「Nothing」と一致するもの

Takkyu Ishino - ele-king

 一連の騒動から数ヶ月。いまだ Yahoo! や Google を賑わせている石野卓球だけれど、先月から鬼のような勢いでリリースを重ねてもいる。6月12日にはじまった毎週1曲ずつのシングル投下は、現在“Turkish Smile” “Koyote Tango” “John RydoOn”と続いており、今週は“Chat on the beach”が、そして来週は“Bass Zombie”がリリースされる予定だ。
 建前と同調圧力とビジネスの都合が入り混じった泥水の降り注ぐなかを、タトゥーや渡独や数々のツイートによって、すなわち確固たる決意とユーモアをもって見事に切り返してきた石野卓球。この一連のシングルも、彼の反撃の一手と捉えて構わないだろう。いま日本で誰がいちばんオルタナティヴかって、卓球をおいてほかにあるまい。今後彼(ら)がどのような活動をしていくのか気になるところだが、ひとまずはこの5週連続リリースの完結を見守ろうではないか。

石野卓球、 新曲の5週連続配信リリースが決定!

石野卓球の新曲5曲が、6/12(水)より、5週連続で、各ダウンロードストア及びサブスクリプションサービスで配信されることが決定。全てのジャケット画像も公開された。

配信日と楽曲タイトルは以下の通り。

6/12(水) Turkish Smile
6/19(水) Koyote Tango
6/26(水) John RydoOn
7/3(水) Chat on the beach
7/10(水) Bass Zombie

6/12(水)に配信される“Turkish Smile”は、2018年、実験的ファッションプロジェクト・Noodleのオリジナルムービー(https://youtu.be/Xt5ddL7fQlc)に提供した楽曲のフルバージョン。既に石野卓球のDJでも使用されており、世界中のフロアを沸かせている1曲。

“Turkish Smile” “Koyote Tango” “John RydoOn” “Chat on the beach”の4曲は、ミックスを石野卓球と得能直也が、“Bass Zombie”は石野卓球と奥田泰次(studio MSR)が手掛けている。マスタリングは、全曲、木村健太郎(kimken studio)。“Chat on the beach”には、ゲストとして吉田サトシがギターで参加。各曲のジャケットは、石野卓球がコンセプトとディレクションを、杉本陽次郎がデザインを担当した。

尚、全曲、ハイレゾ配信(WAV 24bit / 48kHz)も同時スタートとなる。

■“Turkish Smile” “Koyote Tango”配信リンクまとめ(Linkfire)
Turkish Smile – https://kmu.lnk.to/58eNS
Koyote Tango – https://kmu.lnk.to/IklKi

■石野卓球(Takkyu Ishino) プロフィール
1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル《Love Parade》のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ《WIRE》を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。
2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。

HP – https://www.takkyuishino.com/
Twitter – https://twitter.com/takkyuishino?lang=ja
Instagram – https://www.instagram.com/takkyuishino/

COLD WAR あの歌、2つの心 - ele-king

 「冷戦」とのタイトルだが、これは政治映画ではない。クラシカルな佇まいを持った情熱的な恋愛映画であり、音楽映画だ。陰影に富んだ白黒のイメージ、スタンダードの画面サイズ、ぶつかり合いながらも惹かれ合う運命にある男女……。それらを数々の歌と音楽が情感豊かに彩っていく。90分足らずの時間、観る者はただ陶酔的な心地になるばかりだ。
 いや、政治映画ではないと書いたが、東西対立に翻弄された1950年代のポーランドにあっては当然、愛も音楽も政治からは逃れられない。時代がそれを許さなかった。ただ、だからと言ってこれが「特殊な時代」を舞台にした過去に憧憬するばかりの映画かと言えば……前作『イーダ』と本作で現代ポーランドを代表する映画作家となったパヴェウ・パヴリコフスキは、本作をたんなるクラシックの模倣とせず、どこかで現在と繋ぎとめているように思える。

 映画は農村の民たちが民謡を歌うシークエンスから始まるが、すぐに主人公の音楽家ヴィクトルがどうやら民族音楽を蒐集している人間だとわかる。各地に赴き民謡のフィールド・レコーディングを行い、それを国立民族舞踊団のための音楽としてアレンジするのだ。あるときヴィクトルは団員の選抜で若い女ズーラと出会い、父親を殺したとも噂される彼女のどうにも危うい魅力に惹きつけられる。すぐに激しく愛し合うふたり。やがて舞踊団はソヴィエト指導者の賛歌をプログラムに入れざるを得なくなり、芸術的自由を求めてヴィクトルは西側への亡命を目指す。ともに逃げようと誘ったズーラは約束の場所に現れずヴィクトルはひとりで国を出るが、その後もふたりは場所を変えて何度も出会い直すこととなる――。
 本作における舞踊団はポーランドに実在する民族芸術団である「マゾフシェ」をモデルにしており、国民の公式音楽とも言えるものを当時の国民に提供していたという。その音楽の魅力をパヴリコフスキ監督は5年前に再発見したそうだが、本作において非常に重要な役割を与えている。とりわけ、主題歌に位置づけられるのが民謡「2つの心」である。ヴィクトルはまずその歌を農村の少女が歌っているのを発見し、舞台のための音楽へと発展させる。そしてその後、同じ歌が50年代のパリではしっとりとしたジャズのアレンジで姿を変えて登場することになる。
 どのシーンを切り取っても絵になる本作だが、ハイライトはこの歌の場面だろう。それはヴィクトルとズーラが国を離れ、違った姿で生き延びることを象徴するものだ。西側の音楽に乗せてポーランド語で歌うズーラの周りを、ゆったりとエレガントに動くカメラ。監督は前作『イーダ』との最大の違いが移動撮影にあり、またそれは音楽のためだったと語っているが、ここでの360度パンのような言ってしまえば「わかりやすい」演出は『イーダ』ではあまり見られなかったはずだ。だがそのことが本作にある種の大胆さを与えており、映画的な快楽を高めている。

 ヴィクトルは亡命先のパリでジャズをやるわけだが、ポーランド民謡をそこに混ぜ合わせつつ音楽活動を続けている。海外の音楽を聴いている人間なら誰しも、似たようなことが数えきれないほど起きてきたことを知っているはずだ。つまり、政治的理由で国を逃れた者たちがいつだって音楽をともに越境させ、それまでになかった新しいものとして鳴らし始めることを。そうして故国の音楽は、姿を変えながら生き続けるのである。
 何度も別れたりくっついたりを繰り返す男女の姿は監督の両親からインスパイアされたものだそうだが、彼はその物語をそのままトレースするのではなく、何より音楽を鍵とすることで主題を浮き彫りにしている。政治的困難に人間が晒されたとき、それでも迸る情熱がどうしようもなく国境を越えていくこと、である。だから、1950年代のヨーロッパを舞台にしたこのロマンティックなラヴ・ストーリーは、その古めかしい見た目とは裏腹に、人間の移動が不自由になりつつある現代とたしかに重なっている。いま、愛と音楽は自由を求めてどこまでも移動することが可能だろうか。そのヒントを得たいのであれば、わたしたちはこの美しい映画にただ身を投じるだけでいい。

Steve Lacy - ele-king

 オッド・フューチャーから派生したバンド、ジ・インターネットのギタリストであるスティーヴ・レイシーがリリースしたファースト・ソロ・アルバム。本作のリリース前日に21歳になったばかりで、グループ内では最年少の彼だが、ジ・インターネット加入直後、サード・アルバム『Ego Death』の約半数の曲にプロデューサーとして関わったのを手始めに、その後もケンドリック・ラマーやJ・コール、ゴールド・リンク、さらにソランジュやロック・バンドのヴァンパイア・ウィークエンドまで、実に様々なアーティストの作品を手掛け、若き天才プロデューサーとして注目を浴びている。なお、ジ・インターネットからはヴォーカルのシドやプロデュース/キーボード担当のマット・マーシャンズを筆頭に、他のメンバーもすでにソロ、あるいはユニットという形でグループ外でも作品をリリースしてきたが、スティーヴ・レイシーも同様に2017年にデビューEP「Steve Lacy's Demo」をリリース。“デモ”とは名乗っているが、ジ・インターネットのサウンドとも少々異なる、インディ・ロックの影響も強く感じられるファンク・トラックは、リリース当時まだ18歳であった彼の秘めた可能性を感じさせる作品となった。

 前述のようにプロデューサーとしての注目度が上がっているいま、最高のタイミングでリリースされた本作だが、そんな期待を裏切らない仕上がりになっている。元々はiPhoneでビートを作ったり、ヴォーカルのレコーディングも行なっていたというスティーヴ・レイシーだが、そんなエピソードとも繋がるローファイ感はいまも彼の大きな持ち味となっており、ミニマルにビートが刻まれる先行シングル曲“N Side”や1曲目“Only If”などはその典型と言えよう。そんなビートに重なる彼のギターとヴォーカルの何とも気だるく、そして同時に耳に染み込んでくる心地良い響きの素晴らしさ。続く“Like me”も似たようなテンションではじまり、そんな流れでアルバムが進行していくのかと思いきや、その予想は大きく裏切られる。9分を超える長尺の“Like me”は3つのパートに分かれているのだが、全く異なる曲調に展開しながら、バイセクシャルであるという彼自身の憂いが曲全体に滲み出ている。かと思えば、続く“Playground”では幸福感溢れるギター・ポップが展開されるなど、アルバム前半だけでも1曲ごとに実に激しく変化していく。その表現力の幅広さはEP「Steve Lacy's Demo」を軽く飛び越えており、それはもちろん、EP以降のジ・インターネットでの活動や彼自身のプロデュースワークやフィーチャリングなどでも培われていったものであろうが、その才能の豊かさには恐れ入る。彼の数多い引き出しにはロックやニューウェイヴなどの要素もあり、曲によっては多少好みの分かれるところもあるだろうが、このまとまりの無さや、良い意味での荒さは本作にとっては大きなプラスだ。

 21歳という年齢を考えみても、末恐ろし可能性を秘めたスティーヴ・レイシーのデビュー・アルバムであり、そんな才能を引き出した、ジ・インターネットというグループの凄さにも改めて恐れ入る。今後、この引き出しの多さをそのまま保ちながら、さらにパワーアップしていくのか? あるいは何かひとつ道を見出して、突き進んで行くのか? “N Side”のようなスタイルは当然、今後も継続していくであろうが、個人的には前出の“Playground”や“Hate CD”のようなファンキーなギター・ポップ路線は、彼にしか出来ない表現のひとつだと思うので、今後も期待しています。

Kenmochi Hidefumi - ele-king

 けっこう前の話になってしまうが、GW中に木津毅君とbutaji君と代々木公園で開催していた東京レインボープライドで会って、いっしょに水曜日のカンパネラのライヴを見たのだった。コムアイ、人気者だったなぁ。オオルタイチのコズミックなサウンドをフィーチャーしたそのライヴが終わってから、おそらくその場にいたであろうケンモチヒデフミにひと声をかけようと大盛況の会場内を探したのだけれど……人びとのパワーに圧倒され……とても辿り着くことができなかった。どこいるんだ、ケンモチヒデフミ……そう思っていたら、ここにいた。

 ケンモチは足をシャカシャカ素速く動かし、フットワークに興じている。水曜日のカンパネラのサウンド面をコントロールするこの男は、去る5月に9年ぶりとなるソロ・アルバムをリリースした。それは彼がここ数年触発されていた音楽、シカゴのゲットー・ミュージック、ないしは南アフリカのゴムを咀嚼した音楽である。そう、ここにはあの殺気だったリズムをヒントにしたゲットー・スタイルの新解釈、ドリルでもジャージー・クラブでもない、言うなればその日本ヴァージョンとも呼ぶべきサウンドが創出されている。水カンでは黒子に徹しているケンモチだが、意外なことに彼は機敏なダンサーだったのだ。
 アルバムは、シカゴのゲットー・ダンスと久石譲との出会いのような曲“Aesop”ではじまる。激しさとメロウネスが溶け合うこの美しいトラックは、“Hippopotamus”や““Fish Sausage””と並んで本作において最高の曲だ。続く“BabyJaket ”はチージーな曲調のいかにもJ-Pop式のディスコといった感じで、しかしそれで相手を油断させておいてフェイントからシュートというのが今回のケンモチである。ゲームセンターで鳴っているかのような“RoboCop”においてリズムは断片化され、スピードアップする。そしてスピードに乗った状態のまままシュート、“Jaburo”ではテクノとR&Bがシュールに混じり合う。
 過剰さ、キッチュさ、小学4年生が遊んでいるかのような子供っぽさは、欧米人が日本人を見るときのひとつのステレオタイプである。お望み通りの現代日本オリエンタリズム、ハローキティのゲットー・ダンスにようこそ、そう言わんばかりの展開のなかで、“Fish Sausage”はコーネリアスの“スター・フルーツ~”の甘い恍惚にもっとも近づいた曲だ。いや、それは気のせいかもしれない。支離滅裂な“Mountain Dew”や“Fight Club”の暴走が片っ端から夢を打ち砕いていく。
 アルバムは、チルアウトな感覚を持ったメロウな“Hacienda”を経由して、最後は陶酔的な“Tiger Balm”で終わる。『沸騰 沸く』は、悪ふざけたっぷりだが、先にも書いたように奇妙な叙情性を持ち合わせている。食品まつりのフットワークが温泉街だとしたら、こちらは渋谷のハチ公前だろう。ひたすらケオティックで、キッチュで、なにごともスピーディーで過剰。ケンモチヒデフミはシカゴのゲットー・スタイルを、もののみごと現在の東京に投射させたと言える。
 
 『沸騰 沸く』とほぼ同時期にリリースされた、ケンモチヒデフミがプロデュースしたシャンユー(Xiangyu)のファースト・シングル(といっても7曲入りだが)も、音楽的にはケンモチのソロ作と連なっている。こちらはゴムを彼なりに咀嚼し、ポップ・ソングのなかで展開している。もしこれが彼にとって水曜日のカンパネラに次ぐプロジェクトだとしたら、“Go Mistake”のナンセンス・ラップとキッチュなトラックからなる世界は、現代日本オリエンタリズムとして充分に機能するだろう。しかしシャンガーンを取り入れた“プーパッポンカリー”の巧妙さは、ちょっとした新しい可能性を感じる。ここで描かれている東京は、もはや異国のような東京であり、生活感のない冗談のような都市の姿だ。シャンユーの早口ラップはゲームのようで、“風呂に入らず寝ちまった”や“ 餃子”のような曲は、このぐらい笑ってなければやり過ごせないということなのだろう。
 まあなんにせよ、コムアイは屋久島に行ったというが、ケンモチときたら……どこまでもナンセンスで、しかしながら、『沸騰 沸く』も『はじめての○○図鑑』も、目を見張るほどのエネルギーが炸裂している。ケンモチヒデフミのどこにこんなエネルギーがあるのか、今度会ったときにぜひ訊いてみよう。
 
 

Flying Lotus - ele-king

 通算6作目、じつに5年ぶりとなる待望のアルバムをリリースし、大いに称賛を浴びているフライング・ロータス。この秋には単独来日公演も決定し、ますます熱は昂まるばかりだけれど、多彩なゲストを迎えさまざまなスタイルを実践した渾身の新作『Flamagra』は、彼のキャリアにおいてどのような位置を占めているのか? そしてそれはいまの音楽シーンにおいてどのような意味を担っているのか? 原雅明と吉田雅史のふたりに語り合ってもらった。

ひとりで作ってきたトラックメイカーがそこからさらに成熟したことをやろうとすると、たいていは生楽器を入れたり、あるいは壮大なコンセプトを練るじゃないですか(笑)。彼は今回の新作でそれにたいする答えを出したんだと思います。 (原)

吉田:まずは、原さんが最初に『Flamagra』を聴いたときどう思われたか教えてください。

原:初めて聴いたときは、『You're Dead!』と比べると地味だなと思った。ゲストはたくさん参加してるけど、ひとりで作っている感じがして、すごくパーソナルな音楽に聞こえたんですよ。『You're Dead!』もいろんな人が参加していて、聴いた箇所によってぜんぜん音が違うという印象を受けたんですが、『Flamagra』は、もちろん各曲で違うんだけど、全体をとおして落ち着いていて、統一感のある作品だなと思ったんです。オフィシャルのインタヴューを読むと、今回は自分で曲を書いてキイボードも弾いて、クラヴィネットの音がポイントになっていると。じっさいに使われている音数もそれほど多くない。要素はたくさんあるけど、決めになる音が『You're Dead!』よりも拡散していない感じで、ずっとある一定のレヴェルでアルバムが進んでいくような印象を受けましたね。

吉田:曲のヴァリエーションは多様だけど、ひとつの原理に沿って聴こえるように「炎」というコンセプトを立てて、作り貯めたものをそこに全部入れたかったんだと思います。そのときひとつの軸になるのがクラヴィネットの音色で。ギター不在の今作では、鍵盤と弦楽器の両方の役割を担っているところがある。ソランジュとの曲(“Land Of Honey”)も4、5年前に作ったって言っていたけど、統一感のためにクラヴィネットの音はあとからオーヴァーダブしたんじゃないかと思うくらいで(笑)。それから今作の新しさを考えるにあたって、サンダーキャットを中心としたミュージシャンと一緒に書いてる曲が多い中で、ひとりで書いている曲がポイントになるのではないか。5曲目の“Capillaries”は、ビートやベースのパターンはこれまでのフライローっぽいんだけど、アンビエントなピアノの旋律が中心になることでピアノ弾きとしての彼の新しいサウンドに聴こえる。それから“All Spies”という曲もひとりで書いていて、これはひとつのリフをさまざまな音色のシンセやベースで繰り返し、その周縁でドラムが装飾的な使われ方をするという、シンプルながらひとつずつ展開を積み重ねる楽曲です。重要なのは、特定のサウンドで演奏されたメロディをサンプリングしてループするのではなくて、あくまでもリフとなる「ラドレファラド~」というひとつのシンセのメロディがあって、それをさまざまな音色がユニゾンしながら繰り返し演奏していく。つまりサンプリングループからアンサンブルへの移行を見てとれる。結果としてこの曲は、YMO的な印象もありますよね。そういう多様な楽曲がひとつの原理で繋がっている。

原:YMOは好きだったみたいな話を実際にしているよね。今回はやっぱり自分で曲を書いて、アンサンブルを活かしているのが大きい。

吉田:これまでは仲間のミュージシャン陣が演奏したラインをサンプリングフレーズのようにして彼が後から編集していた印象だけれど、今回はメインとなるリフや楽曲展開をあらかじめ書いて皆で一緒に弾いているようなところがある。今回ジョージ・クリントンが家にきて一緒に曲作りをしたとき、その場でぱっとセッションをしたらスポンティニアスに曲ができて、それがすごく自信になったと言ってますよね。それは自分で理論を学び直したことなんかもあって、ある程度即興的に楽曲を形にできるようになったからだと思うんです。とくに、『Cosmogoramma』以降は超絶ミュージシャンたちの演奏を編集するエディターの側面も強かったと思うんですが、今回は作曲者兼バンドマスターとしても自信をつけたんじゃないかなと。ちなみに俺は最初に聴いたときはポップなところがすごく印象に残りました。これまでのアルバムより多様性があるなと思ったとき、リトル・ドラゴンとやった“Spontaneous”や“Takashi”辺りが、とくにこれまでにない新しい景色だと。じっさいフライローは「もっと売れなきゃいけない」というようなことを言っていたから、意識的にポップな部分を入れているのかなと。そのあたりはどう思いました?

原:ポップさはあまり感じなかったかな。ポップだと思った曲もあるけど、相変わらず1曲が短いから、感情移入する前にすぐ変わっちゃうんですよね。だから、「この曲をシングルカットするぞ」みたいな感じは受けなくて。

コルトレーン一家という自身の出自へのがっぷり四つでの対峙がようやく終わって、みそぎが終わったというか。「俺が考えるジャズをひとまずはやり切った」みたいな感じがありますよね。 (吉田)

吉田:フライローの曲って、たとえばヒット曲とか代表曲がどれかって思い出しにくいですよね。曲が短くてたくさんあるから、曲単位で「あの曲がシングルでヒットした」というよりもアルバム単位で「あのアルバムはこういう感じだったよね」と記憶されている。だけどあらためて聴くと楽曲をさらに細分化した各パーツの部分、たとえば『Cosmogramma』だったら“Nose Art”のキックとベースの打ち方だったり、“Zodiac Shit”のエレピとストリングスとか“Table Tennis”のピンポン玉の音なんかは、とても印象的なんですよね。曲単位では残ってないんだけど、断片としてはけっこう残っている。
フライローがもともと持っているほかのアーティストと違う点は、アヴァンギャルドやアブストラクトさを追求しつつも、そういったエッジの効いたポップさのあるフレーズを量産しているところだと思うんですね。そういうポップさは昔から持っていた。ただ、全体としてはシリアス・ミュージックだった。扱ってきたテーマも、ジャズとどう向き合うかだったり、死とどう向き合うかという、スピリチュアルですごくシリアスで、その番外編としてキャプテン・マーフィーがあったり『Pattern+Grid World』があったりした。『KUSO』で雑多なイメージをコラージュできたことも活かされていると思うんです。今作も最終的にはアルバム後半に並ぶシリアスな楽曲群に回収されるけれど、そこまで展開はこれまでの雑多な世界観全部をひとつのアルバムにミックスしてもいいという感じになっている気がしますね。たとえばティエラ・ワックとやった“Yellow Belly”のように、『You're Dead!』のときのスヌープ・ドッグとの“Dead Man's Tetris”の奇妙なビート路線もひとつのイディオムになってきていたり、その雑多な世界観の中にクラヴィネットの裏拍のサウンドも含まれている。シリアス一辺倒ではない垢抜け感のようなものが、サウンド面でもリリック面でも楽曲構造面でもさまざまに表れている。リターン・トゥ・フォーエヴァーに『Romantic Warrior』というアルバムがありますよね。〈Polydor〉から〈Columbia〉へ移籍して、チック・コリアが使いはじめたARPの音色が印象的で、そしたらアルバムのサウンド全体も一気に垢抜けて。シリアスから脱皮したというか、ポップな要素もすごく入っている。少し似ているなと思いました。それこそ中世のシリアス・ミュージック=宗教音楽とポップ・ミュージック=世俗音楽の分裂という対置で考えられるかもしれない。ポップ化する以前のフュージョンやフライローのシリアスさにはそれこそスピリチュアルだったり、プレイを崇拝する宗教的な側面がありますし。

原:基本的に今回の作品は、ゲストを自分のところに呼んできたり自分がどこかへ行ったりして録り溜めてきたものが膨大になってしまって、自分でもどうしたらいいか見えなくなっていたところがあったと思うんですよ。時間をかけたというのも、個々の録音を録り溜めていた期間が長きに渡ってということで、そこから実際に曲として仕上げるまでの、手を動かしていない空白の時間も相当長かったんだと思う。それで「炎」というストーリーやクラヴィネットの音を見つけて、ストーリー立てできると思ったんじゃないか。そして、キイボードを習って、アンサンブルや理論を学んだうえで、ようやく見えてきた結果なんだろうなと思いましたね。素材となる録音物はたくさんあったにしても、最終的に完成に導いたのは彼の作曲の能力とか構成力とかそういった部分なんだろうなと。『You're Dead!』はコラボしたものをそのままバッと出したという面もあったと思うけど、コラボして融和的なものができ上がったとして、じゃあその次はどうするかというときに、もう一回、個に戻った表現をしようとすると、ふつうは変にコンセプチュアルな方向に走りがち。でも彼はそうではなくて……『Flamagra』も一応コンセプチュアルなふうにはしてありますが、僕はじつはそんなにコンセプトはないと思う。

吉田:意外とそうですよね。プログレのバンドとかに比べたらワンテーマでガチガチではない。だからこそこれだけ雑多な楽曲群をゆるくつなげてるんだと思います。デンゼル・カリーもジョージ・クリントンも「炎」をテーマにリリックを書いているけど、たとえばラヴ・ソングも「燃える想い(炎のように)」「あなたが好き(炎のように)」みたいな感じで、アンダーソン・パークも「ソウル・パワー(炎のように)」みたいな。もうなんでも炎じゃんみたいなところがある(笑)。

原:「炎」の話も読んだけど、コンセプト的には隙がある。だからやっぱりそれよりも、要となる音、音色を見つけたとか、作曲に関して自信を持てたとか、アンサンブルを作れるようになったとか、そういう手応えの方が大きかったんじゃないかな。

[[SplitPage]]

自分はこういうのを期待されているからそれを裏切って、もっと尖った方向に行かなきゃいけないとか、そういう意識もぜんぜん感じない。本人は「誰かがクリエイティヴになるのを励ますような作品にしたい」とふつうに良いことを言っているんですよ(笑)。 (吉田)

原:フライローが出てきた当初は、いわゆるひとりでこつこつと密室でビートを作っているビートメイカーのようなイメージでした。〈Stones Throw〉でインターンをやったりして、LAのビートメイカーのコミュニティのなかにはいたんだけど、じっさいはヒップホップ色は薄かったと思う。デビューも〈Plug Research〉だったし。当時『1983』は日本では「ポスト・ディラ」みたいな紹介のされ方をしていたけど、ぜんぜんそれっぽい音ではなかった。

吉田:いわゆる後期ディラの影響のあるブーンバップに電子音、サイン波ベースというイディオムで作られてるのも1曲目だけですね(笑)。

原:「黒い」か「白い」かでいえば「白」っぽい音だった。レコードより、ネットの隅を掘っているというか、マッドリブみたいな感じではない。だから〈Warp〉と契約したのもすごく納得がいって、むしろああいうのがLAのブラック系の人から出てきたということのほうが当時はおもしろかったんですよね。〈Warp〉は当時プレフューズ73を推していたけど、そのあたりの白人のビートメイカーもなかなかそのあとが作れないという状況だったから。ダブリーもそうだったけど、ヒップホップじゃなくて、テクノなどエレクトロニック・ミュージックの人が作るビートが、期せずしてディラのようなビートとシンクロする流れがあって、そこに影響されたのがフライローや初期の〈Brainfeeder〉のビートメイカーたちだった。その先駆けみたいなところはある。それでフライローをきっかけにLAのビート・ミュージックが注目されて、00年代後半から10年代頭にかけて広がったんだけど、それも頭打ちになった。フライローははやい段階で「俺のビートのマネするな」とか言ってたけど、そのころから特殊な位置に居続けている。

吉田:確かに『Los Angeles』で確立される16分音符で打つヨレたハットに浮遊感のあるシンセのウワモノ、シンセらしさが前面に出た動きの大きいベースライン辺りのビートの文法がフォロワーたちの間で蔓延する。それで本人は『Cosmogramma』に行っちゃいましたからね。

原:そこから先、ビートを作っている人たちがどういうふうに音楽的に成長できるか、成熟できるかということをフライング・ロータスは考えていたと思うんですよ。彼の音楽って、いろいろとごちゃごちゃ入っている要素を抜くと、根本にあるものはティーブスに近くて、すごくメランコリックな音楽の組み立て方をしていると思うんです。ティーブスとかラス・Gとかサムアイアムとか、あのへんが彼にいちばん近かった連中だと思う。そのコミュニティで作ってきたものがベーシックにあって、そのうえに何をくっつけていくのかというところでいろいろ思考錯誤して、それがその後の〈Warp〉での彼の音楽だと思う。
それで、それまでひとりで作ってきたトラックメイカーがそこからさらに成熟したことをやろうとすると、たいていは生楽器を入れたり、あるいは壮大なコンセプトを練るじゃないですか(笑)。彼は今回の新作でそれにたいする答えを出したんだと思います。『You're Dead!』までは筋道がわかるんです。『Cosmogramma』ではアリス・コルトレーンを参照して、じっさいにハープの音を印象的に入れてストリングスも入れたり、『You're Dead!』では凄腕のジャズ・ドラマーを4人も入れてフライロー流のジャズに接近する側面を見せたりして、でも今回の作品ではもう一度、密室でひとりでビートを作っていたころの感じがある。いろんなゲストを交えながらも、原点に戻っているようなところが。

吉田:ジャズとの距離感が変わったというか、ジャズの磁場をそれほど意識していない印象ですよね。コルトレーン一家という自身の出自へのがっぷり四つでの対峙がようやく終わって、みそぎが終わったというか。「俺が考えるジャズをひとまずはやり切った」みたいな感じがありますよね。

いまはもうネタはすぐバレちゃうし、なんでも組み合わせられちゃうし、「こうすればこういうトラックができますよ」というのが当たり前の世界になっちゃったので、つまらないなと思うわけ。そういう意識は当然フライローにもあったと思う。 (原)

吉田:フライローのインタヴューで、今作のドラムの音色には大きく3つあって、それぞれを「小宇宙」だと思っていると言っていたんですよね。MPCとかソフトウェアサンプラーでブレイクビーツをサンプリングしてチョップしたドラムと、ミュージシャンが叩く生ドラム、そして808なんかのドラムマシンという3つです。それぞれのドラム・サウンドは探求し甲斐のある小宇宙と呼べるほどの深みを持っているわけですが、フライローはそれらを並列に扱っている。それぞれの楽曲やアルバムごとに3つの小宇宙の力関係が異なるという。「Reset EP」のときも、“Vegas Collie”という曲ではLAMP EYEの“証言”など多くの曲でお馴染みの、ラファイエット・アフロ・ロック・バンドの“Hihache”のドラムを16分で刻んで複雑なパターンにしていたけれど、他方で最後の“Dance Floor Stalker”ではドラムマシンも使っている。ふつうはそういうふうにまったくソースの異なる音色のドラムをひとつのアルバムに散りばめると、いかにも「さまざまな手法を取り入れてます」みたいな感じになっちゃいますが、フライローは初期からそれがうまくできている。ドラム・サウンドに限らず、ネタと生楽器と電子音をミッスクしたときに徹底的に違和感がない。今回のアルバムも1曲のなかでソースがさまざまに切り替わったりしているし、そういう素材の扱い方はすごく優れていて、それがよく発揮されたアルバムだと思います。

原:もちろんこれまでもやっていたんだけど、その混ぜる能力がすごく洗練されてきている感じはするね。自分ですべての音のデザインまでやる感じになっている。前回まではミックスやマスタリングはダディ・ケヴがやっていて、今回もケヴが関わっているけれど、フライロー自身がけっこうやっている。録音全体にもすごく気を使っているし、いままで以上にアルバム全体を見る力、構成力みたいなものがアップしていますね。ちなみに『You're Dead!』って、じつは40分くらいしかないんですよね。

吉田:意外と短い。

原:今回は60分以上ある。『You're Dead!』はたしかに、あの構成でやると40分しかもたなかったという感じはするんだよね。60分も聴いていられないと思うんだけど、今回は何度でも聴ける感じがある。

吉田:フライローは「ミックスはすごく難しい」と『Cosmogramma』のころに言っていて、当時もダディ・ケヴにも伝わらないから自分でもトライしている。『You're Dead!』では生ドラムの音をめちゃくちゃ歪ませていてすげえなと思いましたけど、あれに行きつくのにそうとう思考錯誤があったと思うんですよ。『Cosmogramma』ではアヴァンギャルドな楽曲のベクトルに合わせるようにベースやドラムは歪みや音圧に焦点を当てて、次作は空間的なアンビエンスに焦点を当てて電子ドラムはハイを出してレンジが広がっている。そういった実験もひと通りやり終えた感じがします。だから今回は極端な歪んだサウンドも聞こえてこない。そうなると普通は「売れ線に走った」とか「きれいになっちゃっておもしろくない」ってなるんだけど、フライローだと「あなたがあえて綺麗な音作りをするということは、そこに何か意味があるに違いない」という像ができあがっていて(笑)、でも本人は裏をかいているつもりはないだろうし、気にしないで自由にやっているだけだと思うんです。自分はこういうのを期待されているからそれを裏切って、もっと尖った方向に行かなきゃいけないとか、そういう意識もぜんぜん感じない。本人は「誰かがクリエイティヴになるのを励ますような作品にしたい」とふつうに良いことを言っているんですよ(笑)。

原:人の励みになる音楽を作りたいとか、そんなこといままで言ったことないよね。たぶん立ち位置が変わってきたんだろうね。〈Brainfeeder〉についてもかなりコントロールしているというか、たんに自分の名前を冠しているだけじゃなくて、アーティストのセレクトもちゃんと自分でやっているし。本腰を入れてやっているからこその責任もあるんだと思う。これまでは自己表現みたいなことで終わっていたのが、あきらかに違うレヴェルに行っている。

[[SplitPage]]

ジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク的なフュージョンを通過して、このままいくとプログレからフランク・ザッパとか、超絶技巧の世界に行くのかなともちょっと思ったけど、やっぱりそっちじゃないんだなということがわかった。 (原)

吉田:原さんはフライローの音楽を聴いて、何かヴィジョンって浮かびますか?

原:僕はそもそも音楽を聴いてもあまりヴィジョンが浮かばないんですよね。ただこのアルバムは映画的でもあるし、ヴィジュアルと連動している作品だなとは思っている。

吉田:インストの音楽って日常の生活の中で流しっぱなしにしたりして、多かれ少なかれBGMになりうるところがあると思うんです。歌詞があると、その内容と自分の経験がマッチしないとハマらないけど、インストはどんな場面にもハマる可能性がある。外を歩きながら聴いたり車で聴きながら走ることで街の見え方が変わったりするし、自分の個人的な体験と結びついたりもするから、ベッドルームで聴いていてもリスナー自身のサウンドトラックになるところがあると思うんです。でもフライローの曲はそういうものに結びつきづらいと思うんですよ。BGMとなることを無意識的に拒絶しているというか。今作は半分くらいの楽曲に言葉が入っているというのもありますが、彼は視覚的なヴィジョンを持っていて、自分が表現したいヴィジョンを聴いている人に伝える能力に長けている。たとえば今作の“Andromeda”とか『Cosmogramma』の“Galaxy In Janaki”なんて、そういったタイトルで名付けられているからとはいえ、めちゃくちゃ宇宙のヴィジョンが見えるじゃないですか(笑)。宇宙を表現するための音像や楽曲のスタイルが、この2曲で大きく変わってるのも興味深いですが。インスト作品には適当な曲名を付けてるケースも多いと思うし、フライロー作品のすべてがそうだとは思わないけど、明確に彼の脳内のヴィジョンとリンクしている曲もある。今回のアルバムにはそれが結実していて、聴き手が勝手に自分のヴィジョンを重ねられない感じがある。

原:たとえばニューエイジのアーティストが、この作品の背景にはこういうものがありますって言っても、それを聴いている人にはなかなか伝わらなくて、ヨガの音楽として機能するとか、具体的なところに作用する効果というのはあると思うけど、精神的なものと音楽じたいがどう結びついているのかわからないことが多いのとは対照的な話ですね。ジャズ・ドラマーのマーク・ジュリアナにインタヴューしたときに、彼はオウテカとかエイフェックス・ツインが好きで、理論を突き詰めてビート・ミュージックというプロジェクトもやってきたわけだけど、いまいちばん興味のあるのは、音楽のマントラ、レペティション(反復)、トランス的な部分をもっと精査することだと言っていたのね。人間じゃなくて機械をとおして表現される感情、精神を愛してるとも。理論と技術を突き詰めていった先にある、精神的なものをどう扱っていくのかという話で、それは機械の音楽、エレクトロニック・ミュージックをどう捉えるのか、ということでもある。フライローはその点でも、興味深いところにいると思うんです。彼はアリス・コルトレーンとも近いスピリチュアルな世界にも理解があって、一方でエレクトロニック・ミュージックにも当然深く関わってきた。さらに今回音楽理論も突き詰めはじめた。

吉田:フライローの音楽はフロア向きなのかベッドルーム向きなのかというのもちょっと判断しづらいところがおもしろいなと。曲は情報量が多すぎて1分とかで終わっちゃうし、踊りたくてもどこで乗ればいいのかが難しい。かといって静かに聴くものかというと、《ロウ・エンド・セオリー》出身ということもあって、フロアではバキバキにやってくる。《ソニックマニア》でもめちゃめちゃビートの音圧が凄くてオーディエンスも盛り上がっていた。だからフロアとベッドルームの間のグラデーションを行き来する音楽というか。

原:やっぱり曲がそもそも短いよね。1分、2分、長くて3分とか。初期のころはたしかに《ロウ・エンド~》の影響もあったと思う。《ロウ・エンド~》のDJはみんな1分か2分で次の曲をカットインでぶっこんで、それ以上は長くやらないという方針、スタイルだから、その周辺のビートメイカーも1分2分の曲ばかりだった。でもいま彼が1分2分の曲を量産しているのは、そうしたDJやフロア向けのためではないよね。なぜフロアでどんどん変えていたかというと、自分も、聴いているほうも飽きちゃうから。その「飽きちゃうから」という部分だけはいまの彼にも繋がっているような気がする。聴き手の意識をひとつの場所に留まらせずに、どんどん場面を展開していくという意味で。そのやり方が非常に巧みになってきた。

吉田:今回アンダーソン・パークとやった“More”はめずらしく4分以上あるんですよね。でも、最初の浮遊感のあるコーラスのシンガロング・パートは1分くらいで、次にラップ・パートが来ますが、それも1分半くらいすると一旦ブレイクが入ってアンダーソンのスキャット・パートへ展開する。だから1分から1分半で次々と展開する仕組みになっている。それこそテーマパークのライドみたいに飽きさせない構造になっている。それらの断片をどうやってつなげるかというのもポイントですよね。たとえば3曲目の“Heros In A Half Shell”も電子4ビート・ジャズという趣で、次の曲の“More”とはだいぶ毛色が違う。でも両者をうまくつなげるために、“Heros In A Half Shell”の最後の10秒ほどはミゲル・アトウッド=ファーガソンのストリングスだけが鳴るパートが入っていて、気が利いているなと。

原:ミックスとして非常におもしろいものになっているよね。だからある意味ではサウンド・アーティストみたいなところもあって、いまこんなミックスをしている人は特異だしおもしろい。ビートを作っていたときは短い曲の美学みたいなものがあったけど、そこにそのままコラージュに近いようなミックスの手法が入り込んでいて。今回の作品は謎のバランスで非常にうまくまとまっている。それが聴く人の意識を変えさせている。

吉田:27曲もあるから曲順はいろいろな可能性があったかと思いますが、同じようなカラーを持った曲が並ぶブロックがありつつも、個々の曲の並べ方はダイナミズムがある。たとえば中盤の流れだと“Yellow Belly”と“Black Balloons Reprise”とか、“Inside Your Home”に“Actually Virtual”とか、スムースにつなげるんじゃなくて、どちらかといえば対極のものをぶっこむ場面もありますよね。デペイズマンの美学というか。でもたんに落差を楽しむだけでなくて、落差のある両者をどうつなげば聴かせられるのかという点にはすごく意識的な感じがします。異質なものを突然入れるのはコラージュ的でもあるし、DJ的でもある。あるいはビートライヴをする際のビートメイカー的とも。現代音楽的なものに目配りをするクラブ・ミュージックの気配を反映しているともいえる。

原:でも、ヒップホップってもともとはそういうものだったからね。意外なネタを見つけてきて組み合わせて、そのなかにはふつうに現代音楽も入っていたんだけど、いまはもうネタはすぐバレちゃうし、なんでも組み合わせられちゃうし、「こうすればこういうトラックができますよ」というのが当たり前の世界になっちゃったので、つまらないなと思うわけ。それにたいする揺り戻しは、例えばザ・ルーツが『...And Then You Shoot Your Cousin』で突然ミッシェル・シオンのミュジーク・コンクレートを暴力的に挿入した様にも見て取れる。そういう意識は当然フライローにもあったと思う。

吉田:『KUSO』のコラージュ的な作風も含めて、いろいろなものをミックスする手つきの良さが際立つ。そういう意味で、スピリットの部分でヒップホップ黎明期のそれこそアフリカ・バンバーター的なものを体現していると考えると、またこのアルバムの聞こえ方も変わってくるかもしれない。

[[SplitPage]]

『Cosmogramma』以降聴いていなかった人たちにもぜひ聴いてもらいたいですね。絶対ドープだと思える曲があると思う。ヒップホップが出自のビートメイカーにはとくに“FF4”を聴いてほしいです。 (吉田)

吉田:僕の周りのビートメイカーなんかは、ヒップホップの人が多いので、フライローにかんしては『Los Angels』までで、『Cosmogramma』からはビート作りに参照するようなものではなくなったという意見が多かった。『You're Dead!』も参照するのは難しかったと思うし、もしかしたらいまのヒップホップのビートメイカーたちはフライング・ロータスを自分とはあまり関係のない遠い存在と思っているかもしれない。でも今回のアルバムはどのジャンルのどの人が聴いても、それこそJポップの人が聴いても、自分のサウンドにフィードバックできるんじゃないかなと思います。もともとそうでしたが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての懐がさらに深くなって、彼を参照しうるミュージシャンの母数が拡大している気がします。

原:生ドラムを使ったり808を使ったり、まったく質感の違うものを共存させるところなんかはふつうに参考になると思うけどね。

吉田:これまでは「あの変な歪みは下手に真似するとあぶねぇ」みたいな、真似できないという感じがあったけど、今回はサウンドのバランスもめちゃくちゃ良いですからね。荘厳なパッド系やコーラスっぽいシンセがだいぶ引いた背景で鳴っているんだけど、手前に来ている楽器隊はリヴァーブやエフェクトも控えめで、何を弾いているのかが聴き取りやすい。サンダーキャットがいて、ブランドン・コールマンのクラヴィネットがあって、ミゲルのストリングスがあって、本当に5ピースくらいのバンドで演奏している感じが目に浮かぶ曲もある。そこはいままでと違う。

原:やっぱり自分でアンサンブルを作っているのが今回はいちばん大きいんじゃないかな。これまではどうしてもミゲルがアレンジをして、ミュージシャンが演奏して、それをうまく合わせるという感じだったけど、今回はミックスまで含めてフライロー自身がちゃんとアンサンブルを作り直している感じがする。

吉田:インプロ含めた演奏データがありきの「切って、貼って」のやり方だと、各パート間の展開や繋ぎの部分がこんなにうまく成立しないと思うんですよね。曲としてちゃんとバンドっぽいキメやユニゾン、エンディングが多かったりするじゃないですか。もともとフライローの強みはループをベースとしたビート・ミュージックにいかに手打ちのドラムや楽器で展開をもたらすかにあったわけで、そこに完全に振り切っているともいえる。キャリアの初期に、ジョン・ロビンソンやオディッシーといったラッパーに提供しているヒップホップ・ビートは思いっきりワンループで作ってますが、そうするとフライローらしさをぜんぜん読み取れないんですよね。

原:アンサンブルって00年代後半以降、キイになっていたと思うんです。それまではダブの残響とか、ベースの音圧とか、楽音以外が構成するサウンドに魅力があって、もちろんアンサンブルが活かされている音楽もあったけど、多少乱暴に言うとポピュラー・ミュージックでも力を持っていたのは音響のほうだった。それが00年代後半からまたアンサンブルが重視されてきて、ミゲルのようなクラシック畑の人がたくさんフィーチャーされたり、ジャズの復活もそういう部分が大きいと思う。その時代にフライローが出てきて、当初はそういう流れとはぜんぜん違うところにいるように見えたけど、じっさいはその流れとも並走していたことに今回の作品で気づくことができた。

吉田:エヴァートン・ネルソンが活躍して、4ヒーローとかドラムンベースなんかでもアンサンブルが重視された時代の回帰のように見えるところもありますよね。でも今回のアンサンブルの作り方はバランスがいいんですよね。たとえばサンダーキャットって、やっぱり弾きまくるじゃないですか。でも今作はフライローや彼がフェイヴァリットに挙げるジョージ・デュークやスタンリー・クラークのようなテクニカルさはないですよね。『You're Dead!』では、そういうサンダーキャットのバカテクやBPM速めの4ビートのドラムのパッセージをいかに自分の音楽と融合させるかという試みでもあったと思うんですけど、今回は良く聞かれるユニゾンは速弾きではないし、むしろゆったりしている。

原:もしかしたらほんとうはサンダーキャットはめちゃくちゃ弾いていたのかもしれないけど、それをぜんぶカットしている感じだよね(笑)。

吉田:たまに思い出したように速弾きやワイドストレッチっぽいアルペジオが聞こえてきますけど(笑)、分量としては少ないですもんね。そういう意味でもフライローはテクニカルなフュージョンと対峙するというみそぎをも済ませた感がある。

原:そういうジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク的なフュージョンを通過して、このままいくとプログレからフランク・ザッパとか、超絶技巧の世界に行くのかなともちょっと思ったけど、やっぱりそっちじゃないんだなということがわかった。

吉田:そこで、今回自分でピアノを学んだっていうのは良い話ですよね。坂本龍一の『async』に大いに影響されたって。

原:今回の作品を聴いてちょっと安心した感はあるよ。

吉田:『You're Dead!』からさらに突き詰めると「どこ行っちゃうの?」という不安がね。

原:ライヴではどうなるのかわからないけどね。そこでは超絶技巧になっているかもしれない。

吉田:それはそれで観てみたいですけどね。《ソニックマニア》のときも、映像との融合というのはこれまで多くのアーティストが試みた手法ではあるけれど、やはり静と動の展開というか、広大なランドスケープを想起させる「静」のパートと、バキバキのビートが引っ張る「動」のパートのギャップが際立つような映像の使い方をしていて、あらためて彼がやると違って見えたから。

原:立ち位置的にさらにおもしろいところに来たなという感じはある。『Los Angels』までは好きだけどそれ以降はダメという人がいるとして、そういう意味でもこの作品はいろんなところで人を励ます作品だと思うんだよね。

吉田:いまのヒップホップは、トラップが生まれたことによって、そっちの人たちと、ゴールデンエイジしか受けつけない人たちとに分かれちゃってると思うんです。トラップについては自分もある時期まではどう聴けばいいのかわからなかった。でもあるときイヴェントに行ったら、トラップがなんなのか身体的に理解できて大好きになったんです。

原:そういえば今回トラップは入っていないね。トラップをやる人は使っているけど。

吉田:たしかにトラップはないですね。フライローが808のハットを乱打したら、それはそれでおもしろかったんだけどな(笑)。他方で、いま日々リリースされるヒップホップ作品には、たとえば〈Mello Music Group〉周辺とかアルケミストやマルコ・ポーロやロック・マルシアーノ周りとか、誰でもいいんですが、ゴールデンエイジ以降のヴェテランから若手まで原理主義的なプレイヤーもたくさんいて、そういうアクトたちのレヴェルがすごく高い。しかもよりメインストリームにはオッド・フューチャー勢なんかもいるわけで。だからじつはゴールデンエイジのものを聴き直す必要すらなくなっていて、現在進行形のアーティストたちだけでじゅうぶんに成立する世界が広がっている。

原:ジャズと一緒だよね。いまのジャズもめっちゃうまいプレイヤーがたくさんいて、彼らは当然昔の作法を身につけてもいるから、それを聴いていればべつに昔のジャズをことさらに懐かしがる必要のない世界になっている。

吉田:そういう作品が元ヘッズの耳に届いてない状況があると思うんですよ。それはすごくもったいないなと思う。90年代の耳で聴いても、すごくクオリティが高くてドープなヤツらがたくさんいるのに。情報収集をして探すハードルが高いってのはわかるんですが。なにせ数が多すぎて、腰が重くなりますよね。で、ずっとATCQやギャングスターやウータン聴いてればいいやって(笑)。

原:だからフライローは今回デンゼル・カリーにやらせたんじゃないかな(笑)。『ファンタスティック・プラネット』のサントラの曲(アラン・ゴラゲールの“Ten Et Tiwa”)とか、大ネタをそのままバーンと使って、しかもそれをわざわざデンゼル・カリーに昔風にラップさせているでしょう。

吉田:あれは熱かった! 何この90年代感っていう(笑)。急に98年のアングラ・クラシックに回帰したみたいな。まあフライローはもともと『1983』と同時期に90年代後半のアングラ・グループのサイエンズ・オブ・ライフ(Scienz of Life)のプロデュースもしてますからね。得意分野(笑)。

原:彼はあのころのアブストラクトなヒップホップも当然好きで聴いていた。今回のビートにも《ロウ・エンド・セオリー》以前の音というか、それっぽいものがあって、それと対等な感じでポップなものも混ざっている印象です。そういう意味ではヴァリエーションがあるんだけど、それも含めて全体をフライローがひとりで作り直した感じがしますね。

吉田:そういう目配りがフライローはさすがだなと。だから今回のアルバムは、『Cosmogramma』以降聴いていなかった人たちにもぜひ聴いてもらいたいですね。絶対ドープだと思える曲があると思う。ヒップホップが出自のビートメイカーにはとくに“FF4”を聴いてほしいです。サンクラ世代のビートメイカーたちへのアンサーのような、かつてなくシンプルなキックとスネアとハットを。それから彼自身と思われるピアノにミゲルのストリングスの上ネタも、シンプルだけどいっさい隙がない。

原:音楽を組み立てるってどういうことなのかを、ここから学ぶことができると思う。他人の録音があって、生の音と機械の音といろんなレイヤーがあって、それをどうまとめるかということにかんして、すごくアイディアのある作品だと思う。

吉田:バンドスコアとか出てほしいですね(笑)。フライローの完コピのバンドスコアとかアツくないですか(笑)。サンダーキャットのベースはタブ譜付きで。これまでの過去作品だとしっくりこない曲もあると思うんですけど、今回は行ける感じがします。まあティエラ・ワックとの曲とかどうするんだっていう問題はありますが(笑)。


FLYING LOTUS in 3D
公演日:2019年9月26日 (木)
会場:新木場 STUDIO COAST
OPEN 18:30 / START 19:00
前売:¥7500(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)※未就学児童入場不可

一般発売:6/29(土)~
イープラスローソンチケットチケットぴあBeatinkiFLYER

Yosuke Yamashita Trio - ele-king

 これは事件である。今年で結成50年(!)を迎える山下洋輔トリオが一夜限りの復活を果たす。これは事件である。山下洋輔といえば日本のフリー・ジャズにおける先駆者のひとりであり、そのトリオは初期の『DANCING古事記』や、坂田明加入後の『モントルー・アフターグロウ』、『キアズマ』など、多くの重要な録音を残している(紙エレ最新号の細田成嗣による「日本のフリー・ジャズ20」にも当然選出)。今回の再結成には中村誠一、森山威男、坂田明、小山彰太、林栄一と、歴代のそうそうたる奏者たちが参加するとのことで、これはもう歴史的瞬間になるのは間違いないだろう。絶対に見逃してはいけない。

Aldous Harding - ele-king

 相変わらず女性監督作品のピックアップや受賞が少ないことが嘆かれているカンヌ映画祭だが、『ピアノ・レッスン』で女性監督として初のパルム・ドールを受賞した(1993年)のがニュージーランド出身のジェーン・カンピオンだったのはなぜだったのだろうということをときどき考える。それまでも欧米には才能のある女性監督がたくさんいたはずだが、男性監督たちの権威が確立しているフランス映画界で女性が評価されるためには、なにかエキゾチックな要素が必要だったのかもしれないと邪推してしまう。『ピアノ・レッスン』はなるほど、荒涼としたニュージーランドを舞台として、「声を失った女性」がマオリ族と暮らす男に狂おしく愛を求める物語であった。それは古典的なラヴ・ストーリーでありながら、欧米からは見えてこない風景だ。
 カンピオンのことを思い出したのは、現在インディにおいて熱い注目を集めるオルダス・ハーディングがニュージーランド出身だと聞いた僕のたんなるこじつけだが(カンピオンはオーストラリアで育ったというし)、ただ、彼女の表現がいま評価されているのは、英米を中心とするインディ・シーンの空気をさりげなく外しているからではないだろうか。ミニマルでメランコリックな彼女のアシッド・フォークにニュージーランドの土着性が入っているわけではないのだが、少なくとも英米インディのトレンドとはあまり関係ないところで凛とした表情をしている。

 『デザイナー』はインディ・メディアを中心に静かながらもたしかに評価された『パーティ』に続く3作めで、引き続きPJハーヴェイとの仕事で知られるジョン・パリッシュをプロデューサーに迎え、ウェールズでレコーディングされた。これまでゴシック・フォークと呼ばれがちだったその音は、けっして派手にはなってはいないが、パーカッションやストリングスのアレンジがやや増すことでより立体的なものとなっている。メロディをトラディショナルな響きの弦が追いかける“Fixture Picture”で幕を開け、コンガの軽やかな打音が聞こえる“Designer”では軽快に、フルートの音色がドリーミーなコーラスと戯れる“Zoo Eyes”では穏やかにフォークの時間が流れていく。この奥ゆかしさ。あくまでアコースティックの響きを生かして柔らかな耳触りを演出するのはいかにもジョン・パリッシュの仕事という感じで、たしかにPJハーヴェイの21世紀の傑作群を彷彿とさせる部分もある。たとえばミツキやシャロン・ヴァン・エッテンといった近年話題を集める女性シンガーソングライターのようにポップ路線に進むのでもなく、ましてやセイント・ヴィンセントのようにエキセントリックを標榜するのでもない。フェミニズム全盛の現在において、何かを主張しようというわけでもない。慎ましいが、さりげない豊かな時間をシンプルな音で追求しようとしている。牧歌的でありつつかすかにダークで、自然の風景を想起させるようで空想的でもある。混ざり合う不安と喜び、その愛の歌。
 とりわけ本作でのハーディングの魅力が炸裂するのが“The Barrel”で、控えめなパーカッションがゆるやかなグルーヴを醸すなか、ピアノやサックス、アコースティック・ギター、それに男女のなんだかファニーなコーラスが愛らしく通り過ぎていく。ハーディングの憂いと茶目っ気が溶け合ったような歌声。彼女自身が奇妙な衣装でぎこちない踊りをするミュージック・ヴィデオがまた面白くて、どこかシュールなユーモアが漂っているのがこれまでの作品との最大の違いなのだなと気づかされる。

 オルダス・ハーディングのフォーク・ソングには何かデリケートな形での「辺境」が息づいているように思わされる。時代や土地性に過剰に振り回されないがゆえの、秘境めいた佇まいを有しているのである。“Heaven Is Empty”における小さな音のアシッド・フォークのさりげない凄み、その生々しさは、トレンドが現れては去っていく音楽産業の産物ではない。来日も決定しているのでぜひその姿を目にしたいと僕は考えているが、それは彼女が「最旬の女性シンガー」だからではなく、彼女の歌にはいまもフォークの純粋な領域が残されていると感じるからだ。

Yutaka Hirose - ele-king

 早速来ました。J・アンビエントの名盤、再発の朗報です。1986年にミサワホーム総合研究所サウンドデザイン室が企画した環境音楽シリーズ「サウンドスケープ」のなかの1枚、広瀬豊の『Nova(新星)』が復刻されます。7月20日、なんと未発表音源を4曲加えたCD2枚組でのリリースです。
 環境音楽シリーズ「サウンドスケープ」は、それこそ吉村弘のリリースでも有名で、J・アンビエント・ディガーたちがつねづね目を光らせている作品が何枚も発表されています。広瀬豊の『Nova(新星)』もそのなかの1枚というわけですが、これはいかにもJ・アンビエントな、環境の一部になりうる音楽です。さまざまな自然(鳥のさえずりや水や波の音などなど)とともに美しい電子音が瞬いています。すでに名盤の誉れ高いアルバムなので、この機会をどうか逃さないように!(このあたり、再発盤でもすぐに値が上がってしまうんですよ)
 リリース元は、スイスの発掘レーベル〈We Release Whatever The Fuck We Want〉。高田みどり、清水靖晃、深町純などを再発したあのレーベルです。またしてもやってくれましたねー。


Yutaka Hirose
Nova+4
WRWTFWW/カレンテート
※7月20日発売
★詳細・試聴: https://bit.ly/WRWTFWW028CDJ




Tomoyoshi Date + Stijn Hüwels - ele-king

漂うように流れ、人の生活の風景になる音楽。 芦川聡「波の記譜法」(1983)
このように環境音楽は以前とは異なったalternativeな感性回路を開き、目のまえに横たわる日常生活全体を組みかえる異化作業と共にある。 田中直子「環境音楽のコト的・道具的存在」(1986)

 シティ・ポップはいまだにリヴァイヴァルが続いているようだが、それを追従するように、ここ1〜2年は、日本のアンビエント=Kankyo Ongaku(環境音楽)=J・アンビエントが流行りつつある。
 いろんな要因があるようだ。高田みどりや清水靖晃の再発見、相変わらずの横田進人気、坂本龍一の『async』の衝撃と細野晴臣への再評価(not はっぴいえんど/not YMO)……、ヴァンパイア・ウィークエンドがサンプリングした細野作品は、入手困難なカセットブック作品で、そこには中沢新一による環境音楽に対する新たな解釈、〝観光音楽〟に関する文章があるわけだが、こうした解釈が生まれるほどに1980年代の日本ではアンビエントがひとつの大きな潮流としてあった。バブル期だからアンビエントが流行ったわけではない。70年代後半のイーノの影響が日本では大きかったことと、アンビエント的な発想がたとえば庭園という場所/空間に水の雫の音を加える日本人の感性には馴染みやすかったからではないだろうか。「閑さや岩にしみ入る蝉の声」──ジョン・ケージが松尾芭蕉を愛した話は有名だが、日本人が〝しずけさ〟と〝場の音〟を好んでいたことはたしかだろう。

 なにはともあれ、アンビエントなるコンセプトに多くのひとが着目した80年代において、吉村弘と芦川聡はなかば別格の再評価を得ている。吉村弘にとってアンビエントとは環境のための音楽であるから、音楽それ自体がひとつの環境/風景となるよう志向したため、通常のレコード会社からのリリースではない形式でその作品は発表されている。こうした希少性がますますディガー心をくすぐるようだが、芦川聡にいわく「必要なところに必要なだけの最初の音がある」その作品は、「独特の透明感」があり、そして「メルヘンの世界で鳴っているオルゴールのような優しさがある」。ぼくは伊達トモヨシの音楽も、似ているんじゃないかと思う。

 伊達の音楽を知ったのは、彼が寺でライヴをやったときだったが、寺院はおうおうにして日常とは時間の感覚が異なる場所である。水の雫の音のように、そこではたった1音が風景を変えることができる。伊達の音楽はそういう環境にハマる。
 彼の新作はベルギー人の音楽家、スタン・フヴァールとの共作で、タイトルは漢方薬の補中益気湯から来ている。イギリス人のイアン・ハウグッドが主宰する〈Home Normal 〉からのリリースで、同レーベルはつい最近まで埼玉(ないしは東京)を拠点としていた。
 コーリー・フラーとのプロジェクト、イルハの作品ではどちらかと言えば鑑賞向けのアルバムを作っている伊達だが、本作は、それこそがんばって鑑賞する必要のない音楽だ。空間を均一化するBGMやミューザックとは違う。ひとをトランスさせる畠山地平や中村弘二のシューゲイザー・アンビエント(あるいはドローン)やペシミズムをもってディストピアを描写するダーク・アンビエント、水パイプを仄めかすその名から連想されるようにトリップを志向するヴェイパーウェイヴ(あるいはスクリュー、あるいはウェイトレス)などとも違う。ドラッギーではないしサイケデリックという別世界志向の要素がほとんどない、あたかも風鈴のような、すなわち環境の一部になりうる音楽、生活のなかに根ざしながら無視して通り過ぎてもかまわない風のような音楽である。その空気のような音楽は吉村弘に近いのではないかとぼくは思うわけだが、本人がいちばん目指すところは、芦川聡の『Still Way』だという。そういうわけで、80年代の日本のアンビエントを継承するミュージシャンがここにひとりいると。
 1曲目の“Hochu”はJ・アンビエントの真骨頂とも言うべき素晴らしい静寂がある。遠くでかすかに鳴っている抽象的な音像はあたたかい波のようにうねり、揺れている。2曲目の“Ekki”ではかすかに聞こえる最小限の音が鳴り,止み、それをゆっくりと反復する。ギターの弦による1音がながい“間”を取りながら響いている。フィールド・レコーディングからはじまる最後の曲“Tou”においてもギターの1音は早朝の自然音のなかで鳴っている。それは伊達らしい清々しさだ。イーノではないが、なるべく最小の音量で聴くべきアルバムだろうが、仮にいつもよりも音量上げて聴いても静かである。音はじょじょに重なるが、静けさはつねにキープされている。最後は曲らしくなってしまうのが少々残念ではあるが、それでもこのアルバムはただただ流しっぱなしにできるという“環境音楽”として成り立っている。ちなみに補中益気湯とは、自律神経を正常化するのに使われる漢方薬です。
 過去を温ねることも大切だが、現在にも音楽は生まれている。J・アンビエントに目覚めたリスナーにも、ぜひ聴いてもらいたい。


※紙エレ24号の「日本の音楽を知るための14冊」からは敢えて外したが、1986年に時事通信社から刊行された、芦川聡のアンビエント論集からはじまる『波の記譜法』は、1980年代の日本におけるアンビエントの高まりを知るうえでは貴重な資料だ。高田みどりや吉村弘も寄稿している。なぜ敢えて外したかと言えば、これは意外と知られていないようなので、こうしてネットを通じて広く知って欲しいからである。さらにもう1冊を加えるとしたら、細川周平の『レコードの美学』だ。細川周平もまた芦川聡や細野晴臣らのように、1980年代にアンビエントついて深く考察したひとりである。

interview with Joe Armon-Jones - ele-king

 UKジャズの快進撃が止まらない。「UKジャズ」というワードに触れるキッカケは人それぞれだと思うが、僕にとっては2017年に〈Brownswood Recordings〉からリリースされたユセフ・カマール『Black Focus』の存在が大きい。このリリースを皮切りに、アルファ・ミストサンズ・オブ・ケメットモーゼス・ボイドなど約2年の間に次々と新しい作品やアーティストが登場してきた。広い目で見渡せば、もはや円熟味を増したカマシ・ワシントン(彼はアメリカのアーティストだがUKジャズのムーヴメントにも多大なる影響を与えたと思う)、日本の地上波に出演するまで成長したトム・ミッシュ、R&B方面で言えばジョルジャ・スミスなど「ジャズ」をキーワードにしたアーティストがここ日本でも旋風を巻き起こしている。いわゆる典型的なジャズに限らず、ダブやアフロ、ヒップホップ、ベース・ミュージック、そしてハウスなど1枚のアルバムの中にいろんな要素を詰め込むフュージョン感は、人種や性別を超えたボーダレスで今っぽいサウンドだし、ジョー・アーモン・ジョーンズが2017年に〈YAM Records〉からリリースしたマックスウェル・オーウィンとの共作『Idiom』も間違いなくブロークンビーツ、ハウスといったクラブ・ミュージックの解釈が強かった。そしてソロ・デビュー・アルバム『Starting Today』で一躍UKジャズ・シーンの顔になったピアニスト/ソングライター。ムーヴメントを築いてるアーティストの半数以上が彼と同じく南ロンドン出身、そしてこれだけの短期間で一気に頭角を現した彼のキャリアは何か特別な秘密があるに違いない……!!! と、思っていた矢先の来日、そしてインタヴューは本当に貴重だった。熱の篭ったステージ上でのパフォーマンスとはうって変わって、シャイで物静かな雰囲気だったが、アルバム制作秘話、南ロンドンのリアルなシーン、インタヴューから見えてくるUKジャズ快進撃の真の裏側をたっぷりと丁寧に語ってくれた。


ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。

先日終わったばかりの日本でのツアー公演はどうでしたか?(6/1 (土) FFKT、6/2 (日) ビルボードライブ東京にて公演)

ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones、以下JAJ):良かったよ、とても良い雰囲気だったね。すごく楽しめたし、野外フェスとコンサートホールで2日とも違った空気感だった。日本に来る前は周りの人から「日本のオーディエンスはとても行儀が良くて、声も出さずに聴き入ってる……」なんて聞いてたけど、FFKT ではみんな踊ってくれたし、ビルボードの1stはチョット静かだったけど、2ndは歓声もたくさん聞こえた。ショーの最後はみんな立って手を叩いたり踊ってくれたからね。来てくれたみんなに本当に感謝してるし、とても良い経験になったよ。

日本とイギリスのオーディエンスで何か違いは感じましたか?

JAJ:大きな違いを感じたのは日本の方がもっと「音楽に感謝してる」って印象だね。もちろんイギリスの人たちも間違いなくそれはあるんだけど、音楽が溢れすぎてて甘やかされてるというか……。なんか慣れちゃってる感じもするからね。その点、日本はわざわざ遠くの海外からアーティストが来日してるってこともあって、もっと強い価値を感じてライヴを聴きにきてる感じがしたな。

日本に来たのは初めてですか?

JAJ:自分の名義としては初めてだけど、2017年にチャイナ・モーゼスの公演でキーボードとして参加して Blue Note で演ったんだ(https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/china-moses/)。彼女は素晴らしいシンガーで、あのときの公演も本当に楽しかったよ、良い思い出だね。

ではジョー・アーモン・ジョーンズがアーティストとしてデビューするまでの過程を聞きましょうか。ありきたりな質問かもしれませんが、いつから音楽をはじめたんでしょうか?

JAJ:母がジャズ・シンガーで、父もジャズ・ピアニストだったんだ。だから物心ついた頃から当たり前のようにピアノが目の前にあったし、親から影響を受けて自分も音楽を始めるのはまぁ普通な流れだよね。「子供の頃から音楽に没頭した!!」って程じゃないけど、自然にピアノは弾いてたし、その頃からなんとなくアドリブでやっていく癖もついてたのかも。ピアノのレッスンは7歳くらいからはじめたから、それが正式にスタートってことになるかな。

もちろん音楽学校にも通ったんですよね?

JAJ:ロンドンのグリニッジにある「Trinity College London」って学校に通いながら「Tomorrow's Warriors」っていう若いミュージシャンに向けたコミュニティでもよく演奏してたんだ。カリキュラムももちろんだけど、土曜日に若いミュージシャン同士で集まってプレイしたり、そこでの出会いや経験が自分にとって本当に大きかったと思う。

註:Tomorrow's Warriors はジャズ・ウォーリアーズのオリジナル・メンバーでもあるゲイリー・クロスビーによって1991年よって設立されたアーティスト育成プログラム。ジョー・アーモン・ジョーンズも所属するエズラ・コレクティヴも Tomorrow's Warriors のユースから生まれたプロジェクト。

 そこで、ジャズの要素が入ったヒップホップにすごいハマってJ・ディラとかロバート・グラスパーとかを聴きながらビートがどうなってるかとか、曲の構成についていろいろ学んでたね。で、自分でもビートを打ったり、曲を書いてるタイミングでエズラ・コレクティヴもはじまって、いまの仲間たちと一緒にプレイするようになったのかな。当時はいちばん多い時期で8つのバンドを同時に演ってたし、いろいろ違うジャンルもやって忙しくしてたよ。

8つも同時に抱えてたのはすごいですね……。その流れで自身のプロジェクトもスタートしたということですよね?

JAJ:そもそもジョー・アーモン・ジョーンズっていう名義でスタートしてまだ2~3年しか経ってないし、マックスウェル・オーウィンとやったアルバムも2年前のことだからね。それが自分の名前でリリースした最初の作品になるんだ。それから〈Brownswood Recordings〉とリリースの話になって、去年自分のソロ名義でのアルバムが出たという流れさ。

マックスウェル・オーウィンとはどうやって知り合ったんですか?

JAJ:5、6年前に共通の友人を通して知り合って、よく誰かしらの家で会ってたんだ。意気投合していまはふたりで家をシェアしてるし、スタジオもそこでセットアップして、曲も作ってるよ。

ということはふたりのアルバムもそこで創られたってことですよね?

JAJ:そう、まさしく家のリヴィングでね。

ふたりのアルバムは〈YAM Records〉というダンス・ミュージックが中心のレーベルからのリリースでしたよね。僕も仲のいいハウス/ブロークンビーツのDJやアーティストがふたりの楽曲をプレイしたり、チャートに入れてるのを見て初めて知ったのを覚えてます。で、そこからどんな作品が出るかなと思ったら……いきなり〈Brownswood〉からソロを出したのは驚きましたね。

JAJ:ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。そりゃジャズを聴いてるときは静かにしてたけど……(笑)。ヒップホップもダブも好きだからいろんなシーンの中で良い音楽だけを選んで一緒にするのがやりたかったのさ。ジャズ・ピアニストってことで他のジャンルをやるのも難しくないし、リリースした〈YAM Records〉もダンス・ミュージックの中で幅広い音楽をやってるから「ただのハウス・プロデューサー」とは思われなかったのは良かったのかもしれないね。

地元のサポートも大きかったと感じますか?

JAJ:もちろん。ロンドン、特にサウスロンドンのペッカムを拠点にしている〈YAM Records〉はレーベルとレコード屋もやってるし、同じアーケード街には Balamii Radio やアパレルストアもたくさんあって、みんなが集まってコラボレーションも頻繁におこなわれているんだ。マックスウェル・オーウィンも良い人脈を持ってたし、ここのエリアの雰囲気はいまでも良い影響をもたらしてくれるね。

そういえば〈YAM〉から出したアルバム、〈Brownswood〉からのソロ・アルバム、どちらもアートワークが最高ですよね。どちらも同じアーティストが担当したんですか? 

JAJ:〈YAM〉からリリースした「Idiom」はレーゴ・フットって奴が描いたんだ。4つのバラバラの絵を掛け合わせてできたアートワークで、4枚の絵はいまでも家の壁に飾ってあるよ。〈Brownswood〉から出した『Starting Today』はディヴィヤ・シアーロが担当してくれて、彼女は次にリリースするアルバムも描いてくれてるよ。ちょうど6月にアルバムに先駆けてニューシングル「Icy Roads (Stacked)」もリリースされて、そのアートワークもやってくれたんだ。

[[SplitPage]]

自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

いまアルバムの話も出たので、次のリリースについて聞いてもいいですか? もし秘密でなければアルバムについても少し教えてください。

JAJ:次のアルバムはもう作り終えてるんだ。ちょうどこの後東京のスタジオでバンドのメンバーとでき上がったアルバムを聴く予定で、いまから本当に楽しみだ。

具体的に前のアルバムと比べてメンバーの構成や曲調など変わった部分はありますか?

JAJ:メンバーは前回と全く同じ。でも間違いなく違った雰囲気になってるよ、完璧に違うプロジェクトと思っていい。言葉で説明するのはいつも難しいんだけど、前回と違って長い6曲のトラックものが中心になってるよ。前作の『Starting Today』は1曲にそれぞれ違ったストーリーがあって、ヴォーカルも多くあったけど、新しいアルバムはよりアルバムとしての全体感がより強いのかもしれないね。

制作にはどれくらい時間を要したんですか?

JAJ:去年の8月からレコーディングをスタートさせて、編集とかマスタリングを終えたのは……それこそ日本に行く1週間前とかだよ。

制作するときはソングライティングもしっかりやるタイプですか?

JAJ:もちろん譜面に起こしたりとかもやるけれど、基本はスタジオでセッションして曲を作り上げるパターンが多いかな。ソロのアルバムを作ってるときはピアノの前に座って、思いついたアイデアを弾いたり、いろいろ試すんだ。ベースラインはすごく重要にしてて、ベース・プレイヤーによって曲の表情も大きく変わってくる。そこにドラムを加えて、聴いてるうちに良いメロディーが思いついて自分も弾いたりとかかな?
それに、2枚のアルバムともバンド・メンバーがそれぞれのプロジェクトで忙しかったからリハーサルを組んだりっていう時間がなかったんだ。だからある程度自分で譜面に起こして、後はそこから即興で作っていく。お互いのことをよく知ってたり、それぞれ技術がないとできないことだけど、最初にみんなで合わせるときの熱量やフレッシュさも大事にしたかったんだ。最悪、誰かが間違えた場合も別のテイクを取って良い部分を張り替えれば良いしね。

それはテクノロジーが助けてくれる部分でもありますよね。

JAJ:昔だったら録ったテープを本物のハサミで切って貼り付けてなんて……いまだにそのスタイルでやってる人もいるけれど、僕らは100%技術の進歩の恩恵も受けているよ。とはいえ、たまにドラムのテンポがズレてるってときもリズムを修正しないでそのまま残すこともある。それは曲の中のひとつの熱量と思ってキープするんだ。

アルバムの他にもいろいろなコンピレーションにも積極的に参加してますよね。この前もマーラとヌビア・ガルシアとの共作も話題になりました。どれくらいの頻度でスタジオに入っていますか? 最近はツアーもあって忙しいように見えますが……。

JAJ:まさしくいまツアーが増えてきて、自分の中で制作とギグのバランスを考えはじめてるところだよ。ツアーがないときは基本的にスタジオ、というか家にいるよね。自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。他のプロデューサーみたいに「スタジオに行って働く」とかそういう感覚じゃないのかも。それこそマックスウェル・オーウィンが友だちを連れてきて四六時中ビートを作ってるってこともあるし、いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

なかなかすごい環境ですね。そんな状況でゆっくり寝られたりできるんですか?

JAJ:いい質問だね(笑)。幸い僕は上の階だからあんまり音も漏れてこないんだよ。隣の近所がどう思ってるかは正直わからないけど、苦情もいまのところないから大丈夫なんだと思う。

それはイギリスやヨーロッパの国ならではな状況かもしれないすね。日本でそんなことは滅多にできないので……。

JAJ:本当に?? そういえば誰かが言ってたな。日本は楽器を大音量で練習できる家が少ないからヘッドホンとかでやってるって。

それから、たぶん日本は自分のプライヴァシーを守りたい人が多いかも?しれないですね、自分の家に知らないミュージシャンが毎日出たり入ったりっていう状況はあまり考えられない気がします。

JAJ:そうだね、たまに20人くらいのミュージシャンが一気に集まって「これから曲を作るんだ」ってこともあったりするよ。そのときは知らない同士でも、共通の仲間を通して知り合えばお互いにとってプラスになることが多い。自分はとにかくいろんなミュージシャンやアーティストとのコラボレーションがメインで活動してるからこのスタイルが好きなんだ。もちろん日本の礼儀正しい部分だったり、お互いをリスペクトする部分は理解できるから、文化の違いってことかもしれないね。

まだデビューしていなかったり、ローカル・レヴェルで是非チェックすべきというアーティストやミュージシャンはいますか?

JAJ:プロジェクト・カルナック、ブラザース・テスタメント、シュナージ、それからCYKADA辺りはいいね。どれも違ったサウンドやジャンルだよ。

それだけ多くのアーティストを知ってるならレーベルをやっても良いかもしれないですね。

JAJ:いや、止めておくよ。事務作業とかが多いと思うし、多分自分には向いてないと思うな(笑)。

日本でご存じのアーティストはいますか?

JAJ:Kyoto Jazz Massive は素晴らしいよね。それから SOIL & "PIMP" SESSIONS も知ってるよ。この前リーダーの社長と FFKT であったけど、ファッションもマジで最高だったな。

アルバムのリリースも控えてますが、今後の予定は決まってますか?

JAJ:まずはアルバムのリリースに向けて、しっかり準備。その後は何も決めてないな(笑)。たぶん日本にまた戻ってライヴがしたいね、ここは本当に素晴らしい場所だよ。最高だ。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972