「Nothing」と一致するもの

Jessie Ware - ele-king

 アデルはどうしてこんなに売れたのだろう。エイミー・ワインハウスのフォロワーとしてデビューした彼女は、ワインハウスのような突き刺さる情熱も破天荒さもないが、周知のようにすさまじく売れている。良くも悪くも、そつなく歌がうまいだけの彼女こそ『ガーディアン』が「新しい倦怠としての2011年」と呼んだ年の象徴のような存在だろう。ワインハウスの死への反動からか、ほかに際だったポップ・ソングがないからだろうか、とにかく、結果、アデル(あるいはエド・シーランなんか)にスポットが当たった。

 そもそも『ガーディアン』が嘆くほど2011年は退屈だったのだろうか。サンプル盤とジェームズ・ブレイクしか聴いていないメディアにはそうかもしれない。だが、あんたらUKにはダブステップってものがあるじゃないか。ジェシー・ウェアといえば、SBTRKT(サブトラクト)の"ナーヴァス"(2010年)ジョーカーの"ザ・ヴィジョン"(2011年)と、シーンのふたりの人気プロデューサーが、それぞれアルバムをリリースする前のシングルでヴォーカリストとしてフィーチャーされた新人ディーヴァだ。ケイティ・Bのような、実際にシーンのキーパーソンたちと関わってきた人物とも言える。今年の初夏には、ディスクロージャー(まさに今日のポップのデフォルトと言える、R&Bデュオ)のリミックス入りのシングル「ランニング」も出回っている。彼女のデビュー・アルバムがリリースされたというのなら、聴かない手はない。

 ハイティーンの頃からドラムンベースのパーティに通っていたというジェシー・ウェアにとっての夢は、彼女曰く「誰かのバック・コーラス隊になること」だった。まあ、彼女が歌手を目指していたわけではないのは事実だろう。大学の英文科を出た彼女が目指していたのはジャーナリストだったというが、こうしたバイオグラフィーが、ケイティ・Bともアデルとも違っている。僕はもうちょっとダブステップよりのアルバムを期待していたのだけれど、『デヴォーション』は直球なソウル・アルバムだった。

 ジ・インヴィジヴルのデイヴ・オクムがこのアルバムの多くをサポートしている。マシュー・ハーバートの〈アクシデンタル〉にフックアップされて、現在〈ニンジャ・チューン〉に移籍したという、ある意味UKの音楽界においては優秀なキャリアを歩んでいるアフリカ系の血を引くイギリス人だ。ジェシーと同じように、いわばアンダーグラウンド・シーンで頭角を出してきたオクムがポップに挑むという構図は、ベンガとスクリームとケイティ・Bの関係に重なる。『オン・ア・ミッション』の再来かと。
 が、『デヴォーション』は『オン・ア・ミッション』とは別の方向性にアプローチする。それは、アデルとエイミー・ワインハウスの関係に似ている。いや、アデル以上の謙虚さを『デヴォーション』からは感じる。
 これは、ポップ・スターになりたいとは思わなかった女の子のソウル・アルバムだ。彼女が歌手になったのはちょっとした偶然、運命のいたずらだった。旧友に持ちかけられたBBCでのバックコーラス隊への誘いを通じてSBTRKTと知り合い、"ナーヴァス"の歌手を務めることになった。すべては予定外だったが、ポスト・ダブステップの熱波のなかで彼女の声は注目を集めてしまった。

 そんなわけでジェシー・ウェアのソロ・デビューは、UKでは温かく迎えられている。彼女もデイヴ・オクムも、初めてポップスにアプローチしながら、ポップの傲慢さ、偶像崇拝を否定する。ナイトクラビング文化が生んだディーヴァとも言えるが、クラブ・ソングよりもポップ・ソングを選び、アル中になるために音楽はやらないとエイミー・ワインハウスの幻想を打ち砕くような意見も言っている。個人的には複雑な気持ちだが、アルコールの大量摂取が身体に悪いことは僕も身をもってわかっている。
 彼女はポップスを歌ってはいるが、ナイトクラビング文化における生な人間関係でそれを作っている。アティチュードはインディなのだ。また、白人女性シンガー+黒人プロデューサーというコンビは、ハイプ・ウィリアムスのようになにかと未来を感じる。こうしたバックボーンが、彼女への一票をうながしているのだろう。
 そして、もうひとつ付け加えることがあるなら、ここには昨今のR&Bムーヴメントの目立った傾向である、ドリーミーなフィーリングが展開されていることだ。もちろん、あくまでもポップスとして。倦怠ではない、デヴォーション=献身的なそれとして。

 この地に上陸していないまだ見ぬ巨人というのは、リヴァイヴァルとかフェスティヴァルとかにくまなく洗われてしまった気がするいまでも、いるにはいるわけで、ディラン・カールソン率いるアースはその数少ないグループのひとつであるのはまちがない。
 90年代のグランジの時代には、ニルヴァーナとの盟友関係にも関わらず、その対極に位置し、のちに2000年代のへヴィ&ドローンを牽引したサンO)))をインスパイアしたアースは、数年の空白期間ののち、ゼロ年代なかごろ、北米大陸の奥行きそのもののようなアコースティックの響きをとりいれた、独自のサウンドで復活し今日にいたる。彼らの現在は『エンジェルス・オブ・ダークネス、デーモンズ・オブ・ライト(Angels Of Darkness, Demons Of Light)』と題した連作(昨年の『Ⅰ』につづき、『II』を今年に入り発表している)にうかがえるが、スタジオ盤とはちがうナマのアースをたっぷり堪能できるこの機会を、逃す手はないでしょう。
 今回の来日ツアーには現在のへヴィ/ドローン・ミュージックの下地をつくった〈ハイドラ・ヘッド〉の創設者でもあるアーロン・ターナー率いるマミファーがスペシャル・ゲストとして全公演に帯同し、楽日にはボリスが彼らの初来日に花を添える予定だ。

 順番が逆のようで恐縮ですが、来日直前のディラン・カールソンに直撃したインタヴュー記事を『ele-king』vol.7に掲載しておりますので、彼らのライヴを目撃した方もそうでない方も、この稀有なバンドの言葉をあわせてご拝読ください。

EARTH
Japan tour 2012
with special guest : MAMIFFER

2012年9月19日(水)東京:新大久保Earthdom
open 18:30 / start 19:30
前売 ¥4,500 / 当日 ¥5,000 (ドリンク代別)
問い合わせ: チッタワークス 044-276-8841 / Earthdom 03-3205-4469

9月20日(木)大阪:心斎橋Pangea
open 18:00 / start 19:00
前売 ¥4,500 / 当日 ¥5,000 (ドリンク代別)
問い合わせ: Pangea 06-4708-0061

9月21日(金)愛知:名古屋池下Club Upset
w/ ETERNAL ELYSIUM
open 18:00 / start 19:00
前売 ¥4,500 / 当日 ¥5,000 (ドリンク代別)
問い合わせ: Upset 052-763-5439

9月22日(土)東京:新代田Fever
w/ Boris
open 18:00 / start 19:00
前売 ¥5,000 / 当日 ¥5,500 (ドリンク代別)
問い合わせ: チッタワークス 044-276-8841 / Fever 03-6304-7899

弓J (S) - ele-king

音攻めパーティ「S」@KOARAを不定期開催でオーガナイズ。次回は12/30に年末SP。
奇数月第3火曜「SUPER DRY!」@KOARA、偶数月第1水曜「Radical Simplicity」@bar Jamにレギュラー参加。
その他、都内各所にて活動中。

twitter | S blog

S chart


1
Dense & Pika - Bad Ink - Dense & Pika

2
Frak - 888 - Kontra Musik

3
Rhadoo - Cum oare(intoarcese) - Understand

4
Adam Beyer & Alan Fitzpatrick - Tor - Drumcode

5
Tommy Four Seven - Sevals(Terence Fixmer Mental Drive Remix) - Create Learn Realize

6
Sutekh - Ubu Rex - Orac

7
Jacob Korn - It(Original Mix) - Mild Pitch

8
Planetary Assault Systems - Gt(P.A.S Drone Sector Remix) - Mote Evolver

9
Roger Gerressen - Inked Jester - Wolfskull Limited

10
Alex Cortex - Emergence - Pomelo

Safiyya - ele-king

 またしてもリビアやエジプトからはじまり、イエメン、チュニジアとイスラム圏全体に拡大している反米デモは、奇しくも9月11日にリビアでアメリカ大使以下4名が殺されたほか、いまだに被害者を増やしているにもかかわらず、さらにイスラエルや「アラブの春」とは無縁だったモロッコにも飛び火しているという。問題となったのは(最初はサム・バーシルと名乗っていた)ソフト・ポルノの映画監督、アラン・ロバーツ(65歳)がイスラム教の開祖ムハンマドにセックス・シーンを演じさせた自主映画『イノセンス・オブ・ムスリム』から予告編をユーチューブにアップしたことで、多くのマスコミがまだ内容を正確に把握できないまま、監督も「イスラムはガンだ」と言い残したまま姿をくらましたという経過を辿っている(大統領選を控えたバラク・オバマも慌てて同作を非難する声明を出している。15日現在、東南アジアやオーストラリアでも抗議デモが起こり、スーダンではドイツ大使館も襲撃されている(ムハンマドのカリカチュアを描いたことがある画家にメルケルが賞をあげたからではないかと推測されている)。

 少しばかり驚いたのは、そのとき、僕がレヴューしようと思っていた対象が『サフィーヤ』だったことである。ユニット名およびタイトルにもなっている「サフィーヤ」とは、メディナに住んでいたユダヤ女性の名前で、ムハンマドがバーヌ・ナティールと呼ばれるユダヤ部族を打ち破ったときに連れてこられ、そのまま10番目の妻として迎えられた人らしい(12~22人ぐらいの妻がいたらしい)。彼女はそのために改宗までしたにもかかわらず、他の妻たちからいじめられ、また、ほかの男とセックスがしたいと思っていたためにムハンマドに殴られたり、政治的な話し合いの場ではそれなりに活躍もしたらしい。よくわからないけれど、数奇な一生を遂げた女性のようで、シルク・スクリーンで刷られたスリーヴには彼女をさして「バーヌ・ナディールの宝石」という表記と、ハイバルの戦いから引き上げてくるときにムハンマドたちが休息をとった地名が記されている(その場所でサフィーヤは奴隷から妻に身分が変わっている。いわば、ユダヤ人の運命が変わった場所である)。

 サフィーヤを構成しているのはノー・ネック・ブルース・バンドのオリジナル・メンバー、パット・ムラーノと、オクラホマで〈ディジタリス・レコーズ〉を運営するブラッド・ローズ(ザ・ノース・シーほか)である。このところ急激に活動を活性化させているムラーノが新たに設立したケリーパからのリリースで、ふたりともどちらかというと暗くて重いゴシック・タイプだったのが、明るくて軽いとはいわないけれど、その間をとって明るくて重い作風を導き出し、その種のドローンとしては意外な面白さを展開している(でなければ、こんなにあれこれと調べてみようとは思わない)。ドローン状に引き伸ばされた「華やかな重み」はジ・オーブとノイズ・ドローンが融合し、地獄と天国が相互環流を起こしているような景色を想像させる。重量級のE.A.R.といえるかもしれないし、曲調は彼女の劇的な生涯や目まぐるしさを想起させるに余りある。ドローンというと、どこか一点突破のイメージがあるけれど、全体にどこか気が散っていて、雑多な要素が一気に加速度をつけていく展開はかなりサイケデリック。あるいはあからさまに快楽的で、アラベスクを思わせる細やかな音の配置はたしかに中東への思いから生まれたものかもしれない。

 後半に入ると、どことなくコーク的になり、それこそ一気呵成に宇宙空間を滑り倒していくような展開に。サフィーヤがほかの男とセックスがしたいと考えていた女性だということは文学の題材にもなったことがあるらしく、その自由さというのか、7世紀という時代における型破りな存在感は充分に音に置き換えられている。渦巻くシンセサイザーにエンディングめざしてパッセージを早めていくベースと、あまりにも混沌としたドローンは優雅なストリングスの響きを加えてついに大団円を迎える。実際のサフィーヤは死んでからが、その遺産を巡ってひと騒動あったらしいのだけれど......。それにしても、どうして「サフィーヤ」をテーマにしようと思ったのだろう。ひとつ思い当たるのは08年にイギリスで一時、出版差し止めの騒ぎに発展したシェリー・ジョーンズ『メディナの宝石』という小説のことで、そこではムハンマドの妻たちのなかでは唯一、処女だったとされるアーイシャのことが取り上げられ、彼女は史実として6歳で婚約し、9歳で結婚したとされているため、ムハンマドが幼児性愛者であったという誤解が広まることをイスラム教徒は恐れたらしい。この騒ぎから(かえって)ムハンマドの妻たちやそのセクシュアリティに興味を持った人たちがいてもおかしくはないし、『メディナの宝石』はそのまま「バーヌ・ナディールの宝石」に通じている。あるいはムラーノやローズがそもそもユダヤ系の視点を持っていたのかもしれないし、こればかりは本人に訊いてみないとわからない。

 2011年にはデシムスの名義で10枚近くのアルバムをリリースしてきたムラーノは、『サフィーヤ』と前後してラージマハールという、これまたイスラム文化を想起させる名義でもフォーク・ドローンのアルバムをリリースしている。ホーリー・アザーやハウ・トゥ・ドレス・ウェルとも共振するようなウィッチネスを蓄えた『ラージマハール』は、打って変わって荒涼とした風景を描き出し、なにもかもすべては終わったかのような気分にさせる静かなアルバムである(なぜかフリートウッド・マック"ドリームス"をカヴァー)。手法の幅よりも気分のレンジが広いことに驚かされるムラーノは、ここではボアダムズやドゥーム・メタルとは対照的にグルーパーやモーション・シックネスら女性たちの奏でるドローンに共感を示しているようで、悲しみから抜け出したようなエンディングではどこか包容力のある優しい曲調で全体を優美に締めくくる。デシムスでは暴力的な音の乱舞が縦横に展開されているだけに、このキャパシティの広さには驚かされる。

 大したパロディでもなさそうだし、『イノセンス・オブ・ムハンマド』やサム・バーシルことアラン・ロバーツの肩を持つ気はまったくない。とはいえ、原理主義者の行動にも僕は共感は覚えない。殺されたリビア大使は本当にリビアという国が好きな人だったという記事も読んだし、そもそもいままで抑えつけられていたイスラム原理主義を広範囲に解き放ったのは「アラブの春」で、それ以前だったら、このような行動は考えられなかったという見解もある。やはり08年にイランと日本の合作で公開されたアボルファズル・ジャリリ監督『ハーフェズペルシャの詩』などは実在するイランの詩人を扱ったものだというけれど、まるで既存のイスラム教を批判し、ムハンマドに代わる新たな預言者を待望しているかのような内容の映画だった。ハリウッドを目指して奮闘するオダギリジョーとは対照的に麻生久美子が地味に遠方から迎えられる妻(それこそサフィーヤだ)を演じた同作は砂漠ばかりが映っていたせいか、『エル・トポ』(アレハンドロ・ホドロフスキー)を思わせるシュールな作品で、どうとでもでも受け取れるようなつくりではあるけれど、実在した詩人のエピソードに仮託して監督が語ろうとしたテーマがもしもイスラム教に対するなんらかの疑義である場合、むしろ原理主義者たちが騒ぐとしたらこの映画ではないだろうかとさえ思ってしまう。そう、証明されたのはやはり反米感情のただならぬ根強さである(ここへきてアメリカをはじめとする先進国が石油依存から脱却し、天然ガスの導入に切り替えたことも大いに関係しているに違いない)。グローバリゼイションとそれを拒む原理主義の対立はまだまだ高まっていくのだろう。こういうことはもっと増えていくに違いない。

PS サフィーヤの読みは、最近、中東音楽好きが高じてアラビア語を勉強し出した赤塚りえ子に教えてもらったものです。感謝。

 「解析」「立式」につづき、相対性理論による自主企画ライヴ「位相」の第2弾の開催が発表された。前回と同様に真部脩一と西浦謙助は不参加となる模様だが、「位相Ⅱ」となる今回は、ゲストにサーストン・ムーアを迎えるスペシャルな企画となっている。両者のステージ上でのコラボレーションをぜひとも期待したいところだ。ソニック・ユースを率いてUSインディ・シーンの30年を表からも裏からも眺めつくし、大きな尊敬を受けながらもつねに妥協のない姿勢で一線を走りつづけてきたサーストンをまじえることで、アート・リンゼイ、マシュー・ハーバート、ザ・ヴァセリンズなど破格の共演を果たしてきた相対性理論の歴史にあらたな1ページが加わるようだ。
 現在のところ、相対性理論は新曲も用意しているとのことで、あらたな展開から目が離せない。


左:相対性理論、右:サーストン・ムーア

2012年11月5日(月)
相対性理論 presents 「位相II」

出演:相対性理論、Thurston Moore
会場:ZEPP TOKYO
OPEN 18:30 / START 19:30
TICKET:全自由 前売り¥5,250 taxin(3歳以上有料 D別)

◯オフィシャルweb先行予約
2012年9月14日(金)13:00 ~ 9月24日(月)23:00
特典:やくしまるえつこイラストチケット
先行予約受付URL(PC・mobile共通)
https://l-tike.com/webrironlive/

当選落選確認/入金受付日程
9/26(水)15:00~9/27(木)23:00

◯チケット一般発売日 2012年9月30日
チケットぴあ 
LAWSON TICKET 
e+  https://eplus.jp
ディスクユニオン  
高円寺DUM-DUM OFFICE 03-6304-9255

Chart JET SET 2012.09.18 - ele-king

Shop Chart


1

Pacific Horizons - Club Meds / Fata Morgana (Pacific Wizard Foundation)
International Feelと並びニュー・バレアリック・シーンのトップ・レーベルとして成長を続けるセルフ・レーベル"Pacific Wizard Foundation"からファン待望の新作第6弾が到着!!

2

Mungolian Jetset - Mungodelics (Calentito)
奇才、Mungolian Jetsetの強力2ndアルバムが到着!独特のサイケデリックな感覚と抜群のメロディー・センスが光る全9曲を収録。格が違います。

3

Xx - Coexist - Deluxe Edition (Young Turks)
世界的大ヒットとなり、10年代のUkインディの流れを決定付けた1st.から早くも3年。さらに深化を遂げた見事な第2作が完成しました!!

4

Les sins - Fetch / Taken (Jiaolong)
天才、Toro Y Moiが別名義で展開するシンセ・ダンス・プロジェクトのセカンド・シングル!!

5

Hot Chip - How Do You Do? (Domino)
最新アルバム『In Our Heads』収録曲を、Joe Goddard、Todd Terje、Mickey Moonlightらがリミックスした12インチ2枚組!!

6

Holy Other - Held (Tri Angle)
スクリューの手法と最新鋭Ukベースを交配させたUs名門Tri Angleからの『With U』で時代を塗り替えてみせたUkの超新星Holy Other。遂に待望の1st.アルバムを完成です!!

7

Joe - Mb / Studio Power On (Hemlock)
ジャズ断片を継ぎ接ぎしたような孤高のUkベース"Claptrap"でシーンに衝撃を与えたJoe、やはり壮絶な才能でした...。ライヒ x Swindle x Four Tetな!?ぶっちぎりの2トラックスを完成です!!

8

Being Borings - Esprit (Crue-l)
全てのダンス・ミュージック・ラヴァーに捧げる、音楽が創り出す、アートの最高峰というのに相応しい10曲を収録した、瀧見憲司と神田朋樹によるBeing Boringsのデビュー・アルバム。

9

Poldoore / Blue In Green - Shrooms / Masquerade-Night Watch (Cold Busted)
Dj Vitamin Dが主宰するコロラドはデンバーのインディー・レーベル=Cold Bustedから、夏の終わりにマッチするダブルサイダーがリリースされました! 限定プレス、ダウンロード・カード付。

10

Prince Fatty - Versus The Drunken Gambler (Mr Bongo)
Hollie Cookが歌うダンクラ"And The Beat Goes On"カヴァーがキラー!Ukレゲエ・シーンの重要人物Prince Fattyの待望となる新作!!今回もクロスオーバーな支持を得そうな会心の仕上がりです!!

Liz Christine - ele-king

 簡単に地図を描いてみよう。ライブラリー・ミュージック・レコードは、もともとは放送局が番組で使用するためのBGMとして作られたものだが、それは1980年代にレア・グルーヴの一種として再発見され、同時にモンド/ストレンジなる別称によって蒐集家のアイテムのひとつとなった。それは今日、一種のアンビエント・ミュージック、プライヴェートなBGMないしはラウンジーなトリップ・ミュージックとして再々解釈され、復刻されている。
 スフィアン・スティーヴンスのレーベルが手がけている「Library Catalog Music Series」はそのひとつの例だが、この手のものはほかにもいろいろある。その傍流には、テクノ・プロデューサーのアンディ・ヴォーテルが経営に加わるロンドンの〈Finders Keepers〉のような、超ナードなレア音源の復刻(それがB級であろうとレアであることが重要)を販売するレーベルもある。
 こうしたモンド/ストレンジな感性がワールド・ミュージックとして展開すると......〈サブライム・フリーケンシーズ〉のような東南アジアの歌謡曲の編集盤へと、アーティなサンプリング・ミュージックとして展開するとピープル・ライク・アスのようになる。ハウスのビートを加えれば初期のジ・オーブ、そして最近では、ネットで見つけたホントどうでもいいようなネタをループさせるとヴェイパーウェイヴになるのだろう。

 リオデジャネイロで暮らすリズ・クリスティーンは、街のレコード店で集めたさまざまなレコード(サントラ、ラウンジ、効果音、ムード歌謡などなど)のコレクションをカット・アップして、なんとも奇妙で、美しく、そして愛らしい音楽を作り上げた。それが彼女のデビュー・アルバム『スウィート・メロウ・キャット』だ。
 古いレコード盤のパチパチ音、針飛び、そこに刻まれた音楽のサンプリング、ルーピング、電子ノイズ、そして加工、ミキシング......手法的にはミュージック・コクレート/サウンド・コラージュで、ザ・ケアテイカーグレアム・ラムキンやなんかと、つまりザ・ビートルズの"レヴォリューション・ナンバー9"やザ・レジデンツの『サード・ライヒン・ロール』やなんかとも同じで、いまさら珍しいものでもなんでもないが、ここには月並なベッドルーム・ミュージック以上の魅力──音を聴くことのみずみずしい楽しさがある。太古の人類が風や木の音を面白がったように、リズ・クリスティーンは名もない音の記録=レコードの溝から鳴る音に新鮮に反応している。彼女とターンテーブルに載せられたレコードとのあいだには、ロマンティックな関係がある......と思う。
 空想的なこの音楽はある意味シュールだが、日々の営みの悦びを表現しているに違いない。題名に「猫」とあるのは彼女の家に住んでいる4匹の猫もこの作品に参加しているからだ。音の合間から、絶妙なタイミングで「にゃーにゃー」と声が聴こえてくる。犬の声や鳥のさえずりも聴こえる。これもアイデアとしては特別なものでもなんでもないが、とにかくまあ、『スウィート・メロウ・キャット』は嬉しい発見の連続のように時間が流れる。生き生きとしていて、いわゆるジョワ・ド・ヴィーヴルを有する音楽。視聴はこちら→https://soundcloud.com/flaurecords/liz-christine-sweet-mellow-cat
 
 リズ・クリスティーンは、2008年にベルリンの〈モニカ・エンタープライズ〉(三田格が持っているすべてのレコードにサインをもらったという、元マラリア!なる女性ポスト・パンク・バンドのメンバーが運営する)からリリースされているコンピレーション『4ウイメン・ノー・クライ vol.3』(ele-king vol.6参照)に、ジュリア・ホルターとともに参加している。本作をリリースしている〈flau〉は、自らも作品を発表しているausが主宰する東京のレーベルで、今年は女性アーティストのCuushe、エレクトロニカの新星Madeggなど、基本ドリーミーなエレクトロニック・ミュージックで、質の高い作品をリリースしている。

 いよいよ来週末の土曜日(祝日・秋分の日)9/22の開催が迫ってきました!!! 日本科学未来館、GALLERY360°、原美術館、新潟・ビュー福島潟、YCCヨコハマ創造都市センターといった独自の雰囲気と圧倒的な存在感をもった環境で、近年精力的に公演を行っている稀代の音楽家マエストロ、ヤン富田が、恵比寿へ移転して8周年を迎えるリキッドルームで、満を持して初となる大型ライヴハウスでのコンサートを行います。最高音響といわれるあのリキッドルームの空間で果たしてどんな体験ができるのか? そのパフォーマンスのひとつひとつが新作ともいえる、その体験はきっと忘れられない夜に、そして皆さんの今後の音楽生活への新たな道しるべとなることでしょう。
 最先端の前衛音楽から誰もが口ずさめるポップ・ソングまでを包括する音楽家にして、日本初のスティール・ドラム奏者、日本で最初のヒップホップのプロデューサー、また自身の音楽の研究機関、オーディオ・サイエンス・ラボラトリーを主宰し、さまざまな角度と視点で、全方位の音楽と科学の研究をおこなっている世界でも稀な音楽家であり、音楽探検家であるヤン富田の現在と過去と未来を繋ぐであろう記念すべきこの日をお見逃し無く。世代を超えてひとりでも多くの人たちに、このまたとない機会を是非体験していただけたらと願っております。(コンピューマ)

 未体験の方は、まずはここからどうぞ! オーディオ・サイエンス・ラボラトリーからの予告編的なDr.Yann's Bionic Musicのお蔵出し映像の登場です!!!

https://www.liquidroom.net/schedule/20120922/11331/

未知なる知覚の扉を開け放つヤン富田。そのミラクルな刺激に溢れた至福の時。

 この20年余り、機会があればこの人の音楽に耳を傾けようとしてきた。電子音楽家、プロデューサー、スティール・ドラム奏者という肩書きだけでは収まりきらない音楽の探究者として、いまではヤン富田は私の中でひとつのジャンル、いや、深い森の奥へ誘うジャングルとなっている。
 最初に触れたのはWATER MELON GROUP だったと記憶するが、いとうせいこう『MESS/AGE』に衝撃を受け、1992年の初のソロ・アルバム『ミュージック・フォー・アストロ・エイジ』以降、他の音楽では決して得られないミラクルと刺激に夢中になった。主に20世紀後半のポップ・ミュージックを聴いて育ち、それがルーティンになりつつあった頃、ヤンさんの音楽はそれとは違う扉を開けてくれたのだと思う。まだどこかに聴いたことがない素晴らしい音楽があるのではないか。あるとしたら、それはどんな音楽なのか。そんな夢見がちな好奇心からヤンさんに近づいていった身ではあるが、はたして類を見ない面白さで未知なる知覚を刺激され、時に洒脱なユーモアに笑い、時に至福の音の洪水に涙した。主宰するオーディオ・サイエンス・ラボラトリーのテーマである「音楽による意識の拡大」が成されたかどうかは不明なれど、新しい音楽の楽しみ方と視座を注入されたのは間違いない。
 20世紀型の音楽産業が終焉を迎えつつあるいま、「悲観するのは簡単じゃん」というヤンさんの言葉に私は眩しいくらいの光を見る。ライヴという生命の輝く現場でその好運に授かりたいと思う。 (佐野郷子/ Do The Monkey)

▼ヤン富田
最先端の前衛音楽から誰もが口ずさめるポップ・ソングまでを包括する希代の音楽家。音楽業界を中心に絶大なるフリークス(熱烈な支持者)を国内外に有する。音楽の研究機関、オーディオ・サイエンス・ラボラトリー (A.S.L.) を主宰する。近年では、日本科学未来館/1F シンボルゾーン ( お台場)、原美術館/ 中庭( 品川)、潟博物館/ 展望ホール ( 新潟) 等、特別な空間に於いて「ヤン富田コンサート」が開催された。近作に2011年3月発表のアート作品集「YANN TOMITA A.S.L. SPACE AGENCY」( 写真集、エッセイ、ライブ・ドキュメンタリーCDx2 からなる書籍、宇宙服のパジャマ、T- シャツ、キャップ、トランク・ケース、以上 TOKYO CULTUART by BEAMS) がある。また2011年より A.S.L.主催にて「音楽による意識の拡大」をテーマとした研究発表会「アシッド・テスト」のシリーズを開講する。

▼公演概要
公演名:LIQUIDROOM 8TH ANNIVERSARY WITH AUDIO SCIENCE LABORATORY PRESENTS
YANN TOMITA CONCERT
出演:ヤン富田
日時:2012年9月22日(土曜日/秋分の日)
開場/開演:17:00 / 18:00 *17:30~The Sounds of Audio Science Lab.
会場:リキッドルーム

前売券(8月5日(日)発売) :5,000円[税込・1ドリンク代(500円)別途]
当日券:6,000円[税込・1ドリンク代(500円)別途]
* オールスタンディング/整理番号順のご入場になります。

前売券取り扱い:チケットぴあ[Pコード 176-227]、ローソンチケット[Lコード 74822]、イープラス、オトノマド、BEAMS RECORDS、bonjour records Daikanyama、DISK UNION(新宿本館/新宿クラブミュージックショップ/渋谷クラブミュージックショップ/渋谷中古センター/高田馬場店/池袋店/お茶の水駅前店/下北沢店/吉祥寺店/町田店/横浜関内店/横浜西口店/津田沼店/千葉店/柏店/北浦和店/中野店/立川店)、GALLERY 360°、JET SET、Lighthouse Records、LOS APSON?、TOWER RECORDS SHIBUYA(1F)、windbell、リキッドルーム
問い合わせ先:リキッドルーム 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

vol.2 NHK大河ドラマ『平清盛』 - ele-king

前編はこちら。
大好評『清盛紙芝居』も掲載中!!


 『平清盛』は現在、第35話まできたところだが、皆さまもしっかとご視聴されているであろうか。後白河上皇が昏睡状態の清盛を気づかい、豪雨のなか、鴨川の水をものともせず見舞いに来てしまったくだりには、また崇徳院のごとくローリングしそうになったわたしである。さしずめ、「源義朝亡きあとの、ズッ強敵(ずっとも)担当は朕、ツンデレ担当も朕」と、あらためて宣言しにきたというところか。後白河上皇の背中のできものが「さいころ」に似ているという、さりげなくジョースター家を思わせる設定も追加された。こういうエピソードを、このドラマを観ていない人がたてつづけに聞かされると、わたしが好き勝手に捏造しているのだろうと疑うかもしれないが、日本放送協会に誓って事実である。ele-kingよ、これが『平清盛』だ。
 
 さて、前半ではひとつめの清盛文法として、キーワードが反復、変奏されることによって、ドラマに深みが与えられていることに触れた。今回は少し違った方向から、このドラマのもたらす独特の違和感、そしてそれを読み解くための清盛文法に迫ってみよう。

■清盛文法その弐.清盛空間へようこそ

 ふたつめの注目すべき違和感は、特有の異空間表現である。すなわちこのドラマでは、二者間のやりとりが、第三者がほとんど介在しない謎の異空間で、説明もなく長々と演じられることがある。飛びぬけて異空間だったのは、鳥羽院が平清盛のエア弓矢を受けるシーン(第13話)や、平清盛と源義朝の謎の一騎打ちシーン(第27話)である。

 エア弓矢の一件は、鍛え抜かれた『平清盛』視聴者でも、多くが度肝を抜かれたであろう。ある意味、歴史に残る名シーンなので、未見の方はぜひオンデマンドなどで視聴してほしい(どういう場面なのかは、「エア弓矢」という言葉から想像できるイメージにかなり近いと思うので、ここでは説明しない)。しかしながら、このとき生じた違和感は、「鳥羽法皇と清盛のその行動はありなのか」という、人物の行動の一貫性に関する違和感が主だったので、万事に演劇的な鳥羽法皇と、万事に流されやすい清盛だったら、まあありかもしれないと、変な納得の仕方をさせられた。さらに鳥羽法皇役の三上博史氏の演技が、狂気をも感じさせる切れ味で、視聴者に有無を言わせぬ迫力があった。

 しかし清盛と義朝の一騎打ちに関しては、さっきまで川を挟んで向かい合っていた両軍の総大将が、次のカットでは謎の河原で完全にふたりきりになって一騎打ちしているわけだから、人物の個性で言い逃れしようにも、状況的に無理がある。普通のドラマで総大将の一騎打ちシーンを見せたければ、乱戦に持ち込むとか、ベタに一騎打ちを申し込むなど、ともかくもう少し自然にことを運ぶのではないか。『平清盛』の他の部分には、この手の無難な表現もちゃんとあって、第21話での平清盛と平忠正との一騎打ちがそれにあたる。こちらは、戦いの描写で一般によくみられる「乱戦なのに、周囲の人間が異様に空気を読んでいて、会話しながらの一騎打ちが成り立っている」パターンで、その空気はいかがなものかとは思うが、まだ話の流れとしては理解しやすい。いま問題としている第27話のほうは、何の説明もなくふたりだけが異空間に飛ばされるところが尋常でない。家政婦のごとく入念に一部始終を見てきた視聴者は、いちように小首をかしげたに違いない。

 このような場面の評価については意見が分かれるところだろうが、ドラマに舞台の手法を導入したものとして解釈する向きが多いのではないか。舞台上で、話の流れを切断して主要人物だけにスポットをあて、第三者を排した異空間を切り出す手法はよくみられよう。そもそも舞台的には、合戦など現実には多数の人間が関与したであろう場面を、少数の主要人物だけで演じきることは、不自然でないどころか常道である。

 しかしわたしは、舞台的というのとも何か違うように思う。そもそも、それまでの話の流れからあまりにも切断されているので、たとえ舞台であっても違和感が残ると思われる。いったいこの空間は何なのか。重要なのは、物語の中でのその空間の位置づけ(いったいいつ、どのような経緯でこの場面に至ったのか)が完全に謎なのに、そこで表現されている内容(ふたりのやりとり、感情)はとてもよくわかる、ということだ。もちろん、この空間では後者のほうが圧倒的に重要なのである。いつからか、わたしはこのような空間を「清盛空間」と呼ぶようになった。

 清盛空間は、ドラマの表現としてはブロークンかもしれない。しかし物語の整合性ばかりにとらわれず、効率よく何かを伝える技法としては、王道の表現とも言える。ちょうど、ある種の刑事ドラマの終盤で、刑事と犯人がなぜか崖っぷちで向かい合ってしまうのと似ている。「謎の崖っぷち」は、いちいち舞台的な表現であるのどうのと考察されなくても、刑事と犯人の駆け引きや、追い込んだ・追い詰められた感情を堂々と表現するのだ。伝えるべきものが伝わりさえすれば、その空間はどこに位置してもいいのだろう。どこに位置するかを追及するのは、野暮、もしくは風狂の域だ。

 あえて風狂を試みるなら、わたしの解釈では、第27話の清盛空間(謎の河原)は、実は物質世界には存在しない空間で、川を挟んで遠く視線を交わした清盛と義朝の、心の中にだけつかのま現出した空間だったのではなかろうか。われながら胸を打つ名解釈だと思うが、後に、その空間で「髭切」(源氏重代の太刀)の受け渡しが物理的に行われていたことが判明して、けっこう困った。だが清盛空間であれば、精神世界であっても太刀だけ物質世界で受け渡すぐらいのことは、やってしまってもいいはずだ。

 清盛空間らしきものは、第30話でも生じる。これも未見の方はオンデマンドで見てほしい名場面で、崇徳上皇が恨みのあまり魔物と化し、平家を呪詛するくだりであるが、いったい本当に起こったことなのか、またドラマ内で本当に起こったのなら、なぜ上皇の従者は何もしないのか、どれぐらいの時間が経過しているのか、もしかしたら上皇はすでに死んでいるのか、等、詳細が皆目わからぬという、きわめて潔い清盛空間である。これも、崇徳上皇の荒れ狂う心中が伝わればそれでよいのだ。

 また、実はわたしはかなり初期から、清盛が出てくるたびにどこか違和感を持たずにはいられなかったが、これもある種の清盛空間だったのかもしれない。違和感が生じるのは、清盛が神輿に弓を射るなどの重大な行動を、しばしば唐突に行うせいでもあるが、おとなしくしているときもどこか浮いている。他者と同じ画面にいてさえ、別の時空間にいるような気配がある。端的に言えば清盛は、何を考えているのか、台詞や表情からはわかりづらい。彼の心中は、状況証拠で推測するしかないのだ。本来の清盛空間は、状況はわからないけど登場人物の感情がよくわかるというものだから、真逆のこの現象は、「裏・清盛空間」というべきかもしれない。これはなにも松ケンの演技力を否定しているので はなく、このドラマにおいて、清盛とはそのような登場人物だということだ。

 この裏・清盛空間は、完全に意図的な演出・演技ではないかとすらわたしは思っている。なぜなら、歴史上の人物とはそもそも、後世のわれわれからは感情や考えなどを見てとることはできず、もしそれを推測するのなら、状況証拠から判断するしかないからだ。すなわちこのドラマにおいて主人公の清盛は、際立って「歴史上の人物」なのだ。第35話までむくむくと観てきたわたしも、他の登場人物の性格はそれなりに把握したのに、平清盛という登場人物がどのような性格なのか、いまひとつわからない。それこそ賽の目のように場面ごとに変わるというイメージだ。専門用語では「キャラがぶれている」というのかもしれないが、現実の人間は通常、場面や相手によってキャラがぶれるのが当たり前だ 。清盛もこのドラマでは、物語の登場人物(キャラクター)というよりは、「歴史上の人物」なのだから、それでいいのである。唯一いえるとすれば、目を離した隙に何をしだすかわからないから、ガン見(み)しておかねばならぬ男、それが清盛だ。

 そんなこんなで、いろいろな意味で目が離せない『平清盛』も、いよいよ残りあと10数話。平家と他勢力との争いがますます盛り上がるとともに、クライマックスで清盛空間が発生しまくる可能性は高い。清盛が死ぬときに意識が未来に飛んで、謎の空間で源頼朝や義経と切り結んだりしてほしいが、あながち夢想でもない気がする。最近も出家という重大行動をわりと唐突にやってくれた清盛だから、裏・清盛空間のほうも、惜しみなく展開されるであろう。
 他のドラマでは味わえぬ独特の違和感と、観るほどにその違和感が氷解していく知的快感が、いまならタダで手に入る。それが『平清盛』だ。
 言うまでもないが、とびきりのいい男たちやいい女たち、猫、犬、鸚鵡といった萌え要素も満載だ。全裸で思う存分ローリングするため、床面積を確保してから視聴することを薦めたい。

以上

Holy Other - ele-king

自己憐憫さえも愛らしい砂糖菓子へ 文:三田 格

E王 Holy Other
Held

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 キリスト教社会におけるホーリー=聖なる存在は、唯一神というぐらいで、アザー=もうひとつの存在はありえない......し、他の多くを示唆するような修飾表現もないということは多神教をイメージさせるものでもないし......。タイトル曲とともにシングル・カットが予定されている「ラヴ・サム1」のように暗く、激しい感情が渦巻いている曲を聴いていると、安直に思い浮かぶのは、ツァラトゥストラが開祖だとされるゾロアスター教のような善悪二元論の悪(=好戦的なダエーワ)のことで、仮定の上に立って話を進めていくと、ゾロアスター教というのはイラン高原の北東部を起源とする宗教であり、イスラム教に蹴散らされてきた過去もあったりするため、背後からそれを狙い撃ちしているような不穏さを嗅ぎ取ることもできなくはない。実際、彼(女?)のデビュー・シングル『ウイ・オーヴァー(=全員、終了)』は明らかにイラン高原をヴィジュアルに使用していて(スコットランドのような標高ではない)、その佇まいはノイズのレコードにも等しい。曲も何かマントラを唱えているようだし(カップリングは『ウィズ・U』に採録された「ユア・ラヴ」)。

 とはいえ、フードを被ったままライヴをやり、いまだに実名を明かさないことに宗教的な背景が潜んでいるわけではないだろう。ネットを介したインタヴューはけっこう受けているようだし、〈トライ・アングル〉というレーベルそのものがいわば宗教コレクティヴと化している側面もあるだろうし(〈トライ・アングル〉のリリースにはKKKをイメージさせるものもあったりして、僕にはとうていわからないけれど、倉本諒によればそれは単にパロディとして使われているだけということもあるらしい。こういうセンスを正確に把握することはとても難しい)。

 いずれにしろホーリー・アザーというユニット名が正しくウィッチ・ハウスのイメージを踏襲するものであることは間違いない。『ヘルド(=開催)』で追求されている価値観は非キリスト教的なイメージに救いを求め、リヴァーブの深さや重いベースによって(仮想の)共同体意識を強くすること。それはつまり、『ジーザス・キャンプ』であらわになったキリスト教右翼がアメリカ人口の3分の1(=約8000万人)に達したといわれるゼロ年代前半のアメリカで否応もなく隆盛を誇ったドゥーム・メタルがここへきてモーション・シックネスメデリン・マーキーのような優しいドローンに変化したことと並行して起きた現象ともいえ、ドローンが継承されるのではなく、下部構造をダンス・ミュージックに置き換えたことでいわばドゥーム・ハウスとして成立したものがウィッチ・ハウスと呼ばれるようになったと解してもいいのではないだろうか。アレイスタ・クローリーの小説がイサドラ・ダンカンの描写から始まったように、希薄な身体性によって欺かれた世紀末の闇が再びダンス・カルチャーを侵食し出したのである(ガイ・リッチーが『シャーロック・ホームズ』をスチーム・パンクとして再生させたことも記号的には符号が合う)。

 そして、ドゥーム・メタルにはなかった徹底的な甘ったるさがホーリー・アザーのサウンドをエソテリックな秘境へと導いていく(ジェイムズ・ブレイクハウ・トゥ・ドレス・ウェルがレイディオヘッドなら、ホーリー・アザーやココ・ブライスはアラブ・ストラップだと言い換えてもいい)。捉えどころのないメランコリーのなかに、それを楽しむ甘美さが入り混じり、自己憐憫さえも愛らしい砂糖菓子へと変えていく。どこにもトゲらしきものはない。落ちていたのは1本の髪の毛。いくらでも自分のなかに逃げ込むことができる。人生には時としてこんな魔法が必要だろう。チルウェイヴというのがダフト・パンクとレイディヘッドの合体にしか思えなくなってきた昨今は、とくに(ああ、またしてもポップの魔法が解けていく......)。


文:三田 格

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ゴーストリー・テクノの美しい結実 文:竹内 正太郎

E王 Holy Other
Held

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 たとえば、世界の絶景やディズニーランドよりも、打ち捨てられた名もなき廃墟に、非日常としての美しさを見出すこと。人ごみそのものの賑やかさよりも、人の気配がごっそり失われた空間の沈黙にこそ、強く惹かれるような感性。そういったゴシック的な(ヨーロッパ的な)、ある種の怪奇趣味は、現在のアンダーグラウンド・ミュージックの世界において、(欧米の批評でよく使われる)「ゴーストリー(ghostly)」という傾向のなかにリヴァイヴァルしているのかもしれない。穿った見方をすれば、裏表なく、前向きで、典型的な余暇を楽しむ、互いに互いが「ふつうの人間」であることを牽制的に確認し合うような、Facebook型ヒューマニズムの裏側にしまい込まれてしまったものを、それらは召還しようとしているようでもある。当たり前の話、世間の表面において規制されたものは、より多義的に、より抽象的に、より地下的になって発展する。

 そう、〈トライ・アングル〉が送り出すホーリー・アザーのファースト・フルレンス、『ヘルド』は、廃墟に住む幽霊のための新たなるR&Bだ。重々しいベース・ドローン、空間を包むシンセ・アンビエンス、そこに割り込むグリッチ・ノイズ。ワン・フレーズのみ採取されたヴォーカル・サンプルは、ピッチを変えられ、エフェクトされ、短周期で何度もペーストされ、キックの轟きは現れては消え、消えては現れ、アブストラクトな高揚を効果的に援助している。言葉遊びのようで嫌になるが、ポスト・ダブステップというタームにあえて偏執するならば、ウィッチ・ハウスないしはゴシック・アンビエントの領域から登場したホーリー・アザーは、それをある種の臨界点と認めた上で、それでも『ジェイムス・ブレイク』(2011)以外の歌のあり方、あるいはビート・プロダクションとの共存の手段、その可能性を突き詰めているように思える......。

 鍵となるのは、やはりゴーストリーと形容するほかない、そのヴォーカル・プロダクションである。『ヘルド』は、『ジェイムス・ブレイク』を疑ってみることからはじまり、展開している。ここにはメロディを伴った人間の声が溢れているが、それが歌であることはほとんどない。歌は徹底的に断片化され、声は溢れてはただ消えていく。それでも、比較的ヴォイス・サンプルが強調されるアルバム後半部には、息をのむような美しさがある。電子ピアノがきいた"イン・ディファレンス"のダーク・トリップ、シューゲイズ的な感性でノイズとの戯れを見せる"パスト・テンション"のディープ・サイケ、そして表題曲"ヘルド"の後半、まったく別の曲へとミックスされていくような展開の先に、ピアノとキックが清らかな世界に強く脈打っている。スモークを焚いたベッドルームで、カーテンの隙間に射すひとすじの光が揺らめいて見るような......本当に美しい音楽だ。

 「芸術の進歩に対して大きな貢献をしている、なんて全然思わないよ。本当にパーソナルなものをただ作ることの方が、よほど挑戦的なことなんだ。」――1年前のインタヴューとは言え、『ファクト』に対するこうした回答は、どこか危うくも思える。が、現在、多くのパーソナルな音楽表現が、活動名としてのソロ・ユニットとしてなされ、内容的にもヴィジュアル的にも高度に抽象化ないしアンダーグラウンド化せざるを得ない状況からは、彼が感じている(のであろう)現代特有の息苦しさを推察できるのも事実だ。もっと言うなら、インターネットの登場によって自由であることを支援されたはずの個人が、相互監視的にクラウド化されることをむしろ望んでいる、昨今の倒錯した情勢に対する彼なりの対抗措置のようですらある。それは筆者にとっても、これを読むあなたにとっても、他人事ではないはずである。BBCは、すでにこの音楽のなかにもヒット・ポテンシャルの片鱗を認め、「マイケル・ジャクソンを18bpmにスローダウンさせたような、もしくはR.Kellyを地獄に突き落としたような音に聴こえる」などとはやし立てているが、そうしたポテンシャルの有無を、本人は気にとめないだろう。ウィッチ・ハウスという、よく言えば最新のインディ・ダンス、悪く言えば細分化時代のフェティシズムとして登場した〈トライ・アングル〉のホープはいまや、UKアンダーグラウンドの冷え冷えとした態度を引き継いでいる。『ジェイムス・ブレイク』の歌がトラウマティズムの剥き出しの表出だったとすれば、『ヘルド』はむしろ暗黒の世界の不明瞭さを好んで迎え入れている。ジェームズ・ブレイク、ザ・ウィークンド、もしくはハウ・トゥ・ドレス・ウェルよりは、ローレル・ヘイローに近いとする意見もあるだろうか。2012年は本作を明確に記憶するだろう。ゴーストリー・テクノの美しい結実、それは暗黒との背徳的な戯れである。


文:竹内 正太郎

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