「Nothing」と一致するもの

The Greg Foat Group - ele-king

 このアルバムは2ヶ月近く前に都内の輸入盤店で噂となって、あっという間に売り切れている。クラブ系からインディ・ロック系にまで幅広く受け入れられていることからも、ある種の"時代の音"とマッチしたことは明らかだ。しかもそれがジャズの再発レーベルとして知られる〈ジャズマン〉からのリリースというのが驚きだ。UKのジャズ・ピアニスト、グレッグ・フォートのファースト・アルバム『ダーク・イズ・ザ・サン(太陽は暗い)』は、いま、チルウェイヴ世代/ポスト・ダブステップの世代にも拍手されているジャズの1枚である。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、本作の前にデビュー・シングルとなる10インチを限定で発表しているが、それがまず多くの耳と目を惹きつけている。ちょうどそれは、キティ・デイジー&ルイスとも似ているところがある。100%アナログ録音による反デジタル主義を完璧に遂行したもので、アートワークからその録音方法や音質など細部にわたって気を配っている。
 さてさて、先日僕はオッド・フューチャーやクラムス・カジノの無料ダウンロードにハマってハードディスクの容量が心配だと書いたら、親切な友人から「その認識は甘い」との指摘を受けた。そして、彼はダウンロード文化の現状を教えてくれたわけだが、僕としては自分の脳天気さを痛感するしかなかった。ああー、これかー、すごいなー。デジタル文化のそうした無法地帯を知れば知るほど、ミックステープもプロモーションというよりはどうせ無料で聴かれるんだから......という諦念がうながした切実な状況とも言えなくはない。USインディにおけるアナログ盤とカセットテープへの回帰もそういう意味ではミックステープと裏表の関係で、いずれにしてもデジタル文化が音楽産業にとって必ずしも前向きなものではなかったことを証明している。音楽とはいまや「何を表現するのか」のみならず、それをどのように伝達させるのかというところまで考えなければならない。面倒な話だが、80年代にアナログ盤工場を容赦なく閉鎖させていった日本にとっては輪をかけてゆゆしき問題だろう。
 よってキティ・デイジー&ルイスのような執念にも似たアナログ主義もデジタル消費への抵抗という点において意味がある。が、いっぽうではこうしたレトロ趣向には中道(MOR=Middle of the road)という落とし穴があるのも事実だ。これはいち部のジャズ系が陥ったパターンで、結局はイージー・リスニングやソフト・ロック、スムース・ジャズ、二流のボサノヴァ、あるいはオールディーズやアバといったいわばMORのコレクションへと展開する。それはまあ、責めるべきではないかもしれないが、極端な話、雑貨屋で売っている部屋の装飾物と変わりのないものだ。チルウェイヴにもそうしたリスクはある。ネオン・インディアンがもし最初に"シュド・ハヴ・テイクン・アシッド・ウィズ・ユー(アシッドを君とやるべきだったかい?)"を発表しなければ、本当にポスト・アバやポスト・デュラン・デュランの階段を上がっていっただけなのかもしれない。そこへいくと『ダーク・イズ・ザ・サン』は強い気持ちが入ったアルバムだ。チルウェイヴとも共通するメロウなフィーリングを有し、アンビエント・テイストも含まれているが......この音楽は基本的にはソウルフルに迫ってくる。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、ベース、ギター、ドラム、パーカッション、サックス、トランペット、トロンボーンなどの演奏者を従えてのバンドで、フォートはピアノ、ハモンド・オルガン、シンセサイザー、そしてハープシコードを演奏している。フリューゲルホルンやハープシコード、あるいは12弦ギターといっった古典的な楽器の美しい響きを際だたせながら、彼は『コスモグランマ』と同じような方向性を展開している。アートワークやタイトルが暗示するように、サン・ラーの宇宙旅行のようなコズミック・コンセプトが見える。
 ハープシコードとダブルベースを使ったドラマティックなオープニング・トラックの"タイム・ピース1"、12弦ギターのコード弾きからはじまるファンキーでグルーヴィーな"ダーク・イズ・ザ・サン・パート1"も素晴らしいが、フリューゲルホルンの温かい響きを擁した"ハロー・オールド・フレンド"と6/8拍子の"ダーク・イズ・ザ・サン・パート4"が出色のできだと思う。アルバムの録音はスウェーデンのほかロンドンのドリス・ヒルでもおこなわれていると記されているが、市の北にあるドリス・ヒルと言えば4ヒーローの本拠地だ。実際に彼らが関わっているのかどうか......そこはわからない。"敢えて"そうしているとしか思えないほど、ネットを検索してもこのアルバムに関する情報はないのだ。反デジタル、反ネット社会、反電子イクイップメント......それなりの気骨を感じるし、たしかにこのコズミック・ジャズはスタイルこそ違えど『パラレル・ユニヴァース』の感性とそれほど離れてはいない。

Chart by UNION 2011.07.30 - ele-king

Shop Chart


1

DJ HIKARU

DJ HIKARU Laid Back Town SMR RECORDS / JPN »COMMENT GET MUSIC
多くのお問合せを頂いたHIKARUのミックス最新作!ほっこりと体も心もいい具合に、空気に溶け込むよな音が収められたこの季節にハマる世界観。聴くべし!

2

MOUNT KIMBIE

MOUNT KIMBIE Carbonated HOTFLUSH / UK »COMMENT GET MUSIC
2010年に発表したファースト・アルバム『CROOKS & LOVERS』が大ヒットを記録し、隆盛を極める(ポスト)ダブステップ・シーンにおいて、JAMES BLAKE、BURIALと並び新たな音楽的地平を切り開く存在へと登り詰めた、DOMINIC MAKERとKAI CAMPOSによるユニット・MOUNT KIMBIE。本作「CARBONATED」はアルバムからの最後のシングル・カットで、タイトル・トラック以外は全て新曲&リミックス音源という構成。アンビエンス漂うシンセ・ループと物音サンプリング、声ネタのカットアップというMOUNT KIMBIEの特徴がよく表れたM-2"Flux"、深い海の底へと落ちてゆくような冷厳なサウンドスケープM-3"Bave's Chords"、モダン・テクノの最前線PETER VAN HOESENによる、ヘビーなベースラインとフラッシュバックするような多幸感溢れるウワモノの対比がすばらしいリミックスM-6など、オリジナル/リミックス問わず様々な可能性を感じさせるトラックが詰まった要注目作!

3

LARRY HEARD/MOODYMANN/OSUNLADE

LARRY HEARD/MOODYMANN/OSUNLADE Moxa Vol 1 - Follow The X REBIRTH / ITA »COMMENT GET MUSIC
イタリアのREBIRTHレーベルからLARRY HEARD、MOODYMANN、OSUNLADE収録のコンピレーション12"が登場!!イタリアのクラブTHE MOXAがコンパイルした今作。LARRY HEARDの未発表トラック"Winterflower"をA-サイドに、限定リリースで即売り切れとなったカタログKDJ36番、MOODYMANNの"I'd Rather Be Lonely"をB-1に、OSUNLADEによる今コンピレーションのために制作されたB-2"Moxa's Theme"の3トラックを収録した1枚!!

4

VARIOUS ARTIST (Compiled by AME)

VARIOUS ARTIST (Compiled by AME) Individual Mythologies MUSIC 4 YOUR LEGS / JPN »COMMENT GET MUSIC
収録曲には20年以上精神病院で働いていたというトム・ファッジーニ、フランスのプログレ・バンド「エルドン」の中心人物にしてキング・クリムゾンのロバート・フリップの影響を色濃く映すリシャール・ピナス、アンダーグラウンド・テクノ・シーンで話題のSANDWELL DISTRICT所属、サイレント・サーヴァントの別名儀トロピック・オヴ・キャンサー、テキサス出身の無名のエレクトロニック・アーティストJ・D・エマニュエル、あのヤン・イェリネックとも繋がりがあり薬剤師の経歴を持つ異色の電子音楽家ウーズラ・ボグナー等、これまでほとんどクラブミュージック文脈では知られることの無かったアーチスト達がAME(アーム)の手によってセレクトされ纏められている。

5

COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 Inches For Japan ESP INSTITUTE / UK »COMMENT GET MUSIC
独特なスタンスでカルトな人気を誇るLOVEFINGERSのレーベルESP INSTITUTEからの新作は日本が世界に誇るCOS/MESと、絶好調のene主催CHIDAによる強力カップリング。深いリヴァーヴと絶妙な湯加減のアシッド感を散りばめたCOS/MESサイド、そしてオリエンタルなヴォーカルパートをフィーチャーしたスローモーハウスを披露したCHIDAサイド、共に見事なサウンドスケープを感じさせてくれる仕上がり。限定レッドカラーヴァイナル!

6

PAPERCLIP PEOPLE

PAPERCLIP PEOPLE 4 My Peepz/Parking Garage Politics PLANET E / US »COMMENT GET MUSIC
CARL CRAIGによるPAPERCLIP PEOPLEのリミックス12"がリリース!!リミキサーにDUBFIREとLOCO DICEを起用した話題盤!!A-サイドには1998年にリリースされた"4 My Peepz"をピッチアップ、タイトにグルーヴィーにDUBFIREがリミックス!B-サイドでは1996年にリリースされたアルバム『Secret Tapes Of Dr. Eich』に収録される"Parking Garage Politics"をDESOLATのオーナーLOCO DICEがリミックス!!

7

ULTRAFUNK

ULTRAFUNK Gotham City Boogie/Indigo Country (Scotti Re-Edit) SUN SOUND / ITA »COMMENT GET MUSIC
イタリアンジャズの最重要人物PAOLO SCOTTI主宰DEJA VUレーベル傘下に立ち上がった新レーベルSUN SOUNDから12インチシングルが入荷!BATMANのカバーでもある"Gotham City Boogie"はTHEO PARRISHもかねてからプレイしているあのトラック!RAHAAN~SADAR BAHAR辺りのセットをも彷彿とさせるベースラインとストリングス~ホーンのコントラストも見事!

8

ABOUT GROUP

ABOUT GROUP You're No Good (Theo Parrish Remix) DOMINO / UK »COMMENT GET MUSIC
UKの『DOMINO』レーベルからABOUT GROUPの「You're No Good」を Theo Parrish がリワーク!!Hot ChipのAlexis Taylorと、This HeatのドラマーCharles Hayward、ピアノ演奏家Pat Thomasに、実験的アプローチな作品をリリースするインテリジェンスユニットSpring Heel JackのメンバーJohn Coxtonよるグループ。B-1にはSpring Heel Jackのもう一人のメンバーAshley Walesによるリミックスも収録したヴァイナル・オンリーの1枚!!

9

SUN RA

SUN RA Mike Huckaby Reel To Reel Edits KS ART YARD SERIES / NED »COMMENT GET MUSIC
『DEEP TRANSPORTATION』、『S Y N T H』を主宰するデトロイトの重鎮Mike Huckabyがリエディットした話題盤!!アルバム「On Jupiter」収録の実験的ディスコトラック"UFO"に、1974年リリースの宇宙回帰が色濃く表れた"The Antique Blacks"をリエディットした限定盤!!

10

VARIOUS ARTISTS

VARIOUS ARTISTS 50 Weapons of Choice No. 10-19 FIFTY WEAPONS / GER »COMMENT GET MUSIC
MODESELEKTORがMONKEYTOWNと並行して運営するレーベル・50 WEAPONSのコンピレーション・シリーズ第2弾が登場! 前作はアーティストの意向により一部ショップのみの取り扱いとなっていましたが、今回は遂に一般流通! 50 WEAPONSは12"主体のレーベルとして09年から本格稼動し、ダブステップ~テクノ~ダウンビート等を自在に行き来する先鋭的なサウンドを紹介してきました。本作ではこれまでに12"でリリースされたそのカッティングエッジなトラックを選りすぐった全10曲を収録! VENOM & DAMAGEとして活躍するBENJAMIN DAMAGEによるフロア直撃のUKファンキーM-3や、RUSH HOURやTEMPAなどに作品を残すルーマニアン・COSMIN TRGのBERGHAIN系硬質テクノM-4/M-9、MODESELEKTORのトラックをBOK BOK(NIGHT SLIGS)がリミックスしたM-6、そしてPLANET MUからのアルバムも好調なFALTY DLのつんのめるようなビートとクールな声ネタのカットアップが冴えるM-7など、どこを切っても個性的なバラエティーに富んだ作品集となっています!

Chart by Underground Gallery 2011.07.30 - ele-king

Shop Chart


1

LEGOWELT

LEGOWELT Sark Island Acid Ep (L.I.E.S.) »COMMENT GET MUSIC
コレです!既にDJ HARVEY、TIM SWENNYがプレイ中のアシッド・チューン! [Crwme Organization]や[Clone]からのリリースでお馴染みの、アシッド・オールドスクール・マニア、LEGOWELTが、NYの注目アンダーグラウンドレーベル[L.I.E.S.]から新作をリリース!ジワジワと勢いを増してくるアシッドグルーブに、渦巻くように響くシンセやアトモスフェリックなコードを鳴らし、様々な表情を見せながらトリッピーに飛ばしてくる「Sark Island」、[Trax]からのVIRGO作品を彷彿とさせる、降り注ぐような幻想的なシンセを鳴らした「Backwood Fantasies」、太くドライブ感のあるグルーブにオルガンやクラシカルなシンセメロを響かせた「Sea Of Nuhuhu」の 3トラックを収録。ハウス、テクノ、アシッド好きは是非!

2

V.A

V.A In Loving Memory 4:4 | + Special 1 (Styrax) »COMMENT GET MUSIC
すごい凄い面子による、完璧なコンピレーション!何がなんでも買ってください! ポスト・デトロイト、ベルリン・ダブテックの影響下にて、アンダーグラウンドな活動を続けてきた[Styrax]から超スペシャルな4枚組コンピレーションが登場!2008年に超限定盤として2枚組でリリースされ、あまりの枚数の少なさに、日本まで入って来ていなかった幻のコンピレーション「In Living Memry4:4」が、更に2枚を加え、4枚組にヴァージョン・アップされて待望の再リリース!今回もプレス枚数は少なく、今後コレクターズ・アイテム化間違い無しのスペシャルな作品です!

3

V.A

V.A Fouke Le Fitz Waryn Ep (Crow Castle Cuts) »COMMENT GET MUSIC
限定300枚!夏っぽいギター・ソロが◎な、トロピカル・ディープ・ハウス!ビーチで聴きたい!!! あまり名の知られていないマイナーなレーベルですが、これは手放しでオススメ!ベルギー[We Play House]クルーが参加した前作が、コアなファンの間で話題を集めた、新興レーベル[Crow Castle Cuts]の最新作!特筆したいのは、その[We Play House]クルーでもあるMAXIM LANY & LEMARHKULARによる、サマー・フィール・ディープハウス!「Exotic Guitar」というタイトルに偽りのない、エキゾチックでトロピカルな印象を受ける、夏らしい開放感が満ちた、ギター・ソロが全面にFeatされた、心地良さ、爽快さは、ここ最近リリースされたハウスの中でも、ずば抜けています!B1に収録されたLUV JAMによる、柔らかい音で構成されたアンビエンス・ハウスも秀作!

4

ARTIST UNKNOWN

ARTIST UNKNOWN Analogue Solutions 007 »COMMENT GET MUSIC
CARL CRAIG「The Climax」、「Poi Et Pas」などの大ネタ使いながら、SLLEPARCHIVEやMIKE PARKER、GIORGIO GIGLIをも凌ぐような、かなり中毒性の高いドープ・スペーシー・ピプノ・ミニマルに! ローファイな質感で90年代のマニアックなテクノをエディットしながらどっぷりとその世界観にハメてくる[Analogue Solutions]の一連のリリースですが、今作もファンの期待にバッチリ答 える素晴らしい仕上がり!! ずっしりと重みのあるビートにヒプノティックに蠢きながらぐんぐん上昇していくスペイシーなシンセにエフェクティブに重なるボイス・サンプルがうねりながら展開していくキラー・トラックA1が◎!! これは使えます!

5

COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 Inches For Japan (ESP Institute) »COMMENT GET MUSIC
先日のUKツアーも好評に終わった COS/MESとDJ CHIDA氏によるスプリットシングルが、LOVEFINGERSが主宰する要注目レーベル[ESP Institute]から限定レッドヴァイナル仕様にて緊急リリース。まず Side-Aでは、自身が数年前までに主宰していたハードコアパーティーアニマル'sパーティー「Dancaholic」の名前を引用し、同パーティーの最もコアな深くカオスな時間帯を表現したかのようなエレクトリック・ブギー・ハウス「Danca」。Side-Bには、同レーベルの看板的に活躍を魅せる COS/MESが、カリンバ風のシンセを鳴らしたオーガニックムード漂うパーカッシブ・トラックに、スピリチャルなコーラスを響かせた、壮大な世界観のあるアフロ・コズミックなディスコトラック「Hey Yah」。どちらもとにかく間違いありませんね~!

6

MILES

MILES Facets Ep (Modern Love) »COMMENT GET MUSIC
UK発人気ディープ・レーベル[Modern Love]新作はMLZことMILES WHITTAKERによる激ドープなインダストリアル・アバンギャルド・ミュージック!! まるで生き物のように意志を持った電子音が絡み合いながらカオスの様相を見せながら物凄いテンションで鼓膜に突き刺さる殆どノイズとノイズのぶつかり合いの末のフラットな地表へと導かれていかれる、そんな凄みを感じる一枚!!

7

LOUI$ - Magic Dance

LOUI$ - Magic Dance Pink Footpath (Blow Records) »COMMENT GET MUSIC
またもや UKよりカルト級にレアな1枚が原盤仕様にて復刻!!今回は 85年に[Blow Up Disco]からリリースされた LOUI$が手掛けるイタロディスコ「Magic Dance」。80'sシンセディスコ全開な イタイケなヴォーカルが堪らない Side-Aのヴォーカルヴァージョン「Magic Dance」も勿論悪くはないのですが、オススメは断然Side-Bに収録された同曲のインスト/ダブヴァージョン「Pink Footpath」。バレアリックなダヴィーなシンセ、哀愁のギターのカッティングリフが◎な、最高過ぎるコズミック・フュージョン・シンセ・ディスコ。オリジナルはホント見かけませんので、是非この機会をお見逃し無く!

8

V.A.

V.A. Twentyfour Ways (Smallville) »COMMENT GET MUSIC
LAWRENCE主宰、[Smallville]新作は、サンセット・ムード満載の、メロウ・ディープ・テック・コンピレーション12インチ!MR.FINGERSファンから、インテリジェンス・テクノ好きの方まで、オススメです! 往年のSTASISやB12辺りを彷彿とさせる、ピュアでエモーショナルな、アーリー・デトロイト・インフルエンス・トラックのC-BEAMS、ぼんやりと浮かぶ淡いコード・シンセと、柔らかいハウス・グルーヴがマッチしたCHRISTOPHER RAU、繊細なウワ音の響きが心地良い、ウォーミーなテック・チューンのBENJAMIN BRUNN、清涼感に満ちた空間処理が素晴らしいSMALLPEOPLE & RAUの4トラックを収録!

9

V.A

V.A Psychedlic Pernambuco (Mr. Bongo) »COMMENT GET MUSIC
またもや[Mr.Bongo]、本当に良い仕事をしてくれました!!今回は数年前の奇跡のアルバム再発も大きな話題を集めたLULA CORTESらを擁する、ブラジル北東部"レシーフェ"を中心とするムーブメント「サイケデリック・シーン」をリードしてきた、現地の伝説的レーベル[Rozenblit]に残される、サイケデリック縲怎tォーク縲怎Aシッド・ロックな名音源を全19トラック収録した、素晴らしすぎる内容のブラジリアン・コンピ・アルバム! 前述のLULA CORTESはもちろん、こちらも以前US[Time-Lag]からアルバムがリィーシューされていたMARCONI NOTARO、ミナス方面の方からも人気のフォーキーコンビ GERALDO AZEVEDO & ALcEU VALENcAらの作品を中心に収録。もし原盤で全てを揃えようと思うモンなら、余裕で「ン?十万」行くことは間違いありませんので、ブラジル方面のファンの方はとりあえずコレを押さえておいて何ら問題ないと思います!

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GLOBAL COMMUNICATION

GLOBAL COMMUNICATION Back In The Box (Mix) (Nrk) »COMMENT GET MUSIC
2011年度 No.1ミックスCDとの呼び声が高い、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある2枚組! UKの名門レーベル[Nrk]が誇る"BACK TO THE 90'S"なミックスCDシリーズ「Back In The Box」の新作は、90年代初頭から活動する大ベテラン、テクノ/アンビエント史に燦然と輝く名盤「76:14」でも知られるTOM MIDDLETONとMARK PRITCHARDによるユニット・GLOBAL COMMUNICATIONが登場!とにかく収録曲の内容が濃いんです!DEERICK MAY、JUAN ATKINS、CARL CRAIGといった、パイオニア達のレア・トラックはもちろん、その初期デトロイト・テクノ影響下にて、一時代を作ったBARIL(exBLACK DOG/PLAID)、STASIS、AS ONE (KIRK DEGIORGIO)などの、インテリジェンス・テクノ勢の、今ではお目にかかることすら難しい貴重な音源が、フルに詰まった、テクノの歴史を知る為の資料としての価値もある、最高の2枚組!

少年ナイフ - ele-king

 少年ナイフには"Ramones Forever"という曲がある。2007年のアルバム『fun! fun! fun!』に収録された曲で、モーターヘッドの"R.A.M.O.N.E.S."と並んでグっとくる名曲である。個人的には聴くたびに泣く。この原稿を書くためにさっき聞き直したが、やはりちょっと泣きそうになった。ある日ラジオでラモーンズの曲を聴いて次の日にレコードを買いに行く。そしてギターを買ってバンドをはじめたパンク・ロック少女がやがてラモーンズのオープニング・アクトをつとめることになる......というストーリーが歌われている。少年ナイフのリーダーであるなおこさんの体験がもとになっていると言っていい内容の曲だ。
 本作『大阪ラモーンズ』はタイトルどおり、全曲ラモーンズのカヴァー・アルバムである。革ジャンにジーンズという姿でレンガ壁の前に立ったモノクロのジャケも雰囲気が出ている。リリースの経緯、ラモーンズとの交流などはオフィシャルサイトに詳しく書かれているので参照されたし。

 ラモーンズといえば、数多のメジャー・アーティストを集めた『ウィー・アー・ハッピー・ファミリー』というトリビュート・アルバムが2003年にリリースされている。マリリン・マンソンによるダウンテンポで陰鬱なアレンジの"KKK"のようにひねりを効かせたものもあれば、オフスプリングによる"アイ・ウォナ・ビー・シディテッド"のようなストレートなものある。振り幅はさまざまだったけれども(ちょっと速くしたメロコア・カヴァーみたいなのがいちばんつまんないと思う)、「大阪ラモーンズ」の場合はほとんどひねりを加えずシンプルに演奏されている。ラモーンズの場合は意外とコードの弾き方ひとつをとっても曲によって細かく変えていたりするのだが、そこまで厳密にコピーしているわけでもない。そのあたりの大らかさもナイフらしい。

 "電撃バップ"ではじまり"ピンヘッド"で終わる全13曲、基本的には代表曲が中心だけれども、あまり取り上げられる機会のない曲もある。なかでも『ロード・トゥ・ルイン』収録の"She's The One"なんかはあまり知られていない曲だが、とてもナイフに似合っている。ラモーンズの曲としては少々異色の部類に入る"ウィ・ウォント・エアウェイヴズ"は原曲以上にヘヴィな演奏だ。そういえば"電撃バップ"と並んでラモーンズの代表曲である"ロックンロール・レディオ"はやっていないが、何か意図があるのだろうか。先述のKISS以外にも、日本でも原爆オナニーズやK.G.G.M.など多くの名カヴァーが存在するだけに「いまさらやらなくていいか」というくらいのノリなんだろうとは思うが......。
 結成30周年を迎えたバンドのこのリリースについて「原点回帰」という表現をよく見かける。が、そもそもおそらく少年ナイフは「原点」を忘れたことはない。その時々で新しい音楽を吸収することはあっても、根っこにはつねにラモーンズやバズコッコスといった音楽がある。それはラモーンズの音楽にはつねに50年代のガール・グループやビーチ・ボーイズがあるのと同じことだ。ティーンのときに影響を受けた音楽をずっと大事にするということも少年ナイフがラモーンズから受け継いだことのひとつだ。もうひとつ、ラモーンズから受け継いだもっとも大きい要素は、シンプルで人懐っこく、とぼけたユーモアがあるところだろう。

 ラモーンズは結成22年にして解散した後、主要メンバーのジョーイやジョニーが燃え尽きたかのように次々とこの世を去った。ドキュメンタリー映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』を観るとメンバー間の確執や長年のツアー生活の疲れなど、想像以上にストレスフルなキャリアだったことがうかがえる。しかし、少年ナイフにそれは感じない。結成30周年を迎えながらその瑞々しさはまったく失われる気配がないのだ。イースタン・ユースの吉野寿はかつて少年ナイフについて「あの佇まいに憧れる」「あんなふうにまっすぐにロックと向き合えたらなあ」といった発言をしているが、おそらくそれは誰にでもできることであり、しかしやはり誰にでもできることではないのだ。

interview with Takeshi "Heavy" Akimoto - ele-king

 ボブ・マーリーの初期の有名な曲に"スモール・アックス"がある。「おまえたちがでっかい木なら、俺たちは小さな斧だ/いつかおまえらをぶった切ってやる」......秋本武士は自分がその歌で歌われる"俺たち"のひとりであることをいまでもまったく疑っていない様子だ。その強い気持ちが彼のベースをドライヴさせ、そしてまた自身のベースという楽器を銃に喩えるのだ。試しにザ・レヴォリューショナリーズのアートワークをネットで検索してみよう。
 "スモール・アックス"で歌われる"おまえたち"とは植民地主義の支配者で、"俺たち"とはその配下で働く奴隷。ボブ・マーリーはそうした奴隷制時代の光景を、実はいまでも続いているんだと、現代の喩えとして表現したが、たぶんいまどきほとんどの人は自分を奴隷だなんて思っていない。わりと自由にモノを買い、自由にツイットしたり、自由に飲み食いする(東日本はそうも言ってられないか......)。あるいは、みんな"小さな斧"なんかよりも"でっかい木"になろうと懸命なのかもしれない。そういう考えは古くさいと言う人もいる。まあ、とにかく......まわりがどうで、何を言おうが、秋本武士は"小さな斧"であり続けようとする。90年代のドライ&ヘビー、ゼロ年代以降のレベル・ファミリアとザ・ヘビーマナーズ......彼が作る音楽のすべてがそういうものだ。


THE HEAVYMANNERS
サバイバル

Pヴァイン E王

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 ザ・ヘビーマナーズのセカンド・アルバム『サバイバル』にはラッパーのルミが4曲にフィーチャーされているほか、インターナショナルに活躍するダブステッパーのゴス・トラッド、〈ON-U〉から作品を出している女性シンガーのサミア・ファラー、トロンボーン奏者のイッチー等々......いろいろな人が参加している。ルミがラップする"誰かのあの子"は原発事故を主題にした強力な曲で(反原発デモのアンセム第一候補)、サミア・ファラーが歌う"ARAB IN DISGUISE"は反グローバリゼーションをテーマにしている。秋本武士のベースは、ドラムスとの息を呑むようなズレのなかで劇的なグルーヴを作っている。
 夜の10時に、中野のスタジオで秋本武士に会って話を聞いた。

最初はボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの『ナッティ・ドレッド』でしたね。15か16のときですね。「もう、これしかない」と思って。その瞬間に人生変わっちゃった感じですよね。結局いまでもこういうことやってるっていうのは。

秋本君が最初に出会ったレゲエって?

秋本:最初はボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの『ナッティ・ドレッド』でしたね。

何歳のとき?

秋本:15か16のときですね。

最初に聴いたときから、来るモノがあった?

秋本:来ましたね。"ライヴリー・アップ・ユアセルフ"という曲があって。

1曲目の。

秋本:1曲目。「もう、これしかない」と思って。その瞬間に人生変わっちゃった感じですよね。結局いまでもこういうことやってるっていうのは。

15歳で『ナッティ・ドレッド』を聴いて......。

秋本:はい。

それ以前は?

秋本:パンクやニューウェイヴの時代だったんで、そういうのを聴いてましたね。

『ナッティ・ドレッド』の何がすごかったんだろう?

秋本:なんかわかんないすけど、とにかく、尋常じゃないエネルギーっていうか。ものすごいエネルギー......太陽が目の前にいきなり出て表れたみたいな。もう、すごい......。

そこまで感じたんだ。

秋本:何の言い訳もなく......、こんなに格好いい、すごいことが世のなかにあるんだっていう。

どういうきっかけで聴いたの?

秋本:レゲエに影響を受けていたニューウェイヴとか。後期のクラッシュとかポリスとか。

ニューウェイヴ自体がレゲエの影響を受けていたし、レゲエ好きのミュージシャンが多かったよね。ジョン・ライドンを筆頭に。

秋本:そう、それで、音数を減らすことやその緊張感みたいなもの、1曲をひとつのループでいくやり方とか、そういう他の音楽とは違うところに興味は持っていたんですけど、でも、本物を聴くのが少し恐かったところがあって。

ほぉ。

秋本:ジャケの感じも全然違うし。

なるほど。

秋本:子供の俺にもこれは本物のゲットーの音楽だっていうのがある程度わかってて、「俺が聴いていいのか?」みたいなところもあった。

はははは。そこまで......。

秋本:「俺なんかが聴いちゃいけないんじゃないか」って。

『ナッティ・ドレッド』を選んだ理由は?

秋本:なんだろうなぁ......。

"ノー・ウーマン・ノー・クライ"が入ってるからとか?

秋本:いや、ぜんぜん違いますね。たぶん......何の予備知識もなかったんですよ。試聴もできなかったし......。とにかく、『ナッティ・ドレッド』だったんです。

そのときベースは握ってる?

秋本:ぜんぜんそれはないですね。ぜんぜんなくて......ベースをやりはじめたのは18ぐらいなんで。その3年後ですかね。

秋本武士のなかでは、『ナッティ・ドレッド』からどういうプロセスでバレット兄弟にまで辿り着いたの?

秋本:そうっすね......けっこう、ひねくれたガキだったんで、何て言うか(笑)、何も知らないけど、世のなかのリアリティなんて何にもわかってなかったけど、ひねくれたガキだったんで、斜に構えた見方してましたよね。で、当時の日本には何かを本気でやるのとか、すごいダサい風潮にあった気がしたんですよ。

80年代にはそういうところがあったね。

秋本:そんななかで......何の言い訳もなしに、ここまでさらけ出して、すべてを表現するっていうか......そしていち音いち音が究極に研ぎ澄まされているというか、あの1曲ワンループの強力なグルーヴで最後まで引っ張るというか......。1曲をひとつのフレーズのベースラインでもっていくところなんか、他にたくさんある緻密な音楽よりも、何か答えを持っているような気がしたんですよね。はっきりと答えが見えているようなね。

なるほど。

秋本:こんなすごいことはないなと思ったんですよね。こんなに格好いいものはないんじゃないかと思いましたね。シンプルで、ドラムとベースとギターと、たまにキーボードと、その音の空間がすごい。結局、音数が少ないから、音のひとつひとつがよく聴こえるし、緊張があるし。しかもあの時代の究極のミュージシャンがそれをやっているんですよね。

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スライ&ロビーが日本に来たときにライヴに行って、で、打ち上げにもこっそり忍び込んで、で、ロビーがいたんで話しかけて、「あなたの大ファンで、間違いも含めてぜんぶコピーしました」って(笑)。

パンク/ニューウェイヴの頃って、ベーシストが目立ったというのもあるよね。ベースに格好いい人が多かったというか、PiLだったらジャー・ウォーブルとか。そういう人たちのダブに影響されたベースラインって、ロック聴いていた耳にはすごく新鮮だったじゃないですか。ただし、PiL聴いていた子のほとんどはジャー・ウォーブルにはすぐにいけるんだけど、だからといってみんながみんなバレット兄弟にいくわけじゃなかったよね。とくに10代だったら。

秋本:もう「やっと本物を聴いちゃったな」と思ったんですよ。結局そこに憧れていた人たちの音楽を介して(レゲエ/ダブ)を聴いていたわけじゃないですか。ジャー・ウォーブルとかポール・シムノンとか......まあ、スティングとか。だけどそこを越えて本物を聴いたときに、「やっぱもう、これだ」と。それから自分の持っているありったけの金を集めて、とにかくボブ・マーリーのレコードを買いましたね。

あの当時はボブ・マーリーの歌や言葉が注目されてはいたけど、俺もそうだったけど、だいたいの人はバレット兄弟がすごいというところまではいかなかったじゃないですか。まだ耳がそこまで出来ていなかったというか。

秋本:そうっすね。だけど......何でなんすかねー。とにかくドラムとベースというものに惹かれましたよね。それで後からですけど、ボブ・マーリーのインタヴューを読むと、「レゲエをいちばん表現しているのはドラムとベースなんだ」と。「自分より」っていうニュアンスでそれを喋ったり、「ゲットーの現実を伝えるのはベースだ」とか言っていたり、だから......ますます「そういうことか」って思いましたけどね。

しかも70年代のルーツ・レゲエって、何人かの優れたベーシストやドラマーがいろんなバンドで演奏しているんだよね。アップセッターズもアグロヴェイターズもレヴォリューショナリーズもルーツ・ラディックスも顔ぶれはけっこう重なっているんだよね、ドラムとベースとか。

秋本:ほぼそうっすよね。

逆に言えば、それだけ当時のジャマイカの音楽のドラムとベースっていうのは、誰にでもできるわけじゃなかったっていうかね。

秋本:ただそのなかでも、(アストン・)バレットとロビー(・シェイクスピアー)っていうのは特別なんですよね。まあ直系というか、ロビーはバレットの弟子だったりするんですよね。あのふたりはミュージシャンというよりはメッセンジャーだから。ベーシストと呼ぶには音にあまりにもメッセージがあるんですよね。

なんか、ほら、秋本君はスライ・ダンバーといっしょにやったんだよね。レベル・ファミリア......。

秋本:じゃなくて、ヘビーマナーズのほうですよね。

そうか、ヘビーマナーズのファーストか。それで、いっしょにセッションしたときのことを秋本君が「あの人はリズムで人を殺せる」って表現で言っていたんだよね。僕のなかにその言葉がすごく心に残っているんだよ。その「リズムで人を殺せる」っていう喩えは、どういう感覚なんだろう?

秋本:俺もスライといっしょにやるときに、自分のベース人生、俺の人生最大の勝負だと思ったし、そこでスライとセッションして結果が出せなければ(音楽を)やめようと思ってたんですよ。そのぐらいはっきりさせたかったし、で、本当のガチンコのセッションをやったんですよ。何にも決めずにね。まあそれで、納得できる結果ができたんで......、ホント、ものの30分ぐらいだったんですけど。
 ドライ&ヘビーはスライ&ロビーに憧れてはじまったぐらいなんで、俺が世界でいちばん研究しているはずなんですよ。そんな俺でさえ、セッションして最初のいち音をパーンってスライが出したときに、その場でしゃがみたくなるくらい、もうすごいんですよ、音の圧力が。音圧じゃないんですよ、エネルギーの気です。気が乗った音、気迫の音っていうのかな......それを殺意のある音っていう風に俺は思ったんですけど。だからロマンティックな話で、世のなかには達人は本当にいるんだなと思ったし、あと、あの人はミュージシャンである前に革命家なんだなと思って。

ああ。

秋本:あの人は闘ってきたんですよね。ピーター・トッシュのバックもやっていれば、ボブ・マーリーともやっているし、仲間はバンバン殺されたり、死んでいくし。いつ撃たれてもおかしくない音楽のバックをずっと支えてきたわけじゃないですか。そういう彼の生き方、生きてきた過程、仲間への思い、それらが完全に音に染みこんでいる。だから普通の音を越えた圧力がある。すごいですよ、だから。いざやると......(苦笑)。

それを感じことができる秋本武士もすごいと思うんだけど。そういえば、OTOさんもじゃがたらの最初の頃はずっとレヴォリューショナリーズに憧れていたって言ってたよ。あの人のギターには「TAXI」のシールも貼ってあったし。

秋本:へー、そうなんですか。

秋本君がドライ&ヘビーを結成するのはいつなの?

秋本:91年、七尾(茂大)君と出会ってですね。

代々木チョコレートシティだったよね?

秋本:はい。代チョコで最初のライヴやりましたね。七尾君とはその前に出会って、練習しはじめて......。

ワン・パンチ』までずいぶん時間があるよね。

秋本:そうっすね。『ワン・パンチ』が98年だから......まあ、セカンドっすけどね。その前に1枚あるんですけど、もうそれはレコード会社がつぶれて出ないっすけど。

その数年間は、秋本君はどんな気持ちでドライ&ヘビーを続けていたの?

秋本:91年に七尾君と知り合って、で、ヴァイタル・コネクションっていうバンドをやりはじめて、まあオーディオ・アクティヴとかも出てて、2~3年やってたんですかね。

あの当時の代チョコはレゲエとヒップホップの小屋だったよね。

秋本:そうですね。それで......まあ、いろんなゴタゴタにも巻き込まれましたけど。本当はドライ&ヘビーが〈ON-U〉から出すはずが、オーディオ・アクティヴになっちゃたんですよね。ただ、俺はその頃、名前がないし、デビュー前だったし、本当に悔しい思いをしましたけどね。

七尾君とはどうやって知りあったの?

秋本:ずっと自分ひとりでベースを練習して、じゃあ、そろそろメンバーを集めようかと、その当時、日本で本気でレゲエをやりたいと思っているヤツ全員の目に触れてやろうと思って、2年以上も雑誌に俺のメンバー募集広告が載るように書き続けていて。

2年?

秋本:2年以上っすね。で、ハガキとか電話かかってくる度にいろんな人とセッションして、だけど、もうぜんぜんダメで。それでもう、ジャマイカ行こうと思って。

秋本君らしいなー(笑)。

秋本:スライ&ロビーが日本に来たときにライヴに行って、で、打ち上げにもこっそり忍び込んで、で、ロビーがいたんで話しかけて、「あなたの大ファンで、間違いも含めてぜんぶコピーしました」って(笑)。そしたらロビーもだんだん機嫌が良くなってきて、「ジャマイカ来たら、ここ来い」って、住所とか書いてくれたんです。そういうこともあったんで、もうジャマイカに行こうと決めて準備をしはじめていた頃に、『ロッキングオン』に俺が出した広告を七尾君が見て連絡してきたんですよね。

へー。

秋本:それが最初っすね。

最初から彼は上手かったんだ?

秋本:最初から「この人しかいない」と思って。もう何10年もいっしょにやってきたような感覚だったんですよね。「もういける」「これでレゲエができる」と思って。絶対いけるって。

最初はふたりでやっていたの?

秋本:それとギターで力武(啓一)さんがいて、で、ヴァイタル・コネクションに七尾君のほうからオーディオ・アクティヴをゲスト的に入れてやって欲しいって頼まれたんですよね......、オーディオ・アクティヴのヴォーカルとキーボードを。オーディオ・アクティヴには俺は興味はなかったけど、「まあ、いいや、そんな言うなら」って感じで。彼らが「やる場がない」って言うから、それでヴァイタル・コネクションに入れたら、まあ、乗っ取られたっていうか。

はははは。

秋本:そんな感じでしたね(笑)。

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ゴス・トラッドはいまでも海外にくらべて国内では知名度が低いけど、海外ではもう第一線でやってるじゃないですか。あいつは俺が初めて会って初めてセッションしたときからすごかった。


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僕はドライ&ヘビーをライヴでしっかり聴いたのはすごく遅くて、『フル・コンタクト』の前だったんだよね。

秋本:覚えてますよ。『ele-king』でね。

そうそう、『ワン・パンチ』出して、しばらくしてからだったよね。

秋本:そうっすね。

あのときのドライ&ヘビーは、時代のトレンドとかさ、そういうこといっさい考えずに、とにかくルーツ・レゲエをやると。ものすごくはっきりした目的意識があって。

秋本:まあ、そうっすね。

あのときも秋本武士のなかにはものすごく明確なヴィジョンがあったよね。で、バンドも『フル・コンタクト』のあたりからどんどん人気が出てきて、ライヴもお客さんが入るようになって、で、『フロム・クリエーション』か。

秋本:そのときは俺はもういないっすよ。

途中で辞めたんだっけ?

秋本:いや、『フル・コンタクト』を最後に辞めましたね。

辞めた経緯はまあおいといて、あの頃の俺がいちばん驚いたのは、ドライ&ヘビーを辞めて、秋本君が次に"新しいドライ&ヘビー"を作らなかったことなんだよね。ドライ&ヘビーのコンセプトを作った男がバンドを退いて、新しくはじめたレベル・ファミリアではあれだけこだわっていたルーツ・レゲエのスタイルを捨てたでしょ。

秋本:いちばんわかりやすい方法はとらなかったですね。もういちどレゲエ・バンドをやるっていうのはなかったですね。

あれだけレゲエ・バンドのスタイルにこだわっていた人間がそれを捨てたっていうのは何だったの?

秋本:それは......自信があったんですよ。

ほー。

秋本:まあベース。俺ひとりでもあいつらみんな殺してやるぐらいの。俺ひとりでぜんぶ封じ込めてやるぐらいの。

ハハハハ。

秋本:ゴス・トラッドとやるのも決まってたし。あいつとやることにすごく自信があったんです。「おまえらみたいに名前にこだわって目先の金目当てにやってんじゃねぇんだぞ」って(笑)。あいつらがヘビーがいないドライ&ヘビーをやってたわけじゃないですか。だったらそれをひっくり返してやろうって思ってましたね。「レゲエってそんな簡単じゃねぇぞ」って。

そのひっくり返すときにドライ&ヘビーみたいなスタイルを取らなかったのは何故? 

秋本:俺がベースを弾いていれば、それがどんなスタイルだろうがレゲエになると思ったんすよね。あと、ゴス・トラッドはいまでは海外ではもう第一線でやってるじゃないですか。あいつは俺が初めて会って初めてセッションしたときからすごかった。あいつのダブのセンスはすごいっすよ。日本では、内田(直之)君が「すごい」ってなればみんながみんなダブ・ミキシングは内田君に依頼するけど、俺に言わせれば、ダブのセンスに関しては、内田君よりもゴス・トラッドのほうが100倍すごいっすよ。

たしかに、いまでこそゴス・トラッドの国際的な知名度はすごいけど......。彼とはどうやって知りあったの?

秋本:たまたまあいつがやっているライヴを見たんですよね。ドライ&ヘビーvsDJバクっていうのがあって、そこにゴスがひとりで出てたんですよね。まだダブステップもない頃で、自分のビートをダブ・ミックスするようなライヴだったんすよね。それがもう、すごい良くて......。気がついたら最前列にいってて。「アイツ誰だ?」って話になって。だから......最初はドラヘビで(内田直之の代わりにゴス・トラッドにミキシングを)やらせようと思ってたんですよ。それもバンドと揉めた一因でしたね。俺は、ミキサーにゴスを推薦したんですよ。

その話も前に会ったときに言ってたね。まだドライ&ヘビーを辞める前だったもんね。

秋本:そうっすね。そもそもどうしてドライ&ヘビーって名前にしたかと言うと、俺と七尾君のドラムとベースに自信があったからなんですよね。それは練習してどうにかなるようなものでもないんですよ。

それは......?

秋本:あのね、グルーヴ感なんすよね。それは練習量で可能なものじゃない、だからものすごい確率で出会っているんすよ。100曲やれば100回マジックが起きるんですよ。普通では出ないグルーヴの落としどころっていうのがあるんです。で、そこにゴスのダブが加われば、「コレはもう絶対にいける!」と思ってたんすけどね......。
 面白かったのは、ゴスはリー・ペリーも知らなければキング・タビーも知らなかった、レゲエなんか知らないわけですよ。でもいざセッションしたら、ダブのセンスがすごいわけですよ。そのとき「キング・タビーはこういうヤツだったんだ」って思ったんですよね。

ああ。

秋本:キング・タビーの前にダブはないわけじゃないですか。で、リー・ペリーの前にダブはないし、あのふたりは同時期にはじめて、だから完全に自分の世界のオリジナルでやっているわけですね。その音の方向性が見えているわけですよね。ゴスも「あ、こういうことなんだな」って思ったんですよね。アイツは現代のキング・タビーっすよ。

そこまで言う?

秋本:10年前からそう思ってましたね。だから自信があったんですよ。先輩として、ミュート・ビートが最初に日本のダブっていうのを認めさせて、ドライ&ヘビーも日本でそれをやって......、ただドライ&ヘビーはファンといっしょに成長したっていうか、大きくなっていったんです。当時、世界でいちばんダブが売れる国がフランスだったんですけど、その次が日本だったんですけね。ドライ&ヘビーはファンも巻き込んで、「ルーツ・レゲエっていうのはこういうものだったんだ」ということを学んでいったバンドだったと思うんですよね。

うん、本当にそうだったね。

秋本:だから、本当にダブの意味をわかってくれれば、俺はみんなもレベル・ファミリアに来てくれると思っていたんです。みんなこっちに連れて行けると思ってたんですね。だけど、みんな最初の曲がり角で迷子になっちゃったっていうか(笑)。

ドライ&ヘビーのわかりやすさっていうのもあったしね。まあ、ドラヘビに関しては、イギリス人を認めさせたっていうのがあるよね。〈グリーン・ティー〉からイギリス盤も出ているし、ゼロ年代のなかばだったかな、ドラヘビはとっくに解散してたけど、アンディ・ウェザオールが日本に来たときに、彼はたしか最初にドラヘビをかけたんだよね。それは感動的だったし、スタイル的には目新しさがないのに、それでも認めさせたっていうのがすごいよ。だから自信があったという話だけど、ホントによくその長い時間かけて磨いてきたスタイルを捨てることができたなと思っていたんだよね。

秋本:いろいろ、まあ、苦しみましたけど(笑)。

はははは。

秋本:到達するまではね。愛着もあったしね。

それこそ俺にドライ&ヘビーを推薦してくれたのはオーディオ・アクティヴの大村(大助)君だったんだけど、彼が僕に何て説明したかと言うと、「とにかく気合いがすごいバンドなんで」って言うんだよね。「どこが良いの?」「気合いっすね」みたいな感じで、で、実際に秋本君と会ったら本当に気合いだった。そういう意味ではレベル・ファミリアも同じなんだけど、でも、やっぱ打ち込みでやるっていうのは、それまでのドライ&ヘビーを聴いていると、ちょっと驚きだったなぁ。

秋本:グルーヴは......打ち込みだったら、(テンポが)狂わないじゃないですか。それだったら、それまで俺が練習してきたベースでグルーヴを出せる自信があったから。ビートさえあればレゲエはできるっていう風に思っているし、俺がいないドライ&ヘビーよりもレベル・ファミリアのほうがレゲエだよっていう風に思ってましたね。

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レゲエしか持っていないグルーヴっていうのがあるんですよ。それを後天的に欲しいと思ったら、練習によってDNAの配列を変えていくしかないっていうか。練習でDNAが変わってしまうぐらい、やるしかない。練習して、それを血のなかに入れていくしかないんですよ。

秋本君はベースをどういう風に練習したの?

秋本:いまでもそうですけど、レゲエのグルーヴはレゲエのミュージシャンにしか出せないんですよね。どんなにうまい黒人のジャズ・ミュージシャンでもそれは出せない。ジャズのミュージシャンやファンクのミュージシャンがそれをやってもレゲエのグルーヴは出せない。それをやってしまったダサい例はいっぱいあるんですけど......ていうのは、レゲエ・ミュージシャンしか持っていないグルーヴっていうのがあるんですよ。それを後天的にというか、俺が後からそれを欲しいと思ったら、練習によってDNAの配列を変えていくしかないっていうか。

なるほど。

秋本:練習でDNAが変わってしまうぐらい、やるしかない。練習して、それを血のなかに入れていくしかないんですよ。毎日、本当に......。

どういう練習?

秋本:それは悩むより、考えるより、もうとにかくコピーですよね。それはもういち音いち音ぜんぶ確実に......ですよ。耳壊れるぐらいに。大変なんですよ、レゲエのアルバム1枚、ベースを自分で起こしながらコピーするのって。低域だし、音階もわかりづらいし......それを1枚コピーしたら、3年間毎日繰り返す......。そういうのを何100枚もずっとやってきているんです。そうやってグルーヴを追いつめていくっていうか、そうやって時間かけてやっていると、レゲエのなかで見えてくるんですよね。

それはすごい話だね。

秋本:いまでもまあたまに、「このグルーヴは知らない」っていうのが出てきますけど、まあほとんどは......。そういう風に、身体で覚えるしかないんです。だから遠回りのようで近道なのは、コピーするしかない。だからみんなは俺のベースを聴いて「遅れてる」って言うんですけど、レゲエやりたいってヤツで俺とセッションして「遅れてる」って言うのはまだそいつがぜんぜんわかってない。ロビーのベースにも、レコーディングのミスじゃないかってぐらいに遅れているやつ、けっこうあるんですよ、ベースがドラムに対して遅れてるっていう。でも、それがレゲエのグルーヴなんですよね。一定のドラムのビートに対して0コンマ何秒で落としている。そのループがあのタフなグルーヴを作っている。単純にイコライジングでグッと上がるものじゃない。グルーヴで音圧を出している。

なるほどね。あのシンプルさのなかにある細かい複雑さなんだね。

秋本:そうっすね。だから俺は打ち込みでもレゲエのグルーヴはできると思ったんですよ。あとはゴスのダブのセンスがあれば......ってね。アイツにはあと、トラックメイカーとしての卓越したものがある。それに俺のベースが加われれば......って。

その0コンマ何秒の遅れっていうのがすごい話だね。

秋本:スライとやるために3年前にジャマイカ行ったときも、ダンスホール・バブルで、日本人はそこに金を落としてくれる連中だぐらいにしか思っていないわけですよ。ジャマイカ録音っていう言葉が欲しくて、お金を落としていくわけじゃないですか。俺なんかそんな金ないから......だけど、みんな認めてくれて、俺に良くしてくれたのは、俺にそのグルーヴがあったからっていうのがあって。それがやっぱ、「何でなんだ?」ってなるわけですよ。「日本人のおまえが何でこれを出せるんだ?」って。それで最終的にみんな認めてくれたりとか、良くしてくれて。

へー、そうか。秋本君は自分のクレジットを"REBEL BASS"ってしてるじゃない。レベル・ファミリアにも"レベル"が付いているんだけど、秋本君のなかでベースと"レベル"はどうやって結びついているんだろうか?

秋本:意地ですよね。俺のなかの"レベル"っていうのは、スライといっしょにやったときに感じたもの。その気の圧力みたいなもの、それが"レベル"だと思っているんですよ。俺はレベル・ファミリアをやったときに、意地で言ったんです、レベル・ミュージックっていう言葉を。『RIDDIM』のインタヴューだったな......その頃、"レベル・ミュージック"なんていうのは死語になっていて。俺はボブ・マーリーと同じ世界で生きる者として聴いてきて、生きてきたから、レベル・ミュージックっていうのは当たり前だったんだけど、でもその編集長は「いまさらレベル・ミュージックなんて言っても」みたいな、シラけた感じだったんですけどね。俺のなかでレベル・ミュージックっていうのは。ボブ・マーリーの"トレンチタウン・ロック"のなかで「音楽で俺を打ってくれ(hit me with music)」っていう、それって心を打たれるってことじゃないですか。音で心を打つっていう、そういう魂を打つっていうのが、俺はレベル・ミュージックだと思う。俺にとってはそういう意味っすよね。それが入っているか入っていないか......。

なるほどー。

秋本:こないだ『ベース・マガジン』で取材受けましたけど、俺は自分をミュージシャンだと思ったことがないんですよね。テクニックがあるわけじゃないし、音符も読めないし、スケールもコードもわからない。俺にとってベースは銃みたいなものなんです。本当に銃だと思っている。

そのことを『ベース・マガジン』で言ったの?

秋本:言いましたよ。だいぶ笑われましたけど。

はははは。

秋本:上手い人なんていくらでもいるし、器用なベーシストなんていっぱいいるんすよ。ひとつあるとしたらその意識だけっていうか、楽器としてベースを弾くか、銃としてベースを持つかっていう、その違いだけだと思っている。

レベル・ファミリアとヘビーマナーズと、ふたつに分けた理由は?

秋本:いまはドライ&ヘビーも復活しましたけど、レベル・ファミリアをはじめた頃はまったくそういうつもりがなかったですからね。いまから1年前まで、もういちどやるっていう考えはなかったですね。
 ヘビーマナーズをやったのは、ドラヘビを止めて、さっき野田さんが言ったように、敢えてレベル・ファミリアみたいな音をやって、そのレベル・ファミリアも新しいリスナーから支持されるようになって。で、ひとつ思ったのは、若手を育てなきゃーなと思ったんですよね。

ああ、それはどっかのインタヴューで読んだ。

秋本:日本は......、ダンスホールは俺の領域とは関係ないんですけど、ひとりのレゲエのシーンに関わる人間として、やってる人たちが20年前とあまりにも変わっていないんですよね。それこそジャマイカごっこで、名前を変えてやっているだけで、同じ人がずっとやっている。若い子がぜんぜんいない......ていうことは、ルーツやダブが憧れの対象になってないってことなんですね。それは不健康なことだと思っていたし、で、レゲエの人たちが何かやるって言っても、みんな仲間内の村社会的な人選で決めちゃうし、俺は昔からそんなのは大嫌いで。だからなおさら若手に場を与えて、若手を育てなきゃーなと思ったんですよね。

鬼コーチでしょ?

秋本:いやー......、ていうか、ジャマイカ行ったときも思ったんですけど、もういないんですよ。ジャマイカでさえもミュージシャンがいないし、スライとか、あの辺がピークで、その少し下にちょっといるぐらいで、ジャマイカはリアルに食えないとやる余裕がないんで、楽器なんかやっても金持ちになれるわけないっていう。だからあのグルーヴはあの世代で終わってしまうんですよね。これはものすごい損失だなと思って。「おまえがやってくれ」ってスライからも言われて。「ジャマイカの若いヤツらができないことをおまえがやってるんだから」って(笑)。イギリスにしたって、ダブ・シンジケートがコンスタントにやってるわけじゃないし、いつも活動してるわけじゃないじゃないですか。そういうことに危機感を感じたし、まあ、俺なんかが偉そうなこと言えないんだけど、ただ自分ができる範囲でやろうっていうか、ルーツに根ざしたレゲエを練習する場を作らなきゃなと思ったんですよ。ヘビーマナーズはそこからはじまったんすよ。

秋本君は、現在の......というか、この20年のジャマイカの音楽をどう見ている?

秋本:昔は、ボブ・マーリーが死ぬ前と後とではぜんぜん違うなと思っていて、「これはもう、ものすごい指針を失ったんだな」と勝手に想像していたんですね。大きなキングというか、みんなのシンボルが死んで、いっきに力が抜けてしまったんじゃないかという風に思ってたところがあったんですね。ドライ&ヘビーをはじめた頃は、ボブ・マーリー以降のものは受け付けられなかったし、「何でこんなに軽い、安っぽいものになってしまったんだろう」って思ってたんです。だけど、最近はぜんぜんそうは思っていなくて、ジャマイカに行くともうレゲエはレゲエなんですよね。バレットが演奏してなかろうが、スライがいなかろうが、レゲエが成り立っている理由はひとつというか、みんな共有していて、昔から何も変わっていないということがわかって。いまでもレゲエがいちばん進んでいると思っているし、間違ってないと思ってますけどね。

具体的にはどんなところにそれを思う?

秋本:サウンドシステムに行ってもそうだけど、最新のクラブ・ミュージックよりも実験があるし、ぜんぜん新しいことやってるし、これが10年後にまわりが気がついて取り入れはじめるっていうか、昔からそうじゃないですか。

たしかに。

秋本:早すぎるんですよ。すごいんですよね、ジャマイカのレゲエって。

アリ・アップも同じようなことを言ってたな。

秋本:そういうヒントの断片がすごくある。新しいっていうか......やっぱすごい。

リズム?

秋本:リズムもそうだし、テクノにも聴こえるし、アフロにも聴こえるし、最先端っていう感じがある。レゲエはレゲエなんですよ。

ジャマイカは何回も行ったの?

秋本:いや、俺はスライとできるようになるまで行かないと決めてたんで。その機会が3年前にあったんすよね。だから初めて行ったんですよね、3年前に。

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こっちも燃えてくるような、そんな気持ちを持った人としかやれないし。俺はいままで、シンゴ02もそうだし、ボス・ザ・MCもそうだし、キラー・ボングもそうだし、ルミちゃんもそうだし、本物としか絶対にやらない。


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そろそろ今回のアルバム『サバイバル』について話を訊かないとね。まずはアルバム・タイトルの『サバイバル』はどういう意味を込めているんですか?

秋本:震災があったからじゃなくて、あらかじめ考えていたテーマなんですよね。まあ、レゲエの普遍的なテーマでもあるじゃないですか。状況がどうであれ、生き抜く、生きていくしかねぇんだっていう。1月から録りはじめて、もともとぼんやりとあったんですよね。まあそれでルミちゃんもゲストに迎えて、まあ、震災があった後ではなおさら必要な言葉じゃないのかなと思って。

震災前にドミューンで会ったときに、ルミさんのことは言ってたね。まさかにこういうカタチになるとは思わなかった。

秋本:言ってましたか......。まあ、けっこう夢中で、1年半ぐらい練習してたんですよね。すごい娘になったなーと思って。すごいメッセンジャーになったなぁと。で、いっしょに練習しはじめてから、化学反応がすごかったんで、「これは面白くなるな」と思ってましたね。

ラガマフィン調のラップも格好良かったけど、その辺りは秋本君のディレクションはあったの?

秋本:何もないっすね。ひと言も言ってない。

秋本君と話したときに、「すごいメッセンジャーは絶対にレゲエのシーンから出てくると信じていた」と。「悔しいけど、出てこなかった」と。「ヒップホップのほうから出てきた」ってことを言ってたよね。

秋本:はい、そうっすね。ただ俺がまだ知らないだけど、レゲエのなかにも孤軍奮闘しているメッセンジャーがいると信じてますけどね。俺のなかでレゲエっていうものを音楽のジャンルやスタイル以外で考えたときに、生き方だったり、メッセージ、日本での立ち位置がよりレゲエ的っていうかね。こっちも燃えてくるような、そんな気持ちを持った人としかやれないし。俺はいままで、シンゴ02もそうだし、ボス・ザ・MCもそうだし、キラー・ボングもそうだし、ルミちゃんもそうだし、本物としか絶対にやらない。

秋本君が言うところの"本物"の定義っていうのは?

秋本:メッセージがあるっていうか、人のためにあるかないかっていうか。いいまのルミちゃんは自分のためじゃないですよ、存在も歌もね。人のために歌っている。そこが大きな違いじゃないかなと思いますね。

なるほどね。話が前後しちゃうんだけど、『サバイバル』っていう言葉にした背景をもうちょっと話してもらえますかね。

秋本:そうですね......。

"サバイバル"って、いまの日本では下手したら勘違いされる言葉だと思うんだよね。だってこれだけ息苦しい競争社会なわけじゃない。僕なんかが子供の頃はまだゆるい社会で、たとえば成績が良い悪い関係なく、「俺はサラリーマンはイヤだから板前になるわ」とか、生き方にもっと多様性があったんだよね。でもいまは世のなかがもっときつくなっているというか、なんか企業の正社員になることが唯一の生き方みたいな、そういうサバイバルもあるわけじゃない。

秋本:そういうサバイバルは頭にぜんぜんなかったですね。

絶対にないと思うんだけど(笑)。

秋本:いつも話すことでもあるんですけど、俺がいまでもベースを持って......やっぱ俺も好きなだけじゃやれないわけですよね。ポップなことやってるわけじゃないから、生きていくのも大変だし、実際金に困るし、でも、俺は金に媚びてやったことはいっかいもないし、金以上に素晴らしいことを知ってる。
 なぜここまで......俺も人のためというか、自分がボブ・マーリーからもらったように、俺も分け与えたいっていうのもあるんですよ。俺はボブ・マーリーに心を打たれて、そのときに宿された魂みたいなのがあって、それがいまだにやっているエネルギー源なんですよね。石油も石炭も燃えてしまえば消えるけど、永久に消えないエネルギーってもんがあるんですよね。それは人間の思いなんじゃないかと思うんすよね。誰かにもらったエネルギーが人に宿って、他の人にも連鎖していく、こんな俺でさえここにはせいいっぱい込めたものがあって、それがもし誰かの心を打つことができて、そのエネルギーをその人に分け与えることができれば、それもまた連鎖していくっていうか。だから、"サバイバル"のための頼りにできるような何かにしたいという願いを込めてこういうタイトルにしたっていうのもあるんすよね。生き抜くための頼りになる音っていうか......。

秋本君は、秋本君が15歳のときに『ナッティ・ドレッド』を聴いて感じたように、いまの15歳も同じように感じてくれると信じているんだね。

秋本:信じてますね。

実際にそういうリアクションはあるの?

秋本:ありますよ、手紙が来たり。汚い字で、17歳で、「ベースやってます」と。「将来、俺も前に立てるようになりたいです」とか。それとか、「まだ歳がいってないから、夜中のイヴェントに行けないんで、夕方のコンサートもやってください」とか。地方行くと、たまに16歳ぐらいの子が来てたりしますよ。だからいるんですよ。

そうだね。

秋本:嫌いな人は俺らのこと絶対に嫌だと思うし......、俺の音楽ぜんぶそうだと思うんですよね、暑苦しいし。

ハハハハ、わかってるんだね(笑)。

秋本:拒否反応する人、絶対にいるんですよ。ルミちゃんも絶対にそういうアーティストだと思うし。俺は自分が弱っているときにボブ・マーリーを聴くんですけど、ふだん、いちばん聴けないのもボブ・マーリーなんですよね。ビッグ・ユースとかもそうですけど、簡単に針を落とせないっていうか、俺はなるべく聴きたくないんですよ(笑)。ホント、自分が精神的にも充実してないと聴けない。でも、弱っているときに、ホントは聴きたくないんですけど、でも、聴くと魂をもらって元気が出てくるっていうか。本物のメッセンジャーはそう容易いものじゃないし、ルミちゃんもそうだと思うんすね。みんな傷ついたら耳障りの良いものを聴きたがると思うんですけど、それは応急処置なんですよね。絶対に治癒はしないと思うんですよね。

秋本君は震災があったときにどこにいたの?

秋本:俺はたまたま仕事が休みで家にいたんですよね。

じゃあ、けっこう棚が倒れて。

秋本:そうですね。CDがばーっと落ちてきましたね。

そのときレコーディングはどのくらい進んでたの?

秋本:もう収録曲はほとんど録って、あとはオーヴァーダブ、ダブ・ミックスだけが残っていた。それがあの原発の事故があったんで、ルミちゃんと"誰かのあの子"を作ったんですよ。こんな事態になってしまって、何かそれに対して曲を作らないとって、ルミちゃんにも「何か新しいリリックできないか」って話して、それが"誰かのあの子"になったんすよね。

そうだったんだね。秋本君はいまでもトラックの運転手やってるの?

秋本:やってますよ。

けっこう長いよね。

秋本:ドラヘビでいちばん揉めていた頃からですからね。俺がいないのにドラヘビで出すってことが決まったとき、俺はトレーラー運転してましたからね。

はははは、そうなんだ(笑)。

秋本:トレーラーでレゲエ聴いてましたよ。40トンとかひっぱりながら(笑)。

はははは。

秋本:「俺のほうがいま絶対にレゲエに向き合っているんだ」って思いながらね。「おまえら楽してるかもしれないけど、俺のほうがレゲエに近づいてるぜ」って思いながら(笑)。

もう和解したことだし(笑)。

秋本:もちろんいまはもうぜんぜん何もないすけどね(笑)。

何でトラックの運転手を選んだの?

秋本:いや、もう単純に、他にやれることないんすよ。俺がドラヘビ辞めたとき、俺はもう32だったんすよ。それまでもずっとバイトで食いつないできたんですけど、俺はリーダーだったから、みんなはレコーディング中で自分のパートが終われば終わりだけど。俺はミックスが終わるまでずっといるわけです。だからレコーディングの度に仕事をクビになるんですよ。まあ、リーダーだから仕方がないんですけど。それでもう、借金もすごいたまってたし(笑)。ただ、毎回クビになりながらも、ドラヘビ続けながらやっていた仕事が運送の仕事だったんですよね。ドライヴァーやって、最初は軽トラからはじまって、2トンになって、4トンになって。自分なりにステップアップしてって......で、最後はトレーラーまでいったんですよ(笑)。いちばんでかいヤツっすね。

なんて言うか、秋本君は本当にそういう男だよね。

秋本:孤独ですけど、自由ですからね。朝出ちゃえば、誰にも文句言われない(笑)。

秋本君が落ち込むときっていうのは、たとえばどんなとき?

秋本:うーん、どうっすかね......。やっぱ、納得いかないライヴやったときっすね。

そうか......。

秋本:そうっすね。

じゃあ、最後に何か予定があればお願いします。

秋本:8月26日に恵比寿のリキッドルームでリリース記念のライヴがありますね。まあ、そんなところですかね。

ドライ&ヘビーもやるんだよね。楽しみです。じゃあ、今日はどうもありがとうございました! 

 最後に本文とは直接関係ないが、秋本武士の取材のちょうど直前に中村とうよう氏の訃報を知った。僕がいちばん最初に買ったレゲエのレコードは、当時氏が監修した〈トロージャン〉レーベルの「THIS IS REGGGAE」シリーズの1枚、『グレイテスト・オリジナル・レゲエ・ヒッツ』だった。いまでも家にあるそのベスト盤のライナーは氏が書いたもので、中学3年生だった僕はそのライナーを読みながら、何百回とそのレコードを聴いた。ライナーは当時のレゲエの解説としてはずいぶんと詳細なデータが記されていて、そこには当時の僕の汚い鉛筆の筆跡でいくつかの傍線や書き込みがある。ロックステディという言葉もそのライナーで知った。末筆ながら、氏のご冥福を祈りたい。

NHKyx - ele-king

 コウヘイ・マツナガがベルリンに住みはじめてから4年が経つ。ドイツの首都と大阪を拠点に音楽制作を続け、そしてヨーロッパをツアーしている。昨年はミカ・ヴァニオ、ショーン・ブース(オウテカ)とのコレボレーション・アルバムをマサチューセッツの〈インポータント〉からリリース、さらにまたセンセーショナル(元ジャングル・ブラザースのぶっ飛んだラッパー)とのコラボレーション・アルバムをマンチェスターの〈スカム〉からも出している。1998年に発表した、10代のときのデビュー・アルバムがフランクフルトの〈ミル・プラトー〉からだったから、彼の音楽活動において日本という縛りは最初からそれほどなかったのだろう。
 フットボールにおけるボスマン判決(移籍の自由化)は、自由という名目のもとにリーグ内外の格差を増長し(数年前まで世界に名だたるオランダ・リーグや東欧のリーグもいまでは人気リーグの草刈り場と化し、スペイン・リーグにいたってはたった2チームしか優勝争いしていないかのような偏った状況)、それが「世界基準」という名の欧州コンプレックスに振り回されるJリーグに悪影響を与えていることは言うまでもない。こうした、理想なき自由が大手をふるっているいっぽうで、音楽を志す日本人が日本から出る自由を実践していることは夢のある話だ。それは......よく勘違いされるのだが、海外で認められたから価値があるのではない。それがDIY主義に基づく国際的な大衆運動のひとつだと言えるから価値がある。それはそれで大変だろうけれど、とにかく......たとえば、日本のヴィジュアル系が海外で受けているとか、そういう次元の話じゃないわけです。
 ことエレクトロニック・ミュージックをやっている人間にとっては、昔から言われていることだが、国境を越えることは歌手やラッパーよりはずいぶん容易いし、20年前までは経済的な自立が困難だと思われた急進派の作品も、〈ワープ〉のようなレーベルが広くネットワークを築いたことでそれを可能にしている。コウヘイ・マツナガの音楽にはそうした前向きな、つねに明日に向かって吹いている風のような自由がある。

 エレクトロニック・ミュージックにおける多くの急進派は伝統的に匿名性を好み、多くの名義を使いたがるが、コウヘイ・マツナガも例外ではない。Koyxeи、NHKbs,、NHKyx......本作はNHKyx名義の2ヶ月前に〈スカム〉からリリースされた新作である。19曲が収録されているが、そのなかには"475""543""474""257""421""261"といった数字だけの曲名がある。これは曲名が思いつくよりも早く曲が出来てしまうという彼のスピード感を表している。とにかくひたすら......曲を作る。3年で700曲作ったというが、それは初期のエイフェックス・ツインを彷彿させるエピソードだ。
 彼の音楽には曲によっては印象的なメロディもあるが、その多くはビートに特徴を持っている。コウヘイ・マツナガが〈ワードサウンド〉から作品を出し、また、センセーショナルというラッパーと何度も共作しているという彼のディスコグラフィーは、彼の音楽にはヒップホップからの影響があることを示している。それは、IDM系とはいえ、ヒップホップを愛する〈スカム〉と共通する感性だ。本作でもラッパーをフィーチャーしている曲があるが、彼の音楽はまさに〈ワードサウンド〉と〈スカム〉の溝を埋めるようでもある。初期の頃はインダストリアル色が強かったというが(メルツバウとも共作している)、本作はユーモラスで、愉快にさえ思える。僕は"Flying 10ch"のような、バケツを叩きながら笑っているような曲が好みで......まあとにかく、これは嬉しいアルバムだ。

Twinsistermoon - ele-king

 昨年の秋に小谷元彦展でみた「インフェルノ」を思い出した。半径5メートルもあっただろうか。8角堂のそれぞれ8面を滝のように勢いよく水が流れ落ちるインスタレーション。なかに入れば我々は水の壁に囲まれる形になる。といっても本物の水ではなくハイヴィジョン映像なのだが、であるがために奇妙に抽象性を帯び、日常空間をぐっと異化する装置としてひと際存在感を放っていた。カットアップされた奔流はそれぞれの平面を一定の時間落ちつづけ、その間8角堂の内部は持続的な上昇音で満たされる。厳密に音階が上がっていたのかどうか覚えがないが、落下する水音とは逆に、その電子音は息苦しいほど昂揚し、やがてその頂点で一瞬の無音を迎える。すると背後に追いやられていた水音が解放されたかのように溢れ出すのだが、今度は視覚的に、水が上昇していくような錯覚に陥るのである。錯覚ではなく、実際にそのような映像だったのかもしれない。水が上昇しはじめると、こちらの身体は落下するように感じる。しかも映像であるため水流には始まりと終わりがなく、身体の落下にもまた終わりがない。落ちているのか昇っているのか、それが水の方なのか身体の方なのか、五感を揺すぶられるというのはこんなに心許ないものかというくらい、自分が麻痺してしまう。筆者はアニマル・コレクティヴ『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』のジャケですら本当に酔ってしまうほど錯覚に弱いのだ。

 "ゼン・フェル・ジ・アッシィズ"はこれととてもよく似ている。「インフェルノ」は垂直方向のイメージだが、こちらは水平方向と言えばよいだろうか。進んでいるのか戻っているのかわからなくなる。軋むような弦のノイズがレイヤーを形成し、ちらちらと降りかかるクリアなピアノの高音がロマン派の名曲を彷彿させる、叙情的なドローン。25分におよぶこの長尺トラックでは、ただでさえはじまりと終わりの観念が麻痺する。やがて水音のサンプリングが挿入され、その流れがトラックの時間を牽引していく。この時間のなかで、あるテンションが持続し、昂揚していくのだが、その極点で突如歌がはじまり、時間と風景が一変する。荒涼とした丘にたつ墓標、そこに吹きつける風を思わせるすさまじき(=ものさびしい)歌は、ヴァシュティ・バニヤンと比較されたりしているが、この歌ははたして歌と呼んでよいものかどうか、言ってみるならば純度の高い「念」といったふうであって、それまで22分もピアノとギター・ノイズで覆われていたその「念」が噴き出してくるや、時間は後ろへ後ろへとものすごいスピードで流れはじめる。そのように感じられる。ちょうど「インフェルノ」の空間性を時間性に置き換えたかのようなのだ。

 ジャケットに記載された詩を読んで、この感覚が気持ち悪いほど詩の内容と符合することに驚いた。24分の楽曲において22分を過ぎてはじまるその唄は、これまでには見たことのないような暗くさびしい丘の描写からはじまる。その場所はしかし、親しきもののもとを去ってから幾度となくいた場所である......このトラックの音そのものだ。詩をみるまえに丘を思った。その意味でとても映像的だとも言える。そして唄はつづける。「いまあなたはあなたの人生の灰の上を歩く。食べるものも、自分が天にとどくという望みもなく」
 唄の出現とともに時間が逆に流れはじめるような錯覚は、この「人生の灰の上を歩く」という表現に対応するだろう。これまで過ごし、流れてきた時間が燃えていくのである。本当に悲しい、やるせない、なんのために唄われるのかわからない、「念」のかたまりだ。
 こんなものを唄い、奏でるのはいったいどんな人物なのか。ナチュラル・スノウ・ビルディングスというフランスのフォーク・デュオの片方だということだが、もうこれで3枚目となるソロ作。2007年の『レヴェルズ・アンド・クロッシングス』は日本でも注目を浴びたようだ。暗く陰鬱な狂気が渦巻くギター・ドローンには、音へのフェティシズムではなく、本当に純粋な思念が感じられる。サイケデリック・フォーク、アシッド・フォーク、フリー・フォークなどと呼んでも差し支えないと思うが、幻覚作用や覚醒作用をパフォーマティヴに意図する音ではない。思いを解放する、その意味で真に叙情的な音楽だと思う。彼の声もまたすさまじい。これが女性の声でないと、誰が思うだろう? か細く、高く、集音機にどうしても混じってしまう風のノイズのように、よりどころのない声だ。ツインシスタームーンを聴いていると、音や唄は作るものではなく、生まれてくるものだというふうに感じられるが、そのように音が生まれてくることが幸福なことかどうか考えてしまう。"ゴースト・ザット・ワズ・ユア・ライフ"や"トレイラー"など素朴なスタイルのフォーク・ソングは人生に捧げられたレクイエムだ。黒地に白い文字の詩でびっしりと覆われたジャケットも、そういう意趣かもしれない。
 ボーナス・トラックの"ア・フォールアウト・シェルター・フォー・メモリーズ"だけがすこし明るい。男声とオルガンとギターが渾然となったドローンで、その層の上に響くクリーン・トーンのギター・アルペジオが、風前のくもの巣のようにはかなく、美しい。五感を揺すぶられるように魂が揺すぶられる。それとも魂とは結局五感のことだろうか?

Amy Winehouse - ele-king

 スタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』の最後のシーンにおいて、現実との接点を失ってうろたえるトム・クルーズの脇でニコール・キッドマンが前を見ながら「ファックすることよ」とつぶやいてから4年後......当時まだ20歳だったエイミー・ワインハウスの歌う「ファック・ミー・パンプス」はリリースされた。金持ち男探しに懸命な同世代の女への攻撃を歌ったその曲をはじめとして、ワインハウスは、彼女の天才的な歌声で、さまざまな「ファック」を歌った。「早くファックしてよ」「もうあんたとはファックしないわ」......やがてマーク・ロンソンという才能と出会って、モータウンのレトロなソウルをモダンに磨いた彼女の音楽は、ゼロ年代においてもっとも重要なもののひとつとなった。

 「暗闇を彷徨っていたけどもう大丈夫/二度と酒なんか飲まない/私はただ、友だちが欲しいだけ」、この曲"リハブ"もそうだが、ワインハウスの音楽は、傷つくことを恐れるかのように直接の人間関係を忌避しようと整理されていく社会とは真逆で、彼女の心の傷でいっぱいだった。「医者に行くくらいなら、家でレイ・チャールズを聴いているほうがマシよ」、身体に悪いことがときとして犯罪のように思われ、人びとの喧噪や猥雑さから逃れようとする人たちがいるいっぽうで、彼女はサラ・ボーンから影響を受けたその声を使って、通俗的な愛の営みを求め続け、そして傷つくことがわかっていてもそれを止めなかった。"ラヴ・イズ・ア・ルージング・ゲームス"は、そうした通俗的な「ファック」を崇高なレヴェルにまで持ち上げるかのような、奇跡的な力を持った曲である。「愛は勝ち目の無いゲーム/どんなに私ががんばっても、愛には打つ手がない」、暗闇のなかの自分の魂を救うかのように、ワインハウスは胸が張り裂けそうな声で歌っている。
 それから......「あなたは私のあそこを濡らしたまま、去っていく/見込みはないわ/だからまた酔っぱらうの」、ピアノのリフが印象的な"バック・トゥ・ブラック"もまた救いようのない失意の曲である。「言葉だけのさよならをかわす/もう100回死んだわよ」

 酒とドラッグによる自堕落な生活が彼女の死を招いたという。まあそうだとしても、彼女の作品の輝きは変わりっこない。彼女はとにかく「負け」を、しかし燃えるようなその声で歌っている。「負け」を恐れずに、乗り越えるために歌っているように思える。「私があなたにしてあげられるのは/いままで通り暗闇にいることだけ/それから罪悪感になんとか慣れることぐらい」、"ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン"ではワインハウスは前向きな声でこう繰り返し歌っている。「暗闇のなかで私の涙は乾いていくのよ」

 エイミー・ワインハウスはロック・スターではない。彼女はR&B/ジャズのシンガーだった。僕は彼女の音楽を本当に何回も繰り返し聴いたものだった。彼女の音楽には、通俗的で、身近で、いろいメンドクセーし、気が滅入るほど大変なことが多いけれど、しかし生々しい愛があった。それはいくら傷ついていて、そしてまた深い悲しみを経験しても、決してうろたえることのないものに感じられる。エイミー・ワインハウス、レスト・イン・ピース。

 〈パラダイス・ガラージ〉は、たくさんの、本当にたくさんの人たちのこうした思い出の中心だった。閉鎖10年以上経った今日も、〈ガラージ〉は聖なる場所として敬意をもって語られる。彼らは、そこは避難所であり、箱船であり、教会であり、寺院であり、家だったと言う。命を救われた、ストリートから足を洗うきっかけになった、生きる目的を与えられたと多くの人が口にする。こうした言葉でディスコを表現するのは奇妙に思えるかもしれないが、私たちは実際にひとつの部族のようだったし、部族の人々が何千年もやってきたことを、私たちも行っていたのだ。共に踊り、祝福することを通してコミュニティを築いた。古代の先祖たちのように、ドラムを叩き、顔にペイントし、月明かりの下で踊る、私たちはその同性愛者版の化身だっただけなのだ。私たちにとってそれが特に重要だったのは、ディスコから一歩外に出れば、まだ社会の除け者だったからだ。
――メル・シェレン『パラダイス・ガラージの時代』(浅沼優子 訳)


 僕がそのニュースを最初に知ったのは、ブルックリンのバンド、グリズリー・ベアのメイン・ソングライターのエド・ドロステのツイートだった。「7年付き合っている相手と今年結婚する予定のゲイとしては、このNYの平等な結婚でどれだけ興奮しているか説明できないぐらいだよ! (エド)」
 6月24日ニューヨーク州で、同性婚を合法とする法案 が州議会で可決し、ニューヨークはアメリカで同性婚を認める史上6番目の州となった(アメリカでは民法に当たる法律は主に州法である)。そのような話が進んでいたことを迂闊にも知らなかった僕は、次々流れてくるミュージシャンたちの歓喜と祝福のコメントを見て胸が熱くなり、次の瞬間それをネットでしか見られないことが残念に思えた。いま、ニューヨークはどんなに沸いているだろう!
 ......実際、ニューヨークの地元紙では大いに沸くゲイ・ピープルの写真が一面を飾り、そして週末のゲイ・プライドは相当な盛り上がりだったそうだが、その熱は日本にはほとんど伝えられていないように思われる。

 結婚というのは公的な制度であるので、同性婚が認められることによってさまざまな法的な権利がクリアになる。まずはこれが大きい。住居のこと、子どもを持った場合の親権、終末医療の問題、相続など......同性婚の是非についてはいまアメリカでもっともホットな議題のひとつだが、反対論者は根拠として宗教的・倫理的なものを挙げつつ、マイノリティの権利が拡大することを牽制している部分も大きいと僕は考えている。同性婚支持者が「平等な結婚」と表現するのもそういった理由だろう。
 だがそれ以上に、やはりこれはゲイとレズビアンにとってひとつの夢の達成である。結婚とはロマンティックに言えばその「愛」を社会が認める、ということだ。同性愛者たちが日陰のなかで生きる必要はなくなり、その愛を祝福されるときが訪れたことを告げている。それが、ニューヨークで実現したことは非常に重要なことである。

 ニューヨークはゲイの歴史にとって因縁の深い街だ。古くからアメリカ中、世界中からゲイが逃れるように集まりコミュニティを形成してきた都市であり、ここで1969年に起きた同性愛権利運動の端緒とされるストーンウォールの反乱は「ヘアピンの落ちる音が世界に響き渡った」という名文句とともに語り継がれている。ゲイ・カルチャーは長年アンダーグラウンドで発展を続け、ディスコが〈パラダイス・ガラージ〉とフリー・セックスの享楽のなかで頂点を迎える。そして地獄のようなエイズ時代も、この街は嫌というほど経験した。多くのものを喪いながら、いまでもニューヨークはたくさんのゲイたちが動かしている。

 ニューヨークのゲイ音楽にとって、ここ数年でのエピックはヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアの登場だろう。彼らはシカゴ・ハウスそして〈パラダイス・ガラージ〉の記憶と亡霊たちを召喚し、ディスコがいったい誰のための何のための音楽であったのかを完璧に思い出させた。地下のダンスフロアにダンスとセックスの快楽を求めに逃げてきたアウトサイダーたち、彼らがただすべてを忘れて踊るためだけの音楽。そして何よりも重要なのは、彼らはゲイ・カルチャーにおける、いや、ゲイの生における、愛ではなく孤独を、誇りではなく屈辱を、光ではなく影を、「今一度」鳴らしたということである。
 ゲイ・ポップスの多くは、多様な生き方とありのままでいること、それに「愛」を肯定し、それをほとんど過剰なまでにアッパーに祝福する。それはマイノリティであることの誇りを促すレインボー・フラッグの主張と合致するのだが、いまでも偏見が根強いことを思えばとても切実で、価値のあるものだとは思う。多くのゲイに支持されるレディ・ガガが歌っているのも基本的にそのようなことである。だが、その切実さがいったいどこから生まれたものか、時として見失われていることがあるようにも感じるのだ。
 ヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアが表現していることは、アントニー・ハガティをディーヴァに仕立てた"ブラインド"に集約されている。子どものころ、星が輝けばこの暗闇を後にできると思っていた。けれども年老いて、星は頭上で輝いているけれど、それは過去と未来とを悲痛に照らし出すだけで、「いま」を映し出しはしない。私は孤独で、何も見えないようだ......。"ブラインド"ではそのようなことが歌われている。その絶望的なまでの真実としての孤独をディスコのグルーヴに乗せることで、ただ刹那的なダンスを生み出している。それはまるで......その昔、毎晩ディスコに通い快楽に酔いしれ、エイズで命を失ったたくさんの名もなきゲイたちの記憶とともに踊るようだ。ヘラクレスの首謀者のアンディ・バトラーはどうしようもなくロマンティストであり、"ブラインド"はフランキー・ナックルズのリミックスによってはっきりとあの時代へと接続される。
 その暗闇は、たとえ時代が変わってもすべてのゲイが知っているものである。人生のある時点で、自分がこの世界でははみ出し者であると事実としてはっきりと悟るあの瞬間のことだ。誇りもありのままに生きることも、そして「愛」も、その暗闇がなければ輝くことはない。

 ニューヨークの同性婚の合法化は、かの地の同性愛者たちの長年の努力の結実である。彼らは警官に暴力を振るわれ、エイズで多くの恋人たちと友人たちを喪い、それでも権利を訴えることをやめなかった。それは、たとえ「社会の除け者」であることを自覚していた前世代のゲイたちのディスコ・ビートが鳴り止んでも、その想いは潰えなかったことの証明でもある。翻って、ストーンウォールの暴動が起こりようもないここ日本では、同性婚は夢物語だろうか、いや......。
 いまでも"ブラインド"を聴きながら目を閉じれば、ニューヨークのゲイたちの生と死に想いを馳せることになる。そしてニューヨークでも日本でも、あるいは世界中のあらゆる場所で、マイノリティにとってその暗闇は同じ冷たさに支配されていることが伝わってくる。すべてはその影から生まれる。やがてそれを知る者が、光と愛を求めて地上へと足を踏み出すだろう。

Chart by JET SET 2011.07.25 - ele-king

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砂原良徳

砂原良徳 LIMINAL »COMMENT GET MUSIC
10年ぶりのリリースとなる話題の5thアルバム『Liminal』が、ゲートフォルド・スリーヴの豪華2LP仕様にてアナログ化。益子樹氏(ROVO)がミックスとマスタリングを手掛け、ムーグ山本氏(Buffalo Daughter)がアート・ワークを担当。

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COS/MES & CHIDA

COS/MES & CHIDA 12 INCHES FOR JAPAN (1) »COMMENT GET MUSIC
ESP Instituteの日本トリビュート企画第1弾は、Funiki/ENEタッグ!!日本の復興への手助けとしてESP Instituteが企画した限定アナログ・リリース企画"12 Inches For Japan"第1弾となるのは、今まさにヨーロッパ・ツアーを絶賛敢行中の2組、Cos/Mesと、Chidaによるスプリット・リリース!!

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SOULPHICTION / MISSING LINKX

SOULPHICTION / MISSING LINKX FULL SWING »COMMENT GET MUSIC
Michel Baumann a.k.a. Jackmateによる人気2ユニットのスプリットEP。どちらの面がSoulPhictionでMissing Linkxか明確な表記がないので判りませんが、それもどちらでもいいと思える傑作です!!

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JOHNWAYNES

JOHNWAYNES LET'S GET LOST VOL.8 »COMMENT GET MUSIC
ポルトガルの気鋭Johnwaynesが前作に続いて連投のLet's Get Lost第8弾!!Nittin Sawhney、Sheila Chandraなどをネタにした前作も好評を博したJohnwaynesによるLet's Get Lost第2弾は、またしてもヒットの予感大な内容です!!

5

FUNKINEVEN

FUNKINEVEN ROLANDS JAM »COMMENT GET MUSIC
好調なリリースが続くFoalting Points主宰レーベルから新着!!レーベル10番"Heart Pound"に引き続き、オールドスクールなエレクトロ/アシッド節が全開している"Eglo"きっての鬼才FunkinEvenによる新作3トラックス。

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ZARA MCFARLANE

ZARA MCFARLANE CHIAROSCURO / NIGHT AND DAY »COMMENT GET MUSIC
Brownswoodからまたもや逸材。大注目女性ヴォーカリストのプロモ・10インチ限定入荷!!Giles PetersonのBrownswoodが送り出す新鋭ヴォーカリスト、Zara Mcfarlane。B面はCole Porter定番"Night And Day"のスタイリッシュ・カヴァーです!!

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GHOSTFACE KILLAH

GHOSTFACE KILLAH APOLLO KIDS EP »COMMENT GET MUSIC
あのDJ Premierも2010年度の年間アルバム・チャートNo.1に挙げ、豪華客演陣も話題となった9thアルバムから全8曲を収録。LPは現時点で未発売ですので、この機会に是非!

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MURO

MURO DIGGIN'ICE MURO'S BREEZY SOUL - / »COMMENT GET MUSIC

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MIRKO LOKO VS STACEY PULLEN

MIRKO LOKO VS STACEY PULLEN DEUX ELEMENTS »COMMENT GET MUSIC
元相方のRippertonに比べると寡作ながらどれもが高水準な内容のMirko Lokoと、こちらもリリース・ペースは全盛期に比べると落ちてきたとはいえいまだ現役のデトロイトTransmat門下生Stacey Pullenによる充実したコラボレーション。

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FOUNTAINS OF WAYNE

FOUNTAINS OF WAYNE SKY FULL OF HOLES »COMMENT GET MUSIC
Chris Collingwood、Adam Schlesinger率いるN.Y.の世界最高峰パワー・ポップ・バンド、F.O.W.。2007年の"Traffic And Weather"以来となる5th.アルバム!!
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