「Nothing」と一致するもの

Lanark Artefax - ele-king

 リー・ギャンブルの〈UIQ〉や〈Whities〉からリリースを重ね、昨年はビョークをリミックスしたことでも注目を集めたラナーク・アーティファックスが、新たなEP「Corra Linn」をドロップ。スコットランドにある同名の滝からインスパイアされた作品だそうで、ジャングルの躍動ありピアノの叙情ありと、めちゃくちゃかっこいい3曲が収録されている。レーベルはなんと、グラスゴーの〈Numbers〉。試聴・購入はこちらから。

artist: Lanark Artefax
title: Corra Linn
label: Numbers
release: October 24th, 2019

tracklist:
01. Corra Linn
02. Moo Orphaned Drift
03. Ferthenheap

https://nmbrs.net/releases/lanark-artefax-corra-linn-nmbrs63/

Boomkat / Bandcamp / Spotify / iTunes / YouTube / Amazon

tiny pop fes - ele-king


photo: 堀切基和

 正直に言うと、開催の数日前まで「ホントにやるのかな?」と思っていた。主催のDANGBOORURECORD中条氏曰く、「なんとなく上野公演水上音楽堂の会場使用の応募をしたらなんとなく当選しまったので、やることにした」との由。野外フェスってそんな商店街の福引みたいなノリで出来るんだ!という驚きが先にあったが、ブッキングやステージ制作や各種会場運営含め、じっさいこうして具体化してしまうのだからもっと驚く。多分、というか絶対、音楽ビジネスのプロパーでは実現しない(というかそもそも企画しない)であろう、それくらい横紙破りなイベントなのだった。

 私は、lightmellowbu*注1の一員としてサブステージでDJを担当することになっていたから(なので、当日ライヴを観れなかったアクトも数多い。そのため、この記事では各演奏の詳細に触れることが出来ないことを予めお伝えしておきたい。おそらく近日中にそういった記事もどこかにアップされるだろう……)、サウンドチェック等を兼ねて一般の開場時間より少し早目に現場入りしたのだが、広いステージ上でトップ出演のバンド〈ゆめであいましょう〉のリハーサルが本当に行われていることにまず驚いた。いや、開催当日なのだからリハーサルが行われているのは当然なのだけど、「本当にやるんだな」という感慨が湧き上がってきた。
 会場入口には主催・中条氏やDANGBOORURECORD周辺の関係者が忙しく立ち回っており、まさにこれが正真正銘のDIYスタイルで催される集いであることがヒシヒシと染み渡るのだった。(どうしてもインサイダー的な視点になってしまうのだが)意外にも(?)音響機材や運営面でのオペレーションがしっかりしていそうなのにまた驚いた、というか、良かった……。楽屋もちゃんとあるし、ゴミ袋も用意されているし、導線もわかりやすく整理されているし、と場内を見て回るうちに、なぜか胸に熱いものが(一体誰目線なのか自分でもよくわからない)。
 老婆心全開で感心しているそんな私に、「おはようございますー」と声を掛けてきたのが、hikaru yamada氏。この日の出演者(んミィバンド)にして、本ele-kingでも以前記事にしたためられている通り*注2、〈tiny pop〉というワード(?)を編み出したその人である。 どうやらyamada氏も私と同じような感慨を抱いているらしく、「ついにやるんですねー」などと話しながら、傍らにはステージ進行表のようなものを持っている。訊けば、全日を通しての舞台監督的な役割を与えられているらしく、なるほど、出演者も総出でスタッフを兼ねる形態なのだ。よくよく見回してみれば、スタッフのほとんどが知り合いとインターネット上でつながっている人々(これをインターネット人と呼ぼう)によって占められており、これはもう、極端に規模の大きいオフ会か……?

 そもそもtiny popというものが、山田氏の記事にもある通り、現在のポスト・インターネット的な状況を反映したシーン(のようなもの)なので、自然とこうした雰囲気になるのは当然だとはいえる。けれどこのシーン(のようなもの)は、予てよりあるいわゆる〈ネット・レーベル〉的文化圏とも微妙に違う何かが漂ってもいるのだ。もちろん、インディー・カルチャー圏において2010年代を通して覇権を握ってきた東京を中心としたインディー・ポップの現場感覚とも確実に違う、もっとタイニーで私的な営みであると言える。毎度定義に難渋するこのtiny popとは、一応まとめるならば、インターネット/リアルに関わらず各所に散在していたそれら私的な営みが、たまたま時間や空間上の条件が重なることで、今コロイド状に可視化されたもの、というような理解になるのかもしれない。
 だからこそ、このtiny popに、一般的な音楽ジャンル用語としての効用を期待しすぎてはいけない。じっさい、この日の出演者にしてもその音楽性はバラバラで、山田氏の定義においてtiny popとされるもの(mukuchi、んミィバンド etc.)から、既にtiny pop云々を置いて各々のファンダムを形成しているアーティストまで、さまざまな人たちがステージに上ったのだった。けれども、そこにはうっすらとした共通項として、既存ジャンル意識や前提的なシーンの存在を、自覚的にせよ無自覚的にせよ超えていこうとする新しい律動(例えば、いわゆるこれまでのインディー・ロックを絶対的な価値観とする心性から開放されていること等)が貫いていることも確かなように思われるのだった。
 そういうことを頭に置いてみると、この日会場に漂っていた(それは来場者も共に発散していたのだが)味/熱が実に得難い一回性を湛えたものであったということがわかる。それは有り体にいうなら、「何かが起ころうとしているときの期待感」だったり、「未知のコミュニティーが立ち表れてくるときの連帯感」だったりするのかもしれないが、各アクトによる、(良い意味で)好き勝手に自分たちのペース/マナーでされるステージング、ゆるやかな集散を繰り返しながらプラプラと会場内を周遊する(あまり「ウェーイ!」といった感じではない)来場者の人々の姿をみるにつけ、大きくて強い言葉でその印象を形容するのが憚れるのだ。これはやはり、〈tiny〉としかいいようのない感覚……(ちなみに、ここ水上音楽堂は音量制限にシビアなことでも知られており、この日もイベントを通して耳に心地よいタイニーなデシベル値となった)。


photo: 加藤貴文


photo: 加藤貴文

 いきなり大きな話になるが、これまで、「~~ポップ」と名が付いている音楽は基本的に、資本主義/自由主義的体制の中においてその内在的宿命として経済的な覇権を志向するものだった。それは、そのジャンル名を冠された音楽家たちが彼/彼女の恣意性によって付けたり脱いだりできるような類のものではなくて、もっと根源的な、システム上不可避とさえいうべきのものだろう。これは、もちろん(ハードなマルキシストにとってはそうでないだろうが)一般消費者にとっては悪いことではなくて、そのいうシステム上の宿命的ダイナミズムがあったからこそ、今まで永くポップ・ミュージック全般が豊かな実を成らせながらここまで発展してきたのだといえる。
 しかしながら、ポップスそのものが内在するそういったインフレーションへの傾向はまた、少なくないデリケートな表現者たちにとって我慢のならないストレスでもあったのも自明である。あんなにもポップな音楽を作り上げたブライアン・ウィルソンが、その楽曲のポピュラー性に反するように、実に内向的/自省的な人物であることはよく知られている。あるいは、〈ベッド・ルーム・ポップ〉というような撞着語法的表現にみられるように、その矛盾性をむしろひとつのチャームとして逆説的に提示するジャンル用語すら生まれてきたのだった。何がいいたいのかというと、要するにポップスとは、モダン以降いつの時点にあっても、自由主義経済的な自己インフレーションと、私的美意識(作家性)の確保というものの間における苛烈な相克の運動であるということだ。*注3
 翻ってtiny popについて見てみるならば、どうやらそれは、今現在のポップスにおけるそういった相克の最前線に、(あまり派手派手しいわけではないが)極めて批評的な観点を投げかけながら位置しているものであると言えそうだ。いわゆるポスト・インターネットの時代を叫ばれて久しい今、そういったメディア状況がコミュニケーションを強化(時に分断)することによって立ち会わられた新しい時代のポップスとして、tiny pop以上に当世風のものはないのではないか。予てから界隈のインターネット人たちが醸している、社会性と非社会性の淵をゆらめくようなシニック(というと何やら悪口のようだが、そのアンチ・アイデンティティ論的な姿勢は優れて批評的だと思う)や、ハイ・コンテクストなユーモア感覚こそは、ポップというものにおける自由主義的な指向性と、作家的内省性の、最新にして実に興味深い発露としても捉えうると思っている。
 
 かつてyamada氏が私に語ってくれた言葉で面白いものがある。要約するなら、「tiny popは〈商業的〉になった瞬間にその魅力と意義が霧消してしまうだろう」というようなものだった。なるほど、tiny popとは、現在インターネット空間(特にSNS)において極稀にしか現れない健全で建設的なコミュニケーションに似て、実にフラジャイルなバランスによってしか出現し得ない儚い現象なのかもしれない……。
 だからこそこの日、上野公演水上音楽堂に現れたものは、その希少性という意味でも尊いものであったし、意図をもって再現することが難しい類の極めて一回的な経験だったのかもしれない。メインステージで奏でられた各アクトの音楽の繊細な鳴り方/在り方もそうだし、冒頭に紹介したような極めてDIYでコミュニタリアン的な運営スタイルの希少性についてもそうだ(だから、会場の規模感的にも〈無理をしない無理〉という感じで、実に絶妙だったと思う)。また、90年代のオブスキュアなシティ・ポップCDでDJをするという私自身のイベントの関わり方も、よく考えれば(よく考えなくても)相当に珍奇なものだし、そういう「誰かが意図したわけでないのに、ポッと生まれでてしまった不思議な瞬間」が幾度もあった気がする。そして、そうした瞬間はおしなべてなにやら美しくもあったのだった。
 抜けるように青いこの日の空模様について、誰もが「晴れてよかったですね」と挨拶を交わしながらも、どこかで皆その過度の開放感に戸惑っているようなところがあった。そういう連中がこうやってぞろぞろと集まれたことに、このtiny pop fesの意義は尽きているような気もする。

 さあ、これからtiny popはどうなっていくのやら。tiny popを〈商売〉から庇護するのも純粋主義的で心惹かれもするが、一方で〈よりポップになった〉tiny popも見てみたいよな、という蠱惑にも駆られる。何かが生まれるときに立ち会うというのは、言いようのない感慨を催させもする。しかし、それがシーンとして独り立ちするのを、支え、そして見るのも、これまた爽やかな感動を味わえそうではあるが……果たしてどうだろう。


photo: 堀切基和

*注1
lightmellowbuについてはこちらの拙記事を参照。
https://www.ele-king.net/columns/regulars/post_muzak/006751/

*注2
https://www.ele-king.net/columns/006704/

*注3
このあたりの議論については、ジェイソン・トインビー著、安田昌弘訳 『ポピュラー音楽をつくる ミュージシャン・創造性・制度』(2004年 みすず書房)などを参照。
https://www.msz.co.jp/book/detail/07102.html

Colleen - ele-king

 昨年素晴らしいアルバム『A Flame My Love, A Frequency』を送り届けてくれたフランスの音楽家コリーンが、モーグとコラボレイトしたEP「A Flame Variations」を公開した。『A Flame~』収録曲の別ヴァージョンが5曲収められており、バンドキャンプにてフリーでダウンロード可能となっている。

https://colleencolleen.bandcamp.com/album/a-flame-variations-live-in-the-moog-soundlab

Plaid - ele-king

 30周年を迎え大きな盛り上がりを見せている〈Warp〉だけれど、またもや嬉しいお知らせの到着だ。今年6月に環境問題をテーマに掲げた力作『Polymer』をリリースしたヴェテラン、プラッドが来日する。オーディオ・ヴィジュアルにも定評のある彼らだけに、今回のライヴでもきっと素晴らしい一夜を演出してくれることだろう。11月23日は VENT に決まり!

Aphex Twin や Autechre 等と共に〈Warp〉レーベルを支えてきた Plaid が、オーディオ・ビジュアル・ライブセットで登場!

今年の7月には10枚目となる最新アルバム『Polymer』をリリース、30周年を迎えた超人気レーベル〈Warp〉を Aphex Twin や Autechre、Nightmares On Wax などとともに支えてきたPlaid (プラッド)が、話題のオーディオ・ビジュアル・ライブセットを引っさげて11月23日のVENTに登場!

まばゆいメロディ、肉感的なリズム、ヒプノティックなテクスチャーが散りばめられた13曲を収録した最新作品『Polymer』を今年7月にリリースした Plaid。名門レーベルの看板アーティストの1組として長年の活躍は言わずもがな、Björk をはじめ、Mark Bell、Arca、Haxan Cloak、最近では Skee Mask や Daniel Avery などともコラボレーションしてきた。他にも London Sinfonietta や Southbank Gamelan Players、Felix's Machines のロボット・スカルプチャー、サウンドトラックなどジャンルを超えて幅の広い仕事をしてきた。また Berghain などの有名クラブからシドニーのオペラハウスなど様々な場所でライブを繰り広げてきた国際的な輝かしい実績も持っている。

Plaid は過去にも世界各地でオーディオ・ビジュアル・ライブセットを披露しており、その圧倒的なクオリティの高さは大きな評判となっていた。多声音楽、環境汚染、政治などのマニフェストをクリエイティブに昇華し、環境問題や統合性、生存競争や死亡率、人間性の断絶などのテーマがぶつかり合っている最新作『Polymer』は今の時代に聴くべき作品と言えるだろう。まさに今見るべきライブアクトのクリエイティビティを直に体感してほしい!

Plaid - WXAXRXP Mix:https://youtu.be/62B_JAg6jJ0

[イベント概要]
- Plaid -
DATE : 11/23 (SAT)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,500 / FB discount : ¥3,000
ADVANCED TICKET:¥2,500
https://jp.residentadvisor.net/events/1326343

=ROOM1=
Plaid - Live -
Mustache X
TUNE aka FUKUI (INTEGRATION / Hippie Disco)
HOWL (DODGY DEALS CLUB)

=ROOM2=
JUNSHIMBO (OTHERTHEQue!)
FLEDtokyo (Tu.uT.Tu./Test Press)
HARUYAMA (RINN∃)
TEA YOUNG DAY
MIDY (YELLOW) × Amber (PARANORMAL)

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/plaid/
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/772747059842468/

※ VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your
cooperation.

TNGHT - ele-king

 UKのベース・ミュージックとUSのヒップホップが幸福な婚姻を果たした2012年の「TNGHT」、その大ブレイクにより一躍ときの人となったトゥナイトは、ハドモーことロス・バーチャードとルニスことルニス・フェルミン・ピエール2世から成る2人組で、勢いそのままに翌年カニエ・ウェストとコラボするまでに至ったわけだけれど、しかしメジャーになりすぎることを警戒したのか、はたまたたんなる気まぐれなのか、同年新たに1曲を発表したのみで長い沈黙に突入する。そんな彼らがふたたび制作に着手した、と報じられたのが2017年の6月。早2年の月日が流れ……ようやく復活である。件の「TNGHT」と、今回新たにドロップされる「II」とをカップリングしたCD『TNGHT I & II』が〈Warp〉と〈LuckyMe〉との共同でリリースされる。発売は12月13日。

[11月7日追記]
 怒濤の来日ラッシュで大きな盛り上がりを見せた〈Warp〉30周年企画ですが、その一環としてリリースが決定した独自企画盤『TNGHT I & II』より、新曲“First Body”が公開されました。キャッチーかつストレンジなメロディがクセになりますね。

[11月13日追記]
 新情報です。上述の「同年新たに1曲を発表したのみで」の1曲、“Acrylics”が急遽『TNGHT I & II』に追加収録されることになりました。つまり同盤には、これまでトゥナイトが送り出してきたすべての楽曲が収録されることになります。コンプリート達成!

[11月20日追記]
 新たに“Gimme Summn”のMVが公開されました。カナダの映像作家/アニメイターのコール・クッシュによる、3Dキャラクターが印象的なヴィデオです。トゥナイトのふたりからコメントも届いています。

コールのシャープな色使いと3Dアニメーション・スタイルの大ファンなんだ。絶妙な不快感と混乱を与えてくれる感じが好きなんだ。興味深くずっと見ていられる。 ──Lunice

ジュリアン・アサンジのケンタウロスを見てみたかったんだよ。 ──Hudson Mohawke

TNGHT

ハドソン・モホーク × ルニス
ついに再始動したトゥナイトがEP作品2枚をまとめた独自企画盤CD『TNGHT I & II』のリリースを発表!
新曲“DOLLAZ”を公開!

TNGHT - DOLLAZ
https://youtu.be/XagzSNnr1h0

2011年から2013年までのたった3年間の活動の中で、セルフタイトルのEP作品「TNGHT」(2012)でシーンに強烈な衝撃を与えたハドソン・モホークとルニスによるエレクトロニック・ユニット、TNGHT (トゥナイト)。当時フライング・ロータスら多くのアーティストが“Higher Ground”をDJセットに組み込むなど、そのユニークなサウンドを絶賛し、その一人であったカニエ・ウェストが、自身のアルバム『Yeezus』に TNGHT の楽曲“R U Ready”をサンプルするなど、多くの実績とインパクトを残したのちに突如を活動を休止。しかし、トラップを取り入れた彼ら独自のスタイルは、アメリカを中心としたその後のポップ・ミュージックのトレンドに大きな影響を与えた。

その後はそれぞれのソロ・プロジェクトに集中していたが、今年に入って TNGHT の Twitter アカウントから再始動を予感させる投稿が相次ぎ、ついに先月、新曲“Serpent”のリリースと共に6年ぶりに活動再開を発表した。今回それに続く新曲“Dollaz”のリリースに合わせて、EP「II」のリリースが決定。さらに、盛り上がりを見せている〈WARP〉30周年企画の一環として〈WARP〉と 〈LUCKYME〉のダブルネームで、2枚のEP作品を合わせた独自企画盤『TNGHT I & II』のCDリリースが決定した。

これは俺たちにしか出せない音だ。 ──Lunice

変な音が聴こえたらそれは良い兆候で、俺たちにはすごくエキサイティング なことなんだ。聴いてる時に悩ませてくれるくらいじゃないとね。 ──Hudmo

TNGHT (トゥナイト)の初CD作品『TNGHT I & II』は、12月13日(金)にリリース! 初CD化となるEP「TNGHT」、新作EP「II」を全曲収録!

label: BEAT RECORDS / WARP / LUCKYME
artist: TNGHT
title: TNGHT I & II
release date: 2019.12.13 FRI

商品情報
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10621

TRACKLIST
01. Top Floor
02. Goooo
03. Higher Ground
04. Bugg'n
05. Easy Easy
06. Serpent
07. Dollaz
08. First Body
09. Club Finger
10. What it is
11. Im In A Hole
12. Gimme Summn

CFCF - ele-king

 今年、ニューエイジとジャングルを組み合わせたアルバム『Liquid Colours』をリリースし話題を呼んだ CFCF が、同作を引っさげ来日ツアーをおこなう。11月2日から11月6日にかけて、東京、新潟、大阪を巡回。ライヴではいったいどんなサウンドが繰り広げられるのか。あなた自身の耳で確認しよう。

CFCF JAPAN TOUR 2019
– LIQUID COLOURS RELEASE TOUR –

・11/02 (Sat) – TOKYO | CIRCUS Tokyo
・11/03 (Sun) – Niigata | Kiageba Church
・11/06 (wed) – OSAKA | CIRCUS Osaka

https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/cfcf-japan-tour-2019/

■東京公演

CFCF JAPAN TOUR 2019 – Tokyo –

日程:11/2(土)
場所:CIRCUS Tokyo
時間:開場 19:00 / 開演 19:30
料金:前売 3,500円 / 当日 4,000円(別途1D代金600円)
チケット:チケットぴあ (Pコード:167133) / Peatix / e+

LIVE:
CFCF
dip in the pool
Daisuke Tanabe


■新潟公演

CFCF JAPAN TOUR 2019 – Niigata –
experimental room #30

日程:11/3(日)
場所:新潟・木揚場教会(新潟市中央区礎町通上一ノ町1957)
時間:開場 17:00 / 開演 17:30
料金:前売 3,500円 / 当日 4,000円 / 新潟県外からの方 3,000円 / 18才以下無料!
チケット:メール予約
info@experimentalrooms.com
(件名を「11/3チケット予約」としてご氏名とご希望の枚数をご連絡下さい)

LIVE:
CFCF
dip in the pool
Yojiro Ando

DJ:
Jacob

SHOP:
Oohata Coffee


■大阪公演

CFCF JAPAN TOUR 2019 – Osaka –

日程:11/6(水)
場所:CIRCUS Osaka
時間:開場 19:00 / 開演 19:30
料金:前売 3,000円 / 当日 3,500円(別途1D代金600円)
チケット:チケットぴあ (Pコード:167135 ) / Peatix / e+

出演:
CFCF
speedometer.
Dove



■CFCF
モントリオールを拠点に活動するコンポーザー Michael Silver によるソロ・プロジェクト。これまで〈Paper Bag〉、〈Acephale〉、〈RVNG Intl.〉、〈1080P〉、〈International Feel〉など、様々なレーベルから作品をリリースしている。インディ・ディスコ~ポスト・ダブステップ~アンビエントなど幾多のエレクトロニック・ ミュージックを横断しつつも、常にクウォリティの高いサウンドを披露し、ジャンルを超えて高い支持を得ている。また、リミキサーとしてもその手腕を発揮しており、Crystal Castles、HEALTH、Owen Pallett など多岐にわたるアーティストのリミックスを手がけており、現代のエレクトロニック・シーンで重要な人物の一人として地位を確立している。日本の音楽にも精通しており、dip in the pool との交流も深い。
cfcfmusic.com / Twitter / SoundCloud


■dip in the pool:(東京、新潟公演に出演)
1983年に作/編曲を担当する木村達司(track)と、作詞担当の甲田益也子(vo)が結成したデュオ。独特の音楽センスとファッショナブルなヴィジュアルが話題を呼び、86年にイギリスは〈ROUGH TRADE〉よりデビュー。
マイペースな活動と並行して、甲田益也子が89年に映画『ファンシイダンス』で役者としてもデビューし、映画『白痴』では主演をつとめた。木村達司は他アーティストのプローデュース、アレンジやCM、映画音楽制作等、個々の活動も多彩に展開している。
一時の活動休止を経て2011年に本格的に再始動、14年ぶり、8枚目となるアルバム『brown eyes』をリリース。
2013年には木村達司がモーガン・フィッシャー、安田寿之と共にアンビエント・エレクトロニカ・アルバム『Portmanteau』をリリース。甲田益也子がゲスト・ヴォーカルとして4曲参加している。
2015年1月に伊藤ゴロー、古川初穂らをゲストに迎えた10枚目のアルバム『HIGHWIRE WALKER』をリリース。
2016年にアムステルダムに本拠を置き世界中に多くのファンを擁する復刻レコード専門レーベル〈Music From Memory〉から89年に発表した「On Retinae」が12 inch・シングルとしてリイシューされ世界的に再評価される。
2017年にはアメリカのアンビエント・デュオ Visible Cloaks からの依頼を受けシングルを共作リリースし、来日イベントでは共演も果たしている。
2018年、オーストラリアはメルボルンでのフェス、シドニーでのDJ/ライヴ・イベントに参加。
2019年、ヨーロッパツアーを行い、パリ、ストックホルムにてライブを行い好評を博す。また、年内には日本、オーストラリア、フランスのアーティストとのコラボレーションを行い、作詞、作曲、歌唱、トラックメイクを提供したシングルが連続してリリースされている。
https://dipinthepool.com/


■Daisuke Tanabe:(東京公演に出演)
偶然の重なりから初ライヴはロンドンの廃墟で行われた大規模スクウォット・パーティー。06年、紆余曲折を経てリリースした初のEPが BBC Radio1 Worldwide Award にノミネートされ、その後も世界最大規模の都市型フェス Sónar Barcelona への出演、イタリアでのデザインの祭典ミラノサローネへの楽曲提供等幅広く活動中。釣り好き。
https://soundcloud.com/daisuketanabe
https://twitter.com/daisuketanabe
https://www.facebook.com/Daisuke-Tanabe-157676610954408/


■Yojiro Ando:(新潟公演に出演)
安藤洋次郎 | 新潟県新発田市在住の作曲家。4歳から17歳までピアノを習い、その後、クラブ音楽に傾倒。22歳からトラック製作を開始し、2016年にエレクトロニカを軸とした自身初となるアルバム『Cube Day Love』を旧名義(Yojiro Chiba)で発表。その後、2018年にはインスト・ヒップホップを軸としたアルバム『Keshiki』を発表。現在、トラック製作の他にライブ活動にも力を入れている。
YOJIRO ANDO
YOJIRO ANDO “KESHIKI”
YOJIRO CHIBA “CUBE DAY LOVE”


■ヤコブ:(新潟公演に出演)
国内外の先鋭的なアーティストを招聘し、アート・エキシビションやクラブ・イベントなどを行う、新潟のアンダーグラウンド・シーンを牽引する red race riot! を主催し、DJとしてもプレイする。また様々なイベントでもDJとして精力的な活動を行い、盟友 le とのDJユニット、Ixalods の名義も持っている。
RED RACE RIOT!
Interview with JACOB


■speedometer. (高山純 a.k.a. slomos):(大阪公演に出演)
1990年代より speedometer. として活動、6作のアルバムをリリース。中納良恵(ego-wrappin')、イルリメとのユニット「SPDILL」、山中透(ex. Dumb Type)とのコラボレーションから、二階堂和美の編曲、ビッグポルノ楽曲担当、故市川準監督作品への楽曲提供など。近年はAUTORA(山本アキヲ+高山純+砂十島NANI+森雄大)としても2作のアルバムをリリース、アパレル・ブランドのコレクションに楽曲提供、台湾・蔡健雅のアルバムに編曲者として参加。
​オフィシャルサイト
https://takayamajun.com/


■Dove:(大阪公演に出演)
大阪拠点のシンガー/プロデューサー。2018年にリリースした1st EP「Femm」、2019年にリリースした2nd EP「irrational」が各地で話題となり、今までにデンマークのシンガー Erika de Casier やレーベル〈PAN〉の M.E.S.H や Toxe などと共演。自主レーベル〈Pure Voyage〉も共同で主催しており、各方面から今後が期待されているアーティストの1人である。
https://soundcloud.com/doveren

Kim Gordon - ele-king

 ダニエル・ジョンストンの追悼記事の冒頭にしたためた、サーストン・ムーアが私にサインを求めたくだりは彼がソロ作『The Better Days』リリース時に来日したさいの取材現場だった。2014年だからいまから5年前、その3年前にアルバム『The Eternal』につづくツアーを終えたソニック・ユースはサーストンとキム夫妻の不和で解散したことになっていた。「解散した」と断定調で書かなかったのは、グループ内──というかサーストンとキムのあいだ──に認識のズレないし誤解があるかにみえ、また私も当時いまだナマナマしかったこの話題について当人に真意をたださなかったからだが、この差異は永遠に解消しないかもしれないしやがて時間が解決するかもしれない。とまれ夫婦仲には第三者の考えのおよばない影も日向もあり、つまらない詮索は野次馬趣味にさえならないとすれば、愛好家にすぎないものはのこされた音源にあたるほかはない。私もソニック・ユースの、編集盤や企画盤、シングルやEPをふくめると数十枚におよぶ作品を四季おりおり、二十四節気をむかえるたびにひっぱりだして聴くことがつとめとなってひさしい。いましがたも、霜降にあたる本日なにを聴くべきか思案に暮れていたところだが、今年はなにやらこれまでといささか事情がことなるようなのである。

 なんとなれば、キムが、キム・ゴードンが新作を発表したのである。私はキムの新作といえば、ソニック・ユースの自主レーベルから2000年に出た『ミュージカル パースペクティブ』以来なのか、近作だと『Yokokimthurston』(2012年)がそれにあたるのか、としばし黙考してはたと気づいた。キムは過去にソロ作がないのである。上記の『ミュージカル パースペクティブ』もモリイクエ、DJオリーヴとの共作だったし、後者は表題どおりオノヨーコと元夫との連名である。90年代、プッシー・ガロアのジュリー・カフリッツとともに──のちにボアダムスのヨシミとペイヴメントのマーク・イボルドなども一時参加──気を吐いたフリー・キトゥンはバンドであってもソロではない。80年代から数えると長いキャリアをもつ彼女にソロ名義の作品がないのは意外ではあるが、むろんキムも手をこまねいていたわけではない。先述のツアー後のバンド解体から2年の服喪期間を経て、2013年にはビル・ネイスとのユニット「Body/Head」をキムは始動している。2本のノイズ・ギターが巣穴の蛇さながらからみあうなかをキムの朗唱と朗読ともつかない声が演劇的な空間性をかもしだす Body/Head の音楽性はその名のとおり、身体と思考、男と女、ギターと声といったいくつかの二項対立を背景に、しかし構想先行型のユニットにつきもののアリバイとしての音楽=作品のあり方に収斂しない芯の太い内実をそなえていた。彼らは数年おきに『No Waves』(2016年)、『The Switch』(2018年)を発表し、ノイズの深奥を探る活動をつづけているが、ソニック・ユース時代はサーストンとリー・ラナルドという稀代のノイズ・メイカーの影でかならずしも「音のひと」とはみなされなかったキムの音への触知のたしかさ──それはすなわち即興する身体の充溢でもある、そのことを──語り直すかのようでもあった。その一方で、西海外に出戻ったキムはサーフィンを中心にアートも音楽もひとしなみに俎上にあげるアレックス・ノストとグリッターバストなるデュオを併走し、Body/Head のファーストと同年にセルフタイトルの一作を世に問うている。ちなみにグリッターバストとは90年代のノイズ・ロックの一翼を担ったロイヤル・トラックスの楽曲タイトルの引用である。ロイヤル・トラックスは断線気味の頭中のシナプスをアンプに直結するかのごとき元プッシー・ガロアのニール・マイケル・ハガティのギターと、場末の呪術師を想起させるジェニファー・ヘレマの声を基調にしたユニットで、本邦では〈Pヴァイン〉の安藤氏が重要案件の隙を突いてせっせと世に送り出しつづける〈ドラッグ・シティ〉のレコード番号1番を彼らが飾ったのはいまいちど留意すべきであろう。“Glitterbust”はロイヤル・トラックスの1990年のアルバム『Twin Infinitives』の収録曲で、土管のなかで音が飛び交うような音響空間はガレージのロウファイ化とも形容可能だが、90年代に雨後の筍のように派生したオルタナティヴの突端といったほうがしっくりくるだろうか。パートナー関係にあったハガティ、ヘレマの作品からの引用は邪推をさそいもするが、おそらくそれ以上に、キムにとってこの数年は共同体のくびきをのがれ過去の積みのこしを精算する期間だったのであろう。というのもまた邪推にすぎないとしても、バンド解体後の助走期間がなかりせば、ソロ作『No Home Record』はこれほどふっきれたものになったかどうか。
 逆にいえば、ソニック・ユースはロック史とリスナーの記憶にそれだけしっかりと根をはっていたともいえる。
 むしろ怪物的な風情さえたたえていた。その活動はサーストンとリー・ラナルドとの出会いにはじまる。彼らがグレン・ブランカのギター・アンサンブルの同窓であることは本媒体のそこかしこや拙著『前衛音楽入門』にも記したのでそちらをあたられたいが、このふたりにサーストンのガールフレンドだったキムが加わり体制の整った彼らは1982年の同名作でデビューにこぎつけた。ファーストのジャケットに映るおおぶりのメガネをかけたキムはいまだ美大生だったころのなごりをとどめているが、バンドのサウンドもまた70年代末のノーウェイヴの影をひきずっていた。ブランカ直系の和声感覚とパンク的なリズムにそのことは端的にあらわれている。その一方で、キムの静かに燃焼するヴォーカルをフィーチャーした“I Dream I Dreamed”などは彼らをおくれてきたノーウェイヴにとどめない広がりをしめしていた。むろん80年代初頭、音楽にはのこされた余白はいくらでもあり、余白を切り拓くことこそ創作の営みであれば、ソニック・ユースほどそのことに自覚的だった集団は音楽史をみわたしてもそうはいない。その触手はロックにとどまらず、各ジャンルの先鋭的な領域にとどき、作品数をかさねるごとに山積した経験は音楽性に循環し、86年の『Evol』でドラムスがスティーヴ・シェリーへ代替わりしたころには後年にいたる指針はさだまっていた。『Sister』ははさみ、1988年に発表した『Daydream Nation』はその起点にして最初の集成というべき重要作だが、“Teenage Riot”なる象徴的な楽曲を冒頭にかかげ、疾走感と先鋭性とアクチュアリティを同居させたサウンドは不思議なことに彼らの根城であったアンダーグランドの世界を窮屈に感じさせるほどのポピュラリティもそなえていた。

 1990年の『Goo』で大手ゲフィンに移籍したソニック・ユースの活動は同時代のグランジや、その発展的総称ともいえるオルタナティヴのながれでとらえる必要があるが、高名な論者の夥しい言説があるので本稿では迂回することにして、ここで述べたいのはメジャーに活動の舞台を移してからというもの、いよいよ多方面にのびる彼らの「創作の営み」でキムのはたした役割である。キムは美大出身であることはすでに述べたが、卒業後彼女はアート方面でのキャリアを夢見てニューヨークにたどりついていた。80年代初頭のことである。当時をふりかえり、コンセプチュアル・アートの第一人者ダン・グハラムは2010年に開催した個展で来日したさい以下のように述べている。
「初めて会ったとき、彼女は途方に暮れていました。当時のボーイフレンドとニューヨークに来るはずが、彼は同行せず、キムは彼に僕を頼れと言われてこの街にやってきたんです」
 グラハムがキムにブランカを紹介し、彼のサークルにいたサーストンと彼女は出会う。だれかとの別れがべつのだれかとの出会いを演出することは、槇原敬之あたりにいわれるまでもなく世のつねではあるが、日々の営みをとおして出会いがどのような果実を実らせるかはまたべつの次元の話であろう。その点でサーストンとキムは、ひいてはソニック・ユースはバンド内の関係性の手綱を巧みにさばいた典型といえるのではないか。ことにメジャー・デビュー以後、洋の東西を問わず、感覚とセンスが主導した90年代においてフィジカル(音盤)は音楽の伝達ツールである以上にヴィジュアル言語の表現媒体として重要な役割を担っていた。そのような潮流を背景に、ソニック・ユースがアートとも高い親和性をもつバンドとして巷間に認知を広めたのも、ひとえにキュレーターであるキムの目利きに由来する。ダン・グラハムとも親交をもつジェームス・ウェリングの写真をもちいた85年の『Bad Moon Rising』を嚆矢に、『Daydream Nation』のゲルハルト・リヒター、『Goo』のレイモンド・ペティボン、『Dirty』(1992年)のマイク・ケリー、21世紀に入ってからも2004年の『Sonic Nurse』でのリチャード・プリンスなどなど、彼らはアートワークに音楽の衣としてその内実を反照するよりも聴覚と視覚の交錯のなかに生まれる三角波を聴き手に波及させる効果を託していた。これはまったくの余談だが、私は以前在籍した雑誌にペティボンの作品を掲載したいと思い、本人に連絡をとり、おそるおそる掲載料を交渉しようしたら、その作品は俺の手を離れているから金はいらない、使うなら勝手に使ってくれとの返事とともにデータが送られてきたことがある。人的物的を問わず権利の管理に汲々するエンタテインメント産業(新自由主義体制下においてマネジメントとは監視と防禦すなわちセキュリティの別称である)とは真逆の、これがDIY精神かと感動した(いまどうなっているかは知りませんよ)ものだが、キムにとってのアートも、グラハムしかり、ケリーとかトニー・アウスラーとかリチャード・プリンス(は他者作品の無断転用のカドで何件かの訴訟を抱えていたはずである)とか、ことの当否はおくとしても、既存の審美眼の視界を侵すものとしての意味合いをふくんでいたのではないか。
 映像やファッションも例外ではない。『Dirty』収録の“Sugar Kane”のMVに若き日のクロエ・セヴィニーを起用したのもキムのアイデアだというし、X-Large にかかわっていたビースティ・ボーイズのマイクDのつてでキムが姉妹ブランド X-Girl を90年代初頭にたちあげたのはことのほか有名である。そう書きながら、私は思わず目頭が熱くなったのは、なにかが老いる以上に骨抜きになる感覚を禁じえないからだが、歯ごたえのないノルタルジーなど犬も食わない。
 そのことをキム・ゴードンは知り抜いている。ソニック・ユース解体後、彼女はグラハムも所属するニューヨークの303ギャラリーに加わり、今年フィラデルフィアのアンディ・ウォーホル美術館とダブリンのアイルランド近代美術館で個展をひらいている。遠方のこととて、私は未見だが、「Lo-fi Glamour」と題した前者の、ペインティングというより広義の「書」とさえとれる「Noise Painting」シリーズの血のようにしたたるアクリル絵の具の筆致には、90年代に好事家を欣喜雀躍させた彼女の手になるアートブックに宿っていた速度感を円熟の域に昇華した趣きがある。いや円熟ということばはふさわしくないかもしれない。なにせ「Lo-Fi」であり「Noise」なのだから、おそらく2019年のキム・ゴードンはフランスの批評家ロラン・バルトになぞらえるなら、継起と切断のはてにある新章としての「新たな生」のさなかにある。

 『No Home Record』ほどそのことをあらわしているものはない。このレコードはキム・ゴードンのはじめてのソロ・アルバムであり、9曲40分強の時間のなかにはキムの現在がつまっている。プロデュースを(おもに)担当したのは、エンジェル・オルセン、チャーリー・XCXからヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルまで、手広く手がけるジャスティン・ライセンで、年少の共闘者の伴走をえて、キムの音楽はフレッシュに生まれかわっている。そう感じさせるのは、このレコードがバンド・サウンドよりもプログラムによるビート感覚を主眼にするからだが、音色とともに目先をかえてみました的なみてくれ以上に、作品の基底部を支えるデザイナブルな志向性がたんにノイジーな印象にとどまらないダイナミックな聴感をもたらしてくる。ソニック・ユースの結成後に生まれたライセンらの世代にとってはおそらくノイズも楽音も音響であることにはかわりなく、ロックというよりもエレクトロニック・ミュージックの方法論が裏打ちする点に『No Home Record』の画期がある。とはいえ“Air BnB”のようにソニック・ユースを彷彿する楽曲も本作はおさめており、聴きどころのひとつでもあるが、それさえも多様性のいちぶにすぎない。ソングライティングの面でソニック・ユースを体現していたのはサーストンにちがいないとしても、キムの声と存在感がバンドに与えていたムードのようなものの大きさを、私は2曲目の“Air BnB”を耳にしてあらためて思った、その耳で全体を俯瞰すると、レコードではA面にあたる1~5曲目ではポップな方向性を、6曲目の“Cookie Butter”以降のB面では前衛的な志向を本作はうかがわせる。とはいえときに四つ打ちさえ打ち鳴らす本作は難解さとは遠い場所にある。90年代のキムであれば、このことばにあるいは眉を顰めたかもしれないが、『No Home Record』の現在性が難解さを突き抜ける力感をもっているのはたしかである。他方歌詞の面では断片的なことばをかさねイメージの飛躍をはかっている。主題となるのは、住み慣れた東海岸の住居をたたみ故郷であるLAに戻ったのに、ふるさともまた時代の波に洗われて変わってしまった──というようなある種のよるべなさだが、ことばの端々に感じるのはその状態から逃れようともがくのではなく、そこにある自己をみつめる透徹したまなざしである。
 いうまでもなく「Home」の語にはいくつかのふくみがある。かつて「No Direction Home」と歌ったボブ・ディランの巨視的なヴィジョンともキムのホームは鋭くすれちがっている。

Lone - ele-king

 アクトレス主宰の〈Werk Discs〉から『Ecstasy & Friends』を送り出し、その後〈Magicwire〉からの『Emerald Fantasy Tracks』や〈R&S〉からの数々のリリースで、ぐんぐん知名度を上げていったプロデューサーのローンが来日する。今年は自らのレーベル〈Ancient Astronauts〉を始動させるなど新たな動きも見せているだけに、これは注目の公演だ。11月22日は VENT へ。

Radiohead からGilles Petersonまで
ジャンルを超えたレジェンド達が注目する才能、Lone

〈R&S〉を筆頭に、〈Dekmantel〉や〈Werk Discs〉などの人気レーベルからの作品が大人気! 今年には新レーベル〈Ancient Astronauts〉を始動するなど絶好調な活動を見せるエレクトロニック・ミュージック新世代を代表するアーティスト Lone (ローン)が11月22日の VENT に初登場!

UKのレイヴやデトロイトのテクノに影響を受け、ポスト・ダブステップ旋風が吹き荒れる時代にさっそうとシーンに現れた Lone。Actress 率いる〈Werk Discs〉から2009年にリリースしたアルバム『Ecstasy & Friends』が早耳リスナーの話題になり、2010年
の『Emerald Fantasy Tracks』、そして2012年に名門レーベル〈R&S〉からリリースした『Galaxy Garden』で一躍、世界的プロデューサーの地位にまで上り詰めた。

2011年には Radiohead にリミキサーに選ばれ、2014年には Gilles Peterson が Lone の“2 is 8”をベスト・トラックに選んだりと、Lone の才能はジャンルを超えたトップ・アクトにも認められている。過去には Redbull 主催の EMAF Tokyo や Taico Club などにも出演し、大きな舞台で日本のクラウドにも素晴らしい才能を披露してきた。Boards of Canada にも比肩される孤高のプロデューサーの VENT デビューは要注目だ!

イベント概要
- Lone -

DATE : 11/22 (FRI)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,600 / FB discount : ¥3,100
ADVANCED TICKET : ¥2,750
https://jp.residentadvisor.net/events/1334405

=ROOM1=
Lone
DJ Conomark
Frankie $ (N.O.S. / KEWL)
shunhor (breathless / euphony)

=ROOM2=
Shintaro & Gradate (haktúːm)
Ueno (Charterhouse Records / sheep)
Jeremy Yamamura
Kyohei Tanaka
KATIMI AI

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/lone/
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/402200657399623/
※ VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your
cooperation.

Sam Binga - ele-king

 11月に来日するサム・ビンガ、彼が2015年にリリースしたアルバム『Wasted Days』が11月8日、日本発売されることになった。これ、いま聴いてもかなりの名盤です。ほぼ全曲にはMC・シンガーが参加(盟友Rider Shafique、Warrior Queen、Rudey Lee、Fox)。ブリストル好き、UKベース・ミュージックやジャングル好きも来日前にぜひチェックです。
 ※なお、いまならイベントBS0(東京)キャッシュバック・チケット・BS0ステッカー封入


Sam Binga
Wasted Days

BS0 Records / Critical Music

Wilco - ele-king

「歓喜の歌」とのタイトルとは裏腹に、ウィルコの11枚めのアルバムはズン、ズン……というドラムの重たい音から始まる。小さい音量で揺れるギター。曖昧な感触の鍵盤。控えめで物憂げななジェフ・トゥイーディの歌。「ぼくはけっして変わらない/きみはけっして変わらない」……。エレクション・イヤーに強い否定の言葉をしたためた『シュミルコ』から3年、アメリカン・オルタナティヴのヴェテランはいま、メランコリーの渦中にいる。
 僕はいま、日本ではわりと大雑把に「アメリカの良心」などと表現されがちなリベラル白人男性によるロック・アクトの動向を気にかけている。マイノリティたちの主張が注目される昨今において、否が応でもマジョリティである彼らが何を言えるのか。ヴァンパイア・ウィークエンドザ・ナショナル、そしてボン・イヴェール……彼らはとにかく真面目に、ジェンダーや人種の融和を訴えることで次の時代を照らそうとしているようだ。いっぽうで、そのさらに先輩にあたるウィルコはどうも内省を深めている。そして、わたしたちも世界も簡単に変わることはないのだと憂えている。

『オード・トゥ・ジョイ』は音響のアルバムである。たとえば“Quiet Amplifier”ではシンプルなストンプ・ビートが下方で4分を鳴らし続けるなか、鍵盤やギターのざわめきが空間全体に散りばめるように広げられる。ウィルコの得意とするポップなフォーク・ロック“Everyone Hides”や“White Wooden Cross”においても、奥のほうで細かく鳴っているギター・ノイズや鍵盤楽器が立体的なサウンド・デザインと複雑なニュアンスを与えている。このことから多くのひとが連想するのが彼らの最高傑作『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』(02)で、同作は「カントリー」というアメリカらしさを表象する音楽にモダンな感触を与えることで時代の音になった一枚だった。そして、「アメリカ」に対する失意とか弱い嘆きを音像化したものであったと。であるとすれば、この「歓喜の歌」たちはこの時代の何を示しているのか。
 本作を象徴する楽曲は、もっともヘヴィでブルージーな“We Were Lucky”だろう。ザリザリという雑音が繰り返し挿しこまれ、ギターが歌い上げようとするやいなやそれはブツリと途切れる。「僕たちは幸運だった」──過去形である。それは僕からすれば、過去に掲げられた理想がひとつずつ潰えていくことのメタファーにも思えるし、行き詰まったわたしたちの現在における苦悩そのもののようでもある。「もう手遅れなんだ」……トゥウィーディは苦々しげに吐き出す。このアルバムの現状認識は重い。ソロ作でトゥイーディは自分がもはや若くも新しくもないことを噛みしめ、老いていく「オルタナティヴ」を見つめているようだったが、ウィルコはいま、明らかに斜陽のフィーリングを捕まえようとしている。オルタナ・カントリーの功績はもはや過去のものになろうとしているのだと。
 本作は、ウィルコはだから、自分たちがもう新しくないことを受け入れているようだ。それでも繊細な音使いでどうにか「愛はどこにでもある」と歌う(“Love Is Everywhere (Beware)”)。ネルス・クラインの雄弁なギターとグレン・コッツェのデリケートで多面的なドラム。カントリー・ポップ“Hold Me Anyway”では「きみは思うわけ? すべてがうまくいくって」と疑念を示しながら、どうにか「okay」と繰り返して曲を締めくくってみせる。思えばウィルコはずっとそうだった。何も変わらないという諦念にどっぷり身を浸しながらも、ギリギリのところで顔を上げてみせるということ。埃のかぶった古めかしい音楽に、耳を澄ませば発見できる奥ゆきや複雑さを与えてみせること。
 僕はボン・イヴェールのようなタフな理想主義に鼓舞される人間だが、ウィルコのこの憂鬱──とても誠実な憂鬱──にも耳を傾けたいと思っている。彼らにはどこか、(いつだって、)アメリカという強さが称揚される国で隅に追いやられている誰かの弱さを拾い集めるようなところがあるから。

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