「Nothing」と一致するもの

Nia Andrews - ele-king

 覚えているだろうか? ソランジュの2016年作『A Seat At The Table』のインタールードで聞こえた美しい歌声を。他にもディーゴマーク・ド・クライヴ=ロウなどのブロークンビーツ系アーティストや、モッキーカマシ・ワシントンなどの諸作に参加してきたヴォーカリスト、ニア・アンドリュースが満を持してフル・アルバムをリリースする。新たなヴォーカル名盤誕生の予感……艶やかにして静謐な歌声に酔いしれよう。

NIA ANDREWS
No Place Is Safe

カマシ・ワシントンやソランジュ、ソイルアンドピンプセッションズやモッキーの作品に参加し、
素晴らしい歌声と愛らしさが魅力のLAのシンガーソングライター NIA ANDREWS によるデビュー・アルバム!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/niaandrews

ジャズ・ピアニスト、作曲家で、教育者としてファーサイドからカマシ・ワシントンまでを育てたレジー・アンドリュースを父に持ち、これまでソランジュやモッキーらの作品にもフィーチャーされてきた実力派シンガー、マルチ奏者のニア・アンドリュースが満を持してデビュー・アルバムを完成させました。彼女が多くのアーティストから愛されてきた理由がこのアルバムにあります。父の名盤『Mystic Beauty』が好きだった人もぜひ!! (原 雅明 ringsプロデューサー)

アーティスト : NIA ANDREWS (ニア・アンドリュース)
タイトル : No Place Is Safe (ノー・プレイス・イズ・セーフ)
発売日 : 2019/9/4
価格 : 2,400円+税
レーベル/品番 : rings (RINC53)
フォーマット : CD

Tracklist :
01. The Road (Intro)
02. Linger
03. Might Be Eternity
04. Call Your Name
05. Be a Smart Girl
06. Cleo and the King
07. Ho'oponopono (Interlude)
08. The Ceiling
09. Seems So
10. Little Girl
11. Old Man

IO - ele-king

 東京・世田谷を拠点とするクルー、KANDYTOWN の中心的存在である IO による、〈Def Jam Recordings〉に移籍後初となるアルバム『Player's Ballad.』。これまで〈P-VINE〉から2枚のソロ・アルバム『Soul Long』、『Mood Blue』をリリースし、KANDYTOWN としてもアルバム『KANDYTOWN』でメジャー・デビューを果たすなど、ソロ、グループともにたくさんの作品を重ねてきた IO だが、これまでの彼の楽曲と言えば、90年代、2000年代的なサンプリング・マナーも交えながら、ソウルフルなフィーリングをいまのサウンドとして昇華させ、ラップに関しても実にアーバンでスタイリッシュなスタイルというイメージが非常に強かった。本作はソロでのメジャー・デビュー作ということもあり、これまでの集大成的な作品を予想していたのだが、アルバム・タイトルにある「Ballad」という言葉が示しているように、BPM 控えめに、しっとりとしたムーディーなイメージが全面に出た構成となっている。トラックの曲調に関しても、ミニマルなビートに透明感あるシンセが効果的に響くスタイルが軸になっており、IO のアーバンでスタイリッシュなラップが見事にハマる。そんなスタイルを象徴する“Shawty.”や、もう少しアッパー寄りな“Player's Section.”など聴きどころは多数あるが、このアルバムの大きな目玉と言えるのが、5lack がプロデュースおよびフィーチャリングで参加した“Missed.”だろう。男の色気も漂わせながら、IO と 5lack のふたりが哀愁漂うラヴ・ソングをラップと歌で作り上げ、見事なコンビネーションを披露している。その一方で、過去作での持ち味であったノスタルジックな感覚も健在で、ブギーっぽいテイストも込められている“Pursus.”や MUD をフィーチャした KANDYTOWN 色全開な“Mellow and The Smoke Blue.”など、要所要所に盛り込まれているのも実に心憎い。

 さらに本作の収録曲3曲(“Solid.”、“Bill.”、“Shawty.”)を WONK、King Gnu のメンバーらが演奏して再レコーディングしたという音源『Player's Section. (Band Edition)』がデジタル配信されているのだが、生楽器のサウンドによってソウルフルかつジャジーなテイストがプラスされ、『Player's Ballad.』の世界観にさらに異なるベクトルが加えられている。『Player's Ballad.』のようなムーディーな面を強調したアルバムも、まさに IO にしかできないような作品であるのだが、『Player's Section. (Band Edition)』もまた IO の新たな魅力を大きく引き出した作品と言える。〈Def Jam Recordings〉というステージで、今後、彼がどのような景色を見せてくれるのか、実に楽しみだ。

Merzbow - ele-king

 昨年の『Monoakuma』でローレンス・イングリッシュ主宰の〈Room40〉と歴史的な邂逅を果たしたメルツバウだけれど、活動40周年を迎える今年、ふたたび同レーベルよりニュー・アルバムがリリースされることとなった。タイトルは『Noise Mass』で、1994年に発表された『Hole』をアップデイトした内容になっている模様。しかも40周年記念ということで、1979年から今日までのメルツバウの歩みを追ったロング・インタヴューに加え、貴重な写真やコラージュなどを掲載した28ページの本まで付属するそうだから、これはもう買うしかない。発売は7月12日。詳細は下記バンドキャンプにてチェック。

https://room40.bandcamp.com/album/noise-mass

Merzbow
Noise Mass

Room40

01. Voicematrix Pt.1
02. Noisematrix Pt.1
03. Noisematrix Pt.2
04. Kraft-Ebings Dick
05. Voicematrix Pt.2

Yoshino Yoshikawa - ele-king

 これまで〈Maltine Records〉や〈ZOOM LENS〉といったネット・レーベルから作品を発表、近年は海外へも活動範囲を広げ、昨年は ONJUICY とのコラボ曲“RPG”も話題になった Yoshino Yoshikawa がついに、ファースト・フル・アルバムをリリースする。しかもなんと、活動10年目にして初のフィジカル作品だそう。彼の提唱する「Ultrapop」なるスタイルを凝縮した集大成的なアルバムになっているとのことで、ベース・ミュージック由来の低音とキュートさが同居した、楽しいアルバムに仕上がっているようだ(件の“RPG”も収録)。発売は8月21日、楽しみに待っていよう。

Yoshino Yoshikawa
2019.08.21 1st full album!!
Ultrapop
活動10年目にして初のフィジカル・リリース! “Ultrapop” の名を冠した1stフル・アルバム!

Yoshino Yoshikawa、活動10年目にして自身初となるフィジカル・リリース『ULTRAPOP』。
兼ねてから標榜している、ジャンルやスタイルをひとつの質感に統一する方法論から生まれた“Ultrapop”。
今作では、アウトサイダーという立場から“Ultrapop”を用い、ダンス・ミュージック、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、フュージョン、ジャズ、ビデオ・ゲーム・ミュージック等、多彩なジャンルを Yoshino Yoshikawa という強い個性で編み込んでいる。
旧知の仲である AZUMA HITOMI、野兎、LLLL をはじめ、グライムMCの ONJUICY、鍵盤ハーモニカ奏者兼プロデューサーとして活躍する ゆnovation が参加し、これまでの活動の軌跡が垣間見える集大成的な作品に仕上がっている。
確かなスキルに裏打ちされた繊細なサウンドとグルーヴ、未来を諦めないという希望と日々の祈りから生まれた『ULTRAPOP』を、Yoshino Yoshikawa と共に楽しんで頂きたい。

Yoshino Yoshikawa
Ultrapop

not records
NOT0024
¥2,000円 (tax out)
CD1枚組/ジュエルケース仕様/全14曲収録

Amazon / Tower / HMV

01. Popcorn Stand
02. Spiral Tone
03. Yokaze (with 野兎)
04. Night Ride (with LLLL)
05. Entertainer 2019
06. Cycling
07. Taking Shelter (with ゆnovation)
08. Don't Leave Me (with 野兎)
09. Rain
10. Strange Dream
11. Toro Nagashi
12. Get Me Out (with AZUMA HITOMI)
13. RPG (with ONJUICY)
14. Yumetatsu Glider 2019

■ Yoshino Yoshikawa

東京在住のプロデューサー。
Ultrapop を提唱し、ダンス・ミュージックからポピュラー・ミュージック、アニメやゲーム・ミュージックまで幅広い領域をカバーした楽曲をソフトウエアと共にシンセ駆使しフラットな電子音楽的質感に落とし込む作風は国内外に根強いファンを持っている。
これまで東京の〈Maltine Records〉やLAを拠点とする〈ZOOM LENS〉といったレーベルから複数のEP、LPをデジタルリリース。
これまでに、FPM、東京女子流、南波志帆などのアーティストに Remix を提供する一方で、音楽ゲーム「maimai」シリーズや、アニメ「きんいろモザイク」のキャラクターソング提供なども行った。
2017年には初となる海外ライブを韓国 Cakeshop で敢行し、盛況のうちに終了。
英字新聞 The Japan Times や OWSLA 主催のメディア“NEST HQ”にも記事が掲載される等、海外にも活動範囲を広げている。

編集後記(2019年7月9日) - ele-king

 求人募集の履歴書、アメリカでは年齢(そしてジェンダー)を必ずしも書かなくてもいいことになっている。年齢(ないしはジェンダー)によってひとを選ぶことは差別だという認識だ。よって久保建英の才能を18歳だからという年齢を入れて評することは現代的とはいえないだろうが、しかし、彼が日本のサッカー史上、類を見ない選手であることは、レアル・マドリードに移籍したからではないし、全盛期の小野伸二を彷彿させる技術を持っているからではなく、コパアメリカで敗戦後に一時帰国した際の報道写真において、なんとこのフットボーラーは片手にエドゥアルド ガレアーノによる『スタジアムの神と悪魔』を持っていたのである。
 ウルグアイの作家によるこの本は、ラテン・フットボールの哲学であり、叙事詩である。そこに描かれているのはトレーニングや戦術の話でも自己啓発的な精神の話でもない、フットボールへの極めて詩的な、ある種耽美的とも言える、そしてラテン的な愛の表現だ。このような書物は、ぼくのような妄想家の快楽であって、リアリズムに生きている選手には縁のないものだと思っていたが、思いがけないことがあるものだ。もし仮に久保建英がこの本を読んでみたけれどさっぱり面白くなかったと思ったとしても、まったく問題ない。少なくともこの本を手にした(そしておそらく機内でその本のページをめくった)という事実だけでも素晴らしいことだし、誰かにプレゼントされたとしても、そういうひとが身近にいるということだ。彼の非凡さは、プレイだけではない。まあそんなわけで、ジダン監督のもとでこの18歳がどんな選手になっていくのか、うん、じつに楽しみ。
 そう、なにを隠そう、この編集後記をなかなか書けなかった最大の理由は、Jリーグ開幕以来、清水エスパルスが不甲斐ない試合をしてきたことに尽きるのだが(一時期は最下位で、監督は解任)、最近ようやく少しは持ち直してきたおかげで心にゆとりが生まれ、いまこうして書くことができている。負けたとはいえ、味スタで久保建英のプレイも見れたことは、いまにして思えば良かった。なんてことも言えるようになった。
 さて、これを書いている今日は、別冊エレキング『続・コーネリアスのすべて』の入稿日。このコーネリアス号を作る1ヶ月前は、紙エレキングの「オルタナティヴ日本!」という特集号を編集した。そんなわけでここ数ヶ月は日本の音楽をよく聴いたし、日本の音楽についてよく考えた。
 つい最近、海外を放浪していた旧友から、日本って例外の可能性を考えないよなぁという話をされた。「オルタナティヴ」とは「例外」のことである。いまの日本がおそろしく「例外」を認めない国になっているように感じるのは彼だけではないだろう。同調圧力型の社会は「例外」を恐れているようだが、しかし果たしてこのまま貧しいことも受け止められずにいることが救いになるのだろうか。安部政権下の6年のあいだで、音楽ではいったい何が評価されたのか、「オルタナティヴ日本!」における邦楽ベスト100枚は、未来の子どもたちに笑われないように選んだつもりです。ことに最初の3枚は、ある意味「孤独」な作品といえるかもしれない。孤独を忌避しようとしている(ように思えてしまう)現代に逆らってみたかったし、じゃがたらの“みちくさ”やザ・タイマーズの“イモ”のような曲をもっとみんなに聴いてもらいたかった。そんな折りに、参院選の渡辺てる子の演説(=心の叫び)を聴いて、100メートルぐらいぶっ飛んだ。この国にヴァンパイア・ウィークエンドやスリーフォード・モッズのようなミュージシャンがいたら教えてあげて欲しい。サンダースやコービンも、黄色いベストも、もはや海の向こうの話ではないかもよ。

Charles Hayward - ele-king

 70年代後半から80年代初頭にかけて活躍した伝説的なポストパンク・バンド、ディス・ヒートのメンバーとしても知られるチャールズ・ヘイワードによる二種類の作品がリリースされた。それぞれ『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』と題された、フォーマットも内容も大きく異なるこれらの作品について触れる前に、まずはヘイワードのこれまでの活動について書き記しておこう。

 チャールズ・ヘイワードは1951年生まれ、英国のインディペンデントな音楽シーンで主にドラマーとして活動してきた。その名前が広く知られるようになったのはやはり1976年にギターのチャールズ・バレン、ベースのギャレス・ウィリアムズとともに結成したディス・ヒートにおける活動がきっかけだろう。英国ロンドン・ブリクストンを拠点に活動し、1979年にはデビュー作『ディス・ヒート』をリリース。即興的なセッションを録音し、それを聴き返すことで楽曲のアイデアをかたちづくっていくとともに、テープ編集やポスト・プロダクションを幾重にも施すことによって同作品は完成したという。現在から振り返れば同じく英国ロンドン・ブリクストンで活動する若手バンドのブラック・ミディの先駆にも思えるが、ともあれ、ベースのウィリアムズの脱退にともないディス・ヒートは1982年に解散。その直後にヘイワードはディス・ヒートの音楽を発展的に継承するかたちでキャンバーウェル・ナウを結成。音響的な実験は深化するものの一枚のアルバムを残し5年後の1987年には解散してしまう。

 その後も複数のグループで活躍することになるのだが、キャンバーウェル・ナウが解散した1987年は初めてのソロ・アルバム『Survive the Gesture』をリリースするなど、ヘイワードにとって画期となった年だと言っていい。同作品のアヴァンポップな作風は傑作とも謳われたものの、その後も画家マーク・ロスコに捧げた『Skew Whiff』(1990)や『Abracadabra Information』(2004)、『One Big Atom』(2011)などつねに自らのソロ・ワークを更新し続けてきた。他方で記憶に新しいところでは2017年にソニック・ユースのサーストン・ムーアとともに全編即興演奏による作品『Improvisations』をリリースしており、ギター・ノイズと渡り合う力強いロック・ドラミングはディス・ヒート時代から変わらないヘイワードのオリジナルな響きを聴かせてくれている。それから2年を経てリリースされた『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』は、ドラマーではなくコンポーザー、あるいは綜合的な音楽家としてのヘイワードの才能が発揮された極めてユニークな作品になっている。

 シンガーソングライターとしてのピアノによる弾き語りが収録された『(Begin Anywhere)』は、メランコリックな歌声とつねに希望が先送りされてしまうかのような感触の楽曲が印象的な、英国ロック・ミュージックのオルタナティヴな血脈を総ざらいしたとも言えそうなアルバムである。それに対して『Objects Of Desire』は、ディス・ヒート結成前の1975年に録音された素材がもとになっており、演奏というよりもドローン/物音/ノイズ/トライバルな響きなどが編集された実験的な作品になっている。約1時間にわたって延々と続く音響的な実験はカセットテープの歪みさえサウンドとして定着させており、この音源がさらにカセットテープとしてリリースされているということも面白いのだが、いずれにしても3~4分前後の小品が収録されたソング集でもある『(Begin Anywhere)』とは好対照をなすアルバムである。

 『(Begin Anywhere)』と『Objects Of Desire』はほとんど繋がりがないようにも思えるほど異なる作品になっている。だがそれは1975年の演奏(『Objects Of Desire』)から44年を経て現在の演奏(『(Begin Anywhere)』)へと発展/洗練を遂げたということでもないように思う。むしろ1975年に録音された音響素材を聴き取り、それを音楽作品へとまとめあげたのは他でもなく現在のヘイワードであって、おそらくポップスと実験音楽の両極にそれぞれ振り切ったような2作品が同時期にリリースされているということこそ重要なのだ。どちらの作品が欠けても現在のチャールズ・ヘイワードの音楽を把捉することはできないとともに、これらの2枚のアルバムは、彼がいまもなお新たな音楽へと前進し続けているということをわたしたちに明らかにしてくれることだろう。

Kokoroko - ele-king

 目下、ロンドンにおいてもっとも熱いシーンはラップかもしれないが、しかしそのカオスから生まれるふつふつとした蒸気とはあたかも対岸で鳴っているのが、『We Out Here』に収録されたココロコの“Abusey Junction”だ。それはもがいてもがいてなんとか生きようとするDaveが流している涙のすぐそばにある音であり、切ないチルアウトである。ココロコから漂う静寂さは、ニューエイジのそれとは完璧なまでに180度違っている。ここは森ではない。川のせせらぎはなく、聞こえるのは騒音であり、見えるのは山ではなくビル。土ではなくコンクリート。飲める水は水道水。いつ気が触れてもおかしくないようなこの都市における肝の据わった叙情詩を、南ロンドンの7人組は演奏する。彼ら/彼女らの待望のデビューEPは、今年のまあ5枚のうちの1枚にははいるだろう。
 ココロコのサウンドを特徴付けているのはオスカー・ジェロームのギターだ。詩的でエモーショナルな彼の演奏は、打楽器奏者のオノメとドラマーのアヨのふたるからなる、いたってチルなアフロ・ビートと有機的に絡んでいる。そして大らかさと優しさは、リーダーのシーラによるブラス音やコーラスによって彩られる。多文化的であり、男女人種混合のコミュニティである彼らを現代の英国の理想的音楽の具現化というのはたやすいが、ここには、70年代ルーツ・レゲエの最高の瞬間さえも彷彿させる強さがあることも忘れないでおきたい。チルアウト感覚はこのバンドの武器だが、シャバカ・ハッチングばりの炎も、フェラ・クティの勇敢さもあるのだ。つまりこの音楽は骨抜きではないし、明るい未来を渇望している。4曲入りのデビューEP「Kokoroko」、素晴らしい、アルバムが待ち遠しい。

 ココロコの力強い静寂とは打って変わって、〈The Vinyl facto〉からリリースされた『Untitled 』はとげとげしく、ささくれだったUKジャズとUKヒップホップとの邂逅のショーケースである。『We Out Here』のパンク・ヴァージョンというのは言い過ぎだが、ポストパンク的な展開とは言えるだろう。コンピレーションのテーマは画家のジャン・ミッシャル・バスキアということだが、いまのロンドンのアクチュアルなシーンのレポートとしても機能している。
 UKジャズも若々しいシーンだが、こちらの若さは、ニヒリズムをもって活力を発している。衝突ないしは攻撃性がここにはあるのだ。アルバムを聴いて思い出すのは、最初期の〈ラフトレード〉のコンピレーションだ(女性が活躍している点も似いている)。あれがロックやパンクというスタイルに疑問を投げかけたように、本作は、ヒップホップやジャズに疑問を投げかけ、あらたな異種混合に挑んでいる。

 シャバカ・ハッチングがラッパーのコジェイ・ラディカルと組んだ曲、“No Gangster”が目玉ではある。これこそUKジャズのネクストだろう。じつのところ、ぼくはこの曲のためだけにアルバムを買った(まあ、ジャケのデザインが格好良かったというのも大きいが)。また、コンピにはマーラジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシアといった「おや」と思わせる引きのあるメンバーによる曲もある。曲もたしかに悪くない。が、しかし、このアルバムを活気あるものにしているのは、まだキャリアの浅いと思われる人たちのトラックだ。まるでザ・スリッツのヒップホップ・ヴァージョンといえる“Broadcast By Chocolate”、=CoN+KwAkE=なる人物の変態ヒップホップ、Lord TuskによるPiLを彷彿させるパンク・ジャズ、Maxwell Owinによるウェイトレス・ジャズ(とでも形容したくなるサウンド)……。
 うん、たしかに面白いことが起きているようだ。90年代初頭、ベイビー・フィイスが全盛だった時代にパブリック・エナミーがいたことを思い出すがいい。

※原稿とは関係ないけど、参院選の渡辺てる子、彼女の演説は素晴らしい。

Tom Zé Japão Tour 2019 - ele-king

 これまた事件です。60年代、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルらとともにトロピカリア運動を盛り上げ、90年代にデヴィッド・バーンによって再“発見”された偉人、10年代以降も精力的に作品を発表し続けている現役バリバリの御大(『21世紀ブラジル音楽ガイド』をお持ちの方は165頁を開きましょう)、ブラジル音楽の生ける伝説、トン・ゼーが齢82歳にして初めての来日公演をおこないます。東京では単独公演、静岡では《FESTIVAL de FRUE 2019》に出演します。こんな機会はもう二度とないでしょうし、これは何がなんでも観ておきたい……SS席はすでにソールド・アウトですが、A席・B席の販売が7月10日12:00より開始予定。早めに申し込みましょう。

Tom Zé Japão Tour 2019

https://frue.jp/tomze2019/

Tom Zé in Tokyo
10.31 (木)
場所:三鷹市公会堂光のホール
(東京都三鷹市野崎1-1-1)
開場:18:30 / 開演:19:30
前売チケット
SS席:15,000円
S席:12,000円
A席:10,000円
B席:8,000円

FESTIVAL de FRUE 2019
11.2 (土) ~ 3 (日)
場所:静岡県掛川市 つま恋 リゾート彩の郷
(静岡県掛川市満水(たまり)2000)
LINEUP:
Tom Zé
and many more artists...

栗原康 × 白石嘉治 - ele-king

 お知らせです。おかげさまで好評をいただいている『ele-king臨時増刊号 黄色いベスト運動──エリート支配に立ち向かう普通の人びと』の刊行記念イベントが、7月21日(日)武蔵野プレイスにて開催されます。同書に参加し、昨年の『文明の恐怖に直面したら読む本』も記憶に新しい栗原康と白石嘉治のふたりが、ジレ・ジョーヌについて、刊行後の動向も含めてぞんぶんに語り合います。主催は、『黄色いベスト運動』号に翻訳記事を提供してくれた、ル・モンド・ディプロマティーク日本語版の会。ちなみに代表理事を務める村松恭平は、まもなく刊行されるヴァルファキス『わたしたちを救う経済学』の翻訳にも参加しています。当日は懇親会もありますので、お時間ある方はぜひ!

ディプロ出版記念シンポジウム
フランスの民衆蜂起「黄色いベスト」運動を問う

~エレキング臨時増刊号『黄色いベスト運動~エリートに立ち向かう普通の人びと』の出版を記念して~

対談:白石嘉治氏(仏文学者) vs 栗原康氏(アナーキズム研究者)

 昨年末、燃料税の値上げに反対してフランスで始まった「黄色いベスト」運動はマクロン大統領に象徴されるエリート支配に立ち向かう“民衆蜂起”として今もなお続いている。組合や政党が主導したかつての社会運動と違い、地方在住のおじさんやおばさんが自然発生的に立ち上がったこの運動は、左右のイデオロギー対立を超えたアナーキーな運動として、パリ・コミューンや五月革命とともに歴史にその名を刻むことになるだろう。

 その実情を伝えるエレキング臨時増刊号『黄色いベスト運動』(Pヴァイン、今年3月発売)の出版を記念し、同誌で対談している仏文学者の白石嘉治さん(『ネオリベ現代生活批判序説』新評論など)とアナーキズム研究者の栗原康さん(『何ものにも縛られないための政治学~権力の脱構成』角川書店など)をお招きし、「黄色いベスト」運動の意義とアナーキズムの現在について考える。

※参考図書:白石嘉治・栗原康共著『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン発行)

■日時:7月21日(日)午後2時半~4時半
■場所:武蔵野プレイス3階 スペースC
 東京都武蔵野市境南町2-3-18(JR中央線武蔵境駅南口)
■資料代:一般800円、会員・学生500円(学生の方は学生証をお持ちください)
■定員:40名(先着)
■主催:ル・モンド・ディプロマティーク日本語版の会

https://www.diplo.jp

※シンポジウム終了後、近くの居酒屋で懇親会を開催します。講師を囲んで和気あいあいと懇談したいと思います。参加費は3000円程度の予定です。
※申し込みとお問い合わせは日本語版の会まで(diplojapon@gmail.com 携帯080-4451-1954)

Underworld - ele-king

 アンダーワールドが10月23日にニュー・アルバム『Drift Songs』を日本先行でリリースする。『T2』の限定12インチイギー・ポップとのコラボなど、止まることなく活動を続けてきた彼らだけど、スタジオ・アルバムとしては2016年の『Barbara Barbara, We Face A Shining Future』以来、3年ぶりの作品となる。今回の新作は、昨年11月からスタートし、52週にわたって毎週なんらかのかたちで映像や音楽、エッセイなどを発表していくシリーズ「DRIFT」の総決算に当たるとのことで、いったいどんな内容に仕上がっているのか、いまから楽しみだ。現在、トレイラー映像が公開中。

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