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interview with TAMTAM

interview with TAMTAM

ラグジュアリーに、カッコつけ切れ!

──タムタム、インタヴュー

取材・文:柴崎祐二    撮影:小原泰広   Jun 08,2018 UP

自分はそういうタイプではないなと思っているからこそ、じゃあカッコつけ切った方ほうが良いなというのがあって。 (クロ)

メロディと構成だけは固めるけど、アレンジは基本余白のある状態で、と。


TAMTAM
Modernluv

Pヴァイン

R&BPopDub

Amazon Tower HMV iTunes

K:基本ベースとドラム、そして歌ですね。それ以外は結構変わっちゃうかも。でも“Morse”はバンドで合わせてみたときにぜんぜんハマらないなあと思ったので、メロディも全て変えました。それから、レコーディングでカリンバ音源などの重ねをたくさんしていった。これはライヴを想定していない作り方なので、7月以降レコ発やツアーでバンドで演奏する準備をこれからやらなきゃなんですが(笑)。

T:生バンドと打ち込み感の融合ということで言うと、このアレンジ「チルくていいよね」みたいな感じで盛り上がっても「でも、それならバンドじゃなくていいかも……」と迷ったりするんです。そういうときにムラ・マサを聴いて。ムラ・マサはバンドじゃないですけど、トラックは生音っぽいニュアンスが出ている。なおかつ打ち込み特有の圧のある感じで、リズムのシンプルな強さが際立っていて。

打ち込みと生っぽさの融合。

T:それならバンドでやれるかも、と思って。

K:ただ、ムラ・マサの感覚をバンドに置換するのはさほど苦労なくイケるだろうと思ったんですけど、じっさいはぜんぜん一筋縄にいかなくて。

プレイが難しいという意味?

T:それもあるんですけど、それ以上に、彼はもう2個くらい何かしら違う技を使ってると思うんですけど。

K:意外とバンドらしさとの共存が難しいのかも。受けた影響をそのままやってみようとすると「あれ? なんか情報量足りない?」ってなっちゃったんですよね。

でも結果的には、ムラ・マサの感覚をバンドで再現するというところに拘りすぎなくて良かったと思います。いい意味で、みなさんのプレイの手癖みたいなものが引き出されることで、個性も出てくるわけで。
 そういう意味で“Morse”などは、バンド・サウンドのダイナミズムが聴けるので、例えばジャズ・ファンが聴いても面白いと思うだろうし、“Fineview”もファンク的だったり、プレイヤビリティに根付いた快感もちゃんとある。特定の質感を狙いすぎると、肉体的な要素を削ぎ落としすぎてしまうこともままあると思うのですが、それがしっかり残っているというか、全面的に聞こえてくる。だからもしかすると、いまのUKジャズのシーンとかにもバランス感覚が近いのかな、と思ったりしました。
 今日いらっしゃらないメンバーの方々の音楽志向についても教えてください。まずギターのユースケさんは?

K:かつては結構普通にロック少年だったと思うんですけど、最近はDJで引き合いが多いようで、元からクラブ・ミュージック全般的な部分には詳しいですね。

T:バレアリック寄りというか、生音のレア・グルーヴっていうより、辺境系のサイケ色が強い感じの。

K:ここ最近はニコラ・クルーズにハマっているみたいで。「今作でも影響を実践した」と言ってました。本人に言われて作った後に気づきました(笑)。

たしかに、フレージングとかはすごく巧みなんだけど、なんというかギター・キッズ感はなくて、自身の演奏を俯瞰的に捉えている感覚を覚えました。DJとしても活動しているというのはなるほどという感じです。キーボードのともみんさんは?

K:彼は一言で言うなら、ポップスとして精度が高いものが好きという感じだと思います。

宇多田ヒカルとか?

K:そう。それと、ディズニー映画のサウンドトラックとか。あんまりバンド活動をしていてもなかなか会わないタイプの……

T:ぶれずにずっと好きだよね。学生の頃から。出会ったころは、槇原敬之とか。

K:学生の頃に一緒に演っていたラテンとかカリプソ、レゲエも彼の嗜好を捉えたみたいです。

T:ラテンとかもよくあるんですけど、80年代っぽいというか、逆にいなたいくらいのゴージャスな音を狙いたいとき、「そういう音色で」っていうと、ぱっとすぐ弾いてくれたり。そういう勘所がすごくあって。そういうポップスのアクっぽいところを即座に理解してくれます。

なるほど。かなり客観的にポップスを聴いているということですね。ウェルメイドなものを目指すという点においては皆さん同じだから、ユースケさんやともみんさんのなかにある蓄積や引き出しが混交することでTAMTAMのバンド・サウンドが形作られている、と。

T:そうですね。

次にクロさんの歌唱のことについてお訊きします。前作『NEWPOESY』での変化が大きいかと思うんですが、以前に比べると相当に歌い方が変わりましたよね。

K:そうかもしれないですね。

今回、前作よりさらにソフトというか、抑制されたヴォーカリゼーションに感じたのですが、やはりこれは音楽性の変化に合わせて、ということなんでしょうか?

K:普通に歳を取っただけかもしれないですけど(笑)。昔の自分の音源や『NEWPOESY』も含めて、ちょっとキンキンするなって。そこをもっと無理しないように歌うのは意識したかもしれないです。

先ほど90年代のR&Bがルーツというお話をしていましたが、だからといって、張りまくって歌い上げる系とはまったく違って、よりクワイエットというか、ちょっとフォーキーさも感じました。

K:最近は「どうだ、歌い上げてやるぞ」というような人よりは、抜き方がうまい歌い方の人が好きで。歌い手はもちろん、最近だとノーネームとかラッパーにも好きな人が多くて。

それはリズム感というかフロウというか?

K:それもそうだし、声の使い方が面白い。

その声の使い方ということで言うと、個人的にそういった女性ラッパーからの影響以上に感じたのは、ダーティ・プロジェクターズのコーラス処理に似た感覚というか……。吉田ヨウヘイgroupではコーラスを担当されていますが、そういったことを通じて歌に対する意識が変わったりしましたか?

K:そうですね。吉田ヨウヘイgroupでは、一般的に言うコーラスより地を出してメインと同じくらいの存在感を出すというなかなか珍しい形態なので、そういう意味では使える声を日々発掘してます。

じっさい今作のコーラス・アレンジもすごく凝っているなあ、と思いました。

K:もともと重ね録りが好きだったのでそこはなんの苦でもないですね。家でデモ録音しているときも、放っておくとコーラスの重ねが止まらなくなります。

オケとコーラスの関係性が高い意識で突き詰めるられているというのはTAMTAMの音楽の特徴のひとつだと思いました。

K:すべて、メインの歌を録ってコーラスも必ず2~3本は重ねるという流れでした。1曲目のタイトル曲はいちばん最後の曲のBPMを落としているだけなんですが、あれに関してはひたすらコーラスをその場で適当に10何本とか重ねて。

たしかにすごい音像でした。声というより何か……。

K:別室でみんながミックスをやっているときに、ブースだけ借りてひとりでずっとダビングをして、気がついたら半日経ってました(笑)。ムー(MØ)とかのような、簡単には知覚できないところにいっぱいコーラス・トラックがあったというのをやりたくて。シンセとか環境音みたいに鳴らしたり、喋っている声を入れたり、じつは細かくパンを左右行き来させたり、とか。

インディR&Bの人たち、フランク・オーシャンとかもそうなんですけど、等身大っちゃ等身大なんだけど、パートナーを誘う言葉がすごいカッコつけているってことに気づいて。 (高橋アフィ)

最後に歌詞の話を。全体的になんというか……。言葉にしちゃうと俺がアホみたいなのですが(笑)……「都市の大人の恋愛観」というのが色濃くある気がして。

一同:(笑)。

「アーバンなラブ・アフェア」という感じ? 言い方を変えるなら、「平成の終わりのラグジュアリー」というか。それはアルバム通した要素としてある気がするんですけど、何か意識して書いているんでしょうか?

K:私田舎者なので(笑)、アーバンかどうかはわからないんですけど……。いまの自分から、あんまり距離がないものにしようと思っていました。

題材を自分に相応のものから選んでいる、と。

K:そうですね。男か女かはわからないけれどパートナーが存在して、その関係性についてを書くところが多かったというか。それこそ前作でそうやって書くのが楽だなあと気づいて、自分の言葉が出てくる感じになって。

その前はかなり壮大な世界観というか、宇宙をモチーフにしたりしてましたよね。

K:そう。単純にSFが好きだから、それをネタ元にしてて。いま思えば見よう見まねで歌詞を書いてた時期で、自分のメソッドもないから、歌詞書くのは好きだけど「上手く伝えられた」と思うことが少なかった。さっきのサウンドの話とも一緒かもしれないのですが、作曲も自分でやるようになって、作曲面の自我が固まるにつれて歌詞もメロディもすごく乗せやすくなってきた。パーソナルなことも、開いた感じで書きやすくなった気がします。

全体的にものすごい気怠そうというか……(笑)。大人ならではの甘美な疲れ、みたいな……熟れたラグジュアリー感ということなのかもしれないけど、『なんとなくクリスタル』のような感じとももちろん違っていて。自分の周りの題材を素直に扱ってこういう作風になるっていうことは、非常にアーバンな生活をされている方なのかな、とか思いました(笑)。

K:そんなこともないんですが(笑)。狙ってアーバンにしている曲もありますね。

なんというか、かつてのプロの作詞家的っぽさもあるんですよね。2000年代半ばくらいがピークだと思うんですけど、等身大の自分をピュアにさらけ出す、的なものが素人作家主義のようなものとしてかつてあったと思うんです。そういうのっていま聴くと結構キツかったりするんだけど、今作の曲からは言葉の使い方とか含めていい意味での職業作家性やストーリーテラーとしての意識を感じました。

K:たしかに、自分の近くにいる相手に何かのきっかけで思ったりしたこととか、をとっかかりにするという意味では「等身大」ではあるけど、リアルにさらけ出す、というものは目指してなくて。たしかに自分の好みとしても作家っぽい人は好きです。小西康陽さんとか。

ユーミンとか。

K: そうそう。自分のなかで歌詞について迷っていたときに、「好き・嫌い」「自分にフィットする・しない」の2軸で世のなかの歌詞を分類してみたことがあって。「好き」でいうと、じつは強烈な個性をさらけ出す、痛烈でリアルな言葉を吐くといったタイプも好きで、自分ができないから憧れるところもあるんですけど。自分はそういうタイプではないなと思っているからこそ、じゃあカッコつけ切った方ほうが良いなというのがあって。それでまたR・ケリーが出てくるんですけど(笑)。

そこに繋がるんだ。

K:R・ケリー、そんなに持ち上げても仕方ないんだけど本当に最近また参照したからな(笑)。こういうの好きだったなって。歯の浮くようなことを言い切るとか……それこそGOODMOODGOKUさんも、そういう視点で「うわ! カッコいい!」と思いました。

T:ああ、言ってましたね。シド(ジ・インターネット)もそんな感じだって。

K:そうそう。ちゃんと気取ってて好き。

T:良いなという歌詞を探していたとき、インディR&Bの人たち、フランク・オーシャンとかもそうなんですけど、等身大っちゃ等身大なんだけど、パートナーを誘う言葉がすごいカッコつけているってことに気づいて。恋愛ものだったら、愚直な感情をすごく詩的な表現で伝えるみたいなのは多いですよね。フランク・オーシャンの“Super Rich Kids”とか、本当にそのときフランク・オーシャンがそうだったかというよりも、「俺たちSuper Rich Kidsだ」って言うこと自体カッコつけているけど、カッコつけているからこそリアルさが出るといったような、あの感じは結果的に参照してたかものしれない。等身大だけど、言葉遣いまで等身大にしなくてもいいっていう。

K:R&Bは金の話か女の話か犯罪の話かをイキって歌うみたいなのが多いと思うんですけど、トピック自体はともかく、歌うときのカッコつけ方自体は、いいなと思っていて。

そのカッコつけが、いまの日本の都市文化的な風土を経由して表現されている気がして。本作の曲からは、どうしても東京の夜の街並みが浮かんでくる。それはもちろんかつてのバブル期の風景とも違って。カッコいい言葉を使いながらも、心象風景は現代っぽいという。一方で、ストリートに根ざした音楽は社会的なイシューと繋がっているべきだという論調もあるじゃないですか。その論調を拒絶するわけでもなく、個人の関係のなかへ逃避するときに発生してしまう気怠さを、なるべくベタつきのないカッコよさで見据える行き方というのは、現代に生きている都会人として気負いのない真摯な態度であるとも言えると思います。「メロウ」というのはそもそも「メランコリック」と親和性があると思うし。そういう意味ではみなさんと同じくらいの世代、30代で、自立しつつもそろそろ生活に膿み始めている大人たちとかは絶対共感できるだろうなって(笑)。

T:良かったです(笑)。

K:浮かばれました(笑)。

最後にアルバム・タイトルのことを。『Modernluv』っていうのは、まさにこれまで話してきた通り、この2018年の……多レイヤー化する社会に揺られながら、日々を生きる大人がする気怠さと憂鬱を孕んだ恋愛、という意味なのかなって勝手に解釈してたんですけど……あってますかね?

K:素敵な解釈で嬉しいです。それをカッコつけて看板を付けてあげたみたいなことかな。

めちゃハマってますよ。「LUV」だしね。カッコつけ切ったな、と(笑)。

K:なんか……バンドとして、いきなり「LOVE」はまだ恥ずかしいかなっていう(笑)。


取材・文:柴崎祐二(2018年6月08日)

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Profile

柴崎祐二/Yuji Shibasaki柴崎祐二/Yuji Shibasaki
1983年、埼玉県生まれ。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、これまでに、シャムキャッツ、森は生きている、トクマルシューゴ、OGRE YOU ASSHOLE、寺尾紗穂など多くのアーティストのA&Rディレクターを務める。現在は音楽を中心にフリーライターとしても活動中。

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