ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Tohji - angel (review)
  2. Philip Bailey - Love Will Find A Way (review)
  3. Undefined ──注目のダブ・ユニットがUSの〈ZamZam Sounds〉から初のリリース (news)
  4. Zonal ──これは注目! JKフレッシュ、ザ・バグ、ムーア・マザーによる驚きのコラボ作がリリース (news)
  5. Kali Malone - The Sacrificial Code (review)
  6. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開 (news)
  7. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第8回 電車の中で寝転がる人、ボルタンスキーの神話 ――2019年8月11日に見たものの全て (columns)
  8. Inoyama Land & Masahiro Sugaya ──イノヤマランドと菅谷昌弘の編集盤が、スペンサー・ドーランのレーベルからリリース (news)
  9. FEBB ──ファースト・アルバム『THE SEASON』のデラックス盤がリリース (news)
  10. Columns 万華鏡のような真夏の夜の夢 ──風車(かじまやー)の便り 戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)音楽祭2019 (columns)
  11. Eartheater ──アースイーターが新たにレーベルを始動、新曲を公開 (news)
  12. Calexico / Iron & Wine - Years To Burn (review)
  13. Battles ──バトルスが新作を引っさげ来日 (news)
  14. interview with Yutaka Hirose よみがえる1986年の環境音楽 (interviews)
  15. New Order ──すでに話題のニュー・オーダー来日情報 (news)
  16. Solange - When I Get Home (review)
  17. Ninjoi. - Masayume (review)
  18. Laura Cannell - The Sky Untuned / Laura Cannell, Polly Wright - Sing As The Crow Flies (review)
  19. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  20. Tunes Of Negation ──音楽にまだ未開の領域はあるのか、シャックルトンの新プロジェクトがすごい! (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Yussef Kamaal- Black Focus

Yussef Kamaal

Club JazzJazz

Yussef Kamaal

Black Focus

Brownswood Recordings/ビート

Tower Amazon

小川充   Nov 30,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ユセフ・カマールというイスラム系の名前に、アルバム・ジャケットもアラビア文字を使ったものなので、ジャズ・ファンの中にはブラック・ムスリム系のスピリチュアル・ジャズを連想する人も多いだろう。恐らくそうしたイメージは間違っていないし、このユニットは意図的にそうした方向性を打ち出している。ただし、ユセフ・カマールは1960年代後半から1970年代前半のアメリカのスピリチュアル・ジャズではなく、現在のイギリスの若手ジャズ・ユニットである。だから、カマシ・ワシントンのようなロサンゼルス~米国西海岸スピリチュアル・ジャズの伝統を引き継ぐ存在ではなく、クラブ・サウンドとしてのジャズが根付くUKらしいユニットである。彼らが提示するスピリチュアルなフィーリングやブラックネスも、やはりクラブ・ミュージックとしてのフィルターを介したものであり、純粋な意味でのスピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズとは少々異なる。むしろフュージョンやジャズ・ファンクの部類に属するもので、アフリカ色の強かった初期ハービー・ハンコックやアース・ウィンド&ファイアから、1970年代中盤のゲイリー・バーツやカルロス・ガーネット、そしてロニー・リストン・スミスやロイ・エアーズなどに繋がるものだ。

 ユセフ・カマールはユセフ・デイズとカマール・ウィリアムスによるユニットで、ユセフはアーマッド、カリームら兄弟とともにユナイテッド・ヴァイブレーションズというバンドで活動している。ドラマーの彼はほかにもルビー・ラシュトンというユニットにも参加しているが、そのどれもがブラックネスやアフリカニズムに富むジャズ・サウンドを作り出している。一方、カマールは本名がヘンリー・ウーという中国系プロデューサー/鍵盤奏者。ルビー・ラシュトンのリーダーであるテンダーロニアスの主宰する〈22a〉ファミリーのひとりで、Wu15(ウー15)というユニットで〈エグロ〉からEPを出し、そのサブ・レーベルの〈ホー・テップ〉からも作品リリースがある。それらの作品はジャズ・ファンク~フュージョンとディープ・ハウスやビートダウンの融合によるエレクトロニック・サウンドで、セオ・パリッシュからフローティング・ポインツに繋がるような作風だった。彼らはボイラー・ルームでのワンナイト・セッションで意気投合し、本格的なユニットとして活動を開始した。アルバム制作に関しては、アデルのバック・バンド・メンバーでもあるベーシストのトム・ドライスラーをサポートに招き、トリオ態勢で楽曲制作・演奏をおこなっている(楽曲によってトランペットなどのホーンも交えている)。

 『ブラック・フォーカス』というタイトルが示すとおり、アルバム全体は1970年代のアフロ・アメリカン・ミュージシャンが志向したトーンの影響を受けている。特にハービー・ハンコックやロニー・リストン・スミスなどの方向性に近く、土着的でポリリズミックなアフロ・ジャズというより、スペイシーでミスティックな質感のもの。表題曲でのユセフのドラムはアフリカ的なモチーフに富むが、カマールのフェンダー・ローズは極めてクールなもの。彼の鍵盤がアルバム全体にコズミックなフィーリングをもたらしている。“ストリングス・オブ・ライト”は、かつてディーゴやIGカルチャーらがやっていたウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・サウンドに近い。ユセフのドラムは不定形ながらソリッドでグルーヴに富むビートを作り出し、その上で浮遊するカマールのシンセがトリップへと誘う。“リメンバランス”は〈CTI〉時代のボブ・ジェームス作品あたりに近い質感で、彼がプロデュースしたアイドリス・ムハマッドの“ピース・オブ・マインド”を想起させる導入部だ。都会的でモダンな方向性を打ち出すことにより、黒人のコズミックなフィーリングやブラックネスを体現したのが1970年代のジャズ・ファンクやエレクトリック・ジャズだったが、それと同じベクトルを持つ曲である。“ヨー・シャヴェズ”は柔らかな浮遊感に包まれ、カマールの持つアンビエントな側面がよく表われている。この曲から“アイラ”、“O.G.”へと繋がる展開は、フローティング・ポインツの傑作『エレーニア』にも匹敵するだろう。

 そして、カマールのダンス・ミュージック・プロデューサーとしての才能は“ロウライダー”に見てとることができる。1970年代後半のロイ・エアーズやジェームズ・メイソン、そのメイソンや川崎燎も参加したタリカ・ブルーを想起させるブギー・フュージョン的なリズムを持ち、それと同時に前述のウェスト・ロンドン・サウンドやその当時2000年前後のクラブ・ジャズの流れを汲むものと言えよう。“ジョイント17”はクールなジャズ・ファンクを基調としつつ、ユセフのドラム、カマールのキーボードがインプロヴィゼイション感覚に富むプレイを繰り広げ、最後はボイラー・ルームでのギグにポエトリー・リーディングを交えたような展開で締め括る。アルバム全体のコンセプトやイメージ構築、流れや展開の持っていき方、各楽曲のモチーフの集め方など、ジャズ・ミュージシャンではなくクラブ・サウンドのプロデューサー的な編集感覚で作られたアルバムであり、そうしたエクレクティックな作業はUKクラブ・シーンならではのものだ。

小川充