「Nothing」と一致するもの

Julian Lynch - ele-king

 インターネット時代を象徴するUSインディ......というよりもUSベッドルーム・ミュージックにおける至福の1枚。ニュージャージーを拠点に、ダックテイルなどリアル・エステイト関係の人たちと共演するジュリアン・リンチのセカンド・アルバムで、レーベルはニューヨークの〈OESB〉。なにゆえこれがインターネット時代を象徴するのかと言うと、何の情報もなしに聴いたときに、いったいこれはどこの国のどこの街の音楽なのかわからない、インド? 地中海? アフリカ? ジュリアン・リンチは大学院生で、民族音楽を専攻している。研究の対象は主にインド/パキスタンらしい。が、彼の音楽のアーカイヴは実に豊かなようで、さまざまな音楽にアクセスする。

 「僕たちは、音楽の歴史を振り返ることができる時代に生きているんだ」、リンチは『タイニー・ミックステープ』の記事でなかば皮肉混じりにこう話している。「われわれは、あらゆる時代の音楽をいかに混合するか、どれほど借用するのか、あるいはどれほど割り当てるのか、あるいはいかに略奪するのか、そんなことを考えている。つまり、君は音楽家にこう訪ねるわけだ。『この音はどこから来たんですか? ガムランから? ドビュッシーから? マイケル・ジャクソンまたはトリーウッドから? モンスーン? または、マハヴィシュヌ・オーケストラから? ラヴィ・シャンカールから? ラ・モンテ・ヤングから?』って具合にね」
 
 『メア』は、言うなればアニマル・コレクティヴのワールド・ミュージック・ヴァージョンである。大学で民族音楽と同時に堅苦しいポップの否定者として知られるテオドール・アドルノを学んでいる理屈屋は、ヒンドゥー語を習得しながら自分は"西欧のポップ"をやっていると自覚している。そしてそれは「反知性主義でもなければ、純粋な表現主義でもない」、が、しかし「音にメッセージを記述しているわけでもない」と説明する。むしろ「メッセージの記述されない音の声明を好む」、頭でっかちの青年はそう話している。社会を生きている......という感覚で音楽を解釈するのは批評であり、作り手は作っているときに必ずしもそれを意識しない。「こんなこと言うと不健康に思われるかもしれないけど......」、世界最大の音の博物館スミソニアン・フォークウェイズで働いた経験を持つリンチはそう主張する。「でも、真実だ」
 
 ご心配なく。『メア』は卒業論文のように退屈な所業ではない。フリー・フォークを通過した『カナクシス』であり、『マイ・ライフ・イズ・ブッシュ・オブ・ゴースツ』とも言える。要するにコラージュ・ポップだが、音の触りはフォーキーで、アンビエントなフィーリングを保っている。リズミカルだがアコースティックな響きが心地よく、不明瞭で曖昧な歌は言葉を伝えることよりも音のいち要素としての歌として機能している。ドラッギーではないし、感情に左右されているわけでもない。実験的だがポップで、しかしヴァンパイア・ウィークエンドが小学生の音楽に聴こえてしまうほど素晴らしい落ち着きがある。

Uffie - ele-king

 "アート・トラッシュ・エレクトロにおけるヴァネッサ・パラディ"による遅すぎたデビュー・アルバムで、せめて2年前に......、そう、ラ・ルーやリトル・ブーツより先に出すべきだった。結婚と離婚と出産がなければ、きっとそうなっていただろう。〈エド・バンガー〉だってそうしたかったろう。で、そうなっていたら多少、ポップの歴史は変わっていたかもしれない。
 アンナ・キャサリン・ハートリー、別名アフィ、彼女が最初の12インチを切っていた2006年から2007年あたりはフレンチ・エレクトロ全盛で、彼女こそシーンが望んでいたアイドルに他ならなかった。美形で、ロリータ声で、ドラッギーで、少しばかりビッチを気取っていて......下手なラップがまた魅力でもある。当時、僕はアフィを雑誌の表紙にしたいと本気で考えていた。
 
 フレンチ・エレクトロの"フレンチ"には内部からの眼差しというものがない。よく言えばインターナショナル、悪く言えばおのぼりさん文化である。1990年代後半のフレンチ・ハイプは、それを用意したロラン・ガルニエをはじめ、モーターベース、イエロー・プロダクションズ、エール、そしてダフト・パンクにいたるまで、ローカルなパリを土壌としている。ダブステップやグライムがロンドン・ローカルな音楽であるように、SFPS.L.A.C.K.が東京ローカルな音楽であるように。ルー・リードの歌うニューヨークがローカルなニューヨークであるように。
 エールがいくら裕福な出身でも、彼らには内部からの眼差しがあり、それが悲しみや、辛辣な冷笑主義と結びつきもする。ジネディーヌ・ジダンにだってそれがある。が、ダフト・パンクの国際的な成功のあとに元マネージャーが手掛けた〈エド・バンガー〉は違った。そうしたややこしい鈍くささを削ぎ落としている。よりファッショナブルで、魅惑的なまでに軽い。アメリカ生まれで、パリのインターナショナル・スクールを出たアフィこそ、そういう意味でレーベルが望んだスマートな女性だったのだ。中身はない......が、「中身を気にするばかりが音楽の楽しみ方ではないだろ?」と問われれば「そうだね」と僕は答える。そう、中身を気にするばかりが音楽の楽しみ方ではない。
 
 つまり『セックス・ドリームス・アンド・デニム・ジーンズ』は、いみじくもタイトルが物語っているように、まあ、そういう音楽だ。煌びやかで、外側だけがキラキラとしている。本人は自らを"コールド・アス・ビッチ(冷酷なあばずれ女)"ラップと定義しているけれど、実際のところはリリー・アレンやエイミー・ワインハウスのようなむさ苦しい連中の言葉を水で薄めたリリックがあり、クセのないダンサブルなエレクトロが展開されている。もうちょっとはみ出しても良かったのではないかと思うのだけれど、わりと品良くまとまったというか、オワゾやミルウェイズ、セバスチャン等々、そうそうたるメンツがトラックを提供しているものの、オワゾがソロで展開するようなねじくれ方はない。例えば"ポップ・ザ・グロック"は流行のオートチューン・ソングだが、ダブステップ系のいなたい感じとは真逆の、実にキュートなポップスとなっている。スージー&ザ・バンシーズの"香港庭園"をカヴァーしているのだけれど、その軽薄さたるや「トホホ」である......が、そう、だからこそこの音楽は魅力を放っている。要するに、まあ、ファッショナブルなのだ。
 
 僕は、どう考えても鈍くさい音楽を聴き続けている側の人間である。二木信や松村正人よりはファッショナブルかもしれないが、さすがにフレンチ・エレクトロを追っかけるほどではなかった。しかし、もし僕がファッション雑誌の編集長だったら、なんとしてでも彼女を表紙にしてカヴァー・ストーリーを組んだだろう。間違いない!

RYOTA TANAKA - ele-king

A Night In Nakagyou -Ku Early September Chart


1
王舟 - Thailand - 鳥獣虫魚

2
Paradise - Alchol River- My Best!

3
The Mirraz - Top Of The Fuck'n World - Mini Muff

4
Time & Space Machine - Set Phazer To Stun - Tirk

5
Crocodiles - Sleep Forever - Fat Possum

6
Alfred Beach Sandal - S.T. - 鳥獣虫魚

7
Hotel Mexico - His Jewelled Letter Box - Second Royal

8
Wavves - King Of The Beach - Fat Possum

9
Riddim Saunter - Sweet & Still - NIW!

10
Surkin - Easy Action - Institubes

ホテルニュートーキョー - ele-king

 ホテルニュートーキョーの音楽には、シューゲーザーや渋谷系やハードコア・パンクやヒップホップなどの音楽的・文化的バックグラウンドが混在している。が、もっとも彼らの音楽を特徴付けているのは、大都会の底を濡らすような、ゴージャスで、メロウで、ファンタジックなムードだ。そして、それがホテルニュートーキョーの最大の魅力でもある。

 7月末にホテルニュートーキョーのライヴを渋谷の〈O-nest〉に観に行ったのだが、前日に伝説のサルサ・シンガー、エクトル・ラボーの半生を描いた映画『エル・カンタンテ』を観ていたからだろうか、渋谷のけばけばしいネオンや町の喧騒にいつもより親しみを感じることができた。ホテルニュートーキョーの演奏もひと際色鮮やかに聴こえた。エクトル・ラボーは、60年代後半から70年代の大都会ニューヨークを駆け抜けたサルサ・シンガーだった。映画は、現代のカリスマ的なサルサ・シンガー、マーク・アンソニーがラボーを演じ、実生活でもマーク・アンソニーの奥方であるジェニファー・ロペスが奥さん役としてラボーの栄光と挫折を回想する形で物語が進行する。映画の出来はともかくとして、ニューヨークのネオンは幻想的に映し出され、それはとても美しく魅力的だった。映画のなかで、サルサは当時のアーバン・ミュージックとしてニューヨークの騒々しく猥雑な夜を華やかに、そして情熱的に彩っていた。

 ホテルニュートーキョーは、例えば、やけのはらの『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』やLUVRAW&BTBの『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』のように埃まみれの路上の淡い青春の煌めきを描いているわけではないが、彼らのアーバン・メロウ・ミュージックは紛れもなくこの国のもうひとつの都会のロマンチックなサウンドトラックとして機能しているのだろう。フロアのバーカウンターで話しかけた女性は渋谷で働くOLだった。彼女は仕事帰りにホテルニュートーキョーを目当てに来たのだという。「エロいけど、下品じゃないのが好きなんです」と彼女はホテルニュートーキョーの魅力を簡潔に語ってくれた。「ほんとそうですね」、僕は心から賛同した。ライヴのあと、「一杯飲みませんか」と誘ったが、やんわりと断られてしまった。彼女は何事もなかったかのように渋谷の人ごみのなかにスーッと消えていった。

 ホテルニュートーキョーは、2003年、マルチ・プレーヤーの今谷忠弘のソロ・プロジェクトとして始動する。2006年、須永辰緒と曽我部恵一のリミックスが収録された12インチ・シングル「東京ワルツ」でデビューし、同年1stアルバム『ガウディの憂鬱』を発表。その後、バンドとしてのライヴ活動をスタートする。つまり、『ガウディの憂鬱』から2009年の2ndアルバム『2009 spring/summer』、そして今回リリースされる『トーキョー アブストラクト スケーター ep』に至る流れは、今谷によるバンド・サウンドの洗練と発展の過程とも言える。ホテルニュートーキョーには、日本を代表するポスト・ロック・バンド、toeのドラマー柏倉隆史やkowloonやstimといったダンス・ミュージックに接近するバンドのキーボーディストの中村圭作が参加していて(共に木村カエラのサポート・ミュージシャンでもある)、彼らが今谷のイメージを膨らませ、音楽化する上で重要な役割を果たしている。

 "東京ワルツ"が少々時代遅れに感じられるアシッド・ジャズへの挑戦と聴けなくもないことを考えれば、その後のバンドを基軸としたサウンドのふくよかさと豊かさはやはり洗練と発展と言えるだろう。そこには、エレクトロニカ、ジャズ、ヒップホップを打ち込みと生演奏の見事な調和によって消化した、とくに『エヴリデイ』の頃のシネマティック・オーケストラと通じる音楽的志向を聴くことができるし、メロウでソウルフルな感性からは、90年代のオリジナル・ラヴや『MUGEN』や『LOVE ALBUM』の頃のサニーデイ・サービスを連想することもできる。

 僕が最初に虜になった曲は、多くの人がそうかもしれないが、『2009 spring/summer』に収録された"if you want it first time" と"let me turn you on"だった。ホテルニュートーキョーのことをよく知らない人は、まずYoutubeにもアップされているこの2曲を聴いてみるといいだろう。僕が思うに、ホテルニュートーキョーのエレガントでスタイリッシュな魅力は、ダイナミックなドラミングと甘美なエレピの響きと楽曲に豊かな奥行きを与えるホーン・セクションが調和した、この2曲に凝縮されている。

 今谷忠弘曰く、『トーキョー アブストラクト スケーター ep』には、「井上雄彦」「スケートカルチャー」「オルタナティブ」「ガス・ヴァン・サント」といった4つのキーワードがあり、本作は自身の音楽的ルーツである90年代に向き合った作品だという。それについて詳しくは、インターネット上で読める彼のインタヴューに譲りたいが、本作にはガス・ヴァン・サントの映画『パラノイド・パーク』のラスト・シーンで使われた、エリオット・スミスの"The white lady loves you more"のカヴァーが収録されている。34歳という若さで謎の死を遂げたシンガー・ソングライターの、いまにも壊れそうな繊細な原曲の雰囲気を保ったままゴージャスなアレンジを施すことに成功している。この曲のMVを観ると、たしかに今谷がガス・ヴァン・サントの淡い映像美からも大きな影響を受けていることがわかる。

 "Let me turn you on ?electric city ver.-"、"A man&rooster 90`s"、"ガウディの憂鬱 -live edit-"といった既発曲のセルフ・カヴァーやライヴ・ヴァージョン、ほんの一瞬マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『ラヴレス』が脳裏をかすめる"Dawn"、あるいはDJ シャドウやプレフューズ73へのオマージュであろう"トーキョー アブストラクト スケーター #1"、"~ #2"も面白い。いや、しかし、何をやってもエレガントにまとめ上げるホテルニュートーキョーは、意外にもいまの日本の音楽シーンでは珍しいタイプのバンドであると思う。一音鳴った瞬間にドリーミーな非日常の世界への扉を開けてくれる。だから今度こそは、ホテルニュートーキョーのライヴで......。

 最後に手前味噌になるが、僕が〈中野heavysick zero〉でオーガナイズしている〈Bed Making〉というパーティの次回(10/1 )のゲスト・ライヴにホテルニュートーキョーの出演が決まった。GROUPの元ドラマーで、ROVOの芳垣安洋らが率いるORQUESTA NUDGE! NUDGE!やstimで活躍するTAICHI、KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'SのバックDJを務める新進気鋭の女性DJ、mewも出演する。もちろん、レジデントのL?K?OとDJ YOGURTも控えている。彼らが甘く酔狂なパーティを演出するとなれば、それはそれは素晴らしい夜になるだろう。

CE$ (sheluvit - Mon-archy - S57-TP82) - ele-king

CURRENT FAVORITE 10


1
dREADEYE&SU19B - SPLIT - RSR
凄い。

2
Paris Jones ft April Kelly - Winter
PVが素敵。

3
RUSSIAN HARDCORE - RAP関連(MOSCOW DEATH BRIGADE,LEGION CLAN etc)
訳がわかりませんが凄い。thanks 2 ikmhnw.

4
ROLL DEEP - Say No More Mixtape - ---
コレが今のGRIME。

5
DNT - Great Escape - ---
何考えてんだコノ人、といつも思ってます。

6
BIG-K - DA MORBID BALLAZ the Mix Vol.1 - D.M.B PRODUCTION
暑中お見舞い(※ジャケ含む)

7
MASS-HOLE A.K.A BLACKASS - SOUNDDRUG - MNM
タイトル通り。

8
TYRANT, HVSTKINGS,RCSLUMRECORDINGS関連
toKAI DOPENESS.

9
韻踏合組合 - 前人未踏(&各Remix) - IFK RECORDS
やっぱりカッコイイ。

10
tofubeats ft オノマトペ大臣 - 水星 - Unreleased
心地良い。

Kihira Naoki - ele-king

2010年夏の終わり、チャート


1
Foot Sole Foreigner - Of Bones & Dreams - D1

2
Caribou - Bowls - City Slang

3
Crash Course In Science - Flying Turns - Flying Jupiter

4
Guillaume & Coutu Dumonts - Radio Novela feat Dynamike - Circus Company

5
Adlut Napper - Slowly - Poker Flat

6
Mark Henning - Sweet Atom - Clink

7
Soul Center - Switch It - Curle

8
Tim Xavier - Urban Survival - Clink

CHANGYUU (DOWNNORTHCAMP) - ele-king

普遍の反逆チューンズ


1
The Clash - The Guns Of Brixton - CBS

2
Kiddus I - Too Fat - Shepherd

3
DOWNNORTHCAMP - Lazy Days - Dogear Records

4
EKD & Pachucabras - Babylon City - Sun Shot

5
Cypress Hill - Dr. Greenthumb - Ruffhouse Records

6
Bad Brains - Leaving Babylon - ROIR

7
Don Drummond, Ernest Ranglin, Tommy McCook, etc - Jazz Jamaica From Workshop (Album) - Studio One

8
Jackie Mittoo - Macka Fat (Album) - Studio One

9
Soul Vendors - Drum Song - Studio One

10
Vivian "Yabby U" Jackson & The Prophets - Judgement On The Land - Vivian Jackson

Carlton & The Shoes - ele-king

 いまでもわりとマメに中古を買っている。レアグルーヴという趣味があるわけではないけれど、そのときの自分の興味の赴くままに探すこともあれば、女性と別れた度に無くしていったレコードを久しぶりに聴きたくなることもある。そういう生活を長いあいだ続けているわけだが、わりと一貫して金を注ぎ続けているのがレゲエの中古ではないかと思う。
 拭い去れない妄想のようなものがある。高校生のときに日本盤でボブ・マーリーを聴いていて、それなりに感動していたのだけれど、上京して買った〈トロージャン〉版の『ソウル・レベルズ』の音質に本当に驚いてしまった(PiLの『メタルボックス』を輸入盤で聴いたときのように)。その近所迷惑な低音の出方、ドラムの音、ギターの音色、声の聴こえ方......リー・ペリーの手腕によるそれら"音"の、自分がふだん耳にしている音楽と呼ばれるものとは違う何か、その得も知れぬ感覚に畏怖すら覚えたものだった。格好いい、迫力がある、そんな単純な言葉では割り切れない。明らかにわれわれとは違った感性によって生まれた"音"があった。そしてその"音"は始末の悪いことに妄想を大いに掻き立てるのだった。

 カールトン&ザ・シューズを知ったのは、当時出たばかりの〈トロージャン〉からのジ・アップセッターズの編集盤だった。そのなかに収録されているカールトン&ザ・シューズの"ベター・デイズ"のスウィート・ハーモニーは、なかば神秘的に聴こえるほど魅惑的に思えた。いっしょにレゲエを追っかけていた友人は早速〈スタジオ・ワン〉から出ている『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』を買って、カセットテープに録音してくれた。それはトラックとヴォーカルが左右に分かれた疑似ステレオ・ヴァージョンの盤で、スピーカーから聴こえる"音(演奏、ハーモニーそのすべて)"は、崇高的なまでに美しく感じられた......というか、いまでも『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』を聴くとそう思う。
 つまり、こうやって味をしめてしまうと中古でいろいろ探すようになるわけだが、まあ、それはまるで世界の秘密を探索しているかのような気分なのだ。とくに1968年あたりのロックステディから聴こえるスウィート・ハーモニーは、音楽と言うよりも魔法だ。人間のなかの最良の愛情が泉のように惜しみなく溢れ出しているような、そしてその感情が何か特別なものではなく、実に庶民的で、ポピュラーなものであったことを思うと、その音楽のなかにとんでもない夢を見ることができてしまう。
 とはいえ、ジャマイカの音楽の最大の難点は再発盤の盤質にある。たとえば、僕の家にはフィリス・ディオンのアルバムが2枚ある。1枚はジャマイカの再発盤でもう1枚はUKプレスの再発盤だ。UK盤は音質的には満足だが、アルバムのなかでもベストな1曲、"ラヴ・ザット・ア・ウーマン・シュッド・ゲイヴ・ア・マン"のイントロがどうしたことか数小節短い。ジャマイカ盤のほうはけっこうチリノイズが入るばかりか、盤の中心とレーベルの中心がずれているので、ターンテーブルを見ていると目が回る。この問題を解決するために、CD盤を買うわけである(そういう経緯によって、家にはレゲエのCDがたくさんある)。

 ファースト・アルバムの『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』の発表が1976年だったと言われているので、およそ5年ぶりの、カールトン&ザ・シューズにとってのセカンド・アルバム『ディス・ハート・オブ・マイン』はいまとなってはクラシックな1枚として知られている。が、しかしそれはこの10数年においてリスナーたちの探求の末に発掘されたクラシックであって、これが発表されたとされる1981年(82年?)の時点では500~1000枚しかプレスされなかったためにほとんど知られていなかったと言われている。"ギヴ・ミー・リトル・モア"のこ洒落た感じのダンサブルなアレンジや(それこそフィッシュマンズが取り入れている)コーラスの入り方など、1980年代初頭の音楽のモードからはずれているとは思えないけれど、この作品がより幅広く聴かれるという観点で言えば、DJカルチャーやセカンド・サマー・オブ・ラヴを経た1990年代のほうがより適してことは事実だろう。誰もがあのチリノイズの入った再発盤を買って、この魔法のような音楽の魅力に酔いしれたのである。

 『ディス・ハート・オブ・マイン』にしろ、『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』にしろ、もはや色あせることのないクラシックだ。今回の『ディス・ハート・オブ・マイン』は、紙ジャケ使用によるCDで、ジャケのオレンジもあのひなびた......というか粗雑なジャマイカの再発盤の写真をそのまま印刷している。本来ならこ洒落たポートレイトだが、奇妙なことにそのくすみ方が新しい物語を語っているようである。そのとき知られていなくても、何年か経ったときに信じられない熱を発するかもしれないという音楽のもうひとつの可能性についての物語である。

Klaxons - ele-king

 クラクソンズも、大きく見ればゼロ年代を覆ったサイケデリック・ムーヴメントのUKにおけるひとつの展開であったと、得心もし納得もする。かつて騒がれた"ニュー・レイヴ"というお祭りについて、なかったかのように振る舞うのには無理があるが、少なくともセカンド・フルとなる今作までの歳月が、このバンドをより冷静にとらえることを可能にした。複雑になりすぎてかえって何もないようにみえるこの時代を生きるための、新しい想像力を拓いたサイケ・アクトたちのいちにんとして、クラクソンズを捉え直すのも無駄ではあるまい。
 
 クラクソンズの音はじつにごちゃごちゃとしている。それは長年放置された産業廃棄物が怪物へと変身し、人類と産業社会に報復するといったSF的なシナリオを連想させる(実際、彼らはJ.G.バラードの熱心なファンとしても知られる)。社会の歪みが産み落としたウィアードな反乱分子。奇妙なファルセットと蛍光ファッションも、下水道やゴミ処理場で生成した危険な生命体のイメージに重なる。まさに「ヴォイド」そのもののなかの生命といった佇まいである。ドリーミーではないが、あれだけごたついた音は、シーンに顕著なシューゲイズ・ムードとそれほど遠くはない。
 
 その一方で、クラクソンズにはやはりクラクソンズとしか言いようのない曲がある。シングル・リリースされた"エコーズ"は、弱起からはじまるややしつこいシンコペーションがリズムの基調となっているが、これが彼らのひとつのパターンだ。ベースがグルーヴィーに牽引し、オクターヴで重ねられたヴォーカルとコーラスは、これまた彼らの特徴といえる下降音型をとって展開する。ギターも饒舌......というか、よく喋る。音数は多い。そしてBメロに入れば、誰しもが「ああクラクソンズだ」とつぶやかずにいられないだろう。
 それは突き詰めればアクの強いメロディと、人力のグルーヴ、そしてギター・ロック・バンドとしての本性だ。彼らのダンス・ビートには血と熱がたぎっている。こうした特性がシャープに表れているのは"ザ・セイム・プレイス"、"サーフィング・ザ・ヴォイド"、"フラッシュ・オーヴァー"、"サイファ・スピード"といった曲である。
 "サーフィング・ザ・ヴォイド"以下の3曲は、プロダクションにおいてこれまでとは少し異なるハードさが感じられる。このあたりはロス・ロビンソン起用の効果というところだろう。デビュー作と異なった音楽性を志向するあまり、オプションのパーツをつけ過ぎたミニ四駆のごとくクラッシュしてしまったということもない。今作も変わらずクラクソンズである。彼らをまた聴けて、普通にうれしい。
 
 すましたバンドではない。『スヌーザー』誌10月号に掲載されたインタヴューが素晴らしいのだが(いちリスナーとして、いち青年として、じつに勇気づけられる)、「どんなクレイジーで、変な音楽を作ってても、やっぱり上を目指さなきゃ(笑)。下を目指したり、一握りの人のために音楽を作ったりすることには、僕は意味を見出せない」「僕らはいま楽しんでるし、楽しむことをシリアスに受け止めてるんだ」というジェイムス・ライトンの発言からは、彼らの持つ前向きさは、シニシズムやアイロニーに殺されることはない。ビカビカに光るサイケデリアを兜にかかげ、敵はいなくとも出陣していく、クラクソンズにはまったく勇気づけられる。
 蛇足だが、国内盤にのみボーナス・トラックとして収録されている"ハロー23"が隠れキラー・チューンなので、国内盤を購入されることをお薦めする。

Chart by JETSET 2010.09.06 - ele-king

Shop Chart


1

BLAST HEAD

BLAST HEAD IN WATER DISCO »COMMENT GET MUSIC
アルバム「Nu Island」からのアナログ・カット第二弾!昨年リリースされた「Nu Island EP」が当然の如く大ヒットを記録したBlast Headの新作12"!今回はBlast Head初となるリミックス音源を収録!

2

DJ YOGURT & KOYAS

DJ YOGURT & KOYAS SOUND OF SLEEP & MEDITATION »COMMENT GET MUSIC
最も目が話せないユニットの一つ、DJ YOGURT & KOYASによる「SOUND OF SLEEP」の第四弾! Fuji Rock2010への出演をはじめ、シグナレスなど様々なアーティストへのリミックス提供、「Into the peak」をはじめ積極的なアナログをリリースするなど話題の尽きないDJ Yogurt & Koyasによる待望の新作!

3

MACHINEDRUM

MACHINEDRUM MANY FACES »COMMENT GET MUSIC
Merck諸作で一世を風靡したIDM系アイコンが、何とLuckyMeから復活!同レーベルのHud Moをはじめ、例の『Beat Dimention』参加メンバーなど後進世代たちによる華々しい活躍に触発されたかのようなこの力強い変貌ぶりは...先日のOnraに続く衝撃です!

4

NDF

NDF SINCE WE LAST MET »COMMENT GET MUSIC
Animal Collectiveがニュー・ディスコ化したようなトライバル・ミニマル・ポップ!!そしてB面には話題のRicardo Villalobos Remixを収録!!本年度後半のクロスオーヴァー・ヒット確実です。

5

BLACK MILK

BLACK MILK WELCOME »COMMENT GET MUSIC
楽しみ過ぎる新作"Album Of The Year"からの先行シングルが到着!デトロイト産のダークなドープ・ビートはもうお馴染み! "Warning"に加え、アルバム未収録の"How Dare You"とボーナス・ビートもカップリングしています。

6

PARIAH

PARIAH SAFEHOUSES EP »COMMENT GET MUSIC
ふんわりと甘美な進化形UKGサウンドの金字塔にして、死ぬほどお洒落な2枚組!!'10年もっともエレガントなWパックEP。ベルギーの老舗R&Sに見出されたロンドンの超新星による美麗カットアップUKG/ポスト・ダブステップ歴史的傑作です!!

7

HEY TODAY!

HEY TODAY! STRANGE »COMMENT GET MUSIC
ドイツ x ベルギー x ロシアのエレクトロ・ディスコ強力コネクションが集結!!Sound of StereoやSubsらを擁する当店お馴染みのベルジャン・レーベルより、Turboリリースで話題を集めたジャーマン・デュオが初登場リリース!!

8

DUCKTAILS

DUCKTAILS MIRROR IMAGE »COMMENT GET MUSIC
素晴らしすぎます。Real EstateのMattによるエクスペリメンタル・ビーチ・サウンド超決定版!!揺れ動く木漏れ日のような輝きをたたえた砂浜ドリーミー・サウンドで人気を集めるDucktails。その決定打と言える絶品新曲をカップリングした7インチが登場!!絶対オススメです。

9

CANDY CLAWS

CANDY CLAWS HIDDEN LANDS »COMMENT GET MUSIC
ドリーミーすぎます。絶対オススメのソフト・アンビエント・シンフォニック・ポップ・ユニット!!チルウェイヴ時代のオーケストラル・ポップを正しく奏でる超注目ユニット、Candy Claws。DeerhanterとShe & Himがトロトロにミックスされた超スウィート・サウンド。死にます!!

10

BING

BING DISCOTECA MAHAMID »COMMENT GET MUSIC
Sleeing Bugzが新シリーズ 「A Night for Strangers」を発表!Hikaru(Blast Head)、DJ NoriのMix CDで好調の「The Sound of Space」に続き、好作品を連発することほぼ確定の新シリーズの初陣はBingことカジワラトシオが担当!
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