「Nothing」と一致するもの

Funki Porcini - ele-king

 昔......何年前だろうか、ヨーロッパを列車で旅したことがあった。長い時間をかけてアムステルダムからドイツを南に下っていく列車に乗ったとき、同じ席になった老人と話していたら、「ヨーロッパを旅するならイタリアに行け」と繰り返し言われたことがあった。「ドイツなんかにいることはないだろ。イタリアに行け」、彼はなかば呆れた顔で、その根拠について懸命に説いたものだった。結局、イタリアにはいまだに行ったことがないのだけれど、ファンキ・ポルチーニだったら迷うことなくイタリア行きの飛行機に乗っている。

 ポルチーニは、イタリア料理が好きな人ならよく知っているキノコの名前で、このイギリス人は実際にローマに住んだこともあって、自分の作品のいくつかの曲名にもイタリア語を使っている。イタリア好きのイギリス人がいても珍しいわけではない。昔、日本好きのベルギー人にフランスとベルギーの国境沿いで出会ったことがあるが、彼女は僕に日本の煙草の銘柄をいくつか喋り、いかに自分が日本について詳しいか自慢したものだったが、珍しさで言えばこっちだろう。

 芸術的な観点から言っても、ファンキ・ポルチーニはUKヒップホップ界においても珍しいタイプではない。トリップホッパーとして知られた彼の1995年のファースト・アルバム『ヘッド・フォン・セックス』、そして翌年の『ラヴ、プッシーキャット&カーレックス』(愛、カワイ子ちゃん、そして事故車)は、人生をシリアスに語る日本のヒップホップから見れば珍奇な......というか実にふざけた音楽かもしれないが、この当時のUKの連中はヒップホップからの影響とその情熱をまったくナンセンスでバカバカしい事柄に注いでいた。その最高の拠点が〈ニンジャ・チューン〉だった。

 〈ニンジャ・チューン〉が日本で売れないのはもう仕方がない、文化が違うとしか言いようがないと思っている。DJクラッシュの影響下で日本で盛りあがったことのあるアブストラクト系(つまり、欧米で言うところのトリップホップのことだが)と呼ばれた連中の音楽は、ファンキ・ポルチーニと同じ影響下(ブレイクビーツやドラムンベース、あるいはファンクやジャズ、等々)で生まれながら、しかしまあ、良くも悪くもシリアスだった。洒落の入り込む余地はなく、言葉は悪いかもしれないけれど、眉間にしわの寄った音楽だった。そういう音楽は日本では人に勇気を与える。ファンキ・ポルチーニを聴いたところで、まったく勇気なんて湧いてこない。

 ファンキ・ポルチーニは、極めてイギリスらしい展開なのである。ルーク・ヴァイバートやスクエアプッシャーなんかとも近い。言うなればブレイクビーツ・ミュージックの変化球だ。1999年の3枚目のアルバム『ジ・アルティメイト・エムプティ・ミリオン・パウンズ』(最終的に空の100万ポンド)は、音楽的には行き詰まっていたが、そこを風刺精神で乗り切ろうとしたところもイギリスらしい。そして、2002年の4枚目のアルバム『ファスト・アスリープ』によってファンキ・ポルチーニはそれまでの手法と決別し、ジャジーでアンビエント調の曲のなかに自分の将来を託したのである。微笑みを忘れることなく。

 8年ぶりに見るファンキ・ポルチーニの名前に喜びを覚える人は、5枚目のアルバム『オン』を間違いなく好きになるだろう。何も変わっていないし、まったく変わったとも言える。その本質は同じだが、音楽性はずいぶんと変わったのだ。そしてより良く変わったのだ。

 ムーグ博士へのオマージュ、"ムーグ・リヴァー"なる曲でアルバムははじまる。曲中では、ヘンリー・マンシーニの有名な"ムーン・リヴァー"のメロディが演奏される。ファンキ・ポルチーニらしく微笑ましいはじまりで、それはこのアルバム全体の楽天性を象徴しているようでもある。2曲目の"これは生きる道ではない"はフィルムノワール調のお約束通りのトリップホップだが、ファンキーなビートに優美なピアノ演奏が絡む"ベリーシャ・ビーコン"、あるいはクラスター&イーノを彷彿させる"取るに足らない午後"や"第三の男"といった曲はこのアルバムの目玉として特別な響きを持っている。とくに"第三の男"の上品なアンビエントはロマンティックでさえある。"明るい小さいもの"や"フェルナンド・デル・レイの魔法の手"といったジャジーな曲もアルバムに適度な活力を与え(その演奏が生演奏なのかサンプルなのか、明記されていない)、8年ぶりの新作がなかなかの名盤であることを保証づけている。10点満点で言えば、8点以上のできだ。

 このアルバムを聴いたところで勇気が湧いてくるわけではない。その代わりと言っては何だが、陶酔と微笑みが待っている。ワインを飲みながらキノコを食べよう。

CHART by ZERO 2010.07.22 - ele-king

Shop Chart


1

KODE9 and MARTYN

KODE9 and MARTYN HYPERDUB vs 3024 - Exclusive mix for Japan BEAT / JP / 2010.7.14 »COMMENT GET MUSIC
いよいよ今週末に揃って来日するMARTYNとKODE9が関わる音源のみでミックスされた日本限定のMIX CD。会場で500円のキャッシュバックが受けられるカードも封入。まずはこれを聴いてから、現場でベースを体感して!

2

KALBATA & MIXMONSTER feat. LITTLE JOHN & JAH THOMAS

KALBATA & MIXMONSTER feat. LITTLE JOHN & JAH THOMAS SUGAR PLUM PLUM SOUL JAZZ / UK / 2010.6.25 »COMMENT GET MUSIC
イスラエルのダブステッパーがジャマイカ録音を敢行し、2人のレジェンドを迎え、ライヴ・ミュージシャンを起用しアナログ機材で制作した注目作。素晴らしい!

3

NOBODY

NOBODY ONE FOR ALL WITHOUT HESITATION NOBODY'S HOME PRODUCTION / US / 2010.6.20 »COMMENT GET MUSIC
L.A.のLOW END THEORY重要人物新作は、独特のフォーキーでサイケデリックな世界を、ヴォコーダーを通した歌声とエレロなサウンドで彩った素晴らしい内容。ヴォコーダーを通すことで彼のメロディのセンスもより際立つというか、本当にジンワリ染みてくる要素もある名盤!

4

PACHEKO & POCZ

PACHEKO & POCZ ZARBAK SENSELESS / UK / 2010.6.28 »COMMENT GET MUSIC
JUKE~ゲットーテックなベース&リズムのイントロからハーフに打つスネアがいい具合にブレーキを効かせるエレクトロ・ファンキー1。テッキーな方面を向き跳ねより疾走感に重きを置いたリミックス2。1の流れで聴くと東南アジアを空想させる不思議な浮遊感の3。

5

POLSKA

POLSKA 2ND RATE SUBLTE AUDIO / UK / 2010.6.15 »COMMENT GET MUSIC
ジャズ感たっぷりのドラムも含めたエフェクト効果でスペイシーな空間を生み出す1。これまたジャズなドラムをローリンにグルーヴさせたリミックス2。3はハーフなテンポで殆どジャズのような展開で、終盤はドラムンベースになるのも見事。

6

FELIX K

FELIX K RECOGNITION / ICE 31 RECORDS / UK / 2010.6.21 »COMMENT GET MUSIC
エナジティックなミニマリズムの要素を持った、ベルリン出らしいハットの音処理などのワザが光る1。2はドラムンベースのテンポでミニマル・テクノをやったらという感じのディーーーーーーープな曲。

7

JAKES / DARQWAN

JAKES / DARQWAN TIMES END / JAHWAN TECTONIC / UK / 2010.6.28 »COMMENT GET MUSIC
攻撃的なリズムを軸に、パーカッションやクラップ音、不穏に唸るサブベースと、変則的に追加されるリズムがグルーヴに勢いを付ける1。ゲットーテックを意識しつつ、直接そこへは向かわず独自の展開を見せているような2。最高!

8

AFRICA HITECH

AFRICA HITECH HITECHEROUS EP WARP / UK / 2010.7.2 »COMMENT GET MUSIC
スクウィー/チップ的シンセ音を良い味付けにしながら、アフロなグルーヴをエレクトロ・サウンドで展開した1。SPACEKを前面に出した5は、ダンスホール・レゲエを意識したMCとリズムで、ただ音の感触はこれまで通りのヒンヤリ感が満点で新鮮。インスト込みの2枚組6trks!

9

VICTOR ROMEO EVANS / THE DETONATORS

DOM HZ MIST OPENEARZ / UK / 2010.6.28 »COMMENT GET MUSIC
エレクトロニカな感触とジャジーなムードが同居して、チルアウト感覚から(世代によっては)アシッド・ジャズまで連想させるスムーズな1枚。

10

VICTOR ROMEO EVANS / THE DETONATORS

VICTOR ROMEO EVANS / THE DETONATORS SLACK AND SOVEREIGNS / WORKING DUB LOCAL RECORDS / UK / 2010.6.12 »COMMENT GET MUSIC
THE SPECIALSの名曲「GHOST TOWN」のプロデューサー、JOHN COLLINSが運営するレーベルのデッドストックを一挙入荷。後に映画『BABYLON』にも出演するV.R.EVANSや、J.COLLINSの個人プロジェクトTHE DETONATORSによる、UKらしい屈折ぶりも見事に出たダブ!

Christopher Hipgrave - ele-king

 どうして辿り着かなかったのか......。『裏アンビエント・ミュージック 1960-2010』(INFAS/7月22日)の見本が刷り上って来たその日、僕は初めて彼の音楽を耳にした。このサード・アルバムは6月にはリリースされていたらしい。入稿に追われていた時期だから仕方がない......とは思いたくない。これはやはり悔しいし、素直に後悔するだけの価値はある。あるいはこの人の存在にもっと早く気がついていれば、サード・アルバムがリリースされたタイミングできちっとフォローできていたはずである。あー、くそ。これから発売日までの1週間、同じような思いに襲われることは二度とないと願いたい(発売されちゃえば、なんか、諦めもつくんだけど......)。

 しっとりとして優雅なアンビエント・ドローン。それこそイレジスティブル・フォースがドローンに乗り換えればこうなっていたに違いないと思わせるような......。イギリスの作曲家、ヒップグレイヴは09年にホーム・ノーマルより『デイ』でデビューし、同じ年のうちに100枚限定で『サトレティーズ』を〈アンダー・ザ・スパイア〉からもリリースしているらしく、最初から大きな評価を得ていた......そうである。それらとの比較はいまはできないけれど、ここで展開されているドローンも緩やかな変化を基調に、ところどころで驚くほど天国的なモードが配置され、静かな興奮の連続が続く。さらさらと流れる金の砂やとても慎み深く鳴り響く鐘のように、柔らかく、柔らかく、織り上げられたテクスチャーはいわゆるアメリカのドローンとは違い、ある種の磁場に引きずり込もうとする強さはない。こちらから近づいていかなければ消えてしまうようなものでしかないともいえる。

 ジム・オルークが定着させたモダン・ドローンはやはり現代音楽の復権であり、アヴァンギャルドの再生を経て、それらは誰にでも扱える遊び道具へと変化していった。グローイングしかり、エメラルズしかり。どこへ向かおうが、何ひとつ制約はない。クリストファー・ヒップグレイヴのそれはキンクスやモノクローム・セット、あるいはレフトフィールドやボーズ・オブ・カナダと同じくイギリス人の心象を深く投影したものであり、湿地帯のメンタリティを音に移し変えたもといえる。アヴァンギャルドや現代音楽にとって、それは心象風景を投影するためのものではなかったはずだけれど、このような流れを変えることはもはやできない。ハットフィールド&ザ・ノースの代わりにこれを聴き、キュアーの記憶と重ね合わせるだけである。午後3時ごろ、紅茶でも呑みながら。

interview with Yoshinori Sunahara - ele-king


砂原良徳
Subliminal
[Limited Edition]

Ki/oon

Amazon

 か、か、か、か、か、か、か、か、と「サブリミナル」は極めて控えめにはじまる。スペイシーな鍵盤の音、ファットなシンセベースが聴こえる。さりげないフィルイン、それからはじまる16ビート......9年ぶりに砂原良徳の新曲を聴く。
 砂原良徳は虚構を弄んでいた。亡き"過去"に惑溺し、存在しない"場所"を捏造した。われわれは彼のファンタジーを面白がって、その夢の世界に遊んだ。が、しかし、あるときから彼はそうした楽天主義的な遊びを止めてしまった。2001年に彼が発表した『ラヴビート』は、本人の話を聞いている限りでは、レディオヘッドの『キッドA』やゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!の『f#a#∞』、ポーティスヘッドの『サード』やマッシヴ・アタックの『ヘリゴランド』、ゴリラズの『プラスティック・ビーチ』、あるいはコード9&ザ・スペースエイプの『メモリー・オブ・ザ・フューチャー』、こだま和文の『スターズ』、ヘア・スタイリスティックスの『カスタム・コック・コンフューズド・デス』......といった作品と同類ということになる。要するに『ラヴビート』は、時代の暗闇と向き合いながら作られた作品なのだ。
 が、しかし、砂原良徳の音楽は、それでもなお、音楽とは快楽であるという論から離れているわけではないように思える。深いメランコリーを有しながら、彼の音楽に逃げ出したくなるような重苦しさはない。実にエレガントで、ときには夢を見てしまいそうなほど甘ったるく、早い話、シリアスだが催眠的なのだ、1970年代に作られたジャマイカのダブがそうであるように。このアンヴィバレンスは彼の音楽の素晴らしい魅力ではないかと思う。
 『ラヴビート』から9年ぶりの新作「サブリミナル」もまた、エレクトロニクスのなかに彼の強い気持ち(悲しみ、怒り、慈しみ、優しさ)が込められている。『ラヴビート』のようにメランコリックだ......が、と同時に現実を忘れそうなほどに陶酔的である。
 いったい何年ぶりだろうか......本当に久しぶりに砂原"まりん"良徳に会った。

9.11にはじまって、グローバリゼーション、人間がどんどん生きにくい世のなかになっていく......世紀末が終わっても世紀末感はぜんぜん終わらない。そんななかで出すことは悪くはないなと思えてきたことだよね。

いやー、久しぶり。まりん、ぜんぜん変わらないね。

砂原:そんなことないよ、だいぶ変わったよ。

しかも9年ぶりじゃないですか。

砂原:アルバムはまだ出ていないからね。

オリジナル作品としては9年ぶりなんだね。

砂原:そうだね。野田さんの予言通りになったよ。『ラヴビート』を出したときに野田さんが「10年は出さなくてもいいよ」って言ったからね。「ホントにその通りになりました」っていう(笑)。

ハハハハ。

砂原:「もう10年出さなくてもいい」って言われたとき、「それはありえんだろう」と思ったけど、ホントにそうなっちゃったよ。

取材で?

砂原:取材が終わってから飲みに行って、そう言ったんだよ。

オレ、なんて言ったの?

砂原:「当分更新する必要がない」って言ったんだよ。

そうか......、たしかに『ラヴビート』を聴いたときは感動したからね。本当に素晴らしい音楽だと思ったし......。『テイク・オフ・アンド・ランディング』(1998年)や『ザ・サウンド・オブ・70's』(1998年)のほうがキャッチーなんだけど......。

砂原:ギミックが多すぎるんだよね。

そう......かもね。『ラヴビート』はテーマ自体は重たい作品だったし。それはともかく、あのさー、なんで9年もかかったの!?

砂原:ハハハハ!

ホントにもう(笑)。

砂原:スタジオには毎日通っていたんだよね。土日もなく通っていた。

まりんの〈クリング・クラング・スタジオ〉。

砂原:まあ、そんなもん(笑)。とにかくスタジオに行かない日はないんです。しかも起きてから10分ぐらいで家を出るんですね。で、スタジオで顔洗って歯磨きしたりする。寝たままスタジオに行ってスタジオで起きるって感じなんだけど。

スタジオはずっと確保しているんだね。

砂原:あるよ。もう10年だね。

そして毎日スタジオに足を運んでいたと。

砂原:だって何をやるにもスタジオに行かなければならないんだもん。まあたとえば、CMの動画を編集したりとか。

仕事?

砂原:それは仕事じゃないけどね。趣味、遊びだね。そんなことをずっとやっている。そういうことは作品に影響しているけど。CMなんかは時代の空気みたいなのを反映しているし。CMを観ていると面白いんですよ。

それだけ聞いていると、道楽的な人生を歩んでいるのね。

砂原:そうかもしれないけどさ。だからってさ、要らないところは要らないのよ。ご飯とかあんまり食べないしさ。コンビニのおにぎりを買ってくるでしょ。それを片手に持ちながら作業していると、いつの間にかおにぎりがカラカラになっている。だから、どんなところにもお金を注ぎ込んでいるような道楽じゃない。好きなことをやっているという意味では道楽的なのかもしれないけど。もちろん、いずれ作品を作るんだという前提でやっているんだけど。

当然、焦りとかあるわけでしょ。

砂原:ないよ。

いまは出たからそう言えるよね。

砂原:いやいや、焦りとかないよ。出なかったら出なかったまでだしさ。まあ、そういうつもりはなかったけど。出るだろうなとは思っていたけど。

コーネリアスだって多作とは言えないけど、自分の音楽を更新しているじゃない。

砂原:そうだね。たしかに更新しているよね。バッファロー・ドーターだって最近更新したよね。

自分だけおいてきぼりにされるっていう......。

砂原:いやいや(笑)。おいてかれてもいいかなと思っていたし、更新したとしても、中途半端な更新なら意味ないと思うし、やっぱり大きくアップデートしないと出す意味がないよなと思って。いま更新してもマイナーなアップデートにしかならないなと思って。

それはクラフトワーク主義?

砂原:いや、クラフトワークじゃない。『ラヴビート』のときから新しいジャンルに関する興味がぜんぜんなくなったのね。他人が何をやっているのか気にならなくなった。"新しい"といよりも自分にとって普遍的なもの、モダンなものにウェイトがいった。まわりの人が何をやっているかなんてぜんぜん気にならない。

だけどやっぱ、職業音楽家としてはさ。

砂原:なんかやらなければならないというのはあるよ。

でしょ!

砂原:ハハハハ。

だいたい4年ぶりでも久しぶりだと思うものだよ。9年はないよ。

砂原:いや、だけどさ、逆の考え方もあってさ。レコード会社の人には申し訳ないんだけど、「このゼロ年代をアルバム1枚で乗り切ったのは誰だ!」ってさ。

ハハハハ!

砂原:そういう考え方もあるんだよ。

その考え方いいね(笑)。

砂原:いや、野田さんが言ったんだよ、「10年出さなくていい」って!

ハハハハ。

砂原:唯一、コピー・コントロールCDのあおりを食わなかったんだから。

あー、それはそうだね。

砂原:コピー・コントロールCDなんか絶対に出しちゃいけない。あのときいろんなアーティストが嫌な思いをしていたのも見ているし、せっかく録音した作品が劣化した商品になっていくって......だいたい万引きするヤツが多いからって......、無銭飲食が多いからレストランの味を落とすって、あり得ないでしょ!

たしかにね(笑)。

砂原:そんなのレコード会社だけですよ。まあ、言いたいこと言ってますけど(笑)。

まあ、これは公式のインタヴューだからそういう強気なことを言ってるんだろうけど。

砂原:いや、強気でも弱気でもないんだけど。

ハハハハ。

砂原:そんなオレの個人的なことなんかよりも、音楽業界というか音楽シーンというか、体力がどんどんなくなってきているなということのほうが頭にあったかな。

どう思っていた?

砂原:シーンも縮小していったし、経済的にも小さくなっていったし、いままでみたいなやり方では通用しないんだろうなとは思っていますよ。でもね、それが良いことなのか悪いことなのか、それはどっちとも言えない。カルチャーって、無理矢理に保護するものでないと思うし。生活があって、自然に生まれてくるものだと思っているので。だから、「いまこの文化が危ない」とかいって「守ろう」というのも不自然だと思っているんだよね。だから、もし淘汰されたならそれは納得するしかないよねという。

[[SplitPage]]

おいてかれてもいいかなと思っていたし、更新したとしても、中途半端な更新なら意味ないと思うし、やっぱり大きくアップデートしないと出す意味がないよなと思って。いま更新してもマイナーなアップデートにしかならないなと思って。


砂原良徳
Subliminal
[Limited Edition]

Ki/oon

Amazon

まあ、産業的に見たらよく携帯やインターネットに食われたみたいなことを言われるけど、携帯やインターネットがまったくの害悪というわけでもないからね。

砂原:携帯やインターネットによって生まれた新しいカルチャーだってあるし、一概にダメだとは言えないからね。

僕らが中学生ときは音楽鑑賞なんて趣味の王道だったから、悔しい気持ちもあるけどね。

砂原:ただ、僕らがポップ・ミュージックに関わるって、音楽を聴くってことだけじゃなかったじゃない。ジャケットというアートもあったし、レコード店を中心としたコミュニティもあったしさ、そういうのをぜんぶひっくるめてポップ・ミュージックだったわけで、音楽だけじゃないってことなんだよね。いまはでも、それがポップ・ミュージックのシーンのことではなく、音楽そのものの本質に向かってきているから、ポップ・ミュージックに付随するカルチャーが崩れてきてしまっていると思うんだよね。

けっこう気にしていたんだね。

砂原:それはまあ、そうだよ。そこを考えなくなったらおしまいだからさ。

まあ、そうだよね。じゃあ、9年間スタジオに通っていたっていう話は70%は信じるけど。

砂原:ハハハハ。だって最後の砦だもん。たとえば「3日間休もう」と。「さーてと何をしよう?」「あ、そうだ、スタジオに行こう」って。

ハハハハ。

砂原:生活のいち部だよね。

みたいだね。では、今回発表される4曲というのは、どういう風に捉えればいいんでしょうか?

砂原:つねに制作はしていたの。『ラヴビート』以降も何曲も作っているんだけどね。2004年にいちどアルバムにしようかっていう話もあったんだよね。でも、自分で通して聴いてみて、あんま面白くなかったの。だから止めたんだけど。実は完パケに近いカタチのものってあったし、CMに使われたものもあったから。曲のパーツに関して言えば、今回の4曲のなかには2002年のパーツも使われているから。

そうなんだ。

砂原:でも、曲自体の構成に関しては、古くても2年前だね。

その長いあいだできなくて、しかしできるようになったその一歩目というのは何だったの?

砂原:それはね、自分のなかで起こっていることというよりも、音楽シーンなのか社会全体なのかわからないけど、いま作品を作って出すことは有効だなと強く思えるようになったことだよね。その要素についてはいろいろあるんだけどね、9.11にはじまって、グローバリゼーション、人間がどんどん生きにくい世のなかになっていく......世紀末が終わっても世紀末感はぜんぜん終わらない。そんななかで出すことは悪くはないなと思えてきたことだよね。

音楽性で言うと、今回の「サブリミナル」は『ラヴビート』の発展型だと思ったんだけど。

砂原:まあ、変化型だよね。

メランコリーという点でもそうだよね。『ラヴビート』の頃はとくに環境問題を気にしていたよね。

砂原:環境問題もあるし、政治とか、ぜんぶだよね。

「サブリミナル」はどうなんだろう?

砂原:環境問題はそのなかのひとつだよね。

すべてではない?

砂原:「サブリミナル」というタイトルもそのなかのひとつだから。アルバムはもっと広い。まだ部分的にしか見せていないってことなんですね。

曲時間がすべて5分前後になっていることは関係ある?

砂原:それは偶然じゃない。関係ある。『ラヴビート』は長かったからね。あまりにも長いと聴くほうも大変かもしれないし、長くすることにさほど意味がないんだったら、短くできるなって。整理していった結果がこれかな。

長いのはもう違うって感じ?

砂原:いまでも好きだよ。それにつき合ってくれる人がいれば作りたいし。

そうか。僕が『ラヴビート』の発展型だと思ったのは、曲全体が醸し出す"うねり"のようなものというか"グルーヴ"というのか、それがさらに際だっているなと思ったんだよね。ピッチも遅いでしょ。早くて120?

砂原:いいや、あって105(笑)。

そう、"うねり"のようなものがすごいでしょ。

砂原:そうだね。

表題曲(サブリミナル)の2曲目はあきらかにビートの構成を意識しているし。

砂原:ファンクだよね。

前からファンクというキーワードは言っていたよね。広義のファンク?

砂原:いや、もろファンクだよ。人によってリズムのクセというのがあるから、それがいびつさだとしたら、前面に出したほうがいいという考え方。

なるほど。

砂原:『ラヴビート』以降は、"間"についてはずいぶんと考えているからさ。自分のなかの"間"のクセみたいなものがあるなら出したほうがいいし。

2曲目の"サブリミナル"のリズムパターンはここ最近のダブステップ系の感覚と近いんだよね。どうせ知らないだろうけど。

砂原:面白いね。もしホントにそうなら、共通感覚みたいなものってあるんだね。だって僕、ダブステップのことぜんぜん知らないもん。

裏ビートの音楽なんだけど、"サブリミナル"はそれらと感覚的に似てもなくもない。

砂原:僕みたいに孤立した人間がそうしたものを近いというのは面白い話だね。

クラフトワークとダブステップとのあいだの溝を埋めるような曲だと思ったんだよね。

砂原:でもクラフトワークとはもう僕、考え方が違ってきちゃっていると思うよ。彼らのモダンさ、シンプルさ、徹底しているところとか、そういうのはホントにすごいなと思うけど、『ラヴビート』以降はとくに違うかなと思っているんだよね。いまクラフトワークが来ても、観に行かないかもしれないもん。

『テイク・オフ・アンド・ランディング』や『ザ・サウンド・オブ・70's』の頃はものすごく大量のレコードを聴いていたでしょ。ソウル・ミュージックからスポークンものまで幅広く。もうああしたことも止めちゃったの?

砂原:いや、それがデフォルトになった感じかな。笠置シヅ子聴いたり。だからなんでもいい。音楽って、サラリーマンでも労働者でも、自分の社会的な位置を確認するために使っていることってあったと思うんだけど、だから平均的なものを聴くわけでしょ。会社行って笠置シヅ子って言ったら引かれるだろうけど、僕らはもうそういう必要性がないじゃない。だからなんでも聴けるわけ。人がクソだと思ったもので、「これいい」と言ってもぜんぜん問題ないわけ。解放されているわけよ。もっと解放されれば、もっと楽しめるものがあるかもしれないし。

他人の音楽も聴いてはいるんだね。

砂原:聴いてるよ。知り合いがやっていることも気になるし。最近ではバッファロー・ドーターの"グラヴィティ"がすごい良かったな。さすがだなと思った。

新作良かったよね。しかし......、なんか話を戻して申し訳ないんだけど、今回の「サブリミナル」の前に元スーパーカーの人ともコラボ・シングル出したじゃない。

砂原:はいはい、(いしわたり)淳治くんね。

そう、相対性理論の子(やくしまるえつこ)といっしょにやっていたヤツ、あれもつい数ヶ月前に出したよね。で、今回の「サブリミナル」でしょ。やっぱどう考えてもいきなり唐突に動きはじめた印象があって。

砂原:それはまあ、潜伏状態が長かったから、スタッフがリハビリ的にじょじょにやっていこうって気を遣ってくれたんだよ。淳治くんとのヤツはイレギュラーでね、まあ話は前からあったんだけど。

そういえば、サントラも出しているじゃない!

砂原:そう、だから段階的にやっているの。そうすればもうソロをやるしかないだろうってなるから。逆説的に言えば、やるために潜伏していたわけだし。

逆説的に言えばね(笑)。いしわたり淳治&砂原良徳みたいなポップス路線は、良い意味で力を抜いてやってる感じなの?

砂原:ポップスっていうものにちゃんと向き合ってこなかったからね。それをいしわたり淳治という素晴らしい才能といっしょにできるわけだから最高だよね。あのね、やっぱ物事を進めていくうえで、対極的なものがあったほうがいいんだよ。そのほうが物事が進みやすい。

それはわかる。

砂原:やっぱ電気グルーヴを辞めちゃったから、自分がポップスを追求する場がずっとなかったんだよ。しばらくソロだけになってしまっていたから。だけど、これからはもうちょっとバランスよくやっていけるんじゃないかな。

バランスというのは、やっぱソロでは社会の暗さみたいなものとも向き合おうと思っているから?

砂原:音楽って、それは避けられないじゃないですか。むしろ社会的状況を露骨に出してきた文化だと思うんですよ。野田さんは古い音楽も知っているから、その流れってよくわかっているでしょ。

とくに黒人音楽は社会から逃れられないよね。

砂原:それ以外でも、60年代からずっと続いていることってあるでしょ。でもいま聴こえてくる音楽って、そういうものとはまったく別のところに存在しているものが圧倒的に多いなって思うんです。「現実は現実で大変だけど、それはおいておいて、で、これ」みたいな。必要以上にアッパーだったり、必要以上にポジティヴだったり......ポジティヴになることはいいんだけど、だけど現実を前提に作られている音楽が少ないなと思って。

まったくそうだね。

砂原:だったら目立てるんじゃねぇかなと思って(笑)。

ハハハハ。

砂原:そういう意味でも非常にエキサイティングな感じがするんですよ。音楽の内部で起きていることも音楽の外部で起きていることと関係している、そういうものが良いと思うし、いまアナザーワールド的なものはあまり聴きたくないな。

[[SplitPage]]

「現実は現実で大変だけど、それはおいておいて、で、これ」みたいな。必要以上にアッパーだったり、必要以上にポジティヴだったり......ポジティヴになることはいいんだけど、だけど現実を前提に作られている音楽が少ないなと思って。


砂原良徳
Subliminal
[Limited Edition]

Ki/oon

Amazon

"サブリミナル"という言葉をシングルのタイトルにしているわけだけど、それはいまの話とどういう風に関係あるの?

砂原:すごく関係ある。で、それと直結するキーワードが次のアルバムのタイトルになる。

出るの?

砂原:出るよ。

ホントに?

砂原:もう出る。半年以内には絶対に出る。

ホントに出るんだ。

砂原:出る。今回「サブリミナル」というタイトルで4曲フィックスした時点で出すしかない。もうこの「サブリミナル」というシングルは更新できないんだから。アルバムを出すしかない。アルバムを出せば、この「サブリミナル」もより明確にわかると思うよ。

"サブリミナル"という言葉の意味も......。

砂原:それもアルバムが出るとわかるよ。

いまは喋らないほうがいい?

砂原:まあね。

このさい言っちゃおうよ(笑)。

砂原:それはアルバムが語ってくれると思うから。ひとつだけ言えば、いま庶民が本当に必要とされているものがなくて、必要とされていないものばかりを与えられていると思っているのね。そうした現実を的確に捉えていかなければならないっていうのがある。

なるほど。興味深いテーマであることは間違いないね。

砂原:あともうひとつ言うと、次の作品はプログレっぽいものになるかもしれないと思っているんだ。プログレっぽい、そんな深くプログレを聴いてきたわけじゃないから、漠然としたイメージなんだけど。

どういうプログレ?

砂原:俯瞰詩的なところとか。

物語?

砂原:違う。うまく説明できないんだけど。

まあ、社交辞令抜きで言うけど、楽しみにしているよ。ところで「サブリミナル」の冒頭は時計の音というか、クリック音というか、すごくシンプルな音だけではじまっているじゃない。

砂原:そう、あれは静けさのなかではじまりたかった。

あのはじまり方が良かった。引いて際だたせるというか、ドキッとするはじまりだったね。

砂原:まったくその通りだね。「引く」っていうのは僕のやり方なんだよね。たまに僕のなかには「ロックがない」って言われるんだけど、ないわけじゃないんだよ。

ディーヴォに育てられたから仕方がないね。

砂原:それは違うけど(笑)。

ディーヴォの新しいアルバム、聴いた?

砂原:聴いた?

どうだった? 

砂原:いや、ディーヴォってコンセプトがものすごいでしょ。だからもう、あの上に何を載っけようが良いとか悪いとかないよなっていう。あれはあれでいいんじゃないかな。変わっていない。もし変わったところがあるとしたら、世のなかが変わった分だけディーヴォも変わった。変わらなければならない部分と変わっちゃいけない部分と両方あって、ジャイアンツのユニフォームっていうのは、それをうまく表現している。

あっははは。野球好きなんだよなー。

砂原:だから、ディーヴォもジャイアンツのユニフォーム。

レコード店に行っていつも迷うんだけど、まだ買っていないんだよね。

砂原:買わなくてもいいかもよ。ジャケットだけ見れば、なんかわかるかもよ。

でもねー、えー、何年ぶりのアルバムだっけ?

砂原:20年振り。ほらー、20年のヤツがいるよ!

ハハハハ。ディーヴォはすごいリスペクトされているから、欧米では派手に取り上げられているけどね。

砂原:そうだよね。オレの9年ぶりなんて、ディーヴォに比べたら小さいものだね(笑)。

ハハハハ。ディーヴォも意味もなくただ曲を作るってタイプじゃないからね。そうそう、まりんの場合は、自分のなかで作品の最初の手がかりっていうのはどういうところにあるの? DJミュージックなんかで多いのは、ひとつのループができるとそこから膨らませられるっていうじゃない。

砂原:作品のテーマだよね。テーマが必要だから。ループだけができあがってもテーマがなければ作品にはならないんですよ。

テーマ作りに8年かかったんだ。

砂原:それだけやっていたわけじゃないけどね(笑)。

たしかに、まりんの場合はコンセプトありきだよね。『クロスオーヴァー』(1995年)以外はすべてコンセプト・アルバムだもんね。

砂原:基本はコンセプト・アルバム。活動のコンセプトを決めたのが『ラヴビート』だったね。

なるほど。話は変わるけど、「サブリミナル」の3曲目の"アンコンシャスネス・フラグメント"はずいぶんとサイケデリックな曲だね。

砂原:それはね、無意識をテーマにしたんだけど、意識的無意識になったというか、だから結局、無意識にはなれなかったね。それはそれで意味があったんだけど。

「サブリミナル」の4曲というのは、それぞれテイストが違うじゃない。"サブリミナル"はファンクで、最後の"キャパシティ"はもっとメランコリックだし。これはアルバムのショーケース的な意味合いもあるの?

砂原:多少はあるよ。このシングルを聴いて、アルバムを聴いてみたいと思ってもらえるようにしたつもりだから。

じゃあ、半年以内に発表されるアルバムを楽しみにしていますよ。出るんでしょ?

砂原:出ます。間違いなく出るから心配しないで。まあ、ele-kingも復活したことだし、みんなでもういっかいがんばってみましょう。

素晴らしい締めだね(笑)。

砂原:でもホントにそうだよ。気力っていうの、アイツががんばっているからオレもっていうのは......

(以下、次回に続く)。

Jeb Loy Nichols - ele-king

 こういう音楽を欧米ではときに"アダルト・オルタナティヴ・ポップ"と呼ぶ。ジェフ・バックリーやトリ・エイモスのような、深みのある知性と言葉を持った歌手たちのことを指すらしい。ニック・ケイヴだって入るだろう。曽我部恵一はあと5年、七尾旅人も10年後にはそうなっているかもしれない。やけのはらは......10年後も「still young」と言うのだろうか。わからないが、僕はこの"アダルト・オルタナティヴ・ポップ"という言葉が気に入った。若くして"オルタナティヴ"でいることはそう難しいことはないが、大人でそれをやるのは容易ではない。初期衝動なんてものをとっくに忘れている人間が人生に対してなおも挑戦的であろうとするのは、それなりの代償とパワーを要するものである。

 ジェブ・ロイ・ニコルズの人生はたしかに"オルタナティヴ"である。1979年、10代のときにテキサス州のサンアントニオでセックス・ピストルズを見た彼は、パンクを求めてニューヨーク行きを決心する。ニューヨークでははからずともアリ・アップやネナ・チェリーらと知り合い、レゲエとヒップホップに心酔、そしてこれをきっかけにニコルズはロンドンへと移住する。
 ロンドンではエイドリアン・シャーウッドと共同生活を送るが、その後も放浪好きはおさまらず、ヨーロッパを旅し続けている。
 1990年に彼は仲間といっしょにバンドを結成して最初のレコードを発表している。カントリー、フォーク、そしてレゲエがブレンドされた作品だったというが、まさにその後の彼の音楽の青写真である。
 ニコルズがソロ・アルバムを出すのは1997年のことだった。それはブルースとレゲエの混合で、セックス・ピストルズを見てから18年目のソロ・デビューとなった。

 彼が最初に世間の注目を集めたのは、2000年に〈ラフトレード〉から発表されたセカンド・アルバム『ジャスト・ホワット・タイム・イズ・イット』だった。ジャマイカのスティーブン・スタンレーのもとで録音されたこのアルバムは、ニコルズ自身の手による素晴らしいアートワークとともに(彼は〈プレッシャー・サウンド〉の数多くのジャケを手掛けている)、彼のカントリー&レゲエのセンスを極めたものとなった。あるいは、昨年発表した7枚目のアルバム『ストレンジ・フェイス・アンド・プラクティス』ではダウンテンポのジャズやバラードを披露し、彼のファン層を広げている。
 
 通算8枚目となる新作『ロング・タイム・トラヴェラー』は旧友エイドリアン・シャーウッドのプロデュース&ミキシングのもと、〈On-U〉からのリリースとなった。ニコルズの真骨頂であるカントリー&レゲエが実にヌケの良い音で、心地よくレイドバックした演奏とともに展開される。
 バック・バンドにはスタイル・スコット(ダブ・シンジケート、ルーツ・ラディックス)やスキップ・マクドナルド(ダブ・シンジケート、タックヘッド)といった〈On-U〉ではお馴染みのベテランが参加している。グレゴリー・アイザックスを彷彿させるニコルズの歌は、人生の温かさと冷たさや子持ちの親に向けた言葉を綴り、あるいは孤独や恋について歌う。シャーウッドは年季の入った柔らかいミキシングで、ニコルズの魅力的な声を見事にサポートしている。

 レコード店に入って、もしこのアルバムが店内で流れていて、レゲエ好きな人なら間違いなく買うだろう。ソウル・ミュージックが好きな人、カントリー&ウェスタンが好きな人の3人にひとりは気にかけるだろう。僕? 聴いた瞬間に好きになったよ。ただし、もしこの音楽が"オーガニック系"などと括られていたら、間違いなく気にもとめなかったろうな......。

CHART by JETSET 2010.07.20 - ele-king

Shop Chart


1

GOLD PANDA

GOLD PANDA YOU EP
»COMMENT GET MUSIC
当店激プッシュのUK新世代エレクトロニカ大名曲。Seams、Osborneがリミックス!!UK盤7"を買った方には、コチラも激しくオススメしたい!!Gold Pandaの名曲がUS/Ghostly Internationalから12"リリース!!Osborneによるブリージン・シンセ・ディスコRemixが最高です!!

2

ROCHA

ROCHA FEEL THE LOVE
»COMMENT GET MUSIC
ビッグ・ヒット"Hands Of Love"でご存知"Rocha"による2作同時リリース!!やはり素晴しかった当店大人気レーベル"International Feel"最新作Part1。レーベル初作をビッグ・ヒットで飾った"Rocha"がマスト・バイ・アイテムを携え再登場!!

3

ROCHA

ROCHA FEEL THE LOVE (REMIXES)
»COMMENT GET MUSIC
ビッグ・ヒット"Hands Of Love"でご存知"Rocha"による2作同時リリース!!やはり素晴しかった当店大人気レーベル"International Feel"最新作のこちらはPart2。Greg Wilson、Thomas Bullock a.k.a. Welcome Strangerによるクオリティ・スタッフ。マスト・バイ・アイテムです!!

4

SLUM VILLAGE

SLUM VILLAGE FASTER B/W LOCK IT DOWN
»COMMENT GET MUSIC
最終作と噂される"Villa Manifesto"からの先行カット! B面では何とJ.Dillaのアノ曲を・・・。待望の6thアルバム"Villa Manifesto"から、Young RJ Pro.による"Faster"、そしてJ-DillaがPro.した"Lock It Down"が12"カット!共にインスト、アカペラ収録です。

5

ORIOL

ORIOL COCONUT COAST
»COMMENT GET MUSIC
UKの老舗レーベルPlanet Muから登場のOriolデビュー12"!うっとりする程に煌びやかなビート・トラックのOrg.をはじめ、Falty DL、Jake Slazenger、Shortstuffによる文句無しのリミックスをカップリング!

6

V.A.

V.A. PDXTC
»COMMENT GET MUSIC
爆裂オススメです★USインディ・ダンス最先端が詰まったスペシャル最高マスト・コンピ!!ポートランドの新レーベルHigh Score Andからの衝撃コンピ。インディ・ディスコもチルウェイヴも飲み込んだ完全ニュー・タイプ爆裂ダンス・キラーA-3をまずはどうぞ!!

7

MYSTERY JETS

MYSTERY JETS SEROTONIN
»COMMENT GET MUSIC
どう考えてもこの10年のイギリスで一番最高のポップ・バンド。さらに素晴らしいサード・アルバム!!爆裂マステスト★名作"Twenty One"から約2年、Rough Tradeに移籍しての3rd.アルバムが到着。大判ポスターと7インチが付いた激最高アナログ・エディション!!

8

JUJU & JORDASH

JUJU & JORDASH TATTOO'S ISLAND
»COMMENT GET MUSIC
唯一無比のアムステルダム・ビートダウン・チームも遂にPhilpotに参戦!!リミックスも含めて外しの無い高水準なリリースが続くJuju & Jordashですが、こちらもまた彼らの真髄を堪能出来るウルトラ・ディープ・トラック。Kindred Spirits Ensembleのリミックスで名を上げたTom Tragoによるリミックスも収録!!

9

V.A

V.A SPLIT EP
»COMMENT GET MUSIC
これはヒットEPとなりそう!!09年に当Cadenzaからリリースした"Descarga"が大ヒットした若手コンビがそれぞれのソロ作品を提供したスプリット・シングルをリリース!!

10

DAVE AJU & THE SOL PERCUSSION ENSEMBLE

DAVE AJU & THE SOL PERCUSSION ENSEMBLE TWO TONE
»COMMENT GET MUSIC
ヴィブラフォンとスキャットが交差する極上の美麗レフトフィールド・ミニマル特大傑作!!■'10年ベスト・シングル候補■Four TetやPantha Du Princeファンから、祝祭のチリアン・ミニマル・フリークにまで大推薦の、エレガントでドファンキーな1枚!!

CHART by ZERO 2010.07.17 - ele-king

Shop Chart


1

GHISLAIN POIRIER

GHISLAIN POIRIER SOCA SOUND SYSTEM NINJA TUNE / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

2

BAOBINGA

BAOBINGA RIDDIM TEAM EP STEAK HOUSE / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

3

GRIEVOUS ANGEL feat. RUBI DAN

GRIEVOUS ANGEL feat. RUBI DAN MOVE DOWN LOW SOUL JAZZ / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

4

BAOBINGA & I.D

BAOBINGA & I.D TONGUE RIDDIM BUILD / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

5

HANUMAN / ATKI2 & DUB BOY

HANUMAN / ATKI2 & DUB BOY BOLA / TIGERFLOWER IDLE HANDS / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

6

KU BO

KU BO REMIX EP MAN RECORDINGS / GE / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

7

ROSSI B & LUCA

ROSSI B & LUCA E10 RIDDIM / POLICE AR COME RUN feat. KILLA P PLANET MU / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

8

MJ COLE

MJ COLE THE RIDDIM EP PROLIFIC / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

9

C156

C156 OINK DISBOOT / SP / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

10

AFRICA HITECH

AFRICA HITECH BLEN WARP / UK / »COMMENT GET MUSIC
番外編02:KARNIVAL MUSIC
ブリストルのDUB BOYらが推進する、英国流のバッシュメント・ミュージック解釈"KARNIVAL MUSIC"を、さらにZERO流に集めて紹介します。イギリスからは様々な新しい呼び名でジャンルが"捏造"されているなんていう風にネガティヴに捉えるか、"新しい音楽の聴き方"として積極的に飛び込んでみるか、音楽を楽しめるかどうかは貴方のアティチュード次第でどんな風にも聴こえる......それがUK音楽の面白さのひとつだと思います。"GET MUSIC"リンク先からコメント&購入が可能です。

 7月に入りニューヨークは猛暑。100°Fを越える日もあり、厳しいx2暑さが続いている。ストリートの消火栓は随時開けられ、水がすごい勢いで流れ出ている。子供が遊んだり、通りすがりの車が洗浄されたり、たんに水の無駄遣いだったりしながら、いまもどんどん水が流れ出ている。それがニューヨークの風物詩といっても過言ではないが、風物詩といえば、7月4日は独立記念日、恒例のメイシーズの花火大会が開催された。

 去年から、イーストリヴァー(ブルックリンとマンハッタンを挟む川)で花火はあがらなくなり、ハドソン川(ニュージャージーとマンハッタンを挟む川)のみになり、ちょっと寂しいブルックリン側。2年前までは、花火が終わった後、ブルックリン(ウィリアムスバーグ)の川岸は人がもりもり盛りだくさんで、うちのカフェ〈スーパーコア〉にも、花火大会の帰りに、普段来ないような観光客でごった返した記憶がある。が、去年は、みんなハドソン側に行ってしまったのか、とても静かな1日だった。

 そんな記憶を辿りながら、今年のイーストリヴァーで花火があがらないと聞き、カフェをクローズ。スタッフのみなさんも、思いがけないお休みをそれぞれ過ごした。私は、休みでもカフェの近くを通りかかったのだが、花火がどんどんあがっているではないですか......といっても、カフェのある道の4つ角で、誰かが、どんどん花火に火をつけては、走って逃げていく。それが、一秒後などに、空にどかーんとあがるのである。実はニューヨークでは、個人でやる花火は違法。花火はニューヨークには売っていないし、一体どうやって手に入れたのか、わからないのだが、そこかしこで、どんどんやっている。いちおう花火があがった後に警察はやってくるのだが、この日ばかりは警察もお手上げ、といった感じ。だって、いろんな所で花火があがり、ハドソン川側に行かなくても、よく見える。もちろんメイシーズの花火よりはおちますが。

〈Shea Stadium〉のDIYパーティ

 私はこの日は、〈Shea Stadium〉というDIY場所で1日BBQ+バンド大会。今回のトリは、Future Island,、The So So Glos。いまいちばん活きのいいふたつのバンド。〈Shea Stadium〉という野球場と同じ名前なのでよく間違われるが、ここは第二のウィリアムスバーグ化している、ブッシュウィックにある。最近クローズしたマーケットホテルに続くヒップな会場になりつつある。

 この日もかなり暑い、もちろんエアコンなどない会場。面白いが、日本のように夏はキンキンに冷えた場所、というのがニューヨークではあまりない。エアコンは究極にがんばってもそこまで冷えない。いや、キンキンに冷えた場所はあるにはあるが(地下鉄、バス、オフィスなど)、アパートにはまだエアコンがない......という人も多い。最近ではさすがに少なくなったが......。たぶんアメリカ人は、適度、という言葉を知らないのだ、とたまに思う。冷やしすぎるか暑すぎなのだから。

 さて、〈Shea Stadium〉に戻り、この日は、ベランダではBBQ、なかではライヴがおこなわれている。ビールを飲んでも、滝のように汗をかくので、いっこうに酔っぱらわない。ハンバーガーや、ホットドッグを食べつついろんなバンドを鑑賞。The So So Glosは、かなりヤバい、知り合いは、ステージに上がり、勝手にマイクをつかんで叫んでいたり......。ブルックリンは新しいバンドがたくさん出て来ているが、とくに、ブッシュウィックは、こんな風に新世代のバンドが見れるのでおすすめである。

 そしていわばCMJのブルックリン・ヴァージョン――ブッシュウィックも範囲にはいっているノース・サイド・フェスティヴァルが、6月24日から6月27日の4日間開催された。毎年秋におこなわれてる、ニューヨークでのインディ音楽の祭典だ。CMJはほとんどがマンハッタンだが、ノース・サイド・フェスティヴァルはその名通り、ブルックリンのノース・サイドで開かれる。2年前からはじまり、300以上のバンドがこの4日間で演奏した。

 会場と出演者は以下の通り......。
 会場:ブルックリンボール、ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグ、ニッテイング・ファクトリー、ワルシャワ等、インディ系では、ブルアー・ファールズ、グラスランズ、ユニオンプール、マッチレス、カメオ・ギャラリー、チャールストン、ココ66、クラブ・ヨーロッパ、パブリック・アセンブリー、シェア・スタディアムBK......等々。
 出演バンド:ライアーズ、レ・サヴィ・ファヴ、ファックド・アップ、ハイプレィシーズ、チタス・アンドロニカス、ウェイヴス、アメージング・ベイビー、オウ・レヴォア・シモーヌ、Aa、リアル・エステイト、ソ・ソ・グロス、PCワークショップ、メモリー・ティプス、タオ・アンド・ミラ・ウイズ・ザ・モスト・オブ・オール、ウィア・カントリー・マイス、ウッズ......等々。

ノース・サイド・フェスティヴァルの案内

 このフェスティヴァルの目的は、商業的になりすぎているCMJに対抗しているのか、今回のショーでは、かなりのインディー・バンド(友だちの友だちから)から、そこそこ名前の知られているバンドまで、幅の広いラインナップ。
主催は、フリー・マガジンを毎週発行している『Lマガジン』、ついでに『Lマガジン』は同じ期間にウィリアムスバーグ・ウォークスというイヴェントも開催している。
 さらにこの期間には、クリエイターズ・プロジェクトというイヴェントも開催され、音楽系ではM.I.A. マーク・ロンソン、インターポール、ギャング・ギャング・ダンス、ディ・アントウールド、アート系ではスパイク・ジョーンズ、ニック・ジナー等々が主演した。

 他にも世界中のさまざまなアーティストに会えるコレ→(https://www.thecreatorsproject.
com/creators
)も面白い。ちなみに日本人でクリエイターとして、このサイトに載っている人はまだいないが、中国や韓国のクリエイターはすでに何人か載っている。

 

[[SplitPage]]

 すでに1ヶ月以上も前になってしまうが、トーク・ノーマルというブルックリンのバンドの日本ツアーに同行したので、ダイアリー的に書いてみる。

Talk Normal Japan Tour 2010
6/9(wed) SHIBUYA O-NEST w/ Oorutaichi, 空間現代
6/11(fri) SHIMOKITAZAWA SHELTER(Dum-Dum ALL NGHT EVENT) with Loves. DJ codomo
6/13(sun) KYOTO METRO w/ iLL, Outatbero
6/14(mon) OSAKA FANDANGO w/ iLL, Pika from AFRIRAMPO
6/15(tue) SHINDAITA FEVER w/ iLL, Tabito Nanao
素晴らしいライヴを披露してくれた、トーク・ノーマルのサラ(G)とアンドリア(D)。

■6月8日(火)
 成田到着。そのままホテルへ直行し、荷物を降ろした後、〈スーパーコア〉カフェに行く。うちのカフェ、〈スーパーコア〉はニューヨークが発信だが、昨年12月に広尾に東京支店をオープンしたのだ。スタッフに挨拶をし、最初の日本での食事。ギターのサラと今回サポート・メンバーでベースのクリスティーナは、何でもOKなので問題はないが、ドラマーのアンドリアは、ベジタリアンなので食べる物に困るが、魚は大丈夫という事で、お寿司を食べにいく。時差ぼけもあり、早めにホテルに戻る。

■6月9日(水)@ SHIBUYA O-NEST w/ Oorutaichi, 空間現代
 O-nestに到着。日本最初のショーなので、セッティングに30分以上かかり、サウンドチェックを終える。共演は、空間現代、おおるたいち。どちらのバンドにも興味津々なメンバー。本番は、少し緊張美味だったが、滞りなく最初のショーを終える。終わった後打ち上げに......と色々場所を探すが、アンドリアの、ベジタリアンぶりを考えて、ホテル飲みに落ち着く。最初のショーお疲れさま!

6/9(wed) @ SHIBUYA O-NEST
 Transmission Lost
 Xo
 In a Strangeland
 Mosquito
 Lemonade
 33
 River's Edge
 In every dream home a Heartache

■6月10日(木) off
 〈スーパーコア〉カフェでミーティング。カフェのフードを気に入ったらしく,アンドリアも全部きれいに平らげる。カフェでは、E*rockというポートランドのアーティスト兼ミュージシャンの作品を展示中。とてもカフェにもなじみ、すばらしい作品だと思うう。その後、渋谷のディスクユニオンに出かけ、ele-kingの野田努さんと会う。4Fのロックフロアでは自分たちのレコードが面だしされているのを見て、大はしゃぎのメンバー。その後は、来日アーティスト(とくにヴィーガン)、がよく行くとい〈うなぎ食堂〉で友だちと落ちあってディナー。

■6月11日(金)SHIMOKITAZAWA SHELTER(Dum-Dum ALL NGHT EVENT)with Loves. DJ codomo
 アンドリアが行きたいというビーガン・レストラン〈momonoki house〉に行く。日本ではあまり何も食べられないアンドリアが、とてもおいしそうに食べてるのを見て一安心。レストランの雰囲気もとても良い。橋元優歩さんのインタヴューをそこで敢行。かなり突っ込んだ質問内容だったが、ひとつずつ理解しようとするメンバーたち。
 その後、原宿竹下通りなどをショッピング。サラは,かわいいジャンプ・スーツやパンツを試着し、アンドリアは、ファニーパックや小物類などを,楽しそうにショッピング。
 今日はレイト・ショー、〈シェルター〉に10時頃到着。共演のLoves.の後本番。今日は30分の短いセット。お客さんもそこそこで、グッズを買ったお客さんがサインを求めるという場面もあり。

6/11(fri) SHIMOKITAZAWA SHELTER
 River's Edge
 Xo
 Transmission Lost
 In a Strangeland
 Lemonade
 33

■6月12日(土)移動日
 明日の京都に備え移動。初めての新幹線。サラは、富士山がみえるかみえるかと聞くが、あっという間に通過してしまう。京都駅につき、早速観光、清水寺へ。週末、修学旅行生などが重なり、たくさんの人。バスで清水寺へ行くが、かなりの日差しに途中でダウン。坂の途中の喫茶店に入り、かき氷や冷やしうどんを食べる。そこのオーナーのおじさんがかなり面白い人で、かき氷の食べ方のレクチャーをはじめる。気を取り直し、清水寺へ上り、お参りし、胎内巡りをし記念撮影。
 帰りも休み休み下りていき、京都駅で休憩。空港のようなキレイな駅にみんなびっくりで一番上まで登る。京都から大阪に移動。今日は私の家に宿泊。

■6月13日(日)KYOTO METRO w/ iLL, Outatbero
 サウンドチェックを終え、ご飯を食べに、メトロの姉妹店の〈unshine cafe〉Sに行く。来日アーティストもよく来るとかで、ヴェジタリアン料理を色々作ってくれ、みんな満足。今回はなかった名古屋から友達も来てくれたり、京都はとても良い雰囲気。私もたまにショーをオーガナイズするが、京都は全般的に人の入りも良いし、なんだが落ち着いた良い雰囲気。

6/13(sun) KYOTO METRO
 Hot Song
 Xo
 Transmission Lost
 In a Strangeland
 Lemonade
 Uniforms
 33
 River's Edge
 In every dream home a Heartache

■6月14日(月) OSAKA FANDANGO w/ iLL, Pika from AFRIRAMPO
 ニューヨークでも共演したことのある、あふりらんぽのピカが対バンということで、みんな会えるのがうれしそう。大阪なので、やっぱりお好み焼き、とヴェジのアンドリアには、申しわけないが、自分のご飯持参してもらって連れて行く。お店のおじさんは「こんなケースは初めて」、と顔をしかめていたが、他のふたりがおいしい、といって食べるのを見て、最後には笑顔。
 大阪は、人の入りは悪かったが、来ていたお客さんは大阪らしい個性を持っていて、盛り上がる。あふりらんぽのメンバーのオニの代わりにオニのお母さんが来てくれた。大阪のお母さんという感じで、ノリがよく、しきりに後で焼き肉に行こう、と誘われる。

6/14(mon) OSAKA FANDANGO
 Hot Song
 Xo
 Transmission Lost
 Lemonade
 33
 River's Edge
 In every dream home a Heartache
 In a Strangeland

■6月15日(火)SHINDAITA FEVER w/ iLL, Tabito Nanao
 朝の7時に大阪を出発、8人乗りの大きなバンで東京に向かう。メンバーはサーヴィス・エリアのトイレがきれいすぎて感動し写真を撮ったり、UFOキャッチャーをしたり、途中で見えた富士山に興奮したり、つかの間の日本を楽しむ。
 〈Fever〉に到着し、最後のサウンドチェック。その後は隣のアートギャラリー兼レストランの〈OPO〉Pでご飯。ココは私の知り合いのユメちゃんのお店。ヴェジなわがままを色々聞いてくれ、説明をつけてくれ、いつも本当にありがとう。
 この日はDOMMUNEのスタジオを抜けて、初めての生放送ということで、宇川さんも準備万端。最初の七尾旅人くんは、〈HEARTFAST〉がきっかけで、ニューヨークに来たときに一緒に川辺に行ったり、遊んだりしたので面識はあったが、ショーを見るのははじめて。お客さんとのコミュニケーション含め、手慣れたショーが素敵。
 iLLもホームタウンということで、メンバーの息もぴったりでリラックスした様子。ショー前に、Sarahがまた同じ服を着ようとしていたので、私の着物風の洋服を着せてみた。以外に似合って、本人も気に入ってうれしそうだった。ショーは、旅人君のメンバーとして参加していたサックスの方に飛び入りで参加してもらうなど、最後にふさわしいショーだった。
 皆さん、本当にありがとう。お疲れさまでした!

6/15(tue) SHINDAITA FEVER
 Hot Song
 Xo
 Transmission Lost
 Uniforms
 Lemonade
 33
 River's Edge
 In every dream home a Heartache
 In a Strangeland
 Outside
 ======
 Bold

 

Love Cry Want - ele-king

 先頃、解散したイエロー・スワンズのリリースなどで知られる〈ウィアード・フォレスト〉が(エメラルズからマーク・マクガイアーのソロ・カセットをアナログ化した直前に)意外な復刻盤を手掛けていた。1972年にワシントンDCのラファイエット・パークでヴェトナム戦争に反対する目的で録音され、どこのレーベルも興味を示さなかった実験的なフュージョンの2枚組みで、〈ニュー・ジャズ〉が1997年にようやくCDとしてカタチにしたものである。アナログ・リリースはつまり、これが初めてで、38年目にしてついに......ということになる(今年はこれでなければきっと、〈インポータント〉が7月中にリリースする予定のJ・D・イマニュエル『ウイザーズ』がアナログ・リイッシュー・オブ・ジ・イヤーになるに違いない)。

 どこが実験的かというと、まずは大胆なエレクトロニクスの導入で、中心メンバーのニコラスはギター・シンセサイザーやリング・モジュレイター、またドラムスのジョー・ギャリヴァンはモーグ・シンセサイザーの共同開発者であり、マハヴィシュヌ・オーケストラを思わせる"ピース(フォー・ダコタ&ジェイスン)"であれ、デート・コース・ロイヤル・ペンタゴン・ガーデンのパンク・ヴァージョンのような"ザ・グレイト・メディシン・ダンス"であれ、それまでのジャズ・ミュージックとはまったくテクスチャーというものが異なっている。さらにいえばこれがあくまでもフュージョンの範囲にとどまるもので、発想やサウンドはアヴァンギャルドでも演奏はどの曲もみな軽快で、奇妙なほど快楽原則に貫かれているところが彼らの存在を異端たらしめているといえる。あるいは15分に及ぶ"ラヴ・クライ"などはほとんどクラウトロックと変わらず、おかげでまったく現代性というものを喪失していない。このフリー・インプロヴァイゼイションはホントに素晴らしい。

 ......だからリリースされなかったんだろうという言い方は早計で、フリー・ジャズの変り種ばかりをリリースしていたフランスの〈フューチュラ〉は前の年にジャン・ゲラン『タセット』を世に出しているし、第一、このセッションでハモンド・オルガンを弾いているラリー・ヤングはこの年、マイルズ・デイヴィス『ビッチズ・ブリュー』にも並行して参加し、サイケデリック・ムーヴメントに触発されたジャズ・ミュージックの動きを総身に浴び続けていた存在である(同じ頃、イギリスではフォー・テットの元ネタであるジェフ・ギルスンがやはり大活躍し、彼もまた〈フューチュラ〉からデビューを果たしている)。そう、レイヴ・カルチャーに追い上げられた時期のロック・ミュージックと同様、ジャズがもっとも可能性を持っていた時期だったことがこのアルバムを聴くことでよくわかるのである。

 また、イエロー・スワンズやエメラルズによって牽引されてきたノイズ・ドローンがいまどこに向かっているのかということもこのアルバムは示唆しているといえる。ラスティ・サントスのザ・プレゼントやエリアル・ピンクのシッツ・アンド・ギグルズなどがサイケデリック・ドローンをフォーマット化し、新たなスタイルとして浮上させようという時に、おそらくはアンダーグラウンドにとどまっていようという意志を持った者たちがこの伸び伸びとした演奏から何かを得ようとしていると考えなければ〈ウイアード・フォレスト〉からの復刻はあまりにも腑に落ちないし、復刻だと知らなければ「スッゴい新人が出て来たなー」と思ったかもしれないからである。

interview with Anchorsong - ele-king


Anchorsong /
The Lost & Found EP(DVD付)

Lastrum

Amazon

 それは愚直なまでに直球な音楽のように思える――アンカーソングのことを教えてもらって、初めて聴いたときそのストレートさにたじろいだ。彼の音楽はテクノ、ハウス、ヒップホップのブレンドだが、ジャジーな曲をやろうがアシッディな曲をやろうが、アンカーソングの音楽はまったく直線的なのだ。
 それは複雑になりすぎたダンス・ミュージックが失ったものかもしれない。とにかく......、ジェイムス・ブレイクやアクトレスのような乱雑さが騒がれているこのご時世のエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンにおいて、あるいはまたチルウェイヴの徒労感が人気を博しているような、そして他方では世界の終わりのような"憂鬱"が10代のあいだで大きな共感を得ているこの国において、彼の真っ直ぐさは例外中の例外と言える。
 アンカーソングは売れている。業界的にはほとんど無名に近いであろう彼の作品は、出せば1万枚以上を売っている。インストゥルメンタルのエレクトロニック・ミュージックとしては決して低い数字ではない。彼の作品は多くの耳を動かしているが、彼が集めているのは"若い"耳だ。
 ロンドンで暮らすアンカーソングは、この2年半、ご当地のクラブ・カルチャーに身を浸しながら、そのトレンドに左右されずに音楽を作っている。それも......愚直なまでに直球な音楽を、だ。それは情熱のほとばしりのようなものの具現化なのだろう。多くのリスナーを惹きつけている彼のライヴ・パフォーマンスを観ると、それがよくわかる。「オレのほうを見ろ」、と彼は言っているのだ。
 
 アンカーソングこと吉田雅昭が音楽活動をはじめたのはいまから6年前の2004年のことだった。MPCを使いながら、その場で打ち込みをしていくそのライヴ・パフォーマンスによって頭角を現してきた彼は、2007年5月にDJ三木祐司による〈Tailgate Recordings〉からデビュー・シングル「The Storytelling EP」を発表している。そしてそのわずか5ヶ月後の2007年の10月、アンカーソングは活動の拠点をロンドンに移すのだ。
 ロンドンでも彼は地道に活動を続けながらシーンの共感者(The Go! Teamからザ・シネマティック・オーケストラ、もしもしレコードのジェイムス・ユールまで)を増やしつつある。2009年にはセカンド・シングル「The Bodylanguage EP」を発表、続いて今年の6月に3枚目のシングル「The Lost & Found EP」を発表している。新しいシングルも、先の2枚と同様にロングセラーになりそうな勢いだ。
 ロンドンのキングスクロス駅の近くで暮らしている彼にskypeを使って話を訊いた。日本時間の午前9時、ロンドンは深夜の1時、ドイツとウルグアイの3位決定戦が終わってから3時間半後の取材だった。

日本にいたときにライヴの映像をYouTubeにアップしたんです。それを見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。

ロンドンでは小さなバーからライヴをはじめたそうですね。

吉田:こっちでは小さなバーでもプロモーターがいるんですよ。だから、まずはプロモーターに話を通さなければならない。彼らに自分の作品を持っていって自分の場を確保するという手もあるんですけど、僕はそういうやり方ではなかったんです。

どうやってロンドンとのコネクションを作ったんですか?

吉田:日本にいたときに自分のライヴ映像をYouTubeにアップしていたんです。それをたまたま見つけたイギリスのジャーナリストが自分のブログに載っけてくれて。そうしたら世界中からメールが来たんですね。で、その人がロンドンに住んでいたことは知っていたので、こっち来てまずその人に連絡したんです。「こっちでライヴをやる機会はないか」「誰か紹介してもらえませか」みたいなメールを送ったんです。その人は、『ガーディアン』のジャーナリストだったんです。音楽のブログは趣味でやっていたことだったんですね。で、その人は「自分は直接、音楽業界を知らないけど、もういちどブログに載せて告知をしてみよう」と言ってくれて、「ライヴ場所を探している」ということをブログに載っけてくれたんです。そうしたらそれを通じてふたつライヴのオファーが来たんです。

それはいい話ですね。

吉田:とてもラッキーでした。

いまはそういうやり方で世界と繋がるっていうのもあるんですよね。

吉田:そうなんです。ライヴの映像をYouTubeにアップしたおかげで、ギリシャの人からもライヴのオファーがありましたから。それがロンドンに来る引き金のひとつでもあったんですよ。

で、ギリシャには行ったんですか?

吉田:はい。アテネで小さなイヴェントをやっている人だったんですけど。

アテネ、すごいですね。

吉田:YouTubeさまさまでしたね(笑)。

2007年?

吉田:2007年の10月ですね。

とはいえ、ロンドンで日本人が音楽活動するのはそう簡単なことじゃないじゃないですか。

吉田:かもしれないですね。

そういうなかで、ロンドンのライヴハウスで活動をしはじめて、いろんな共感者を増やしていくわけなんでしょ?

吉田:いやー、でもライヴをやる度にお客さんが増えていったわけではないですよ。ただ、最初にやったふたつのライヴを通して、そのイヴェントに来ていたプロモーターの人にいろいろ紹介してもらったり。それでその人の知り合いの知り合いにあってすそ野が広がっていったというか。

なんでロンドンに住もうと思ったの?

吉田:それまで東京で3年くらいやっていたんですね。東京でもそれなりに手応えはあったんです。だけど、ダンス・ミュージックの規模で言えばやっぱヨーロッパのほうがぜんぜん大きいし、違う国でやっても受ける自信はあったんです。そういった、さらなる飛躍を求めてロンドンに渡ったというのがまずあります。ただ、それ以上の理由としては......まあ、僕自身が音楽ファンなので、ポップスの歴史そのものを作ってきたイギリスという国に対する興味がありましたね。もともとロックが好きだったんです。ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか。そういう音楽を聴きながら育ってきたので、やっぱその国に対する強い好奇心はありましたね。

ビートルズとかレッド・ツェッペリンとかブラック・サバスとか......って、何年生まれですか(笑)?

吉田:そうですね(笑)。ただそれが受け継がれて、その遺伝子を持ったミュージシャンがたくさんいるわけですから。

まあ、そうですね。

吉田:クラブ・ミュージックに関しては最先端だと思うし、ひとりの音楽好きとして刺激を求めてきたというのはありました。

DJクラッシュみたいに逆輸入というか、海外で評価されて日本を見返すっていうカタチがあるじゃないですか。

吉田:明確に意識していなかったけど、あるかもしれないですね。ただ、僕のやっている音楽の日本での規模を考えると、3年活動してきてけっこう厳しいなというのもあったんです。

そうだね。J-POPやりながらとか、あるいは別の仕事で働きながらとかでもない限り、インストのエレクトロニック・ミュージックだけで食っていくって、現状の日本では厳しいからね。

吉田:僕のやっているような音楽(エレクトロニック・ミュージック)を聴いている人の数がこっちは圧倒的に多いんです。もちろん日本で活動してきたので、日本のリスナーのことはいつも意識してますけど、イギリスではこういう音楽を聴いている人の数が多いというのは魅力でした。

[[SplitPage]]

アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

先日、ele-kingでボノボの前座を務めたときの話を書いてくれたじゃないですか。3000人規模のあの会場の大きさやオーディエンスの写真を見ると、びっくりしちゃうからね。

吉田:とくにボノボみたいなアーティストは日本ではまだまだですよね。ああいう、チルアウト系と呼ばれるアーティストがあの規模でライヴをやってもお客さんがついてくるところがロンドンの音楽シーンの懐の深いところかなと思いますね。

サマー・オブ・ラヴを通過しているって感じがするよね。やっぱああいう音楽も業界全体で盛り上げていこうという気概は感じるものなの?

吉田:そうですね。だけど、やっぱそこはアーティストによって差は出ますけどね。実は昨日、デイダラスの前座をやったんですね。

おー。いいじゃないですか。

吉田:同じ音楽ではないですけど、アンダーグラウンドでエレクトロニック・ミュージック系という点ではボノボと同じじゃないですか。

しかもフライング・ロータスのレーベルだしね。

吉田:ですよね。しかもキャリアも長い。だから、集客を期待していたんですけど、ぜんぜんそうじゃなかったんです。

何で?

吉田:ロサンジェルスということなのか......、こっちで暮らしてて感じるのは、ひとりでラップトップでやっていることへの厳しさみたいなことなのかなと。バンドでやっている人とラップトップでやっている人とでは、明らかに見方が違うように思うんです。とくにお客さんの見る目が違いますね。

あー、それってイギリスっぽいのかも。ラップトップではお客さんのほうがライヴだと認めてくれないのかね。

吉田:そうかもしれないです。

アンカーソングはどのくらいのペースでライヴをやっているの?

吉田:月に2~3本、多いと4本ぐらいですか。

ライヴはじゃあ、けっこうやっているんだね。作品に関しては、イギリスのレーベルと契約しているわけじゃないんだよね?

吉田:そうなんですよ。そこがいまの課題なんです。自分の力不足っていうのもあるんですけど、だけどどのレーベルでも良いってわけじゃないし、出しっぱなしでノー・プロモーションのレーベルも見てきているので。

慎重にならざる得ない?

吉田:ですね。ないわけないんです。メールを送ってくれたレーベルもあったんです。でも、やっぱそこは考えてしまいますね。

アンカーソングはこれまでアルバムを出してないですよね。3枚ともepでしょ。これはどんな理由で?

吉田:ヴォーカリストを起用せずに、インストだけでアルバムを作りたいという目標があるんです。たとえばアルバム1枚、12曲、50分だとしたら、本当に最後まで飽きさせることなく聴いてもらえるアルバムを作ることはとても難しいと思うのです。僕自身、インストだけのアルバムで好きなアルバムとなると数えるほどしかない。考え過ぎかもしれないけど、作るんだったらそういうものにしたいんです。アルバムはやっぱ、1枚通してナンボだと思っているので。最初から最後まで、ぜんぶ意味がある作品にしたいんですね。いま僕の手元にある楽曲では、まだそれができるレヴェルに達してないなと思っているんです。

シングルでいろいろ試したいという感じなのかな?

吉田:自分の音楽性がまだガチっと固まっていないと思うんですよ。

「ザ・ボディーランゲージEP」がジャジーで、メロウなフィーリングのシングルだとしたら、最近出した「ザ・ロスト&ファウンドEP」はよりダンサブルになっていると思ったんですけど。この変化みたいなのは意図的なものなの?

吉田:いや、違いますね。たまたま入れたかった曲があって、それを軸に構成したらそうなっただけなんです。

ロンドンのライヴ活動の経験がフィードバックされたってわけではないんだ? あるいはロンドンのクラブ・カルチャーに触発されるとか。

吉田:こっちに来てからクラブに遊びに行く回数もかなり多いんですけど、正直、その影響を真正面から受けている感じでもないんです。ロンドンに来た最初の頃は、たしかにそういう気持ちもあったんですよ。自分の音楽性がこういうものだという確固たるモノがなかったですし、こっちに来て最先端のもの、モダンなものを取り入れたいという思いがあったんです。それでクラブに遊びに行くんですけど、2年半暮らしてみてわかったのは、ダンス・ミュージックのシーンのサイクルの早さですよね。いまはダブステップが流行の頂点にいるような感じになってますけど、先を見ている人たちからするとすでに廃れはじめているというようなことも言われているんです。

[[SplitPage]]

僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

ロンドンは昔からそれがありますよね。だけど、ジェイムス・ブレイクみたいなのを聴いているとまた新しい波が来ているのかなというのも感じるんですけど。

吉田:はい、そうですね。ただ、これはシニカルな言い方かもしれないですけど、ダブステップはじきに終わると思うんです。ブリアルみたいな本当に突出した人たちは残っていくと思うんですけど......。変な話、いまレコード契約を狙っている人たちはみんなダブステップを作っていますよ。

それはそうだよね。ムーヴメントってそういうものだから。90年代のテクノのときだってそうだったし、シニカルというよりも「そういうもの」ってことだと思うし、それを土台にまた違う展開があるわけだしね。

吉田:そうですね。僕がこっちに来てからの2年半だけでも、ダブステップが急成長して、そしていま下りはじめているのがよくわかるんです。最先端を追いかけていることの空しさも感じるんです。そのことは、僕がこっちに来てわかったいちばん大きなことかもしれないなと思うんです。

なるほど。

吉田:それで僕は、モダンとレトロの狭間をいくような音楽を作りたいと思うようになったんですよね。周囲からジャンル名を与えられるような音楽もいいんですけど、僕はそういうのとはまた違う音楽を目指したいなと思うようになったんです。風化されない音楽を目標にしたいんです。いまでもクラブに頻繁に遊びに行っていますけど、自分が本当に感じることができた「これだ」というものは、そういうことです。

それは頼もしい話だね。

吉田:ただ、そう思えるようになったのも最近のことで、作品にそれが活かされるのは次からでしょうね。

最近のアンカーソングの音楽を聴いて、ロンドンの流行に左右されている感じは受けなかったし、わかる人ににだけわかればよいという閉鎖性も感じなかったけどね。もっと幅広く聴かせたいという気持ちは伝わったけど。

吉田:はい、そこはそうですね。

目標としているアーティストはいるんですか?

吉田:尊敬しているミュージシャンはたくさんいますけど(笑)。

尊敬しているのはミュージシャンを3人挙げてください。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......。

ビョークというのはアンカーソングという名義を聞いたときにすぐわかった(笑)。

吉田:ビョークと、DJシャドウと......まあ、ビートルズですかね。

はははは。その組み合わせすごいね。ちなみに新作の「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルはDJシャドウの曲名から来ているの?

吉田:それは関係ないです。本当の意味は駅の落とし物の拾得所みたいな意味なんですけど、「無くしたモノが見つかる」というような意味と同時に、「ひとつの物語が終わって、また新しくはじまる」みたいなニュアンスもあるんです。

アートワークのリンゴの地球っていうのが面白いなと思ったんですけど。

吉田:それはデザイナーさんのアイデアです。いびつなカタチが良いっていうことで、時計とかも試したんですけどね。でも、結局、世界地図になったんですけど。削ったことでカタチが表れるというのも、「ザ・ロスト&ファウンドEP」というタイトルに重なっていいかなと思ったんです。

ところで、ライヴのあの派手なパフォーマンス、MPCを打ち込んで、鍵盤を弾きながらやっていくような生演奏にも近いスタイルは最初からだったんですか?

吉田:そうですね。ソロで初めてライヴをやったときから基本はあのスタイルでしたね。ただ、意図的にやったわけではないんです。僕はもともとバンドをやっていて、事情があってメンバーがいなくなったとき、「どうしようか?」と思ったんですけど、アコギ一本で歌うシンガーソングライターには興味がないし、ダンス・ミュージックをやりたいと思ったんです。そのとき、まずはライヴをやりたいと思ったんですね。で、自分にラップトップとターンテーブルは使わないという制限を課したんです。で、MPCは楽器っぽいなと思ったんですね。最初は部屋でヒップホップのトラックみたいなのを作っていたんです。そしたら、作っているプロセスそのものが面白いんじゃないかと気がついたんです。「これをそのままステージでやってみよう」って。

こんど(7月29日)DOMMUNEであのライヴをやってもらえるということで、とても楽しみにしています。

吉田:こちらこそ。

しかし、なんでロック好きがダンス・ミュージックをやろうと思うようになったんですか?

吉田:バンドが好きだったので、バンドを止めたときに音楽を止めようかと思いました。でも、結局、諦めきれなかったんです(笑)。

インストに目覚めたのは、やっぱDJシャドウが原因なの?

吉田:初めて聴いたインストものがシャドウっていうわけじゃないんですけど、シャドウの音楽がずば抜けてすごいと思えたんですよね。ライヴの良かったんですよ。インストの音楽を聴くようになって、ケミカル・ブラザースからエイフェックス・ツインまで、いろんなライヴを観に行ったんです。でも、どれも心の底から楽しめなかったんです。音楽はすごい好きなのにライヴが面白く思えないという、悲しみすら感じていたんです。でも、シャドウだけはライヴが良かったんです。『In Tune And On Time』というDVDを観ました?

いや、そこまで追ってないなぁ。

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』(2002年)の頃のツアー・ライヴを収めたDVDなんですけど、素晴らしいですよ。

シャドウでいちばん好きなのはどのアルバム?

吉田:『ザ・プライヴェート・プレス』が初めてリアルタイムで聴いたアルバムだったんです。いまは『エンドトロデューシング.....』が好きですけど。最初はサンプリング主体の音楽に憧れがあったんです。実際、「ザ・ボディーランゲージEP」の頃はまだそれを捨て切れていないんです。ただ、僕自身がレコード・コレクターではないので、その方法論では限界があるなとも思っていたんです。

アンカーソングの音楽は純粋なエンターテイメントなんですか?

吉田:エンターテイメントですね。もちろん個々の楽曲に意味はあるんですけど、それをリスナーに押しつけたくはないんですよね。伝えたいモノはないです。

※7月29日、AnchorsongはDOMMUNEにてライヴ演奏を披露します。 7時からトークショー。9時からLIVE:Anchorsong(FEAT. サイプレス上野)+ DJ: MIGHTY MARS & 三木祐司 (T-SKRABBLE DJ'S)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972