「Nothing」と一致するもの

Ryuichi Sakamoto + David Toop - ele-king

 薄灯りの、仄暗い空間を、ゆっくりと行き先を探りつつ、しかし確信を持った足どりで進むかのごとき音の交錯、ざわめき。
 坂本龍一とデイヴィッド・トゥープの演奏(いや音の生成とでもいうべきか)を記録した音響作品『Garden of Shadows & Light』には、まさに静謐な音の対話のようなサウンドスケープが生まれていた。

 リリースはロンドンのエクスペリメンタル・レーベルの〈33-33〉からだ。カタログ数はそれほど多くないレーベルだが、灰野敬二とチャールズ・ヘイワードの共演盤などをリリースするなど、その厳選されたキュレーションが魅力的なレーベルである。
 それにしてもなんて美しいアルバム・タイトルだろうか。その名のとおり本作『Garden of Shadows & Light』にはサウンドによる陰影の美学がある。坂本とトゥープが鳴らす音たちの群れは、淡く、微かにして、しかし強い。偶然の豊かさを消し去ることもない。フラジャイルな音にすらも、豊穣な気配が生まれているのだ。
 坂本龍一とデイヴィッド・トゥープは音の時間のなかを思索的に、もしくは遊歩的に進む。音の気配に敏感になり、耳をそばだて、繊細な手仕事のように音のオブジェクトを組み合わせる。そうして静謐で濃厚な音響空間が生成されていく。
 冒頭、何か叩くような、カーンと澄み切った音が鳴り響く。それに応えるかのように、やや小さな音がカツンと鳴る。やがて何かを擦る微細な音が鳴り、弦の音の残滓のような音も聴こえてくる。音はやがて音楽の原型のような響きへと変化するが、しかしそれはノイズのテクスチャーのなかに溶け込んでいく。そしてまた別の音がやってくる。彼らふたりは音を招き寄せている。

 本作には「音が訪れる」感覚がある。「おとがおとずれる」「音が音ズレる」とでも書くべきか。非同期の音たちの群れ。しかしひとつの大きな(ミニマムな?)時間を共有もしている。そのズレと時間の交錯が、音の気配を豊かにする。
 このレコードの秘めやかで、大胆な音の生成、対話、群れに耳を澄ます私たちもまた彼らが生成する音の時間に引き込まれ、音の変化、歩みを共にし、音の存在に敏感になるだろう。一音一音の存在に驚き、まるで一雫の水滴の音を聴くように静謐な時間をおくることにもなるだろう。

 『Garden of Shadows & Light』は、2018年、ロンドンはシルヴァー・ビルディングでおこなわれたライヴの録音である。映像も配信されていたので、すぐに観たことを記憶している。私は「手仕事としての音響工作」を満喫した。これぞブリコラージュと感嘆したものだ。
 なによりテクノ(ポップ)以降、20世紀後半における電子音楽のレジェンドである坂本龍一と、批評家、キュレイターとして、そしてサウンド・アーティストとしても長年に渡って活動を展開する才人デイヴィッド・トゥープとの饗宴には大いに興味を惹かれたのである。
 それから三年の月日が流れ、いまや伝説的な演奏となった音源が本年「録音作品」としてリリースされた。いま、こうしてレコード作品となったふたりの「演奏」を改めて聴き込んでみると、配信されたライヴ映像とは異なる印象に仕上がっていたことに驚きを得た。もちろん音は同じだ。しかしサウンドがもたらすパースペクティヴや時間が新鮮なのである。視覚情報が欠如されたことによって、音に対する認識が変わったのかもしれない。
 加えて坂本龍一とデイヴィッド・トゥープのこの音響ノイズ演奏には、音楽家における老境の境地が横溢していたことにも気がついた。特に本作に限らず近年の坂本の「音そのもの/音それじたい」をコンポジションするようなサウンドからは、まるで「音響のモノ派」、もしくは音の「侘び寂び」を感じた。音それ自体への感覚が横溢し、肉体性から離れ、音やモノや空気としめやかに同一化するような音響が生まれているのだ。突如として音が鳴り、それが静謐な空間性に即座に融解し、持続の只中に溶け込んでいく。音が刹那と永遠のあわいにある。
 まさに「音の海」(トゥープ)と「async」(坂本龍一)の融合か。もしくは消尽の美か。自分などはこのアルバムを晩年のサミュエル・ベケットに聴いて欲しかったと思ったほどである。もしくは武満徹に聴いてほしかったとも。武満ならばこのアルバムの、演奏の、そしてサウンドスケープを大絶賛したのではないか。

 西洋音楽を学んだ日本人音楽家が安直なオリエンタリズムに陥ることなく、日本、東アジアの音響・音楽を実践すること。それによって「世界」という場に立っていること。これは本当に稀有なことだ。坂本龍一は音そのものの原質に触れようとしている。
 00年代以降のアンビエント/ドローンを基調とした音楽作品を生み出した坂本龍一は、まずもってここが重要なのだ。高谷史郎と坂本龍一のオペラ『TIME』の東洋と西洋、ネットフリックス配信の『ベケット』の職人的な音楽のなかに不意に満ちるドローン、『ミナマタ』の西欧的和声のむこうに交錯する無時間的な響きの交錯など、近年の坂本龍一の仕事は、どの作品も西欧と東アジアが透明な水と空気のなかで清冽に鳴り響くような音楽/音響を生み出している。
 そう考えると2018年の時点で、このような音を鳴らしていた本アルバムの録音はとても重要に思えてくる。2017年の『async』から2020年代の坂本龍一の音をつなぐ音。対して西洋人であるトゥープが、これほどまでに非西欧的なノイズ・音響・時間感覚を発露できることに深い知性と卓抜な感性を感じた。

 物質、空気、微かな光、闇、空間、静謐さ。時間、非同期。音。まさに「Gardens of Shadows & Light」。そう本アルバムには21世紀の「陰翳礼讃」の感性にみちている。薄暗い光と陰影の美学がここにある。

interview with Jon Hopkins - ele-king

 60年代のカウンター・カルチャーの夢のいくつかは、今日では先進国においてそこそこ普通になっている。たとえば大麻の合法化(日本は除く)、同性婚(日本は除く)、そして瞑想(日本も含む)——で、この話はジョン・ホプキンスに繋がる。その昔ブライアン・イーノとともにコールドプレイをプロデュースしたこともあるホプキンスは、最初は「クラシック・ピアニスト上がりのポップ・エレクトロニカ/ポップ・アンビエントの騎手」として注目され、〈ドミノ〉レーベルを拠点としつつ、インディとテクノとアンビエントが合流する領域において幅広いリスナーに支持された。ことに母国のイギリスでは、ホプキンスは(アンダーグラウンドではなく)ポップ・フィールドで活躍するビッグネームのひとりである。
 ホプキンスの特徴はクラシック音楽を経由したロマン主義的な作風にある。彼の作品は総じて叙情的で、いたって情熱的で、物語性を有している。まあ、手短にいえば劇的なのだ(つまりヴァーティカル=垂直的ではない)。それはエレクトロニカ/アンビエント/ダウンテンポに焦点を当てた2008年の出世作『Insides』にも、ダンサブルな展開を見せた2014 年の人気作『Immunity』にも言えることで、高い評価を得た2018年の『Singularity』もまた起伏に富んだホプキンスらしい作風ではあったが、彼はこの内省的なアルバムにおいて毎日欠かさずやっている瞑想からのインスピレーションを具現化した。超自我的なトランシーなヘッド・ミュージックがその作品では意識的に追求されているわけで、今回の新しいアルバムはそれをさらに突っ込んだもの、それは精神の治癒としての音楽で、「サイケデリック・セラピー」という直裁的な言葉を表題としている。
 サイケデリックという文化も60年代の産物で、LSDなるドラッグを触媒にしたカウンター・カルチャーの一部だった。それこそジョン・レノンが「いま見えている世界は誤解」と歌ったように、違った世界を見ることは世界観を相対化することにつながる。そこでホプキンスだが、彼はどうやら今回はドラッグの力を借りずに違った世界を体験し、そしてそれをリスナーとシェアしたいと思っている。とはいえ、ホプキンスの「サイケデリック」はカウンター(抵抗文化)ではない。多くの現代人とりわけ企業人に求められているもののひとつだったりする、しかもわりと切実に。(ポポル・ヴーがカフェ・ミュージックになる日も近いだろう)
 アルバム『ミュージック・フォー・サイケデリック・セラピー』の制作プロセスはじつに興味深い。それは彼が2018年にエクアドルのアマゾン流域の地下60メートルに広がる巨大な洞窟で数日間過ごしたという体験に端を発している。以下、インタヴューのなかでホプキンスはその体験とコンセプトについて詳説している。

ぼくは幸運にもサイケデリックの世界へ導かれ、それを体験することによって音楽にも良い影響がでたんだ。だからサイケデリックな体験を通してセラピー的なサウンドトラックを作りたいと思ったしね。

今日はお時間を作っていただきありがとうございます。とても美しく、そして体験的でリスナーに違う世界を見せようとしている音楽だと思いました。

JH:そんな風に言ってもらえて光栄だよ。そういう意図でこのアルバムを作ったから。

あなたの新作を聴きながらまず思ったのは、21世紀の今日において、サイケデリック・カルチャーはどのように有効なのかということです。というのは、60年代にせよ90年代にせよ、ドラッグ体験は人生を見つめ直す契機、かなりインパクトのある契機として広がりました。自分の生き方は間違えていた、人生はこんなものじゃない、みたいな。しかしながら、資本主義に人生が規定されまくっている現代では、生き方の選択がかつてのように多くはありません。こんな時代において、それでもサイケデリックにこだわるあなたに興味を覚えて、今回は取材のお願いをさせてもらいました。

JH:わかった。

そもそもクラシックを学んでいて、初期の頃は綺麗めなエレクトロニカやダウンテンポなどを作っていたあなたが、どこでどうしてサイケデリック・カルチャーに惹かれていったのか興味があります。前作『Singularity』においては瞑想が重要だったと話してくれましたが、何がきっかけで、そしてどのようにしてカルロス・カスタネダやテレンス・マッケナ(※90年代初頭に注目されたDMTなどの幻覚作用の研究者。新作のコンセプトにおけるキーパーソン)の世界へと進入していったのでしょうか? 

JH:ぼくは幸運にもサイケデリックの世界へ導かれ、それを体験することによって音楽にも良い影響がでたんだ。だからサイケデリックな体験を通してセラピー的なサウンドトラックを作りたいと思ったしね。君が述べたように、いまのサイケデリック文化は60〜90年代とは違っていて、現代では科学主導でサイケデリック体験をセラピー、そして薬として健康へアプローチする動きが出てきている。その体験は人びとを開放するけど予測もしがたく、これらの体験による治療の最適な方法はまだ定かではなくて、もしネガティヴな方向へ行ったら危険だからね。
 君が言うように、資本主義のなかで人びとは仕事によってメンタルヘルスが侵されている。人びとの単調な毎日によるメンタルヘルス問題は深刻で、メンタルヘルスはまだ開拓が進んでいない分野だと思う。ただ毎日薬を与えれば良くなるものでもないしもっと複雑なものだよ。化学物質による脳への作用だけでなく、いまサイケデリック体験による純真さ、喜びなど人びとが自分の心と再び繋がれるアプローチが必要とされている。こういった流れのなかでぼくは音楽を作る役割があると思うし、ぼくの音楽を聴いて他のアーティストが影響を受けてさまざまな音楽を作ってくれたらいいと思うよ。脆弱な立場の人びとにはさまざまなタイプの音楽が必要だからね。

そしてあなたはアマゾンの巨大な洞窟群にたどり着いた。そのときの模様は今作のブックレットに記されていますが、とても興味深かったです。あなたは洞窟のなかで、細いロープを頼りに60メートル下の地下世界に降りていった。本当に危険な冒険だったと思うのですが、そこであなたはいままで経験したことのない静かな世界に出て、日光の届かないその場所で、風変わりで美しい動物たちに囲まれながら4日間過ごしたそうですね。そこで得られた音世界がこのアルバムの出発点になったということですが、まずはその4日間についてもう少し詳しく教えてください。そこはいったいどんなところで、どんな動物たちがいたのでしょうか?

JH:2018年に洞窟へ誘われて数日間滞在した。そう、この経験がアルバムの出発点となったんだ。誘われた際に、「面白そうだな」と思ってすぐに行くことを決めた。最初はどんなところか深くは考えなかった。いろいろと体験するのが好きなので、どんな場所か行ってみて実際に驚いてリフレッシュできるような体験がしてみたかった。細いロープをつたって60メートル下の暗闇に向かって降りていくのはとても恐怖を感じたし、そこは行く前に想像していなくてよかったよ(笑)。下に降りると、まず細い道を進まなければならず、その後メインエリアとしてキャンプできる広くてとても美しいところに到達した。そこは人類に荒らされた形跡もなくてとても静かな場所だった。土は柔らかくテントも立てられて非常に快適にキャンプができたんだ。本当に魅惑的で素晴らしい場所だったのでたくさんの音楽へのインスピレーションを得ることができたね。

あなた以外にも神経科学者をはじめ数人いたようですが、衣食住など、どのように生活していたのでしょうか?

JH:ぼくらは合計12人のチームだった。まず安全な旅へと導いてくれる洞窟を知り尽くした頼りになるガイドたちがいた。誰も経験したことのない旅だったので彼らの存在はとても心強かった。それから写真家、神経学者、アーティストが2名、他のミュージシャン、そしてぼくとさまざまなバックグラウンドでチームは編成されていた。
 実際そこで3泊4日過ごしたんだけど、キャンプサイトから15分ほど歩くと、1カ所だけ、地上の森に穴が空いているところがあって、昼になるとそこから日光が差し込むんだ。それ以外は完全な暗闇のなかだったんで、キャンドルや懐中電灯の灯りで過ごした。一筋の光が差し込むその場所はとても神秘的で美しくかったな。毎日のようにそこに通った。そんな非日常の世界を積極的に受け入れて探索したんだ。
 毎日ハイキングやクライミングもしたけど、キャンプでただ座って瞑想したり、ゆっくり過ごしたりもした。写真家は写真を撮らなければいけないので動きまわっていたけれど、ぼくは洞窟の音を録音する作業以外にはとくにやらなければならないこともなかったし、それも1時間くらいで終わる作業だったので、他の時間はアクティヴに出かけるのとリラックスすることが半々くらいだったね。ぼくはスピーカーを持ち込んで洞窟の自然形状に音を反響させたものを録音したんだ。
 食事はガイドの人たちがドライフード、缶詰、インスタントラーメン、パスタなどを持参して提供してくれた。洞窟暮らしは楽しかったし、洞窟の奥へはハイキングやクライミングをしに行ったりして、キャンプに戻って食べた食事はとても美味しかったし、なんとか快適に過ごしたよ。

そこでは何か幻覚を促すようなことはされたのですか

JH:いや、まったく。ぼくは普段もそういった行為はとくにしないしね。現地の先住民族は洞窟で儀式としてアヤワスカを使う習慣があるんだけど、ぼくたちはトライしなかった、というか、したいという欲望もなかったよ。ぼくは完全にシラフな状態で洞窟での出来事を感じたかったし、じっさいにとても貴重な体験になった。

それは、あなたのこれまでの人生もっとも強烈なエクスペリエンスだったと言っていいのでしょうか?

JH:うん、その通りだね。過去に冬山に登るなど冒険したことはあるけど、地下へ行くのは初めてだったから。 

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細いロープをつたって60メートル下の暗闇に向かって降りていくのはとても恐怖を感じたし、そこは行く前に想像していなくてよかったよ(笑)。下に降りると、まず細い道を進まなければならず、キャンプできる広くてとても美しいところに到達した。そこは人類に荒らされた形跡もなくてとても静かな場所だった。

アルバムのなかには水の音が入っていますが、これは水が流れている音なのですか? ほかにもどんな音が録音されたのでしょう? 鳥の声のような音もありますよね?

JH:アルバム前半を構成する洞窟のトラックで聞こえる自然音は、あそこで録音されたものなんだけど、これはぼくが録音したものではない。同行したメンダル・ケイレンという神経学者、彼は野外録音のプロでもあるので、彼の専門機材を使用して録音したものなんだ。彼は毎朝早起きしていろいろな音を撮りに出掛けていた。。
ぼくは持ち込んだPCでクリスタルボウルのようなサウンドをいち音だけ出し、50メートルほど離れた洞窟のむこうの端で反響した音をメンダルの機材によって録音した。アルバムのCaves(洞窟)というトラックを聴くと最初に大量の水が流れる音が聴こえて、これは洞窟を削った川の音。その水が洞窟に注がれ、鳥の声へと続き、新たにひとつの音が聴こえてくると思うけど、これが構成部分の始まりなんだ。

アルバムは あなたのこの体験——洞窟を降りていって、もうひとつの世界に到着しての経験——を音楽によって表現しているということでしょうか?  つまり、このアルバムを通して我々はあなたが見てきた世界を疑似体験 できるかもしれないと?

JH:そうだね。ぼくの感情、エネルギーだけでなく、洞窟で見て、聞いて体感した奇妙さというかそこでの神秘的なものを表現しているんだ。ぼくはサウンドや音楽が専門なので、言葉としては洞窟での体験を完全には表すことができなくて、もちろん何を見た、どう感じたかは言えるけど。音楽は、洞窟内にある人類が手を加えてない完全なる生態系の存在、それに対するぼくの感情などを人びとにうまく伝えられるひとつの手段だし、なのでぼくは音楽を創造するよ。

セラピーという言葉が浮かんだ理由を教えてください。“幻覚セラピー”のセラピーとは、この音楽がたんなる快楽のためにあるのではないということ、そしてこの音楽の有益性をほのめかしてもいます。

JH:サイケデリック・セラピーは現在世界中でやっと合法的なセラピーの形として成り立ってきた。しかしまだサイケデリック・セラピーのなかで音楽の健康における有益性は語られていない。そういうなかでぼくが小さな波をおこし議論を広げていけたらと願うね。サイケデリック分野にむけた音楽制作として、ぼくが思うに今回のアルバムはふたつの役割があって、ひとつは過去制作してきたのと同様にアルバムそのものとしての役割。もうひとつはセラピー体験ができるサウンドトラックとして。音楽にはセラピーのパワーがあると信じているし、それは薬を併用するかしないかは関係なく、音楽そのものが心を開放するパワフルなセラピーとして、つまりサイケデリックそのものだよ。

強烈な幻覚体験をした人が作った音楽は、その強烈さの共有を望むあまり、過剰なトランスになってしまいがちだと思います。ぼくがあなたのこの作品で好きなところは、リスナーに対しての強制するところがないところです。無視することもできるという意味では、サティやイーノのアンビエント・コンセプトに近いものだとも言えると思いますか?

JH:いや、それはちょっと違うな。もし小さい音量でリラックスしながら寝転がって聞いていたらそういう(無視できるような)風にも捉えられるんだろうけど、ぼくはいいスピーカーで大きな音量で聴いてもらえるよう意図して制作したし、ぼくにとってこれはアンビエントではなく、感情的で情熱的な経験を伝えるものなんだ。もちろん作品を仕上げてリリースした後はどう聴いて捉えるかはリスナー次第だし、それはコントロールできないけど。もしぼくの意図を知りたいのなら、いいヘッドフォンで大音量で聴くことを薦めるよ。意図して盛り込んだビートもあるし、リラックスして聴く音楽ではないんだ。なのでもちろんバックグラウンド・ミュージックとして楽しむこともできるけど、アンビエントではない。イーノを例にあげたように無視することもできる興味深い音楽ではないね。ぼくの意図はアンビエントという方向ではなく、もっと激しいものなんだ。静かな部分もあるけれど後半はまったくそうではないし。なのでリスナーには大音量で聴いて欲しいな。

サイケデリック・セラピーは現在世界中でやっと合法的なセラピーの形として成り立ってきた。しかしまだサイケデリック・セラピーのなかで音楽の健康における有益性は語られていない。そういうなかでぼくが小さな波をおこし議論を広げていけたらと願うね。

今作を制作するうえでのイクイップメントで、なにか特別なことをされましたか?

JH:とくに何も変えてはいないよ。ぼくはエイブルトンというとてもクリエイティヴなプログラムを使っているけど、強いて言えば、3月のアルバム制作中にスタジオを引っ越したことかな。ちょうど曲を書いている途中、もう終盤だったけど。前のスタジオは小さな部屋で自宅から離れていたのでコロナ禍でも毎日通っていたけれど、3月に自宅に併設した新しいスタジオが完成した。素晴らしいスタジオでそこでアルバム制作を終えることができたのはとても嬉しかったよ。
機材に関してはMoogOneというシンセをよく使ってたし、事前録音されたバイオリンなどの処理されたアコースティック音源もTayos Cavesの隠し味として使った。弦や管楽器のオーケストラ演出みたいにね。隠し味なのであまりわからないだろうけど。また再サンプリングや処理された音(processed sounds)もたくさん使ったかな。アルバム後半でベル音が聴こえると思うけど、これはベルではなくてぼくがガラスを弾いて出た音を録音したものでね。自分のまありにある世界に心を開いて、まわりの音に興味を持って色々試したんだ。

最後の曲に入っている朗読は、テレンス・マッケンナの本からの言葉でしょうか? 

JH:これはラム・ダスの言葉だよ。これを入れた目的はアルバムの締めくくりとしてで、取り入れたのはラム・ダスの1975年の昔の言葉なんだけど、彼が語りかけているのは、本当の自分とは何なのか、自分の両極性、思考のさらに向こうに存在するものを見つけ、精神を落ち着かせて心を開き、精神のざわつきに惑わされず身体の、そして心の奥底にあるものに集中するよう、身体にとらわれずに本来の魂でいるように、と説いていると思う。意識のある思考ではなく心で生きるように、とね。

いまでも1日2回、20分の瞑想を欠かさずされていますか? 

JH:その通り、ぼくは毎日瞑想をしていて、ぼくがやってるのはトランセンデンタル・メディテーション(超越瞑想)なので、集中する必要はないし簡単にできるんだ。現代では常にいろいろなモノの誘惑があり、惑わされるけど、トランセンデンタル・メディテーションではマントラを心で唱なえがらも、いろんな思考が沸き上がってくるのはOKなんだ。そのほうが自然だし楽だよね。ただ座って集中しなきゃってのは何だかストレスがかかるしね。朝起きて20分、夜夕食前とかにもするから1日2回合計40分やっているんだけど、椅子にリラックスして座って、ただ自分の心のなかでマントラを繰り返すんだ。

いつからこの瞑想をしているのですか?

JH:トランセンデンタル・メディテーションをはじめたのは2015年から。その前は2001年から呼吸法を主にした禅スタイルにも近いヨガの瞑想法を学んで20年ほど実践していたけど。トランセンデンタル・メディテーションに出会ってからより楽に毎日瞑想できるようになった。瞑想をはじめたきっかけは、20代前半に慢性的疲労症候群にかかったことで、アドレナリンが出過ぎてしまう病気で、筋肉も疲れてたんだけど、21歳のときかな、なんとかしなくてはと必要に迫られ、内側から自分を癒す必要があると思って瞑想をはじめた。そこからぼくの人生に欠かせない一部となった。瞑想に出会ってなければいまのぼくはいなかったかも。

最後にリスナーへのメッセージをお願いします。

JH:そうだね、リスナーがこのアルバムを楽しんで聴いてもらって、この厳しい時代に新しい視点を持ってくれてそれが彼らの助けになれば嬉しいな。願わくば大音量で良い音質で聴いてもらいたいよ。楽しんでもらえればそれがいちばんだけど。

ザ・レインコーツのファンも
ポスト・パンク・ファンも
ラフトレードのファンも必読の書で、
あなたの人生観を変えるかもしれない名著です

いま日本でようやく公開される1979年ロンドンのアナーキー&フェミニズムの世界へようこそ。ジョン・ライドンもカート・コベインも愛した奇跡のバンド、その革命的なデビュー・アルバムとメンバーの生い立ちからそれぞれの歌詞や彼女たちの思想について、『ピッチフォーク』の編集者がみごとな筆致で描く。

1979年、ロンドンで結成された女性4人組のバンド、ザ・レインコーツ。そのデビュー・アルバムは、新しい文化潮流の重要起点になったという意味において、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファーストやセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!!』などと同じ類いの作品であると21世紀の現代であれば言えるだろう。

この家父長制的な社会において、長いあいだ不当な扱いを受けながら、その後の多くの女性音楽家たちを勇気づけたそのバンドの名作の背景が、いまここに明かされる。

舞台は1979年のロンドン、拠点となったのは、マルクス主義とフェミニズム思想の影響をもってオープンしたレコード店〈ラフトレード〉。

店が立ち上げたレーベルからデビューしたザ・レインコーツは、当時ジョン・ライドンがもっとも評価したバンドだった。のちにカート・コベインがそのレコードを買うためにメンバーが働いていたアンティック・ショップにまで足を運ぶほどの熱烈なファンだったことでも知られる。

『ザ・レインコーツ』はポスト・パンク・ファン待望の一冊であり、いまだ家父長制的な文化が優位なままの日本の未来のためにも、まさにいま読むべき一冊だ。最高の読後感が待っています。

目次

収録曲 Tracklist
序文 Preface

1 One
2 Two
3 Three
4 Four

結びに Epilogue
謝辞 Acknowledgments
引用・参照資料 Works Cited
索引
編者による補足

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LIBRO - ele-king

 90年代後半から日本のヒップホップ・シーンで活動を開始し、一時的にラッパーとして活動休止の期間があったものの、2014年以降は毎年コンスタントにアルバムを発表していた LIBRO。今回のアルバム『なおらい』は前作『SOUND SPIRIT』から約3年ぶりのリリースとなったわけだが、3年というブランクが空いたのはコロナによるパンデミックが強く影響していたのは言うまでもない。コロナ禍の中で制作されたという本作は、つまり世の中が閉塞感に包まれている中で生まれたわけだが、このアルバムから感じるのは閉塞感の後に来る解放感であり明るい未来だ。例えば1曲目の “ハーベストタイム” は「収穫期」を意味しているわけだが、コロナによる苦難の時期を超えたいまの状況ともリンクし、2021年秋といういまのタイミングだからこそ、より多くの人の心に強く刺さる作品になっている。

 今回は全曲のプロデュースを LIBRO 自身が手がけており、さらにDJミックスのようにそれぞれの曲がスムースに繋がるような形で構成されている。メローな曲調であったりアッパーなド直球のブーンバップであったり、曲ごとに様々なスタイルを織り交ぜつつ、アルバムとして全体的な統一感は2014年以降にリリースされた彼のアルバムの中でも抜きん出ている。統一感という意味ではラップおよびメッセージの部分も同様で、様々なテーマの中に地に足のついた日常を感じさせる視線が貫かれており、価値観の変化や多様性を歌った「プレイリスト」のような曲であっても、決して押し付けがましくなくスッと耳に入ってくる。それはもちろん、LIBROのラッパー/ヴォーカリストとしての高い魅力が、彼のメッセージをよりダイレクトに伝えるという効果もあるだろう。さらに言えば、たまに出てくるオートチューンの使い方も見事で、彼自身が自分の声の使い方をいかに理解しているかがよく分かる。

 声という意味では、本作ではゲスト・アーティストの起用も絶妙だ。“シナプス” ではMCバトルのシーンで活躍する句潤と MU-TON が参加しているのだが、彼らは通常のバトルMCとは少し異なり、まるでセッションのようなバトルを展開することで知られる。“シナプス” は本作中最もハイテンションな一曲だが、三者三様なフロウのマイクリレーから一体感あるフックへの流れへの緩急の付け方も素晴らしく、実にタイトな仕上がり。もうひとつのゲスト参加曲 “ヤッホー” では客演キング=鎮座DOPENESS が参戦し、牧歌的とも言えるメロディアスなトラックに実に伸び伸びとした自由なフロウが展開されており、思わず笑みが溢れてくる。2曲とも全くタイプは異なるが、声の組み合わせはいずれも見事としか言いようがない。

 ラスト曲の “ハーベストタイム Remix” まで無駄な曲はひとつもなく、前述したように全て曲が繋がっているため、気がつけばあっという間にアルバムが終わり、そしてまた頭から繰り返す。聞いていて本当に心が晴々とするし、これほど心の底から気持ちの良い作品はそうそう出会うことはないだろう。2014年の再始動以降の LIBRO をずっと追ってきたファンはもちろんのこと、彼の 1st アルバム『胎動』にリアルタイムにやられた世代の人たちにもぜひ聞いてもらいたいアルバムです。

edbl - ele-king

 いろいろとサウス・ロンドンが話題に上る昨今だが、ひとくちにサウス・ロンドンと言ってもいろいろなタイプのアーティストがいる。いちばん注目を集めるのがペッカムあたりを中心としたサウス・ロンドンのジャズ・シーンだが、その中でも同じジャズの括りながらやっていることはかなり異なっていたりする。
 近年勢いのあるのがサウス・ロンドンのロック・シーンで、ブリクストンのゴート・ガールはじめファット・ホワイト・ファミリードライ・クリーニングなど新しいアーティストが次々と登場している。そしてもうひとつがシンガー・ソングライターたちで、トム・ミッシュロイル・カーナージェイミー・アイザックオスカー・ジェロームキング・クルール、プーマ・ブルー、ジョルジャ・スミス、エゴ・エラ・メイなどが出てきた。オーストラリアから移住してきたジョーダン・ラカイもこうした中に含まれる。
 シンガー・ソングライターと言ってもこれまたいろいろなタイプがいて、ロック寄りのキング・クルール、ジャズ寄りのプーマ・ブルー、ヒップホップ寄りのロイル・カーナー、ソウル寄りのジェイミー・アイザックと音楽性はそれぞれ異なる。ラップを得意とする者、純粋な歌を得意とする者さまざまで、ソングライティング方法もミュージシャン・タイプの人からビートメイカー・タイプの人といろいろだ。また、オスカー・ジェロームはジャズ方面でも活動するミュージシャンでもあり、トム・ミッシュもジャズ・ミュージシャンとのコラボをいろいろおこなっている。

 edbl(エド・ブラック)もこうしたサウス・ロンドンを拠点とするアーティストで、トム・ミッシュなどシンガー・ソングライターの括りに入れられる。と言っても彼自身は歌わないので、純粋に言えばソングライター/トラックメイカーとなる。
 もともとリヴァプール近郊のチェスター出身で、リヴァプール芸術学校に進学して音楽を専攻している。最初はロックを聴いていたエドだが、リヴァプール芸術学校時代にシンガー&ギタリストのエディ・スレイマンと出会って一緒に音楽を作るようになり、彼の影響でヒップホップやR&Bへと興味が変わる。エディ・スレイマンとバンド活動をする中で、ソングライティングやギターをはじめとした楽器演奏のスキルを磨き、その後ブリクストンに移り住んでソロで活動している。2019年に初リーダー作品をリリースし、その後ビート集やミックステープをリリースし、そうして作られた50曲ほどの作品の中から選りすぐられた日本独自の編集アルバムが『サウス・ロンドン・サウンズ』である。

 ギター、キーボード、ドラム・マシンを操るエドは、まずギターのコードから楽曲作りをはじめ、それに合わせてビート・メイキングをしていくスタイルだ。センチメンタルなギター・リフにはじまる “ノスタルジア” あたりが、そうしたギターを中心とした作曲を身上とするエド・ブラックらしさが出たナンバーである。この曲ではタウラ・ラムという女性シンガーが歌っているが、そのほかにもコフィ・ストーン、ザック・セッド、ティリー・ヴァレンタイン、キャリー・バクスター、ジャーキ・モンノ、ヘミ・ムーア、ブラン・マズ、アイザック・ワディントン、ジェイ・アレクザンダー、ジョー・ベイ、JAE と多くのシンガーやラッパーたちがフィーチャーされている。エドと同じくロンドンを中心とした新進の若手アーティストたちで、次のトム・ミッシュ、次のジョルジャ・スミスを担う人材である。本作を聴くと、エド・ブラック以外にもまだ名の知られていないアーティストたちがこんなに控えているのかと、サウス・ロンドン及びロンドンの人材の豊富さに驚かせられる。

 JAE が歌うネオ・ソウル調の “レス・トーク” はじめ、全体的にR&Bマナーの楽曲が多い。アイザック・ワディントンが歌う “ザ・ウェイ・シングス・ワー” はトム・ミッシュの作品に繋がるような楽曲で、エドのエモーショナルなギター・ソロもフィーチャーされる。“ワット・ネクスト” や “マグピーズ” などインスト曲も充実していて、ブラジリアン風味のギター・リフとホーン・アンサンブルが印象的な “ワット・ネクスト” では、J・ディラ譲りとも言えるビート・メイキングが冴えている。“マグピーズ” におけるエレピとギターのコンビネーションも心地よく、基本的にエド・ブラックはこうしたメロウネスを生み出すツボを心得たアーティストだというのがよくわかる。“edblギター”もギターを中心にエレピ、ホーンの演奏によって美しいメロディを紡いでいくナンバー。フランスのFKJ、アメリカのキーファーなど、ここのところ生楽器演奏をふんだんに用いた美メロのトラックメイカーが人気を博しているが、エド・ブラックも今後そうしたひとりに数えられることになるだろう。

rei harakami - ele-king

 今年で没後10年を迎えたレイ・ハラカミ。彼が音楽家としてデビューする以前、映像作家だった時代に発表していた2本のカセットテープ作品がリマスタリングを施されリイシューされる。フォーマットはCDとカセットテープの2種類で、12月29日発売。4トラック・カセットMTRなどで録音された貴重な音源に触れられる絶好の機会を、お見逃しなく。

『rei harakami / 広い世界 と せまい世界』
日本が世界に誇る、今は亡き音楽家rei harakami(レイ・ハラカミ)が、デビュー前に4トラック・カセットMTR等で宅録して発表された、
幻のカセットテープ音源『広い世界』と『せまい世界』が、リマスタリングされ貴重なアーカイヴ音源として改めて世に放たれる!!

音楽家のレイ・ハラカミのデビュー前、映像作家の原神玲として活動していた時代に、カセットテープで発表された2本の作品を、改めて世に送り出します。
未発表音源ではありません。限られた範囲でしたが、外に向けて発表された音楽が収められています。大仰な言葉でこの音楽を紹介すると、レイ・ハラカミに叱られると思いますから、控えめに言います。傑作です。(原 雅明 ringsプロデューサー)

マスタリングは、当時のカセットテープをマスターとして使用し、レイ・ハラカミ作品の再発レコード盤のマスタリングを担当してきた、山本アキヲによるもの。
また、ジャケットの油絵は、レイ・ハラカミのジャケットやその他グッズなど一連のキャラクターの絵を担当しているtomokochin-pro(Tomoko Iwata)、ジャケットのデザインは、contrast 真家亜紀子が手掛けている。

アーティスト : rei harkami(レイ・ハラカミ)
タイトル : 広い世界 と せまい世界

発売日 : 2021/12/29
レーベル/品番 : rings (RINC83)
フォーマット : 2CD
価格:3,000円+税
バーコード:4988044071568

発売日 : 2021/12/29
レーベル/品番 : rings (RINT1)
フォーマット : CASSETTE TAPE(限定盤)
価格:2,273円+税
バーコード:4988044071575

Official HP : https://www.ringstokyo.com/rei-harakami-hiroisekaisemaisekai

Call Super & DJ Trystero - ele-king

 ファッション・ブランド〈C.E〉からまたも気になるカセットテープの登場だ。
 ひとつは、〈Houndstooth〉やアンソニー・ネイプルズ主宰〈Incienso〉からのリリースで知られるロンドンのコール・スーパーによるミックス作品(以前、別名義の Ondo Fudd としても〈C.E〉から出したことがある)。
 もう1本は、〈The Trilogy Tapes〉から作品を発表している DJ Trystero によるミックス。こちらはアンビエントな佇まいです。
 いずれも〈C.E〉のサイト(https://cavempt.com/)にて試聴可能。ぜひチェックを。

アーティスト:Call Super
タイトル:CE recording - The People Within Us, The Lives Unlived
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約90分(片面約45分)
価格:1,100円(税込)

アーティスト:DJ Trystero
タイトル:DJ Trystero
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約60分(片面約30分)
価格:1,100円(税込)

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発売日:2021年11月5日金曜日
販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
#201 From 1st Building, 5-3-10 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, Japan 107-0062
問合せ先:C.E https://www.cavempt.com/

Disclosure - ele-king

 兆しはあった。振り返ってみれば、ディスクロージャーが一年ほどの小休止を挟んだあとにリリースした「Moonlight」と「Ecstasy」のふたつは、いまの彼らの気分を表していた。ラジオでヘヴィ・プレイされるためのポップ・ソング、もしくは巨大フェスのメイン・ステージでスピンするためのバンガー、彼ら兄弟はずっとその道を歩き続けてきたわけであるが、これらのEPにおいてよりフロア向けのダンス・ミュージックを提示したことは、兄弟の歩む方向に、また別の道があることを示している。あるいは、デトロイトのマイク・ハッカビーに追悼の意を表明したこと(僕は追悼記事を読んで知った)、シカゴのケリ・チャンドラーとB2Bで回したことなどの事実を掘り起こしてみれば、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを若くして埋めたUKの売れっ子にも、それとはまた別の顔があるのだとわかる。ディスクロージャーといえばサム・スミスとの “Latch” であり、カリードとの “Talk” であり、マック・ミラーとの “Blue World” であるかもしれないが、同時に、UKのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックに敬意を抱くミュージシャンであり、また、デトロイトやシカゴで生まれたハウス・ミュージックを愛するDJでもあるのだ。

 そういう意味で、有名ミックス・シリーズである『DJ-Kicks』にディスクロージャーが抜擢されたことは、兄弟の別の道、別の顔を明らかにする良い機会といえよう。兄のガイ・ローレンスが「汗だくな地下のレイヴでプレイしたい」と結論づけるように、ビッグ・ルームなダンス・ミュージックやヴォーカル入りのポップ・ソングではなく、ハウス、ディープ・ハウス、アフロビート、ジャングルを軸に、あまり広くない地下のクラブで聴きたくなるようなミックスに仕上げている。オープナーのアンビエント・トラック “Recollection” から、アルファとジョーによるジャングル・トラック “Recognise” のクローザーまで、もちろん通しで、すべてをひとつの物語として聴いてほしい。
 もちろん、要所での聴きどころもあり、それはディスクロージャーによって提供されたふたつの新曲になるだろう。“Deep Sea” は、前後に配置されたハリー・ウルフマンやサイモン・ヒンター(彼らのDJやプレイリストではおなじみの名前)と同様のフィーリングを持つディープ・ハウスで、“Observer Effect” はむき出しのアシッドなダンス・トラックで、曲の中間ではほぼ無音になり、そこからフィルターによって再び展開していく様はやはりミックス全体の流れで聴きたいところだ。
 そして、もうひとつ僕が注目したいのは、“Fire” のディスクロージャーによるエディット。オニパというガーナとロンドンで発足したプロジェクトによる楽曲で、原曲の大部分は残しつつも、そこにディスクロージャーによってプログラムされたキックやハイハットが重ねられ、よりダンサブルな仕様に。マリ共和国はファトゥマタ・ジャイワラとのコラボレーション、カメルーンはエコ・ローズヴェルトによる楽曲のリエディットや、〈Habibi Funk〉からリリースされたスーダンはカマル・ケリアによる楽曲のサンプリングなど、近年の彼らのサウンドを聴くと明らかにアフリカ大陸の音楽にぞっこんであり、それはこのミックスにも、彼らのいまを表すひとつの気分として添えられている。

 アップル・ミュージックは近年、そのサブスクリプション・サーヴィスにおいてミックス作品をより多く利用可能にしようと動いている。例えばボイラー・ルームの映像はミックスとして一部は聴けるようになっているし、今年の10月に『DJ-Kicks』の過去のカタログも追加されている。僕らは技術的にはシャザムの発明に感謝しつつも、DJによるミックスが、作品として正当な評価を得られる土壌ができつつあることにも感謝しなければならない。そんなタイミングでディスクロージャーがミックス作品を提供することは、この流れにも拍車がかかりそうで何とも嬉しい気持ちにさせてくれる。ミックスにはミックスなりの、アルバムやその他フォーマットにはない、あるいは見せられない表現がある。彼らがどこから来て、いまどこにいるのか、そしてどこに向かっているのか。ディスクロージャーはハウスを軸にしながら、その過去、現在、未来をプレゼンしている。

政治家失言クロニクル - ele-king

なぜ、こんな発言を繰り返すのか……
「妄言」「暴言」「迷言」でたどる、ニッポンの戦後史!

政治家の失言は社会を映す鏡。その変遷から社会の変化が見えてくる!

気鋭のカルチャー批評コンビが、戦後の日本社会を騒がせた数々の失言をピックアップ。
失言を通してコンパクトに日本の戦後政治史を学べる一冊です。

失言リストより
「日本の朝鮮統治は恩恵も与えた」(久保田貫一郎)
「現行憲法は他力本願」(倉石忠雄)
「佐藤栄作さんは財界のちょうちん持ち、財界の男メカケだ」(青島幸男)
「社会党、共産党は日当五千円で学生を暴れさせている」(荒船清十郎)
「日本は単一民族だから教育水準が高い」(中曽根康弘)
「アッケラカンのカー」(渡辺美智雄)
「なりたくて首相になったんじゃない」(宇野宗佑)
「どの女と寝ようがいいじゃないか」(小沢一郎)
「アメリカでは停電になると、必ずギャングや殺し屋がやってくる」(森喜朗)
「長野県でエイズ患者が増えているのはオリンピック絡みである」(加藤紘一)
「不法入国の三国人などの騒擾事件には治安出動してもらう」(石原慎太郎)
「投票に行かないで寝ててくれればよい」(森喜朗)
「非武装中立論ほど無責任な議論はない」(小泉純一郎)
「女性は子どもを産む機械だ」(柳澤伯夫)
「私の友人の友人がアルカイダ」(鳩山邦夫)
「ナチスの手口を学んだらどうか」(麻生太郎)
「まず自分が産まないとダメだぞ」(大西英男)
「まだ東北でよかった」(今村雅弘)
「こんな人たちに負けるわけにはいかない」(安倍晋三)
「『生産性』がない」(杉田水脈)
「戦争しないとどうしようもなくないですか」(丸山穂高)

目次

まえがき
第一章 終戦から55年体制へ 1945~1963年
 現代とは質の異なる「失言」/翻弄される「革新」/ラジオの時代/バカヤロー解散/55年体制の成立と核の脅威/太陽族と石原慎太郎の登場/声なき声
第二章 高度経済成長の時代 1964~1988年
 高度経済成長から政治の季節へ/過去の単純化/テレビの普及と学生運動/社会の安定と労働運動の退潮/サブカルチャーと政治/メディア政治の始まり/右派のロマンとサブカルチャー/新中間層の登場/ジャパンアズナンバーワン時代とミスター80年代/単一民族幻想と日本特殊論/バブル絶頂下での政治意識
第三章 平成初頭 1989~2011年
 90年代の政治意識/サブカルと政治/大変動と「政治離れ」のはじまり/ナショナリズムの台頭/タテマエとホンネ/デフレと文化/世紀の変わり目/曖昧な不満と小泉フィーバー/自己責任論と脱社会傾向/どんよりしていく時代/麻生政権のゼロ年代性/ネットという「現場」
第四章 失言2.0 2010年~
 ネットで政治を語る/エモさと軽さ/加熱するネット情報戦/動員と扇動/政治のサブカル化/エコーチェンバー空間/変わりゆくものと変わらないもの/コロナ禍とオリンピック
テーマ編その1 歴史認識と軍事
 「ぶっちゃけ」の台頭/失言の活性化する80年代/戦後50年決議/記憶の書き換えと歴史戦/「心地よい物語」に抗する多元的な思考
テーマ編その2 核と原子力
 戦後日本にとっての「核」/原発の建設と科学への信頼/テクノロジーを前提とした生活
テーマ編その3 差別
 差別発言の増える80年代/外国人労働者の増加
まとめ対談
あとがき

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 これは期待の膨らむコラボだ。アンビエントをはじめ幅広い活動を繰り広げるナカコー、今年〈ハイパーダブ〉から新作を送り出したプロデューサーの食品まつり、大ヴェテラン・ドラマーの沼澤尚(ナカコーとの関係も深い)によるライヴ・セッションが音盤化される。いろんな要素がクロスオーヴァーした音楽に仕上がっているようだが、はてさて、いったいどんなサウンドが鳴り響いているのか……発売は年明け後の1月12日。いまから楽しみです。

ナカコー×食品まつり×沼澤尚!
待望の初音源リリース決定!!

三者三様、独自の音楽観に定評あるクリエーターよる膨大なセッション音源をナカコーがトリートメント! 静寂の中の心地良さにどこか引っ掛かりを残したアンビエント的オルタナティブポップミュージック!

Koji Nakamura (electronics)、食品まつりa.k.a foodman(electronics)、沼澤尚(Dr)がスタジオに入り素材録音ために敢行した即興的なライブセッションをナカコーがトリートメント(Extraction、Edit、Mix)した全7曲のアルバム『Humanity』が2022年1月12日にリリースとなります。

アンビエント、エレクトロポップ、ダンスミュージック、ロックがクロスオーバーした一種のオルタナティブなポップミュージックはニューノーマルな日常にピッタリ寄り添う今日的な録音作品と言えます。

[リリース情報]
アーティスト:Koji Nakamura+食品まつりa.k.a foodman+沼澤尚
タイトル:Humanity
レーベル:felicity / P-VINE
品番:PCD-18891
フォーマット:CD / 配信
価格:¥3,300(税込)(税抜:¥3,000)
発売日:2022年1月12日(水)

[収録曲]
M1. no.1
M2. no.2
M3. no.3
M4. no.4
M5. no.5
M6. no.6
M7. no.7

[プロフィール]

【Koji Nakamura】
1995年地元青森にてバンド「スーパーカー」を結成し2005年解散。その後、ソロ活動をスタート。アーティスト活動他、コンポーザーとしてCMや劇伴、多くの楽曲提供を行う一方、バンド「LAMA」「MUGAMICHILL」としても活動中。また日本のアンビエントを牽引すべく、『HARDCORE AMBIENCE』をduennと共に主宰し、映像やライブを展開中。

【食品まつりa.k.a foodman】
名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、現在までNY、UK、日本他の様々なレーベルから作品がリリースされている。また、2016年の『Ez Minzoku』は、海外はPitchforkのエクスペリメンタル部門、FACT Magazine, Tiny MixTapesなどの年間ベスト、国内ではMusic Magazineのダンス部門の年間ベストにも選出されてた功績を持つ。

【沼澤 尚】
ドラマー。LAの音楽学校P.I.T.に留学。JOE PORCARO,、PALPH HUMPHREYらに師事し、卒業時に同校講師に迎えられる。2000年までLAに在住し、CHAKA KHAN、BOBBY WOMACK、AL.McKAY&L.A.ALL STARS、NED DOHENY、SHIELA E.などのツアーに参加し、13CATSとして活動。2000年に帰国して以降現在まで、数えきれないアーティストのレコーディングやライブに参加しながらシアターブルック,blues.the-butcher-590213で活動中。

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