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野田 努   Jul 28,2011 UP
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 コウヘイ・マツナガがベルリンに住みはじめてから4年が経つ。ドイツの首都と大阪を拠点に音楽制作を続け、そしてヨーロッパをツアーしている。昨年はミカ・ヴァニオ、ショーン・ブース(オウテカ)とのコレボレーション・アルバムをマサチューセッツの〈インポータント〉からリリース、さらにまたセンセーショナル(元ジャングル・ブラザースのぶっ飛んだラッパー)とのコラボレーション・アルバムをマンチェスターの〈スカム〉からも出している。1998年に発表した、10代のときのデビュー・アルバムがフランクフルトの〈ミル・プラトー〉からだったから、彼の音楽活動において日本という縛りは最初からそれほどなかったのだろう。
 フットボールにおけるボスマン判決(移籍の自由化)は、自由という名目のもとにリーグ内外の格差を増長し(数年前まで世界に名だたるオランダ・リーグや東欧のリーグもいまでは人気リーグの草刈り場と化し、スペイン・リーグにいたってはたった2チームしか優勝争いしていないかのような偏った状況)、それが「世界基準」という名の欧州コンプレックスに振り回されるJリーグに悪影響を与えていることは言うまでもない。こうした、理想なき自由が大手をふるっているいっぽうで、音楽を志す日本人が日本から出る自由を実践していることは夢のある話だ。それは......よく勘違いされるのだが、海外で認められたから価値があるのではない。それがDIY主義に基づく国際的な大衆運動のひとつだと言えるから価値がある。それはそれで大変だろうけれど、とにかく......たとえば、日本のヴィジュアル系が海外で受けているとか、そういう次元の話じゃないわけです。
 ことエレクトロニック・ミュージックをやっている人間にとっては、昔から言われていることだが、国境を越えることは歌手やラッパーよりはずいぶん容易いし、20年前までは経済的な自立が困難だと思われた急進派の作品も、〈ワープ〉のようなレーベルが広くネットワークを築いたことでそれを可能にしている。コウヘイ・マツナガの音楽にはそうした前向きな、つねに明日に向かって吹いている風のような自由がある。

 エレクトロニック・ミュージックにおける多くの急進派は伝統的に匿名性を好み、多くの名義を使いたがるが、コウヘイ・マツナガも例外ではない。Koyxeи、NHKbs,、NHKyx......本作はNHKyx名義の2ヶ月前に〈スカム〉からリリースされた新作である。19曲が収録されているが、そのなかには"475""543""474""257""421""261"といった数字だけの曲名がある。これは曲名が思いつくよりも早く曲が出来てしまうという彼のスピード感を表している。とにかくひたすら......曲を作る。3年で700曲作ったというが、それは初期のエイフェックス・ツインを彷彿させるエピソードだ。
 彼の音楽には曲によっては印象的なメロディもあるが、その多くはビートに特徴を持っている。コウヘイ・マツナガが〈ワードサウンド〉から作品を出し、また、センセーショナルというラッパーと何度も共作しているという彼のディスコグラフィーは、彼の音楽にはヒップホップからの影響があることを示している。それは、IDM系とはいえ、ヒップホップを愛する〈スカム〉と共通する感性だ。本作でもラッパーをフィーチャーしている曲があるが、彼の音楽はまさに〈ワードサウンド〉と〈スカム〉の溝を埋めるようでもある。初期の頃はインダストリアル色が強かったというが(メルツバウとも共作している)、本作はユーモラスで、愉快にさえ思える。僕は"Flying 10ch"のような、バケツを叩きながら笑っているような曲が好みで......まあとにかく、これは嬉しいアルバムだ。

野田 努