「Nothing」と一致するもの

Local X5 World - ele-king

 先日アナウンスのあった WWW と WWW X のアニヴァーサリー企画《WWW & WWW X Anniversaries》。そのうちのひとつとして開催される《Local X5 World》の詳細が発表された。すでに告知済みのツーシン(Tzusing)およびキシ(Nkisi)の初来日公演に加えて、2年前の CIRCUS でもその存在感を見せつけてくれたガイカ(Gaika)と、日本の現代美術家にしてホーメイ歌手の山川冬樹がライヴを披露する。また、《Local World》のコア・メンバーである行松陽介、Mars89、Mari Sakurai、speedy lee genesis らも勢ぞろい。9月20日は WWW X に集合だ。

WWW & WWW X Anniversaries Local X5 World - Third Force -

未来へ向かう熱狂のアジア&アフロ・フューチャリズム! ハードに燃え盛る中国地下の先鋭 Tzusing とコンゴ生まれ、ベルギー・ハードコア/ガバ育ちのアフリカン・レイヴなロンドンの新鋭 Nkisi (UIQ)、同じくロンドンのゴス・ダンスホール等で話題となったディストピアン・ラッパー/シンガー GAIKA (WARP)、日本のアヴァンギャルドから己の身体をテクノロジーによって音や光に拡張する現代美術家/ホーメイ歌手 Fuyuki Yamakawa をゲストに迎え、ローカルから WWWβ のコア・メンバー Yousuke Yukimatsu、Mars89、Mari Sakurai、speedy lee genesis が一同に揃い、世界各地で沸き起こる “第3の力” をテーマとした WWW のシリーズ・パーティ《Local World》のアニヴァーサリーとして開催。

WWW & WWW X Anniversaries
Local X5 World - Third Force -
2019/09/20 fri at WWW X

OPEN / START 24:00
Early Bird ¥1,800 / ADV ¥2,300@RA | DOOR ¥3,000 | U23 ¥2,000

Tzusing [Shanghai / Taipei]
Nkisi [UIQ / Arcola / London] - LIVE
GAIKA [WARP / London] - LIVE
Fuyuki Yamakawa - LIVE
Yousuke Yukimatsu [TRNS-]
Mars89 [南蛮渡来]
Mari Sakurai [KRUE]
speedy lee genesis [Neoplasia]

※ You must be 20 or over with Photo ID to enter.

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 - 外伝 -

interview with Tycho - ele-king


Tycho
Weather

Mom+Pop / Ninja Tune / ビート

ElectronicDowntempo

Amazon Tower HMV iTunes

 去年の「ザ・美しい音響&テクスチャー大賞」がジョン・ホプキンスだとしたら、今年はティコだろう。
 ティコ(じっさいは「タイコ」と発音する模様)ことスコット・ハンセンはもともと、もろにボーズ・オブ・カナダに触発されるかたちでダウンテンポ~エレクトロニカに取り組んでいたアーティストである。その影響は実質的デビュー作の『Past Is Prologue』(2004/06年)にもっともよくあわわれているが、今回の新作でも“Into The Woods”や“No Stress”といった曲にその影を認めることができる──とはいえ『Dive』(2011年)以降、BOCの気配はあくまで旋律や上モノの一部に残るに留まり、むしろダンサブルなビートと生楽器による演奏の比重が増加、『Awake』(2014年)からはバンド・サウンドに磨きがかかり、まさにそれこそがティコのオリジナリティとなっていく。その集大成が前作『Epoch』(2016年)だったわけだけれど、重要なのはそのようなロック的昂揚への傾斜(およびノスタルジーの煽動)と同時に、サウンドの透明感もまたどんどん研ぎ澄まされていった点だろう。この美麗さはBOCにはないもので、そのようなテクスチャーにたいするこだわりは、次なるステップへと歩を進めるために〈Ninja Tune〉へと籍を移し、ほぼすべての曲にセイント・スィナーことハンナ・コットレルの魅惑的なヴォーカルを導入、アートワークの連続性も刷新した新作『Weather』においても健在だ。
 前作でキャリアにひと区切りがつき、いま新たな一歩を踏み出さんとするティコ。はたして今回のアルバムに込められた想いとは、どのようなものだったのか? フジロックでの公演を終え、東京へと戻ってきていたスコット・ハンセンに話を聞いた。

毎回もっと聴きやすい作品にしたいと思っている。ロウファイな音楽のなかで興味があったのは、ほんとうにひとつかふたつくらいの要素くらいしかなかったんだ。もっとハイファイにしたいし、クリアな音にしたいと思っている。

いまも活動の拠点はサンフランシスコですか?

スコット・ハンセン(Scott Hansen、以下SH):いまでもそうだよ。もう13年くらいいるね。

日本は湿気が多くて蒸し暑いですけれど、おそらくサンフランシスコはぜんぜんちがいますよね。

SH:まったくちがうね。この暑さには慣れていないよ。サンフランシスコはそこまで暑くならなくて、夏でも短パンをはけるのが2~3週間あるくらい。それ以外は涼しかったり、風が吹いたり、霧が濃かったり。天候のちがいとか雲の動きとかが見えるから、あの気候はけっこう好きだね。

今回のアルバムのタイトルは『Weather』ですが、音楽制作にその土地の気候は影響を与えると思いますか?

SH:たしかに『Weather』という名前をつけたけれども、直接的な意味というよりは、移り変わりというか、いまこの時代いろいろなアップダウンがあって、自分のコントロールの範囲外のこともたくさんあるなかで、それを受け容れていかなければいけない状況、みたいなことも意味してるんだよ。それから、僕がつくる音楽は自分の体験がもとになっていて、僕は自然が好きなんだけど、そういうところに行って、自然を音楽に反映させている。サンフランシスコだと、自然のエネルギーだとか天気の移り変わりだとか、そういうものが直接的に感じられるから、それは音楽につうじていると思うよ。『Weather』には天候という意味もあるけど、ふたつの意味を与えているんだ。

前作の『Epoch』がビルボードのエレクトロニック・チャートで1位をとったり、グラミー賞にノミネートされたりしましたけれど、そういうショウビズ的な成功は、あなたにとってどんな意味がありますか?

SH:僕の目標は音楽をつくるということであって、そういったショウビズ的な成功にはあまり惑わされないようにしてるけど、グラミーとかビルボードで話題にあがったことはすごく光栄だし、じっさいに僕の音楽が仕事として認められたということはすごく嬉しい。もともと僕はグラフィックデザイナーをやっていて、それほど長くは音楽活動をしていないんだよね。だから、アーティストとして認められたということにはひと安心したし、今後もアーティスト活動に集中できるからすごくいいことだと思うよ。自分の音楽はメインストリームの音楽ではないので、グラミーやビルボードに自分の話が出たことにはとてもびっくりしているよ。

まわりの反応も変わりましたか?

SH:うん、そのおかげで一般の人たちが、じっさいに僕が何をやっているのかということを理解できたと思う。両親や友人の一部は僕が何をやっているのかよくわかっていなかったんだ。「DJをやっているの?」とか言われたりね。エレクトロニック・ミュージックをやっている人はけっこう誤解されると思う。じっさいの音楽のつくり方がふつうの人たちにはあまりわからなかったりするからね。だから、グラミーのノミネートとか、ビルボードのチャートインという実績があったことで僕が本物のミュージシャンだということを理解してもらえたのでそれはよかったね。

今回の新作は全体的に、前3作にあったような、わかりやすくダンサブルなビートが減って、ダウンテンポ的な曲が増えたように思いました。それには何か心境や環境の変化があったのでしょうか?

SH:循環というか、一周してきたような感じがするね。『Dive』(2011年)はチルでダウンテンポな感じだった。アルバムを出したあとにツアーをやって、ライヴでエネルギッシュな感じでギターの音やドラムの音を出していった。エキサイティングなものにしたかったから、エネルギーのレヴェルがあがったんだよね。その感じを捉えたくて、『Awake』(2014年)にはもう少しエネルギーが入っている。ロックっぽい感じの音になったと思う。そのあと僕はDJとかダンス・ミュージックにハマるようになっていったんだ。もともと90年代からずっと好きで、それが音楽を作るインスピレイションになっていたんだけど、そこにまた興味がわいてきた。それが2014年から2016年ころの話。そのあとに作ったのが『Epoch』(2016年)で、これはちょっと原点に戻るというか──僕が好きな音楽はゼロ7とかザ・シネマティック・オーケストラとかシーヴェリー・コーポレーションとか、ヴォーカルが入っていてちょっとトリップホップみたいな感じの90'sのころの音楽で。自分もそういうものをつくりたいなと思って、今回はもともと僕が好きだった音楽にふたたび返るような感じでつくったんだ。

いまおっしゃったように、今回のアルバムの最大の特徴は、ほとんどの曲にヴォーカルが入っていることです。

SH:もともとヴォーカル入りの作品はずっとつくりたかったんだよ。でもつくり方を知らなかったというか、まずはベーシックなところから、たとえばシンセをレコーディングしてとか、そういうところからやらないといけなかったんだ。2004年の『Past Is Prologue』にもヴォーカルのトラックはあったんだけど、以降ずっとインストゥルメンタルをやる結果になってしまってね。ただ今回は、ハンナ・コットレル(Hannah Cottrell)と出会うというきっかけがあった。そのときに迷ったんだ。次のアルバムは、すごくヴォーカルに片寄るかインストに片寄るか、どっちかにしようと思っていて。あまりいろんなゲストをフィーチャーして入れるよりも、もっと強いステイトメントみたいなものを出したかった。ヴォーカルをたくさん入れると、けっこうコアで強いメッセージ性が出ると思う。ティコはそういうアルバムこそがメインのアーティストだと思ってるから、アルバムとして強い主張をするならけっこうわかりやすく──今回みたいにヴォーカル寄りなほうがリスナーにとってもわかりやすいかなと思ったんだ。

ハンナ・コットレルはどういう人なのでしょう? 彼女とはどのような経緯で?

SH:共通の友人がいて、それがきっかけで出会ったんだ。彼女がサンフランシスコの親戚に会いに行くことになって、僕が住んでいるサンフランシスコにたまたま来るということになった。そのとき僕はアルバムの曲をけっこうつくっていて、これにヴォーカルを入れるにはどうしたらいいかってちょうど考えていたんだ。友人はそのことを知っていたから、ハンナを紹介してくれたんだけど、僕もそのときまでハンナのことはぜんぜん知らなかったんだ。彼女はそんなに活動もしていなくて、リリースもしていなかったからね。でもとりあえずやってみようということで、2曲やってみた。最初にやったのが“Skate”という曲なんだけど、彼女が歌いはじめたら感動して、これはすごいと思った。ぜひ彼女とのコラボレイションを追求するべきだと思ってアルバムを制作していったら、結局はアルバムのすべてができあがった。すごくインスピレイションになったよ。

リリックは完全に彼女が? あなたからのディレクションはあったのでしょうか?

SH:ハンナがすべての歌詞を書いた。彼女の世界感を表現したかったので、僕はその邪魔をしたくなかった。自分がすべての主導権を握って何もかもをやるというのではなくて、ほかの人の観点も入れて、僕の作品と掛け合わせたものを今回は作りたかったんだ。インストの曲って、聞いた人によっていろんな解釈ができるというか、すごくオープンで、余白が残されている。聴いた人それぞれが各自の旅路、空間にハマっていけるみたいな自由度があるよね。今回はヴォーカルを入れることによって、ハンナというひとりの人間の体験と音楽とを掛け合わせている。これまではリスナーが、自分のストーリーを紡ぎ出したりしていたわけだけど、今回はハンナの物語というか、映画というか、彼女というひとりのキャラクターをとおして僕の音楽をみてもらう──これまでとはちょっとべつの見方をしてもらうためにこの作品をつくったんだよ。

つまり、シングル曲“Pink & Blue”のジェンダーをめぐる歌詞であったり、“Japan”の日本も、全部ハンナの体験ということですね。

SH:そう、ぜんぶ彼女が書いたもので、それは僕の見方や体験とはまったくちがうものなんだ。それじたいが美しくて素晴らしいことだと思う。彼女の世界観は僕では想像できないものだし、理解できないところもあるけど、僕の音楽と彼女の歌詞が新しい何か特別なものを生み出しているということじたいが素敵だなと思う。

僕のなかの記憶だったり懐かしい感じだったり、あとは失われた感じ、喪失感みたいなもの、そういう感情をたいせつにして創作のための活力にしているから、それが音楽にもあらわれているんだと思う。

ヴォーカルを入れるにあたって苦労した点は?

SH:いちばん難しかったのは、余白を見つけること、空間を見つけることだった。僕の曲はたくさんのレイヤーが多層に入っていていろんな要素があるから、難しいんだ。自分だけの音楽だと「じゃあここのシンセを下げよう」とか微調整できるんだけど、今回はヴォーカルがあるから、それをメインの要素として前面に出したいという思いがあった。その一方で、トラックのほかの音の要素、繊細なテクスチャーをどうやって引き出すかという、バランスの作業が難しかったね。

オートチューンだったり、あるいはスクリューのような声の使い方に関心はありますか?

SH:たしかにそういう加工には興味があるし、じっさい僕もときどきやるよ。1曲目の“Easy”では彼女の声を細かく刻んで加工している。これまで自分が作ってきたヴォーカルの曲もそういうふうにやってきたから、まったく抵抗はないね。僕はエフェクト、リヴァーブとかディレイは楽器みたいにして使いたいと思ってるから、ヴォーカルも同じように処理したいと思うんだけど、今回のヴォーカルにかんしては、彼女自身の声がすごく美しかったので、なるべくそこはシンプルにピュアに、誠実に彼女の声に近い感じで、あまりやりすぎないようにしたんだ。でもそういうことには興味はあるし、僕も実験しているよ。

3部作あたりから美しい残響、とくにギターの音の響かせ方がティコの音楽の最大の特徴になっていったと思っていて、イーノ=ラノワを思い起こす瞬間もあるのですが、ご自身としてはいかがでしょう?

SH:そのコメントはすごく嬉しいよ。僕は自分のことを巧みな楽器奏者だとは思ってなくて、プロデューサーという自覚のほうが強い。スタジオを楽器として使うとか、エフェクトを楽器として使うみたいなことをやっているから、もちろんメロディに感情を込めたいという思いもあるけど、音の響きとかテクスチャーとか、そういったものをいちばん大事にしてるんだ。だから音楽をつくるときも、最初からピアノでまるごとぜんぶ、ということはできなくて、ピアノをちょっとだけ弾いて、エフェクト、リヴァーブをかけたりして、そういうのを重ねることでおもしろい音になっていって、それにインスピレイションを受けてさらに作曲も続く──という感じでつくっているね。

ジョン・ホプキンスも思い浮かべました。

SH:彼とはじっさいに知り合いだよ。いい人で、コンテンポラリーな音楽をつくる人のなかでも優秀なひとりだと思ってる。

ティコの音楽は、初期の『Past Is Prologue』はいまよりもくぐもった感じ、ロウファイさがありましたけれど、作品を追うごとにサウンドがクリアになり、ハイファイになっていっている印象を受けます。

SH:たしかにそうだね。毎回もっと聴きやすい作品にしたいと思っている。たしかにロウファイに興味があった時期もあったね。あらあらしいというか、ざらざらしたような音が好きだったんだけど、よくよく考えてみたら、そのロウファイな音楽のなかで興味があったのは、ほんとうにひとつかふたつくらいの要素くらいしかなかったんだ。いまではもっとハイファイにしたいし、クリアな音にしたいと思っている。ハイファイのなかでも自分が好きな音の響き方であったりテクスチャーであったり、ロウファイなもののなかで好きな要素だけを残して、どんどんハイファイにしていきたいと思ってるよ。

今回はレーベルも変わって、〈Ninja Tune〉と〈Mom + Pop〉からの共同リリースというかたちになりました。

SH:以前のレーベルは〈Ghostly International〉だったね。彼らとは最初から一緒にやってきて、付き合いも長くて、すごく素晴らしかったんだけど、今回はそれとはちがうことをやりたかったんだ。〈Ninja Tune〉は僕が昔からすごく好きなレーベルで、オデッザやボノボもいるし、今回新しい作品をつくるにあたってちょっとこれまでとは異なる基盤というか、そういうものが欲しかったから変えたんだよ。

いまの〈Ninja Tune〉は90年代のころとはだいぶ音楽性が変わりましたけれど、やはりいまのオデッザやボノボの路線のほうが好き?

SH:いま〈Ninja Tune〉にはいろんなアーティストがいるし、その歴史も素晴らしいものだと思う。僕は95年ころに〈Ninja Tune〉のコンピレイションを買ったんだけど、それでエレクトロニック・ミュージックを初めて聴いたといっても過言ではないくらいで。それまで聴いてきたものとまったくちがったから衝撃的で、「これはなんだ!」って、すごくインスピレイションを受けたよ。昔からすごく好きだね。ただ、いまの〈Ninja Tune〉のほうが、自分のやっている音楽に近いかなという気持ちはある。昔の〈Ninja Tune〉のままだったら、いまの自分の音楽とは合わないかもしれないね。

ティコの音楽にはノスタルジーを感じさせる部分があります。それは意図したものでしょうか?

SH:意図的にというよりは、僕のなかの記憶だったり懐かしい感じだったり、あとは失われた感じ、喪失感みたいなもの、そういう感情をたいせつにして創作のための活力にしているから、それが音楽にもあらわれているんだと思う。たとえば過去を振り返ったりして、子どものときの記憶を思い出したり、幼いころに聴いた音とか、そういうものを思い出して音楽に使ったりしているので、それがノスタルジア、懐かしさみたいな感じで出ているんじゃないかな。

ティコが初期に影響を受けていたボーズ・オブ・カナダや、前作『Awake』のリミックス盤に参加していたビビオも、そういった感覚を呼び起こさせる音楽家ですけれど、あなたのノスタルジーは彼らのそれとは異なるものでしょうか?

SH:ボーズ・オブ・カナダは僕のいちばんのインスピレイションといっても過言ではないね。だいぶ前に彼らに会ったことがあって、そのときに彼らの音楽を聴いて、自分もこれをやりたい、こういう音がやりたい、音楽をはじめたいって思ったんだ。だからすごく影響を受けているよ。ただ、たしかにノスタルジーはあると思うけど、彼らのほうがダークな感じがあると思うね。もう手に届かない、もう戻れない、喪失感、そういった感覚は共通してあると思っている。僕とボーズ・オブ・カナダは歳も近いんだ。僕たちの世代にはそういう感覚を持っている人は多いんじゃないかな。

今回のアルバムのリミックス盤を作る予定はありますか? もし作るとしたら誰に依頼したいですか?

SH:じつはいまもういろんな人にリミックスを頼んでいて、それがどう仕上がるか、楽しみに待っているところなんだ。コム・トゥルーズクリストファー・ウィリッツ、ビビオは以前にもやってもらって、素晴らしいと思うから、またやってもらいたいな。

Freddie Gibbs & Madlib - ele-king

 これまで自らのグループであるルートパックやJ・ディラとのジェイリブ、MFドゥームとのマッドヴィレインといったユニット、さらにタリブ・クウェリ、パーシー・P、ギルティ・シンプソン、ストロング・アーム・ステディといった様々なアーティストともタッグを組んで、数々のアルバムを生み出してきたマッドリブ。そんな彼にとって、史上最もハードコアなヒップホップ作品となったのが、“ギャングスタ・ギブス”の異名を持つラッパー、フレディ・ギブスと組んで2014年にリリースしたアルバム『Piñata』であり、本作は通称“マッドギブス(MadGibbs)”とも呼ばれる、このふたりのユニットによる第二弾アルバムだ。ちょうどこの原稿を書いているタイミングに、ヨーロッパにてツアーをおこなっている彼らであるが、マッドリブ自ら、フレディ・ギブスとの相性の良さについて、たびたびインタヴューで語っており、このユニットに対する彼らの力の入れようは、そのサウンドにも強く表れている。

 日本の某バラエティ番組のナレーションでも聞き覚えのある音声アプリを使ったと思われるイントロ“Obrigado”にまず驚かされるが、タイトル通りのフリースタイル曲“Freestyle Shit”を挟んでの“Half Manne Half Cocaine”は、本作でも最も注目すべき一曲であろう。この曲で何とマッドリブは、おそらく彼にとっては初となるであろうトラップを披露している。細かい部分にマッドリブならではの感触を残しながらも、そのサウンドはハードなトラップ・ビートそのものであり、フレディ・ギブスのギャンスタ・スタイルなライムとも最高のマッチングで、さらに曲後半での非トラップ・ビートへの切り替えも、絶妙なコントラストになっている。実際、トラップ・ビートはこの曲だけなのだが、マッドリブがフレディ・ギブスと組んだことによって、新たなスタイルへ挑戦するというのは、個人的にも驚きであり、同時にその探究心には恐れ入る。トラップは極端な例にせよ、本作でのマッドリブのサウンドは前作『Piñata』の流れの延長上にあり、サンプリングを全面に押し出したソウルフルなビートが核になっている一方で、フレディ・ギブスのラップにもより強く引っ張られて、間違いなく前作以上にハードコアな作品になっている。また、“Palmolive”でのキラー・マイクとプッシャ・T、“Education”でのヤシーン・ベイ(モス・デフ)とブラック・ソートなど、参加ゲストも前作以上に充実しているのだが、中でも飛び抜けているのがアンダーソン・パークをフィーチャーした“Giannis”だ。NBAプレーヤーの名前からタイトルが付けられたというこの曲だが、不穏な空気が充満したドラマティックなトラックに、フレディ・ギブスとアンダーソン・パークのコンビネーションが見事にハマっており、マッドギブスが描こうとしている世界観のひとつの完成形がこの曲に詰まっているように感じる。

 今後もマッドギブスとしての活動は継続していく予定で、すでに次作には、これまでの2作品と同様にギャングスタ・カルチャーとも結び付いた『Montana』という仮のタイトルが付けられているという。ギャングスタをテーマにした壮大なサウンドトラックというイメージさえも湧き上がってくる、彼らのプロジェクトのさらなる展開に期待したい。

interview with Dai Fujikura - ele-king

 ときは2007年。それは偶然の巡り合いだった。もしあなたがクリストファー・ヤングの書いた評伝『デイヴィッド・シルヴィアン』を持っているなら、15章と16章を開いてみてほしい。ご存じシルヴィアンという稀代の音楽家と、若くして次々と国際的な賞を受け高い評価を得ていた新進気鋭の作曲家・藤倉大との出会いが鮮やかに──そして通常はコレボレイションと呼ばれる、しかしじっさいには互いの情熱をかけた音楽上の熾烈な闘いの様子が──じつにドラマティックに描き出されているはずだ。『Manafon』(2009年)とそれを再解釈した『Died In The Wool』(2011年)、あるいはそのあいだに発表されたコンピレイション『Sleepwalkers』収録の“Five Lines”(2010年)。それらがふたりの友情の出発点となった。
 クラシカルの分野で若くして才能を発揮──なんて聞くと、「さぞ裕福な家庭で英才教育を施されたエリートにちがいない」と思い込んで身構えてしまうかもしれないが、藤倉大はいわゆるエリーティシズムからは遠いところにいる。「じつはぜんぜんクラシック育ちという感じではないんですよ。むしろクラシックのことはぜんぜん知らない」と彼は笑う。「10代や20代のときに聴いていたアルバムを挙げてくださいと言われても、クラシックは1枚くらいしか入らない」。そんな彼が少年時代に何よりも夢中になっていたのは、デイヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一だった。それが後年、じっさいに共作したり共演したりすることになるのだから、運命というのはわからない。
 ともあれ、音楽的なルーツがそこにあるからだろう、藤倉大の作品には、現代音楽にありがちな人を寄せつけない感じ、理論をわかる人だけが楽しめるあの閉じた感じが漂っていない。彼は近年、笹久保伸との共作『マナヤチャナ』を皮切りに、『世界にあてた私の手紙』『チャンス・モンスーン』『ダイヤモンド・ダスト』と立て続けに〈ソニー〉からソロ名義のアルバムをリリースしているが、そのどれもがアカデミックな堅苦しさとは距離を置いている。
 この6月に発売された新作『ざわざわ』もじつにエキサイティングなアルバムで、たとえば最初の3曲の声の使い方には、ふだんいわゆるエクスペ系の音楽を聴いているリスナーにとっても新鮮な驚きがあるだろうし、後半のコントラバスやホルンの曲も、最近エレクトロニック・ミュージックの分野で存在感を増してきているイーライ・ケスラーオリヴァー・コーツロンドン・コンテンポラリー・オーケストラあたりが気になっている音楽ファンにはぜひとも聴いてもらいたい楽曲だ。
 現代音楽の作曲家であるにもかかわらず、クラシカルについてはよく知らない──その不思議な経歴と背景に迫るべく、ロンドン在住の彼にスカイプでインタヴューを試みてみた。


じつはぜんぜんクラシック育ちという感じではないんですよ。むしろクラシックのことはぜんぜん知らない(笑)。10代や20代のときに聴いていたアルバムを挙げてくださいと言われても、クラシックは1枚くらいしか入らない。

藤倉さんはロンドンのどのエリアにお住まいなのですか?

藤倉大(以下、藤倉):グリニッジほど遠くはないですが、南東のエリアです。たぶん昔、デヴィッド・シルヴィアンやジャパンのメンバーが高校に通っていて、バンドを結成したエリアじゃないかな。

それが理由でそのエリアを選んだというわけではなく?

藤倉:ちがいますね。たんに家賃が安いところを探して選びました。ここはもともとドラッグの売人とかが歩いているような治安の悪い、荒れた地域だったんですよ。それで家賃が安かったから、あえてここを選んで引っ越したのに、2012年のロンドン・オリンピックの影響で、電車とかがものすごく便利になってしまった。それで一気に家賃が高騰して、住んでいる人たちも変わりました。それでも僕がそこに住み続けられたのは、家主が牧師だったからなんです。大家から電話があるたびに、「人間として最悪の罪は欲望ですよね」と言って、そしたら向こうも「そのとおりだ」と言う。聖書にそう書いてあるわけですし、当たり前ですよね。それをずっと言い続けていたら、うちだけ家賃が上がらなかったんです(笑)。

すごい裏技ですね(笑)。

藤倉:そうでもしないと住み続けられなかった。その後、近くに引っ越したんですが、そこも信じられないくらい小さなところで、家の状態もよくなかった。だから高くなかったんです。ちなみにチェルシーはお金持ちが住むところなんですが、僕らが住んでいる地域もいまや「東のチェルシー」と呼ばれるくらいにまでなってしまいました。人種も変わりましたね。以前は白人があまりいなかったんですが、いまは白人やお金持ちの人たちばかりです。

お金のないアーティストたちが住めるような街ではなくなってしまった。

藤倉:そう。ただ、イギリスには不思議な制度があって、売れない画家を装っていても、じつはその両親がお金持ちというケースがあります。譲渡税というか、そういう税があまりかからないらしいんです。だから、親の稼ぎがあるとか、あるいは代々受け継がれてきた家があるとかで、画家としては売れていなくても、ふつうに生活できるんですよ。ここにはそういう人たちが多く住んでいますね。現代美術の画家のような、一見どうやって生きているんだろうと思うような人たちが、このエリアにたくさんスタジオを持っていたりする。たぶん家賃を払う必要がなかったり、親から譲ってもらった家を貸し出してそれで生活したりしている人も多いと思います。イギリスってそういう国なんです。大金持ちではなくても、財産を受け継いで生活できちゃう人たちが多い。
 ちなみに僕は日本人で、妻はブルガリア人なのですが、そういうふうにどちらも外国人だとかなり不利ですね。イギリスはふつうの家でも築100年とか200年とか経っていて、そんなぼろぼろの家でも高額で売れちゃう。そういうおじいちゃんやおばあちゃんの家を売って、孫の数で割って入ってきたお金を頭金にして、みんな20歳くらいでローンをはじめるんです。外国人にそれは難しい。だから、小林さんもイギリスの人にインタヴューする機会があると思いますけど、貧乏っぽく装っていてもけっこう良いところに住んでいたりするような人たちは、そういうことなんですよ。

なるほど。ちなみに、ロンドンへ渡ったのは10代のときですよね?

藤倉:留学するためにイギリスに渡ったのは15歳のときですが、そのときはロンドンではないんです。ドーヴァーの高校にひとりで入って、そこで3年間寮生活をして、ロンドンの大学に行った。ロンドンはそのときからですね。

クラシック音楽はヨーロッパ、大陸のイメージがありますが、イギリスに行ったほうが良い理由があったんでしょうか?

藤倉:ほんとうはヨーロッパに行きたかったんです。ドイツでクラシックをやりたいと言っていたんですけど、まずは英語を喋れるようになってから、そのあと大学でドイツに行くなりなんなりすればいいじゃないかと親に言われて、まずはイギリスに留学することになった。結果的にそのあとも住み続けているという流れですね。
 ちなみに、僕がまだ日本に住んでいたとき、子どものころに聴いていた音楽って、デヴィッド・シルヴィアンとか、坂本龍一さんだったんですよ。『未来派野郎』とか。おそらく僕より10くらい上の人たちがリアルタイムで聴いていたものだと思いますが、そういう音楽に中学生のときにハマって、ひとりで聴いていました。そのままイギリスに渡って、ドーヴァーのCD屋で作品を買い漁ったりして、いまの僕がある。だから、じつはぜんぜんクラシック育ちという感じではないんですよ。むしろクラシックのことはぜんぜん知らない(笑)。10代や20代のときに聴いていたアルバムを挙げてくださいと言われても、クラシックは1枚くらいしか入らない。でもまわりにいるのはクラシックの方が多いから、ふだんこうやってインタヴューを受けるときも、デレク・ベイリーがどうだとかジョン・ハッセルのトランペットが良くてといった話ができなくて残念なんです(笑)。あとは映画音楽かな。ホラーの映画音楽が大好きだったので、中学生・高校生のころは聴きまくっていました。当時日本ではミスチルや小室哲哉が流行っていて、イギリスでは2 アンリミテッドとかもいましたけど、そういうのにはあまり興味がなかったな。当時のチャートに入るようなポップスっていまはもう聴いていられないですよね。でも、80年代のデヴィッド・シルヴィアンの『Gone To Earth』とかは、いま聴いてもものすごくミックスも編集も素晴らしいと思える。

デヴィッド・シルヴィアンとはその後じっさいに共作することになるわけですが、それはどういう経緯ではじまったのでしょう?

藤倉:もともと僕はたんなる彼のファンだったんです。作品はぜんぶ持っていましたね。その一方で、僕は大学2~3年生くらいから現代音楽の作曲コンクールとかで優勝するようになったんですけど、それはもともと賞金が目当てだったんですね。その賞金で家賃を払ったりしていた。僕は外国人だから働く時間が制限されていたというのもあり、賞に応募しまくってその賞金で生活していたんです。
 そうすると、BBCだとかオーケストラの人たちが僕の名前をよく見かけるようになって、それで僕の曲がラジオで流れるようになったりもして、演奏するようになったのが大学3年くらい。そういう感じでゆるやかにキャリアを積んでいったんですが、そんなときにすごくパワフルなおばさまに出会って、彼女が僕にチャンスを与えてくれた。そのおばさまが僕の作品を名門のロンドン・シンフォニエッタに送ったんです。
 そのころ、ロンドン・シンフォニエッタでビートボックスとオーケストラを融合させて曲を書くというプロジェクトの話が持ち上がった。そういうことに関心のある作曲家を探しているから、ワークショップに来てくれと連絡があって、それでそのワークショップに行ったんですけど、それじたいはぜんぜんおもしろくなかったんです。で、「行ってみた感想はどうだった?」と訊かれたので、素直に「つまらなかった」と伝えました。「そういうものよりも僕は、デヴィッド・シルヴィアンと一緒に何かをやるのが夢なんだ」って話したんです。
 そしたら、「デヴィッド・シルヴィアンなら来週オフィスに来るよ」と。それで彼と会うことになって、作品の交換をしたりしました。そのとき彼はちょうど『Manafon』の録音中だったんですが、僕が自分の音楽を送ると、ぜひ参加してほしいと言われて、そこから仲良くなりましたね。

きっかけは幸運な偶然だったんですね。

藤倉:そうですね。デヴィッド・シルヴィアンはめちゃくちゃプロフェッショナルで頑固で、自分が納得しない音楽は絶対に許せないという感じの人なんですが、僕も若かったので、彼のほうから誘ってもらったのに、自分が参加した音の使われ方に文句を言ったりしていたんです。なんて失礼なやつだと思いますが(笑)、でもデヴィッドも不思議な人で、投げやりな人だったりギャラを貰ったからやるというような人よりもむしろ、こだわりがあって譲らないような人のほうがいいみたいなんです。それで、口論したりもしましたが、いまも仲は良いですね。現代音楽の作曲家よりも彼のほうがずっと芸術家っぽいですよ。絶対に譲らないし。マスタリングが気にいらないとか、デヴィッド以外の人には聞こえないレヴェルでも。

その後、坂本龍一さんとも一緒にやられていますよね。それはどういう経緯で?

藤倉:坂本さんがロンドンでコンサートをする機会があったんですが、そのときはチケットを買い逃してしまったんですよ。それで完売しちゃったという話をデヴィッド・シルヴィアンにしたら、どうも彼が僕を紹介するメールを坂本さんに送ってくれたようなんです。あとで坂本さんから、すごく美しいメールだったと聞きました。それでそのコンサートに行けることになり、知り合うことになりましたね。
 ちなみに僕は坂本さんの音楽を聴きまくっていたので、日本のアルバムと海外のアルバムとでマスタリングのバランスが違ったりするんですが、知り合いになってからそれを指摘すると、「たしかに違うはずだ」と。「そこまで聴かれているんだ」と驚かれました。「あそことあそこのピアノの音がちょっとだけちがいますよね」みたいな話をしたら、「それはエンジニアが変わったからだ」とか。デヴィッド・シルヴィアンとおなじで、もともとそういうふうなたんなる聴き手だったので、まさか一緒に仕事をできるとは思っていませんでしたね。

作曲コンクールとかで優勝するようになったんですけど、それはもともと賞金が目当てだったんですね。その賞金で家賃を払ったりしていた。僕は外国人だから働く時間が制限されていたというのもあり、賞に応募しまくってその賞金で生活していたんです。

先ほど少しロンドン・シンフォニエッタのお話が出ましたけれど、彼らは〈Warp〉の作品を演奏したことがあって、テクノの文脈とも関わりがあるんですが、藤倉さんの作品もよくとりあげていますよね。

藤倉:昔はそうでしたね。24歳か25歳くらいのころ、僕は大学院生で、そのときにデヴィッド・シルヴィアンに引き合わせてくれたのとおなじ方から、「メンターをつけて進めていく新しいプロジェクトをするんだけど、ダイはつきたい先生はいるか?」と訊かれたんです。それで、せっかくだから手の届かない人の名前を言ってみようと思って、そのときハマっていたペーテル・エトヴェシュという有名な指揮者であり作曲家の名前を挙げたんです。そしたら、一応聞くだけ聞いてみるね、ということになった。
 すると、そのペーテル・エトヴェシュから、「楽譜と音源を送ってくれ」というメールが届いたんです。次にイギリスに行くのは8か月後になるが、そのとき20分だけロンドンのスタジオでレッスンをしてもいい、と。彼は超スーパースターだから、こちらはもう棚からぼた餅のような感じで、言われるままに楽譜と音源を送りました。そしたらそれ以降、奇妙なメールが届くようになったんです。スイスやドイツ、フランス、オーストリアから、ときには添付ファイルしかないような怪しげなメールが送られてくるようになって、これ絶対ウイルスだろうと思いながら開封してみると、どれも「ペーテル・エトヴェシュがあなたのことを知れと言っているが、君はいったい何者なんだ」というような内容で。名門オケからのメールだったんです。とにかく楽譜や音源を送ってくれ、と。それで、まだデータでやりとりする時代ではなかったので、郵送でCD-Rを送ったりしましたね。
 そうすると、運がいいことに「この作品を演奏したい」とか「一緒に新作をつくりたいのでベルリンに来てほしい」とかいう話になって。ルツェルン音楽祭のブーレーズのプロジェクトに応募したのもそれがきっかけでした。それからもロンドン・シンフォニエッタとも仕事はしましたが、ヨーロッパのプロジェクトが多くなっていって、イギリスは減っていきましたね。

こうしてあとから話を伺うと、ものすごくとんとん拍子のように聞こえますね。

藤倉:僕にとって嬉しかったのは、人柄を気に入ってもらって紹介されたのではなかったというところですね。あくまで曲を聴いて判断してもらった。ロンドン・シンフォニエッタとの関係もそうです。大学2年の年末テストのときに、大学とは関係のない外部から審査員としてロンドン・シンフォニエッタのメンバーの方が来たんですが、面接のまえに先に作品を聴かせるんですね。それでいざ面接のときにその人が、テストのことなんか忘れてしまって、「この楽譜を持って返ってもいいか」と言い出して。その横では、僕の先生がニコニコ笑っている。
そして次のシーズンが発表されたときには僕の作品がプログラムされていました。そんな感じで関係がはじまりました。それが大学生2年生のときですから、シルヴィアンと会うのはもっとそのあとですね、20代後半か30歳くらいのころ。

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デヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一さん、ペーテル・エトヴェシュとブーレーズ、この4人が僕にとっていちばん重要な人たちです。その4人全員に会えたというのはすごいことでした。僕の人生の財産ですね。

ブーレーズの名前も出ましたが、晩年の彼とも親しかったんですよね。

藤倉:それもペーテル・エトヴェシュが僕の話をしてくれたおかげですね。スイスのルツェルン音楽祭が若い作曲家を探していて、推薦された大勢の作曲家のなかから何人かを選ぶという流れでした。さらにそのなかからブーレーズ本人がふたりを選んで、そのふたりの作品を2年後の同音楽祭でブーレーズが指揮をする、というプロジェクトです。それでルツェルン側から「君が誰だかは知らないけれど、エトヴェシュから名前が挙がっているので応募してくれ」と言われて、そのとおり応募しました。オーケストラの作品をふたつ送らなければならなかったんですが、クラシックの世界ではオーケストラ作品が演奏されるというのはすごく大変なことなんです。4人のバンドで弾くのであれば4人集めればいいわけですけど、80人のオーケストラに曲を弾かせるというのはそうとうなことがないとできない。しかも若い作曲家にはぜんぜんチャンスもないから、貴重な体験でした。それで僕は最後のふたりまで残ることができたので、そのとき初めてブーレーズに会ったんです。もともと僕は彼のただのファンだったんですが、それから2年後のルツェルン音楽祭で自分の作品がブーレーズ指揮のもと演奏されることになって、そこからかなり親しくなりました。28歳のときですね。
 彼はすごく厳しい人として知られていますが、じっさいに会うとぜんぜんそんなことはなくて、ニコッとして「ミスター・フジクラ」とか「ダイ」って呼ぶときもあるし、ほんとうにふつうに接してくれた。この後、もう1曲指揮してくれたこともありましたし、もっと僕の作品を指揮する予定もあったんですが、そのころから体調が悪くなってしまったので、残念ながらそれはなくなって、彼も観客として見守るみたいな感じで、僕の作品が演奏されるときにはブーレーズが観客にいたりしたしたことはけっこう何回もありましたね。当時もう85歳くらいでしたからね。

すごく出会いに恵まれていますよね。

藤倉:デヴィッド・シルヴィアンと坂本龍一さん、ペーテル・エトヴェシュとブーレーズ、この4人が僕にとっていちばん重要な人たちなんです。じっさいに会うかはべつにしても、この4人から学んだことはすごく大きかった。ずっと彼らの作品を聴いて学んできたので、その4人全員に会えたというのはすごいことでした。しかも、みんな長く関係を続けてくださっている。たとえばペーテル・エトヴェシュは去年、僕の作品の世界初演をやってくれたんですが、そんな感じで10年以上経ったいまも良い関係で、それは僕の人生の財産ですね。お金では買えないですから。

2年前には《ボンクリ・フェス》という音楽フェスを起ち上げていますが、そのとき大友良英さんの曲も取り上げていますよね。

藤倉:今年もやりますよ! 今年の《ボンクリ・フェス》は9月28日です。大友良英さんも出ます。坂本龍一さんの日本初演もあります。「デヴィッド・シルヴィアンの部屋」というのもあります。そこでは、《ボンクリ》のためだけにデヴィッド・シルヴィアンが作業してくれた作品も発表するので、ぜひエレキングの読者の方がたにも来てほしいですね。しかも1日3000円ですから(※《ボンクリ・フェス》の詳細はこちらから)。

大友さんの良いところは?

藤倉:もう僕はたんなるファンですね。大友さんもデヴィッド・シルヴィアンの『Manafon』に参加していて、「キュイーン!」みたいな音ばかりの大友さんのトラックがたくさんあったんですよ。僕がそれを加工させていただくことになって。シルヴィアンからも、大友さんがいかに素晴らしい人かという話も聞いていましたし。デヴィッド・シルヴィアンは誰でも褒めるような人ではないですから、彼が言うならそうとうすごい方だろうと思って、じっさいそのあとに出た水木しげる原作のNHKのドラマの音楽なんかもすごく良かったですし、そうこうしているうちに大友さんからSNSでフレンド申請が来て、それですぐに《ボンクリ・フェス》のお話をさせていただいて。出演してもらうなんてめっそうもない話だから、「演奏させていただける曲はありますか」ってお尋ねしたんですが、そしたら新曲をつくってくださり、出演までしてくださることになって。それが1年目ですね。それで去年も出てくださって、今年も出ていただくことになった。
 でも大友さんは、毎回、どういう音楽になるか前日までわからないと言うんです。譜面をほとんど書かずに、リハーサルを1時間半くらいやって決めて、音楽を作っていくというやり方は、僕みたいに何ヶ月も時間をかけて楽譜にしている立場からするとうらやましいですね。僕もああいうふうに曲ができたらいいのになっていう憧れがあります。

まだ《ボンクリ》には出演していない人で、今後出てほしい方、何か一緒にできたらいいなと思う方はいますか?

藤倉:〈ECM〉から出している(ティグラン・)ハマシアンですね。僕はとにかく熱狂的な彼のファンなんです。彼のアルバムも好きでよく聴いています。

彼はほんとうに試行錯誤して、デザインから何からすべて、隅から隅までこだわる。それをみて、「やっぱりアルバムを作るというのはこういうことだな」というのがわかった。中身は妥協できない。そういう姿勢はデヴィッド・シルヴィアンから学びましたね。

新作の『ざわざわ』についてお尋ねします。再生して最初がいきなり強烈な“きいて”だったので、驚きました。続く“ざわざわ”や“さわさわ”も声を効果的に用いていますし、今回「声」にフォーカスするという、テーマのようなものがあったのでしょうか?

藤倉:それはぜんぜんなくて。僕は基本的に、リリースできる音源が集まったら出すというかたちでやっているので、とくに今回「声」にしようというテーマがあったわけではないんです。日本では〈ソニー〉から出ていますが、もともとは自分でやっているレーベルの〈Minabel〉から出していて。それで、僕は貧乏性なのか、CDを1枚出すのにもいろいろと費用がかかりますから、いつも、出すならぎゅうぎゅうに詰め込んで出そうと思っていて。なので今回も70分以上あるはずです。それでたまたま集まったものに声の作品が多かったというだけの話ですね。ただ、曲の並べ方は毎回かなり悩みますよ。あと、僕はマスタリングも自分でやっているんですが、それもすごくチャレンジですね。たとえば“きいて”なんかはいじりまくっています。モノラルみたいな感じではじめて、途中から広げたり。

ご自身で編集やミックス、マスタリングまでこなすのは、そこまでやってこその音楽家だ、というような矜持があるんでしょうか?

藤倉:人に任せるとお金を払わなきゃいけないというのもありますね。しかも、お金を払わなきゃいけないわりには、僕が納得するマスタリングとかミックスだったことはほとんどなくて。なので、よく素材だけもらって、僕なりにミックスして、友だちのアーティストに送ったりするんですが、そういうときも「こっちのほうがいいじゃん」と言われることが多い。だから何十時間という時間をかけて自分でやるほうが、金銭的にも気分的にもいいなと思っているんです。僕はサウンドエンジニアとかプロデューサーの友だちがけっこう多いんですけど、みんな親切で、丁寧にいろいろ教えてくれるんです。それでどんどん上達したと思います。今回は冒頭が“きいて”で、そこから“ざわざわ”に移るので、最初は眉間の部分を小突く感じではじまって、“ざわざわ”でうわっと世界が広がるという感じかな、とか考えてやっていましたね。あと、僕の場合ライヴ録音がほとんどなので、(オーディエンスの)咳をとり除いたりするのには時間がかかりますね。

“きいて”は小林沙羅さんの息継ぎ、ブレス音も絶妙で。

藤倉:ちゃんと残っていましたよね? あまりにもなくしちゃうと変になっちゃうから。小林沙羅さんはいわゆる正統派のオペラ歌手なんですが、それをこういうふうに遊びで、ちょっとグロテスクな曲にしてしまう。ひどいですよね(笑)。彼女から委嘱されたのに。でも、そういう曲を書いたり変なミックスをしても沙羅さんはおもしろいと言ってくれるんですよ。そういうところが一流のアーティストはちがいますよね。ふつうは守りに入りますから。彼女は気に入ってくれたみたいで、いろんなところで歌ってくれているそうです。しかも毎回ちがう演出らしい。そういうふうにおもしろがってくれるのは、ホルンの福川伸陽さんもそうなんですよ。ホルンで曲を書いてくださいと言われたんですが、じつは僕はホルンが嫌いなので、ホルンっぽくない音を探しましょう、と。これも失礼な話ですよね。でも彼もそれをおもしろがってくれて、何曲も委嘱してくださって。それで“ゆらゆら”という、最初から最後までホルンの変な音が鳴り響く曲ができた。

まさに“ゆらゆら”は音響的におもしろい曲だと思いました。

藤倉:ふつうではない奏法なので。ふつうのホルンのサウンドは嫌ですから。

そして、その前後にはコントラバスのこれまた変な曲(“BIS”、“ES”)が並んでいて。

藤倉:弾いている佐藤洋嗣さんもおもしろいことをやるのがお好きな方で。アンサンブル・ノマドの佐藤紀雄さんのご子息なんですが、アルバム後半のこのあたりの曲は僕が自分でマイクを立てて録っているんですよ。

レコーディング・エンジニアのようなこともされているんですね。

藤倉:でもやり方を知らないから、ぜんぶ見よう見真似です。前のアルバム『ダイヤモンド・ダスト』でヴィクトリア・ムローヴァさんというめちゃくちゃ有名なヴァイオリニストの方に参加してもらったんですが、そのときも彼女の家までマイクを持っていって、自分で録音したんです。6チャンネルで録ったんですけど、そのうちのふたつはムローヴァさんの旦那さんが良いマイクを持っていたのでお借りして。でもヴァイオリンを録るときのマイクの立て方がわからない。そしたらムローヴァさんが、彼女は小さいころからレコーディングしているから、「ふつうはもうちょっと上だね」とか教えてくれる。そういう感じで録っていきましたね。時間があればエンジニアリングも習いたいです。

そういうチャレンジ精神は何に由来するのでしょう?

藤倉:僕の最初のアルバム『Secret Forest』は、芸術のために活動しているイギリスの小さな〈NMC〉というレーベルから出たんです。そこはすごく良心的な現代音楽をやっているところで、売るためにやっているわけではない。そこから出すことになったときに、デヴィッド・シルヴィアンのアルバムのつくり方をずっとみていたんですよ。彼はほんとうに試行錯誤して、デザインから何からすべて、隅から隅までこだわる。それをみて、「やっぱりアルバムを作るというのはこういうことだな」というのがわかった。それで自分のレーベルもはじめようと思いましたし。隅から隅までやって、「これだ」と思えるものしか出さない。ちなみに僕の場合は、助成金とかをもらって作っているわけではないので、ぜんぶ自分の生活費から出ています。いま借りている家には3人で暮らしているんですが、寝室がふたつなんです。仕事するのに自分の部屋がないんですよ。こんなアルバムを出していなかったら、もう一部屋借りられていたかもしれない。それでも出したいということですよね。ほかの人が聴いてくれるかどうかはわからないけど、中身は妥協できない。そういう姿勢はデヴィッド・シルヴィアンから学びましたね。それだけこだわったアルバムなら、好き嫌いはべつにして、出す価値があるって。1トラックに20時間かけるなんてどう考えてもバカじゃないですか(笑)。妻は元音楽家なので耳が良いんですけど、その妻も「そんなもの誰も聴かないんだからもういいじゃん」「でもその音、狂っているよね」とか言って部屋を去っていきます(笑)。

職人ですよね。

藤倉:やっぱりアルバムを作っていると、最後のほうはもう精神病棟に行かないといけないんじゃないか、というくらいになっちゃいますよ。以前、チェロ協奏曲の作業をしていたときに、チェロってそもそも弓が弦に擦れて音が出るものなのに、そのこすれる音が気になりはじめちゃったりして。でもそのこする音がなかったら、それこそサンプラーのチェロみたいな音になっちゃう。そういう感じで、編集とかミックスをしているととまらなくなるんですよね。だから、どこでとめるかというのが問題ですね。

では最後に、ふだんテクノを聴いているような人におすすめの、現代音楽やクラシカルの作品、あるいは演奏家を教えてください。

藤倉:悩みますね。ポーリン・オリヴェロスのディープ・リスニングはどうでしょう。


James McVinnie - ele-king

 スクエアプッシャー、最近あまり名前を見かけないなーと思っていたら、ちゃっかり水面下で新たな仕事を進めていたようだ。UKのキイボーディスト、ジェイムズ・マクヴィニーのためにトム・ジェンキンソンが作曲を手がけたアルバム『All Night Chroma』が9月27日にリリースされる。
 マクヴィニーはもともとウェストミンスター寺院でアシスタントを務めていたオルガン奏者で、クラシカルの文脈に属する演奏家と言っていいだろう(もっとも多く録音を残しているのは〈Naxos〉だし、現時点での最新作はフィリップ・グラスの楽曲を取り上げた『The Grid』だ)。けれども他方で彼は、ヴァルゲイル・シグルズソンがニコ・ミューリーやベン・フロストとともに起ち上げたレイキャヴィクのレーベル、〈Bedroom Community〉から作品をリリースしたり、スフィアン・スティーヴンスOPN と共演したりもしている。とりわけ2017年のダークスターとのコラボはホーントロジカルで素晴らしく、よほど相性が良かったのか、この5月に両者は再度コラボを果たしてもいる。
 そんなわけで、今回のトム・ジェンキンソンとジェイムズ・マクヴィニーの共同作業もがっつり期待していいだろう。なお、ワールドワイドで1000枚ぽっきりのプレスらしいので、気になる方はしっかりご予約を。

[9月5日追記]
 昨日、『All Night Chroma』から収録曲“Voix Célestes”のMVが公開された。トム・ジェンキンソンとジェイムズ・マクヴィニー、それぞれのコメントも到着している。予約・試聴はこちらから。

オルガンのための曲を書くことは、多くの面で、電子楽器の曲を書くことと類似しているのではないかと感じる。 コンピューターの天才が持つ謎めいた魅力に通ずる何かが、オルガン奏者にはあるのかもしれない。 彼らは装置に囲まれながら、賞賛の声から距離を置き、まるで執着がないかのように振る舞っているのだから。 ──トム・ジェンキンソン

ジェイムズとの共同制作は、非常に心躍る経験であり、その要因は、彼の音楽家としての圧倒的な才能のみならず、多くのアイデアを取り入れる感受性と実験的試みを厭わない精神にある。 ──トム・ジェンキンソン

演奏だけでなく、万華鏡のように色彩豊かなロイヤル・フェスティヴァル・ホールの音色にフィットさせることなど、実現に至るまで技術的な挑戦となるものだったんだ。この楽器はミッドセンチュリー・デザインの頂点であり、最初にその音を聴かれた時には音楽界にセンセーションを巻き起こした。豊かで高貴な歴史を持つにもかかわらず、明瞭さと新鮮さを兼ね備え、今回の新しい音楽の理想的な媒体だったんだ。 ──ジェイムズ・マクヴィニー

今年30周年を迎えた〈Warp〉よりスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンが作曲し世界屈指のオルガン奏者ジェイムズ・マクヴィニーが奏でる怪作『All Night Chroma』が9月27日にリリース決定
CD/LPともに世界限定1000枚、ナンバリング付でレア化必至!

スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンが作曲を手がけ、世界屈指のオルガン奏者ジェイムズ・マクヴィニーが演奏した異色作品『All Night Chroma』が、9月27日に〈Warp Records〉よりリリース決定! CD/LPともに世界限定1000枚、ナンバリング付。レア化必至の貴重盤となる。

世界でも有数のオルガン奏者として知られているジェイムズ・マクヴィニー。16世紀のルネサンス音楽から現代音楽までを網羅するマクヴィニーは、これまでにも多くの現代音楽家たちとコラボレートをしており、フィリップ・グラス、アンジェリーク・キジョー、ニコ・ミューリー、マーティン・クリード、ブライス・デスナー、デヴィッド・ラングらが彼のために楽曲を書き上げてきた。

スクエアプッシャーやショバリーダー・ワンとしての活動で知られるトム・ジェンキンソンは、今回マクヴィニーのために8つの楽曲を書き下ろしている。収録された音源は、2016年に、ロンドンのロイヤル・フェスティバルホールに設置され、このホールの特徴にもなっている巨大な Harrison & Harrison 社製1954年型のパイプオルガンで演奏・レコーディングされたものとなっている。ジェンキンソンは、スクエアプッシャー、ショバリーダー・ワン名義の作品群や革新的なライブ・パフォーマンスのみならず、作曲者としての地位も確立しており、2012年のスクエアプッシャー作品『Ufabulum』をオーケストラ用に再構築し、世界的指揮者のチャールズ・ヘイゼルウッドとシティ・オブ・ロンドン・シンフォニアによるコンサートを成功させ、BBCによる映像作品『Daydreams』で1時間半に及ぶ楽曲を提供、"Squarepusher x Z-Machines" 名義で発表された『Music for Robots』では、3体のロボットが演奏するための楽曲を制作している。本作『All Night Chroma』では、スクエアプッシャー作品の礎となっているエレクトロニック・サウンドから離れ、彼のさらなる才能の幅広さを見せつけている。

ジェイムズ・マクヴィニーとトム・ジェンキンソンがコラボレートした『All Night Chroma』は、9月27日(金)に世界同時リリース。CD/LPともに世界限定1000枚、ナンバリング付。国内流通仕様盤CDには解説書が封入される。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: James McVinnie
title: All Night Chroma
release date: 2019.09.27 FRI ON SALE
国内仕様盤CD BRWP305 ¥2,214+tax
解説書封入

MORE INFO:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10470

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!
スクエアプッシャーも所属するレーベル〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが先日公開され、これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。アイテムによって、販売数に制限があるため、この機会をぜひお見逃しなく!
https://www.beatink.com/user_data/wxaxrxp.php

tiny pop fes - ele-king

 タイニー・ポップ、どんどん存在感を増していっていますね。はて、「タイニー・ポップ」とはなんぞ? という方は hikaru yamada によるこちらのコラムと、同氏による紙エレ最新号の記事(68~71頁)をご覧いただくとして、まさにそのタイニー・ポップにフォーカスしたフェスが開催されることとなりました。同ムーヴメントを体現する んミィ や ゆめであいましょう、にゃにゃんがプー や mukuchi に加え、いま話題沸騰中の長谷川白紙や その他の短編ズ、〈Local Visions〉から SNJO、wai wai music resort らも出演。現在進行中の新たなポップ・ムーヴメントを体験しながら、上野公園で素敵な秋を過ごしてみませんか。

〈DANGBOORURECORD〉、10月5日に上野公園で《tiny pop fes》を開催、長谷川白紙、その他の短編ズら出演

10月5日(土)に、上野公園の水上音楽堂(野外ステージ)にて《tiny pop fes》が開催される。主催はこれまでに田島ハルコや にゃにゃんがプー のリリースをしたことで知られるネット・レーベルの〈DANGBOORURECORD〉。現在のポップスのあり方のひとつを提示し、多くの人に楽しんでほしいと主催は述べている。

出演者は、んミィバンドや mukuchi など過去に本レーベルの企画に出演したミュージシャンに加え、ゲストとして長谷川白紙、その他の短編ズが出演。さらに新進気鋭の出雲のネットレーベル〈Local Visions〉からリリースした SNJO、wai wai music resort も出演する。また、サブステージのBGMをネットで話題のディガー集団「lightmellowbu」のメンバーが中心になって選曲する予定だ。

現在レーベル直販サイトで限定早割チケットを販売中のほか、Peatix や Livepocket での予約も受付中だ。早割チケットはフライヤー制作も担当したイラストレーターの なまやけ、大仏の両氏による特製のデザインになっている。観に行きたい方は早割チケットの購入がおすすめだ。

tiny pop fes
2019.10.5 土曜日
@上野公園 水上音楽堂
(野外ステージ)

Open 11:30
Start 12:00

Ticket
Early Bird(早割):3,000円+ドリンク代
Advanced(前売り):3,500円+ドリンク代
Door(当日):4,000円+ドリンク代

出演
長谷川白紙
その他の短編ズ
wai wai music resort
SNJO
んミィバンド
mukuchi
入江陽
にゃにゃんがプー
横沢俊一郎&レーザービームス
ゆめであいましょう

小川直人(lightmellowbu)
柴崎祐二(lightmellowbu)
F氏(lightmellowbu)


長谷川白紙


その他の短編ズ

PRINS THOMAS ASIA TOUR 2019 - ele-king

 今年アルバム『AMBITIONS』をリリースしたノルウェーのベテランDJ、プリンス・トーマスが来日する。東京を皮切りに、いまもっとも熱いという噂の名古屋、そして大阪、札幌と日本をツアー。まだまだ遊び足りないダンサーは、北欧仕込みのハイセンスなハウスで汗を流しましょうや。

9.14(土)東京 VENT
9.15(日)名古屋 CLUB MAGO
9.16(月/祝) 大阪 CIRCUS
9.20(金) 札幌 PRECIOUS HALL
9.21(土)SEOUL MODECi

■Prins Thomas (Full Pupp, Smalltown Supersound - Norway)

北欧ノルウェーのDJ/プロデューサー、プリンス・トーマス。レーベル〈Full Pupp〉と〈Internasjonal〉を主宰。前者がノルウェー国内のアーティストを、後者は国外のアーティストを紹介する。
2005年、盟友Lindstrømとの共作アルバム『Lindstrøm & Prins Thomas』をリリースし、世界中の音楽シーンに新しい風を吹きこんだ。Remixerとしても数多くの作品をてがけ、また、Noise In My Head,『Cosmo Galactic Prism』,『Live At Robert Johnson』,『RA.074』,『FACT MIx 130』, 『Rainbow Disco Club vol.1』,『Paradise Goulash』などのDJ MIXからうかがえるように、DJとしてのその実力とセンスが評価されている。2019年、細野晴臣、ダニエル・ラノワ、シンイチ・アトベやリカルド・ヴィラロボスにインスピレーションを得て作られたという最新アルバム『AMBITIONS』をリリース。

■ツアー各公演詳細

9.14(土) 東京 @VENT
- DISKO KLUBB -

=ROOM1=
Prins Thomas
MONKEY TIMERS
Mustache X

=ROOM2=
DISKO KLUBB
JITSUMITSU / YAMARCHY / GYAO / TAGAWAMAN / KAZUHIKO

CYK
Nari & Kotsu

Open 23:00
Advance 2500yen (RA 7/17 12:00より販売開始)
Door 3500yen

Info: VENT https://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652


9.15(日) 名古屋 @Club Mago
- OSKA -

feat DJ:
Prins Thomas

DJs:
hiroyuki (STOMP!)
CHOUMAN (The Sessions)
PePe
Shoino

OSKA LOUNGE:
UTSUNOMIYA (AJITO)
Tamachanmann (NOODLE)
YoshimRIOT (RIOT girls)
konma

Sheesha:
blanc lapin

Open 22:00
Advance / With Flyer 2500yen
Door 3000yen

Info: Club Mago https://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


9.16(月/祝) 大阪 @Circus
Happy Monday Special!!
- Prins Thomas Japan Tour 2019 in Osaka -

DJ: Prins Thomas, YAMA (PRHYTHM), STEW (TUFF DISCO), DJ Ageishi (AHB pro.)

Food: SETSUKO -極楽肴nd-

Open 17:00 - 23:00

Advanced 2000yen + 1Drink
Door 2500yen +1Drink

Info:
Circus Osaka https://circus-osaka.com
〒542-0086 大阪市中央区西心斎橋1-8-16-2F TEL 06-6241-3822
AHB Production https://ahbproduction.com


9.20(金) 札幌 @Precious Hall
- JOY -

Featuring Guest: Prins Thomas

TSUJI (polan)

Open 23:00
With Flyer 3000yen
Door 3500yen

Info: PRECIOUS HALL https://www.precioushall.com
札幌市中央区南2条西3丁目13-2 パレードビルB2F TEL 011-200-0090


9.21(土) SEOUL @MODECi

DJ: Prins Thomas, FFAN

Open 22:00 Till 6:00

More info: https://www.facebook.com/events/500092080741276/

Eartheater - ele-king

 昨年わたしたちが年間ベストの1位に選んだのは? そう、アースイーターの『IRISIRI』でした。尖鋭的かつ独創的なサウンドに挑戦し続ける彼女、アレクサンドラ・ドリューチンが、新たにレーベルをローンチ。その名も〈Chemical X〉です。パワーパフガールズ? 第1弾作品は『Trinity』と題されたミックステープで、『IRISIRI』とほぼ同時期につくられたものだそう。AceMo、Color Plus、Kwes Darko、Tony Seltzer、Denzxl、Dadras、Hara Kiri らニューヨークのローカルなプロデューサーが参加。リリース日はまだ明かされていませんが、AceMo の手がける“High Tide”という曲が公開されています。

[10月17日追記]
 アースイーターが新たに『Trinity』収録曲“Fontanel”を公開しました。プロデューサーはニューヨークの Dadras。『Trinity』のリリース日も明日10月18日に決定しています。

万華鏡のような真夏の夜の夢 - ele-king

■政治に踏みにじられた沖縄の民意

 日本政府による暴力的な土砂搬入が続く沖縄県辺野古の米軍海兵隊基地キャンプ・シュワブ。同基地の正面ゲート前に設置された仮設テントでは、連日、「辺野古新基地」建設に抗議する市民らが「沖縄に基地はいらない」とシュプレヒコールを上げている。真夏の太陽の下、仮設テント内では「美ら海埋めるな」「ウチナーの未来はウチナーンチュが決める」の横断幕がはためき、汗を流しながら「ジュゴン解放戦線」のプラカードを胸に掲げる女性の姿も目に付いた。

 大型車両が出入りする搬入ゲートからは1日に何回かコンクリートミキサー車が長蛇の列をなし、轟音と排気ガスを撒き散らしながら基地の中に吸い込まれていく。それを阻止しようと搬入が始まる時間になると反対派の市民らがゲート前に腕を組みながらみっちり座り込むのだが、機動隊員に抱え上げられ次々に排除されていく。数分でも数秒でも資材や生コンの搬入を手間取らせることで工事そのものの進捗を遅らせようとするささやかな抵抗はこうして国家権力のむき出しの暴力によって根こそぎ摘み取られていった。

 7月12日。辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」闘争はこの日、1832日目を迎えていた。実に5年あまり沖縄県民と支援者が反対運動を続けてきたことになる。それは、たび重なる選挙や県民投票で示されたはずの沖縄の「民意」が安倍「独裁」政権によって踏みにじられてきた歴史でもある。


搬入ゲート前に座り込む《風車の便り》発起人の翠羅臼ほか

■辺野古にホーンが炸裂

 午前10時、フリー・ジャズ・バンド「渋さ知らズオーケストラ」の小編成楽団が仮設テント前をズンチャカズンチャカ練り歩いた。先頭で両手を振って楽団を指揮するのはベーシストでリーダーの不破大輔。ふたりの女性ダンサー、ペロとすがこが演奏に乗って、サルサ、サンバ、アラビアン風に気ままに踊りまくり、北陽一郎のトランペットと高岡大祐のチューバが青空を突き抜けるように炸裂すると、ゲート内の米兵と警備員たちが何ごとかとこちら側をうかがうのが見える。


渋さ知らズ、仮設テント前

 50年代に誕生したフリー・ジャズは、それまでのビバップやハードバップのコード(和音)進行を否定したジャズの新しい革新的ムーヴメントだ。オーネット・コールマンがドン・チェリー、チャーリー・ヘイデンらとともにニューヨークのファイヴ・スポットで演奏し始め、ジャズ界に一大センセーションを巻き起こした。フリー・ジャズ誕生を告げた歴史的なアルバム『ジャズ来たるべきもの』はそのタイトルからして挑発的だ。コールマンは後にローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ同様、モロッコ・ジャジューカ村の音楽集団の影響を受けてもいる。渋さのエンドレス奏法にジャジューカ風トランス・ミュージックの片鱗を感じるはそのせいだろうか。

■南と北の鬼神が競演

 そこへいきなり登場したのは、なまはげとトシドンとパーントゥ。それぞれ、秋田の男鹿半島、鹿児島の甑島、沖縄の宮古島に伝わる鬼神、来訪神だ。昨年、ユネスコの無形文化遺産への登録が決定した。包丁を手に鬼の面をかぶって子供を脅すなまはげはよく知られているが、甑島のトシドンもまた大晦日に鬼の顔をして悪い子供を懲らしめる。宮古島のパーントゥは体につる草をまとい、ンマリガー(産まれ泉)の井戸の底に溜まった泥を全身に塗りたくり、集落を巡回して厄払いする。

 3人の来訪神は仮設テントの奥からドラを打ち鳴らしながら乱入。「獅子の星座に散る火の雨の、消えてあとない天野がはら、打つも果てるもひとつのいのち……ダーダーダーダー、スコダダー……」とヒップホップ調のリズムに乗った後、「運玉義留(うんたまぎるー)はどこだ! 運玉義留を探せ!」と叫び、仮設テントの袖へと消えた。野外天幕劇団「水族館劇場」の主演女優・千代次が率いる路上芝居ユニット「さすらい姉妹」の芝居『陸奥の運玉義留』(辺野古版)はこうしてスタートした。


さすらい姉妹・3来訪神

 運玉義留は18世紀に琉球で活躍したとされる農民出身の義賊。運玉の森に住み王族や士族の家を狙って盗みに入り、奪った金品は貧民に分け与えた。18世紀の琉球は大飢饉の発生などで民衆が苦しんだ時代だ。目に余る収奪に抗して闘った反権力の象徴的存在として語り継がれ、明治時代には沖縄演劇のヒーローになった。劇作家の翠羅臼は運玉義務留を熊襲や蝦夷という“鬼の棲む”辺境地と結びつけ、「南と北の鬼」が競演する時空を超えた抵抗の芝居を辺野古に持ち込んだ。

■「タックルせ」の叫び、再び沖縄へ

 翠羅臼は70年代、テントで公演する反体制的なアングラ劇団「曲馬舘」を主宰した演劇人だ。83年に劇団「夢一族」を立ち上げ、山谷や横浜寿町、名古屋笹島など寄場での興行を続けてきた。88年に夢一族を脱退しフリーの演出家になり、辺野古新基地反対を訴える一方、パレスチナでの演劇プロジェクトでも芝居を演出した。今回の沖縄公演には劇団「唐組」の“伝説の怪優”大久保鷹が友情出演している。大久保は翠の盟友でパレスチナの演劇プロジェクトにも参加している。

 実は翠は1978年にコザと首里で公演した曲馬舘の芝居『地獄の天使──昭和群盗伝』で沖縄を旅したことがある。1970年のコザ暴動をモチーフにしたこの芝居の大団円で、出演者はたいまつを掲げたオートバイ十数台で天幕の内外を爆走し、コザ暴動の民衆の合い言葉「タックルせ、クルせ、クルさんけ(たたき殺せ、黒人は殺すな)」を絶叫、「灼熱の炎に身を焦がし/廃墟の街を駆ける……だから地獄の天使たちよ、箱船の羅針を帝都へと向けろ」と歌った。それから40年以上がたち、翠の航路は再び沖縄へと向かった。

 辺野古と高江の闘争に共感する翠は「渋さ知らズ」の不破と「水族館劇場」を主宰する桃山邑に相談した。桃山は日雇い労働者として働きながら翠が主宰した曲馬舘で役者デビューし、1987年に主演女優の千代次とともに水族館劇場を立ち上げた。その千代次はさすらい姉妹を率い、毎年正月には寄せ場で路上演劇を披露してきた。

■理想を幻視する芸能の力

 「下層で暮らしている人たちと連帯し、旅と生活と芝居を同時にやってきた」と桃山は振り返る。布川徹郎監督の映画『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』に登場するしぶとく生き抜く最下層の娼婦たちの姿に感銘を受けたという桃山は「音楽祭は沖縄の現実を変えないかもしれないが、リアリズムを生きる底辺の人たちは変わらない日常に閉塞感を覚えている。現実よりも理想を幻視するという芸能の法則を信じて沖縄の舞台に立ちます」

 音楽祭開催の中心メンバーのひとりとなった不破大輔は翠の提案に乗り、沖縄公演を決めた。実は渋さはアングラ演劇の“劇伴”としてスタートした楽団だ。劇伴とは映画や演劇の伴奏音楽のことだ。あるアングラ劇団の入りが少なかったことから、客席を埋めるため知り合いのミュージシャンに声を掛けたのがオーケストラ結成のきっかけだったという。

■キーワードは暴動と自由

 翠との出会いもやはり劇伴だった。1991年、翠が演出し上野の水上音楽堂で上演された芝居『暗闇の漂泊者』の劇伴を担当し、「本多工務店のテーマ」という曲をつくった。必ずといっていいほどライヴのラストで演奏される不朽の名曲だ。この曲の冒頭、朗読される詩は「この曲を聴いて鳥肌が立った」という翠によって書かれた。キーワードの「暴動」と「自由」は、従来のジャズ演奏につきまとう予定調和をぶっ壊し、アドリブ演奏がつくりだす渋さ特有のフレキシブルな演奏スタイルを物語っている。

 こうして音楽と演劇による沖縄公演に向けて「風車の便り 戦場ぬ止み音楽祭」の実行委員会が結成された。沖縄では97歳になると子供に返るという言い伝えがあり、この年齢のお祝いのことを「風車祭」という。「路地でくるくる回る風車、空が哭いている、海が哭いている……」と翠は夢想する。美ら海を埋め立て、沖縄の人びとの心を埋め立てようとする悪政に抗して、夢の風車をかざそうと翠たちは辺野古にやって来た。

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■フランス革命は娼婦が先頭に立った

 キャンプ・シュワブゲート前の仮設テントではさすらい姉妹の芝居が続いている。沖縄県読谷村在住の彫刻家・金城実は仰天大王の役で特別出演した。「チビリガマ世代を結ぶ平和の像」や三里塚闘争をモチーフにした「抗議する農民」などの作品で知られる金城はこの夏、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止された問題に憤り、自ら初の「慰安婦像」の制作に取り組んでいる。「世の中を変えるのはインテリじゃない。芸術と女性だ。フランス革命はパリの娼婦が先頭に立った」。独特な“金城史観”が仮設テントに響きわたると、反対派住民から笑みがこぼれた。

 金城によると、1609年の第一次琉球処分は琉球の漁民が仙台藩に流れ着いたのがきっかけで起きたという。薩摩藩は中継貿易で繁栄する琉球を侵略し、徳川幕府から琉球王国を賜った。金城は鬼退治に向かった桃太郎の伝説に琉球処分を重ね合わせる。

■あの世はこの世、この世はあの世

 「イヌやサル、キジを従えた桃太郎がヤマトンチュで、鬼ヶ島が琉球と陸奥ってわけだ。南と北の鬼たちの競演を是非やろうじゃないか」。仰天大王はこう語ると豪快に笑い、脱いだ下駄を両手に持ちエイサーにも似た下駄踊りを披露。金城が自ら考案したという得意技に仮設テントの観客から大きな歓声と拍手が起きた。


金城実の下駄踊り(背後に大久保鷹)

 芝居は第2場に進み、主演女優の千代次演ずるレラが腕にフクロウを乗せ、アイヌ民族の姿で登場。錫杖を手にした白装束のイタコ(風兄宇内)との「あの世はこの世、この世はあの世」「アメリカ世(ゆ)はヤマト世、ヤマト世はアメリカ世」といった時空を超えたやりとりが観客を夢幻の世界へと引きずり込む。


千代次と風兄宇内

 「ここは初めて来た場所なのに、懐かしい匂いがする」と言うレラに、童女の姿をしたフクロウの精霊(増田千珠)は「ここは、魔物たちが跳梁跋扈する魔の森、運玉森だ、気をつけろ、レラ」と不穏な言葉で応じる。その時、それまで真夏の太陽が輝いていた空がみるみる暗雲に覆われ、激しい雨が降り出した。全身びしょ濡れになりながら演技を続けるレラと精霊。さすらい姉妹の母体である水族館劇場は大団円で必ず、大量の水が天井から降り注ぐが、辺野古では天の恵みがその役目を代行した。


激しい雨

■風車の便りは闘争へのエール

 芝居の後半、大久保鷹演ずる男の口から97歳になると老人が子供に還るという風車の言い伝えが語られる。それに千代次演ずるレラが応える。「風車はいろんな風を届けてくれる。いにしえの風、明日の風、優しい風、不吉な風、嘆きの風、そして炎の風……」。翠にとって“風車”は沖縄の長い抑圧の歴史の象徴だ。“風車の便り”は、不屈の魂を胸に暴虐の荒波を乗り越えようとする「オール沖縄」闘争へのエールなのだ。

 芝居は出演者全員による「森が哭いている、海が哭いている……」という合唱でフィナーレを迎えると、観客席から温かい拍手が送られた。その後、ミュージシャンの海勢頭豊が新基地建設への抗議を込めて琉球ことばで歌った。翠が夢想した祝祭的な路地での風車は「オール沖縄」の反対基地闘争への便りとなって歌から歌へと伝えられ、くるくる回り続けているようだ。


海勢頭豊

 夜は那覇市の新都心公園内の特設天幕ステージで渋さ知らズオーケストラの単独公演があった。タイトルは「天幕渋さin沖縄」。竹で編んだ骨組みを大きな凧を伏せたように組み立てた天幕は、出演者のノボリが周りをぐるりと取り囲み、一見すると旅芸人の股旅興行に見える。「サーカスの巡業ですか」と尋ねる散歩者の姿も。「いつも旅の途中」(不破大輔)という渋さ独特の公演スタイルは変わっていなかった。

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■ロックにジャズに民謡、多士済々な顔ぶれ

 渋さのフルオーケストラのライヴには、劇団「風煉ダンス」の芝居が絡み、エンドレスな演奏を聴かせた。そこへ沖縄民謡界の大御所、大江哲弘が登場。渋さをバックに「生活の柄」や「お富さん」を歌い、最後に八重山民謡「トゥバラーマ」を聴かせた。

 翌13日は午後1時から同じ天幕ステージでメーンの音楽祭。この日も真夏の太陽が燦々と輝いていたが、遮光性の天幕の中は意外に涼しい。オープニングは渋さチビズの演奏。サックスやトランペットが炸裂し、渋さ歌手の玉井夕海がステージ上で躍動する。玉井は今回の音楽祭の代表でもある。開催まで紆余曲折があり、その苦労を乗り越えてのステージに表情は明るい。

 その後、ライヴは島唄の堀内加奈子、東北の歌姫の白崎映美、沖縄高江在住デュオの石原岳とトディと続く。以前は上々颱風のヴォーカルだった白崎は東日本大震災以後、被災者に寄り添い、ロック、ジャズのほか、民謡で「東北人の魂」を歌い続けてきた。今回はアーティスティックな衣装とメイクでパンチのある歌声を聴かせた。


白崎映美

 リーダーのもりとが那覇市内で居酒屋を経営しているという、沖縄のジプシーバンド「マルチーズロック」、沖縄から平和を発信する海勢頭豊に続き、シンガーソングライターの池間由布子がギターの弾き語りで透明感のある歌声を披露、会場をほんわかした安らぎで包み込んだ。


池間由布子

■森が哭いている、海が哭いている

 地元フラチームの演技の後、前日の辺野古キャンプ・シュワブ前に続き、「さすらい姉妹」が『陸奥の運玉義留』を上演。芝居前の準備でリーダーの千代次は、前日に辺野古で摘んできたつる草をパーントゥ役のコスチュームに入念に巻きつけていた。その静かな仕草からは抑圧の歴史を持つ琉球への共感と連帯が感じ取られた。

 「計算され尽くされた演劇では役者も飽きてしまう。目指すのはそこから逸脱した荒唐無稽な芝居だ」。水族館劇場を主宰し、現代の河原者を自任する桃山邑はこう語る。金城実や大久保鷹の出演は、従来の芝居のセオリーを超えたハプニングともいえる。

 「うりずんの雨降りしきる遙かな島、空が哭いている、森が哭いている、海が哭いている……あの日届いた風車の便り」。抑圧の歴史を持つ陸奥と琉球が時空を超えてひとつになるという翠羅臼の抵抗の詩(うた)は、那覇の観客を魅了し、沖縄の演劇史に新たな1ページを書き込んだ。

■クランデスタンな装い

 音楽祭のトリはもちろん、渋さのフルオーケストラによるゴージャスな演奏。北陽一郎のトランペットが、登敬三のテナーサックスが、高橋保行のトロンボーンが、ある意味、勝手に気ままにアドリブ演奏を重ねていく。そこに、うじきつよしのギター、大袈裟太郎のラップ、玉井夕海の歌が絡んでいく。次の展開が予期できない暴風雨のような旋回奏法に乗ってペロとすがこがディスコのお立ち台さながら踊り狂った。


渋さ知らズ

 ステージ左右のお立ち台では暗黒舞踏のダンサーによるパフォーマンスも。薄汚いビルの地下に続く階段を降り、壊れかかった扉を開けると、いきなりジャズ演奏の爆音にさらされる。禁酒法時代のニューヨークを思わせるクランデスタン(非合法)な装いに包まれた天幕は、300人近い観客を飲み込み、万華鏡のように、“真夏の夜の夢”を垣間見せてくれた。

Philip Bailey - ele-king

 モーリス・ホワイトがパーキンソン病のために活動が困難になって以降(モーリスは2016年に他界している)、アース・ウィンド&ファイアー(EW&F)のリーダー役も担っていたフィリップ・ベイリーが、2002年の『ソウル・オン・ジャズ』以来17年ぶりとなるソロ・アルバム『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』をリリースした。
 EW&Fのメイン・ヴォーカリストで、あの印象的なファルセット・コーラスがトレードマークのフィリップ・ベイリーであるが、ソロ活動ではフィル・コリンズとデュエットした“イージー・ラヴァー”(1984年)の大ヒットを出し、近年ではブラック・コンテンポラリー界の大御所的なイメージがある。ただ、『ソウル・オン・ジャズ』はEW&Fのマイロン・マッキンリーのほか、ドン・アライアスやロニー・キューバーらジャズ界のベテランと組み、チック・コリア、ハービー・ハンコック、フレディ・ハバード、ジョー・ザヴィヌルらの曲を取り上げたアルバムで、ジャズ・ヴォーカリストとしてのフィリップの魅力を見出すことができるものだった。モーリス・ホワイトはもともとジャズ・ドラマーで、EW&Fの初期は多分にジャズやアフリカ音楽の要素も含んだバンドであったのだが、そうしたようにフィリップ・ベイリーの音楽の土台にジャズは昔から存在してきた。それが『ソウル・オン・ジャズ』に表れていたと言え、そうした彼だからこそ多くのジャズ・セッションにも起用されてきた。近年の代表的な参加セッションでは、チック・コリアとスティーヴ・ガッドによる『チャイニーズ・バタフライ』(2017年)が挙げられる。また、フィリップはポップなR&Bアルバムと同様にゴスペルに傾倒したアルバムも多々制作してきている。そもそもゴスペルもEW&Fの世界観の中にあるもので、それが発展して一種のアフロフューチャリズムとも言えるスペイシーなステージングに繋がっていった。フィリップのファルセット・ヴォイスも、ゴスペルやドゥーワップを経由したから生まれたものである。商業的な作品以外では、ここ数年来のフィリップの活動基盤はジャズとゴスペルにあったと言える。

 この新作『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』も、フィリップ・ベイリーなりに現在のジャズを飲み込んだものとなっている。そして、彼のソロ作云々以前に、2019年のジャズ界においても極めて重要なセッションが行われたアルバムとなっている。参加者は前述のチック・コリアとスティーヴ・ガッドのほか、ケニー・バロン、クリスチャン・マクブライド、マノーロ・バドレナなどベテランや大物プレイヤーが集まり、そこへロバート・グラスパー、ケイシー・ベンジャミン、デリック・ホッジ、カマシ・ワシントン、クリスチャン・スコット、ケンドリック・スコット、リオーネル・ルエケなど新世代ジャズ・ミュージシャンが大挙参戦し、ほかにビラルやウィル・アイアムなども参加している。これだけのメンツが集まると逆にまとめるのが大変そうに感じるのだが、アルバム全体のトーンやカラーはうまく統一されており、そこはフィリップのリーダーシップやカリスマ性のなせる技だろう。そのトーンとはジャズ、ゴスペル、ソウル、ファンクを抱合したブラック・ミュージックを再定義することであり、『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』はそうした要素を感じさせる多くのカヴァー曲から成り立っている。タイトル曲の“ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ”はファラオ・サンダースの作品で、1978年にはノーマン・コナーズをプロデューサーに迎えてフュージョン~ソウル寄りの同名アルバムもリリースしているが、今回のフィリップのカヴァーもこの方向性に近いものである。ケイシー・ベンジャミンのヴォーコーダーを交えたフュージョン~スムース・ジャズ的な世界と、フィリップの美しいヴォーカルが織りなすメロウネスは極上だ。

 “ビリー・ジャック”はカーティス・メイフィールドのカヴァーで、公民権運動と結びついた1970年代のニュー・ソウルを、現在のブラック・ライヴズ・マターに置き換えたようなナンバー。パーカッシヴなアフロビートを軸にしたアレンジで、ディアンジェロの『ブラック・メサイア』の世界観などにも繋がる曲となっている。同時に初期EW&Fも彷彿とさせる雰囲気があり、フィリップ自身も今回のレコーディングにはEW&F時代を思い起こさせるものがあったと述べている。カーティスがインプレッションズ時代に書いた名曲“ウィ・アー・ウィナー”もやっていて、こちらはビラルとのデュエット。カーティスからフィリップ、そしてビラルへと受け継がれるファルセット・ヴォーカルが、アメリカで伝承されるソウルそのものの姿を映し出している。カーティスと並ぶニュー・ソウルのレジェンド、マーヴィン・ゲイの“ジャスト・トゥ・キープ・ユー・サティスファイド”のカヴァーでは、バラディアーとしてのフィリップの魅力を再確認できるだろう。一方、公民権運動と結びついたアビー・リンカーンの歌で知られる“ロング・アズ・ユア・リヴィング”のカヴァーは、原曲のブルース・マナーを基調としたジャズ・ファンクとなっており、アルバムの中でもっともジャズ・シンガー性を感じさせるものだ。“ビリー・ジャック”でのアフロビートの導入と共に、アフリカ音楽という点ではトーキング・ヘッズがアフロビートを取り入れ、後世にも多大な影響を与えた革命的な1曲“ワンス・イン・ア・ライフタイム”もやっている。原曲とは大きく異なる雄大でスケール感のあるジャズ・アレンジで、EW&Fの作品でもお馴染みだったカリンバ(アフリカ特有の親指ピアノ)の音色をロバート・グラスパーが奏でている。

 “ユー・アー・エヴリシング”は、『チャイニーズ・バタフライ』での“リターン・トゥ・フォーエヴァー”に参加したフィリップから、チック・コリアへの返礼とも言えるカヴァー。リターン・トゥ・フォーエヴァーの原曲はアイアートやフローラ・プリムらが参加したブラジリアン・フュージョンだったが、ここではウェスト・コースト・ロックやAORマナーによるカヴァーとなっている。カヴァー曲以外でも聴きどころは多く、“セイクレッド・サウンズ”はほぼセミ・インスト曲で、グラスパー、デリック・ホッジ、ケンドリック・スコットのトリオを軸としたスリリングなジャズ演奏を楽しめる。ここで表われるフィリップのブラジリアン・スタイルのスキャット・コーラスは、EW&F 時代からよくおこなっているものだ。“ステアウェイ・トゥ・ザ・スターズ”でも“ワンス・イン・ア・ライフタイム”同様にカリンバが用いられ、アフリカン・リズムを咀嚼した楽曲となっている。ジャズ、ソウル、ゴスペル、ファンク、アフリカ音楽、ブラジル音楽など、EW&F時代からフィリップのベースとなった音楽を(EW&Fの音楽とはそれらのミクスチャーだったと言える)、グラスパーら現代ジャズの面々を介して改めて提示したのが『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』である。

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