「Nothing」と一致するもの

Cid Rim - ele-king

 エレクトロニック・ミュージックの分野でオーストリアと言えば、ここ10年ほどではドリアン・コンセプトことオリヴァー・トーマス・ジョンソンの活躍が思い浮かぶだろう。彼はフライング・ロータスのツアー・ライヴ・バンドでキーボードを演奏していたことでも知られるが、もともとクラシックとジャズのピアノ教育を受け、そんな経歴は音楽の都のウィーン出身者ならではだ。彼のリリースした『ホエン・プラネッツ・エクスプローディッド』(2009年)はメタリックなグリッチ・ホップとアヴァンギャルド・ジャズとの邂逅で、『ジョインド・エンズ』(2014年)はアンビエント・テクノやミニマルにクラシックや教会音楽の要素を融合したエレクトロニカ作品と言えるものだった。ビートメイカーやDJ/プロデューサーという才能にキーボード奏者としてのスキルが加わったのがドリアン・コンセプトだが、同じくウィーン出身のチド・リムことクレメンス・バーチャーは、そんなドリアン・コンセプトとも交流の深いアーティストである。

 1990年代のウィーンにはクルーダー&ドーフマイスターに代表されるトリップ・ホップ~ダウンテンポのカルチャーがあり、ドリアン・コンセプトやチド・リムもそうした洗礼を受けてエレクトロニック・ミュージックの分野に進んでいったのだが、チド・リムの場合はビートメイカーであると同時にジャズやフリー・インプロヴィゼイションのドラマーという顔もあり、それが彼の音楽制作に大きな作用をもたらしている。チド・リムの名前が最初にクレジットされた作品としては、2009年にリリースされたザ・クロニアス(ポール・モワァヘージ)の『ビトウィーン・ザ・ドッツ』があり、この中ではチド・リムがドラム演奏、ドリアン・コンセプトがキーボード演奏を行っていた。そのほかチド・リム、ドリアン・コンセプト、ザ・クロニアスのトリオでライヴ活動も行っており、オーストリアのエレヴェイト・フェスなどでも演奏している。彼らのライヴはフローティング・ポインツのそれに近いエレクトロニクスと生演奏が融合したもので、チド・リムのパワフルなドラミングもとても印象的だ。

 チド・リムはこれまでにいくつかのシングルやEPを発表し、2012年に〈ラッキーミー〉から自身の名前を冠したミニ・アルバムを出している。ドリアン・コンセプトもリミックスで参加したこのアルバムは、基本的にベース・ミュージックに分類されるものだった。プログラミング・ビートが中心ではあるが、一部には生ドラムを用いてハドソン・モホークがジャズに接近したようなイメージの楽曲もあった。その後、EPの「ミュート・シティ」(2013年)やマイク・スロットやオート・ヌ・ヴなどによるそのリミックス集、ジェイムスズーがリミックス参加した「チェンジ」(2015年)などを経て、今回初のフル・アルバムとなる『マテリアル』をリリースした。参加メンバーはドリアン・コンセプト、ザ・クロニアスのほか、南アフリカのシンガー・ソングライター兼マルチ・プレイヤーのプティ・ノワールことヤニック・ルンガ、ブルックリンのシンセ・バンド、フレンズの元メンバーで、ブラッド・オレンジのガールフレンドとしても知られるサマンサ・ウルバーニなどがクレジットされる。

 ドリアン・コンセプト、ザ・クロニアスとの“フォー・エイティーン”は、ロイ・エアーズの“ミスティック・ヴォヤージ”を彷彿させるメロディのダウンテンポ・ナンバーで、どっしりとタイトなビートを刻むドラム、深く沈み込むようなエレピ、重厚なベース、電磁波のように響くシンセのコンビネーションが披露される。この曲にも示されているように、『マテリアル』は今までのチド・リムの作品に比べてずっと生演奏、及びその素材のサンプリングの比重が高く、ジャズ寄りの作品集である。アルバム・ジャケットにドラムを叩く自身の手元の写真を使ったところにも、そんな『マテリアル』のカラーが表われている。“クレイ”から“サージ”へと繋がる流れはフライング・ロータスに通じるもので、“サージ”ではミニマル・テクノ的なキーボードと変拍子風のトリッキーなドラミングが相乗効果を生んでいる。“ザンダー”は前述のミニ・アルバムにもあったハドソン・モホークとジャズが出会ったような作品で、中盤から後半にかけてのシンセで変調させたようなサックス・ソロ、その後の怒涛のドラム・ソロが圧巻。ベース・ミュージック経由ということで、スウィンドルあたりとの近似性も見出せる。ブロークンビーツ的なリズムとポップなアナログ・シンセの組み合わせによる“ムーシュ・ヴォランテス”、ジョルジオ・モロダー風のシンセ使いで昔のSF映画的なキッチュさを持つ“セラ・セラ”もそうだが、サンダーキャットなどロサンゼルス勢がやるジャズ・ロック/フュージョンとはまた異なる、欧州の最新エレクトロニック・フュージョンと言える作品だ。サマンサ・ウルバーニが歌う“リピート”でも、生演奏のサンプリングとプログラミングによってダイナミックなドラム・ビートが作り出されていく。プティ・ノワールが歌う“スウォナーヴ”も彼のヴォーカルの魅力を前面に打ち出しているのだが、それが映えるのもチド・リムが作る骨太なビートがあってこそ。“ザ・マテリアル”のビートは、ジャズ・ドラマーがヒップホップを演奏したようなイメージを、逆にサンンプリングとプログラミングで作り出している。現在はJディラなどヒップホップを咀嚼したビートを叩くジャズ・ドラマーも増えているのだが、それをさらにビートメイクやプログラミングで進化させたのが『マテリアル』である。2010年代に入って新しい世代のジャズ・ミュージシャンたちが注目されて久しいが、ミュージシャンとビートメイカー/プロデューサーの両方の視点を持つチド・リムが、また新たなエレクトロニック・ジャズの領域に踏み込んだと言える。


Mammal Hands - ele-king

 いま、ジャズはUKで拡張されている。ヘンリー・ウー、リチャード・スペイヴン、スチュアート・マッカラム、アルファ・ミスト、モーゼス・ボイド、テンダーロニアス、そしてゴーゴー・ペンギンらが生み出すUKジャズはエレクトロニック・ミュージックを吸収し、(いわゆるロバート・グラスパー以降のジャズの影響は受けつつも)USのジャズとは異なる発展を遂げている。
 今年、ポルティコ・カルテットのアルバム・リリースでも話題になった〈Gondwana Records〉は、そんなUKジャズ・シーンを牽引するレーベルのひとつだ。ゴーゴー・ペンギンやジョン・エリスらも輩出してきた〈Gondwana Records〉だが、先日アルバムをリリースしたばかりのママル・ハンズも忘れてはならないだろう。
 ミニマル・ミュージックやポスト・クラシカルなどから影響を受けたジャズを得意とするママル・ハンズだが、話題になった前作『FLOA』以上に今作『SHADOW WORK』からは多様な音が聴こえてくる。これはポルティコ・カルテットにピンときた人は聴き逃しちゃいけませんよ。
 さらにママル・ハンズは11月末に初来日公演を控えてもいる。ピアノ、ドラム、サックスという変則的な3人編成でのライヴは、音源とはまた異なるニュアンスのサウンドを聴かせてくれることだろう。必見。

MAMMAL HANDS (Gondwana Records, UK) 来日公演決定!

名門〈ブルー・ノート〉へ移籍して大ブレイクを果たしたゴーゴー・ペンギンを輩出したUKマンチェスターのレーベル〈GONDWANA RECORDS〉のトップ・アーティスト、ママル・ハンズの待望の初来日公演決定! ロバート・グラスパー以降のニュー・ジャズの潮流を特有のミニマル・サウンドでアップデートするママル・ハンズは、盟友ゴーゴー・ペンギンを凌ぐセールスを記録中! 2016年、TOWER RECORDS輸入ジャズCDで最も売れたアルバム『Floa』に続くニュー・アルバム『Shadow Work』を提げてのプレミア・ショー、お見逃しなく!

MAMMAL HANDS
(Gondwana Records, UK)
Japan Tour 2017

■11.29 wed @東京 UNIT
Open 19:30 / Start 20:30
前売 ¥4,500(ドリンク代別途)
Information: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
Ticket Outlets: PIA (344-002), LAWSON (76449), e+ (https://bit.ly/2y4wPBF), clubberia, RA Japan, diskunion (Online Shop, JazzTOKYO, Shibuya Jazz / Rare Groove Store, Shinjuku Jazz Store, Kichijoji Jazz Store, Shimokitazawa) Jet Set and UNIT

■11.30 thu @京都 METRO
Open 19:00 / Start 19:30 - 21:00 (Close)
¥3,000(ドリンク代別途)*枚数限定
前売 ¥3,800(ドリンク代別途)
Information: 075-752-4765 (METRO) www.metro.ne.jp
Ticket Outlets (9.9 sat on Sale): PIA (344-328), LAWSON (57549), e+ (https://bit.ly/2wxFi2U)

■MAMMAL HANDS(ママル・ハンズ)
ニック・スマート(ピアノ)、ジェシ・バレット(ドラム)、ジョーダン・スマート(サクソフォン)からなるUKの新世代ジャズを牽引するジャズ・トリオ、ママル・ハンズ。ゴーゴー・ペンギン、ナット・バーチャル等を見出したマシュー・ハルソール率いるマンチェスターの新鋭ジャズ・レーベル〈GONDWANA〉から2014年にデビュー・アルバム『アニマルア』でデビュー、ベース不在の変速的なトリオ編成で繰り広げられるそのサウンドはアフリカやバルカン半島の民族音楽、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラス等のミニマル・ミュージック、現代的なエレクトロニカ・サウンドに影響を受けてモダンで幻想的なジャズ・サウンドを展開、すぐにボノボやジャイルス・ピーターソン、ジェイミー・カラムを始めとするアーティストやDJに注目され話題を集める。2015年にモントリオール・ジャズ・フェスティヴァルへの初出演を経て、2016年に発表されたセカンド・アルバム『フロア(FLOA)』では更に独自の進化を遂げたミニマル・ジャズ・サウンドが繰り広げられ、日本でもロバート・グラスパー以降の新世代ジャズを好む新しいジャズ・ファンに広く受け入れられている。2016年のタワーレコード輸入盤ジャズCDで最も売れた作品として渋谷店、新宿店の2016年輸入盤CD年間ジャズチャート1位を獲得、現在でもロングセールスを記録中。2017年秋には待望のサード・アルバムを予定しており、今後の彼等の動向に注目が集まっている。

■New Album Information
新世代のUKジャズを代表するマンチェスターの人気ジャズ・トリオ、ママル・ハンズが大ヒット・アルバム『フロア』に続く3枚目となる待望のニュー・アルバム『シャドウ・ワーク』を完成! 世界のジャズ・フェスティヴァルでプレイしながら完成させた、更に洗練されスケールアップした彼等の進化したニュー・サウンド!


artist: ママル・ハンズ(MAMMAL HANDS)
title: シャドウ・ワーク(SHADOW WORK)
release date: 2017年11月2日
cat #: GONDJ-1021
label: GONDWANA RECORDS
price: 2000円+税
distribution: ウルトラ・ヴァイヴ
*日本盤のみのボーナストラック、解説付

King Krule - ele-king

 2004年イギリス。ザ・ストリーツは、『A Grand Don't Come For Free』のラスト“Empty Cans”で次のような言葉を紡いだ。

この先はつらい日々が始まる でもこうなるはずじゃなかった季節は終わった だからこれが本当の始まりなんだ

 2004年のイギリスといえば、当時のトニー・ブレア首相による“第三の道”路線への不満が目立つようになった頃だ。サッチャーによって固定化されてしまった格差社会を是正することができず、多くの庶民が絶望感を抱いた。その結果、ブレア率いる労働党は、2005年5月の総選挙で議席数を大きく減らした。2007年にブレアが降りた首相の座を引き継いだゴードン・ブラウンもたいした仕事はできず、2010年には保守党に政権を奪われてしまう。その保守党政権も、緊縮政策によって庶民を苦しめている。この苦しみを抱える人々は、ジェレミー・コービンを労働党党首の座に押し上げる原動力となり、いまもなお続く草の根の戦いに欠かせない存在だ。
 ブレア時代の憂鬱にかすかな光をもたらしたザ・ストリーツだが、哀しいことに〈こうなるはずじゃなかった季節〉は終わらなかった。たとえばケイト・テンペストは『Everybody Down』で、高騰する都市部の家賃に苦しみながらも生きる殺伐とした若者を描いた。パークはグレアム・グリーンの小説と同名の『The Power And The Glory』を発表し、インダストリアル・テクノという形で怒りを滲ませた。2017年になっても、ラット・ボーイロイル・カーナーデクラン・マッケンナ、インヘヴンなど、イギリスからは怒りと哀しみを纏った者のアルバムが次々と生まれている。繰りかえすが、〈こうなるはずじゃなかった季節〉は終わらなかった。むしろひどくなってしまった。ここ数年のイギリスで生まれた音楽を聴いていても、それは明らかだ。

 キング・クルールことアーチー・マーシャルもまた、2013年のデビュー・アルバム『6 Feet Beneath The Moon』で、イギリスに漂う不穏な空気を嗅ぎとっていた。〈前向きになれそうもないとき/僕は口をつぐむ/君が地獄を通り抜けようとするとき/君はひたすら進みつづけるのだから〉と歌われる“Easy Easy”など、どうしようもできないという諦念を包み隠さず吐露してみせた。明確な政治的主張はないものの、そこには当時の現状に対する絶望感を見いだせる。
 リリースから4年近く経ったいま聴いても、このアルバムには惹かれる。当時19歳と思えないあまりにも渋い歌声と老練さは、新世代のアンファンテリブルと呼ぶに相応しい才気を漂わせていた。ジャズやブルースの要素が顕著なサウンド、ダブからの強い影響を感じさせるプロダクション、おまけにポスト・ダブステップといったエレクトロニック・ミュージックとの共振も見られる内容に、多くの人が驚嘆したものだ。

 そんなキング・クルールのセカンド・アルバム『The Ooz』も、前作同様多くの驚嘆が寄せられるだろう。本作の基調であるジャズ、ブルース、ダブといった要素はこれまで通りだが、なかでもダブの要素がより前面に出ているのが興味深い。これはおそらく、2015年にアーチー・マーシャル名義で発表した『A New Place 2 Drown』の影響だ。この作品は、実兄・ジャックと共同制作したアート・ブックのサウンドトラックで、ダビーなサウンドスケープを特徴としている。そうした『A New Place 2 Drown』の欠片は本作の重要なピースと言っていい。

 重厚な音を聴かせるバンド・アンサンブルも本作の魅力だ。マーシャルもさまざまな楽器をこなしているが、多くのゲスト・ミュージシャンに演奏を任せることで、以前よりも複雑でグルーヴィーなサウンドを鳴らしている。この側面が明確に表れるのは、“Dum Surfer”と“Emergency Blimp”だ。特に後者は、ジョイ・ディヴィジョンを想起させるささくれ立ったポスト・パンクに仕上がっていて、これまでのマーシャルとは異なる姿を楽しめる。こうした姿は本作の至るところでうかがえるもので、そういう意味で本作はマーシャル流のポスト・パンク・アルバムと言っても過言ではない。強いて言えばマキシマム・ジョイのサウンドを連想させるが、ポスト・ダブステップ以降のモダンな感性があることをふまえれば、マーシャルも参加したマウント・キンビーの『Love What Survives』を引き合いに出したほうがしっくりくる。このアルバムも、マウント・キンビーなりのポスト・パンクを示した作品だからだ。

 歌詞は相変わらずで、諦念を滲ませた陰鬱な言葉が並んでいる。だがそれ以上に際立つのは、醜悪な現実を見つめるよう促す姿勢だ。〈まだ知らない世界に目を向けろ〉と歌われる“Half Man Half Shark”などは、その姿勢を象徴する曲だろう。〈誰かいないのか? いっしょになれるのか?〉と問いかける表題曲も、気にかけてもらえない者たちの孤独と怒りの残滓を漂わせる。酔いどれ爺さんが管を巻いているようにも聞こえる本作だが、注意深く耳を傾けると、鋭い批評性が節々で顔を覗かせてるのに気づく。もちろんこの批評性の矛先は、マーシャルが住むイギリスと思われる。しかし本作の言葉はイギリス以外にも届く。特定の人たちにしかわからない固有名詞は登場せず、自身が見ている風景と気持ちに焦点を当てているからだ。〈手と手を取り合うのさえ難しくさせている この国では〉(“Half Man Half Shark”)という一節なんて、日本そのものじゃないかと思ってしまった。

Andrés Japan Tour 2017 - ele-king

 日本だとみんなJディラ、Jディラっていうんだけど、デトロイトだとスラム・ヴィレッジなんだよね。それだけスラム・ヴィレッジという存在がでかかってことなんだろうけど、DJ Dezとしてその楽曲制作やツアーDJとしても関わり、また、Andrés(アンドレス)としてムーディーマン率いるMahogani Music所属する男、アンドレスが通算4枚目となるアルバム『Andrés Ⅳ』のリリースを間近に控え、来日が決定! 
 日本各地のフライヤーとともに紹介しましょー。

■ツアー日程

Andrés Japan Tour 2017

11.22(水) 東京 @Contact
11.24(金) 岡山 @YEBISU YA PRO
11.25(土) 小倉 @HIVE
11.26(日) 大阪 @SOCORE FACTORY
12.1(金) 金沢 @MANIER
12.2(土) 名古屋 @Club Mago

■Andrés (aka DJ DEZ / Mahogani Music, LA VIDA) from Detroit
Andrés(アンドレス)は、Moodymann主宰のレーベル、KDJ Recordsから1997年デビュー。
ムーディーマン率いるMahogani Musicに所属し、マホガニー・ミュージックからアルバム『Andrés』(2003年)、『Andrés Ⅱ 』(2009年)、『Andrés Ⅲ』(2011年) を発表している。DJ Dezという名前でも活動し、デトロイトのHip Hopチーム、Slum Villageのアルバム『Trinity』や『Dirty District』ではスクラッチを担当し、Slum VillageのツアーDJとしても活動歴あり。Underground Resistance傘下のレーベル、Hipnotechからも作品を発表しており、その才能は今だ未知数である。
2012年、 Andrés自身のレーベル、LA VIDAを始動。レーベル第1弾リリース『New For U』は、Resident Advisor Top 50 tracks of 2012の第1位に選ばれた。
2014年、DJ Butterとのアルバム、DJ Dez & DJ Butter‎ 『A Piece Of The Action』をリリース。
パーカッショニストである父、Humberto ”Nengue” Hernandezからアフロキューバンリズムを継承し、Moodymann Live Bandツアーに参加したり、Erykah Baduの “Didn’t Cha Know”(produced by Jay Dilla)ではパーカッションで参加している。
Red Bull Radioにてマンスリーレギュラー『Andrés presents New For U』を2017年10月からスタート。
通算4枚目となるアルバム『Andrés Ⅳ』のリリースを間近に控えたAndrésの来日が決定!

■ツアー詳細
Andrés Japan Tour 2017


11.22(水) 東京 @Contact

Studio: - Soultry -
Andrés (aka DJ DEZ | Mahogani Music | LA VIDA | Detroit)
DJ Kensei
DJ MAS aka SENJU-FRESH! (EDMATIC)

Contact: -Soul Matters-
Guest: KZA (FORCE OF NATURE)
Shima, JINI, kent niszw, kurozumi

OPEN 22:00 BEFORE 11PM ¥1000 UNDER 23 ¥2000 GH S MEMBER ¥2500 W/F ¥3000 DOOR ¥3500

Info: Contact https://www.contacttokyo.com
東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館B2F TEL 03-6427-8107
You must be 20 and over with ID.

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11.24(金) 岡山 @YEBISU YA PRO
- Supported by BANANA SKIT -

Guest DJ: Andrés

Support DJ: DJ JUN, TETSUO, TANSHO, Duty.sf, KODAI, DJ YORK (ETERNITY)

BANANA GALS: AIMI, MAIKA, MOMOKA, ASUKA

Open 22:00
ADV 3000yen DOOR 4000yen ※ドリンク代別途要
L-code 61430

Info: Yebisu Ya Pro https://yebisuyapro.jp

岡山市北区中山下1丁目10番30号 福武ジョリービルB2F TEL 086-222-1015

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11.25(土) 小倉 @HIVE
- Wonder X Wonder -

Special Guest: Andrés

Special Unit: DIRTY FINGERS MUSIC MACHINE

Wonder DJ’s: MAMORU (POUR), KENTA (MONTAGE)

Flyer Designed by. 描生 @byouki_artworks.jp

Open 22:00
ADV. 3000yen
With Flyer 3500yen
Door 4000yen

Info: HIVE https://djbarhivekokura.tumblr.com
北九州市小倉北区古船場町2-10 ターウィンビル205

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11.26(日) 大阪 @SOCORE FACTORY
Andrés Japan Tour 2017 in Osaka - AHB Production & HOOFIT present -

Special Guest DJ: Andrés

Guest DJ: DJ TOSHIBO (KOKURA Pro.)

DJs:
KAZIKIYO (HOOFIT/ROOT DOWN)
QUESTA (HOOFIT/BMS)
KJ
MAMORU (ROOT DOWN)

VJ: catchpulse

FOOD & COFFEE: COFFEEBIKE EDENICO, INC & SONS

Open 17:00 - Close 24:00
ADV : 2500yen with 1Drink
ADM : 3000yen with 1Drink

Info: SOCORE FACTORY https://socorefactory.com
大阪市西区南堀江2-13-26 TEL 06-6567-9852

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12.1(金) 金沢 @MANIER
- new town feat Andrés -

GUEST DJ: Andrés

DJ: Yoshimitsu, PPTV, RINA, J-ONE, PANDY

BEAT LIVE: highwest collective

Open 21:00
with Flyer 30000yen (No Drink)
Door 3500yen (No Drink)

Info: MANIER https://www.manier.co.jp
金沢市片町1-6-10 ブラザービル4F TEL 076-263-3913
Mail:manier[@]mairo.com

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12.2(土) 名古屋 @Club Mago
- audi. feat Andrés -

Guest DJ: Andrés
DJ: SONIC WEAPON. JAGUAR P.
LIGHTING: KATOKEN.

Open 21:00
ADV 2500yen
Door 3000yen

Info: Club Mago https://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818

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Flying Lotus - ele-king

 きました。今年はアンダーソン・パークとのコラボを仄めかしたり、あるいは『KUSO』や『ブレードランナー ブラックアウト 2022』といった映像関連の仕事で話題を振りまいてきたフライング・ロータスが、去る11月2日、ついに自身の新曲をMVとともに公開しました。ああ、このビート感……まぎれもなくフライローです。ヴィデオの監督はウィンストン・ハッキング。これは、いよいよ新たなアルバムのリリースが近づいている、と考えていいのでしょうか。続報を待ちましょう。

[11月13日追記]
 2年ぶりとなるMV“Post Requisite”を公開したばかりのフライング・ロータスですが、去る11月10日に新たなショート・フィルム「Skinflick」が公開されました。

https://www.nowness.com/series/define-beauty/skinflick-flying-lotus

 これはアート/カルチャー・メディア『NOWNESS』の企画「Define Beauty」のための作品で、フライロー自身が監督を務めています(使用されている楽曲も彼によるもの)。内容は、フライローの長編デビュー作となった映画『KUSO』に出演していた友人、“バブル”ボブ・ヘスリップ("Bubble" Bob Heslip)に捧げるものとなっており、神経線維腫症(1型)による皮膚神経線維腫を抱えたボブの美しさにフォーカスしたものだそうです。

FLYING LOTUS
新曲“POST REQUISITE”をミュージック・ヴィデオとともに公開!

今年7月に、3Dを駆使した新たなオーディオ・ヴィジュアル・ライヴをFYFフェスティヴァルで披露し、今週から全米ツアーがスタートするフライング・ロータスが、新曲“Post Requisite”をミュージック・ヴィデオとともに公開! フライング・ロータスにとって、2年ぶりの新作ミュージック・ヴィデオとなる。

Flying Lotus - Post Requisite
https://s.warp.net/PostRequisite

監督/アニメーション/操作:Winston Hacking
ストップ・モーション・アニメーション:Jeremy Murphy
追加コラージュ:Andrew Zukerman
プロデューサー:Flying Lotus, Eddie Alcazar
制作会社:Brainfeeder Films

この3Dツアーには「Red Bull Music Academy Festival Los Angeles」の一環として開催され、サンダーキャットも参加するハリウッド・フォーエヴァー・セメタリーでの公演や、ソランジュとアール・スウェットシャツも出演するバークリー公演も含まれる。

2017年はフライング・ロータスにとって、特に映像面において飛躍的な1年となっている。自作の長編デビュー映画『KUSO』が、サンダンス映画祭で初上演されたほか、日本でも公開を迎えた話題の映画『ブレードランナー2049』と、前作『ブレードランナー』の間を繋ぐストーリーとして、渡辺信一郎が監督した短編アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の音楽を担当したことも大きな話題となった。

Flying Lotus - Kuso (Official Trailer)
https://youtu.be/PDRYASntddo

「ブレードランナー ブラックアウト 2022」
https://youtu.be/MKFREpMeao0

音楽はもちろん、映像面でも進化を続けるフライング・ロータスから今後も目が離せない!




ばぶちゃん - ele-king

 ばぶちゃんは謎のアーティストだ。
 発言は赤ちゃんことば。表記はひらがなに統一され、Twitterでは「だぁだ」や「ばぶばぶ」などのつぶやきで埋め尽くされている。『初音ミク10周年--ボーカロイド音楽の深化と拡張』に掲載されている対談での発言の数々を読んでいただければ、その異質さをしかと感じられるだろう。
 ばぶちゃんが活動しはじめたのは2011年初頭からだ。今でこそ主に初音ミクなどのボーカロイドを用いた作品を公開しているが、活動初期にSoundCloudに投稿された作品はインストが中心だった。ピアノやノイズ、赤ちゃんの泣き声などをいびつに組み合わせ、非現実的で夢うつつな風景を描いている。“ままがやさしくつつみこんでくれるでちゅ”や“ぱぱがしらないばしょにつれてってくれたでちゅ”などは最たる例で、いずれも不安感を煽ってくる作品だ。

 それからまもなくして、初音ミクがヴォーカルとして歌う作品を公開。初期の作品を集めた1stアルバム『はじまりのおわり』は退廃的な美しさをもつエレクトロニカ、ノイズ・ミュージックが主体となっており、初音ミクの無垢な歌声が強烈に印象を残している。
 続く2ndアルバム『おわりのはじまり』は、『はじまりのおわり』と対の作品となっているのか、一変して狂気的で残酷な作風になっている。これまでのノイズやピアノを軸としたエレクトロニカは存在しつつも、ダブやブレイクコアなど攻撃的な音がおそってくる。初音ミクの歌声も強烈に歪み、異常な音となって耳に入り込んでくる。『はじまりのおわり』が心地よい夢だとすれば、『おわりのはじまり』は悪夢といった趣きだ。
 ばぶちゃんは夢や悪夢のような壮大な空間を描いているが、夢であるが故に閉鎖的でもある。そしてばぶちゃんは夢を通して、悲しんだり、怒ったり、絶望したりしている人たちと対話し、癒やそうとしているのだ。

 そして、そうした夢を集めて作ったものが最新アルバムの『Babuland』で描かれている。テーマとしているのは遊園地だ。上記の1stと2ndに加えて病気をテーマにした3rdアルバム『みんなのびょうき』は夢を通して対話する、癒やすという個人に向けた作品であるため、場所を挙げるとするならばベッドが適当であろう。そうした3作とは打って変わって、本作では遊園地という大勢の人が集まる場所を挙げている。夢を通してばぶちゃんの世界へ遊びに行く、そしてばぶちゃんは夢を通して癒やすという関係は変わらないが、遊園地という場所にすることで第3者の存在を匂わせている。対象が個人からマスへと変化したためか、本作はポップな曲も多い。“ばぶらんど”や“ばぶぱれーど”は園内のショーでも流れていそうなメロディだ。だがポップといってもノイズや強烈なダブを入れたり、不気味で狂気的な表現がもちろん混在しているところは揺るがない。

 また、遊園地のキャストのように、今作でははじめて客演を迎えている。Miliのmomocashewは園内アナウンスを担当し、“ブロークン・トイ・マニア”ではきくおの“物をぱらぱら壊す”のフレーズを引用している。トラップのビートを敷いたATOLSとの“死ニ願イヲ”や廻転楕円体との“糞ったれた世界”など、交流の深い人たちも参加しており、来園者を楽しませるために強力な陣を敷いているのも注目したい。

 ばぶちゃんは本作のリリースを皮切りに全国でライヴ・ツアーを開催している。これまで表に出ることは少なかったが、『Babuland』の影響もあり露出が増えている。しかしながら、いまだに正体は明かされていない。だが謎な存在・赤ちゃんだからこそ、色眼鏡なしに作品と向き合えるのかもしれない。


ADDISON GROOVE Japan Tour Nov. 2017 - ele-king

https://www.facebook.com/events/493699241003586/

 シカゴのジューク/フットワークに衝撃を受けて作った「Footcrab」により、英国のベース・ミュージックに大きな変革をもたらした、ブリストルのエース、Addison Groove(a.k.a. Headhunter)が11月に来日、5都市を巡る日本ツアーを敢行する。
 名門レーベルTempaにはHeadhunter名義でテクノな感触のダブステップを残してきた彼は、少年時代に親しんできたジャングル〜ドラム&ベースの時代から、常に“プラスα”のサウンド――それこそがブリストルの魂――を指向する。最近はアフリカや南米の音楽にも強い興味を持っている彼が、現在どんなサウンドを鳴らすのか? 過去の来日を体験した人にも必見のツアーと言えるだろう。
 11月17日(金)には東京・渋谷で、「ブリストルの音とスピリッツを都内に表出させるパーティ」〈BS0〉主催の〈BS05AG〉に出演。Star loungeと虎子食堂の2ヵ所で同時開催されるイヴェントには、クボタタケシ、andrew B2B Amps (TREKKIE TRAX)、Riddim Chango、Soi Productions、GUNHEAD、Ace-up f.k.a. Fruity (SHINKARON)ら、ある意味予想外の面々がラインナップされている。間違いなく“プラスα”な、サウンドシステム・ミュージックの粋と、グルーヴの奥深さを聴かせてくれるはずだ。
(文・麻芝拓)

Robert Aiki Aubrey Lowe - ele-king

 インテリア・デザイナー/彫刻家であり、音響彫刻作家でもあるハリー・ベルトイア(Harry Bertoia)。彼は1970年代に巨大な金属のオブジェによって生成される「金属の擦れ」の音響/残響による「Sonambient」という音響作品を11作品ほど遺している。近年、そんなベルトイアの音楽/音響の再評価が続く。
 まず昨年、2016年に〈インポータント・レコード(Important Records)〉から10枚組という音響モノリスのようなボックス・セット『Complete Sonambient Collection』がリリースされた。同年、先のボックス・セットを補完するように1971年と1973年に録音された『Clear Sounds/Perfetta』も発売。くわえて2016年には彼の功績をふりかえるエキシヴィジョン「Atmosphere for Enjoyment」もニューヨーク・アートミュージアムで開催されている。さらには2017年にリリースされた坂本龍一のニュー・アルバム『async』においても、ベルトイアの音響彫刻がもちいられるなど多方面から彼の音響空間の現代性が証明されつつある。響きの「現前性」と、マテリアルな「モノ性」と、「非同期の」融解といった点からか。
 デムダイク・ステアが運営するレーベル〈DDS〉からリリースされたロバート・アイキ・オーブリー・ロウ(Robert Aiki Aubrey Lowe)『Levitation Praxis Pt. 4』もまた、そんなハリー・ベルトイアのサウンドを現代に蘇生する試みのひとつだ。『Levitation Praxis Pt. 4』は、さきに書いたエキシヴィジョン「Atmosphere for Enjoyment」にて、ロバート・ロウによるベルトイアの「Sonambient」彫刻を用いておこなわれた「演奏」の記録である。アルバムにはA面とB面で長尺1曲ずつ収録しているのだが、「Sonambient」彫刻とロバート・ロウの特徴的なヴォイス/音響が溶けあい、まさにベルトイアのサウンドを継承するようなサウンドスケープを実現している。マスタリングを手掛けたのは名匠マット・コルトン(Matt Colton)。

 ここでロバート・アイキ・オーブリー・ロウについて述べておきたい。1975年生まれの彼はもともと〈サザン・レコード(Southern Records)〉から2000年代初頭にリリースされていた90デイ・メン(90 Day Men)のベース/ヴォーカルであった。ドゥーム/ストーナー・バンドOMに参加していたことでもしられる(2012年には〈ドラッグ・シティ(Drag City)〉からリリースされたアルバム『Advaitic Songs』に参加し、特徴的なヴォイス/ヴォーカル・スタイルを披露している)。
 電子音響作家としてはライカンズ(Lichens)名義で2005年に〈クランキー(Kranky)〉からアルバム『The Psychic Nature Of Being』を発表。この時点で今に至る電子音とヴォイスによるドローン的サウンドの基本形はすでに完成していた。2007年には同〈クランキー〉からアルバム『Omns』をリリース。00年代後半から10年代初頭にかけては自主レーベルや〈Biesentales Records〉、〈Morc Records〉などからアルバムを発表する。
 一方、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウ名義では、2010年に〈スリル・ジョッキー(Thrill Jockey)〉から出たローズ・ラザール(Rose Lazar)との共作『Eclipses』をリリースし、声やドローンの要素を基底にしつつ、リズミックなエクスペリメンタル・テクノを展開。そして2012年には傑作『Timon Irnok Manta』を〈タイプ(Type)〉から発表した。2015年には伝説的なニューエイジ・シンセストとして近年再評価も著しいアリエル・カルマ(Ariel Kalma)との共作『We Know Each Other Somehow』を、〈リヴィング・インターナショナル〉(Rvng Intl.)からリリースし、現行ニューエイジ・リヴァイヴァル・シーンにも接近し話題をよんだ。
 また、2015年にはポスト・クラシカル(現在では映画音楽の大家とでもいうべきか)のヨハン・ヨハンソン(Jóhann Jóhannsson)の『End Of Summer』〈Sonic Pieces〉に Hildur Guðnadóttirと共に参加した。ちなみにヨハンソンが音楽を手掛けたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』にロバート・ロウはヴォイスで参加している。映画を観た方なら、だれもがつよい印象をのこしているはずの、あの音響の「声」だ。そのせいか映画体験後に『Levitation Praxis Pt. 4』を聴くとまるで『メッセージ』のサウンドのような錯覚をおぼえてしまうから不思議である(ちなみに『メッセージ』は、現代的SF映画であるのみならず、優れた「音響映画」でもある)。
 以上、ドゥーム、電子音響、ニューエイジ、ポスト・クラシカルなどジャンルを超えていくロバート・アイキ・オーブリー・ロウのアーティストとしての歩みは、ひとことでは掴みきれない独特の遊動性・浮遊性がある。そこに私などは安住を拒否するボヘミアン的な彷徨性を感じてしまう。なにかひとつのイメージを拒否し続けるような歩み、とでもいうべきか。

 そんなロバート・アイキ・オーブリー・ロウが、本年2017年にリリースしたもうひとつのアルバムが『Two Orb Reel』である。このアルバムもまた同時期にリリースされた『Levitation Praxis Pt. 4』とは異なるサウンドを展開する。『Timon Irnok Manta』的なエクスペリメンタル・テクノの雰囲気を一掃されているし、あえていえばアリエル・カルマとの『We Know Each Other Somehow』の系譜にあるニューエイジ/コスミックなシンセ音楽の系譜にあるアルバムといえるが、瞑想性がもたらすトリッピーな感覚は希薄である。どちらかといえば冷めた作風で彼のシンセストの側面を展開する電子音楽の室内楽・小品集(全14曲にして39分)といった趣なのだ。『Levitation Praxis Pt. 4』がすばらしいのは大前提としてもこれはこれで悪くない。
 オリエンタルにして人工的な旋律が魅力的な1曲め“Yawneb Pt.1”からして奇妙な作品世界にひきこまれる。2曲め“The Crystal World”以降は、飛びはねるようなチープなシンセ・サウンドの短い尺のトラックが展開し、6曲め“The Dead Past”のような心ここにあらずの夢の中の夢のようなシンセ・アンビエントへと至る。B面1曲め“Nabta Playa”以降は、テリー・ライリー的なミニマリズムをシンセ音楽に置きかえたようなトラックが続くのだが、同時にYMO結成直前に発表された『コチンの月』(あのジム・オルークも愛聴盤・名盤に掲げている傑作シンセ・アルバム)の頃の細野晴臣を思わせもする。

 『Levitation Praxis Pt. 4』と『Two Orb Reel』。この二作は、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウという才能ゆたかな音楽家が抱えこんでいるふたつの側面(サウンド・アーティストとシンセスト)を満喫できるアルバムである。それは「実験」と「ポップ」の両極が進行している電子音楽/エクスペリメンタル・ミュージックの「現在」を体現してもいるといえよう。

CHAI - ele-king

 いま、80年代のカルチャーが注目されている。たとえば『VOGUE JAPAN』は、2017年9月号の表紙で、〝パワー・ドレッシング〟という言葉を掲げた。この言葉が持てはやされたのは、女性の社会進出が進んだ80年代。ビジネスにおいて男性と互角に渡り合うために女性が纏う服を指す言葉に、〝パワー・ドレッシング〟が用いられたのだ。いまは意味が変化しており、自分らしさに依拠したセンスが〝パワー・ドレッシング〟とされている。自分の好きな服だけを身につけ、そのことに喜びを見いだす。いわば〝パワー・ドレッシング〟は、スタイルからアティチュード的な言葉になった。
 『VOGUE JAPAN』は、2017年5月号でも「アメリカ発、80sカルチャー論。」という記事を掲載し、80年代をアピールしている。『Interview Magazine』の元編集長クリストファー・ボレンが80年代論を語ったこの記事によると、エイズから核戦争までさまざまな不安が渦巻いていた80年代と現在は似たような状況だから、多くの人が当時のスタイルに惹かれるのだと述べている。確かに、トランプを筆頭とした排斥的姿勢の台頭、あるいは世界的に問題となっている経済格差などを現在の不安要素と考えれば、ボレンの指摘は妥当だ。
 ボレンは当時のスタイルの例として、ビッグ・シルエットな服や軍隊擬装のように濃いメイクなどを挙げている。これらに従えば、『MEN'S NON-NO』の2017年11月号で見かけた、「デカい!重い!ゴツい!」という言葉も80年代的なセンスと言える。アウター特集で使われていたこの見出しに引かれて記事を読むと、肩幅の広い大きなコートを着たモデルたちがずらりと並んでいた。どうやら、80年代再評価の波は日本にも来ているようだ。

 こうした流れと共振するところがCHAI(チャイ)にはある。2013年に結成されたCHAIは、双子のマナ(ヴォーカル/キーボード)とカナ(ギター)に、ユウキ(ベース)とユナ(ドラム)を加えた女性4人組バンド。4人の関係のルーツは、マナとカナが同じ高校でユナに出逢い、バンドごっこを始めた頃になる。その後大学でマナとユウキが出逢い、それをキッカケにマナとカナはユウキとユナに声をかけ、CHAIを結成したそうだ。
 筆者が初めてCHAIを知ったのは、2016年初頭に“ぎゃらんぶー”のMVを観たときだった。体操着姿の4人が踊るのを観ながら、単なるおもしろバンドかと思っていたが、よくよく聴いてみると演奏力が高いことに気づいた。息の合ったコーラス・ワーク、ねちっこいファンクネスを生みだすタイトなリズム隊、語感の良い言葉が並ぶ歌詞など、サウンド面にたくさんの魅力があったのだ。ジャンルでいえばニュー・ウェイヴだが、ヒップホップやファンクといったブラック・ミュージックの要素も随所で見られる。ヘタウマでごまかすこともなければ、キャラだけで勝負する卑しさもない。もちろん、前向きな空気を前面に出すキャラも魅力ではあるが、仮にそれがなかったとしても、CHAIはサウンドで勝負できるバンドなのだなと強く実感した。

 そんなCHAIが、ようやくファースト・アルバム『PINK』を発表してくれた。本作の曲で特にオススメなのは、去年4月にリリースのセカンドEP「ほめごろシリーズ」にも収められた“sayonara complex”だ。〈飾らない素顔の そういう私を認めてよ〉〈かわいいだけのわたしじゃつまらない〉といった、かわいいだけが女性じゃないと言いたげな一節が多く登場する。しかし肝心なのは、かわいさそのものを否定していないこと。かわいさだけを求める風潮や、女性はかわいらしくしていなきゃダメという固定観念に批判的な視座がうかがえる。
 “sayonara complex”には、〈Thank you my complex〉という秀逸な一節もある。この名フレーズは、コンプレックスを個性として認められるようになったことで、コンプレックスと思っていたものがコンプレックスじゃなくなった瞬間の喜びと、その喜びに浸れる感謝の気持ちを表している。“コンプレックスは個性だよ!”と公言するCHAIらしい言葉選びだ。曲自体は、ニュー・ウェイヴの視点から解釈したメロウなディスコ・サウンドが特徴の心地よいポップ・ソングで、ブロンディーの“Heart Of Glass”を彷彿させる。だが奥深くには、心地よいだけじゃない多くの感情や想いを秘めている。その感情や想いは女性のみならず、偏見やイメージのせいで嫌な思いをしたことがある者なら誰だって心に響くだろう。

 “フライド”もグッとくる曲だ。けたたましいシンセと性急なグルーヴが印象的なこの曲を聴くと、チックス・オン・スピードを中心としたエレクトロクラッシュ、あるいはCSSやクラクソンズといったニュー・レイヴを連想してしまう。10代のほとんどを2000年代で過ごした筆者としては、抵抗できない音が詰まっている。「ほめごろシリーズ」収録の“クールクールビジョン”を聴いたときも思ったが、CHAIには2000年代の音楽から影響を受けた曲が多い。今年の日本では、ロス・キャンペシーノス!やファックト・アップといったバンドの要素を散りばめたcarpool(カープール)『Come & Go』、ザ・ストロークスに通じるソリッドなロック・サウンドを打ちだしたDYGL(ディグロー)『Say Goodbye To Memory Den』など、2000年代の音楽に影響を受けた良作が次々と生まれている。ここに、2000年代のNYロック・シーンについて書かれたリジー・グッドマン『Meet Me In The Bathroom』が話題を集めていることや、グライムの再興という潮流もくわえると、2000年代再評価の流れは世界的なもの? とも感じるが、これらの半歩先の動きと共鳴してるのも本作の面白いところだ。

 本作の初回限定盤についてくるブックレットもぜひ見てほしい。そこにはコンプレックスをポジに転換した写真がたくさん並べられており、その見事さに筆者は心の底から笑うしかなかった。サウンドのみならず、ヴィジュアルにもCHAIは私たちへのメッセージを込めている。
 CHAIには、緑の人が口にしたことで話題の“排除”という考えがまるでない。自分たちのセンスや直観に忠実で、欠点とされるものを魅力として受け入れ、そうした自分たちを寿いている。それこそ現在における〝パワー・ドレッシング〟の意味と同じように。こうした寛容さと多様性に救われる者は決して少なくないだろう。
 だが何よりすごいのは、素晴らしい音楽を生みだすだけでなく、私たちにまとわりつく窮屈な価値観や思考を解きほぐす力も備えていることだ。〈私はあなたの理想の女の子には絶対にならない(I'll never be your dream girl)〉と「Butterfly」で歌ったグライムスのように、CHAIは何物にも縛られない自由な感性を持つ。このような感性からしか、誰かの運命に決定的な影響をあたえる音楽は生まれない。2010年代を代表する傑作、ここに爆誕。


Nightmares On Wax - ele-king

 月が変わり、いよいよ秋も深まってきた今日この頃……そうです、秋と言えばナイトメアズ・オン・ワックスです。はい、いま決めました(だってNOWってば、いつも秋に新作を出しているような印象があるから)。そんなNOWが年明けにニュー・アルバムをリリースします。って、その頃はもう冬じゃありませんか! ……はしゃいじゃってスミマセン。しかし前作から数えること、4年ぶり? 昨秋EP「Ground Floor」のリリースはありましたが、フル・アルバムは久しぶりですね。その新作のアナウンスとともに、新曲“Citizen Kane”が公開されています。

 おお。これはちょっとした新機軸かも? いぶし銀のビートにモーゼズによるヴォーカルとアラン・キングダムによるラップが絡み合って、なんとも当世風の味わいが醸し出されております。翻って9月に公開された“Back To Nature”の方は、じつにNOWらしいぬくもりのあるトラックに仕上がっていましたよね。

 いやあ、たまりません。NOW大好き。アルバムには上述のふたりの他にも、アンドリュー・アショングやジョーダン・ラカイ、セイディ・ウォーカー、おなじみのLSKなどが参加しているとのこと。待望の新作『Shape The Future』の発売日は2018年1月26日。首を長くして待ちましょう。

[11月22日追記]
 リード曲の“Citizen Kane”がなんと、シカゴ・ハウスのレジェンド、ロン・トレントによってリミックスされました。このトラックは12月1日発売の限定12インチに収録されるとのこと。こちらも楽しみです。

Nightmares on Wax
カニエ・ウェストのコラボレーターとしても知られる新鋭ラッパー
アラン・キングダム参加の新曲“Citizen Kane”を公開!
待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表!

ソウル、ヒップホップ、ダブ、そして時代を越えたあらゆるクラブ・ミュージックを取り込んだトリッピーかつチルアウトなエレクトロニック・ミュージックで独自のキャリアと世界観を確立し、そのキャリアを通して多くのアーティストに多大な影響を与えてきたレジェンド、ナイトメアズ・オン・ワックスが、待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表! 合わせて新曲“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”をミュージック・ヴィデオとともに公開した。

Nightmares on Wax - Citizen Kane ft. Mozez, Allan Kingdom
https://youtu.be/DQJG4hKkX0c

公開された楽曲は、ジャマイカに生まれ、ロンドンを拠点に活躍するSSW、モーゼズのほか、カニエ・ウェストやフルームのコラボレーターとして知られるラッパー、アラン・キングダムをフィーチャーしたラップ・ヴァージョンとなり、国内盤CDとデジタル・フォーマットにボーナストラックとして収録される(アルバム本編にはオリジナル・ヴァージョンを収録)。

コンテンポラリーなサウンドを積極的に取り入れた“Citizen Kane”のほかにも、すでに公開されミュージック・ヴィデオも話題となった“Back To Nature”といったナイトメアズ・オン・ワックスの代名詞とも言えるチルアウトでリラクシンな楽曲ももちろん満載。またセオ・パリッシュとの共作で注目を集め、ロイ・エアーズやビル・ウィザースを引き合いに高い評価を受けるSSW、アンドリュー・アショングや、ディスクロージャーやFKJの楽曲にもフィーチャーされた新世代ネオ・ソウルの注目株ジョーダン・ラカイ、長年のコラボレーター、LSK、女性ヴォーカリスト、セイディ・ウォーカーがヴォーカルで参加している。

Nightmares on Wax - Back To Nature
https://youtu.be/Vc-XzhnwpVc

ナイトメアズ・オン・ワックスの8作目となる最新作『Shape The Future』は、2018年1月26日(金)世界同時リリース! 国内盤CDには初CD化音源“World Inside feat. Andrew Ashong”と“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”がボーナストラックとして追加収録され、解説書が封入される。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Nightmares On Wax
title: Shape The Future

cat no.: BRC-565
release date: 2018/01/26 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

【ご予約はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002196
amazon: https://amzn.asia/28WRot9
iTunes Store: https://apple.co/2lENLNA
Apple Music: https://apple.co/2xMub3n

商品詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Nightmares-on-Wax/BRC-565/

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