「Nothing」と一致するもの

文明の恐怖に直面したら読む本 - ele-king

さよなら文明、ようこそ自然

気鋭の政治学者とフランス文学者がおくる、痛快ポリティカル・トーク

2011年の原発の爆発は、文明のひとつの帰結である。それはわたしたちの人生の問題に深くかかわっている。だからこそ、文明にたいする態度決定なしにわたしたちの人生はやっていけない。そして、文明について考えるには、ここ十年や百年の動きだけでなく、十万年におよぶ人類史全体を見すえておく必要がある――

『ele-king』に掲載された過去2回の対談が好評を博したふたりの異才、『村に火をつけ、白痴になれ』がいまなおロング・セラーを続ける政治学者・栗原康と、浩瀚な知識および独創的な切り口でさまざまなジャンルを横断するフランス文学者・白石嘉治による語り下ろしの対談がついに書籍化!

念仏、マゾヒズム、大学、小説=ロマン、映画=シネマ、孤独な夜の歌……さまざまな「遊び」の実例をとおして「自然」への回路を切りひらき、「文明」による統治から抜けだすためのヒントを伝授する!

「われわれはとりとめのない想像をかかえつづけている。カミであれヒトであれモノであれ、それらを中心とした文明による表象の強制によってぼろぼろになりながらも、それぞれの想像の切れ端みたいなものを手放したりはしない。そうした想像は、アスファルトのすきまから生えている雑草のようになくならない」(本文より)。

栗原 康 (くりはら・やすし)
1979年生。東北芸術工科大学非常勤講師。アナキズム研究。著書に『はたらかないで、たらふく食べたい』(タバブックス)、『村に火をつけ、白痴になれ』(岩波書店)など。

白石 嘉治 (しらいし・よしはる)
1961年生。上智大学ほか非常勤講師。フランス文学。著書に『ネオリベ現代生活批判序説』(新評論)、『不純なる教養』(青土社)など。

目次

はじめに (栗原康)

第一部
(1) ちがう自分になるための準備
・魔界転生のすすめ
・島原の乱に学ぼう
・石牟礼道子の想像力
・リベラルはフェティシズム
(2) 文明とはなにか
・湧きあがる江戸ノスタルジー
・古代はカミ、近代はヒト、現代はモノ
・江戸はヒューマニズムの完成型
(3) 縄文がおしえてくれる
・縄文人はカバだった?
・縄文の事実
・おしゃべり、だいじ
・文明の恐怖に直面したら

第二部
(1) 中世とはなにか
・三階建て以上の建物は邪悪である
・中世はどこにでもある
(2) 空也とプルースト
・空也が登場してきた時代
・動物と一体化しよう
・プルーストと中世
・ピクチャーという提案
(3) 鎌倉仏教とフィクション
・法然の教え
・親鸞の教え
・一遍の教え
・マゾヒズムの勇気
・フィクションから出発する
(4) 遊びと大学
・大学は学校じゃない
・大学は遊ぶところ
・大学はタダでなければならない
・ストライキという自然

第三部
(1) 自然はなんども回帰する
・フットボールは暴動である
・小説は歴史を逆なでする
・無根拠なことをやろう
・いま死ぬつもりで生きてみる
・われ歌う、ゆえにわれあり
・永遠回帰の意味
(2) ユートピアはいつもそこに
・現代の狩猟採集民
・マルクスとマルクス主義
・「やりがい」に惑わされるな
・革命か反逆か
・未来は生成された過去である
・ユートピアはいつもそこに
(3) ゼロ人生宣言
・「もうどうでもいい」と開きなおること
・街角でネコと目があったら
・さよなら文明、ようこそ自然

あとがきにかえて (白石嘉治)

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大音海 - ele-king

湯浅音楽道の精髄!

1997年刊行の著者2冊目の単行本『音海』の増補改定版として数年前に企画が立ち上がるも、諸般の事情で刊行がのびのびになっていた畢竟の大作が遂に完成!
お待たせした分、増補分は増えに増え、気づけば紙幅は816ページに!
もはや古今東西の音楽書に類例のない、圧倒的なボリュームに仕上がりました。

ビートルズ、ローリング・ストーンズといった大看板から裸のラリーズやLAFMSなどのカルトの王まで、洋楽と邦楽のせせこましい線引きばかりか、ロックもジャズもニューオーリンズもソウルもR&Bもラップもノイズも大韓民国をも混淆させ、遠藤賢司、勝新太郎、ザッパ、グレイトフル・デッド、サン・ラーにプリンス、音楽通が一家言もつアーティストを、著者でしかありえない観点できりとっています。

表紙は世界の五木田智央描き下ろし!


目次

まえがき

あ行
愛一郎、艾敬、アイク&ティナ・ターナー、アイス・キューブ、アイス‐T、青江三奈、あがた森魚、阿久悠、アスワド、渥美マリ、阿部薫、アモン・デュール、荒井由実、アレステッド・ディペロップメント、アロウ、アン・ドラム・ミュジカル・アンスタンタネ、アンセイン、アンビシャス・ラヴァーズ、イ・チョンウ、李博士、イ・ベクマン、忌野清志郎、ロマ・イラマ、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ、ハンク・ウィリアムス、ヴードゥー・グロウ・スカルズ、ボビー・ウーマック、植木等、ポール・ウェラー、ヴェルヴェット・モンキーズ、ウォー、梅津和時、ジェームス・ブラッド・ウルマー、エアロスミス、MC5、遠藤賢司、オ・ウンジュ、大竹伸朗、オールマン・ブラザーズ・バンド(グレッグ・オールマン)、岡村靖幸、沖雅也

か行
ミッキー・カーティス、チャカ・カーン、海道はじめ、勝新太郎、かまやつひろし、河内家菊水丸、CAN、姜泰煥、ガンズ・アンド・ローゼズ、ギターウルフ、キッス、金石出、金大煥、金大禮、木村松太郎、ジョニー・キャッシュ、キャプテン・ビーフハート、キャメオ、キャロライナー、キング・クリムゾン、キンクス、筋肉少女帯、金髪のジョージ、アリス・クーパー、クラフトワーク、クリーム(エリック・クラプトン)、ジミー・クリフ、オーティス・クレイ、ロバート・クレイ、グレイトフル・デッド(ジェリー・ガルシア、ネッド・ラジン、フィル・レッシュ)、クレイマー、ゲイシャ・ガールズ、Koji 1200、エルヴィス・コステロ、ブーツィー・コリンズ、ジョン・コルトレーン

さ行
13th フロア・エレヴェーターズ(ロッキー・エリクソン)、斉藤徹、サイプレス・ヒル、ジョン・サイモン、スカイ・サクソン、フランク・ザッパ(ワイルドマン・フィッシャー、Z、サンディ・ハーヴィッツ)、サニーデイ・サービス、サヌリム、スティーヴィー・サラス、サン・ラー、サンタナ、ZZトップ(ムーヴィング・サイドウォークス)、ジェファーソン・エアプレイン、シブがき隊、シミー・ディスク、じゃがたら、ジャネット・ジャクソン、マイケル・ジャクソン、ジャックス(早川義夫)、シャンプー、城ヶ崎一也、城卓也、キザイア・ジョーンズ、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(ボス・ホッグ)、申重鉉、スイサイダル・テンデンシーズ、スーサイド(マーティン・レヴ)、ギル・スコット=ヘロン、スター・クラブ、スターリン、ストゥージズ(イギー・ポップ)、砂川捨丸、頭脳警察、フィル・スペクター(チェックメイツ・リミテッド)、パティ・スミス、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、スレイヤー、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ、赤痢、セックス・ピストルズ(ジョン・ライドン)、セッちゃんとぼく、セント・ミカエル、ソウル・チルドレン(J・ブラックフット)、ソウルⅡソウル、ジョン・ゾーン、ソテジ ワ アイドル、ソニック・ユース

た行
ターボ、ダイナソー・Jr.(J・マスキス)、高木完、高田渡、モーリン・タッカー、ちあきなおみ、ボビー・チャールズ、チャコとアップリーズ、崔健、津山篤、マイルス・デイヴィス、DEVO、ディスチャージ、マヌ・ディバンゴ、ディム・スターズ、ボブ・ディラン、ディック・デイル、デヴィアンツ、デストロイ・オール・モンスターズ、鉄人28号、デフ・レパード、デ・ラ・ソウル、鄧麗君、10cc(ゴドレイ&クレーム)、テンプル・シティ・カズー・オーケストラ、ドアーズ、アラン・トゥーサン、東京キューバン・ボーイズ、東京ビートルズ、ドクター・ジョン、ドラッグ・シティ、ドロマイト

な行
仲井戸麗市、中島みゆき、ロジャー・ニコルス、ニューエスト・モデル、テッド・ニュージェント、ネヴィル・ブラザーズ、ネーネーズ、ノー・ネック・ブルース・バンド

は行
バーニング・フレイムス、ハーフ・ジャパニーズ、パール・ジャム、萩原健一、バケットヘッド、裸のラリーズ、ティム・バックリィ、ジェフ・バックリィ、バッド・ブレインズ、はっぴいえんど、ハッピーエンド、ハナタラシ、パブリック・エネミー、パンゴ、パンテラ、ザ・バンパイヤ、ピーター、ビーチ・ボーイズ、ビートルズ(ジョン・レノン、ジョージ・ハリソン、オノ・ヨーコ)、ビーバー、Pファンク、HIS、ピチカート・ファイヴ、一節太郎、トゥーツ・ヒバート、ピンク・フロイド、ファウスト、ファット・ポッサム、ファン・シネ・バンド、アントン・フィア、フィッシュボーン、フードゥー・フシミ、フールズ、49アメリカンズ、ブギ・ダウン・プロダクションズ、藤本卓也、ジェームス・ブラウン、ボビー・ブラウン、プリンス、ブルー・チアー、ブルータス・トゥルース、フレーミング・リップス、ジャン=ポール・ブレリー、フレンチ、フリス、カイザー、トンプソン、プロフェッサー・ロングヘア、ベック、トム・ペティ、チャック・ベリー、リー・スクラッチ・ペリー、ペル・ユビュ、リチャード・へル、ベンチャーズ、ジミ・ヘンドリックス、ボ・ガンボス、ボアダムス、暴力温泉芸者、ホール、ポップ・グループ、ほぶらきん

ま行
マーキュリー・レヴ、ボブ・マーリー、マイガールズ、マルコム・マクラーレン、町田康+グローリー、ヴァン・マッコイ、マッドハニー、松野浩司、マドンナ、マリア四郎、マルコムX、ハービー・マン、チャールズ・マンソン、マンモス(マンモス楽団)、ミーターズ、三上寛、美川憲一、三木鶏郎、三波春夫、南正人、ミミ、宮崎一男とI・O・N、ミュート・ビート、ミラクル・ヴォイス、メイズ、カーティス・メイフィールド、メルヴィンズ、セルジオ・メンデス、某某人、モーターヘッド、モダン・ジャズ・クァルテット、森高千里、モンキーズ

や行
ヤードバーズ、矢野顕子、山口冨士夫、 山瀬まみ、ニール・ヤング、ユートピア、吉田美奈子

ら行
ラスト・ポエッツ、オーティス・ラッシュ、レオン・ラッセル、スパイク・リー、リヴィング・カラー、ジョナサン・リッチマン、リトル・フィート、ルシャス・ジャクソン、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、レインコーツ、レーナード・スキナード、レッド・クレイオラ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ニック・ロウ、ローリング・ストーンズ(キース・リチャーズ、ビル・ワイマン、ブライアン・ジョーンズ)、ロサンゼルス・フリー・ミュージック・ソサエティ、ロジャー、ロリンズ・バンド

わ行
マイク・ワット、ジョニー・ギター・ワトソン、スティーヴィー・ワンダー

論考
第1節 ロック
ロック時代における南部幻想覚え書き/私のとってのThe Roots of Rock/UKサイケデリック・ロック10選/黒く飛べ~ブラック・サイケデリック
第2節 ソウル、R&B、ファンク
ファンクとは正統派のブルース・マナーの最も総合的でラジカルな意志のスタイルである/ニューオーリンズ/The History Of Black Culture/ソウルの最左翼として登場したファンク
第3節 ラップ、テクノ
ラップだっ。100選(抜粋)/ラップは、もともとニューヨークのローカルな民族音楽だった/ニュー・スクール以後のラップの動向/テクノの発生、テクノの進化
第4節 大韓民国
弔いの場で発する歌舞伎曲の効能について/韓国の音楽とヴェトナム戦争/今こそ“大韓復古調”の臓腑を抉る
第5節 地域
ニューヨークって前傾姿勢で楽しめるところだ/ニューヨークで考えさせられてしまった

目録と選出
ニッポンのクリスマスはいかにして過ごすか、ということについてのちょっとした提案/大汗音楽で暑気払い(洋楽、邦楽編)/イキっぱなしのファズの花/硬派な音楽/身体の芯にくる音楽/人情20選/電妄ベスト10/私が選んだライヴ・ベスト・ファイヴ(70年代)/プログレ・ベスト10/私が愛聴した25年間の25枚(1969~93年)/年間ベスト・アルバム 1987~2017

連載
ニッポン うたう地図(関東編、中部編)
音盤からエロス

あとがき

Tim Hecker - ele-king

 先日、雅楽グループの東京楽所(とうきょうがくそ)とコラボした新作のリリースを公表し、ファンを驚かせたティム・ヘッカー。2016年の『Love Streams』に続くその新作『Konoyo』は9月28日に〈Kranky〉より発売されますが、すでにワールド・ツアーも決定しており、10月2日には東京公演も開催されます。ティム・ヘッカー本人と、彼の長年のコラボレイターであるカラ=リズ・カヴァーデイル、そしてコノヨ・アンサンブルなる名のもとに集った雅楽のミュージシャンたちによるパフォーマンスが披露されるとのこと。なんと、「全着席」の公演です。公開された新曲を聴きながら、楽しみに待っていましょう。

カナダ人エクスペリメンタル・コンポーザー Tim Hecker (ティム・ヘッカー)が、昨年“東京の郊外のとある寺”で雅楽団体・東京楽所のメンバーと共同作業し制作した9枚目のソロ・アルバム『Konoyo (この世)』を〈Kranky〉から9月にリリースすることを発表。

“Konoyo Ensemble”と題した雅楽のミュージシャンと、Tim Hecker の長年のコラボレーターであるコンポーザー Kara-Lis Coverdale (カラ・リズ・カバーデール)を伴うライヴ・パフォーマンスの世界初演を、10/2、WWW X にて開催します。

今回の公演は、これまでの東京でのパフォーマンスの際オーディエンスからのリクエストが多かった“全着席”公演。西洋的な音階、繊細な静寂と暴力的なまでのラウドネス、あらゆる境界の狭間をたゆたうように行き来し、これまで常に“音”の新たな境地を切り拓いてきた Tim Hecker による最新のパフォーマンスを存分に堪能してください。

アルバムのオープニング・トラック“This Life”が公開されました。
https://www.youtube.com/watch?v=90unmGG4eKI

東京公演を皮切りにスタートするワールドツアーは下記の通り。
10-02 - Tokyo, Japan - WWW X
10-06 - London, England - Barbican
10-07 - Krakow, Poland - Unsound
10-08 - Berlin, Germany - Funkhaus

【東京公演 概要】
タイトル:Tim Hecker “Konoyo” Live in Tokyo
出  演:Tim Hecker + the Konoyo Ensemble
日  程:2019年10月2日(火)
会  場:WWW X
時  間:OPEN 19:00 / START 20:00
料  金:前売¥5,000 / 当日¥5,500(税込 / ドリンク代別 / 全自由席)
チケット:一般発売:8月8日(水)e+ / ローソンチケット / Resident Advisor / WWW店頭
問い合せ:WWW X:03-5458-7688

主催・企画制作:WWW


■Tim Hecker (ティム・ヘッカー)

カナダ出身、現在は米ロサンゼルスを拠点に活動するサウンド・デザイナー/コンポーザー。00年代前後のグリッチやクリックといった音響エレクトロニック・ミュージックにおける一代ムーヴメントで頭角を表し、ノイズ、不協和音、音の断片を巧みに用いたメロディや空間を構築する、シーンきっての人気・実力共にトップクラスのアーティスト。これまでに Jetone 名義で〈Force Inc.〉、本名名義で〈Mille Plateaux〉、〈Alien8〉、〈Kranky〉といった名門レーベルからコンスタントに作品を発表。2011年にリリースされた『Ravedeath, 1972』は、Pitchfork をはじめとする様々なメディアで非常に高い評価を受け、ジュノー賞(カナダ版グラミー賞)ではベスト・カナディアン・エレクトロニック・ミュージック・アルバムを受賞。2012年には Daniel Lopatin (Oneohtrix Point Never)との共作『Instrumental Tourist』を発表。2013年には初のジャパン・ツアーもおこない、圧巻のパフォーマンスを披露。その後発表された最新アルバム『Virgins』(2013年)は前作を凌ぐ傑作と絶賛された。2014年には再来日を果たし《TAICOCLUB》に出演、深夜のこだまの森で幽玄なアンビエントを響かせた。2016年、8枚目のフルアルバムとなる『Love Streams』を英〈4AD〉からリリース。親交の深い Jóhann Jóhannsson や Ben Frost らも参加した今作で、アイスランドの聖歌隊のヴォーカルや加工された木管楽器などの生音とアブストラクトなエレクトロニック・サウンドを融合、新境地のサウンドスケープを提示した。そして2018年9月に9枚目のフル・アルバムとなる『Konoyo』のリリースを発表。本作は雅楽団体“東京楽所”のメンバーと共に東京郊外のとある寺でその大部分を制作。日本の伝統音楽である雅楽と Tim Hecker 独自のアブストラクトなマニピュレーションスタイルを融合させた新境地となっている。

https://sunblind.net/

Lotic - ele-king

 格差社会の是正を求める人たちがゲイ・パレードに襲いかかるかと思えば、エリオット・ロジャーを崇拝するインセル(非モテ=インセル・ウイズアウト・ヘイト)がバンで歩道の群衆に突っ込み、連続殺人鬼ブルース・マッカーサーの逮捕と、この数年、トロントで起きる事件がどうにも派手である。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『複製された男』の解釈を話し合っているうちに話がそれて、あの作品で巨大な蜘蛛が街をのし歩いていたようにトロントの道端にはヘロインを打った人びとがあちこちに転がってると話しくれたトロント大学のシャロン・ハヤシが今年も日本に来たので、「昨日、レストランで銃乱射があったよね」と言ったら「もう麻痺しちゃった」と言ってクククと笑っていたほどである。トロント市内では2017年に188件、今年に入ってからはすでに200件以上の銃撃事件が起きているという。
 トロントのシンガーソング・ライター、アーヨ・レイラーニのデビュー作がほとんどの曲でセーフ・スペースを探している内容だというのも、だから、それなりに自然なことなのだろう。「セーフ・スペース」というのはヘイトが存在しない場所という意味で、ある種の公共空間をセーフ・スペースとして捉えるには必要以上の言論統制が行われることもあり、大学で授業が成り立たないといった弊害も起きているらしく、そう簡単に肯定できる概念でもない。しかし、10年という歳月をかけた『ザ・ゴールデン・オクターヴ』は、クィアであり、ディアスポラとして生きる自分自身をストレートに反映させたものだそうで、個人のなかにある「交差性」という側面を浮かび上がらせることによって、ヘイトに対する自衛手段を構築し、外部に働きかける要素を持ちながらもそれなりの共感を呼んでいるらしい。歌詞は簡単な言葉で書かれているんだけれど、それだけにかえって訳すのは難しかったりしますけれど。

 湿度の高いスキャットにはじまり、コロンビア出身のカラフルな音楽性で知られるリド・ピミエンタと組んだ“Time Traveler”ではラロ・シフリンを思わせながらドラマ性を抑えたヒップ・ホップ・ビート、“Indigo”ではエリック・サティをキラキラとしたラウンジ・ミュージックのようにアレンジし、”Reprogram”では鬱々としながらどこかスウィートなディープ・ハウスを聞かせていく。わかりやすいジャンルに落とし込みたくなかったというのが10年もかかったひとつの要因のようで、エレクトロやジャズなど複数のジャンルを、しかし、どれもシンプルに組み合わせていく手腕はなかなかのもの(多くの曲はサン・サンことフランチェスカ・ノセラによる)。マーチをベースにした”Weight of the World”やサイケデリック・フォーク風の“Stars”など、よく聞くとブラック・ミュージック一辺倒でないところも「交差性」をうまく表していると言える。
 個人というものを単一のポリティクスで割り切ることはできないとした「交差性」という思想の提唱者、オードリー・ロードの考え方をウィッチ・プロフェットが意識して取り入れているのか、偶然にもそうなっているのかはわからないけれど、フェミニストや詩人として知られ、出身国であるアメリカのみならずアフロ・ジャーマンの市民運動まで先導してきた彼女の思想を意識的に取り入れていたロティックもようやくデビュー・アルバムをリリースした。

 久々にインスタグラムを覗いたら、いつのまにか外見もバリバリにクィア化していたロティック(テキサス→ベルリン)も〈トライ・アングル〉からの「ヘテロセトラ(Heterocetera)」はやはりオードリー・ロードの小説からタイトルをつけたものであった。あれから3年、アルカとオウテカを掛け合わせたような「ヘテロセトラ」と、同じ年にリリースされたコンピレーション『アジテーションズ(Agitations)』はいずれも緊張感みなぎり、ベース・ミュージックが起源とは思えないインダストリアル・サウンドの新手で、これを『パワー』と題されたデビュー・アルバムではさらに艶やかで色めき立つようなグラム・スタイルへと発展させている。そう、グラマラスでセクシー、囁くようなヴォーカルは妙にミステリアスで、オブセッシヴなまでに幻想的なアプローチはある種のサイコスリラーを思わせる一大ページェントに等しいものがある。OPNの影響なのか、モダン・クラシカルとトライバル・ドラムを組み合わせた“ Distribution Of Care”やエイフェックス・ツインをグリッチ化させたような“Resilience”と手法も多岐にわたり、〈ノン〉からアルゼンチンのモーロ(Moro)を招いた“Heart”ではタンゴとドラムンベースを混ぜようとしているのか、にわかには何をしようとしているのか判然としない実験作が続く。新機軸とその着地点がかなり見事にデザインされていて、そのような創造性が最後までキープされていれば、かなりの名作になったのではないかと思うけれど、中盤まではほんとうに凄いものがある。最後まで聴いて、また冒頭に戻る瞬間が実にワクワクしてしまうというか。
 「本物の女性のように振る舞い、彼らに吐き気を催させる」とロティックは歌う。「LGBTの度が過ぎる」のであるw。ロティック本人はウィッチ・プロフェットとは対照的に自分のサウンド・スタイルがそれ自体でクラブ・カルチャーにおけるホモフォービアや人種差別、あるいは女性嫌悪に対するプロテストなのだと話し、個人的な満足のためにやっているのではないと過去には語っていた。「フリークスたちにとってセーフ・スペースであるべきクラブがそうではない」と。それこそインセルがテロの標的として定めるようなものになってはいけないということだろう。『パワー』というアルバム・タイトルは最初「権力」を意味しているのかなとも思ったけれど、もっと普遍的な意味での「力」を意味するのではないかとも思うようになった。ビヨークの「NotGet」をリミックスした次の年にはホームレスになったという青年が考え込んだテーマ、それが「パワー」だったのかなと。

Dirty Projectors - ele-king

 鳥が舞っている。幸福の象徴とみなされる、青い鳥。主人公は陽光に包まれながら街を練り歩き、ポール・マッカートニーを彷彿させる旋律を口ずさむ。あなたとわたし。わたしとあなた。ふたりはベンチに腰かける。甘く、鮮やかで、どこまでも朗らかな時間。背後では擬似的にダブが再現される。これは、青い鳥の立てる羽音だろうか。
 折り返し地点に配置されたこの“Blue Bird”だけではない。続く“Found It In U”にも鳥たちの歌声はこだましている。あるいは先行公開された“Break-Thru”のMVでは、大量の鳥たちが羽ばたいている。なんども顔を覗かせる鳥のモティーフ。それは自由の象徴でもある。

 通算8作目となるダーティ・プロジェクターズのアルバムは、こちらがつい「大丈夫?」と声をかけてしまいそうになるくらい意気揚々と、現世の春を謳歌している。この異様なまでにポジティヴなムードはもちろん、デイヴ・ロングストレスの「個人的な体験」にも由来しているのだろうけれど、本人曰く2016年以降の政治状況にたいするアンサーでもあるらしい(紙エレ最新号掲載のインタヴュー参照)。暗澹に暗澹を返してもつまらない。ゆえに、明朗をぶつけること。歓喜を歌うこと。たしかに、かつて鳥=バードの紡いだ物語は、「受け容れがたい」現実とストレートに相対することの暗示でもあった。だから本作で鳥たちが体現している「自由」は、それが良いものであるかどうかはさておき、「リベラル」をも含意しているに違いない。
 そのようなデイヴの陽性は本作に、かつてなく豪華な客人たちを招き入れてもいる。前作のエクスペリメンタリズムに大きな影響を及ぼしていたタイヨンダイ・ブラクストンは、しかし、引き続き本作にもモジュラー・シンセで参加しているものの、前回のように権勢をふるっているわけではない。それは他のゲストについても同様で、“Right Now”のシドにしろ“Zombie Conqueror”のエンプレス・オブにしろ、みずからの艶やかなヴォーカルを際立たせることよりも、合いの手やコーラスを機能させることに力を注いでいる。地味にクレジットされているビョークも含め、すべての参加者はデイヴ・ロングストレスの想像を具現するための駒である。

 青と赤の球体が対になったアートワークと大々的に復活したギター・プレイのためだろう、本作は「『Bitte Orca』への回帰」ないし「『Bitte Orca』の発展形」と評されることが多いようだ。あるいはアフリカンな響きをたたえる“Break-Thru”や“I Feel Energy”なんかは『Rise Above』を思い起こさせもする。本作に「回帰」的な側面があることは否定しがたい。
 とはいえ、けっして前作の存在がなかったことにされているわけではなくて、“Found It In U”や“What Is The Time”などには『Dirty Projectors』で試みられていた音響実験の残滓がまとわりついているし、“Break-Thru”におけるウーリッツァーの使用法なんかもそれとおなじ位相にあるものと捉えることができる。それに、R&Bの要素もある。前作での野心的な試みがなければ、本作が生み落とされることもなかっただろう。けれどもそれらの曲群のあいまには、フォークとハードロックが互いの領分を主張しあう“Zombie Conqueror”のような愉快な曲も紛れ込んでいて、ダーティ・プロジェクターズの実験主義がしっかり更新されていることを教えてくれる。
 つまりこのアルバムは、エクスペリメンタルな電子音楽とコンテンポラリーなR&Bを高度なレヴェルで折衷した『Dirty Projectors』(なぜあの力作がそれほど評価されなかったのか、いまだに納得がいかない)を経たうえで、あらためてインディ・ロックないしギター・ミュージックの方法論を見つめ直そうとするアルバムだと言うことができるだろう。ロビン・ペックノールドやロスタムの参加がそのことを担保している。デイヴの出自たるインディ・ロック、本人のことばを用いれば「自分もミュージシャンになりたいと思わされた」音楽、「自分が忠誠心を感じる」音楽、その豊かな土壌にいまいちど立ち返ってみること――ようするに、青い鳥ははるか遠方にではなく、身近なところに潜んでいたというわけだ。

 鳥たちは自由を象徴する。しかし自由なるものは必然的に、べつの新たな不自由を呼び寄せる。本作にかんしていえばそれは、前作で全面に打ち出されていたようなエレクトロニックな実験主義から距離をとる、という不自由である。その「不自由」を思うぞんぶん謳歌すること。それがいまのデイヴにとっての幸福なのだろう。じっさいこの『Lamp Lit Prose』の完成度の高さは、2018年下半期最初のハイライトといっていい。けれどもわたしたちは知っている。かの名高き青い鳥は、わたしたちがその存在に気がついた瞬間、どこかへと飛び去ってしまうということを。幸福は一所に長居しない。すなわち本作は、デイヴ自身がここからさらに遠くへと飛び立つためのアルバムでもあるのだ。

Aphex Twin - ele-king

 やはり布石でした。ここ一週間のあいだ、ロンドン、ハリウッド、ニューヨーク、そしてつい先日は東京のテクニークの店舗と、各地でつぎつぎと謎めいたエイフェックスのロゴが目撃されていましたが、ついに正式な情報がアナウンスされました。9月14日、エイフェックスが新作「Collapse EP」をリリースします。
 フィールド・デイの12インチ、フジロックのカセットテープ、あるいはオンライン・ストア開設にともなう未発表曲の放出など、昨年も話題を振りまき続けていたリチャード・Dですが、限定的でないかたちでのリリースは2016年の「Cheetah EP」以来でしょうか。
 完全な挫折感を引き起こすルール群からT69を一切排除、ケーキの速度とリズムに合った一連の動きの数々、バリ/カンボーン舞踏劇における音楽とダンスを結ぶリンク……おっと、いけません。どうやらエイフェックスの毒気にあてられてしまったようです。日本語で書かれたわけのわからないPR文も発表されていますので、下記をご参照ください。
 新曲“T69 collapse”のMVも公開中です。

エイフェックス・ツイン
最新作『COLLAPSE EP』リリース公式決定
特殊パッケージの限定盤を含め予約開始
新曲“T69 COLLAPSE”の最新ミュージック・ビデオが公開

エイフェックス・ツインによる最新作『Collapse EP』は、9月14日(金)世界同時リリース。
国内盤CDにはステッカーが封入され、さらに初回限定盤はシルバー・スリーヴ付の豪華パッケージ仕様となる。

今回の発表に合わせて、ウィアードコアが手がけた“T69 collapse”の最新ミュージック・ビデオが解禁された。

https://www.youtube.com/watch?v=SqayDnQ2wmw&feature=youtu.be


初回限定盤CD


通常盤CD

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: Aphex Twin
title: Collapse EP
release date: 2018.09.14 FRI ON SALE

初回限定盤CD:BRE-57LTD ¥2,200+税
シルバー・スリーヴケース付き/ステッカー封入/解説書封入
通常盤CD:BRE-57 ¥1,600+税
ステッカー封入/解説書封入
輸入盤CD:WAP423CD ¥OPEN
限定輸入盤12”:WAP423X ¥OPEN
シルバー・スリーヴ仕様
輸入盤12”:WAP423 ¥OPEN

BEATINK.COM
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9812

[TRACKLISTING]
01. T69 collapse
02. 1st 44
03. MT1 t29r2
04. abundance10edit[2 R8's, FZ20m & a 909]
05. pthex

Gondwana Records - ele-king

 昨今のUKジャズの盛り上がりを支えているレーベルのひとつ、マンチェスターの〈ゴンドワナ〉が今年で設立10周年を迎えます。それを記念したイベント《Gondwana 10》がロンドンとベルリン、そして東京でも開催。9月28日、代官山UNITにて、昨秋以来の来日となるママル・ハンズ、昨年素敵なアルバムを届けてくれたポルティコ・カルテット、レーベル設立者のマシュー・ハルソール、新世代エレクトロニック・ソウルを鳴らすノヤ・ラオが出演します。現在進行形のジャズ・ファンはもちろん、電子音楽やクラブ・ミュージック好きまでが楽しめる一夜になること間違いなし。いまから予定を空けておきましょう。

あの GoGo Penguin を輩出したUKのジャズ・レーベル
〈Gondwana Records〉が日本で設立10周年イベントを開催!
Portico Quartet、Mammal Hands、Matthew Halsall、Noya Rao 出演決定!

新世代ピアノ・トリオ Gogo Penguin を輩出したことで知られ、UKジャズ・シーンで今最も先鋭的なサウンドを展開し注目を集めているジャズ・レーベル〈Gondwana Records〉。2018年に設立10周年を迎え、レーベル名を冠とし、所属アーティストによるワールド・ツアー《Gondwana 10》をロンドン、ベルリン、そして東京で開催します。

東京での開催は、9月28日(金)。レーベルに所属するアーティストが4組来日し、パフォーマンスを繰り広げます。出演者には、UKの新世代ジャズ・トリオを牽引する Mammal Hands、あの Gilles Peterson も絶賛する Portico Quartet、レーベル・オーナーの Matthew Halsall、デビューしたばかりのエレクトロニック・ソウル・バンド Noya Rao が決定いたしました。

新世代ジャズ・シーンが好きな方はもちろん、実験的な電子音楽やクラブ・ミュージック好きの方まで、音楽が好きなら間違いなく楽しめるショーケースとなっています。

Gondwana Records (ゴンドワナ・レコーズ)

イギリス・マンチェスターのレコード・レーベル。2018年に設立10周年を迎える。GoGo Penguin を輩出したレーベルとして有名。最近では同レーベル所属の Mammal Hands の活躍も著しい。過去には、あの The Cinematic Orchestra の中心的メンバーとしても知られる Phil France もリリースするなど、UKジャズ・シーンで今最も先鋭的なサウンドを展開し注目を集めている。設立者はトランペット奏者の Matthew Halsall。
https://www.gondwanarecords.com/


【開催概要】
イベント名:GONDWANA 10 TOKYO
日程:2018年9月28日(金)
会場:UNIT/UNICE(東京都渋谷区恵比寿西1-34-17 ZaHOUSE)
時間:開場18:00/開演18:30/終演24:00
料金:前売 5500円(税込)/当日 6000円(税込) ※未就学児童入場不可
出演:Mammal Hands、Portico Quartet、Matthew Halsall (DJ Set)、Noya Rao、and more
主催:GONDWANA 10 TOKYO 実行委員会/GONDWANA RECORDS
問い合わせ:03-6681-5326 GONDWANA 10 TOKYO 実行委員会(株式会社クラベリア内)

【チケット情報】
販売先:イープラス / clubberia / iFLYER
販売期間:8月3日(金)正午 ~ 9月27日(木)23:59


出演者プロフィール

■Mammal Hands(ママル・ハンズ)

Jordan Smart(サックス)、Nick Smart(ピアノ)、Jesse Barrett(ドラム&パーカッション)

https://www.youtube.com/watch?v=bmjFJd6q4Es

UKのモダン・ジャズ・バンド。スピリチュアルなジャズやノースインディアン、フォーク、クラシック、エレクトロニック・ミュージックなど、さまざまな音楽からの影響を受けた、繊細かつ荘厳な音楽を奏でる。また、ベースが不在の編成も特徴的。2016年に彼らの作品が、タワーレコード輸入盤ジャズCDで渋谷店、新宿店の2016年輸入盤CD年間ジャズチャート1位を獲得。2018年には、世界3大ジャズ・フェスティバルのひとつスイス《モントルー・ジャズ・フェスティバル》へも出演している。
https://mammalhands.com/

■Portico Quartet(ポルティコ・カルテット)

Duncan Bellamy(ドラム)、Jack Wyllie(サックス)、Milo Fitzpatrick(ベース)、Keir Vine(キーボード)

https://www.youtube.com/watch?v=m9wdAU1S2Q0

2005年にロンドンで結成された、インストゥルメンタル・グループ。2007年にリリースしたデビュー・アルバム『Knee-deep In The North Sea』が権威あるマーキュリー・プライズ賞にノミネートされる。アシッド・ジャズの世界的DJ、Gilles Peterson も絶賛する4人組。特徴は、最初期から使用しているハングドラムの叙情的な音色を取り入れたジャズサウンド。4枚目のアルバム『Living Fields』では、打ち込みサウンドも導入し、Portico 名義で世界的クラブ・ミュージック系のレーベル〈Ninja Tune〉からもリリースしている。2017年に〈Gondwana Records〉に移籍し、アルバム『Art in the Age of Automation』をリリースした。
https://porticoquartet.com/

■Matthew Halsall(マシュー・ハルソール)

https://www.youtube.com/watch?v=qw-iqa3AxFM

イギリス・マンチェスターを拠点に活動する作曲家、プロデューサー、トランペッター、DJ。そしてモダン・ジャズ・レーベル〈Gondwana Records〉の創設者。彼の音楽には、エレクトロニック・ミュージックの要素と超越的でスピリチュアルな要素、様式的なジャズへ深い愛情と探究心がある。その姿勢は自身の〈Gondwana Records〉にも強く反映されている。
https://www.matthewhalsall.com/

■Noya Rao(ノヤ・ラオ)

Tom Henry(キーボード)、Jim Wiltshire(ベース)、Matt Davies(ドラム)、Olivia Bhattacharjee(ボーカル)

https://www.youtube.com/watch?v=__hLo1KsCxY

鍵盤奏者でプロデューサーの Tom Henry を中心に結成された、イギリス・リーズを拠点とするエレクトロニック・ソウル・バンド。電子音楽をベースにジャズ、ヒップホップなど、さまざまな音楽が反映されたバンドサウンドと、ライブにおけるパワフルでエモーショナルなパフォーマンスが魅力。2017年にデビュー・アルバム『Icaros』をリリースしたばかり。
https://www.noyaraomusic.com/

Gang Gang Dance - ele-king

 前作『Eye Contact』は2011年のリリースだから、本作は7年ぶりのアルバムとなる。ブライアン・デグロウ、リジー・ボウガツォス、ジョシュ・ダイアモンドらによるギャング・ギャング・ダンスの新作アルバムがついにリリースされた。
 思えば2005年の『God's Money』から2008年の『Saint Dymphna』までの彼らは、いわば「ゼロ年代初期から中期」という「ミニマル/トライバル」「音響/リズム」の時代を象徴するようなバンド=存在だった(あえて単純化していえばゼロ年代初期から中期とはポスト・パンク・リヴァイヴァルとエレクトロニカの時代である)。
 ポスト・パンク・リヴァイヴァル・ムーヴメントのなかでは比較的後発に入るGGDだが、ポスト・パンクからエレクトロニカ、トライバルからサイケデリック、ロックからポップまでをゴッタ煮にした雑食性に満ちた都市型のエクレクティック・サウンドは、ニューヨークの猥雑さと共に、ゼロ年代の特有の空気を存分に感じさせてくれた。特に2008年8月8日に、ボアダムスの EYE によって発案された「88 Boadrum」で指揮を任されたことは、90年代以降の「トライバル・サウンドの継承」という意味でも重要かもしれない。00年代のアート、音楽、トライバル、ノイズ、ミニマル、ポップが、シャーマニティックに結晶したわけだ。

 「88 Boadrum」から3年後、名門〈4AD〉からリリースされた『Eye Contact』は、GGDなりのテン年代宣言ともいえる刺激的なサウンドのアルバムだったわけだが、そこから先が長かった。
 むろん、そのあいだもメンバー個々人の活動は展開していた。デグロウはビーディージー名義のアルバム『SUM/ONE』を2013年に〈4AD〉からリリースしているし、ボウガツォスも2014年に MoMA において開催されたジョン・ケージ展に合わせて制作された「4分33秒」をテーマとするジョン・ケージのトリビュート・アルバム『There Will Never Be Silence』を刀根康尚らと合同制作している。ダイアモンドもライヴ活動や音楽制作を続けていた。

 とはいえ、GGDは沈黙していた。となると、この7年間は、時代を象徴していたバンドが、次の時代の変貌や変化に対応するために必要な時間だったのかもしれない。だがそんな憶測はとりあえずどうでもいいだろう。いま、この時代に彼らが再始動した意味は「音」にある。じっさいこの新作を聴くと、なるほどと思わせるものがある。

 一聴して分かるように新作『Kazuashita』は、ここ数年のモードであるニューエイジかつシネマティックなサウンドスケープを持った音楽性へと変貌を遂げた作品なのだ。そこに彼らのトライバルなリズムがうまく交錯しているのである。
 ノイズ成分は控えめになり、クリーンなサウンドが全面的に展開されている。聴きやすく、精密で、ビートも展開されているが、一方で、〈L.I.E.S.〉や〈Music From Memory〉などからアルバムをリリースする Terekke の瞑想的なアンビエント/ドローンも感じさせる仕上がりとなっていた(じじつ、バンドの休止期間中、デグロウはアンビエントやインド音楽などを聴き込んでいたという)。そのうえで彼らなりの「ポップ・ミュージック」を構築しているわけだ。

 冒頭の壮大な電子音楽トラック“( infirma terrae )”を経て、ミニマルなリズムとヴォーカルによるスペイシーな“J-TREE”が始まった瞬間に「GGD新生」を誰しも確信するだろう。そして80年代モードなエレクトロニック・ポップ“Lotus”、インターバル的な電子音トラック“( birth canal )”、ニューエイジ・アンビエントな音楽性から10年代的なマシン・ミニマルな電子トラックへと移行するタイトル・トラック“Kazuashita”などの見事なコンポジションには一気に耳を奪われてしまった。続く未来的なトライバル・リズムとコラージュ・ポップといった趣の6曲め“Young Boy (Marika In Amerika)”のサウンドも筆舌に尽くしがたい。

 そして、ヴォイスと電子音とビートがグリッチーに交錯し、立体的な音響空間のなかポスト・ヴェイパーなサウンドが生成する“Snake Dub”、ディック・ハイマンの初期電子音楽の名作『Moon Gas』やディック・ラージメーカーズなどの初期電子音楽を思わせつつも、ヴォーカル・レイヤーとサウンド・レイヤーを巧みに折り重ねることで2010年代後半のエクスペリメンタル・ポップ・ミュージックへと昇華する“Too Much, Too Soon”を経て、シンセ・ストリングスとヴォイス・コラージュによるインタールード的トラック“( novae terrae )”からオリジナル・アルバムのラスト曲“Salve On The Sorrow”までは、まさに映画音楽/音響のような壮大かつ繊細なサウンドスケープを展開していくのだ(日本盤CDにはボーナス・トラックとして“Siamese Locust”を収録)。

 アルバムを一気に聴きとおすとギャング・ギャング・ダンスが2010年代後半の時代のモードに見事に対応したことに驚いてしまった。ノイズな要素をクリーンなシンセ/電子音へと変化させることで、彼らは時代のモードに即したサウンドをまたも手に入れたわけだ。だが不思議と「時代に合わせました」という姑息な作為も感じない。「新しい音楽を作る」という必然性と好奇心があるからか。ニューヨークという都市に根ざした何か。
 参加アーティストをみれば、それが分かってくる。プロデュースはブライアン・デグロウ本人。ニューヨークのスタジオやアートスペースでレコーディング・セッションをおこなったらしい。そして「Boadrum」で知り合ったドラマーのライアン・ソーヤーや、アリエル・ピンクとのコラボレーションで知られるホルヘ・エルブレヒトらと共に本作を完成させたという(エルブレヒトはプロダクションの一部とミキシングを担当)。そしてアートワークにはアメリカの気鋭フォトグラファー、デヴィッド・ベンジャミン・シェリーの作品を起用しているのだ。

 ともあれ本作は聴きごたえのあるアルバムだ。細野晴臣や高田みどりら日本の80年代アンビエント音楽や、〈RVNG Intl.〉からリリースされている作品、〈Root Strata〉から出た KAGAMI『Kagami』などの現行ニューエイジ・シーンとも繋がるトラックは、まさに時代の空気を捉えている。そのうえGGDならではのリズムと音響を追求した独創性もある。まさにニューエイジ・リヴァイヴァル時代の空気(モード)を味わい尽くすかのように(拮抗するように?)、心から楽しんで聴き込める一作といえよう。

ハテナ・フランセ - ele-king

 みなさんご無沙汰してます。今日は7月15日にW杯でフランスが優勝したことと、そこに若干絡んだマクロン大統領のスキャンダルについてお話ししたく。

 7月15日はフランス住民にとって久しぶりに訪れた純粋な歓喜の瞬間だった。2015年のパリ同時多発テロ以来、「Même pas peur(怖くなんかない)!」というスローガンを掲げながらもフランスに住む人間の心のどこかには、いつも恐怖があった。 非常事態宣言が敷かれ、フランス名物ともいえるデモがめっきりと減った。行われても機動隊がこれまでになく高圧的にデモ参加者を取り締まった。そんなフランス人の溜めに溜め込んだうっぷんが一時的にでも一気に解消されたのが、このW杯優勝だ。

 決勝当日私は日本から旅行に来たカップルと一緒にパリ郊外パンタンのパブリック・ビューイングに参加した。サッカーはさっぱりわからないが、みんながただただ楽しそうなこの祭りにどうしても参加したかったのだ。ただパリ市内は人が多すぎると思ったので、以前は柄が悪かったがシャネルやエルメスがアトリエを移したりして、近年”フランスのブルックリン化”が進んでいるらしいパンタンに行くことにした。日本から来たばかりの2人を連れて行って柄の悪いサッカーファンに体当たりされないか若干不安ではあったが、白人の若者や子供連れも多く、終始和やかなお祭り騒ぎだった。
 優勝した瞬間から街中のあらゆる車やスクーターやバイクがクラクションを鳴らしまくり、箱乗りして国旗を振り回したり、ウィリーしたりとカオス状態が始まった。シャンゼリセ通りはオフィシャルに車を締め出したが、あらゆる道に人が溢れ、歌ったり踊ったり叫んだりしていた。バスも一切走らなくなった。人出が多すぎると判断したメトロの駅はいくつも封鎖され、運行中のメトロの中でも観客が飛び跳ねるものだから車輌が揺れに揺れた。いつもだったらお祭り騒ぎ時に嫌な顔をする人が必ずいるフランスなのに、この日はどこに行ってもとにかく皆ハッピーだった。もちろん騒ぎに便乗、もしくは調子に乗りすぎて器物破損をする輩もいたようだったが。

 フランスだけではないだろうが、パブリック・ビューイングに行かない人も、多くが大画面TVを持つサッカー好きの家に集まりウォッチ・パーティをしていた。サッカー音痴でも親戚や友達に必ずサッカー・ファンがいるので、必然的にそこに引っ張られる。そのサッカー・ファンたちのお気に入りの褒め言葉が「今回のブルー(代表チーム愛称)は、皆がエゴを捨てチームに奉仕した!」というものだった。98年のW杯優勝の時にスローガンとなった「black blanc beurre(ブラック・ブロン・ブール)」黒人、白人、アラブ系が一体となったチームがフランスを象徴しているという文言。当時はあらゆる人種が混ざり合い調和したフランス、という幻想を人々は信じたがった。そのような夢物語は、フランス国内での分断が進んだ2018年には誰も語らない。だが、その分断が、少しの間だけでも忘れられたのが、このW杯優勝だったのだ。

 そしてそのW杯をイメージ戦略に利用しようとしたとして、マクロン大統領は一部のメディアから批判された。特別観覧室で飛び上がってガッツポーズを決める大統領は、加工されアヴェンジャーズの一員になったりピカチューと闘ったりしてSNS上でヴァイラルとなった。98年W杯優勝時にジャック・シラクが支持率を回復させたことが、無邪気風ガッツポーズを決めたマクロンの頭に全くなかったと言えるだろうか。妻も余計な発言はせず、イメージコントロールとSNSを含めた広報に長けたマクロンなのに、だ。元ロスチャイルド銀行幹部のこの大統領は、当選するなり新自由主義的な政策を打ち出し、2018年に入って不支持率が支持率を上回っていた。その支持率はW杯優勝で回復することなく、余韻をぶち壊すスキャンダルが7月18日に発覚した。大統領官邸エリゼ宮にフランス代表を送迎するバスに、我が物顔で乗っていた人物、アレクサンドル・ベナラによるデモ市民への暴行事件だ。

 メーデーの5月1日に、フランスではデモをすることが恒例行事となっている。デモが多いフランスにおいて、もっとものどかで家族連れが多かったのがメーデーのデモだ。だがテロ以来機動隊との衝突が増え、ここ2〜3年は参加者の間で注意喚起がされるようになっていた。そのような状況の中、今年のメーデーでその事件は起きた。
 学生や若者の多いカルチェ・ラタンで、デモ参加者の若い女性が機動隊員の一人に乱暴に押さえ付けれられ、若者が殴る蹴るの暴行を受け地面に引きずり倒された。その様子はスマホで撮影され、SNSで拡散された。7月18日、ついにその機動隊員の身元を探し当てた大手新聞『ル・モンド』が大々的に報道。その人物とはマクロン大統領官房長官補佐アレクサンドル・ベナラだった。
 選挙キャンペーン中からエマニュエル・マクロンの警備を担当していたベナラは、大統領当選後は大統領官房に入り引き続き警備を担当していた。そのベナラによる暴行事件がなぜスキャンダルになったのか。それは大統領府が取った処置がまずかったからだ。
 この動画の存在を知って大統領府は、5月4日にアレクサンドル・ベナラを2週間の業務停止とした。法に乗っとった方法で一般市民に身体的制裁を加えていいのは、警察のみである。アレクサンドル・ベナラは機動隊員でもなければ警察でもないのに、事件当日機動隊の装備と警察の腕章を付け、一般市民に暴行を加えた。その制裁が2週間の業務停止である。
 そしてそのことは、法的義務があるにも関わらず、検察局に報告されなかった。『ル・モンド』紙の報道が出た翌日、7月19日内務省の主導のもと慌ただしく調査委員会が立ち上がる。7月20日ベナラとメーデー時行動を共にしていたとのことで、マクロンの政党「En Marche(前進)」の職員ヴァンサン・クラスもベナラと共に検察に拘留される。同日大統領府は、防犯カメラの映像を警察に要求したとの理由でアレクサンドル・ベナラを懲戒処分にする。7月22日今度は左寄り新聞『リベラシオン』により、アレクサンドル・ベナラとヴァンサン・クラスがデモ参加者たちに向かっていく直前の様子が詳細に映った別の動画が公開。

 7月24日それまで沈黙を貫いてきたマクロンがやっと口を開いた。与党議員のカクテル・パーティに飛び入りし「メディアは馬鹿げたことをたくさん言っている。アレクサンドル・ベナラはアルマ(セーヌ川ほとりの超高級官舎)に300㎡のアパルトマンを充てがわれてなどいない(実際は80㎡だそう)。アレクサンドル・ベナラは10,000€の月給を受け取ってなどいない(実際は手取り6000€だそう。フランスの平均賃金に比べ相当な高給取り)。アレクサンドル・ベナラは私の愛人ではない(根強いゲイ説を自虐的に否定。議員たちはワザとらしく大笑い)」などと勢いよく演説して、身内からやんやの喝采を受けた。しかも「この件の責任は全て私にある。責任者を探しているなら私はここにいる。捕まえに来ればいい!」と高らかに宣言。大統領特権で司法調査の対象にならない事は、一般常識として誰もが知っていることなのに、である。
 この大統領の態度、そして事件をめぐる一連の大統領府、内閣、議会、省庁の右往左往は、この政権のあり方を浮き彫りにした。フランスでは当選して間も無くマクロン大統領を「ジュピター(ラテン神話の全能の神)」や「太陽王」、政権を「マクロン君主制」などと呼び始めた。それほどマクロンはその絶対権力を躊躇なく振りかざしてきたのだ。
 ベナラ事件をきっかけに全野党が提出した内閣不信任案は、7月31日に国民議会で否決された。だが討論の最中「フランス・アンスミーズ(屈しないフランス)」党首のジャン=リュック・メランションがした発言が非常に象徴的だった。「ベナラは問題の原因ではなく、症状だ。彼はうまく機能しなかった例ではなく、機能のあり方そのものだ」
 つまりベナラ事件はマクロン政権にたまたま起きた間違いではなく、マクロン政権のあり方そのものだというのだ。同じく「フランス・アンスミーズ」の議員フランソワ・リュファンも、自身のYoutube番組でとてもうまく説明していた。「王子(マクロン)の強大な権力の元、その取り巻きも何をしても罰せられないだろうという思い込み。その傲慢さがこの問題の本質。ジュピターを地に引き戻さねば」。果たしてそれは可能なのだろうか。大統領警備担当の暴走、という表面的な事項のみを汲み取り、問題人物を排除すればそれでこの問題は全て解決。大統領と与党の目論んでいるそのような幕引きを、フランス国民は果たして受け入れるのだろうか。

後半のベナラ関連動画です。
リュファンのYoutube番組
https://www.youtube.com/channel/UCIQGSp79vVch0vO3Efqif_w

メーデーのベナラ映像

https://www.youtube.com/watch?v=V8hKq_L7NPQ

Kanye West - ele-king

 タイトルの「ye」とはもちろん〈Kan“ye”〉のことだ。しかし同時にこれは古語で「汝ら」を指す。アートワークで宣言される、双極性障害との付き合い。オープニングの“I Thought About Killing You”の「You」とは誰か。
 計画殺人。カニエはその暗い企図を吐露する。それは、アウト・オブ・コントロールの自己だ。
 人の思考は自由だ。人の発言は自由だ。それは何者にも抑圧されてはならない。俺は自分自身を愛している。お前よりもずっと。だけど俺は自殺について考える。そしてお前を殺すことを真剣に考える。これは計画殺人だ。
 カニエが語りかけるその声色は、度々ピッチが上がり下がり、変化する。ふたつの極を行き来するように。そして挿入される、オートチューンでコントロールされた鼻歌。無意識的に現れる、もうひとりの自己。

 度々ピッチ/フォルマントが変わりゆく声色によるまた別のヴァースを、僕たちは知っている。ケンドリック・ラマーの“PRIDE.”(=傲慢さ)がそれだ。死の観念に取り憑かれているのは、ケンドリックもカニエと同様だ。しかしそれ以上に共通点はあるだろうか。ふたりが匿う、別のピッチを持つ声色は、一体誰のものか。
 ふたりのヴァースに共通する言葉がある。「go numb=感覚が麻痺する」というフレーズ。
 同曲の後半のラップパートでカニエは「とても眩しいが/太陽じゃない/とてもでかい音だけど/俺には聞こえない/でかい声で叫んで/声量はなくなって/傷付いて/俺の感覚は麻痺する(I go numb)」とライムする。
 一方のケンドリックは「この前はどうでもいいって感じだったけど/今でもそれは変わってないぜ/俺の感覚は麻痺してるのかもしれない(My feelings might go numb)/お前はそんな冷たい奴を相手にしてるんだ」とヴァースをキックする。彼が自分の不完全さをあからさまに描くヴァースの一節だ。そのピッチの上下の不安定さは、七つの大罪のうち最も重いとされている、傲慢さとの関係性を示している。ルシファーが紐づけられた、罪の重み。自分の意思で自由にコントロールできない傲慢さが現れたり消えたりするにつれて、ピッチは上下する。
 ではカニエはどうか。ピッチの変化は、アウト・オブ・コントロールになった自己が、ある極へと振られている様を示す。件のラインでは、双極性障害を考え合わせれば、躁状態の症状でもある尊大さの表れとして「太陽」が引き合いに出される。だがすぐに太陽は堕ち、暗闇で何も聞こえない震える自己の身体だけが残る。「感覚が麻痺する」ことで、自分の身体がより一層意識される。
 その輪郭を意識させるのは、言葉だ。そしてその言葉を発声することだ。発声し、ビートに寄り添わせることだ。ビートのグリッドに、自らを押し込むことだ。
 同曲の後半のビートは、ウワネタに叫び声(=スーパーヒーローの雄叫び)がコラージュされた電気仕掛けの箱だ。カニエは箱の内側から、ライムでドンドンと壁を叩きまくる。それが壊れてしまうまで。だが声色のピッチはもはやブレない。
 その尊大さと、これまでヒップホップの歴史の中で、ラップの一人称が培ってきたメンタリティの違いを、どのように見ればよいのか。その境界は極めて曖昧だ。
 同曲のラストをカニエはこう締めくくる「“ye”のことを話し続けろ/お前の歯がフリトレーみたいに欠けちまわないように」。

 ヒップホップは、これまで新しい一人称像を求め続けてきた。ギャングスタ、コンシャス、ブラックリーダー、ナード、グッドキッド……。ありきたりな話を聞いてもつまらない。だからギャングスタであれば一層ハードコアな描写が求められるし、逆にマッチョなステレオタイプに抗うように、自分の殻に引きこもったり、悶々と悩んだりするキャラクターが要請される。「ye」の存在を公言するカニエは、これまでもそうだったが、その一人称の新しさの地平を開拓し続けている。

 このピッチの不安定な一人称は、続く“Yikes”においても顕著だ。
 上目遣いで自身の窮乏を訴えかけるようなフックのトーン。ヴァースをキックしているカニエの自信過剰でこちらを煽るようなトーン。そしてその煽りを凝縮し爆発させる喋りのトーン。
 これら三つのトーンの危ういバランス感が、この曲に名状しがたい緊張感を張り巡らせている。ビートの浮ついたシンセ音が、まさに地に足のつかない感覚を助長する。「ときどき自分が怖くなるんだ」とフックで歌い上げる彼のトーンには、確かに切実さが宿っている。しかしラストの喋りのパートでは、リスナーやメディアを挑発し、嘲笑するかのように、このアウト・オブ・コントロールの自己こそを「ye」と名付け、スーパーパワーなのだと喝破する。
 楽曲を締めくくる、スーパーヒーロー「ye」誕生の雄叫び。あるいはそれはルシファーの咆哮なのだろうか。しかしその雄叫びの直後に聞こえてくるのは、その声の持ち主の誕生を賛美する、柔らかく静謐なオルガンの調べに他ならない。
 4曲からラストの7曲目までに通底する感覚は、このオルガンのサウンドにも象徴されるように、「ソウルフル」の一言に尽きる。家族を賛美するコーラスが、妻のキム・カーダシアンと二人の娘たちに捧げられる。家族と魂。かつての子供が親になり、子供を持ち、子供に歌う。
 混迷した私生活とソウル・ミュージックといえば即座にマーヴィン・ゲイ、スライ・ストーン、そしてダニー・ハサウェイと言った名前が想起させられる。一方に『Yeezus』のような緻密で攻撃的なサウンドがあり、他方に今作のようなラフでソウルフルなスケッチが鎮座する。これらもまた、互いに「極」を示しているのだろう。
 ここで聞こえるのは、これまでの彼のアルバムの緻密なプロダクションとは対極的な、先行する感情だけを凝縮しパッケージしたような非常にラフなものだ。しかしそれだけに、余分なレトリックなしに、彼と音楽の関係性が透けて見えるようなのだ。

 鍵は6曲目の“Ghost Town”にある。PARTYNEXTDOOR が歌い上げる冒頭部。天まで響きわたるオルガンと、温かみのあるオーヴァードライヴのギターサウンドは、否応無しに教会という場における歌の効用を思い起こさせられる。
 白眉は後半だ。オルガンの持続音が響くなか、天上を指差しながら Kid Cudi が歌うのは、Vanilla Fudge の“Take Me For A Little While”の冒頭の一節だ。「俺は君に愛されるように努力してる/でもそうすればするほど君は遠くへ行ってしまう」。
 すると雲の間から漏れる光のように 070 Shake の歌声が降臨する。ゴーストタウンを闊歩しながら、彼女は朗々と歌い上げる。
 「もうなにがあっても傷つかない/なんだか自由を感じる/私たちはあのときと同じ子供のままだから/ストーブに手を当てて/まだ血が流れているか確かめる」
 背後で響きわたるスネアと炸裂する残響音は、子供のころに見上げた花火の残照だ。七色の閃光が、ゴーストタウンを見下ろす。大人が築き上げ、やがて荒廃した世界を見下ろす。
 そしてこの子供であることの自由は、カニエの Kid Cudi との KIDS SEE GHOSTS 名義のセルフ・タイトルのアルバム収録の“Freeee (Ghost Town, Pt.2)”へと引き継がれる。「もう痛くない/なんでか分かる?/自由だからだよ/もうなにがあっても傷つかない」。
 070 Shake は「ローリングストーン」のインタヴューに答えて言っている、「血を流しているときは、感覚が麻痺してなくなって(it’s so numb)なにも感じさえしない」と。
 カニエとケンドリックのリリックに表れていた「go numb」に連なるようにここで示唆されているのは、子供になること=感覚をなくすことではないか。
 感覚をなくすこととは、音楽制作に没頭することだ。ワイオミングの大自然の中で。さらには、頭を空っぽにして、韻だけを頼りに即興的にリリックを書いていくことだ。たとえば“I Thought About Killing You”では「親戚(cousins)」と「ムスリム(Muslims)」が、“Yikes”では「ゾンビ(zombie)」と「ガンジー(Gandhi)」と「アバクロ(Abercrombie)」が隣に並び、突発的に縁を持ってしまう。
 精神の空白地帯に頭をもたげる言葉を、即興的に吐き出すこと。彼のライムも、そして様々の発言も、そのような突発を患っている。

 カニエが連発する7曲入りのアルバム群もまた、突発の申し子だ。その中でも、『KIDS SEE GHOSTS』のリズム/サウンドの両面で子供が持ちうる冒険心に溢れる楽曲の数々は、『ye』と対にして、あるいは併せてひとつのアルバムと捉えうる性質を持っている。
 両者が示してくれるのは、カニエが決して手放さないサンプリングという手法を交えて音楽を作ることが、いかに子供に「なる」という感覚と密接かということだ。人生のあるモメントにおいて、それが重要な役割を果たしてくれるかということだ。
 カニエの自己への倒錯的な愛情が、表面張力ギリギリで形をなす彼の音楽に、どのような波紋を広げていくのか。彼自身がまさにそれを期待しているように、僕たちはその一挙手一投足から、目が離せない。

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