「Nothing」と一致するもの

Arca × Oliver Coates - ele-king

 昨年『KiCk i』を送り出したアルカが新曲を発表、なんと、おなじく昨年アルバム『Skins n Slime』をリリースしたオリヴァー・コーツとコラボしている。

 アルカのスペイン語のヴォーカルとオリヴァー流エフェクトを施されたチェロが、じつに厳かな空間を出来させている。ドラマ用に作られた曲とのことです。同曲を収録した4曲入りEPはこちらから。

ARCA
アルカ4曲入最新マキシ・シングル配信中!
表題曲はオリヴァー・コーツ参加!!

最新アルバム『KiCki』がグラミー賞にノミネートされているアルカが4曲入の最新マキシ・シングル「Madre」をリリースした。タイトル曲はトム・ヨークが自身のツアーのオープニング・アクトに指名し、ジョニー・グリーンウッドやアクトレス、ローレル・ヘイローとも共演するオリヴァー・コーツとのコラボレーションとなっており、アロン・サンチェスが手がけた同作のヴィジュアライザーも公開中。

Arca – Madre feat. Oliver Coates
https://youtu.be/JAS5k0xme8E

本作はHBOの人気ドラマ「EUPHORIA」のためにアルカが書き下ろしたオリジナル・スコアの一部を再構築した作品。数年前にアルカ自らがチェロを弾きながら歌った収録曲「Madreviolo」のレコーディングの際にアウトテイクとなった未加工のヴォーカルにオリヴァー・コーツがチェロを追加して完成させられた。

この「Madre」は私が思い描くことはできても、形にすることができないアレンジを必要としていた。そして、オリヴァーと音源をシェアして楽曲がその全貌を露にして戻ってきた時にはまさに強いケミストリーを感じることができた。 - アルカ

アルカが送ってくれたアカペラに伴奏を書いて送り返したら、彼女がすごく気に入ってくれた。そこから9日間缶詰でこの素晴らしい歌声に合うような繊細な演奏を何度もレコーディングした。まるで大聖堂の奥にあるゴースト・オーケストラのようなハーモニーとリズムが現れたこのヴァージョンに辿り着くまでね。 - オリヴァー・コーツ

シンガー、DJ、パフォーマー、実験音楽家、ビョークやカニエ・ウェスト、FKAツイッグスを筆頭とするプロデュース業、そしてノンバイナリーのラテン系トランスジェンダー・アーティストとしてまさに唯一無二の活動を続けるアルカ。絶賛発売中のKiCkシリーズ第1弾となる『KiCki』にはビョークやソフィー、ロザリア、シャイガールら豪華ゲストが参加し、衝撃的な美しさに満ちたエクスペリメンタル・ポップを展開。また同作は第63回グラミー賞のベスト・ダンス/エレクトロニック・アルバム部門にノミネートされている。

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: ARCA
title: Madre (Maxi-Single)
release date: NOW ON SALE

https://arca.ffm.to/madre

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: ARCA
title: KiCk i
release date: 2020.07.17 Fri On Sale

国内盤CD
国内盤特典:オリジナルステッカー封入/解説書・歌詞対訳封入
XL997CDJP ¥2,200+tax
LE1488CDJP ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://beatink.com/products/detail.php?product_id=11126

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/B088V97ZMJ
Tower Records: https://tower.jp/item/5056406/
HMV:https://www.hmv.co.jp/product/detail/10933205

DJ Hell - ele-king

 ドイツのヴェテラン、DJヘルが3年ぶりにニュー・アルバムをリリース……するのだが、これがとても興味深いことになっている。
 ジミ・ヘンドリックスにはじまり、ロン・ハーディ、クラフトワーク、エレクトリファイン・モジョ、ギル・スコット=ヘロンと、ハウスやテクノへと至るブラック・ミュージックの歴史を追うような曲名が並んでいるのだ。「過去、現在」のあとに「未来なし」と続くタイトルもなにやら思惑がありそうで気になってくる。これは、2020年という激動の一年を受けて思いついたコンセプトだろうか?
 日本盤は1月20日に〈カレンティート〉から発売されています。

ドイツのテクノを代表する巨匠のオールドスクール回帰な円熟の新作

ヨーロッパを代表するエレクトロニック・プロデューサー、DJヘルによる古き良きハウスやテクノへのオマージュを捧げたニュー・アルバム。
シカゴ、ニューヨーク、デトロイトからクラフトワークまで、さまざまなトピックを編み込んだ、ダンス・ミュージックの教科書のような快心の一枚。
ヘルが新たに立ち上げた新レーベル〈The DJ Hell Experience〉からのリリース。

アーティスト:DJ HELL
アルバム・タイトル:House Music Box (Past, Present, No Future)
商品番号:RTMCD-1468
税抜定価:2,200円
レーベル:The DJ Hell Experience
発売日:2021年1月20日
直輸入盤・帯/日本語解説付国内仕様

収録曲(デジタル版とは曲順が異なります)
1 Jimi Hendrix
2 Hausmusik
3 G.P.S
4 Freakshow
5 Electrifying Mojo
6 Out Of Control
7 The Revolution Will Be Televised
8 Tonstrom

◆ドイツのベテランDJ/プロデューサー、DJヘルの、『Zukunftsmusik』(2017年)以来となる新作アルバム(通算第六作)が完成。

◆前作のエレクトロ路線から一転、今回は、シカゴやニューヨークのハウス・ミュージック、デトロイト・テクノ、それらのルーツであるクラフトワークの電子音楽など、古き良き時代のさまざまなトピックをそこかしこに編み込んだ、ダンス・ミュージックの教科書のような仕上がりに。

◆硬くて冷たい無機質なビートとベース・ラインと鮮やかなコントラストを描く煽りのきいたキラーなシンセ・リフ。フロアの炎上を加速させるEBMマナーの先行シングルの “Out Of Control” は、スパイク・ジョーンズ監督の映画『マルコヴィッチの穴』からインスピレーションを得たというサイボーグなビデオも最高!

◆ジミ・ヘンドリックス生前最後のインタビューを引用した “Jimi Hendrix”、ロン・ハーディーへのオマージュを込めた “Freakshow”、オールドスクールなシカゴ・ハウス&アシッドをヘルの流儀で再構築したタイトルもそのものズバリな “House Music”、クラフトワークの自動車モチーフを取り入れた “G.P.S”、デトロイト・テクノの誕生に大きな影響を及ぼした伝説のラジオDJの名を忍ばせた “Electrifying Mojo”、ギル・スコット・ヘロンを見事にハウス化した “The Revolution Will Be Televised” などなど、いずれのトラックも、懐かしさを含みつつも、現在進行形のダンス&エレクトロニック音楽としてのパワーや機能性も、抜群。

◆ヘルが新たに立ち上げた新レーベル〈The DJ Hell Experience〉からのリリース。

https://www.djhell.de/

Smerz - ele-king

 2018年の鮮烈な「Have Fun」を覚えているだろうか。「楽しんで」と言いながらひずんだビートでダークな世界を構築、そこに気だるげなヴォーカルを乗っけてみせるノルウェイのふたり組、スメーツがついにファースト・アルバムをリリースする。
 タイトルは『Believer(信者)』とこれまた意味深だが、ホラー・ポップとでも形容すればいいのか、あの不穏なのに人を惹きつけてやまない独特なサウンドは健在のようで、ただいま表題曲が先行公開中。なんでもヒップホップやR&Bに北欧の民族音楽やオペラが混じったアルバムに仕上がっているそうで……なお、日本盤には「Have Fun」全曲が追加収録されるとのこと。楽しみです。

Smerz
醒めた寓話は、ノルウェーの森でトランスする…
ビョークのポップと狂気を引き継ぐ大器スメーツ
待望のデビュー・アルバム完成。

2017年にデビューを果たし、翌年にリリースしたEP作品「Have Fun」で世界を震撼させたカタリーナ・ストルテンベルグとアンリエット・モッツフェルトによるノルウェーのデュオ、スメーツが待望のデビュー・アルバム『Believer』を〈XL Recordings〉より2021年2月26日にリリース。同作よりタイトル曲のMVが公開された。

Smerz - Believer
https://www.youtube.com/watch?v=bHp3dnAQAFc

スメーツらしい不穏にシンコペートするビートと白昼夢のように美しいストリングス、そして完成までに2年を要したリリックを彼女たちらしい醒めたヴォーカルでなぞった「Believer」のMVは、ベンジャミン・バーロンが監督を務め、ブロール・オーガストが衣装を担当。2020年に発表されたアルバム・トレーラー、先行シングル「I don’t talk about that much/Hva hvis」に続いて、北欧の民族舞踏ハリングダンス、ノルウェーの田舎の緑豊かな風景をピーター・グリーナウェイの演出のような絵画的なスタイルで表現する一方で、ラース・フォン・トリアーの映画『ドッグヴィル』のミニマルな演出を引用するなどアルバムの一連のヴィジュアルとしてノルウェー文化と芸術の歴史におけるノスタルジーとロマン、そして狂気を築き上げた。

近年、盛り上がりを見せるノルウェー地下のクラブ・シーンとも共振しながら、トランスやヒップホップ、R&Bと自身のバックグラウンドである北欧の伝統的な民族音楽、オペラ、ミュージカル、クラシックのハイブリッドとして産み落とされた衝撃のデビュー・アルバム『Believer』は2021年2月26日に世界同時リリース。日本盤CDには解説及び歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックとして人気作「Have Fun」収録の全8曲が初CD化音源として追加収録。輸入盤CD/LPとともに本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: Smerz
title: Believer
release date: 2021/02/26 FRI ON SALE

国内盤CD
国内盤特典:ボーナス・トラックとしてEP「Have Fun」全8曲収録
解説書・歌詞対訳封入
XL1156CDJP ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11668

R.I.P. Phil Spector - ele-king

 新型コロナウイルス感染による合併症でフィル・スペクターが亡くなった。命日は2021年1月16日、享年81、女優ラナ・クラークスン殺人容疑で有罪となり、キャーフォーニャ州立刑務所の薬物中毒治療施設に収監されていた(*1)
 合掌。……お直り下さい。

 前世紀末1980年代半ばのある晩、行きつけの呑み屋でザ・ルーベッツの “シュガー・ベイビー・ラヴ” が有線放送から流れた。それを聞きながら「フィル・スペクターの流儀は時代を超えて続いているのだな」と、わたしはひとり納得していた。ところが同曲は1973年のイギリス人たちによる録音作品であり、彼の遺産は20年以上の歳月だけでなく、大西洋も超えていたのだ。
 永遠の循環進行で「シュバッシュバリバリ」とスキャットを繰り返す男声ハーモニー多重層、前面には「アハー」と高音域のファルセトーが出て来る。他愛のない、しかし永遠に揺るがない愛の真実が唄われ、後半には低音の語りで「そこのアンタ、よく聞けよ。人を愛す事を躊躇するな」と不滅の教訓を諭す。これらが全て分厚い音の壁の上で展開するのだ。フィル・スペクター的でなくてなんであろうか。
 ルーベッツというのはスタジオ演奏家の集まりだったらしい。“シュガー・ベイビー・ラヴ” がヒットして、間に合わせで揃えたような惡趣味の白スーツ姿で人前に出ていた。いつの間にかそれが制服になり、今も懐メロ歌合戦にはこの格好で出ている。あのスペクター的な壁音カラオケがいつも一緒だ。
 わたしがフィル・スペクターのヲール・サウンドを初めて聞いたのは、ロネッツの “ビー・マイ・ベイビー” だったと思う。小島正雄が担当していたラジオ番組「9500万人のポピュラー・リクエスト」だ。ただそれはオリヂナルがアメリカ本国でヒットした1963年ではなく、65年だったような気がする。それ以前に出ていたとされる弘田三枝子、伊東ゆかりのカヴァは今日まで聞いた事がない。
 そのころ持っていた小型のトランジスタ・ラジオでも音の厚さは印象的だった。ひとりひとりがどんな楽器をどのように鳴らしているのかよりも、大編成による伴奏が通奏低音のように「ゴー」と響いていた。特別なパタンを刻むドラムズは、ビートルズの “涙の乗車券” と似ていた。それからだいぶ後にジューク・ボクス下がりの中古で手に入れて聞いたキング盤B面の “ヲーキング・イン・ザ・レイン” は、「壁」の印象がそれより強かった。

 「会った途端にひとめぼれ」という素敵な邦題を持つフィル・スペクターの第一作 “トゥ・ノウ・ヒム・イズ・トゥ・ラーヴ・ヒム” は、彼が十代の時に結成したヴォーカル・トリオ、テディ・ベアーズの作品で、1959年に全米1位を獲得した。彼自身は人前で唄ったり踊ったりするよりも制作に徹する裏方を志し、2年後に業界の先輩レスター・シルと組んで、自身のレイベルを立ち上げる。フィルとシルで「フィレス」だ。当初ここから発売されたシングル盤のB面は常に器楽曲だったという。それは唄入りのイチ推しA面曲がラジオで必ず流されるための配慮だったというから、恐れ入る。
 “会った途端にひとめぼれ” では、フィル・スペクターの録音手法はまだ発揮されていない。それまでの歌物と同じような響きだ。全米1位を獲得出来たのは、詞と曲、そして表現の素直さがウケたからだろう。フィレス設立以降はフィルがステューディオ作業を仕切る立場になれたから、思う存分に録音を追及できた。
 ただスペクター即ち、アクースティク・ギター20人、パーカッション10人とまで大げさに揶揄された「ヲール・サウンド」では、決してない。空間で鳴るカスタネットを聞けば分かるだろう。何よりも、まず惹句を持った可愛らしい詞曲があり、要所要所に仕掛けを潜ばせたアレンヂ、ヴォーカル・ハーモニー、そして圧倒的なリズムで個性的な声の節を聞かせるのである。これらは大衆音楽に必要な不変の要素で、フィル・スペクターはこの真髄を体で分かっていた。作品を重ねるに連れて雰囲気が類似してしまうのは仕方ない。それは「作風」であり、「特徴」や「個性」でもある。
 フィルの録音制作過程は世界中で特異とされて来た。だが彼以前に、録音過程で音楽を作って行く手法を試みた人間がいただろうか(*2)。それまでのレコード音楽は、「原音再生」論を金貨玉条的に振りかざし、録音電気技術を邪道と考える保守的な制作者や技術者たちの作った退屈な響きばかりだった。
 フィルはそこに大衆音楽に必要不可欠な楽曲固有の響きを求めたのだ。まだ多重録音機が生まれる前だから、演奏は全員揃って同時に行わなければならない。それほど広くないロス・エインジェルズのゴールド・スター・ステューディオに押し込められた大勢が、今と違い実際に楽器を鳴らすのだから、必然的に音圧は高くなり余韻が回ってずっと音が鳴っているような響きが生まれる。そうすれば様々な音の魔術も仕掛け易くなる。更に何回も同じ演奏を重ねて「壁」となる。ヲール・サウンドは最初からフィル・スペクターの概念にあったのではなく、彼が要求した追加録音を重ねて出来た結果だ、とわたしは見ている。フィルのセッションは録音拘束時間が長過ぎると演奏家組合から目を付けられたのも、オーヴァ・ダブが多かったからだ。そして録音を重ねていくうちにテイプ上で変化して行く音色も彼を惹きつけた。モノーラルにこだわっていたのも納得が行く。彼にとって音はドッカーンと真ん中から飛び出す物で、ステレオ左右スピーカーの分離などあってはならないのだ。
 たぶんフィルはこういう響きに酔って行き、狂ってしまったのだろう。しかしこのやり方は、確実に全世界の大衆音楽を変えた。ビーチ・ボーイズはもちろん、カーペンターズやブルース・スプリングスティーンだって、スペクターなしには存在しない。ビートルズですらそうだ。
 現在のデジタル技術ならボタン操作一回で出来る事を、フィル・スペクターは時間をかけ人間たちを使ってエンヤコラと録音した。ヲール・サウンドをアナログで聞くと、バズビー・バークリーの群舞実写映画が蘇る。

 フィル・スペクターの遺作は、1980年発表のラモーンズと作った『エンド・オヴ・ザ・センチュリー』になる(*3)。作業はあまり順調に進まなかったとされるが、出来はそんなに悪くない。ロンドンのパンク・ロックの動きを肌で感じたフィルは、自分なりの流儀でこのアメリカのロック・グループのレコードを制作したのだ。仕上がった音は厚く、音圧感が高い。安定したビートが効いている。充分にポップで、茶目っ気もある。紛れもないスペクターの音であるし、彼にとっての音楽はそもそもロックンロールなのだ。ただ形骸したパンクに付き物の、いい加減な薄っぺらさと、破綻に至る暴力感がないところがダメだったのかもしれない。更に1980年には、レコードの音がこの程度で普通になってしまっていたから、謹製スペクター・サウンドの商標も付けられなかった。

 彼は狂人である。鬼才と言えば聞こえはいいけれど、一般的な常識には欠けていたようだ。薬物への依存も相当だったらしく、チャック・ベリーが初めてジョン・レノンと会ったのはフィルの家で、ふたりともメロメロにラリっていたという。場面は想像に難くない。また何かにつけてピストルをブッ放したらしい。ジョンも、ラモーンズのディー・ディーも被害に遭っている。
 ジョンはグループ最後のアルバム『レト・イト・ビ』の最終仕上げをスペクターに一任した。四人の演奏はリヴァーブ漬けとなり、勝手なピッチの変更やストリングス追加などでポール・マカートニを怒らせた。レナード・コーエンは本人承諾のないところでデモ録音を勝手にいじられ、市販レコードにされてしまった。
 そもそもフィレス・レコーズ最初の全米1位曲 “ヒーザ・レボー” は「ザ・クリスタルズ」名義になっているが、実際にはダーレン・ラーヴのザ・ブロッサムズが唄っていたのだ。このような当事者を無視した強引な制作進行は、若くして掴んだ成功の後遺症だろう。また初期に彼の使った唄い手たちの殆どが若い黒人女性だったという状況も影響している。60年代初頭、彼女たちは白人の元締めに文句が言えなかったのだ。一方で黒人の音楽感覚、特にヴォーカル表現には一目置いていたようで、その昔に出ていたレイザー・ディスクの「ガール・グループズ」編では、ステューディオ内で煮詰まったクリスタルズに「もっと普段のゴスペル調に唄ってよ」と促す場面が収録されていた。それを観てわたしは「そうか」と、とても新鮮な気持ちになえたのを覚えている。
 こんな問題の多いフィルに、ジョージ・ハリスンは三枚組ソロ作品『オール・シングズ・マスト・パース』のプロデュースをフィルに依頼した。ジョン・レノンは『ロックンロール』の制作も委ねた。この作業の途中では、録音済みのマルチ・トラック・テイプ紛失というあり得ない事故すら起きた。
 彼はロシア系のアメリカ人でいつも母親と一緒に行動し、制作現場にも立ち会わせていたという。これもちょっと信じられない。録音セッションは父兄参観会ではない。母親同伴だなんて全くおかしな話だ。スナップ写真でそのオフクロの姿を見た事があったような……。本人がいつも濃い色のサングラスをかけていたのも不気味だった。死亡記事の写真でようやく素顔を確かめられた。

 フィル・スペクターについてわたしには、どうしても忘れられない余話がある。蛇足ながら以下に記す。
 1965年のスポーツカー世界一を決める国際マニファクチャラーズ選手権を制した優勝車はコブラ・フォードだ。これは元ドライヴァのキャロル・シェルビーが、英国ブリストル製軽量車体に米フォードの丈夫で長持ち大排気量原動機を載せた混血車で、イタリアの名門フェラーリと一騎打ちの末に覇権を勝ち取った。シェルビーはその時に高速仕様として屋根付きを6台だけ製造した。これが有名なコブラ・フォード・デイトナ・クーペだ。その最初に作られた車台番号CX2287をフィル・スペクターが1967年から町で5年間も使っていたという。彼自身の存在が世界的に知られて行く頃と重なる時期だ。車は純粋な競争用だから日常には全く向かない。フィルもその扱いには手を焼きながら、まだ空いていたロス・エインジェルズで爆音を振り撒いて、ステューディオに乗り付けていたのだろうか。狂人に相応しい振る舞いだ。現車CX2287は彼の手許を離れてから数奇な運命を経た後に発見、復元され、2018年にアメリカの歴史遺産に指定された。フィル・スペクターの所有した履歴が大きく影響しているのは、間違いない。わたしはこの知らせに喝采を送った。

 今世紀初頭、わたしが初めて自分のラジオ番組を持った時、最初に回した第一曲は、“アイ・キャン・ヒア・ミュージック” だった。これはその何年か前に裏方を担当していた萩原健太の番組からインスピレイションを貰ったのだが、健太がビーチ・ボーイズを使ったのに対して、わたしはフィル・スペクター絡みのロネッツを選んだ。これも「9500万人のポピュラー・リクエスト」で聞いたのが最初だ。
 「最初にお断りしておくと、わたしは大滝詠一およびその周辺の人たちのようなスペクター信奉者ではなく、そもそも彼をよく知らないのだ」、この追悼文はこんな風に始めようとした。確かにそれは事実だが、リーバー・アンド・ストーラーに弟子入りした時の話や、1964年ザ・ローリング・ストーンズの録音に立ち会った事、ライチャス・ブラザーズに関してなど、まだまだ知りたい事は沢山あった。今はもう本人に聞く事は出来ない。しかしそれ以前に、彼にまつわるこれほどにも沢山の出来事がわたしの身辺にもあり、今回、その偉大さを改めて思い知ったのである。
 フィル・スペクターの音楽は永遠だ。

(編註:2021年1月25~26日追記)

*1 2009年6月24日付のCNNの報道によれば、彼はカリフォルニア州立刑務所の薬物中毒治療施設には収監されず、有名人や元ギャングなど、注意を要する受刑者向けの特別な場所に収容されていた模様。カリフォルニアの監獄を運営するカリフォルニア矯正リハビリ局(California Department of Corrections and Rehabilitation)による公式発表はこちら(1月17日付)。また、同局が管理するカリフォルニア健康管理施設(California Health Care Facility)のウィキペディアにも彼の名が挙げられているが(1月26日閲覧)、ソースは辿れず。

*2 フィル・スペクターの少しまえに、ジョー・ミークが近いことをやっていたのではないかと、読者の方よりご指摘いただきました。

*3 アルバム単位での遺作。曲単位では2003年に手がけたスターセイラーの2曲が遺作となる。

interview with Bicep - ele-king


Bicep
Isles

Ninja Tune / ビート

HouseTechno

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 前作から約3年半程のインターバルをおいて「上腕二頭筋の2人組」が2枚目のフル・アルバムを発表した。またも〈Ninja Tune〉からのリリースである。〈Ninja Tune〉とバイセップの相性はとても良さそうで、特定のジャンルに囚われないスタイルや、どこかギークっぽい部分も見せながら洗練されたサウンドやデザインが光る部分など共通項はとても多い。彼らの代名詞とも言えるブログ「FeelMyBicep」もペースが早まることもなければ遅くなることもなく、黒い無機質なバックグラウンドのブログページに毎月淡々と自分たちが気に入ったアーティストのミックスや音源を紹介していくスタイルは2008年にスタートさせた当初から何も変わっていない。イギリス国内で1万人規模の公演チケットを即完売させるまでの人気に上り詰めても地に足をつけた活動があるからこそ、彼らのアイデンティティーはブレることなくより先へ先へと進化していくのだろう。
 そんな彼らが2枚目のアルバムにつけたタイトルは『Isles』。出身地である島国の北アイルランドはベルファストから飛び出して、世界を飛び回り続けた2人が自身のキャリアやアイデンティティーを振り返って作ったとされる今作にはどんなメッセージが込められているのだろうか? アルバムの制作秘話だけでなく、近年の活動やコロナ禍で変化したライフスタイルやマインドなどに迫ってみた。(Midori Aoyama)

必ずしもクラブで盛り上がるものに縛られる必要はないという考え方だったんだよ。曲には長生きしてもらいたいから、まずは曲としてのしっかりとした土台を作って、それを発展させていこうと。(アンディ)

前アルバムから約3年での新しいリリースです。アルバムのプロモーションやリリース・ツアーなど多忙ななか、どのようなキッカケやモチベーションで今作に挑んだのでしょうか?

マット・マクブライアー(以下マット):2019年の1月にツアーが終わって2週間休んで、そのあとすぐにスタジオに入ったんだ。そのあと4ヶ月くらいはツアーの予定がなかったから、毎日スタジオに通って、特に曲を書こうということもなく、4ヶ月ひたすら楽しんでジャムっていろいろアイデアを試したり、毎日違うことをやって、デモの分量もすごいことになって。ただし20秒くらいの短いアイデア程度のものばかりだったけどね。

具体的にアルバムの制作にかかった期間はどれくらいですか?

マット:そんな感じで4ヶ月くらいいろいろ試して、2019年の夏あたりにアルバム制作に向けてアイデアがまとまりはじめて、とはいえそのあとも結局8、9ヶ月ほどかけて、完成したのは2020年の2月くらい。だから1年と1、2ヶ月だね。

いままでのプロダクションで見せたいわゆるストレートなハウスやディスコというよりも、UKガラージやブロークンビーツ、レイヴ・サウンドがさらに色濃く表現されているように感じました。アルバム全体のサウンドやコンセプトで特に気をつけた部分はありますか?

アンディ・ファーガソン(以下アンディ):たしかに制作過程の早いうちに、あまり四つ打ちやハウスは入れないようにするっていうのを決めたんだ。というのもそういうのをやりたければライヴでいつでもできるから。だからアルバムにはもっといろんなビート・パターンやサウンド・デザインに時間をかけて作って、必ずしもクラブで盛り上がるものに縛られる必要はないという考え方だったんだよ。それでかなり自分たちを解放できた部分はあったと思うし、自由にやれたと思う。アルバムのコンセプトとしては、アルバムとして家で聴くヴァージョンがありつつ、ライヴで曲を発展させていこうっていう。というのも前作も2年ツアーしてるうちに最終的にはかなり違うものになってて、それがすごく面白かったからさ。曲には長生きしてもらいたいから、まずは自由に曲としてのしっかりとした土台を作って、それを発展させていこうということだね。

冒頭の “Atlas” ではイスラエルの歌手オフラ・ハザがサンプリングされています。この曲で彼女を使おうと思ったのはなぜでしょう?

マット:彼女はイタロ・ディスコのレコードを作ったことがあって、それを聴いたのがきっかけ。ちなみに bicepmusic.com って僕らのサイトに特設サイトを作って、今回使ったサンプルをどこで見つけたかとか全部書いてあるよ。かなり詳しく書いてあって便利だからぜひチェックしてみて。

(訳注:以下ウェブサイトより抜粋→彼女のアルバム『Shaday』に収録された “Love Song” というアカペラ曲を聴いて、カタルシスを生むそのエネルギーに圧倒され、その声をサンプラーに取り込み、それが “Atlas” の出発点となった)

いろんな音楽をディグるのは本当に面白い。でもそこに自分たちの印を刻みたいとも思ってるんだ。あまりその影響を濃くしすぎないようにはしてる。ひとつのルーツだけではなくいろんなものがせめぎ合ってる感じを出そうと。(アンディ)

シングル曲 “Apricots” には Gebede-Gebede “Ulendo Wasabwera Video 1” と The Bulgarian state radio & television choir “Svatba (The Wedding)” がサンプリングで用いられていますね。両者の声がうまい具合に同居して独特のグルーヴを生んでいますが、かたやアフリカの音楽、かたやベルギーの合唱です。対照的な素材ですが、これらの民族音楽をこの曲で同時に使おうと思ったのはなぜでしょう? また、それらの音源にはどのように出会ったのですか?

マット:“Apricots” は元々インストゥルメンタル曲で、ストリングスとコードだけだったんだ。多くの場合僕らはピアノで曲を作りはじめて、実際の音楽を先に考えて、あとからそれを速くしたり遅くしたりといった提示方法を考えるんだよ。というわけでコード進行がまずあって、そこからいろいろアイデアを試したんだけど、どれもうまくいかなくて、たしかブルガリアのサンプルが先だったと思うけど……まあここ10年くらい、ダンス・ミュージックを作るようになってからというもの、スポンジみたいにいろんなものを吸収してきて、レコード・ショップに行くたびに、クラブでかけたいレコードだけじゃなくてサンプルに使えそうとか、つねに獲物を追いかけてる感じなんだよ。しかもロンドンに住んでるから世界中のあらゆるカルチャーに触れることができるし、あらゆる音楽を聴くことができる。店で耳にした曲が気になったら Shazam して、つねに探しててさ。というわけで僕らのパソコンに入ってるライブラリーは膨大なものになってて、曲を作ってて煮詰まったりするとライブラリーをチェックして、これはいいかもと思ったらサンプラーに取り込んでピッチをいじって。ただ問題は、それをやっても95%は失敗すること(笑)。“Apricots” はおそらくサンプルを組み合わせてうまくいった最良の例じゃないかな。ふたつ掛け合わせてうまくいくことなんてほとんどないからさ。世界の全然違う場所の、全然違うヴォーカル・スタイルがうまい具合に対照をなしているんだよ。

似たような合体の試みをしていたアーティストに、アフロ・ケルト・サウンドシステムがいます。彼らの音楽は聴いたことがありますか?

アンディ:知らなかったけど、ケルトとアフリカ音楽ってそれ最高だな! 聴いてみる!

“Atlas” のサンプルも “Apricots” のサンプルも、いわゆる西洋のポップ・ミュージックではないものです。“Rever” や “Sundial” などのヴォーカルもエキゾチックさを感じさせます。そこは意識的にそういう素材選びをしたのでしょうか? たまたまですか?

アンディ:さっきマットも言ってたけど、ロンドンに住んでるからあらゆる音楽を吸収するんだよね。そうやっていろいろ聴いたものが自分が作る音楽にも反映されるんだと思うし、ただあくまで自分たち独自のハイブリッドにしたいというのはある。ふたりともノースイースト・ロンドンに住んでて、文化的にとんでもなく多様な街だし、通り過ぎる車からも通りがかった店からも世界中の音楽が聴こえてきて、フェスティヴァルがあってカーニヴァルがあって、そういう環境でいろんなカルチャーのいろんな音楽をディグるのは本当に面白い。でもそこに自分たちの印を刻みたいとも思ってるんだ。あまりその影響を濃くしすぎないようにはしてるんだ。それは自分たちの曲を作ってるときもそうで、あまりにトランスっぽすぎるなとかディスコっぽすぎると感じたら、ちょっと違う方向に持ってったりして、ひとつのルーツだけではなくいろんなものがせめぎ合ってる感じを出そうとしてる。たとえばヴォーカルがインドだったら他の要素はインド感ゼロにして対比させるとかね。他の文化の音楽を複製しようとしてるわけじゃないからさ。

UKガラージ風の “Saku” には Clara La San が参加しています。彼女は〈Hyperdub〉の DVA の作品やイヴ・トゥモア作品への参加で知られるシンガーですが、この曲で彼女を起用しようと思ったのはなぜ?

アンディ:たしか Spotify で彼女を見つけたんだよ。自分たちが探してた声の特徴がいくつかあって、それで彼女の声を聴いたときに、何と言うか、間違いなく僕とマットが「これぞ90年代のR&Bだ!」って共感できるようなものだった。それで連絡取りたいとなって。僕らのように音楽を作ってて歌えないとなると(笑)、つねに頭のなかで歌を想像してるんだけど、彼女の声は瞬間的に僕の頭のなかの空白を埋めてくれたんだよ。

マット:それにコントラストが大事だから、彼女の声って僕らの音楽とすぐに結びつくようなものではなくて、それが面白いと思ったんだよね。昔のR&Bというか、甘くていい感じで、“Saku” のあの岩のごとく堅牢なドラムと彼女の声が、まさに僕らが求めるコントラストだったんだ。

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ライヴ中にちょっとミスっても次の日誰も覚えてないけど、ストリーミングだとビデオカメラで録画されてて最悪(笑)。運転免許の試験みたい。ライヴってそもそもの趣旨がライヴであって、記録じゃないんだよね。(マット)


Bicep
Isles

Ninja Tune / ビート

HouseTechno

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今作も〈Ninja Tune〉からのリリースになりますが、レーベルから特別なオーダーはありましたか?

アンディ:いや、レーベルからは全然なくて、むしろ自分たちの目指すところがあって、ファースト・アルバムの成功があったから、その前作の感じを引き続き楽しんでもらいたいっていう思いと、新しいものを提示したいという思いの狭間でどうしようかという。でも〈Ninja〉はこっちから送るものに対してはものすごくオープンだった。

おふたりもレーベルを運営されていますが、自分たちのではない別のレーベルからリリースすることのメリット、デメリットはなんでしょうか?

マット:僕らのレーベルはいわば愛で成り立ってるもので、商業面はまったく考えてないんだ。かなりアンダーグラウンドな音楽を中心に扱ってて、ラジオでかかるような音楽を狙ってるわけではなく、DJ向けのアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックだからさ。自分たちが出会った無名のアーティストを育てるのも素晴らしいことだしね。一方〈Ninja〉が組織としてやってることはまさに驚異的で、彼らがやってるような仕事を自分たちがやるなんて絶対に不可能だよ。

アンディ:だね。つねに新しいアイデアを提案してくれたり、僕らのアイデアを具現化してくれたりするんだよ。多くの場合、〈Ninja〉が音楽以外の、たとえばアルバム・カヴァーのデザインだったり諸々の負担を軽くしてくれて、自分たちは音楽に集中できるんだ。

Instagram を通してスタジオの風景やカスタムした機材を鳴らしたりしてますね。フローディング・ポインツリッチー・ホウティンがDJミキサーをプロデュースしたように、いつか自分たちオリジナルのミキサーやシンセサイザーを作ってみたいと思ったことはありますか?

アンディ:お気に入りの機材って結構1、2ヶ月で変わったりして、それが面白いというか、音楽を作る上で新たな機材から刺激を受ける部分はあるんだよ。僕らは古い機材も好きだしモジュラーシンセのような現代的なものも両方好きなんだけど、基本的にはモジュラーシンセがオリジナル機材のようなものだよね。自分で組み合わせて新しく追加できるから。それに音楽を作る際にシンセをそのままで使うことはほとんどなくて、たとえばギターペダルを3つかませたりしてつねに独自の音を作ろうとしてるんだ。

マット:そうだね、モジュラーがあればいいかもな。あと今作で結構やろうとしてたのが、たとえば実際の80年代のシンセサイザーを使ってそれをモジュラーにフィードしてある種のハイブリッドな音を生み出すとか。“Atlas” なんかはそういう40年もののテクノロジーと最新テクノロジーから生まれた交配種なんだ。

9月におこなわれた『BICEP LIVE GLOBAL STREAM』も素晴らしい反響があったようですね。過去のインタヴューで「クラウドが大きいほど緊張する」と言っていたのを拝見しました。観客が目に見えないライヴ・ストリーミングは緊張しましたか?

アンディ&マット:さらにひどかったかも(笑)。

アンディ:観客の数はストリーミングの方が多いかもしれないのに、その場にはマットと僕以外誰もいないっていう。普段はステージ上で雑談したりしてるんだけど……

マット:大体ステージ前は軽く飲んだりしてるけど、ストリーミングはめちゃくちゃ明るいところでシラフでさ。あと普段ならライヴ中にちょっとミスっても次の日誰も覚えてないけど、ストリーミングだとビデオカメラで録画されてて最悪(笑)。ライヴってそもそもの趣旨がライヴであって記録じゃないんだよね。

アンディ:大きいクラウドを前にしたときの緊張とは全然種類が違う。

マット:なんか運転免許の試験みたいな感じ。

2月に予定している2回目のライヴストリームではロンドンのサーチ・ギャラリー(Saatchi Gallery)を舞台にすることが決まっていますね。ふたりにとってこの場所への特別な想いはありますか?

マット:というか一般論としてロンドンには無数にアート・ギャラリーがあって、つねに展示が入れ替わってて目新しいものが見れるから、ふたりとも休みのときにギャラリーを巡るのが好きなんだよ。だからギャラリーが閉まってるこの時期にそこを使うっていうのは自分たちにとっては理にかなった選択だった。というか、空っぽのギャラリーを使える機会なんておそらく二度と訪れないだろうからね。特にサーチ・ギャラリーなんてさ。パンデミックによっていろいろ最悪なことが起こってるけど、サーチ・ギャラリーを使えることは唯一僕らにとって良かったことだな。

アンディ:空っぽのギャラリーを歩き回って録音してみると、いまの世の中の不気味で奇妙な感じが反映されてすごく興味深いんだよね。だからある意味でいまライヴストリームをやるには完璧な場所だと思う。

僕らの地元の北アイルランドもすごく美しいところで、ほとんどが田舎で丘や山や海だし緑が多いからその影響も受けてると思う。それは自分の一部であり、そういう風景のなかで育ったからさ。(マット)

コロナ禍で突如いままでと違った生活様式をしいられることになりましたが、2020年の1年を振り返って生活面で何か変わったことはありましたか?

マット:まずふたりとも以前よりも健康になったと思う。たくさん寝てるし。ツアー中は必然的に空港で食事したり、ほとんど寝れなかったりして、アドレナリンが出てる状態で生きてて。去年はそれがなくなって、ゆっくり食事したり、睡眠のサイクルもいい感じになって、規則正しい生活になってさ。それは非常にポジティヴな変化だね。

アンディ:あと一歩引いて自分たちが音楽でやりたいことや楽しいと思うことについてじっくり考えられた。もちろんツアーが恋しいっていうのはあるけど、もし元どおりになったら(元どおりになって欲しいけど)、そのときはそれを当たり前だと思わずに感謝の気持ちが芽生えるだろうと思う。それにツアーがあるときは見落としていた、他の大事なことにも目を向ける必要があるっていうことも改めて考えたしね。

Instagram で拝見しましたが、夏にアイルランドの自然の写真も掲載していましたね。自然や地元の風景、スタジオやクラブとかけ離れた空間が自分たちの音楽に与える影響はありますか?

マット:それは間違いなくある。

アンディ:うん。曲を書いているときはいろんな風景を想像するんだよ。クラブでかかってるところはあんまり浮かばないかもね。これはアイスランドで雪が降ってるなかを歩いてる感じとか、アイスランドに行ったことはないんだけど想像したり(笑)。

マット:機材持ってノルウェーやスウェーデンの北の方まで行って氷河を眺めながらEP作りたい、っていうのはずっと言ってるね。

アンディ:リアルじゃない、記憶と想像が生み出す氷河でもいいのかもしれない。

マット:まあ逃避だよね。でも僕らの地元の北アイルランドもすごく美しいところで、ほとんどが田舎で丘や山や海だし緑が多いからその影響も受けてると思う。それは自分の一部であり、そういう風景のなかで育ったからさ。ベルファスト出身だけど、実はベルファストも緑が多いんだよ。

アンディ:普段は気づかないけどね。でも世界を旅してみるとアイルランドの緑の多さに改めて気づくよ。

制作のスピードもさることながら、並行してブログの更新やレーベルのリリースも引き続き精力的ですね。「Feel My Bicep」としての2021年の予定を教えてください。

マット:今年はレーベルにも力を入れて行こうと思ってる。いくつかリリースが控えてるんだ。それ以外は基本的にスタジオに入っていろいろ実験しながらやってみようと思ってる。あとダンスフロア向けのものを書くつもり。最近あまりそっちにフォーカスしてなかったからね。

この3つの上腕二頭筋のロゴがここまで大きな存在になると、ふたりで音楽をはじめたときは想像していたでしょうか? 

アンディ:それちょうど今日話してたんだよ。あのロゴはマットが10年前に20分で描いたものなんだ(笑)。

マット:あとでもっといいロゴを考えるつもりだったんだけどね。すごいシンプルだし、シチリアとかマン島とかいろんな旗に似てて、3つの上腕二頭筋ってアイデアは別にオリジナルじゃないんだよ。でもまあロゴだからシンプルな方がいいんだよね。

アンディ:あと、完璧じゃないから不思議なバランスが生まれてるところもいい。

マット:手描きだから左右対称じゃないんだよ。若い頃って無邪気であんまり深く考えてないからさ。でも丸だからデザイン的に使いづらいこともあって、Tシャツにはいいんだけど、バランスをとるのが難しいんだ。

最後に、日本でも多くのファンがアルバムのリリースを楽しみにしています。オーディエンスに向けてメッセージをお願いします。

マット:日本の人たちに聴いてもらうのがめちゃくちゃ楽しみだし、このアルバムを楽しんでくれることを願ってる。それからまた日本に行ける日を待ち望んでる。日本は僕らが大好きな国のひとつで、行くたびに最高の時間を過ごしているんだ。あと、みんな安全に過ごしてほしい。

Telex - ele-king

 もやもやしていらいらしてすっきりしないこの時代、免疫力が下がりそう。それじゃまずいと、遊び心たっぷりの音楽を紹介しましょう。クラフトワークにドナ・サマーそしてYMOと、テクノ・ポップ時代の幕開けの時にベルギーのブリュッセルで結成されたトリオ、テレックスは、ガーディアンいわく「隠された財宝」だ。シングル「モスコウ・ディスコウ」は日本でもヒットしているのでご存じの方も少なくない。ちなみに彼らのデビュー・アルバムの邦題ってなんだったか憶えていますか? 『テクノ革命』です(笑)。しかし、これはあながちはったりでもなかったりする。
 テレックスは、バンド結成前にすでにキャリアのあったミュージシャンの集合体だった。中心人物であるマルク・ムーランは、レアグルーヴ・ファンにはお馴染みのジャズ・バンド、Placeboのメンバーだった人。ダン・ラックスマンは70年代初頭からモーグを操るベルギーのシンセサイザー音楽の草分け的存在。もうひとりのミシェル・ムアースはポップス畑の作曲家。テレックスはすでに音楽を知っていた大人たちによって結成されたバンドだった。ゆえに、その作品はプロフェッショナルに作られている。
 テレックスの音楽をガーディアンはマイケル・ジャクソンの“ビリー・ジーン”、ないしはニュー・オーダー、あるいはダフト・パンクにも繫がる回路を持っていると分析しているが、ふざけているように見せながらも、テレックスの音楽性はしっかりしているのだ。もちろんテレックスの最大の魅力は脱力感とユーモア。例えばロックンロールをテクノでやっているところなんかは、〈Mute〉の創始者ダニエル・ミラーのプロジェクト、シリコン・ティーンズの先をいっている。

 この度、昨年はカン再評価を促したミュート/トラフィックが再発シリーズ第一弾『ディス・イズ・テレックス』の発売を発表した。彼らの全キャリアから選曲されたベスト盤的内容で、ここには未発表だったビートルズのカヴァーも収録される。さあ、テクノ革命の再スタート、注目のリリースは4月30日です。

テレックス (Telex)
ディス・イズ・テレックス (this is telex)

Mute/トラフィック
発売日:2021年4月30日(金)
定価:2,400円(税抜)
新ミックス+リマスター作品


Tracklist
1. The Beat Goes On/Off *
2. Moskow Diskow
3. Twist à Saint-Tropez
4. Euro-vision
5. Dance To The Music
6. Drama Drama
7. Exercise Is Good For You
8. L’amour toujours
9. Radio Radio
10. Rendez-vous dans l’espace
11. Beautiful Li(f)e
12. The Number One Song In Heaven
13. La Bamba
14. Dear Prudence *
15. Moskow Diskow (English Version)**
16. Eurovision (English Version) **
*未発表曲
**日本盤ボーナス・トラック

■テレックス(Telex)
1978年、ベルギーのブリュッセルで結成したシンセポップ・トリオ。メンバー:ダン・ラックスマン、ミシェル・ムアース、マルク・ムーラン(2008年逝去)。シンセポップのパイオニア。1978年、シングル「モスコウ・ディスコウ」を、翌年1979年にはデビュー・アルバム『テクノ革命』を発売。1980年、シングル「ユーロヴィジョン」収録の2ndアルバム『ニューロヴィジョン』を発売。1981年、スパークスが参加した3rdアルバム『Sex』を発売。その後も新たなテクノロジーの発展の中、自らの本質を失うことなく、むしろ革新的な作品を次々と発表していった。2006年、カムバック作『How Do You Dance?』を発売。2008年、マルク・ムーラン逝去。2021年4月、MUTEより再発シリーズ第一弾『ディス・イズ・テレックス』発売。

1st アルバム: Looking For St. Tropez (『テクノ革命』)(1979年)
2nd アルバム: Neurovision(1980年)
3rd アルバム『Sex』(1981年)
4th アルバム: Wonderful World(1984年)
5th アルバム: Looney Tunes(1986年)
6th アルバム: How Do You Dance?(2006年)

レコードは死なず - ele-king

アナログ盤はメディアではない、人生そのものである!

若き日パンクに心酔した僕は
いまでは妻子あり貯金無し、四〇代半ばのフリーランサー、
はたして自分の人生、これで良かったのか!?
僕の常軌を逸した究極のレコード探しがはじまった

嘘のような本当にあった話、
“『ハイフィデリティ』の実話版” と評されたベストセラー!!

序文:ジェフ・トゥイーデイ(ウィルコ)
装画:よしもとよしとも

四十五才の子持ち男の “僕” は、大手の雑誌で著名人とのインタビューなどもこなしているが、収入はまるっきり不安定。
毎月綱渡りしながら妻と交代で愛息の面倒をみる日々だ。
何を失くし、どうやってここまできたのかもすでによくわからなくなっている。
ところが取材相手のクエストラヴから、今まで買ったレコード盤は全部大事に持っていると聞かされて、いてもたってもたまらなくなった。
そんなもの、自分はとっくに売り払ってしまっていたからだ。
そしてカーラジオから流れ出した、その日二度目の「リヴィング・オン・ア・プレイヤー」が心のどこかに火をつけた。取り戻さなくちゃ。
何を? 何のために?
それすらも定かではないままに、僕のいわば “アナログ盤クエスト” が幕を開けた──。

●出てくるアーティストの一例
ハスカー・デュ、リプレイスメンツ、キッス、ニューヨーク・ドールズ、シュガーヒル・ギャング、ピクシーズ、ローリング・ストーンズ、ボン・ジョヴィ、ザ・キュアー、ジョイ・ディヴィジョン、ビリー・ジョエル、イギー・ポップ、ザ・スミス、デッド・ケネディーズ、ニルヴァーナ、ソニック・ユース、アニマル・コレクティヴにディアハンターまで、膨大なロック系

●著者について
エリック・スピッツネイゲル(Eric Spitznagel)
シカゴ在住。『エスクワイア』『ローリング・ストーン』『ニューヨーク・タイムス』『ビルボード』などに寄稿する売れっ子ライター。著書はすでに6冊あり、そのうちの1冊はドイツでも翻訳されているが、2016年に出版された本書がもっとも有名。

目次

本書の巻頭に置かれたこの文章が、そこまでまるっきりイカれている訳でもない、その説明とでもいったほうがよさそうな序文的何か(ジェフ・トゥイーデイ)

はじめに

One
Two
Three
Four
Five
Six
Seven
Eight
Nine
Ten
Eleven
Twelve

謝辞

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Outro Tempo II - ele-king

 テクノ、アンビエントなど80年代の埋もれたブラジル音楽に光を当てた〈Music From Memory〉の良コンピ『Outro Tempo: Electronic And Contemporary Music From Brazil 1978-1992』が出たのは2017年。2年後の2019年には続編『1984-1996』もリリースされているが、そのヴァイナルがヒットしたようで、このたびCD化されることになった。めでたい。
 今回もまた、電子音やパーカッションなどを駆使したじつに多種多様な音楽が収録されているのだが、前作が熱帯雨林の奥地だとしたら、第二弾のほうは都市(サンパウロ)だ。MPBが吸引力を失った時代に、インディペンデントで新たな時代を切り拓こうとした音楽家たちの試行錯誤の記録──たとえば、ジョン・ゴメスの解説によれば、ベベウ・ジルベルト『Tanto Tempo』のプロデュースで知られるスバが参加したエヂソン・ナターリの “Nina Maika” は、ボスニア民謡を取り入れることで新たな価値観を呈示した、象徴的な曲なのだという。そういった歴史や文化的背景を知ることができるライナーノーツの翻訳が読めることも、本盤の長所だろう。
 ヴァイナルには未収録の2曲も追加されているので、アナログ盤をお持ちの方も要チェックです。

ミュージック・フロム・メモリーのヒット企画『Outro Tempo』の続編

ベッドルーム、ダンスフロアやアンビエントなどをまたいだ10年代以降の新たな流れ、そのリイシュー側における先駆者であったミュージック・フロム・メモリーの大ヒット企画『Outro Tempo』の第2弾が待望のCD化。
電子音楽、ジャズ、ニューウェイヴにブラジルのローカル・モード。今回もまたいい具合に多くの要素が入り混じった稀有なミクスチャ・サウンドのオンパレード。脱帽です。

V.A.
Outro Tempo II
- Electronic And Contemporary Music From Brazil 1984-1996

Music From Memory
RTMCD-1454
2,500円
CD2枚組
12月10日発売
輸入盤国内仕様(帯・英文解説対訳付)

CD1
01 MAY EAST – MARAKA
02 DEQUINHA E ZABA – PREPOSIÇÕES
03 OHARASKA – A FÁBULA
04 FAUSTO FAWCETT – SHOPPING DE VOODOOS
05 R. H. JACKSON – O GATO DE SCHRÖDINGER
06 EDSON NATALE – NINA MAIKA
07 AKIRA S – TOKEI
08 LOW KEY HACKERS – EMOTIONLESS
09 BRUHAHÁ BABÉLICO – BRUHAHÁ II *** bonus track
10 CHANCE – SAMBA DO MORRO
11 JORGE DEGAS & MARCELO SALAZAR – ILHA GRANDE

CD2
01 PRISCILLA ERMEL – AMERICUA
02 VOLUNTÁRIOS DA PÁTRIA – MARCHA
03 ANGEL’S BREATH – VELVET
04 FAUSTO FAWCETT – IMPÉRIO DOS SENTIDOS
05 INDIVIDUAL INDUSTRY – EYES *** bonus track
06 CHANCE – INTRO-AMAZÔNIA
07 TETÊ ESPÍNDOLA – QUERO-QUERO
08 NELSON ANGELO – HARMONÍA DE ÁGUA
09 JORGE MELLO – A NATUREZA REZA
10 JÚLIO PIMENTEL – GERSAL
11 TIÃO NETO – CARROUSEL

 ドカッカ ドンツド ツカンド カンカン! こんなのよく思いつきましたな。まさかのTR-808をモチーフにした児童書『エイト・オー・エイト -声と手拍子で遊ぶリズム絵本-』が1月26日に発売される。

 突如ブラックホールに吸い込まれてしまったエイトくんが、そこから脱出すべく、なかよしになったポンピちゃんといっしょに、いろんなリズム遊びを実践していく、というお話。
 さいしょはシンプルな4/4からはじまるものの、ソン・クラーベにシンコペーションにポリリズムにと、これがけっこうガチなのだ。子どもだけじゃない、大人もつい手を叩きたくなってしまう、練りこまれた1冊に仕上がっている。ドカッカ ドンツド ツカンド カンカン!

 著者は、押井守『うる星やつら』の主題歌 “ラムのラブソング” の作曲者として知られるキイボーディストの小林泉美。そして絵を担当したのはなんと、アブカディム・ハック! 昨年『The Book of Drexciya Vol.1』を刊行したばかりのハックだが、本書でもその才は遺憾なく発揮されていて、眺めているだけでもとっても楽しいです。

 なお、この本をつくったのは初代ele-kingの編集者だった大森琢磨。彼の斬新な発想力にも拍手を。

『エイト・オー・エイト - 声と手拍子で遊ぶリズムの絵本 -』
伝説のリズムマシン、TR-808をモチーフにした
リズム遊びと物語の児童書 発売のお知らせ

monogon(モノゴン)は、ローランド株式会社の協力のもと、
世界で愛されるリズムマシンTR-808をモチーフに、掲題の書籍を制作。
2021年1月26日(火)に正式発売します。

子どもたちに、リズムの素朴な楽しさと奥深さを伝える内容であると同時に、
その実、まったく新しいカテゴリの書籍となっています。

書誌情報
書名:エイト・オー・エイト -声と手拍子で遊ぶリズム絵本-
定価:本体3,800円+税
判型:A4判
頁数:28ページ
仕様:リング製本
付録:紙製仕掛け付録「TR-808」付き
ISBN:978-4-9911538-0-8 C8773
対象年齢:小学1年生〜

2021年1月26日(火)
発売予定

■取り扱い
全国書店(トランスビュー取引代行)、
Amazon、楽天ブックス、monogonwebサイト直販

本書の「8つ」のポイント
①ありそうでなかった“リズム脳育”児童書!?
②モチーフは、リズムマシンの金字塔、RolandのTR-808
③「ラムのラブソング」の作曲者として知られる天才、小林“ミミ”泉美が執筆!
④子どものリズム感を養い、リズムの構造理解を促すリズム遊びを収録
⑤デトロイト・テクノのレジェンド、A.QadimHaqq描き下ろしによるイラスト
⑥オリジナルのリズム・パターンを作って遊べる紙製ふろく「TR-808」が付属
⑦リズムと多元宇宙をテーマにした奇想天外な物語
⑧帯文は、電気グルーヴの石野卓球氏!

◆“リズム脳育”児童書!?

右脳的な知覚、左脳的な概念理解、そして声や手拍子を用いた身体表現。
これらをシンクロすることではじめて成立する本書のリズム遊びは、あたまと体を使う一種の知的な体操です。
もちろん、予備知識は一切必要ありません。

これまで多くの音楽児童書は、リズムと銘打つものも含めて、実は歌とメロディが内容の中心でした。
対する本書の主役は、まさにリズムそのもの。
音楽が鳴りはじめれば、誰が教えた訳でもないのに、
手足でリズムをとり、居間のテレビ正面のステージで一心不乱にダンス。
そんなすべての子どもたちのための、ありそうでなかった児童書です。

子どもがひとりで、あるいは家族や友だちと、声と手拍子のリズム遊びをすることで、リズム感を養えるだけでなく、拍や小節、テンポ、グルーヴ、パートの概念といったリズムの基本構造も学ぶことができます。

◆モチーフは日本が世界に誇るリズムマシン、TR-808

言わずと知れた世界のスーパースタンダードTR-808は、発売から40年以上が経過した今でも、そのサウンドを耳にしない日がないほどです。
'80年代前半にヒップホップ、ハウス、テクノの創始者たちが使いはじめ、新しい音楽誕生のきっかけをもたらしたことから、ダンスミュージックを象徴するアイコンとしても、世界中で愛されています。
本書では、そんなTR-808のこの上なくシンプルなインターフェースをお手本に、カラフルなボタンからなる“808マナー”で、全てのリズムをわかりやすく表しました。

◆「ラムのラブソング」の小林“ミミ”泉美が執筆!

著者は『うる星やつら』『さすがの猿飛』『ストップ!! ひばりくん!』の主題歌で日本に「アニソン革命」を起こし、昨今のシティ・ポップの世界的流行により、あらためて注目を集める、小林“ミミ”泉美。
'70〜'80年代は、自身のバンド・ソロ活動のほか、高中正義、松任谷由実、井上陽水などのライブで腕を鳴らし、'85年に渡英。
ファンク、ラテン、アフロなどのスタイルを得意とする凄腕鍵盤奏者として、ヨーロッパを中心に現在も、ライブ活動を展開中。
そんな小林が、自身の練習法などをもとにリズム遊びを考案、執筆しました。

◆デトロイトのレジェンド、Haqqによる描き下ろしイラスト

ファンキーな表紙をはじめとする本書の全イラストは、なんとデトロイト・テクノの生き証人ともいうべき伝説的ビジュアリスト、A.QadimHaqqの手によるもの。
彼がこれまでに手掛けた数々の名盤のアートワークにも通じる独創的な世界感が、
子どもたちの感性を否が応にも揺さぶります。

◆史上初! 紙製「TR-808」付録つき

16本のバーを上下に動かしてオリジナルのリズムパターンを組むことができる仕掛け付録、その名も「TR-808」が付属します。


著者プロフィール

小林“ミミ”泉美 / 文

アニメ『うる星やつら』『さすがの猿飛』『ストップ!! ひばりくん!』など、数々のテーマ曲の作編曲と、ヴォーカルで知られる鍵盤奏者・作曲家。
1976年にASOCAを結成。1977年にメジャーデビュー後、“小林泉美&Flying Mimi Band”名義でアルバムを2枚、ソロ名義で4枚発表。
セッション・ミュージシャンとして、パラシュートや高中正義のバンドに参加するかたわら、松任谷由実や井上陽水のバックバンドでも活動した。1981年にアニメ『うる星やつら』の主題歌「ラムのラブソング」を作曲して名を広め、その後『うる星やつら』の関連曲を中心に、アニメや映画、ドラマなどの楽曲を手掛ける。
1985年に渡英後は、R&Bユニット、Moves In Motionを結成したほか、Depeche ModeやSwing Out Sisterの音源にも参加。ベルリン・ダブ・テクノのパイオニアMoritz von Oswaldとのバンド活動、Derrick Mayの作品への参加など、クラブ・ミュージックにも接点を持つ。2017年以降は、アフロ・ファンクバンド、The Scorpiosのキーボーディストとして活躍中。
シティ・ポップの世界的な流行によっても、新たな注目を集めている。

アブカディム・ハック

ミシガン州デトロイト生まれ、デトロイト育ちのビジュアル・アーティスト/アフロ・フューチャリスト。デトロイト・テクノの最重要レーベルのひとつ、Transmatでの活動を皮切りに、1989年からテクノ音楽コミュニティに貢献する。
1998年には、Underground Resistanceに加入。
これまでに、数えきれないほど多くのデトロイト・テクノの名盤のアートワークを手掛けてきた彼の活動の歴史は、すなわちデトロイト・テクノの歴史といっても過言ではないほど。彼が手掛けた代表的なアートワークは、Juan Atkins、Metroplex、Derrick May、Transmat、Underground Resistance、Kevin Saunderson、Carl Craig、Drexciyaなど、錚々たるアーティスト、レーベルの作品で目にすることができる。
なお、幼少期に観た日本のアニメ、『Battle of the Planets』(『科学忍者隊ガッチャマン』のアメリカ版)、『Robotech』(『超時空要塞マクロス』『超時空騎団サザンクロス』『機甲創世記モスピーダ』を再編集した海外版)は、彼の想像力の源泉のひとつになっている。
2020年には、ドイツの名門テクノ・レーベルTresorより、グラフィック・ノベル『The Book of DrexciyaVol.1』を刊行した。

R.I.P. Sylvain Sylvain - ele-king

 偉大なるパンクの先駆者、ニューヨーク・ドールズのギタリストとして知られるシルヴェイン・シルヴェインが2年以上におよぶ癌との闘病の末に亡くなった。

 本名はロナルド・ミズラヒ。1951年にカイロで生まれたシリア系ユダヤ人で、1956年のスエズ動乱の際に家族でフランスを経てアメリカに渡り、ニューヨークのクイーンズに落ち着く。渡米して最初におぼえた英語は「ファック・ユー」だったという。
 ドールズのオリジナル・ドラマーだったビリー・マーシアはコロンビアからの移民で、シルヴェインとは近所に住む幼馴染だった。ふたりはやがて服飾関係の仕事に進み、その経験がのちのドールズの斬新な衣装に活かされる。

 ジョニー・サンダースをフロントに据えたバンド、アクトレスにビリーとともに参加。ここにデヴィッド・ヨハンセンが加わりニューヨーク・ドールズのラインナップが完成する。マーサー・アーツ・センターという複合施設で定期的にライヴをおこなうようになったドールズは、ド派手な衣装とハイヒール・ブーツにギラギラのメイクという姿でシンプルなロックンロールを演奏するステージが評判を呼び、70年代初頭のニューヨークにおけるもっともホットなバンドとなっていく。アンディ・ウォーホール周辺をはじめとする当時のヒップな面々が集ったという。グラム前夜のデヴィッド・ボウイもしばしば訪れている(ヨハンセンに「その髪型、誰にやってもらったの?」と尋ねたそうだ)。
 ビリーの死後にドールズのドラマーとなるジェリー・ノーランは、初めてドールズを観たときの衝撃を「すげえ! こいつら、他に誰もやってないことをやってる。三分間ソングが戻ってきた!」と表現している。「当時といったら、ドラム・ソロ十分、ギター・ソロ二十分って時代だったから。一曲だけでアルバム片面終わっちゃったりね。そういうのには、もううんざりしてた」(『
プリーズ・キル・ミー』より)。まさにパンクだったのだ。ドールズがロックに取り戻したのは、シャングリラスに代表されるガール・グループのポップスとロックンロール、すなわち五十年代だった。

 デヴィッド・ヨハンセンとジョニー・サンダースという強烈なスターをフロントに擁するドールズだが、ソングライティング面におけるシルヴェインの貢献も見逃せない。デビュー作『ニューヨーク・ドールズ』収録曲の中でも速い “フランケンシュタイン” やエディ・コクランのギター・リフを取り入れた “トラッシュ” はシルヴェインとヨハンセンのペンによるものだし、ソロ・アルバム『シルヴェイン・シルヴェイン』に収録された “ティーンネイジ・ニュース” はパワーポップの名曲として知られている。

 マネージャーとなったマルコム・マクラーレンとの関係悪化などもあり、ジョニーとジェリーはバンドを脱退。シルヴェインとヨハンセンはバンドを続け、75年には内田裕也の招聘で来日もしているが、ロンドンでのパンクの勃興を横目に間もなく解散する。シルヴェインはソロやティアドロップス、クリミナルズといったバンドで80年代に数枚の作品を発表しており、『シルヴェイン・シルヴェイン』をはじめ佳作も多いのだが残念ながら大きな成功を収めるには至らなかった。

 90年代にはジョニー・サンダースとジェリー・ノーランが続けざまに亡くなるが、2004年にまさかのドールズ再結成。きっかけは英国におけるファンクラブ会長だったモリッシーの熱いリクエストによるものである。このときの様子はベースのアーサー・ケインをフィーチャーしたドキュメンタリー映画『ニューヨーク・ドール』に記録されている。ミュージシャンを引退し、図書館員として働いていたアーサーがスタジオを訪れると、そこではまさにシルヴェインがリハーサルを仕切っていた。
 復活ライヴの直後に今度はアーサーも亡くなるがバンドは活動を継続し、再結成後に3枚のアルバムを残している。特に最後のアルバムとなった『ダンシング・バックワード・イン・ハイヒールズ』(2011)は、ヨハンセンのソロ作品でのスウィング・ジャズやキャバレー音楽の雰囲気を取り入れた異色の傑作だった。

 筆者はシルヴェインのステージを3回観ている。最初は2008年、スペインのフェスでのニューヨーク・ドールズ。2回目は2016年のソロ来日。そして最後は2018年、「ザ・ドールズ」という名義でニューヨーク・ドールズの曲を中心に演奏するというものだった。
 3回とも、陽気でチャーミングな姿が印象に残っている。特にオリジナルメンバーがふたりだけとなったニューヨーク・ドールズは、カリスマ性の強いヨハンセンと盛り上げ上手なシルヴェインが好対照だった。


2018年の来日公演(写真:大久保潤)

 最後の来日の際には、『プリーズ・キル・ミー』(2007年に出た邦訳)を持参して終演後に見せたところ、にこやかに「これは素晴らしい本だよね」と言いながらサインをしてくれた。2020年に念願の復刊を果たした本書をもう一度見せたかったのだが、それももう叶わなくなってしまった。

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