「Nothing」と一致するもの

vol.110 史上最悪のスーパーボウル騒動 - ele-king

 アイスランドから帰ってきてすぐにスーパーボウル。日本では節分の2/3が今年のスーパーボウルだった。
 私がスーパーボールを意識するようになったのは、2016年のビヨンセからだ。彼女の新曲“Formation”がハーフタイム・ショーで予告もなしで演奏されたあのときがあったから、2018年は、私はビヨンセのコンサートを見に行くにまで至った。2017年のレディ・ガガ、そして18年のジャスティン・ティンバーレイクは、ビヨンセほどの強烈なインパクトを感じなかったけれど、以来私のなかでスーパーボウルはアメリカでもっとも重要なショーのひとつになった。アーティストたちの気合も感じられる。私にとってスーパーボウルのハーフタイムショーは、アメリカについていろいろ考えさせられる日でもあるのだ。

 今年2019年は53回目を迎え、アトランタの、メルセデス・ベンツ・スタジアムで、ニューイングランドのペイトリオッツとLAラムズが対戦した。私はゲームについてはいまだに理解できないけれど、とりあえず結果は13-3でペイトリオッツが勝ったことはわかるし、ペイトリオッツのエースのトム・ブラディは、共和党でトランプ支持者だと言われていて(彼とは友だちらしい)、彼の完璧さが嫌い、という人が私の周り(インディ系)の大多数で、みんなラムズを応援していたので、スポーツ界でのトランプな出来事=退屈なゲームとブーイングを浴びた(もっともスコアも低かった)。

 さて、今年のハーフタイムショーだが、マルーン5が出演。ゲストは、トラビス・スコットとアウトキャストのビッグ・ボイ。気の毒なことにマルーン5は、ただそこにいただけと、かなりの酷評を受けている
 とはいえ、ビッグ・ボイがキャデラックに乗って登場したときは、私も少し上がった。が、ショー全体には気合が感じられなかった。それでも15分のあいだでコート姿から上半身裸になるアダム・ラヴィーンの変わり身には、ほーっと思った。

 そもそも何故このホワイトすぎるバンドがハーフタイムショーなのだろうかという疑問。調べると、カーディB、リアーナ、ピンク、ジェイZなどの大物アーティストが出演をボイコットしていたらしい。
 ことは2016年、警官の黒人差別による不当な暴力に抗議して、国歌斉唱で跪いたコリン・キャパニック選手がいまだ試合に出演できないでいるため、彼を支援するアーティストたちはハーフタイム出演をボイコットしているという。
 ハーフタイムショーは、アーティストにとってのハイライトなので、断るのはかなりの決断だと思う。が、カーディBは、マイノリティのために戦ったコリン・キャパニックを支持しないわけにはいかない、とは言っても、カーディはスーパーボウルのペプシのコマーシャルや関連イベントには出演しているんだけど。
 カーディは、キャパニックを支持することで世界に良い変化が生まれればというが、近い将来に来るとは思えない、という。何故なら、自分たちの大統領は傲慢で、人種差別がまた生まれたからだと。いま力を持ってるのはオバマがいた8年間が早く終わって欲しいと思っていた人たちで、とても嫉妬していた連中だ。彼らが彼らの選択で、人種差別がどのようにこの国に影響しているのかを見たときが、ことが変わりはじめようとするときだが、いま、彼らはその決定が国に影響したことを認めたくないという。その通りだろう。

 マルーン5のハーフタイム出演は非難を浴びたが、アダム・ラヴィーンも、それは予想通りというか、耐えられないなら、このギグはするべきではないと言っている。マルーン5とトラヴィス・スコットは、$500,000 (約5千万円)ずつを、ビッグブラザーズ・ビッグシスターズ・オブ・アメリカ、ドリームコープスという公共機関に寄付した。

 アダム・ラヴィーンが乳首を出したことで、何故アダムは良くて、(2004年の)ジャネット(・ジャクソン)はダメなのかという議論が出たり(どうでも良いんじゃないかと思うが)、2016年からのアメリカは、こんな風に変わり、人種差別は無くなっていないし、逆に悪くなっている。2016年からのアメリカはこんな風に変わり、人種差別は無くなっていないし、逆に悪くなっている。今回のスーパーボウルはCNNをはじめいくつかのメディアから「史上最悪」なんていわれているが、私個人が感覚では、 「まったく退屈な」ぐらいの表現のほうが2019年のアメリカに合うのではないかと。

Yoko Sawai
2/4/2019

Swindle - ele-king

 これまでのスウィンドルの作品には過去と現在のさまざまな音楽が参照されてきた。昔の音ならスイング・ジャズのビッグ・バンドのホーン・セクションとか、1970年代のファンクやジャズ・ファンクなどを参照し、それを自身のバック・ボーンであるグライムやダブステップに落とし込んできた。出世作の“ドゥ・ザ・ジャズ”や“フォレスト・ファンク”を収録した『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』(2013年)はそうしたアルバムだ。また世界中のいろいろな国をツアーで訪れ、そこに根づく音楽も参照している。地元のロンドンのほか、ロサンゼルス、グラスゴー、アムステルダム、南アフリカ、フィリピン、中国、日本などの国名や都市名が曲に盛り込まれた『ピース、ラブ&ミュージック』(2015年)や、ロンドン、ロサンゼルス、ブラジルでのセッションからなる3枚のEPをまとめた『トリロジー・イン・ファンク』(2017年)は、旅先でのインスピレーションや現地のアーティストとの交流から生まれたものだ。音楽のジャンルや時代、空間を超えて新しいものを作り出すアーティストと言えるが、それは彼がもっとも影響を受けたアーティストというクインシー・ジョーンズにも共通している。クインシーがかつてビッグ・バンド・スタイルでやったジャズとラテンやブラジル音楽の融合は、確実にスウィンドルにも受け継がれていると思う。クインシーはいろいろなミュージシャンを集めてセッションするのを好み、マイケル・ジャクソンやパティ・オースティンらをヒットさせたプロデューサーでもあるが、いまのジャズ界ではロバート・グラスパーも割と近い部分を持っている。ロバート・グラスパー・エクスペリエンスの『ブラック・レディオ』(2011年)はすべての曲にシンガーやラッパーがフィーチャーされ、彼らとのセッションをラジオ・プログラム風に綴ったものだったが、そこでのグラスパーはプロデューサーとしての側面も持っていた。スウィンドルにもこうしたスタイルは当てはまり、『トリロジー・イン・ファンク』でのD・ダブル・Eやゲッツなど、彼の多くの作品にはグライムのラッパーやシンガーがフィーチャーされ、『ピース、ラヴ&ミュージック』にはラジオ・プログラム風の構成も見られる。

 このたびリリースされた新作『ノー・モア・ノーマル』の制作風景も、グラスパーが『ブラック・レディオ』でやったのとほぼ同じものだ。ピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオとレッド・ブルのスタジオを2週間ほど借りて、そこにゲストが入れ替わり立ち代わりやってきて、ジャム・セッション的なものをやっていく中からできたそうだ。データ・ファイルの交換で音を作り、メールで送ってもらったヴォーカル・パートをトラックに乗せるというベッドルーム・プロデューサー的なやり方ではなく、物理的な制約がない限りは実際にミュージシャンと顔を合わせ、コミュニケーションをとりながらレコーディングするという昔ながらの音楽制作のやり方で作られたものだ。ライヴではバンド・スタイルの演奏にこだわる彼らしく、基本的に生の演奏を好むミュージシャンシップに溢れる人なのだろう。グライムやダブステップ系の作品としては珍しく、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどのストリングスやホーン・セクションがふんだんに使われ、それらもサンプリングではなく生演奏というゴージャスさ。“ワット・ウィ・ドゥ”や“ドリル・ワーク”などにオーケストラを用いた昔のサントラ的な雰囲気があるのはそのためだ。ゲスト・シンガーにはグライムのレジェンドであるP・マニーとD・ダブル・E、昨秋にニュー・アルバムを発表したばかりのグライム界のカリスマのゲッツなど親交の深い面々に、ブリストルのスポークンワード・アーティストのライダー・シャフィーク、『トリロジー・イン・ファンク』でも共演したR&Bシンガーのデイリー、レゲエ・シンガーのキコ・バンやエヴァ・ラザルス、ブルー・ラブ・ビーツの作品などにフィーチャーされるラッパーのコージェイ・ラディカル、ロンドンのシンガー・ソングライターのエッタ・ボンドなど多彩な面々が参加。レゲエにソウル、グライムにヒップホップと、いろいろな要素が絡み合ったロンドンらしいサウンドということは、このラインナップを見てもわかるだろう。ミックス・エンジニアも旧知のジョーカーが担当するほか、随所でトーク・ボックスを披露するキャメロン・パーマーも“ドゥ・ザ・ジャズ”や“フォレスト・ファンク”の頃からの付き合いだ。

 演奏はスウィンドルがキーボードやアナログ・シンセなどを演奏するほか、ヌビア・ガルシア、マンスール・ブラウン、ユセフ・デイズ(ユナイテッド・ヴァイブレーションズ、ルビー・ラシュトン、元ユセフ・カマール)などのジャズ・ミュージシャンの参加が目につく。またマンチェスターの9人組ブラス・バンドのライオット・ジャズも参加しているが、このトランペット奏者のニック・ウォルターズはルビー・ラシュトンのメンバーで〈22a〉とも親交が深く、そうしたことも含めていまのサウス・ロンドンを中心に起きているUKジャズの新しいムーヴメントと出会ったアルバムでもある。シンガー・ソングライターのアンドリュー・アションも今回はギターとベース演奏で参加している。ユセフのドラムにマンスールのギター・ソロがフィーチャーされた“トーク・ア・ロット”は、そうしたミュージシャンの即興性溢れるプレイを引き出した作品。ヌビアがサックスを吹く“ラン・アップ”、マンスールとライオット・ジャズの参加した“カミング・ホーム”は、これまでの『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』や『トリロジー・イン・ファンク』同様、土台のサウンドにあるのはファンクだ。アンドリュー・アションをフィーチャーした“リーチ・ザ・スターズ”もキャメロン・パーマーのトーク・ボックスが印象的なファンクで、昨年〈ブレインフィーダー〉から『レジスタンス』をリリースしたブランドン・コールマンあたりに近い印象。Pファンクからザップあたりの参照が感じられるナンバーであり、UKのダブステップやグライムの文脈にありながら、US西海岸のファンクやソウルの影響を受け、現在ならアンダーソン・パークからルイス・コールなどとの共通項も見いだせる作品と言えよう。エッタ・ボンドとコージェイ・ラディカルが歌う“カルフォルニア”はジ・インターネット的だ。今回はロンドン以外にロサンゼルスのスタジオで録音したものもあるそうで、いろいろな場所の音を体内に取り込むスウィンドルらしい作品と言える。

Jamison Isaak - ele-king

 この『Cycle Of The Seasons』は、その名のとおり、めぐる季節を感じさせてくれるアンビエント・ミュージックである。あるいは観葉植物のようなオブジェのようにそこにある環境音楽でもある。まさに瀟洒なインテリア・ミュージック。もしくはモダン・クラシカルな音楽集。
 いずれにせよ流していると空間に良い空気やムードが生れるタイプの音楽だ。たとえるならブライアン・イーノのアンビエント音楽の21世紀版か、それともペンギン・カフェ・ オーケストラの室内楽のエレクトロニック版か、もしくは尾島由郎の環境音楽の系譜にあるアンビエント音楽か、それともニルス・フラームなどモダン・クラシカル音楽の流れにある同時代的な音楽家か。要するに、そういったインテリアな音響音楽の系譜の作品なのである。

 本作は カナダのブリティッシュ・コロンビアを活動拠点とするティーン・デイズのジャミソン・イサークによる本人名義のアルバムである。ティーン・デイズについてもはや説明不要かもしれない。2010年代のチルウェイヴ・ムーヴメントによってその頭角を表し、すでに多くのリスナーを獲得している音楽家だ。
 2012年にリリースしたファースト・フル・アルバム『All Of Us, Together』(2012)が話題を呼び、2015年にはバンド編成による『Morning World』(2015)もリリースするなど、彼の才能と活動はムーヴメントに留まるものではない。
 2017年には自身のレーベル〈Flora〉から美しいアンビエント・ポップ・アルバム『Themes For Dying Earth』と、そのアウトテイク集的なアンビエント・アルバム『Themes For A New Earth』という連作を発表し、コンポーザーのみならずサウンド・デザイナーとしても類まれな才能の持ち主であることを改めて示した。
 2018年は『Themes For A New Earth』からの流れを継ぐように、〈Flora〉からジャミソン・イサーク名義でアンビエント・クラシカルな「EP1」と「EP2」をデジタル・リリースした。くわえてミニマルな『Spring Patterns』もカセット・リリースする。二作とも電子音や楽器が密やかな会話のように音楽を織り上げ、小さな環境音やの微かなノイズがレイヤーされるミニマルかつアンビエントなヴォーカルレスの音楽だ。モダン・クラシカルな音楽とも共振する「EP1」と「EP2」(エンジニアのジョナサン・アンダーソンのペダル・スティールが良いムードを醸し出している)、スティーヴ・ライヒのミニマル・ミュージックを思わせる『Spring Patterns』という作風の違いも興味深い。

 本作『Cycle Of The Seasons』は、「EP1」「EP2」「Spring Patterns」を1枚のCDにまとめたアルバムでもある。とはいえお手軽な企画盤ではない。リリースジャミソン・イサークが主宰する〈Flora〉からのリリースでもあり(日本側のリリース・レーベルは〈PLANCHA〉)、彼の美意識がアートワークにまで反映された素晴らしいアルバム作品に仕上がっているのだ。収録はリリース順、全16曲を収録している。1曲めから8曲めまでが「EP1」「EP2」の収録曲で、9曲めから16曲めまでが『Spring Patterns』収録曲となっている。
 通して聴くと、イサークの音楽日記/随想を聴いている気分にもなる。ジャミソン・イサークによる2018年の音/音楽の記憶と記録といってもよいだろう。いやそもそも〈Flora〉じたい、レーベル名、アートワーク、アルバムやタイトルからも分かるように季節や地球の円環を意識しているものが多いのだ。つまりジャミソン・イサークが生きるカナダという地における季節のサイクル、花や木の円環、彼の人生、その変化が、その音楽に込められているとはいえないか。
 中でも本人名義のEPシリーズは、イサークのパーソナルな思いや感覚の結晶したライフ・ミュージックのように思えた。折々の思いを綴った日記のようなアンビエント音楽とでもいうべきか。特にピアノと電子音が密やかなタペストリーを紡ぎ出す“Wind”や“Animals”という曲は、ゆったりとした時の流れに、間接照明のやわらかい光を当てるようなサウンドとなっていて本作を代表する曲に思えた。まるで日々の記憶を溶かしていくようなトラックなのだ。

 本作を再生すると、まるで音と空間が新たに関係を結び直し、その場の空気が不意に変わっていくような感覚を覚えた。小さなアート作品を部屋に飾るように、環境と共にある音楽とでもいうべきか。つまりは「環境音楽」の現在形である。あたりまえの生活の中に、繊細な色彩のアンビエンスを添えてくれる、そんな音楽集/アルバムである。

Bbno$ - ele-king

 カナダでファーウェイのモン副社長が拘束された後、カナダ資本のショップが中国での開店時期を遅らせるなど両国の関係悪化が懸念されたりもしたけれど、ヴァンクーヴァーのラッパー、ベイビーノーマニー(BabyNoMoney)ことアレキサンダー・グムチアンはむしろ中国だけで大スターになっている。中国初の少年アイドル、TFボーイズのメンバーが彼の曲で踊っているヴィデオをソーシャル・メディアにアップしたらしく、一気に彼の名が知れ渡たったため、中国に行けば地元でもやったことがないような大きな会場でライヴをやるようになったのだという。流行りのサウンドクラウド・ラッパーとして知られるグムチアンの曲をTFボーイズがどうやって見つけたかは謎だけれど、おそらくはまだグムチアンがトラップをコピーしていた時期のものを材料に「ハーレム・シェイク」のマネでもしようと思っただけなのだろう。グムチアンがトラップにこだわっていた時期は2年ほどで、今年に入ってリリースされた『Recess』でも最後の1曲だけはトラップを引きずっているものの、すでに彼はそこから大きく飛躍してしまった。

 音楽に出会ったのは背中を折ったことがきっかけだったというグムチアンはブローク・ボーイ・ギャングというクルーとして活動を開始し、すぐにもひとりになってしまったにもかかわらず、2016年が終わる頃にはとにかく曲を量産し、片端からサウンドクラウドにアップしまくったという。スーサイド・ボーイズやポウヤなどがインスピレーションだったというわりには明るい曲調が多く、実際、それは彼の信条でもあるらしく、『Recess(=凸)』でもリリックのほとんどは自分がいかに成功し、人々に感謝しているかということで占められている。そして、現在でも大学に在籍している彼は背中を折ったことで興味を持った運動学などを専攻しつつ、ラッパーらしくなくありたいという動機から大学の学位を持ったラッパーを目指しているという。そう、汚い言葉を多用し、典型的なマンブル・ラップにもにもかかわらずいわゆるマンブル・ラップにありがちなリリックから遠ざかることも意識的なら、そうした姿勢に導かれたのだろう、『Recess』というアルバムはサウンド的にもあまり聴いたことがない領域へと踏み込んだヒップホップ・アルバムとなった。ひと言でいえばワールド・ミュージックとヒップホップを不可分なものとして結びつけ、それはかつてネプチューンズが試みたポリリズムを飛び石的に受け継ぎ、躍動感を削ぎ落としたものといえる。USメインストリームよりもイキノックスやダブ・フィジックスといった最近のUKモードに近いビート感。実にリラックスしていて、ファティマ・アル・ケイディリとかウエイトレスの流れと結びついたら面白そうなんだけど。

 ワールド・ミュージックと接点を持ったのはサウンドクラウドをたどっていくと、グレイヴス“Meta”にフィーチャーされた時が最初だったのかなあと思う。兆候などというものを探し始めると限りなく存在する参照点に振り回されるだけかもしれないけれど、次にピンときたのは昨年アップされていた“Who Dat Boi”。民族楽器に特有の高音がループされ、明らかに原型はここから始まっている。共にレントラ(Lentra)のプロデュースとなる“tony thot”や“Moves”などがこれに続き、それらとはやや趣向を変えた“Opus”がウェブ上では初のブレイクスルーになったとされている。つまり、この段階ではまだ方向性は厳密に定まっていなかったということで、“Opus”を含む「BB Steps」EPは実にヴァラエティ豊かな内容でもあった。しかし、ソー・ロキとの「Whatever」EPを挟んでリリースされた『Recess』は11曲中8曲でレントラとタッグを組み、完全にサウンド・イメージをひとつに固めている。こういう人は次でまったく違うことをやりそうなので、この先も楽しめるかは未知数だけれど、しばらくこの路線にこだわってくれないかなあと。

愛とユーモアにまみれたエッセー集!

世界から見た日本、日本から見た世界、
その両方を往復する男=マシュー・チョジック。
世界の常識と日本の非常識、
その両方を知る男=マシュー・チョジック。
日テレ「世界まる見え!テレビ特捜部」でお馴染みの蝶ネクタイ男がつづる、
とっておきの21話。

湯船につかりながら、
あるいは電車のなかで、
あるいはベッドのなかで、
1日1話、3週間分のほっこりタイム!

この本を読み終えたら、あなたはたぶん、気を許せる友だちが一人増えた気になっているだろう。
──柴田元幸

多国籍な体験、知識を想像力で何倍にもして伝えるエッセイ! 優しさとはユーモアと知性と想像力だ。
──矢部太郎

どのページ開いても、マシューの可愛さバクハツ! マシューの不思議なキャラが炸裂!!
──園子温

残念ながら日本語はわからないんだけど、もしわかるならマシューの本を読みたいよ。世界を股にかける彼の、優しいカリスマ性を味わえるはずだからね!
──ニコラス・ケイジ

マシューの暖かさが、本の中でしっかり息づいている。そのことがとっても嬉しい!
──高城晶平(cero)


試し読みは ↓ こちらから
①「豆腐と涙とマリファナと」

②「スーパーヒーローのマント」

③「ベトナムのポタージュでカラオケをする」


【著者】
マシュー・チョジック(Matthew Chozick)
1980年アメリカ・コネチカット州生まれ。米・ハーバード大学修士課程、英・バーミンガム大学博士課程修了。2007年に来日。『世界まる見え!テレビ特捜部』(日テレ)、映画『獣道』、『英語で読む村上春樹』(NHKラジオ)等に出演。テンプル大学、千葉大学などで講師を務めるほか、アート関係の出版社 Awai Books を経営するなど幅広く活動。

まえがき

Part 1 海外での冒険の物語
ミス北千住
北京で一日警官
静電気とバナナ
アメリカの感謝祭
豆腐と涙とマリファナと
日本語を話すローマの剣闘士

Part 2 アメリカ生活の物語
スーパーヒーローのマント
ジューイッシュ・サンタがクッキーを食べにやってくる
無人島のパジャマパーティー
エジプト人みたいに歩く
祖母と祖父とのスロウダンス
『デュース・ビガロウ、激安ジゴロ!?』への実存的反応
友人ふたりとビーチで幽霊に出会う

Part 3 世界中の危険な物語
花にまつわる三つのトラウマ
九十九セントの強盗
ベトナムのポタージュでカラオケをする
サウナ、プリン体、秘密のタトゥー問題
ちびくろサンボ
死海でバレエ
バークレーで講演をした次の朝

ボーナストラック:猫の写真と言語の学習法

Jay Glass Dubs - ele-king

 忘れがちなことだけれど、2012年あたりのオリジナル・ヴェイパーウェイヴの特徴のひとつにスクリューすることがあった。スクリューというのはですね、2000年に夭折したヒューストンのヒップホップDJ、DJスクリューが編み出したテクニックで、再生の回転数を下げることで得られる効果を駆使すること(一説によれば咳止めシロップの影響下による)。ゴーストリーな音声などはその代表例だが、スクリューは面白いことにヒップホップ・シーンの外部であるLAのアンダーグラウンドなインディ・ロック・シーン(昨年、食品まつりを出したサン・アロウなんかも関わっていたシーン)へとしたたかに伝播し、そしてヴェイパーウェイヴにも受け継がれた。そうすることによって「蒸気=ヴェイパー」な感触が生まれたのだった。
 スクリューは、楽曲をメタ・レヴェルで操作することによって別もの(ヴァージョン)を創造するという点においては、ダブと言えるだろう。もちろんジャマイカのオリジナル・ダブとは、スタジオにおいて録音されたマルチトラック上のヴォーカルないしは楽器のパートを抜き差しし、あるいはエフェクト(リヴァーブ、そしてエコーやディレイ)をかけながらオリジナルとは別もの(ヴァージョン)を作ることである。音数を減らし、引き算足し算しながら骨組みだけにすることから「レントゲン(x-ray)音楽」とも呼ばれる。
 しかしながらスクリューやオリジナル・ヴェイパーウェイヴのようなデジタル時代の音響工作は、キング・タビーとはあまりにも違っている。なによりも「レントゲン音楽」的ではないし、楽器の部品(パート)を操作するのではなく、音の位相(レイヤー)を操作する。そしてその音像は独特のくぐもり方をする。ジャマイカのダブには、サイケデリック体験における酩酊のなかにも霧が晴れていくような感覚があった。しかし、スクリュー以降の新種のダブはむしろ霧を呼び込んでいるようなのだ。Mars89の作品でも知られるレーベル〈Bokeh Versions〉からリリースされたジェイ・グラス・ダブスの『エピタフ』がまさにそうだ。

 OPNの『レプリカ』をリー・ペリーにコネクトしたような感じというか、『エピタフ』はジャマイカのオリジナル・ダブの基盤であるドラム&ベースを削除することなく継承しつつも、まったく違ったものになっている。鄙びたサウンドシステムもなければ埃もたたないピクセルの世界に踏み込んでいるからだろう。それはひとの生活の何割かがインターネットの向こうに及んでいるというリアリティをただ反映しているぐらいのことかもしれない。
 あるいはまた、“セイキロスの墓碑銘”からはじまる『エピタフ』はコクトー・ツインズと初期のトリッキーをスクリューしたようでもあり、ジェイムス・ブレイクの新作は生ぬるい(ぼくは嫌いじゃない)というひとが聴いても面白いかもしれない。Burialが深夜の侘びしい通りから聴こえるレイヴ・カルチャーの記憶だとしたら、こちらはいったいなんだろう。アルバムには“模倣の新しい型”という曲名があるけれど、タッチスクリーンの向こう側の、暗闇なきダークサイドから聴こえるダンスホールなのだろうか……。いや、この音楽からはなにも見えてこないのだ。
 ジャマイカのオリジナル・ダブにおける音の断片化は、ディアスポラの記憶すなわち観念上の“アフリカ”=理想郷の想起ではないかという説がある。しかし『エピタフ』にはそうした音の断片化はないし、理想郷も想起されない。にも関わらず、エコーがさらにエコーし、ディレイがさらにディレイする世界……いったいどこに連れて行く気だ? 
 なんにせよ興味深いなにかが起こっている、そんな気がしてきた。

Bendik Giske - ele-king

 サックスはもっとも人の声に近い楽器である。そんな話をどこかで聞いたことがある。著名なジャズ・ミュージシャンの発言だったか、身近な知り合いとの雑談だったかは忘れてしまったけれど、その後もちょくちょく耳に入ってくる話だったから、きっと一般的にもそう言われることが多いんだろう。ただ個人的にはこれまで、サックスの奏でるサウンドが人声のように聞こえたことは一度もなかった。あるいは聞こえたとしても、あくまで他の楽器にも置き換えられる、比喩のレヴェルにおいてだったというか。
 コリン・ステットソン以降というべきか、ラヴ・テーマことアレックス・チャン・ハンタイ以降というべきか、近年どうにもサックスとミニマリズム、サックスとアンビエントという組み合わせに惹きつけられてしかたがない。もし仮にサックスがほんとうに人の声に近い楽器なのだとすれば、ミニマル~アンビエントの文脈に落とし込まれたそれが、いま強くこちらの耳を刺戟してくるのはなぜなんだろう。

 昨秋リリースされたシングル「Adjust」(リミキサーにはトータル・フリーダムロティック、デスプロッド、レゼットの4組を起用)で注目を集めたオスロ出身ベルリン在住のサックス奏者、ベンディク・ギスケのファースト・アルバムがおもしろい。自らを「クイア・パフォーマンス・アーティスト」と規定する彼は、ゲイ・カルチャーに関連した「surrender(すべてを与える=身を委ねる)」という行為をテーマに今回のアルバムを練り上げている。いわく、その行為は世界といかに関わるかについて、それまでとは異なる見方を提供してくれるものなのだという。
 このアルバムの制作にあたりギスケとプロデューサーのアマンド・ウルヴェスタは、マイクの設置のしかたをあれこれ工夫し、音符と音符のあいだに侵入する吐息の録音方法を新たに考え出したそうだ。その技術が他の音にたいしても応用されているのか、サックスのキイを叩く指の音だったり、中盤の“Stall”や“Hole”におけるノイズのように、微細な具体音の数々がさまざまなかたちでこのアルバムを彩っていて、ミュジーク・コンクレートとしてもじゅうぶん聴き応えのある仕上がりなのだけど、まさにそれらのノイズに寄り添いながらサックスと人声とが絡み合っていく点にこそ本作の肝がある。件のシングル曲“Adjust”やそれに続く“Up”、あるいは終盤の“Through”や“High”ではサックスが惜しみなくミニマルなフレーズを吐き出す一方、背後では意味を剥奪された人声がひっそりと唸りをあげているが、それらが絶妙に重なり合っていく様に耳を傾けていると、なるほど、サックスが人の声に近いという所感は、両者をともにノイズとして捉え返したときにこそはじめて浮かび上がってくる、オルタナティヴな聴取の可能性なのだということに思い至る。

 アンビエントの文脈におけるサックスと声の活用という点にかんしていえば、ギスケの「Adjust」とおなじ頃にリリースされたジョセフ・シャバソンのアルバム『Anne』にもところどころ惹きつけられる箇所があったのだけれど(たとえばサックスと人の声と鳥の声とその他のノイズが必死にせめぎ合う“Fred And Lil”など)、サックスがふつうに叙情的な旋律を奏でているせいか、はたまた「パーキンソン病を患った母」というテーマのためか、全体としてはセンチメンタルな要素が強く出すぎている感があった。ひるがえってギスケのアルバムには余計なものがいっさい含まれていない。シンプルに音の尖鋭化を突き詰めているという点でも出色の出来だと思う(もしかしたらそれが音に「サレンダー」するということなのかも)。
 では、なぜいまそのような試みが新鮮に響くのか? それはたぶんギスケの音楽が時代にたいする無意識的な応答になっているからだろう。たとえばオートチューンに代表される変声技術の流行は、地声とはまたべつの角度から声なるものを特権化しているとも考えられるわけで、となればギスケのこのアルバムはそれにたいするすぐれた批評としてとらえることもできる……とまあそんなふうに、耳だけでなく思考まで刺戟してくれるところもまた本作の魅力のひとつなのである。

King Midas Sound - ele-king

 2019年はダブに脚光があたりそうだ。昨年はミス・レッドのアルバムをサポートしたザ・バグとMCのロジャー・ロビソンによるキング・ミダス・サウンドが2月14日に新作を出す。フェネスとのコラボ作品『エディション1』以来の4年ぶりのアルバムだ。
 サウンドクラウドにはアルバムの冒頭の曲“You Disappear'”がすでにアップされている。「おまえは消える、おまえは消える、おまえは消える、おまえは……」、ほんとうに消えてしまいそうな、ウェイトレス・ダブ? などと思わず口走ってしまうわけだが、ウェイトレス・グライムの流れともリンクする濃厚なダブ・サウンドである。

 アルバムのタイトルは『Solitude(孤独でいること)』。
 かなり期待できる内容になりそうだ。


Abstract Orchestra - ele-king

 クラブ・ミュージックをジャズの生演奏でカヴァーするという手法は昔からあり、成功例では4ヒーロー、ゴールディー、ソウルIIソウルなどをカヴァーしたリ・ジャズとか、デリック・メイ、ラリー・ハード、マスターズ・アット・ワーク(ニューヨリカン・ソウル)などをカヴァーしたクリスチャン・プロマーのドラムレッスンなどが思い浮かぶ。どちらも2000年代のクラブ・ジャズ全盛期のユニットで、カヴァーしているのはハウス、テクノ、ドラムンベースなど当時の主流だったクラブ・サウンドだが、一方ヒップホップのアーティストによるジャズ的アプローチが目覚ましかったのもこの頃で、その筆頭がマッドリブことオーティス・ジャクソン・ジュニアだろう。彼が2000年代初頭にやっていたイエスタデイズ・ニュー・クインテットは、架空のバンドという設定(実際は一人多重録音による生演奏)で昔のジャズやジャズ・ファンクなどをカヴァーし、最終的にそこへヒップホップのビート感を注入することにより、ヒップホップ・ファンからもクラブ・ジャズ・ファンからも支持を得た。マッドリブは1960~70年代のヴィンテージ感溢れるジャズ演奏を意図的に再現しており、こうしたマッドリブによるジャズとヒップホップを繋ぐアプローチを経て、その後カルロス・ニーニョとミゲル・アトウッド・ファーガソンによるJディラ・トリビュート『スィート・フォー・マ・デュークス』(2009年)とか、スラム・ヴィレッジのエルザイがジャズ・バンドのウィル・セッションズと組んだナズのカヴァー・アルバム『エルマティック』(2011年)などが生まれてきた。アブストラクト・オーケストラの『マッドヴィレイン・ヴォリューム・1』は、そんなマッドリブをジャズ・サイドからカヴァーしたものだ。

 アブストラクト・オーケストラはイギリスのリーズを拠点とするビッグ・バンドである。リーダーはロブ・ミッチェルというサックス奏者で、彼は2000年代から活動するファンク・バンドのハギス・ホーンズのメンバーでもあり、サブモーション・オーケストラのアルバムにも客演したことがある。他にハギス・ホーンズのメンバーが加わるほか、ジャズ、ソウル、ファンクなどのセッション・ミュージシャンが総勢20名近く参加する。デビューは2017年で、その名も『ディラ』というアルバムは全編に渡ってJディラの作品(スラム・ヴィレッジやドゥウェレなど彼がプロデュースしたものも含む)をカヴァーするほか、“ディラ・ミックス”というメドレー・スタイルのナンバーもやっていた。それまでもJディラをカヴァーした作品はいろいろあったが、ビッグ・バンドによるジャズ・ファンク・スタイルでのカヴァーということで、とりわけジャズ・ファンの間で大きな話題となった。ロバート・グラスパーらの活躍を介してJディラはジャズ・ファンの間にも認識される存在だが、アブストラクト・オーケストラの演奏はグラスパーなど現在のジャズ・ミュージシャン的なものとは違い、むしろマッドリブのように1960~70年代の空気感や雰囲気を感じさせる、ある意味でレトロなもの。すなわちイエスタデイズ・ニュー・クインテットをビッグ・バンドへ拡大したのがアブストラクト・オーケストラとも言えるだろう。

 その『ディラ』に続く新作が『マッドヴィレイン・ヴォリューム・1』で、今回はマッドリブがMFドゥームと組んだマッドヴィレインのアルバム『マッドヴィレイニー』(2004年)収録曲をリメイクしている。『ディラ』の中でもJディラとマッドリブによるジェイリブのカヴァーもやっていて、今回はマッドリブ方面からのアプローチとなる。基本的にはインスト演奏によるカヴァーで、MFドゥームの代わりに一部に女性コーラスが入るという構成。『ディラ』での“ディラ・ミックス”同様に“マッドミックス”というメドレー曲もある。『マッドヴィレイニー』でマッドリブは豊富な音楽知識を駆使し、ジャズ、ヒップホップ、ソウル、ファンク、ディスコ、サントラなどいろいろなところからネタを引っ張ってきてサンプリングしていたが、アブストラクト・オーケストラはその元ネタとなった原曲も導き出す形で再現する。“アコーディオン”はデイダラスの“エクスペリエンス”という曲中のアコーディオン・フレーズが元となっているが、アブストラクト・オーケストラはそれをうまくホーン・アンサンブルでアレンジしている。マッドリブはブラジル音楽もいち早く取り入れたプロデューサーで、マルコス・ヴァーリ作曲によるオズマール・ミリート&クアルテート・フォルマの“アメリカ・ラティーナ”を“レイン”でサンプリングしていたが、その原曲とマッドヴィレインでのサンプリング・パートのふたつを踏まえたものがアブストラクト・オーケストラの演奏となっている。もちろん単なる原曲のコピーではなく、そこに自身の即興やアレンジを加えた演奏となっているので、元ネタを通過した上でのクリエイティヴィティも発揮されている。生演奏をサンプリングで解体・加工して新たな曲を作り、それをさらに生で演奏し直すという二重に張り巡らされた引用が『マッドヴィレイン・ヴォリューム・1』にはあり、ジャズのカヴァー演奏においてもっとも重要なアレンジ・センスを見せてくれる作品集となっている。

The Future Eve featuring Robert Wyatt - ele-king

 日本人アーティストによるThe Future Eveというプロジェクトが、ロバート・ワイアットとのコラボ作品を3月に〈flau〉からリリースする。
 The Future EveのTomo Akikawabayaなるひとは、調べてみるとじつは活動歴が長いアーティストで、80年代にアルバムを6枚もリリースしている。初期はダークウェイヴ系のシンセポップで、discogsを見ると作品は耽美的なデザインにまとわれている。最近アメリカの〈Minimal Wave〉というレーベルがそれら作品を発掘し、コンピレーションとしてリリースした。にわかに再評価されているらしい。
 The Future Eveがロバート・ワイアットにコタクトを取ったのは、1998年のことだというが、当時まったく無名で遠方に住んでいた彼の申し出に対して、ワイアットは快く応じたそうだ。
 いずれにしても、今回のアルバムは20年の歳月を経てのリリースになる。聴いて感じ、なんとも幽玄な世界というか、これは、注目するしかないでしょう。

■ The Future Eve featuring Robert Wyatt - KiTsuNe / Brian The Fox

Title: KiTsuNe / Brian The Fox
Artist: The Future Eve featuring Robert Wyatt
CAT#: FLAU61
Release Date: March 22th, 2019
Format: 2LP/2CD/DIGITAL
Product URL: https://flau.jp/releases/kitsune-brian-the-fox/
Pre-Order: https://flau.bandcamp.com/album/kitsune-brian-the-fox


 音楽活動の停止を発表しているRobert WyattとTomo Akikawabayaとして近年再評価が進んでいる日本人アーティストThのプロジェクトThe Future Eveのコラボレーション作品が発表。

 KiTsuNe / Brian The Foxは、Tomo Akikawabayaとして80年代より活動し、Minimal Waveからのリイシューによって近年世界的な再評価が高まる日本人アーティストThが、ロバート・ワイアットから1998年に受け取った1本のDATテープから始まったコラボレーション作品。録音された一篇の詩とベーシックなトラックがThのギター、半谷高明によるシンセサイザー、ミックスによって拡張され、膨大なワイアットのコラボレーションの中でも最もオブスキュアな作品となったオリジナル・バージョン(Disc1)。無常を見るかのように繰り返されるワイアットの声と詩、テープのMIDI変換によってプリミティヴな音階を獲得し、まるでアクションペインティングのように特異な動きへと変貌を遂げ、生命の輪廻が表現されたというリング・バージョン(Disc2)。電子エスノ・アンビエントともコールドウェイヴの極北とも呼べるかのような強烈な密度を持ったこの作品は、成長と増幅を遂げ、様々なプロジェクトが現在も派生している「KiTsuNe」の広大な世界の端緒となる貴重なドキュメントといえます。
 DISC1「02.03」はワイアットのアルバムCuckoolandに収録された「Tom Hay’s Fox」の原曲。マスタリングをTaylor Deupreeが担当、アートワークにはTh自らが撮り下ろした写真が使用され、デザインをModern Love諸作を手がけるRadu Prepeleacが手がけています。


 20世紀も終わりが近づいてきた頃、Thからこんなメッセージが届く‐
「僕たちが作業を出来るような新しい素材がありますか?」
 素材はあった。Brian the Foxだ。宙に浮いていてまだ手の入っていない、ベーシックなアイデアのままだった。
 私の曲には珍しく、厳格なテンポは無く、俳句よりも短い詩!を書こうとしたものだった。
 曲の最後は即興だった‐間をおいてから最後の和音になるのは、どの和音にするか決めかねていたからだ…(自宅のカセットを使いテープに直接録音、「作品」ではなかった。)
 彼らは私のアイデアを美しく高めていった。
── Robert Wyatt


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