が展開されているような錯覚をしてしまったほどである。
 ともあれ全トラック、上品なエモーショナル。モダンで瀟洒なテクノ+アンビエントなサウンドをお探しの方には理想的なサウンドかもしれない。ぜひとも聴いて頂きたい。

デンシノオト