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キャプテン・ビーフハートの名義で知られるドン・ヴァン・フリートが去る12月17日、69歳で亡くなった。故フランク・ザッの親友であり、そしてシカゴ・ブルースとジャズとロックをブレンドした60年代の彼の音楽は、グレートフル・デッドからホークウィンド、ロキシー・ミュージックからセックス・ピストルズ、ザ・フォール、あるいはゆらゆら帝国にいたるまで多大な影響を残している。とりわけ、1969年のキャプテン・ビーフハートとザ・マジック・バンドによる3枚目となるアルバム『トラウト・マスク・レプリカ(Trout Mask Replica)』はもっとも偉大な作品のひとつである。音楽には大いなる実験精神とともに怒りとユーモアが混在していた。メンバーはクラリネットにザ・マスカラ・スネイク、ベースにロケット・モートン、ズート・ホーン・ロロ、ドラマーにドラムボー......ふざけた名前だった。やがてバンドには翼の生えたウナギ(ウイングド・イール)も参加した。1980年代以降は、ヴァン・フリートは画家として活動していた。......合掌。
ロックといえばミクスチャー、ラウド・ロック。そんな時代があった。『月刊少年マガジン』連載の人気マンガ『ベック』などは、主人公の佇まいこそ現代風の草食系だが、結成するのがミクスチャー・バンドだという点に日本の30代~40代前半ロック・リスナーのリアリティが滲んでいる。
今年6月に初のフル・アルバムをリリースしたUKの4ピース、プルド・アパート・バイ・ホーシズ(以下PABH)は、そうしたミクスチャーの面影を偲ばせながら、アークティック・モンキーズやクラクソンズを通過したポップ・センスと、恥知らずで発狂寸前と形容されるギャグ・センスを閃かせるという希有な才能だ。店頭で耳にしたりすれば「おや?」と思う人も多いだろう。久々にメタリックでポップな音がインディ・シーンから出てきて、私はヘッドバンギングしながら上下にぴょんぴょんと飛び跳ねている。
PABHは2007年から地元リーズで活動を続けているが、これが初のフル・アルバムとなる。もっぱらライヴ・バンドとしての評判が高く、想像するだにハイエナジーで熱狂的なショウなのだろう。曲もよくできていて、スタジオ録音でも充分に刺激的だ。ジャンルに括りきれない多様性と現代的なフィーリングに満ちている。スラッシュ・メタルからデス・メタル、スクリーモやポスト・ハードコアまで射程に含めたヘヴィなサウンドをアイデンティティとしながら、プログレ、マスロック的なアプローチも見せている。フォワード・ロシアやザ・ミュージック、ハドウケンなど同郷のグルーヴィーでダンサブルなギター・ロック・バンドの雰囲気も持っている。なによりカラッと乾いた音を出していて、よい。ホラー・ムーヴィーを愛するというが、根が明るい。 ハイ・トーンのデス・ヴォイスで「パワー、カーリッジ、ウィズダム!」と繰り返されると思わず笑ってしまう。
冒頭の"バック・トゥ・ザ・ファック・ヤー"をはじめ、ギターとベースのユニゾンのリフが多いが、おどろおどろしい重低音が仲良く同じ旋律をなぞる様子も爆笑ものだ。4人がめいめいに「ヤー」とシャウトするだけのパートなど普通にバカバカしい。しかもジョークの感覚と真剣さが分かちがたく混じりあっている。それが全開のエネルギーで飛んでくるのだ。"アイヴ・ゴット・ゲスト・リスト・トゥ・ローリー・オハラズ・スーサイド"のPVを参照すれば、その全開のバカバカしさを目の当たりにできる。
演奏の熱量も半端なものではない。過剰さが正のエネルギーに結びついているところが素晴らしい。PABHはメタルヘッドではないし、キング・クリムゾンやライトニング・ボルトからジョアンナ・ニューサム、ニーナ・シモンといった多彩な影響を挙げている。
急転直下の展開も楽しい。ブラック・サバス"クレイジー・トレイン"のような牧歌的なイントロが二転三転して、高速ダンスビートに駆動される中盤からストーナー風のラストを迎える"ミート・バルーン"。せわしないブラストビートとタメのある2拍子のあいだを激しく往復する"ゲット・オフ・マイ・ゴースト・トレイン"。"ハイ・ファイヴ・スワン・ダイヴ・ノーズ・ダイヴ"など後半立ち上がり直してからのヴァイオレントなベースが水際立っている。"ムーンリット・タロンズ"も唐突にはじまるリフが延々と幾何学的な模様を描きながら高揚して、ホーリーファックやナイス・ナイスのようなヴァーチャルな世界を開く。どの曲もまったく遜色なく、何度でも通しで聴けるのだが、圧巻は終曲"デン・ホーン"。7分以上あって、そのほとんどが単一のリフの変奏に費やされる。これがじつにドライヴィンでクールだ。
バンド名に込められた意味も面白い。プルド・アパート・バイ・ホーシズとは知ってのとおり「馬裂きの刑」のこと。中世の拷問の名だが、その残酷な趣味はともかく、4頭の馬を4人のメンバーに見立てたものだ。合図とともに、4人がそれぞれの方向に勢いよく駆け出す。まさにこのバンドにぴったりの命名だ。
後続があるのか、単体の才能なのかわからないが、シングル、アルバムともにゼロ年代のUKの優良レーベル〈トランスグレッシヴ〉からリリースされているのを興味深く眺めた。「テムズ・ビート」で流行を築いた英国トラッドなイメージのレーベルが、PABHのような音を積極的に掲げるのならば、それはUKの次世代として大きく育つ可能性を秘めているだろう。
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V.A - The Users And The Gadgets - gadgets |
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conforce - Love Hate - meanwhile |
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HIROSHI MOROHASHI - No Form - Shield Records |
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Shakedown - At Night (Martin Buttrich Dub) - 200 |
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Silicon Soul - Candy Love - SOMA |
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Rhythm Plate - Lean(Atjazz remix) - Mantis Recordings |
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PALDRAME -Prebold - Communique USA |
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STATIC DRUM - Static Drum Part 2 - STATIC DRUM |
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Move D & Benjamin Brunn - Melons - Smallville |
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King Kooba - Fooling Myself(Derrick Carter Remix) - OM Records |
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Arthur's Landing - Is It All Over My Face - China Town |
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Smith & Mudd - The surveyor - Claremont |
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Wareika Hill Sound - Kumina Mento Rasta (Version) - HonestJones Records |
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Soft Cell - Memorabilia-Luke Solomon's Remixes - White |
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Project Tempo - Tom Tom Dub - Project Tempo |
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Mr.V - Mr.Bongo - Vega |
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Loose Joint - Is It All Over My Face - West End |
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Tullio De Piscopa - Stop Bajon - Zyx records |
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Seu Jorge And Almaz - Everybody Loves The Sunshine (Joey Altruda Remix) - Now Again |
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Kool&The Gang - Spilit Of The Boogie - De-lite Records |
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Fern Kinney - Baby Let Me Kiss You - Wonkmusic |
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Tullio De Piscopo - Stop Bajon - ZYX Records |
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Bob James - Sing Of The Time - Columbia |
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Jason Lev & Dr.J - Give It To Me - Truth Is Light |
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Atlantic Conveyor - African Disco Power - Sofrito Specials |
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Rosebud - Money - White |
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Denpun - The Message Is - Dplab |
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Holger Czukay - Let's Get Cool - Claremont 56 |
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Kolm K + Freestylemellowship - Dancing Skulls - Bastard Boots |
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Dr.Dunks A.K.A Eric D - Tight - Keep It Cheap |
ジェイムズ・フェラーロとの90210やテスト・アイシクル(ドミノ)のメンバーでもあるサム・マーリングことサム・E・デインジャーことサム・マーランことサム・メランがイクスプローラーズの名義で昨09年にリリースした『バーミューダ・トライアングル』はドローンに神秘性を持たようとしたサウンドとしてなかば成功し、あとの半分はどうでもいい仕上がりだった。フラッシュバック・リポジトリーや最近ではアウター・リミッツ・リコーディングスなど、どうやら同じ名義では二度とリリースを重ねないというポリシーを持っているらしき彼がその次に目立ったのはマトリックス・メタルズの名義でリリースした『フラミンゴ・ブリーズ』で、ここではドローンには必ずしもこだわらないさまざまな趣向のサウンドが凝らされ、ときに眩暈を誘うループや70年代のウエスト・コースト・サウンドが素材として奇妙な変形を被っていた。これもなかばは成功し、残りはどうでもよかった。悪くいえばアイディアの垂れ流しのような人である。それもけっこうなグッド・アイディアを。
5人の女性たちによるサイケデリック・ロック・バンドとしてスタートし、これまでにローブドアとの『ハンテッド・ギャザリング』やゴングを真面目にしたような『アイランド・ダイモンズ』など、凄絶なトリップ・ミュージックを量産してきたポカホーンテッドが早い時期にベサニー・コセンティーノとアマンダ・ブラウンのふたりだけとなり、トライバル・リズムを強調した『メイク・イット・リアル』を最後に解散すると、ウェイヴスのネイサン・ウイリアムズとラヴラヴだという前者は一転してサーフ・ロックのベスト・コーストに、そして、後者はLAヴァンパイアーズとしてポカホーンテッドのサウンドを大筋で引き継いでいく(ホーンテッド→ヴァンパイアだしね)。そして、後者にはリズム要員としてマトリックス・メタルズの名前が大きくクレジットされていた。これは気になる組み合わせである。ジャケット・デザインは完全に失敗だと思ったけれど、ある種の脈絡の上に乗ってしまった者としては手に取らないわけにはいかない。手に取ったものはそのままレジに運ばれていく。そして、チャッキーンと音がする(ベスト・コーストも悪くはない。最初はブロンディのように聴こえ、5回以上聴くと、それがゴーゴーズと見分けがつかなくなってくる。「ベスト・コーストはどうやって世界を支配するの?」と訊かれたベサニー・コセンティーノは「みんなにネコをあげる」と答えていた。う~ん、ゴーゴーズだ......。ネコの名前はちなみにランナウェイ)。
『メイク・イット・リアル』に対する皮肉なのか(?)『とても現実的ではない』と題されたデビュー・アルバムはのっけからヘヴィなリズムで、これまでとは少し違う顔を覗かせる。あるいは『メイク・イット・リアル』にゲストで参加していたサン・アロウの影響が強く感じられ、ひとりになったことでファンクに集中しようとするブラウンが確認できる。ポカホーンテッドについて、かつてブラウンは、シャーディとファンカデリックが出会った新しいトーキング・ヘッズだと語っていたことがあり、サン・フランシスコではもっとも早くP・ファンクをサンプリングしていたディジタル・アンダーグラウンドから"キッス・ユー・バック"の歌詞を引用して歌っているように聴こえる曲も散見できる(ハウ・ウッド・ユー・ノウ)。ファンクのリズムにのせて奏でられるメロディや断片的なSEはとても幻想的で、なるほどどこを取っても「現実的ではない」。これまで外に向かって強く押し出されていたサイケデリックは内側に向きを変え、イメージの豊かさはかつてのそれを軽く凌駕する。サン・アロウのセンスがもっとも強く出た"ベルリン・ベイビー"は重心を低く取ったリズムがそれこそ助走を思わせ、どこか空に舞い上がっていくようなエンディング=タイトル曲までファンタジーは途切れない。ふわふわふわふわと、それはどこまでも続いていく。
カリフォルニアはいまや、セカンド・ウエスト・コースト・リヴォルーションを迎えている。レイヴ・カルチャーのときはそれほど反応がよかったとは思えないカリフォルニアがいまはサイケデリック全盛である。どのジャンルを見てもそうだし、デッド・ケネディーズが復活する予兆はない。チルウェイヴのレーベルかと思っていた〈ライフズ・ブラッド〉からリリースされたプリグナント=妊娠ことダニエル・トゥルードーのデビュー・アルバムも大人しかったのは最初の2曲だけで、途中からトロピカルを気取ったオウテカをエレクトロなハーバートがリミックスしたような展開になり、どんどん手が付けられなくなっていく(つーか、最初だけ大人しくする意味がわからない。しかもAサイドだけアナログ盤の中心から針が外側に移動するリヴァース式になっているというのも単に入り口がわかりにくいだけ)。
サイケデリック・ミュージックにフォーマットはない。マニュエル・ゲッチングのように陶酔的なサウンドもあればノイ!のようにナンセンスで責め倒すものも需要はある。プリグナントのそれは怖ろしく後者を彷彿とさせはするものの、ゼロ年代に起きたことを玉手箱のように圧縮し、また、大胆なカット・アップでそれらをシームレスに貼り合わせることで、時代の変化は歴然と明らかになっている。あるいは、それをあまりにも躁状態のなかで実践しているために、ゆっくりと考える時間さえ与えてもらえない。そう、もしもピンク・フロイド初期の"シー・エミリー・プレイ"や"アーノルド・レイン"をマウス・オン・マースがカヴァーしたら......とかなんとか。
2010年に『ニュー・スレイヴ』を発表した、いまどき希有な、怒りのこもったハードコアなジャズとミニマルを爆発させるニューヨークのアンダーグラウンドの脅威、ジーズがやって来る! それも年末に......。
これでもう、年末は帰省している場合ではないことがわかった。以下、詳細です。
UNIT 2010 to 2011 (2010.12.31 FRI) | |
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LIVE PERFORMANCE |
Zs (from NY, The Social Registry) KIRIHITO (P-Vine Records) and more |
DJ | KENJI TAKIMI (LUGER E-GO / CRUE-L) TEN (STERNE / ERR) KENTARO IWAKI (DUB ARCHANOID TRIM / BLOWMAN) |
VJ | SAKOTA HARUKA |
SALOON(B3F) "who is rodriguez ? Lr - NYE Special Edition -" | |
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DJ | Steve Bicknell
(from London, LOST / Spacebase / Cosmic) Miyabi (PLUS) |
UNICE (B1F CAFE) "delight emotion floor" | |
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LIVE PERFORMANCE |
FilFla (WEATHER / HEADZ / PLOP) |
DJ | L?K?O タカラダミチノブ (HONCHO SOUND) Ametsub Hiyoshi (Global Chillage) |
presented byUNIT in association with root & branch | |
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OPEN/START | 21:00 |
CHARGE | ADV.4,000yen/W.FLYER 4,500yen/DOOR 5,000yen ※未成年者の入場不可・要顔写真付きID |
TICKET | チケットぴあ 0570-02-9999 [P]126-123 STORE |
HP | https://www.unit-tokyo.com/ |
Zs (ジーズ)
サックス奏者/作曲家のSam Hilmer(サム・ヒルマー)によって2000年に結成されたZsは、その10年に渡る活動の中で、デュオからセクステットまで自在に形態を変化させつつ、Ben Greenberg(ベン・グリーンバーグ)、Tony Lowe(トニー・ロウ)、Ian Antonio(イアン・アントニオ)らの核メンバーと共に、ラディカルな地下活動を続けてきた。
ノー・ウェイヴ、フリージャズ、ノイズ、ポスト・ミニマリズム、電子音楽、即興演奏等の広大な領域を大胆に横断しながら、肉体的な意味でも精神的な意味でも過激に限界へと挑戦するサウンドが非常に高く評価されている。既存の楽器マニピュレートの域を拡張するユニークな演奏テクニックと、ほとんどテレパシーのようなバンドの呼吸によるコミュニケーションに裏付けられたライヴの強烈さによって叩き出されるその音は、たとえばかつてBattlesの音楽を形容する際に用いられた、「数学と暴力の融合」の発展型にして緻密にリズムを微分するフレーズと限界まで緊張感を高める暴虐性の混交であり、また例えばそれは、ライヒの執拗な反復とフリージャズの覚醒をハードコアへと織り交ぜた激烈なアップデートである。
バンドはこれまで、The Social Registry、Torubleman UnlimitedやPlanaria、Three One Gといったレーベルから作品を発表してきており、まずは2007年にPlanariaから発表されたセカンド・アルバム『Arms』によって、ここ日本でも大きく注目された(アルバムは日本ではPlanchaによって日本盤仕様で発売されている)。ジャズとマスロックの融合を完成させたこのアルバムに続き、さらに今年2010年にはGang Gang DanceやGrowingを擁する最新型NYアヴァンの牙城、The Social Registryから、フル・アルバムとしては3枚目となる『New Slaves』(日本ではPower Shovel Audioより12/15に、リミックス盤を加えたスペシャル・パッケージにて発売)をリリース。より肉体的なハードコア性とほとんど怒りにも似た感情の爆発、そして新たに独創的なエレクトロニクスの導入を果たし、"エクスペリメンタル・ミュージックの新たなディケイドの幕開け""ニューヨークでもっとも強力なアヴァン・バンドのひとつ -New York Times-"と絶賛された。スリリングで複雑で精緻で、なおかつ理屈抜きに叩きのめされるサウンドをこの初来日で是非体験してください!
アートワークが物語っているとも言える。結局のところ彼女は何者なのだろうか、『オブザーヴァー』が「お茶を濁したアルバム」と評している通りの内容だ。そしてもしこの言葉にネガティヴな含みがあるとしたら、期待の裏返しでもある。よほどのへそ曲がりでもない限り、人は彼女のデビュー・アルバムを楽しみにしていた。より多くの人に愛される女性ラッパーの登場......なのだが、しかし、彼女はいったい何者なのかよくわからない。ラッパーたるものおのれの真実の魂を見せるものではないかという意見を逆なでるように、ニッキー・ミナージュはそこで笑っている。
ドレイクの『サンク・ミー・レター』収録の"アップ・オール・ナイト"やリアーナの"レイニング・メン"でフィーチャーされ、それからカニエ・ウェストの"モンスター"で「まずはあなたの脳みそを食べるわよ」とラップした、トリニダード・トバゴ出身ニューヨーク育ちの26才のバービー人形、その容姿ゆえにリル・キムと、そのユーモアのセンスゆえにミッシー・エリオットとたびたび比較されるラッパー。そのいっぽうで三田格も書いていたように、『インタヴュー』誌において「人生は必ずしもセックスアピールに支配されない」と語り、複数のエゴを演じるラッパー、虚構のなかの"ラッパーを演じるラッパー"でもある彼女の、これはメインストリームにおけるデビュー・アルバム『ピンク・フライデー』だ。
繰り返そう。好戦的な"マッシヴ・アタック"で脚光を浴び、アニー・レノックスのサンプリングによるバラード"ユア・ラヴ"が爆発的なヒットとなって、彼女は"2010年の顔"である。彼女には多彩な"声"という武器があるが、やはり何と言ってもそのユニークな点は"2010年の顔"となったいくつも"顔"だ。それは彼女いわく"原宿バービー人形"であり、コミックの主人公であり、あるいまたゲットーの苦労人のようでもある、彼女の正体不明な、まとめようのないエゴである(彼女はさまざまなアクセントも使い分けているらしい)。例えば、エミネムをフィーチャーした"ローマンズ・リヴェンジ"では口汚いハードコアなビッチを演じ、リアーナの声を借りた"フライ"では美しいバラードを見せている。ビートもライムもM.I.A.......としか言いようのない"ディド・イット・オネム"という曲もある。
ニッキーのアルバムを聴いていると、時代の変化を感じる。『ピンク・フライデー』は自分のソウルを見せる作品ではない。彼女のアイデアを見せるアルバムである。それは「本物の俺や私」という一次元的なリアリズムの時代の終焉をほのめかしている。まあ、リアリズムはいつだって強いので、終わることはないだろうけれど......だが、これはいわば80年代のニューウェイヴ的な感性の復権のひとつにも思える。ドレイクが出てくる"モーメント・フォー・ライフ"は夢見るシンセ・ポップで、カニエ・ウェストがしゃしゃり出てくる"ブレイジン"は、ニューウェイヴ風メロドラマにおいて彼女の早口ラップを披露する。"ディア・オールド・ニッキー"では、おそらくもうひとりの自分に語りかけているのだろう。しかしもうひとりのニッキーさえもどのニッキーなのかわからない。
「ガター・ハウス(GUTTER HOUSE)」と「ヘヴィー・ベース」! 彼らのイヴェント・フライヤーにおけるお決まりのキャッチフレーズはいつだってこのふたつ。「ハウスでもベースラインでもポスト・ダブステップでも、正直何でもいいんだよね。かかってる音楽を言ってるんじゃなくて、あくまで雰囲気的なものだよ」レーベル・オーナーのひとりであるボク・ボク(BOK BOK)は言う。
ボク・ボクとエルヴィス1990(L-Vis 1990)のふたりが主宰するロンドンでも指折りの良質イヴェント「ナイト・スラッグス」は、このしみったれた長い冬の季節を無事に越えることができたなら、来年の春にはいよいよ3周年を迎えることになる。2010年は待望のレーベル運営にも着手、「パーティ」というローカルな、属地的な営みからの脱却により大きく知名度をアップ、ワールドワイドな躍進へ向けての新たな一歩を踏み出す門出の1年となった。『ナイト・スラッグス・オールスターズ』は、そんな彼らのレーベル活動を総括する初めてのコンピレーションだ。
アイコニカやコード9、ベン・UFO、ジョイ・オービソンらをゲストにフィーチャーしたり、ときにはブルックリンからトラブル&ベースの面々を招へいしてみたり、過去2年間にわたる継続的、そして精力的なイヴェント・オーガナイズの実績があったとはいえ、彼らがレーベル活動を本格化させたのはまだ今年に入ってすぐのことだった。それを考えると、この年の瀬に、初めてのショウケースをアルバム・パッケージのかたちで(早くも)耳にすることができたというのは、設立当初より単なる興味関心以上の思いを彼らに寄せていたとはいえ、ちょっとした嬉しい誤算だった。それだけ向こうでは期待されたレーベルなのか、はたまた彼らの自信の顕れなのか、まぁ、1年生にして「オールスターズ」を名乗るくらいだから、それなりに自信はあるんだろうけど。
アルバムは、モスカによるレーベルからの記念すべき最初のシングル『スクエア・ワン』のタイトル曲にアップグレードを施した強力な未発表ヴァージョンで幕を開ける。まるでキックス・ライク・ア・ミュールか何か、レイヴ黎明期のブレイクビート・ハウスがファンキー経由でゾンビ化したようなハイブリッド・ベース・サウンドで、〈ナイト・スラッグス〉というレーベルの現在地をストレートにマニフェストする、コンピのトップに相応しいチョイスである。続くリル・シルヴァは、「パルスvs.フレックス」が〈ソウル・ジャズ〉のコンピ『リディム・ボックス』にもフックアップされ、注目を集めた弱冠20才の新進プロデューサー。この「ゴールズ・トゥ・ゲット」は、申しわけ程度のシンセ・リフが際立たせる、まるでデモみたいな隙間だらけのビートが何とも痛快で、ストレートな現場仕様の1曲だ。
今後レーベルの看板アーティストとして大きくジャンプ・アップしていきそうなガール・ユニットは、センセーションを巻き起こした"IRL"のボク・ボクによるリミックス・ヴァージョンと"WUT"のオリジナルの2曲をピックアップ。仰々しいオーケストラ・ヒットを散りばめた"IRL"は、原曲のシカゴ・マナーを大胆にそぎ落としたシンプルなストラクチャーで、インパクトは大きい。なんと言ってもボク・ボクのリワークは圧巻だ。
そのボク・ボクとニューヨークのキュービック・ジルコニアの共同作品となる"リクラッシュ"は、デトロイティッシュな疾走感が何とも心地よい、レーベルの振れ幅の広さを印象付ける佳曲で、ここからのオプティマム"ブロークン・エンブレース"への流れは秀逸という他ない。アイコニカの現在のプロダクション・パートナーであるオプティマムによるこの新曲と、それに続くモントリオールのクリエイター、ジャキス・グリーンによる"ホワット・ユー・ウォント"は、ちょうどシングル・カットされたばかりだ。
他にも、エルヴィス1990とT・ウィリアムスのタッグを筆頭に、エジプトリックス、ジャム・シティ、キングダムにヴェロアと、「オールスター」の名に相応しいストロングな楽曲が並ぶ。キングダムなんかも、フールズ・ゴールドの曲よりこっちのほうが断然タフで聴き応えがあるんじゃないかと。
全体の流れもよく練られていて、単なるシングル曲や未発表の寄せ集め、というより、きちんとアルバムとして成立している。シャッフル・モードではなく、ぜひアタマからそのままかけっぱなしで聴かれることを、お薦めします。
気がつけば2010年も残りわずか。あちらこちらで年間ベストの話が出てくる頃かと思いますが、どこかで「ルーキー・レーベル・オブ・ザ・イヤー」みたいなものがあるとしたら、少なくとも候補リストには載せてあげたい。いまもっとも勢いのあるレーベルで、引き続きブックマークしておきたいレーベルである。