「Nothing」と一致するもの

Leftfield - ele-king

 今年の夏に彼らがライヴ活動を再開したことは知っていたけど、まさかこんなに早くツアーをするとは思ってなかったのでレフトフィールドはまったくノーチェックだった。「スクリーマデリカ・ライヴ」が目的の渡英だったけど、もし見ることができるならレフトフィールドも絶対見たかった、来日公演なんて実現しないだろうし。それにしてもなぜ日本では彼らの復活ツアーがほとんどニュースにもならないんだろう。

 ダンスビートが希望と目眩に溢れた混沌のなかから大きなうねりを作りオーディエンスの心に革命をおこしていた90年代前半、レフトフィールドはまさにその名の通りのシーンのエッジにいた。彼らはまだヒップホップもレゲエそしてテクノまでもミックスして新しいビートとしてハイブリットできた、ほんのわずかな時代のタイミングに奇跡的なトラックを連発してダンスビートを大きく進化させた数少ないアーティストのなかのひとつだった。

 今回のツアーにオリジナル・メンバーであるポール・デイリーは参加していない、脱退したわけでなくこの先のプロジェクトでは合流するということらしい。
 自分の日程に合うのがグラスゴーでのライヴだけだったので、出発1週間前にライヴとフライトのチケットを押さえ、グラスゴーへ飛んだ。会場はグラスゴーの中心から2~3キロはなれた幹線道路沿いにポツンと立つ〈O2 アカデミー〉、ちょうどゼップの天井を高くしたような感じ。開場から30分ぐらいでなかにはいるとまだ人はほとんどいない、しばらくして前座のブレイケージがスタート、それにしても人は入ってこないし音は小さいし、ちょっと不安になりながら広い場内に響くシリアスなダブステップを聴いていていると、早く会場に来た人たちはガンガンにビールをあおっている、イギリス人はほんとにビールが好きだ。
 スタートから40分ぐらいで場内はいい感じに埋まってきた、50ぐらいのヒッピーのようなおじさんからまだ10代の若者まで幅広い層のお客さんがきているけど、中心はやはり30代から40代のレイヴ/パーティー世代。ブレイケージの終盤にハッピー・マンデーズの"ハレルヤ"のサンプリングが飛び出すと場内から歓声が......。やっぱり年齢層高いかも! 

 ブレイケージによる1時間のDJが終わる頃には場内は超満員に、DJ終了と同時にいい感じで拍手、そしてステージ全面のLEDスクリーンが点灯すると"ソング・オブ・ライフ"のイントロが鳴り響く。ドラムセットにドラマーが座り、ニール・バーンズがシンセの前にくると爆音ベースが響く......。まず驚いたのはブレイケージとの音量差、ここまで前座とヴォリュームに差があるとは!
 かつてライヴで爆音を出し過ぎて〈ブリクストン・アカデミー〉の天井に亀裂を入れただけのことはある。この時点で場内はもう沸騰寸前だ、そして"ソング・オブ・ライフ"のビートがブレイクスから4つ打ちになった瞬間に場内は完全にスパーク、つづいて"アフロ・レフト"で完全にパーティ状態へ突入!
 "オリジナル"では女性ヴォーカルが登場、ニールがベースギターを持って、重たいビートが強調される。それから"ブラック・フルート"へ。そしてついに"リリース・ザ・プレッシャー"のイントロからラガMCが登場、ここで場内は最高の盛り上がりを見せて、いわばパーティの午前3時状態、まさにレイヴ。隣で踊ってるヤツの踊りがあまりにも懐かしい動きだったので、フラッシュバックしてしまう。こんな光景を見るのほんとに久しぶりだ。続いて"インフェクション・チェック・ワン"、この頃には僕も完全に飛ばされてしまった。シンプルなビートが、突き刺さるように響いてくる。

 レフトフィールドの曲はDJのとき、どうも使いずらいことが多かった、その使いずらさはビートや曲の構成の問題ではなく、音のタッチの問題としてそう感じていた。もちろん『リズム・アンド・ステルス』は当然そういう作りなのだけれど、『レフティズム』のシンプルな4つ打ちの曲でもそうだった。
 このライヴを見てその理由が理解できた、というよりも思い知らされた。レフトフィールドは楽曲をDJツールとして作ってはいないのだろう。 DJに使ってもらうことを前提としてトラックを作ることも、ビートをフォーマットとして捉えていることもしていない。単純なビートですら自分たちの刻印を刻みつけるようにして作っている。それがマッシヴ・アタックと同様に、オリジネイターとしての凄みであり、メッセージだ。ブレイケージを前座に起用したところにもレフトフィールドの意思を感じる。ダブステップが現在彼らの意思を正しく受け継いでいるというメッセージでもある。
 アンコールでは"メルト"、美しいシンセの眩暈だが、夢よりも現実が迫っていること感じさせる音色だ、しかしオーディエンスはそこに信じるべき明日を予感する、これこそ夢を見ながら現実を飛び越える瞬間の表現。ラスト・ナンバーは音圧で割れるようなベースの"ファット・プラネット"、最高のドラマの締めくくりに相応しい名曲だ。"オープン・アップ"をやらなかったのは残念だったけど、彼らが現役であることを証明する、気迫充分のライヴだった。このハードコアなビートのフィロソフィーに最大の歓声を持って応えているオーディエンスも最高! イギリス人はなんて音楽好きなんだろう。

G.Rina - ele-king

 現在のUKを中心とした、ダブステップから派生した最新鋭のビート・ミュージック――より多様に拡大するポスト・ダブステップをはじめとした、UKファンキー、ウォンキー、スクウィーなどなど――は、いま最大の隆盛を迎えつつあるわけで、最新の12インチを追いかけている熱心なビート・ジャンキーな方々(僕も含む)にとっては、懐を心配しながら過ごす毎日かと思う。そんな未曾有の活況を見せる欧米のシーンに対して、「日本からのリアクションはどうなのよ?」という素朴な疑問をお持ちの方にこそ、G.Rinaの2年振りとなる新作『マッシュト・ピーシーズ#2』を是非とも手に取ってもらいたいわけです。

 2010年の彼女はエクシィ率いる〈スライ・レコーズ〉のパーティ、Dommuneでの「ダブステップ会議」後でプレイしているように、UKのクラブ・カルチャーと明らかなシンクロをみせている。いまもっとも旬のクラブ・トラックを華麗にミックスする彼女のプレイを聴いて、僕はすっかり打ちのめされてしまったわけだが、そんな彼女の冒険心から生まれたのが『マッシュト・ピーシーズ#2』である。これは昨年末にブートとして限定リリースされた『#1』の続編で、『#1』では欧米のダブステップのトラックをリディムとして捉え、そこに彼女が歌を加えてマッシュアップするといった手法をとっている。『#2』では、『#1』で録音した彼女のアカペラを使って、国内のトラックメイカーが新たにリディムを加えるという斬新な試みが展開されている。
 そして本作は、国内の新進トラックメイカーのショウケースでもある。前述したエクシィをはじめ、スカイ・フィッシュ(彼はベース・ミュージックのトラックメイカーとして本当に素晴らしくて、昨年のアルバム『ロウ・プライス・ミュージック』は、自分にとって昨年のベスト・アルバムの1枚)、ラヴロウ&BTB、ラバダブ・マーケットのE-MURAら、現行のビート・ミュージック・シーンと共振する個性派たちが揃っている。
 そしてトーフビーツ、今年最大の話題の1枚、インターネット・レーベル〈マルチネ〉の『MP3キルド・ザ・CDスター?』への参加も記憶に新しい平成生まれのトラックメイカーも名を連ねている。いまから2年前、彼がまだ17歳の頃にリリースしていた自主制作盤『ハイスクール・オブ・リミックス』を聴いてから、彼のトラックに夢中になっていた僕にとっては、彼が参加しているという事実だけで、このアルバムを購入するには十分な理由だったわけで......。

 E-MURAのリディムによウォブリーなベースラインが強烈な変化球なファンキー"スロウ・アウェイ"でアルバムは幕を開ける。プレイヤのカトクンリーとG.Rina本人によって結成されたユニット「(dub)y」による"ファースト・テイスト"、続くエクシィによる"L.Y.D."は、どちらもコズミックなシンセサイザーが特徴的だが、現場で揉まれたグルーヴを持っている。スカイフィッシュによる"シーズンズ"は、スティールパンの響きが心地良いトロピカルなダンスホールで、ラストを飾るTNDによる"キープ・オン"は、クワイトのリズム・パターンを取り入れながらジョイ・オービソンとも似たエレガントさをも匂わせている。
 『マッシュト・ピーシーズ#2』は、素晴らしい同時代性を持っている。国内のシーンの生気に満ちたカッティング・エッジな音を確実に伝えている。アイコニカ以降さらに顕著になったロウビット、サブトラクトやファルティDLらが盛り上げるフューチャー・ガラージ、これら新しい波とも共振する。マグネッティック・メンのヒットによってポップ志向のヴォーカル・トラックもだいぶ注目されているが、その点でもこのアルバムは応えている。彼女の歌声はトリッキーなビートに乗ることで、地下室の艶やかさを孕みながらいっそうとメロディアスに輝いている。アルバムの終盤では、ラヴロウ&BTBによる"国道1号線"、ベータ・パナマによる"ワーキング・ハード・シンス......"のような、艶かしいエレクトロ・ファンクが収録されている。

 僕にとってのこのアルバムのベスト・トラックは、トーフビーツによる"ディドゥ・イット・アゲイン"。今年のベスト・トラックのひとつに挙げたいほどのこの曲は、ロウビット経由のカラフルなダブステップでありながら、バグの発生したTVゲームの画面のごとく、狂ったほどにスクリューのかかった、スクウィーじみたエフェクトがクレイジーだ。間違いなく彼は日本のトラックメイカーたちのなかでも強烈な個性を放っているひとりだが、まだ20歳になったばかりだ。先日、代官山UNITで開催された〈マルチネ〉によるパーティ「THE☆荒川智則」も大盛況だったというが、この『マッシュト・ピーシーズ#2』もしかり、新しい感覚をもったこの国のビート・ミュージックは、大人たちが知らないあいだに、すでに未来へと向かっている。時代とシンクロしながら独自の発展を遂げている国内のシーンの、2010年のドキュメンタリーのひとつとして、このアルバムを聴いてみるのもいいんじゃないでしょうか?

Sound Patrol 番外編 - ele-king

EOhetare、shitaraba、押尾ソルトによる噂のプロジェクト、ねじりんskweeeボーイズ登場!
https://soundcloud.com/maltine-record/

Chart by UNION 2010.11.30 - ele-king

Shop Chart


1

THEO PARRISH

THEO PARRISH Stop Bajon &COMMENT GET MUSIC
以前から自身のDJセットでもプレイしていたクラシックTULLIO DE PISCOPO"Stop Bajon"をTheo Parrishがリミックスした話題の1枚が遂に入荷!分解されたドラムパート、微かに聴こえるギターリフを覆い隠すかのようなアシッドベースと不穏なシンセが、まるでバレアリックと逆行するようなドープな仕上がりへ。午前3時過ぎのフロアをイメージさせる16分にも及ぶ地下世界。

2

BEN KLOCK / ベン・クロック

BEN KLOCK / ベン・クロック Compression Session OSTGUT TON / GER / &COMMENT GET MUSIC
BERGHAINのレジデントDJとしても活躍するベルリン・アンダーグラウンド・シーンの要の1人、BEN KLOCKの最新ミックスCD「Berghain 04」に」収録され、かねてより話題を呼んでいた"Compress Session 1"が遂にシングル・カット&ヴァイナル化!!

3

SHACKLETON

SHACKLETON Man On A String Part 1 & 2 WOE TO THE SEPTIC HEART / GER / &COMMENT GET MUSIC
SKULL DISCOでの出世作を皮切りにPERLON、SCAPEと活動の粋を益々広げるシーン最大のダーク・ヒーローSHACKLETONの新レーベル???『WOE TO THE SEPTIC HEART!』の第一弾リリース!!

4

URBAN TRIBE

URBAN TRIBE Untitled MAHOGANI / US / &COMMENT GET MUSIC
突如としてリリースされたUrban Tribeによる4 Tracks EP!! Sherard Ingramが織り成す黒いエレクトロリックソウル、その随所に伺えるKenny Dixon Jrによるコラージュやサンプリングのアレンジ、また自らのヴォーカルをも落とし込んだデトロイトの新たな化学変化。1,000枚完全限定、ワンショットプレス。

5

MODESELEKTOR PROUDLY PRESENTS

MODESELEKTOR PROUDLY PRESENTS Modeselektion Vol.1 MONKEYTOWN / JPN / &COMMENT GET MUSIC
THOM YORKE、BJORK、MAXIMO PARK、MISS KITTIN、ROOTS MANUVAといったアーティストとコラボ及びリミックスを手掛けてきた、ジャンルを越境する人気者MODESELEKTORが自ら始動させたレーベル・MONKEYTOWNから超強力コンピをドロップ!

6

A.MOCHI

A.MOCHI Primordial Soup III FIGURE / GER / &COMMENT GET MUSIC
アルバムリリースが待ち遠しいばかりの(リリースはあのLEN FAKI主宰FIGUREです!!)大注目日本人アーティストA.MOCHI、その最新アルバムからのシングル・カット第3弾が到着!!!

7

ERNESTO FERREYRA

ERNESTO FERREYRA El Paraiso De Las Tortugas CADENZA / JPN / &COMMENT GET MUSIC
LUCIANOを筆頭にVILLALOBOS、LOCO DICE、MIRKO LOKOなど錚々たるメンツが作品を残してきた、紛れもないミニマル・シーンのトップ・レーベル"CADENZA"。そのCADENZAがREBOOT「SHUNYATA」に続き放つのは、南米コネクション・アルゼンチンから飛び出した超新星・ERNESTO FERREYRA!

8

TATSUO SUNAGA / 須永辰緒

TATSUO SUNAGA / 須永辰緒 Organ b.suite No.5 WHITE / JPN / &COMMENT GET MUSIC
DJ MIXブームの雛形を作った伝説のミックステープ「Organ b.SUITE」シリーズが各方面からの熱いリクエストに応える形で「リ・マスタリング」を経てついにCD化。

9

RICARDO VILLALOBOS

RICARDO VILLALOBOS Au Harem D'archimede PERLON / JPN / &COMMENT GET MUSIC
ミニマル・シーンに留まらずクラブミュージック全般において、もはや別格といえる存在へと昇り詰めたカリスマ・RICARDO VILLALOBOSの2ndアルバム。実験的なトラックとフロアライクなトラックが絶妙に混ざり合ったVILLALOBOSの真骨頂が存分に味わえる。モダン・ミニマルの基本とも言えるマスターピース、待望の再発である。

10

MARK ERNESTUS VS. KONONO NO 1

MARK ERNESTUS VS. KONONO NO 1 Masikulu Dub CONGOTRONICS / GER / &COMMENT GET MUSIC
'04年リリースのアルバム収録曲"Masikulu"を、MORITZ VON OSWALDの片腕としてBASIC CHANNEL、RHYTHM & SOUND、MAURIZIO、CYRUS、QUADRANT等等等、数々のプロジェクトを手がけるMARK ERNESTUSがミックスを手がけるというその概要だけでもヤバすぎる1枚!

Supercore - ele-king

Supercore chart #2


1
Theophilus London

2
Dragons of Zynth

3
Katrina ford (of celebration)

4
Tunde Adebimpe (of Tv on the radio)

5
Holly Miranda

6
Karen O (of yeah yeah yeahs)

7
Little Dragon

8
Ambrosia parsley

9
David byrne

10
Kyp Malone (of Tv on the radio)

How To Dress Well - ele-king

 これは河ではない、滝だ。これは楽曲ではない、スケッチだ。音はいたるところで割れている、構成は緻密さを欠く、見切り発車でさまざまな主題が現れ、消えていく。アリエル・ピンクをスローに引き延ばせばもしかしたら近い感触を得るかもしれない。アンビエントでローファイなテクスチャーの音像に、ソウルフルなファルセットのレイヤード・ヴォーカル。『ラヴ・リメインズ』は、たとえばグルーパーのような研ぎすまされた集中力を持った歌ものドローンに比べると、スキゾフレニックで散漫な印象を受けるかもしれない。それはほんとうに「スケッチの束」といった具合だ。しかしその束が全体として投げかけてくるイメージは、とても濃密で鮮烈だ。ほかの誰でもない、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルでしかありえない異様な個性がたたみこまれている。

 ケルンで学生生活を送りながら音楽活動を続けるトム・クレルによるひとりユニット、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル。クレルのブログからフリー・ダウンロード形式のファーストEP「ジ・エターナル・ラヴ」が発表されたのが今年4月。数枚の自主シングルに続いて7月に〈レフス〉から『レディ・フォー・ザ・ワールド』、8月に〈トランスペアレント〉から限定シングル『エクスタシー・ウィズ・ジョジョ/テイク・イット・オン』、そして本デビュー・フルと注目度の高さに呼応するかのようにハイ・ペースなリリースである。グローファイ/チルウェイヴ的な文脈を踏まえたローファイ感覚と、荒涼として低温なビートメイキングは2010年らしい風景を描き出すようにも思われるが、チルウェイヴに指摘されるエスケイピズムは感じられない。むしろ攻撃性の高い音で、ブリアルなどダブステップを真っ先に思い浮かべる。暗く深いリヴァーブ(まるで聴いたことのない非常に特徴的なものだ)は、ろうそくの灯で壁に映し出された人影かゴーストのようだ。大きく揺れて、増幅する。
 それはドリーミー・シューゲイズといった形容からは大きく外れる、醒めた響きをしている。クレルのファルセットは幾重にも重なり、ループし、空気を震わせる。ノン・ビートのトラックなどは教会に鳴り渡るコラールさながらだ。前述のように音は割れまくって、ループしたかと思った主題はいつのまにか消え、形を変えていくのだが、構うかそんなもの、いま浮かび上がった思念をいまこのときを逃さずに空気に刻みつけよう......そうした自身の存在の跡のようなものがくっきりと現れ出ていて素晴らしい。

 『ラヴ・リメインズ』(愛はとどまる)は、「愛はつねにはとどまらない」という認識から生まれたアルバムだと、クレルは逆説的に述懐している(2010年9月10日『ダミー』)。どういう愛のことかは詳らかではないが、つきあっている女性との関係から得た省察であるようだ。それが永遠でないかぎり、われわれもまた愛のなかにただ止まっているべきではない。彼の音を聴いているとじつにぴったりとこの言葉が当てはまる。"スーサイド・ドリーム"をはじめとして"ユー・ウォント・ニード・ミー・ホエア・アイム・ゴーイン"、"レディ・フォー・ザ・ワールド"、"エスケイプ・ビフォア・ザ・レイン"など声を主体としたアンビエント・サイドの数曲は、歪みがひどく、猛吹雪を思わせる。それは言葉と思弁の吹雪だ。「僕にある想念が生まれてきたらじっとしてなどいられない。そうなったら僕はただ歌うだけだ。僕はただ目を閉じ、口を開く。そしたら歌が出てくる」(2010年5月12日『ピッチフォーク』)
 本名義を名乗る前にはよりドローン色の強い作品を作っていたようだが、クレルはそれに物足りなさを感じてヴォーカルを録りはじめたという。言葉がこだまするさまは戸の外の吹雪のようだが、戸のなかは厳かなハーモニーに満たされている。吹き過ぎていくものと、とどまるものとの対比がある。そして両者のあいだに生じる時間差が、この幽霊のような残響に他ならない。「愛はつねにとどまってはいない」の裏側には、「とどまっていたらどんなにいいか」という反実仮想的な祈りが貼り付いていて、それがこの人影のような音の重なりなっている。
 彼のゴーストリーな音は夢のかわりに不穏に響く。ドリーム・ポップをゴーストにする。それは廃墟となりつつある逃避先を暗示するもののようにも思われるし、夢から醒めた後を生きるための手がかりを提供するようにも思われる。

Colored Mushroom And The Medicine Rocks - ele-king

 このアートワークがすべてを物語っている。マーク・マッガイアーの生真面目さとは裏腹に、エメラルズのメンバーのひとりにこんな冗談のわかる人がいたことが驚き。クローズアップで写っているのはベニテングタケ・キノコで、もちろんメスカリンを含むアレである。日本の山でもよく見かけるキノコだけれど、気をつけてくださいよ、キノコは本当に......(略)。
 いずれにしても素晴らしいアートワークによる、アウター・スペース名義でソロ・アルバムを発表したばかりのジョン・エリオットのカラード・マッシュルーム・アンド・ザ・メディシン・ロックス名義でのアルバムである。カラー・ヴァイナルはお約束通りのサイケデリック模様だが、僕はこういう低俗なデザインがけっこう好きなので嬉しい。エメラルズ内におけるジョン・エリオットは、ヴィンテージ・シンセサイザーの音色を操作することを快感とするある種のオタク......要するにマニアかと思っていたのだけれど、なかなかどうして、彼は飽くなき幻覚の探求者であり、それを自分の楽しみへと変えていることが、三田格から借りているアウター・スペースのアルバムを聴いていてもわかる。カラード・マッシュルーム名義のアルバムのあとには、イマジナリー・ソフトウッズ名義のアルバムも出しているし、CDRやカセットテープを入れるとリリース量もすごい。

 エメラルズの音楽から聴こえるクラウトロックへのリスペクトには大きなものを感じるが、それはカンやノイ!ではない。初期のタンジェリン・ドリーム、エレクトロニクスを導入してからのマニュエル・ゲッチング、あるいはポポル・ヴー......つまりコズミックと形容された音楽だ。ポップの史学よればそれらはおおよそアシッドの彼方に夢を見ていた音楽となるが、エメラルズに限らず、ひと昔前ならガレージ・ロックをやっていたような連中が、どうしてゼロ年代はサイケデリックに向かっているのか興味がある。ホントにどうしてしまったのだろう。エメラルズといいOPNといい、USのこの世代ときたら......。

 アルバムは今年この名義で発表したカセットテープの編集盤で、これはいまひとつのスタイルとなっている。つまり最初に超限定のカセットテープで発表してからあとでヴァイナルに落とす。すべての曲はシンプルなミニマリズムで、空想に耽るにはもってこいの柔らかさを有している。冒頭の"フォロー・ザ・パス(道を進め)"は不吉なアルペジオからはじまるが、カラード・マッシュルームがこれを聴きながら山道を歩いている人を奈落の底に落とすことはない。3曲目の"ブラッド・プドルス"では、エリオットの得意技というか、まあ、ある意味ワン・パターンなのだが、アナログ・シンセサイザーによるアタックの効いたアルペジオと安っぽいドラムマシンがだらだらと続き、そしてB面の"シー・チャンネル"では静かにゆっくりと深いトリップへと歩んでいく。あまり無理せずに、草原を歩いていけば、最後の曲"ラスト・チャプター"のメロウなアンビエントが優しく迎えてくれるだろう。
 騒ぐほどの内容ではないが、アートワークをふくめまずまずの1枚である。

BLACKTERROR - ele-king

 仮眠を取って21時過ぎに起きると、雨が降っていた。失礼な話だけれど、正直ちょっと嬉しくなった。なぜなら、〈BLACK SMOKER〉が渋谷の〈asia〉で開催するパーティはだいたいいつも混むからだ。焼き鳥屋あたりでいい具合になってから深夜に遊びに行くと、観たいライヴを見逃してしまう。この国でいまもっともアヴァンギャルドなヒップホップ・ポッセのパーティは、とにかくちゃんとライヴを観たい、踊りたいと思わせる。大それた言い方をすれば、時代の音の行く末を目撃したい。そう、そんな気持ちにさせる。ベロベロに酔っぱらって、記憶を飛ばしているだけではあまりにもったいないのだ。僕はオープンの12時過ぎにはクラブに入った。その頃には雨は止みかけていた。

 今回は、DJ NOBUを擁する千葉のハードコアなテクノ・パーティ〈FUTURE TERROR〉と〈BLACK SMOKER〉主催のパーティ〈EL NINO〉のサウンドクラッシュである。界隈では誰もがこの喜ぶべきアンダーグラウンドの邂逅に注目していた。なにより〈BLACKTERROR〉ってパーティのタイトルがまずカッコイイ! そう思わない? 僕はビールを買って、さっそく真っ暗闇のメインフロアに向かった。パキッとした空気の振動が頭のてっぺんから足の爪先までを激しく刺激する。強力なサウンドシステムを導入したのではないだろうかと思わせる凄みのある出音だ。今日のパーティにたいする気合いというものが伝わってくる。THINK TANKのDJ YAZIと〈FUTURE TERROR〉のHARUKAによるユニット、TWIN PEAKSはミニマル・テクノとダビーなハウスのSFホラー・ショーを展開していた。ちなみに僕はDJ YAZIの『DUBS CRAZINESS』というミックスCDが大好きでよく聴いているが、これをウォークマンにセットして新宿のネオン街をサイクリングすれば、一瞬で『ブレード・ランナー』の世界にトリップしてしまう。さあ、黒いテロリストたちの宇宙船に乗って旅に出よう! 

 気づくとまだ1時前だというのに、フロアは身動きするのに苦労するほど人でいっぱいになっていた。僕は人をかき分けて、焼酎の水割りをゲットしに行った。1階のバーカウンターでCIA ZOOのHI-DEFから、12月15日に出すというファースト・ソロのサンプルをもらった。おー、ありがとう! じっくり聴かせてもらうよ! TWIN PEAKSはテンションを保ちながら、フロアの空気をコントロールし、次のTHE SEXORCISTのライヴへとバトンタッチした。

 THE SEXORCISTとは、"ヘンタイのヘンタイによるヘンタイの為のヒップホップ"を合言葉に活動する不定形なヒップホップ・ポッセである。なんと言っても、元ブッダ・ブランドのNIPPSが在籍していることで有名だ。彼曰く、池袋のクラブ〈bed〉を拠点とした「パーティ野郎の集い」だそうだ。代わったDJが一気にBPMを落とし、ジャズ・ファンクからメロウなコズミック・ソウルをスピンする。巨大スクリーンにはモンド映画のような映像が映し出される。ROKAPENISのお馴染みのVJは、アブストラクトな映像に疎い僕みたいな人間でさえ視覚的に楽しませくれる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。それまで激しく体を揺らしていたダンサーはその場を離れない。

 そして、チェックのシャツを着たNIPPSと迫力のある風貌のB.D. The Brobusがステージに登場すると、彼らの代表曲"BLACK TAR"がはじまる。「うおおおぉぉ!」、僕の後方にいたヘッズが雄叫びを上げながら、足元に酒をひっかけてきた。でも、そんなことを気にしている余裕はない。「......黒いダイヤ、黒澤明、黒いジーザス、ブラックマニア、黒いジャガー、シャフトのサントラ、黒い文学、黒い音楽......」、ほんとに黒がお好きですね。NIPPSのリリックは相変わらず意味不明で、どこか可笑しみがある。意味もなく笑いがこみ上げてきた。途中から、TETRAD THE GANG OF FOURのラッパー、VIKNとSPERBが加わる。
 NIPPSはステージの後方で横を向きながら、控え目に、ときおりビールを飲みつつ佇んでいた。最初は悪ふざけをしているのかと思ったけれど、自分のヴァースが来ると不自然なほど真摯にダーティなリリックをスピットしていた。4人は必要以上にお互いに干渉せず、淡々と熱のあるハードボイルドなヒップホップ・ライヴを展開した。「あれ、NIPPS大丈夫かな?」と不安になる瞬間もあったが、近年、第二の黄金期に突入しているベテラン・ラッパーの異形の存在感を体感できたことは嬉しかった。

 その頃、僕の膀胱はなかなか危険な状態だった。だが、次はTHINK TANKだ。急いでトイレに行こうとするが、人だらけでうまく前に進めない。2階のラウンジでは〈BLACK SMOKER〉のアートワークなどを手掛けるアーティスト、Kleptomaniacが一心不乱にライヴ・ペインティングをしている。相変わらず彼女の集中力は凄い。「ドスン、ドスン」という四つ打ちやレイヴィーなライティングに合わせて、いまにも動き出しそうな極彩色の地球外生命体のようなアートに視線を奪われる。ん? 階段の踊り場には奇妙なオブジェまで......、いや、こうしてはいられない。あああぁぁぁ、トイレには長蛇の列ができているじゃないですか。僕はトイレをひとまず諦めて、2階のVJブースにお邪魔してじっくりライヴを観ることにした。「頼む、もってくれよ」、僕は祈った。

 DJ YAZIとサックス奏者/エンジニアのCHI CHI CHI CHEE、そして客演のoptrumの伊東篤宏のフリーキーなインプロヴィゼーションからライヴは幕を開けた。CHI CHI CHI CHEEがソプラノ・サックスを切れ味鋭く吹くと、伊東篤宏が蛍光灯を使って自作した楽器オプトロンが「ビリビリビリッ」と暗闇で激しく点滅し、音の火花を散らす。ビートは変幻自在に伸縮をくり返している。そこにまずJUBEが切り込み、闇を切り裂く。続いて筋肉隆々のBABAがロッキンに乗り込む。そして最後に、ジャングル・ドレッドにサングラス姿のK-BOMBがケダモノのような野太い声にカオス・パッドで目一杯エフェクトをかけた。この渦巻きのようなカオスはいったいなんだ?! フロアのオーディエンスは波打ち、むちゃくちゃに盛り上がっている。彼らは、ロッキンな"EAT ONE"やファンクの感性がうねる"Bbq Style"をやり、いくつもの曲の断片をルーディーに再構築してみせた。

 THINK TANKのライヴは、自らの音楽を含めた既存のアートの脱構築である。まあ、ここでダラダラと分析するのもウザイが少々お付き合い下さい。THINK TANKにおけるジャズやファンクやレゲエやロックは、単なる意匠や装飾として使われているのではない。それらは衒学趣味などではなく、肉体的欲望の結果として引きずり出され、精神の解放をうながす破壊と再生のお祭りをぶち上げる。ヒップホップにお決まりの自己中心主義からは遠く離れている。「これこそアウトサイダー・ミュージックである」と紋切り型を言うのは容易いが、そういう形容には違和感もある。RZAの脱構築の美学とクール・キースの道化趣味の結合と言えるだろうか。あるいは、マイク・ラッドやアンチ・ポップ・コンソーシアムとも異なる前衛の領域へと踏み込もうとしているのではないだろうか。THE LEFTY (KILLER-BONG&JUBE)が山川冬樹と、KILLER-BONGはFLYING RHYTHMSのドラマー、久下恵生やダモ鈴木と刺激的なセッションを行なっていることも記しておく。いや、とりあえずいまはただひとつの事実を言おう、THINK TANKのライヴはいまもっとも注目すべきアヴァン・ヒップホップの極北であると――。

 ああ、膀胱がまずいぞ、しかしこれを見逃すほうがよっぽどまずい。とにかく、僕はトイレを必死に我慢してライヴに集中していた。たまたま来日中で遊びに来ていた、MITのイアン・コンドリー教授は「あれはカオスの美学だね」と流暢な日本語で評した。「たしかに、そうとも言えますね」と僕は頷いた。いっしょに行った吉増剛造と中原昌也を敬愛する友人は、「これを観れば、もう他のヒップホップはいいや」とまで興奮していた。同意はできないけど、言いたいことはわかるよ。

 しかし、まだまだパーティは終わらないのだ! 2時半ぐらいだっただろうか。10年ぶりの復活を遂げた、七尾DRY茂大と秋元HEAVY武士によるDRY&HEAVYのライヴがあった。この日のひとつの目玉だ。無骨で重厚なリズム・セクションとK-BOMBの地面をのたうち回るようなラップの掛け合いを観ながら、僕はダークなブリストル・サウンドを想起していた。そしてライヴのセッティングがばらされると、いよいよDJ NOBUがブースに入った。その時点ですでにけっこうな深い時間だった。あれだけ濃いライヴが続けば、クラウドもさすがに少しは疲労しているのではないだろうかと思ったが、いやいや僕の考えは甘かった。メインフロアの人はまったく減らない。DJ NOBUが鉛のように重い音をズドンと放ち、ジャブ代わりにEQをいじる。手を頭上でパンパンパンと叩き、クラウドを煽るとクレイジーなダンス・ミュージックによる第二ラウンドのゴングが鳴らされた。あとは書かなくても、みなさんだったらわかるでしょ?

 ティム・ローレンスは「『アンダーグラウンド』という言葉は急進的で秘密めいた響きを持つ」と書いているが、それは〈BLACKTERROR〉にもまったく当てはまる。ただ、創作の独自性を保つために世間の主流から離れた〈BLACK SMOKER〉が、一周回って世間から評価されはじめているとも感じている。〈BLACKTERROR〉は社会的反逆者や変態だらけのお祭り騒ぎと思えるかもしれない。まあ、そういう側面は大いにある。ただ、怒鳴り声や凄む声がパーティを支配しているわけではない。

 実際のところ、フレッシュな音やライヴやアートを求めに来ている人たちが多い。ナンパ目的の客もいる。手に負えない快楽主義と急進的な前衛主義と渋谷の猥雑な夜の文化が、これほどうまく同居した素晴らしいパーティもそうそうないのではないだろうか。いくら渋谷の他のクラブにちょっとしたトラブルがあったとはいえ、あんなドープなパーティに700人近くも集まるなんて! いつかK-BOMBは「オレらのライヴにズボンの細いヤツらが増えたよ」と言っていたけど、ハハハハハ、たしかにそうだ。ちなみに中原昌也は自身初の、素晴らしく狂ったミックスCDを〈BLACK SMOKER〉から近くリリースする。

 この日はほんとにいろんな人たちに会った。ライターの大石始や物販を担当していた〈wenod records〉の面々、RUMIもいたらしいね。それだけこのパーティが注目されていたということだろう。朝方、1階のバーカウンターで心地良く流れるダブに身をまかせ、ロックの氷を溶かしながら友だちとのお喋りに興じていた。〈ワッキーズ〉かホレス・アンディがかかっていたような気がした。結局僕は、DJ HIKARUがはじまってから少ししてリタイアしてしまった。聞くところによると、そのあとがまた凄かったという。それについては、最後まで踊り狂っていたハードコアなパーティ・ピープルが証言してくれることだろう。

KAZUHIRO ABO - ele-king

最近の"いいっすねぇ"もしくは"やべぇっすねぇ"10選(順不同)


1
HUMANDRONE - ACID IN THIS TOWN (original mix) - Canaria Schallplatten

2
BD1982 - Trails ( Gunhead remix ) - Seclusiasis

3
BOY 8 BIT - Suspense is Killing Me (Philipe De Boyar Remix) - MAD DECENT

4
GOTAN PROJECT - Rayuela (Man Recordings Disco Mix) - YA BASTA

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Makam - You Might Lose It (Kerri Chandler Kaoz 6:23 Again Mix) - Sushitech Purple

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AERA - Week of Fear - ALEPH MUSIC

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AWANTO 3 - Get That BDB - Rush Hour

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JAY HAZE - After Hours Breaking - FINALE SESSIONS

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BRAWTHER - LE VOVAGE - BALANCE PROMO

神聖かまってちゃん - ele-king

 目の前には、「神」と描かれた白いヘルメットを被っている磯部涼と三田格がいる。隣には、ヘルメットを被りながらでは素早いスウィッチングができないと断念して、いつものようにハットを被った宇川直宏、それから生中継のために動き回るdommuneのスタッフたち......、そしてその反対側には「ナタリー」編集部の優秀な女性記者がリアルタイムでパソコンを素早く叩いている......とにかく、両側に素早い指の動きをもった人に挟まれながら、白いヘルメットを被った僕は、渋谷のスペイン坂に新しくオープンしたライヴハウス〈WWW〉でいまもっとも注目に値するロック・バンドの演奏を聴いた。

 わずか2分でソールドアウトという競争率のなかで、幸運にもチケットを手に入れることのできた来場者全員には、先述したように「神」ヘルメットの着用が義務づけられていた。フロアは白い頭で埋め尽くされている。その光景自体が、ひとつの強烈なアイロニーだ。なにせ「神」であり、全員同じのヘルメット姿である......演奏は、ダンサブルで、ベースの音は会場のいちばん後ろの僕たちのところまで響き、ウイスキーを片手に演奏される鍵盤はメランコリーを携えていた。の子は、僕にはパンク・ロック・バンドのヴォーカリストとしての条件を充分に満たす佇まいをしているように見える。無責任な子供のような顔つきで、子供のようなわめき声で、子供のような目をしている。

 「アイ・ウォナ・ダ~イ」と歌ったのはジーザス&メリー・チェインだったが、かまってちゃんは「死にたい」を繰り返す。この音楽に熱狂している子供の姿を親が観たら、びっくりするかもしれない。後方の画面ではネットからの野次が走っているし。
 神聖かまってちゃんは今日の日本社会におけるノイズだ。ノイズとは工事現場の騒音のことではない。意味としていち部の人たちの耳を塞がせる音のことだ。いま、彼らほど憎まれ、愛されているバンドが他にいるのだろうか......。"学校に行きたくない"では、の子はノートパソコンを木っ端微塵に破壊する。彼のそうした一挙手一投足のなかに、なにか鋭い絶望を感じるのだが、すべてはこのバンドにとっての賛辞であろう大いなる嘲笑のなかで掻き消されていく。しかしその嘲笑はパンク・ロッカーにとっての蜜であり、オーディエンスにとっての勇気である。"いかれたニート"という曲も頭に残った。人間は経済活動の要員であり、ネットが普及しながらひとりひとりは孤立し、自分の人生を社会的に開いていくことはますます困難である――こんな時代において、かまってちゃんのそれは、あるいはひょっとしたら自覚のない抵抗として最高のエネルギーを持っているように思える。
 ライヴの最後ではキーボードのmonoとの子が喧嘩をした。何がなんだかよくわからなくなったが、「ナタリー」の女性記者に訊いたら以前にもステージ上で喧嘩しているという。まるでオアシスみたいだね、と磯部や三田さんと話した。ほとんど何も期待されていなかった若者たちがことを起こしているという点でも、似ている、
 神聖かまってちゃんのアルバムは12月22日に『つまんね』と『みんな死ね』、2枚同時に発売される。

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