「Nothing」と一致するもの

JULY TREE - ele-king

 渋谷に小さなギャラリーが誕生する。名前はJULY TREE(ジュライ・トゥリー)(www.julytree.tokyo)。ポール・トーマス・アンダーソン映画『リコリス・ピザ』の冒頭で使用されていたニーナ・シモンの同名曲に由来。また、JULY TREEのロゴデザインは坂本慎太郎による。
 さて、3月25日のこけら落とし、その記念すべき第一回目の展示は世界各国の様々なミュージシャンの写真を撮り続けているフォトグラファー石田昌隆による “RELAXIN’ WITH LOVERS 〜photographs〜” 。人気コンピレーション『RELAXIN' WITH LOVERS』シリーズで使用された作品を中心とした写真展だ。レゲエ、ラヴァーズ・ファン垂涎、80年代当時のUK、ロンドンのブリクストンなどを活写した貴重な写真30数点を見ることができる。
 今回は石田昌隆がシルク・スクリーンに挑戦し、ジャケでも使用された2点の作品を芸術性、希少性の高いアート作品としてサインとシリアル・ナンバーを記した形で限定販売もする。また、会期中はTシャツ、トート・バックなどの販売もアリ。
 さらに、『RELAXIN' WITH LOVERS』発足時に音源のライセンス交渉、マスタリング、アナログ・カッテイングのため渡英したプロジェクト・スタッフ両名をゲストに迎え、石田昌隆による4月7日ゲスト:薮下晃正(RELAXIN' WITH LOVERS)、4月15日ゲスト:八幡浩司(24x7 RECORDS)という布陣でトークショーも決定している。
 詳細は後日、JULY TREE 公式Instagram、Twitterにて発表されるとのこと。

 

■展覧会情報
【Masataka Ishida Photo Exhibition RELAXIN’ WITH LOVERS 〜photographs〜】
会期:2023年3月25 日(土) 〜4月25日
会場:JULY TREE(ジュライ・トゥリー)

〈店舗情報〉
JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
住所:153-0042
東京都目黒区青葉台4-7-27 ロイヤルステージ01-1A
・HP: www.julytree.tokyo
・Instagram:https://instagram.com/july_tree_tokyo?igshid=YmMyMTA2M2Y=
・Twitter:https://twitter.com/julytree2023
営業日: 基本月火休館13時〜18時営ではございますがオープン日以降、不定期での営業となります。
*営業日等お問い合わせについてはJULY TREE 公式Instagram、Twitterにてお願いいたします。

■イベント情報
<トークショー開催のお知らせ!>
石田昌隆写真展『RELAXIN’ WITH LOVERS ~photographs~』の開催を記念して、4月7日(金)と15日(土)の2日間、JULY TREEにてトークイベントを開催いたします。18時以降開催予定となりますが料金、時間、応募方法等詳細は後日、JULY TREE 公式Instagram、Twitterにて発表させて頂きます。
(各回20名様限定)

【日 時】:
4月7日(金)石田昌隆×薮下晃正(RELAXIN' WITH LOVERS/DUB STATION)
4月15日(土)石田昌隆×八幡浩司(24x7 RECORDS)

【会 場】:JULY TREE 〒153-0042 東京都目黒区青葉台4-7-27 ロイヤルステージ01-1A

■プロフィール
石田 昌隆(いしだ まさたか)/ PHOTOGRAPHER
1958年生まれ。たくさんの国を旅行して音楽関連の写真を撮影してきた。著書、写真集は、『1989 If You Love Somebody Set Them free ベルリンの壁が崩壊してジプシーの歌が聴こえてきた』、『JAMAICA 1982』、『ソウル・フラワー・ユニオン 解き放つ唄の轍』、『オルタナティヴ・ミュージック』、『黒いグルーヴ』。毎日インスタグラムに写真を出している。 https://www.instagram.com/masataka_ishida/#

interview with Black Country, New Road - ele-king

ワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。(エヴァンズ)

 アイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニュー・ロードを脱退して1年が経った。
 正直、僕はまだ彼の才能が恋しいし、もうBCNRが『Ants From Up There』をプレイしないということを本当に残念に思っている。しかしBCNRは止まらない。メイン・ヴォーカルの脱退というバンドにとって致命的なアクシデントを乗り越え、BCNRの絆はより強固なものになっている。『Ants From Up There』は言うまでもなく美しい名盤で、様々なメディアでも2022年のベスト・アルバムの上位に並んだ。しかしウッドの脱退を受け、バンドは全曲新曲でのツアーを決めた。ツアーがはじまるまでの限られた時間で曲を持ち寄り作られたライヴ・セットは一年のツアーを経て研磨され『Live at Bush Hall』へ帰結する。

 過去のインタヴューでメンバーがよく口にしていた民主的なバンドの意思決定プロセスが『Live at Bush Hall』では濃く反映されているように感じる。各曲でメイン・ヴォーカルが変わるスタイルも要因として大きいだろうが、誰かひとりが編曲を統括しないことで生まれる流動的で自由なグルーヴがライヴ・アルバムというアイデアと相性が良く、これはスタジオではなくライヴで録るべきだというバンドの選択に合点がいく。プロムや学芸会的なアイデアも、会場を友人やレーベルの人間と飾りつける様子もBCNRが獲得したスタイルをよく表現している。

 サウンド面でも評価されるべきアルバムだと思う。ただでさえメンバーが多いBCNRだが、ピアノ、ドラム、ヴァイオリン、サックス、フルートなど音量がバラバラな上、パーテーションで仕切ってあったが、ステージはかなり小さいので録音はかなり難しかったと思う。先行してYouTubeにアップされているライヴ映像を見ると、ギターのルーク・マークとベースのタイラー・ハイドの後ろにはアンプがなくステージの後方、ピアノの裏まで押し込んであったりいろいろ工夫が施されてある。マスタリングにアビー・ロード・スタジオのエンジニアがクレジットされているのでしっかりしているのは納得だが、生々しいがクリアで暖かく重厚感のあるサウンドはライヴ・アルバムとして理想的な録音になっている。

 語るべきストーリーのあるバンドは多くの人から愛される。我々ファンや音楽ライターは往々にして悲劇やそれを乗り越えるバンドのストーリーを勝手に作りあげてしまうが、そんなことは彼らには関係なく、「ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ」と言う彼らの素直に音楽を楽しむ姿勢は、そんなストーリーよりも貴重で素晴らしいと思う。

よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。(マーク)

シングル「Sunglasses」のリリース時から聴いていたのでインタヴューできることを大変嬉しく思います。まずは簡単な質問から。BCNRのSpotifyにみなさんのプレイリストがあります。多彩で面白く楽しみに聴いているのですが、あれはみなさんが普段聴いている曲なのでしょうか? それともバンドのためのリファレンスのような物として共有しているのでしょうか?

ルイス・エヴァンズ(Lewis Evans、以下LE):あれはバンド・メンバーで共有しているプレイリストで、各自が好きな音楽を追加しているんだ。普段みんなが聴いている曲を入れているだけで、BNCRが作る音楽のレファレンスとも言えるけど、僕たちは具体的な曲をレファレンスにして制作をすることはあまりしないから、その時々に聴いている曲をシェアしている感じだね。

ルーク・マーク(Luke Mark、以下LM):BCNRがこういう曲を聴いているとか、こういう曲に影響されているということをリスナーに知ってもらいたいという意識は特になくて、僕があのプレイリストに載せているのは、ただそのときに自分が聴きまくっていた曲というのが多い。だから、同じ曲がプレイリストに何回も入っていることもある。誰かが載せた曲を、他のメンバーが聴いて、またそれをプレイリストに載せたりするからね。

いちばん最近のものに青葉市子やBuffalo Daughterなど日本のアーティストが入っていましたが、日本のアーティストも普段聞きますか? どんなアーティストでしょう?

LM:チャーリー(・ウェイン/ドラム)とメイ(・カーショウ/キーボード)が青葉市子の大ファンなんだ。僕は彼女の音楽を聴いたことがなかったんだけど、今度、彼女とロッテルダムのMOMOというフェスティヴァルで共演することになった。だから残りのメンバーはこれから彼女の音楽を聴いて知ろうと思っているところだよ。

LE:プレイリストに載せたかどうか覚えてないけど僕は渡辺美里をよく聴くよ。“My Revolution” とか。ポップ・ソングの書き方に関してはエキスパートだと思うからね。トップ・クオリティだよ!

LM:僕たちの家では朝食の時間にかける音楽だよな。

LE:そうそう、コーヒーを飲みながら聴いてるんだ。


今回取材に応じてくれたルーク・マーク(ギター)


今回取材に応じてくれたルイス・エヴァンズ(サックス/フルート/ヴォーカル)

アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。(エヴァンズ)

いろいろなインタヴューでもお話しのように、様々な音楽的バックグラウンドをお持ちですが、音楽以外の影響はどうでしょうか? 好きな映画や本やアートなど、音楽以外からの影響について教えてください。

LM:バンドのメンバーたちは様々なメディアから影響を受けているよ。たとえばタイラーはアート専攻だったから現代美術について詳しいし、チャーリーは美術史が好きだからヨーロッパをツアーしているときは美術館に行きたがる。チャーリーがメンバーの中で、いやタイラーと同じくらい、いちばん美術史について知っていると思う。僕はヴィジュアル・アートに関しては好きなものは少しあるけれど、あまり知識がない方なんだ。最近は、近代美術家のピーター・ドイルという人がロンドンで展示会をやっていたから行ったけど、とても良かった。とても親しみやすいというかわかりやすいから自分でも好きなんだろうな(笑)。デカいサイズの、カラフルな絵を描く人だ。僕がいちばん好きなのはピーター・ドイルかな。本はどうだろう……?

LE:僕は本をあまり読まないんだ。

青木:では映画はいかがですか?

LE:映画は好きだよ。映画は大好き。僕には本は読むだけの集中力がないんだ。だから1時間半くらいの映画が僕にとってはちょうどいい。映画かあ……僕がいちばん好きな映画って何だっけ?

LM:ルイスがいちばん好きな映画は『Waiting for Guffman』(96:クリストファー・ゲスト監督)だよ。

LE:そう、『Waiting for Guffman』で、えーと誰が作ったんだっけ?

LM:あれだよ、あの人!

LE:『Spinal Tap』(84:ロブ・ライナー監督)を作った人! 彼(*脚本のクリストファー・ゲスト)と、彼がいつも起用するキャストのメンバーが登場する、最高な90年代の映画だよ。全てがアドリブなんだ。『Waiting for Guffman』は本当に大好き! あとはかっこいいホラー映画も好きだよ。最近は日本のホラー映画も観てるんだ。『仄暗い水の底から』(02)も観たし……

LM:『仄暗い水の底から』はすごく良かったよな。

LE:『リング』(98)も観た。あれは有名だよね。

LM:『リング』も『仄暗い水の底から』と同じ監督だよね(*中田秀夫)。『仄暗い水の底から』の方が怖かったと思う。

LE:『仄暗い水の底から』の方が?

LM:『リング』の描写は他の映画で何度も模倣されているというか……去年も『Smile』(22)というホラー映画を観たんだけど、『Smile』の基本的なストーリーは、『リング』の結末から始まる感じなんだ。だからパクリだと思ったよ。僕は映画にあまり詳しくないけれど、今年は、可能な限り、映画を一日一本見るということをして、映画に詳しくなろうとしているんだ。これをやれば年末までに365本の映画を観たことになる。ルイスと僕にはルームメイトがふたりいるんだけど、そのふたりとも映画が大好きなんだ。彼らの方が僕よりもずっと映画には詳しい。だから僕は最近、デュー・デリジェンスの取り組みとして、昔の名作映画をたくさん観ているよ。イングマール・ベルイマンやフェデリコ・フェリーニといったアートハウス系の名監督の作品を観ている。いままでそういう作品を観たことがなかったからね。最近は初めて『8 ½』を観たけど、素晴らしいと思ったよ。

映像の途中でみなさんがセットを作るシーンが印象的でした。プロムや学芸会的な演出はどこから出てきたのでしょうか?

LE:今回のプロジェクトのフォーカスは、通常のアルバム・リリースではなく、ライヴ映像にしたいと思っていたこと。このプロジェクトに収録されている曲は、アルバムのために書いた曲ではないんだよ。だからライヴ公演みたいな感じにしたかった。でもライヴ公演では、全てのテイクが最高なテイクになるとは限らない。だからなるべく最高なテイクを披露できるための環境を自分たちで作り上げた。つまり、公演を複数回おこなうということだ。でも、今後テレビなりYouTubeなりでこの映像を観た人が、これをワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。確か、アート・ディレクターのローズ(Rosalind Murray)が学芸会的なアイデアを思い付いたんだと思う。それか僕かタイラー。よく覚えてないけど、3人の誰かが思いついた。

LM:(爆笑)僕もそのときにいたよ。

LE:タイラーがイメージの絵を描いていて、ローズがアイデアを思いついて、みんなで脚本を書いたんだっけな? とにかくアート・ディレクターと一緒にこのアイデアを思いついたんだ。それに加えて、これをすごく楽しくて、馬鹿げていて、面白いヴィジュアル・プロジェクトにしようという思いがあった。そうすることで映像主体のリリースにすることができた。そして観客に対しても、一連の曲を聴くという体験よりも、映像を観るという体験を提供できるという、クリエイティヴで面白い手法になった。

LM:3公演やったのは、曲を上手に演奏する機会を3回設けるためだった。それに、よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。だから学芸会的なアイデアが出る以前から、ひとつひとつの公演のヴィジュアルを独特なものにしようと話していたんだ。だから公演ごとにバンドとして統一感のある格好にしようと決めていた。その方が、どの公演の演奏なのかが明確になるからね。その考えが発展して、学芸会のアイデアへとつながったんだ。

青木:つまり、一晩ごとに同じ衣装を着て、次の夜の公演はまた別の衣装、という流れだったんですね。

LM:その通り。だから僕たちがひとつの衣装を着ているときは、その衣装でワンテイクしかしていないということなんだ。各曲はひとつの公演で一回ずつしかやっていないということだよ。

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僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。(マーク)

スタジオ・アルバムではなく、ライヴ・アルバムでのリリースになったのはどういう経緯があったのでしょうか?

LE:アイザックがバンドを脱退したとき、僕たちは「活動を休止するか、しないか」という究極の選択を迫られた。アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。

LM:もちろんバンド活動を続けたいし、ライヴをやりたいという気持ちもあったよ!

LE:そこでフェスティヴァルで演奏できるようなライヴ・セットを3カ月間という短期間で書き上げたんだ。だから今回の曲は、アルバムを想定されて作られたものではなかった。各曲についても、他の曲を考慮しながら書かれたものでもなかった。「手持ちの曲がある人は、リハーサル室に持ち寄ってきて。いま、それをみんなで練習しよう! 締切があるんだ」──そういう感じだった。このプロジェクトの仕上がりに満足していないわけではないけれど、これはアルバムとしては適切ではないと感じていたんだ。アルバムとしてリリースするのはしっくりこなかった。だからこうやってライヴ・アルバムとしてリリースできたことは嬉しい。良いリリースの仕方だったと思う。今回の曲がライヴのために書かれたものだということが明確に伝わる作品になったと思う。

LM:僕も同感だ。

ブッシュ・ホールでのライヴは去年のフジロックで来日されたときよりもアレンジも変わりかなり演奏がまとまり、一種のBCNR第二章の総括のような印象を受けました。以前のインタヴューでは(チャーリー・ウェインが)発展途上だとおっしゃっていましたがいまはどう考えますか?

LM:以前、曲についてインタヴューされたときは、今後もっと変更していこうと考えていたんだと思う。僕たちは通常そうやって曲を発展させていくから。曲をライヴで演奏したら、その後にはリハーサル室に集まって、細かい修正をしながら、曲を改善していく。でも今回は、ライヴの回数が多すぎて、あまりそれをやることができなかったんだ。去年はすごく忙しくて、自由な時間があっても僕たちはみんな疲弊していたから、追加の作曲セッションはほとんどやらなかった。だから通常のBCNRの曲と比べて、今回のアルバムの曲はオリジナルに比較的忠実だと思う。

LE:でも今後6カ月くらいのうちに、『Bush Hall Live』アルバムの曲のどれかに嫌気が差して、書き直したいと思う時期が来ると思う。そのときには曲の修正をするよ。

LM:最終的にどの曲も書き直しが入るんじゃないかな。お客さんも『Bush Hall Live』の曲を気に入ってくれているし、今後僕たちが、ライヴ向けではない、アルバム向けの作曲をしていくに連れて、お客さんは『Bush Hall Live』の曲もアルバム・ヴァージョンを聴きたいと思うんじゃないかな。そのときに、僕たちの最新の音源に合うように、『Bush Hall Live』の曲を調整していくと思う。僕たちはいままでもそういうアプローチでやってきたんだ。それが気に入らない人も一部いるんだけどね。でもそれがベストなやり方だと思う。

LE:自分たちがいちばん納得できるやり方だよね。

演奏力もさることながら、楽器の数にしてはすごくタイトになってきて、すごいバランス感だと思います。全体の編曲はどなたかが担当されたのでしょうか? それともツアー中に研磨されていったのでしょうか。

LE:ツアー中に研磨していったものがほとんどだった。中には1、2曲どうしてもうまくいかない曲があって、数カ月間ライヴで演奏していたんだけど、毎回問題があったから、スタジオに入って微調整をおこなわなければならないものはあった。自分たちの満足がいくように修正する必要があったんだ。でもそれ以外の曲は全て、編曲などはせずに、時間をかけて研磨されていった。編曲する時間がなかったということもある。ルークが言ったように、僕たちは10月頃に1カ月のオフがあったんだけど、みんな完全に疲弊しきっていて、一緒に集まって作曲するのは無理だということになり、ただ一緒に集まって遊んでいた。だから編曲というよりは研磨されたということだね。

ブッシュ・ホールではオーディエンスも曲を知っている様子ですごく暖かい印象でした。“Up Song” なんかはすでにアンセム的な情緒があると思います。昨年のツアーを経て新生BCNRは世界のリスナーにすでに受け入れられていると思いますが、オーディエンスの反応はどう感じていますか?

LM:みんなにとっては嬉しい驚きだったみたいだね。僕たちも、みんなが新曲を気に入ってくれたことが驚きだった。新生BCNRの最初のツアーはUK でやったんだけど、小さな会場で新譜を披露した。最初のライヴはブライトンだった。BCNRのファンだけでなく、僕たちの友人たちでバンドをやっている奴らもこのライヴを観にきてくれて、みんなすごく良いと言ってくれた。僕たちと関わりのあるPR会社の人や、マネージャーや、バンドの近しい人たちで、まだ新曲を聴いていなかった人たちもライヴに来てくれて、みんな新曲を素晴らしいと言ってくれた。とても嬉しかったよ。幸先が良いと思った。それ以降、公式な音源がリリースされるまでの間、様々な映像や情報がYouTubeなどで公開されてきたけれど、ネガティヴな反応はほとんどなかった。とてもポジティヴで寛容的なものばかりだった。みんな僕たちのことを応援してくれてサポートしてくれた。本当に嬉しいことだよ。

LE:素晴らしいことだよね。お客さん全員が僕たちの曲を知っているという、ニッチなシーンに出くわすのが面白いよねという話をごく最近していたんだ。去年の夏にラトヴィアに行ったんだけど、僕たちのことを知っている人はあまりいないと思っていた。案の定、そのフェスティヴァルは5000人収容の場所だったけど僕たちのライヴには150人くらいしかお客さんがいなかった。その1週間後、僕たちはリトアニアでライヴをやったんだけど、そのときは僕たちを観ている観客が1000人くらいいたんだ! しかも曲の歌詞を知っている人ばかり。「ラトヴィアとリトアニアは隣国同士なのに、なぜこんなにも違うんだろう!?」と思ったよ。自分が一生行くことがないだろうと思っていた二カ国に行くことになって、そのうちの一カ国では僕たちことを知っている人が大勢いた。とても奇妙な体験だったよ。
 先週は香港に行ったんだけど、香港でもBCNRの曲の歌詞を知っている人がたくさんいた。すごく変な感じだよ。それに、僕たちの曲を知らない人でも僕たちのライヴに来て、僕たちを観にきてくれるということが嬉しい。観客の前から3列目くらいまでは、コアなファンで、未発表の曲もすでに全て知っているという人たち。大人数の観客の場合、3列目より後ろの人たちは、曲を知らないけれど、僕たちがバンドとして上手いと思っているからライヴを観ていて、そのフェスティヴァルで同じ時間帯にやっている他のバンドが観れなくても、僕たちを観る方がいいと思ってくれている人たち。そういう人たちがいるのを見ると感激するし、そう思ってくれる人たちがいるということに感謝しているよ。僕たちが作る音楽は良いものだと自分でも思っているけれど、お客さんがいまでも僕たちのことを好きでいてくれて、リスペクトして観にきてくれるということは嬉しいことだよ。

わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!(エヴァンズ)

アルバムの中で特にお気に入りの曲は何ですか?

LM:お気に入りの曲はいくつかあって、理由もそれぞれ違うから答えるのは難しいけれど、1曲だけ選ぶとしたら “Turbines” かな。初めて聴いたときも「なんて素晴らしい曲なんだ」と思ったんだ。

LE:“Turbines” はおそらくいちばん良い曲だろうな。でも演奏するのがいちばん好きという曲ではないかもしれない。演奏していてすごく疲れるし。

LM:ストレスを感じるよな。僕が演奏していて楽しいのは “Dancers” の終盤。“Up Song (Reprise)” も演奏していてすごく楽しかった。満足感もあったし、美しいと思った。あまり演奏する機会はないんだけれどね。先日は “Up Song (Reprise)” のロング・ヴァージョンをやったよね。台北でヘッドライン公演をやったんだけど、そのときは前座がいなかったし、僕たちのセットはそもそも短めなんだ。セットも急ぎな感じで演奏してしまったよね。お客さんはみんな楽しんでくれていたけれど、セットが終わりに近づくに連れて「今日のライヴではあまり長い時間演奏していないよね」ということに自分たちで気づいて、僕とタイラーとルイスが “Up Song (Reprise)” の即興部分を指揮しながら長いヴァージョンにしていったんだ。結構良い感じになったよな?

LE:ああ、クールだったよ! あとこれはセットの中でも良い曲に入る感じでは到底ないんだけど、“The Wrong Trousers” の後半部分を歌うのはめちゃくちゃ好きなんだ。

LM:タイラーと歌い合うところだろ? あれはストレスを感じないもんな。

LE:そうそう。僕は自分の歌う感じがクールだと思っていないけど、そのことを十分自覚した上であの後半部分を歌っているんだ。キーが変わる陳腐な感じも好きだし、タイラーと僕がお互いに問いかけ合うようにして歌っている感じや、僕とタイラーが一緒にやるダンスなどが気に入ってるんだ。自分が「Turn around(=振り向く)」という歌詞を歌うところでは実際に振り向いたりして、すごくダサい瞬間なんだけど、やっていてすごく楽しいんだ。

もし現在のBCNRを定義するとしたらどういうジャンルになると思いますか?

LE:オルタナ・フォーク・ロックかな?

LM:なんだろう? むずかしいな。

LE:ポスト・パンク以外ならなんでもいいや。

LM:ハハハ!

ブッシュ・ホールで演奏されている曲はメンバーが持ち寄って作られたと伺いました。今後スタジオ・アルバムを作るとして、作曲プロセスは変わらないのでしょうか?

LM:おそらく変わらないだろうね。僕たちはほぼずっとそうやって作曲をしてきたからね。次のスタジオ・アルバムがあると仮定したら、今回のライヴ・アルバムとの違いは、曲を研磨するプロセスが長くなるということだろう。曲がレコーディングされる前に、より多くの段階を経て、変化させていくだろう。僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。その新曲がレコーディングされるまでには多くの段階を経て、より洗練されていくだろう。でも僕たちはいまでも、メンバーが曲の骨格を持ち寄って、それにみんなで一緒に肉付けしていくというプロセスを多くの場合取っているよ。

最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも!(エヴァンズ)

今後、BC,NRはどのような方向性を目指すと考えられますか?

LE:どうだろうね。わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!

LM:しかも日本に行って音楽制作をするよ。

LE:そう、日本でやりますよ! バンドのみんなと将来どんなことをやりたいかと話すとき、具体的な話になるのは映画音楽をやりたいということだけなんだ。僕たちはバンド活動においては、毎日を1日ずつ生きている。バンドのみんなと一緒に音楽を作っているときは楽しいし、今後も一緒に音楽を作っていきたいと思っているよ。でもこの先、具体的にどうやって音楽を作っていくのかなどはあまり話さないんだ。いままでもそこまで計画的にやってこなかったけれど、うまく行っているし、ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ。

昨年はかなり長いツアーをされていましたが、フェスティヴァルなどで共演されたバンドの中で印象深いバンドはいましたか?

LE&LM:ギース(Geese)!

LE:彼らはクソ最高! めちゃ良い!

LM:実際にバンドの奴らと会うこともできたんだ。良い奴らだったよ。

LE:パリのフェスティヴァルはなんて言ったっけ? La Route du Rockだったよね。フランス北部のフェスティヴァルだったかも。そこで彼らを観たんだ。

LM:La Route du Rockだ。ギースの音楽は前にも聴いたことがあって、確か〈Speedy Wunderground〉のダン・キャリーがミックスを手がけたアルバムを出している。だからバンドのことは知っていたんだけど音楽はちゃんと聴いたことがなかった。でもそのフェスティヴァルで彼らのライヴ・セットを観ることができた。僕はルイスと一緒にいて、チャーリーとタイラーとメイはどこか他のところにいた。バンドのみんながギースを観ているとは知らずに、偶然彼らのライヴの後に他のメンバーと遭遇したんだよ。「すごく良かったよな!」ってみんなで話していた。ライヴの後にギースのメンバーと話す機会があって、彼らは今度リリースするセカンド・アルバムについて、BCNRのファーストからセカンド・アルバムへの移行と似ている感じだと教えてくれた。僕たちもファースト・アルバムをリリースした後は、いままでとは違う方向性に行きたいと思って、ワクワクしながらセカンド・アルバムの制作をした。彼らのセカンドもそんな感じになるらしいよ。セカンド・アルバムからのファースト・シングルはすでに公開されていて、すごく良い感じだよ! だからあのライヴでは彼らの新曲を聴くことができた。最高だったよ。

LE:あとは誰を観たかなあ。

LM:ボニー・ライト・ホースマンも良かった。

LE:ボニー・ライト・ホースマン!

LM:ボニー・ライト・ホースマンはトラディショナルなフォーク音楽をやるバンドで、イギリスのフォーク音楽を主にやっていると思うんだけど、カントリー調に演奏するんだ。カントリー・バンドのセットアップで、フェンダーのテレキャスター・エレクトリック・ギターを使ったりしている。バンド・メンバーたちはステージで、お互いに近い場所、1メートルくらいの距離で立って演奏していた。すごくタイトな演奏でメンバー全員が歌っていて、合唱していた。

LE:素晴らしいミュージシャンシップだったよ。確か僕たちと彼らは3つのフェスティヴァルに連続で共演したんだ。ヨーロッパ北部のフェスティヴァルが3件くらい連続でブッキングされていたんだよ。ドイツ北部とスカンジナビアの辺り。それで、その後、彼らとスイスのクラブに一緒に行ったんだよ。

LM:そのことをすっかり忘れていた!

LE:あれはすごく楽しかった。最高だったよ。

LM:僕はボニー・ライト・ホースマンのことを知らなかったんだけど、フェスティヴァルでは彼らの後にBCNRが演奏する予定だったから彼らの演奏中にステージの脇で機材のセットアップをしていたんだ。ステージ脇から彼らのセットをずっと観ていたよ。すごく感動したね。その後にも彼らと共演する機会があったんだけど、最初に彼らのライヴを観たときは素晴らしくて驚いたよ。

LE:あとは、Primaveraでゴリラズを観たときは興奮したね。最高だった。子どもの頃の思い出が一気に蘇った瞬間だったよ。

去年のアンソニー・ファンタノー(Anthony Fantano:アメリカのユーチューバー、音楽評論家)のインタヴューで〈Ninja Tune〉との契約について話されていたことが面白かったので、ぜひ日本のメディアでも紹介したいです。〈Matador〉や〈Sub Pop〉など伝統的なインディ・ロック・レーベルではなく〈Ninja Tune〉との契約を決めた経緯について教えてください。

LM:ミスター・スクラフをリリースしたレーベルということしか知らなかった。それはクールだと思ったけどね。〈Matador〉にも「〈Ninja Tune〉には期待しない方がいい」と言われていた。

LE:ダンス・ミュージックのレーベルだからという理由でね。

LM:そう、だから何の期待もしていなかった。しかもレーベルの所在地がサウス・ロンドンの少し怪しいところにあった。そしてオフィスの上に通されて、イギリス支店のトップだったと思う、エイドリアンに紹介された。彼の役職は定かではないんだけど、A&Rもやっていると思う。とにかくすごくいい人だった。エイドリアンは僕たちを座らせて、「これが変わった状況だというのはわかっている。我々は、君たちのようなバンドと契約するようなレーベルではない。でも逆になぜそれが良いことなのか説明するよ」と言っていろいろと説明してくれた。〈Ninja Tune〉は僕たちが公開した音楽が好きで、レーベルの人もBCNRという音楽をリリースすることにワクワクしているし、BCNRというプロジェクトに一緒に関わっていきたいと思っているということ。僕たちがいままでやってきた音楽や、僕たちの美的感覚を全て尊敬しているし、僕たちに今後もリリースに関する指揮を取ってほしいと。それはまさしく僕たちが望んでいたことだった。〈Ninja Tune〉には僕たちみたいなアーティストがいなかったから、そういう意味で僕たちはリリースのタイミングを自由に決めてよいということだった。似たようなバンドのリリースとかぶることがないからね。異例の選択をするということは僕たちにとっても有利になるということを説明してくれた。
 彼の説明はもっともだったけれど、いちばんの決め手はレーベルの人たちが僕たちのプロジェクトに熱意を感じていたことと、レーベルの人たちがいい感じだったから。そして僕たちが作り上げたものをベースに一緒に仕事をしていきたいと思ってくれていたから。当時はいまよりも、自分たちの音楽と、その表現方法だけで評価されたいと僕たちは強く思っていた。だからプレス写真も公開していなかったし、自分たちが作った音楽やカヴァーした音楽だけを公表していた。〈Ninja Tune〉はその考えに共感してくれたんだよ。それで僕たちもその場で説得された。〈Ninja Tune〉のオフィスを後にして、僕たちみんなはしばらくの間黙っていた。みんなが同じ気持ちかどうか気になったから。そしてすぐにみんなで「このレーベルが一番だね!」と道端で話し合ったよ。「〈Ninja Tune〉が最高だから彼らと契約しようぜ!」と話していた。そして結果的に僕たちは正しい選択をしたということが証明された。〈Ninja Tune〉は、活動をサポートしてくれる一方で、僕たちの好きなようにやらせてくれる。最もわかりやすい例がこの映像プロジェクトだよ。これはかなり実現が難しいものだった。事前の綿密な計画も必要だったし、費用もかさんだ。〈Ninja Tune〉にとってはキツかったと思うよ(笑)。でも全て僕たちのためにやってくれたんだ。

LE:これは映像には含まれていないけれど、最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも! 僕たちのプロジェクト・マネージャーも細かい準備作業を全て手伝ってくれた。みんなすごく親切なんだよ。

LM:みんな本当に風船を膨らませていたんだよ。最高だった。彼らは僕たちを信頼しているし、僕たちも彼らを信頼している。少なくともいまのところは……(笑)

ありがとうございました。最後に日本に来る前に日本のファンに何か一言ありますか?

LE:日本に行くのがすごく楽しみだよ! 名古屋と大阪公演のチケットをたくさん買ってねー(笑)! とにかく、本当に日本に行くのが待てないよ。自分がいままで行った国の中で、いちばん最高な国だったと思うから、早くまた行きたい。すごくワクワクしてるよ!

LM:素晴らしい国だよね。日本で僕たちを見かけたときに、僕たちが興奮してはしゃいでいるように見えたら、それは興奮しているフリをしてるわけじゃなくて、本当に興奮してるってことだからね。日本のファンに会えるのも楽しみにしてる。みんなすごく良い人たちだったからね。

LE:ああ! 特に大阪と名古屋ではたくさんのファンに会えたらいいなって思ってるよ! みんなのお父さんもお母さんもライヴに連れてきてー!

青木:4月は前回の(フジロック)のように暑くないし、気候も最適だと思いますよ。

LM:それは僕とルイスにとってはありがたい。僕たちは暑さが苦手なんだ。いまいるタイも暑すぎるよ。

青木:ルイスさん、マークさん、今日はお時間をありがとうございました!

LE&LM:東京で会えるね。

青木:はい、もちろんです。タイとインドネシア・ツアーを楽しんでくださいね。東京でお会いしましょう!

LE&LM:ありがとう! またねー!

Thomas Köner - ele-king

 近年、ダブ・テクノの立役者ポーターリックスのアルバムや、その片割れたるトーマス・ケナーの諸作が続々とリイシューされているが、ここへ来てもう1枚、新たに復刻ラインナップに加わることになった。2002年に〈Mille Plateaux〉からリリースされた『Daikan』がそれで、圧巻のドローン/ダーク・アンビエントを聴かせてくれる。装いも新調、ボーナストラックとして、メディア・アートの祭典《アルス・エレクトロニカ》でゴールデン・ニカ賞を授かったという1曲 “Banlieue du Vide” を追加。日本流通盤は帯・解説付きで、すでに発売中です。

アーティスト名:THOMAS KÖNER(トーマス・コーナー)
アルバム・タイトル:Daikan(ダイカン)
商品番号:RTMCD-1574
税抜定価:2,400円
レーベル:Mille Plateaux
発売日:3月10日(海外発売2月24日)
輸入盤CD/帯・解説付国内仕様

収録楽曲
1. DAIKAN A (19:54)
2. DAIKAN B (20:03)
3. DAIKAN C (14:10)
4. BANLIEUE DU VIDE (12:03)

試聴・購入
https://li.sten.to/rtmcd1574

The Vision (Robert Hood) - ele-king

 祝30周年。ということで、当時URを去りジェフ・ミルズとともにニューヨークへと移ったロバート・フッドがザ・ヴィジョン名義で送り出したアルバム、『Waveform Transmission Vol. 2』がリイシューされることになった(ちなみに「Waveform Transmission」はハード・ミニマルを展開するシリーズで、「Vol. 1」と「Vol. 3」はミルズが手がけている)。新たにリマスタリングが施され、デジタルとヴァイナルの2形態で発売される。Tシャツ付きのセットもあるようなので、要チェックです。

artist: The Vision
title: Waveform Transmission Vol. 2
label: Tresor Records
release: May 26, 2023

tracklist:
1. K-Force
2. Liquification
3. Weapons
4. Gamma Scale
5. Chrome
6. Projectile Darts
7. The Protector
8. Magnetic Storm

Matt Kivel × Satomimagae - ele-king

 人と人がつながり、点が線になって、新たな関係が生まれていく──カリフォルニアはサンタモニカ出身、現在は(おそらく)テキサス州オースティンを拠点とするギタリスト、2013年のファースト『Double Exposure』がピッチフォークで高く評価されたシンガー・ソングライターのマット・キヴェル。温かなアコースティック・ギター・サウンドで魅せる彼(以前はプリンストンというバンドでも活躍)は、東京のアンビエント・フォーク・シンガー、サトミマガエが『Hanazono』(2021)を出したとき、彼女にコンタクトをとったのだそうだ。どうやらそこから交流がスタートしたらしく……というわけで、USの注目のSSWによる初来日公演と、サトミマガエのパフォーマンスを一度に楽しめる夜がやってくる。5月19日(金)@七針。すでに予約が埋まりつつあるとのことなので、お早めに。

Matt Kivel初来日公演@七針〜共演Satomimagae
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライターで、かつては双子の兄とバンド、Princetonで活動し、ソロになってからはOESB、Woodsist、Driftless Recordings、Cascineなど様々なレーベルから作品をリリースしてきた才人、Matt Kivelの初来日公演が決定致しました。

共演はSatomimagae。彼女が2021年にRVNG Intl.から『Hanazono』をリリースした際にMattが連絡したことをきっかけに交流が始まったとのことです。

Poster artwork: Glen Baldridge | Poster design: Sterling Bartlett

Matt Kivel ~ Satomimagae

日程:2023年5月19日(金)
会場:七針 (map: https://www.ftftftf.com/#map)
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:予約 ¥2,300 / 当日 ¥2,800(ご予約が定員に達した場合は当日券の販売はございません)
※チケットのご予約は以下のご予約フォームからお願い致します。

出演:
Matt Kivel
Satomimagae

予約フォーム:https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/matt-kivel-20230519/


Matt Kivel:
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライター。双子の兄Jesse Kivelとバンド、Princeton(自分たちが育った通りの名前から)を2005年に結成しLAを拠点に2000年代に活動、並行してガレージ・ポップ・バンドGap Dreamのギタリストも務めていた。そして2011年頃、他のバンド活動を休止し、ソロ活動に専念するようになる。最初の作品は限定生産のカセット・テープだったが、2013年にOlde English Spelling Beeレーベルからリリースされたフル・アルバム『Double Exposure』(日本ではRallye Labelから国内盤化)で本格的に活動を開始した。このアルバムのミックスはBonnie “Prince” BillyことWill Oldhamの弟で、Palace BrothersのメンバーであるPaul Oldhamが手がけているが、翌年には彼と共にレコーディングをし、WoodsのJeremy EarlとJarvis Taveniere等が参加したアルバム『Days of Being Wild』をWoodsistからリリースし、2016年には、美しく生々しい『Janus』と、Bonnie “Prince” BillyやFleet FoxesのRobin Pecknoldとのデュエットを収録した長尺の『Fires on the Plain』という2枚の作品をJoel FordとPatrick McDermottが運営するDriftless Recordingsから発表した。そして彼は西海岸からテキサス州オースティン、さらにはニューヨークと頻繁に移動し、オースティンにて5枚目のアルバム『Last Night In America』制作し、2019年にCascineからリリースした。その後はPyl Recordsから2020年にインストゥルメンタルのアンビエント〜ニューエイジ的作品『that day, on the beach』、2022年には再びBonnie “Prince” Billy等が参加した『bend reality ~ like a wave』を発表し、現在も精力的に活動をしている。


Satomimagae:
東京を中心に活動しているアーティスト。ギター、声、ノイズで繊細な曲を紡ぎ、有機的と機械的、個人的と環境的、暖かさと冷たさの間を行き来する変化に富んだフォークを創造している。
彼女の音楽的ルーツは中学生の時にギターを始めたことから始まる。父親がアメリカからテープやCDに入れて持ち帰った古いデルタ・ブルースの影響もあり、10代の頃にはソング・ライティングの実験をするようになる。その後PCを導入したことで、より多くの要素を加えた曲を作ることができるようになり、彼女の孤独な作業はアンサンブルへの愛に後押しされるようにななった。大学で分子生物学を専攻していた時にバンドでベースを弾いていたことから、様々な音の中にいることへの情熱と生き物や自然への情熱が交錯し、それが彼女の音の世界を育んでいったのである。
この間、アンビエント音楽、電子音楽、テクノなどの実験的でヴォーカルのない音楽に没頭するようになり、聴き方の幅が広がっていった。サンプラーを手に入れ、日本のクラブやカフェでのソロライブを始めた。苗字と名字を融合させた「サトミマガエ」は、彼女の独特のフォークトロニックな考察を伝える公式キャラクターとなった。
初期のアンビエント・フォーク・シンセサイザーを集めたファースト・アルバム『awa』(2012年)は、ローファイ/DIYのセルフ・レコーディング技術を駆使した作品である。2枚目のアルバム『Koko』(2014年)では、彼女は控えめでライヴ感のあるパフォーマンスと、フォークの伝統に馴染んだ温かく牧歌的なエネルギーの冷却を追求した。続いて、『Kemri』(2017)では、より豊かな和音とリズムで伝えられる人間的な感覚に触発されて、この効果をバランスよく調整している。彼女の2作品をリリースしたレーベル、White Paddy Mountainとそのディレクター畠山地平の影響を受けて、スタジオ環境の中でよりコンセプチュアルな方向に進むことができたが、彼女の作曲やレコーディングのプロセスは、自分で作ったものであることに変わりはない。
そしてNYの最先鋭レーベル、RVNG Intl.へ移籍してのリリースとなる『Hanazono』では、URAWA Hidekiのエレクトリック・ギターとバード・コールが加わったことで、子供のような魅力を持つSatomiの微細なヴィジョンが融合している。Satomiの姉であり、アルバムやウェブサイトのすべての作品を担ってきたNatsumiの直感的なビジュアルが、温かみのあるものとクールなもの、手作りと機械で作られたものが混ざり合うというSatomiの夢を、彼女の別世界への窓のように機能する木版画で見事に表現している。
2021年には最新アルバム『Hanazono』に由来する繊細な周辺の花びらの配列である“コロイド”を構築した。自身の楽曲から4曲を選曲しリアレンジした『Colloid』を引き続きRVNG Intl.から発表した。2023年には、2012年にセルフリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』のリマスター・拡張版『Awa (Expanded)』をRVNG Intl.よりリリースした。

Todd Terje - ele-king

 少しずつ暖かくなっていきますね。春の予定は決まっていますか? そろそろファースト・アルバム『It's Album Time』から10年が経ちそうですが、きたるゴールデンウィーク、ノルウェイからニューディスコの王者トッド・テリエがやってきます。5月3日から6日にかけ岡山、東京、大阪の3都市を巡回するツアー。今回はDJとしてのプレイです。詳細は下記をご確認ください。

Todd Terje Japan Tour 2023

北欧NUディスコシーンの牽引者、Todd Terje (トッド・テリエ)の来日ツアーが決定!
代表作「Inspector Norse」を始め、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」「Strandbar」といったヒット作で知られ、米ローリングストーン誌の「世界のトップDJ25人」のひとりに選ばれた。
アルバム『It's Album Time』収録曲「Alfonso Muskedunder」がテレビドラマシリーズ『Better Call Saul』シーズン3・エピソード3で使用されている。
2020年にはイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

Todd Terje Japan Tour 2023

5.3(水/祝) 岡山@YEBISU YA PRO

DJ: Todd Terje (Olsen Records / from Norway) and more

Open 22:00
Advance 4000yen
早割チケット 3/14(火)10:00~ 3/24(金)23:59まで
一般チケット 3/25(土)10:00~
Door 5000yen
早割 3000yen
※ドリンク代別途要

Info: Yebisu Ya Pro http://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015

5.4(木/祝) 東京@ZEROTOKYO
- B4 Z HALL -


Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
SPECIAL SECRET GUEST
CYK


REALROCKDESIGN

Open 21:00
Close 4:30
Advance 4500yen
Door 6000yen

Info: ZEROTOKYO https://zerotokyo.jp
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー B1-B4

5.6(土) 大阪@CLUB JOULE

=2F=
DJ:
Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
AKIHIRO (NIAGARA)
SSSSSHIN

PA: Kabamix
Lighting: Gekko Abstract

=4F=
DJ:
SISI (Rainbow Disco Club / Timothy Really)
GUCHI (WALLS AND PALS)
misty
Ashikaga (C2C)
MIYUU

FOOD: KitchenMUMU

Open 22:00
Advance 3300yen
Door 4000yen

Info: CLUB JOULE https://club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F
TEL 06-6214-1223

Total Info: AHB Production http://ahbproduction.com

<アーティスト詳細>
TODD TERJE (Olsen Records / from Norway)

ノルウェー、オスロ在住のプロデューサー/DJ/ソングライターであるTODD TERJE(トッド・テリエ)。
数々の傑作リエディットでその名を知られ、本人によるリエディットやリミックス作品で構成されたベスト盤的コンピレーション&ミックスCD 『Remaster Of The Universe』がリリースされている。リエディットだけでなくオリジナル作品でもその才を発揮し、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」はクラブアンセムとなった。『It’s The Arps』EP収録曲、「Inspector Norse」は世界的ヒット作となり、彼の代表曲である。
2014年、ファーストフルアルバム『It's Album Time』をリリース。ソロライブやフルバンドTHE OLSENSを率いてライブ・アクトとしても活動してきた。
2016年、TODD TERJE & THE OLSENS名義でのカヴァーEP『The Big Cover-Up』をリリース。
2020年、今回のツアーイメージを描いたイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

● Todd Terje アーティストリンク
Web http://toddterje.com
Instagram https://www.instagram.com/toddterje
Facebook https://www.facebook.com/ToddTerje
Youtube https://www.youtube.com/@ToddTerje

Pardans - ele-king

 時代と場所、タイミング、シーンを構成するいくつかの要素。コペンハーゲン・シーンには遅く、サウス・ロンドンのインディ・シーンには早すぎた。デンマーク、コペンハーゲンのバンド、パーダンスはある意味で時代の隙間に入り込んでしまったバンドなのかもしれない。
 アイスエイジ、ロウアーを中心とした暗く激しい熱を帯びたコペンハーゲンのパンク/ポスト・パンクのシーン、工場を改装したリハーサル・スペースであり同時にヴェニューでもあったメイヘムに集まりそこで小さなコミュニティが作られ流れが生まれた。メイヘムにはまたジャズや 〈Posh Isolation〉のカタログに連なるようなエレクトロニクスやエクスペリメンタル・ミュージシャンたちもいて、それがまたここに集うバンドに影響を与えていった。そんななかで学校を卒業したばかりの、少し年下のパーダンスはシーンが移り変わろうかというようなその時期に遅れて参加してそこでアイスエイジ、マーチング・チャーチ直系のエネルギーに溢れるギター・サウンドとジャズを混ぜたような音楽を作ることを目指したのだ。

 バンドを組んで3ヶ月で録音されたという2016年の1stアルバム『Heaven, Treason, Women』はアイスエイジの暴力的なまでの初動と、暴れ回るそれを制御しようとするロデオのようなフリー・ジャズの要素を合わせ持つ狂気の熱を放ったアルバムで、2023年のいま聴くそれはまるでサウス・ロンドンのインディ・シーンの前夜のような音にも聴こえるような瞬間がある。2018年の2ndアルバム『Spit and Image』はそれよりももっと方向を定めたエネルギーを放っていて、マーチング・チャーチをラウンジ・リザーズに近づけたかのような雰囲気を持つ。吹き荒れるサックス、ピアノにヴィオラ、ブラック・カントリー、ニュー・ロードの登場以降のUKの新人バンドたちが即座に頭に思い浮かべ採用するようなこの編成はこのときすでに形作られていたのだ。

 だがそれはあまりに早すぎた。コペンハーゲンの次のシーンに流れが移り、サックスの時代が来るまでにすでに存在していた彼らの音楽は時代の狭間に吸い込まれ隠されてしまったのかもしれない。だからきっと少しやり方を変えて再発見される必要があった。この3rdアルバム『Peak Happiness』で聴かれるパーダンスの音楽はそれまでのアルバムよりもずっとサウス・ロンドンのポスト・パンク・バンドに近い。ジャズのアプローチを少し弱め、ポスト・パンクの要素を前に出し、そこに自ら破滅の道に向かうかのようなロマンティシズムを混ぜ込む。それは似ているけれど異質なもので、退廃的な色気と狂気がその音楽のなかで熟成され醸し出されていく(それはどこか優等生的で、ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかったサウス・ロンドンのバンドたちにはなかった魅力だ)。

 夜の出口の見えない暗闇を手探りで進んでいくかのような “Big Summer” のダウナーなビート、サックスが歌いロード・ムービーのようなムードを作る “Warp Speed” はまるでパーダンス版の “Track X” のようで、その半自伝的な曲の中で “Track X” の作曲者たるブラック・カントリー、ニュー・ロードとロンドンの100Club で共演したというツアーの記憶が語られる。薄暗い、嘘がはびこる街で爆弾が爆発する、彼らは曲のなかでそう表現するが、しかしここでの爆発は火の手があがるようなそれとは少し趣が違う。長回しで淡々と描写するようなサウンドのなかに宿る静かな炎。1stアルバムから7年、2ndアルバムから5年が経ち、もう衝動で突き抜けるような感覚はない。それは押し殺された感情のなかにくすぶり続けた青白い情熱みたいなもので、ひんやりとした冷たいナイフを突きつけられているみたいなそんな感覚に陥る。
「ポスト・パンクのシーンをいくつかリサーチしてみたけど/なんの印象も残らなかった」。夜の色が薄くなり朝へと向かう時間の独白みたいにして紡がれる “The Scene” にしても、シーンから外れた疎外感のその裏に俺たちならもっとうまくやれるという暗く静かな意志を感じてしまう(群衆のなかでピッチフォーク・フェスのステージを眺めるというラインは哀しく、そしてとても美しく響く)。

 コペンハーゲン・シーンの最後に現れそこにろくに参加することのできなかった遅れてきたバンド、彼らはその後に起こったサウス・ロンドンのインディ・シーンのバンドたちと比べると年長で積み重ねた時間も過ごした場所も違がっていて、だから共感するところはあってもそれらをとても自分たちのものだと思うことはできなかったのだろう。だがそれゆえに、この音楽のなかにはどこにも属せなかったアウトサイダーの退廃的な美学が息づいている。野望に燃えていた少年時代の燃えさかるような炎ではない静かに燃やされる情熱、タバコとアルコールの匂いのするオープニング・トラック “Cringe City” から、アイスエイジに憧れたかっての自分たちを取り戻そうとしたかのような最終曲 “Mr. Coffee” に至るまで、ここにはくすぶり続けた情熱と暗く輝くロマンが詰まっている。

RP Boo - ele-king

 2年前、貫禄のアルバム『Established!』を送り出したシカゴのフットワークの偉人、RP・ブーが新作をドロップする。題して『Legacy Volume 2』。どうやら2013年発表のデビュー・アルバム『Legacy』の続編という位置づけのようで、2002年から2007年にかけて録音された13のトラックにより構成されているとのこと。映画や日常生活、機械などからインスパイアされた曲が収録されているそうだ。発売は5月12日。

artist: RP Boo
title: Legacy Volume 2
label: Planet Mu
release: 12th May 2023

tracklist:
01. Eraser
02. Heavy Heat
03. Total Darkness
04. Flo-Control
05. Under'D-Stat
06. Say Grace
07. Knock Out
08. Azzoutof Control
09. B.O.T.O.
10. Pop Machine
11. Porno
12. Off Da Hook
13. Last Night

Luminessence - ele-king

 多くのファンを持つジャズ・レーベル〈ECM〉が新たに手掛けるヴァイナル・リイシュー・シリーズ、「Luminessence」。その第一弾としてトランペット奏者ケニー・ホイーラーの『Gnu High』(1976)と、ブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』(1980)が4月28日にリリースされる。
 発売に先がけ、4月21日金曜日、両作のリスニング・イヴェントが催されることになった。案内人は原雅明、会場はアナログ・サウンドに特化した南青山のレストラン&バー BAROOM とのこと。極上のシステムで1音1音を堪能しましょう。

ECMレコーズが、スタートさせる新しいオーディオファイル・ヴァイナル・リイシュー・シリーズLuminessenceを記念し、発売前にリスニング・イヴェントがロンドン、ベルリン、東京の3都市で開催されます。

東京は、南青山のレストラン&ミュージックバーBAROOMにて、4月21日(金)20時より開催。世界同時リリースとなるケニー・ホイーラーの『Gnu High』とナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』の2枚を、アナログ・サウンドに特化したBAROOMの極上のシステムで再生します。ナヴィゲーターは原 雅明が務めます。

日時:2023年4月21日(金曜日) 20:00〜22:00

Navigator: 原 雅明
会場:song & supper BAROOM(バルーム)
東京都港区南青山6丁目10−12 フェイス南青山 1F
https://baroom.tokyo/
Music charge:free

主催:BAROOM
企画:ECM
協賛:ユニバーサル ミュージック(同)
協力:dublab.jp

■Luminessenceシリーズ

ECMのディープなカタログの宝石に光を当てるエレガントで高品質なヴァイナル・シリーズ。このシリーズの特徴は、唯一無二の刺激的な音楽、想像力豊かな演奏、繊細なプロダクション。ECMの音の世界の広さと多様性を強調する録音で、様々なフォーマットのLPがリリースされる予定だ。

クリエイティヴな音楽制作の概念を変えたアルバムや、今やクラシックと呼ばれるようになったアルバムを取り上げており、また長い間廃盤になっていたアルバムや、ヴァイナル初登場となるアルバムもあるとのことだ。ほとんどの作品はオリジナルのアナログ・マスターテープからカットされ、すべてのLuminessence盤はECMの名声を高めた印象的なオリジナル・アートワークを基に追加した新しいパッケージ・デザインで蘇る。
https://youtu.be/rCW6Vx9okho

■作品情報

4月28日発売
ケニー・ホイーラー 『Gnu High』
https://Kenny-Wheeler.lnk.to/Gnu_HighPR


ナナ・ヴァンコンセロス 『Saudades』
https://Nana-Vasconcelos.lnk.to/SaudadesPR

『Gnu High』はトランぺッター、ケニー・ホイーラーのECMデビュー・アルバムで、ピアノのキース・ジャレット、ベースのデイヴ・ホランド、ドラムのジャック・ディジョネットとの見事なカルテットを率いての演奏。このアルバムは、ホイーラーを叙情的な即興演奏家/ジャズ作曲家として世界に知らしめ、その後に影響力を与え、高く評価された作品の基礎を築いた重要な1枚だ。一方、『Saudades』は、ブラジルの打楽器奏者ナナ・ヴァスコンセロスが、オーケストラの中でベリンバウを聴くという夢をかなえた作品で、エグベルト・ジスモンチが弦楽器の編曲を担当し、共同作曲家、サポート・ソリストとして参加したことで実現したもの。ジスモンチとヴァスコンセロスの創造的なパートナーシップは、多くの録音で強調されているが、このように音楽表現が織り成す魔法のようなオーケストラの録音は二度とないだろう。

■情報ページ
https://dublab.jp/show/ecm-luminessence/

U.S. Girls - ele-king

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

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