「Nothing」と一致するもの

MURO × VINYL GOES AROUND - ele-king

 VINYL GOES AROUNDが監修した別エレ・レアグルーヴ特集号(おかげさまで大好評!)で、巻頭インタヴューに応じてくれたMURO。両者のコラボ企画第三弾が発表されている。
 今回VGAがフォーカスするのは、1940年代バップ期から活躍しパーカーなどを支えたドラマーのロイ・ポーター。70年代には「ロイ・ポーター・サウンド・マシーン」として作品を発表、90年代以降はレアグルーヴの文脈で評価され、『Inner Feelings』(1975)所収の “Panama” はDJスピナがサンプリングしたことで注目を集めた。
 そんなポーターの代表作、『Jessica』(1971)と『Inner Feelings』をモティーフにしたTシャツが発売されることになった。どちらも、デラックス・エディションのヴァイナルを付属した豪華セットが用意されており、前者にはケニー・ドープのリミックス、後者にはMUROのリエディットを収録した7インチが付属する。
 今回も限定品なので、お早めに。

MUROとVINYL GOES AROUNDのコラボレーション、第三弾!
ロイ・ポーター・サウンド・マシーンのオリジナル・ロング・スリーヴ Tシャツが発売されます!

ビッグ・バンド、スウィング、ビ・バップ、ジャズファンク各カテゴリーで光り輝いたドラマー、ロイ・ポーター。90年代以降は上質なサンプリング・ブレイクを叩く一人としてもヒップホップやレアグルーヴ・シーンで人気を博しました。
VGAでは彼が率いるロイ・ポーター・サウンド・マシーンの代表的なアルバム2作品をモチーフにしたロング・スリーヴ Tシャツを発売します。今回も受注生産につき、色を選べるのは受注期間のみ。

またセットでロイ・ポーター・サウンド・マシーンのデラックス・エディション・ヴァイナル付きも販売。
デラックス・エディションはゲートフォールド・ジャケットの片側にカラー・ヴァイナルのLP、もう片側にはスペシャルな7インチが専用のボードに固定されて収納。7インチのそれぞれの収録曲は『Jessica』には “Jessica” のKenny Dopeによるリミックスと “Jessica Vocal Version”。『Inner Feelings』には “Panama” のMUROのリエディットと “Panama Vovcal Version” がカップリング。どちらもデラックス・エディションにふさわしいレアなアイテムです。

伝説的なドラマーのロンTとプレミアムなアイテムでもあるデラックス・エディションのヴァイナルをこの機会に是非。

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□VGA-1024
Jessica Original Long Sleeve T-Shirt

GOLD / BLACK / WHITE
S/M/L/XL/XXL

¥6,000
(With Tax ¥6,600)

□VGA-1030
Inner Feelings Original Long Sleeve T-Shirt

BLACK / WHITE
S/M/L/XL/XXL

¥6,000
(With Tax ¥6,600)

□VGA-1031
Jessica Original Long Sleeve T-Shirt
With Deluxe Edition Vinyl

GOLD / BLACK / WHITE
S/M/L/XL/XXL

¥11,000
(With Tax ¥12,100)

□VGA-1032
Inner Feelings Original Long Sleeve T-Shirt
With Deluxe Edition Vinyl

BLACK / WHITE
S/M/L/XL/XXL

¥11,000
(With Tax ¥12,100)

※期間限定受注生産(~2023年1月31日まで)
※商品の発送は 2023年2月下旬ごろを予定しています。
※Tシャツのボディはギルダン 2400 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※レコードは他店にて流通するアイテムとなります。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。

Maxine Funke - ele-king

 まるで何事もなかったかのように思えてくる。朝が来て、昼になり、そして黄昏時を向けていると夜のとばりがおりる。この場合、季節はいつだっていいが、いまは冬だから冬にしよう。単調で、なんの取り柄のない、静かな1日。マキシン・フンケの歌が聞こえる。彼女の音楽は、そんな慎ましい1日にも豊かな詩情があることをわからせる。慌ただしく、やかましいこの日常においてはつねに掻き消されていくそれを、ニュージーランドのフォーク歌手は大切にしまっている。
 ぼくが彼女を知ったのは〈Disciples〉が本作をリリースしたからで、このレーベルのA&Rのセンスをあらためて評価したいわけだが、Phewやスージー・アナログを出しながらこれかよと、決して意表を突かれたわけではない。やはりいま、時代はフォーク的なるものを欲しているのだ。ヴァシュティ・バニヤンを持ち出されながら紹介されている彼女の過去作品もこれを期に聴ける分だけ聴いてみたらほとんど良かった。
 フンケの音楽は、しかしレトロではない。ギターに関しても実験的アプローチがあって、また、グリッチや打ち込みドラムといったエレクトロニクスもほどよく使われ、これらを何もない1日の夢のような時間を表現するのに役立てている。おそらくはDIY録音で、彼女はこの10年コンスタントに作品を出しているが、BandcampやDiscogsを見ていると、既発作のアートワークも手作り感があって、もともと「インディ」と呼ばれた音楽作品ってこうだったよなと思い出した。(〈Disciples〉の、本をデザインしたレーベルのマークもぼくは好みで、70年代末や80年代前半の「インディ」には本好き(bookish)というニュアンスが包含されていたことは、当時のバンド名や曲名をみれば察していただけるだろう)

 本作『流木の欠片の数々(Pieces Of Driftwood)』は彼女の新作ではなく、これまでリリースしてきたアルバム未収録の楽曲を〈Disciples〉がまとめたものだが、入門編として充分に機能している。漫画でも思いつかないような狂気の沙汰の決勝戦、23歳の無敵の怪物への驚嘆、そして13歳で故郷アルゼンチンを離れた35歳のチャンピオンへの祝福をもって、およそ1か月におよぶスポーツの祭典、W杯は終わった。カタール開催は問題が多く、それが解決したわけではないのだが、皮肉にもけっこう面白かった。我々は熱狂のスタジアムをあとにして、4年後のために日常に戻らなければならない。人生のほとんどを占めるなんてことのない日々のなかに、マキシン・フンケの音楽はそっと入り込んでくるだろう。


Kokoroko - ele-king

 今年のW杯でのトピックのひとつに、モロッコがアフリカ勢として初のベスト4へ駒を進めたことがある。モロッコは大西洋と地中海に面した北アフリカに位置し、文化的にはアラブやヨーロッパからの影響が強く、アフリカ諸国のなかでも独自の文化を持つ国であるが、音楽的にはイスラム教の宗教歌を発祥とするグナワ音楽が有名で、現在はロックやファンク、ヒップホップなど西欧の音楽も根付いて発展を見せている。ひとくちにアフリカといっても様々な国があり、様々な民族音楽が受け継がれている。そして、そうしたアフリカからの移民や難民が世界中に散らばり、それぞれの国や地域でアフリカの音楽を広めている。今年もアフリカ以外の地で生まれた素晴らしいアフリカ音楽の作品があった。

 一枚目はココロコの『クゥド・ウィ・ビー・モア』である。ココロコはサウス・ロンドンを拠点とするアフロ・バンドで、サウス・ロンドン・シーンが注目を集めたころから活動している。リーダーはトランペットのシーラ・モーリス・グレイで、彼女が別に参加するネリヤやシード・アンサンブルのサックス奏者であるキャシー・キノシもメンバー、それからトロンボーンのリッチー・シーヴライトと女性が多いバンドである。彼女たちはアフリカ系で、ほかにベースのムタレ・チャシ、キーボードのヨハン・ケベデ、パーカッションのオノメ・エッジワースとアフリカ系、もしくはその血を引くミュージシャンが集まっている。
 彼らの作品が初めて登場したのはコンピの『ウィ・アウト・ヒア』(2018年)で、そのときはシンガー・ソングライターのオスカー・ジェロームがギターで参加し、作曲もおこなっていた。彼は2019年のデビューEP「ココロコ」にも参加しており、グループのなかで強い影響力を持つひとりであったのだが、ファースト・アルバム『クゥド・ウィ・ビー・モア』には参加しておらず、かわりにトビ・アデカイネ・ジョンソン(ギター)、デュアン・アザーレイ(ベース、シンセ、キーボード)が参加する。ドラムはエディ・ヒックがやっていたときもあったが、現在はアヨ・サラウが務めている。現在はメンバー全員がアフリカ系だ。

 ココロコの音楽はアフリカ音楽とジャズのミクスチャーで、アフリカ系やカリブ系ミュージシャンの多いサウス・ロンドンならではのものと言えるが、特にナイジェリアのフェラ・クティやトニー・アレン、ガーナのエボ・テイラーなど西アフリカの音楽に影響を受けている。2020年のシングル曲の “キャリー・ミー” や “ババ・アヨーラ” などはダンサブルなアフロビートで、キーボードなど楽器演奏はジャズ的というか西欧音楽的である。一方で『ウィ・アウト・ヒア』でやっていた “アブセイ・ジャンクション” は非常に素朴なフォーク・ミュージックで、アフリカ音楽と西洋音楽が結びついたハイライフやアフロビートなどに比べ、よりアフリカ民謡に近い音楽と言えよう。EPの「ココロコ」は、このココロコの動と静の魅力両面が詰まったものとなっていた。
 そして、『クゥド・ウィ・ビー・モア』は素朴さや大らかさ、アフリカ音楽の深みがより強まっていると感じる。“トジョ” はゆったりとしたグルーヴを持つアフロビートで、スペイシーなシンセとホーン・アンサンブルが印象的。アルバムのなかでは比較的ジャジーでミクスチャーな風味を感じさせる曲だ。アフロ・ジャズの “エワ・イヌ” もそうだが、フェラ・クティに代表される攻撃的で戦闘的なレベル・ミュージックのアフロビートではなく、雄大で懐の深いグルーヴを持つ作品となっている。アプローチとしてはファラオ・サンダース的と言えるだろう。
 メロウネスに満ちた “エイジ・オブ・アセント” の開放的な空気、優しいワードレス・コーラスを配した “ディデ・オー” の哀愁は、このアルバムでもっとも美しい景色を見せてくれる。ダンサブルなハイライフの “ソウル・サーチング” や “ウィ・ギヴ・サンクス” にしても温かみや優しさを感じさせ、“ドーズ・グッド・タイムズ” はラヴァーズ・ロックにも通じる極上のメロウなアフロ・ソウル。“ウォー・ダンス” が比較的アジテーショナルなアフロビートとなっているものの、内省的なフォーク・ソングの “ホーム” やメロウでコズミックなアレンジによるアフロ・フュージョン “サムシングズ・ゴーイング・オン” と、ピースフルで牧歌的な世界が『クゥド・ウィ・ビー・モア』には貫かれている。

 このココロコに割と近いテイストを持つのが、ジェンバ・グルーヴというドイツのユニットである。ガーナ生まれのエリック・オウス(ヴォーカル、パーカッション)とベルリン出身のヤニック・ノルティング(ベース)によるユニットで、演奏にはほかにベナン出身のババトゥンデ・アゴングロ(ギター)、イスラエル出身のメラヴ・ゴールドマン(フレンチ・ホルン)とニル・サバグ(ドラムス)、ポルトガル出身のゴンサロ・モルタグア(サックス)、ガーナ出身のモーゼス・ヨーフィー・ヴェスター(キーボード)が加わる。エリックはエボ・テイラーやパット・トーマスなどガーナの大御所ミュージシャンの作品に参加してきて、ジョニーというアフロ・ロック・バンドもやっているが、2020年にベルリンでヤニックと出会ってユニットが結成された。国籍が異なるふたりの共通項は、ガーナのハイライフや1970年代のソウル・ミュージックから影響を受けているという点で、ガーナのハイライフやアドワ、ギニア、マリ、コートジボワールなどで広まったワソルなど西アフリカの伝統音楽と、西欧の黒人音楽であるソウルを融合していく方向性でユニットは始まった。2021年から “バサ・バサ”、“アマレ”、“モコレ” とシングルを発表してきて、2022年に入ってファースト・アルバムの『ススマ』をリリースする。

 “アーウォヤ” はメロウでゆったりとしたグルーヴを持つアフロ・ソウルで、ココロコの音楽に非常に近い。ソウルと言っても都会的に洗練されたそれではなく、素朴で大地の匂いを感じさせるものだ。“スバン” もそうだが、エリックはアフリカの先住民族の言葉(おそらくアカン語か?)で歌っており、メロディ・ラインも含めて西欧音楽とは異なる独特の雰囲気を持つ。そのメロディは “アデサネ” や “モコレ” はじめ哀愁と牧歌性に富み、アフリカ特有のものである。いい意味での土臭さ、泥臭さがジェンバ・グルーヴの最大の魅力だろう。シングル・カットされた “バサ・バサ” はそんなジェンバ・グルーヴらしい楽曲で、“アマレ” は土着的なダンス・グルーヴとなっている。大らかでメロウネスに満ちた “K33・モミ” は、彼らの標榜するアフリカ音楽とソウルの融合が結実した作品。
 ココロコ、ジェンバ・グルーヴともに、アフリカ音楽のメロウで美しい側面を見事に表現するグループだ。

interview with Blue Lab Beats - ele-king

 サウス・ロンドンを中心に、若く新しいアーティストによって活況を呈するイギリスのジャズ・シーン。いろいろなタイプのアーティストが活動しているのだが、そうしたなかでもっともクラブ・ミュージックやストリート・サウンドとの連携を見せるひとつがブルー・ラブ・ビーツである。
 ブルー・ラブ・ビーツはプロデューサー/ビートメイカーの NK-OK ことナマリ・クワテンと、マルチ・インストゥルメンタル・プレイヤーのミスター・DM ことデヴィッド・ムラクポルがロンドンで2013年に結成したユニットで、2016年にEPの「ブルー・スカイズ」でデビュー。ヒップホップやR&B/ネオ・ソウル、ハウスやドラムンベース、ブロークンビーツなどのプログラミング・サウンドとジャズ・ミュージシャンたちによる生演奏を融合し、ラッパーやシンガーたちとのコラボを積極的におこなっている。アメリカにおけるロバート・グラスパーやサンダーキャットなどの新世代ジャズの影響を受けつつも、レゲエ/ダンスホールやグライムなどUKらしいクラブ・サウンドのエッセンスを取り入れているのが特徴である。ファースト・アルバム『クロスオーヴァー』(2018年)ではモーゼス・ボイドヌバイア・ガルシアアシュリー・ヘンリーネリヤらと共演するなど、サウス・ロンドンのジャズ・シーンとも深く関わりを見せ、セカンド・アルバムの『ヴォヤージ』(2019年)ではアフリカ、カリブ、ラテンなどのルーツ・ミュージック的なテイストを色濃く表して進化を見せた。

 2021年からは〈ブルーノート〉と契約を結び、今年は3年ぶりのニュー・アルバム『マザーランド・ジャーニー』をリリースした後、キャリア初のライヴ盤となる『ジャズトロニカ』を発表している。この『ジャズトロニカ』はクラシックなどの世界でも名高いロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでの録音で、JFエイブラハムが指揮するマルチ・ストーリー・オーケストラとの共演という、これまでのブルー・ラブ・ビーツの作品のなかでも異色のものとなっている。こうしてまた新たなチャレンジを試みたブルー・ラブ・ビーツが待望の初来日公演をおこなった。会場はブルーノート・ジャパンが手掛ける新業態のダイニング「BLUE NOTE PLACE」(東京・恵比寿)で、12/6~9と4日間に渡って日替わりでゲスト・ミュージシャンやDJも入り、マイケル・カネコら日本のアーティストとの共演もおこなわれた。このライヴの合間を縫って、初めて日本の地を踏んだ NK-OK とミスター・DM に話を訊いた。


向かって左がNK-OK(ナマリ・クワテン)、右がミスター・DM(デヴィッド・ムラクポル)

ライヴではみんなが即興でやれる自由を与えたい。自分の解釈でやってほしい。きっちりこのメロディ・ラインを吹かなきゃ、とか思わずにやってほしい。

日本は初めてですよね?

NK-OK(以下NK):ああ。

以前、日本のアーティスト Kan Sano さんと対談されていましたが、そのとき来日していたわけではないのですね。

NK:あれはZOOMでやったんだ。

日本の印象はどうですか?

NK:とても美しい。ロンドンより全然クリーンで(笑)。比べ物にならない。

ミスター・DM(以下DM):ヴィジュアル的に惹かれる。

NK:すべてにおいてスタンダードが高くて、感動するね。

気に入った場所とかあります?

NK:今朝、神社に行ったんだよ。このあたりの(と地図アプリを見せる。明治神宮のあたり)。少し歩いたよ。

まずは発売されたばかりのライヴEP「ジャズトロニカ」についてお伺いします。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールという由緒正しき会場で録音されていますね。普段あなたがたがやっているトータル・リフレッシュメント・センターやジャズ・リフレッシュドなどでのライヴとはかなり毛色が異なっていますが、この会場でやることになった経緯を教えてください。

NK:ロイヤル・アルバート・ホールと言っても、厳密にはエルガー・ルームなんだよ。だからチケットも12ポンド(約2,000円)と手頃な値段だ。

DM:テーブルと椅子もとっぱらった。

NK:そう、スタンディングで400人くらいだったかな。ソールド・アウトになってすごく盛り上がったよ。ここ(恵比寿BLUE NOTE PLACE)もそうだけど、インティメイトなギグだった。「ハイプ・マン!」で「イェー!イェー!イェー!」とみんなを煽るやつを、普段はお堅いロイヤル・アルバート・ホールでできたのが最高だったね。「みんなジャンプしろ!」ってね。しかもバックにはストリングスがいて……最高の気分だった。

エルガー・ルームというのは、ロイヤル・アルバート・ホールのなかにあるスペースのことですよね。

NK:ああ、普段は椅子があって150名くらい入るスペースで。新人のミュージシャンにしてみれば、そこでやっても「ロイヤル・アルバート・ホールでやった」と言えるということ。メインのホールよりはずっとハードルが低くて、チケットも手頃な金額になる。メインホールだと50ポンド(約8,300円)は越えるから。

WACは安い授業料で様々な音楽プログラムを提供するところなんだ。授業料は1時間で1ポンド(170円弱)くらいだったかな。そこでデヴィッドと会ったのさ。

JFエイブラハムが指揮するマルチ・ストーリー・オーケストラと一緒にやることになった経緯も教えてください。

NK:ロイヤル・アルバート・ホール/エルガー・ルームの方から、それでやらないかとコンタクトがあり、それでストリング・セクションを集め、ネイティヴ・インストルメンツ社、スピットファイアー・オーディオ社、YouTubeミュージック社、〈ブルーノート〉などに話を持ちかけ、協賛金を出してもらった。YouTubeが全部撮影をしたので、いまは4曲ほどだけアップされてるけど、年内には全曲分が公開予定だ。

ストリングスが入ることで、クラシック音楽との関連が見えましたが、おふたりはこれまでクラシック音楽を学んだことはありますか?

DM:まったくない。

NK:僕も。オーケストラにアレンジされたものを聴くのは好きだよ。J・ディラの……

DM:ミゲル・アトウッド・ファーガソン。

NK:そう、彼のJ・ディラのプロジェクトはよかった。

今回のストリングスのアレンジとか編成に関しては、誰が、どんなふうにされたんですか?

NK:基本のアレンジは僕らふたりがやって、それをデヴィットから作曲家、そして指揮者に渡して、三者のブレインを集結させ、やりとりの末に仕上げたんだ。一度リハーサルをやって、本番に臨んだ。

曲はおもに今年リリースしたアルバム『マザーランド・ジャーニー』からのものですが、オーケストラが加わることで大きく印象が変わっています。ライヴ用に新たにアレンジされたんですよね?

NK:ああ、そうだよ。

今夜(12月7日)の BLUE NOTE PLACE でのライヴはどんな感じになりそうですか? ストリングスはいないですよね。

NK:(笑)。ああ、いないね。僕がドラムマシンとコンピューターを使って、プログラミングですべての音を出し……

DM:そこに僕がキーボードとギターでライヴの要素を加える。

NK:さらにはゲストでサックス(中島朱葉)、トランペット(曽根麻央)、ラッパー(鈴木真海子)、シンガー(ナオ・ヨシオカ)を迎えるよ。

いつもイギリスでやるときのメンバーを全員連れてくるわけにはいかないと思いますが、今回のように現地のゲストを迎えることもよくあるのですか?

NK:ヨーロッパだったら、いつもやってるトランペットとサックス奏者を連れていけるけど、それより遠くだと予算を考えて、現地のプレイヤーを使うんだ。そうすることの楽しさももちろんあるよ。カナダのモントリオールでもそうだった。

マイケル・カネコ(前日の12月6日に共演)さんとはどうでした?

NK:連絡をもらって、音を聴いて「すごいドープなやつだな!」って思ったよ。

逆に、現地の方々とやることの難しさは?

NK:難しさは言葉の壁かな(笑)。それでも通訳を介して、なんとでもなる。

DM:僕らの音楽を、彼らがどう解釈してくれるか……それを聴くのが楽しいよ。

NK:ああ、それが聴けるっていうのがいちばん美しい部分だね。ライヴではみんなが即興でやれる自由を与えたい。自分の解釈でやってほしい、と。リハーサルでも、アレンジを知ってくれた上で自由にやってとお願いしたんだ。きっちりこのメロディ・ラインを吹かなきゃ、とか思わずにやってほしいと。昨夜もすごくいい感じだったよ。

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ひとつでいいから、自分たちの音楽のなかに初めて探索する部分がほしかった。やり慣れたエリアを離れて仕事をすることで、最終的には「メイク・センスするもの(意味が通じるもの)」ができたと思う。

あらためて、これまでの歩みについても伺いたく思います。あなたがたが登場してきた2010年代後半はちょうどサウス・ロンドンのジャズ・シーンに注目が集まり、トム・ミッシュやジョルジャ・スミスなどのシンガーが台頭してきた時期でした。ですのであなたがたのこともそのくくりで見てしまいがちですが、じっさいはロンドンの北部を拠点にしているのですよね?

DM:ああ、ノース・ロンドンだよ。

そこの大学で出会って、曲作りをはじめた?

NK:ベルサイズ・パークにあるウィークエンド・アーツ・カレッジ(WAC)で会ったんだ。僕は12歳くらいだった。一緒に音楽を作りはじめたときは13になってたよね。

DM:ああ。

12歳で大学生だったわけじゃないですよね?

NK:違う違う。僕が食堂でビートをプレイしてたところにデヴィッドが通りかかって、「ドープ! あっちでリハーサルやってるから来ないか?」って声をかけられて、リハーサル室に行ったら、次々と楽器を弾くんで「よし、こいつとやろう」と思ったんだ。

そのときデヴィッドはカレッジで勉強していた?

DM:2010年に入学して数年通ってたよ。

ナマリはなぜそのとき、WACにいたんですか?

NK:説明すると、WACは安い授業料で、ライヴ・ミュージックに関するクラスとか、プロダクション、ヴォーカル、演技、ダンス……と様々な音楽プログラムを提供するところなんだ〔訳注: 5~25歳の低所得家庭の若者が対象〕。授業料は1時間で1ポンド(170円弱)くらいだったかな。日本円なら数百円(笑)? そこは素晴らしい才能を輩出してるんだよ。そこでデヴィッドと会ったのさ。

ブルー・ラブ・ビーツの音楽にはジャズやR&B、ヒップホップ、クラブ・ミュージックなどいろいろな要素が混ざっています。ナマリのお父さんは、アシッド・ジャズの頃に活躍したDインフルエンスのメンバーですが、そこからの影響もありますか?

NK:ああ、それは間違いなくある。父だけでなく、DJだった母からの影響もね。家ではいつもいろんなジャンルの音楽がかかっていたから。

以前、アメリカのロバート・グラスパーからの影響を述べていたことがありますよね。じっさい『ブラック・レディオ』を意識した部分もあると思います。一方で BLB の音楽には、UKならではのグライムやダンスホール、ドラムンベース、ブロークンビーツの影響もあり、それらUSとUKの要素をうまくミックスしていると感じますが、本人としてはどう思いますか?

DM:うん、オープンでいることはいいことだと思う。自分たちにとって安全なゾーンを離れ、人が予想しないような音楽を聴くこともある。だから、僕らもそうなるんだと思う。

ファースト・アルバムの『クロスオーヴァー』にはモーゼス・ボイド、ヌバイア・ガルシア、ジョー・アーモン・ジョーンズ、アシュリー・ヘンリー、ダニエル・カシミール、エズラ・コレクティヴやココロコ、ネリヤのメンバーなど、サウス・ロンドンの面々が多く参加していました。現在のサウス・ロンドンのシーンについてはどう見ていますか?

NK:シーン? とても盛り上がってるよ。UKエキスペリメンタルというか、UKジャズというか……

DM:サブ・ジャンルを生みつつね。

NK:そう、たくさんのサブ・ジャンルがある。イースト・ロンドンも盛り上がっている。特にグライムかな。いや、グライムはノース・ロンドンでも盛り上がってるな。それを言えば、グライムはロンドン全部でだな。

セカンド・アルバム『ヴォヤージ』ではアフロやカリビアン、ラテンのテイストが際立っていて、今年の新作でもその傾向は強まっています。UKにはアフリカやカリブ、ラテン系のミュージシャンも多く、自身のルーツを意識して音楽づくりをする人も少なくないですが、それはあなたがたもそうですか?

NK:ああ、それはすごく大きいよ。さっきも言った「安全なゾーンを離れる」ということさ。特に『マザーランド・ジャーニー』はそれが顕著だったので、制作には2年半~3年近くかかった。何から何までというのではなく、ひとつでいいから、自分たちの音楽のなかに初めて探索する部分がほしかった。だからいつもの安全ゾーンから飛び出し、ゲットー・ボーイとコラボレーションしてみた。彼とはアンジェリーク・キジョーのグラミーを受賞したアルバム(『マザー・ネイチャー』)でも仕事をした。2年近くかかったけど、やり慣れたエリアを離れて仕事をすることで、最終的には「メイク・センスするもの(意味が通じるもの)」ができたと思う。

いま、シャバカ・ハッチングスとアルバムを作ってるんだ。まだエディット段階だけど、レコーディングは面白かったよ。そのロウなエネルギーといい、ヴァイブ感といい。

『マザーランド・ジャーニー』にはエゴ・エラ・メイ、エマヴィー、ジェローム・トーマスなどUKの新しいアーティストが参加していますが、「次は誰とコラボするのか?」といつも楽しみです。彼らとは日頃のセッションで交流を深めて、その結果アルバムに参加してもらっているのですか?

NK:ああ。ブルー・ラブ・スタジオに来てもらってセッションをするわけだけど、どんなときも、なるべくフリーなセッションにしようとしてる。特にこれ、という目的を設定するのでなくて、会話を交わすように音楽をつくる。それは毎回そう。1曲が終わってようやく「ああ、これはこんなふうだね」「もっとこういうふうにしようか」というように話をする。

スタジオに来てもらう前にも、一緒にやったことはあったんですか?

NK:いや、そのときが初めてだよ。

『マザーランド・ジャーニー』のセッションのなかで、特に「これはすごい」と思った相手、もしくは出来事はありました?

NK:フェラ・クティをサンプリングする機会をもらえたことかな。その機会だけでもすごいことだったから〔訳注:フェラ・クティの関係者側からのオファーだったとのこと〕。

DM:スピリチュアルだった。

NK:“ラベルズ” でコフィ・ストーンとやれたのも楽しかったよ。ティアナ・メジャー・ナインとは昔もやったことがあったけど、またやれて良かった。

キーファーともやっていますね。US西海岸の注目のアーティストで、素晴らしい楽器演奏技術とポップでメロディアスな作曲センスを両立させている人ですが、ブルー・ラブ・ビーツと共通点があるようにも思います。彼との共演はいかがでしたか?

DM:とても良かったよ。さっきも言ったように、他のミュージシャンが僕らの音楽をどう解釈するかという意味で、自分以外のピアノ奏者、しかも彼みたいに最高なピアノ奏者の解釈を聴くのは刺激的だった。

NK:特にイントロ部分がね。

DM:ああ。

NK:彼にはラフなアイディアを渡したんだけど、彼から返ってきたヴァージョン、特にイントロの部分はとてもおもしろかった。

今後の活動で何か考えていることはありますか?

NK:いま、シャバカ・ハッチングスとアルバムを作ってるんだ。まだエディット段階だけど、レコーディングは面白かったよ。そのロウなエネルギーといい、ヴァイブ感といい。彼からスタジオに遊びにおいでよ、と招かれて行ったときには、もしかしたら1曲くらい何かをやることになるのかな、とは思ってた。ところが彼から「君たちとアルバムを作りたいんだ」と言われて驚いた。「え、いま?」「そうそう!」「3日で?」「そうそう!」って(笑)。全部で8曲録ったよ。EPになるのかもしれないけど、どの曲も20分くらいやってそれを6分くらいにする、という感じ。そのうちの少なくとも1曲は10分の長さの曲だよ。

素晴らしいコラボだと思います。それは〈ブルーノート〉からリリース予定ですか?

NK:いや、シャバカのレーベルだ。

では〈インパルス〉ですかね。ちょうど先週、ザ・コメット・イズ・カミングが来日していたんですよ。素晴らしいショウでした。

NK:知ってるよ。彼が、なんだっけ……名前を忘れたけどあの楽器(尺八)を作るんだって、インスタに画像を上げてて(と尺八用の竹を手にしたシャバカの投稿写真を見せる)。完成品を受け取るために、来年また日本に来るらしい。レコーディングのときも尺八を持ってたよ。吹くのがすごく難しいから、まだまだ勉強中らしいけどね。彼が日本に来たときの話もたくさん聞いている。

コラボレーション、とても楽しみです。最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。

NK:(一度キャンセルになっていたにもかかわらず)辛抱して待っていてくれてありがとう。ようやく日本で演奏することができたよ。来年、また必ず戻ってくる。日本のヴァイブ、すごく気に入ったんで……何もかもがクールだね!

DM:デビューの頃から、長いことサポートしてもらえたこと、感謝してるよ。

NK:2016年からだ。

DM:ああ、もう6年だ。

NK:最高だよ。

boris - ele-king

 先月末に刊行されたele-king Books『現代メタルガイドブック』では、第1章の最初にBoris with Merzbowの『2R0I2P0』を掲載している。これは、序文でも述べたメタルの越境性、型を築きそれを足場にしながら遠く(様々な音楽領域、地域など)へ向かう音楽という特質を非常によく体現する作品だからで、本書のスタンスや広がりを示すものとしても、それにそのまま対応するBorisの広大なカタログへの導入としても、かなり的確なセレクトになったのではないかと思う。本書が刷り上がったタイミングでDOMMUNEのBoris特集(11月15日)が開催され、そこでAtsuoさんと宇川さんに見本誌をお渡しすることができたのだが、直後にAtsuoさんから頂いた感想は以下のようなものだった。「“メタル”という言葉は自分の中では“Heavy Metal”と同義で、“Heavy Metal”と言われるのが嫌だから“メタル”と崩して言っていたのだが、こちらの本ではMetalとHeavy Metalが別物として扱われていたのが衝撃、しかもそれが当たり前のような前提になっていることに驚いた」
 メタル界最大のデータベースサイト「Metal Archives」(別名Encyclopedia Metallum、バンド名+metallumで検索するのはメタル系ディガーの定石)にも「Genre: Heavy Metal」という区分があるように、狭義の「ヘヴィ・メタル」は「メタル」のサブジャンルの一つで、90年代に入るとジャンル全体を指す表現としては機能しなくなる。そこで本書では、80年代までのHR/HM(ハードロック/ヘヴィ・メタル)に対し、その枠に留まらない90年代以降のオルタナティヴ・メタル(MelvinsやKorn以降の系譜)などを「ポストHR/HM」という言葉でまとめ、それら全てを含む概念としての「メタル」の文脈を整理することに努めた。Borisの音楽性は「ポストHR/HM」にまたがる部分が多いが、「HR/HM」的な要素も全くないわけではない。そうした意味において、本書はBorisを聴き込むにあたっての包括的な資料集としても充実した内容になったと思う。

 これはつまり、Borisの音楽性には分厚いガイドブックでも網羅しきれない広がりがあるということでもある。実際、今年発表された3つのフルアルバムをみても、各々の音楽的なスタイルは大きく異なる。1月リリースの『W』はシューゲイザーやアンビエントを初期CANに寄せた感じの天上のドローン・ロックで、成層圏で夢心地になるような朦朧とした陶酔感に包まれていたが、8月リリースの『Heavy Rocks』(同タイトルで3作目)は、1968年以前のプロト・ヘヴィロックを意識しつつ、GASTUNKやトランス・レコード周辺〜初期ヴィジュアル系にも通じる混沌とした作風になっている。そして、12月にリリースされた小文字boris名義の『fade』では、ギターの野太い持続音が軸となり、ボーカルや打楽器の存在感は遠景に希釈されている。Sunn O)))の『Life Metal』や初期のEarthに近い作風の本作は、主なルーツの一つであるドローン・ドゥームに最も接近した仕上がりで、豊かな響きに浸っているうちに64分の長さがあっという間に過ぎていく。傑作の多いBorisのディスコグラフィにおいても、屈指の逸品ではないかと思われる。

 Borisの音楽性はかくのごとく多彩で、それぞれ別のバンドによる作品だと言われてもおかしくない描き分けがなされているのだが、その一方でどの作品にもBorisならではの強い記名性があり、続けて聴いてもほとんど違和感がない。こうした持ち味のなかで特に重要な役割を担っているのが、固有の“間”の感覚だろう。DOMMUNEのBoris特集でも「グリッドもカウントも要らない。バンドとはそういうもの」「リハも、能とか振り付けの稽古に近い」という発言があったように、Borisのリズム・アンサンブルは、伸び縮みやズレを肯定しつついかに息を合わせるかという方向に研ぎ澄まされている。このような特性が顕著に示されているのが『W』収録の“Drowning by Numbers”で、休符を活かしたベースのフレーズはファンク的なのに、そうした音楽に特徴的な“踊らせる”類のノリは殆ど出ておらず、靄のように漂い続ける居心地が生まれている。そして、本作においてはそれが正解だという説得力にも溢れている。こうした“間”の感覚や展開ペースの支配力、いわば“ドローンぢから”はどの作品にも濃厚に備わっていて、万華鏡のように変化する音楽性との対比で新たな表情を示し続ける。Borisがここまで無節操な音楽的変遷を繰り返しながらも大きな支持を得ることができている秘訣は、このあたりにもあるのではないかと思う。
 その上で、もう一つ重要なのが独特のリリカルなメロディ〜コード遣いだろう。『fade』の比較対象としてSunn O)))の『Life Metal』を挙げたが、響きの質感や時間の流れ方は似ていても、静かに泣き濡れるようなメロウな雰囲気は大きく異なる。これはむしろ裸のラリーズやCorruptedのような日本のバンドに通じる味わいで、ゴシック+ノイズ的な場面でも、Tim HeckerあたりよりもMORRIE(元DEAD END、ヴィジュアル系や日本のオルタナティヴロックの始祖的な重要人物)を想起させられたりもする。『fade』では、そうした雰囲気がドローン・ドゥーム形式のもとで程よく抽象化されることにより、湿っているけれどもべたつかない、哀切の残り香が漂うような居心地が生まれている。その意味で、本作はBorisのエッセンスを高純度で凝縮した一枚になっている。歌もの形式ではないので取っ付きづらく思う人もいるかもしれないが、表現力の面ではむしろ聴きやすく分かりやすい内容なので、ここから初めてBorisを聴いてみるのもいいかもしれない。

 Borisのインタヴューはいずれも非常に面白いが、そのなかでもとくに印象的な発言として、「日本の中にいるわけでも、海外にいるわけでもなく、色んなところに出入りが出来るというか、そういう境界を超えながら、どこにも属せない」というものがあった。上で述べた音楽性に加え、アニソンやボーカロイド、同人音楽まで何でも網羅するBorisは、音楽メディアのジャンル縦割り姿勢では確かに扱いづらい存在ではある。しかし、あらゆる音楽形式を網羅するディスコグラフィは、ポピュラー音楽からアンダーグラウンドシーンに繋がる地下水脈のようなネットワークを体現しており、どれか一つの作品を入り口としてどこにでも向かえる道筋を用意してくれている。『fade』1曲目のタイトル“三叉路”はそうした在り方を象徴するものだし、作編曲の面でも、その“三叉路”の最後2分ほどに『W』収録曲“Old Projector”のアウトロを引用、「(汝、差し出された手を掴むべからず)」の終盤ではBathory的な原初期ブラックメタルが聞こえてくる(これはSunn O)))の「Báthory Erzébet」を連想させる)、最終曲“a bao a qu - 無限回廊 -”は2005年の『mabuta no ura』にも同タイトルの曲が収録されているなど、様々な文脈が仕込まれている。境界を超えながらどこにも属さず、それらを俯瞰するところで個を確立し、様々な時間軸を繋げて新たなメランコリーを生み出していく。そうした創意が示された素晴らしい作品である。

Die Krupps - ele-king

 『クラウトロック大全』の著者、小柳カヲルが新潟でひとりで運営するレーベル〈Suezan Studio〉がいよいよディー・クルップスの作品の復刻リリースを開始する。ノイエ・ドイチェ・ヴェレのシーンから登場し、パンク・インダストリアル・サウンドに先鞭を付け、EBM(エレクトロ・ボディ・ミュージック)のひな形となったこのバンドの、まずはデビュー・アルバム『鉄工所交響曲( Stahlwerksynfonie)』(1981年)と当時大ヒットしたシングル「真の労働・真の報酬 (Wahre Arbeit - Wahrer Lohn)」(1981年)の2枚。どちらもブックレット付きの限定リリースで、「真の労働・真の報酬」のほうにはステッカーも封入されている。詳しくはレーベルのホームページをご参照ください。

Various - ele-king

 『地元コア!』と題されたエリア・コンピレーションで、ここ30年間にマイアミで名を挙げたダンス・アクトがほぼ一堂に会している(テクノ、ハウス、エレクトロが中心で、ヒップホップは除外)。壮観。全44曲。すべて新録のようで、ヴェテランもニューフェイスもなかなかにしのぎを削り合っている。短い曲が多いせいか、テンションも持続し、いわば「マイアミ・ベース以降」がまとめて体感できる。マイアミ・ベースはアトランタに波及してトラップに発展したり、中南米にはファヴェーラ・ファンクやファンク・カリオカといったシーンを誘発したものの、地元マイアミではどのような変化を遂げたのかということがまとめて報告されたことはなく、それがここに見晴らしよく並べられたという感じ。猥雑でダイナミック。簡単にいえばマイアミの魅力は大胆さと低音の太さに尽きるだろう。ロンドンやベルリンは新しいことをやろうとし過ぎて、時にヒネくれた感じになりやすいけれど、マイアミにはそういったことはない。自由闊達なダンス・ミュージックの最前線である。

 収録順ではなく、プロデューサーのデビュー順に聴いてみよう。まずはラルフ・ファルコンとオスカー・Gによるマーク(Murk)。彼らが名を挙げたのは92年にファンキー・グリーン・ドッグス名義のハウス・クラシック“Reach For Me”がデトロイト・テクノを広めた〈Network Records〉にライセンされ、ヨーロッパでヒットしてから。いわゆるシカゴ・アシッドとは異なるヘヴィなベースがマイアミらしさを打ち出し、本作にも2人はこの30年が何事もなかったように同じパターンの“Filth”を提供している。この不動の価値観。シカゴ・ハウスがヨーロッパに飛び火し始めた80年代後半、マイアミで最も人気だったのはエレクトロ・ヒップホップの2ライヴ・クルーで、彼らのサウンドはデトロイトのサイボトロンがマイアミでもヒットしたことから始まったとされる。2ライヴ・クルーのピークといえる『As Nasty As They Wanna Be』(98)の10年後にはそして、サイボトロンをダイレクトに継承しようとするイグザクト(Exzakt)やBFXが現れ、ここでは両者がタッグを組んで“Reach For Me”をミニマル化したエレクトロの“Let Go”を、また同時期にブルックリンで活動し、後にマイアミに移ってきたゴーサブはマッド・マイクを思わせるデトロイト・タイプのエレクトロ、“Who The Fuck Is Me?”をそれぞれに提供し、さらに少し遅れてデビューしたアルファ606は“Cacique”で、これらとはまったく違った神秘的なエレクトロをオファーしている(同作が全体のクロージング・トラック)。

 最近ではチャイルディッシュ・ガンビーノ“This Is America”のリミックスで名を挙げたジェシー・ペリッツは母親が2ライヴ・クルーのダンサーだったことから音楽の現場とは距離が近く、最初は俳優として活躍していた存在。なかなかの遅咲きで、“Jesse Don't Sport No Jerri Curl”が注目を集めるまでに7年かかり、エレクトロとハウスの中間をいくサウンドを模索。ここではエレクトロに寄った“Pocket Full Of Ones”を提供。エレクトロ回帰と同時期にマイアミに大挙して現れたのがグリッチ・ホップで、元ソウル・オディティのフォーニージア主宰による〈Schematic〉を中心にディノ・フェリペやオットー・フォン・シラクが頭角を現し、本作でも後者はオープニングとなる“Miami All-Stars (Tremendo Intro)”を、前者は当時と変わらずファニーな“In Order To Ground The Listener”をそれぞれに提供。彼らのサウンドはプリフューズ73やフンクシュトルンクなどと並べて聴くよりもマイアミ・サウンドの一部として聴いた方がしっくりとくることは間違いない。さらに活動の途切れていたプッシュ・ボタン・オブジェクツを約20年ぶりにレーベル・オーナーのダニー・デイズが担ぎ出して“I.E.”を共作、ピッチを早めたオールド・エレクトロにアシッド・ハウスを絡めたなパーティ・サウンドに仕上げたことはひとつの快挙といえる。

 エレクトロからクランクへと歩を進めたヒップホップとは距離を置き、マイアミ独自のテクノやハウスが増えたのが00年代。まずはマークの後継としてラザロ・カサノヴァが現れ、ゴーサブ同様、ブルックリンからマイアミに移った彼は作風も“Reach For Me”を継承。ここではレイドバックしたダウンビートの“Nieve”を聞かせる。レーベル・オーナーのダニー・デイズもこの世代に属し、彼もどちらかといえば遅咲きで、『Silicon EP』『Speicher 80』(ともに14)では“Reach For Me”やジェシー・ペリッツの試みをテクノの領域に移植。彼が主宰してきた〈Omnidisc〉ではボディ・ミュージック・リヴァイヴァルのヘレン・ハフやアンソニー・ローター、ワタ・イガラシにブラック・マーリンとオルタナティヴ志向を強くしていたものの、16年にリリースしたヘヴィ・エレクトロの「Miami EP」から本作『Homecore!』のアイディアが膨らんでいったのだろう。〈Omnidisc〉では異色といえる本作には蛆虫が地を這い回るような気持ち悪い“110 Dudes”を提供してマイアミのイメージを根底から覆す役割を演じる一方、ひと世代下のニック・レオンと組んでラ・グーニー・チョンガ“Phonkay”ではアフリカ・バンバータそのままのエレクトロ・ヒップ・ホップも聞かせる。

 このところローレル・ヘイローからニコラス・クルスまであらゆるDJミックスに登場するニック・レオンは「マイアミを音楽都市として再浮上させたプロデューサー」と言われるほど評価の高いプロデューサーで、〈Alpha Pup〉からのデビュー・アルバム『Profecía』(16)ではリスニング寄りの穏やかな側面を見せ、世界中のレーベルからリリースされるシングル群ではワラチャというキューバのリズムやドラムンベース、最近はラプター・ハウスと称されるチャンガ・トゥキにデトロイト・テクノを縦横に駆使し、どれも外しがない。とはいえ、本作ではあまり本領を見せていないメカニカルなエレクトロの“Sapo”を提供していてやや残念。ヴォーカリストとしてニック・レオンと組む機会が多いビター・ベイブも本作にソロ名義で“Gimme”を提供し、レゲトン版ドレクシアなどと評されたニック・レオン「FT060 EP」(最高です!)に共作で参加していたグレッグ・ビートー(Greg Beato)はリズム感がそれほどよくないせいか、最近は実験的な作風に傾き出し、〈Schematic〉をエレクトロに戻したような作風をプッシュ。ここでは90sリヴァイヴァル風の“Hey Angel, Whatever”を提供している。

 ダニー・デイズと活動を共にしているジョニー・フローム・スペースことジョナサン・トルヒーヨはニック・レオンやシスター・システムらと合わせてニュー・スクールと呼ばれる若手の代表。DJパイソンの向こうを張る形でレゲトンのリズムに由来するデンボー(dembow)の使い手とされ、これをプッシュ・ボタン・オブジェクツなどのグリッチ・ホップと接続させたと評される。しなやかで柔軟性のある『R​.​E​.​M.』(ムスリムガーゼ、池田亮司、ヤン・イエリネクらに捧げられている)や『Tide』など彼は本当に才能豊か(“Sueño Latino”みたいな曲がたまにあるところもよい)。本作にはいままでとイメージが異なるタイトなエレクトロの“Refresh”を提供。本作でデンボーを扱ったものはMJ・ネブリーダによるフィッシュマンズみたいな“Arquitecto”も。また、トルヒーヨが新設した〈Space Tapes〉から4thアルバム『Parrot Jungle』をリリースしたニコラス・G・パディヤはエレクトロとベース・ミュージックを接合させたハイブリッドで、ニューエイジ用語をちりばめているわりに曲が荒々しいのは絶滅させられた少数民族の代弁者を名乗るからだろうか。本作にはガラッと変わってポリリズミックなブリープ・エレクトロの“Zone”を提供。ジョニー・フローム・スペース周辺からはほかにシスター・システム、バニー(Bunni)などがエントリー。

 ベース・ミュージックがマイアミと相性がいいのは当たり前というか、ハーフタイムとエレクトロをスムースにつなげ、珍しくUKガラージを意識したINVTも短期間にミニ・アルバムを量産しながら(この4年で『Sano』『DisruptionI』『Extrema』『Cambio De Forma』『Mundos』、ニック・レオンと組んだ『Paseo』『Media Noche』『Plaza』『Doble Carga』『Ritmo Caliente』『Gazebo』『Duro』『La Chamba』『MiradaI』『Prendida』など)クオリティは下がる気配もなく、本作では前述のワラチャを応用したらしき“Dassit”を提供。このドラムはたまらない。リトル・シムズの新作『No Thank You』に収められていた“X”もおそらくは同じリズムで、個人的にはこれがベスト・トラック。ほかにUKとダンス・ミュージックの文脈を共有しているのはFKAトゥイッグスを早回しにしているようなバブルガム・エレクトロのティドゥー(TIDUR.)、トッド・テリーが派手にジュークをやっているようなセル6(sel.6)、アレックス・リース“Pulp Fiction”を思い出すなというのが無理な90sドラムン・ベースのシノビ(Shinobi)、同じくドクター・ロキット名義のハーバート“Café De Flore”を思わせるスパニッシュ・ムードのハーフタイム、“Red Keycard”を聴かせるニア・ダークといったところ。UKはやはりどこかに冷静な感じがあるというか。

 ニック・レオン、ジョニー・フローム・スペースと並んでいま、マイアミにおける台風の目となっているのが、そして、フィー-ゴー・ジット(Fwea-Go Jit)。同じフロリダ州のタンパで生まれたジューク(スペルはJookで、ジュークボックスに由来)と呼ばれるヒップ・ホップ・ダンスがマイアミに飛び火してジャージー・クラブやダンスホールと融合し、DJキャレド“To the Max”(17)によって世界的に広められたバウンス・ビートを縦横に駆使した3thアルバム『2 La Jit』はけっこうな評判を呼んだ。MCの起用も多く、どこを取ってもピットブルかよと思う激しいダンス・ミュージックの嵐で、本作では折り返し地点に置かれた“Touch It Turn It”が微かな哀愁も漂わせつつ、次章への幕開けとなっている。また、リッチー・ヘルはこれまでになかったタイプというのか、バンド編成でマンボやクンビアを演奏し、ボビー・コンダースやモーリス・フルトンに近いリラックス・タイプ。本作にはクンビア調の“Rapto Cosmico”を提供。

 ここからは少し端折ろう。さすがに数が多過ぎる。ウィッチハウスとしてキャリアをスタートさせたブラック・アントことジャン・ピエール・アンソニーは少し変わり種で、初期には拷問のようなゴシック・ホップを掘り下げ、4作目から〈Schematic〉に移籍、レーベル・カラーに合わせてLAビートに転じている。5thアルバム『Hidden Packages (Islands 3 + 4)』はまさかのJ・ディラとラス・Gに捧げられ、本作にもフラッシュ音を強調したグリッチ・ホップの“Bellfast3”を提供。同じ〈Schematic〉からゾン・ジャマール(Sohn Jamal)とマックス・ブゾン(Max Buzone)、そしてロイジュー(Roiju)もエントリー。サイケデリック・ブレイクコアのジョセフ・ナッシングを思い出すゾン・ジャマールは比較的オーソドックスなグリッチ・ホップの“TQ Visa”を、哀愁に沈んだIDMのマックス・ブゾンはいままでとは比較にならない出色の“Epoch”を、そして叙情的なIDMのロイジューはパーカッシヴな“Sin Gravedad”をそれぞれに提供。珍しくミニマル・テクノのフィーフ(Feph)はまったく表情を変えずに“Resolve”をオファー。やはりマイアミには珍しく〈Warp〉風のリスニング・テクノからミニマルも射程内に置くエライアス・ガルシアも本作ではジェフ・ミルズ風の“Radiant”を。

 『Homecore!』は半数がここ2年でデビューした新人か本作で初めて曲を発表したニューフェイスで占められ、オープニングに続いて2曲目と3曲目に抜擢されているのがロウ・エンズ・レコーズとジ・オウ・ファイ(Tre Oh Fie)。どちらも荒々しいエレクトロを提供し、イメージ通りのマイアミで幕を開けるという役割を全うしている。御大マークの次に置かれたコフィンテクスツ(Coffintexts)も新人ながらやはり大役を担い、これもハードなブレイクビーツ路線とは少し変わってハーフタイムの“Muy Bien”で面白い流れをつくっている。無名どころの新人ではほかに(って僕が知らないだけかもしれないけれど)、ジャン・アンソニーによるポリリズムのエレクトロ、“Trees Whispers Leave”もなかなかに良かった。

 10年代の前半こそロサンゼルスにレイヴの舞台を奪われたものの、ほどなくしてその座を奪い返し、レイヴどころか『お熱いのがお好き』の昔から踊る天国であり続けているマイアミ。キューバとの関係が様々な意味でマイアミを活気づけ、介護される富裕層が共和党支持なら介護する労働者が民主党支持というスタンダードな政治風土を背景にマルコ・ルビオ上院議員や最近ではトランプの代替わりとされるロン・デサンティス州知事が吠える、吠える。ゲイ・クラブでの銃乱射事件が象徴しているように、いまや性別を気にしないノンバイナリーに対して性別をはっきりさせるバイナリーのテリトリーとしても強度を増し、マジック・マイクたち男性ストリッパーもステージ狭しとショーを続けている。最近になってマイアミに引っ越したジェフ・ミルズ夫妻によると日本並みに湿度が高く、コロナでも誰もマスクなんかつけていなかったというし(ロックダウンが解除されたと思ったら、あっという間に海岸がゴミだらけになったとも)。突拍子もない水着ショーも面白いし、できることならエルモア・レナードやカール・ハイアセンの犯罪小説を読み続けて一生を終えたいなー……と思った3時間半でした。

aus - ele-king

 00年代にデビューし数々の作品を送り出すも、近年は長らく音楽活動を休止していた東京のプロデューサー aus が、新作シングル「Until Then」を発表する。aus 自らが主宰する〈FLAU〉と、ロンドンのハウス・プロデューサー、セブ・ワイルドブラッドが主宰する〈All My Thoughts〉からの共同リリースというかたちで、B面にはワイルドブラッドによるリミックスを収録。年明け、1月後半に発売予定。
 なお4月には〈Lo Recordings〉から、15年ぶりとなるフル・アルバムのリリースも予定されているそうだ。困難を乗り越えた aus の、新たな船出を祝いたい。

ゼロ年代ジャパニーズ・エレクトロニカ不朽の名作『Lang』で、一躍シーンの中心へと躍り出た東京出身のアーティストausが久々の新曲を10inch & CDでリリース。生音のストリングスで幕を開け、たおやかなムードが漂う中、小気味好いキックが介入すると、マリンバ、ピアノ、深みのあるシンセサイザーなど様々な楽器がブレンドされ、随所で浮き上がる国籍不明にエディットされたユニークなヴォーカルをアクセントに、滑らかでパーカッシヴなグルーヴに引き込こまれる。録音・解体・再構築された特徴的なヴォーカルは、彼の言語への興味が示されており、シネマティックで浮遊感のあるトラックは前へ前へと前進する躍動感に満ちている現行のディープ・ハウス~エレクトロニカとも共振しながらも、確かな個性を見せるメロディアスできらびやかな楽曲で、ausの新章であると同時に真骨頂とも言える仕上がり。
アジアを除く海外リリースはジャジー・ディープハウスの雄Seb Wildblood主宰のAll My Thoughts。B面にはSeb Wildblood自身のリミックスが収録される。Loraine JamesやRoss From Friendsら現行の人気エレクトロニック・ミュージシャンが自身のプレイリストやミックスなどにフィーチャー、今秋には久々の新曲をOlafur ArnaldsがBBC Radio3でプレミア公開して話題を呼んだ。

about aus
東京出身。10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。早くから海外で注目を集め、NYのインディーズ・レーベルよりデビュー。伝説的なレコードショップOTHER MUSICに「現代のエッジと甘美さ、印象的な歌心をこれほど日本的な方法で融合させたアーティストは他にいない」と評される。これまでにヨーロッパを中心に世界35都市でライブを行い、レコード・レーベルFLAUを主宰。現在は香港のインターネット・ラジオHKCRでレジデンスを務める。また、海外アーティストの招聘も積極的に行っており、Olafur ArnaldsやJulia Holter、Julianna Barwick、Grouperらの来日公演を成功させ、静謐でユニークな音楽を紹介するショーケースFOUNDLANDを継続的にオーガナイズしている。
長らく自身の音楽活動は休止していたが、 今秋イギリスBBC RADIO3でOlafur Arnaldsが新曲をプレミア放送。2023年、Seb Wildblood率いるAll My Thoughtsと共同でニューシングル「Until Then」をリリース予定。同4月にはGrimesやSusumu Yokota、サーストン・ムーアらをリリースしたイギリスのLo Recordingsから15年ぶりのフルアルバムも予定している。

■aus - Until Then

タイトル:Until Then
アーティスト:aus
デジタル発売日:2023年1月18日
10inch/CD発売日:2023年1月25日
フォーマット:10”/CD/DIGITAL
レーベル:all my thoughts, FLAU

tracklist:
1. Until Then
2. Until Then (Seb Wildblood Remix)

Federico Madeddu Giuntoli - ele-king

 イタリアのピサ出身、現在はバルセロナ在住のフェデリコ・マデッドゥ・ジュントリは、音楽のみならず、美術や写真など複数の分野で横断的に活躍するアーティストだ。00年代にはイタリアのエレクトロニックなバンド、DRMの一員としてアルバム『Haiku』を発表してもいる(ベルリンのトゥ・ロココ・ロットや、〈Hefty〉に作品を残すナポリのデュオ Retina.it が参加)。
 そんな彼のソロ・アルバムが日本の〈FLAU〉からリリースされている。ゲストとして、〈12k〉からの作品で知られる日本のアンビエント/エレクトロニカ・アーティスト Moskitoo や、ドイツのプロデューサー AGF(ヴラディスラフ・ディレイことサス・リパッティのパートナーでもある)が参加、それぞれをフィーチャーした曲のMVが公開中だ。注目しておきましょう。

神経科学の博士号を持ち、美術、写真、言語学と様々な分野で活躍するバルセロナ在住のイタリア人アーティストFederico Madeddu GiuntoliがAGF、Moskitooらをゲストに招いたファースト・アルバムをリリース。11のミニマルで親密な小さな曲で構成された本作には、寂寞感漂うピアノの断片、密やかに爪弾かれるギター、絶妙にコントロールされたドラム・パーカッション、柔らかで繊細なスポークンワード/ボーカルが、加工されたマイクロ・サウンドとフィールド・レコーディングと共鳴し、ロマンスとミステリーへの簡潔で、深遠な旅を作り出しています。

「このアルバムは、洗練とレイヤリングの緩やかなプロセスに従って形作られ、10年以上にわたる長い間、邪魔されることなく、しばしば自分の意志に反して、最終的な形に到達するために組み立てられたものです。この作品に関連性を見出すことができるとすれば、それは、稀な脆弱性、憧れ、生き生きとした感覚、即興性と脆さの芳香が、説明しがたい完璧な印象と混ざり合ったものを提供する能力にあると言えるでしょう」

about Federico Madeddu Giuntoli
イタリア・ピサ出身、バルセロナ在住のサウンド・アーティスト。To Rococo RotやRetina.itとコラボレーションを果たしたイタリアのエレクトロニック・バンドDRMの一員として活動後、バルセロナに移住し、写真家として、写真集「Nuova gestalt」を出版、彫刻作品の制作や国際的なランゲージ・トレーナーとしても活動している。

■Federico Madeddu Giuntoli - The Text and the Form

タイトル:The Text and the Form
アーティスト:Federico Madeddu Giuntoli
LP発売日:2022年12月7日
フォーマット:LP/DIGITAL

tracklist:
01 lolita
02 text and the form (feat. Moskitoo)
03 #8
04 you are (feat. AGF)
05 flow
06 inverse
07 our Bcn nights
08 unconditional
09 h theatre
10 unconditional (reprise)
11 grand hall of encounters

Ellen Arkbro & Johan Graden - ele-king

 レベッカ・ゲイツの『Ruby Series』を覚えている方はいるだろうか。2001年にリリースされた『Ruby Series』は、トータスのジョン・マッケンタイアのプロデュース・録音のもと、ザ・シー・アンド・ケイクのメンバーが参加したことで知られる静謐で清潔な印象のSSWアルバムである。
 『Ruby Series』に限らずだが、90年代末期~00年代初頭に、「シカゴ音響派」の音楽家たちがヴォーカル・アルバムを手掛けていく潮流があった。なかでも一際深く印象に残ったのが、『Ruby Series』であったのだ。透明な歌声と簡素だが繊細でミニマルな演奏/編曲にとても惹きつけられたことを覚えている。
 そして2022年。〈Thrill Jockey〉からリリースされた『I get along without you very well』を聴いたとき脳裏に浮かんだのが『Ruby Series』だった。なんというか、極めて曖昧にだが、かつての(後期)「シカゴ音響派」との近似性を強く(勝手に)感じてしまったのである。洗練されたミニマリズムな演奏と歌声のアンサンブルの妙ゆえだろうか。何より実験とポップの領域が溶けていくような風通しの良さが気持ちよかった。

 スウェーデン・ストックホルム出身のサウンド・アーティスト/パフォーマーでもあるエレン・アークブロは、〈Subtext〉からリリースされた硬派なドローン・アルバム『For Organ And Brass』(2017)、『Chords』(2019)などでエクスペリメンタル・ミュージック・マニアから知られていた音楽家だが、『I get along without you very well』では楽器演奏はもとより、アークブロはその美しい歌声を披露している。
 そしてこの作品にはコラボレーターがいる。スウェーデンのマルチインストゥルメンタリスト、ヨハン・グレイデンである。1991年生まれの彼はどちらかといえばオーセンティックなジャズの領域で活動しているようだが、彼の技巧的な演奏や編曲は、アークブロのクラシカルで実験性と非常に良い対称性を描いていて、素晴らしいコラボレーションだと思う。
 彼と共に作り上げた本作は、アーティストとプロデューサーという関係ではないのだろう。アークブロとグレイデンはおそらく対等の立場で曲を作りあげているのだ。ふたりは作曲・編曲のみならずミックスも手がけている。まさに協働作業といえよう。
 じっさい一聴してみると分かるが、『I get along without you very well』は、アークブロの滋味に満ちた歌声を聴くことができる「うたもの」としての魅力に加えて、音と音のタペストリーのような演奏と編曲による豊穣な音世界を展開している。
 声と音。声と楽器。それらが溶け合っていくことで、慎ましやかで、繊細な音楽が立ち現れる。そのアンサンブルの構築に、グレイデンの技巧的な編曲の構築が非常に重要だったのではないか。聴き込んでいくとわかってくるが、楽器と楽器の層によって生まれる音響には、どこか鳴っていないドローンがうっすらと響いているような錯覚をしてしまう。アークブロは「うたもの」である本作に、そのような鳴っていない「ドローン」の存在を紛れ込ませたのではないか。そんな妄想さえ抱くほどに、このアルバムの演奏/編曲は洗練されている。じじつ、収録されている楽曲は、静謐な響きを持続させながら、静かに、しかし緊張感を持って持続する曲ばかりである。
 アークブロの「声」という意味では2015年にリリースされた Hästköttskandalen『Spacegirls』を思い出すマニアの方も多いだろう。いまや人気ドローン作家のひとりでもあるカリ・マローンらとのユニットである Hästköttskandalen は、『I get along without you very well』以前にアークブロの声を記録した貴重なアルバムともいえる。
 もちろん『I get along without you very well』の方がよりヴォーカリストとして成長(?)している。少なくとも彼女の声が楽曲の重要な部分を占めているし、ある意味、アルバムに収録された曲の要ともいえるのだから。
 全8曲収録されているが、個人的にはアルバムの最初のハイライトは3曲目 “All in bloom” と4曲目 “Never near” だ。特に “All in bloom” に静かにレイヤーされていく管楽器の響き/持続には、どこかジム・オルークの『ユリイカ』を思い出してしまった。この曲だけではないが聴き込むほどに細かな仕掛けやアレンジ、サウンドの妙に気がついくる。たとえばザ・ビーチ・ボーイズ/ブライアン・ウィルソン『ペット・サウンズ』からの引用(ある曲のベースラインだが)にも気が付くだろう。ポップ・ミュージックの歴史への意識(参照)も忘れていない点に、90年代のシカゴ音響派的な歴史意識も強く感じることができた。

 ともあれ、このアルバムは素晴らしい。何回でも聴きたくなるし、特に疲れ切った日の深夜に聴くと(耳を傾けると、というべきかもしれない)、本当に心身に染み込む。卓抜だが慎ましやかな演奏が音の層を生み出し、そこにアークブロの素朴にして美しい歌声のアンサンブルが大きな波を描くように響く。聴き手はただその波に身を委ね、音楽の直中を浮遊するように漂っていけばいいだけだ。なんて「贅沢」な音楽体験だろうか。まさにタイムレスなアルバムである。

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