「Nothing」と一致するもの

Maria Minerva - ele-king

 これまでマリア・ミネルヴァと勝手に読んでいたけれど、勉強不足ですいません、英語読みならミナーヴァ、ラテン語読みするなら正確にはミネルウァだそうで……ローマ神話に登場する音楽(魔術)の女神の名前の引用のこと。ミネルヴァとは俗ラテン語読みだったことをあとで知った。
 彼女が生まれ育ったエストニアの首都タリンは、今日、スカイプを生んだIT産業の成長国として、旧ソ連のなかでは貧しかった過去から一転した繁栄を遂げていることでも知られている。本名Maria Juur(マリア・ユールでいいのだろうか)は、自らのコンセプトに「負け犬」を掲げているが、母国の成長とともに育った女性なので、日本で多くに流通しているところの「負け」とは感覚が違っている。劣等感に支配された負け犬の惨めさが、彼女にはない。
 しかし、彼女が現在24歳だとしたら、24年前のタリンはそれなりにきつかったろうし、歴史を調べればそこがロシアとナチスに占拠されてきた土地であることもわかる。負け続けてきた歴史があり、そして彼女がそんな母国の文化にアイデンティファイしている話は、紙ele-kingの『vol.6』でもしている。やられ続けていた人間がいつの間にやる側に反転することはままあるが、彼女の変わらずの“前向きな”負け犬根性が注がれたアルバムは、8月も残すところ1週間というタイミングでレコード店に並んでいた。昨年の『キャバレ・シクスー』に続くセカンド・アルバム、タイトルは『ウィル・ハッピネス・ファインド・ミー?(幸福は私を見つけるか?)』。
 世間では、幸福とは自分で探すものだと教えられるが、いや違う、それは向こうからやってくるのだ、そんな言葉だ。しかもそれは、“私は発見されたくない(I Don't Wanna Be Discovered)”というアルバム3曲目のサブタイトルでもある。つまり、私は幸福なんてものにわかられたくない、と彼女は言っている。

 こうした不愉快さをにおわせるアルバム名に使いながら、ところがどっこい、『ウィル・ハッピネス・ファインド・ミー?』は、“マイクのごとき心(Heart Like A Microphone)”や“諦めるな(Never Give Up )”、“甘い相乗効果(Sweet Synergy)”や“永久機関(Perpetual Motion Machine)”、“星(The Star)”や“火(Fire)”などといった曲名のように、情熱的なニュアンスが並んでいる。“怒った少女のラヴ・ソング(Mad Girl's Love Song)”といったロマンティックな曲名の曲もあるが、これは60年代に自殺した女流詩人、シルヴィア・プラスの言葉からの引用だという(その曲は、昔の芸術界で不遇な死を遂げた女性への深い共鳴を感じさせる)。

 アルバムの内容は、前作とは比較にならないくらいに多様性を見せている。インド風のIDM=“ザ・サウンド”、メランコリックなヒップホップ=“ファイヤー”、レゲエ風=“スウィート・エナジー”、ジェフ・ミルズのミニマル・テクノをヒントにしたような曲=“パーペチュアル・モーション・マシン”、ダビーでスペイシーなポップ・ソング=“マッド・ガールズ・ラヴ・ソング”、アンビエント・ドローン的展開=“アローン・イン・アムステルダム”、エモーショナルなバラード=“ネヴァー・ギヴ・アップ”……そして、意外なことに、50年代に活躍した女性コーラス・グループ、ザ・コーデッツの“ミスター・サッドマン”(誰もが耳にしたような曲)をサンプリングしたメロウなR&B=“ザ・スター”。
 推し曲をひとつ選ぶなら、“アイ・ドント・ウォナ・ビー・ディスカヴァード”だろうか。ハンドクラップを取り入れたこのハウスは、マリアのお得意のスタイルの曲だが、いまどきの格好良さばかりではなく、今作の“情熱”を象徴するかのような力強さ、いままでの彼女にはなかったソウルがある。反響するループが瞑想的な“カミング・オブ・エイジ(成人)”などは、あたかもパティ・スミスのような語りを展開する。しかし、パティ・スミスにとってのヒーローはすべて男(ランボーからジミ・ヘンドリックス)だったが、マリアにとってのそれが女性(シクスーからプラス)であるという相違点は大きい。

 いろいろやれば良いってものではない。勇敢な挑戦が必ずしも成功するとは限らない。声はチャーミングだが、歌がうまいとは言えない。が、ともすれば移り気な新世代のラップトップ・ミュージックにも魂に訴える音楽があることをマリア・ミネルウァは証明した。しようとしている。“ハート・ライク・ア・マイクロフォン”で「私の心はマイクのようだ」と、機械で加工された声で歌う。的確なことを。「だから、まさに、それに話しかけろ(just talk into it!)」
 僕はこの曲にビョークの“オール・イズ・フル・オブ・ラヴ”を思い出したが、PCで音楽を創作するデボラ・ハリーを想像してみてくれてもいい。負け犬とは痛い人たちではなく、痛みを感じることのできる人たちのことである。

Variou Artists - ele-king

 ジョン・リーランドの、抜群に読み応えのある『ヒップ――アメリカのかっこよさの系譜学』(篠儀直子+松井領明訳)という大著に拠れば、パティ・スミスはかつてこう言ったという。「女というボディのなかでではなく、作品というボディのなかで、アーティストとしての自己主張をする必要があった」と。クールな言葉だ。

 さらに、1976年、彼女は作家のニック・トーシュに次のように語った。少々長いが、引用したい。「かたくなな女は凡庸な芸術しか生み出さない。凡庸な芸術なんかに用はない。......ポエトリー・リーディングでわたしが『プッシー(pussy)』という言葉を言うと、どこかのばか女が必ず立ち上がり、『プッシーという言葉について、あなたはどう定義しているんですか?』とかみついてくる。わかるもんですか、ただのスラングよ。プッシーと言いたくなったらそう言うだけ。ニガーと言いたくなったらそう言うし。誰かがわたしのことをすげえビッチと言ったとしたら、それもクールなこと。アメリカ人であるって、そういう言葉を使うことよ。なのに、あの堅物の運動家たちときたら、わたしたちのスラングを責め立てる。苛々するわ」。このカッコイイ発言に付け加える言葉、あるいは異論があるだろうか? 僕は、「その通りです!」と同意するしかない。

 〈ブラックスモーカー〉が初めて制作したコンピレーション・アルバム『LA NINA』は、女性アーティストの作品集である。パティ・スミスの発言に倣って言えば、ここに集結した女性たちは、作品というボディのなかでアーティストとしての自己主張を展開する豪傑な女たちだ。僕は彼女たちの音楽から、引用したパティ・スミス的なパワフルな態度を感じる。音は一様にハードコアで、彼女たちは、愛想笑いのような生ぬるい態度を一切見せない、自由奔放で、怒りたければ怒るし、嘆きたければ嘆く、笑いたければ笑う。やりたいことを貫き通す凄みと強さいうものが音からビシバシ伝わってくる気がする。

 音楽的にも、ダブやラップ、テクノやハウスといったダンス・ミュージック、ノイズや実験的な電子音楽と多彩だ。2007年のアリ・アップの来日ツアーに参加し、ドライ&ヘビーのサポート・メンバーでもあるジャー・アンナの物憂げなダブ"ILLUMINATOR"から幕を開け、その後に続くのは、〈セミニシュケイ〉のイレブンによる〈ON-U〉を彷彿させる硬質で、重厚な"Installation DUB"だ。妖しい雰囲気を演出するラテン・ジャズ風のヒップホップ"Ill sleeping blues"の黒光りのするトラックは、ヒップホップ・グループ、デレラのDJであるヨーコa.k.a.ジルによるものだ。この曲の殺気立ったラップで知られることになるであろうミチノからは、往年のダ・ブラットに通じるやんちゃな魅力を感じる。デレラからは、MCのミホ、ラッパー/シンガーのマクシーも参加している。ルミとシミ・ラボのマリア、クレプトマニアックによる"LA NINA"は、[music video] ♯1で紹介した通り、タイトル曲にふさわしい強力な一発だ。
 ラキラキ・ワズ・真保☆タイディスコの型破りな電子音楽"HIMMEL"から実験的な領域に突入するこのコンピには流れというものがある。サナエによる遊び心のある愉快なサウンド・コラージュ"48stomach to the smell of sense"のインタルードを挟んで、クレプトマニアックのスペーシーなソロ曲"GET UP W"が私たちをディープなところへ引きずりこんでいく。
 そして後半、さらに怒涛の展開が続くのだ! 原発と放射能汚染に翻弄されるこの国で鳴らされるクロスブレッド(リエ・ラムドールとマユコのユニット)の怒りのテクノ・ミュージック"stress test"から世界中を飛び回るDJ、シホ・ザ・パープルヘイズのトライバル・ハウス"gold dust flowers"へ、そして、ノイズ・ロック・バンド、タッジオのドラマー、あらきとくわまんによるユニット、コケティッシュ・マーダー・ガールズの獰猛なエレクトロニック・ミュージック"T.M.W.B.H"から関西アンダーグラウンド・シーンで異彩を放つドッドドの時空を歪めるノイズ"1999"へとなだれこんでいく。ハードにぶっ飛ばし続けて、最後の最後で、ヨーコa.k.a.ジルとマクシーのソウルフルな"he said"が柔らかい着地点を用意してくれる。

 参加アーティストによる個性的なアートワークも面白い。初回限定盤にはクレプトマニアックのアートブックレットがついてくる。
 クラブやライヴハウスの現場に多くの女性の表現者たちがいることを考えれば、『LA NINA』は時代の必然とも言える。このようなコンピが成立するということは、この背後でより多くの才能がひしめき合っているということでもある。また、本作の音にある種の一貫性があるということは、シーンらしきものが存在するということでもある。何よりもこれは、親しみやすくキュートだ。

 9月7日には西麻布の〈イレブン〉で『LA NINA』のリリース・パーティがある。スペシャル・ゲストDJはノブとヒカルで、ザ・レフティ(キラー・ボング+ジューベー)のライヴもあるが、コンピには参加していない女性DJやダンサーやVJも出演する。名前を見れば、デコレーションやフードにも気合いが入っているのがわかる。これは見逃したくない。〔『LA NINA』特設HP https://blacksmoker.net/la-nina/

Tha Blue Herb - ele-king

 人前に身をさらすミュージシャンの、それも自分は強い人間だということをことさらにアピールする(しているように見える)ヒップホップのMCの、キャリアの重ね方というのは気になるものである。同世代や上の世代の人間に噛みついてきたMCが、上の世代と呼ばれるようになったときにどうふるまうのか。そういうことに興味がある。若いままではいられない。いつまでも若いヤンキー的な価値観でモノを見つづけて、ラップをしつづけられても、果たしてそれはどうなんだ……? と思わなくもない。自分の好きなMCにはかっこいい年の取り方をしてほしいと思う。では、かっこいい年の取り方とはどういうものなのだろうか。

 MCのボス・ザ・MC(イル・ボスティーノ)とトラックメイカーのO.N.O、ライヴDJのDJダイ。この3人からなる札幌のヒップホップ・グループ、ザ・ブルーハーブはヒリヒリとした質感を覚える、研ぎ澄まされた音と言葉を放ってきた。それはストイックでハングリーなヒップホップだった。自分たちのヒップホップこそが本物だ、自分たちが信じることができるヒップホップはひとつもない、だから自分たちが本物をやる。彼らの音と言葉にはそんな思いが込められている。そう思いながら聴いていた。そして彼らはじつに理想的な4作目のアルバムを作り上げた。それがこの『トータル』だ。ボス・ザ・MCは8曲目“アンフォーギヴン”で「今は15年前とは違い/俺等をいらつかせ奮い立たせたベテランはいない」「俺等も40代になり/去っていったMCへのシンパシー/これも長距離走者の孤独の後味かい?」とラップしている。今から15年前の1997年はザ・ブルーハーブが結成された年である。キャリアを重ね、自分たちが日本のヒップホップのフィールドのなかで上の世代になったことを認めているように見える。それでいてフレッシュでポジティヴな心は失われていない。彼らはこの作品において、かっこいい年の取り方を見せてくれている。

 ボス・ザ・MCは自分の身のまわりに起きた過去の出来事を落ちついてふり返っているようにも、冷めた目で見ているようにも思えるラップを3作目『ライフ・ストーリー』では聴かせていた。ここではそれに堂々とした雰囲気が加わり、横綱相撲とでも言えそうな貫禄のあるラップを聴かせている。それでいて走り出したばかりのランナーのようにフレッシュなところもある。冷めた目で見ているところはない。過去を振り返りながらも、未来をまっすぐに見つめている。前に進んでいこうとする意思が、明るくなっていくはずだという希望が、言葉には込められている。いまの音楽シーンや日本の状況を俯瞰してみているようなリリックからは、キャリアを重ねることによって生まれたのであろう余裕みたいなものを感じる。

 そのようにして発せられた言葉は鋭い。言葉をそう響かせているのは、彼らのこれまでの作品にはなかったビートにある。それがボス・ザ・MCを新しい気持ちにさせ、ラップをフレッシュなものにしているように思える。この新しいビートは新しいものを求めて前に進んだ末に見つけたものだった。あるいは自分たちが前に進むために、自分たちの心を新鮮なものにするために必要なものだった。そんな印象を受ける。ヒップホップによくある重いビートとも違う。トラックだけを聴いたら、ヒップホップだとは思わないかもしれない。ミニマル・テクノやディープ・ミニマルあたりから引っ張ってきたような、硬いコンクリートに突き刺さりそうな、硬質で鋭利なビートが刻み込まれている。それ以外には冷たい質感のエレクトロニクスが吹き抜ける吹雪のように鳴らされているだけで、余分な装飾はまったく施されていない。

 むき出しになったビートに言葉をぶつけるように、叩きつけるように、ボス・ザ・MCはラップする。うまさや巧みさよりも、力強さが前面に押し出された無骨なラップだ。小細工はなし。そこに横綱相撲を見ているような貫禄を感じる。力強いビートと力強い言葉がぶつかり合い、ビートが言葉を、言葉がビートを加速させる。「俺達はまだまだ高く飛べる」。2曲目“ウィ・キャン…”で放たれるこのリリックが、ビートと絡み合って勢いよく弾き出されている。堂々とした姿を見せつけながら、上へ上へと上がっていこうとする、前へ前へと進んでいこうとする音と言葉がある。

 3人はルーキーとベテランの波打ち際を走っている。自分たちが上の世代と呼ばれる年齢になったことを自覚しているかのごときリリックがありながらも、ラップには若々しさがある。ヒップホップの影響下にはないビートを取り入れたトラックからは、次のステージを追い求めている姿や、新しいものに挑んでいこうとしている姿を見て取れる。1曲目“イントゥー・ロー”のドラマチックなストリングスの響きで始まるところからして、おや、これはこれまでの作品とは違うぞと予感させる。彼らはここで自分たちにとって新しいことに挑み、自分たちの心を新鮮なものにして、その新しいことを自分たちのものにしている。新しいことに挑む余裕があり、それをクリアするスキルもある。そういったところに、いいキャリアの重ね方を、いい年の取り方をしていると思わせるものがある。これはザ・ブルーハーブの4作目として申し分のない素晴らしい作品である。

Self Jupiter & Kenny Segal - ele-king

 新しい音楽は過去の音楽の集積のなかから生まれてくる。ロサンゼルスのビート・シーンのクリエイターはこのことを証明してくれている。マッドリブがそのいい例だ。マッドリブはレコード店の倉庫の片隅に置きっぱなしにされていた古いレコードからサンプリングしたかのような、粒の粗いビートと擦り切れそうな音でもって耳に新鮮に響くトラックを作る。それでもそこには、ただひたすらに時代の先端を追い求めているところはない。古き良き音楽を懐かしみ、楽しんでいるとも思える、おおらかな雰囲気が漂っている。それはビート・シーンのクリエイターが生み出す音楽の特徴でもある。ティーブストキモンスタシュローモの音楽を思い出してみよう。彼らの音楽は新しいのと同時に、古い――という言葉を飛び越える、太古の――と言ってもいいぐらいの、おおらかな雰囲気がある。もちろんジャンルの壁も飛び越えている。新しい音の向こう側には、膨大な数の過去の音楽のかげがある。

 ビルド・アン・アークやアモンコンタクトなどの活動で知られる、プロデューサー/クリエイター/DJのカルロス・ニーニョはロサンゼルスの魅力をたずねられてこう答えている。「すべての良いところは繋がっている。マッドリブがデイデラスをサンプルして、MF・ドゥームがラップするトラックのビートにしたり、ディンテルがヒップホップのトラックを作っていたり。ロサンゼルスでは素晴らしいことがいろいろ起こりつつある」。ヒップホップからエレクトロニカ、クラシックまでを取り込んだデイデラスのトラックにある音を使って、マッドリブがトラックを作り、それがMFドゥームへと渡る。エレクトロニカのクリエイターであるディンテルはヒップホップのトラックを作る。過去の音楽は誰かの手によって掘り起こされ、新しい音楽となって姿を変えて現れる。その中で異なるジャンルの音楽同士、クリエイター同士が交錯する。ロサンゼルスではそんな光景を目にすることができる。

 この作品が生まれたことも、ロサンゼルスで起こったすばらしいことのひとつである。ロサンゼルスのアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにおけるレジェンドとも言えるクルー、フリースタイル・フェローシップのMCであるセルフ・ジュピターと、プロデューサー/クリエイターのケニー・シーガルによるユニットの作品。ゲストにはノーキャンドゥやサブタイトル、アブストラクト・ルードなどのMCに加えて、シンゴ02も招かれている。彼らはここでロサンゼルスの古のアンダーグラウンド・ヒップホップと最近のロサンゼルスのビート・シーンを繋いでいる。そしてフライング・ロータスが『ロサンゼルス』や『コスモグランマ』にヒップホップのMCをひとりもフィーチャーせずに、未来に向かっていくような新しいヒップホップを提示したというのであれば、ここでは多くのMCがすばらしいラップを聴かせながら新しいヒップホップを提示している。

 フリースタイル・フェローシップはソウルフルであったり、ジャジーであったりするトラックを展開していた。そのクルーのMCのひとりであるジュピターが、この作品ではそれとはまったくと言っていいほど異なるトラックに挑んでいる。このことはロサンゼルスの人気パーティ、<ロウ・エンド・セオリー>のオーガナイズや、<アルファ・パップ>というレーベルの運営を行っているダディ・ケヴがDJハイヴ(アメリカのドラムンベースDJ)とともにはじめた、<コンクリート・ジャングル>なるパーティにおいて、フリースタイル・フェローシップのマイカ9やピースがドラムンベースのトラックでフリースタイルをした……、という話を思い起こさせる。<コンクリート・ジャングル>はドラムンベースをメインにしたパーティだという。ジュピターはマイカ9やピースとは違うフィールドで自身のスキルを解放している。異なるジャンルに身を置く者同士が交わっている。こんなところにロサンゼルスの音楽シーンに流れているのであろう開放的な空気を感じる。

 ジュピターはアブストラクト・ヒップホップとも、ビート・ミュージックとも、ダウンテンポとも思えるトラックの上に、ドスの利いた声でもって素晴らしいラップを乗せていく。ノサッジ・シングやフリー・ザ・ロボッツ、テイクあたりのロサンゼルスのビートをユルくスローにして、古いジャズやソウルのレコードから拝借したピアノや弦楽器のフレーズなんかを織り込み、ウォンキーを思わせるエレクトロニクスを絡み付けたようなトラックが並んでいる。ダブステップやジューク/フットワークで刻まれている、複雑でせわしないシャープなビートに追い抜かれていく、のっそりとしたビートがゆっくりと進んでいく。古めかしい音と新しめのビートが交錯した、古さと新しさを行ったり来たりする、特異な印象を与えるヒップホップだ。ワルくてコミカルでユーモラスな感覚もある。ジュピターとシーガルはマッドリブと同じように、時代の前に進むことだけを考えているわけではない。たまには過去にも戻りながら、ヒップホップの新しい姿を見せつけている。ゆるやかに時代を行き来する、おおらかな雰囲気がある。この音楽とフリースタイル・フェローシップのメンバーの動きは、様々な音楽とシーン、人物が混ざり合うロサンゼルスの空気を映し出している。

Pernett - ele-king

 チェルノブイリで事故があった後、忌野清志郎が初めて放射能について歌った“シェルター・オブ・ラヴ”について音楽評論家の北中正和氏は「ニューウェイヴ風にアレンジしてあるけれど、基本はメンフィス・サウンドだ」というようなことを書いてくれたことがある。自分で原稿を頼んでおきながら、なんのために書いてもらったのか、なにひとつ覚えていないものの、アレンジに誤魔化されない聴き方があることを、その時、僕は学んだ。僕がライターになろうと決めた2年前のことである。それから5年ぐらいして忌野清志郎がR&Bもカントリーも譜面的には同じなんだよといって、カントリーのアルバムをつくりたがっていたこともある。その意向はレコード会社によって却下され、以後、忌野清志郎はセールス的には低迷しはじめる。昨日の30万枚が今日の4万枚。レコード会社の言い分もよく覚えている。しかし、あの時、カントリーのアルバムをつくっていたら清志郎はどうなっていたんだろうと、いまでも時々、僕は考えてしまう。「ニューウェイヴ風にアレンジしてあるけれど、基本はメンフィス・サウンドだ」という指摘は、アレンジを変えたぐらいでは本質は揺るがないという示唆でもあっただろう。「譜面的には同じ」なら尚更である。

 コロンビアからアルゼンチンに伝わってディジタル化したクンビアが再度、コロンビアに回帰したことで、ボンバ・エステーレオやキング・コジャといった新世代がコロンビアからも出てきた。なかでもサイドステッパーのサポートからソロになったペルネットはクラブ・ミュージックの取り入れ方がハンパなく、3作目となる最新作のタイトルも『カリビアン・コンピュータ』と、ディジタル化されたことをことさらに強調している。そして、実際、シンセサイザーは縦横に飛び回り、類稀なる洗練度を印象づけていく。ところが、やはり、北中正和氏は言うのである。
 「DJ的な手法を加えてはいるけれど、彼はあくまでもルーツ・ミュージックを知的でひねりのあるものにしているのだ」と。いつの間にか北中さんとは毎月、朝日新聞の定例会議でそのような話を聞かせてもらう関係になっている。僕とは違って、長くクンビアを聴いてきた方なのだから、その見識に疑いの余地はない。ペルネットのことを教えてくれたのが、そもそも北中さんだし、アレンジに誤魔化されない聴き方が…僕にはまだできていなかった。ライターになろうと決めてから22年も経ったのに。

 しかし、『カリビアン・コンピュータ』を聴いて、即座にこれがコロンビアの伝統的な音楽だと判断できる人はそうはいないに違いない。アルゼンチン産のものに較べると、たしかにナチュラルではあるし、ドラムスを使わずに複数のパーカッションでリズムを構成するという基本も守られている。“クンビア・コンピュータ”でリードを取るのはケーナを思わせる笛だし、象の声も……これはサンプリングかな……ヴォコーダーやラップ(え!)、リリカルなシンセサイザーの使い方もとにかくシャレている。だって、ちょっとトライバルなリズムを取り入れたハウスにはこういう曲は少なからずあったし(ファビオ・パラス!)、ディスコ・ダブとの溝も狭い。宇宙の果てまで飛んでいくようなギターはレフトフィールドもかくやで、ヘタをするとトランスにも聴こえかねない曲もあれば、“モノリス”に至ってはミックスマスター・モリスを思わせる透明なアンビエント・チューンとなっている。「クンビアなのに声が暗いのがいい」とは北中さんの弁で、それもあって、ヴォーカルが入っていてもどことなくヨーロッパ風といえ、「銀河系マヤ人の帰還」など壮大なヴィジョンにも無理がない。明日にも、あるいは、すでにスフェン・フェイトがDJで使っていてもおかしくはない。クンビアは下層階級の音楽で、サルサのように上流階級には受け入れられないという慣習も突破してしま……ったりするかも(ちなみにブラジルが経済新興国になるまで、地球上で南米だけには中産階級が存在していなかった)。
 
 オンダトロピカが、そして、正反対のことをやっている。クアンティックことウィル・ホーランドがコロンビアの伝統的なミュージシャンたちと結成した新たなグループはペルネットよりも伝統的な音楽に聴こえるものの、軸足は西側のマーケットに置かれている。猥雑なムードはペルネットをはるかに上回り、厚いブラスのリフレインやアコーディオンの響きは見たこともなければ行ってみようとも思わないコロンビアをはっきりとイメージさせる。これこそ「アレンジ」の妙である。シンセサイザーなどはほとんど使われず、ベース・サウンドが何よりもコンクリートのダンスフロアを意識させ、このにぎやかさが実質的にはクンビア風フュージョンであることを物語る。ものすごく穿っていえば、アンダーグラウンド・レジスタンスやデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンと同じ種類の音楽である。都会的と言い換えてもいい。

 ペルネットもオンダトロピカも、コロンビアの音楽を外に連れ出そうとしているという意味では同じ衝動に駆られているといえる。僕はもう、すでに興味を持ってしまったし、どちらからアプローチするかは人それぞれ。ラス・マラス・アミスタデスといい、コロンビアの音楽が近年になく大きく動き出していることだけはたしかだといえる。

NHK yx Koyxen - ele-king

例えばこんな感じのを聴いたりしますが, 10個選ぶとか難しかったので順位は適当+曲名とアルバムタイトルが入り乱れているのは、聴き方の偏りがあるからです。

(photo by AOKI Takamasa)

NHK Bells on Chart


1
Morton Feldman- Morton Feldman - Edition RZ

2
Conrad Schnitzler - CON - Paragon Records

3
Panasonic - Vakio - Blast first

4
Robert Ashley - Automatic Writing - Lovely Records

5
Lego feet - SKA001CD - Skam Records

6
Anti Pop Consortium - Stretch Time - Blackhoodz

7
Drum Circle - trying_01 - Demo

8
Fairuz - Sakan el Layl - ?

9
Sensational - Cipher - Wordsound

10
NHK Koyxen - Dance Classics - PAN

[music video] ♯2 - ele-king

Givvn - One Day (In The City)(DEMO)



 リリックに山下達郎の歌詞が引用されているからそう感じたのか、山下達郎"Dancer"をイエスタデイズ・ニュー・クインテット(マッドリブ)が大胆にリミックスしたようなクールな曲だ。が、このグルーヴィーなトラックの作者は、中盤からソウルフルな歌声を響かせ、ふてぶてしい表情でラップをかますギヴン(Given)という日本人のアーティストで、タイトルに(DEMO)とエクスキューズがついている通り、数日前にyoutubeにアップされて世に出ている。現段階で再生回数が574回であるのが信じられないほど、ある意味で、彼のアートは成熟している。
 ところで、この、ラップもトラックメイキングもこなすギヴンは、DJ/トラックメイカーのティー・ラグ(tee-rug)とロウパス(LowPass)というヒップホップ・デュオを組んでいる。彼らはまだ22、23歳の新人だ。彼らが昨年末に発表したデビュー・アルバム『Where are you going?』と今年3月にインターネットで無料配信した『Interludes from"Where are you going?"』は、新旧のブラック・ミュージック・ファンを同時に唸らせるであろうブリリアントな魅力を有している。ベースは心地良くうねり、マーヴィン・ゲイ『I Want You』が引用される。アフロ・ファンクやブラジル音楽の要素もある。また、ロウパスの音楽には、〈ストーンズ・スロウ〉に通じるソウルがあり、元カンパニー・フロウのエル・Pが主宰する〈デフ・ジャックス〉を思わせる、謎めいたムードがある。ちなみに、QNとシミ・ラボのオムスビーツは、ロウパスのアルバムの1曲に参加している。彼らのアルバムの曲のいくつかはyoutubeでも聴ける。
 では、最後のオマケにもう1曲。ギヴンがラップし、Mirugaiという謎のトラックメイカーがプロデュースしたQN"Ghost"(『New Country』収録)のカヴァー。なんともかっこいいコズミック・エレクトロ・ファンクじゃないか!

Ghost (QN Cover)



Ghost (QN Cover) by Mirugai feat. Given from LowPass.
Prod. by Mirugai.

Sensational meets koyxeи Japan tour 2012 - ele-king

 野蛮人が来日する。センセーショナル、人は彼をラップ界のリー・ペリーと呼ぶ。ラップ界には、ある意味ではかなりの数のリー・ペリーがいるかもしれない。その強豪揃いのシーンのなかにあって、センセーショナルはよほどのことがあるからそう呼ばれている。音楽ライターのスペクターがはじめた〈ワードサウンド〉は、IDMとヒップホップの水を埋めたレーベルだが、1997年、1999年と、そこから出た最初の2枚はぶっ飛ぶためだけに生きている男の美しい記録として忘れがたい。


Scotch Bonnet

 NHK名義で知られる、大阪人かつベルリン人のコーヘイ・マツナガは、2006年に最初のコラボレーション・アルバム『Sensational Meets Kouhei』を〈ワードサウンド〉から出すと、2010年にはマンチェスターの〈スカム〉(ゲスコムのメンバーによる)から『Sensational Meets Koyxeи』も出している。つい先日も、NHKはセンショーナルとDJスコッチエッグと一緒にヨーロッパをツアーしている。

 今回は、センセーショナル+コーヘイ以外には、言わずと知れた才人Scotch Bonnet(DJスコッチエッグ)、そして大阪ではAOKI Takamasa(ele-kingは彼の音楽が大好きです)、東京では中原昌也(『エーガ界に捧ぐ(完全版)』を出したばかり!)、そしてこれまた注目のKakato ( 鎮座Dopeness x 環Roy )が出演する!
 そして、センセーショナルとNHK、DJスコッチエッグは9月12日(水)21:00~@DOMMUNE、あります。前半、この伝説の奇人に編集部野田がインタヴューします。

Sensational (ex, Jungle Brothers aka Torture)
 Tortureの名前で活動していた頃、Jungle Brothersとして94年の3作目『JBeez Wit Da Remedy』に参加、そして彼の伝説ははじまった。
 芸術家はいつの時代も気ちがいじみた特質性、風変わりな人柄に富んでいるが、sensationalは他に類を見ない正に唯一無二の超オリジナルなラッパーだ。95年、Sensationalに改名しソロアルバム『Loaded With Power』(WSCD022) 、3作目のアルバム『Heavyweighter』 (WSCD037)をリリースした頃には、NY『タイムアウト』誌で「Sensational is underground hip-hop's number one upstart-in-waiting(待ちに待ったヒップホップ・アンダーグラウンド界のNo.1の成り上がりMC)」と称された。多くのラッパーがサンプリングを使うなか、彼はすべてオリジナルトラックで臨み、そのブレイクビーツに乗せた彼の鈍りきったフロウ、詩のように優美なフロウがILLなヘッズを虜にしている、まさに伝説の奇人!

Scotch Bonnet ( Scotch Egg / Berlin )
 DJ Scotch BonnetはDJ Scotch Eggとして活動するUK在住の日本人、本名「シゲ」の新プロジェクト。ヨーロッパを中心に活動。活動の初期はガバ~ブレイクコア~チップチューンを演奏する次々世代のテクノアーティストとしてブレイクコアのアーティストを多数輩出している〈ADAADAT〉〈wong music〉から2枚のアルバムと7インチ、10インチのアナログシングルを各1枚ずつリリースしている。ATARI TEENAGE RIOT /ALEC EMPIREとのヨーロッパツアーで頭角を現わし、その後μ-ziq / APHEX TWIN/ Bong-ra. /VENETIAN SNARES等、ブレイクコアや異端テクノ系のビッグネームと多数共演、UKでは2ndアルバムリリース時に英国ラジオ局BBCが彼の特別番組を放送する等、ほぼ毎日行われるGIGでヨーロッパ全土を席巻し、注目の的となっている。マンチェスターの「FUTURE SONIC FESTIVAL」やロンドンで行われるエレクトロニック・ミュージックの祭典「GLADE FESTIVAL」、70年代から続く老舗巨大フェス「Glastonbury festival」など多数のフェスティヴァルに出演。

■大阪公演at Conpass
9月14日 (金)
18:30 open / 19:00 start

Sensational meets koyxeи ( ex, Jungle Brothers + NHK )

DJ Scotch Bonnet ( aka DJ Scotch Egg / small but hard / Berlin )
Jemapur ( Saluut, Beta, Phaseworks )
Yuki Aoe ( concept )
DJ AOKI Takamasa
DJ Kouhei Matsunaga

ADV 2500 . DOOR 3000
https://www.conpass.jp


■東京公演at Super deluxe
9月16日(日・祝日前)
19:30 open / 20:00 start

Sensational meets koyxeи ( ex, Jungle Brothers + NHK )

Kakato ( 鎮座Dopeness x 環Roy )
DJ Scotch Bonnet ( aka DJ Scotch Egg / small but hard / Berlin )
Jemapur ( Saluut, Beta, Phaseworks )
DJ NHK fm
DJ 中原昌也

ADV 2800 . DOOR 3500
https://www.sdlx.jp/2012/9/16



https://koyxen.blogspot.com
https://nhkweb.info
https://twitter.com/kouheimatsunaga

Teengirl Fantasy - ele-king

 チルウェイヴのバブルがはじけたあと、そのポスト・ヒプナゴジックの原野には、大きくふたつの方向へと分化する才能たちがあらわれた。アンビエントやドローンへと先鋭化していくものたちと、ダンス・ミュージックとしての純化をめざすものたちである。前者はチルウェイヴのメタフィジカルな延長であり、後者はフィジカルな延長だ。〈ヒッポス・イン・タンクス〉と〈100%シルク〉の相違に、そのひとつの例があざやかに浮かび上がっていると言えるだろう。
 ティーンガール・ファンタジーもセカンド・アルバムにおいては何らかの選択をしなければならなかった。ピッチフォークのインタヴュアーが、今作への質問においてテクノやハウスからの影響を指摘することからはじめたのは、彼らが再帰的にダンス・ミュージックを指向しはじめたことを端的に物語っている。

 2010年のデビュー作は、もっとあいまいでどっちつかずな作品だった。ローファイでドリーミーでダンス・オリエンティッドなシンセ・ポップ……トレンドをそつなくつなぎあわせる年若い頭脳が感じられたし、いち部のメディアからは高評価で迎えられたが、後続を生むような強靭なスタイルを持っていたわけではなく、どちらかと言えば自らが優秀な後続であったという印象だ。また、USではガールズタンラインズアンノウン・モータル・オーケストラなどを擁する〈トゥルー・パンサー〉からのリリースであったことは、彼らのよって立つ基盤がインディ・ロック寄りであったことを証している。すでにオベリン大学とはべつにアムステルダムへも留学し、テクノやハウスに深く触れて帰ってきていたにもかかわらず、そうした材を直接的に表出しなかったのは時代を読む才にたけていたからなのかもしれない。ともあれ、今作『トレイサー』においてそれは全面的に解放されることになった。リリース元は〈R&S〉、そういうことである。

 結果としてそれはとてもよく作用している。『トレイサー』こそ彼らの名刺となる名作だ。あのよくわからない『7AM』のジャケットに比し、つめたい薔薇のグラフィック・アートは今作のクリアで硬質なプロダクションにしっくりとかたちを与えている。けっしてメロウにならないドリーム感は、チルウェイヴの残り香を鱗粉のようにふりまきながら、ケレラのヴォーカルとともにR&Bへの軌跡も示す(やはり彼らもR&Bをつぎの射程に入れているのだ)。ケトルやボーズ・オブ・カナダの叙情をくぐり抜け、パンダ・ベアのヴォーカルをフィーチャーする“ピジャマ”では、4つ打ちを相対化しながらもアクロバティックにハウスを模索する。パンタ・デュ・プランスがパンダ・ベアを求めるのとは逆の回路で、しかし到達点としては同じ地平をみるような好トラックだ。ローレル・ヘイローに目をつけるのもうまい(というか必然だ)し、ピアノをシックにあしらう“エンド”もいい。よりベタな意味でのダンス・サイドである後半のトラック群を控え、前口上を述べるかのようである。このアルバムがいかなるものであるのか。自分たちはどこを通ってここへやってきたのか。「模倣には限界がある」と語る彼らが教育課程を修了し、いよいよ本当の進水式をむかえたと言えるこの『トレイサー』を祝福したい。卒業おめでとう。

interview with Mala - ele-king

E王
Mala - Mala in Cuba
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 これはロマンスである。冒険であり、成熟でもある。多くのダブステッパーはベルリン、アメリカに行った。アフリカを選んだ連中もいる。昨年のDRCミュージックの『キンシャサ・ワン・トゥ』、今年の『シャンガーン・シェイク』のような作品は、21世紀のワールド・ミュージックのあり方の一例となった。
 マーラはキューバに行った。その結実として生まれた『マーラ・イン・キューバ』は、今日のDJカルチャーによるベストな1枚となった。これは大げさな表現ではない。プロデューサーのジャイルス・ピーターソンは、1990年代に彼がロニ・サイズや4ヒーローで実現させたことを、マーラというダブステップ界の英雄の才能、そして、彼の努力を信じることで再度成功させた。ピーターソンはまさに鉱脈を掘り当てたと言える。
 "Introduction"の打楽器によるシンコペーション、ピアニストのロベルト・フォンセカによる穏やかなコードの重なりは、この名作のはじまりに相応しく美しい。ロンドン郊外の冷たいコンクリートの地下室で生まれたアンダーグラウンド・ミュージックがカリブ海諸島でもっとも大きな島、多彩なリズムを擁するキューバと結ぶばれたのだ。
 
 マーラのバイオグラフィーを簡単に紹介しよう。ダブステップのオリジナル世代で、コード9と並ぶ硬派、伝説的レーベル〈DMZ〉のメンバー、デジタル・ミスティックズ名義で作品を出し、ゴス・トラッドの作品をリリースしている〈ディープ・メディ〉の主宰者でもある。
 マーラの作風は、レゲエからの影響を反映していることで知られているので、カリブ海とは必ずしも遠いわけではない。が、サルサのリズムがダークなベース・ミュージックとどのように交流し、混合されるのかは未踏の領域だった。ジャイルス・ピーターソンのような知識豊富なプロデューサーがついているとはいえ、勇気を要する挑戦だったろう。以下の取材においてもマーラは、彼自身がキューバ文化に関して無知だったことを正直に明かしている。
 たとえば"Changuito"、この曲ではシンコペートするカウベルの音からはじまり、しばらくするとド迫力でダブステップのビートが挿入される。このシンプルな構造には、しかし激烈な移転の魅力がある。このような見事な雑食性は、"Mulata"のようなサルサのピアノを注いだ曲をはじめ、アルバムの一貫した態度となっている。無理矢理日照時間を引き延ばすわけでもないが、真夜中の美学で統一されているわけでもない。マーラはその両者の反響を手際よく捉えている。スペイン語の歌が入った"Como Como"は前半のハイライトのひとつだが、こうした不安定な異国情緒は、ラロ・シフリン(映画音楽で知られる)の領域にまで接近している。

 DJカルチャーらしい大胆なミキシング......つねにそこには多彩なリズムがあり、低周波が響いている。"Calle F"はラテン・ジャズのベース・ヴァージョンだし、マーラ自身もお気に入りだという"Ghost"にいたっては、リズム・イズ・リズムの"アイコン"のリズミックな恍惚とも近しい。宝石のようなアルバムが欲しいかい? ここにあります!

キューバについて実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ』くらいのもので、音楽のことも文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

あなたのバックボーンにレゲエがあるのは有名な話ですが、同じカリブ海とはいえキューバは言葉も文化も違います。キューバの文化や歴史に関してどう思っていましたか?

マーラ:実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ(Buena Vista Social Club)』くらいのもので、キューバ音楽のことも、キューバ文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

ジャイルス・ピーターソンとの出会いについて話してもらえますか? 彼からはどのようなアプローチがあったんでしょう?

マーラ:ジャイルスとは、彼のBBCラジオ番組でインタヴューを受けたり、〈ブラウンウッド(Brownswood)〉のポッドキャストに出演したりしたことが数回あったのと、以前から僕の音楽をプレイしてくれていたし、イヴェントで共演したこともあったから、お互いのことはよく知っていた。けれども直接制作で直接関わることはなかったから意外だったね。
 ある晩に突然電話がかかってきて、「キューバで『ハバナ・カルチュラ(Havana Cultura)』というアルバムを作るんだが、少し趣の違うアーティストを入れたいから、一緒にキューバに来ないか?」と声をかけてくれた。それが最初で、一度ロンドン・ブリッジの近くのパブで会って、ギネスを飲みながら、プロジェクトについて話し合ったんだ。そのときに彼が知っているキューバの話をしてくれて、僕は逆にキューバのことは何も知らないことを伝えた。話を聞いたら、とても誠実なプロジェクトだと感じて、それに誘ってもらえたことをありがたく思って、2011年の1月に最初のキューバ訪問に出かけたんだよ。

彼は長いあいだ、世界のクラブ・ジャズ・シーンをリードしている人物ですが、あなたから見てジャイルスの良さはどこにあると思いますか?

マーラ:ジャイルス・ピーターソンのような人物は、本当に音楽にとって重要だ。これまで素晴らしい功績を残していて、素晴らしいミュージシャンたちと仕事をしてきただけでなく、つねに最先端で、気持ちが若々しい。彼はつねに新しい切り口や、新しい音楽、新しいアーティスト、新しい音楽の紹介の仕方を考えている人。ジャイルス・ピーターソンみたいな人はそういない。僕の知っているなかで近い存在といえばフランソワ・Kもそういう人だね。年齢はずっと上だけど、音楽に対する考え方はとても先駆的で、古いやり方にとらわれていない。
 とにかくジャイルスと一緒に仕事が出来たことは幸運だと思っているし、彼は僕がこのアルバムを制作していた1年のあいだ、とても辛抱強く見守ってくれた。ジャイルスはずっと僕の作った音楽を楽しんでくれていた人だから、僕は別に誰かに認められたいと思っているわけじゃないけれど、自分のやっていることに自信を持たせてくれた。誰でもそう思わせてくれるわけじゃないからね、ジャイルスのこれまでの歴史があるからこそそう思わせてくれる。彼は根っからの「ミュージック・マン」。そんな彼に信頼してもらえて本当に嬉しく思うし、ジャイルスとは生きている限り、いい友人でいられるんじゃないかな! プロジェクトが終わったからといってなくなる関係ではなく、一生続いていくものだと思う。

最初このプロジェクトに誘われたとき、あなたに迷いはなかったでしょうか?

マーラ:誘われたときにすぐ「やりたい」と思ったよ。だから、すぐにやる気があることを伝えたけど、そう返事してから、家族や友だちにプロジェクトのことを話してどう思うか意見は聞いた。でも、絶対に逃してはいけない機会だと最初から思ったよ。こういう企画はそう頻繁にあるものではないし、むしろ一生に1回あるかないかのチャンスだ。それくらい、大きな意味があるものとして受け止めた。僕の慣れ親しんだものとはまったく違うから、冒険でもあったけど、ときにはそういうものに飛び込んでみるべきだと思った。

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ダブステップに興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。エンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思う。

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実際、ハバナで体験したことについて教えてください。印象に残っていること、感銘を受けたことはなんでしたか?

マーラ:キューバでは本当に印象に残る体験をたくさんしたんだけど、例えば、僕が作ったトラックをスタジオで流していたときにダナイがそれを聴いて、「この曲私にちょうだい」というので渡したら、翌日それに合わせて歌詞を書いて来て、すぐに録音した。こういう体験だけでも、僕にとってはとても新鮮だった。これまでヴォーカリストと一緒に曲を作ったことはほとんどなかったから。しかもスペイン語で歌う歌手なんてね。彼女の歌詞の意味はわからないけど、でも雰囲気で伝わることがたくさんある。あれはハイライトと呼べる瞬間のひとつだった。
 もうひとつは、ある夜にジャイルスと僕がホーム・パーティに呼ばれてプレイしていたときに、男性がやって来て「一緒にプレイしていいか?」と聞かれたんだけどどういう意味かわからなくて、MCでもするのかと思ったら、トランペットを出して来た。「いいよ、どうぞどうぞ」と言ったら、僕のトラックに合わせて演奏し出した。それがとても良かったから、「明日スタジオに来ないか?」と誘ったんだ。そしたら実際に来てくれて、アルバム中の2曲で彼のトランペットがフィーチャーされてる。もしそのパーティに僕たちが出ていなかったら、彼が参加することもなかったわけだから、特別なことだったと思う。
 あとは、ドブレ・フィロ(Doble Filo)というキューバのヒップホップ・グループのエドガロ(Edgaro)とイラーク(Yrak)というラッパーの家に遊びに行ったら、小さな煉瓦造りの家で、中庭でラップトップ、ドラマー、ベーシスト、ギタリストとキーボーディストがいてリハーサルをしていた。その光景だけでもとても印象に残ったし、キューバはとてもカラフルな場所でどの場面を切り取っても絵になるし、ストーリーがある。他にも思い出はたくさんあり過ぎて話しきれないけどね!
 それに、町中には、たくさんの音楽が溢れている。

どのぐらいの滞在で、具体的にはあなたはどのようなセッションをしたのでしょうか? あなたはビートを作って、そこに現地の演奏を録音していったんですか? 

マーラ:キューバには合計で3回行ったけど、毎回1週間ほどの滞在だった。1回目は10日間だったかもしれないな。3回目は最近だったんだけど、それは(制作ではなく)プレイしに行ったんだよね。
 1回目のキューバ訪問の際に、ロベルト・フォンセカ・バンドが、約15種類のキューバン・リズムを僕のために録音してくれた。ロベルト・フォンセカはピアニストで、他にドラム(ラムセス・ロドリゲス)、コンガ(ヤロルディ・アブレウ)、ベース(オマー・ゴンザレス)がいた。それに、キューバの有名なティンバレス奏者であるチャンギートに参加してもらった曲もある。あと、"Calle F"という曲ではトランペット奏者(フリオ・リギル)にも参加してもらった。基本的には、キューバで彼らの演奏を録音し、それを僕が自分のスタジオに持ち帰って、僕がその素材を使ってアルバムにまとめたんだ。

作業自体はスムーズにいきましたか?

マーラ:難しかったことはたくさんあったけど、もっとも苦労したのは、開始してから9ヶ月くらい経って、録音した素材とひとりでスタジオで格闘していたときかな。僕はこれまで、完成品のイメージを事前に持って曲を作ったことがなかった。普段はとにかくスタジオに行って、やっているうちにかたちが出来ていって曲が完成するという風に作っていた。でも、これだけたくさんの素材を前に、それから何か作らなければいけないということだけ決まっていて、実際に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。客観性を持てなくなったというのかな。そういう体験をしたことがなかったから、新たな挑戦だった。
 僕にとって音楽作りは迷路のようなもので、ゴールに辿り着くためにはいろんな経路を辿ることができる。でも、どれか道を進んでみないと、それが正しいかどうかはわからない。間違っていたら突き当たってしまい、また同じ道を逆戻りすることになる。でも、その迷路自体を自分が作っていて、自分で作った迷路のなかで迷子になってしまったような感覚だった。その過程で、何度かジャイルスや〈ブラウンウッド〉に「行き詰まってしまって、完成させられるかどうか分からない」なんて連絡したこともあったよ(笑)。そのときに、ジャイルスとも仕事をしたことがあって、僕の友人でもあるプロデューサーのシンバッドが手を貸してくれた。何度もスタジオに来てくれて、僕がやったものを聴いて客観的な意見をくれた。何曲かは共同プロデュースになっている。ミックスも一緒にやった。彼の協力は本当に有り難かった。彼のお陰でどんなアルバムにすればいいのか、より明確なイメージを掴むことができたよ。

キューバのミュージシャン、キューバの人たちはダブステップのことを知っていましたか? 

マーラ:興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。ロベルト・フォンセカのエンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思うけど、ロベルト・フォンセカと彼のバンドは世界中をツアーしているから、エレクトロニック・ミュージックにも触れているし、平均的なインターネットを使えないし外国にも行けないキューバ国民より、いろんな音楽を知っている。

アルバムの冒頭に入っている言葉は何を言ってるんですか?

マーラ:ははは。あれね、実は僕も何を言っているのかずっとわからなかったんだよ。スペイン語だしね。彼が言っているのは、「僕たちの音楽は止めようとしても止まらない、こういう風にもできるし、ああいう風にもできる......」というようなこと。この言葉を冒頭に持って来たのは、最初に「ハロー」って入っているだろ?あれを家で流したときに、息子が聞いて「ハロー」って返事をしたんだ(笑)。だからアルバムのはじまりにちょうどいいかと思って。喋っているのはコンガのプレーヤーなんだけど、実際にセッションのはじまりに、少し話しながらウォームアップしていく感じが、アルバムのイントロとして相応しいように感じたんだ。

アルバムの曲で、あなた個人のお気に入りはなんでしょうか?

マーラ:うーん。どれかなぁ~。強いて言うと、最後に一晩で作った曲かな。他の曲のミックスダウンの途中で、その作業がとても長かったから、すこし飽きていたところだった。何か気分転換をしようと思って、おもむろにビートを作りはじめた。そうやって、ほぼ一晩で作ったのが"Ghost"というトラックだった。他の曲もすべて気に入っているけど、この"Ghost"は僕をどこか違う次元に誘ってくれるような曲。最後の最後に、どうして突然作り上げることができたのか、自分でもよくわからない曲なんだ。今年の3月に作ったばかりだよ。翌日にシンバッドがミックスを手伝いにスタジオに来たんだけど、彼にこの曲を聴かせたら椅子から転げ落ちそうになっていたね(笑)。一緒にメロディカや生のハンドクラップを足して、アルバムに加えることにしたんだ。
 あとは、"Changes"という曲もすごく気に入っている。でも完成させるまでに苦労した分、すべての曲に思い入れがあるし、苦労が報われたと思えるよ。

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多くの人は〈DMZ〉のリリースやイヴェントが、ダブステップの基礎を築いたと言うけれど、もともと僕は自分がやりたいことを追求しようとしてきただけで、シーンをどうこうしようと思ったことはない。

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ジャイルス・ピーターソンから何らかのサジェスチョンはありましたか?

マーラ:制作の途中で、いくつかのトラックを送って聴いてもらったときに、どれが好きかという意見はもらったけど、最終的に収録した14曲の順番や中身に関してはジャイルスもレーベルのスタッフもまったく関わっていない。出来上がったものを、「完成品です」と渡しただけだったよ。それをジャイルスが聴いて、幸運にもとても気に入ってくれた。彼は完全に僕を信頼してくれて、僕の作る音楽を信じてくれていた。その分、距離を置いて見守ってくれたね。

それだけ信頼してくれたからこそ、あなたも自信を持って取り組めたということですね。

マーラ:そう、その通り。

今回のプロジェクトをやってみて、もっとも良かった点はなんでしょうか?

マーラ:このプロジェクトに携わったことで、僕の考え方は大きく変化した。理由はたくさんあるけれど、そのひとつが、まず僕はアルバムの制作を依頼されたことがなかった。僕自身は、アルバム制作にこれまであまり興味がなかった。だから、それが大きな変化だった。ミュージシャンと共同制作するという体験も大きな変化だった。それもこれまで体験したことがなかった。キューバを訪れたことも、初めての体験だったし、外国でレコーディングすることも初めてだった。テープを使ってレコーディングするのも初めてだったし、それを64チャンネルの巨大なSSLデスクを通してやるのも初めてだった。あんな美しいスタジオで、レコーディング・エンジニアと一緒に仕事をしたことなんてなかった。録音された素材に対して、自分がやることを周りがどう思うかなんていままで気にする必要がなかった。ひとりでしか音楽を作ったことがなかったからだ。
 だからこのアルバムの制作過程のすべてが、僕自身のエゴを捨てて、自分がわかっていると思っていた音楽の作り方をいちど忘れなければならなかった。このプロジェクトにアプローチするためには、自分自身を変えなければいけなかったんだ。自分がやりたいこと、やるべきことに真摯に向き合うということだけでなく、ジャイルスや、〈ブラウンウッド〉や、『ハバナ・カルチュラ』、そして何よりもロベルト・フォンセカと彼のバンド、ダナイ・スアレスなどのミュージシャンたちに対してリスペクトを持つことの大切さを学んだ。彼らが僕に教えてくれたこと、それは音楽だけでなく、人として教えてくれたことは本当にかけがえのないものだった。

この経験、そしてこの作品は、ダブステップのシーンにどのように還元されるのでしょう?

マーラ:この経験は間違いなく、僕の今後に大きく影響してくると思うよ。一度、新しい考え方や仕事の仕方を学んでしまうと、もうその前の自分には戻れないよ。今後も、いままでやって来たように音楽は作り続けるけど、キューバの要素は、常に僕のなかのどこかに留まり続けるんじゃないかな。それはグルーヴかもしれないし、新たなサンプリングの仕方かもしれないし、とにかく多くのことを学ばせてくれたプロジェクトだった。

今回のような音楽的な成熟はダブステップのシーンのひとつの可能性だと思うのですが、あなた自身は今日のダブステップのシーンについてどのような意見を持っていますか? 

マーラ:たしかに僕はダブステップのシーンに深く関わって来たし、多くの人は〈DMZ〉のリリースやイヴェントが、ダブステップの基礎を築いたと言うけれど、もともと僕は自分がやりたいことを追求しようとしてきただけで、シーンをどうこうしようと思ったことはない。そもそも「シーン」というのは誰かがコントロールできるものではないし、誰かが支配出来るものでもない。だから、僕は自分自身の方向性や、やりたいと思うことだけを考えるようにしている。この作品が、シーンに有益な何かをもたらせることができれば嬉しいとは思うけどね。

最後に〈ディープ・メディ〉について質問させてください。スウィンドルの「ドゥ・ザ・ジャズ」が今年の自分のなかのベストなシングルなんですが、あの曲に関するあなたの評価を教えてください。

マーラ:あれはアメージングなレコードだね。僕は音楽を聴くときに、好きか嫌いかということはあまり考えなくて、何を感じるかということに重きを置いているんだけど、スウィンドルの作品は僕にとってもとても興味深くて、さまざまな影響の消化の仕方がとても独特だと思う。例えばハービー・ハンコック......彼はジャズの人間だからね、彼の音楽の作り方はとてもジャズ的だと思う。そんな彼のベース・ミュージック、サウンドシステム・カルチャーへの取り組み方は他の人とまったく違う。
 スウィンドルのことは、シルキーとクエストを介して知ったんだ。彼らがスウィンドルの曲をかけていて、僕は聴いた途端に「何だこれは? 面白いぞ」と思った。その後いくつか彼の曲を聴いて、2ヶ月くらい経ってから、連絡してみようと思った。〈ディープ・メディ〉からリリースする気はないかと訊いてみた。そしたら幸運なことに、彼もとても喜んでくれてレーベルに加わることになったんだ。
 ちょうど彼の2枚目のシングルのマスタリングが終わったところだよ。今回のはまたジャズとは少し違ったアプローチの作品になっている。発売は10月頃になると思う。彼はとても若くて、たしか僕よりも10歳くらい年下なんだけど、とても集中力があって、行動力があって努力家だ。もうすでに何年もがんばってきている。自分のレーベルもやっているし、とてもアクティヴだね。最近の多くの若いアーティストは、いちどレーベルと契約すると、あとはすべてレーベルがやってくれると思いがちだ。でも実際はそうではない。アーティスト自身も努力してがんばり続けないといけない。彼にはそういうミュージシャンシップがある。彼はいま本当にがんばっているから、向こう数年間たくさんの作品を聴けると思うよ。アルバムの制作にも取りかかっているし、常に曲を作っているからね。僕自身も彼の活躍をとても楽しみにしているよ。

最後に、〈ディープ・メディ〉がヴァイナルにこだわる理由について、あなたの考えを教えてください。

マーラ:僕らはデジタル配信もしているけど、僕個人ににとってヴァイナルは大事なフォーマットなんだ。〈ディープ・メディ〉でリリースしている曲の99%は僕が実際にプレイする曲で、僕はヴァイナルをプレイするから。どちらかというと、僕個人のわがままだね(笑)。僕がレコードを集めるのが好きで、僕のレコード・コレクションに加えたいから(笑)。やはり音質が一番いいしね、大きなシステムで鳴らせばわかるけど、とくに僕の関わっているような音楽に関しては、このフォーマットで再生するのが最良の方法なんだ。それに、アーティストが血と汗と涙を流して作った作品だからさ、やはり手で触れるモノとして持っておきたいと思うのは自然だと思う。完成したという証でもあるしね。モノになって、やっと次の新しいことに取り組める。僕自身は、デジタルで発表するだけでは達成感が得られないな。

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MALA & COKI / DIGITAL MYSTIKZ JAPAN TOUR 2012

11/2(金) 大阪CONPASS (問) TEL:06-6243-1666
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