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Com Truise

ElectroSynth-pop

Com Truise

Iteration

Ghostly International / PLANCHA

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デンシノオト   Sep 06,2017 UP

 これは2017年なりの機械/反復の美学であり、記憶のむこうにあるユートピアを希求する音楽でもある。ユートピアとは「80年代」のことだ。今や「80年代」は現実でも近過去でもない。過去という虚構である。マシニックでロボティック。クラフトワークでエレクトロ。80年代中期の細野晴臣。90年代的ではなく80年代のマシン・ファンクなビート。強く優雅なシーケンス・フレーズ。甘く切ないフュージョンなメロディ。ボトムを強烈に刺激するシンセ・ベース。
 つまりエレクトロニカというよりテクノポップ。いやテクノポップというよりミッド・エイティーズ的なエレクトロか。それともエレクトロというよりチップチューンか。いずれにせよ80年代的中期的な音像とムードを10年代的なメリハリ感のあるサウンドで再現し、見事に同時代の音楽として組み上げているわけである。そう、「ブレードランナー」的な都市のネオンサインを、インターネット以降のデジタリズムで再現したとでもいうべきか。これぞシーケンスとシンセ・ベースとドラムマシンによる2017年型のマシン・ミュージックだ。

 コム・トゥルーズは、NY出身・LAを活動拠点とするセス・ヘイリーによるレトロ/フューチャーなシンセティック・ミュージック・プロジェクトである。この『イテレーション』は、2011年にリリースしたファースト・アルバム『Galactic Melt』以来、実に6年ぶりのセカンド・アルバムだ(2012年の『イン・ディケイ』は未発表曲集なのでオリジナル・アルバムにはカウントされていない)。リリースはデビュー以来のお馴染みの〈ゴーストリー・インターナショナル〉から。
 過去にはダフト・パンクにリミックスを提供しており、2017年は、あのクラークとツアーを回っていた(ふたりのスプリット・シングルもリリースしている)。そのうえコム・トゥルーズ=セス・ヘイリーはグラフィック・デザイナーでもあり、アルバムのアートワークも自身で手掛けているほどの才人である(それにしても最近の〈ゴーストリー・インターナショナル〉のリリース作品は、音楽性とアートワークの両方から2010年代後半的な電子音楽のポップ・アートを見事に実現しているように思う)。作風は、先にも書いたように80年代的なレトロ/フューチャーなトラックで、あのティコ以降の〈ゴーストリー・インターナショナル〉を代表するアーティストといえる。
 じじつ本作『イテレーション』は、ポップで聴きやすい音楽性で、80年代のゲーム・ミュージックや70年代後半のTVのCM、80年代の企業広報BGM的な電子音楽を思わせる。つまりは良い意味で「B級」的なポップ感がある。このアップデートされた77年代~80年代中期風の電子音楽をずっと聴いていると、80年代という過去に対する諦念とも憧れとも違う何か、いわばユートピア的な夢想を感じてしまう。これは今の30代以下の世代に共通する全世界的な傾向かもしれない。1970年の「大阪万博」というより、1985年の「つくば科学万博」だ。
 今、70年代後半から80年代のポップ音楽を掘ることが世界的に30代以降の若い世代のなかで浸透している。諸外国では日本のポップ・ミュージックやアンビエントが良く掘られてもいる。少し前に紹介したヴィジブル・クロークスも80年代の日本の音楽を掘っていたし、吉村弘の1982 年発表のアンビエント作品『Music For Nine Post Cards』が再発される時代でもあるのだ(最近、話題になった某TV番組で、大貫妙子の『サンシャワー』を探し求めてLAから日本にやってきた彼もまた同じだろう。ちなみに彼=スティーヴン・デルガド(Steven Delgado)はアーティストでもあり、Chubs The Magnanimous名義でブレイクビーツを巧みに用いた素敵なアルバムをデータでリリースしていた。『宇宙刑事シャイダー』を用いたアートワークの80年代特撮感覚と、80年代的音楽性へのサンプリング/ブレイクビーツ的センスの融合でなかなか良い。それにしても彼はもうすぐ日本でリイシューされる細野晴臣がスーパーバイザーを務めた元祖テクノポップ・アイドル(?)真鍋ちえみ『不思議・少女』(1982)を知っているのだろうか。いや、多分、知っているだろう)、そのような感覚を共有しているのではないだろうか。
 諦念とも憧れとも違うミッド80年代への夢想、もしくはユートピア的願望。過去が理想郷として表れてくること。本アルバムが意味する「イテレーション=反復」も音楽それ自体の反復という意味だけではないだろう。いわば亡霊のように再帰する80年代音楽全般への反復=希求という感覚とでもいうべきではないか。
 アルバム冒頭を飾る“…オブ・ユア・フェイク・ディメンション”のシーケンスが80年代的な夢想へとわれわれを誘う。硬い音色のジャストなビートとベースとの絡みが強い中毒性を生んでもいる。また、2曲め“エフェメロン”の終わり近くで古いテープのように音がどんどん歪んでいくサウンドもミッド80年代という過去を表現しているといえる。そして不安な記憶をえぐるような焦燥と緊張感に満ちた5曲め“メモリー”、その不安からの解消のごときメロディック・ファンクな6曲め“プロパゲーション”、ミディアム・テンポのなか電子音とスライスされた声が重なる7曲め“ヴァキューム”、テクノ化したテリー・ライリーか80年代の久石譲を思わせるシンセ・リフとファットなビートの8曲め“ターナリー”、夢の中を浮遊するようムードの10曲め“Syrthio”など、アルバムは「今は1985年か?」と思ってしまうようなシンセティック・サウンドを存分に展開するのだが、私には、それらが単なるノスタルジアにはどうしても思えない。そもそも1986年生まれのセス・ヘイリーにとって、ミッド80年代はもの心つく前の時代のはずで、記憶の中にうっすらと残っている程度の「過去」のはず。

 幼少期のおぼろげな記憶ゆえに、過去(80年代)をユートピア(既知と未知の弁証法的理想郷?)とする感覚が、本作には確かにある。だからこそアルバム・ラスト曲の“イテレーション”が、やや1990年代初頭の質感を僅かに感じさせるのではないか。「80年代の終わり」からの反復? 「反復」という名の曲で、『反復』というアルバムを終わらせる意味は、それなりに意味深である。
 80年代の終わり/現実の始まり。それはつまり幼少期の終わり。このポップなサウンドの裏側には、どこか現代社会への不安と希望が混じり合った感覚があるように思えてならない。

デンシノオト

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