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How To Dress Well

ElectronicR&B

How To Dress Well

What Is This Heart?

Weird World / ホステス

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木津毅   Jul 28,2014 UP

ぼくに力はない
でもここに存在する限り
愛したい“ア・パワー”

 もしこの5、6年ほどでチルウェイヴやシンセ・ポップが本当に男たちのフェミニンな側面を引き出したとすれば、その功績は大きかったと言わざるを得ない。ちょっと見渡しただけで、クィアな男ばかりではないか! チルウェイヴでアメーバ状に広がった感性を引き継ぎ、かつ最近ではインディR&Bと呼ばれるものを切り拓いたのがハウ・トゥ・ドレス・ウェルだったということは、トム・クレルがそのファルセット・ヴォイスで喉仏=男性性をはじめから捨てていたことからもわかるだろう。彼はアルバムを重ねるごとによりオープンに自らのクィアネスを晒しているように見えて、その点では新作『“ホワット・イズ・ディス・ハート?”』に言うべきことは何もない。ロディ・マクドナルドとの共同プロデュースによってプロダクションはよりメジャーに、ポップになり、そしてジャケットにもあるようにより自分自身を露わにしている。彼自身……その弱さ、ナイーヴネス、感傷と痛みを。

 エリック・サティを思わせる神経症的なピアノの和音が導入となる“2イヤーズ・オン(シェイム・ドリーム)”はアコースティック・ギターによるバラッドで、彼の声はそのオープニング・ナンバーですでに丸裸だ。『ラヴ・リメインズ』の歪みや靄、あからさまなノイズはもうない。「痛みは決して消え去ることはない」……ふとゴッホの遺書のなかの有名な言葉を思い出す(「悲しみは永遠に消え去らない」)。そうしたカギカッコつきの「アーティスト」のある種ベタな繊細さを真っ向から引き受けていること自体に彼の勇気――開き直りと言ってもいい――を見る思いがする。あるいは、前作『トータル・ロス』収録の開放的でリズミックな“&イット・ワズ・ユー”のようなナンバーは、本作において愛を謳いあげるダンス・トラック“リピート・プレジャー”へと引き継がれている。メロディが何度もシンコペートするそのトラックには驚くほど開放的なグル―ヴがある。が、そこでも感情のハイライトとなるのは「喜びは何度も何度も繰り返す、壊れた心だとしても!」とおそろしく懸命なファルセットで叫ばれる瞬間だ。彼にとって重要なのは喜びが繰り返される=ダンス・トラックということ以上に、それが壊れた心から生まれているということなのだろう。歌唱力はない。声量もない。ただ声に込められたロウな感情、その狂おしさがある。
 前作のレヴューにマライア・キャリーの生霊を感じると書いたら本家が本当に大復活して驚いたが、もちろん彼女のようなゴージャスなプロダクションによる安定感はなく、メジャー感が増したとは言っても中心に立つ彼自身の危うさは変わらない。ライナーノーツに掲載された本人の発言を読むまで本作がジミー・イート・ワールドなどのエモの影響下にあることは嗅ぎ取れなかったが、しかしこの過剰なドラマティックさを思えば納得する話である。エモとはおそらく、エモーションをEMOと大文字に変換することによって、その青い迸りに枠組みを与えることだった。と、考えるとそれはハウ・トゥ・ドレス・ウェルが試みていることそのものでもある。クレルの曲がどんどんポップになっていくのは、彼自身が手に負えなかったであろう内側の激流を手なずけていくためであるだろう。ただいっぽうで、分厚いストリングスとともにリズムなしで歌い上げる“プア・シリル”などは彼の震える歌唱があまりにも苦しそうで、これが果たして音楽として成功しているのかわからなくなってくるが、もちろんそこでは完成度の高さなんかよりも切実なものが優先されている。

 本作に用意された3部作のヴィデオは若い男女の愛と死にまつわる苦悩を描いているのだが、そこにどうしてもトム・クレルが出演せねばならないことに彼の業があるのだろう。たとえどんな普遍的な物語や文脈が宿ろうとも、すべては彼自身、その壊れた心からやってきていることを彼は忘れてはいないし、もちろんわたしたちも知っている。ベスト・トラックを問われれば、僕は中盤のひたすらアンニュイでスウィートなシンセ・ポップ“ワーズ・アイ・ドント・リメンバー”だと答えるだろう。そこではトム・クレルの内側の混乱した愛が、「きみ」という他者に、そして聴き手たるわたしたちに遠慮なくぶつけられているからだ。「きみの人生からいなくなる方法も教えられない」……このポップでトレンディなはずのR&Bは、しかしおそろしく聴き手と親密な関係を結びながら鳴らされることを望んでいる。

木津毅