ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Sisso - Singeli Ya Maajabu | シッソ
  2. R.I.P. Steve Albini 追悼:スティーヴ・アルビニ
  3. interview with I.JORDAN ポスト・パンデミック時代の恍惚 | 7歳でトランスを聴いていたアイ・ジョーダンが完成させたファースト・アルバム
  4. seekersinternational & juwanstockton - KINTSUGI SOUL STEPPERS | シーカーズインターナショナル&ジュワンストックトン
  5. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  6. Claire Rousay - Sentiment | クレア・ラウジー
  7. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第3回
  8. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  9. interview with Anatole Muster アコーディオンが切り拓くフュージョンの未来 | アナトール・マスターがルイス・コールも参加したデビュー作について語る
  10. interview with Cornelius いかにして革命的ポップ・レコードは生まれたか
  11. 角銅真実 - Contact
  12. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第11回 町外れの幽霊たち
  13. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  14. interview with Yui Togashi (downt) 心地よい孤独感に満ちたdowntのオルタナティヴ・ロック・サウンド | 富樫ユイを突き動かすものとは
  15. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  16. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  17. Columns Kamasi Washington 愛から広がる壮大なるジャズ絵巻 | ──カマシ・ワシントンの発言から紐解く、新作『Fearless Movement』の魅力
  18. interview with Sofia Kourtesis ボノボが贈る、濃厚なるエレクトロニック・ダンスの一夜〈Outlier〉 | ソフィア・コルテシス来日直前インタヴュー
  19. Loraine James / Whatever The Weather ──ロレイン・ジェイムズの再来日が決定、東京2公演をausと蓮沼執太がサポート
  20. great area - light decline | グレート・エリア

Home >  Reviews >  Album Reviews > KMFH- The Boat Party

KMFH

FunkGhettoHouseMachine SoulTechno

KMFH

The Boat Party

Wild Oats

Amazon iTunes

野田 努 May 31,2013 UP
E王

 写真が物語っている。湖に近いデトロイトでは、ボート(通常、ヨット)の所有者が多く、ボートを使ってのパーティ、文字通りのボート・パーティが頻繁に開かれる。ボートを所有し、ボート・パーティを開くのは、限られた金持ちだ。デトロイト新世代を代表するカイル・ホールは、寒い岸辺に捨てられたボートの上に佇んでいる。その寂れた光景からはデトロイの新たな衰退が見える。中産階級の衰退だ。

 カイル・ホールに何を期待していたのだろう。うっとりするような荒廃の叙情詩? ケニー・ディクソン・ジュニアのファンクネスを継承する色気のあるモダン・ブラック・ミュージック? 『ザ・ボート・パーティ』を聴いてまず耳に入るのは、その低解像度な音、ペラペラなビート、リズム、リズム、リズムだ。デトロイト(あるいはロン・ハーディ系の......と言えばいいのかだろうか、DJエイプリル!)のトレードマークである生々しいEQ操作、ま、とにかく、リズムが耳に入る。それから生々しいエフェクト操作。初期のセオ・パリッシュやムーディマン的なディスコ/R&Bサンプリングは控えめに、オーディオ・ファンが怒りそうなほどのシャカシャカしたハイハットが耳に付く("ザ・ビギニング"を思い出す)。ドライなマシン・ビートがひたすら反復する。生々しいツマミ操作によって。

 "Dr Crunch"のような曲には、カール・クレイグの"マイ・マシン"を感じる。マシン・ファンク......、が、メロウな感覚は背後にまわされ、表に出てくるのはとにかくリズム、リズム、リズムだ。それは生命のようにシャカシャカ鳴り続け、ディープにハマる"Spoof"では、メーターは振り切れて、音が余裕で歪んでいるし......。
 面白かったのは、シカゴのゲットー・ミュージックとの共通感覚があることだ。"Flemmenup"や"Finna Pop"を聴いてしまうと、RPブーのデビュー・アルバムとの音楽的な繋がりを感じざるえない。いわゆるゲットー・サウンド。どすんどすんと野太いビートを鳴らす"Crushed"などは、いにしえのロバート・アルマーニみたいだが、しかし、1990年代の〈ダンス・マニア〉とはやはり展開が違っているのだ。なんだかエネルギーがみなぎっているし、「これでいいじゃないか、やっちまえ」という思い切りの良さもハンパない。

 今日、インターネットをめぐる音楽文化は、言うなればデュシャンの便器が無数に並んでいるようなものだ。さあ、これがアートだ。おまえがそう思いさえすれば。ヴェイパーウェイヴはその象徴的な事例であり、問いかけだと受け取ることができるだろう。『ザ・ボート・パーティ』は「変わっていく同じモノ」である。つまりこれは、逆さの便器ではない。

野田 努