「Nothing」と一致するもの

Kelela × Bok Bok - ele-king

 エルヴィス1990とともに〈Night Slugs〉を主宰し、最新シングル「Salvage 2017」では久々のグライムを打ち鳴らし、またケレラのファースト・アルバム『Take Me Apart』にプロデュースで関わったことも話題となったボク・ボクが、『Dub Me Apart』と題してそのケレラの最新作をリミックス、25分におよぶミックス音源を公開している。

 評判の高いケレラの『Take Me Apart』はボク・ボク以外のタレントも魅了しているようで、昨年EP「Tan」で話題をさらい、今年はローレル・ヘイローの新作に参加したことでも注目を集めたラファウンダ(ラフォーンダーと読むのかしら?)が、“Frontline”のリミックスを手掛けている。こちらも要チェック。

KELELA × BOK BOK
ケレラの1stアルバムをボク・ボクが大胆にリミックスした
25分の最新ミックス音源『DUB ME APART』が公開!

メインストリーム/ポップとレフトフィールドとの見事な邂逅を果たしたと高い評価を受けるケレラのデビュー・アルバム『Take Me Apart』を、アルカやキングダムとともにプロデューサーとしてアルバムに携わったプロデューサー、ボク・ボク(Bok Bok)が大胆にリミックスした25分の最新ミックス音源『Dub Me Apart』が公開された。

KELELA X BOK BOK DUB ME APART
https://soundcloud.com/kelelam/kelela-x-bok-bok-dub-me-apart

1. Truth Or Dare (edit)
2. S.O.S. (edit)
3. Turn To Dust (edit)
4. Jupiter (edit)
5. Frontline (edit)
6. LMK (edit)
7. Bluff (edit)

また昨年〈Warp〉からデビューを果たし、ポストFKAツイッグスとして注目を集めるラフォーンダーが手がけたアルバムのオープニング・トラック“Frontline”のリミックスも公開されている。

KELELA- FRONTLINE (LAFAWNDAH REMIX)
https://soundcloud.com/lafawndah/frontline-lafawndah-remix-nov-9-l

アルカ、ボク・ボク、キングダムといった盟友たちがプロデューサーとして名を連ね、モッキーやロミー・マドリー・クロフト(Thexx)、タレイ・ライリーがソングライターとして参加したケレラ待望のデビュー・アルバム『Take Me Apart』は現在好評発売中。ポップの新基準を打ち出すと共に、革新的なR&Bの過去20年を見渡し、さらにその先へと推し進めた傑作には、ピッチフォーク「Best New Music」獲得を筆頭に、主要メディアからも続々と称賛の声が集まっている。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: KELELA
title: Take Me Apart
release date: 2017/10/06 FRI ON SALE

国内盤特典
ボーナストラック2曲収録
歌詞対訳/解説書封入
BRC-560 ¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002185
amazon: https://amzn.asia/dpODgJy
tower records: https://tower.jp/item/4589687/
hmv: https://bit.ly/2wAEwkY
iTunes Store: https://apple.co/2vrIP2G
Apple Music: https://apple.co/2w4MiRS

[Tracklisting]
01. Frontline
02. Waitin
03. Take Me Apart
04. Enough
05. Jupiter
06. Better
07. LMK
08. Truth Or Dare
09. S.O.S.
10. Blue Light
11. Onanon
12. Turn To Dust
13. Bluff
14. Altadena
15. A Message (Bonus Track for Japan)
16. Rewind (Bonus Track for Japan)

AFX - ele-king

 ランキングは難しい。候補を選び、なんらかの判断を下し、意見を交換しながら、順位を決める。一見単純に見えるこの作業、じつはとんでもなくいろんなことを考えさせられるのだけれど、きっとこの時節、数々の音楽メディアがその作業に頭を悩ませているに違いない。
 今年2017年は、『Artificial Intelligence』や『Selected Ambient Works 85-92』のリリース25周年にあたり、一部でIDM回顧の機運が高まった。たとえば『ピッチフォーク』は年明けに「The 50 Best IDM Albums of All Time」という特集を組んでいる。そのランキングは一瞥する限りではきわめて王道のセレクションのように見えるのだけれど、どこか妙に違和を感じさせるものでもあった。
 選盤や順位付けが著しく偏っているわけではない。まあ個人的には「ブラック・ドッグの『Bytes』が入っていないじゃないか」「オウテカの『Chiastic Slide』を落とすなんてけしからん」といった文句はあるものの、「IDM」という言葉から多くの人びとが思い浮かべるであろうアーティストや作品が、それなりに順当にセレクトされている。
 選ばれた50作をアーティスト別に眺めてみると、エイフェックス・トゥインが最多の4作を送り込み(ポリゴン・ウィンドウ名義含む)、次いでオウテカとボーズ・オブ・カナダが3作、スクエアプッシャーとマウス・オン・マーズが2作と続く。この並びもとりたてて不自然というわけではない。あるいはレーベル単位で眺めてみると、〈ウォープ〉が最多の20作を送り込み、続く〈ドミノ〉と〈プラネット・ミュー〉の3作を大きく引き離していて、これはやや偏っている感じがしなくもないが、かのレーベルが果たした役割を思い返せば、けっして不可解だと騒ぐほどの事態ではないし、サイモン・レイノルズによるリード文でも〈ウォープ〉の功績が強調されている。
 では、違和はどこに潜んでいるのか? それは、選ばれた50作を年代別に眺めたときに浮かび上がってくる。リストアップされたアルバムを発表年でソートすると、90年代のものが27作、00年代のものが21作、10年代のものが2作(ジェイリンとジョン・ホプキンス)となっており、これはいくら90年代がゴールデン・エイジだったからといって、だいぶ偏っているのではないだろうか。つまりこのランキングは、「10年代には取り上げるに足るIDM作品が出てきていない」、あるいはもう少し控えめに言っても、「10年代のIDMは90年代のそれを超えられていない」と主張しているのである。
 さらに細かく整理していくと、軽視されているのが10年代の作品だけではないことに気がつく。00年代から選ばれている21作も、そのほとんどが2003年以前のものであり、2007年以降の作品にいたってはフライング・ロータスとSNDの2作しかランクインしていない。90年代の27作が各年にバランスよく分散しているのとは対照的だ。すなわち、この「The 50 Best IDM Albums of All Time」という特集は、10年前の2007年の時点で企画されていたとしても、ほぼ同じランキングになっていただろうということである。要するに『ピッチフォーク』は、IDMは10年前の時点でもう「終わっている」と言っているのだ。
 興味深いのは、『ピッチフォーク』が、ジューク/フットワークの文脈から登場してきたジェイリンに関してはIDMの歴史に組み込み、「IDM」という概念そのものを更新しようと試みているのにもかかわらず、OPNやアルカに関しては完全にリストから除外している点である。たんにOPNやアルカの音楽には「IDM」の「D」、すなわち「ダンス」の要素が欠けているという判断なのかもしれないが、それにしたってかれらをIDMの歴史に位置付けることで新たに浮かび上がってくるものだってあるだろうに、それに何よりリード文を執筆したサイモン・レイノルズ自身は「IDM」の「I」、すなわち「知性」とは何かという問題を提起し、OPNやアルカ、アクトレスについても言及しているというのに、はてさて『ピッチフォーク』はいったい何を考えているのやら(「排除します」?)。

            *

 その「The 50 Best IDM Albums of All Time」で見事1位の座に輝いたエイフェックス当人は、そんな面倒くさい価値判断からは1万光年離れたところで、相変わらず好き勝手にやっている。
 2014年に『Syro』で華麗にカムバックを遂げて以降、『Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2』『Orphaned Deejay Selek 2006-08』『Cheetah EP』、と毎年欠かさずリリースを続けてきたリチャード・Dだけれど、その活力は今年も一向に衰える気配を見せない。オウテカに影響されたのか、7月に自らの音源に特化したオンライン・ストアを開設した彼は、そこで一挙にこれまで入手困難だったり未発表だったりした音源を大量に放出している。なかでも目玉となったのが以下の3作である。

 グリーンのアートワークが鮮やかな「London 03.06.17 [Field Day]」は、タイトルに記されているとおり、今年6月3日にロンドンで開催されたフィールド・デイ・フェスティヴァルの会場で限定販売されていた12インチで、今回のストアのオープンに伴い、めでたくデジタル・ヴァージョンとして再リリースされることになった(新たに6曲が追加されている)。これが相当な曲者で、「ちょっとしたサプライズ、あるいは単なるアウトテイク集でしょ」とナメてかかると痛い目を見ることになる。
 1曲目の“42DIMENSIT3 e3”からもう絶好調。その勢いは2曲目“MT1T1 bedroom microtune”からそのまま3曲目“T18A pole1”へと受け継がれる。新しいかと問われればそんなことはないと答えざるをえないが、エイフェックスらしい流儀でドラムやアシッドやメロディが並走していくその様は貫禄すら感じさせる。以降アルバムは多彩さを増していき、ワールド・ミュージックから影響を受けたのではないかと思わせるような奇妙な揺らぎを聴かせる4曲目“T03 delta t”のようなトラックもあれば、音響上の実験を探究した7曲目“42DIMENSIT10”や10曲目“T47 smodge”、声のイミテイションを試みた11曲目“sk8 littletune HS-PC202”のようなトラックもある。その合間に、鳥の鳴き声と叙情的な旋律が美しい5曲目“em2500 M253X”や9曲目“MT1T2 olpedroom”のようなメロディアスなトラックが挟まれていて、全体の構成も考え抜かれている。ボーナスとして追加されたトラックも強者揃いで、転がっていく音の配置感が心地良い12曲目“T13 Quadraverbia N+3”や折り重なる残響が耳を捕えて離さない13曲目“T16.5 MADMA with nastya”など、最後までリスナーを飽きさせない。はっきり言って、なぜこれを通常の形でフル・アルバムとしてリリースしなかったのか、さっぱりわからない。

 このように気合いの入った「London 03.06.17 [Field Day]」と比べると、ショッキングなピンクのアートワークが目を引く「Korg Trax+Tunings for falling asleep」の方は、いくらかリスナーにリラックスすることを許してくれる。こちらもタイトルが的確に指示しているとおり、Korg の機材を使用した2曲と、それ以外の試験的な11曲が収録されているが、冒頭の“korg funk 5”は件のオンライン・ストアのオープンに先駆けて公開された曲で、うねるように重なり合うシンセがじつにエイフェックスらしいサウンドを紡ぎ出しており、そこにドラムとベースが絡み合っていく様は往年のファンにとってはたまらないものがあるだろう(ちなみにときおり挿入される音声はリチャードの息子によるもの)。「眠りにつくための」と題された後者の11曲はすべてタイトルに「tuning」と冠されていて、いずれも機材の細かい残響具合をテストしているかのようなトラックとなっている。こちらはアンビエントとして聴くことも可能だろう。

 同じくオンライン・ストアのオープンと同時にリリースされたEP「Orphans」は、AFXによるルーク・ヴァイバートのリミックス2ヴァージョンと、AFX自身によるオリジナル・トラック2曲とから構成されている。前者の2曲(“Spiral Staircase”)は以前 SoundCloud で公開されていたもので、これまたエイフェックスらしい儚げなメロディとアシッドがノスタルジックな90年代の風景を想起させる。『RA』によればこのリミックスはもともと、ワゴン・クライスト『Sorry I Make You Lush』のリリース後に開催されたコンペに、リチャードがこっそり変名で参加して見事優勝してしまったときのトラックなのだそうだ(「ルークの好みがわかるから有利だったぜ」って、それほとんど八百長じゃん……)。オリジナル曲の“Nightmail 1”もエイフェックスらしいドラムとアシッドが輝くトラックで、変形されたジャングルのリズムが彼のダンス寄りの側面を強調している。そして最高に素晴らしいのが、最後に収められた“4x Atlantis Take1”だ。これは Sequentix のシーケンサーである Cirklon をテストするために作られた曲で、4月に先行公開されていたもの。ビートに頼らず、シンセの折り重ねだけでグルーヴを生み出し最後まで持っていく手腕はグレイトと言うほかなく、こんなキラーなトラックをさらりと投下してみせるあたり、ヴェテランの面目躍如たるものがある。

 IDMの古株がこれだけ高密度な作品をすまし顔でぽんぽん投下してくるのだから、『ピッチフォーク』が00年代後半以降の作品を切り捨ててしまいたくなるのも、しかたがないことなのかもしれない……なんて、エイフェックスおそるべし。


ハテナ・フランセ - ele-king

 みなさんボンジュール、今回は音楽の話題を取り上げたく。2016年世界の音楽市場でストリーミングやダウンロードなどのデジタルの収益が、全体の45%とCDやヴァイナルなどのフィジカルの売り上げを初めて上回った。フランスではまだ音楽市場の59%をフィジカルが占めているが、それでもデジタルは右肩上がりに数字を伸ばしている。このように音楽の聞かれ方が変わりつつある今、主にストリーミング配信が世界の市場で重要な位置を占め、音楽の聞かれ方は変わりつつある。音楽の好みは細分化し、音楽の聞き方も細分化しているようだ。それでも多くの人が共通してあげるツールがYoutubeだ。
 そんなYoutubeで楽曲をアップするやいなやあっという間に1千万回を超える再生数を獲得し(現在は5千万回を超えている)彗星のようにフランスの音楽シーンに現れたのがPetit Biscuit(プティ・ビスキュイ)だ。

 音楽性から取り巻く雰囲気までEDMを「下世話すぎて、音楽とは言えない」と最初から懐疑的に捉えていたフランスのインテリ層にもこの「Sunset Lover」は受けた。ロマンチックで聴きやすいけれどコード進行もちゃんとあると。この曲を発表した2015年当時、Petit Biscuitことメディ・ベンジョルンはまだ15歳だった。そして2017年11月10日、フランスでの成人年齢となる18歳の誕生日にファースト・アルバム『Presence』をリリース。18歳というのは、フランスではとても意味のある歳で、記念に残るような(裕福な家庭では高価な)プレゼントをする習慣があり、わざわざこの日に当ててリリースしたというほっこりした逸話を持つメディくん。フランスのバカロレアという高校卒業+共通一次試験のような試験で最上級評価「Tres bien(大変よろしい)」を取るような学業にも秀でた若者で、両親の方針で音楽、しかもエレクトロニック・ミュージックのような浮ついた世界でのキャリアより学業優先の姿勢を最初から貫いている。現在は大学に入学したが「あ、その月は期末テストがあるからフランス国外でのライヴはしません」とエージェントが平気でフェスティバルのオファーを蹴るような恐ろしい真似をやってのける。それもこれも2018年のコーチェラ・フェスティバルへのいいスロットでの出演が早々と決まるなど、ヨーロッパのみならず最重要マーケット、アメリカでもブレイクしたゆえの強気さと、アメリカのエージェントだときっと理解できないから、と学業優先を理解し実行するフランスのエージェントをキープする両親の厳格な管理があってからこそ。

 そんなPetit Biscuitと「Gravitation」を共作したのがMøME(モーム)。

 ニース出身現在28歳のMøME(モーム)ことジェレミー・スイラーは「Aloha」が2016年の”夏のアンセム”となり一躍トロピカル・ハウス・シーンの最前線に躍り出た。

 フランスは6月末に学期末を迎え、そこから一気に社会全てがヴァカンス・モードになる。フェスティバルやイビザ型リゾート地でのパーティなどが本格化、素人から大型フェスのDJまでいわゆるパーティ・アンセムが必要だし、スーパーからラジオまでここぞとばかり浮ついた気分を盛り上げようと今年の夏の1曲をヘビーローテーションする。その流れに乗ったMøMEはEDMとは一線を画したいけれど、オーディエンスも盛り上げたいフェスティバルにブッキングされまくった。

 そういった意味では、ダヴィッド・ゲッタのバックアップを受けたKungs(クングス)は、時に不当な扱いを受けることがあった。現在21歳のヴァロンタン・ブリュネルは2016年に発表したクッキング・オン・3・バーナーズのリミックス「This Girl」がYouTubeの再生回数で1億回を超え、ダヴィッド・ゲッタのベルシー(2万人キャパシティ)公演の前座に抜擢され、デビュー・アルバム『Layers』がフランスのグラミー賞ことLes Victoires de la Musiqueでエレクトロニック・ミュージック部門を受賞するなど、一気に大きな成功を手にした。

 先に挙げた「This Girl」はまだしもその後メジャーのレコード会社と契約し作られたMVは、Petit BiscuitやMøMEとはギリギリ同じトロピカル・ハウスというジャンルに入れられるものの、音楽的にもMVの表現としても明らかにEDMのフェスティバルで何万人ものオーディエンスが盛り上がることを想定したものになっている。そして現に彼はEDM、ロック、両方のフェスティバルでヘッドライナーの1人としてオーディエンスを最高に盛り上げている。だが、こうなるとフランスのスノッブなインテリ層に「下世話な音楽」のレッテルを貼られてしまうのもまた事実なのだ。
 そんなインテリ層に逆に愛されているのがパリのレーベル、Roch Musiqueだ。
Roch Musiqueはパリでその名前を冠したイヴェントをオーガナイズするたびに感度の高いオシャレ&音楽好きパリジャンが確実に集結し、カルチャー誌『Les Inrockuptible』では「フレンチタッチを彼らが復興させる!?」などとぶち上げるほどもてはやされている。レーベルとしては2012年にスタートしたもののその歩みは至ってマイペースで、日本でも大変な人気FKJに続いてようやくアルバムを作り上げた2人目のアーティストがDarius(ダリウス)ことテレンス・ンギュエンだ。ルイ・ヴィトンやカルティエなどのCMやM83などのMVを手がけきたLisa Paclet(リザ・パクレ)監督によるアーティスティックなMV「Lost In The Moment」も大好評を得ている。

 ベルリン在住のナイジェリア人シンガー、ウェイン・スノウをフィーチャーした浮遊感溢れるメランコリックなこの曲を含む1stアルバム『Utopia』は11月24日にリリースされる。
 フランスのエレクトロニック・ミュージック・シーンは、カッパ頭の愉快な実験家Jacques(ジャック)から芸術的だけど社会的視点も含まれた短編映画のようなMVを自ら作るTha Blaze(ザ・ブレイズ。あのハウスの大御所ではなく)までなかなか活気があるけれど、日本まで届くアーティストは稀なのでこれからも定期的に紹介していければ。


日本では否定的なレヴューがタブーとなっているのはなぜか?

松田聖子から渋谷系、ナンバーガールからAKB48まで
英国人ジャーナリストによる日本のロック/ポップスおよび文化批評

日本に住んで13年、イアン・マーティンが描いた、日本のオーヴァーグラウンド/アンダーグラウンドの大衆音楽史、アイドルにおけるセクシャル・ポリティクスと後期資本主義、音楽メディアや公共性、伝統の問題……。

「日本メディアの側が自分たちの国をなんとも不思議な四つの季節を持ち、使うのがややこしい食器の数々を備えた神秘の地として描写したがるのと同じくらい、西洋側メディアも喜んでそのお返しとして奇妙でカラフルで派手やか、突飛なものなら何でも強調した東洋風な日本報道をおこなっている。こんな風にして日本の音楽は西側においては主に歪んだレンズを通して認知されることになるのだし、僕がイギリスで大きくなる中で抱いていた日本の音楽に対するイメージもまたこの点に大いに影響されたものだった。」(本書より)

BBCから取材され、The Quietusで記事が組まれ、Crack Magazineが「今年読むべき本」のNo.1に選んだ、イギリス人ジャーナリストによる噂の日本ロック/ポップス批評、ついに翻訳刊行!


■目次

パート1:僕はどんな風に日本の音楽シーンにたどり着いたのか、
そしてそこで僕が発見したのは何だったか

'97の世代
日本の音楽について書くということ

パート2:総合的かつ完全に正確きわまりない
日本のポピュラー・ミュージック通史

日本のポピュラー・ミュージックの初期展開
ロックンロール、日本上陸
ニュー・ロック
ロックンロールとガソリンの臭い
薬物不法所持逮捕からニューミュージックまで
成熟を迎えたポップと演歌の硬直化
パンク
ニュー・ウェイヴ
アイドルと歌謡曲の死
J-ポップと現代日本音楽の誕生
渋谷系、そしてインディを発見した日本
日本音楽の歴史の終わりと永遠のナウの誕生

パート3:ライヴ・アクトたちを見舞う経済的、政治的、そして実際的な
危険の数々、もしくはバンドをやめずに続けるにはどうしたらいいか

高円寺、東京にて
海外へ
日本の音楽は海外でどう受け取られているのか
日本音楽の海外進出作戦
愛のためでも金のためでもなく――ライヴ・ハウス事情
シーン内の政治をさばくには
シーンにある制約を克服するということ
レーベルはくたばれ
言い分は分かるけど、なんでCDの話になるの?
言語と日本人らしさ
すべてのアートは政治的である
サブカルとアイドル
おがくずの詰まった操り人形、音を出す操り人形:――“夢見るシャンソン人形”
ピンクのギター
何だって好きなことを言うのも、何も言わないのも同じこと
とは言っても、結局は……

ほか


●著者紹介
イアン・F・マーティン Ian F. Martin
イアン・マーティンが執筆した日本の音楽に関する文章は『ジャパンタイムズ』、『CNNトラヴェル』、『ザ・ガーディアン』他が掲載してきた。マーティンは東京を拠点に活動しており、そのかたわら〈コール・アンド・レスポンス・レコーズ〉も運営中。

●訳者紹介
坂本麻里子 Mariko Sakamoto
1970年(昭和45年)、東京生まれ。日本芸術大学映画学科卒業。『ロッキング・オン』を中心にライター/通訳として活動。本書が初の書籍翻訳。

Lee Gamble - ele-king

 前作『コッチ(Koch)』から3年の月日を経て発表されたリー・ギャンブルの新作『マネスティック・プレッシャー(Mnestic Pressure)』は、この30年ほどのエレクトロニック・ミュージックの要素を包括することで、2010年代的なインダストリアル/エクスペリメンタル・サウンドを超えるために制作されたアルバムに思えた。ちなみに今回のリリースは、〈パン(PAN)〉からではなく〈ハイパーダブ(Hyperdub)〉からである。
 今の時代、3年という年月は長いが2014年の『コッチ』はインダストリアル/エクスペリメンタルなテクノの集大成とでもいうべきアルバムだったわけだから、そのネクストを模索・提示するためには必要な月日だったのだろう。むろんギャンブルは、「新世代」「音楽の未来」「新しい音楽」などを希求しているわけではない。なぜなら彼にとってテクノとは進化という輝かしい光ではなく、アンダーグラウンドで鳴らされる霧のように霞んだビートと、その逸脱のサウンドだからである。充満し、溢れ、やがて消え行くもの。いわば霧のようなアトモスフィア。それはリー・ギャンブルの過去のアルバムを聴けば誰にでもわかる。彼がめざすのは、その霧のような感覚だ。

 この『マネスティック・プレッシャー』は、そんな彼のアンダーグラウンド・テクノ観を反映した見事なアルバムである。90年代以降のテクノ/エレクトロニック・ミュージックの多様なスタイルを取り込んだ収録トラックは、一聴、とりとめなく感じるかもしれないが、サウンドの質感が統一されていることでアルバム全体がミックステープのように、もしくはミックステープを装った一種の環境作品のようにフロウしている。雑多と整理と混乱と統一の混合体。
 とうぜん、本アルバムでのトラックはギャンブルのオリジナルであり、彼自身の現在を自身の音によって表現しているといえるが、なによりこのフロウ=流れていく感覚が重要である。『マネスティック・プレッシャー』においては、サウンドのみならずビートですらも細やかに空気や空間や時間の中にフロウし、融解する。
 これは2012年の『ダッチ・トゥヴァッシャー・プルームス(Dutch Tvashar Plumes)』、『デイヴァージョンズ1994-1996(Diversions 1994-1996)』、2014年の『コッチ』などにも共通するサウンドだが『マネスティック・プレッシャー』においては、さらなる洗練化と過剰化と逸脱が同時に巻き起こっているのだ。それぞれの曲=トラックは存在感覚を粒子のように拡散させ、霧のように冷たいアトモスフィアを放つ。近年のアンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックの大きな特徴であるビートの融解化とサウンドの音響彫刻化とでもいうべきか(例えばアクトレスの新作アルバム)。

 じっさい本アルバムには全13曲が収録されているが、そのスタイルはテクノからインダスリアル、ドラムンベース、アンビエントまで多様であり、同時にそのどれでもない。象徴的なトラックは1曲めの“Inta Centre”か。このトラックには、さまざまな具体音が加工され接続されている。ドラムンベース的なビートが一瞬だけ表出したかと思えば、それはすぐにノイズの中に溶けてしまい、環境音とノイズによるアンビエントなトラックへと変貌をとげる。持続も反復も霧のように消えさってしまう。この2分ほどのトラックに『マネスティック・プレッシャー』のサウンドの要素が圧縮されているといってもよい。2曲め“Istian”以降は、ここで提示されたサウンド・エレメントを解凍していくかのように各トラックが展開していくわけだ。
 その後で注目したいトラックは、金属的な打撃音と分断されたビートの連鎖から、それが消えさった電子音楽的アンビエント世界を1曲の中でつなぎポスト・インダストリアル/テクノの世界観を実現した“Swerva”、ノイズもビートなど、さまざまなサウンド・エレメントが粒子のように融解し結晶世界の音響彫刻のサウンドを生みだす“You Hedonic”、民族音楽的な“Ignition Lockoff”、声が電子ノイズの中にかき消され、やがてミニマルかつリズミックな電子音トラックへと変化する“A tergo Real”あたりか。どのトラックも一筆書きのようなムードを放ち、スタイルの枠にハマるのを避けていく。

 リー・ギャンブルがこのアルバムで成しとげたかったことはトラックとトラックがシームレスにつながり、それによってひとつの流れ/世界観を生成することにあるのではないか。何より彼は地下にうごめく音の躍動を構築したかった。それが彼にとってのリアルだから。ゆえにひとつひとつのトラックは、徹底的にフェイク/イミテーションである必要があった。アンダーグラウンドなミックス音源のようなフェイク感覚だ。テクノであり、インダスリアルであり、ノイズであり、アンビエントであること。そのどれでもないこと。それらフェイクをすべて等価にミックスすること。すべてを見届けつつも、そのすべてでないこと。ビートも反復もドローンもノイズも、ひとつのムードの中に融解させてしまうこと。このアルバムで彼の視点は大気のように拡散している。いわば「心ない」感覚だ。

 とはいえ、アルバム全体に横溢する「心なさ」はアイロニーではない。アイロニーなど今の時代において特に有効性はない。ここにあるのは死んでしまったゾンビのテクノであり、ノイズであり、インダスリアルであり、アンビエントなのだ。人間の歴史が終ったあとの世界のサウンド・オブジェのように(その意味で彼の音楽はアルカに近いのかもしれない)。
 ラスト前の12曲め“Ghost”の骨組みだけを抽出したかのようなドラムンベースと意識が消失するようなダーク・アンビエント・トラック“Déjà Mode”は、“Inta Centre”の圧縮とは違う持続と変化によって本作特有のフェイク/イミテーション的な「心なさ」を生成している。この2曲こそ本アルバムのもっともクリティカルな部分である。つまりは見事なアルバムの幕引きというわけだ。

RVNG Intl. - ele-king

 ヴィズィブル・クロークスにグレッグ・フォックスにスガイ・ケンにと、話題性とクオリティを兼ね備えた作品のリリースが続いているブルックリンのレーベル〈RVNG Intl.〉。同レーベルにとって初となるショウケース・ツアーが、ここ日本にて開催されます。レーベル主宰者のマット・ウェルス、ヴィズィブル・クロークス、スガイ・ケンらが東京、大阪、そして新潟を回ります。少しでも電子音楽に関心があるなら、これは見逃し厳禁でしょう。

RVNG Intl. Japan Showcase Tour 2017

本年を代表するアンビエントの大本命Visible Cloaks待望の初来日に加え、現代的な日本の“和”を世界へ広げるSUGAI KEN、そしてJulia Holter、Holly Herndon、Sun Araw、Maxmillion Dunbarなどを輩出、OPN主宰の〈Software〉も手がけた名ディレクターMatt Werthが帯同する、NYはブルックリンのオルタナ電子音楽の最重要レーベル〈RVNG Intl.〉がショーケースとなってジャパン・ツアーを開催。

最新アルバムが『Pitchfork』でBNMも獲得し、今年話題となったポートランドのVisible Cloaks、インディ、アヴァンギャルド、クラブ・シーンにまで及び、テン年代におけるオルナタティヴな電子音楽の傑作をコラボや再発含めリリースしてきたNYはブルックリンの最重要レーベル〈RVNG Intl.(リヴェンジ)〉主宰のMatt Werth、そしてコンテンポラリーな日本の“和”を世界へ広げ、同レーベルよりデビューを果たした注目のSUGAI KENが帯同する、レーベル初のショーケース・ツアーがレーベル関連のアーティストや国内外の多数のスペシャル・ゲストを迎え、東京はクラブ・ナイトとショーケースの2公演、大阪、新潟を巡る全4公演が開催。

Special Guests:

dip in the pool *Tokyo
Chee Shimizu *Tokyo
Ssaliva (Ekster) *Tokyo
SKY H1 (PAN) *Tokyo
食品まつり a.k.a foodman *Tokyo
Tomoyuki Fujii *Niigata
Phantom Kino Ballet (Lena Willikens + Sarah Szczesny) *Osaka
YPY *Osaka
7FO *Osaka
威力 *Osaka
etc

KIKUMARU - ele-king

 KANDYTOWNには夜のムードがある。先月、新曲“Few Colors”のMVが公開され話題となったかれらだけれど、今月はそのKANDYTOWN所属のKIKUMARUが、新作EP「Focus」より“4 My feat. Dony Joint”のMVをドロップしてくれた。夜のムードはここでも横溢している。このヴィデオのように夜の港をバイクで駆け抜けるというヴィジュアルは、これまで日本のヒップホップではあまり見られなかった光景だ。こうしてまたヒップホップは更新されていくのである。

KANDYTOWN所属のKIKUMARUが新作EP「Focus」より、クルーからDony Jointを招いた楽曲“4 My feat. Dony Joint”のMUSIC VIDEOを公開!

新曲“Few Colors”も好評な東京の街を生きる幼馴染たち、総勢16名のヒップホップ・クルー:KANDYTOWN所属のKIKUMARUによる9月11日発売の新作EP「Focus」より、JazadocumentのトラックにKANDYTOWNからDony Jointを招いた楽曲「4 My feat. Dony Joint」のMUSIC VIDEOが完成! この映像はDaiki kikkawaが手掛けている。

8曲入りEP「Focus」は全曲で所属するクルー:KANDYTOWNのメンバーがフィーチャリングで参加。更にNeetzやMASS-HOLE、FEBB、Gradis Niceなど国内のトップ・プロデューサーによるトラックが並ぶなど、クルーでの活動と並行して、リリースやMCバトルへの参加など精力的な活動を続ける彼のポテンシャルの高さが発揮された1枚となっている。

配信では作品の一部を聴くことができるが、唯一8曲すべてを聞けるCDでの販売は“777”枚のみで、disk union、CASTLE RECORDS、COCONUTS DISKの3店舗でのみ購入することができる。

(商品情報)

■KIKUMARU――『Focus』
artist: KIKUMARU
title: Focus (Limited Edition "777" only)
release date: now on sale
handling store
1.diskunion https://diskunion.net/sp/clubh/detail/1007465697
2.CASTLE RECORDS https://www.castle-records.net/products/detail.php?product_id=8214
3.COCONUTS DISK https://coconutsdisk.com/webstore/catalog/product_info.php?products_id=38732

TRACK LIST
1. All night long feat. Gottz & DIAN Produced by Neetz
2. 4 My feat. Dony Joint Produced by Jazadocument Scratched by Minnesotah
3. What u want feat. MUD Produced by FEBB
4. You make my dreams come true feat. BlackShortCake Produced by Gradis Nice
5. The Other feat. Holly Q Produced by Moito
6. BARlust feat. Gottz & Dony Joint Produced by Neetz
7. All i need feat. Neetz Produced by Scratch Nice
8. Pathos feat. MASATO Produced by MASS-HOLE

Shit And Shine - ele-king

 現在はロンドンを拠点とするノイズ・ロック・バンドとして活動しているクソして輝け(Shit And Shine/$hit & $hine)は、いわばスリーフォード・モッズとパウウェルの溝を埋める存在だ。というには少しばかりスカムが入っているが……。
 クレイグ・クローズを中心にテキサスで結成され、2004年から活動している$&$は、すでに15枚以上ものアルバムを出している。バットホール・サーファーズやメルツバウ、SUNN O)))やライトニング・ボルトなどの影響をおそらく受けながら、決して日の当たるところで活動してきたわけではないが、長年に渡って評価され続け、数年前からパウウェルの〈Diagonal〉と精鋭的な電子音楽のレーベル〈Editions Mego〉が手をさしのべたことで、より広く知られるようになった。
 また、このふたつのレーベルと関係ができてからはエレクトロニック色が強まっている。2017年もこのふたつのレーベルから2枚のアルバムを発表しているが、先日出たばかりの〈Editions Mego〉からの『Some People Really Know How To Live』は、ポストパンクとIDMのニヒルな結合において、ナンセンスと、そしてこの狂った世界をどう生きていけばいいのかという観点においても興味深い内容となった。
 
 さらにまた興味深いと思えるのは、ここに収録されたクラブ使用可のダンス・トラックが、陶酔に反発している点。“Notified”のような曲では、素朴なブレイクビートを使いながら、しかしジャングルのような高揚感を持たないし、暗さに耽ることもない。$&$の音楽は直接政治的というわけではないが、明白に今日の災いや人びとの不安や虚無といったものを反映している。ギャンスタ・ラップのパロディ、“Lil Wannabe Gangsta”でサンプリングされた口汚い言葉の断片は、ひどく歪められて、ハイプ・ウィリアムスの諧謔を横目に見ながらいくら腐っても臭うのことのない電子の裏通りを駆け抜け、ジャム・シティのデビュー・アルバムの廃墟の奥地にへと接続する。
 彼らのセカンド・アルバムを現代の“シスター・レイ”だと評した人がいるというが、耳障りの良いメインストリームに対して$&$は完全に逆らっている。可能性とはこういうもののなかにあるのだろう。

音楽と建築 - ele-king

 最初に本書の編訳者高橋悠治が著者の足跡をまとめた「軌跡」を要約しながら略歴をおさらいいしよう。

 ヤニス・クセナキスは1922年(または1921年)5月29日(または6月1日)にブライラで生まれたギリシア系ルーマニア人。6歳のとき母に子ども用の笛をもらったのをきっかけに音楽の不思議に打たれ、ラジオでクラシック、民族音楽、教会音楽を聴き、古代の遺跡や文学にふれ、考古学、数学、天体物理学に興味を抱くも、ときおりしも第二次大戦のさなか、1941年にドイツ軍へのレジスタンスに加わり、戦後にはイギリス占領軍との戦闘に参加し負傷する。47年にフランスに亡命し、建築家ル・コルビュジエのスタジオで構造計算を担当する一方、51年から2年間オリヴィエ・メシアンの講義に出席し作曲を学んだ。のちに現代音楽と呼ばれる分野を牽引した作曲家を多数輩出したメシアンの助言にしたがい、ギリシア人である自身のルーツと建築家としての経験や数学の素養をいかす音楽を模索し、「メタスタシス」(1953~54)、「テレテクトール」(1965~66)、「ノモス・ガンマ」(1967~68)などの管弦楽、高橋悠治に献呈した「ヘルマ」(1961)や「ノモス・ガンマ」のプロトタイプであるチェロのための「ノモス・アルファ」(1965)などの独奏曲、確率論や群論をもちいた作曲法の開拓はコンピュータによる作曲プログラムや音響合成の礎石となり、それはやがて電子音響を視覚化して描く装置「UPIC」の開発にもつながっていく。建築や数学を音楽と等価に――というよりも、たがいの土台にあるものを陥入させあい独自の地層を築くクセナキスの思考は視覚のみならず、空間全体にひろがり、「ポリトープ」や「ディアトープ」などの作品に実を結んだ当時、まさに絶頂期の論考が本書の中心だが、クセナキスはその後もうまずたゆまず170曲以上を世に問い、ギリシア文字の〆となる「Ω」を表題に冠した打楽器と室内オーケストラのための「オメガ」(1997)を最後に、新世紀が明けてまだ日もあさい2001年2月4日、この世を去った、いうまでもなく20世紀音楽を代表する作曲家のひとりである。

 その作風はふだんこの手の音楽にふれることのすくない読者の方でも、音楽の先鋭性や求道性を形容する文脈で「クセナキスっぽい」とか「クセナキスを思わせる」とかのセンテンスを目にされたことがあるかもしれない。私なども、難解さの言い換えでご尊名を拝借したこともしばしばだが、その音楽的方法の背景にある思想体系を十全に理解していたとはいいがたい。なんとなれば、確率論や群論といった数学の公理や関数や方程式がその背後にひかえているからであって、ことにポピュラー音楽の愛好家には数字を目にするだけみなかったことにしようと思われる方もすくなくないだろうがそれではまことにもったない。クセナキスの音楽のみあげるほどの構築性と圧倒的な動態はいまなお抽象物としての音の可能性の中心をなしている。この本は彼の叢雲のような思考にわけいる手引であり、200ページに満たないこぶりな書物だが行間と紙背にあるものは原書の発行から40年経ったいまも汲めども尽きないゆたかさをたたえている。

 クセナキスは「確率論と音楽」と題した第1章で自作「ピソプラクタ」を例に、この論文を発表した1956年当時の音楽のあたらしい潮流だったセリエル音楽(ミュジック・セリエル)の批判的のこりこえをはかっている。セリエル音楽とはシェーンベルク、ことにそのもっとも徹底した継承者であるヴェーベルンら新ウィーン楽派の12音技法の等価性を音の持続、強度、音高、音色に敷衍し、パラメートと化した音を構造化する作曲技法で、ブーレーズやシュトックハウゼウンがおもだった先導役だった。クセナキスはセリエル音楽を、幾何学的で量的なものであり線的な思考性にとどまっていると批判するところから自作を例証し論を展開するなかで、のっけから数式やグラフが登場し読者はうへーとなるわけだが、つづく2~3章でしだいにつまびらかになっていくその思想の土台には音楽史にあったただ彼だけがなしえた思考の高みがみてとれる。確率や群論などの数学の援用ひとつとっても、シュトックハウゼンいうところの「点の音楽」(『シュトックハウゼン音楽論集』所収の論考「技法(手仕事)の状況」を参照)の連結である「線の音楽」であるセリエル音楽を「面の音楽」からさらにクセナキスのあの有名な命名法を借りれば「音の雲」(密度、変化速度などの要素が特徴づける音の塊)へ分布~展開するための方途であり、即興ないしケージのチャンス・オペレーションなどにおいてブラックボックス(神秘)化する作曲の課程を明晰(理論)化する方途でもある。方法の土台にはクセナキスのルーツであるギリシアからビサンチンの音楽をもとに平均律の陥穽を剔出し、音を多面的に考察する重要性を指摘するのだが、そのためには音を時間内/外のカテゴリーで把捉しなければならない。時間内とはいわゆる音響事象のあらわれ方であり、時間外の一例は任意のピッチの音階などである、それらを音の最小単位(平均律の半音より細かい微分音が前提となる)→音階→それからなるシステム→システムを運用する場(トポス)といった具合にクセナキスは審級化する。むろんその課程には篩法のような数論の技法が説明なしに出てくるのだが、クセナキスにとっておそらく数学という人類史上もっとも完成した体系そのものが篩(フィルター)だった。それで漉した音楽に古いも新しいもない。クセナキスはギリシアの古代音楽と来るべき電子音楽が矛盾なく同居する音楽空間を夢想していた――というような言い方では曖昧にすぎるだろう。おそるべき明晰さで彼はそれを厳然とみすえていた。

 ピーター・ペジックは『近代科学の形成と音楽』(NTT出版)で、ホワイトヘッドの「近代科学にとって数学は『ハムレット』におけるオフィーリアである」との言を受け、「科学にとって音楽はハムレットの親友ホレイショーである」と序章に記したが、歴史の起源にあってハムレットとオフィーリアとホイレショーはもっと濃密だった。一体化していたといってもいい。「万物は数である」と言い放った(といわれる)ピュタゴラスは、みなさんもどこかで耳にされたことがあるにちがいない整数比の音の協和をもとにしたピュタゴラス音律でも有名だが、音楽における感覚と理性の優位を説きピュタゴラスと対立しやがて歴史の王道を外れていったアリストクセノスにクセナキスが同情的なのも、たとえ数の公理と論理に準拠したとしても、作曲家は感覚と美学の決定権を放棄しないどころか、そんなことはそもそもできないという原則であり、それは古代から未来までを貫くという確信ゆえであろう。

 確率音楽はセリエル音楽の線的な思考の更新をはかるだけでなくそこに潜在する時間にたいするリニアなアプローチをものりこえようとする。音の密集や拡散は音響の強度であるとともに現象の時間的な持続性もかねているように思うことが、クセナキスの音楽を聴いているとよくある。逆に彼が多用するグリッサンド(ある音程から別の音程まで途切れることなく移動する音の動きないし奏法)は音の時間的な持続であるだけでなく、空間的な移動の表現とも解釈できる。むろんこれは主観の問題にすぎないが、このような顛倒は音楽は時間芸術である云々という常套句以上に空間をも問題すべきだという気づきをうながす。ここでもシュトックハウゼンらの歩みとパラレルにクセナキスは作曲に指標にとりこまざるをえず、そのことはやがて曲を書くというのと同時に、その曲をいかに音に結実させるか、そのためのシステムを考案することに腐心させることになる。

 この本の後半が「建築」に割かれているのもいわば必然である。クセナキスはコルビュジエのもとで構造計算を担当したのはすでに述べたが、第二部「建築」では1958年のブリュッセル万博でのフィリップス館を例に、そこでとりくんだ立体的建築の野心的なこころみを概観している。立体建築とは直線と平面による近代建築批判として、曲面や円筒面、二重曲面などをもちいた建築様式をさしている。それまでの建築は平面を展開したものであり、空間の立体たる特性を活用していない、とクセナキスは考えた。その問題に彼がどのようにとりくんだかはぜひ本書を手にとってたしかめられたいが、それを読みながら私が思い出したのはある有名な箴言である。

 「建築は凍った音楽である」ないし「建築は凝固した音楽である」ともいう。この警句を発したのはゲーテ(1749~1832)であるといわれるが、芦津丈夫は「凝固した音楽と共通感覚――シェリング、ゲーテ、ヘルダー――」でショーペンハウアー(1788~1860)の『意志と表象としての世界』続編Ⅱの第39節「音楽の形而上学」を引きながら、それがゲーテと、『ゲーテとの対話』の著書があるエッカーマンとの対話であることをあきらかにする。ゲーテいわく「わたしは書類のなかに、建築は凝固した音楽であると書きこんだ紙片を見つけた。またじじつこれは或る程度たしかにそのとおりだ。建築からかもしだされる気分は音楽の効果に近い」(ショーペンハウアー全集6「意志と表象としての世界・続編Ⅱ」塩屋竹男・岩波哲男・飯島宗享訳、白水社)。建築が音楽に近いといわれても、なるほどそうですねというひともいればピンとこない方もおられよう。芦津はゲーテが親交をもった年少の哲学者シェリングの「芸術哲学」講義草稿にそのことばがみえることからゲーテの発言の大元はシェリングであると指摘するが、そもそも凝固した音楽とはなにか。建築がかもしだす気分とはどういうものなのだろうか。

 私なぞウォーターフロント(死語)のタワマン(新語)などをみても、そんなものに血道をあげてご苦労さんとしか思わないが、ゲーテやシェリングにならえばそれはよこしまな考えとなる。ショーペンハウアーは建築のシンメトリーと音楽のリズムに相同性をみいだしている。シェリングは「……造形芸術の音楽としての建築は、それゆえ必然的に算数的な比例に従っている。だが建築は空間内の音楽、いわば凝固した音楽であるので、ここでの比例は同時に幾何学的な比例となる」(『芸術哲学』訳文は芦津丈夫による)といい、ゲーテはシェリングの言を敷衍しそれは凝固したものというより「沈黙した」音楽であると言い換えている。あたかもジョン・ケージを予見するかのようなこのことばは、エリック・ドルフィーさながら、音楽は時間とともに過ぎ去り空間に痕跡をとどめないということを念頭に、一方の建築は音楽に似た規則性を空間にもたらすということだろうが、いずれにせよ、ゲーテにとって音楽との相同は不動であり、その根底には音楽とはまずもって(ユークリッド幾何学的な)調和(ハーモニー)であるという機制がはたらいている。

 その価値観はゲーテやモーツァルトやベートーヴェンを生んだ18世紀後半から19世紀を貫き、プルーストの『失われた時を求めて』で主人公が聖堂や鐘塔や身廊に官能的といってよい嘆息をもらす場面を目にすると――むろん教会を神の身体とみなす宗教性抜きに考えられないにしても――、おそらく20世紀初頭でもかわらなかったどころか、建築の技術的革新を糧に、神を代理する資本にひとびとを跪かせながら21世紀のタワーマンションをも支配している。その固着した価値観に挑む建築家=クセナキスの姿勢は作曲家としての彼の歩みと軌をひとつにし、両者はやがて彼の表現において区分する必要はなくなっていく。第8章「見るための音楽《ディアトープ》」で例証する「ディアトープ」のように、コンピュータで統合した音楽は光源を使ったライトアートと一体化し「バレエでもオペラでもなく、光と音、視覚と聴覚の新しい芸術、星や地球についての、音楽的で抽象的なスペクタクルが生まれる」のである。時間と空間のみならず、聴覚と視覚を結びつけるクセナキスの総合へのあくなき探求は「宇宙都市」(第7章)を提言するまでに高まっていくのだが、ほとんどSF的といってもいいこの論文(初出は1965年)を、それでもたんに荒唐無稽と退けるわけにはいかない。むろん宇宙時代の産物ではあるが、そこには戦中戦後抵抗運動にたずさわってきたクセナキスのものの見方が反映している。音楽はいうまでもない。クセナキス自身は自身の来歴や思想的背景を本書では述べないが、経験は彼の音楽に深く根をはっている。音楽は人間の心的活動であるから決定項の何割かはそこからくるが、他方でメカニカルな音の組み合わせであるから、そこに数学の論理をとりいれてみる、あるいはコンピュータをもちいてみる。すると音は拡散し分布し、空間的な広がりをもつ「音の雲」となりつねに運動しやむことがない。それは一見、きわめて抽象的だがたぶんに感覚的である。感覚を感情ととりちがえてはならない。聴覚は感情ではない。クセナキスの音楽は純粋に聴覚に訴えかける。と同時に、それがたぶんに視覚的でもあるのは「音の雲」という形容もさることながら、音が空間のなかで持続して運動するからである。そしてそれは空間を媒介に音を触知でできる感覚さえ惹起する。のちのペンでタブレットに線を描いて作曲するコンピュータ「UPIC」の開発はそのような感覚統合のツールであり、これがあればだれしも脳内に去来した音のイメージをいちいち五線譜に移し替えなくても、目で見て手を動かし発生した音を聴きながら感覚的に作曲できる。あなたがいま使っているグラフィックインターフェイスの音楽ソフトのはしりだと思っていただければ、難解だと敬遠してきたクセナキスの音楽もぐっと身近になる、かもしれない。

 クセナキスは科学を音楽にもちいることを時間と空間と論理の秩序構造の変化のためのきっかっけとし、さらにそこから「死すべき者永遠の二元性」の解決をはかろうとした。クセナキスはいう「未来は過去にあり、その逆も言える。現在のはかなさを打ち破り、あらゆる場所に同時に存在し、「ここ」が20億光年の彼方でもあるような……」

 ふたたびゲーテにまいもどると、芦津は音楽と建築という相容れない分野を同列に語るところに「共通感覚」をみいだしている。19世紀においてそれを通底させるものは調和の感覚だった、それが20世紀では有機的で動的で不定形なものに変わってきた。そこにモダニズムの劃期があり、それを述べるにはヴェーベルンやメシアン(クセナキスが師事したメシアンはまた共感覚者であったとよくいわれる)に、建築の分野ではコルビュジエはもちろん荒川修作の仕事もわすれてはならないが、長くなるので稿をあらためるとして、最後にもういちど古典にまいもどってみたい。

 「もうもうたる靄がたちまち広間をこめる。靄は伸びたり固まったり入り乱れたり分かれたり、組み合ったりして忍びこみ、雲のように流れてくる。靄が漂うと、音楽の音が起こります。渺渺たる音響からなんとも知れぬものが湧きだし、また靄が棚引けば、すべてが旋律となります。円い柱も、その上の三条の飾りも鳴り響きます。まるで神殿全体が歌っているかと思うほどです」(ゲーテ『ファウスト』第二部第一幕「騎士の間」6441~6448行(一部省略)相良守峯訳、岩波文庫)

 クセナキス以後、私たちは靄や雲の歌に耳を傾けることができる。(了)

interview with doooo - ele-king

doooo ”Pain feat. 仙人掌”


doooo
PANIC

Pヴァイン

Hip Hop

Amazon Tower HMV

 「あのビデオに出てる高津のレゲエバーで飲んでるの?」そんな話題からゆっくりとインタヴューははじまった。ちなみにその店は台風で少し壊れたりもしたらしい。CREATIVE DRUG STOREに所属。昨年、ファースト・シングル「STREET VIEW feat. BIM & OMSB」をリリースしたdoooo。1年と少しの時間を経てファースト・アルバム『PANIC』は噂のMPCと共に世に公開された。dooooというアーティスト、そしてその音楽を知ることは「PANIC」という言葉の新しい意味を知ること。陽気な狂気の渦巻く世界へようこそ。


これは、普通に聴いた人をパニックにおとしいれたいという理由で。曲作ってる時に、作ってる自分もパニックになってしまったり。自分が「どうしようみたい」になったりもしたんで(笑)。自分もパニックになってるし、聴いてる人もパニックになって楽しんで欲しい。

doooo 君は出身は盛岡ですよね?

doooo ( 以下D ) : そうです。22まで盛岡にいて、大学卒業してこっちに来ました。

盛岡から出てすぐにいま住んでる川崎辺りに引っ越してきた感じですか?

D:はい。

それでCREATIVE DRUG STOREのメンバーと知り合っていく?

D:そうですね。最初にDJ のMIX をサウンドクラウドにあげてたんですけど、僕とBIMの共通の知り合いが気に入ってくれて、それでBIMにも彼が聞かせて気に入ってくれて。そこからですね。BIMと僕と家が500mくらいしか離れてなくて、それで、僕が「うちに遊びに来る?」って。BIMもフットワーク軽いからすぐに遊びに来て。デモを作ってるからビートを聴かせて欲しいという話をして、その時にMPCに入ってた曲がTHE OTOGIBANASHI`Sのファーストに入ってる“KEMURI”って曲ですね。

それで気がつけば一緒にやってるような感じ?今までにトラックを提供してるのはTHE OTOGIBANASHI’Sが多い?

D:圧倒的ですね。

ん。他のアーティストの作品への参加って何があります?

D:ほとんどないです。KANDYTOWNのRYOHUくんもラップしてたりするグループ、Aun Beatzのリミックスくらいですね。リリースされてるの。僕、インストで完結するビートがばっか作ってて。岩手時代それしか作ってない。リミックスを最初に作り出して、そこからオリジナルで作りたいって思うようになって、そういういいタイミングでBIMとかにも出会って作るようになった。そのときは本当に知り合いのラッパーがCREATIVE周りしかいなかったんですよ。インストの曲はたくさん作ってますね。

トラックメイクは盛岡のときからしてたんですね。

D:はい。曲も作ってましたけど、活動はDJばっかって感じですかね。

どういうDJっていう聞き方もなんか趣き無いですけど(笑)、どういうDJをしてたんですか? それと最近はビートライヴ以外のDJってしてますか?

D:最近はDJしてますけど、回数減りましたね。DJのときはソウルとかディスコからテクノとか、それこそ色々かけてます。盛岡がレコードが色んな種類あるんで。イベントも何でもかかるイベントばかりだったんで、自然にそうなりました。そのなかで、もちろんヒップホップかけるんですけどね。とにかく好きなものをなんでもかけるDJが多かったですね。

盛岡のときに制作したビートで発表してるものってありますか?

D:THE OTOGIBANASHI'Sの1stに入っている曲で“Froth On Beer”って曲があるんですけど、それが岩手で作ったビートですね。

DJはいつからはじめたんですか?

D:19ですね。高校出た時から始めました。

きっかけは?

D:兄ちゃんがいるんですけど、兄ちゃんが僕が13歳の時にターンテーブルを買って。ずっとICE CUBEが流れてたんですけど。ICE CUBEの“YOU CAN DO IT”だけずーっと(笑) 。それでかっけーってなって。その時まで知らなかったんですけど、それでかっこいいなってなりまして。俺もやりたいってずっと思っていて、高校出てターンテーブルを買って始めました。

ターンテーブルを買う前にレコードは買ってましたか?

D:レコードはたまに買ってて、ほとんどCDでしたね。ほとんどTSUTAYAでしたね。TSUTAYAで借りまくってました。

TSUTAYAで借りまくってた時代、俺もあります。渋谷のTSUTAYAって入れて欲しい作品リクエスト出来たんですよ。

D:僕いまでも渋谷のTSUTAYA結構行くんですよ。

音楽の聴き方の話なんですけど、自分の場合は、買うもの以外はストリーミングで聴く感じになってきてるんですよね。持っていたいもの以外はデータでもいらないやとか思ってきてしまっていて。

D:あー。僕はDJでかける用に借りてるのがほとんどなんで。レコードしか持っていないものであったりとか、昔持っていたけどどっかいってしまったものとかそういう作品を借りることがほとんどです。借り直してるものが多いですね。タイトルが揃ってるので、レコードで探すのが難しいものもあったりするじゃ無いですか。例えば和物のJAZZとか。そういうのも借りてますね。

なるほど。そう考えるとレンタルCDって確かに便利ですね。


 気づくとレンタルCDについて考える良い機会に恵まれてしまった。dooooはフットワークが軽く色々なとことに行くイメージの人物だ。目に見える選択肢の中から自由に選んで楽しむ。そんなイメージが浮かぶ。


今回のアルバムの話をさせてください。1曲目に収録されている“STREET VIEW”ですが、これはアルバムのなかでは一番最初に作った曲になるんですか?

D:1年前の夏ですね。そもそもが僕、最初に作る曲はG FUNKが作りたいってずっと思っていて。この曲のビデオ作って、レコード出したときに、どうせならアルバムを作りたいと思って。だからこの曲が軸になってますね。他にもやりたいことがたくさんあったなかで最初に作った曲で、その制作があってやりたいことを全部やろうって思うようになりました。

doooo "Street View feat. BIM,OMSB & DEEQUITE"

“STREET VIEW”でゲスト参加しているBIM、OMSBはどのように決めたの?

D:オムス君はこういうビートにすごく映えるラップをするイメージがあって最初に頼みました。どうせやるなら、もう1人はテイストの違うラッパーに頼みたくて、攻撃的じゃないラップがいいかなと思って、BIMに。意外なんだけど、バッチリハマるイメージあってそれ通りに出来ました。

そこからアルバムの制作で色々とゲストも参加してますが、イメージは?

D:全体のイメージは、本当に好きなこと全部やってやろうと思うって。ビートメイカーですけど、DJとしての自分も出してやろうって思って。自分の全部入ってるものにしたくて。

色んなゾーンが散りばめられていて流れもあって、濃いけど聴きやすいアルバムだと感じました。

D:やりたい曲を作りつつ。DJとしての自分も出したかったので曲順はすごくこだわりました。フューチャリング陣もこういうアーティストが自分は好きなんだぜっていうのも見せてくて。

HUNGERはやっぱり東北地方で元々つながりがあったんですか? この曲すごく印象に残りますよね。

D:HUNGERさんは僕がすごく好きで。ライヴとかに行きまくって追っかけて、向こうも「また来たんだ」みたいな感じで(笑)、それで参加してもらいました。

MONY HORSEの参加はすごく意外な気がしました。

D:MONY君も大好きだったのですが元々は面識が無くて、JUNKMANさんが繋げてくれて(JUNKMANは青森出身) 。MONY君のいままでの曲も聴いていて、それで、自分のビートでやったら面白いかなと思って頼みました。

うん。面白いですね。そして、このアルバムはゲストが出てくるたびに、新鮮な面白さを感じます。

D:それはプロデューサーとしては嬉しい意見ですね。

過度に尖った音作りにはしてないように感じます。

D:そうですね。普段のライヴ用の音源は攻撃的なものを作っちゃったりするんですけど、アルバムは長く聞いて欲しかったのでそこは気をつけてますね。あとはTSUBOIさん( ILLICIT TSUBOI ) がうまくバランスを整えてくれてますね。

曲順はどのように決めたんですか?

D:最初にやりたい曲をだーっと作って、ある程度揃った時に選んでいきました。最初から全体の構想があったというよりは出来た曲を並べて作っていった感じです。

アルバムの曲にもありますけどdoooo君は酒のイメージがあります。

D:最初に、仙人掌と会ったときにすごく飲んでしまって、その印象ですよね。今回参加してもらった曲でもその話がリリックに出てきていて嬉しかったです。

個人的にも、そのエピソード仙人掌から聞いてたので、あのリリックは凄く面白かったです。ビールのなくなり方がおかしいっていう。俺もたまに言われるんですけどね。スタジオに買ってきたビール全部飲んでしまったりとか。ちなみに酒って作業の時のみますか?

D:そうですね。飲むとめちゃくちゃはかどりますね。

没頭できる感じですよね?文章書くとき夜中に酒ずっと飲んでることあります(笑)。

D:昼間っから酒飲むことありますね。本当、24時間近く飲み続けることとか。

家で?

D:はい。

どれくらい家にストックしてますか?

D:いま、家にASAHIの350が20本くらいありますね。

それ凄いね。

D:困らないくらいの量が。

前に仙人掌とERAとCREATIVEのメンバーと飲んだことがあって、そのときはdooo君いなかったんだけど、その後、仙人掌のツアーで会って、いまがあるのってなんか面白いですね。

D:そういうリンク、岩手で見てて憧れてたんで嬉しいですね。

こういうリンクを繋げていけたら面白いですよね。

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 仙人掌のアルバム『VOICE』のリリースに伴いおこなわれた「BACK 2 MAC TOUR」の東北場所の盛岡MAD DISCOで、dooooというアーティストに初めて出会った。凄まじいテンションでの最高なビートライヴと、ファニーな人柄がとても印象的だった。その後、聴かせてもらったビートはdooooという人間そのものを感じた。

機材巡りが好きで、ハードオフ行って使い方わからないけど面白そうな機材を買ったり。レコード8円 ~ 108円で売ってるんですけど、そういうの買うのが好きですね。それみんなで聞いたりとか。それこそ、仙人掌君とのPVにも出てくるんですけど、赤白の線差すのが両方にあるだけの箱。使い方はわかりません。


doooo
PANIC

Pヴァイン

Hip Hop

Amazon Tower HMV

アルバム作ってみて、次にやってみたいこととかって生まれました?

D:もう次のを作りたいです。いまある曲のなかでも続きを勝手に考えてるものがあるし。それはAru-2とモンキー君とやってるビートメーカーだけで作った曲があるんだけど、そこにもっと色んな人に参加してもらって、ビートメーカーのマイクリレーみたいなものを作ってみたい。ビートだけで成立するビートメーカーって意外にいない気がしていて。そういうビートメーカーを集めて曲やったら面白いなと思っていて。

それ面白そう。ぜひ聴きたいです。

D:スピードは遅いですけどやってきたいです。

ビートメーカーの作る音源でなかなか再現難しいと思うんですよ。ゲストが入ると。そこでどういう風にライヴをやりたいとかってありますか?この音源を聴いてdoooo君を知った人は、この音源のイメージを持ってdoooo君のライヴに来ると思うんです。

D:ライヴのときは、自分という人間を見て欲しいという形で。一番好きなものはDOPEな感じというか、ぶっ飛んでる感を凝縮したくて、それがアルバムなんですけど。和物で気持ちい良いミックスも作ってるんで、そういうこともやってるんだよっていうのも知って欲しいし、とにかく色んな自分を見に来て欲しいですね。

アルバム・タイトルの『PANIC』を決めた理由は?

D:これは、普通に聴いた人をパニックにおとしいれたいという理由で。曲作ってる時に、作ってる自分もパニックになってしまったり。自分が「どうしようみたい」になったりもしたんで(笑)。自分もパニックになってるし、聴いてる人もパニックになって楽しんで欲しい。

いいパニックですよね。遊園地みたいな、色々あるけどパニック。

D:CREATIVE DRUG STOREで活動してるので、聴いてる人がヒップホップのファンが多いと思うんですが、ヒップホップ以外の音楽も入れて作ったと思ってます。こういう音楽もあるんだよっていう、驚きを与えられたらなって。上から目線みたいな意見になっちゃってるかもしれないですけど、そんな気持ちで作りました。

たしかにいままでとテイストがかなり違いますもんね。そして作品のなかでも変わっていく。

D:今回の作品は、参加してもらう人によって変えたのもあるので、それはあるかもしれません。それもDJとしての自分を見て欲しいっていうのがあって、このラッパーならこのビートが合うなとか。ビート決まった後に、展開を変えたりして。そいういのでまた変わるってったかもしれない。

アルバムはれくらいの期間で作ったビート?

D:制作期間は1年半くらいですかね。それぞれの長さはバラバラですね、1曲1週間かかったのもあれば、1日でできたものもありますし。

この作品がリリースされたことによってdoooo君の謎が解き明かされますね。

D:それは嬉しいですね。

OMSBとかdoooo君は狂ってるっていつも嬉しそうに言ってますね。

D:オムスくんとは人肉MPCの事とか楽しく話せて嬉しいです。

このMPCライヴで使って欲しいですけどね。

D:渋谷音楽祭で飾ったときもみんなめっちゃ写真で撮ってくれて嬉しかったです。本当に気持ち悪いんで、笑っていない人も多くて。写真だと洒落た感じだけど、(といってdooooのinstagramにある全体像の動画を見せる)この端の部分いつか触って欲しいんですけど。気持ち悪いんですよ。端っこが。何回もやり直して作ってもらいました。

総制作費は……?

D:結構お金はかけました(笑)。だから触ってほしくて。一番長く使ってたのがMPC 2000XLなんですけど、だから。僕っぽさも出したくて、マッド・サイエンティスト感を。で、人肉にして。仙人掌さんとのビデオでHEIYUUの肉にして。

トラックメーカーのアルバムのジャケットって機材が出てるもの多いけど、これは新しいですよね。そうだ、ホラー映画ってどういうのが好きですか?

D:生々しいというか、ヒューマン・ドラマというか。『オールナイトロング』っていう映画があるんですけど。かなりトラウマ系ですね。上手に人を嫌な気持ちにさせる。女の子がアキレス健を切られる描写とかがすごく上手いというか。

俺、日本のホラー苦手なんですよ。やな気分になるやつ。ホラーとかそういうの以外でライフワーク的に好きなもの何があります?

D:コミックですね。曲作るきっかけも漫画とか映画とか音楽以外のものが多い。こういうの作りたいっていう。

そう思う時って頭の中に曲の設計図があるんですか?

D:最初は感覚でこういう。日野日出志の「日野日出志の地獄変」って漫画を読んだときに、漫画の世界観、地獄絵図みたいな曲を作りたいって思って、その段階ではあまり考えてないんですけど、音を入れていくなかでヒップホップにしようとか、まあ、感覚ですね。

日野日出志。苦手だったけど、ここ1年くらいで結構はまってきて。

D:おどろおどろしい絵いいですよね。

おどろおどろしいけどファニーですよね。

D:おどろおどろしいだけじゃなくて、そういうさじ加減が良いんですよね。ただただ気持ち悪いんじゃなくて、ちょっとファニーさもあるのに惹かれるんですよね。それこそ、曲も、怖いなかにファニーな感じ。仙人掌の曲でもそういうのも意識していて。

たしかにそうですね。リリックも含めてそういう印象がある。

D:怖そうなテンションのわりに、面白いですよね。そして、なんというか、僕のことをわかりやすく言ってくれて。めっちゃ嬉しかったです。

ラッパーがトラックメーカーを紹介してる構成も面白いと思う。

D:アルバムの曲で僕のことをここまで歌ってるのこの曲だけですね。

この曲でdoooo君のことはわかりますよね。酒の情報とか余計な情報はあるけど。それありきでdooo君を見ると面白い気がします。

D : 笑。


 まだ発表できない予定の話を聞いて、テープを一度止めて。気がつくと機材の話をしてた。ジャンクというよりは何かの塊というような。なんだか禍々しい話。でもdooooとの会話には禍々しさよりも、なんだかファンシーなイメージ。


D:機材巡りが好きで、ハードオフ行って使い方わからないけど面白そうな機材を買ったり。レコード8円 ~ 108円で売ってるんですけど、そういうの買うのが好きですね。それみんなで聞いたりとか。それこそ、仙人掌君とのPVにも出てくるんですけど、赤白の線差すのが両方にあるだけの箱。使い方はわかりません。

それはいくらだったの?

D:108円でしたね。形がかっこいいから買いました。いまも何かわからないですね

アルバムでそういう面白い機材制作に使ったものあります?

D:ありますね。ノイズとかそういう音が出るだけですけど。本当に気づかれないくらいのノイズだけなるシンセの音をサンプリングしていじって入れてますね。

dooo君が制作するコクピットはどうなってるの?

D:台所に機材とかレコードとかの物置があるんですけど、ガラクタが積んであるみたいな。そこに人肉MPCもあるんですけど。

それおぞましいですね(笑)。メカ的なのも好きですよね!? ギーガー好きだよね?

D:ギーガー!! 重厚感がありますね。

ギーガーもえぐさありますよね。バイオメカ。

D:いかついですよね。ゴツい。エイリアンもそうなんですけど重厚感があるものに影響を受けてて、そういう。

金属音とか?

D:影響を受けてますね。

バイオMPC。

 dooooの作り出す空間はやはりどこか歪んでるような気がする、だけれど心地よい、遊んでいて心地よいような空間だ。余計なものがたくさんあるけど、それで遊べる。説明とか書いてない。その感覚って音楽のひとつの魅力なんじゃないかなって思った。そんな感覚を持って『PANIC』を楽しくパニックしてください。ちょっとまだ公開しちゃいけないinfoが多かったのですが、今後もdooooのまわりは楽しそうだ。

D:ゲストを呼んだリリース・ライヴをいくつか考えていて。全員呼んだパーティもやりたいと思ってます。来年またアルバムからビデオを公開する予定です。

doooo 『PANIC』 Teaser

(了)

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