「Nothing」と一致するもの

Eternal Summers - ele-king

 イターナル・サマーズ――終わらない夏、永遠の夏、このバンド名が暗示するのは昔ながらのポップのユートピアである。永遠の夏はヴァージアニ州のロアノークを拠点とする女性ひとり+男性ひとりのふたり組、ノー・エイジやタッツィオのようなドラム&ギターのチームで、今年に入って2枚のアルバムを出している。『ザ・ドーン・オブ・イターナル・サマーズ(終わらない夏の夜明け)』は先に発表した1枚で、セカンド・アルバムらしい。
 この作品を言葉で説明するのは簡単だ。ファースト・アルバムの頃のザ・レインコーツがヴァイオリンを捨てて、ギターとドラムと歌だけでドリーム・ポップをやったような音楽。つまり、とても良い。
 あるライターは、イターナル・サマーズの音楽を「あらゆるニッチを埋める」と説明している。ビーチ・ハウスのすき間、シャロン・ヴァン・エッテンのすき間、ダム・ダム・ガールズのすき間、このバンドはそれらを埋める。なるほど。エフェクターを使わずギターアンプに直接シールドを差し込んだテレキャスターのコード弾きは、ペダルを多用する今日的なUSインディへの反論とも言えるが、逆らっているというよりも、おおらかさを感じる演奏だ。曲自体は実にシンプルに作られているが、メロディラインと歌声はキャッチーで、しっかりしている。ポスト・パンク的なアプローチを取りながら、聴き方によっては、ビーチ・ハウスのように、もしくはシャロン・ヴァン・エッテンのように聴こえる。ずば抜けた個性はないが、ギター・ポップにおけるカタルシスが何たるかを知っている。

 ......それにしても眠い。日本の女子サッカー代表は、調子が良いときは機械仕掛けのような素早いパス回しをする。あの連動性にはイターナル・サマーズのフリー・ダウンロード曲(サード・アルバムに収録の)"ユー・キル"がよく似合う。本作『ザ・ドーン・オブ・イターナル・サマーズ』に対して、サード・アルバム『コレクト・ビヘイヴィア』はよりスピーディーで、ディストーションが効いている。

 さて、我々は数日間、夏休みに入ります。毎年、川で泳ぎ、魚を釣って、焼いて食べる。それから大浜のプールに行く。完全にマンネリ化しつつも飽きないのは、夏という季節のマジックである。しかし、もしもこの国が常夏だったら、水遊びや釣りにこんなにもいちいちワクワクしないだろう。そういう意味では夏がイターナルでないことは悪いことではない。が、イターナル・サマーズ――終わらない夏、永遠の夏はとても良い。

DOTAMA×USK - ele-king

 『リストラクション』は、フラグメントが主宰する〈術の穴〉からリリースされたドタマの3枚目のアルバムだ。ちなみに先月2回目を迎えた〈術の穴〉のササクレフェスティヴァルの「ササクレ」はドタマの歌詞からとられている(たぶん)。7月14日、そのフェスで見たドタマのパフォーマンスに引き込まれ、私はそのステージが終わった途端、CD売り場に向かったのだった。くたびれたスーツ姿で現れたステージで、ドタマの声は、その身体は、黒ぶち伊達眼鏡の奥の瞳は、何かに猛烈な勢いで何かに怒っていた。攻撃的な言葉やノイズを発するわけではない、むしろリリックもたたずまいもユーモラスなのに、無表情な彼の頭上で空気がいまにも発火しそうな凝縮された感情、あえて顔にも出さず言葉にもしないメッセージがずんずんと突き刺さるようにフロアに向かってきた。思いの強さと言ったらいいんだろうか......。とにかく圧倒されたのだった。

 ところで、「若者の夢」が成立しない時代が続いている。いや、学校をでて会社に入って結婚して家を買って子どもを育てて年金をもらう、なんてものが「若者の夢」だった時代なんてそもそもなかった。かつてそれは夢じゃなくて社会に求められる規定の「コース」だった。若者たちはむしろなんとかしてそこから外れて生きようとしていた。それが、言ってみればロック・カルチャーを支えた中産階級の子どもたちの渇きであり、ユース・カルチャーの存在理由みたいなものだった。もちろんそれは「いい時代」だった。若者たちのドロップアウトの夢に甘美な輝きを与えてくれた"西側先進国"で生まれ、いまではたぶん"新興国"辺りをさまよっているのだろう。そんなふうにとっくの昔に通過してしまったこの日本社会に残ったものを、ささくれ立った心で、だけど笑いながら、渇きながら、苛立ちながら、ドタマは歌っている。

 私は正直言って、世代間対立を煽る言葉に接するとき、(高齢化問題を真剣に解決しようとしない政府は政府として)若い人たちが「正社員になって結婚して子供を持つという人生」を渇望する(せざるを得ない)ことに共感できない気持ちが強かった。自分がラッキーな時代に育って来たことは十分承知しながらも「不公平感」が協調されがちなそうした言葉に距離を感じることが多かった。このことは、たとえばフリーターのデモにも出かけたことさえありながら、何年も私のなかに引っかかっていた。

 この『リストラクション』で歌われる仕事の歌は、当然ながら割りを食った時代の若者の歌だ。と言ってもいわゆる「底辺労働の悲惨」を歌っているわけではない。一流商社の、それこそ憧れの正社員の歌だってある。なんというか、このアルバムにあるのは世界が縮んでゆく感覚だ。その縮んでゆく世界になす術もなく立ちすくんでいる。
 それをもっともストレートに歌うのが1曲目の"ドリーム・パラダイム"だ。「死にたいとつぶやく20代 月給10万の30代 バブルの遺産を薪にくべ 俺は実家で難民キャンプ 怯えて願う低所得者革命 詳しくはウェブで」----ドタマのリリックは、ほんの短いフレーズで世代も時間も空間も横断して、なおかつユーモアとアイロニーと空想と現実を捉える。「正社員になって〜」が誰かの「夢」じゃないことはわかってる、話は「夢」の前で閉ざされているだけなんだ。あーだけどだけど「夢」って口に出してもいいんじゃないかと口ごもる私は能天気なオバさんなのか、そうなのか? いやそれでもいいんだが......。
 あらゆるジャンルの曲を詰め込んだiPodで勢いつける"通勤ソングに栄光を"や「一流商社」で働くサラリーマンの秘密を歌う"サイキック島耕作"、辞表提出の瞬間をやけに詳細に綴った"リストラクション"などにある、ドラマチックなストーリー性のある描写がドライだが引きつった笑いを誘い、"ドリーム・パラダイム"やとくに"好きな歌が街にあふれて"に混じり込む切なく叙情的な心象風景のささやきがアルバム全体の視界を広げる。「ささやき」と言っても実際にささやいているわけではなくて、嘆息と言ってもいいような声の先にある空気の塊のようなものだし、空気の塊と言ってもその口調に重苦しさはみじんもなく、言葉が伝わりやすい高い声は迷いなく転がっていく。

 とは言え、なくなっていくものばかりで縮んでいくばかりで、あっちにもこっちにも夢も希望もなくて、という世界は信じられないかもしれないが、いまの若者に特有のものではない。それはいつでも社会的なことでもあり、内面的なものでもあるのだ。ドタマのこのコンセプトアルバムにはそのことを含んだ上で、「現在」の世界を見ているような理知がある。前作まではフラグメントっぽいヒップホップサウンドだったが、今作はプロデュースを手がけた"ゲームボーイでテクノを作る"という、USKのサウンドがドタマの声のこの理知と叙情性の両方をよく引き出している。明るくも暗くもなく、強気ではないが弱気でもない。だからといって少しも「中間」にいるわけではなく、彼はさまざまな両極に同時にいる。なにも「夢」って言ってくれるから「共感できる」わけではない。どうしようもなく両極が見えてしまう袋小路というものが、私はあると思うけれど、彼が歌っているのはそういうものとも言えるかもしれない。そしてライヴで強さは、その袋小路を相対化してなおシニシズムの沼に沈むことのない思いの強さだったのかもしれない。

interview with Mark McGuire - ele-king

 暑中お見舞い申し上げます。
 以下に掲載するのは、去る5月に初来日したマーク・マッガイアのインタヴューです。
 簡単におさらいしましょう。マッガイアは、今日のアメリカの音楽シーンにおける新世代として、欧米ではもっとも評価の高いひとりです。ジム・オルークさんも評価しています。この5年のあいだにアメリカのアンダーグラウンドで起きていたこと、ノイズ/ドローンから美しいアンビエントが生まれてきたプロセスの体現者でもあります。海や水を題材にしたアルバムも多いので、この季節に向いているとも言えます。最近は、トラブル・ブックスとのコラボ作品を出していますが、これも涼しくて良いですよ。
 彼はまだ20代なかばの青年ですが、エメラルズとして、またはソロ活動において、大量の作品を発表しています。カセットテープ作品にCDR作品......それらの人気作は数年後にヴァイナルとなって再発されています。つまり彼は、音楽の発表の仕方の新潮流の代表者でもあります。
 取材をしたのは、翌日の帰国を控えた、日曜日の昼下がりでした。以下のインタヴューを読めば、彼がどんなところから来たのかわかると思います。


野田:日本での滞在はどうですか?

マーク:すごくリラックスして過ごしています。新宿で公園に行ったり、浅草では水辺を散策してとってもよかったです。あとはCDを買ったり、ボアダムスのライヴを観にいったり。

野田:リヴィング・ユア・セルフ』のことを考えていたんですが、この作品まであなたは自然をテーマにしたりすることが多かったと思います。それが一変して、このアルバムで家族というテーマを扱うことにしたのはなぜですか?

マーク:いままで家族からいろんなサポートを受けてきました。母は毎回ライヴを観にきてくれたし、妹のために書いた曲もあるし、弟からもいろいろ学んできていて。そのみんなから音楽ってどういうものか、自分はどういう存在なのか、そんなことをいろいろ学びました。この作品は僕にとって初めてのメジャーなアルバムだったので、そういういろんなサポートに対して恩を返したかったんです。
 あと、まわりのみんなは自分の家族について語るときに、それがどんなにいい家族かってふうに話すけど、実際はそうじゃないことも多い。たとえば「ごめんなさい」といういうような気持ちも表現して、それとともに「サンキュー」という気持ちも表したかったんです。このアルバム・タイトル自体もポジティヴなこととネガティヴなことの両方を示しているつもりです。

野田:理解のある家族なんですね。

マーク:そう思います。でもいつもそうだったわけじゃないですよ。最初僕はロック・バンドをやっていたんだけど、ノイズとかエレクトロニック・ミュージックをやるようになったときに、なんか、何をやってるのか理解できなかったみたいです(笑)。でもどうやって、どんなふうに僕が成長していったのかをちゃんと見ててくれたので、いまは理解があります(笑)。

野田:あなたのような20代なかばの若さで家族を自分の音楽のテーマにする人は多くはないですよね?

マーク:はははは。僕の家族はとても親密なんです。それはいい意味でも、悪い意味でも。それで、それまでたくさんのカセットなんかをリリースしてきたけど、ちゃんとした初めてのアルバムでは、次に進むためのひとつの区切りとして、家族というテーマを選ぶのがいいんじゃないかって思いました。

野田:しつこいようですが、たとえばロックンロール・ミュージックは、自分の両親やその世代に反抗することで熱量をあげていったようなところがありますよね。ロックの歴史という観点から考えると、『リヴィング・ユア・セルフ』のような実直な家族愛の表現は興味深いなと思ったんです。

マーク:そうですね、それはわかります。僕のまわりでも、父親のことは好きじゃないとか、子供の頃いやな経験をしたっていう人はいるし。でもそういうむかしのことについてとやかく言いすぎて、家族との関係を壊すことはしたくないなって思います。よくも悪くも、家族からのレスポンスのなかでとてもたくさんのことを学んだことには変わりないから、僕はとくに反抗はしなかったんです。

野田:50年前は、親の世代や古い価値観に対する反抗心が音楽のエネルギーとして働いていた。しかし、今日では必ずしもそこにはないってことでしょうかね。

マーク:僕はカソリックの家に育ったんです。教会に行くっていうようなこともいまはないし、カソリックとして生きてもいないんだけど、母がすごくオープン・マインドな人なので、むかしはよく話したんです。ぜんぜん話が通じなかったり、いまだに平行線なことも多いんだけど、そうやって実際に話してくれたってことに対してすごく感謝していますね。

橋元:"ブレイン・ストーム(フォー・エリン)"って、さっき妹さんへ捧げたと言っていた曲だと思うんですが、あなたの曲にはミニマルな構造のものが多いなかで、あんなにドラマチックな旋律を持った曲っていうのはめずらしいのではないですか?

マーク:この曲には時間をかけました。たしかに僕の曲の作りかたって、基本的にはディレイを使って音を重ねていくものだけど、これはループをベースにするんじゃなくてもっとしっかりメロディを作っていったんです。こういうのはこれから深めていきたいなって思う。これ、じつはこのアルバムをリリースする予定だった別のレーベルの人に、初め送った曲だったんですね。そしたら「ギター・ソロっぽすぎるんじゃない?」とか言われて......。何がやりたいんだ? みたいなこと言われて却下されたんですよね(笑)。

野田:はははは!

橋元:ええ、なんてことを! 私この曲を聴くと「エリン」って人はひょっとしたら死んじゃったかとても遠いところに行ってしまった人なんじゃないかって。そのくらい情感ふかい曲で、そこがいいと思うんですけどね。

マーク:このアルバムにはとてもたくさんのアイディアとストーリーが入っていて、いろんなことについて語ってるんです。ファミリーって、家族だけじゃなくて職場や友だちをさしたりもする言葉だし。そこにはいいことだけじゃなくて、いろんなストーリーがあって、たとえば後悔とか怒りとか。それからあなたが言ったような距離ということも。距離って地理的なものもあるけど、心のディスタンスっていうものもあるんじゃないかと思う。そういうテーマはこの作品のなかにはたしかにあります。

橋元:"ブラザー(フォー・マット)"という曲も弟さんへの献辞があります。これもドラムがすごくエモーショナルで作品中では異質な曲です。誰かに捧げることで、あなたはより素直にリリカルな曲を生めるんじゃないでしょうか。

マーク:弟とはよく音楽をやってて、高校のときはいっしょにロックをやってたんです。彼はロックが好きで。で、ドラマーだから、あの曲でたたいてもらったってわけなんですけどね。

野田:アルバムには家族の会話が入ってますよね。会話ではじまって、会話で終わってる。先日の東京のライヴも最初は日常会話からはじまってましたね。こういう、会話からやるっていうのはどういう意図があるんですか?

マーク:その録音は弟の5歳の誕生日のときのもので、たとえばその録音のなかで嵐について話したりしていて、そのことがまたべつの曲になったりしているんです。音源自体はタイム・カプセルみたいなもので、それがこのアルバムの起源になっているとも言えます。あと、ここには彼らはいないけど、音のなかにはずっといっしょにいるんだよっていうことでもあります。

野田:ライヴでああやって声を用いるっていうのは、そのまま受け止めると、その日常的な会話からあなたの音楽によっていろいろなところにオーディエンスをトリップさせる、そしてまたもとの日常にもどってくる、というような意図があったのかなって思ったのですが。

マーク:僕にとっては音楽は毎日やっていることだし、それが日常です。でもそういう会話のサンプリングによって、そのほかの、友だちとか家族っていう日常もひとつにする感覚でやっています。

野田:音楽が日常ってことですが、エメラルズのジョン・エリオットさんとはリリース量を競いあってるんですか?

マーク:はははは(笑)ノー、ノー。ずっと音楽をやっていて、パーティに行ったりとかお酒をのんだりとかってことに集中しなかったから、結果としてリリース量が多くなったという感じで。高校のときの友だちとかは、パーティーとかお酒とか好きで、ちょっとちがうなって思ってたんです。そこでジョンと会ったときに意気投合して。彼は音楽、音楽ってずっと集中してる人だったから。それでバンドになっていったんです。リリース量がとても多いって結果にも、かな。


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野田:『リヴィング・ユア・セルフ』以降にもたくさんリリースされていますが、そのなかで大きなものってなると『ゲット・ロスト』かなって思います。抽象的なアルバム・タイトルが多かったなかで、これは「失せろ」って意味じゃないですか。そういう直情的なタイトルにしたのはなぜですか?

マーク:このタイトルもさっきのようにいろんな意味にとれるものだと思うんですけど、英語だと「失せろ」というほかに「迷う」という意味もあるんですね。『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』が家から出ていくものだったとしたら、『ゲット・ロスト』は世界の広さに圧倒されてまよってしまった、そういうものだったんじゃないかって考えられます。世界はとてもクレイジーでいろんなものがうごめいている場所ですからね。でもその「迷う」っていうこと自体いはすごく大事なことだとも思ってます。スリーヴに書いてあるんですけど、「迷う」ことでなにかを発見したり、次につながっていくのはほんとに大事なことです。

野田:それは、クリーヴランドを離れたり、アメリカを離れてツアーをまわったりとか、そういう経験からきた言葉なんですか?

マーク:もちろんそこにはたくさんのできごとがあります。自分を強く持って、ここだって決めて進んでいったとしても、とてもたくさんの筋道ってものがありますよね。そういう、こうしたい、こうしたほうが良かったというたくさんの選択肢のなかで、自分に対して正直にいよう、そうしたことを強く持とうって思ったところからきています。あとは、クリーヴランドからポートランドへ引っ越したっていうのも大きいかな。そんな規模の引っ越しは初めてだったから。ひとりになった気持ち、とてもさびしい気持ちはあらわれているかもしれません。

野田:エメラルズのほかのふたりのメンバーもいっしょに引っ越したんですか?

マーク:彼らはクリーヴランドにいますね。

野田:ポートランドっていうと、いまとてもアーティストが集まる街でもあり、なおかつアメリカでもっとも銃声が鳴り響く街でもあるっていう噂を聞いたんですが。

マーク:銃声? クールですね(笑)。

(一同笑)

マーク:銃については最近考えをあらためて......、まあ、いいや。

野田:ええ、なんです?

マーク:もちろん銃は持たないほうがいいって思ってるんですけど、最近はハンティングのためとか自分を守るためというよりも、政府についてちょっといろいろ、嫌なことがあったものだから、それで銃を持ったほうがいいんじゃないかって思うようになって。

野田:ええ(笑)! それは聞き捨てならないですね!

マーク:いやいやそれは......

野田:ポートランドは治安が悪いっていうのはほんとなんですか?

マーク:僕はいちばんいいとこに住んでるわけじゃないけど、とくに問題ないですよ。住んでる人っていうより、警察のほうが危ない、こわい感じです(笑)。前の警察署長っていうのが、ちょっと獰猛な人だったみたいです。

野田:日本も似ています。

マーク:まあ、でも、これは気にしないでください。なんでもないです。なんでもない(笑)! 僕はいちども銃を撃ったことないですからね。でもそういった人たちや政府に対してアンチを唱える意味で銃を持つのもいいんじゃないかって、最近は思ったりします。

野田:それはすごいなあ。

マーク:でも......、これはほんと、なんでもないから(笑)!

橋元:(笑)『ゲット・ロスト』で声を入れようと思ったのはなぜです?

マーク:歌ってる曲は2007年の曲なんです。いつもは自分の曲に歌が必要だとは思わないんだけど、ときどき音だけじゃ表現できないから言葉で言わなきゃっていうことがあって。この曲はそんなふうにできたものです。シンガー・ソングライターみたいに歌うんじゃなくて、人間の声っていうものはとても面白い楽器にもなるとも思ってるので、もっといろんな可能性を拡張していきたいですけどね。

野田:あなたのライヴを観て、あんなに踊れるっていうか、ダンサブルな演奏に驚きました。いつもあのスタイルでやっているんですか?

マーク:僕はとてもいろいろなことをやっています。だけどあのときのライヴはお客さんとの一体感がほしかったので、音楽とリズムでそれをやろうって思いました。お客さんに身体を動かして観てもらいたかったんです。僕自身もボアダムスのライヴでそんなふうに観ていました。僕自身はドローンとかアンビエントとかもっとメディテーティヴなものとか、いろいろなスタイルでやります。バランスのとりかたに悩むこともありますけど......。
 たとえば流行の音楽がありますよね。そういうものも好きで、やりたいなって思ったりもするんですけど、そういうものを取り入れることで自分のスタイルを失ってしまうんじゃないかって思ったりもして、そういうバランスがむずかしいんです。

野田:流行っている音楽っていうのは?

マーク:レトロなインディ・ダンスとかですね。

野田:〈100%シルク〉とか?

マーク:別に悪く言ってるんじゃないんですよ! ローレル・ヘイローフォード&ロパーティンみたいな人たちのことです。いろんな人がいるってことです。たとえばドラムマシンとギターを使ったような曲もありますけど、そっちの方向に自分が進むべきかっていうとちょっと違うかな、とも思います。

野田:ローレル・ヘイローとは交流があるんですか?

マーク:フォード&ロパーティンとは、特別親しいわけじゃないけど知り合いです。ゾーラ・ジーザスとも知り合いです(笑)。

野田:ちょっと意外ですね! あのー、5~6年前、アメリカのインディ・ミュージック・シーンの若い世代たちがドローンをやってたじゃないですか。あれはなんでなんでしょうね。

マーク:2000年くらいにスケーターとかダブル・レオパード、サンルーフの影響を受けたんですけど、僕はその当時ノイズのコミュニティにいたんです。あの頃は、そんなことをしているのは自分たちだけだと思ってたんだけど、気づいたらほかのノイズの人も同じようなことをやってました。
 それが何故か......、たとえばシンセサイズな音楽がダンス・ミュージックになってって、その次の展開ってわからないけど、また90年代にもどるって展開もあるかもしれないですね。ひとつのジャンルにそういうシフトがあるように、それもなにかシフトしていったものなんじゃないでしょうか。僕らにとってはそれはとてもナチュラルでオーガニックな流れなんです。こういうバンドのように、こういうジャンルのようにやりたいって思ってたわけではなくて、自分たちにとって正直に音をつくっていった結果こうなったという感じです。

野田:テリー・ライリーやラ・モンテ・ヤングのような人たちのドローンというのは、現代音楽の発展型で、ある意味論理的で、専門的でマニアックな音楽だったんですけど、それがいまではより感覚的で身近なものになったっていうことでしょうか?

マーク:彼らはニューエイジのドローンの人たちに対して影響があったような作家で、僕らはどうかわからないけど、そういう人たちもいますよね。僕にとってはパンクとハードコアが初めにありました。それはクレイジーなものでしたが、ドローンをはじめたとき、とてもコントロールが効いた音楽だと思いました。とてもミニマルなもので、それが新鮮に思えたんですね。それはとてもリラックスできるものなんだけど、その奥底にパンクやハードコアのようなタフな要素があるんじゃないかって思います。あと、ドラッグなんかをやるときにはパンクみたいにハードなものはやめたほうがいいんじゃないかとも思いますよ(笑)。

橋元:そういう、ドローンとか瞑想的な、アトモスフェリックな音っていうのは、あなたのなかでサーフ・カルチャーと結びついていたりしますか? インナー・チューブ名義での作品はサーフ・カルチャーの影響から生まれたということですが。

マーク:インナー・チューブというのは、スケーターのスペンサー・クラークとのプロジェクトなんですけど、彼ととてもよく遊んでいたことがありました。『ストーム・ライダーズ』というサーフィンについての映画があって、その映画はサーフィンの精神性に関する映画だったんです。そのなかで、「波の力は地球上でいちばん大きな力の源だ」っていうことが語られているんです。
 このプロジェクトはシンセサイザーを使ったメディテーション音楽なんですが、とっても楽しかったです。決められたテーマがあったので、むしろいろんなアイディアがふくらんでいきましたね。でもすごいたくさんあるなかで、海のなかにいること、それはサーフィンでも泳ぐことでもいいんだけど、そこに人生のすべての感覚があるんじゃないかって。その海のなかにいる感覚から、世界をどう見るか、人生の経験をそこにどうやってつなげていくかってことをテーマにしました。

野田:レコードにはポスターが入っているんですよね。

マーク:それは映画からきてますね(笑)。

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野田:ちなみにクラウトロックからの影響もすごくあると思うんですけど、同時代のエレクトロニック・ミュージックからの影響っていうのはないんですか? ベーシック・チャンネルみたいな、ベルリンのミニマル・テクノであるとか。

マーク:もちろんあります。初期のデトロイト・テクノとか。さっき言ってたパンクの話ではないですが、とてもコントロールされていて、とても凝縮されている、そういうタフさのようなものがあるっていうところに惹かれます。すごく正直にいうと、僕は80年代のソウルも好きで、それとデトロイト・テクノには似たようなところがあると思ってます。

野田:デトロイト・テクノが好きなのに、ライヴではドラムマシンを使わないってとこがすごいと思いますよね(笑)。

マーク:ふふふ。ギターでテクノをつくります。

橋元:さっき言ってたようなローレル・ヘイローとかゲームス、フォード&ロパーティンも入るかもしれませんけど、いまチルウェイヴと呼ばれているような音楽が現実逃避的だっていうような批判を受けたりしていますけど、現実逃避っていうこと自体は音楽や文化にとってすごく大きな役割を果たしてきたものだと思うんですね。あなたの音楽には現実逃避的な部分があると思いますか?

マーク:デフィニトリー! もちろんそれはあります。でも、たとえば、チルすることで「人生はいいよね」と言ってしまうことは正しくないと思います。ネガティヴなことも言うべきだと思います。本当の人生のなかでは人はそれでリラックスすることはできないじゃないですか。もっとたくさんのむずかしいことがあります。僕がアルバムで表現したかったように、いいこと悪いことの両面について触れるべきです。けど、もちろん自分の音楽に現実逃避的な部分はあるな、とは思っています。

橋元:そういう部分が逆に自分の音楽をふくらませることはないですか?

マーク:そうですね。それはあります。僕の音楽にはエクスタシーのような、いい気分に満たされるようなものがあるとは思いますけど、それは人びとに必要なものじゃないかっていう気持ちから生まれてるんです。みんな学校とか仕事やなんかがあって毎日とても忙しいから、そういう感情がないと生きていけないんじゃないかと思っています。生きていくのに必要なものなんじゃないかって思います。ただ、くりかえしになるけど、ものごとのふたつの面については考えなきゃいけない。

橋元:なるほど。実際あなたにとって音楽をつくることとギターを弾くこととはどのくらい分離したものなんでしょう? 即興的な部分が大きいのですか?

マーク:それはほんとにいろいろなんですけど、はじめにたくさんのアイディアがあることも多いです。実際ギターを弾きながら何かを発見していって、それをコンポーズドさせていったりもするんですけどね。あとはたくさんのレコーディングを作っておいて、あとで聴きながら「あ、ここいいな」って思った部分をつなげていくようなやりかたもします。だから、けっこういろんなやり方が組み合わさっているかなあ。でもいずれにせよすごく時間をかけることが大事だと思ってます。10年じっと座って考えるっていう意味ではないんですけど、やってみたことをあとからじっくり考えなおしてみてみることですね。

橋元:最後にエメラルズについて訊きたいと思います。エメラルズをやることで自分の音楽にフィードバックがあるとすれば、それはどのようなことなんでしょう。そしてメンバーの性格分析や音楽上の役割分担について教えてください。

野田:そもそもエメラルズの次のアルバムって用意されてるの?

マーク:とってもいいレコーディング・スタジオを借りたみたいです。6月は1カ月まるまるそのクリーヴランドのスタジオで作業することになりそうです。それでポートランドに結果を持って帰っていろいろ作業して、また8月にクリーヴランドに戻って作ります。
 レーベルは〈エディションズ・メゴ〉です。でも、アルバムを作るために集まるんじゃなくて、みんなで音を出すのが楽しいから集まるわけで、アルバムはほんとに、あくまでその結果ですね。音を出すのが目的です。でも、そのスタジオは〈エディションズ・メゴ〉が借りてくれてるから、もちろんまあ、出るんでしょうね(笑)、アルバムが。とってもいい条件だったみたいです(笑)。
 で、最初の質問ですけど、僕らは実際エメラルズがこんなに成功するとは思ってなかったんです。ジョンとはもう13年くらい音楽をやっているんですけど、ぜんぜん誰にも、見向きもされなかったんです(笑)。だからいまの状況に圧倒されてるところもありますけど、ジョンからもみんなからもすごくたくさんのインスピレーションをもらっています。

野田:ヨーロッパからの反応はどうなんですか?

マーク:とてもいいです。アメリカよりいいです。ウォッカも飲めます(笑)。
 ふたつめの質問については、そうですね、僕ら3人は、とっても性格がちがうんです。違っているからこそ、音楽がいっしょにやれる、集まれば音楽が生まれてくるんだと思ってます。僕ら3人のパートははっきりと決まっているわけではないんですけど、バランスをとても大事にしているんですね。アルバムを船だとすると、いつも、その船がまっすぐ進んでいるかな、ということをつねに気にしています。とても大きなところでは、僕らはジョン・コルトレーンに影響を受けてるんです。彼らの演奏はいつもタイト、そしてどの部分を見てもコントロールされているし、音のバランスもとてもいい。大きな影響を受けてます。ひとりじゃなくて複数の人で演奏しなきゃいけないときに、お互いのことを気にしなきゃいけない、そういったときにジャズからとても大きな示唆を受けます。
 僕はエメラルズの3人を世界でいちばん大事な友だちだと思っているし、3人で音楽ができることをほんとうに素晴らしいことだと思います。音楽というのは自分のなかから生まれてくるもので、音楽がさきにあるんじゃなくて、自分がさきにあるものだと思うから、もしそれを誰かとやる場合は、フレンドシップがすごく重要になります。だから6月の録音にはそのフレンドシップという原点に立ち返ろうってことも思ってます。エメラルズの音楽ファンのために作るというより、僕らメンバーがお互いのことが好きなんだというそういう原点にもどって作りたい。そう思ってます。

野田:みんなほんとはエメラルズに来てほしいと思ってるんですが、聞いたところによると機材がすごいんですよね。それでなかなか持ってこれないっていう。

マーク:僕もすごくたくさんペダルを持っていて、ほかのふたりも機材はたくさんあるので、その点でたしかにツアーは難しいかもしれないです。やるときはほんとにベストを尽くしたいので......

野田:なんか、すごい古い機材を使うんですよね?

マーク:ジョンはすごい大きなモジュラーのシステムを組んでいます。メロトロンも持っているけど、さすがに1回もライヴに持ち込んだことはないですね(笑)。スティーヴも10個くらいのシンセサイザーを持ってるので、まあピンク・フロイドみたいに予算がガンガン使える人たちじゃないと、ちょっとむずかしいですね(笑)。彼らはボートを使ったみたいけど、たしかにボートじゃなきゃ無理かもです。エメラルズの機材は、飛行機には載りきらないでしょう(笑)。

野田:そんなに......、ところでさっき、あなたはノイズ・シーンにいたと言っていましたが、そのノイズ・シーンについて詳しく教えてください。次の紙ele-kingでは「ノイズ」を特集しようと思っているんです。

マーク:僕たちが2005年に演奏をはじめたとき、エメラルズの前にフランスライオンズというバンドをやっていました。その秋、僕たちはクリーヴランドでスリーピータイム・ゴリラ・ミュージアムという本当にひどいバンドの前座をやって、とても変なセットをその晩演奏したのですが、そのライヴでジョージ・ヴィーブランツ(Viebranz)という人に出会いました。
 ジョージはクリーヴランドの小さなクラブやDIYスペースでたくさんのライヴを企画していて、僕たちにオハイオのアクロンにあるダイアモンド・シャイナーズに翌週末に演奏しにおいでよと言ってくれました。ダイアモンド・シャイナーズはタスコ・テラーというバンドが運営していた小さなDIYハウス・スペースです。そこで僕たちは同じ好みを持ったたくさんの楽しい人たちに出会って友だちになり、また彼らが紹介してくれたバンドとのネットワークを築きました。そしてそれと同じ時期に、僕たちが夢中になっていたノイズやエクスペリメンタル・ミュージックのたくさんの音楽がオハイオやミシガン周辺で生まれているということを知りはじめました。とりわけコスモス・ファームという場所、ラムズブレッドというバンドが運営していたオハイオのデラウェアにあるザ・ラムズデンという場所で、そういった音楽のライヴ演奏がおこなわれていました。
 僕たちはそこで演奏しようと何度か試みたのですが、彼らから詳細をもらうのはすこし難しくて......、でもあるとき、ようやくそこで演奏することができたんです。そこでは僕らが好きなバーニング・スター・コア、ヘア・ポリス、ウルフ・アイズ、クリス・コルサーノといったバンドのライブを見ることができて、とても興奮しました。それから僕たちはラムズブレッドとすぐに仲よくなったんです。ラムズブレッドはとても愉快でパーティ好きで、信じられないほどいいレコードを持っていました。それから当時の彼らは僕たちと同じくらいの量のウィードを吸っているバンドでもありました。
 エメラルズをはじめたすぐあとでした。クリーヴランドであったマジック・マーカーズ/ラムズブレッドのライヴでラムズブレッドと仲よくなって、ヴァンパイア・ベルト、デッド・マシーンズ、バーニング・スター・コアなど僕たちが賞賛するバンドも出演するデラウェアの彼らのハウス・パーティで演奏してよと誘ってくれたのです。そのライブは僕にとっていちばん緊張したライブとなりました。僕らは5~6分しか演奏しなくて、ほとんどサウンドが作れなかったと思います。そこにいた人たちは楽しんでくれたみたいでしたけど。それから僕たちはその場所やミシガンでタスコ・テラー、レズリー・ケッファー、グレイヴヤーズ、ラムズブレッド、バーニング・スター・コア、シック・ラマ、ハイヴ・マインド、アーロン・ディロウェイなどたくさんのバンドとライヴをやりました。

野田:ソニック・ユースからの影響はありましたか?

マーク:僕たちの音楽は前に言ったようなのバンドを通して、サーストン・ムーアに紹介されました。サーストンは僕らが2006年にタスコ・テラーとスプリット作ったカセット『クリスマス・テープ』を聴いて、僕たちにとっては最初のヴァイナルとなるその再発をリリースしたいとオファーしてくれたのです。その当時サーストンはオハイオのノイズ・シーンによく顔を出していて、タスコ・テラーの子どものころからの友だちであるレズリー・ケッファーや、ラムズブレッド、そして僕たちとタスコ・テラーのスプリットLPをリリースしました。
 サーストンはとてもいい人で、すばらしい人たちとのネットワークを持っています。でも個人的にはソニック・ユースに夢中になったことはありません。僕が彼らにいちばん興味をもったのは、図書館で『ウォッシング・マシン』を借りて聴いたときでしたが、そのとき僕は8歳でした......。それ以外はあまり自分にひっかかったことはありませんでした。彼らはたくさんのバンドに影響を与えていると思いますが、正直、僕はそのうちのひとりではありません。
 僕たちがバンドをはじめたときにとても大きな影響を受けたのはラムズブレッドでした。自由でサイケデリックな要素を持つ彼らの音楽や、彼らとの個人的なつながりは、初期の僕らに助けや助言をあたえてくれました。彼らがもう演奏しないことや、彼らのことを語ることを誰もしないのは悲しいことですが、彼らは僕が音楽を通して出会ったなかでももっともディープな人たちで、彼らのことが大好きです。

 ※次号の紙ele-kingでは、ゼロ年代のノイズ/ドローンのシーンについて特集します。こうご期待!

DJ KAMATAN (PANGAEA) - ele-king

夏schedule
8/4 KNOT @ 福島会津若松 CLUB infinity
8/5 ひかり祭り @ 神奈川相模原市 旧牧郷小学校
8/10 DUB FRONTIR @ 仙台 PANGAEA
8/19 伊達祭 @仙台 勾当台公園
8/24 PANGAEA NIGHT DJ光 @ 仙台 PANGAEA
8/25,26 SUN MOON @ 岩手 千貫石キャンプ場
8/31 echo8 @ 仙台 PANGAEA 
9/1,2 龍岩祭 @ 山形 蔵王温泉
9/9 こころのヒダ @ 仙台 ADD
9/21,22,23 Chill Mountain @ 大阪 荒滝キャンプ場
9/28 未定 @ 沖縄 那覇
9/29 未定 @ 沖縄 那覇

仙台pangaea
https://pangaea-sendai.com
https://twitter.com/KAMATAN6


1
Carter Bros - Wild Cats EP - Black Catalogue

2
Alejandro Mosso - Mosso 001 - MOSSO

3
Ivano Tetelepta - Taksi - Fear Of Flying

4
DJ Jus Ed - I'm Comin - Underground Quarlity

5
Julien Bracht - Down Under EP - Inter Groove

6
Julio Bashmore - Ribble To Amazon - 3024

7
Bushmind - Good Days Comin' - P.vine

8
The Planty Herbs - Music is the world - Wax on

9
Strategy - Boxy Music - 100%Silk

10
Peaking Lights - Lucifer - Mexican Summer

Death And Vanilla - ele-king

 たしかにチルウェイヴには詳しくない。ちーとも知らない。必要があっても適当に書き飛ばしてきた。しかし、そのことを暴くために野田努は「3月」にリリースされた作品をいまさらのように持ち出してきた。半年近くも前にリリースされたアルバムだよ。ディスク・ユニオンには早くも中古盤が並んでいたデビュー作である。杜撰なのか、狡猾なのか。目的のためには手段を選ばない。そういうことであれば、僕も「3月」にリリ-スされたデビュー作から選ぶしかないではないか(なんで?)。スウェーデンから現れたイタロ・ディスコ・ヴァージョンのジェントル・ピープル。これがまた夏に合うんだな~。

 全曲試聴→https://soundcloud.com/kalligrammofon/sets/death-and-vanilla-st/

 わざとらしく不安を煽るようなオープニング。細野晴臣のようで細野晴臣ではないポップ・センスを張り巡らせ、チープでイミテイションな電子音が宙を舞う。どこまでも人工的で物悲しく彩られた曲の数々を聴いていると、野田努のやったことなどどうでもよくなってくる。必要なのは現実から目を逸らす想像力と人工着色料の見果てぬ夢。いかにも60年代っぽいエコー・サウンドが再現され、控えめな効果音にも心を奪われてしまう。ピーキング・ライツやトリ-アングル系へのアンサーとも言えなくはないだろうけれど、まー、言いたいやつには言わせておけという感じ(自分か)。"カル-デ-サック"はステレオラブがGSをカヴァーしているみたいだし、"ライブラリー・ゴブリン"は初期のピンク・フロイドをメランコリックに改造したというか。エンディングはどっしりと、そして、夢から覚めるように音楽も終わってしまう。えー、もう、終わり~。もっかい~。

『血と薔薇(Et mourir de plaisir)』という映画があったけれど、「死とヴァニラ」とは何のことだろう? わからない。教養がない。調べるヒマがない。テラノヴァを脱退したザビアー・ノーダシェアー(またノダだ!)が昨年、ソロでリリースしたデビュー作も「3月」に3枚組みでアナログ化された。これもイタロ・ディスコの波に乗った叙情派で、暑い夏にだらだらと聴くしかないユルユル・モード。催眠的なアルペジオを聴き続けていると、野田努のやったことなど......どんどんどうでもよくなってくる。ゆっくりと、ゆっくりと、曲の構成が移り変わり、宇宙を漂っているような気分からヘンな星まで流されてきて、あげくに血の気まで引いてくる。コズミックというのはトランスにダブをかませて、とにかく回転数を遅くしたものだと思えばいいだろうか。奇しくもマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンが拠点とする魔女狩りの街「トリノの尺度」と題されたアルバムはトリップ・ミュージックとしてはなかなかの出来である(303が標準装備され、後半の擦過音が実にカッコいい"フォー・ア・フィストフル・オブ・アシッド"では例によってあれの説明が挿入され、"ルナー・ローヴァー"は日本語で歌われている)。

全曲試聴→https://soundcloud.com/supersoulrecs/sets/...


 で、「3月」には何をしていたんだっけ?(コメント欄で募集は......していません)

interview with Heiko Laux - ele-king

 ハイコ・ラウクスはジャーマン・テクノを体現するような人物だ。テクノ黎明期に多感な10代を過ごし、周囲の誰よりも早くシンセサイザーとドラムマシンで楽曲制作を開始。94年に地元ヘッセン州の小さな町でレーベル〈Kanzleramt〉を立ち上げた。それがスヴェン・フェイトの目に留まり、フランクフルトの伝説的クラブ、〈Omen〉のレジデントに抜擢される。99年にはテクノ・キャピタルとして勢いを増していたベルリンに拠点を移し、変わらぬ情熱と熟練のスキルで制作活動とDJ活動ともに精力的に続けている。

 数ヶ月前、宇川直宏氏に「今年もFREEDOMMUNE 0 <ZERO>やるから、いいテクノDJブッキングしてよ!」と言われて真っ先に思い浮かんだのが彼だった。実際に出演が決まり、〈eleven〉でのアフター・パーティと大阪〈Circus〉でもそのプレイを披露することになったハイコに、ベルリンで話を聞いた。テクノ・ファンならすでにお馴染みのベテラン・アーティストだが、3年ぶりの来日ツアーに先駆けて、これを読んでその素晴らしいプレイのイメージを膨らませて頂ければ幸いだ。


ドイツのテクノもデトロイトの影響を受けてはじまったようなものだからね。そのデトロイトの人たちはクラフトワークに影響を受けていたりするわけだけど。


初めまして。もうすぐFREEDOMMUNE 0 <ZERO>に出演のため来日されますが、私があなたをブッキングしたんですよ。その経緯から少し話させて下さい。実は、きっかけは今回共に出演するDVS1をEle-Kingのために昨年インタビューしたことだったんです。

ハイコ:へえ? どういうことかな?

彼が、90年代にあなたをミネアポリスに呼んだことがあって、その縁であなたに〈Tresor〉でDJする機会をもらったと言っていました。それが初めてベルリンでプレイした体験だったと。

ハイコ:ちょっと待って、いまもの凄い勢いで頭の中の記憶を呼び戻してるから... でもDVS1という人は知らないな。前は違う名前でやっていたのかな?

あれ? 覚えていないですか? それは意外ですね。ではその事実関係は日本で再会した際にDVS1本人と確認して頂きましょう。いずれにせよ、その話を聞いたのが昨年のちょうど同じ頃で、そのすぐ直後にあなたが〈Berghain〉に出演していたので、初めて聴きに行ったんです。

ハイコ:ああ(ニヤリ)、あの日あそこに居たのか。あれは......かなりいいセットだった。

めちゃくちゃ凄かったです(笑)。それで一発でヤラれてしまったんですよ。そのときに、「この人を日本にブッキングしよう」と思ったんです!

ハイコ:そうか、ありがとう。実はね、公にはしていないんだが、CLR Podcastに提供したミックスは、あの日のセットの中の2時間分なんだ。あそこのクラブは録音だの撮影だのに関してはとてもうるさいからね、ここだけの話だけど! うん、あれはかなりいいパーティだった。

2009年の〈WIRE〉に出演して以来、日本には行ってませんものね?

ハイコ:そうなんだよ、だからもの凄く楽しみにしている。そろそろ行きたいと思っていたところだよ。

それまでは、わりと定期的に来日してましたよね?

ハイコ:2000年か2001年くらいから、ほぼ1年おきには行っていたね。

これまでの来日体験はどうでしたか?

ハイコ:いい思い出しかないよ。日本は大好きだ。僕は食べるのが好きなんでね、食べたいものがあり過ぎて困るくらいだ(笑)。初めてスキヤキを食べたときなんて、発狂するかと思ったよ! ヤキニクとか、コウベビーフとか...... とにかく日本の食べ物のレヴェルの高さは凄い! もう6回くらい日本には行ってるけど、毎回驚きがあるね。

ちょっと音楽の話に戻しましょうか(笑)。実は私は90年代のテクノについてデトロイトのことはある程度知っているんですが、ドイツのことはほとんど知識がないので、ぜひその頃の話、そしてあなたがどのような体験をしてきたのか教えて頂きたいんです。

ハイコ:まあドイツのテクノもデトロイトの影響を受けてはじまったようなものだからね。そのデトロイトの人たちはクラフトワークに影響を受けていたりするわけだけど。

バイオグラフィーによれば、ファーリー・ジャックマスター・ファンクの「Love Can't Turn Around」に衝撃を受けて音楽をはじめたとのことですが?

ハイコ:そうだね、まああの曲は一例だけど、ああいうサウンド、いわゆるTR-909のドラムととてもシンプルなベースだけであれだけパンチのある曲は衝撃だった。ああいう音が部分的に使われている曲は聴いたことがあったけれど、シカゴハウスからはそれまで感じたことのない凝縮されたエネルギーを感じたんだ。「俺はこれをやりたい」と思ったんだよ。

それはラジオで聴いたんですか?

ハイコ:いや、クラブだよ。当時は兄がDJをしていたので、まわりの子たちよりも早くクラブに行くことが出来たし、家にそういうレコードがあった。シカゴ・ハウスやUKノアシッド・ハウスなどだね。それ以外はまだポップ・ミュージックしかなかったけれど、あの頃はポップ・ミュージックのシングルにもB面に風変わりなダブ・ミックスなどのインスト・ヴァージョンが入っていた。そういうシンプルなグルーヴの音楽を好んでいたね。特定のサウンドを上手く組み合わせれば、とても少ない音で凄い威力のある曲が出来上がるというところに魅了された。

かなり早い段階から自分の曲を制作することに興味を持っていたようですね?

ハイコ:ああ、もう10代半ばから。小さなバイクに乗れるようになった頃に、最初のキーボードを買いに行ったのを覚えているよ。14歳とかじゃないかな。

その歳ですでにクラブに行って、制作も始めていたんですね?

ハイコ:ああ、地元のバート・ナウハイムという小さな町から、兄の車に便乗してフランクフルトのクラブに出入りしていた。あの頃聴いたDJといえば、スナップ(Snap!)のプロデューサーのひとりだったミヒャエル・ミュンツィッヒなどだね。彼はいつも、ド派手な衣装で現れた。インディ・ジョーンズみたいな帽子を被ったり......毎週違う格好で(笑)。でも誰よりもクールな音楽をかけていた。彼はビートマッチ(曲のピッチを合わせる)だけでなく、ハーモニーをミックスしていたのが印象的だった。前の曲のブレイクのときに、例えばピアノのハーモニーが入っていたとしたら、次の曲のBPMの違うイントロのハーモニーと混ぜるんだ。そこから全然リズムが変わったり。それがとても新鮮だったね、「こういうことも出来るんだ」と思った。いまそういうやり方をする人は全然いない。でも僕は、いまでも選曲をするときにハーモニーで選んだりするよ。他に僕が体験したことと言えば、クラブ〈Omen〉の盛衰だけれど、それもバイオグラフィーに書いてあることだね。

当然、DJとしてスヴェン・フェイトからも大きな影響を受けていますよね?

ハイコ:完全に。スヴェンとの出会いは、僕のキャリアのターニング・ポイントになったから、特別な存在だね。あの頃は誰もが〈Omen〉でプレイすることを目標にしていた。だから僕も自分から「やらせて下さい」なんて野暮なことは聞かなかった。その代わり自分でレーベル(〈Kanzleramt〉)を始めて、曲を出すようになった。そしたら、96年にスヴェンがライヴをやらないかと誘ってくれたんだ。そしてライヴ出演したら、またやって欲しいと言われて、「実は僕はDJもやるんです」と言った。当時、金曜日がスヴェンの日で土曜日が外部のゲストDJがプレイしていた。その土曜日に何度かやったところ、「金曜日にお前の枠をやるから、好きな奴を呼んでパーティをやれ」と言われた。だからサージョンやニール・ランドストラムなどを呼んで一緒にやっていた。店が閉店するまで、それを続けたんだ。

ライヴもやっているんですね? それは知りませんでした。

ハイコ:実はそのときと、すぐ後に一度「POPKOMM」(かつては毎年開催されていたドイツ最大の音楽見本市)だけで、それ以来全然やっていないんだ。他のアーティストとコラボレーション、例えばテオ・シュルテと一緒にやっているオフショア・ファンクなどでは何度かやっているけど、ソロは全然やっていない。それも最後にやったのは2008年だ。その後はDJしかやっていないね。でも、今年のADE(Amsterdam Dance Event)で久々のライヴを披露する予定だよ。とても楽しみだけど、ライヴとなると途端にナーヴァスになる(笑)。

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僕はたしかにラップトップを使っているけど、間違いなくDJをしているからね、そこが違うんだと思う。僕はちゃんと曲を「触っている」。それが鍵なんだよ。こういうシステムを使うと、オートシンクも簡単に出来るけど、それをやってしまうとDJの醍醐味がなくなってしまう。

少し意外なのは、あなたがハウスから音楽の道に入ったということですね。テクノ一辺倒なのかと思っていたので。

ハイコ:というか、あの頃はテクノというものが存在していなかったんだよ。デトロイト・テクノもシカゴハウスの影響で出て来たものだからね。テクノへと加速していったのは90年代初頭のことだよ。

そういう流れのなかで、あなた自身もよりテクノに傾倒していったと?

ハイコ:そういうこと。だからテクノ・ブームがやって来る少し前に、すでにこういう音楽に脚を踏み入れていたのは、幸運だったと思う。周りがテクノに目覚めた頃には、すでにシンセサイザーやドラムマシンに親しんでいたからね。だからテクノが確立される前から、テクノをどうやって作るのかは分かっていた。ハウスを速くして、テクノのエネルギーを足せば良かったんだ。

そう考えると、あなたはドイツにおける第一世代のテクノ・アーティストと言えますね。

ハイコ:やはり僕よりも、スヴェン・フェイトやジェフ・ミルズやDJヘルの方が僕よりも先にやっていたけれどね。僕の出身の小さな町では輸入盤のレコードを売る店なんてなかったから、それほどたくさん聴けたわけではなかったし。アンダーグラウンドな音楽は、大都市に行かないとアクセスできなかった。僕がレコードを買っていた隣町の店なんて、半分が自転車屋で、店の半分がレコード・コーナーになっていたからね(笑)。レコードを売るだけでは、まだ商売にならなかったからだ。〈Omen〉の前身だった〈Vogue〉というクラブで、スヴェンを聴いたり、90年代に入ってからジェフ・ミルズやジョーイ・ベルトラムのプレイを聴いた。
 それでデトロイト・テクノに開眼して、「そうか、こんなことも出来るのか!」と思ったね。特に、ジェフ・ミルズを見たときは度肝を抜かれた。プレイしたレコードを次々と背後に投げ捨てながらプレイしていた(笑)。傷がつくとか、そういうことを気にせずにバンバン投げ捨ててたね......そういうクラブが身近にあって、本物のアーティストを間近で見て体験することが出来たのはとても幸運だったと思う。ジェフがヨーロッパで初めてやったのは〈Omen〉だったんじゃないかな。当時は、フランクフルトがドイツのダンス・キャピタルだったからね。ベルリンの壁が崩壊してからは、フランクフルトとベルリンのライヴァル関係がしばらく続いた。もちろん、その後ベルリンが勝つことになるわけだけども...... 90年代前半はほぼ同等のレヴェルだった。その競争意識が、音楽にもプラスに働いたと思う。

なるほど。そういう環境の中で、あなたのDJスタイルも築き上げられていったわけですね。あなたも当時のジェフのようにターンテーブル三台を操ることで知られていましたよね?

ハイコ:そうだね。かつては、三台使ってレコード1枚あたり2分くらいだけ使ってどんどんレイヤーしていくスタイルをやっていたけど、いま(のレコードで)同じことをやっても上手くいかない。ただテクニックを見せびらかすだけみたいになって、せわしなくて聴いている方は楽しめないと思うんだ。お客さんも世代交代しているからね。でも三台使ってプレイするのは楽しいから、またやろうと思っている。新しい使い方を考えているところだ。一時期は、なるべく展開や要素を削ってどこまでできるか、というプレイに挑戦していたんだけど、それも退屈になってしまって。だって、二台だけだと、あいだの5分間くらいやることがなくて(笑)。
 いまはSeratoを使ってプレイしているけど、Seratoが面白いのはレコードの好きな部分を好きなようにループできるところ。この機能を使うと、レコードとはかなり違ったことが出来る。また、Seratoの場合、曲の途中で停止しても、また好きな瞬間から狂いなく再生することができるから、曲の抜き差しが正確に、より自由に出来るようになった。レコードだと、ミュートできても曲の尺は変えられないから終わるまでに何とかしなければいけないというプレッシャーがある。でも、Seratoなら、好きなだけブレイクをホールドして、好きなタイミングで曲を戻すことが出来る。Seratoのおかげで、アレンジメントの幅が広がったと思うよ。
 いまはCDJ三台と、それぞれに効果音などを入れたUSBスティックも使ってさらに自由な組み合わせが出来るようにしている。だから単なるDJというよりは、サンプラーを取り入れているようなプレイだね。「遊び」の幅が広がった。今はブースで暇を持て余すこともなくなったよ(笑)。またDJすることが楽しくなっている。一時期は楽しめなくなっていたのも事実なんだけど、今は自分でも楽しめる新しいプレイの仕方を確立しつつある。

私は個人的にヴァイナルDJを好むことが多く、とくにテクノやハウスに関してはラップトップDJに感心することは滅多にないんですが、あなたのプレイは別格だと思いました。レコードでやっているようなライヴ感というか、臨場感がありましたし、長い経験を感じさせる確かなスキルがわかりました。

ハイコ:わかるよ、僕も同じだから。僕はたしかにラップトップを使っているけど、間違いなくDJをしているからね、そこが違うんだと思う。僕はちゃんと曲を「触っている」。それが鍵なんだよ。こういうシステムを使うと、オートシンク(自動的にピッチを合わせる機能)も簡単に出来るけど、それをやってしまうとDJの醍醐味がなくなってしまう。自分の手で合わせるからこそ、そこにエネルギーが生まれるんだ。ソフトウェアでプログラムされてしまっていると、そのエネルギーがない。完璧にシンクされた曲を次々と並べていくなんて、簡単過ぎるし何の面白味もない。やっている方もつまらない。その場の思いつきで新しいことを試していくことが面白いんだからさ。僕はフォーマットではなく音楽を重視するから、何を使ってプレイしているかはこだわらない。音源がCDでもラップトップでも別にいいと思う。それを使って何をするか、が問題なんだよ。いまはラップトップを使うのが面白いから、しばらく使ってみるつもりだ。

先ほどフランクフルトとベルリンがライヴァル関係にあって、いまはベルリンがその競争に勝ってテクノ・キャピタルになっているという話が出ましたが、その両方を見て来たあなたはベルリンの現状をどう受け止めていますか? ここ数年でテクノはさらにリヴァイヴァルした印象がありますけど?

ハイコ:とくに何とも思わないな(笑)。自分が幸運だとは思うけれどね。ごく自然なことだと思う。街やそのシーンの勢いというのは移り変わりがあり、より活気があるところに人が集まって来るのは自然なこと。テクノのシーンに関わりたいなら、ベルリンにはそういう仕事がたくさんあるし、その上観光客も大勢やってくる。ここにいればいろんな人に会えるし、活動の場を作っていける。レッド・ホット・チリ・ペッパーズからジョージ・クリントンまで、みんなやって来るから観ることが出来る。生活費も安いしね、これほど条件が整っていて、ニッチなアーティストにまで機会が与えられている街は他にない。これはテクノに限ったことではないし、他のジャンルも、演劇やアートに関しても同じだ。さらにベルリンはとてもリラックスしていて競争がない。周りを蹴落とそうとするような人はいない。そしてとてもリベラルだね。僕は99年にベルリンに移って来たけど、一度も後悔したことはないよ!

 

【来日出演情報】
8/11 FREEDOMMUNE 0 <ZERO> @ 幕張メッセ
8/17 AFTER FREEDOMMUNE +1<PLUS ONE> @ 東京eleven
8/18 CIRCUS SHOW CASE @ 大阪Circus

【リリース情報】
Jam & Spoon - Follow Me (Heiko Laux SloDub)
https://www.beatport.com/release/follow-me!-remixes-2012/924547
発売中

Sterac - Thera 1.0 (Newly Assembled by Heiko Laux) of "The Secret Life on Machines Remixes" on 100% Pure vinyl/digi with Ricardo Villalobos, Joris Voorn, Vince Watson, 2000 and One, Joel Mull, ...
2012年8月発売予定

Rocco Caine - Grouch (Heiko Laux & Diego Hostettlers 29 Mix) (12"/digi Drumcode)
近日発売予定

Heiko Laux & Diego Hostettler - Jack Up Girl (12"/digi on Christian Smith's Tronic TR89)
近日発売予定

Heiko Laux - Re-Televised Remixed (12"/digi on Thema Records NYC)
original and remixes by Lucy, Donor/Truss
近日発売予定

Heiko Laux & Luke - Bleek (on Sinister, 4-tracker V/A with P?r Grindvik, Jonas Kopp & Dustin Zahn)
2012年秋発売予定

Mark Broom & Mihalis Safras - Barabas (Heiko Laux Remix)
other remixers: Slam
近日発売予定

 ジョン・フルシアンテは昨日のアーティストではない。先日リリースされた5曲入りEP『レター・レファー』は、多くのファンを驚かせたはずである。しかしもしこの作品が往年のファンの手にしかわたっていないのならば、非常に残念な事態だ。フルシアンテはその外に出るためにあれほどの名声を浴びるバンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズを脱け、彼にただマイ・ギター・ヒーローたることを望む人々を振り切ったのだから......! 

 そこからはシンセが聴こえ、ドラムンベースが聴こえ、ラップがきこえてくる。ウータン・クラン率いるRZAをはじめとして、ほぼ全編をラップに縁どられながら、ボーズ・オブ・カナダなどを思わせるリリカルなエレクトロニカが彼の詩情を延長していき、やがてギターに接続される瞬間は、彼がただ異種配合によって新しいキャリアを構築しようとしたのではなく、自分なりに追いかけてきた音楽性の蓄積をきちんと表出しようとしていることがうかがわれる。
 
 そもそも前作『ザ・エンピリアン』の時期に、すでに彼はアシッド・ハウスやエレクトロニック・ミュージックにしか興味がないという旨の発言をしていたようだ。ブレイクコアの雄、あのヴェネチアン・スネアーズやクリス・マクドナルドとも新たなプロジェクトを立ち上げている。今作までには、デュラン・デュランやウィーヴ、ザ・ライクのメンバーも参加するLAのトライバルなアート・サイケ・プロジェクト、スワヒリ・ブロンドでギターを弾いたり、ガレージ・パンクではなくあくまで王道なロック・フォーマットのなかに繊細で物憂げな叙情や知性をひらめかせる女子バンド、ウォーペイントの作品を再アレンジしたりと、つねにチャンネルを現在のリアルなシーンに合わせてきた。

 さて9月12日にはアルバム本編である『PBXファニキュラー・インタグリオ・ゾーン』がリリースされ、そうしたフルシアンテの取り組みの全貌が明らかになる。ある意味では自分に求められている役割を裏切って制作したエレクトロニック・ミュージック作品であり、アルバムでこれまでのブルージーなギター・ナンバーが戻ってくることはない。おそるべき挑戦がつまったこの意欲作を楽しみに待とう。

ジョン・フルシアンテ - レター・レファー

ジョン・フルシアンテ - レター・レファー
発売中

Amazon
1. In Your Eyes
2. 909 Day
3. GLOWE
4. FM
5. In My Light

ジョン・フルシアンテ - レター・レファー

ジョン・フルシアンテ -
PBXファニキュラー・インタグリオ・ゾーン
2012.09.12発売
Amazon
1. Intro/Sabam
2. Hear Say
3. Bike
4. Ratiug
5. Guitar
6. Mistakes
7. Uprane
8. Sam
9. Sum
10. Ratiug(acapella version) -bonus track-
11. Walls and Doors -bonus track-

V.A - ele-king

 最近、翻訳されたデイヴ・トンプキンズによる『エレクトロ・ヴォイス』(新井崇嗣訳)は、ロボ声を主題にしていること自体興味深いが、おそらく世界でもっともサイボトロンに関して深く言及している本なので、それを聞いて「おや」と思われる方には一読をオススメする。

 トンプキンズの研究によれば、サイボトロンの荒廃と恍惚の入り交じった名曲"クリア"の背後には、さまざまな歴史や思いが混在している。「3070番」の兵士としてリック・デイヴィスがベトナムに赴いた理由は、彼が反共産主義なわけでも戦争がしたいからでもなかった。デトロイトのゲットーを出たかった。出れるのであれば、行き先が戦場だろうとお構いなしだった。
 彼のなかに「クリア」は重い言葉だった。戦場では「視界をクリア(一掃)せよ」とは、人びとを消すという究極の破壊指令だった。あるいは、それは街の再開発においても頻繁に使われた。道路が拡張され、街が整備されると、貧しい者はクリアされた。
 このように、平和維持や都市開発という名目の裏側に隠されたディストピックな真実をその曲に込めたデイヴィスに対して、もうひとりのメンバー、ホアン・アトキンスは『第三の波』の影響下から導いたポスト産業社会におけるユートピア思想やクラフトワークへの憧憬をその言葉に込めた。ふたりのメンバーの異なる思いがあの曲には注がれているのだ。アトキンスは、歌詞の後半により明快に前向きな言葉(古きと外へ/新しき中へ)を吹き込んだが、ラジオ・ヴァージョンではそこはカットされている。こうしたエピソードを知ると、サイボトロンにとって"クリア"が特別の曲であり、この1曲から多様な意味を引き出せるのも、ますますうなずける。
 ちなみに「クリア」という言葉は、有名な新興宗教、サイエントロジーのカウンセリング用語「それまでのあなたを消(クリア)しましょう」と同じだったので、その宣伝ソングという誤解も受けているという。あらためて言うが、"クリア"とは、クラフトワーク音楽のブラック・ミュージックへの本格的な変換だ。『エレクトロ・ヴォイス』を読んで、僕がもうひとつ感心を持ったのは、"クリア"が発表されると、もっとも素早く反応したのがマイアミだったという話だ。荒涼とした寒い工業都市のエレクトロは、蒸し暑い南国のストリップ小屋へとすっ飛んだのである。好色な2ライヴ・クルーの音楽性は、未来派のエレクトロだった。

 "クリア"の声は機械で変調された宇宙人声を使っているが、『エレクトロ・ヴォイス』には、サイボトロンと同時期に活躍していたエレクトロ・グループ、ジョンズン・クルーの"パック・ジャム"の制作秘話についても詳しく紹介している。彼らは、クラブに通うキッズが求めているのは「良いシンガー」などではなく「ノイズ」であることを理解していた。音楽芸術を作っているというよりも、くだらないゲームをやっている感覚で作った。彼らは"受けねらい"のバカげた曲を敢えて録音した。シカゴ・ハウスがまだディスコの延長だった時代、アメリカではエレクトロの分野において、ディストピアとユートピア、マシンとセックス、ゲットーと幼児性がコネクトされている。

 実を言えば、この原稿の書き出しは「日本人はエイフェックス・ツインに感謝するべきだろう」となるはずだった。子供のままで突っ走った人だったし、シカゴのアシッド・ハウスを、ハイピッチのサンプリングによる子供声をそのまま使ったレイヴ・ミュージックを、その手の反ソウルのダンス・ミュージックを積極的に評価していたひとりだった。10年前のブレイクコアに火を付けたのも彼だったし、シカゴのジューク/フットワークを広く紹介したのはエイフェックス・チルドレンの代表格、マイケル・パラディナスだった。日本で制作され、リリースされるこのジュークのコンピレーションには、エイフェックス・チルドレンであり、10年前のブレイクコアの顔役だったキッド606が曲を提供している。
 「ジューク最高!」と吠えている2マッチ・クルーのポエム氏によれば、日本にはすでに多くのジュークのトラックがあり、複数のコンピレーションがネット上にあるという。ブレイクコアのときのように、この落ち着きのない、騒々しい音楽は、日本でも瞬く間に広がっているようだ。チップチューンもそうだったが、エイフェックス・ツインをなんらかの起点とできるような音楽は、日本の文化のある部分とは親和性が高い。その幼児性においてなのだろうか......これに関する論は橋元に譲るとして(それとも阿部和重の『幼少の帝国』を読めばいいのだろうか)。

 とまれ。ジューク/フットワークからは、エイフェックス・ツインにはない暴力性、ディストピックな感覚を感じないわけにはいかない。本作『Footwork on Hard Hard Hard!!』も、ただ速く、ただハードで、ただ好色なだけではない。複雑に絡み合った思いがスパークしているように感じる。アルバムには日本のジューク・シーンを代表するDJフルトノをはじめ、隼人6号、ジューク・エリトン、シカゴのベテランのトラックスマン、マルチネのマッドメイドなどによる計18曲が収録されている。アルバムのクローザーを務めるディスク百合おんの"カフェ・ド・鬼"を聴けばわかるように、日本のジュークには電気グルーヴからの影響も引き出せる。ジョンズン・クルーの"パック・ジャム"が果たした役目と同じことを電気グルーヴも果たしているのだろう。

 ライナーを読むと、本人たちはシカゴのジュークとともに「レイヴ・ミュージック」も意識しているようである。ジュークはダンス・バトルから来ているが、レイヴとは基本的にはユートピア的なので、両者の関係はある意味では引き裂かれているが、そこをなかば強引にぐしゃっと圧縮した乱雑さ、そしてある種のせわしなさが、我々にとって踊りやすい......いや、動きやすいビートなのかもしれない。完成度という言葉はまったく似合わないジャンルだが、キッド606やトラックスマンといったビッグネームが混じっていながら、日本人プロデューサーによるトラックはそれらにひけを取らない出来だ。CDからは、この音楽がいま秘めている熱量の高さが伝わってくる。また、ある種「オタクっぽい」と呼ばれてきた文化とストリート(ないしはゲットー)の文化という、おそらくは互いに交わる機会を逸していたもの同士が共存しているところは注目に値する。彼らはの暴走は、君の目の前をクリアしてしまうかもしれないよ。

interview with Purity Ring - ele-king


Purity Ring - Shrines
4AD/ホステス

Review Amazon iTunes

 ピュリティ・リングは、いわゆるR&Bのシーンにとっては招かれざる客かもしれないが、その外にあってあたらしいR&Bをかたちづくる存在である。ウイークエンド、ナスカ・ラインズ、インク、アヴァ・ルナ、ファースト・パーソン・シューター......そのようなアーティストはいま次々と現れてきつつある。招かれざる客だというのは、たとえば〈4AD〉や〈ロー〉、〈レフス〉、〈メキシカン・サマー〉といったレーベルからリリースされているということだ。彼らはチルウェイヴや昨今のインディ・ダンス・ブームとつよく結びついた流れのなかから派生してきている。ジャケットからして「R&B」的ではないが、ジェイムス・ブレイクが鮮やかにシーンを縫い合わせたように、彼らもそれぞれR&Bとはべつの個性やルーツからそれへと接近し、思い思いの世界を構築している。

 コリン・ロディックとミーガン・ジェイムズによるこのカナダの男女デュオは、ホーリー・アザーやセーラムのようなダークなウィッチハウスを、ドリーミーなシンセ・ポップとして噛みくだき、R&Bやヒップホップのリズムでくびれのある音楽に仕上げた。ドーリーでエアリーなヴォーカルは、なみいるディーヴァとはイメージにおいてかけ離れるが、やっていることはそう変わらない。ポップスとしてイノヴェイティヴであり、リリース元の〈4AD〉とは音楽性から言ってもとてもフィットしている。
 
 もとはふたりともゴブル・ゴブルというエクスペリメンタルなエレクトロニック・バンドのメンバーだったようだ。いつしか単独での楽曲制作に目覚めたコリン・ロディックが本ユニットを始動させた。90年代のR&Bに大きな影響を受けたという彼はおもにトラック作りを、読書や物を書くのを好むというミーガン・ジェイムズは詞とヴォーカルを担当し、互いのアイディアは遠距離でやりとりされている。

 今回取材できたのはコリンひとりだったが、とてもおっとりとした人柄である。オンラインで公開された"アンガースド"1曲のために、彼らはまたたく間に大きな注目を浴びるようになったわけだが、そんなに突っ込んだ音楽リスナーというふうでもないらしく、のんびりと、正直に回答してくれた。たくさんの姉たちと少年時代に聴いた音楽が、しぜんと「にじみでてきた」という彼のトラックは、機材やソフトの機能をたのしみ、工夫することで生まれてきたもののようだ。こうした態度もとてもいまらしい。

自分自身もそういうD.I.Yな環境に身をおいていると思ってて、ミーガンなんかも服はほとんど手作りしちゃうんだ。僕の今日のこのズボンだってそうだよ! 基本的には独学なんだよ。ていうか、実際のところ自分でも何をどうしたらああなったのかよくわかってないんだよね。

フジロックが終了したところですが、どうでした? あなたがたはとても凝ったライヴをされるとうかがっています。

コリン:日本は初めてだったし、あんなに大勢の前でやれるなんてね! すくなくとも思ったよりぜんぜんたくさんのオーディエンスだったよ。とっても楽しかった。フェスティヴァル自体もいままで行ったなかでも最高にきれいな、すばらしいものだったし。

ステージに立たれたのはふたり? 機材とヴォーカルっていうセットですか。

コリン:そうだね。ミーガンが歌って、たまに太鼓もたたくんだけど、僕が使ってる楽器っていうのは手作りで、ランタン型のものがたくさんぶら下がってて、それを叩くことでシンセサイザーの音を再現するというものなんだけど......

名前はあります?

コリン:いや、ないんだ(笑)。

えー。電子楽器ってことになりますか。音階が出せるような?

コリン:そうだなあ......。いちおう楽器です。よりクリエイティヴになれる電子楽器ってところかな。音階は、出せるよ! ここに移し出したシンセの音はぜんぶ出せるんだ。

へえー。イクイップメントについてもうすこし教えてもらえます?

コリン:あとはMIDIコントローラーが置いてあって、パッドが付いてるやつだけど、それでミーガンが歌ってるのをその場でサンプリングして切り貼りしたり、ちょっと声の質を変えてみたり、分断させたり。それから、繭型の照明を20個くらい用意して、それを僕の楽器と連結させて音といっしょにライティングが変わるような、そういうものを作って工夫してみたんだ。見た目も演出するような感じでさ、ミーガンの声なんかにもあわせて変化していくんです。

ああ、それはすごい。シンセ好きなんですね。そういうアイディアとか技術はどこかで学んだものなんですか?

コリン:基本的には独学なんだよ。ていうか、実際のところ自分でも何をどうしたらああなったのかよくわかってないんだよね。けどこんなパフォーマンスをしたいっていうイメージがあって、そのためにどういう楽器があったらいいのかっていう必要から、なんとなく自分でできるなりに作っちゃったものだから、いまだにほんとに思い通りのことができない部分があるんだけどね。

すごくD.I.Y.なかたちですよね。なにか、あなたのまわりにそうした雰囲気の仲間やシーンがあったりするわけではないんでしょうか。

コリン:そうなんだよね。前のバンド(ゴブル・ゴブル)もそうだったんだけど、自分自身もそういうD.I.Yな環境に身をおいていると思ってて、ミーガンなんかも服はほとんど手作りしちゃうんだ。僕の今日のこのズボンだってそうだよ(※ステッチのかわいらしい、おちついた黄色のズボンでした)! ステージ衣装も彼女がやってくれてるし、それを含めて、僕たちのやってることはなんでもD.I.Y.だね。

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水といえばミーガンだよ。ミーガンはすごく水に惹かれるらしくて、とにかくなにかというと泳ぎに行くんだよね。どこに行っても、まず訊くのが「どこに行けば泳げる?」ってことなんだよ(笑)。

PVとかはかなり凝ったクオリティですよね。ブルーワーという方の監督で"ベリスピーク"のヴィデオなんかは、おふたりがアイディアなどを出しているんですか?

コリン:あれは、ミーガンと僕とがある程度のアイディアを提示して、それを何人かの監督からプレゼンしてもらって、選んだものなんだ。ブルーワーさんはいちばんこっちの言うことを変えてしまった人なんだよね。唯一のこされていたのが、もともとの僕らの案のなかのヴァイヴというか雰囲気だけって感じで、あとはまったくかけ離れたものにしてしまってあって。でもそこが逆にいいと思って、彼にきめたんだ。

あの暗くて模糊とした水底の造形もよかったですし、気味の悪いものがまとわりついてくる感じも、あなたがたの音楽を視覚的にうまく延長していたと思います。アーティスト写真にも水を用いたものがありますよね。こうしたあいまいな、水なんかの表象を好んで用いるのはなぜなんでしょう?

コリン:ほかにどこに水をつかってたっけ?

いや、このアー写とか......(アーティスト資料などに用いられている写真を示す)

コリン:あはは、ほんとだ! そのとおりだよ。......ええと、"ベリスピーク"はたぶん僕らの音楽のなかでもいちばんダークなもののひとつで、攻撃的な響きのものだったなと思う。その意味で、ああいう暗い水底の雰囲気はしっくりきていたかもしれないよね。なにかつかみどころのない暗さ。でも、水といえばミーガンだよ。ミーガンはすごく水に惹かれるらしくて、とにかくなにかというと泳ぎに行くんだよね。どこに行っても、まず訊くのが「どこに行けば泳げる?」ってことなんだよ(笑)。セイリングも好きだよね。とにかく水にとりつかれているらしい(笑)。

ははは、奇妙ですね! あなたはクラムス・カジノをフェイヴァリットに挙げておられたと思うんですが、クラムス・カジノにも少し似たような感覚があると思うんですね。スクリューとは言わないまでも、アッパーなテンションやテンポを生まないことにはなにか理由があるんですか?

コリン:ええと、先に言っておくと、クラムス・カジノはすごい人だと思うし、音楽も大好きなんだけど、でもじつはそう影響を受けたというほどにはよく知らないんだ。でも、たしかにそうだね。彼のほうが、抑えがきいているという意味ではずっと上だし、うまくやっているとは思うけど。僕らの音楽はときとして跳ね上がるし、わりと昂揚したりするって自分では思ってるんだ。こうして人と話していると、自分がこうしたいって思って作ったものとぜんぜんちがう印象を持たれていたりして、おもしろいものだよね。

あなたのダークでドリーミーなエレクトロニクスは、ウィッチハウスとか、もっとひろくヒプナゴジック・ポップと呼ばれるような現代的な流れをいくつも巻き込みながら、新しい世代のR&Bにも接近していると思います。こうした流れのひとつひとつは、わりと無意識に目指されたものなんですか? 意識的に追っているものはあるのでしょうか。

コリン:どうなんだろう、ちがうもの、あたらしいものをつくりたいという気持ちはつねにあるんだけどね。いまあるものの最後になって終わりたくない、って。でもなにかの流れを意識的にとらえて組み立てているかっていえば、それはなんとも言えないな。エレクトロニック系の音楽は、ドラムがあってベースがあって......っていう型にはまらないで、とても自由につくっていけるものだから、どんどん新しいことをやるのが大事だとは思ってる。機材が提供してくれるサウンドのパレットが無限にあるわけだから。でも異なったもの同士を組み合わせるっていうような部分は、たぶん無意識にやってるかな。とくに、アタマのふたつ、はじめて書いた曲のふたつなんかは、何にも考えないで作ったと思うよ。できちゃった、って感じの曲なんだ。あらためて聴いてみれば、ああ、これはここから来てたんだなっていう説明はつくと思うんだけどね。でもいまの僕にそのへんを分析することはできないかな。

大きな影響として90年代のR&Bについても言及されていますが、そのころって、まだすごく幼いですよね? リアルな記憶とかはあるんでしょうか?

コリン:ちょうど僕は90年生まれだよ。だから、99年は10歳だ。99年までが90年代だからね! 姉が4人いるんだけど、10歳くらいのころは、ラジオなんかをいちばん聴いてた時期で、姉たちといっしょに、ポップスからR&Bから、とにかくそのときはやっているものをガンガン耳にしてたんだ。僕自身はそんなに興味があったわけじゃなくて、いつもいっしょにいたから聴かされてたって感じだね。もうちょっと大きくなって自分で音楽を選ぶようになっていくと、メイン・ストリームから外れるものも聴くようになるんだけどね。でもいまこうして音楽をつくるようになってみると、あのラジオを聴いてたころの影響っていうのがどんどんにじみ出てくるものなんだなって思うよ。当時聴いていたときの、そのままのフィーリングがよみがえってくる感じがあるよ。

ああ、「にじみ出てくる」ねえ。なるほど。ところで、ピュリティ・リングを聴いて「踊れるグライムス」って評した人がいるんですけど、カナダからみたグライムスの活躍ていうのはどんなふうに見えているんでしょう? カナダのシーンに与えた影響はありますか。

コリン:えっ、本当~(笑)。僕は逆にグライムスのほうが踊れると思うなあ。

あははっ。

コリン:僕らのほうがスローだし、スペーシーで、すき間も多いし。リズムも一定だしね。クレアは友だちだよ。地元モントリオールの仲間だし、共通の友だちも多いんだ。彼女はやっぱり、その後カナダのアーティストが世界に出ていくきっかけになってくれたような人だなって思うよ。モントリオールの、僕らみたいな音楽をやっているアーティストたちが注目されたのも、彼女からはじまっている。けっこうそれはクールなことだよね。

シングルが〈ファット・ポッサム〉から出ていたりするのはどういうきっかけなんですか? ユース・ラグーンなんかもいますけど、どちらかというとガレージ・ロックなんかの印象のつよいレーベルですよね。

コリン:当時べつになんの契約もない状態だったから、自費でシングルでも出そうかって思ってたところに〈ファット・ポッサム〉から連絡があったんだ。だから渡りに船で契約したんだけど、たしかに僕らはあのレーベルのなかでは浮いてたよね。〈4AD〉のほうが合ってるって僕でも思うよ(笑)。でもあの段階では〈4AD〉なんてとても。彼らが僕らに気づいてくれるのは、そのずっとあとのことになるね。

ピュリティ・リングって名前はどんな意味でつけたんですか? ふたりでそう名乗るのは意味深にも思われますが。

コリン:いや......とくに意味はないんだ(笑)。でも響きはいいし、覚えやすいし、何年か前からバンドかなにかをやるならこの名前にしようって思ってたよ。ちょうどミーガンといっしょにやることになったから、じゃあそれを、って感じで。なんとなく、つくりたいと思う音楽の雰囲気にも合ってたしね。

あれれ、そうなんですか。じゃあ最後に、先に帰ってしまった相棒にひとことお願いします。

コリン:いやあ、とくにないよ、ノー・コメント(笑)。だけどおもしろいね。僕がいま話してたことがぜんぶ日本語になるわけだから、あとから見たって写真くらいしかわからないんだね、僕は。

左右 - ele-king

 凡庸な生き方とは、凡庸を2ミリほど超える人間にとってはかなりしんどいものだ......いまなお絶滅することのない『地下室の手記』(ドストエフスキー)型自意識をかかえる人間が、ペンではなくギターを手にしたとき、たとえば左右が誕生するのだろう。ギターとドラム(ベース兼任)のシンプルな編成、まだ25を出ないくらいのかぼそい男女デュオである。彼らは2010年に出会い、楽器を手にした。きっかけは「ふたりともあぶらだこのファンだった」ことだそうだ。凡庸を2ミリ超える自意識である!

 そうしたことは、この絶妙に踊れない変拍子(野田努)と棒立ちの演奏スタイルによくあらわれている。踊れれば、あるいは関節がやわらかければ、そもそも彼らは音楽をやっていないかもしれない。それはまさに"神経摩耗節"なるリズムであり、落ち着くところのない精神の依り代である。若さゆえの混乱とみまがわれるかもしれないが、けっしてそのためばかりではない。ある種の人間が生真面目に生きていこうとするときに、このような硬直性を帯びてあまりうまくいかなかったりすることを、われわれはよく知っている。

 しかし社会生活においてはそうでも、音楽としておもしろいかたちを結ばせることができれば救われるというものだ。アヴァンギャルドな雰囲気を極力控えめにただよわせ、ポスト・パンクを大枠として、歌とギターがユニゾンする、言葉の立った個性的なフォームを生み出している。神経症的な変拍子に、ガリガリと痩せてとがったファズ・ギターがひっかくような軌跡を描く。それが傷などの表象に癒着しないのは、このふたりの隠れた牧歌性のためだ。フューを意識したような桑原のヴォーカルは、声質自体が甲高くてハリがあるためだろうか、じゃりん子のようにはつらつとした不屈さを感じさせる。花池はメグ・ホワイトに吹っ飛ばされそうなキックを打ちながら「今日も俺は/真に受けるぜ/いちいち俺は/気にするぜ」と自身のしょぼさ正直さをユーモアにする。こうした性質の端々から、彼らのいっけん突飛な音楽性が、奇態やエキセントリックを偽装するものではなく、むしろそうしたものへの嫌悪からひねり出されてきたものだということが想像される。

 彼らはなかなかむずかしいテーマを扱っているのだ。「生きにくさ」「退屈さ」「不合理性」等々を、負け組的な視点から糾弾していくスタイルでは、往々にしてまったくありふれてしまう。当事者性や言っていることの正しさはほとんど関係ない。つまらない日本語ロックやパンクの多くはこうした罠にはまってしまうように見える。だがリアリティを歌うためにはもっとべつの力や工夫がいる。

 彼らは健闘しているのではないだろうか。先に述べたようなユーモアもそうだが、詞を立てた曲作りも、詞を目的として終わらせないようによく工夫が凝らされている。"箱のうた"では桑原が声で伴奏をとり、一種の閉塞感をテーマとするこの曲を、間違ったシリアスさへと導かないようにとぼけさせている。皮肉にもジョークにもならず、花池の詞が届いてくる。クレジットでは作曲はすべて花池のようだが、詞は分担していて、作詞者がヴォーカルをとるというダイレクトさもいい。それぞれの曲はおもに作詞者の曲と考えてさしつかえないのかもしれない。"河童"や"悩みのマーチ"など桑原作詞の華のある楽曲は、やはり桑原の表現力によって支えられている。作品全体がそのようにわりと明確に2色にわかれておのおのを対象化する。さしずめ左右、というところである。録音も、スカスカでごくミニマルな形態ではあるが、スタジオで録りっぱなしという感じでもなさそうだ。とくにヴォーカルは意識されていて、構築性が感じられる。

 本作リリースは2012年で、初EPといったたたずまいであるが、昨年ライヴ会場限定で販売されていたというデモが、本作収録音源と同一のものかどうかはわからない。この形態にしばられず、もっといろんなものをやってほしいと思った。やって"全然駄目"でも「気まずい空気を吸う為」("全然駄目")と思って、彼らの地下室から音と言葉を飛び立たせてほしい。

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