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Anne-James Chaton

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三田 格   Jan 03,2012 UP

 カリフォルニアはバークレーからデクスター・ブライトマンによる新種の試み。ダンス・ミュージックとして構想された音楽ではないと思うものの、いわゆるアシッド・ハウスを古典的なミニマル・ミュージックへと落とし込んだような発想が8パターンに渡って展開されている。現在のUSアンダーグラウンドはダンス・カルチャーから身体的な面で影響を受けざるを得ない場所になっているということは何度も指摘してきたつもりだけれど、ここまでその影響下に組み入れられてしまった例は稀有ではないだろうか。人によっては出来の悪いシカゴ・アシッドだと勘違いしかねないほど、その種のものに聴こえてしまう。

 前半がまずはエイフェックス・ツイン"ディジェリドゥー"をシカゴ・アシッドの文脈で再現したかのような軽さと催眠効果。もしかすると本当に"ディジェリドゥー"からヒントを得てつくっているのかもしれない(アンスタム『ディスペル・ダンシィーズ』でも上手く誤魔化してはいたけれど"ザイレム・チューブ"がサンプリングされていたし、それこそ野田編集長が言うようにテクノが一周した時期なのかもしれない)。続いてシンプルに繰り返されるパルス音も大筋はプラスティックマンへと通じているようで、どこかで決定的に違うものがあり、いわゆるダンス・ビートではないにもかかわらず、フィジカルな部分を刺激して止まない側面があるためか、どの曲も長々と聴いていると、いつしかブレイク・ダンスを踊りたくなってくる。そんなミニマル・ミュージックはさすがに存在しなかっただろう。

 後半がまた意表をつく。音の選び方からその配置まで、みっちりと「諧謔的」なのである。それこそレジデンツ+プラスティックマン。紙エレキングVol.4(P73)で、2011年は実験音楽が不作だったと嘆いてしまいましたが、全文撤回したくなるほど独創的であまりにもファニー。可愛らしいスクラッチ・ノイズが絶え間なく頭上を飛び回るコミカル・ミニマルから......とにかくヘンな音のループまで、こんなこと、いままで誰がやろうとしただろう(ちょっと近いのはスウィート・イクソシスト"テストーン"か)。クロージング・トラックは、そして、一転して、重々しくベースをくねらせ、それはまるでDAFをミニマル化させたような快楽の抽象化。頭のネジをゆるめるだけゆるめておいて、最後にグッと締めす感じでしょうか。

 もう1枚、春先にリリースされたものだけど、ミニマル・ミュージックの変り種としてアン-ジェイムズ・シャトンも並べて紹介しておきたい。アルヴァ・ノトの諸作にポエトリーとして参加してきたフランス人によるソロ1作目で、70年代末から延々と活動しているオランダのアナーコ・パンク・バンド、ジ・エックスと関係を持つ人物らしい。

 内容は簡単。新聞の記事や領収書に記載された文章などトラッシュめいた言葉の断片をループさせるだけ。"バラック・オバマ"とか"ピナ・バウシュ"など意味のわかるものはまだいい。ほとんどは何が何だかわからない(フランス語だし)。"ポップ・イズ・デッド"だけが英語で、これはマイケル・ジャクスンの死を報道した新聞の見出しだという。ユーチューブやサウンドクラウドで1縲怩Q曲聴く限りでは、それって面白いのかな縲怩ニ、僕自身もかなり躊躇してしまったのだけれど、これがどういうわけか止められない。非常に癖になる。リリースの機会を与えたアルヴァ・ノトがとくに手を貸したわけでもなく、サウンドも本人の手によるもので、ミニマル・ポエトリーともいえる新たなスタイルがここに誕生した。ポップ・アート健在である。

三田 格