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interview with Hiatus Kaiyote (Simon Marvin & Perrin Moss) 向かって左から、今回取材に応じてくれたとペリン・モス(ドラムス)とサイモン・マーヴィン(キーボード)のふたり。つづいて右がネイ・パーム(ヴォーカル)とポール・ベンダー(ベース)。

interview with Hiatus Kaiyote (Simon Marvin & Perrin Moss)

ネオ・ソウル・バンド、ハイエイタス・カイヨーテの新たな一面

小川充    通訳:青木絵美
Photo by ROCKET WEIJERS  
Jun 21,2024 UP

 オーストラリアのメルボルンから飛び出したハイエイタス・カイヨーテ。2011年に結成された彼らは、ネイ・パーム(ヴォーカル、ギター)、ポール・ベンダー(ベース)、サイモン・マーヴィン(キーボード)、ペリン・モス(ドラムス)という個性的で優れた才能を持つミュージシャンからなる4人組バンドで、2012年のデビュー・アルバム『Tawk Tomahawk』以降、つねにエネルギッシュな話題を振りまいてきた。デビュー当時はネオ・ソウルやR&Bの文脈からスポットが当てられ、フューチャー・ソウル・バンドといった形容が為されてきた彼らだが、その音楽的な振り幅は我々の予想の斜め上を行くもので、ジャズやヒップホップ、ファンクなどからオペラやアフリカ音楽をはじめとした世界の民族音楽など、さまざまな要素から成り立っている。そうしたどのジャンルにも縛られない自由さを持ち、複雑で先の読めない楽曲展開とそれを可能にする演奏技術や高度な音楽性を有し、まさにスーパー・バンドと呼ぶにふさわしい存在へと成長していった。ライヴでの圧倒的なパフォーマンスにも定評があり、世界中のさまざまなフェスで人気アクトとして引っ張りだこだ。

 これまでグラミー賞に3度もノミネートされてきたハイエイタス・カイヨーテだが、アルバム・リリースは多くなく、『Tawk Tomahawk』と『Choose Your Weapon』(2015年)、『Mood Valiant』(2021年)と3作のみだ。ツアーやライヴに長期的なスケジュールを割き、メンバーはハイエイタス・カイヨーテ以外にもいろいろなプロジェクトや活動をおこなっていて、なかなかアルバム制作の時間が取れないということもあるが、彼らのアルバムはそれぞれ内容と密度、完成度が非常に高いため、簡単に作れるものではない。『Mood Valiant』からは〈ブレインフィーダー〉に所属し、フライング・ロータスやPファンクなどが持つハイパーな世界観にもリンクしはじめた彼らが、待望のニュー・アルバム『Love Heart Cheat Code』を完成させた。アルバム・ジャケットはこれまでのイメージから一新したもので、作品内容も新たなハイエイタス・カイヨーテの一面を見せる場面ありと、彼らの新しいスタートを印象づける『Love Heart Cheat Code』について、ペリン・モスとサイモン・マーヴィンに語ってもらった。

いちばんわかりやすい変化としては、外部のプロデューサー兼エンジニアのマリオ・カルダート・ジュニアと一緒に仕事をしたことだね。すごく良い経験だったし、興味深かったよ。(マーヴィン)

ニュー・アルバムの『Love Heart Cheat Code』がリリースとなります。前作『Mood Valiant』から3年ぶりのアルバムですが、セカンド・アルバムの『Choose Your Weapon』から6年も空いた『Mood Valiant』に対し、今回は比較的短いインターバルになったとはいえ、それでもいろいろあった3年間だったと思います。『Love Heart Cheat Code』について、どのような準備を進めてきたのですか?

ペリン・モス(以下、PM):『Choose Your Weapon』はすごく壮大で、たくさんの曲を詰め込んだアルバムだったからね。それでも何曲か余っていて、すべてをレコーディングしたわけではなかったんだけど、なるべくたくさんの曲を1枚のレコードに詰め込みたいという感じで作ったんだ。その次の『Mood Valiant』はまた一から曲作りをするために、長い時間を掛けて作り上げたアルバムだったね。あのアルバムを制作していた時期は世界中でいろいろな出来事が起こっていたし、僕たち個人個人にとってもさまざまな変化を経験した時期だった。だから、『Choose Your Weapon』とは全く違ったものを作りたいということになって……レイヤーを分厚く重ねていくような制作方法ではなくて、スタジオでプレイしたサウンドそのものにもっとフォーカスするような、スタジオという箱にきっちりと収まるような、そんなアルバムを作りたいと考えたんだよね。自分たちが気持ち良いと思える音を出して、レイヤーを重ねるようなプロダクションを加えたり加工したりせずに、それをそのまま出すような。もちろん、『Choose Your Weapon』のサウンド自体はかなり生っぽい感じだったけど、それを自分たちが気持ち良いと思えるところまで重ねていったんだよね。『Mood Valiant』はそこまで手を加えていないんだ。もっとサウンドそのものにフォーカスしてレコーディングした感じ。その経験が僕たちにとても多くのことを学ばせてくれたと思う。それに、そのときに収録しなかった曲がたくさん残っていたから、それを今回のアルバムに入れようということになっていたしね。『Mood Valiant』以降、未発表曲のカタログが充実していたのもあって状況的には良かったと思うよ。そういった曲のストックがあったから、レコーディング自体も前回の方法を引き継いでいくことになった感じだった。だから、『Mood Valiant』の次のアルバムはより短いスパンでリリースできる気がしていたし、実際に『Mood Valiant』を制作しているときからすでに、『Love Heart Cheat Code』の曲作りがはじまっていたとも言えるね。でも、そこから実際に制作に入ろうという時期に世界の全ての活動が2年もの間ストップしてしまって、それに巻き込まれる形で中断を余儀なくされてしまっていたんだ。

サイモン・マーヴィン(以下、SM):そうだね。『Mood Valiant』でライヴ・レコーディングした曲は、外部のスタジオで外部のエンジニアに助けてもらいながら録音したものだけど、今回はほとんどの曲を自分たちのスタジオでレコーディングしたんだ。“Cinnamon Temple” 以外はすべて自分たちのスタジオで録ったんじゃなかったかな。

PM:そうだね。“Cinnamon Temple” だけが唯一別のスタジオでレコーディングした曲だね。この曲は『Mood Valiant』のレコーディングを開始するよりも前に制作したものだからね。

SM:そうそう、早い時期にできた曲だよね。

PM:当初は『Choose Your Weapon』に収録しようと考えていたくらいだから。

SM:『Mood Valiant』に入れようという案も出ていたよね。とにかく、僕たちのレコーディングのプロセスは流動的というか。まずは自分たちでエンジニアを担当して曲作りをしてから、外部のエンジニアを招いて一緒に仕事をすることで、学ぶところも多かったし。新しいことをいろいろとやってみて、ときにはそれがうまく機能することもあるし、そうでないときもある。そうやっていろいろ試してみるのが僕たちのやり方なんだ。

ネイ・パームは『Love Heart Cheat Code』について、いままでのハイエイタス・カイヨーテに特徴的だった複雑な曲構成から、今回はよりシンプルな曲作りを意識したというような内容のコメントを残しています。これについて、いかがですか?

PM:それに関しては彼女の真意とは思えないというか、ちょっと曲解されてしまった気がするんだよね。このアルバムは実際に複雑な要素もたくさんあって、それが少し隠されているというか……隠されているというより、よりあからさまではない、なめらかな感じで表現されていると思うんだよね。複雑さがよりスムーズなものだった、とでも言うのかな。僕も改めて『Choose Your Weapon』やほかの過去の作品と今作を較べて振り返ってみたんだよ。『Choose Your Weapon』が今作に対してより複雑に聞こえるのは、特にプロダクションの面において自分たちで個々に制作をしたことも大きかったと思うんだ。その時期にどんなふうに作品作りをしていたのか、それを改めて認識できたのは面白かったけどね。そのときから比べると、今作はよりヒップホップの影響が強く出ているし、あえてバランスを欠くことでインパクトを与えるような作り方もしている。その上で、すべてがよりスムーズというか、なめらかになっていると思うんだ。聴いていてひっかかるような、不穏な要素は以前よりも控え目で、周波数的にも全てのレイヤーが粒立たない作りになっている。複雑な要素は多々あるけれど、ひとつひとつのレイヤーは意識して聴かなければわからないほどスムーズになっていると思うんだよね。

SM:そのとおりだね。それに、曲にもよるんじゃないかな。“How To Meet Yourself” では、たしか僕は一切オーヴァーダブを使わなかった気がするよ。

PM:そうだね。僕は少しだけサンプルを使ったけど、それも絶妙な感じでね。

SM:そうそう、刈り取って休耕地みたいな余白を設けることにしたんだよね。まあこれはひとつの例だけど、この曲に関してはよりシンプルなアプローチを採用したんだ。でも、ほかの曲はもっと深い作りになっているよ。とても真剣に、一生懸命作ったアルバムだからね。だから、ネイの発言に関しては少し引用違いだったんじゃないかと思うよ。

たとえばビートルズはソーシャル・メディアに出て行って、ファンに向かって話をしたり、自分たちの作品のプロモーションをすることはなかったんだからさ。(モス)

わかりました。“How To Meet Yourself” の話が出ましたが、この曲には中国の胡弓のような弦の音色が登場します。実際に胡弓を使っていたりするのですか? ハイエイタス・カイヨーテの場合、こうした民族楽器などを用いることもあると思うのですが。

PM:あの曲に使われているのはフレロという楽器だよ。

SM:テイラー・クロフォードという、メルボルン在住のすごく才能のあるミュージシャンがいるんだけど、彼は自分で楽器を発明して、それをフレロと名付けたんだ。フレロはフレットを取り付けたチェロみたいなもので、彼はフレロを自作するだけじゃなくて、本当に上手に演奏するんだ。それで、彼にこの曲でフレロを弾いて貰ったんだよ。僕たちのとても親しい友人なんだ。

なるほど。参加ミュージシャンはいま仰ったテイラー・クロフォードのほかに、トム・マーティン、ニコデモスなど、地元メルボルンのアーティストたちです。これまでもハイエイタス・カイヨーテ以外のプロジェクトやバンドなどで一緒にやってきたこともある人たちですが、どんな人たちなのか紹介してもらえますか?

SM:もちろん。トム・マーティンはギタリストで、プットバックスというほかのバンドで一緒にやっているメンバーだよ。彼は本当に才能のあるギタリストで、素晴らしいミュージシャンだから、ハイエイタスがはじまって以来、ずっと一緒に仕事をしてきたんだ。ニコデモスは僕たちの親しい友人だけど、コラボレーションするのは今回が初めてなんじゃないかな。彼自身も素晴らしいミュージシャンだよ。ハープ奏者のメリーナ・ファン・ルーウェンは、去年メルボルンでやったオーケストラとのパフォーマンスのときに一緒にステージに立ってくれた人だよ。あとは誰が参加してたっけ……思い出せない(笑)。

PM:君の友だちのヴァイオリンは?

SM:ああ、そうそう。フィル・ヒーリーは僕のすごく古い友だちで、何曲かでヴァイオリンを弾いてくれたんだ。このアルバムで、メルボルンのミュージシャン軍団と一緒にやれたのはすごく楽しかったよ。

PM:間違いないね。

では、今回の曲作りはどのようにおこなっていますか? いままでのようにメンバーのアイデアを広げたり、いくつかのアイデアを組み合わせたり、ブラッシュアップしたりという具合なのでしょうか? また、制作過程においていままでと何か変化があったりした部分はありますか?

SM:うん、変化はあったと思う。どのアルバムについても、全員が違うアプローチをしているからね。制作過程においていちばんわかりやすい変化としては、外部のプロデューサー兼エンジニアのマリオ・カルダート・ジュニアと一緒に仕事をしたことだね。すごく良い経験だったし、興味深かったよ。それに、このアルバムを早くリリースできたのは間違いなく彼がいたからだと思う。期間を決めて制作しなければいけなかったから、すごく一生懸命取り組んで、期間中に仕上げることに注力したからね。もちろん、みんなが聴いている完成版は僕たち自身で仕上げたものだけどね。レコーディング中に少し隙間を空けておいて、それを持ち帰ってレコーディングし直したりしたから。他のメンバーに訊いたら違う答えが返ってくるかもしれないけど、バンドを代表して言うと、そこがこれまでともっとも違う変化だと思う。これまでのアルバムほど手探りの感じはなかったかもしれない。というのも、どのアルバムに関しても最後の10パーセントは気が狂うような作業だったから。ミックスも自分たちでやるし、一緒にスタジオに入るのと同じくらい、別々のスタジオで作業したりもするしね。ときには脱線して、僕がパーカッションや変なサウンドを足したり、メロディアスなものを足したりする人もいれば、ポール・ベンダーが同じようにいろいろ付け足して、ネイがそこに入ってきて、ベンダーとハーモニーを奏でたりする。すごく細かいディテイルや磨き上げるためのアイデアがいろいろあって、最後の10パーセントで実験に実験を重ねて、金脈を探り当てようとする感じだよ。僕自身はセッションの中で、実際には聞こえないようなレイヤーをたくさん重ねて。レイヤーのアイデアはたくさんあるけど、もしかしたらその中のわずか3秒だけが、ひとつの部分で機能するかもしれないから、とにかく実験をしまくるんだ。今回ロサンゼルスでマリオと一緒にやったときは、そういうことは何ひとつしなかったよ。全曲の80パーセントはそこで仕上げたから。制作のプロセスはこれまでとは何もかも違っていたね。普段僕たちはその曲でどんなものを聴きたいか明確にわかっているから、録音ボタンを押して慌てて所定の位置に戻って演奏して、録音停止ボタンを押せばよかった。一方、誰かほかの人と一緒に制作するということは、自分がこれから何をやろうとしているのかを説明する必要があったんだ。そこにはコミュニケーションの壁が介在している。僕たちは長い間ずっと一緒にやってきたから、お互いの言語を理解していて特に説明する必要もなかったからね。でも、誰か他の人と一緒にやるのはすごく良い経験だったよ。少なくとも、僕たちに外部の人と共に制作することがどんなことなのか理解させてくれたから。それと、僕たちがいかにおかしなバンドで、いろいろなことをやっているけれど、いかにピンポイントなものを求めているのか、ってところに光を当ててくれたしね(笑)。

僕は自分たちの作品を素描画や絵画のように感じているし、「この作品の真意は?」と訊かれても、「わからない」としか言えないんだ。(モス)

それでは、その『Love Heart Cheat Code』全体のコンセプトやテーマをどのように表現しますか? 

PM:君が答える?

SM:えぇー。全体のコンセプトか……。

通訳:難しい質問だと思うんですけど。

SM:すごく難しいね(笑)。というのも、一曲一曲についてどんなテーマの曲にするかということに集中していたから。

PM:言ってみれば、このアルバムは曲の集合体という感じだからね。

SM:そうなんだよ。全体というよりも曲そのものという感じなんだ。でも、このアルバムを最初から最後まで通して聴いてみると、とても柔らかで明るくてポジティヴなエネルギーに溢れている感じがするんだよね。ほかのアルバムではそういう風に感じなかったけど、いくつかの曲には柔らかな手触りがあって、終わりに向かってかなりヘヴィなサウンドになっていくという。この数年間、そうしたサウンドからの影響ももう少し前面に出していくことを学んだんだ。でもまあ、全体を通して柔らかで優しい、ポジティヴな光に溢れたアルバムだと思うよ。表現するのがとても難しいけれどね。さっきも言ったけど、それぞれの曲によるからさ。スタジオではできる限りそれぞれの曲の作曲に敬意を払って制作したから、まとめるのはとても難しいね。

そうですよね。一方で、“Everything’s Beautiful” についてはYouTubeでポールとサイモンが制作過程を説明していますね。18分に渡ってかなり詳細に説明していますが、こうして内側を明かすのはかなり珍しいことではないかと思いますが、いかがですか?

PM:なぜ秘密を明かしたりしたんだ!(笑)。

SM:(笑)最近のテクノロジーのせいで、こうしたオンライン・コンテンツに駆り出されることが多くなってきてね。アーティストにもプレッシャーが掛かるようになってきたから、段々と慣れてはきたけれど。もちろん、そういうコンテンツで話すことが苦痛だとは言わないよ。曲の制作に関して、いくつかのポイントについて話をできるのはとても素晴らしことだと思うし。たとえば僕だったら、キーボードを使ってどんな部分をどんなふうに表現したのか聞いてみたいし、特定の楽器の周波数やシグナルのこととか、そうしたことについての理解を深めることができるのはすごく良いと思うから。どうやってあの重みのあるサウンドを実現したのか、それを知ることができるのは最高だよ。実際にそのアーティストと一緒にスタジオに入らなければ、そこまでの深い部分は知りようがないし、そんな機会は滅多にないからね。これは僕たちについても言えることで、僕たちは約15年も音楽をやってきて、言ってみれば古いバンドだよね。だからこそファンととても良い関係を築けてきたわけだし、僕たちの音楽を聴いてくれるオタクみたいな人たちもたくさんいる。そういう人たちに向けて、このレベルでの深い話をできるのはとてもありがたいことなんだ。

PM:クリエイティヴな人たちというのはとても興味深いよね。ファンの人たちが自分たちの聴いているアーティストとどういう形で繋がりたいのか、自分たちが聴いている音楽をどんなふうに分解してみたいのか。でも、アーティストというのは、音楽を作ることやステージでパフォーマンスを披露することには長けていても、ときとしてカメラに向かって自分のことを語るのに抵抗があったりもする。ある意味、とても怖いことだから(笑)。でも昨今では、そうしたことは多くのアーティストにとって当たり前のことにもなりつつあるよね。とはいえ、そういうことをアーティストに求めるのはまあ不自然なことかなぁと思うこともあるよ。これまでは、そんなことをする必要がなかったわけだから。もちろん、あちこちでインタヴューを受けるというのはこれまでもあったけど、たとえばビートルズはソーシャル・メディアに出て行って、ファンに向かって話をしたり、自分たちの作品のプロモーションをすることはなかったんだからさ。なかなかハードルの高いことだと思うけど、時代は変わっているからね。だから、アーティスト自身もそういう場所に行って話をすることに慣れていかなきゃいけない時代なんだよね。僕たちはまだそういうのにあまり慣れていなくて得意じゃないからさ、ファンにとっても僕たちにとってもまだ試行錯誤の段階という感じではあるよ。でも、けして悪いことじゃないと思うけどね。

SM:それは僕たちが歳を取ってるからだよ(笑)。

通訳:(笑)でも一ファンとしては、あの動画はとても興味深くて面白かったので、すべての曲について解説動画を出していただきたいと思いましたけど。

SM:ああ、それは良かった(笑)。ありがとう。

質問・序文:小川充(2024年6月21日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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