「Nothing」と一致するもの

Eartheater - ele-king

 例年のようなお祭り騒ぎは見られなかった。仮装しているひとも少なめで、でも人出じたいは前週までの土曜よりも確実に増えていたように思う。つまり、やじうまが多かったということだろうか? 10月31日の夜、ハチ公前の風景。
 コロナ時代におけるハロウィーンはいったいどうなってしまうのだろう──なんて考えなくてもいいことを考えてしまったのは、彼女の背に生えた羽根に見とれてしまったから。他方で尻には火がついている。〆切でも迫っているのだろうか? これくらいはもうインスタ時代のスタンダードなのかもしれないけれど、ジャケがアルカばりにたいへんなことになっている(じっさい、フォトグラファーはアルカを撮ったこともあるダニエル・サンヴァルト)。わたしはじぶんのスタイルをカスタマイズする──かつてそう宣言した彼女らしいヴィジュアル表現だ。
 農場で育ち、馬を友とするアレクサンドラ・ドリューチンによるプロジェクト、アースイーター4枚目のアルバムは『不死鳥』と題されている。ずばり、再生の象徴だ。生物の屍体は土へと還り、またべつの生命の肥やしになる──と彼女は紙エレ23号のインタヴューでも語っている。そういう輪廻転生のような話に彼女は、どうしようもなく自己を重ねてしまうのだろう。
 過剰に視覚に訴えかけるアートワークや「わたしの肌にしたたる炎」なる副題からもわかるとおり、今回のアルバムはコンセプト的にかなり熱い1枚に仕上がっている。前作『IRISIRI』の「水」とは対照的だ。とはいえ溶岩や火山など、地質学的な対象から着想を得ているところは、相変わらず彼女が人新世的な音楽家でありつづけていることを物語っている。
 そんな本作のパッションをもっともよくあらわしているのは、キャッチーなメロディの映える “Volcano” だろう。「欲しいのはいい感じの激突」「山頂をさらに突き上げるために/黙れ/地震を引き起こせ、2枚のプレートのように/岩盤をずらせ/わが火山よ」なんて歌詞は──地震大国に暮らすわれわれには笑えない話だが──まるで蜂起を呼びかける革命家のようでさえある。山岳派、ドリューチン。

 ひるがえってサウンドのほうは、しかし、まったくといっていいほど熱気を感じさせない。むしろ「涼やか」と形容したほうがふさわしいムードに覆われている。ポイントは室内楽の導入だろう。じつはくだんの “Volcano” も、「プラグを引っこ抜けば究極の反ドラッグになるかも/むしろわたしはこっちの(アンプラグドな)生活の中毒」というフレーズではじまっている。これは、本作がエレクトロニクスよりもアクースティック・サウンドを主体としていることのメタ的な確認だ。
 前作やそれと同時期に制作されたミックステープ『Trinity』とは異なり、ここにはテクノのビートもなければトラップのビートもない。“Burning Feather” や “Kiss of The Phoenix” のようにエクスペリメンタルな電子音を聞かせてくれるトラックもあるにはあるが、ひたすら弦の反復で押し通す “Metallic Taste of Patience” なんかはストレートに「モダン・クラシカル」と呼ぶべき曲だろう。ヴァイオリン、チェロ、フルートを担当する楽団、ジ・アンサンブル・デ・カマラの貢献は大きい。“Below The Clavicle” などで挿入されるハープも本作に落ち着いた雰囲気をもたらしている。スペインのサラゴサで録音した影響なのか、いくつかの曲でギターがスパニッシュな響きを携えているのも聴きどころだ。
 もっとも注目すべきはやはり、ドリューチンの声ということになるのだろう。ときにやさしく囁くように、ときに叫ぶように、曲ごとに不安定な表情を見せる彼女のヴォーカルは、「涼しげな」室内楽サウンドとは裏腹に、どこまでも激しく燃え上がり死の淵から蘇る、不死鳥の葛藤を表現している。このアンバランスこそが本作のキモだ。
 前作で高い評価を獲得したがゆえに、尻に火がついてしまったドリューチン。きっとこんなふうに彼女はこれからも都度、おのれのスタイルをカスタマイズしていくにちがいない。

Jun Togawa - ele-king

「戸川純です。11月末のチッタに、意気込んでます! 久々のワンマンですが、歌の訓練を欠かさず続けてきたので、そこらへんと 演奏をご堪能くださいませ。楽しみです!」

JUN TOGAWA BIRTHDAY LIVE 2020 *振替公演

11/30 (mon)
川崎CLUB CITTA’
open/start 18:00/19:00
adv/door 5000円/5500円+1D
*枚数限定。全席自由。

-Live-
戸川純(Vo)
中原信雄 (B)
ライオン・メリィ (Key)
矢壁アツノブ (Dr)
山口慎一 (Key)
ヤマジカズヒデ (G)


e+ イープラスでチケット発売中!
URL:https://eplus.jp/togawajun/
※未就学児入場不可

入場順
1、プレオーダー A1~
2、一般 B1~3、当日券 C1~

会場の新型コロナウイルス感染予防の取り組みについて
https://clubcitta.co.jp/content/counterplan

Laura Cannell - ele-king

 相変わらず美しく、そして深みのある音楽だこと。心が嬉しくなるとはこういう音楽のことだろう。
 ローラ・キャネルはイギリスのヴァイオリン奏者であり、インプロヴァイザーである。オリヴァー・コーツの新作のように、キャネルの作品もまずはその音(トーン)によって決定する。それは忘れがたいトーンで、あまりに独自なトーンと響きゆえに、一瞬にしてその場の空気を変えてしまう。あるいはまた、静かで情熱的で、ぎょっとするような強度のある倍音を有している。それはまるで、彼女が自然界と話しているかのような、ある種の言語に思える。
 曲のなかには、ヨーロッパ各処の中世の音楽、スティーヴ・ライヒ風のミニマリズム、レデリウス的な室内楽が混ざっている。とくに近代以前の古いもの──国家がとくに誇りとしていないような、中世の旋律や民謡など──を掘り起こすことは、キャネルのおそらく全作品に通底するコンセプトだ(松山晋也氏なら、この曲は地中海のあのエリアで、この曲は東欧のどこそこで、などと言い当てられるかもしれない)。
 そして場所。
 2014年の実質的なソロ・デビュー作『Quick Sparrows Over The Black Earth』によって注目された彼女は、場所を選んで演奏し、録音している。どこでもいいわけではない。2016年の『Simultaneous Flight Movement』は海沿いの灯台で、2017年の『Hunter Huntress Hawker』と前作『The Sky Untuned』は小さな村の古く荒廃した教会で、今作『The Earth With Her Crowns(彼女の冠をした地球)』は水力発電所で演奏し、録音した。場所もキャネルの作品においては、いわばメタレベルでの楽器である。
 
 クワイエタスはキャネルの音楽を“エイシェント・フューチャリズム(古代・未来主義)”と呼んでいる。以前書いたことの繰り返しになってしまうが、最近は、アイルランド出身のアーニェ・オドワイアー(Áine O'Dwyer)、あるいはアースイーターなんか、エイシェント・フューチャリズム的なアプローチをする人が目につくようになった。自然現象と過去への畏敬の念、そこに未来(それは手法的な未来でもあり、必ずしも楽天的ではない未来である)が絡み合う、強い主張のこもったヴィジョンが空の彼方まで広がる。ちなみに、エイシェント・フューチャリズムの始祖をひとり挙げるとしたら、ぼくはサン・ラーだと思う。

 『The Earth With Her Crowns』はリリースされてからすでに数か月が経っているのだが、初夏、真夏、そして秋から冬へと、ぼくは前作同様このアルバムを部屋のなかでなんども聴いている。彼女の高度な演奏技術ゆえに、曲はオーヴァーダブしたかのように聴けてしまうけれど、すべては彼女ひとりによる即興で、驚くべきは、すべては一台のヴァイオリン(そしてリコーダー)によって演奏されている。
 ローラ・キャネルの演奏は、そしてきわめて詩的で、記憶を反響させ、閉ざされた思いを解放するかのようだ。そう、だからためしに空を眺めながら聴いて欲しいですね。胸の奥から得も知れない感覚がこみ上げてくるだろう。

Jam City - ele-king

 ジャム・シティことジャック・ラザムが帰ってきた。2015年の『Dream A Garden』から5年、ついに新たなアルバムが送り出される。タイトルは『Pillowland』、発売は来週11月13日で、今回は〈Night Slugs〉ではなく自身のレーベル〈Earthly〉からのリリースとなっている。
 プレスリリースによれば、疑念と痛みと混乱と変化に満ちた自らの生活に向きあった結果、アンフェタミン漬けで甘~いポップの夢景色のなかに逃避した内容になっているらしい。ふむ。楽しみに来週を待とう。

Jam City
Pillowland

Earthly

01. Pillowland (2:28)
02. Sweetjoy (2:50)
03. Cartwheel (3:38)
04. Actor (2:01)
05. They Eat The Young (2:30)
06. Baby Desert Nobody (1:32)
07. Climb Back Down (3:26)
08. Cruel Joke (4:50)
09. I Don't Wanna Dream About It Anymore (5:05)
10. Cherry (4:05)

Written & Produced by Jam City
Mixed by Liam Howe and Jam City
Mastered by Precise
All artwork by Jakob Haglof
All photography by Sylwia Wozniak

https://pillowland.org/

Virtual Dreams - ele-king

 よう、俺と同世代人たち、ついにこんなコンピレーションが出る時代になっちまった。アムステルダムのレーベル〈Music From Memory〉から、90年代アンビエントのコンピレーション、題して『仮想の夢:ハウス・テクノ時代のアンビエント探求1993-1997』。原題は『Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age, 1993-1997」。 LFOやBedouin Ascent、MLO、La Synthesis、Sun Electricやんなか全17曲が収録されるらしい。詳しいリストはココ

 俺より若い世代へ。これがベストな選曲かどうかは議論の余地はあるかもしれないけれど、聴いてみる価値はあると思う。そこで、君がさらに完璧な現実逃避を望むなら、年末号の紙エレキングをチェックして欲しい。まさに90年代の「エレクトリック・リスニング・ミュージック」を大特集しているから。自分で言うのもなんだけど、タイムリーな特集だし。君のコレクションに一助になると思う。ヨロシクね。

Various Artists
Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age 1993-1997
Music From Memory
2020年 12月11日発売

Andrew Weatherall tribute book - ele-king

 まったく……残念ながら今年2月に亡くなってしまったアンドリュー・ウェザオールだが(いまこれだけ人々が分断された時代だからこそいて欲しかった、本当にそう思う)、彼のトリビュート・ブックがイギリスで刊行されることになった。企画したのは、93年から04年まで発刊されていたUKのダンス・ミュージック系音楽誌の『ジョッキー・スラット』。題して『Andrew Weatherall: A Jockey Slut Tribute』。
 かつて同誌に掲載されたすべてのウェザオールのインタヴューをはじめ(この頃、ウェザオールは滅多に取材を受けない人でも有名だった)、80年代半ばから2020年までの彼のキャリアにかんする多くの記事を掲載。新たにボビー・ギレスピーやダニー・ランプリング、キース・テニスウッドらによる1万ワード(日本語に訳すとおそらく3万字くらい)のオーラル・ヒストリー(証言集)も収録されるとのこと。全160ページ。
 なお、同書のすべての収益はウェザオールが支援していたアムネスティ・インターナショナルなどの慈善団体へと寄付される。詳細はこちらから。

BES & I-DeA - ele-king

 日本のブーンバップ・ヒップホップを代表するラッパー BES による人気ミックス・シリーズ最新作は、おなじく SCARS勢の I-DeA とがっつりタッグを組んだ注目の1枚。キモを押さえた選曲に加え、エクスクルーシヴな新曲も4曲収録されている。現在そのなかから D.D.S & MULBE を迎えた “SWS”(プロデュースは DJ SCRATCH NICE)が先行配信中なので、チェックしておこう。

SWANKY SWIPE / SCARS のメンバーとして知られるシーン最高峰のラッパー、BES による人気ミックス・シリーズ『BES ILL LOUNGE』の最新版は盟友 I-DeA とのジョイント! 新録音源として B.D.、BIM、MEGA-G らとの各コラボ曲を収録し、D.D.S と MULBE が参加した “SWS” が本日より先行配信開始!

◆ SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られ、SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といった日本語ラップ・クラシックな作品を次々とリリース。2007年には ULTIMATE MC BATTLE - GRAND CHAMPIONSHIP に出場して準優勝を果たし、その実力をシーン内外に強くアピールして人気/評価を不動のものに。少しのブランクを経て2012年には自身のかかわった楽曲に新曲/フリースタイルを加えたミックス・シリーズ『BES ILL LOUNGE: THE MIX』をリリースして完全復活を果たし、以降は自己名義の作品のリリースのみならず ISSUGI とのコラボレーションでも『VIRIDIAN SHOOT』、『Purple Ability』と2枚のアルバムをリリース。さらに近年では SCARS としても再始動するなど、活発な活動を続けているシーン最高峰のラッパー、BES(ベス)。

◆ 故D.L(DEV LARGE)のもとで D.L や〈EL DORADO RECORDS〉作品などの制作を手掛け、SEEDA や BES を始めとする SCARS勢、NORIKIYO や BRON-K ら SD JUNKSTA 周辺、さらには MSC や JUSWANNA など00年代中期以降の日本語ラップ・シーンにおける重要アーティスト/作品にことごとく関与しており、そのプロデュース/ディレクションの凄まじさは「I-DeA塾」とも称されるほど多くのアーティスト/関係者から畏敬の念を抱かれ、一方、SCARS のメンバーとして、またソロとしても自己名義で作品をリリースするなど多岐に渡ってディープ・エリアで活動してきたシーンを代表するプロデューサー/エンジニア、I-DeA(アイデア)。

◆ これまでにも前述の SCARS『THE ALBUM』や BES『REBUILD』など随所でリンクしてきた BES と I-DeA が再びガッチリと手を組むのは、BES のミックス・シリーズの最新となる第3弾『BES ILL LOUNGE Part 3』! BES がこれまでに関わってきた膨大な楽曲の中から I-DeA らしい切り口でチョイスされており、BES~SWANKY SWIPE 楽曲だけでなく JUSWANNA~メシア THE FLY、MEGA-G の楽曲、さらには TEK of SMIF-N-WESSUN とのコラボ曲など渋いラインもセレクション!

◆ そして! 本シリーズのキモとも言えるエクスクルーシヴな新録音源では、サシで楽曲を制作するのは初となる B.D. や同じく初顔合わせな BIM、D.D.S & MULBE、MEGA-G との各コラボ曲を収録! プロデュースは DJ SCRATCH NICE が2曲、そしてK.E.M、BES & I-DeA が担当。さらには SCARS の名曲 “MY BLOCK” の BES によるリミックスも収録!

◆ 11/18(水)のリリースを前に、新録音源の中から D.D.S & MULBE をフィーチャーした DJ SCRATCH NICEのプロデュースによる “SWS” の先行配信が本日より開始!


アーティスト: BES
タイトル: BES ILL LOUNGE Part 3 - Mixed by I-DeA
レーベル: P-VINE, Inc.
仕様: CD/デジタル
発売日: 2020年11月18日(水)
CD品番: PCD-24994
CD税抜販売価格: 2,400円

[トラックリスト]
01. BES / BES ILL LOUNGE Pt'3 Intro
02. BES / SWS feat. D.D.S & MULBE *新曲
 Prod by DJ SCRATCH NICE
03. GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE / DAYS feat. BES & ISSUGI
04. MEGA-G / HOW HOW HIGH PART.2 feat. BES (REMIX)
05. HIMUKI / G.E.N.S.E feat. BES
06. BES / 美学、こだわり feat. MEGA-G *新曲
 Prod by BES & I-DeA
07. BES / MY BLOCK REMIX *EXCLUSIVE
08. SWANKY SWIPE / Feel My Mind feat. メシア The Fly & 漢
09. SWANKY SWIPE / Breathe In Breathe Out
10. BES / 勘ぐりと瞑想と困惑
11. SWANKY SWIPE / 東京時刻
12. dubby bunny / Narcos feat. A-THUG & BES
13. BES & ISSUGI / BOOM BAP
14. BES / Make so happy feat. BIM *新曲
 Prod by K.E.M
15. ONE-LAW / I DON'T CARE feat. BES
16. メシア THE FLY / No More Comics feat. BES (MASS-HOLE REMIX)
17. BES & ISSUGI / HIGHEST feat. MR.PUG, 仙人掌
18. owls (GREEN ASSASSIN DOLLAR & rkemishi) / Lonely feat. BES & MEGA-G
19. DJ FUMIRATCH / 刻一刻 feat. BES & 紅桜
20. 鬼 / 僕も中毒者 feat. BES
21. TEK of SMIF-N-WESSUN / Cold World feat. BES (SO COLD REMIX)
22. BES / 表裏一体 feat. B.D. *新曲
 Prod by DJ SCRATCH NICE
23. JUSWANNA / Entrance feat. BES & 仙人掌
24. SHIZOO / たしかに feat. BES
 Mixed by I-DeA for Flashsounds

[BES / PROFILE]
SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られるラッパー。SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といったクラシック作品をリリースして人気/評価を不動のものとし、近年はソロだけでなく ISSUGI とのジョイントでの BES & ISSUGI として、また復活した SCARS として活発に活動している。

[I-DeA / PROFILE]
故D.L(DEV LARGE)のもとで D.L や〈EL DORADO RECORDS〉作品などの制作を手掛け、SEEDA や BES を始めとする SCARS勢、NORIKIYO や BRON-K ら SDJUNKSTA 周辺、さらには MSC や JUSWANNA など00年代中期以降の日本語ラップ・シーンにおける重要アーティスト/作品にことごとく関与しており、そのプロデュース/ディレクションの凄まじさは「I-DeA塾」とも称されるほど多くのアーティスト/関係者から畏敬の念を抱かれている。一方、SCARS のメンバーとして、またソロとしても自己名義で作品をリリースするなど多岐に渡ってディープ・エリアで活動してきたシーンを代表するプロデューサー/エンジニア。

 数日前グラミーは、これまで「ベスト・ワールド・ミュージック」アルバムと呼んでいたカテゴリーを止めて、あらたに「ベスト・グローバル・ミュージック」アルバムと呼ぶことにすると発表した。理由は「ワールド・ミュージック」なるタームにリンクする植民地主義的な意味合いにある。グラミーによれば、「真にグローバルな考えを取り入れるための変更であり、世界中のアーティスト、民族音楽学者、言語学者たちとの協議のすえの結論である」とのこと。もともと「ワールド・ミュージック」なるタームは1987年に非西欧音楽を売るためにイギリスで考案されている。それはそれで非西欧の音楽を広めるのに役にたったのは事実だろう。グラミーも1992年からこのカテゴリーを設けていたが、その根底にはともすれば「西欧(主に英米)近代とそれ以外の世界(ワールド)」という発想があると認めたということだろうか。ちなみに『ガーディアン』は2019年からワールド・ミュージックなる名称を止めている。また、その手の音楽祭では有名な〈ウォーマッド・フェスティヴァル〉も使わないとの声明を出したそう。まあ、誤解を解いていく、これもまた進化(今年はワン・リトル・インディアンの一件もありましたな)。これまでエレキングではなるべくグローバルという言葉を使っていましたが、より意識します。

Sun Ra - ele-king

 つい先日サン・ラー・アーケストラが21年ぶりの(すばらしい)スタジオ・アルバムをリリースしたばかりだけれど(近々レヴューをぶち上げます)、ここへきてさらなる朗報だ。1993年に土星へと還ったサン・ラー本人が脚本・音楽・主演を務めた映画『Space Is The Place』(1974年)が、日本で初めて公開される。しかも、64分に編集されていたVHSとは異なり、オリジナルの81分のフル・ヴァージョンだ。邦題は『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』。2021年1月29日より、アップリンク吉祥寺・新宿シネマカリテほかにて公開。これは絶対に観逃せない。アフロフューチャリズムの原点を、その目で体感すべし。

世界が終わっているとまだ気づいていないあなたへ。

地球よ、さらば。

1969年頃に地球から姿を消していた大宇宙議会・銀河間領域の大使サン・ラーは音楽を燃料に大宇宙を航行するなか、遂に地球と異なる理想の惑星を発見した。さっそく地球に戻り〈宇宙雇用機関〉を開設、ジャズのソウル・パワーによる同位体瞬間移動で米国にいる黒人のブラザーたちの移送計画を立てるが、その技術を盗もうとアメリカ航空宇宙局(NASA)の魔の手が迫る……。

太陽神の姿で出現した土星からの使者、超現実的宇宙音楽王サン・ラーが、地球人に鳴らす警鐘。

1960年代後半から70年代初頭にかけて、カリフォルニア大学バークレー校で「宇宙の黒人」という講義を行っていた土星人サン・ラーの存在が、サンフランシスコでアヴァンギャルド・アートを展開していた〈DILEXI〉のプロデューサー、ジム・ニューマンの目に留まり実現した、革新的・暗黒SF映画。サン・ラーの音楽を地球を超えた新しい未来へ人々を導く原動力とし、宇宙探査とその音楽を通して黒人文化の救済を描く。発表したフリー・ジャズの音源があまりにも膨大なため誰も全貌を把握できない土星から降臨した太陽神、超現実的宇宙音楽の創造者サン・ラーが脚本、音楽、主演をつとめたため、本作はどこにも存在しないまったく新しい映画となった。約半世紀を経た今でも類似作品は存在しない。ミュージカル、SFオペラ、社会評論の要素を組み合わせた本作を、一部にはクエンティン・タランティーノ等に影響を与えたブラックスプロイテーション映画群の重要作と呼ぶ人もいる。だが本作はジャンルの慣習に準拠しない。サン・ラーの鋭い精神状態を視覚的に表したもので、〈音楽〉は当時の政治的希望、つまり人種的抑圧からの解放を反映した銀河間の兵器として使われる。これは映画的で哲学的な創造の根源であり、いつの時代においても重要な意味を放ち続ける、時空を超えた傑作である。その奇妙でビザールな内容でありながら唯一無二の黒光りする存在感は同時代に出現した『未来惑星ザルドス』(74)と無理やり比較してもいいかもしれない。また海外ではロジェ・バディム監督『バーバレラ』(68)やニコラス・ローグ監督『パフォーマンス』(70)を例に本作を語る者もいる。

この度上映されるのは地球上に残されていた唯一の35mmプリントからスキャン、史上初めてオリジナルの画面サイズであるスタンダードサイズ(1:1.33)で作られたデジタル素材である。オリジナルのフィルムの状態を最大限再現するため、一切レストアはされていない。海外では過去に約64分の〈サン・ラー編集版〉と呼ばれるバージョンがVHSで出回っていたが、本上映はオリジナルの81分のバージョンである。

地球は音楽なしでは動けない。
地球は一定のリズム、サウンド、旋律で動く。
音楽が止まれば、地球も止まり、
地球上にあるものはすべて死ぬ。
──サン・ラー

『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』
監督:ジョン・コニー
脚本:ジョシュア・スミス、サン・ラー
製作:ジム・ニューマン
撮影:セス・ヒル、パット・ライリー
音楽:サン・ラー
音:ロバート・グレイヴノア、デヴィッド・マクミラン、アーサー・ロチェスター、ケン・ヘラー
編集:バーバラ・ポクラス、フランク・ナメイ
出演:サン・ラー、レイ・ジョンソン、クリストファー・ブルックス、バーバラ・デロニー、エリカ・レダー、ジョン・ベイリー、クラレンス・ブリュワー
1974年│アメリカ映画│81分│スタンダードサイズ│モノラル│北アメリカ恒星系プロダクション作品│原題:SPACE IS
THE PLACE(宇宙こそ我が故郷)
キングレコード提供
ビーズインターナショナル配給
© A North American Star System Production / Rapid Eye Movies

2021年1月29日(金)より、アップリンク吉祥寺・新宿シネマカリテほか順次公開

Oneohtrix Point Never - ele-king

 本作『MAGIC ONEOHTRIX POINT NEVER』は、この10年余りの間様々な作品をリリースしてきた主要プロジェクト名(OPN)がセルフ・タイトルとして冠されている通り、自己言及的で、かつ内省的な作品だ。この間のコロナ禍において、ニューヨーク在住のダニエル・ロパティンは、日に日に深刻化する感染状況に怯えながら、多くの人びとと同じように長引く自粛期間中ひたすら自宅へこもり、しばらく無為の時間を過ごしていたらしい(そのあたり、先んじて公開された本人へのインタヴューでも語られている)。好きな映画を観るのもままならず(登場人物たちが物理的に触れ合ったり、モブが登場する場面を観る気になれなかったという)、かといってもちろんオーディエンスを前にしたパフォーマンスを行なえるわけでもない。こうした期間において彼の心身を癒やしたのがネット・ラジオだった。本作は、そこで受けたインスピレーションを元に制作されているようで、実際、「架空のラジオ局から送り出される一日の放送」というコンセプトが据えられている。

 幼い頃ラジオ・エア・チェックによるミックス・テープ作りに勤しんだ経験もあり、自然とこのコンセプトは彼のアーティスト活動の原点を掘り返すような意味合いも含み持つことになっていったようだ。そもそもからして、のちのヴェイパーウェイヴ発展の起点となった(とされる)Eccojams なるスタイルの先駆者とされているロパティンのこと、ラジオ放送を模して様々な音の断片をセルフ・サンプリングするように一個の作品を作り上げるという手法を用いることは、当然彼自身の原点のひとつへ回帰することでもあったろう。前作『Age Of』(2018年)での強く思弁的な作風や、このところの映画スコア仕事などで聞かせる電子音楽家としての多彩なキャラクターに鑑みると、かなり「素直」な転回であるともいえる。
 かつて世に出た、「文化の遺構」としてのチージーなニューエイジ音楽やジングルめいたコラージュがぶつ切りに漏れ出してくるような本作の感覚は、確かに『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』(2010年)とも近しいとは思う。そしてその後、主に諧謔性の部分が外科的に取り出されて前景化していくことになったのが後のヴェイパーウェイヴだったという見方もできるであろうが、そのヴェイパーウェイヴにおいては、あくまでニューエイジなどの「ジャンク」は、「ジャンク」としての性格を増幅されながらハックされ、流用され、(本来消費主義を揶揄する目的もあったとはいえ)逆説的な消費を被るという光景も観察された。
 しかしながら、(ヴェイパーウェイヴの文化と自分は本質的に無関係であると嘯く)ロパティンはここで、その「ジャンク性」に対していまもう一度だけプライマルな態度を取り直してみようとしているかのようだ。それは、ニューエイジ的陳腐に対しての極限化された冷徹さと、その一方でニューエイジ音楽が持つ(主に電子音楽的)快楽を切り分けながら、その両面を自らの内において鋭く自覚し直そうとする目論見にも思える。ニューエイジからの安易な快楽主義的呼び声を彼本来の批評性をもって退けながら、「いったいこの音のどこに、なぜ惹かれてしまうのか」について、粘り強い思考を放棄しようとしない。
 上述のインタヴューでは、「そうした類い(筆者注:ニューエイジなど)のテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近い」とも言っている。これは、素直に解釈すれば、「あの時代のバックグラウンド・ミュージック」たるそうした音楽が、いまもなおそのバックグラウンド性を延命しているということなのかもしれないが、むしろここで彼は、「テクスチャーとなり果てたニューエイジ」それ自体を通して現在のアメリカ社会との接続面を確保しているようにも思えるのだ。

 一方で、架空のラジオ局というコンセプトの通り、様々な音楽要素が(バックグラウンド的に)寄せては消えるこのアルバムは、その実、ニューエイジに限らない豊富な音楽語彙が投入されていることもすぐわかる。特に、ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック、NOLANBEROLLIN、ネイト・ボイスというゲスト陣が参加した各曲において、かなり「現代的」かつポップな表現が行なわれていることが象徴的だが、いびつなヴォーカル変調や飽きっぽい子供のようにコロコロと音楽を展開していく断続感などから、これらのポップネスも実は「現代のアメリカというテクスチャー」を現すために配備されているにすぎないような気がしてくる。要は、ほとんどにおいて「〇〇調」と形容可能な、感情や内面を重視するような表現主義的欲動の欠乏した表徴が人工のさざ波のように寄せ、返し、消えていくのだ。
 このように論じてくると、有り体には、この作品でロパティンはすべてが断片化してしまった先にある歴史観の終末を描いているとみるのが、もっともインスタントに導き出される理解となるのだろう。しかし、それはおそらく前作『Age Of』で試されていた世界把握の仕方であって、むしろ本作では、ジャンクの氾濫とそれが呼び寄せる「テクスチャー化」の現象に、「終末の引き伸ばし」というべき狙いが注入されているように感じる。そもそもからしてごく思慮深い(語義のもっとも豊かな意味での「ナード」である)彼は、一創作家が歴史に対して随時終焉を宣告し続けることの不遜に気づいていないはずはないだろう。それなぞは結局、歴史を診断するふりをして終末を恣意的に措定し、結果チャイルディッシュに現在の拒絶を続けてきたようなある種の反動(それはまさに加速主義等の「思想」も含まれるだろうし、ニューエイジ復権への安直な没入なども射程に収めることが可能だろう)へ回収されてしまうということに、彼はいまかつてないほど敏感になっているのかもしれぬ。「ジャンク」の波状攻撃によって終末を引き伸ばすことで、逃避から逃避し、「どうしていまこうなのか?」を問おうとする……。

 「ジャンク」と戯れ「ジャンク」を再解釈する行き方は、ある種のシニシズムとすぐさま蜜月を結びたがるものだ。しかしいま、ロパティンは内なるシニシズムをひとまずはより包括的なシニシズムで抑え込もうとしているようにも見えるし、一方で、シニシズムのプライマルな対象化を究めることで、内破的にそれと決別しようとしているようにもみえる。そして、その究明の後、彼の眼前に現れてくるであろう剥き出しの生/実存へ、自らを投げ込んでいくのかどうか……。「ジャンク」と戯れ尽くし、そこに自らも統御しえない輝きを思いがけず見出すことで、どうやらいまロパティンは自らを投企する心構えを整えはじめたのかもしれない。少なくとも、歴史の再開は深い内省からはじまるということを彼は知っているようだ。
 彼はもちろんシンガーでも、狭義の意味でのソングライターでもないが、このアルバムは、きわめてシンガー・ソングライター的である。まことに2020年的で、真摯な作品だ。

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