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STIMMING - KLEINE NACHTMUSIK - BUZZIN FLY |
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TODD TERJE - RAGYSH - RUNNING BACK |
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COATI MUNDI - FOR THE CABANA CODE IN THE - RONG MUSIC |
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JUSTIN VANDERVOLGEN - SHEEBOOYAH - GOLF CHANNEL |
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POL_ON - KALIMBA SONG (ORIGINAL) / CHANNELS RECORDS |
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PETAR DUNDOV - QUINTA - MUSIC MAN RECORDS |
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BADONDAY - ALBONDIGAS (ORIGINAL) - FLASHBACK |
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CHELOOK - TONNY - HOLE AND HOLLAND |
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MAMAZU - ANTENA (YO.AN EDIT) - HOLE AND HOLLAND |
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MARTIN EYERER & ROBERT BABICZ - SALSA ROJA ( GLIMPSE REMIX) - BOXER RECORDINGS |
![]() Various Artist 14 Tracks from Planet Mu Planet Mu |
昔からのファンに言わせれば、かつてマイケル・パラディナスの〈プラネット・ミュー〉は、エイフェックス・ツインの〈リフレックス〉の後を追って出てきたレーベルだった。が、ゼロ年代のなかばにその形勢は変わった。〈プラネット・ミュー〉はいまや、ダブステップ/グライム/ポスト・ダブステップにおける第一線のレーベルのみならず、シカゴのゲットー・ハウスの最新型、ジュークを発信するレーベルでもあり、まあ早い話、目が離せないレーベルのひとつである。
201O年の暮れにレーベルが発表したシカゴのジュークのコンピレーション・アルバム『バングス・アンド・ワークス』は日本でもずいぶん話題になったものだが、今年に入ってからも新しいコンピレーション・アルバム『14トラックス・フロム・プラネット・ミュー』、あるいはフォルティ・DLのセカンド・アルバム、そしてボックスカッターの新作と〈プラネット・ミュー〉は相変わらず好調なリリースを続けている。あまたあるインディ・レーベルのなかで、正直な話、僕自身もここまで長く〈プラネット・ミュー〉の音源を追うことになるとは思いもよらなかった......といったところである。
『ブラフ・リンボー』をアンディ・ウェザオールがむちゃくちゃ評価していた時代を知るわれらテクノ世代からIDM世代、そして若きダブステップ世代にいたるまで、いまや幅広く支持されているこのレーベルの主宰者、マイケル・パラディナスに話を訊いた。
レーベルのリリースを選ぶにあたって、エレクトロニカ/IDMのデモを聴くだけでなく、他のシーンを見ることは新鮮だったし、そのおかげで前に進めたと思う。それは自分がDJするときにレコードを選ぶ興奮や衝動といった感情に似ている。
■まずはこの10年のレーベルの変遷について。2003年くらいまでは、IDM、ブレイクコア、ノイズやエクスペリメンタルを出していた〈プラネット・ミュー〉が2005年くらいからですかねー、ヴァイルス・シンジケートやマーク・ワン、ヴェクスドあたりをきっかけにグライムやダブステップのリリースをはじめて、2006年にはピンチやボックスカッターの作品も出すようになります。個人的にはあなたがミュージック(μ- Ziq)の名義でデビューした1993年から追ってきたので、2006当時は、あなたがグライムやダブステップに力を入れたことに驚きを覚えたんですよね......。
パラディナス:こんにちは! 自分の感覚ではレーベルの変遷それよりももっと前の91年くらいからはじまっていて、建築を勉強していたキングストン大学の頃だと思う。そのころはデトロイト・テクノ、ベルギー系のテクノ、当時真新しかったUKのブレイクビーツ・ハードコア(エイフェックス・ツインの"ディジリドゥー"のようなトラックも含め)をミックスしたDJセットで、 例えばこのDJセットなんか当時僕がよくかけていたレコードになるね。
www.mixcloud.com/mikep/mike-paradinas-90-92-hardcore-mix/
僕が言おうとしているのは、音楽的なルーツはDJで、とにかくみんなを踊らせることだってことだよね。だから1998年に〈プラネット・ミュー〉をはじめたときは、自分がレーベルから出している音楽とDJしているときにかけている音楽にあまり繋がりはなくて、2000年夏ごろにヘルフィッシュ(Hellfish)やハードコアテクノの12"シリーズ"コンスタント・ミューテイション"(Constant Mutation)という、その当時かけまくっていたレコードのリリースでそういった不一致を修正しようと決めたんだ。レーベルのリリースを選ぶにあたって、エレクトロニカ/IDMのデモを聴くだけでなく、他のシーンを見ることは新鮮だったし、そのおかげで前に進めたと思う。それは自分がDJするときにレコードを選ぶ興奮や衝動といった感情に似ていて、2003年と2004年にリマーク(Remarc)を再発しようと決めたときにも同じような刺激があった。
UKガラージ、2ステップ、130BPMのブレイクビーツは1998年くらいからDJでかけていたから、グライムが出て来た頃はそんなに驚きではなかった。
何人かのアーティストはジャングルやドラムンベースのプロデューサーやMCであったころから追っかけてたんだけど、2003年か2004年くらいになると、よりロウでそぎ落としたホワイト・レーベルがうようよ出てきて、ウィリーキャット(Wiley Kat)のホワイト・レーベル、DJ マースタ(Marsta)、ジョン・イー・キャッシュ(Jon E Cash)とか、本当に面白い時期だった。でもDJするときは違った音楽をかけていたから、〈プラネット・ミュー〉からリリースするとは思わなかった(例えば、2001年のワープのネッシュ・パーティのときなんかは完全にUKガラージ/ブレイクビーツだったね)。2001年のDJセットをちょっと録音したのがこれ。
www.mixcloud.com/mikep/2001-mike-paradinas-dj-set-at-alive-festival/
2004年にマーク・ワン(Mark One)のリリースを決めて、それがレーベルで最初のグライムだった。とてもデストピアでインダストリアルなサウンドだと思う。ヴァイルス・シンジケート(Virus Syndicate)のあとに、もっとグライムを出したかったんだけど、多くのMCはメジャーと契約したがってたから上手くいかなくてね。金銭的に満足させられなかった。それでゴースト・レコード(Ghost Records)、ビークル・レコード(Vehicle Records)、オリス・ジェイ(Oris Jay)、ゼット・バイアス(Zed Bias)とか、その先のシーンであったダブステップに行き着いた。彼らはグライムのプロデューサーほどがっついてないからさ(笑)。いまだにグライムはダブステップより面白かったと思ってて、もっとアンダーグランドで荒っぽくて、妥協のない、それでいてポップでもある。いろんな企画のリリースがもっとあったんだけどダメだったね。
ベクスド(Vex'd)は2004年に契約した最初のダブステップだった。彼らがピンチを紹介してくれたんだよ。ベクスドはグライムに近かったね。よりインダストリアルで、"スマート・ボム(Smart Bomb)"(2006年)なんか正にそれだよね。
www.youtube.com/watch?v=kwkwxyZ_-4k
彼らはグライムが大好きでね。だから僕はベクスドが好きなんだけど。そこからしばらくダブステップ・レーベルになって、有名なプロデューサーだとハッチャ(Hatcha)やベンガ (Benga)みたいな人から連絡がきはじめたりしたよ。そのときのDjセットがこれ。
www.mixcloud.com/mikep/mike-paradinas-2005-breakstepdubstepgrime-mix/
僕はいつだってストリート・ミュージックは好きだし、ただエレクトロニカのアーティストとして知られているわけで、もちろんナードは大好きだよ。グライムはブレイクコアよりガラが悪いと思うかな? 自分が見て来た感じだとグライムはとてもフレンドリーなシーンだった。
■グライムとダブステップのどこがあなたにとって魅力だったのですか? それとも、あなたのなかでブレイクコアとグライムやダブステップとの共通性があったのでしょうか?
パラディナス:正直ブレイクコアと呼ばれるものに入れ込んだことはないね。なんかどれも同じに聴こえるし、そういった音楽をクラブで聴くこともなかったよ。つまらないと思ってた。それよりもラガ/ジャングルに影響された音楽やアーメン(Amen)がチョップしていた"ブレイクビーツ・サイエンス"が好きで、シットマットは最高のプロデューサーだと思う。DJでもよくかけていたし、みんなよく踊ってた。
ヘルフィッシュ(Hellfish)や DJ プロデューサー(DJ Producer)も同じで、最初のダンスフロア・レコードだったね。激しい昔のジャングルやドラムンベースなんかを速くて踊れる音楽に持っていくときなんかは彼らをDJセットに入れてた。ヘルフィッシュ(Hellfish)、プロデューサー(Producer)、テクノイスト(Teknoist)、ドロフィン(Dolphin)、シットマット(Shitmat)なんかはブレイクコアだと思ってなかったね。ジャンスキー・ノイズ(Jansky Noise)、スピードランチ(Speedranch)のアルバムもブレイクコアではない、まあそういう感じはあるけどね。
ベネチアン・スネアズ(Venetian Snares)は唯一自分がかけていたブレイクコアだったかな。彼は唯一無二のヴィジョンがある素晴らしいミュージシャンで、シーンのなかでもずば抜けていたよ。ブレイクコアのルーツであるDJ スカッド(DJ Scud)、パラキス・レコード(Paraxis Records)、アレック・エンパイア(Alec Empire)なんかは好きだよ。とても面白いし、別にブレイクコアを否定しているわけではないから。ただ個人的にはそういう見方ではなかった。グライムとブレイクコアではファン層もサブカルチャーも違うし、そんなに共通点はないじゃないかな。たぶんディジー・ラスカル(Dizzee Rascal)の"I Love You"のキックなんかはガバのキックに聴こえるけど、それは偶然だよね。
■いまでもあなたはベネチアン・スネアズやシーファックス(Ceephax)のようなテクノ系のアーティストの作品をリリースし続けていますが、あなた自身はすべてを大きくエレクトロニック・ミュージックとしてみているのでしょうね。ファルティ・DLなんかは90年代初頭のテクノを思い出すようなサウンドだし、最近のダブステップのシーンからはテクノやハウスに近いサウンドが目立つようになったし、あなたにとっては20年前にテクノに接したのと同じ耳でダブステップにも接しているって感じなんですか?
パラディナス:テクノって何だろう? 前はハウスでないものすべてだった。いまの僕の捉え方だと4つ打ちでミニマルなものになる。僕がグライムや後のダブステップ(2002年から2003年)聴きはじめたころだったら、そう言えると思う。80年代後期のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノと同じくらいの衝撃だった。僕にとってそれは感情の流れで、時間がたてば変わっていくし、ある音楽は自分のなかで古くなって、興味がなくなったり、感情の浮き沈みだよね。コンセプトやジャンルでどうこうってわけではないよ。新しいと言われるポスト・ダブステップなんかは、ハウスのプロダクションとメロディがちょっといままでと違うけど、ただダブスッテプの初期にあった重要な要素であった荒っぽいエナジーはなくなったよね。
■とはいえ、〈プラネット・ミュー〉は、やっぱある時期まではナードなブレイクコア・シーンの中心的なレーベルだったわけだし、ワイルドでガラの悪いグライムのシーンに足を突っ込んだりして、それまでのファンからの反発なんかはありませんでしたか?
パラディナス:さっきも少し話したけど、僕はいつだってストリート・ミュージックは好きだし、ただエレクトロニカのアーティストとして知られているわけで、もちろんナードは大好きだよ。グライムはブレイクコアよりガラが悪いと思うかな? 自分が見て来た感じだとグライムはとてもフレンドリーなシーンで、ちょっと乱暴ではあったけど、ハイプもあったと思う。古くからのファンや新しいファンからも良い反応、悪い反応はいつもある。僕ができることは自分の感情に忠実である、それだけだよ。
■たしかにテラー・デンジャ(Terror Danjah)のアルバムも面白かったんですが、あなた自身はグライムのシーンに足を運ぶことはあるんですか?
パラディナス:2004年と2005年くらいはよくグライムのパーティに行ってたいたよ。サイドワインダー・レイヴとか(Sidewinder Rave)。テラー・デンジャに関しては2003年から2006年の彼のレーベル、〈アフターショック(Aftershock)〉から出ていたレコードを集めていたから、すごいプロデューサーだよね。ただ、いまとなってはもうグライムのパーティは見当たらないな。警察が全部閉め出したからね。まだブターズ(Butterz)、ノーハッツ/ノーフーズ(No hats No Hoods)まわりであるみたいだけど。
[[SplitPage]]ダブステップは、その名前はまだあるけど、過去のものとはまったく変わったよね。クロイドン/ビッグ・アップルがアプローチした現行ダブステップのウォブリー・サウンドから進化を見て来たけど、2007年初頭にはもうその姿は変わっていた。
■いままでミュージックやキッド・スパチュラ(Kid Spatula)、ジェイク・スラゼンガー(Jake Slazenger)などの複数の名義で自分の作品を発表してきたあなたですが、途中からレーベル業に専念しているように思えたのですが、このあたりの裏事情を教えてください。
パラディナス:そのとおりだよ。自分の音楽を作るのにちょっと飽きたし、自分では十分やったと満足している......と言いながらすぐに新しいリリースがあるかもね!
■そういえばニール・ランドストラムのようなテクノのベテランまで、グライムの作品を出しましたよね。それだけ当時のダブステップには、テクノのプロデューサーを魅了するような勢いがあったっていうことなんでしょうね?
パラディナス:そうだね。グライムではなかった思う。シェフィールドのブリープから派生したテクノ系統のグライム/ダブステップとブレイクビート・ハードコアをミックスしたとても面白いミックスであったことに間違いないね。ニールはそういったサウンドにつねに影響を受けていたから、だからそんなに驚くような動きではなかった。多くのプロデューサーがダブステップの影響を受けていたのはたしかで、なにせジャングル以降もっとも大きなムーヴメントだったから。
■スターキー(Starkey)、ヴェクスド、ボックスカッター、フォルティ・DL......ダブステップのアルバムを積極的にリリースしていきますが、もちろんあなたが好きだから契約しているのでしょうけど、とくに気に入っているアルバム名を挙げてもらえますか?
パラディナス:そう、好きだからだね。スターキーのファースト・アルバム『エファメラル・エキシビッツ(Ephemeral Exhibits)』はとくにお気に入りで、やり過ぎてる感がなくより即効的で踊れると思う。ボックスカッターの新しいアルバム『ディゾルブ(Dissolve)』は彼のベストだね。まわりにどうこう思われるのを気にすることなく、彼の良いとろこが全面に出たんじゃないかな。
■いま現在のエレクトロニック・ミュージックのシーンに関して、あなたはどう見ていますか? ダブステップはもう面白くないという意見の人もいるし、シーンはネクストに入ったという人もいます。
パラディナス:ダブステップは、その名前はまだあるけど、過去のものとはまったく変わったよね。2004年と2005年にのFWDと〈DMZ〉にはじまって、クロイドン/ビッグ・アップルがアプローチした現行ダブステップのウォブリー・サウンドから進化を見て来たけど、2007年初頭にはもうその姿は変わっていた。小さな島であったシーンが世界へ繋がったときからかな。いまだに初期のDMZがやってたピュアなダブステップのヴァイブレーションやサウンドは覚えてるよ。いまでも多くのレコードにそういった初期の雰囲気は残っていて、クロメスター(Kromestar)、スリー(Sully)、ルーカ(Lurka)、スクリーム(Skream)のプロダクションなんかそうだね。スクリームは最高だよ。テクノ、ガラージ/ハウス、フライング・ロータスのヒップホップに〈ランプ(Ramp)〉、〈ヘムロック(Hemlock)〉、〈ヘッスル・オーディオ(Hessle Audio)〉のようなポスト・ダブステップのフィーリングもある。本当に最高だよ。
[[SplitPage]]ジュークはシカゴのゲットー・ハウスから派生していて、ゲットー・ハウスは都市のクラブであったような反復的なサンプリングを多用したゲイ・カルチャーによるハウスとは違って、90年代前半に発展したストリート・ハウスで、〈ダンス・マニア〉がメインのレーベルだった。
![]() Various Artist 14 Tracks from Planet Mu Planet Mu |
■最新のコンピレーション・アルバム『14 Tracks From Planet Mu』はどんなコンセプトで編集したのですか?
パラディナス:音楽的にはないかな。僕としてはその年にリリースされた作品を集めたコンピレーションを作ることでレーベルのいまの流れを伝えたかった。『Bangs and Works』のコンピレーションがあったからジュークは入れないようにした。
■ちなみにいまのところもっとも売れたのは誰のどのアルバムでしたか?
パラディナス:ベネチアン・スネアズ『ロズ・シラグ・アラット・ズレテット(Rossz Csillag Allat Szulletet)』とミュージック『ビリオアス・パス(Bilious Paths)』だね。
■これだけデジタルの時代になってもあなたは12インチ・シングルを出し続ける理由は何ですか?
パラディナス:まだ売れるからね! ヴァイナルが好きなんだ。本格的に売るのが難しくなったら止めるけどね。12"がお店にあると、それに気づいて家に帰ってダウンロードしようって人もいるから。お金を払ってダウンロードしてくれるかもしれないし。
■DJネイト(Nate)やDJロック(Roc)のようなシカゴのジュークをどうして知って、あの音楽のどんなところに惹かれたのですか?
パラディナス:Youtubeとダットピフ(Dat Piff)のミックス・テープ・サイトで知ったよ。フットワーク(Footwork)は音楽的にもリズム的にも本当に面白い。自分の好きなツボがたくさんあって、昔のシカゴ・ハウス、アシッド・ハウス、ブレイクビート・ハードコア、ジャングルを思いだすんだ。ジャングルはダブル・テンポのドラムとハーフ・テンポのベースだけど、フットワークはハーフ・テンポのドラムとダブル・テンポのベースになっていて、両方とも160BPMくらいかな。
■ジュークがどのように生まれ、発展したのか、ちょっと歴史的なことを教えてください。
パラディナス:ジュークはシカゴのゲットー・ハウスから派生していて、ゲットー・ハウスは都市のクラブであったような反復的なサンプリングを多用したゲイ・カルチャーによるハウスとは違って、90年代前半に発展したストリート・ハウスで、〈ダンス・マニア〉がメインのレーベルだったね。90年代後半にどんどん速くなっていって、ダンスとかパーティといった意味合からジュークで知られるようになったんだ。
80年代なかばからハウス・オー・マティクス(House-O-Matics)のようなダンス・クルーがいつもハウスのダンスを踊ってて、90年代前半にフットワークはダンスバトルに特化した音楽としてジュークとともに進化しはじめて、ダンスが速くなるにつれて音楽も速くなって、最終的にはフットワークはジュークのキックドラムがなくなって今日の160BPM以上のベース・ミュージックになった。フットワークを"発明"したプロデューサーは90年代後期から00年代初頭あたりのPRブー PR Boo)、DJクレント(Klent)、DJチップ (DJ Chip)、トラックスマン(Traxman)、DJ スピン (DJ Spinn)、そしてDJ ラッシュド(DJ Rashed)。色の付いたミックステープで売られていて、シカゴには12インチを出すホワイト・レーベルもちらほらあったよ(シカゴの外には絶対に出さなかったとか)。
■実際に現場に行かれたんですか?
パラディナス:ない(笑)。シカゴには行くつもりだったけど、そのときに各クルーのあいだでもめごとになりそうだから取りやめたんだ。『Bangs and Works』の発売するためにライヴァル・グループのプロデューサー連中とも上手く関係を保つためにもそうする必要があったし。そういった事情が穏やかになったら行こうかなと思ってる。実際にヨーロパ・ツアーに来ていた何人かは会ったし、もちろんフットワークに絡んでもらった人たちとも話をしてるよ。
■実際にいまロンドンではああしたゲットーなダンス・ミュージックは受けているのでしょうか?
パラディナス:ジュークとゲットー・ハウスはいつでもリアクションあるけど、フットワークはちょっと違うかな。もうちょっと時間かかるんじゃないかと思う。ロンドンで3、4回DJしたけどレスポンスは毎回良いよ。アジソン・グルーブはとても上手く取り入れてるけど、フットワークというよりはポスト・ダブステップの続きとして見られてる感じがあるな。
■〈プラネット・ミュー〉以外で、好きなレーベル、共感しているレーベルに何がありますか?
パラディナス:トライ・アングル(Tri Angle)、リフレックス、ハイパーダブ、ヘムロック、ビュターズ(Butterz)、エグロ (Eglo)あたりだね。
■あなた自身の新作はいまどんな状態でしょうか?
パラディナス:いまはヘテロティック(Heterotic)っていうバンドのメンバーとして曲を書いてる。
www.soundcloud.com/heterotic
僕、ララ・リックス-マーティン (Lara Rix-Martin)、シンガーのニック・タルボット(Nick Talbot)がメンバーでもうすぐか、来年にはリリースしたいと思ってる。
■最後にあなたのここ1~2年のトップ5を教えてください。
パラディナス:まずは『Bangs & Works vol. 1』、それからトロ・イ・モアの『Causers of this』、ティーンガール・ファンタジー『7am』、DJネイト『Da Trak Genious』、オリオール『Night
and Day』。
ボックスカッターをダブステップに括るのは無理がある。北アイルランドのアーマー州のラーガンに住むバリー・リンによる音楽は、〈プラネット・ミュー〉らしくエレクトロニック・ミュージックの多彩なスタイルによって構成されている。2006年のデビュー・アルバムのときから、彼の音楽はより幅の広いものだったが、強いて言えばそれはIDMとダブステップ/グライムのブレンドだった。ロンドンで生まれたウォブリー・サウンドを、その外側にいる人間が面白がって、IDMテクスチャーのなかに大胆に取り入れたのがバリー・リンで、それはロバート・フリップに傾倒したギタリストが安いPCを手に入れて、ヒップホップとスクエプッシャー、ハウスとテクノ、UKガラージとジャングル、そして2004年に〈リフレックス〉がリリースしたコンピレーション・アルバム『グライム』に強く影響を受けて生まれた音楽だった。
バリー・リンはデモテープをレーベルに送り、2005年に〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉がEPをリリースして、翌年には〈プラネット・ミュー〉が『オネイリック』を出した。彼の音楽はダブステップ/グライムの見地から見たら変わり種だが、しかし変わり種だからこそレーベルとリスナーは面白がったのだ。人気作のひとつである、2007年のセカンド・アルバム『グリフィック』を取ってみてもそうだが、彼の重たいベースとダブの空間、細かくチョップされたブレイク、そしてIDMテクスチャーによる独創的な展開にはユーモアと軽妙さがあり、オリジナル・ダブステップのドープな感覚に対して「ごめん、わかるけど、きついわ」と口をねじ曲げていたリスナーにとっては「むしろこっち」と言わせる魅力がある。北アイルランドという外部からのアプローチによってダブステップ/グライムを批評的に捉えたことと、しかもそれが〈リフレックス〉~〈プラネット・ミュー〉というIDM文化の王道のなかで解釈されたことが、ボックスカッターという名の素晴らしい不純物を生んだのだろう。
だいたいこれ、『ディゾルヴ』は、早くも4枚目のアルバムだ。EPのリリース量がそのわりには少ないが、それはボックスカッターらしいというか、彼の音楽が必ずしもダンスフロアを向いていないことを意味している。20年前の言葉で言えばエレクトロニック・リスニング・ミュージックというヤツで、かなり早い時期にUKのどこかの雑誌が彼の音楽を「クラブよりも脳を飛び回る音だ」と評していたが、まあ、その部分は変わっていない。
とはいえ、『ディゾルヴ』はフォルティDLの『ユー・スタンド・アンサーティン』のように洗練されている。試聴機で1曲目の"パナマ"を聴いたら、『ユー・スタンド・アンサーティン』を好きな人なら我慢できなくなるだろう。それは熱帯雨林のなかで演奏される電子のジャズ・ファンクで、間違いなくアルバムのベスト・トラックである。そして、バレアリックな"ザブリスキー・ディスコ"をはさんで収録されている"オール・トゥ・ヘヴィ"と最後から2番目の"ユーフォニク"もゆったりとしたファンクという点で今作を象徴する曲だ。また、ブライアン・グリーンの歌をフィーチャーしたこれらねちっこい2曲や、ダブの空間が広がる"パッサービー"、甘いダウンテンポの"TVトラブルズ"などなど、多くの曲には彼のギター演奏が効果的に挿入され、色気を与えている。
ポスト・ダブステップ調の"ムーン・パピルス"においても彼のファンクは続いているが、筋が通っているようでその支離滅裂な展開は、ダブステップ世代におけるルーク・ヴァイバートのような印象を受けるかもしれない。そしてその印象はおそらく正しい。それはつまり、もしそういう時間を持てるなら、ビールを片手にこのCDを再生しっぱなにしておくのがいちばんであるということだ。
なお日本盤には、レーベル・ サンプラー・ミックスCDとボックスカッターの最新ライヴ・ミックスのダウンロードコードが付いている。
先日、TV・オン・ザ・レディオのベーシストのジェラルド・スミスが肺がんで亡くなった。あまりに若い彼の死に多くのファンやミュージシャンが悲しみの言葉を捧げ、バンドはいくつかの予定されていたライヴをキャンセルしたのだが、そのとき、僕は彼らもまたたしかに「バンド」であったのだということを思い知らされた。
そのハイブリッドなサウンドがアメリカにおけるレディオヘッドの最大にして最良の回答だと称賛されたTV・オン・ザ・レディオは、しかしレディオヘッドと違って旧来のバンドの物語のようなものが希薄で、よく組織された音楽集団という印象が強い。とくにその頭脳であるデヴィッド・シーテックは感覚よりも論理でさまざまなジャンルを跨ぎコントロールするタイプのプロデューサーで、アフロ・ファンク、ポスト・パンク、ドゥワップ、ハードコアなどなどを混ぜ合わせて調理するその手際が良すぎるあまり、そのサウンドには良くも悪くも隙や破綻が見えにくいのだ。その言葉も抽象的かつ含意的で、政治的なモチーフを匂わせつつもあからさまな主張にまでは至らせない。彼らは実験精神がひしめくブルックリンにおいても最高の知性派であり、カオティックなニューヨークのゼロ年代を代表する音となった。ただ、その複雑でありながら理知的なサウンドのマルチ・カルチュラルなあり方は、ある程度の文化的な寛容さを聴き手に要求し、その点で日本では海外ほど火がつかなかった。ブルックリン以外には、彼らが属するわかりやすいシーンもなかったこともあるだろう。
しかしそれでも、2008年の『ディア・サイエンス』はバンドに距離を置いていた人間を引きずりこむほどの魅力を持ったアルバムだった。それはさらにさまざまな音楽をぶつけ合いながらもさらに隙がなく完成されたハイブリッド・サウンドになっていたが、同時に情熱的なエモーションに満ちていた。それはメディアによってオバマの登場と都合よく重ねられ、希望に満ちたファンク・トラック"ゴールデン・エイジ"の「黄金時代がやってくる!」という宣言は、偶然だったとしても時代の高揚感と併走した。"DLZ"の怒りに満ちたビートとノイズの迫力、そして"ラヴァーズ・デイ"の輝かしいユーフォリア......それらは、彼らプロフェッショナルな音楽集団のラボから生まれた実験そのものが、可能性を象徴するものとして花開いた瞬間であった。
その後のシーテックによるソロであるマキシマム・バルーンが音楽的にはバンドほどの多様性を見せなかったことを思えば、やはり彼らの複雑な化学反応はバンドという器で生まれるものなのだ。『ナイン・タイプス・オブ・ライト』は結果的にジェラルド・スミスが参加した最後のアルバムとなり、そしてこれまででもっとも穏やかなエモーションに満ちている。"セカンド・ソング"、"キープ・ユア・ハート"、"ユー"と、普通ならアルバムの中盤以降で出てきそうなスロウでジェントルなナンバーが頭から続くことがその印象を生んでいるのだと思うが、そこでとくに目立つのはファンクとソウルの要素で、それは『ディア・サイエンス』のような激しさよりもブラック・ミュージックにおける甘さを持ち込んでいる。"ノー・フューチャー・ショック"はそのタイトルから例の金融恐慌が連想されているそうだが、そこでもホーンが華やかな彩りを添えて禍々しくはならない。"キラー・クレーン"、"ウィル・ドゥ"と続く優しげなメロディのミドルテンポのナンバーもまた、アルバムのムードを決定づけている。なかでは"レペティション"がもっともアップリフティングな演奏を聞かせるが、そこでも荒々しさよりも軽やかさがある。
『ディア・サイエンス』の重厚さ、あるいは初期の重々しさを思えば、本作は彼らのなかでもっともリラックスしたものとなっていて、これまでのプロフェッショナル然とした佇まいはむしろファイティング・ポーズだったのだと思う。ここではそのサウンドの高度さや複雑さよりも、その歌のエモーションの幅や軽やかさが堪能できるが、それは彼らがバンドとして成熟した証だろう。
だからこそひとりのメンバーが永遠に失われたことは相当な痛手であったろうし、その悲しみは深いに違いないが、バンドは前に進むことを決めたようだ。この夏のフェスティヴァルに彼らは出演する。TV・オン・ザ・レディオの実験精神はそのまま、目の前の暗闇を照らす光としてある。
アルフレッド・ダーリントンは知識をひけらかす気取り屋タイプではないが、90年代の〈ワープ〉と〈ニンジャ・チューン〉から大きな影響を受けたロサンジェルスを拠点とするこのアメリカ人は、IDM/エレクトロニカにおいて貴族趣味めいた方向性を最初から打ち出していた。先日、ダーリントンの新作が下北沢のジェットセットの新譜コーナーの壁に飾ってあるのを見たとき、そのキャプションに記された気合いの入った言葉からは、彼のファンが確実にいることを読み取ることができたが、果たしてデイダラスのファンがどんな人たちなのかまだよくわからない。彼はこの10年、音楽的に見て、あまりにも一貫性を欠いた活動をしているからだ。
デイダラス......ギリシア神話の登場人物のひとりとして、日本語ではダイダロスの発音で通っている名前を作家名に使っているダーリントンは、DJシャドウがレア・ファンクやレア・ソウルではなく、クレタ島の文明を研究した挙げ句に作ったような、なんともユニークな音楽を作っていた。ある時期はアブストラクト・ヒップホップにも括られもしたが、ダーリントンはビートに命をかけるようなヘッズ系という感じではない。どうにも根無し草で、ゆえに特定の音楽スタイルを追求するのではなく、作品ごとコンセプチュアルであることを志向している。
僕がダーリントンのアルバムで好きなのは、まずは2002年の『インヴェンション』、それから2005年の『エクスクイジート・コープス(優雅な屍体)』だ。ビート好きからは人気のある2003年の『ザ・ウェザー』もたしかに魅力的だし、〈ニンジャ・チューン〉からの最初のアルバムとなった2008年の『ラヴ・トゥ・メイク・ミュージック・トゥ』が酷い作品だとは思わないけれど、処女作にはその作家のすべてが凝縮されているという論に従うなら、(正確にはセカンド・アルバムにあたるのだけれど)『インヴェンション』における木管楽器とIDM、グランドピアノとブレイクビーツ、フランク・シナトラとアンビエントといったある種の古典的なエレガンスと最新の音楽テクノロジーとの対比のようなもののなかから聴こえる、気まぐれだが潔癖性的な叙情性がこの男の音楽の大きな魅力でのひとつだと思えるし、それは同時期のクラウデッドのドロドロしたビート、あるいは昔から同類に思われがちなプレフューズ73の神経質なビートとの明白な違いでもあった。派手なディスコにまで手を伸ばした『ラヴ・トゥ・メイク・ミュージック・トゥ』は、ダーリントンがもっともやるべきではない低俗さを無理してやった印象が否めない内容で、まぬけなアルバム・カヴァーの、こだわるべきところのない、ずさんな作品だと『ピッチフォーク』に酷評されたのも無理もない。
そういう意味では昨年〈ブレインフィーダー〉から出した「ライテウス・フィスツ・オブ・ハーモニー」にはダーリントンにしか出せない、エレガントで、潔癖性的な叙情性が展開されていた。中国史に登場する義和団の乱を主題としたというその作品には、ボサノヴァがあり、ドリーミーなダウンテンポがあり、異国趣味的なラウンジ音楽というか、僕は時代のチルウェイヴな気分とあいまって気持ちよく聴けたものだが、『ピッチフォーク』はまたしても困惑し、すり切れたアストラッド・ジルベルトだと言わんばかりに厳しい評価を与えている。それはダーリントンにとっての最高の仕事がバスドライヴァーやレディオインアクティヴのようなラッパーと共作したヒップホップ作品『ザ・ウェザー』だと見る立場、あるいは"フライロー以降"としてその作品をとらえる向きからの評価で、そうし見地から言えば、7人ものゲスト・ヴォーカリストを起用した最新作の『ビスポーク』は下手したらさらに混乱を招きかねないアルバムだと言える。が、ダーリントンのそうした周囲の評価を意に介さない、赴くままの貴族趣味を楽しめるリスナーにとっては、あるいは〈ニンジャ・チューン〉を信じるファンにとっては、そしてIDMポップを好む人にとっては、最高の1枚になりうるアルバムでもある。
オーダーメイドのスーツの注文を意味するタイトルが冠せられたこのアルバムは、3年前の『ラヴ・トゥ・メイク・ミュージック・トゥ』の悪夢を蘇らせるように、アップテンポのダンスからはじまる。しかしそれは「誰かがラジオのダイヤルをいじっているときに聞こえる音楽のような、楽しい混乱である」と、さすがに今回ばかりは『ピッチフォーク』も認めている。その言葉はひとつの喩えとして『ビスポーク』を実にうまく言い表している。
ヴィクトリア朝時代のヴィンテージ・ファッションをテーマとしたこの音楽は、ノスタルジックな歌とゴージャスなオーケストラがもつれ、絡みあいながら、ざわついたドラムブレイクのアッパーなある種痛快なノリとともに進行している。昨年、〈アンチコン〉からデビュー・アルバムを発表したバスが歌う"フレンチ・カフス"は場末のキャバレーで演奏するジャズ・バンドのドラマーが突然暴走しだしたような、いわば分裂的でもっとも実験的な曲だが、そこにも魅力的なユーモアがある。基本的に音数は多く、賑やかな音楽で、そして冗談があり、虚構を面白がるという点においても〈ニンジャ・チューン〉らしいと言えばらしいし、それは気の向くままに音を鳴らしてきたようなダーリントンにおいておそらくはゆいつ一貫していることでもある。
この音楽をどんなリスナーが聴いているのかよくわからないが、『ビスポーク』がジェットセットからわりと早く売れていったことは僕にも理解できる。
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Wiz - Extra Inches - Hot Tortillas |
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Christian Mantini - Silence - Neorecords |
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James Duncan - FEEL THE SKY - Cortelyou |
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The Junkies - Quatro uno sei(Uglh & Federico Remix) - Noir music |
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Nena - Leuchtturm / Kino - CBS |
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C.V.O. - Mighty Real Groove - slow to speak |
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Axel Boman - Modern Fluids - Studio Barnhus |
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Joe Goddard - Apple Bobbing (Four Tet remix) - Greco-Roman |
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DISKJOKKE & STRANGEFRUIT PRES. SJUKT - GHOST IN THE MACHINE - LUNA FLICKS |
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ZWICKER - Oddity (John Talabot Remix) - COMPOST |
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Daniel Solar - Baby's Tears - Dikso |
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Soft Rocks - Purple Rinse - Soft Rocks Recordings |
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Free Disco - Left Field Boogie - Rong Music |
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Kink - Leko - Burek |
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Rick Wade - Pimp Factor - Harmonie Park |
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Brown Brothers - I've Found Somebody New - Jisco Music |
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Kerri Chandler - 11th Hour - Downtown 161 |
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Tiefschwarz - You(Dub) - Classic |
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Je Davu feat St. Propre - Disco2Disco (Latin Space Dub Edit) - WHITE |
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S.W. - Alturas - After Midnight |
レーベルのコンピレーション・アルバムには2種類ある。回顧録としてのそれと最新型の提示だ。デヴィッド・ケネディー、ベン・トーマス、ケヴィン・マックオーリーの3人によって、2007年にはじまったロンドンの〈ヘッスル・オーディオ〉にとって最初のコンピレーション・アルバム『116・アンド・ライジング』は、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉のそれと同様に、その両方を見せようとしている。また、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉のそれと同様に、このコンピーションはポスト・ダブステップにおける重要なランドマークでもある。
まずリリース形態が興味深い。12インチ・ヴァイナル3枚組+CD2枚組というパッケージで、そう、お察しのように、3枚のヴァイナルの溝すべてには新曲か未発表が11トラック掘られている。レーベルの主宰者のひとりであるデヴィッド・ケネディーによるピアソン・サウンド(ラマダンマンとしても知られる)をはじめ、もうひとりのレーベルの主宰者、ケヴィン・マックオーリーによるパンジア、それからアントールド、ジェームス・ブレイク、アジソン・グルーヴ、ジョー、ペヴァリスト......いまもっとも旬な連中というか、錚々たるメンツが名を連ねている。そして、ヒットメイカーたちによる新しいトラックは、ピアソン・サウンドがそうであるように、リッチー・ホウティンが2ステップをやったかのような、面白いくらいにミニマリスティックに展開される。
ヴァイナルでもCDでも最初のトラックとして選ばれたエルゲイトの"ミュージック(ボディ・ミックス)"は、まさに象徴的だ。このリズムが2ステップではなく4/4キックドラムによるものだったら、まったくプラスティックマンである。アントールドの"クール・ストーリー・ブロ"は、昨年から顕著な彼のアシッド・ハウスへの接近が聴ける。この曲もまたリズムが2ステップでなはなくファンキーなエレクトロであったら、まったくモデル500の"チェイス"だ。こう書いてしまうと味も素っ気もないかもしれないけれど、"ミュージック"も"クール・ストーリー・ブロ"もUKベース・ミュージックの現在のクラクラするような新鮮さを持っている。後者のスライドするベースの入り方も実に格好よく、最小限の音の構成でありながらそうしたディテールにしっかり凝っているところからも、ポスト・ダブステップがいまノリにノっている感じが見えてくる。
それでも僕が1曲選ぶとしたら、ピアソン・サウンドの"スティフル"にする。このトラックは声ネタのファンキーなエディットと彼の2ステップにおけるミニマリズムの美学との見事なブレンドで、そしてとにかくヒプノティックなのだ。アジソン・グルーヴの"ファック・ザ・101"、ジョーの"トゥワイス"、ペヴァリストの"サン・ダンス"も面白い。"ファック・ザ・101"はチョップド・ヴォイスによるファンキー風のトラックで、"トゥワイス"はジョーらしいパーカッシヴなトラック、"サン・ダンス"はアブストラクトなダブステップで、それぞれ作者の個性がよく出ているし、同時にレーベルの色も共有されている。〈ヘッスル・オーディオ〉はいま上昇気流にいるのだ。
2枚組のCDのうちの1枚は、レーベルの回顧録となっている。その12曲のなかにはアントールドの"テスト・シングナル"や"アイ・キャント・ストップ・ディス・フィーリング"、ジョーの"レヴェル・クロッシング"といったフロア・ヒットも含まれている。デビューしたばかりのジェームス・ブレイクらしいクセのあるアクセントを持った"バザード・アンド・ケストレル"、ラマダンマンのジャングル・トラック"ドント・チェンジ・フォー・ミー"、パンジアによるディープ・ハウス調の"ユー・アンド・アイ"といった聴き応え充分のトラックも収録されている。しかし......アントールドのもっともユニークな"アナコンダ"、それからラマダンマンのファンキーな"アイ・ベグ・ユー"......も収録されていない。だいたいジョーのもっともバカ受けした"クラップトラップ"もない。コンピレーション・アルバムですべてをまかなえると思うなよ、というメッセージだろう。
アリエル・ピンクがカヴァーしたルー・リードの『ベルリン』を想像してみよう。エレガントだがどっぷりと疲れていて、薄氷を歩くように危なっかしいが美しく、恍惚としている。そしてそのすべては低俗さという包装紙に包まれている。
ベッドルームで生まれた数多くのポップの叙情詩を出し続けている〈メキシカン・サマー〉からの新しい作品は、70年代のソウル・ロックの......つまりグラム・ロック的な歌メロをローファイ・フィルターに流し込んで、実にモダンなポップスを13曲収録している。それがブルックリン在住のエクサンダー・デュエルのデビュー作だ。
グラム・ロック的と書いたが、この音楽のスキゾフレニックな度合いは一時期のアリエル・ピンクのように高く、たとえば歌メロが70年代ソウルでもトラックは壊れたミニマル・テクノだったり、レジデンツ的な変調した声の鼻歌がソフトロック調に展開されたり、スコット・ウォーカーがディスコをバックに歌っているようだったり......曲というよりもすべては断片的で、そしてやはりアリエル・ピンクのように低俗さ(ローファイ)への偏愛を何気に見せている。参照とするアーカイヴに違いこそあれど、こうした節操欠いた、混沌としたコラージュを聴いていると、思い出すのは90年代の暴力温泉芸者で、そのドライな方向性とウェットなその対岸とのすばしっこい往復(スウィング)も似ている。深刻に思い詰めることを忌避するように、その分裂は曲の細部にわたって展開されている。
手法的には近いとはいえ、トロ・イ・モアやウォッシュト・アウトのようなチルウェイヴと、ゼロ年代なかばのアリエル・ピンクやエクサンダー・デュエルのようなレフトフィールド・ローファイがいま同じ世代のリスナーに受け入れられているのは、デジタル時代における渋谷系現象のようなもので、要するにアメリカのサブカルチャーはインターネットの普及によって六本木WAVEをようやく手にしたとも言える。もっとも時代はより悪く、失業率の高さは彼らの音楽にメランコリーを与えているだろうし、ローファイであることの意義付けをしているに違いない。そしてアメリカの行き詰まりも多少なりとも音楽に錯乱をうながしているように思える。それはザ・ドラムスやザ・モーニング・ベンダースに代表されるようなノスタルジー(いまは亡きモノ)への執着が物語っているが、他方では、過去にしか夢を見れないという思いを捨てきれないまま、しかしそれだけでは完結できないという引き裂かれた感情をそのまま音楽にぶつけているのがアリエル・ピンクやエクサンダー・デュエルではないだろうか。