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(2)ジェイムス・ブレイク登場 (取材:木津毅/写真:Teppei Kishida)
James Blake Overgrown ユニバーサル インターナショナル |
どうしてひとは、愛を歌わずにはいられないのだろう。
ジェイムス・ブレイクが"CMYK"から『ジェイムス・ブレイク』、そして『オーヴァーグロウン』へと至った道のりには、ひとりの表現者が愛を歌いはじめる、そのドキュメントを見る思いがする。『オーヴァーグロウン』はもちろん、ファースト以上に彼のトラックに対する感性が研ぎ澄まされたアルバムであり、ハウス、ダブステップ、ヒップホップの多彩なビートを使い分けながらより複雑な音の配合を施した作品である。しかし同時に、前作では多用されていた声にかけられたエフェクトが減り、より生に近い彼自身の声を......その歌を、エモーショナルに響かせることに腐心したレコードだ。それはなぜかと問われれば、僕にはどうしても、彼のなかに愛......それも、はじめて経験する愛が芽生えたことと深く関係しているように感じられる。複雑なトラックをよくコントロールしながら作ることに長けた彼が、愛を歌うことに対しては非常にプリミティヴな動機を抱いたのではないか。
先の来日公演では、相変わらず地を這うような重々しい迫力を持った低音と、さらに肉感的になった歌唱とのそのどちらもが、けっして彼から切り離せないものとしてそこに立ち現れていた。ジェイムス・ブレイクはいま、デジタル・ミスティックズやブリアルのダブステップにかつて抱いた憧れとジョニ・ミッチェルのような古典的なシンガーソングライターへの思慕とを、自らを媒介にすることによって結びつけようとしている。それは新しい時代の、様式に囚われない新しい形の愛の歌の可能性だ......それも、たしかに彼の感情を解放するものとしての、とてもピュアなラヴ・ソング。
思っていた以上に長身だったジェイムス・ブレイクは、幼なじみの名前を出した瞬間に顔が綻ぶような、素朴な青年であった。そんな彼がいま、真摯に自らの愛に向き合っている姿は、どうにも胸を打つものだ。
取材の時間が限られていたため、用意していた最後の質問を訊くことができなかった......「あなたにとっての理想のラヴ・ソングとは?」
だが、ジェイムス・ブレイクはきっと未来に、美しくそれを歌うことでその問いに答えてくれるだろう。
女性っていうのはユニークな視点を持って音楽に取り組んでいくってところがあると思うんだけど、ただ、いまの音楽業界では残念なことに女性アーティストは注目を浴びるためにどうしてもやらなきゃいけないことがあって......もちろん、そういうことを訊いてるんじゃないってわかってるんだけど(笑)。
野田:ちょうど1ヶ月ほど前にマーラの取材をしたんですけど、じつはあなたとすごく若いときから知り合いで、今度あなたがリミックスしてくれたシングルを出すって言ってましたよ。
ジェイムス:うん、そうなんだ。リミックスをやったんだけど、今後もっとちゃんとした形で何かいっしょに仕事をしたいなと思ってるんだ。じつはスタジオまで行ってちょっといろいろやってみたんだけど、まだ何も形にはなっていなくて。昔のダブ・レコードとかアウトキャストとかを聴いてたりしたんだけど。
そもそも、こういう音楽をやろうと思うきっかけを作ってくれたのがマーラなんだ。彼はナイスな上に謙虚で、人間としてもとても温かみのあるひとなんだ。またいっしょに仕事したいな、また会いたいなと思いながらも、僕が友だちとも会えないような忙しい状況だから、いつ実現するかわからないんだけど。
野田:そうなんだ。ちなみに、さっきまでエアヘッドにインタヴューしてたんですよ。
ジェイムス:ほんとに? 今日?
野田:ええ、すごくいい話をしてくれましたよ。
ジェイムス:ちゃんとたくさん話してた? 普段はシャイで、インタヴューなんかだとあんまり喋らないタイプなんだよ。
野田:ちゃんと話してましたよー! 中学校時代あなたと同じ学校で、彼がギターであなたがピアノだって聞かせてくれましたよ(笑)。
ジェイムス:あいつはアホなんだよ。
野田&木津:だはははは!
野田:17歳のときいっしょにクラブに行って、IDカード偽装して追い返された話とか(笑)。
ジェイムス:そういう話ならいくらでもあるよ(笑)。
取材:野田努、木津毅(2013年7月12日)