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Home >  Interviews > interview with Miss Red & The Bug - ダンスホールでぶっ飛ばせ

interview with Miss Red & The Bug

interview with Miss Red & The Bug

ダンスホールでぶっ飛ばせ

──ミス・レッド&ザ・バグ、インタヴュー

取材:野田努    通訳:Goh Nakada   Sep 26,2018 UP

アフター・パーティが4時くらいに終わって、俺がスタジオを見つけられたのは朝の10時くらいだった。で、「いまからレコーディングをしようぜ」と言ったら、彼女は全然やる気で、二日酔いでけっこうベロベロだったにも関わらず、無事にちゃんと時間通りに現れたよ。

ダンスホールはケヴィンにとって身近な音楽だったんですか?

KM:ああ。俺が20年前くらいにロンドンに住んでいたとき、北西のエリアに住んでいたひとは基本的にはジャマイカ移民のひとだったり、パキスタン人だったり、白人が少ないエリアだったから。そのころは家の周りにレコード屋がいっぱいあったんだけど、レコード屋はみんな黒人ばっかりで、売っているレコードはダンスホールばかり。そこにいつもレコードを買いに行った。で、俺以外ほかに白人が居ないから、レジに並ぶといつも自分がいちばん後回しにされた(苦笑)。そういう状況だった。毎週そのレコード屋に行くたびに、新しいリリースが山ほど入っている。新しいレコードといっても同じリズムに違うMCが乗っているものが10枚レコードにされていたりとか。で、彼らの言っている歌詞はセックスとか暴力とかばっかりで……。でもそういうところって基本的な人間のエネルギーだと思うから。とにかく、そういうレコード屋に通って、ダンスホールとかバッシュメントのリズムを毎週ディグっていたんだよ。

そういうダンスホールの姿勢には、あなたのルーツであるパンクとの共通点もありましたか?

KM:ダンスホールとの出会いやアティチュードはパンクだ。ただし、サウンドはパンクよりもさらに進んでいる。当時そういう音楽を望んでいたお客さんが毎リリース毎リリース、新しいもの新しいものを望んでいた。俺はそのころ音楽を作りはじめたばかりだから、どういうテクノロジーを使って音楽は作れるのかということが全然わからなかった。自分にとっては新しいエネルギーがあるようなパンクな音楽が、そのとき知らないテクノロジーで作られているということに関してサイエンス・フィクションな印象をすごく受けていた。

いまの話は『K.O.』にも繫がりますよね?

KM:いま話した経験や自分がショックを受けたことが今回のミス・レッド『K.O.』に繋がっている。過去何年かのダンスホールは俺にとってはすごくコマーシャルで面白くなかった。もともとダンスホールというものは新しいものをどんどんプッシュしていくような、いわばカッティング・エッジな音楽だったから。だからこそミス・レッドと一緒にそういうものを作っていこうとしたわけで、『K.O.』がある。

ミス・レッドさん、『K.O.』のリリックはあなたの経験からきていると思いますが、どんなことを言葉にしているのでしょうか?

SS:『K.O.』のメインのモチーフというのは自分が何を経験してきたのかということ。自分のバックグラウンドはジャマイカではなくて、イスラエル。だからジャマイカのリリックは書けないし、書く必要もない。基本的に過去何年間に自分に何が起きたのかということが歌詞のもとになっている。自分がイスラエルにいたときに、イスラエルで何が起きているかだったり、何が自分のことを自由にさせないか……、何が自分にとっての義務なのか……、わたしはそういう強制させられていることすべてをK.O.したい。全部自由に解き放ちたいということが、リリックの基本的なコンセプトというかテーマになっている。

ジャケットのスリーブアートワークになっているボクサーの写真はミス・レッドさんのおじいさんなんですよね。ホロコーストから逃れてモロッコで暮らしていたということですが、おじいさんの写真をジャケットにした理由は?

SS:レコーディングの最中におじいさんが亡くなった。それがこの写真を使った理由のひとつでもある。おじいさんから聞いた話だったり、私とおじいさんとの間の精神的な繋がりはすごく強い。おじいさんから聞いた話が私にとっての人生の支柱になっているし、すごく影響を受けている人物。

本当にボクサーだったんですね。

SS:彼はボクサーだった。おじいさんはユダヤ人で、もともとモロッコに住んでいたんだけど、モロッコにユダヤ人がいるということで精神的な迫害だったり、差別をうけていた。精神的にも戦っていかなければいかなかったし、ボクサーとしても戦うということで、肉体的にも精神的にも闘いを挑んでいて、そういうところは私にとって大きなインスピレーションだった。だからK.O.するというアルバムのジャケットにおじいさんの写真を使った。

日本から見て、あなたが生まれ育って生活していた状況というのはなかなか想像できないところがあります。どんなものだったのかということを教えてください。

SS:ハイファという街で育ったけど、他の街とはかなり違う街だった。私が生まれ育ったイスラエルのハイファという街は、アラブ人とユダヤ人がけっこうミックスしているところで、ハイファ以外の他の都市は、アラブ人や、パレスチナ人や、ユダヤ人が分割されている。人種だけではなくて宗教でも皆バラバラに住んでいて、例えばユダヤ教だったり、イスラム教だったり、キリスト教でもみんなバラバラに住んでいるわ。あとはアラブ人だったりユダヤ人だったり、すごいいろいろばらばらに皆が住んでいて、全然交わらない。でもハイファだけはそれが混ざって生活している、ミックスカルチャーな街ね。

ハイファは庶民的な街ですか?

SS:エルサレムに行ったりすると緊張感がすごいけど、ハイファはそんなことはない。フレンドリーで、みんなリラックスしている。

ミス・レッドさんの音楽にとって大切なものはなんだと思いますか?

SS:自分の心を自由にさせてくれたり、自分を解き放たせることができるということ。

ちょっと前にトランプがイスラエルの首都はエルサレムだと言って世界を混乱させていますが、その影響は『K.O.』のなかに入っているのでしょうか?

SS:トランプがクソみたいなことをする前から、イスラエルでは混乱だったり、殺人とかが起きていた。私にとってはそれが当たり前だった。自分がイスラエルのなかにいて、言いたいことだったり、言いたくても言えなかったこと、そういうことがアルバムにはある。自分が表現したいことができないというのはフラストレーションだった。だからわたしはヨーロッパに移住したんだし。

ケヴィンからみて、『K.O.』というアルバムは何を攻撃していると思いますか。

KM:基本的にひとの頭をこのアグレッシブさで爆発させる。この攻撃性というのは、人を傷つけるようなサド的な攻撃性ではなくて、人を照らすファイアーのようなものだ。ファイアーは人生であり、情熱だ。ジャマイカのダンスホール・スタイルをコピーして、同じようなことをやろうとするんじゃない。自分が辿ってきたポストパンクの道をダンスというものを使って、もっと未来のものを作っていきたい。最近は安全な音楽が世のなかに多すぎると思う。音楽は人びとにとって、いちばん最初にみんなを掴むものではなくなってしまっている。音楽の価値がすごく下がってしまっている。ビジネスのツールになってしまっているんじゃないのかな。『K.O.』はまずはとりあえずは楽しくて、電気が走るようなそういうヤバいものを作ろうって。とりあえずこれを聴いたときにみんなの頭がおかしくなるような(笑)。例えばデス・グリップスの最初の頃のライヴだったり、オウテカのライヴだったりとか、そういう生生しさ、それにタビーズのようなすごいプロデューサーが残したアイデアをミックスしたようなものを作りたいと思っていた。

言い足りないことがあったら最後にお願いします。

KM:台風で日本が大変なことになっていると聞いたので、心配しているんだ。

ありがとうございました。

KM&SS:アリガトウゴザイマス!

取材:野田努(2018年9月26日)

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