「Nothing」と一致するもの

Scissor Lock - ele-king

 本作の話題性は、ひとつにはジャケットのアート・ワークにある。これがジャスティン・ビーバー"ビューティー・アンド・ザ・ビースト"のPVから借用して加工したものであるということに触れないレヴューはないだろう。当のビーブズの顔はフレアのような加工で消されているわけだが、わたしが読んだなかでこれを権利関係の問題として解題する記事はなく、もっぱら制作者がジャスティン・ビーバーに寄せる(オブセッショナルな)思いであるとか、ポップとエクスペリメンタリズムとの間の葛藤であるとかなかなか大層な解釈が加えられていた。うまいじゃないか......過大解釈を上積みさせる、クリティカルなジャケット。トイ・カメラのような色合いは久々に見るチルウェイヴ・マナーで、これをいまのタイミングで召還することも、ビーブズに掛け合わせることも、何か狙いがあってのことと考えざるをえない。それに、対象をぼやけさせるのは彼らの十八番であり、自画像でもあった。となれば、ジャスティン・ビーバーがぼやけていることにも意味を見つけ出したくなる。
 チルウェイヴはドリーミーな自閉空間を、屈託や釈明なくきわめて自然に肯定する音であったし、そのことでもってベッドルーム・ポップに新しい局面を拓いた。その彼らがアンビエント、ハウス、R&B等々、思い思いに散開していったのちにどんなものに行き当たり、どんな在り方を示すのか。向後10年はずっとそれを気にしているはずのわたしのようなリスナーには、なにかとかしましいアート・ワークなのである。

 さて、本作の制作者はシザー・ロックことマーカス・ホエール。オーストラリアはシドニーのプロデューサーで、もしかするとコラーボーンズというエレクトロニック・デュオの片割れとしてご存知のかたもいるかもしれない。本作はそのホエールのソロとして初めてまとまったかたちで発表された4曲だ。"チューン"は、彼の初のソロ・リリースとして昨年発表されている(トーマス・ウィリアムスとのコラボ作)。コラーボーンズ自体がすでにポスト・チルウェイヴ的ないくつかの方向性を含んだユニットで、2枚のアルバムにはクラウドラップやトリルウェイヴ、90年代風のR&B、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルらのようなウィッチハウスの展開形、シンセ・アンビエント、ドローンなど多彩な音を聴くことができる。チル・アウトなフィーリングと切なげなエモーション、そしてビーブズへのこだわりも(!)ホエールズのソロと共通している(EP『タイガー・ビーツ』に"ワン・タイム"のカヴァーを収録)。
 『チューン』は、全体としてはアンビエント作品ということになるだろうか。曲ごとにさまざまな工夫がなされながらも、声やヴォーカルというものに対する執着が感じられるのが特徴だ。スクリューを応用してジュリアナ・バーウィックの男性版ともいうべき声と光の祝祭的コラージュを編み出す"アウター・スペース"。インダストリアルなテイストをわずかにしのばせたノイズ・アンビエントに裸のヴォーカルが乗る表題曲"チューン"。"ナン"は、今度はメデリン・マーキーの男性版かというヴォコーダー使いのエクスペリメンタルなア・カペラ独唱。最後はチラチラというベルがパンサ・デュ・プリンスを思わせ、儀式的な唱和と土木作業かなにかのサンプリングが中世的な意匠をもって差し挟まれるドローン風のトラック。いみじくもタイニー・ミックス・テープスが「ヴォーカル・サイエンス」と名づけて遊んでいるが、言い得て妙である。
 また、先鋭的な女流と方法を交えるところも興味深い。女性的という意味ではないが(彼女らもまた女性的と言えるかどうかわからない)、ジュリアナ・バーウィックやメデリン・マーキーらと並べられるしなやかでつよいエモーションがある。彼はコラーボーンズの楽曲解説においてゲイであることをほのめかすような発言をしているが、そうした彼の在り方に関係する部分もあるかもしれない。それから、理に勝るよりも情動に賭けたいというようなところが感じられる。そういう感じ方が理知的な精神から生まれることは疑いないが、情動について彼の音のディレクションは間違わないというか、瞬間瞬間の感情の動きを写し取ることに大きな注意が払われていることがわかる。声を重視するのも同じ理由ではないだろうか。"ナン"で大風のようにひときわつよい発声がなされるとき、われわれの心もその動きに合わせてとても感じやすく自由になるだろう。

 最後にビーブズの本家PVについて。そこではまるでセレブなリゾートの狂騒が描かれるが、どことなくクリーンで他愛もない感じがするところには好感を持ったし、新しいフィーリングがあるようにも思った。そのことはホエールのなかでもおそらく肯定的に、共感的にとらえられている。どぎつい色使いなどもいっさいない。ネオンには透明感があり、画面をすべる光の感覚はシザー・ロックのジャケットの風合いともともとほとんど変わらないのだ。だが、このジャケットを見る前に同じように感じられたかどうかはわからない。その意味ではとくにお騒がせなアート・ワークではなく、ホエール自身の純粋な共感と解釈がこめられたものとして彼の音楽を補完するものであると感じられる。

DOWN NORTH CAMP / REFUGEE MARKET in シモキタ - ele-king

 アーバンとジャンクのいけない好配合、多色迷彩のヴァリエーションで飾るDOWN NORTH CAMPがシモキタに2daysポップアップ出店したREFUGEE MARKET。
 当日の写真とDJのプレイリストのみで構成したイヴェント・レポートをどうぞ。まずは写真を見ながら下にあるプレイリストを楽しんで下さい。

photo by Keita Sakai , and ele-king

photo by DNC(SORA/DJ49/CENJU/KATEETO/K.K.K.K.K./YK_VENOM/CHANGYUU/YAHIKO/and... 順不同)

Refugee market DJ playlist

BUDAMUNK
Redman "Funkorama (Double Green Remix) featuring Erick Sermon"



CHANGYUU
Jackie Mittoo / Ghetto Organ



febb
Barbara Mason/ You did not stay last night



Gatcha
RLP - Kler



GONZ
Jay-Z /Girls, Girls, Girls



K.K.K.K.K.
Dennis Brown / Here I Come



KID FRESINO
Ruc Da Jackel & Challace / I'm good



PUNPEE
Snow world×Guess who's back(mush up)/Gapper×Scarface


MASS-HOLE
L.V./Gangsta's Boogie (Barr 9 Version)



WOLF24
John Holt / Lonely Girl



Yodel
2chainz / I'm different (mighty mi&slugworth trap mix)



49
DOWN NORTH CAMP / ooamp


total coordinate by SORA,CHANGYUU (DNC)
DOGEAR RECORDS https://www.dogearrecordsxxxxxxxx.com
booking downnorthcamp@gmail.com

二木信、日本半縦断トーク・ツアー! - ele-king

 さて、みなさんはもうお読みになられましたでしょうか? 2013年をファンキーに生きる手引書『しくじるなよ、ルーディ』を刊行した二木信があなたの街へお邪魔します! お迎えするゲストも豪華! 動く二木信を見て癒されちゃってください。

 00年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行したばかりのファンキー・ライター二木信のトークイベントが、渋谷、京都、大阪、新宿、福岡で連続開催!!!

 ヒップホップのみならずさまざまなアーティストとのコラボが印象的なラッパー環ROY、大阪ディープサウス秘史を圧倒的密度で描いた著書『通天閣 新・日本資本主義発達史』がサントリー学芸賞を受賞した社会学者・酒井隆史などなど、土地毎に異なる対談者を迎えてヒップホップに始まる音楽論は勿論、風土風俗について、アングラ文化についての筋書きの無いクロス・トークに是非とも注目いただきたい!!!

■2月2日(土)東京 タワーレコード渋谷店

1/18に発売された『しくじるなよ、ルーディ』の発売を記念して、タワーレコード渋谷店4Fにてインストアイベントを開催!
著者である二木信の対談相手はなんと環ROYに決定!これは見逃せない!

出演: 二木信、環ROY
日時: 2013年2月2日(土) 18:00~
会場: タワーレコード渋谷店4F
参加方法: 観覧フリー

《ご注意》
※ご予約のお客様には優先的にサイン&特典引換券を確保し、商品購入時に引換券を差し上げます。
※アーティストの都合により、内容等の変更・イベント中止となる場合がございますので予めご了承ください。

タワーレコード・イベントインフォ:https://tower.jp/store/event/2013/01/003046
環ROY HP:https://www.tamakiroy.com/
Pヴァイン HP : https://p-vine.jp/artists/shin-futatsugi


■2月10日(日)京都 100000t アローントコ

『しくじるなよ、ルーディ』 刊行記念 二木信トークショー!
「日本のラップのことば――その多様性とファンクネス」

 類い稀なるバイタリティで、日本のヒップホップの人と現場と背景を取材し続けてきた音楽ライター、二木信氏の初の単著『しくじるなよ、ルーディ』が刊行されました。それを記念して開催するこのトークショーでは、「日本のラップにおけるファンクネスとはなにか?」という問いからスタートし、芸能・民俗・大衆文化・都市空間といった論点も含め、現在の「ことば」の可能性について思考する切り口について、二木氏自身に自由に語っていただこうと思います。ヒップホップ・リスナーに限らず、「ことば」に何かを見出そうとしている方々のご来場を、心よりお待ちしております

トークゲスト:二木 信(Shin Futatsugi|音楽ライター)
聞き手:村上 潔(Kiyoshi Murakami|現代女性思想・運動史研究)
日時:2013年2月10日(日曜)19:00~21:00〔18:45開場〕
会場:100000t アローントコ(京都市中京区寺町御池上ル 上本能寺前町485 モーリスビル2F)
https://100000t.blog24.fc2.com/
参加方法:入場料:500円

*事前申込不要(入場者が定員に達した場合、ご入場をお断りする場合があります。
あらかじめご了承ください。)
*終了後、会場近くで、ゲストを交えた簡単な交流会を行なう予定です。

●村上 潔(Kiyoshi Murakami)
1976年、横浜市生まれ。2002年~2006年まで、『remix』誌ほかで音楽/映画ライターとして活動。現代女性思想・運動史研究。立命館大学大学院非常勤講師。著書に『主婦と労働のもつれ――その争点と運動』(洛北出版)など。


■2月11日(祝・月)大阪 スタンダードブックストア心斎橋店

『しくじるなよ、ルーディ』刊行記念トークイベント

 大阪ディープサウス秘史を圧倒的密度で描いた『通天閣 新・日本資本主義発達史』(青土社)で第34回サントリー学芸賞を受賞したヒップホップ第一世代の気鋭の社会学者・酒井隆史とのスペシャル・トークショー開催!! 街にうごめく人びとの逞しく、猥雑な生き様に魅了されてきた2人が、"People Make The World Go Round"をテーマに、街と人と音楽について縦横無尽に語りあう!!

日時:2013年2月11日(月)※祝日 開場11:15 開演12:00
出演:二木信、酒井隆史
開場:スタンダードブックストア心斎橋店 https://www.standardbookstore.com
参加方法:入場料1,000円(ワンドリンク付き)

※当日のご入場はチケット番号順です。
※チケット番号は予約順ではなく、ご入金順になります。
※チケット引換が遅くなりますと立ち見になる場合がございます。
※ご予約数によって当日券の発売を中止する場合がございます。

【予約方法】
お電話(06-6484-2239)
ご来店(スタンダードブックストア心斎橋BFレジカウンターへお越しください)
メール ご対応可能です、詳細はこちらまで
https://www.standardbookstore.com/archives/66094747.html


★2月23日(土)東京・新宿★

詳細、近日アップ!!


★2月24日(日)福岡★

詳細 近日アップ!!

 2012年にツイッターで話題になった音楽ジャンル(orタグ)はなんだろう? シーパンク#Seapunk/ヴェイパーウェイヴ#Vaporwave/ジューク#Juke/ウィッチハウス#Witchhouse/ニューエイジ#Newage/ゴルジェ#Gorgeとか。
 ゴルジェ? そんな音楽あったの? グーグルで「gorge」と検索してみる。「インド~ネパールの山岳地帯のクラブシーンで生まれた新ジャンルの音楽「Gorge」について。」というツイートのまとめページが出てくる。まとめられているツイートもほとんど一部の人たちだけが扇動しているだけ。アーティストのインタヴュー記事など、情報はすべて日本語だ。
 ならば発祥の地のアーティストはどういうひとたちがいるのかと思い、ためしに「india gorge music」で検索してみる。トップに出てくるのは―――ジョージ・ハリスン(George Harrison)のウィキペディアだ。

 そこで僕は、トラックスマンの熱にうなされながら、日本国内で行われた「Gorgeフェスティバル・イヴェント」であるらしい「Gorge I/O Tokyo 2012」(10月27日)へ潜入した。桜台で。桜台? 「インド~ネパール」の音楽のイヴェントが桜台なの? ラーメン二郎を食べてから向かったまるで工場や用水路の跡地のような会場(POOL)には、インド人もネパール人もいない。ただそこにあるのは、DJマッチポンプによるSE、インダストリアルなノイズやテクノやアンビエントのライヴ、そして「GORGE was Fake」というTシャツを着た愉快な日本人たち、そしてあたたかそうな山飯......。

 そんな、そんな日本解釈の「ゴルジェ」を標榜するアーティストたちが、なぜかシカゴ発祥の日本国内のジュークのアーティストたちと抗争を起こしており、その決着をイヴェントとして見世物にするようだ。

 ことの経緯はジョージ・ジュークムラややカムキ・マヒトなるアーティストたちのバンドキャンプを参照してほしい。

 イヴェント詳細は以下。もちろん僕も向かおうと思う。パブリック娘。の重要会議がちゃんと終わったらね!

遂に日本で全面対決へ!? 「2/2 Juke VS Gorge」 - GORGE.IN.CLIPS:
https://gorge-in.tumblr.com/post/41506798782/2-2-juke-vs-gorge


果たしてこの全面抗争が和解の方向に向かうのか、さらなる確執へと発展していくのか。その結論が出るのが2/2である。

さらにサウンド対決に加えて、この抗争をおさめるべく出演者によるトークセッションも予定されているという。

全世界が注目するこのイヴェントに、審判として来場できるのは日本在住の方の僥倖であるはずだ。

そして場外乱闘として、広島のCRZKNYが提唱されたとされていた、GogeとJukeの鬼っ子的ジャンル、"Gorjuke"について、その起源めぐる争いが勃発している模様だ。

詳細は各トラックのリリースノートを呼んで欲しい。

広島で行われる[GHETTOMANNERS vol.3] とともに、2/2は日本のゲットーシーンにおいて何かが変わる音を聴く決定的な日になることは約束されている。その日を安穏として過ごすか、その現場に向かうかは、あなたの判断に任せられている。

『JUKEvsGORGE』
https://www.super-deluxe.com/room/3338/

六本木SUPER DELUXE
開場 18:00 / 開演 18:00
料金 予約 2000円 / 当日 2500円 (ドリンク別)

■Juke Side
D.J.Kuroki Kouichi [DJ]
FRUITY[DJ]
Guchon [Live]
Boogie Mann [Live]

■Gorge Side
HiBiKi MaMeShiBa[DJ]
hanali [Live]
kampingcar [Live]
K2 (uccelli + Gorge Clooney) [Live]

■Talk Session
「The mystery of juke&gorge」
Kuroki Kouichi × hanali × uccelli × fruity × ?



You'll Never Get To Heaven - ele-king

 Head of Chezzetcook......という言葉をそのままコピペして画像検索する。〈ディヴォース〉すなわち「離婚/別離」を意味する言葉を名前としたレーベルは、カナダと言ってもずっと東、出島のように北米大陸から大西洋に突き出ているノヴァ・スコアシア州の海外沿いの小さな村、シェゼットコックにある。ダーシーは海でサーフィンするかたわら1993年からレーベルを運営しているらしい。昨年はマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンのようなイタリアの電子音楽デュオのアルバムや、母国カナダのディーオンのカセットも出している。基本的にはエクスペリメンタルな方向性を好んでいる。昨年末にリリースしたユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・へヴンのデビュー・アルバムは、このレーベルにとってポップにアプローチした数少ない1枚となったわけだが、これが日本でかなりの数売れた。と、ダーシーからメールが来た。

 ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・へヴン=バート・バカラックの作曲したなかでもよく知られる1曲だ。60年代の、ディオンヌ・ワーウィックが歌っているヴァージョンが有名だが、ジム・オルークのカヴァー・アルバムにも当然収録されている。
 ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・へヴン(YNGTH)は、シェゼットコックとは反対側の、モントリオールを越えて、トロントも越えて、そしてデトロイト方向に向かって進んでいくとある、ロンドンという町を拠点とする男女ふたり組だ。バカラックの曲名を引用していることから、レトロないまどきのドリーム・ポップを予想されることと思うが、それはたぶん正解で、たぶん間違っている。この、繭のなかのようなくぐもった音響とチリノイズとの協奏曲は、ザ・ケアテイカーを彷彿させる......ところもあり、同時にコクトー・ツインズめいたゴシックなニュアンスも含んでいる。
 近代社会の完成に抗うようにネオゴシックも際だったという論を読んだことがあるが、ローファイやリヴァーブというよりも、この"籠もった感覚"が昨今のDIY電子音楽の多くに共通しているもののひとつだ。そしてこの感覚は、3月上旬に発売予定の粉川哲夫と三田格の共著『無縁のメディア』で解明されていることかもしれない。

 先日、ある雑誌社から「渋谷」についてのエッセイを依頼された。僕は、90年代後半を渋谷と代官山のちょうど中間にあった集合住宅で暮らしていたので、渋谷、代官山、恵比寿あたりは散歩コースだったのだけれど、しかし、そこは、現在の渋谷、代官山、恵比寿あたりとはまるで別の町だった。景観も、住人も、家賃も、空気も、そして町というトポスの意味においても。僕が渋谷を歩かなくなったのではなく、僕が歩く渋谷がなくなったのだということをあらためて感じながら、YNGTHのぬるいダウンテンポを聴き続けた。この作品が日本で売れたのは、必然だったと言えよう。歩く町を失った人たちが彷徨う場所は......たとえ天国に行けなくても。

 それにしてもカナダの音楽シーンは、この10年素晴らしい。GY!BEやアーケイド・ファイヤー、グライムスばかりではない。ゲイリー・ウォーグルーパーUSガールズ、ブラック・ダイスのエリック・コープランドもカナダのアンダーグラウンド・シーンと深く関わっている。詳しくは『Weird Canada』をチェック。

DJ Doppelgenger - ele-king

 Dj doppelgengerを形容すると鬱蒼と生い茂っている樹海に住んでいる鷹というところだろうか。普段は上空高く優雅に飛んでいながらも、広い視野で常に獲物を狙っている。そしていちど踏み入れたら決して抜け出せないような、誰もが恐れをなす樹海へとひとり飛び込み、狙った獲物は必ず捕らえる。その視野の広さと獲物を狙う嗅覚は、彼の音楽に対する前向きで実直な姿勢にこそ反映されているのではないかと思う。
 デビュー・アルバム『パラダイム・シフト』は、世界各国を旅した彼がその五感によって得た世界観を余すことなく体現した作品だ。その名のとおりシーンに「革命的変化」を与えるアルバムである。

 ダブステップに照準を合わせながらも、本人いわく「細分化するダブステップのなか、新たなるスタイルを提唱する」ものであって、無国籍的で能動的で哲学的、オリジナリティあるサウンドが生まれている。ベース・ミュージックを根底に持ったディープなサウンドから、ジャングル的なアッパー・グルーヴ、民族音楽特有なメロディックなサウンド。
 3曲目の『カーマ・スートラ』は、インドの熱い気候のなか、砂漠を彷徨い歩いているかのような気持ちにトリップさせられる。曲名の『カーマ・スートラ』は、現存するインド最古の三大性典のひとつ、性愛学の文献の名だ。こういうところにも彼の哲学観、旅の意義を見出すことができるだろう。
 全曲を通して聴いてみると、東南アジア、中南米などさまざまな国にトリップさせられ、気づいたら現実により戻されている。9曲め、表題曲の『パラダイム・シフト』では長旅の疲れを洗い流しながらも、また「革命的変化」でもって空っぽになった身体に中毒性を植えつける。そしてその中毒性のために、再度「革命的変化」を求め旅にでる。この「革命的変化」は貪欲に歩みをとめない。そして彼もまた「革命的変化」を求め、強靭な意志を持って永劫回帰を続けていくだろう。

 けっしてDJユースなだけのアルバムではなく、家でのBGMとしても聴ける。曲名の意味を理解し曲と照らし合わせながら自分なりの解釈で聴いたりするのも面白いだろう。旅中のBGMとして聴くのもいいかもしれない。さまざまなシチュエーションで聴いてみてほしい。そして彼のDJを現場へ聴きにいって、世界観を体感してほしい。これからも彼の旅が新たなサウンドとして、言い換えるならば「新しい文明」として日本に持ち込まれ、抽象度をあげ、その世界観がドッペルゲンガー・サウンドとして世界に発信されていくことになるだろう。

 アリストテレスの名言に「革命は小事にあらざるも、小事より発生する。」というのがある。まさに彼のアルバム『パラダイム・シフト』がその言葉を体現しているように感じられる。

Dean Blunt etc. - ele-king

 CDって買うもの......で、す、よ、ね? アナログ盤やカセット、ライヴやのチケットやクラブの入場料は買うものです。そしてCDは......こういう状況を見ると、いま世界は──とくにアメリカの話ですが──二分されていることを認めざる得ないようです。CDは買うものだと思っている人と思っていない人とに。これはDLの合法性、非合法性の議論ではありません。音楽の価値ならびに音楽産業、ときにgoogle検索への問題提起として電子空間を蝕んでいるのです! これは音楽ではありません。これは悪戯であり、ジョークであり、実験であり、町を追い出された子供たちの遊び場なのです!
 ディーン・ブラントは、ハイプ・ウィリアムス名義での活動を経て、昨年はソロ作品『ザ・ナルシスト2』を無料でばらまき、半年後にアナログ盤を売りました。〈Hippos In Tanks〉から、彼の新しいソロ・アルバムのリリースが、先日アナウンスされた。タイトルは『救世主(The Redeemer)』つまり「キリスト」。アルバムの1曲目"Papi"がすでにSoudcloudに上げられています。



 5月発売......だそうですが、お聞きのように、これまでのディーン・ブラント&インガ・コープランドの曖昧な、ぼやけた、つまりスモーキーなシンセ・ポップではありません。ミュージカル仕立ての......一時期のザ・レジデンツのようなコンセプトを彷彿させます。ザ・レジデンツ......ビル・ドラモンドが人を評価するときの判断基準になったバンドです。
 もうひとつ、ディーン・ブラント&インガ・コープランドの"ストーカー"シリーズの"5"がユーチューブにupされました。全く意味不明なシリーズとして知られる今回の新作は、そう、ウェイン・ルーニーのポスターとモーターサイクルの服装をしたブラントがただそこにいます。「未来のスラムのイパネマ」は、君の意味づけを待っているのでしょう。DLなう。





 紙『ele-king』のvol.8で、tomadoが持ち上げているseapunkのコンピレーションにも収録され、〈ボーイズノイズ〉からの12インチ「Liquid」を三田格がタワレコ渋谷でかけていた、ニューヨークのオネエ系ラッパー、Le1fの新しいミックステープがupされています。昨年の『ダーク・ヨーク』に次ぐ2作目で、本人はこれを「ツリー・ハウス」なるジャンル名で呼んでいます。どんな意味なのかは知りません。
 このあたりのNYのゲイ・ラップ・シーン、新たなるダンス・ミュージックがロンドンの〈ナイト・スラッグ〉系のNguzunguzuあたりと絡んでいるとことろは興味深く、そして、初期のシカゴ・ハウスのように......というよりも、懐かしのヴォーギングの世界です、セクシーです。新作『Fly Zone』にはスパンク・ロックも参加(他にもいろいろ)。木津毅の感想を待ちましょう。

Darkstar - ele-king

Sitting in an English garden,
Waiting for the sun.

(英国庭園に腰をおろして/太陽がくるのを待っている)

The Beatles "I Am The Warlus" (1967) 筆者日本語訳

 いまから2年前にロンドンでライヴを観て以来、おすすめの音楽を訊かれるたびにダークスターというひとたちががいいと答えてきた。しかし不安でもあった。ダークスター――ちょ、ちょっと、名前がダサくないかな......? 前作『ノース』ではクラブ・ミュージックからも離れつつあったし、あのあまりにも陰鬱な音楽が果たして来日公演にまで至るのだろうかと、勝手に気に病んでいた。片思いはつらいだけ――僕はまったく期待していなかった。
 しかし、すばらしいことに、ダークスターは見事に裏切ってくれた。良く悪くも、おそらくすべてのファンを。今作のレーベルは〈ドミノ〉や〈4AD〉でもない。〈ウォープ〉のスタッフはいっそ椅子から転げ落ちたくなったのではないか。
 男3人による完璧ではないものの美麗なコーラスのハーモニー。全編に鳴るオルゴールやハープシコードらしき撥弦楽器、グロッケンの音色。アンビエンスを含んだ優しいシンセサイザー。目を閉じずとも、トラディショナルな英国式の庭園や邸宅が、メランコリックで、幻想的で、まるで手にはふれられない、しかし現(うつつ)のごとき夢の光景として立ち現れてくる。これは、もはやポスト・ダブステップでさえない。〈ハイパーダブ〉なんて、とんでもない。『ニュース・フロム・ノーウェア』は、シンフォニックな響きを讃えたポップ・ソング集である。

 ユニット名や自主レーベルの名にしても、彼らにはSF趣味があったはずだが(註1)、フィクション作家としてまったく別の舞台を描いてみせたかったのだろうか、鮮やかに咲きみだれる花が変色して写るアートワークが示唆するように、今作は牧歌的で――しかし奇妙な世界へとリスナーを誘う。オフホワイトの視界から夢は滑らかにはじまる。アンビエントでドリーミーなドローンに包まれながら、「僕を目覚めさせてくれ、光のなかへ」と歌いだすジェイムス・バッタリーの甘い声。せわしない振り子の音が奥に聞こえるなか、光にみちびかれていく。そして、まったく別の世界――どこでもないところ――「ノーウェア」の時(とき)の針が、オルゴールを回すようにゆっくりと確実に動きだす。「タイムアウェイ」のシングル・リリース時はどこか浮ついた印象をもっていたが、あらためてアルバムの文脈のなかで聴けば、オープニングとして立派に機能している楽曲だ。小さくこだまするひとつひとつの音が優しく発光している。
 
 また、今作を聴いていると、意外なことにジョン・レノンの顔がちらつく。例えば、メランコリックで幽玄な「タイムアウェイ」につづいて唐突におどけた音色からはじまる3曲目の"アルモニカ"。どこか調子を外したようなギターの和音、フランジャーめいたエフェクトでくぐもったようなニヒルなヴォーカルや、シンセの逆回転風の加工など、(アルバムにおいて同じく3曲目でもある)ザ・ビートルズの「アイム・オンリー・スリーピング」をはじめとする1966~67年のジョン・レノン的な発想が散りばめられながらも、オマージュとしての記号の配置などに留まってしまうことなく、ダークスターの幻想性を有機的に表現している。
 明るいドローンのなかトム・ヨークめいた自己陶酔的なヴォーカル・チャント"-"(無題?)を挟んだあとの、5曲目の"ア・デイズ・ペイ・フォー・ア・デイズ・ワーク"のコーラス部分はジョン・レノンの"(ジャスト・ライク)・スターティング・オーバー"のそれとよく似ている。ピアノの質感もまるでジョンのデモテープのようだ。生活感をにおわせるタイトルも、アルバムをフィクションに閉じ込めきらないよう、ほどよく卑近な肌ざわりを与えている。たとえば経済的に貧しいなかでもクリスマスの夜を小さく祝うような、寄り添う温もりがある。

 ジョージ・ハリスンの"マイ・スウィート・ロード"におけるマントラ的アプローチに触発されたという7曲目の"アンプリファイド・イース(「増幅された安楽」)"は、発表時からよく言われているように、ポリリズムのコーラスがアニマル・コレクティヴとかなり似通っているものの、土埃がたちのぼるトライバルな躍動感というよりも、ヨーロピアンで壮麗な教会めいた響きがある。
 続く楽曲にも反復のコーラスが用いられており、そのままアルバムのラストまで瞑想的なアンビエンスが通底している。つつましくも勇ましいチェロの祝祭的な音。草原のなかの小川のようにせせらぎつづける電子音。アルバムは流麗な展開で締めくくられる。

 「ダブステップは終わった」。2009年の時点ですでにダークスターはそう語っていた。「自分たちはクラブに馴染まない」とも。
 そんな彼らに今作で見切りをつけたダブステップ期のファンは少なくないだろう。それだけでなく、『ノース』における暗いポスト・ダブステップのアプローチを好んだ層をも突き放してしまいかねないほど、ダークスターは音楽作家として歌(song)への挑戦を選んだ。ダークスターの"ニード・ユー"を会場SEにしていたトム・ヨークがポスト・ダブステップの沼へずぶずぶとハマりこんでいくのとは面白いほど対照的な道を、トムのファンが進んでいく。誰かひとりの趣味ではなく、3人全員が足踏みをそろえて、これまでの功績から離れ、別の景色へ向かっていけるなんて。すばらしい。英国フォークがほんのり薫るトラッドでシンフォニックなシンセ・ポップの次に、彼らの音楽の行く先はどこだろう。庭園を抜け、英国の森の奥へさらなる歩みを踏みだすのか、はたまた海を越え、ブルックリンか、南アメリカ、あるいはアフリカ、インドだろうか、あるいはどこでもないところ......。
 「思いもよらなかった内容に、最初聴いたときは間違えて別のCDをセットしてしまったのかと思ったほどだ。いやいや、間違っていない、これだ、ダークスターだ。」(野田努)とは、喜ばしいことに、前作についてだけの言葉ではなくなった。これから先も、何度でもそう言わせてほしい。ダークスターの3人には、どこまでも、どこでもないところへ旅をつづけて、返送先不明の便りを届けてくれることを願う。

Nils Frahm - ele-king

 ポスト・クラシカルと呼ばれるような音のなかでも、ゴンザレスとかニルス・フラームなどを個人的に敬遠しがちだったのは、なんとなく安直なイメージがあったというか、たとえばハーレクインのような具合に、聴く者の欲望にたやすく奉仕するような、あるいは聴く者の抱いている複雑な感情におおざっぱな出口を与えて思考停止させてしまうようなメロドラマ性があると決めてかかっていたからである。彼らの音楽を再生すれば、たちまちにしてわれわれは映画やドラマの主人公になることができる。目の前の生々しく面倒くさいことがらにも少し洒落たヴェールがかかる、みたいな。

 それからわたし自身が、以前は、音楽が他の何ものにもよらずに自立するものでなければならない――映像やストーリーや、聴かれる状況などに寄り添ったりおもねったりするものであってはならない――というような、驚くべき偏狭さにとらわれていた、という事情もある。音楽は生まれてしまったあとは人から独立して存在し、人を感化するものでなければならない、みたいな。
それなのに彼らの音ときたら――われわれが切ないと感じたり、苦しいと感じたり、気持ちいいと感じたり、そのすべてがまじりあったように感じたりする、言葉によっては形容できない繊細なエモーションに寄生して、そこから養分を吸い上げて成立しているように見える。何といったか、動物の死体から直接生えるあの美しい植物に似て、彼らの音使い、コード進行、旋律、アレンジ、そういったすべてが、たとえば失恋の痛みやメランコリーといった、人の心を強く支配するような気分の上に、胞子のようにとりついて根をおろし、そのメンタルをまるごと利用するように存在しているではないか、みたいな。

 いまでも半分はそう思っている。だが、この『スクリュース』を聴いてひとつ気づいたこともある。フラームの音楽はわれわれの気分を巧みに利用するが、フラーム自身はそう器用でもなさそうだということである。われわれの、切なくて苦しいけどそれが気持いい、みたいな気分を絶妙に助長し刺激しているのは、けっして技巧ではなくて、彼自身のエモーションなのだなということが感じられる。単音の旋律がつづき、伴奏にも和音があまり用いられない。ゆっくりと気持ちを押し込めていくように鍵盤が下ろされる。それがピアノ演奏というよりも歌のように聴こえ、つまりはこれはフラームの声なのだろうと感じさせる。音のつづく3分ほどのあいだは、彼自身が彼という聴き手に向けたちょっとしたなぐさめや癒しの時間なのではないか。フラームはそこで、自分に向けて二言三言のいたわりの言葉をかけているのではないか。

 フラームはこのアルバム制作の前に、事故により左指の1本に大けがを負ってしまったという。高名なピアニストに師事していたというたしかなわざを身につけた人間が、よりにもよって指を痛めるとは悲劇的な話である。医者からピアノを弾くことを止められていた彼だが、残りの9本の指で毎晩寝る前に少しずつ録音したという9曲が本作になった。2011年の『フェルト』は、ローファイなプロダクションが話題になった作品で、ラフな録音を叙情的なフィールドレコーディング作品へと転換するような、空間性を意識した方法がとられていたが、本作はそこに、夜な夜なレコーダーを回したという事実、つまり「事故後」という時間性の記録が加わることになった。そのような情報やコンセプトが加わることで、ピアノのフレーズの隙間にはさまった小さな物音までが、とてもイマジナティヴに立ち上がってくる。トラック名も泣かせる。"ド""レ""ミ""ファ""ソ""ラ""シ"の7曲を"ユー"と"ミー"がはさむ。フラーム自身をなぐさめ、いたわる音楽は、あなた......聴き手自身のなぐさめといたわりによって補完され、完成される。自覚的なのか無自覚なのか、彼自身の音楽の成り立ちを解くような趣向であって、ちょっと泣ける。

Yamagata Tweakster x Wedance Japan Tour 2013 - ele-king

 クライマックスは彼がドアを開け、階段を勢いよく駆け上がり、車が往来する大久保通りに飛び出たときだった。ライヴの最中にステージを飛び降り、客席で踊る音楽家はたくさんいる。が、歌い踊りながら会場を後に、公道に躍り出る音楽家はこの日初めて見た。彼の後を追いかけるようにオーディエンスもだだだだと通りに出た。道のど真ん中で彼はみんなと騒いでいる。走っていた車は止まらぜるえない。何が起きたんだい? フルクサス流のハプニング? 前衛舞踏? アナーキーなフリー・レイヴ? それともこれっていわゆる占拠? 
 ほんの数分の出来事だった。それでもこれは、新宿のコリアンタウン、大久保通りのレイヴであり、占拠だった。こんなことを言うと君は過激な運動家を想像するかもしれない。だが、ちょっと待って。たぶん君のイメージとは違っていると思うよ。
 彼はステージでラーメンを料理しながら、イタロ・ディスコで激しく踊り(僕にはDAFを思わせたが、本人はイタロ・ディスコとハウスのつもりだと話している)、そして服を脱ぎながら歌う、韓国のソウルのホンデからやって来たヤマガタ・ツイックスターなる音楽家。彼の隣には、サングラスをかけたセクシーな美女がロボティックなダンスを続けている。ヤマガタが路上に出たときもひとりはレオタード姿のまま、同じように外に出た。
 What fuck was going on? この晩、いったい何が起きたっていうんだい? 僕の頭はいまもモーレツな躁状態を維持したまま、混乱している。いまの僕を路上で見たら不審人物として署に連れて行かれるかもしれない。電車に乗ったらやばい人だと思われ、満員電車のなかでさえ、さーっとまわりから人が遠のくだろう。そんな状態であるからして、うまく説明できる自信がないけれど、この晩に起きた小さくて大きな出来事を知ってもらいたいと思ってキーボードを打ち続けている。僕がぶっ倒れるか、キーボードが壊れるか、身体をはった勝負だ。

 結論=ヤマガタ、まったく素晴らしい。ウィダンス、まったく格好いい。
 ウィダンスから書こう。イルリメの後にステージにはふたりの男女。長髪のメガネをかけた細身の男性はギターを抱えて、おかっぱの女性は革ジャンを着て、マイクの前に立っている。「準備はいい?」と、言ってはじまった彼らの演奏は、グルーヴィーなダンス・ビートをバックにギターがぐわんぐわんと絡みつき、女性はメリハリあるヴォーカリゼーションで会場をがっつりロック、ふたりとも激しく身体をゆさぶって、ゆさぶって、ゆさぶっている。はあ、はあ、はあ......。曲が終わると息が切れている。
 WeDance=私たちは踊る。そのバンド名のように、ふたりは踊る。韓国でビーチ・ハウスの前座を務めたという話もうなずける演奏だった。ドリーミーで、心身ともに揺さぶるダンス・ロックだ。見た感じ、ふたりとも若い。実際はどうか知らないが、気持ちの良い、好感の持てる人柄に思えた。これがいま注目の、韓国の若いDIY主義者の音楽家が集まるホンデと呼ばれる町からの、もっともフレッシュな一撃なのだ。何を歌っているかわからない。それでも彼らのエモーションはばっちり伝わる。格好いい。
 そんなわけで、久しぶりに会った友人に泡盛をおごった。面白い人たちが会場には集まっていた。無鉄砲な連中から音好きな連中、変わったモノ好き、日韓のアンダーグラウンド集会。ヤマガタ・ツイックスターは、そのトリを務めるのに相応しい男だ。市の再開発によって撤去を命じられたうどん屋をめぐる闘争から政治運動に発展したという、ホンデ・インディ・シーンの重要人物であるこの紳士は、黒い笑いと辛辣な社会批判を歌詞に託しながら歌い、踊る。踊るといっても、こちらはウィダンスと違って、いかがわしい動きを見せる。ニルヴァーナで音楽に目覚め、ペット・ショップ・ボーイズとフィッシュマンズを愛するヤマガタは、じょじょにその本性である笑いと知性と反抗心を見せ、巧妙なパフォーマンスで我々をまんまと虜にすると、背中から羽が生えたようにふわふわと踊らせた。
 想像して欲しい。ライヴハウスで汗かいて踊っている人びとが、そのまま路上にトランスポートされたところを。信じられないだろう。ステージにはラーメンだ......その信じられないことが起きた。鶴見済がニマっと笑っている。僕もニマっと合図した。
 翌日の昼過ぎ、品川のルノアールで、飛行機の搭乗手続きまでの1時間ほどの時間をもらって話を聞いた。最後の残り5分で写真撮影。すると......またしても彼は、駅前の4車線の大通りに飛び出した。そして、路上にばたんと寝そべる。忙しい町に寛容さなどない。多くの車からは怒りのクラクション、それでも彼は白昼堂々と......いっしょに路上に放り出されてシャッターを押し続けている小原泰広が終わってから「恐かったです」とひと言。彼は残されたわずかな時間も無駄にすることなく、路上を占拠したのだった。
 Kポップなどクソ食らえ。ヤマガタ......君こそ真のスターだ。
 (日本盤、2枚とも歌詞対訳あります。限定盤ですよ!)

Yamagata Tweakster - 山形童子 utakata records

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Wedance - Japan Tour unfixed# 130127 130129 utakata records

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