「Nothing」と一致するもの

ysk - ele-king

current chart March 2011


1
GIDEON - A NEW ERA E.P. - FVF Records

2
Felix Bernhardt - Frisch aufgetischt e.p. - Snork Enterprises

3
PACO OSUNA - AMIGOS - PLUS 8

4
Thor - ICELANDIC LOST TRACKS2 - CONNAISSEUR

5
Unkhown - 9999 - stablo

6
Francesco Bonora & Mirko - THE SOUL SERIES 1 - ETICHETTA NERA

7
COSMIC COWBOYS / LULA CIRCUS - Krokai / Maccaja - BACK AND FORTH

8
NICK HARRIS - THE EVERLASTING EP - nrk

9
UES - THOUGHTS OF A RIDE RIDE - EXPREZOO

10
DELANO SMITH - I FLY - under tone

Julianna Barwick - ele-king

 都知事選のニュースなどに絡んで出馬予定者のサイトやブログなどをめぐっていると、「夢」という言葉はあっても「理想」という言葉をほとんどまったく見かけないことに気づいた。たしかに「理想」という言葉はなんとなく怖い。ユートピア島がじつは管理社会的な逆ユートピアだったという具合に、その「理想」というのが、誰にとっての「理想」なのかということがここ10年くらいの間は倫理の問題としても一般化した。「誰かの理想が、他の誰かの逆理想になり得る」という命題はアメリカナイゼーションとしてのグローバリゼーション問題、イラク戦争などを考える上でも避けられないものである。「夢」が個人が勝手に思い描くものであるのに対し、「理想」には「こうあるべき」という、他に対する微妙な強制力が含まれるわけだから、いま使いづらい言葉であるのは間違いないだろう。しかしそのことは、理想なき世界を肯定するものでもない。

 ローファイやシューゲイズな方法を技術的な背景として、2000年代後半はサイケ/ドリーム・ポップのルネッサンス的状況が続いた。私のなかではこの潮流をふたつに分けて聴いていた部分があって、それがまさに「夢」と「理想」に対応するな、と思った。「夢」派の代表はディアハンターウォッシュト・アウト、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートなど。いわゆるグローファイや、素朴なシューゲイザー・フォロワーなどもこちらに加えることが多い。「理想」派の代表はヴァンパイア・ウィークエンドアニマル・コレクティヴ、ダーティ・プロジェクターズ、グルーパーなど。ざっと比較すると、理想派は方法意識が強く、そのことで新しい世界を描き出そうとするのに対し、夢派は方法的な試行錯誤よりも、護身のために音を巡らし、そのなかにひきこもろうとする、というところだろうか。リテラルにとれば非難するようにきこえるかもしれないが、もちろん夢派のそうした性質は2000年代末においてきわめてビビッドな発明であったわけで、評価を惜しまない。理想派にはヴィジョンがある。夢派はヴィジョンが壊れている。理想派にはナチュラルな希望がある。夢派にはナチュラルに希望がない。ユートピアとディストピアの対照だ。しかしどちらも「いま」に対する鋭い感性がもたらしたものである。
 そして前置きが長くなったが、ジュリアナ・バーウィックは最初のフル・レングスである『サングウィン』(2009)当初から私の中では「理想派」だ。それは、しずかに差し出された未来の形である。そしてじつはなかなかに押しの強い音楽でもある。ほぼ自分の声だけを用いて幾重にも重ね、ループさせる、という方法意識のかたまりのような独特のスタイル。深い残響と整ったハーモニーが教会音楽を思わせながら鳴り渡るばかりで、ビートも歌詞もない。展開というほどの展開もない。しかし、強烈に光を感じる。開き直ったやぶれかぶれのあかるさなどではない。未来という言葉から光が失われた時代に、ベタでもネタでもメタでもなく、不思議な自信を感じさせながら彼女の音は力強く外へと広がっていく。非常に攻めの姿勢のあるクリエイター/アーティストだ。

 実際のところ歌姫という要素は彼女には希薄である。声量豊かに長いフレージングをこなしたり、きっちりとした唄ものを霊感たっぷりに表現するといったタイプではない。また、バンドを組むつもりがないことを明言しており、自分ひとりだけで表現することへの強いこだわりをみせている。「バックと唄」という二元論への批評が根本にあるのだ。また、リヴァーブやループなどペダルに多くを依存するスタイルであるため、再現の不可能性について自覚的な発言もしている。2度同じものが作れないような一回的な表現になにを求めているのか。あるインタヴューで、彼女は「スピリチュアルだ」と評価されることを嫌い、「もっともっと、心の底からエモーショナルなもの」を捉えたいのだと述べている。一回的で即興性が強いということのために、自分の音楽を神秘化されたくないのだ。同時にそれは「悲しいから悲しい音を出す」といったレベルを超えたもっと深い彼女のエモーションを拾い上げるための方法なのだということを想像させる。バーウィック独特の楽曲制作/録音スタイルは、おそらくはこうした思いから生まれている。
 ピアノがあしらわれた"バウ"を聴いていると、グルーパーとの類似性に気づく。グルーパーの霧の沼のようなドローンと、バーウィックの光のようなハーモニーは対照的だがよく似ている。グルーパーもまた、なかなかにきかん気で、押しの強い音楽なのだ。だが非常に透明度が高い。両者ともに深いリヴァーブがかけられているが、それは「夢派」が用いるような視界を遮る煙幕ではなくて、視界をクリアにし、意識を研ぎすませるための装置であるように感じられる。彼女らには彼女らのヴィジョンがはっきりとある。聴いていれば、少なくとも両者の強い眼差しを感じとることができる。そして、この眼差しの強さにつられるようにして私もまた彼女たちがみようとし、またみているものへと心が動く。はっきりと名指すことはできないが、なにか明るくて、澄んでいて、強いもの。不分明だが、芯が健康なもの。そして、まだみたことがないもの。『マジック・プレイス』にはそうしたものがあふれている。癒しや美学に回収されない、そのなにかしら新しい力のために、バーウィックの音楽は耳を騒がせる緊張感が宿っている。今作が公式なデビュー作ということになるのだろうが、スフィアン・スティーヴンスの〈アズマティック・キティ〉からのリリースとなった。申し分ない。本格的にその存在を見せつけてほしいと思う。

Moritz Von Oswald Trio - ele-king

 先行リリースされた"リコンストラクチャー2"がバカ格好良かったので楽しみにしていたのだけれど、アルバムは即興演奏によるテクノ・ミニマル・ミュージックとアフリカ、ダブ、ジャズとの接合、そんなところ。とにかく長い。熱心に耳を傾けて音の細部に集中するれば、それなりの物語があるのだろうけれど、子供が絶えずやかましい家で聴いていると、60分のミニマルの旅行はあっという間に終わる。そしてまた再生する......。そしてまたいつの間にか終わっている。そしてまた再生する......そしてまたそしてまたそしてまた......。1曲16分もあるミニマルを集中して聴いていられる環境にいるのは、学生あるいは無職という身分でないのなら、豪邸で自由気ままに暮らすメタルのような芸術家ぐらいしか思いつかないが、いつか自分もそうなれたらと思う。いつかそうなれたら、僕もプログレやアンビエントを楽しもう。

 "リコンストラクチャー2"は、12インチ・シングルで発表された昔ながらのクラブ仕様ということもあって、キックドラムが入っているからわかりやすいと言えばわかりやすい。が、しかし、あの蛇のようなビートのうねりからは並々ならぬ老練さが滲み出ていたし、本来ならリミキサーにオリジナル・ダブステッパーのマーラが抜擢されていることに驚くべきなのだろうけれど、ほとんどB面には針を落とさせないほど強烈な惹きとテンションが"リコンストラクチャー2"にはあった。『ホリゾンタル・ストラクチャーズ』は、そのオリジナル・ヴァージョンにあたる"ストラクチャー2"を収録した60分以上におよぶ作品で、モーリッツ・フォン・オズワルト・トリオ(MVOT)にとって『ヴァーティカル・アセント』に続くオリジナル・セカンド・アルバムとなる。メンバーはモーリッツ・フォン・オズワルト、マックス・ローダーバウアー、サス・リパッティの3人を中心に、ギタリストにポール・セント・ヒラーレ(ティキマン)、ベーシストにジャズ畑のマルク・ミュールバウアーを加えている。

 MVOTの音楽は、即興である。即興音楽におけるレコードとは、作品であり記録であるが、彼らがいったいどういった意図でもって即興をしているのかを僕は知らない。彼らは取材に応えない。リスナーが勝手に想像すればいい、ある意味では彼らは正しい態度を取っている。
 ベースラインの反復からはじまる"ストラクチャー1"は、せっかちな人にはとてもオススメできない。曲の終わりにはアフリカン・ドラムが挿入され場面はドラスティックに変化するが、それまで12分以上もの時間を要する。つまり僕にはこれは、ほとんどプログレに思える。カタルシスを得るためには、長い時間、このミニマリズムとじーっと対峙していなくてはならない。シングルとして既発の"ストラクチャー2"は、そういう点で言えば、最初からリズミカルな刺激を持っている。何よりもヘヴィー級のベースラインが地響きを上げている。そして、15分以上続く機械に制御された正確で淡泊なリズムの反復のうえを、ギターとキーボードは飽きもせずに即興演奏を続けている。"ストラクチャー3"はダブの冒険だが、スタッカートが効いたこの曲からはクラウトロックの混沌を感じる。クラフトワークのファースト・アルバムや初期のクラスターの持っていた落ち着きのない不安定さが続く。僕がもっとも気に入ったのは、細かいパーカッションの発展がユニークな"ストラクチャー4"だが、これが実に20分もある。
 アートワークは、前作のロケットに対して今回は骨。そのドイツ流の(あまり面白くない)ジョークを楽しむように、まあ、なんにせよ、気楽な気持ちで聴いて欲しいということなのだろう。

Ghostface Killah - ele-king

※読者へ

 最近遊びに行ったパーティでウータン・クランのハンド・サインを高々と掲げる20代前半の若者を目撃した。90年代に「ウータン旋風」を巻き起こしたニューヨークはスタテン島の実力派MC集団ウータン・クラン。カニエ・ウェストのような実験的なヒップホップが話題になっている2011年であるが、相変わらずウータン・クランのようなヒップホップも支持を得ているようだ。
 いや、ヒット・チャートをにぎわしているブラック・アイド・ピーズやピットブルのような、本来の姿とは異なった"ヒップポップ"音楽が、"ヒップホップ"音楽として世間で認知され大流行してしまっているからこそ、逆にウータンのような東海岸系がいま再び支持されているのかもしれない。パーティでDJがヒップホップを流しているにも関わらず、「ヒップホップをかけてください」とリクエストするという事件(!?)が起きる状状況は、ヒップホップ好きとしては正直イヤである。

 ウータン・クランのメンバー、ゴーストフェイス・キラーの本作品は、とくに目新しいことをしているわけではない。何か斬新なことをしているわけでもないのだが、とにもかくにもヒップホップ・ファンを安心させてくれる内容だ。相変わらずウィリー・クラーク、ロイ・エアーズ、ザ・イントゥルーダーズといった往年のソウルやファンクの名曲をサンプリングした楽曲を起用している。そしてアルバム全体に渡って、ブラックスプロイテーション映画を彷彿させるサウンドが展開されている。まるでバッドでピンプな格好をしたゴーストフェイス・キラーが、ジザ、キラー・プリスト、バスタ・ライムス、レイクウォン、メソッド・マンにレッドマン、シーク・ルーチ(ザ・ロックス)といったベテランMCたちや、ジョエル・オーティーズやジム・ジョーンズのような若い世代のMCたちとともにキャディラックに乗って街を疾走しているかのようだ。

 注目すべき曲は、ザ・ルーツのブラック・ソートを迎えた"イン・ザ・パーク"だ。あの頃は......と、ゴーストフェイス・キラーは曲のなかでヒップホップ創世記の日々を回想している。ブロンクスのブロック・パーティ、ザ・ファットバック・バンドのレコードや、地下鉄Dトレインのグラフィティ、アディダスのスニーカーなど当時のヒップホップ・カルチャーに関する小ネタを挟みつつ、「ヒップホップは公園ではじまったんだ。俺たちは真夜中にやっていた」というM.C.シャンの"ゼイ・ユースト・トゥ・ドゥ・イット・アウト・イン・ザ・パーク"のラインをサンプリングしたフックで、ギュンギュン鳴り響くギターの上で力強くラップしている。彼は昔を懐かしんでいるのではない。「俺たちはヒップホップのルーツをみんなに思い出させなきゃいけない! 俺たちの使命だ!」と、良き日々を忘れてしまったアーティストたちへ、またそれを知らない若者たちへ、「俺が知っているヒップホップはこういうものだったんだぜ!」というスタテン島仕込みのヒップホップ教育も含んでいるように思える。

 基本に立ち返っている姿勢を見せているのはゴーストフェイス・キラーだけではない。ウータンの他のメンバー、レッドマンも新作でクール・モー・ディーをフィーチャーし、ヴィデオでは太いゴールドチェーン、グラフィティ、ブレイクダンスなど昔ながらのヒップホップの要素を取り入れている。ここ数年、南部ヒップホップの勢いに押され気味なシーンにおいて、東海岸のベテラン陣も負けてはいられないという意地を感じる。それは、ヒップホップはニューヨークのブロンクスで生まれたんだぜ! という誇りを武器に、自分たちのヒップホップを取り戻そうという動きにもとれる。
 とにかく、バランスが良い作品である。ヒップホップについてラップもするが、難しいことを延々と説教臭くラップしているわけではない。セクシーなお姉ちゃんたちとセックスしたいぜ~ともラップするが、かといって銀行口座にいくら金があるか自慢してばっかりのラップでもない。DJプレミアが2010年度の年間アルバム・チャートで、本作品をナンバー・ワンに選んだことも充分に納得できる内容である。

TINIE TEMPAH - ele-king

 欧米であれだけ人気のドレイクが日本で売れていないと知って、「そうなのか~」と残念な気持ちになった。ドレイクをスルーすることは、言ってしまえば、70年代であればマーヴィン・ゲイを、00年代であればアッシャーをスルーするのと同じようなことだろう。セクシャルな魅力と黒人音楽の技芸によってクロスオーヴァーする色男の系譜。そして私たちが彼らの音楽を聴くことは、異なる国のディープな性文化......いや、大衆文化との出会いのきっかけである。そう、ちゃらちゃらしているようで、ああいう色男が人びとの偽ることのできない欲望を反映していたりする。まあ、当たり前の話です。

 と、妙な書き出しになってしまったが、紹介したいのはタイニー・テンパーである。タイニー・テンパーはいまもっともUKのポップ・ミュージック・シーンが熱いまなざしを送るラッパーだ。いわばディジー・ラスカルやワイリーに続くグライム第二世代の期待の新星である。今年2月のブリット・アワードにおいて、最優秀新人賞に当たるベスト・ブリティッシュ・ブレイクスルー・アクトと、全英No.1ヒットを記録し出世作となった"パス・アウト"(本作収録)でベスト・ブリティッシュ・シングルを獲得している。"パス・アウト"は、8ビット・サウンドからダブ、ドラムンベースへとめまぐるしく展開するUKらしいハイブリッドなベース・ミュージックだが、なによりタイニーの伸縮自在のライミングの上手さが際立っている。そこには若さからくる勢いがあり、はっきり言って、ディジー・ラスカルやワイリーにはない技芸がある。

 さらに、タイニー・テンパーは2010年のグラストンベリー・フェスティヴァルの大舞台ではスヌープ・ドックと共演し、その堂々たる存在感を示している。階級を超え人気を獲得していて、女の子にも受けている。親しみやすく、ファッショナブルで、『NME』の記事を読むと、プロフェッサー・グリーンがUKのエミネムだとすれば、タイニー・テンパーは自分たちにとってのカニエ・ウェストだ、というようなことが書かれている。タイニーの俗っぽさ、ひょうきんさ、さらにはエゴイスティックなところまでカニエに似ていると言いたいらしい。なるほどな~という感じだが、UKのドレイクと言ったほうが的確なような気もする。

 現在22歳のタイニー・テンパーことパトリック・オコグォはサウス・ロンドンで生まれ、ナイジェリア系の中産階級の家庭で育っている。12歳のパトリック少年に決定的なインパクトを与えたのは、2001年のUKガラージにおける最大のポップ・ヒット、ソー・ソリッド・クルー(同じくサウス・ロンドン出身)の"21セカンズ"だった。その後、ディジー・ラスカルの音楽の夢中になった彼は、イースト・ロンドンでおこなわれていたワイリーらのパーティに出入りするようになる。タイニーはグライム第一世代との交流を通じて、アンダーグラウンドでキャリアを積んでいく。とはいえ、タイニーのラップはブリティッシュ・アクセントではあるが、労働者階級のローカル・アクセントをとくに強調するディジー・ラスカルやワイリーとはスタイルが違う。

 さて、そして『ディスカヴァリー』はそんなタイニーの記念すべきデビュー・アルバムである。音楽的には、UKのサウンドシステム・カルチャーを基盤にしながら、エレクトロやR&Bへユニークにアプローチしている。レイヴィーでもあり、笑ってしまうほど派手だ。しかし、特筆すべきはやはり......タイニーのラップだろう。ごく単純な話、メロウな感性でもって、繊細に、柔軟に、緩急をつけてラップする彼のスタイルは魅力的だ。女性ヴォーカルをフィーチャーした"シンプリー・アンストッパブル"に彼の個性がよく出ている。あるいは、ザ・ドリームのアルバムに入っていてもおかしくないような甘美なアーバン・ミュージック"ジャスト・ア・リトル"や"オブセッション"で披露するファスト・ラップを聴いてみて欲しい。

 北米のラップの史学において、80年代中盤にラキムは官能的なメロディーやオフビートへの巧みなアプローチによってライミングを複雑化し、ラップに変革を起こしたとされている。そしてその後、ナズやエミネムやリル・ウェインが登場するわけだ。UKにおいてはルーツ・マヌーヴァがジャマイカ訛りのラップで独自のアイデンティティを確立し、ディジー・ラスカルはロンドンのローカル・アクセントを強調したファスト・ラップを発展させている。『ディスカヴァリー』のラップの内容はおおよそ、クラビング、酒、キレイなお姉ちゃんや若者のどんちゃん騒ぎについてであり、ここには笑いもある。グライムのような反抗はないかもしれないが、しかしタイニー・テンパーは紛れもなくグライムのシーンから登場したスターであり、ラップの技芸を武器にして、ディジー・ラスカルが踏み込んだことのない領域に入ろうとしている。期待しようじゃないか。

読者へ - ele-king

 前略。
 被災地の方々のことを思うと言葉が出ませんが、地震の被害がこれ以上広がらないことを祈念するのみです。まだまだ予断を許さない状況が続いています。この先を思えば不安を拭いさることができないのが正直なところです。それでも僕たちはいま生きているのですから、前を向きましょう。あくまでも慎重に。そして、ひとり暮らしの音楽好きも多いと思いますが、助け合いましょう。とにかく......、くれぐれも気をつけて。希望を忘れずに!
 
 本日の月曜日、いつものようにreviewをupします。今週upするすべてのreviewは3月11日よりも前に書かれたものです。

 良い曲を見つけました。
 これはたぶん日曜日にupされた曲です。
 But This is Way / S.l.a.c.k. TAMU PUNPEE 仙人掌

 
 さらにこんな曲もありました。
 PRAY FOR JAPAN / HAIIRO DE ROSSI Track by EeMu ~ ONE / Aporia


D.O - ele-king

 昨年で日本のインディ・ラップのモードは"ハスリング"から"スワッグ"へと、完全に切り替わったように思える。それは、敵対する法律が麻薬取締法から著作権法へ、舞台がストリートからネットへ、目的が金儲けから――レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャースが提唱するところの――評判資本へと移行したとも言えるだろう。もちろん、ラッパーたちは常に評判資本(=プロップス)を求めて来たし、相変わらず、それをいつか金儲け(=ハスリング)に繋げたいと考えているのだろうが、YouTubeの再生回数やフリー・ダウンロードの数を競い合うそのゲームは、例えば、USではWiz Khalifaが上ったメジャーなステージが期待出来ないこの国では、閉塞的にも、逆に、オールド・スクールを連想させるピュアなシーンのようにも感じられる。

 他方、ハスラー・ラップの次を模索する動きは、傑作『花と雨』(06年)でブームを起こした先駆者が、自身の名を冠した『SEEDA』(09年)で、より、アーバン・ミュージックを意識したトラックに乗って、政治的なメッセージを歌い出したことにも見られた。『Just Hustlin' Now』という、そのものズバリなタイトルのデビュー・アルバム(06年)に続いて、Avex EntertainmentからリリースされるはずだったD.Oの『Just Ballin' Now』(09年)も、また、同様である。メジャー・レーベルでは必須課題となっている有名曲のサンプリングに、ザ・ブルー・ハーツの"爆弾が落っこちる時"をチョイスしたり、TV番組で共演して話題を呼んだ中川家剛に、彼のゲトーな生い立ちをラップさせたり、それまでの、シーンでのハードコアなイメージと、メディアでのユーモラスなイメージを両立させ、さらにポップに展開したバランス感覚は実に見事だった。とくに、教師に世間一般の常識を、彼に忌み嫌われる自分自身にアウトローを象徴させ、同じような境遇の子供たちに向けて歌った"Lil Rampage'"は、まさに現代のザ・ブルー・ハーツに成り得るポテンシャルを持った名曲だったろう。しかし、ご存知の通り、同作は発売直前、作者の麻薬取締法違反での逮捕により、日の目を見ることはなかった。

 それに比べると、D.O、2年振りのサード・アルバム『ネリル&JO』は、リード・シングルのタイトル"I'm Back"を、そのまま"復活"と取るか、あるいは"後退"と取るか、意見の分かれそうな内容になっている。つまり、本作のテーマは、言わば"ハスラー・ラップの逆襲"である。全体的には、裁判シーンを描いた"Shall We Blunt?"からはじまり、シャバで待つ恋人の健気さをシンガーに歌わせた"Lettr To Jail"や、釈放を祝う仲間の声をイントロに置いた"あとはカンに任せよう"を挟んで、事件を振り返る"He Said"で本編を閉じるというドキュメンタルな構成。事件で得た教訓は、クライマックスの「今までの一連の流れは物語の始まりに過ぎないが/イイ日に思えるあの日にすら後悔なんてねえぜ今更」というラインでポジティヴに昇華されているが、その実、"Shall We Blunt?"で「アイツ(筆者注:検察)を引っぱたいちまえよD!!」と悪魔に囁かせたり、スキット"A Bli"で緩和化しつつある世界の大麻事情を紹介したりと、影で舌を出し、"I'm Back"に至っては「拝啓警視庁始め全道府県警の皆様へ/僕はあなたたちが大嫌いでこう思ってます/くそ喰らえ」と、はっきり、中指を立てている。

 また、アルバムの随所には、やはり"He Said"の「街中を走りビル風に乗り各土地をレイプした噂話/笑っちまう程デタラメばかりアイツは言ってたんだ確かに」というラインを逆手に取るように、「アイツサイキンナニヤッテルトオモウ?」と、ヘイターが陰口をたたくのに続いて、Craig Brewerの同名映画をリメイクしたようなピンプもの"Hustle & Flow"や、サディスティックな拷問描写が延々と続く"Gangsta Drive"が差し込まれる。ボーナス・トラックの"Bitch In Bed"等はブロウ・ジョブをねちっこく実況するだけのトラックで、その辺りを聴くと、D.Oの根っからのギャングスタ・ラップ好きが伝わって来るというか、ギャングスタ・ラップとは、そもそも、NWAがそうなように、現実をディフォルメした表現であって、彼がそのことに極めて自覚的なことがわかる。要するに、それらの楽曲は"デタラメ"で"笑っちまう"、"噂話"に過ぎないのだと。そんな風にフェイクとリアルを――"ネリル&JO"を?――混在させることで、D.Oは我々に突き付けているのだ。"果たして、真実とは何だ?"

 とはいえ、その露悪的な振る舞いは、世間一般のみならず、日本のヒップホップの経済的成功を願う人にとっても、眉をひそめたくなる内容なのかもしれない。しかし、思い出して欲しい。本来、ヒップホップとはアウトロー、つまり、法の外に弾き出されてしまった人たち(out-law)のためのコミュニティではなかったかと。この国は、近年、ますます、法に抵触したものを徹底して叩き、追放し、謝罪させては憂さをはらすような、村八分的性格を強めている。なかでも、ドラッグは踏み絵として使われている節がある。ちなみに、そこで言う"法"とは、法律に準ずる世間の"法"だが、法律と世間の"法"は真っ向からぶつかることだってあって良いはずなのだ。それにも関わらず、市民が警察化しているこの狂った時代は一体、何なのか。D.Oは前作収録曲"Rhyme Answer"で言っていた。「逆に聞きたい事があるんだが 世の中か? 俺か? 狂ってるのは」。そこで、"狂っている"とレッテルを貼付けれた彼は、"I'm Back"で再び問う。「皆俺に大丈夫か?って訊くが/皆は逆に大丈夫か?」

 一旦、法の外に弾かれた若者がカムバックし、しかも、わざわざ、反省していないと、法律と俺の"法"は違うんだと宣言する。こんな、痛快なことがあるだろうか。それだけではない。D.Oは、本作で同じような境遇の人びとにも手を差し伸べている。アルバム・ヴァージョンの"I'm Back"は、ともに逮捕され、各界腐敗の槍玉に上げられた元・若麒麟こと鈴川真一をフィーチャー。前述の「皆俺に大丈夫か?って訊くが/皆は逆に大丈夫か?」というラインを彼に歌わせることで勇気付けるのみならず、同曲に普遍性を与えている。そう、本作は言わば、不良讃歌だ。願わくは、日本のヒップホップ・シーンがアウトローの受け皿として機能していかんことを。「金バッチ もしくはM.I.C 選択を迫られた」D.Oが後者に救われたように。彼が名前を連ねる雷が、逮捕後、引退をほのめかしているYou The Rockに"帰って来い"と訴えかける新曲"2U"も感動的だった。人間は躓いても、何度だってやり直せる。そして、友だちが躓いたら手を差し伸べてやれ。友だちがいないならパーティに来い。それは、何となく繋がった気にさせてくれるサプリメントとしてのポップ・ミュージックではなく、実際に人と人を繋げるソーシャル・ネットワーキング・ミュージックだ。

 NYのファッション・ウィークと言えば、コーポレートで華やかな世界なイメージだが、こちらのファッション・ウィークは、それに対抗するため(?)インディペンデントで活躍するデザイナーのために立ち上げられた。主宰者のアーサー・アービット自身もデザイナーであり、彼の周りのデザイナーをもっとたくさんの人に紹介したいと4年前にスタートし、今回で8シーズン目を迎える。
 彼がピックアップするアーティストはひと癖のあるデザイナーばかりで、普通のファッション・ショーのように、モデルがランウェイを歩いて洋服を見せて終わりでなく、ショーケースのやり方も、デザイナー様々である。


主宰者のアーサー・アービット

 生バンドをバックにしたり、モデルがバンドとして演奏したり、オペラ歌手のバックでモデルがランウェイを歩いたり、ストリップショー、ジャズ・ダンス、演劇などなどファッション・ショーとして予測できないことが起こる。その見せ方のアイディアは,デザイナーがどんな風に着てもよいと言う闇の提案なのかもしれない。
 定番、新しいデザイナーとのバランスもよく、回を重ねるごとにパワーアップしている。ランウェイの目の前列は,ファッション・カメラマンでいっぱいとなる。今回はどんなファッション・ショーが起こるのか、と期待がつのり、裏切らないので,また次回も,と足を運んでしまう、そんなイヴェントなのだ。気になる......。

 まずは今回のデザイナーを簡単に紹介。

King Gurvy
 King Gurvy は主宰者アーサーのブランド。6人の男子モデルが彼のスペシャルな、ラグ系のガウン(ちょっとペンデルトン風)を身にまとい、ランウェイに現れ、Walmart, Nike, bp など、それぞれコーポレートな会社のキュープをステージに積んでいく。すべてを積み上げた後、ステージ下から、モデルが叫びながら飛び出し、すべてを壊していく。そして、先ほどのモデルたちが彼を抑え、助け(?)にいく。最後彼は力づき、その場に倒れ込む。彼の洋服のラインストーリー。


主宰者アーサーのブランド、King Gurvy



Dani Read www.daniread.com
 Dani Deadは、すべて下着のボンテージ・コレクション。ハードでギリギリだが、いやらしさがなく,かっこ良い。手錠されたモデルがでて来ては、後ろの壁に並んでいく。


No Name Collective

 No Name Collectiveは、パンク的な衣装のライン。登場しては,手に持った球を投げつける。アーティスティックであり、 ちょっとゴシックなロンドンのブランド、オールセインツを思わせる現代的なファッション・コレクション。ステージの脇では、女の子が効果音的に歌っている。最後には、バラや風船(全て黒)なども登場。




SDN
 www.sarahdixonsnova.com/
 SDNは,このイベントに最多出場している。今回は、アカペラ歌手のうたをバックに、モデルが登場。モノトーン、パッチワーク系のファブリックを生かした素材を使い、スカート、シャツ、ジャケットなどをプレゼン。


2日目:


Nathalie Kraynina 
www.nathaliekraynina.com
"password is love" by Nathalie kraynino
 このウィリアムスバーグ・ファッションショーには珍しく、モデルがプロ。間の取り方、メーク、ポージング、どれをとっても完璧で、本物のファッションウイークかと錯覚。洋服は、スカートの下にチュチュをいれたバレリーナ(色は基本的に黒かゴールド)のように、ドレッシーでオーガンジー。いままで見たなかでいちばんファッション・ショー的だった。


Hayden Dunham
 www.haydendunham.com
 白と黒を基調としたデザイン。モデルも隣の友だちのように、インディな感じが好感度。黒ふたり。他人が白基調。ほとんどが、下着に近いパンスト的衣装。総体的に、幾何学的な衣装だった。


インディな感じが好感度のHayden Dunham


Total Crap Uninc. 
www.totalcrapuninc.com/
 完璧にがらくた! と言う名前のライン。3回目の出場となり、すべてのショーを見てきているが、彼女の努力とアイディア、潔さ、パンク精神は、一定の度を超えている。過去2回は、ボンテージ演劇、ミュージカル、半ストリップ・ショーであったが、今回は生バンドを取り入れた。ベース、ギター、ドラムの3人編成で、曲はヘビー&ロックンロール。シューゲーザー系で、ショーの邪魔にならないバック音楽になっている。
 モデル主役は、本業ストリッパーの彼女のルームメイト。彼女のエンターティメント性は、天性の物を感じる。ステージにいるあいだは、獣の目をしていて、いまにもとって食われそう。登場するモデルは、メイド喫茶ウエトレス(メガネで、萌え系の彼女が、パンツを見せながら激しくステージを転がる)、モード系黒人モデル、ハードな革ジャンライダー系。洋服は、パンクスタイルで、どことなくエスニック。オレンジ色がテーマ。デザイナー自身は青のスパンコールのボディコン衣装&ライダーズ・ジャケット。彼女は普段からコレ。


そのパンク精神は、一定の度を超えている。Total Crap Uninc.


 中間休憩は、バンド演奏。food stamp
 というかこれが最後のショーだと思ったのは私だけではないはず。
 ふたつの白い布をかけた小さなテーブル(ドラムとセットに布をかけただけ)がステージの上にセットされ、コムデギャルソン系の真っ黒な衣裳(黒のポンチョ)、目の周りの真っ黒なメイク、金髪、(フードはしっかりかぶ)と言ういかにも、モデル風女のコがシンガーとドラマー。タンバリンも黒で揃える。そこに、ゴールドの埴輪衣裳(下はゴールドのパンツ(オムツ?)一丁、ゴールドのマント、縦と鉾を持ち、トサカの付いたヘルメット、コールドブーツ)を身にまとったおじいさんが登場し、ステージ上を練り歩く。意味がわからなかったが,オーディエンスの興味を引いたのはたしか。


Alex Campaz
 www.alexandercampaz.com
 今回の最後は、alex compaz。いままでのショーでは、モデルがひとりずつ登場し、ステージに残っていき(あるいはひとりずつ引っ込んでいき)、最後にみんな一緒になって盛り上がる,と言うスタイルが多かったが、このショーでは,最初にすべてのモデルがステージに登場し,みんなでいっせいにダンスをはじめる。かなりの圧倒感で,いっきにステージに目が釘付け。モデルたちのメイクがちょっと昔臭くって、古典的でかわいらしい。50年代のファッションショーの本から登場したような。でも、洋服(レオタード)の色のコントラスがとても現代的。私は、この見せ方もあるが、一気にこのブランドが好きになった。


圧倒感なステージングのAlex Campaz


 2日間どちらも参加したが,ファッション・ショーと言う枠を超え,エンターテイメントになっている。基本は洋服をショーケースする事が目的なので、洋服自体も大切なのだが,単純にショーは目にも耳にも楽しく、デザイナーの個性を上手く伝えるために、それを着るモデルを選択して,ショーのストーリーを考え、それを実際に形にしていくデザイナーたちの発想、アイディアにつくづく感心させられた2日間。そして,そのショーをひとつにまとめあげた主催者の懐の深さに感心。次も絶対行こう。

Duffstep - ele-king

 イヤなことが続いたりすると、良くも悪くも感情を高ぶらさない音楽が欲しいなと思う。感覚を鈍くさせてくれて、どんな小さな感動にも誘わない。それでいて飽きない。あるいは聴きたくないという感情を呼び起こさない。エリック・サティのいわゆる「家具としての音楽」はドイツ人に対する皮肉のようなもので、観念的になり過ぎないという意味だったということは前に『リミックス』の連載で書いた通り。しかし、その誤解に基づく「家具としての音楽」がここではあったらいいなということになるだろう。存在感のない音楽という意味ではないし、古さが気になるようだとそれもマイナス要因だから、ある程度の同時代性を持っている必要はあるし......ということを考えていると、これがけっこう難しい。サブリミナル・マインドを操ってくれというオファーを自分自身に向けている以上、自分が自分に音楽を聴かせているという意識を取り除ければ早いんだろうけれど、音楽を聴かされている自分(=自己)がそれを聴かせている自分(=自我)から距離を置くためにはそれなりにテクニックもいる(時間差やブラインド式などを使えば絶対にできないことではない)。しかし、この瞬間をなんとかしたいと思うような時に即効的かつ有効な手段はあまりない。どうすればいいのだろう。どんな音楽を自分に聴かせればいいのだろうか。自己は疑われるものだけど、それに働きかける自我に疑いを持った者はいないというのは誰の言葉だったろうか。自分に聴かせる音楽を選ぶという行為は本当に難しい。

 これまでダフ・ディスコの名義でダンス・トラックをつくってきたジェレミー・ダフィが自分の名前をもじったダフステップ(=価値のないステップ、あるいは役に立たないステップ)の名義でリリースしたデビュー・アルバムはセンチメンタルに揺れる部分も多少は含みながら、現時点でもっとも「家具としての音楽」然としている。何度、聴いても感情は揺れないし、退屈もしない。無機質ではなく、かすかに色気のあるダウン・ビートがこの世の無駄をすべて振動に変換し、のっそりとここまで運んでくれる。大して面白くもない反面、気に障るところもまったくなく、なんというか、喜怒哀楽のニッチ部分を上手に埋めてくれる。また、もう少し音楽的に凝ったものだと、昨年末にリリースされたジャネイロ・ジャレルのセカンド・アルバムはラテン・ミュージックの要素をさりげなく消化しつつも、ラテン系にありがちな派手な展開をほとんど削ぎ落としているので、やはり飽きずに流し続けることができる。緩急をつけたブレイクビーツは少し感情を揺さぶる面もあるけれど、全体としては抑制が効き、それよりも細かいテクニックに耳が行きやすい(タイトル曲の前後はかなりいい)。ラロ・シフリンかデオダートがクラブ・サウンドに転向したら、場合によってはこうなったかも?
 ジャレルをフック・アップしたのは懐かしきボム・スクウォッドだったそうで、その時はニューヨークを拠点にしていたものが、最近は西海岸に移動してブレインフィーダーの一員に加わったという話も(パブリック・エナミーとフライング・ロータスにパイプができたということか?)。ヘンな風に変化しないといいんだけど......

RSD - ele-king

 10年以上昔のことだが、イギリス人にスミス&マイティとはなんぞやと訊いたら、彼は「ブリストルのハート(心臓であり心)だ」と教えてくれた。この簡潔な説明が、ロブ・スミスの立場をよく表している。彼はそう、ブリストルの真心とでも言えるのだろう。その真心を表象するのがレゲエだ。真心商売、ジャマイカン侍......金は取るけど良いものあるよ。
 まあ、それはともかく、トリップ・ホップであれジャングルであれ、あるいはダブステップであれ、このベテランが関わるプロジェクトすべてに共通するのはレゲエだ。ロブ・スミスが定義するブリストルとは、ジャマイカのベースラインとドラミングに特徴づけらている。「ベースは母」というのが1995年のスミス&マイティの最初のアルバムのタイトルだった。

 RSDは、ロブ・スミスのダブステップ・プロジェクトである。2009年には、地元ブリストルでペヴァリストが主宰する〈パンチ・ドランク〉から最初のアルバム『グッド・エナジー』を発表しているが、これは彼が2007年からの3年のあいだに同レーベルから発表してきたシングル集で、正確に言えばコンピレーション・アルバムだ。だから今回の『ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ』が(既発の曲が2曲あるとはいえ)、ほぼ新曲で構成された初のオリジナル・アルバムと言える。しかもこれは大阪のベース・シーンの親分、クラナカが主宰するレーベル〈Zettai-Mu〉からのリリースだ。ふたりは1997年に初共演して以来の、14年の付き合いがあるそうだが、スミスの日本との強い結びつきを表すリリースでもある。

 アルバムはいかにもロブ・スミスらしい、レゲエのダンスホールをダブステップ風にアレンジした"ダンスホール・ロック"からはじまる。MCを担当しているのはリッキー・ランキン(ルーツ・マヌーヴァの仲間)。2曲目の"アリーナ"でスミスは1970年代の後半のレヴォリューショナリーズへと接近する。オールド・ファンにとっては嬉しい流れだが、若いダブステッパーにとっても新鮮に感じるだろう。ダブステップの多くはUKガラージを背景にしているため、これほどスムースにレゲエへと展開するアルバムは珍しいのだ。
 3曲目の"アクセプテッド"で、スミスはふたたびダブステップのサウンドシステムに戻る。そのままダークなベースを引っ張りながら、G.RINAのR&Bヴォーカルがフィーチャーされた"ユー・トゥ・ノー"へと続く。"ロング・ウィークエンド"で深いダブの瞑想へと突入すると、ダブステップのアクセントを取り入れたルーツ・ダブ・レゲエの"ジャー・ラヴ"、そしてステッパーズ風の"ダブ・キングダム"へと漂泊する......。

 アルバムはレゲエ一辺倒というわけではない。ジンクのクラック・ハウスへの返答とでも言えばいいのか、アシッド・ハウスのベースラインを取り入れた"ケイヴガール"はユニークだし、タイトル曲の"ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ"もラリー・ハードがダブをやったような、ハウス・ミュージックとの親和性を感じる曲だ。"アンシーン・スターズ"のようにポーティスヘッドのダーク・サウンドを彷彿させる曲もある。
 それでも大雑把に言って、『ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ』の最大の魅力は、70年代のジャマイカの音楽と2011年のダンスフロアとを結ぶトンネルを見つけていることだ。レゲエ・クラシックのサンプリングを使った"ジャー・イズ・マイ・ライト"のような曲は彼の趣味を端的に表しているし、資料によればブラストヘッドのヒカルは「俺的年間チャート1位を記録」だそうで、まあとにかく、ふだんレゲエに親しんでいる耳にはとても心地よく響く音であることは間違いない。ダンスフロアとももに発展した、UKダブの最新ヴァージョンとも言える。格好いいです。
 (個人的にはリクルマイにも参加して欲しかったなー。メッセージということを考えるのであれば)

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