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interview with J. Lamotta Suzume

interview with J. Lamotta Suzume

自由であるためのレッスン

──J・ラモッタ・すずめ、インタヴュー

質問・文:小熊俊哉    通訳:青木絵美 photo: Agnesa Shmudke   Mar 29,2019 UP

自分の文化に必死でしがみついている人をよく見かける。まるで自分の文化が失われてしまうみたいに。でもそんなことは起こらない。文化は失われない。他の文化を知り、学ぶことによって、私たちは成長することができる。他の文化の美しさが見えてくれば、自分についての学びや、自分の文化をより深く理解することにも繋がるの。

具体的に出入りしているのはどんなところ?

すずめ:それは出演するアーティストにもよるわね。私にとって大切なのは、場所ではなくて内容なの。ベルリンでは《Poetry Meets Soul》という定期イベントがあって、そこは詩人、歌手、ラッパーなどの交流の場になっている。会場は毎回違うけれど、いつも素敵なところでやっているわ。あと、《Swag Jam》というヒップホップのセッションが毎週火曜日におこなわれていて、それは Badehaus という会場でやっているわ。ただ最近は、自分の活動に集中していて、自宅で音楽を作ったりコラボレーションしたりするようにしているの。だから最近はセッションに通うよりも、友達のコンサートに行く方が多いわね。
 ベルリンでは、ノイケルンやクロイツベルクでハングアウトしたり、そこでおこなわれるコンサートに行ったりするのが大好き。私はミッテというエリアに住んでいるわ。わりと中心部だけど、ノイケルンやクロイツベルクほど繁華街でもないところよ。あと、ベルリン市内は公共交通機関が発達しているから市内の移動もスムーズにできるの。そこは東京と同じね。

ベルリンでどんなミュージシャンと交流してきたのか教えてください。ジェイムス・ブレイクのようなエレクトリック系プロデューサーや、ベルリン芸術大学でクラシックを学ぶ人も身近にいたそうですが。

すずめ:それは本当よ。みんなスタイルに関してはとても自由なの。イスラエル人の友達でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に所属している人や、ベルリンでクラシックを学んでいる人も周りにいる。彼らの音楽的なバックグラウンドは私と全然違うけれど、とてもオープンだしどんなスタイルの音楽も聴くの。私がよく一緒にいるのは、やっぱりジャズをやっている友達ね。ベルリンのジャズ・スクールで一緒に勉強してきた友達もたくさんいて、彼らとはよく一緒にハングアウトしている。それからエレクトロニック系の音楽やR&Bシーンの友達もいる。ノア・スリーとも交流があるわ。彼は最高なシンガーだし、よくコラボレートしたいねと話しているわ。

今回のアルバム『すずめ』にも多くのミュージシャンが参加していますよね。昨年の来日公演にも参加していたドロン・シーガル(キーボード)、マーチン・ブウル・スタウンストラップ(ベース)、ラファット・ムハマド(ドラムス)が特に大きく貢献している印象です。彼らはどんな人なんでしょう?

すずめ:私にとって宝物のような存在よ。私のプロジェクトの核を成している人たち。アイデアやヴィジョンは私のものだけど、そのアイデアのベースとなっていたのは彼らのライヴ・サウンドだった。それに彼らは、実験的なことをすることに対してとてもオープンだし、彼ら自身のアティテュードを音楽に持ち込んでくれた。彼らがプロジェクトの要だったから、他のメンバーよりもたくさんの時間コミットしてくれたのよ。
 このバンドにはとても興味深いダイナミクスがあった。でも一緒に作業をはじめた頃は、お互いの文化のギャップがあったの。当たり前よね! イスラエルの男性とデンマークの男性とエジプトの男性がいて、その間に私がいて……私が3人とも選んだんだけど、彼らはいままで一緒に演奏したことがなかった。だから音楽についての意思疎通ができるようになるまで少し時間がかかったわ。でも時間が経つにつれて、お互い自然体になることができるようになっていったの。彼らには本当に感謝している。レコーディングで彼らが貢献してくれたものによって、音楽に生命が吹き込まれたから。

『すずめ』の制作コンセプトについて教えてください。サウンド面ではどういったものを目指したのでしょう?

すずめ:このアルバムの前に、同じバンド・メンバーでEPを録音したの。それはみんな同じ部屋でレコーディングしたのもあって、今回のアルバムに比べると荒削りでラフな仕上がりだった。そのときに比べて、今回はバンド自身も、レコーディングの環境やノウハウもレベルアップしている。
 サウンド面に関しては、マーヴィン・ゲイや70年代の〈モータウン〉、アル・グリーン、アリサ・フランクリンに強いインスピレーションを受けていて。カーティス・メイフィールドのアルバムみたいにしたいというイメージがあった。いまは2019年だけど、彼らから受けたインスピレーションをフィルターにして、当時の美的感覚を、私なりの現代的な解釈として表現したかった。オーガニックなグルーヴを表現したいと思ったのが、今回のプロジェクトをはじめるきっかけになったの。

リード曲の“Turning”について、背景やテーマを教えてください。

すずめ:“Turning”はテルアビブの実家に帰っているときに作曲したの。ピアノの前にひとりで座っていたときに、とても親密なフィーリングがあって、このサウンドは絶対に留めておきたいと思った。だからベルリンに戻ったとき、バンド・メンバーに私の表現したいサウンドを伝えたの。とても親密な感じで、ストーリーを物語っているような……まるで私がカメラになって、空の上からズームアウトしている状態で俯瞰している。それがゆっくりとズームインしてきて物語に入っていく。それがヴィジョンだった。
 私のなかでは、自分がいままでに聴いたことのないサウンドを作るつもりだった。ソウルとジャズの新しい表現方法だと思っていたの。でも、バンドのみんなは最初この曲で苦労していたわ。レコーディングする前も、「この曲はどうかと思うな。トリッキーなパーツもあるし……」と言ってたわ。だけど、私たちはポジティヴに制作と向き合い、“Turning”はバンドのみんなも大好きな曲になった。聴いたことのないサウンドを作るときは、参考になるものがないでしょう。「TURNING, TURNING,」と歌っている箇所だけど、それを作ることができて本当に嬉しい。これこそ私が作ろうとしていた音そのものだった。

「すずめ」はヘブライ語で「自由」という意味なの。だから私は自分にこの名前をつけた。私にとって自由は必要なものだから。みんなにとってもそうだと思う。それがルールよ。私は自由になりたい。

“Ulai/Maybe”ではヘブライ語で歌われていますが、どうしてそうしようと思ったのでしょう?

すずめ:“Ulai/Maybe”は、私がヘブライ語で歌っている数少ない曲のひとつよ。これは日本盤のボーナストラックにしたんだけど、理由はイスラエル大使館からたくさんの支援を得て日本に行くことができたからなの。ユキさん、アリエさん、その他大勢の人たちが頑張ってくれて、日本に行くという私の夢を叶えてくれた。自分の仕事の範囲を超えて、私の夢を実現するために応援してくれたの。だからこの曲は、東京のイスラエル大使館に捧げる曲なの。

昨年、実際に日本を訪れてみてどうでしたか?

すずめ:日本を去る数時間前、私は号泣していたわ(笑)。まさに夢が叶った経験だったから、本当にたくさんのことに興奮したわ。私はいつも自分の夢をメモに書き出して、部屋の壁に貼るということをしているの。そして時間が経過するにつれ、その夢に近づいているか、自分の状況と照らし合わせてみるのよ。毎朝起きると、そのメモを見るから、私は常にその夢を意識しているわけ。そのメモには「バンドのみんなと一緒に日本で公演する」と書いてあった。だから、ブルーノート東京から公演のオファーが来たときは、私にとって特別な瞬間だった。そして、日本に行ってからも特別な体験をいっぱいさせてもらった。私が外国人だからそう思うのかもしれないけれど、日本の人たちはとても親切な感じがする。世界中の人が日本に来てほしいし、日本人の暮らし方を見てもらいたいと思う。

今回のアルバムを『すずめ』と名付けた理由は?

すずめ:アルバムのタイトルは、もともと別の名前を考えていたの。けれど、日本に行ってから、このアルバムは私のいままでの物語や気持ちを表しているものだと感じるようになった。だからある意味、このアルバムは日本に捧げるものなの。日本という特別な場所やその文化に興味を持った自分がいるということ。だから、『すずめ』というタイトルにしたの。なぜ私がこのアーティスト名を名乗っているかを説明するために短編小説も書いたわ。

とても素敵なストーリーで、文才にも惚れ惚れしてしまいました。あの短編小説を今回のアルバムに封入することにしたのはどうして?

すずめ:日本にいたとき、「なぜ、すずめという名前なのですか?」と何度も聞かれて。私は即座に答えられなかった。なぜなら、その経験は私の人生を変えてしまうほど圧倒的なものだったから。その経験は私の考え方を変えた。今回のアルバムでは、自分の脆弱さを晒して、オープンになって、私がどんなものにインスピレーションを受けて、どういう経緯で「すずめ」と名乗るようになったのかを全てみんなと共有したかった。だから音楽に加えて、すずめについてのストーリーを封入することが理にかなっていると思ったの。「Yoshiがこの名前を教えてくれた」という短い回答もできるんだけど、それだけじゃなかったから。
 私はカルマを信じるけれど、カルマは直接的なものではないと思っている。何かを与えたら、すぐ何かが返ってくるような、そういうカルマは信じていない。このストーリーは、お互いがどうやって接し合うのか、その接し合い方というのがとても大事なことなんだ、という内容なの。自分の周りの人たちへの接し方が、自分にも同じように返ってくる、ということ。このストーリーに関与している全ての人によって、私は影響を受け、様々な感情を体験し、自分を「すずめ」と呼ぶということに繋がったの。

その短編小説のB面で、「単一文化主義はあまりに退屈で狭量です。違いを恐れないことには、たくさんの美があるのです」と綴られていたのが印象的でした。国境や文化を超えた多様性というのも、今回のアルバムのテーマなのかなと。

すずめ:その通りよ。あなたがいま言ったように、そのテーマが私の考えなの。「他の文化を恐れるのはもうやめにしない?」と言いたい。私の周りの人、友人たち、リスナーのみんなに伝えたいのは、他の人の文化を学ぶということはとても美しいことだということ。学べることは本当にたくさんあるから。他の文化を通して、人間として、アーティストとして、友人として成長できるから。自分の文化は常に自分とある。それは誰にも奪うことはできない。イスラエルだけではないと思うけど、他の国に旅行したりすると、自分の文化に必死でしがみついている人をよく見かける。まるで自分の文化が失われてしまうみたいに。でもそんなことは起こらない。文化は失われない。他の文化を知り、学ぶことによって、地球という社会の中で、私たちは成長することができる。他の文化を学ぶことによって、その文化の美しさが見えてくる。他の文化の美しさが見えてくれば、自分についての学びや、自分の文化をより深く理解することにも繋がるの。

最後に、あなたにとっての人生のルールは何ですか?

すずめ:「ルールはない」ということね。もちろん人生に必要なルールはいくつかあるけれど、自由になること、そして自由でいることが私のルールだと思う。私がここで言う自由というのは、あらゆる面における自由のことよ。じゃあ、あなたにとっての自由とは何? このインタヴューは、私がみんなにそれを問いかけることで終わりたい。『すずめ』は自由についてのアルバムよ。「すずめ」はヘブライ語で「自由」という意味なの。だから私は自分にこの名前をつけた。私にとって自由は必要なものだから。みんなにとってもそうだと思う。それがルールよ。私は自由になりたい。

質問・文:小熊俊哉(2019年3月29日)

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Profile

小熊俊哉/Toshiya Oguma小熊俊哉/Toshiya Oguma
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』、タワーレコードの音楽サイト『Mikiki』編集部を経て現在はフリー。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。(写真:kana tarumi)

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