「Nothing」と一致するもの

The Ephemeron Loop - ele-king

 たまに何年かにいっぺん、サウンドの激烈さによるインパクトをもって衝撃を与える音楽作品がある。近年で言えば『リターナル』がそうだったろうし、古くはルイジ・ルッソロ(古すぎか)、たとえばヴェルヴェッツやジミ・ヘンドリックス、アシュ・ラ・テンペルのファースト、ボアダムス、オウテカ、あるいは『ラヴレス』とか……騒音芸術の系譜を引きながら超越的であろうとするこれら狂おしき連なりに、いまあらたにジ・エフェメロン・ループの『サイコノーティック・エスケイピズム』が加わった。痛ましくも烈しいこの音楽は、先週末ようやくbandcampでアルバム全体が聴けるようになったのだ。
 
 ジ・エフェメロン・ループは、出身はウェールズだが、現在はリーズを拠点とするアーティストで、最近はVymethoxy Redspiders(ヴァイメソキシー・レッドスパイダーズ——でいいのだろうか)なる名義で活動していたようだ。つまり、まったくの新顔ではない。Guttersnipe(ガッタースナイプ)なるノイズ・バンドのメンバーだったこともあって、その際の名義はUroceras Gigas(ユロセラス・ギガス——でいいのだろうか)という。とにかく日本人には読みづらいスペルの名義を多数持っていることが、discogsを見ているとわかる。そして彼女はトランス・ウーマンである。
 『クワイエタス』に掲載された彼女のインタヴューを読むと、彼女の音楽遍歴と並行して、アイデンティティの葛藤、ドラッグ体験の数々、LGBTコミュニティとアンダーグラウンドなレイヴ・カルチャーやなんかが赤裸々に語られている。誤解を避けるために言っておくと、彼女は一昔前のロック文化のようにドラッグをロマンティックに語っているわけではない。ただそれは、彼女にとっては触媒だった。「サイケデリック・ドラッグはトランス・ウーマンとしての自分を認識するうえで重要な役割を果たし、音楽に対する認識を完全に変えてくれた。3回目のトリップはまさに画期的な再生体験だった」と、ジ・エフェメロン・ループは話している。
 本作は2008年から作りはじめていたそうで、音楽的に言えば、彼女がこれまで心酔したあらゆる音楽——シューゲイザー、ブラック・メタル、ノイズ、ダーク・アンビエント、スラッシュ・メタル、グラインド・コア、ハード・テクノ、ダブ・テクノ、ドリーム・ポップ等々——が無秩序に取りまとめられている。アルバムはカミソリのようなノイズからはじまるが、途中でダブ・テクノに急転したり、コクトー・ツインズ流のエーテルがミックスされたりとか、節奏がないといえばない。荒削りだ。
 しかしながらこの音楽にぼくは、感情のレヴェルにおいても突き刺さるモノを感じるのだ。サウンドが伝える切実さにおいて、彼女が自分の人生をかけて、大げさに言えば命をかけてこの作品を作っていることがぼくには理解できる。小さな知識と小手先だけで作られた軽々しいエレクトロ・ポップな作品とは訳が違う。ギリギリのところから這い上がってきた音楽、いま我々にとっての避難場所があるとしたら、このぐらい過剰に内的で、刹那的でしかありえないと言わんばかりの。
 本人の解説によると「コクトー・ツインズ、アルカ、ベーシック・チャンネル、ナパーム・デスのあいだに位置する」とのことで、bandcampの解説をそのまま引用すると、「リーズのクィア・アンダーグラウンドでシューゲイザー、レイヴ、サイケデリック・ドラッグに傾倒した彼女の悲惨な人生を打破するため、ミスVRはこのアルバムを書くのに14年もの長い年月と困難を要した。ネガティヴな感情に苛まれ、エクストリーム・ミュージックをサウンドトラックとした生活は、陶酔、高揚、そして恍惚とした自由を体験する機会に取って代わられ、その感情は 『サイコノーティック・エスケイピズム』で官能的に凝集されている」。
 
 ホログラフィックなヴィジュアルを装いながら、完璧なアンダーグラウンドからやってきたこの音楽を、ぼくが10年後に聴いているかどうかはわからない。しかし、たった“いま”、このときにおけるインパクトにはすごいものがあるし、それで良いと。いまにも倒れそうだというのに、その先のことまで考えられないだろ。

 

interview with Kikagaku Moyo - ele-king

 5枚目のアルバム資料にさらりと綴った「最後の作品」の文字──2018年の4作目『マサナ寺院群』のそれまでの階梯を一段階昇りきったかのような充実ぶりと、それにつづくクルアンビン、コナン・モカシンらとジョイント、北米、欧州、北米、欧州、北米、豪州、欧州また米国とオセロのごとくつづくツアーの活況ぶりを知るものには先のいち文はにわかには信じがたい。「最後」というからには幾何学模様名義のスタジオ・アルバムは本作以降出ないということなのであろう。思えば、2013年高田馬場の路上に蝟集した若者たちの集合体としてはじまった幾何学模様は、既存のアシッド・ロック~サイケデリアのフィールドにおさまらない活動を模索するなかで、国内シーンを一足飛びに海外に活路をみいだすと、ほどなくその特異な音楽性と風貌で異彩をはなちはじめる。むろん止むことのないライヴの日々あったればこその評価だが、多国籍とも無国籍ともつかない折衷性とロウファイなテクスチャーをおりこんだ幾何学模様サウンドには中毒的な魅力があり、その存在感が増しつつあるいま、活動休止の報はいかにも唐突である。
 どのような経緯で彼らはそのような結論をみいだしたのか。そのまえに『Kumoyo Island(クモヨ島)』といういっぷう変わった題名のアルバムの、トライバルでヒプノティックな魅惑の音世界はどのようにできあがったのか。トモ・カツラダとともに幾何学模様をたちあげ、ドラマーとしてバンドの屋台骨をささえるゴウ・クロサワにオンラインで話をうかがった。バンド活動への明解な考え方が気持ちのよい取材だった。

ミニマルな音楽ってつくるのは簡単そうですが、グルーヴがちゃんととれていないと気持ち悪いと思うんです。

こんにちは。東京はいま午後5時ですが、そちらは──

Go:朝10時すぎです。仕事をはじめる時間です。

会社員みたいですね。

Go:それやらないために音楽やっていたはずなんですが(笑)、そういう感じになっています。

アムステルダムに拠点を移されたのはいつからですか。

Go:5年ほど前、2017年くらいです。いまメンバーも3人こちらにいるんです。僕とギターのTomoのふたりで来たんですが、去年の12月くらいに弟のRyu(シタール)が引っ越してきました。

もう5年もいると慣れたものなんじゃないですか。

Go:そうなんですけど、一昨年のコロナ(パンデミック)までツアーからたまに帰ってきて2週間くらいすごしてまたツアーに出ることのくりかえしだったので街をディグるまもなく、おちついたかと思ったらコロナになっちゃって、半年前くらいからようやくここに住んでいるんだなと実感がわいてきました。でも住みやすくていいところですよ。物価はヨーロッパの中ではちょっと高いですけど、ほぼ英語だけで生活できるし治安もいいし。自転車だけでどこでも回れるのでいい感じです。

オランダ語が話せなくてもなんとかなるんですか?

Go:オランダ語はまったく話せなくても大丈夫だと思います。アムスにかんしては外国人が35%なので公的な書類や税金関係もすべて英語で対応できますし外国人には楽な街です。

ロシアのウクライナ侵攻の余波ありますか。

Go:目にみえる範囲ではないんですが、友人に聞いたらベルリンでは(ウクライナから避難してきたひとを)受け入れているみたいで、体制も整いつつあるようです。僕はアムスの街のど真ん中に住んでいてふだんまわりは観光客ばかりで、いろんな国の言葉が聞こえてくるんですが、最近は東欧の言葉の響きが目立ってきたような気はします。ウクライナの方もおそらくいると思うんですが、見た目だけでは判断できません。ただ街中にウクライナの国旗が掲げてあるという感じで、オランダもEUの一員なんだなという感じはあります。ただロシアのひとも多いですから違和感を感じているひともいるかもしれません。

Ryuさんが移られてきて、現在は3人がアムステルダム在住ということは新作の制作はどのように進めたのでしょう?

Go:2020年の2月まではツアーだったんですね。僕はオランダに来る前までは物流関係の会社に勤めていたので仕事と並行でツアーをしていたんですよ。有給をとってツアーに行く感じだったんです。仕事を辞めからは5年くらい、100箇所を5~6ヶ月かけてまわるツアーをほぼノンストップでくりかえしていました。2019年までそれがつづいて、2020年はちょっと休もうということになったんです。休んでゆっくり曲をつくりたいね、と話していたらいきなりパンデミックになって、はじめは休む予定でしたからちょうどよかったんです。そのときは夏まで、東京オリンピックまでにはなんとかなるという雰囲気もあったので。曲を書きはじめたのはその春先から夏にかけてです。2020年の夏にはメンバー全員オランダにそろってみんな曲をゆっくりつくろうかとなって、一ヶ月くらい泊まりこんだんですけど意外に進まなかったんですよ。

基本的なことをうかがいますが、幾何学模様はどのように曲作りを進めるんですか。

Go:曲の作り方もよくわからなくなっていたんですよ(笑)。それまでもやっていたはずが、あれ!? どうやってつくっていたんだっけって(笑)。それまではフェスのシーズンに間に合わせるために、適当というと語弊があるかもしれないですが、ライヴでできればいいやという感じで、60~70パーセント仕上がりで十分だったんですよ。曲のはじめと終わりさえ決まっていれば、あとは舞台にかけながらアレンジしていくようなやり方でした。ただ(パンデミックで)ライヴが想像できなくなってからはお客さんのもりあがり方を想像するのが難しくなかったんです。それでひと月ほど試行錯誤しつついろんな方法をためしていきました。

2020年の夏の時点では完成した曲はほとんどなかった?

Go:僕がつくった曲が1~2曲あったんですが、時間だけはふんだんにあるので展開なんかをガチガチにかためてしまうんですよ。そういうのばかりだとプログレっぽくなっちゃうというか、サイケのバンドがプログレになってどんどん巧くなってジャズ・ロックにいく流れがあるじゃないですか。
■あるある(笑)。

Go:そういう感じになるからみんなでもっと曲書こうよ、と書いたことのないメンバーにも、全部つくれなくてもフレーズだけ、メロディのアイデアだけでも出すとか、読んだ本や観た映画からのインスピレーションなんかをおたがいにインプットし合って、どうにかしてやろうと声をかけました。Dropboxに月ごと週ごとのフォルダを作って、各自アイデアを入れていったり、あとは週一でオンライン・ミーティングしてただ近況報告しあったり。

制作期間はそれなりに長かったということですね。

Go:時間があったのと自分たちでレーベルもやっているし、締め切りもないし、つくらなくてもだれも困らない、という感じがあったんです。いままでもそうだったんですが(笑)、あれ、これやらなくてもだれも困んないじゃんって、ハッと気づいた。音楽ってありまくるから、そんなにプレッシャー感じず、できたらできたで出せばいいんだな、と思う反面、このままつくれずにみんなのモチベーションが下がっていってツアーもできず、みんなほかのことをはじめて自然崩壊したらイヤだなという思い、どっちもありました。

リリースにさらっと書いてますけど、本作が「最後」なんですか。

Go:去年の夏、アメリカのツアーが終わったあとにみんなで話し合って活動休止を決めました。アルバムをつくりはじめたときは、これが最後とは思っていなかったんですが、コロナの状況もあり、今後メンバー全員が100%の力を注げなくなるのがわかった。そうなったとき、バンドがだんだんアートワーク、MVを含めた全体の作品にもこだわりが薄くなっていったり完成度が低くなったり、見た目も尖った感じがなくなっていって、もうフォローできないわ、という感じになるのはイヤだなというのがあったんですね。自分の好きなバンドでもそういうことになったりするじゃないですか。

あるかもしれません。

Go: アルバムでいうと6枚目、7枚目(笑)。つづけるのはそれはそれでかっこいいけど、パッとやめるのも自分たちらしいなと思ったんですね。友達同士で “遊び” を初めて、友達どうしでその遊びを終える。開いた円を閉じるような感覚です。

Goさんがいいだしたの?

Go:Tomoがいいだして、それはみんなで話し合うべきだということになりました。100%妥協なくやりたいことがやりたかったのと5人の築き上げてきた絆を大事にしたいなという気持ちが大きくて、無理に続けて行こうということもなかなか想像できなかったし、10年間やってきて、あと何年やってどういうバンドになりたいとか、どういうヴェニューに出てどんなフェスに出たいというヴィジョンもなくなっていたんですね。

ある程度実現したということですか。

Go:それこそ去年クルアンビンとツアーしたときに5000~6000人規模の会場が多かったんですが、それだと自分たちのよさもあまり出ないという気もしました。(お客さんの)表情もみられないし、僕らの危なっかしい感じが、遠くからだと伝わりにくいとも思いました。クルアンビンやキング・ギザードみたいに遠くからみていてチルしながら楽しめるバンドでもないし、お客さんと一緒に自分たちの世界をつくっていくバンドだと再認識して、自分たちのベストなキャパシティがみえたのと、現状を維持するのにLAなら1000人規模の会場で3回のショーをするのか、というようなことを考えたとき、わかった感じがひとつあったんですよ。新しいチャレンジがほしいときにそういう感じになったので、はじめはみんなもびっくりして話し合って、ひとりずつ電話で相談したりしました。

脱退という言い方が正しいかはわかりませんが、どなたかがそうなっても別のメンバーが加入してつづけることはバンドではよくある話ですが、そういう選択肢はなかった?

Go:僕らがふつうのバンドと違うのは、(メンバーに)兄弟もいるし2~3年一緒に住んでいたので、スタジオで会って、終わったらじゃあねといって別々になるような関係じゃないというところなんですね。いろんなところを共有してそういう濃さでバンドをやっていたのでその濃さをほかのところからもってきて、ジャムでいい感じになるのがまったく想像できなかった。自分たちの結びつきの強さはよさでもあるし脆さでもあるのだと思います。これまで20代から10年間つづけてきて、みんないろんなひとに会っていろんなこと考えて、いろんな方向に個人個人がいきたくなったりするなかで、バンドはみんなのエネルギーをどうやって集中させてやるかというチャレンジだったという感じです。

老婆心ながらもうしあげると、1000人単位のキャパシティを埋められる認知度はあるわけですから収入としては安定してきたところじゃないですか。それをなげうつのはもったいないという意見もありそうですが。

Go:ただ僕は音楽を仕事にする、プロになってキャリアを積んでいくんだという目標をもっていなかったんですね。

そうなんですか。

Go:いちばんはじめの目標はツアーに出ているあいだの家賃をどう補うかということでした。ツアーに出ているあいだはギャラが出たりご飯も食べさせてもらえたりするからいいんですが、日本の家賃どうすんだという問題があったんです(笑)。バイトもできませんから、ツアーに一ヶ月半出るのであれば、そのあいだに稼げたはずの額をあらかじめ稼いでおかなければならない。そうしないと、帰ってきて超ビンボーになってつづけていけなくなるとわかったんです。どんな楽しいことも、サステイナブルにするにはモチベーションはもちろん経済的な問題も出てくる。そうなるとCD、レコードやTシャツをこれくらい売らなきゃいけないということや、このペースでツアーしなければならない、大きな街ならこの規模でできなきゃいけないんだとか、逆算でわかったんですけど、これで生活していくとは考えていなかったです。メンバーももともと音楽畑のひとじゃないというのもありますし、僕は音楽ビジネスをアメリカで勉強して、どちらかというとバンドよりは音楽のレーベルをやりたかったんですよ。

ミュージック・ビジネスの学校を歩かれたんですか?

Go:ミュージック・ビジネスを専攻して、それこそライターやパブリッシャーに興味があったんですよ。音楽が好きなひとが集まって、音楽をやらないというのはどういうことだろうと思ったんですね。

そういう考え方もあるかもしれないですね(笑)。

Go:音楽を好きなひとたちが集まって違う文化が生まれてくるというか、音楽が好きということだけが共通で出版物をつくったりイベントをやったりフィジカルをつくったり、そういうことに僕は興味がありました。ほかのメンバーも映像を勉強していたり文章を書いていたりで、バンドがなくなることによる収入面での変化を考えるよりも、友だち関係がヘンになってツアー中ケンカしたりするほうがイヤだと直観的に思ったんですよ。だれかがSOSを出しているのに、仕事だからとか決まっているからといってつづけたり、ひとりが抜けたからだれかを入れて関係性が変わったりすることへの、拒否感というほど強くはなくてもイヤだなという思いです。


向かって左下が、今回取材に応じてくれた Go Kurosawa

友だちのライヴに行く? ってなったとき、3000円だと躊躇するけど500円ならまあいいやと思えるというか。そういうことをバンドやりながらも試行錯誤していました。ライヴハウスのノルマ制に疑問もあったので。

お話をうかがうとすごく客観的ですね。人気者なのに過分な自己評価がない。

Go:そもそも日本でやっていたときはこういうバンドはムリだろうなと思っていましたから。最初期にぐちゃぐちゃなジャムみたいなことをやっていたときはお客さんが来る気配もなかったですしね。「ele-king」も読んでましたけど──

ありがとうございます。

Go:そこでとりあげられている音楽と自分たちがやっているのはちょっと違うというか、どこにもつながっていない気がしたんです。アシッド・マザーズの弟子みたいな感じで出てくるわけでもなかったし、先輩後輩的なつながりもなく、だれもバンドをやったことのないところからはじまっていましたから。バンドをはじめるのって高い趣味じゃないですか。機材買ってスタジオに入ってノルマまで課せられてライヴをする、だからといってメジャーになるのも想像できない。それ以外にできる方法としては海外に出ることしか考えられなかったんです。

海外でミュージック・ビジネスを勉強されてきたGoさんにとって日本の音楽産業の構造は異質だと思いますか。

Go:すごくヘンだと思います。

どのへんが?

Go:今回はビートインクさんとのお仕事で、取材もセッティングしていただきましたが、このような流れは海外ではまずないです。レーベルの仕事は音源を出すことであって、PRは基本的にバンド側がエージェントを雇うパターンがほとんどです。マネージメントがレーベル側にいる感じが大きく違うと思います。

日本の音楽ビジネスは芸能事務所の方法論に由来しますからね。

Go:そことちょっと似ている気がしますね。それが良いか悪いかではなくて、合うか合わないかを考える必要はあると思います。そのうえでいろんな選択肢がバンド側にあるといいなと思います。いまならその手の本とかネット上にも情報はいっぱいありますよね。僕らもはじめたときに本屋さんに行って音楽ビジネスについて書いてある本をまわし読みしたこともあるんですよ。そうしているだけで、まわりのバンドから「おまえら気にしすぎ!」みたいなことをいわれたりする(笑)。でも好きなことをやってお金をもらうはよくないのかなと思ったら、若いころはさておき、つづかなくなるんですよね。

独立精神が旺盛だったんですね。

Go:はじめはシーンというものをつくりたかったんですよ。「ゼロ年代シーン」とかあったじゃないですか。

ありましたね。

Go:シーンがどういうふうにできていくんだろうと思っていたんです。アメリカに住んでいたときポートランドのシーンはおもしろいよとか、オースティンのインディ・シーンがおもしろいとか、ロンドンにこういうシーンがあるよとか、そういう話を聞くと東京にどんなシーンがあるんだろうと考えてしまうんですね。当時僕が好きだった新大久保のアースダムとかでみていたライヴで、ノイズっぽいバンドやハードコアのバンドが灰野(敬二)さんと出たりとか、そういうのがシーンなのかはわからないですが、そういった体験から自分たちにとってのシーンについて考えるようになったんですよ。ちょうど僕らが活動をはじめたころ、世界的にサイケフェスが増えてきたんですね。オースティン・サイケ・フェスにはじまりベルリン、シドニー、南アフリカでもサイケ・フェスがはじまり、こういうのがインターナショナルなシーンなのかなと思いはじめて、日本にはそういうのがあまり知られていなかったから自分たちで「TOKYO PSYCH FEST」と銘打って渋谷のルビールームで月1でライヴを企画していました。

月1はけっこうな頻度ですね。

Go:仕事しながらですから大変でした(笑)。それでやりたかったのはちゃんとお金がまわるようなシステムをつくることだったんですね。ライヴハウスだと平日でも2500円でワンドリンクつけると3000円超えちゃって、それで物販のCDを買おうと思ったら5000円になって、もう一杯飲むとさらにかかる。そうなると、ほんとうに伝えたいティーンやキッズ、これから文化をつくっていく、エネルギーにあふれているけどお金のないひとに会えないんですね。よくわからないけど楽しそうと思っているひとはそういうところに来ない。来ないと好きなバンドもみつからないし、ふらっと来られるようにするにはエントランスを500円くらいにして、損したと思わせなきゃいいと考えました。家で遊んでいて、友だちのライヴに行く? ってなったとき、3000円だと躊躇するけど500円ならまあいいやと思えるというか。そういうことをバンドやりながらも試行錯誤していました。ライヴハウスのノルマ制に疑問もあったのでノルマあるライヴハウスに出ているバンドをこっちに連れてきて、逆転してやろうぜとも声をかけたんですけど、キャリアがないから説得力がないんですよ(笑)。

日本でそのときつくろうとしたサイケ・シーンはどれくらい完成したと思いますか?

Go: いやーできなかったなー(笑)。

その夢のさなかで拠点を移されたんですね。

Go:そこはもう「ele-king」に任せておこうと(笑)。時間がなかったのもありますね。僕ドラムをはじめたのが27とかなんですよ。

ほんと!?

Go:そうなんですよ。フェスをやっていたのが28とか29でサラリーマンをやりながらですから。27からドラムをはじめてもふつうのバンドには入れないんですよ。(メンバー募集に)経験不問と書いてあっても、30手前でやったことないひとなんて入れてくれないから自分ではじめるしかないというのはありました。

幾何学模様のほかのみなさんは楽器の心得はあったんですか。

Go:できるといっていたんですが、ギターの弦の巻き方も知らないし、だれもバンドをやったことはありませんでした。

メンバーはGoさんがひきいれた?

Go:まわりの友だちで音楽経験があるとか関係なく、誰も彼もひきいれました(笑)。はじめて会ったひとにも、スタジオに入りましょうよ、と誘って深夜パックでグチャグチャのジャムやって、つかれたなーといって朝ご飯をみんなで食べて帰るみたいな。

バンドというよりはコミューンですね。

Go:はじめはそうでしたよ。共同で生活したり友だちの友だちが急に入ってきて笛を吹いていたり、そういうのがいいと思っていました。ギターがEのワンコードで、そのうえで適当にみんなが演奏して歌って録って、それでいいじゃんというイメージですね。

それがしだいにバンドにかたまっていったのはなぜですか?

Go:曲がないと、拍手する場所がないとひとはお金払わない、と路上での経験から学んだからです。終わり方を知らないとつかれて止めるしかないじゃないですか。路上で演奏しているとたまに立ち止まるひともいるんですが、なかなか演奏が終わらないから飽きて立ち去っていくんですよ。止まってもらわないと、「おお!」という感じにもならない。そうするにはどうしたらいいんだということで学びました。拍手する場所を設けないと一生やっちゃうから(笑)。曲っていうのははじめと終わりがあればいいんだなというのに気づいて、それをつけくわえてだんだん曲になったという感じですかね。

それもラ・モンテ・ヤングみたいでいいですけど、おさまるべき場所におさまっていったということですね。

Go:だんだん音楽の話をするようになって、こういうのいいよね、じゃあやってみようか、という流れでした。当時は自分たちの好きなバンドも自分たちにもできるかもしれない、というようなバンドだったので参考にしたこともあります。

そのとき聴いていたバンドをあげてみてください。

Go:アシッド・マザーズはその筆頭ですよね。騒々しくて見た目が魔術師っぽかったらかっこいいというのはアシッド・マザーズから学んだし、ラリーズみたいなリフを延々くりかえして歌がたまに入ってくるんだけどあくまでギター・ソロをバーンとやるための導入部分にすぎないようなバンドとか、アメリカのオネイダのミニマル・ジャンクっぽい感じとか、イギリスのトラッドも好きだったですね。そういう音楽もやりたかったですが、それにはそういうのを歌えるヴォーカルが必要なのでなかなかむずかしかったです。土着っぽい要素と新しい要素が結びついた音楽がいいなと思っていました。自分たちが日本人なのもあって、日本人にしかできない音楽ってなんだろうともずっと考えていました。

日本というものにたいしての意識も当時からおもちだったんですね。

Go:その前に海外に住んでいて帰ってきたというのもあるので、(日本人が)英語で歌ってもダメだなというのもあったし海外のバンドが好きで、それと同じことをやっても、こっちにいるじゃんといわれるから、それをいわれないためにはどうしたらいいんだろうとずっと考えていました。

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島ということを再度考えてみると、アイソレイトされていて独自の文化があり、島民に通じる言葉があるけど島から出ると通じなくなっちゃったりするようなおもしろさがあると思ったんですね。ことにこの5~6年、日本のことをすごく考えるようになっていたのもあります。あたりまえだったことがじつは特殊なことなんだと気づくことも多かった。

前置きが長くなりましたが、新作『Kumoyo Island』は日本語にすると「クモヨ島」だと思いますが、「くもよじま」と読むんですか、それとも「くもよとう」?

Go:「くもよとう」です。

「クモヨ島」とは日本という島国の暗喩ですか?

Go:僕らはいままでも場所をけっこう提示してきたんですね。「Temples(寺院群)」「Garden(庭)」「Forest(森)」「House(家)」などです。それらの場所は現実には存在しませんが、聴いたひとに情景を思い浮かべつつ聴いてほしいという気持ちがあったんです。今回もアルバムのタイトルを決めようとしたとき、場所がいいなと思っていました。そのタイミングで、今年でバンドを止めることになり、「Kumoyo Island」というタイトルが決まったのはその後です。収録曲にも海っぽいイメージ、青っぽいイメージがあったので、もしかしたらこれは島なのかな、島っぽいなという気がしたんです。それでよく考えると、日本って島じゃんって(笑)。当たり前ですが、島ということを再度考えてみると、アイソレイトされていて独自の文化があり、島民に通じる言葉があるけど島から出ると通じなくなっちゃったりするようなおもしろさがあると思ったんですね。ことにこの5~6年、日本のことをすごく考えるようになっていたのもあります。(住んでいたときは)あたりまえだったことがじつは特殊なことなんだと気づくことも多かったので。もしかしたらそれはものすごく未来的なことなのかもしれないし、すごく古い体制かもしれなくて、それらは紙一重のかもしれないと考えたことがあったんです。今回のアルバムでは島から出て、島の外でワーッとやっていた僕らがまた島に帰って曲をつくった。自分たちの(旅の)ループがそこで最後クローズするなというイメージがありました。

「Kumoyo」というのはどういう意味なんですか。

Go:それは「きかが/くもよう」の「くもよう」なんです。いまちょうど着ているんですけど(といって上着の前をはだけると自分たちのバンドTを中に着込んでいる)こういうマーチャンダイズがあってグラフィックのなかでバンド名が「KIKAGA – KUMOYO」と区切ってあるんですよ。このマーチは去年つくったものですが、日本語で「きかが/くもよう」とわけて考えることはあまりないと思うんですけど、それがアルファベットになって「KIKAGA – KUMOYO」とわかれてきたときに、アルバム・タイトルにループ(回帰)するという意味合いをこめたのと同じように「KUMOYO」というバンド名がループしているのもおもしろいと思ったんですね。

「Moyo Island」だったらわかりやすいけど、「Kumoyo Island」だとわからなくなりますね。

Go:その不自然感が言葉の響きとして新しかったしバンドのお尻の部分だし、ということでつけました。

最後は日本で仕上げたんですよね。停滞気味だった2020年夏からお尻に火がついてきた?

Go:ヤバいなって。

日本に戻ってレコーディングしていたのはいつですか?

Go:2020年の11月から2021年の1月くらいまでです。

曲ができてから戻ってきたんですか?

Go:その時点で曲づくりをはじめました。さっきいったように、曲づくりができなくなっちゃって、なんでできないんだと考えたときに、みんなでスタジオに毎日入るからできないんだと結論づけたんです。スタジオに毎日入ると練習みたいになっちゃうんです。曲をつくるのと練習は違うじゃないですか。

そうですね。

Go:アイデアを発展させていくのもみんなそれぞれ違ったスペースが必要だし、各人のキャパシティもいろいろですからその場で思いつくひともいれば、家に帰って何回も聴いて1フレーズ出てくるひともいる。日本に住んでいたときは週1、週2のペースでスタジオに入ってのこりの日で消化することができたんですけど、毎日入っちゃうとそれもないから、うちらが東京に帰ってきて1ヶ月半時間をとって週1ペースでスタジオに入るサイクルでつくればできるんじゃないかと思って帰国しました。東京では初期のころから入っていた浅草橋のツバメスタジオのすぐそばにAirbnbで部屋とって、夜の12時以降と平日の使ってない時間帯を自由に使わせてもわらってデモをつくっている感覚で曲作りしていたら、デモがデモじゃなくなっちゃったんですよ。

スタジオで録っているからね(笑)。

Go:(笑)デモって家でつくるからリズムマシン使ったりギターをラインで録ってショボくなっちゃったりするけど、レコーディング・スタジオだとそんなこともなく、ああこれでできるかなと思い、やっちゃっいました。

じっさいそれで曲になったんですか。

Go:ならなかったんですが、プロセスが楽しかった。メンバーがちょっと顔出して音入れさせてよ、みたいな、そのプロセスが楽しかったからそれでいいんじゃないか、これが楽しかったんだからこれ以上のものはできないんじゃないかと(笑)。いいとかわるいとかではなく、楽しければいいという原点に戻って、これでよいのではないかということですね。

それでいろんな音が入っているんですね。

Go:いままではライヴでやっていた曲をスタジオで録ってオーヴァーダブすることが多かったんですが、今回にかんしては宅録にちかいというか、コロナというのがあってライヴが想像できなかったのもあって再現できなくても関係ないやという感じでした。

「世界に出よう」と考えたときに、白人の文化にたいして了承をもらうような流れをうちらの世代で変えていきたいとは思っています。海外に出るには英語をしゃべれなきゃいけない、歌詞も英語じゃないとわからない、ということではないと思うんですね。

曲の話に移ります。冒頭の「Monaka」はなかなかのキラーチューンですが、どのように誕生したのでしょう。

Go:Tomoは石川の加賀温泉の出身なんですね。

ええ。

Go:そこに民謡があるらしく、それがメインのインスピレーションなんですね。

途中のペンタトニックっぽいパートですか?

Go:それとコブシを思わせる部分ですね。それらをどうやってバンド・アレンジに発展させるかというのは、さっきいったようにスタジオでいろいろ試した結果です。歌詞の「もなかのなかなか」というのはTomoの適当さの真骨頂です。

あんまり説明になっていないけどね(笑)。

Go:なってないかもしれないですけど(笑)、Tomoの実家はお菓子屋なんです。

それで「もなか」なんですね。

Go:その影響下にあるんでしょうね。それがパッと出てきて、そこにいまで聴いてきたクラウトロックやサイケの要素が加わり、ああいうふうになったんですね。

アイデアをもちより固めていったらそうなったと。

Go:あれをやりながらみんなで適当にジャムしていくんですが、あんまりできることはないんですね。僕だったらふつうのビートかハンマービートか、変拍子でどうのこうのとかあまりできないですし、みんなもだいたいそうなんですね。いろんなことを思いついても技術的にできないので、ああいうかたちにおちつきました。

変拍子できないとおっしゃいますけど『Forest Of Lost Children』の “Smoke And Mirrors” なんかは変拍子ですよね。5、5、5、6だから。

Go:あれは変拍子と知らずにやっていました(笑)。たまに6拍子になったらいいんじゃない、くらいな感じです(笑)。

そういうことをやっていたから冒頭にプログレっぽくならないよう気をつけたというのがちょっと意外な気がしたんですよね。

Go:意図するのと自然にそうなるのとの違いですよね。

ロジックではなく感覚、フィーリングですね。

Go:そうです。

できることがあまりないということですが “Monaka” でもイントロや途中のパートでも、場面の転換のさせ方に意外性があってよく練られているなと思いますが。

Go:フリー・ジャズなんかのスピリチュアルな感じってあるじゃないですか。あの曲はそういった感じのイントロをクラウトロックにつなげた感じです。いろんな楽器がウワーッて鳴っていたのが、リフがはじまるとキュッとひきしまるというか、開いたり閉じたりというか、緩急といいますか、そういうのが曲のなかであると飽きないと思うんですね。ミニマルな音楽ってつくるのは簡単そうですが、グルーヴがちゃんととれていないと気持ち悪いと思うんです。僕はクリックでは叩けないですしジャストなリズムからはブレているんですが、だったらブレても大丈夫なように展開をつけるといいますか、展開があればごまかされるというのは語弊がありますが、聴いている方も飽きないと思うんですよね。

視界が変わりますからね。

Go:そうですね。

でもそれが幾何学模様の特徴になっていると思うんですね。サンプリング的な折衷感といいますか、いろんな要素がカットインしてくる意外性があってワンコードのセッションで即興をまわしていくのとも違う特徴だと思います。

Go:ありがとうございます。

それが今回のアルバムではコクが出てきたと思いました。

Go:新しいことをやるという目標はあまりなくて、自分たちが楽しければいいと思っているんですよ。うちらはツアーをやるにしても、アルバム・ツアー名目でアルバムからの曲を中心にセットリストをつくることはあまりないんですね。ツアーでも毎回セットも違うから、いままでのセットリストに1~2曲、できれば3曲新しい曲が加わればいいね、くらいのノリなんです。となると “Monaka” と “Dancing Blue” と “Yayoi Iyayoi” の3曲がライヴでできれば、あとはなんでもいいやというのはありました。逆にいうとそこで遊べるということでもあります。

いまあげられた3曲はアルバムでもカギになる3曲ですね。

Go:この3曲にかんしてはライヴを想像していたところはありました。いまはそれを練習しているところです。自分たちの音源を聴いて「これどうやんだっけ!?」「できんの!?」って(笑)。

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僕らが日本語にない響きと思っているものも、結局五十音からなる音でしか表現できなかったりするんです。喉をつかう音、フランス語のような発声にそもそも慣れていないから、デタラメな言葉であっても日本語訛りのデタラメな言葉なんですね。

カヴァー曲も収録していますね。エラズモ・カルロスの “Meu Mar”。この曲をとりあげた経緯を教えてください。

Go:“Meu Mar” はもともと〈Light In The Attics〉の企画で、マック・デマルコが細野さんの “Honey Moon” をカヴァーしたのと同じ7インチ・シリーズで指名されたときに “Meu Mar” を選んだんです。当初A面が原曲でB面がうちらのカヴァーでやることになっていたんですが、原曲の権利がクリアにならず、1年待って結局オクラ入りしそうだったから「勝手に使うよ」といって収録しました。ちょうどあと1~2曲つくろうか迷っていたタイミングだったときに “Meu Mar” の音源があったのでこれ入れちゃおうって。

「Meu Mar」は「My Sea」すなわち「私の海」ですから『Kumoyo Island』にピッタリでしたね。

Go:そうなんですよ。エラスモはすごく好きなんですけど、彼の曲をカヴァーするとなったときできるのがこの曲くらいしかなかったんですよ(笑)。

ブラジル音楽だからね。

Go:ドラムはもちろんギターのブラジルっぽいコードもわからない。あの曲くらいしかワン・コードの曲がないんですよ(笑)。

さっきから聞いていると、幾何学模様はネガティヴな状況をいい結果に導く能力が高いバンドだということになりますね。

Go:それしかないって感じで(笑)、それをやってどうおもしろくするかということですね。ほかに好きな曲もいっぱいあるんですけど、いろいろ聴いた結果 “Meu Mar” しかできなかったです。

エラズモ・カルロスはサイケ文脈でもとりあげられるようになりましたけど、トロピカリア的なものもリスナーとしておさえていましたか?

Go:バンドはじめたときにサイケデリックな音楽が世界中にあるとは思わなかったんですね。サイケは英米だけだと思っていました。それがだんだん聴きすすめるうちに、いろんな国に自分たちなりにサイケを解釈した音楽があると知って、オリジナリティを感じて掘っていた時期もありましたよ。トロピカリアとの出合いもそのときです。ああいう実験的な感じ、あとちょっとテキトーな感じ(笑)、独特な音の質感はいいなと思っていました。

レーベル〈Guruguru Brain〉の運営にも欧米圏にはない視点が活かされていると思います。

Go:ポピュラー音楽やロックにかんして、イギリスとアメリカの白人文化がもとにあったうえでほかの国の文化がつくられている──「世界に出よう」と考えたときに、白人の文化にたいして了承をもらうような流れをうちらの世代で変えていきたいとは思っています。海外に出るには英語をしゃべれなきゃいけない、歌詞も英語じゃないとわからない、ということではないと思うんですね。しゃべれないのが当たり前なんだからそれ以外のこと、言葉以外のコミュニケーションやコネクションを最大限に活用していきたいということです。

日本語の扱い方、たとえば “Yayoi Iyayoi” の歌詞は日本語で、幾何学模様にしては意味がとれる内容になっていますが、日本語についてはどう考えていますか。

Go:日本語の言葉の響きには独特な言い回しや粘っこさのようなものがありますよね。それはほかの国にはないものだと思います。ただそれをロックに応用すると、自分たちのなかにある「ロックとはこういうものだ」という価値基準に照らし合わせて違和感のようなものを感じることもある。それをどうやってかっこよくするかという課題はずっとありました。わかっちゃうダサさってあるじゃないですか。

わかっちゃうダサさ?

Go:「I Love You」は海外でふつうにつかえるのに日本語で「愛している」といったときになぜウッとなるのか。コンプレックスや固定観念が関係しているのかもしれないですが、はじめは日本語はイヤだったんですね。日本人だけがわかってほかの国の人には響きでしかないというヒエラルキーをつくるのがイヤだったんです。それが英語が母語じゃない僕からすると、英語の歌詞がそのまま理解できる人をうらやましいと感じる感覚に通じると思ったんです。僕はそういうのが(音楽を聴くときに)なければいいのに、と思っていたので、はじめは日本語の歌詞をなくして響きだけの言葉を使っていました。そうすると歌詞も音の追求になっていくんですよ。シュ、シ、シューとか、でも僕らが日本語にない響きと思っているものも、結局五十音からなる音でしか表現できなかったりするんです。喉をつかう音、フランス語のような発声にそもそも慣れていないから、デタラメな言葉であっても日本語訛りのデタラメな言葉なんですね。いつもTomoに、これインプロで歌ってというとすぐに出てきてそれがおもしろくてそういうやり方をしていたんですけど、だんだん適当さがパターン化してきたんですね。そうすると全体的に似たような感じになってくる、そう思ったとき、すでに日本語っぽいんだから日本語が知らないひとにしたら日本語に聞こえるから「Yayoi Iyayoi」なんかは日本語でやったらいいんじゃないかなと思ったのがいちばんのきかっけです。そこからTomoが適当に歌った音を聴いて、歌い出しが「さ」だったらその口のかたちが歌いやすいんだなと思ったので「さ」ではじまるメイクセンスする単語を探したり、ブックオフで日本の昔の季節の言葉が載っている本を買って言葉を拾ったりしました。

音に言葉をあてはめていったということですか。

Go:僕がブックオフにいって本2冊買ってきて、10分くらいで、適当に並べて、それで歌ってもらった結果、OKになりました(笑)。

言葉を選ぶとき意味やメッセージみたいなものはGoさんの念頭にはなかった?

Go:あまりなかったです。自分には歌詞がいいから音楽が響くと感じたことがあまりなかったから。それこそライターさんが書くようなバンドのおいたちみたいなものに、こういうことがあるんだ、と自分で解釈していくタイプだったので。

幾何学模様のレコードで “Meu Mar” や “Yayoi Iyayoi” のような日本語詞を聴くと、CANの『Tago Mago』の「Oh Yeah」でダモさんが日本語の歌詞になるときの印象に通じるものを感じます。

Go:あれハッとしますもんね、「あれっ!? わかる!」って(笑)。

それと作り方の適当さがかえって不可思議な感じにつながっていて、いい曲だと思いました。

Go:ありがとうございます。でも偶然の産物ですね(笑)。

もうちょっとできたかもしれないというエネルギーを今後どう活かすかという。おなかいっぱいになって終わるより、そうなって終わるほうが、ライヴでもなんでも僕はいいと思います。

ここ数枚のアルバムは「~Song」で終わっていましたが、今回 “Maison Silk Road” で幕を引くのはラスト・アルバムだからですか。

Go:これまでは、僕が曲をもってきてみんなでつくり上げる感じだったんですけど、僕とTomoがこっちに移住して東京に住んでいたメンバーも、そのうちのひとりが大阪に引っ越したりで、バラバラになったときがあって、バラバラの状態でやるうえでどこまでつくりこんでいけばいいんだろう、どこまでフリーにすればいいんだろう、どうやって大阪と東京とアムスにいながら全員が自分の作品だと、100%の個性をつぎこむにはどうしたらいいかと考えたとき、みんなの曲があればいいと思ったんです。今回のアルバムの最後に入っている「Maison Silk Road」はRyuの作品で、彼が新中野で住んでいたアパートの名前なんですよ(笑)。

すごい名前だね(笑)。

Go:アパートなのでメゾンでもないしシルクロードでもない(笑)。

島から西方へ旅立つことを暗示していると思ったんですが(笑)。

Go:足元に西方への道があった(笑)。日本のアパート名ってすごくおもしろいじゃないですか。海外でレーベルをやっていると、ときどき発送業者から、これどうやって書けばいいの、と訊かれることがあるんですよ。ローマ字か綴字どおりにするのか、メゾンを「Maison」と書くか「Mezon」と書くかということなんですが、すごく日本っぽいなと思ったんですね。

たしかに。

Go:そのおもしろさがあって、Ryuがひとりでつくった曲を聴いたときに、アンビエントっぽくて溶ける感じがあったので、高田馬場にはじまったサイケデリック・トリップからやっと目がさめた雰囲気があったんですよ。喧噪が聞こえてきて街に戻ってきた、いろんな国や街に行って、閉じた目が開いて現実に戻ってくる──みたいな感じがあったので最後の曲にしました。

Ryuさんひとりで仕上げた?

Go: ほかのメンバーはノータッチです。いいじゃん、入れようって。

そういう話を聞くと幾何学模様は誰が主導的な立場と決まっているわけではないのだとわかります。

Go:こうやって僕がインタヴューを受けてバンドの考えとか話したりするんですけど、ひとりが曲をつくっているスタイルだとほかのメンバーはそれをやるだけになってしまうとみんなでやっている感覚がなくなっちゃうので、みんなでやる感覚をどうやって失わずにつくれるのかはずっと考えていました。

その関係性は現在も崩れていませんか?

Go:崩れてはいませんが変わってはいます。みんな年をとっていろんなことを考えるようになっているので、変わったこと、変わるのが前提で、どうやってみんなで話し合ってコミュニケーションして、いまはこういうことをやりたいということをバンドにフィードバックするかということでした。

アートワークも、今回は写真ですね。

Go:もともといろんなアーティストを探していて、いままではイラストだったので平面なんですね。

はい。

Go:その平面をもうちょっとなんとかしたくて壁に描いてある絵を撮ったんですよ。いまちょっとおみせしますが(といってPCをもって部屋を出て階段をくだっていく)うちの壁なんですよ(といってPCカメラをむけると『Kumoyo Island』のジャケットと同じ絵柄が壁に描いてある)。

ほんとだ。

Go:ここに直接描いてもらったんですね。

誰が描いたの?

Go:オランダのアーティストです。それを写真に撮ると絵にみえるとよくみると写真だとわかる、奥行きを感じさせるジャケットがいいなと思ったんですね。

壁の前のソファとその下のオレンジにはどんな意味があるんですか。

Go:ソファはコンフォタブルな場所という意味です。このアルバムに入っている “Nap Song” や『Masana Temples』の “Blanket Song” のように温かい、つつまれるような感じがコンセプトにありました。アートのディレクションはTomoですが、Tomoとアーティストで話して、こういうイメージでとか、アルバムのなかの曲ごとのイメージを全部話して、色使いやモチーフや構図を指示をしたんだと思います。ジャケットの上の枠がオレンジじゃないですか、それでこのドットが落ちたようにみえたらおもしろいね、ということでそこからオレンジを置いたんだと思います。

5枚目が出て、ツアーも予定されているんですよね。

Go:5月からアメリカの西海岸がはじめで、ヨーロッパに戻って主要都市をまわるのが6月です。

最後に確認しますが、バンドを10年つづけてきて、演奏も達者になり、リレーションも充実しているなかのラスト・アルバムは返す返すもったいなくないですか。

Go:そのもったいなさがポテンシャルじゃないですか。もうちょっとできたかもしれないというエネルギーを今後どう活かすかという。おなかいっぱいになって終わるより、そうなって終わるほうが、ライヴでもなんでも僕はいいと思います。もうちょっと聴きたかったのに、というところで止められるともう一回いきたくなるような気持ちになる。バンド活動も、もうちょっとできたかも、と思う反面、自分たちでこれでいいでしょうと納得できたので、ここで! ということです。

日本でのライヴは予定されていますか。

Go:7月の終わりにFujiが決まりました。それと11月か12月に、最後に東京でやりたいですね。

やってください、ぜひ。

Go:家に帰ってきた感じで、最後にみんなでトリップからめざめたいです。


Bobby Hamilton, Orang-Utan and Lemuria - ele-king

 好調の「VINYL GOES AROUND」シリーズから、貴重な3アイテムが一挙に登場だ。
 ひとつはキーボーディスト/パーカッショニスト、ボビー・ハミルトンの72年作で、その稀少さから「幻の名盤」と呼ばれていたアルバム『Dream Queen』。オリジナルのマスターテープから新たにデジタル・リマスタリングを施し、クリア・ヴァイナル仕様で限定発売される。
 もうひとつは、知る人ぞ知るUKのハード・ロック・バンド、オランウータンが残した唯一のアルバム、そのアートワークをあしらったTシャツ。
 最後はMUROとのコラボ企画第二弾。ソウル、ジャズ、ファンク、ポップを融合したハワイのバンド、レムリア唯一のアルバム『Lemuria』(1978)をカラー・ヴァイナルで復刻、Tシャツとセットでリリース(バラ売りもアリ)。
 ぜひ売り切れてしまう前にチェックを。

VINYL GOES AROUNDにて、The Bobby Hamilton Quintet Unlimited『Dream Queen』のクリアヴァイナル、ORANG-UTANのオリジナルTシャツ、そして日本を代表するDJ、MUROとのコラボレーション企画でLEMURIAのオリジナル・Tシャツとカラー・ヴァイナル、一挙3アイテムを販売。

Pヴァインが運営するアナログ・レコードにまつわるプロジェクト「VINYL GOES AROUND」にて、The Bobby Hamilton Quintet Unlimited『Dream Queen』のクリアヴァイナル、ORANG-UTANのオリジナルTシャツ、そして日本を代表するDJ、MUROとのコラボレーション企画でLEMURIAのオリジナル・Tシャツとカラー・ヴァイナル、一挙3アイテムの販売が開始しました。

The Bobby Hamilton Quintet Unlimited『Dream Queen』は鍵盤奏者、パーカッショニストでもあるボビー・ハミルトンを中心に1972年にレコーディング。当時はNYのマイナーレーベルからのリリースで、サウンドの素晴らしさと希少度が相まってディガーの間では "幻の名盤" と称されていました。A面はエレクトリックピアノとヴィヴラフォンの掛け合いからファンキーなグルーヴへとなだれ込む「Pearl (Among The Swine)」で始まり、メロウなソウル・ボッサ「Priscilla」、パーカッシヴなビートとホーン・セクションが絡み合うアフロ・ジャズ・ファンク「In The Mouth Of The Beast」。B面は印象的なベースの疾走感溢れるファンク「Roll Your Own」、そしてエレクトリックピアノとヴィヴラフォンが切なさを醸し出す極上のスローバラード「Dream Queen」。聴けば誰もが納得する全曲キラーチューンのアルバムです。オリジナルのマスターテープから新たにデジタル・リマスタリングを施した最新仕様でのリイシュー。 VINYL GOES AROUNDでは限定でクリア・ヴァイナルでの発売となります。

ORANG-UTANはLED ZEPPELINやLEAF HOUNDを彷彿とさせるブルージーでアシッドなハード・ロックで、マニアのハートを鷲掴みにしてきました。ヘヴィなギター・リフと絡み合うツイン・リード、コブシの効いた高音シャウトが交錯するサウンドはリリースから半世紀を経た今日でも鮮烈ですが、バンドは本作1枚のみで解散。イギリス出身でありながらアメリカのみでアルバム・デビューという複雑な事情も関係して流通がままならず、知る人ぞ知るアンダーグラウンド・レジェンドとしてロック史にその名を刻んできました。
今回はVINYL GOES AROUND限定でその幻のレコードジャケットをモチーフにしたTシャツを販売。表面には巨大なオラウータンがビルを襲うイラストをプリントし、背面にはバナナの皮のみになった、ジャケットの裏をプリント。

そして日本を代表するDJ、MUROとVINYL GOES AROUNDのコラボレーション企画第二弾はLEMURIAのジャケット・デザインを使用したオリジナルTシャツとカラー・ヴァイナルを販売します。
“KALAPANA”のオリジナル・メンバーでありプロデューサーとしても数々の名盤を残してきた“Kirk Thompson”率いるグループ、“LEMURIA”。1978年にリリースされた唯一のアルバム『Lemuria』は知る人ぞ知るコレクターズ・アイテムとして高額で取引されながらも、ソウル、ジャズ、ファンク、ポップを融合したハワイのバンドとして広く知れ渡り絶賛されてきた名盤です。
今回はオリジナルアルバムに加えてボーナストラック3曲に、「All I’ve Got To Give」と「MISTER U (UNIVERSE)」のオルタネイト・テイク2曲を追加した2LP、ゲートフォールド・ジャケット、ブラウン・クリアヴァイナルでリリース。Tシャツはバンド・メンバーの写真にバンドのロゴをあしらったデザインで3色展開となります。

・VINYL GOES AROUND 販売ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive/

■リリース情報①

アーティスト:The Bobby Hamilton Quintet Unlimited
タイトル:Dream Queen
品番:PLP-7798C
フォーマット:LP (CLEAR VINYL)
価格:¥3,850(税込)(税抜:¥5,500)
※ご注文頂いた商品は、発送準備が整い次第発送します。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。

[TRACK LIST]
・SIDE A
1. Pearl (Among The Swine)
2. Priscilla
3. In The Mouth Of The Beast
・SIDE B
1. Roll Your Own
2. Dream Queen

■リリース情報②

アーティスト:ORANG-UTAN
タイトル:ORANG-UTAN Original T-shirts
品番:VGA-1029
フォーマット:Tシャツ
価格:¥5,280(税込)(税抜:¥4,800)
カラー:BLACK
サイズ:S M L XL 2XL
※商品の発送は2022年7月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

■リリース情報③

アーティスト:LEMURIA
タイトル:LEMURIA ORIGINAL T-SHIRTS with “Lemuria” COLORED VINYL
品番:VGA-1021
フォーマット:Tシャツ+LP(GOLDEN CLEAR VINYL)
価格:¥10,230(税込)(税抜:¥9,300)
Tシャツ カラー:BLACK / NATURAL / CORN SILK
Tシャツ サイズ:S M L XL 2XL
★300枚限定生産(レコード)
※期間限定受注生産(~6月16日まで)
※Tシャツは受注期間が終了しましたら一色のみの販売となります。
※商品の発送は2022年7月下旬を予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※商品は一部他店にて流通するアイテムとなります。

[TRACK LIST]
・SIDE A
1. Hunk Of Heaven
2. All I've Got To Give
3. Dreams
・SIDE B
1. Mister U (Universe)
2. Get That Happy Feeling
3. Moonlight Affair
4. Mystery Love
5. The Making Of You
6. The Lady And The Dude
・SIDE C
1. Don't Say Their Ain't No Heaven
2. Somebody's Talkin'
3. Who Do You Love
・SIDE D
1. All I’ve Got To Give (Alternate take)
2. Mister U (Universe) (Alternate take)

■リリース情報④

アーティスト:LEMURIA
タイトル:LEMURIA ORIGINAL T-SHIRTS
品番:VGA-1020
フォーマット:Tシャツ
価格:¥5,280(税込)(税抜:¥4,800)
カラー:BLACK / NATURAL / CORN SILK
サイズ:S M L XL 2XL
※期間限定受注生産(~6月16日まで)
※Tシャツは受注期間が終了しましたら一色のみの販売となります。
※商品の発送は2022年7月下旬を予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※商品は一部他店にて流通するアイテムとなります。

■リリース情報⑤

アーティスト:LEMURIA
タイトル:LEMURIA
品番:PLP-7807/8C
フォーマット:LP(BROWN CLEAR VINYL)
価格:¥5,500(税込)(税抜:¥5,000)
★300枚限定生産
※商品の発送は2022年7月下旬を予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※商品は一部他店にて流通するアイテムとなります。

Boris - ele-king

 今年初頭に発売された活動30周年記念アルバム『W』にはじまり、7インチ・シリーズ、記念ライヴに北米ツアーと、怒濤の勢いでアニヴァーサリーを駆け抜けている Boris。この夏、活動30周年を記念する2枚目のアルバムがリリースされることになった。02年作・11年作同様、タイトルは『Heavy Rocks』で、節目を象徴する内容になっているようだ。発売は8月12日。Boris の追求するヘヴィ・ロックの最新型をこの耳で確かめよう。

Boris30周年記念アルバム “Heavy Rocks” 発売決定!
国内盤限定スペシャルブックレット封入

コロナ禍に突入直後の2020年に制作された『NO』、それに呼応するように連続で生み出された『W』。結成から30周年を迎えた2022年、2枚目の最新アルバム『Heavy Rocks』がリリースされる。
『Heavy Rocks』(オレンジ 2002)、『Heavy Rocks』(紫 2011)と10年毎に、Borisは自分たちの思い描くヘヴィロック最新形を同じタイトルで提示してきた。"Heavy Rocks"という言葉は自身の姿勢・態度そのものであり、過去から未来に亘る揺るぎないテーマであり、象徴である。

この2年で世界は変わってしまった
人々の思考はよりシンプルに
今はみんなそれぞれが大切なものを捉え易くなった

何を未来へ残し伝えるのか
そしてアップデートしていくロックのソウル

言葉や意味を超え貴方に届く魂
本能、直感、牙
これが今のBorisのHeavy rock

結成30周年
最新と普遍をアップデートし加速し続けるBorisの現在。
あなたの大切なものは何か?

閉塞されていた世界が再び解かれ、活発な日常を取り戻す兆しを見せる、まさに転換期とも言える今年、この運命的と言えるタイミングで、Borisは最新の『Heavy Rocks』を投下する。
未だ混迷を続けるこの時代を生き抜き、自らの血と肉として獲得し具現化した現在進行形のヘヴィロックを。
今回は「色」ではなく、過酷な状況を自らの牙でサヴァイブする獰猛な生命の「紋様」を纏い世界に提示する。
前作『W』に続きサウンドプロデュースとしてBuffalo DaughterのsuGar Yoshinagaを起用。
『NO』のエクストリームさ、静謐な『W』の空気感を塗りつぶし、さらに混沌と"Heavy"に耽溺してゆくワイルド&グリッターな世界を楽しんでほしい。


Boris / Heavy Rocks
8月12日発売
KKV-148
CD
2,800円税込

収録曲
01. She is burning
02. Cramper
03. My name is blank
04. Blah Blah Blah -お前は間違っていて俺も間違っていてそれは正しさ-
05. 光 -Question 1-
06. Nosferatou
07. Ruins -瓦礫の郷愁-
08. 形骸化イマジネーション -Ghostly imagination-
09. 幸福という首輪 -Chained-
10. (not) Last song

www.borisheavyrocks.com
KiliKiliVilla.com

interview with Shintaro Sakamoto - ele-king

 この20年のあいだにリリースされた日本の音楽において、傑出したプロテスト・ミュージックに何があるのかと言えば、ぼくのなかでは、たとえばゆらゆら帝国の『空洞です』と坂本慎太郎の『ナマで踊ろう』が思い浮かぶ。が、その解説はいまはしない。いまはそんな気持ちになれない。イギリスでウェット・レグが売れるのも理解できる。いまは誰もが楽しさに飢えているのだ。
 しかしその背景は決して幸福なエデンなどではない。『物語のように(Like A Fable)』——この思わせぶりな言葉が坂本慎太郎の4枚目のアルバム・タイトルで、前作『できれば愛を』が2016年だからじつに6年ぶり、オンラインメディアがそのみだらな馬脚を現す前の話で、ドイツはなかば理想的な環境先進国だと信じられて、円安もいまほど深刻に思われていなかった時代の話だ。いや、無粋なことは言うまい。いまは誰もが楽しさに飢えているのだ。ぼくだってそうだ。しかしそんなものどこにある?
 この難問に対峙したのが、『物語のように』ではないのだろうか。アルバムは、キャッチーで、ポップで、メロディアスで、スウィートなのだ——と、知性も教養もない言葉を連発してしまった。このインタヴューの終わりには、(いつになるのかわからないが)語彙の多さに自信を持つ松村正人なる人物の文章が入ることになっているので、そのときが来たら自分の程度の低さはいま以上に際立つだろう。それでもかまわない、このアルバムをなるべく早く紹介すること、なるべく多くの人に聴いてもうこと、それがいまの自分に与えられた使命なのだ。
 取材日は、5月だというのに寒い雨の日で、場所は恵比寿リキッドルーム。その日は公演がなく、場内の明かりや人気も無く、がらーんと静かで、広々としているが暗く寂しい空間だった。これが取材の演出だとしたら見事なものだ。坂本慎太郎は、変わりなく、いつものように言葉少なめに淡々と話してくれた。一見、エネルギーが欠如しているように見えるかもしれないが、アルバムに収録された各曲を聴いたら改心するだろう。それから、そう、最後にあらためて言っておくことがある。ぼくは必然的に、この2年ほど世界の無慈悲な変化に対しての反応をおもに音楽を通して見てきているが、『物語のように』もそうしたなかの1作である。(野田)

本当は全部青春っぽい歌詞にしたいんですけど。『アメリカン・グラフティ』もそうだし、ロカビリーとかも。でもやっぱり、俺が学園生活の恋愛とか喧嘩とか、自分のないもの出せないし、青春ぽくも読めるけどリアルな自分の年齢のぼやきにも取れるギリギリを狙っていて。

すべての曲が魅力的で、無駄がないというか、ぼくの印象を言うと、メロディアスで、スウィートなアルバムだなと、キャッチーなアルバムでもあると、そう思いました。もっとも坂本慎太郎のアルバムにはつねに際どさがあって、言葉もメタファーになっていることが多いので、その表面の下にあるものが何なのかをお話いただければと思います。インターネットに載るインタヴューですから、どこまで話していただけるかわからないですけど。

坂本:はい。

"それは違法でした"は何がきっかけで作られた曲なんですか?

坂本:歌詞ってことですか? きっかけはなんですかね。ポロッとできたんですけど。

何か出来事があって、それがきっかけではなかった?

坂本:うーん……。

でもこれ、コロナ以降、ぐしゃぐしゃな世のなかになってからのアルバムなわけですよね?

坂本:はい。曲はコロナ前から作り溜めてたんですけど、歌詞がなかなかできなくて。

何かあった都度に書き留めたというより、最近ばーっと書いたんだ?

坂本:早くても去年の夏くらい。1年以内に全部書いてる。

じゃあアルバム作りの起源みたいなものがもしあるとしたら、いつになるんですか?

坂本:えーと、去年7月にLIQUIDROOMでライヴをやって、フジロックもやったのか。たぶんフジロックが終わってから、バンドで今回の曲の……いや、その前からやってるな。6月とか7月とかに曲をリハーサルしだして、12月にレコーディングをはじめたんですよ。それまでに8曲ほど練習して、でもその段階では全部の歌詞ができてるわけじゃなくて。できてるのもあったんですけど。3月に完成したんですけど、レコーディングしながら曲作り足したり、歌詞完成させたりという感じですね。

それだと起源はどこになるんだろう?

坂本:デモテープみたいなのは前のアルバム出してからコツコツ作ってたんで。

▲:いちばん古いのなんなんだろう?

坂本:1曲目ですね。これだけ家でデモテープを作ったときの音をそのまま使ってて。

リズムは、エレクトーンかなんかのプリセット音?

坂本:これはマエストロの古いリズム・ボックス。家で録ったやつで、歌とホーン・セクションだけスタジオで生で録りました。

この曲を1曲目に持ってきたのって何?

坂本:……他に置き所がないから。

一同:(笑)。

アルバムを前半と後半に分けて考えました?

坂本:分けては考えないですけど、流れは考えました。

それはサウンドの流れ? 言葉の流れではなくて?

坂本:言葉の流れも関係するのかもしれないですけど、曲を聞いててしっくりくる流れを考えました。いまはそんな聴き方する人いないらしいですね。

一同:(笑)。

坂本:前の取材で「今回曲順は考えたんですか?」と聞かれて、「当然考えましたけど」と言ったら、いまは曲順を考えない人がいると言われて衝撃を受けました。

サブスクの悪影響だね。

坂本:前回は2016年に出たんで、日本にspotifyが入る直前だったんですよね。だから今回は、あのときとは全然状況が違う。

ぼくからするともったいない聴き方だよね。アルバムを楽しむというのは音楽ファンからしたらひとつの醍醐味だから。

坂本:でもアルバムがそういう作りになってなければ意味はないですよね。そういう風に作られてるものだったら意味があるけど、作る方がそれを放棄してたら、通して聴く意味もなくなってきてるし。

▲:じゃあなんでそういう人たちはアルバム出すんですかね? シングル出し続ければ良いじゃないですか。

シングルで出し続ける人もいるんだろうね。ぼくはそういう風潮に関しては否定派なんですけど、いまはその話は置いといて、『物語のように』に話を戻すと、前半と後半というか、"スター"の前と後ろでアルバムの雰囲気が違うかな、と感じたんですよね。

坂本:ここで変えようとは意識してないです。流れでこういう流れがいいかな、とは思いましたけど。

松村君どう思った?

▲:まさしくそう思いました。A面とB面という考え方なのかな、と。"スター"より前の方がヴァリエーションがあって。

深読みをさせてもらうと、坂本君のこれまでのアルバムって、つねに時代を意識しながら作られてたと思うんですね。で、こういう時代になって、ものすごい暗い時代になってしまって、それですごく暗い音楽を作るんじゃなくて、ものすごく意識して甘くてメロディアスな音楽を作ろうとしたんじゃないかな、というのがひとつ。もうひとつは、"スター"以前の曲の歌詞というのは、すごく捻りがあるというか、意味を深読みできる言葉が並んでいると思ったんですね。それに対して"スター"以降の曲は、もうちょっと優しさが前面に出ている。だから、薄暗くはじまって、明るく終わるみたいな感じがしたんだけど。

坂本:そうですか。でもまあ最初におっしゃった、明るい曲にしようとしたというのはその通りで、そういうの目指してました。

すごくメロディーが際立っているという風に思ったんですよ。松村君は?

▲:思いました。"恋の行方"の落とし方が、やっぱり明るい感じというか。

坂本:あれ明るいですか(笑)? じゃあ良かったです。明るいっていってもあれが俺のできる明るさの限界ですけど。

アンビヴァレンスみたいなものは坂本慎太郎の特徴なのかなと思うけど、今回は1曲目がレゲエな感じで、2曲目はソウル・ミュージックな感じで、サウンドだけ聴くとアップ・リフティングなんだけど、歌詞をよく聴いていくと、決して楽天的ではない。

坂本:たしかに最初の2曲がそういう印象あるのかもしれないですね。

表題曲の"物語のように"だって……

坂本:明るくないですか?

いや、明るいか(笑)。明るいけども、ここで歌われている感情というものが、単純に昔は良かった、ということなのか。あるいは現在に対する皮肉なのか。どっちが強いんだろうか?

坂本:えー。

どうして"物語のように"なの? あと英語表記だと「Like a fable」でしょ? storyとかromanceとかではなくて。fableって作り話とか童話みたいな意味じゃない? それがなぜタイトルになったのかな。

坂本:なぜと言われると……なぜなんですかね。

あのさ、ele-kingでニュース出したときに、めちゃバズったんですけど、曲目のリスト載せるじゃないですか。多くの人が曲名のリストに反応してるんだよね。

▲:曲名がひとつのメッセージだな、とは思いました。

坂本:なんていうんですかね、考えが先にあって作っているわけじゃないんですよね。考えてないこと歌っているわけでもないんですけど、もっとイタコ的というか、無意識にポロって出た言葉に対して、これどういう曲になるんだろ、と考えて曲にするということが多くて。考えて歌詞を作るとあんまり面白くないというか、曲としてこじんまりしちゃうんですよ。これ("物語のように")の最初の歌い出しは「紙芝居」となってますけど、そこが物語のように、に繋がっていって曲になったという感じですね。

意図せず「物語のように」という言葉ができたということか。

坂本:それに対して後付けで何か言うことはできるかもしれないけど、正確に言うと考えてないです。

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そうですか。でもまあ最初におっしゃった、明るい曲にしようとしたというのはその通りで、そういうの目指してました。明るいっていってもあれが俺のできる明るさの限界ですけど。

リスナーから、「坂本さん、これは現在がひどいから過去への郷愁を歌ってるんですか」と訊かれたら、なんと答えます?

坂本:それもありですけど、あんまり「昔はよかったね」とか言いたくないんですよ。

それはよくわかるよ。コロナ禍はどんな風に過ごしてました?

坂本:もともとずっと籠ってるようなタイプなんで、ライヴはなくなりましたけど、普段の生活はそんなに変わってないです。よく考えるとライヴもそもそもやってなかったから。飲みの誘いが無くなって、その分作業に専念できる、というところでした。

▲:作業というのは曲作りの?

坂本:曲を作ったり、考えたり、でしたね。

「好きっていう気持ち」とか「ツバメの季節」という2枚のシングルを出しましたが、これはどういう気持ちだったんですか? これらの曲は、坂本君にしたらすごく素直にセンチメンタルな、当時の気持ちを表現したのかなと思ったけど。

坂本:あれは、コロナになってライヴとか、アメリカ・ツアーを予定してたのが全部飛んじゃって、やることないから宅録っぽいアルバムでも作ろうかなと思って。古いリズム・ボックスとか好きだから。そういうイメージで作業をはじめたんですけど。1回ライヴをやるかもみたいな感じになって、スタジオにメンバーと入ったんですね。ちょっと練習してたんですけど、ライヴがやっぱりできないことになって、練習していたのが無駄になったし、スタジオも予約していたので、せっかくだし今作ってる新曲をバンドでやってみたら、ひとりで作ってるよりみんなで生でやるほうが面白いな、と思って。それでシングルにしたんですよ。アルバムにするには曲が全然足りなくて、アルバムにいくのも先になりそうだし、そのときあった4曲をシングルで出したんですよね。だから、その時期のムードとか思ってることがそのまま出たって感じ。だけどちょっと、今回のアルバムはあんまりメソメソしたこととか言いたくなかったので、また違う感じになってると思うんですけど。

▲:アルバムはそういう(シングルの)感じじゃなくしようと思って作ったんですが?

坂本:いや、全然イメージが湧かなくて、歌詞が難しいなと思って、コロナになってますますですけど。インストの音楽だったらできるかもしれないけど、歌詞がある曲をわざわざリリースするときに、どんな言葉を歌うとしっくりくるかが難しくて。なんとか、こんな感じだったら歌えるかな、となったのが、さっきの4曲だったんですけど。ただそういうことがアルバムでやりたかったわけじゃなくて、もうちょっと突き抜けたものにしたかったんで。

それはすごいわかりますね。

坂本:「コロナで大変だ」みたいな感じとか、「社会状況がキツいね」みたいなのを出すんじゃなくて、そこを抜けていく、突き抜けていく感じを出したかったんです。

コロナだけじゃなくて、オリンピックがあったり、小山田圭吾君のこともあったり、海外だとBLMもあったり、戦争があったり、この3年ですっかり世界が違うものになっちゃったじゃない。

坂本:もちろんそういうの全部、感じてるし、それぞれに言いたいこともありますけど、全部を超越したような、スカッとした楽しい気分になれるような……

たしかに1曲目、2曲目はそんな感じでてる(笑)。突き抜けるような。

坂本:うまく言えないんですけど、見ないようにして、無理して明るく、というのではなく、こういう状況にありながら楽しめる、というすごい細いラインを模索して、なんとかここにきたという感じなんですけど。

素晴らしい。

▲:これまでのアルバムのなかで作るのはいちばん大変だったですか?

坂本:そうですね。歌詞が、途中からできてきたんですけど、途中まではできる気がしなかったですね。無理矢理考えてもダメなのはわかってるんで。

▲:そういうときはひたすら待つんですか?

坂本:あと散歩ですね。

ちなみに、言葉が出てきたきっかけとかなんかあるの? その後の方向性を決めたような。

坂本:最初にできたのが、"物語のように"という曲なんですけど。曲自体はけっこう前からあって、自分のなかでは悪くはないけど、とくに新基軸な感じもしないし、と寝かせてあった曲なんですけど、ある日言葉がハマって。歌詞ができる前からスタジオで演奏してたんですけど、デタラメ英語みたいな感じで。でも歌詞ができて日本語で歌ってやってみたら急に良くなって。なんてことない曲だと思ってた曲でも、言葉がハマると急激に曲になるというか、その感じを実感して。それから、簡単な言葉とか、さりげない言葉でピタッとハマって、キラキラさせる、みたいな方向性がちょっと見えたかもしれないです。

▲:"物語のように"の一節が最初に出てきたんですよね? この一節が最初に降ってきた、と。

坂本:そうなんですけど、"物語のように"という曲で「物語のように」から歌い出すといまいちかな、と思って……

▲:なるほど(笑)。それで同じ譜割りで言葉を探して?

坂本:割とスルッと出たんですけどね。

ちなみにその次の曲、"君には時間がある"もキャッチーな曲なんですけど、この歌詞はやっぱり自分の年齢があって、若い「君」ということでいいんですか?

坂本:この曲ができたとき、まだ歌詞はなかったんですけど、なんとなくアルバムが見えてきたと思ったんです。「こんな感じの曲ばっかりのアルバムにしたいな」と。ただデモの雰囲気を変えずに歌詞を乗せるのが大変でした。デタラメ英語で歌ってる譜割りを崩したくなかったし、あと曲のイメージが変わっちゃう、というところで苦労したんですけど。だから野田さんが言ったようなことを言いたくないなと思って。

(笑)。

坂本:いわゆる「我々には残り時間がない」とか、そんなこと言いたくないなと思って。本当はもっと馬鹿馬鹿しいことを言いたかったんですけど、サビのところで「君には時間がある」という言葉がハマっちゃうと、もう動かしようがなくて。

なるほど(笑)。

坂本:安田謙一さんから、「君にはまだ時間がある」「僕にはもう時間がない」の「まだ」と「もう」を省略してますね、と言われて。それ言うとさっき野田さんが言った意味になっちゃうから、俺は単に忙しい、お前は暇だ、という意味も入れたくて。最初は逆に考えてたんですよ。「俺は時間があるけど、そっちにはない」みたいな。でもそれはそれで反感買うかな、と思って。

一同:(笑)。

坂本:いろいろ考えて、そういうマイナーチェンジはしてるんですけどね。

音楽の歌詞って、サウンドと一緒になって初めて意味を成す、ということなんだけど。でも、歌詞だけ読むとすごくディープにも取れるようなね。

坂本:だから、本当は全部青春っぽい歌詞にしたいんですけど、誤解を恐れずに言うと(笑)。自分が求めてる音楽はそういうやつなんだけど。

▲:『アメリカン・グラフティ』みたいな?

坂本 そうそう。そういう単なるラヴ・ソングみたいなのなんだけど、歌詞で言ってるのとは違うこと表現してるみたいなの、あるじゃないですか? 『アメリカン・グラフティ』もそうだし、ロカビリーとかも。でもやっぱり、俺が学園生活の恋愛とか喧嘩とか、自分のないもの出せないし、青春ぽくも読めるけどリアルな自分の年齢のぼやきにも取れるギリギリを狙っていて。

なるほどね(笑)。「未来がどうなるかわからないから、いまを楽しもうよ」という風にも聞こえるよね。

坂本:そうですね。一応ギリギリのところでやったつもりなんですけど。

▲:その通りになってると思います。

坂本:でもたしかに野田さんが言ったようなことももちろん入ってますけどね。

いろんな意味にとれるから面白いんだよね。

坂本:たぶん若い子が聴いたら、そういう風にはとらないと思う。

リスナーの立場によって変わってくるのかな、と思うよ。

坂本:同世代とかは、正しくとると思うんですけど(笑)。

“まだ平気?"の歌詞も面白いなと思ったんですよ。

▲:2番の韻の踏みかたとかも素晴らしいと思いました。

これはなんで出てきたの?

坂本:これも曲が先にあって、こういう譜割りのメロディがハマってたんですけど、それを崩したくなくて、けっこう苦労したんですよね。やっぱり考えすぎると真面目っぽくなっちゃうし。

最初の2曲が時代を捉えようとしていると思ったんだよね。

坂本:どちらかというと、ぼくは後半みたいな、1、2曲目以外の曲だけで10曲作りたかったんですけど、まあいいのかなと思って(笑)。

一同:(笑)。

▲:でも流れとしてはこの2曲と繋がりもけっこうありますしね。場面として分けて考えることもできるアルバムだと。

坂本:一応流れはあるんですけど、そういう風に聴く人はいないらしいので。

いや、まだそんなことないんじゃないですかね。

▲:シングルを順番に並べてるような聴こえかたもするな、と思って。

A面B面A面B面という感じで? なるほどねー。いやーでも2曲目をB面にするのもったいないな。

一同:(笑)。

▲:そういう話じゃないですよ(笑)。アルバムの構成ということでも、聴き方をいろいろ考えさせるアルバムだな、と感じました。

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歌詞が難しいなと思って、コロナになってますますですけど。インストの音楽だったらできるかもしれないけど、歌詞がある曲をわざわざリリースするときに、どんな言葉を歌うとしっくりくるかが難しくて。

サウンド・プロダクションで、今回テーマはありました? 僕はちょっと、清志郎と細野(晴臣)さんがやったHISを思い出したりもしました。あれも歌謡曲的な、あるいはフォーク・ロックの雑食性と突き抜けた感じがあって。

坂本:ぼくは、けっこう、ロックっぽく……

ロックっぽく?

坂本:いま聴いて格好良く聞こえるようなエレキギターの感じとかを出したいなと思ったんですけど。ソロになってからはあんまりエレキギターを全面に出してこなくて、比重が少なかったので。世の中的にもエレキギターの立場が悪くなってるので。

ギターの音がクリアに聞こえていますよね。

坂本:あとは、オールディーズっぽい感じとか、アメリカン・ポップスの感じとか、ロカビリーの感じとか、サーフ・ギターとか……そういう感じは昔から好きだけど、今回はちょっと多めかもしれないですね。

▲:サーフ・ロックぽいといえば、4曲目のギターはなにを使ってるんですか?

坂本:ジャガーですね。中村(宗一郎)さんの。

SGの音じゃないですもんね。5曲目は?

坂本:えーと、わからない(笑)。

ご自分のSGだけじゃなくて、いろいろ使ってる、と。

坂本:メインは中村さんのジャガーかもしれないですね。

▲:そういうところで、サウンド的には昭和35年代感というか、60年代前半の感じがありますね。

坂本:60年代前半は好きですね。

どうしてそのコンセプトが?

坂本:前から好きだし、さっき言った、モヤモヤしたのを突き抜けていく感じのイメージがあるんですね。キラキラして。

"愛のふとさ"なんかはボサノヴァっぽいですよね。

坂本:この曲だけなんか違うんですよね。こういうのも1曲あっていいのかなと思って。これもデモ・テープのなかに入ってて、でもロックぽくないし、テイスト違うかな、と思ったけど、まあいいか、と。

一同:(笑)。

今回のアルバムでは、僕の好きな曲のひとつだけど。

坂本:うん。曲としてはすごく良くできたかな、と。

あと、1曲目のレゲエっぽい感じもいいなぁ。

坂本 レゲエっぽいですか?

レゲエっぽいよね?

▲:ホーンの入り方とか、初期のダンス・ホールっぽいですよね。なんでトロンボーン入れようと思ったんですか?

坂本:それは西内(徹)さんが……。

あのトロンボーンはすごいハマってたね

坂本:このトロンボーンは僕のアイデアですけど、2曲目のホーン・セクションは西内さんが考えてて、トロンボーンとサックスでやりたいというから任せて。で、スタジオにKEN KENと来て、1曲目はまだ途中段階で歌詞もなかったんだけど、この曲にも入れたらいいな、と思って、その場で。

▲:1曲目ってトラックとしてはワン・コードでやってるんですか?

坂本:ワン・コードですね。

▲:Cのワン・コードですよね。そのうえでリズムが変わっていく。

坂本:リズムがシャッフルのリズムと、エイトのリズムの2種類あって、リズム・ボックスがシャッフルになってて、リフが8ですね。

▲:ものすごく気持ち悪いですよね(笑)。でもその気持ち悪さに気づく人もどれだけいるのかな。

坂本:すごいねじれた感じにはなっていて、フワーっというのはスティール・ギターの音なんですけど、あれがシャッフルの周期で出てくるのでリフとズレて、ちょっと変な感じになっています。

▲:私は、こういうことをロバート・ワイアットとかがやりそうだなと思いました。すごく面白い。ところで、フジロック以降、ライヴはやってないんですか?

坂本:その後に福井のフェスに出ただけですね。

▲:これ(アルバム)が出たあとはツアーは予定されているんですか?

坂本:ツアーというほどじゃないですけど、東京とか大阪とかではやりますね。

▲:いまはだいぶライヴもやりやすいですよね。

坂本:ただ、俺もあんまり人混みに行きたくないから、来てくれとは言いづらいですね。人のライヴとかでぎゅうぎゅうだったりすると、行くの怖いので。それが染み付いてて。マスクしない人がワーワーやってるところに行きたくないって思っちゃうから。そういう状況で自分がやるのも抵抗あるし、どこからが安心でどこからがやばいという線引きは難しいんですけど、なんとなくあるじゃないですか。まあ大丈夫そうだな、とか、ここはちょっとやばいから早く出よう、とか。そういうことをどうしても考えちゃうんで。

模索しながらやるしかないみたいな。

坂本:あと、俺はそもそもライヴやりたくなかったから。でもやりだしたら楽しいや、と思ってたんですけど、ライヴをやれなくなっても元に戻るだけというところあるんですよね。

海外からオファーが来ると思うんですけど、それは行かないようにしてるの?

坂本:アメリカは延期の延期で今年の6月だったんだけど、それはこっちからキャンセルしましたね。

▲:まだ不安だということで?

坂本:あのーすごい赤字になりそうで。例えばもし隔離とかになっちゃうと……。

▲:隔離は自腹ですもんね。

坂本:全部補償してくれるわけじゃないから。向こうの滞在費とかこっちで払わなきゃいけなくなるし、お客さんも来るかわからないし。向こうでメンバーとかスタッフとかが感染して隔離というときにどうしていいかわからないし。
いまはライヴをやれば楽しいし、いい感じでやれるならやりたいけど。どういう場所でやるか、というのも関係してくるな、と思います。円安で飯も高いしね。

▲:レコードの輸入盤もますます高くなりますね。海外の配信は多いですか?

坂本:まあ多いですよ。ブラジルが多いんですよ。サンパウロとか。ブラジルで人気のあるO Ternoというバンドと一緒にやったから、それ繋がりだと思います。

▲:今回のアート・ワークは何かメッセージはあるんですか?

坂本:いや……とくにない、と言っちゃうと終わっちゃうか(笑)。

一同:(笑)。

坂本:まあこういう感じがいいかな、と思って。

坂本君にとって、いま希望を感じることってなんですか?

坂本:希望を感じること。うーん……(長い沈黙)。

乱暴な質問で申し訳ないですけど。

坂本:うーん、なんですかね? なんかありますか?

酒飲んで音楽聴いて、サッカー観たり……、これは希望じゃないか(笑)!

坂本:個人的なことで真面目に言うと、いい曲を作ることには制限がないじゃないですか? 何となくでも、こういう曲が作りたいというのがある限り、それに向かって何かやる、ということは制限ないから、それはいいな、と思う。あと、楽しみで言えば、酒飲んで……みたいな、それくらいしかない(笑)。でも作品作っておかないとね。良い作品作っておけば、しばらく酒飲んでてもいいかな、と。それなしだとちょっと飲みづらいというか。

一同:(笑)。

自分を律してると。

坂本:ほぼ冗談ですけど。でも、時代が変わって、世界の境界線が音楽においてはなくなっているので、曲を出すとタイム・ラグなく外国の人も曲を聴いてくれるじゃないですか。で、直接リアクションがあったりするし。

ぼくも海外の人から感想を言われるのは、昔はなかったので、嬉しいですね。そういう文化の良きグローバリゼーションというのはあるよね。

坂本:悪い方もいっぱいあって、インターネットとかだとそっちが目立つじゃないですか。でも普通にラジオで最近買ったレコードかけると、その本人からコメントきたりとかありますね。それは昔とは違うかな、やっぱり。

▲:たしかにそれは希望かもしれないですね。

Ghostly Kisses - ele-king

 フランス系カナダ人歌手/マルチ・インストゥルメンタリストであるマルゴー・ソヴェによるプロジェクト「ゴーストリー・キシズ」の新作アルバム『Heaven, Wait』が本年リリースされた。短調のメロデイが印象的なヴォーカル曲集である。モダン・クラシカルの可憐なミニマリズムをエレガントなエレクトロニック・ポップ・ミュージックに落とし込んだ宝石のようなアルバムだ。

 『Heaven, Wait』はケベックの自宅でマルゴー・ソヴェとミニマル/モダン・クラシカル系の作曲家ルイ=エティエンヌ・サンテ(Louis-Etienne Santais)によって録音されたという。
 プロデューサーにはスフィアン・スティーヴンスセイント・ヴィンセントを手掛け、モダン・クラシカル作曲家ニコ・マーリーとのコラボレーション作品『Peter Pears: Balinese Ceremonial Music』でも知られるニューヨークを拠点とする才人トーマス・バートレット(ダヴマン)と、イギリスからザ・ヴァーヴ、ロンドン・グラマーなどを手掛けてきた敏腕ティム・ブランらが招かれた。リリースはヘンリー・グリーンなどで知られるロンドンのレーベル〈Akira Records〉からである。

 ここでゴーストリー・キシズの軌跡を簡単に振り返っておこう。マルゴー・ソヴェは5歳のときにヴァイオリンをはじめ、数年前に曲を書き、歌いはじめた。「ゴーストリー・キシズ」という名は、ウィリアム・フォークナーの詩「Une ballade des dames perdues」を読んでインスピレーションを受けて付けたという。
 まず、ゴーストリー・キシズとしては2015年にファースト・シングル「Never Know」をセルフ・リリースした。2017年にはサンフランシスコのインディ・レーベル〈Turntable Kitchen〉からEP「What You See」を、2018年になるとふたたびセルフ・リリースでEP「The City Holds My Heart」をおくりだした。そして2019年にカナダの〈Return To Analog〉からファースト・アルバム『Ghostly Kisses』を発表する。
 2020年になると〈Akira Records〉からEP「Never Let Me Go」を、2021年には〈Return To Analog〉からアコースティック演奏のEP「Alone Together」をリリースした。
 ちなみに『Heaven, Wait』の共同制作者であるルイ=エティエンヌ・サンテの『Reflection I』(2020)もお勧めしたいモダン・クラシカル・アルバムだ。ミニマルかつ抒情的な旋律が麗しく、まるでシューベルトがミニマル化したようなアルバムである。モダン・クラシカル好きの方は機会があればぜひとも聴いていただきたい。

 このような幾多の楽曲を経て制作された『Heaven, Wait』は、ゴーストリー・キシズの集大成のようなアルバムだ。エレクトロニックでダウンテンポなビートにエレガントなトラックが交錯する美しい楽曲が全10曲収録されている。
 トラックを彩るクラシカルなピアノ、エレガントなストリングス、美麗なエレクトロニクスが、繊細に、緻密に、マルゴーのシルキーな歌声に寄り添うように展開する。何よりアルバムの多くを占めるマイナーコードのメロディがとても胸に迫るのである。
 アルバムは全曲素晴らしいのだが(こんなことはなかなかない!)、初めて聴く方におすすめしたいのは、ティム・ブランがプロデュースを手掛けた “Heartbeat”、“Heaven, Wait”、トーマス・バートレットが手掛けた “A Different Kind Of Love” あたりだろうか。まるで心を沈静する甘く苦いチョコレートのような曲たちだ。また “Blackbirds” もヴォーカルとストリングスの交錯が実に見事である(とここまでで前半5曲すべてになってしまった!)。

 ほんの少しだけ悲しみが満ちているとき、かすかに嬉しいとき、小さな宝石のような美しさに震えたいとき、微細な喪失感を感じているとき、このアルバムの楽曲たちは、あなたの心に潤いを与えてくれるだろう。そして薄明かりがさすような仄かな輝きを放つアルバム最終曲 “Your Heart is Gold” に至ったとき、あなたの心にささやかな救済が訪れるのではないかと思う。そして自然と冒頭の “Heartbeat” をまた聴きたくなるのではないか。
 夜の都市の情景をさりげなく染み込む全10曲は繰り返し聴くことで、日々の暮らしのなかにかすかな憂いや美を与えてくれるに違いない。季節や時間を選ばないモダン・クラシカル/エレクトロニカ・ヴォーカル・アルバムである。

Thundercat - ele-king

 昨日、ついにスタートしたサンダーキャットの来日公演。ドラマーとして同じ〈ブレインフィーダー〉仲間、ルイス・コールが参加するという嬉しい事前告知も手伝って、会場は大いに活気に包まれていた。序盤から全開で炸裂する、驚異的なベースとドラムのコンビネーション。ただただ圧巻のひと言につきます。その恵比寿 The Garden Hall でおこなわれたショウのレポートが早くも到着。
 今夜は大阪、明日は名古屋だ。これを読んで備えましょう。

サンダーキャット、2022年の海外アーティストの
ツアーの幕開けを告げる熱狂のライブ!
この2年を超えて、集まったファン・日本に
最大限の愛を与えた一夜!
抽選で出演者全員のサイン入りポスターをプレゼント!

昨夜The Garden Hallで行われ、称賛の嵐と共に幕を閉じたサンダーキャットの記念すべき日本公演の最速ライブレポートが到着!
今夜の大阪公演、明日の名古屋公演もソールドアウト。この衝撃は見逃し厳禁!!!

Thundercat 2022, May 16 (1st set)
恵比寿The Garden Hall

 今われわれはとんでもないものを見て聴いて体感している。ステージの上にいるのは3人の超人(スーパーサイヤ人)たちなのかもしれない。何度もそう思った。
 サンダーキャットの、本来2020年4月に予定されていた来日公演は、世界中で猛威をふるいはじめた新型コロナウィルスによりあえなく延期され、2021年に再度アナウンスがされたが外国からの入国制限 が厳しく再度延期。今日(2022年5月16日、恵比寿The Garden Hall)で行われているのは再振替公演だ。すべてをいったん白紙に戻しての来日じゃない、“再延期”を経ての実現なのだと謳う気持ちには、サンダーキャットの日本カルチャー、日本のファンへの愛が何の偽りもなく込められていた。
 その熱意が実を結んでのジャパン・ツアー。コロナ禍が沈静したとは言えないまでも、細心の注意を払いつつようやくこうしてライブが叶った。2022年の海外アーティストのツアーとしてはこれが皮切りになるだろうし、東京、名古屋、大阪で連日2回公演を敢行するタフなスケジュールにも「やりたい/見たい」の需要と供給が幸福な関係で成立していると感じた。
 また、この“再再延期”によってもたらされた興奮のなかでも、思いがけないボーナスとなったのが、ツアー・ドラマーとしてルイス・コールの参加がアナウンスされたこと。事実上、サンダーキャット&ルイス・コールによる〈Brainfeeder〉スペシャル・バンドとしての来日が叶ったと言っていい。
 僕が見たのはファースト・セット。先日までのスタンディングでは1メートル間隔で仕切り線が引かれていたフロアも、今日は50センチ間隔。ぎゅうぎゅうとまではいかないが、満員の光景として遜色がない。開演前のBGMは小さめで、マスク越しとはいえ伝わる客席の静かなざわざわのほうがむしろ興奮を高める役割を果たしていたように思う。

 客電が落ち、ステージ後ろのカーテンにサンダーキャットのアイコンが映し出された。バンドはサンダーキャット、ルイス・コール、キーボードにデニス・ハム。待ち望み、待ち望まれていた時間が幕を開ける。
 まだ名古屋(17日)、大阪公演(18日)が残されているのでセットリストの詳細についてはなるべく記述を避けたいが、1曲演奏を終えて感極まるようにサンダーキャットがしゃべった言葉については書いてもいいだろう。
 「俺がどれほど日本に戻ってきたかったかわかるかい。本当にすごく好きなんだ」
 それにしても、このトリオの演奏はすさまじい。ルイス・コールが参加すると聞いたとき、近年のサンダーキャットのヴォーカル・ナンバーの充実を後押しするような感じになるのかなと予想していたが、このトリオでのルイス・コールの役割はスーパー・ドラマーだった。
 僕の立ち位置がステージ右側(ルイス・コール側)だったこともあり、背筋をしゃんと伸ばした上半身は微動だにせず、肘と膝、手首のスナップを最大限効果的に活かして、スネア、ハイハット、キックを驚異的な手数足数で連打しながら、涼しい顔つきでステディにビートを刻むテクニックがとてもよく見えた。
 ジャズ・ミュージシャンとしてのマインドを刺激されたかのようにサンダーキャットもデニスも動きまくる。この3人のインプロなら永遠に見ていられる。しかも、それでいて3人でハモるコーラスもびっくりするほど美しいんだから最高すぎて困った(ファーストセットではほんの一瞬だったので、もっと聴きたかった)。サンダーキャット以外の2人はかなり寡黙というコントラストもばっちりで、演奏面だけでなく人間味としてもシャイネスと超絶の間を自由に行き来する。まさしく現代のインタープレイとはこういうことだ。
 誰もが必ず演奏されると確信していた「I Love Luis Cole」の前には、サンダーキャットとルイスの出会いは、2012年に22歳の若さで世を去ったオースティン・ペラルタの引き合わせだったエピソードが語られた。オースティンから「楽器を持ってきてくれ」と呼び出されたサンダーキャットがLAのクラブに来てみると、そこにフレディ・クルーガー(『13日の金曜日』の)みたいな顔つきでルイスがいて、実はオースティンが最初から2人をセッションさせるつもりで仕組んだというくだり。だから、ルイス・コールと一緒に「I Love Luis Cole」をこうして演奏することは、オースティン・ペラルタへのトリビュートでもあるのだ。
 こういうところが、サンダーキャットが愛される理由のひとつだと実感する。超絶なベース・プレイヤーで、最高にスウィートなソウル・シンガーで、変態的だがメロウなコンポーザーで、日本のアニメやゲームカルチャーに没入した“OTAKU”であり、そんな自分に正直で親しみやすいキャラクターというそれぞれの側面に独自のフックはあるが、根本にあるのは自分の愛を惜しまずに誰かに与えること。彼の愛し方が、音楽ジャンルを超えて人を自由にする。

 英語の“tribute”は今では“影響を受けた曲をカヴァーすること”と同義語のように扱われている。それだと“もらう”とか“借りる”みたいな印象を持ってしまうが、本来は“与える”という由来の語源を持つ。
 オースティン・ペラルタ、マック・ミラー、MF ドゥーム、ジャコ・パストリアス、チック・コリア、そしてコロナ禍で亡くなった友人たちにも。故人ではなくとも自分を育てたアニメ/ゲーム・カルチャーの担い手である渡辺信一郎や中村正人、実兄でドラマーのロナルド・ブルーナー・ジュニア(兄弟が少年時代にテレビ争いでケンカしていたエピソードはかわいかった)にも、自分のやり方で愛を。そして、大変な状況だったこの2年を超えて、ここに集まったファンにも最大限の愛を。
 サンダーキャットはまさに“愛を与える人”だと心から思った一夜だった。

text by 松永良平


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Jazzanova - ele-king

 デトロイトの〈ストラタ・レコーズ〉は1970年代のごく僅かな期間に活動していたジャズ・レーベルで、同じデトロイトの〈トライブ〉やニューヨークの〈ストラタ・イースト〉同様、1990年代以降のレア・グルーヴ・ムーヴメントやスピリチュアル・ジャズ再評価の波のなかで発掘されていった。現在その原盤は中古市場で高値で取引されていることでも知られる。創設者は〈ブルーノート〉にも作品を残すピアニストのケニー・コックスで、彼の地元であるデトロイトのアーティストたちの作品発表の場を担う目的で、彼のグループのCJQ(コンテンポラリー・ジャズ・クインテット)はじめ、僅か一枚のアルバムを残してシーンから消えた謎のアーティストであるマウラウィ、レア・グルーヴ・ファンから人気の高いライマン・ウッダード・オーガニゼイション、〈トライブ〉でもミックスド・バッグというグループで作品を残すラリー・ノゼロなどの作品がリリースされた。

 レーベルは1973年から1975年に6枚のアルバムを発表したのみで活動停止してしまうが、一方で録音されたものの発表されなかった音源もいくつか存在した。その後2010年代に入ってDJユニットのコン&アミールの片割れであるアミール・アブドゥラが興した〈180プルーフ〉によって、未発表音源の発掘作業がはじまる。ケニー・コックスやマウラウィ、サム・サンダース、ロン・イングリッシュなどのお蔵入りしていた音源が陽の目を見るとともに、ライマン・ウッダード・オーガニゼイションやラリー・ノゼロのアルバムがリイシューされる。ものによって別テイクが付属されたりアナログ盤はリマスタリングされて音質向上を図るなど、なかなかマニア受けする企画である。UKの〈BBE〉を経由して日本でもいくつかライセンス・リリースされ、この春にもCJQ、ライマン・ウッダード・オーガニゼイション、マウラウィのアルバムのリイシューCDが出ているが、その関連作品としてジャザノヴァによるカヴァー・アルバムもリリースされた。

 ジャザノヴァとしては2018年の『ザ・プール』以来のアルバムで、自身のオリジナル・アルバムではないものの、極めて寡作な彼らの音を聴くことができる貴重な作品である。もともとDJユニットとして交流のあったジャザノヴァとコン&アミールが、〈ストラタ・レコーズ〉を介してコラボした結果として生まれた企画である(アメリカ人のアミールも現在はジャザノヴァとともにベルリン在住のようである)。いわゆるDJ的なリミックス作業を施して〈ストラタ〉音源を再解釈するのではなく、ジャザノヴァ周辺のミュージシャンたちがバンド形式で生演奏するというカヴァー形式をとっている。ジャザノヴァのメンバーとして参加するのはサウンド・プロダクションを担うステファン・ライセリングとアクセル・レイネマーで、バンド演奏のディレクションやミキシングなどのスタジオ・ワークを担っている。

 演奏はピアノ、ベース、ギター、ドラムス、トランペット、トロンボーン、サックスの7人編成で、そこにアメリカ出身のシンガーであるショーン・ハーフェリが数曲に参加する。ハイライトのひとつはライマン・ウッダード・オーガニゼイションの“クリエイティヴ・ミュージシャンズ”で、1975年のアルバム『サタデー・ナイト・スペシャル』に収録された〈ストラタ〉史上でもっとも有名な楽曲だろう。ロー・ファイなジャズ・ファンクであるこの曲を、ジャザノヴァはオリジナルの雰囲気を尊重しつつもアフロ・テイストとコズミックな質感を交えて再解釈している。ショーン・ハーフェリのヴォーカルもどこかギル・スコット・ヘロンを彷彿とさせる感じだ。同アルバムのタイトル曲“サタデー・ナイト・スペシャル”はブラックスプロイテーションのサントラに登場しそうなジャズ・ファンクで、ミステリアスなムードを醸し出すオルガンの響きが印象的な楽曲だが、ジャザノヴァはハンド・クラップのビートを交えながらややテンポ・アップさせて、ムーディーマンやセオ・パリッシュなどのデトロイト・ハウスにシンクロするような作品に変換している。ちなみにセオ・パリッシュなどと共演するノーマ・ジーン・ベルが初めてサックスを演奏したレコーディングは〈ストラタ〉であり、ほかにもビルド・アン・アークやヒュー・ヴァイブレーショナルに参加して長い活動を続けるコンガ奏者のアダム・ルドルフも〈ストラタ〉のレコーディングに参加していたりと、現在のデトロイトの音楽シーンにも〈ストラタ〉の痕跡は受け継がれている。

 “フェイス・アット・マイ・ウィンドウズ”はサム・サンダースによる作品で、アミールが初めて手掛けた〈ストラタ〉音源の未発表アルバム『ミラー、ミラー』(2013年リリース)の収録曲。原曲は女性ヴォーカルをフィーチャーしたラテン調の曲だったが、ジャザノヴァは男性ヴォーカルのショーン・ハーフェリをフィーチャーしたフュージョン・ソウルへ置き換えている。ロイ・エアーズのメロウ・グルーヴに繋がるような1曲である。ジャズ・ファンクやメロウ・グルーヴだけでなく、バート・マイリックの“スコルピオズ・チャイルド”のようなモーダル・ジャズも手掛けるあたりがジャザノヴァならではで、いろいろなタイプのジャズに造詣や理解の深いジャザノヴァだからできるアルバムだろう。

Funkadelic - ele-king

 昨年から「リリースから50年」にかこつけた再発盤が出ているので、この機会に書こうと思ったものの、すでにネット上には良いレヴューが多数あるので、止めておこうかなとも思った。ピッチフォークのレヴューも素晴らしかったし、あれ以上のことが自分に書けるのだろうかと。……なんてことを言いながら、いまこうして書いているのには理由がある。今年の初めに取りかかっていたエレキング別冊イーノ号において、ブライアン・イーノにとってファンクを好きになったきっかけがPファンクだったという原稿を書きながら、つまりPファンクがいなければトーキング・ヘッズの3部作も生まれなかったんだよなぁとしみじみ考えたりしていたのである。あまり語られていないけれど、UKのポスト・パンク時代のザ・ポップ・グループやザ・スリッツといったバンドにもジョージ・クリントンは影響を与えている。当然『サンディニスタ!』にも『バムド』にも『スクリーマデリカ』にも。
 で、いま書いたどこに理由があるのかと言えば、イーノはPファンクをきっかけにファンクを好きになりましたと、まずはそれを書いておきたかったという点にある。CANはジェイムズ・ブラウンに影響されたがイーノは違っていたと、どうですか、これだけでも音楽好きの酒の肴になるでしょう。

 「『マゴット・ブレイン』は、黒人グループが到達したことのない場所まで向かっていた。アメリカはいまも正しい道を進んでいるのだろうか? 60年代後半の約束は、完全に消滅してしまったのか? こうした疑問を投げかけていたのだ」
 ジョージ・クリントの自伝『ファンクはつらいよ』(押野素子訳‏/原題:Brothas Be, Yo' Like George, Ain't That Funkin')に記されているこの言葉は、現在ネットに散在する多くのレヴューに引用されているが、実際ここには、当時のPファンクとは何だったのかを知る上での重要事項が凝縮されている。「60年代後半の約束」——ジョージ・クリントンが率いたこの時期のPファンクのコンセプトには、サマー・オブ・ラヴの終焉(ないしはポスト公民権運動)に関する調査結果がリンクしているという事実は見落としてはならない話だし、ことにサイケデリックで、なおかつ階級闘争的なこのアルバムではそうした季節の変わり目に対してのクリトンの解釈が作品の骨子となっている。

 その苦い思いは、『マゴット・ブレイン』の前作にあたる、セカンド・アルバム『Free Your Mind And Your Ass Will Follow(心を解き放てば、ケツの穴がついてくる)』において先んじている。「ウォール街の芸術/金に敬意を表する私たちの父‏‏‏‏‏‏/あなたの王国だ/あなたの時代だ」(Eulogy and light=賛辞と光)は、LSDにまみれた当時のこのバンドのひたむきな理想主義への情熱が打ち砕かれ、そして同時に空しい70年代における利己主義の到来を、激しい混乱のなかで正気を保ちながら予見している。もっとも貧しい人たちのコミュニティが物質主義に翻弄されて破壊していく様を、クリントンは直視していた。

 ジョージ・クリントンが希有だったのは、アフロ・ディアスポラとして60年代後半の革命の時代に参加したことで、しかもそれは、教会の熱気やストリートの荒廃から離れることなく、ボブ・ディランやジョン・レノンがやったことを感情と知性をもって享受したということだった。リッキー・ヴィンセントが名著『ファンク』のなかで述べているように、それまで白人文化の特権だと思われていた「知性、教養、洗練」といったものを、Pファンクは「黒人であること」に結びつけることができたのである。

 ファンには有名なフレーズ「俺にはかつて人生があった/むしろ人生が俺を持っていた」——カントリーとファンクそしてゴスペルが交錯する『マゴット・ブレイン』の2曲目の〝Can You Get To That〟は、ぼくのお気に入りの1曲で、キング牧師の演説のなかの比喩(アメリカが黒人に押しつけたinsufficient funds=不渡りという言葉)を流用し、愛の時代の終焉を歌っていながらこの曲にはどこか可笑しさがある。ディランの歌詞のようにメタファーとナンセンスをもって語るこの曲は、絶望を押しつけない。その認識さえも表現の仕方によっては楽しさにひっくり返せるという知恵を実践している。

 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの洗練されたファンクを彷彿させる“You And Your Folks, Me And My Folks”は、貧しい人たちの団結を訴えている力強い曲で、サンプリングの標的にされている曲でもあるが、本作においてもっともカットアップされることになったティキ・フルウッドのドラミング(ブレイク)と言えば、クリントンの自伝によると“Back In Our Minds”になる。本作を聴いたマイルス・デイヴィスは、そのリズムに感銘を受けてフルウッドを自分のバンドに起用したというが、『マゴット・ブレイン』は、伝説の初期メンバーが揃った最後のアルバムでもあった。河内依子の労作『P-FUNK』によれば、本作には後にメンバーとなるゲイリー・シャイダーほか数人のゲストが参加していたということだが、基本となっているのはフルウッドのほかバーニー・ウォーレル(k)、ビリー・ネルソン(b)、エディ・ヘイゼル(g)、タウル・ロス(g)。ネルソンはギャラの件でクリントンと揉めて、ロスはアシッドを過剰摂取したうえにスピードを鼻から吸い込んで、すっかりイカれたしまったと言われている。が、もうひとりのギタリストのヘイゼルは、実存的な悲しみをその表題曲“Maggot Brain”においてみごとに表現した。曲の主題は彼のギターソロと、クリントンの言葉によっても描かれている。

 『マゴット・ブレイン』の表題曲におけるクリントンの、これまた超有名なフレーズ「俺は宇宙の心でウジ虫を味わった」とは、言うまでもなく最悪などん底状態を意味している。本作は、ピッチフォークが言うように、アルバムの最初の最後に肝があるのだが、そのはじまりは、とてつもない絶望と喪失感だったりする。ちなみに何回目かの再発盤で、すべてのパート(ドラム、ベース、キーボード)が入った最初のヴァージョンがお目見えになっているが、ヘイゼルのギターのみを残したミックスを最終ヴァージョンとしたジョージ・クリントンは、この時期本当に冴えていたのだ。

 とはいえこんなアルバムは、リアルタイムでそうそうよろしく理解されたわけでもなかったようだ。ゲイトフォールド・ジャケットの内側には、「最終審判教会プロセス」なる架空のカルトによって書かれたという一節が引用されている。それは地球を覆い尽くしている恐怖や暴力や憎悪についての警鐘めいたものだが、「教会プロセス」という名称がチャールズ・マンソンのカルト教会名と似ていたため、あるいはまた、アルバムのアートワークが土に埋められ叫ぶ女性の顔(裏ジャケットはその骸骨)で、しかも「ウジ虫」がタイトルとくれば、この時期のファンカデリックが不遜で不吉なバンドだといちぶの人たちから思われても仕方がなかったのかもしれない。収録曲の“Super Stupid”は、その曲名(超バカ)のファンキーさとは裏腹に、エクストリームなヘヴィメタル・スタイルの先駆けとなった。要するに、サウンド面においても『マゴット・ブレイン』は先走っていたと、そのもっともインパクトのあるファンキーな成果が、アルバムを締める“Wars Of Armageddon(アルマゲドン戦争)”だ。この曲は、リー・ペリーがその5年後にやることをすでにやっているし、20年後にデトロイトのアンダーグラウンド・レジスタンスがエレクトロニックに再現する原型とも言えるだろう。そして、フルウッドの、それこそマイルスを魅了したドラミングが疾駆し、ウォーレルのキーボードやヘイゼルのギターがうねり、ナンセンスきわまりない具体音が突き抜けるこの曲は、クリントンが表題曲に込めたもの——いわく「喪失感と無力感、絶望の精神性、どん底に足が着いたときにわずかに沸き上がる希望」における「希望」があざやかに噴出している。曲の後半では「More power to the people(人々によりパワーを)/More pussy to the power(パワーによりプッシーを)」という言葉がぶっきらぼうに繰り返されているが、そこには同時に、おならのような音や脈絡のない奇声、動物の声がオーヴァーダブされている。クリントンは、なんだかさっぱりわからないが、なんとかなるんじゃないかと思えてくるという離れ業を、9分以上のこの曲においてばっちり実現しているのだ。

 ぼくが高校時代に読んだ、当時はまだハードカバーしかなかった村上春樹の処女作『風の歌を聴け』は、たしか太陽の光には夜の暗さがわからないというような言葉で締められていた。当時のぼくは、なるほど、その通りだと思ったものだが、それから10年後に聴いたPファンクは、夜の暗さにもわからない暗さがあって、だけど、そこに光を当てることもできなくはないんじゃないかと思わせてくれた。まあ、ファンキーでありさえすればの話だが、『マゴット・ブレイン』は、いま聴いてもぼくにそう思わせてくれる。

 

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グラント・ピーターセン Grant Petersen
サンフランシスコの自転車メーカー、リヴェンデル(Rivendell)の設立者。ライターとしては『Bicycling』、『Outside』、『Men's Journal』など、多くのメジャーなアウトドア雑誌/自転車雑誌に寄稿。著書に『Eat Bacon, Don't Jog: Get Strong. Get Lean. No Bullshit.』(2014年)がある。

沼崎敦子 Atsuko Numasaki
上智大学新聞学科卒。主な訳書に『R.E.M.ストーリー』、『ガンズ・アンド・ローゼズ』、『プリンス A POP LIFE』、『自伝 裸のジョージ・マイケル』、『トゥルー・カラーズ シンディ・ローパー自伝』、『トータル・パフォーマー ローリー・アンダーソン』など多数。ちなみに本人はバイクライダーでなくジョガー。

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東京に3店舗構える自転車屋。Rivendell の取り扱いは2014 年から。著者であるグラントから直接教えを乞い、技術はもとより、思想を学ぶ。自転車屋としての日々の修理・メンテナンス業務のかたわら、Just Ride な考え方の普及に尽力。もちろん Rivendell の自転車の購入も可能。https://bluelug.com/

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訂正
このたび は弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『新版ジャスト・ライド——ラディカルで実践的な自転車入門』において、
13ページの13行目の(約3,500キロ)は(約35.000キロ)の誤りです。
謹んで訂正いたしますとともに、
お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

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