「Nothing」と一致するもの

Bobby Gillespie & Jehnny Beth - ele-king

 昨年は BO NINGEN の新作に客演、今年の秋には自伝『Tenement Kid』の出版を控えるボビー・ギレスピー。彼とサヴェージズのジェニー・べスによる共作がリリースされる。タイトルは『Utopian Ashes』で、7月2日発売。
 2015年のスーサイドの公演で知り合ったというふたりだが、同作にはアンドリュー・イネスやマーティン・ダフィといったプライマル・スクリームの面々に加え、ベスの長年のコラボレイターであるジョニー・ホスタイルも参加しているとのこと。
 古典的なカントリー・ソウルのデュエットからインスパイアされたという同作について、ベスは「小説の登場人物を創造するように、キャラクターをつくったんだ」と発言している。「そしてそこに自分を置いてみる。人間の現状を理解するためにね。だから歌はオーセンティックじゃなきゃいけなかった」。他方ギレスピーは「曲を書くときは虚構の人物と結婚して、アートをつくるんだ」とつけ加えている。「音楽に痛みを取り戻したかったんだ」「最近のロックじゃ聴けないからね」とも。
 現在、同作より “愛し合っていたころを覚えてる(Remember We Were Lovers)” が公開中。うーん、しみます。


VIVA x Young Marble Giants - ele-king

 奥沢駅近くの線路沿いにある妖しいお店、〈VIVA Strange Boutique〉、少し前にテレヴィジョン・パーソナリティーズをデザインした服を紹介したばかりですが、今日(4/2)から新たにヤング・マーブル・ジャイアンツのラインが加わりました。
 これがまたマニアックというか、遊び心というか、デザインのネタがYMGのあまり有名ではない7インチ・シングル「Testcard E.P.」のアートワークとか、当時の日本盤『COLOSSAL YOUTH』の歌詞カードとか、80年にスチュアート・モックスハムと当時の恋人ウェンディが共作したジンとか、かなりの変化球で攻めています。今回もメンバー(スチュアート)と連絡を取りながらのバンド認定のデザインで、本人たちも企画にノリノリだったようです。
 また、お店のなかもだいぶ賑やかにいろんなグッズ(缶バッヂ、レコード、古雑誌、などなど)が揃ってきています。見ているだけでも面白いので、70年代末から80年代初頭のポストパンク系がお好きな方は一度は足を運んでみましょう。(いまなら『COLOSSAL YOUTH』のアナログ盤も売っています)


VIVA X Young Marble Giants


“Colossal Youth“ Logo Embroidered Jacket + Badge (税込25,300円)


“Colossal Youth(Japanese Edition)” Long-Sleeve(税込9,900円)


“Testcard E.P” Long-Sleeve(税込9,900円)


“Words and Pictures / Colossal Youth” T-shirt(税込7,480円)


“Words and Pictures / Colossal Youth” Tote Bag(税込3,520円)

ISSUGI - ele-king

 やはり彼はタダモノではない。バンド・サウンドを導入し新たなサウンドを展開した『GEMZ』、ビートメイカー 16FLIP として同作をリミックスした『16GEMZ』。ことばの紡ぎ手=ラッパーであると同時に、音にも徹底的にこだわる ISSUGI の音楽家としての側面がよくあらわれた両作だが、前者のインストゥルメンタル・ヴァージョンと後者をカップリングした2枚組CD『BEATS FOR GEMZ』が4月8日に発売される。完全限定プレスで、〈Pヴァイン〉のサイトのみでの販売。
 また、これを機に『GEMZ』と『GEMZ INSTRUMENTAL』のアナログ盤(完全限定プレス)も4月14日にリリースされる。同じく完全限定プレスだが、こちらは一般流通もされるとのこと。
 さらに、それらの2枚組CD『BEATS FOR GEMZ』と『GEMZ』『GEMZ INSTRUMENTAL』のアナログ盤をセットにした豪華な「GEMZ COMPLETE SET」も発売される(こちらは〈Pヴァイン〉のサイトのみでの販売)。
 音楽家 ISSUGI の探求を一気に知ることができるリリース、ぜひチェックを。

MONJU や SICK TEAM のメンバーとしても知られるラッパー ISSUGI の2019年作『GEMZ』のインストゥルメンタルと 16FLIP VS ISSUGI 名義での同作のリミックス『16GEMZ』のインストゥルメンタルをコンパイルした2枚組CD『BEATS FOR GEMZ』が完全限定プレスでリリース! また『GEMZ』とそのインストゥルメンタル・アルバムのアナログ盤のリリースも決定!

 〈DOGEAR RECORDS〉の中心的存在 MONJU、そして Budamunk、5lack と共に SICK
TEAM のメンバーであり、近年は BES & ISSUGI としても2作のアルバムをドロップする等、ソロ作は勿論繋がりがある仲間との共作に渡り自然体且つ揺るぎないセンスと自身が放つ共振力で常に音楽をアップデートし続ける感覚とスキルを持つラッパー ISSUGI。

 BUDAMUNK(PADS)、WONK の HIKARU ARATA(DRUM)、KAN INOUE(BASS)、CRO-MAGNON の TAKUMI KANEKO(KEYS)、MELRAW (SAX, FLUTE, TRUMPET, GUITAR)、DJ K FLASH(TURNTABLE)がバンド・メンバーとして集結し、Red Bull のサポートのもとバンド・サウンドを取り入れて制作された2019年リリースのアルバム『GEMZ』は、ヒップホップ・アーティストとしての ISSUGI のさらなる進化を感じさせる作品としてジャンルを超えて高く評価された。また昨年リリースされた ISSUGI 自身のビートメーカー/DJ名義である 16FLIP として同作収録曲をリミックスした作品『16GEMZ』も話題となった。その『GEMZ』のインストゥルメンタルと『16GEMZ』のインストゥルメンタルをコンパイルした2枚組のCD作品『BEATS FOR GEMZ』が完全限定プレスでリリース! 今作はDISC 1に『GEMZ』のインストゥルメンタルを、DISC 2に『16GEMZ』のインストゥルメンタルを収録。一般流通はなく P-VINE OFFICIAL SHOP のみでの販売となり、特典としてジャケット・デザインのステッカーが封入されています。
 また『GEMZ』とそのインストゥルメンタル・アルバム『GEMZ INSTRUMENTAL』がアナログ盤としてリリースも決定! 両タイトルとも2枚組仕様/完全限定プレスで一般流通もされ、4/14(水)に2作同時リリースとなります。

さらにその『BEATS FOR GEMZ』と『GEMZ』のアナログ盤、『GEMZ INSTRUMENTAL』のアナログ盤をセットにした「GEMZ COMPLETE SET」"2CD+2LP+2LP" (¥9,091円+税)も同じく P-VINE OFFICIAL SHOP のみ/限定セットで予約受付開始! こちらのセットにはその3作品の他にスペシャルな特典として


*『16GEMZ』A2ポスター

*『GEMZ』マグネット

*『Dogear Records』マグネット

の非売品3アイテムが付き、『GEMZ』と『GEMZ INSTRUMENTAL』を一般発売よりも一足早くゲット出来ます。
 『BEATS FOR GEMZ』と「GEMZ COMPLETE SET」の予約受付は本日18時よりスタートしていますのでご予約はお早めに!

*『BEATS FOR GEMZ』/「GEMZ COMPLETE SET」販売ページ
https://anywherestore.p-vine.jp/pages/issugi-beats-for-gemz

[BEATS FOR GEMZ 情報]
アーティスト: ISSUGI
タイトル: BEATS FOR GEMZ
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
仕様: 2枚組CD(完全限定生産 / P-VINE OFFICIAL SHOP 限定商品)
発売日: 2021年4月8日(木)
品番: PCDS-1/2
定価: 2,970円(税抜2,700円)
https://anywherestore.p-vine.jp/products/pcds-1_2

[トラックリスト]
- DISC 1 -
01. GEMZ INTRO Instrumental / prod BUDAMUNK
02. ONE RIDDIM Instrumental / prod BUDAMUNK
03. NEW DISH Instrumental / prod 16FLIP & BUDAMUNK
04. BLACK DEEP ft. Mr.PUG, 仙人掌 Instrumental / prod 16FLIP
05. DRUMLUDE Instrumental / prod BUDAMUNK
06. HERE ISS Instrumental / prod 16FLIP
07. LIL SUNSHINE REMIX Instrumental
08. FIVE ELEMENTS ft OYG, Mr.PUG, 仙人掌 Instrumental / prod BUDAMUNK
09. 踊狂REMIX ft. 5lack Instrumental / prod BUDAMUNK
10. OLD SONG ft DEVIN MORRISON Instrumental / prod BUDAMUNK
11. HEAT HAZE REMIX ft Mr.PUG Instrumental / prod ENDRUN
12. LOUDER Instrumental / prod 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
13. MISSION ft KOJOE Instrumental / prod HIKARU ARATA
14. 再生 Instrumental / prod BUDAMUNK
15. No.171 Instrumental / prod BUDAMUNK
16. GEMZ OUTRO Instrumental / prod BUDAMUNK

- DISC 2 -
01. GEMZ INTRO REMIX Instrumental
02. ONE RIDDIM REMIX Instrumental
03. NEW DISH REMIX Instrumental
04. FIVE ELEMENTS ft. OYG, Mr.PUG, 仙人掌 REMIX Instrumental
05. 再生 REMIX Instrumental
06. INTERLUDE Instrumental
07. 踊狂 ft. 5lack REMIX Instrumental
08. OLD SONG ft. DEVIN MORRISON REMIX Instrumental
09. MISSION ft. KOJOE REMIX Instrumental
10. GEMZ OUTRO REMIX Instrumental
*All Songs Remixed by 16FLIP

[GEMZ COMPLETE SET 情報]
アーティスト: ISSUGI
タイトル: GEMZ COMPLETE SET
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
仕様: 2枚組CD+2枚組LP+2枚組LP (完全限定生産 / P-VINE OFFICIAL SHOP 限定販売)
発売日: 2021年4月8日(木)
品番: PVST-1
定価: 10,000円(税抜9,091円)
セット内容:
*『BEATS FOR GEMZ』(2CD)、『GEMZ』(2LP)、『GEMZ INSTRUMENTAL』(2LP)のセット
*特典として『16GEMZ』A2ポスター、『GEMZ』マグネット、Dogear Recordsマグネットが付属
https://anywherestore.p-vine.jp/products/pvst-1

[GEMZ - LP 情報]
アーティスト: ISSUGI
タイトル: GEMZ
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
仕様: 2枚組LP (完全限定生産)
発売日: 2021年4月14日(水)
品番: PLP-6969/70
定価: 4,378 円(税抜3,980円)

[トラックリスト]
- SIDE A -
1. GEMZ INTRO / prod BUDAMUNK
2. ONE RIDDIM / prod BUDAMUNK
3. NEW DISH / prod 16FLIP & BUDAMUNK
4. BLACK DEEP ft. Mr.PUG, 仙人掌 / prod 16FLIP
- SIDE B -
1. DRUMLUDE / prod BUDAMUNK
2. HERE ISS / prod 16FLIP
3. LIL SUNSHINE REMIX
4. FIVE ELEMENTS ft OYG, Mr.PUG, 仙人掌 / prod BUDAMUNK
- SIDE C -
1. 踊狂REMIX ft. 5lack / prod BUDAMUNK
2. OLD SONG ft DEVIN MORRISON / prod BUDAMUNK
3. HEAT HAZE REMIX ft Mr.PUG / prod ENDRUN
4. LOUDER / prod 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
- SIDE D -
1. MISSION ft KOJOE / prod HIKARU ARATA
2. 再生 / prod BUDAMUNK
3. No.171 / prod BUDAMUNK
4. GEMZ OUTRO / prod BUDAMUNK


[GEMZ INSTRUMENTAL - LP 情報]
アーティスト: ISSUGI
タイトル: GEMZ INSTRUMENTAL
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
仕様: 2枚組LP (完全限定生産)
発売日: 2021年4月14日(水)
品番: PLP-6971/2
定価: 4,378 円(税抜3,980円)

[トラックリスト]
- SIDE A -
1. GEMZ INTRO Instrumental / prod BUDAMUNK
2. ONE RIDDIM Instrumental / prod BUDAMUNK
3. NEW DISH Instrumental / prod 16FLIP & BUDAMUNK
4. BLACK DEEP ft. Mr.PUG, 仙人掌 Instrumental / prod 16FLIP
- SIDE B -
1. DRUMLUDE Instrumental / prod BUDAMUNK
2. HERE ISS Instrumental / prod 16FLIP
3. LIL SUNSHINE REMIX Instrumental
4. FIVE ELEMENTS ft OYG, Mr.PUG, 仙人掌 Instrumental / prod BUDAMUNK
- SIDE C -
1. 踊狂REMIX ft. 5lack Instrumental / prod BUDAMUNK
2. OLD SONG ft DEVIN MORRISON Instrumental / prod BUDAMUNK
3. HEAT HAZE REMIX ft Mr.PUG Instrumental / prod ENDRUN
4. LOUDER Instrumental / prod 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
- SIDE D -
1. MISSION ft KOJOE Instrumental / prod HIKARU ARATA
2. 再生 Instrumental / prod BUDAMUNK
3. No.171 Instrumental / prod BUDAMUNK
4. GEMZ OUTRO Instrumental / prod BUDAMUNK

Ryoji Ikeda - ele-king

 日本のグリッチを代表するひとり、池田亮司。さまざまなアプローチでヴィジュアルとサウンドの可能性を探求してきた彼の新たな作品、『music for installations vol.1』が3月26日にリリースされている。
 同作はこれまでのオーディオ・ヴィジュアル・インスタレーション音源を集めたもので、不可視なデータを知覚化する「datamatics」シリーズや、あらゆるデータをバーコードと0と1のパターンに変換する「test pattern」シリーズからのものが収録されている。
 96ページに及ぶブックレットも付随するとのことで、これは手元に置いておきたい一品だ。限定999部とのことなので、お早めに。

Ryoji Ikeda
music for installations vol.1

池田亮司が世界各地で発表しているオーディオヴィジュアルインスタレーションの音源を集めた『music for installations vol.1』をcodex | editionから限定999部でリリース

音そして視覚的要素、物理や数学的なアプローチを用いて人間の知覚能力やテクノロジーの臨界点に挑むような作品を様々な形態で発表し続けている作曲家/アーティストの池田亮司。このたびcodex | editionから、オーディオヴィジュアルインスタレーションの音源を集めた『music for installations vol.1』を限定リリースする。池田が長期的に取り組んでいる不可視なデータを知覚化するプロジェクト「datamatics」シリーズから《data.tron》や《data.flux》、あらゆるデータをバーコードと0と1のバイナリパターンに変換して見る者を激しい明滅の渦に巻き込む「test pattern」シリーズよりニューヨーク・タイムズスクエアのビルボードをジャックした《test pattern [times square]》などを含む、これまで世界各地で発表してきた作品の中から貴重な音源を自ら厳選・編集して計7曲を収録。今回は「music for installations」シリーズの第一弾として発売され、今後vol.2とvol.3がリリース予定。

池田のインスタレーション作品では常にサウンドとイメージの同一性が保たれているが、それらがひとたび離れサウンドに焦点を当てることによって、本作では池田の音が生み出す精細で複雑な構造の美しさがより際立っている。順列と不規則性のバランスが織りなす、静謐かつ時に激しく展開される音の世界に感覚が研ぎ澄まされていく
また、CDとセットになった96ページのブックレットには収録曲の作品図版を多数掲載し、アーカイブとしても魅力的な一冊に仕上がっている。同レーベルから発売された前作『music for percussion』(2018)のジャケットデザインを継承しており、ぜひコレクションに加えたい一作。

* CDと96ページのブックレットのセット
* 限定999部、エディションナンバー入りカード付き 
* 3月16日(火)20時(JST)よりcodex | editionのオンラインショップにてプレオーダー開始

[商品情報]
アーティスト: Ryoji Ikeda
タイトル: music for installations vol.1
レーベル: codex | edition
品番: CD-002
税込価格: 4,950円
発売日: 2021年3月26日(金)
(デジタル音源は2021年4月リリース予定)

TRACK LIST
1. data.tron (2007‒14)
2. test pattern (2008‒17)
3. data.tecture (2012/2015)
4. data.path (2013)
5. test pattern [times square] (2014)
6. data.scape (2016)
7. data.flux (2017)
合計収録時間:66:43

Tohji, Loota & Brodinski - ele-king

 驚きのコラボかもしれない。ここ数年注目を集めつづけるラッパーの2人、つい先日 “Love Sick” で共演したばかりの Tohji と Loota が本日、突如コラボ・アルバム『KUUGA』をリリースしている。
 プロデューサーを務めるのは、2007年の「Bad Runner」で注目を集め、昨年はロウ・ジャックとのコラボ12インチも送り出しているフランス出身・アトランタ拠点のプロデューサー、ブロディンスキ。その冷たくもリズミカルなトラックのうえを、加工された2人の音声が流れていきます。人気ラッパーたちの新たな展開に注目。

Innode - ele-king

 2010年代初頭において音響と音楽の実験とは何だったのか。グリッチ? インダストリアル? ノイズ? ドローン? ミュジーク・コンクレート? それらは自ずと00年代以降の「音楽の尖端とはなんだったのか」「音楽のノイズとは何だったのか」という問題に行きつく。その問いの答えを示す作品のひとつが2013年にリリースされたインノードのファースト・アルバム『Gridshifter』だったと仮定してみたい。
 『Gridshifter』は、90年代以降におけるグリッチ美学の応用による電子音響作品が定着してきた00年代~10年代初期において、「音響/音楽の先端/進化とは何か」という命題を「演奏」と電子音の「生成」の両極から追求した極めて重要なアルバムだった。『Gridshifter』にあるのはサウンドをエディットし、別の方法でノイズと音楽を交錯させていくという音響実験と音響実践である。となればつまるところ00年代~10年代の先端的な音響とは「ノイズ」の新しい活用方法を実践したムーヴメントだったといえるはずである。
 インノードの中心人物であるステファン・ネメスは、あのラディアンのメンバーでもあったので、オーストリアの音響派系譜の中で重要な人物である。ゆえにこの「ノイズと音楽の新しい方法論」の問題に行くつくことは当然のことかもしれない。私見だが〈Thrill Jockey〉のラディアンに対して、〈Editions Mego〉のインノードを重要な二本の柱として置いてみるとオーストリアの、ひいては00年代中盤以降のエクスペリメンタル・音響派の豊穣さが分かってくるような気もする。
 そのような電子音、ノイズ、音楽、音響、演奏、解体、再構成。これらの要素を分解しミニマルな素材として蘇生し、それをコンポジションに用いるように音楽/音響へと変換していくような「ノイズの新しい方法論」は、ファースト・アルバムから8年の月日を経てリリースされたセカンド・アルバム『Syn』でも変わらず継承されていた。いや、そのコンポジションの手腕はさらに研ぎ澄まされていたとでもいうべきだろう。
 電子ノイズの嵐のような炸裂を経て、瀟洒でミニマルなサウンドへとギアチェンジするような1曲め “Odessa” からして凄まじいのだが、アルバムの本領が全面化するのが続く2曲め “I/O” からだ。硬質なドラムの音色が空間を切り裂くように炸裂し、ワンコードで刻みつけるベースに強烈な電子音・ノイズが冷徹に蠢く。3曲め “BBSH” と4曲め “Moon” でも同様に鉄のようなドラム/ビートとノイズがミニマルに、かつ強靭に交錯し、聴覚がどんどん覚醒していくかのような透明にしてハードな音響空間を生みだしていくのだ。
 そして静寂と炸裂を交互に繋げるような複雑なコンポジションである “Rote Wueste” ではリズムとノイズという本作の(インノードの)のコンセプトを突き詰めたようなサウンドを構築する。この曲に限らないが本作は硬質なビートに対してメタリックなノイズ・サウンドがまったく引けを取っていないことが重要なポイントに思える。
 そのノイズ・コンポジションが本アルバム中、もっとも結晶しているのがアルバムの最終曲 “L” だ。アルバム中、もっとも静謐なムードの曲だがミニマルなリズムに微かなノイズがレイヤーされていくトラックの精度と密度はアルバム中随一といえる。途中から展開するトライバルなムードのリズム展開も含めて、まるでトーマス・ブリンクマンによるミニマル・テクノといった趣の緊張感に満ちた持続を実現しているのだ。

 全7曲、このアルバムのすべての曲は、リズムに対するノイズの位置付けを問い直し、リズムの位置付けをノイズの側から問い直すような緊張感がみなぎっている。前作からリリースが8年ほどの歳月を必要としたことも、そのサウンドとノイズの緊張関係を維持したまま、作品に落とし込むために必要な時間だったのだろう。ステファン・ネメスは、本作によって、自身が2020年代においても重要な音響作家であることを見事に証明してみせたのである。

black midi - ele-king

 いまUKでは若手のインディ・ロック勢が活気づいている。『WIRE』が「近年において最もエキサイティングなギター・バンドのひとつ」と評した〈4AD〉のドライ・クリーニング、『ガーディアン』が「2021年のベスト・アルバム」と讃辞を贈った〈Ninja Tune〉のブラック・カントリー・ニュー・ロード、ワイアーのオープニング・アクトを務めた〈Warp〉のスクイッド、などなど。なかでも頭ひとつ抜き出ている感があるのが、〈Rough Trade〉のブラック・ミディだ。
 2019年の前作の時点ですでに圧倒的なサウンドを轟かせていた彼らが、きたる5月28日、セカンド・アルバム『Cavalcade』をリリースする。ロックダウン中に制作が進められたという新作は、彼らの特徴でもあった「即興の神話から離れ」てつくられたそうで、新たな次元に到達している模様。これは楽しみです。

black midi
無尽蔵の音楽隊列が戦慄の速度で駆け抜ける。
ブラック・ミディ衝撃のセカンド・アルバム完成。

Cavalcadeの制作中に、曲を配列する時に意識 していたのは、 とにかくドラマチックでエキサイティングな音楽を作ることだった。 ──ジョーディ・グリープ(black midi)

プログレ、ポスト・パンク大国であるUKロック・シーンにおいて、 デビュー・アルバム1枚でその最前線へと躍り出たウィンドミルの怪物にして次世代のカリスマ、ブラック・ミ ディが待望のセカンド・アルバム『Cavalcade』を2021年5月28日(金)に世界同時リリースすることを発表した。同作より、まるで『Discipline』期のキング・クリムゾンを彷彿とさせる衝撃の先行シングル「John L」が解禁。ギャスパー・ノエの映画『Climax クライマックス』やリアーナ「Sledgehammer」で有名なコレオグラファー、ニナ・マクリーニーが監督を務めたMVも同時公開された。

Black midi - John L
https://youtu.be/GT0nSp8lUws

「2019年最もエキサイティングなバンド」と評され、世界各国で 年間ベスト・アルバムに軒並みリスティング、マーキュリー・プライズにもノミネートされたデビュー・アルバム『Schlagenheim』リリース後にも次々と曲が生まれ、その年の秋には今回の作品の楽曲の原型がほぼ出来上がっていたという本作。しかし、バンドはここから従来のジャム・セッションで練り上げる作曲方法ではなく、ロックダウン期間中にメンバーそれぞれが自宅で作曲を行い、レコーディングのタイミングで素材を持ち寄ることで即興の神話から離れ、セッションでは上手くいかなかったアイデアの可能性を追求して行った。また既報の通り、オリジナル・メンバーであるギタリスト/ヴォーカリストのマット・ケルヴィンが精神衛生のケアを理由に、一時的にバンドから離れたことでツアー・メンバーであったサックス奏者カイディ・アキンニビとキーボード奏者のセス・エヴァンスをレコーディング・メンバーに加え、さらにバンドの表現を増幅させることに成功。ロックやジャズに留まらず、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、クラシック、アンビエント、プログレ、エクスペリメンタルなど無尽蔵の音楽遺伝子の「隊列=Cavalcade」は戦慄の速度で駆け抜け、既に収めた初期からの高尚な実績を基盤に上昇し伸び続け、美しくも新たな高みに到達している。

2021年5月28日(金)に世界同時発売される本作の日本盤CDおよびTシャツ付限定盤には解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラック「Despair」 「Cruising」を追加収録。日本のみアナログ盤はアルバム・アートワークを手がけたデヴィッド・ラドニックによる特殊帯がついた初回生産限定盤に加え、数量限定のピクチャー・ディスク、 Beatink.com限定でTシャツ付アナログ盤が同時リリース。また、日本盤CD購入者先着特典として メンバーによるミックス音源(CDR)、LP購入者先着特典として世界中のファンによって投票が行われるブラック・ミディによるカバー曲が収録されるソノシートがプレゼントされる。


label: BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
artist: black midi
title: Cavalcade
release date: 2021/05/28 FRI ON SALE

CD 国内盤
RT0212CDJP(特典Mix CDR付)
¥2,200+tax

CD 輸入盤
RT0212CD
¥1,850+tax

LP 限定盤
RT0212LPE(Picture Disc/特典ソノシート付)
¥2,850+tax

LP輸入盤
RT0212LP(初回帯付仕様/特典ソノシート付)
¥2,460+tax
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11766

各種Tシャツ・LPセット
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11767


Tシャツ・バンドル


ピクチャー・ヴァイナル


LP購入者先着特典・ソノシート


日本盤CD購入者先着特典・ミックス音源(CDR)

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インディ・ゲーム名作選 - ele-king

まだ見ぬ世界が、ここにある。

史上初! インディ・ゲームの決定版ガイドブック
これだけはプレイしておきたい名作250タイトルを精選

「Untitled Goose Game ~いたずらガチョウがやって来た!~」「Firewatch」「Among Us」「Getting Over It」「Doki Doki Literature Club!」「Undertale」「Hotline Miami」「Minecraft」「Super Meat Boy」「東方Project」……

アクション、シューティング、アドベンチャー、RPG、ストラテジー、パズルなどなど、目移りするほど多くの注目作のなかから、“ハズさない” 250タイトルを紹介

初心者はもちろん、コアなファンにとっても新たな発見のある一大図鑑!!

執筆陣:
田中 “hally” 治久、今井晋、千葉芳樹、徳岡正肇、野村光、古嶋誉幸、洋ナシ、木津毅

表紙イラスト:沖真秀

A5判・176ページ

目次

序文
S1 3D Action 3Dアクション
S2 3D Shooter 3Dシューティング
S3 2D Action 2Dアクション
S4 2D Shooter 2Dシューティング
COLUMN 1 インディゲーム入門:
  あなたはスマホ派? ゲーム機派? それともPC 派? (田中 “hally” 治久)
S5 Adventure アドベンチャー
S6 Adventure (walking simulator) アドベンチャー(ウォーキングシミュレーター)
COLUMN 2 一本のインディゲームが、社会を変えた:
  ポーランドの場合 (徳岡正肇)
S7 Adventure (point and click) アドベンチャー(ポイント&クリック)
S8 Puzzle パズル
S9 Role-playing ロールプレイング
COLUMN 3 インディの自由:
  ゲームにおける性的マイノリティの描写について (木津毅)
COLUMN 4 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(1) (今井晋)
S10 Strategy ストラテジー
S11 Others その他
COLUMN 5 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(2) (今井晋)
索引

[サンプル]

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。作編曲家。主著/監修に『チップチューンのすべて』『ゲーム音楽ディスクガイド』。ゲーム音楽では『ブラスターマスターゼロ』等に参加。レトロ好きなのにノスタルジー嫌いという面倒くさいインディ者。

今井 晋
IGN JAPAN副編集長。2010年頃からゲームジャーナリスト、パブリッシャー、リサーチャーとして活動。世界各国のインディーゲームの取材・インタビュー・イベントの審査員を務める。

千葉 芳樹
IGN JAPAN編集者。もとは個人ブログでインディーゲームのレビューやインタビューを行っており、これがきっかけでメディアに身を置くことになった。そういう意味では「インディーゲームに育てられた」とも言えるのかも。

徳岡 正肇
アトリエサード所属のゲームジャーナリスト・シナリオライター。東欧・中欧・北欧を中心としたヨーロッパのゲーム技術カンファレンス・ゲームショウに招待され、取材や技術講演を行う。モバイル及びインディゲームにシナリオを提供。

野村 光
ゲームレビューに特化した兼業ゲームライター。2014年から商業誌で活動し、2020年時点でレビュー記事を130本執筆する。好きなジャンルは宇宙ストラテジーと格ゲー。オールタイムインベストは『ニュースペースオーダー』。

古嶋 誉幸
一日を変え、一生を変える一本を! ゲーム好きの現場監督から無職のバックパッカーを経てフリーランスライターとなる。さまざまな国を回った結果、花粉症から逃れられる国はなさそうだと悟る。

洋ナシ
フリーライター。IGN JAPAN、Game SparkなどのWebメディアで執筆。ゲームの情報同人誌を発行していたところスカウトされ、ライターとしてのキャリアをスタートした。ひんぱんに自分は女子高生だと主張している。

木津 毅
ライター。1984年生まれ。2011年にele-kingにて活動を始め、以降、音楽、映画、ゲイ/クィア・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎の語り下ろし『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧

amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
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Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)
メロンブックス
とらのあな

全国実店舗の在庫状況

紀伊國屋書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA


お詫びと訂正

Lightnin' Hopkins - ele-king

 ブルースはいまも若い世代に受け継がれているが、ここ10年では、とくに60年代のブルース・アルバムへの関心が高まっているようだ。アナログ中古市場では、かつてはジャンク扱いだったレコードの値付けがとんでもなく高騰した。キーワードはサイケデリック。レア・グルーヴ発掘の関心増大も背景にあるのだろう。
 たとえば、60年代後半にリリースされた2枚のアルバム、マディ・ウォーターズの『エレクトリック・マッド』とハウリン・ウルフの『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』がある。これらの作品では、のちにマイルス・デイヴィスのグループに参加して日本ライヴ『アガルタ』等で知られるようになるピート・コージーが、そのノイジーなギターでメタメタにブルースをぶち壊しているが、これらは少なくとも30年以上はぼくを含めたブルース・ファンが忌み嫌った作品である。それが近年は若いファンの間で名盤となっているから、なんとも面白いではないか。時代を反映した音楽として、ブルースが苦闘しながらも活きていた、との印象を持つ人もいるかもしれない。
 この2作以外にも、当時のロック・ファンの嗜好に商機を見出そうと、ブルースの大御所たちにとって初体験となる企画が決行されている。有名なところで、B.B.キングが時流の頂点にあったアトランティック・レコード等で活躍するニューヨークの先鋭リズム隊との対決セッションに挑んだ『コンプリートリー・ウェル』、ジョン・リー・フッカーが時のファンキー・ドラマー・ナンバー・ワンとなるバーナード・パーディと対峙した『シンプリー・ザ・トゥルース』なんて、それまでのブルースの常識からすればとんでもない規格外ジャケット・コンセプト、ワリファナの煙とフラワー・ピープル万歳! で登場した。
 巨人ライトニン・ホプキンスも例外ではなかった。いかにもサイケデリックなパッケージ・デザインを打ち出し、そのヴィジュアルの人気も相まって高値が付いている『フリー・フォーム・パターンズ』がある。同州人となるテキサスの人気サイケデリック・ロック・バンド、13thフロア・エレヴェーターズのメンバーがベース&ドラムスで参加した同作は、アートワークも同グループ専属デザイナーによるサイケ図版。アルバム・タイトルからすると実験的なブルースともとれるが、しかし内容は個性全開のライトニンのブルース作品に仕上がった佳作である。時には幻想的な拡がりを見せるド派手かつ深遠なヴォーカルとギターの妙味を13thはちゃんと分かっていたからこそ、「ライトニンの音楽こそがまさにサイケデリックの奥義」とその素晴らしさを未体験の同胞ロック・ファンに聴かせたかったのではないか。いい仕事、だ。
 そう、ライトニンのブルースは伝統の流儀に則りながらも因習に囚われない自由奔放さ丸出しで、それが彼の突き詰めたブルースの魅力となっている。60年近くも昔にこの日本に初めてライトニンの存在を紹介した音楽評論家中村とうようは、不世出の洋画家として著名な岸田劉生が使った「デロリとした美」という形容をライトニンのブルースに当てはめたことがある。グロテスクで怪奇、ではなく、強烈な匂いを発する輝き、だ。ライトニンの音楽には黒人社会の底辺で生まれたブルースを娯楽とする人々が集い生活する場の匂いが充満しているが、と同時に、時代の最先端のビートに乗った、創造性に溢れた音楽表現でもあったのだ。
 ライトニンという名はもちろん芸名で、これは文字通り稲妻の如く鋭く突き刺すギターと天を切り裂くかのようなドスが効いたヴォーカルが張り裂ける様の喩えだ。最初で最後の1978年日本公演ステージでは、芸名ライトニンを実践するかのように、スポットライトをエレキ・ギターのボディに逆反射させて観客に浴びせていた、なんてことも懐かしく思い出す。
 1912年生まれ、82年没。生涯を故郷テキサス州ヒューストンで過ごし、47年にプロ・ミュージシャンとして初録音を行ない、そのキャリアの中では100余枚のシングル盤と編集コンピレーションを加えると優に200種を超すアルバムが作られている。かつてのレコード店のブルース・コーナーには溢れんばかりの品揃えがあったものだが、敢えてライトニンの極まった作品を選ぶとすると、今回Pヴァインがアナログでオリジナル通りに復刻発売する2枚のアルバムにぼくは行き着く。1954年録音のヘラルド・レコードから発表されたシングル盤のベスト選曲集『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と、60年にファイア・レコードによってアルバム録音制作された『モージョ・ハンド』だ。そのLP解説文を任されて、初代Pヴァイン・ブルース制作現場作業担当者として、調子に乗って以下のように書いてしまった。
 まず、『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』。


LIGHTNIN' HOPKINS
Lightnin' And The Blues

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
ライトニン・アンド・ザ・ブルース
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼り&コーティング・オリジナル・ジャケット仕様

 さあ、まるで手にするジャケットそのもの、おどろおどろしくも美しい稲妻の閃光だ! まず1曲目、ライトニンのギター・イントロを待つまでの、針を下してから数秒の盤が擦れる音が興奮を高める。ヴィンテージ・ブルースと接する場合の正式儀式だからこその瞬間である。怨念で唸るかのようなヴォーカル、そしてデロデロな汚さが美となるエレキ・ギターの強烈な音色と響きも、アナログで突きつけられてこそ魅力倍増、なんて勝手に盛り上がってくる。何よりもヘラルド・レコード原盤の本アルバムこそが最高水準ライトニンの凝縮であり、それは”Mojo Hand”でも敵わないとぼくは本気で思っている。

 アルバムが発売されたのは、原盤となるシングル盤発売から6年経った1960年のことで、こう書いておく必要もあった。

 しかし当時、この素晴らしきライトニンのアルバムはブルースにピュアな民俗音楽的嗜好を求める白人の評論家たちからは否定的な反応が出て、彼らがここで初めて聞く黒人街でガンガン鳴らされたそのシングル盤作品を、「エレキ・ギターにベースとドラムスまで付く露骨なジュークボックス・サウンド」と称して嫌った批評があったというのも、その後だいぶ時を経てライトニンを知ることになる我々日本のファンからすればなんとも面白い話だ。


LIGHTNIN' HOPKINS
Mojo Hand

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
モージョ・ハンド
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼りオリジナル・ジャケット仕様

 もう1枚は『モージョ・ハンド』で、そうした世論に異を唱えた黒人プロデューサー、ボビー・ロビンスンによって制作されたものだ。ロビンスンは、ラップ/ヒップホップの発火点として知られる、79/80年に発表されたグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴ、ザ・トリチャラス・スリーらの12インチ・シングルを世に送り出した人物で、生涯を時代のヒット・チャートでの勝負にかけたニューヨーク~ハーレムの敏腕仕掛け人である。
 1960年当時の、これからソウル・ミュージックの時代を迎えようとしていた黒人音楽業界では、ライトニンのブルースはヒット・チャートを狙うサウンドとしては時代遅れの田舎御用達のご当地歌謡とみなされていた。が、若きボブ・ディランをはじめとする白人主導のフォーク・ソング・ブームの中では、「アコースティック・ギターを一人爪弾き歌うライトニン」が大きな支持を集めることになる。
 こうした状況に対するプロデューサーの想いを、ぼくはこう断言して書いてしまった。絶対に間違ってはいない。

 黒人聴衆のスターであった時代からライトニンのシングル作品を聞いてきたロビンスンにとっては、いま売れるレコードを作らないで何の意味があるのか、との考えしかなかった。ベース/ドラムスを従えたいまの時代だからこそのサウンド、ビートに乗ったライトニンを楽しまないでどうする、ということだ。その黒人聴衆が求めるライトニンにこだわったのが本アルバムである。真正ライトニン・サウンド『モージョ・ハンド』だ。ジャケットの拳は、白人社会のライトニン像をぶち壊す頑固で強靭な想い、これぞライトニン! なのだ。

 ライトニン・ホプキンス最重要アルバムの2作である。まだそれほどブルースを聴いていない方には、とくに『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』にあるインスト「ライトニン・スペシャル」からお試しいただきたい。エレキ・ギターの音色からしてサイケデリックで最高、ファンクの気迫に満ちたエレキ・ギターの音色だけでも体験していただきたい。湧き上がるブギのグルーヴで気が躍ること、保証します!

interview with Gilles Peterson (STR4TA) - ele-king

いろんなDJセットを聴いていると、ブリティッシュ・ファンクがたくさん使われていることに気づいて、「ファッション」になりはじめている気がした。だから、その流れにのったレコードを作ろうということになったんだ。

 1970年代後半から1980年代前半にかけ、イギリスから多くのファンクやジャズ・ファンク、フュージョン・バンドが生まれた。シャカタクやレヴェル42を筆頭に、モリシー=ミューレン、セントラル・ライン、ハイ・テンション、ライト・オブ・ザ・ワールド、アトモスフィア、フリーズなどで、彼らの多くは俗にブリット・ファンクやブリット・ジャズ・ファンクと呼ばれていた。当時はポストパンクからニューウェイヴを経て、カルチャー・クラブやデュラン・デュランに代表されるニュー・ロマンティックがムーヴメントとなっていた時期で、イギリス音楽界の世界的進出(第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン)の一角も担っていたのがブリット・ファンクだった。
 ライト・オブ・ザ・ワールドから派生したインコグニートもそうしたアーティストのひとつで、そのリーダーでギタリストがブルーイことジャン・ポール・マウニックである。インコグニートはその後1991年、DJのジャイルス・ピーターソンが主宰する〈トーキン・ラウド〉から再始動し、アシッド・ジャズの人気アーティストへと登りつめた。ブリット・ファンクの時代からアシッド・ジャズ期、そして現在までトップ・ミュージシャンとして走り続けるブルーイだが、久しぶりにジャイルスと手を組んで新たなプロジェクトを立ち上げた。

 STR4TA(ストラータ)というこのバンドは、ブリット・ファンクやアシッド・ジャズの世界で活躍してきた辣腕ミュージシャンたちが参加し、ブルーイの指揮のもとでジャイルス・ピーターソンのアイデアを具現化していくものである。先行シングルの「アスペクツ」が話題を呼び、いよいよアルバム『アスペクツ』で全貌を明らかにするストラータだが、ジャイルスのアイデアとはズバリ、ブリット・ファンクである。
 ブリット・ファンクはかれこれ40年ほど昔の音楽ムーヴメントで、いまとなってはジョーイ・ネグロ(2020年のジョージ・フロイド事件以降はデイヴ・リー名義で活動)のコンピ『バックストリート・ブリット・ファンク』などで耳にする程度しかできないが、過去から現在に至る音楽シーンに与えた影響は多大であり、そうした影響を口にするアーティストも出はじめている。ここ数年、そんなブリット・ファンク・リヴァイヴァルの予兆を感じてきたジャイルスだが、彼にとってブリット・ファンクは若き日に夢中になった音楽でもある。ストラータのアルバム・リリースを控えたジャイルスに、かつての思い出なども振り返りつつ、どのようにストラータは生まれ、そしていまの時代にあってどこを目指していくのかなどを尋ねた。

金よりも最高の音楽を生み出すことを考えているアーティストがブルーイ。だから彼のことは心から尊敬しているし、そんな彼と再び作業ができて本当に光栄だったよ。

ストラータはどのようにしてスタートしたのですか? ブルーイとの会話などから生まれたのでしょうか?

ジャイルス・ピーターソン(以下、GP):レコードを作りはじめたのは大体一年前、そうロック・ダウンがはじまるちょうど前だね。そのとき持っていたアイデアは、40年来の友人、ブルーイと一緒に何か作品を作ることだった。僕たちは一緒にレコードを作ろうとずっと話していたんだが、2~3年前にやっと本格的に話をはじめたんだ。最初は日本でレコードを作ろうという話をしていた。僕らは二人とも頻繁に日本に行くし、日本の1970年代のジャズ・ファンクやフュージョンに影響を受けているからね。だから、その時代の日本のレジェンドたちをフィーチャーしたレコードを日本で作ったら最高だろうな、と話していたんだ。それが数年前に思いついたアイデアだった。で、その話が少し後回しになってしまっていたんだが、ブリティッシュ・ファンクがリヴァイヴァルしてきているなと感じたことをきっかけに、1年前にまたブルーイと話しはじめたんだ。いろんなDJセットを聴いていると、ブリティッシュ・ファンクがたくさん使われていることに気づいて、「ファッション」になりはじめている気がした。だから、その流れにのったレコードを作ろうということになったんだ。でも、僕がちゃんとプロデュースをして、サウンドがクリーンになりすぎることを避けることは絶対だった。DIYっぽいレコードを作りたくてね。結果として、それっぽい作品を作ることができた。レコーディングの期間は短くて、多分2週間くらいだったと思う。そのあとロック・ダウンに入り、ミックス作業をはじめたんだ。ブルーイは彼のスタジオ、僕は自分のスタジオに入って、毎日リモートで作業したんだよ。

あなたが〈トーキン・ラウド〉を興したアシッド・ジャズの頃からブルーイとは長い付き合いですが、実は一緒に仕事をするのは10年以上ぶりとのことです。久しぶりにジョイントしてみていかがでしたか?

GP:ブルーイは僕が出会ったなかでももっともマジカルな存在のひとりだね。イギリスのなかでもっとも音楽的に影響を受けたアーティストのひとりなんだ。黒人のイギリス人ミュージシャンとして先頭を歩き、彼以降の若い黒人のイギリス人たちの世代にメンタル的にも大きな影響を与えてきた。だから、彼はイギリスの音楽の発展において大きな役割を果たしてきたんだ。彼はまたハードワーカーとしても知られていて、彼が演奏してきた全てのグループに全身全霊を捧げて貢献してきた。金よりも最高の音楽を生み出すことを考えているアーティストがブルーイ。だから彼のことは心から尊敬しているし、そんな彼と再び作業ができて本当に光栄だったよ。

ストラータは1970年代後半から1980年代初頭におけるブリット・ファンクにインスパイアされているそうですね。ブルーイのインコグニート及びその前身であるライト・オブ・ザ・ワールドもそうしたブリット・ファンクの代表格だったわけですが、やはりそんなブルーイがあってこそのストラータとうわけでしょうか?

GP:そうだね、そういった音楽を作りたいとはずっと思っていた。僕が実現したいサウンドを彼がプレイできることはわかっていたし、彼と一緒にそれを実現させることは前からずっとやりたいと思っていた。そしてストラータで最初に12インチを出して、レコードへの良いリアクションにふたりとも驚いているんだ。ここまでの良い評価が得られるとは思っていなかったからね。すごく嬉しく思っているよ。

ジョーイ・ネグロ(現デイヴ・リー)は『バックストリート・ブリット・ファンク』というコンピ・シリーズを出していて、まさにブリット・ファンクのDJを聴いて育った世代だと思うのですが、あなたもそんなひとりですよね?

GP:もちろん。僕は当時16~17歳だった。その時期に聴いていた音楽、見にいっていたDJのほとんどがブリット・ファンクのDJたちだったね。バンドとDJの両方が盛り上がっていた時期だったから、僕はラッキーだったと思う。あれが僕にとってリスナーやファンとしての音楽の世界への入り口だったとも言える。ギグを見にいったり、バンドをフォローしたり、プロモ盤をプレイしているDJを追っかけたり、音楽にそこまでハマりはじめたのはその頃。ジョーイ・ネグロは多分僕よりも深くそういった音楽にもっとハマっていたと思う(笑)。今回のアルバムのなかに “アフター・ザ・レイン” というトラックがあるんだが、あのトラックのリエディットを彼がやってくれたんだ。それももうじきリリースされる予定だ。

当時のあなたはDJをする前夜でしたが、こうしたブリット・ファンクで好きだったバンド、影響を受けたアーティストがいたら教えてください。

GP:レヴェル42はつねに観にいってたな。僕は彼らの大ファンだったんだ。レコードにサインをもらうために出待ちまでしていたくらいさ(笑)。それくらいスーパー・ファンだったんだ。18歳になるまでに多分10回はライヴを見たと思う。彼らを見るために南ロンドンを回ってた。3、4年前にBBCでラジオ番組をやっていたんだが、僕の番組の前のショウがリズ・カーショウの番組で、ある日そのゲストがレヴェル 42のマーク・キングだったんだ。それで「僕の長年音信不通だった兄弟がここにいる!」と思って、彼がスタジオを出てくるのを待ってハグしたんだ(笑)。彼は僕のラジオ番組を気に入っていると言ってくれて、あれはすごく嬉しかった。レヴェル42の他はハイ・テンション、ライト・オブ・ザ・ワールド、アトモスフィアが僕のお気に入りのグループだったね。

当時のブリット・ファンクをプレイしていたDJではどんな人から影響を受けましたか? たとえばボブ・ジョーンズ、クリス・ヒル、コリン・カーティスとか。当時のクラブやラジオではどんな感じでブリット・ファンクはプレイされていたのでしょうか?

GP:ラジオからは海賊放送も含めたくさん影響を受けた。ボブ・ジョーンズやクリス・ヒルもそうだし、ラジオ・インヴィクタのスティーヴ・デヴォン、BBCのロビー・ヴィンセント、キャピタル・ラジオのグレッグ・エドワーズも好きだったよ。当時は女性DJはゼロで、見事に全員が男性だった(笑)。その頃ラジオでブリット・ファンクが流れていたのはほとんどが夜だったね。昼間に流れることはあまりなかったな。スペシャリストたちのラジオ番組でだけ流れてた。あとは、パブでもクラブでも流れてたし、僕は16とか17歳だったけど聴きにいっていたよ(笑)。角に座って隠れながら、皆がそれに合わせて踊っているのをずっと見てた。僕は童顔で、一際幼く見えて未成年ということがバレバレだったからね(笑)。ノートを持ってクラブやパブに言って、DJに曲名を聞いたりしていた。当時はシャザムなんてなかったから(笑)。

2014年に発表したブラジリアン・プロジェクトのソンゼイラの『ブラジル・バン・バン・バン』というアルバムでは、フリーズの代表曲 “サザン・フリーズ” をカヴァーしていましたね。フリーズもブリット・ファンクのアーティストのひとつで、“サザン・フリーズ” はほかのコンピやDJミックスでも取り上げたりするなどあなたにとっても重要な曲のひとつかと思いますが、そうしたインスピレイションもストラータに繋がってきているのですか?

GP:もちろん。まず、フリーズは『サザン・フリーズ』というベスト・レコードを作った。あれ僕のお気に入り。あのレコードはパンクっぽい姿勢をもっていて、アートワークもパンクっぽくて、イギリスのDIY感がすごく出ているところが好きなんだ。あとブルーイはあのバンドの初期メンバーのひとりだから、そこでも繋がっている。“サザン・フリーズ” という曲は、あのムーヴメントのなかでも特に重要な作品だと思っているんだ。ソンゼイラのアルバムをブラジルでレコーディングしているとき、あの曲のソフトなサンバ・ヴァージョンみたいなカヴァーを作ったら面白いと思った。それであの作品をカヴァーすることにしたのさ。

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このレコードでのカギは、僕がいかに自分の頭のなかにあるサウンドをブルーイに演奏させるかだった。だから、ニューウェイヴやパンクも関わっていて、僕はそれを全てとりあげた音楽を作りたかったんだ。同時にDJがプレイしたいと思うような音楽を作りたくもあった。

ストラータは具体的にブリット・ファンクのどのような音楽性を参照していて、そうした中からどのような部分で現代性を表現していると言えるでしょうか?

GP:現代性が今風という意味なら、それはほとんどといっていいほどない(笑)。僕はこのプロジェクトをライヴ・プロジェクトにして、短い期間でレコーディングしたかったんだ。スリリングで緊張感をもった作品にしたかった。たとえミスが起こっても、それを全て受け入れたかったんだ。だから、もしベース・プレイヤーの演奏がいけてないパートができたとしても、僕はそれをそのままにした。それは熟練のミュージシャンたちにとっては慣れないことだったけどね。誰でも自分が失敗した箇所なんて使いたくないだろうから(笑)。でも僕はその失敗がむしろ好きなんだ。このレコードのアイデアはミスを受け入れることだった。それが僕の役割だったんだよ。プロデューサーとして、僕はこのレコードを滑らかでクリーンなものにはしたくなかった。派手に着飾るのでなく、できるだけありのままの生の状態で保つことが僕にとっては大切だったんだ。

ブリット・ファンクと言ってもいろいろなタイプのアーティストがいたわけですが、たとえば先行シングル・カットされた “アスペクツ” はアトモスフィアあたりを連想させる曲です。アトモスフィアはニューウェイヴやディスコ、ダブなどとも結びついていたグループですが、ストラータは全体的にそうしたポストパンク~ニューウェイヴ的なベクトルも内包しているのではと感じます。そのあたりの方向性についていかがでしょうか?

GP:そういったジャンルの音楽を参照にはしているよ。とても興味深いムーヴメントだったし、あのムーヴメントにはパンク、ニューウェイヴ、ニュー・ロマンティックス全てが存在していた。このレコードでのカギは、僕がいかに自分の頭のなかにあるサウンドをブルーイに演奏させるかだった。だから、ニューウェイヴやパンクも関わっていて、僕はそれを全てとりあげた音楽を作りたかったんだ。同時にDJがプレイしたいと思うような音楽を作りたくもあった。“アスペクツ” のような曲はもちろんライヴ演奏だけれども、DJたちがミックスしたりクラブでかけられる曲でもある。だからストラータも、ディスコやハウス、ジャズ・ファンクが織り混ざっているんだよ。

いまおっしゃったように、レコーディングについて、あまり洗練され過ぎたサウンドにならないように、できるだけラフにということを心がけたと聞きます。これは1980年代であればシャカタクのようなメジャーなサウンド、そしてある意味で現在のインコグニートのスムースなプロダクションとは真逆のアプローチであり、アトモスフィアやフリーズのようなアンダーグラウンドなバンドが持っていた初期衝動やニューウェイヴ的感覚に近いものではないかと思いますが、いかがでしょう?

GP:そうだね。僕が目指していたサウンドの方向は同じだからね。それがちゃんと実現できたかどうかは実際のところわからない(笑)。うまくはできたと思うけど(笑)。次のレコードも作る予定だから、それまでにはよりよくなるんじゃないかな(笑)。どう進化するか僕自身楽しみだし、ショウでも音は変わっていくと思う。多分最初のショウはロンドンで8月に開催される音楽フェスティヴァルになると思うんだが、そのときまでにバンド・メンバーを集めて、彼らの演奏を僕がステージ上でミックスして少しエフェクトを加える、という形のショウにしたいと思っているんだ。だから、そこでモダンな質感が入ってくることになるかもしれない。アレンジだったり、エフェクトやギミックを入れる程度によって、いろいろ変化が加わることになると思うから。でも基本はライヴ・バンドの演奏。ヴォーカルはもちろんブルーイ。

“ギヴ・イン・トゥ・ワット・イズ・リアル” や “リズム・イン・ユア・マインド” は比較的ストレートなブギー・ファンクで、ライト・オブ・ザ・ワールドやそこから枝分かれしたベガー・アンド・カンパニーあたりのラインのナンバーと言えます。彼らのようなサウンドは現在のブギーやディスコ・リヴァイヴァルにも繋がるところがあるわけですが、いかがでしょうか?

GP:僕にとってはブラン・ニュー・ヘヴィーズも思い起こさせる。つまりはアシッド・ジャズ。ブリット・ファンクとアシッド・ジャズ、ブギーやディスコの間には線があるけど、繋がってもいる。それらの音楽の間にはコンビネイションが見えてくるんだ。あの時代に活躍していたブルーイはそれらを繋げるのが得意で、そこにイギリスの質感を落とし込むんだ。

“ヴィジョン・ナイン” はアルバムのなかでは異色のブラジリアン・フュージョン調のナンバーで、アイアート、エルメート・パスコアル、ルイス・エサなどに通じるところもあります。さきほど話をしたソンゼイラにも繋がりますが、この曲を収録した意図は何ですか?

GP:僕が聴いていたころのブリット・ファンクは、アフリカ音楽の要素やラテン音楽の要素、ブラジル音楽の要素なんかが入っていた。僕にとっては、それがブリット・ファンクだったんだ。そういった要素の音楽を初めて聴いたのは、全てブリット・ファンクを通してだったんだよね。“ヴィジョン・ナイン” にはそのヴァイブがあり、終盤にかけて少しラテンっぽくなっていく。それを表現したもうひとつのトラックが “キンシャサ・FC”。あれはもっとアフリカ音楽っぽくて、マヌ・ディバンゴやそういったアーティストたちの音楽、1970年代のアフロ・ファンクやアフロ・ディスコに影響を受けている。このレコードには、僕が昔ブリット・ファンクのなかで聴いていたアフリカやラテン音楽の要素も取り入れたかったんだ。

セックス・ピストルズ、ゲイリー・ニューマン、ザ・フォール、ジョイ・ディヴィジョンについての記事はそこら中にあるし、彼らがレジェンドたちであることもわかっているけれど、ライト・オブ・ザ・ワールドやインコグニートについて書かれた記事はほとんどない。僕にとってそれは行方不明の歴史なんだ。

“キンシャサ・FC” はコンゴのフットボール・チームを指しているかと思いますが、これは実在のチームですか? どうしてこのタイトルを付けたのでしょうか?

GP:いや、あれは想像のチーム。ははは(笑)。とにかくアフリカっぽいタイトルにしたくて(笑)。サッカー・チームの名前っぽくしたら面白いと思ったし、全く深い意味はないんだよ(笑)。

先に名を挙げたアトモスフィアでいくと、当時のキーボード奏者だったピーター・ハインズがストラータでも演奏しています。彼はほかにもライト・オブ・ザ・ワールドやそこから枝分かれしたインコグニート、ブルーイが一時結成していたザ・ウォリアーズでも演奏していました。ブルーイと非常に近いところにいたミュージシャンですが、今回は彼のアイデアで参加したのですか?

GP:あれは僕のアイデアだったけど、彼の電話番号を持っていたのはブルーイだった(笑)。このプロジェクトには数名のレジェンドに参加してほしいと思ったんだ。レジェンドというのは、僕自身が大好きで何度も曲を聴いていたアーティストたちのこと。ピーターのローズ・ピアノのうまさは知っていたし、彼に参加してもらうことになったんだ。スタジオに来てもらって、アルバムに収録されている2曲をレコーディングした。あともうひとり紹介したいのは、ベースのランディ・ホープ・テイラー。彼も昔コングレスという素晴らしいブリット・ファンク・バンドにいたんだ。そのふたりは僕にとってレジェンドだね。あとは若いミュージシャンたちに参加してもらった。音楽やリズムにはエネルギーも必要だからね。

ピーター・ハインズは最近も〈エクスパンション〉によるザ・ブリット・ファンク・アソシエイションというリヴァイヴァル的なプロジェクトに参加していますが、あちらとストラータを比べた場合、ストラータの方がよりカッティング・エッジで、インスト演奏などジャズ的インプロヴィゼイションにも重きを置いているなと思います。ピーター自身はそうしたプロジェクトの違いなど意識はしているのでしょうか?

GP:それは僕にはわからない。ピーターがスタジオに来たとき、曲はタイトルさえ決まっていなかったし、自分たちも明確なアイデアは持っていなかった。でも、彼は何をすべきかわかっていたんじゃないかな。ザ・ブリット・ファンク・アソシエイションは昔の曲を演奏するプロジェクトだけど、ストラータは全て新しく作られた曲のプロジェクト。だから、新しいフィーリングをもたらすということは意識していたかもしれないね。

ほかのメンバーもマット・クーパー、スキ・オークンフル、フランセスコ・メンドリア、リチャード・ブルなどインコグニートに関わってきた人が集まっています。特にアウトサイドのマット、Kクリエイティヴのスキが集まっているのは、アシッド・ジャズ時代からのファンとしても相当嬉しいのではないかと思います。今回のミュージシャンの人選はどのようにおこないましたか?

GP:とにかく演奏がうまいアーティストたちを集めた。去年、ブルーイを祝福するために僕の家の地下室でインコグニートとセッションをやったんだが、そのためにブルーイがミュージシャンたちを連れて僕の家にきたんだ。そのなかにはマット・クーパーやフランシス・ハイルトンといったミュージシャンたちがいた。彼らのことは僕もよく知っていたし、彼らも僕が何を求めているかをしっかりと理解していた。彼ら、僕の美意識を普段から理解してくれているからね。だから彼らとセッションをしたら心地よくて楽しいに違いないと思って、それが自然とバンドになったんだ。

“アスペクツ” の12インチはモーゼス・ボイドやフランソワ・Kなど様々なDJやアーティストの間でも話題となりました。フランソワはリアル・タイムでブリット・ファンクを体験してプレイしてきたDJですが、そうした人から認められるのはストラータがより本物のブリット・ファンクを表わしていると言えませんか?

GP:そう呼ばれるよう努力はしている(笑)。僕はあの時代、1970年代後半から1980年代前半のまだきちんと取り上げられていないUKのムーヴメントを祝福したいんだ。僕にとってあの時代は多様性に満ちて、当時のUKの全ての世代のミュージシャンたちに勇気を与えたという面ですごく重要だ。ところがメディア、新聞、ラジオはこのムーヴメントに対してすごく否定的だったと思う。セックス・ピストルズ、ゲイリー・ニューマン、ザ・フォール、ジョイ・ディヴィジョンについての記事はそこら中にあるし、彼らがレジェンドたちであることもわかっているけれど、ライト・オブ・ザ・ワールドやインコグニートについて書かれた記事はほとんどない。僕にとってそれは行方不明の歴史なんだ。だからこのプロジェクトを通して、多様性を備えた、素晴らしく重要な音楽が存在していたこと、軽視されていたことを伝えたい。彼らの音楽を祝福するのは、僕にとって非常に大切なことなんだ。

以前サンダーキャットにインタヴューした際に、レヴェル42のマイク・リンダップからの影響を述べていましたし、タイラー・ザ・クリエイターは2020年のブリット・アワードの受賞式で、1980年代のブリティッシュ・ファンクから影響を受けたとスピーチしました。このようにイギリス人ではないアメリカ人、しかもリアル・タイムではブリット・ファンク全盛期を知らないアーティストがこうした発言をしているのをどう思いますか? それを踏まえてストラータがこうしたアルバムを作った意味について教えてください。

GP:最初に言い忘れたけど、このプロジェクトをはじめようと思ったもうひとつの理由は、そしてそれをいまやろうと思った理由は、タイラー・ザ・クリエイターのそのスピーチを見たからなんだ。彼はミュージシャンとしてもっとも影響を受けているのはブリット・ファンクだと言っていた。そのとき、ついにイギリス国外の重要なミュージシャンのひとりがブリット・ファンクの魅力に気づいてくれた! と思って、「レコードを作ろうぜ!」とブルーイに言ったんだ。実はタイラーにもコンタクトをとっていて、次のレコードで歌ってもらいたいと思っている。サンダーキャットは僕の友人だから、彼も参加してくれることを願っている。あともちろん、日本のミュージシャンにもね! 普段だったら年に二度は日本に行くんだけど、いまはこんな状況だからね。前回は京都の伊根という街にいったんだけど、すごくよかった。日本が恋しいよ。早く来日したい。ではまた!

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