「Nothing」と一致するもの

ROOM237 - ele-king

 「ポストモダンの映画評論によれば──どんな作品でも監督の意図は一部だ。そして監督が意識していたか否かに関わらず──物事には意味があるのだ」(『ROOM237』より)
 音楽の世界では、産業的な次元でも、受け手側の心持ちの次元でも、旧作が新作以上に身近な存在となっている。悪いことではないが、それでは旧作におけるジャーナリズム性、同時代性はどうなるのかと言えば、受け手の解釈によって再生産されるのだろう。その意味が今日の社会において再解釈されるとき、旧作は、新作と競えるほどの力を持つ。2012年にアメリカで制作された『ROOM237』は、映画におけるそうした試みだ。
 スタンリー・キューブリックのおおよそすべての作品が、暗示的で、暗喩が使われ、受け手の解釈力を問うていると言える。ところが『シャイニング』は、他の代表作と比較した場合、彼の作品のなかでは唯一と言えるほど(たとえ強迫観念が主題だとしても)、ホラー映画という娯楽作品(商業映画)に徹しているかのように見える。話の大筋はわかりやすく、『時計仕掛けのオレンジ』や『フルメタル・ジャケット』のように「社会」や「政治」や「歴史」と関連づけやすい映画ではないし、遺作となった『アイズ・ワイド・シャット』のようにあらかじめ謎解きを促すような感じでもない。ジャック・ニコルソンの演技は『フルメタルお・ジャケット』の軍曹より有名だろうし、いわゆる大衆映画としても知られている作品だろう。

 ところが本作『ROOM237』を観ていると、『シャイニング』からある人物はホロコーストを読みより、別の人物はアメリカ先住民の大量虐殺を説明し、またある人物は性の暗喩を見出し、また別のひとりはアポロの月面着陸のねつ造への異議申し立てを解読する。5名の研究者(ジャーナリスト、歴史学者、作家、編集者等々)が、それぞれの解釈を展開する。タイプライターの色は変わり、絨毯の模様はすり替えられ、構造上あり得ないところに窓があり、駐車している車の台数にも、出てくる数字にもことごとく意味があると……まあとにかく、旧作をデジタルで手軽に楽しめる現代だからこそ探し当てることのできるディテールを興味深く指摘しながら、それぞれの解釈(もしくは妄想)を説明するという、ある意味オタクの極みのような映画なのだが、これがなるほど面白い。その多くが「社会」や「政治」や「歴史」と関連づけているというのが、なるほどいまはそういう「意味」に見えるのかと感心もする。いかんせん『シャイニング』を映画館で観た当時の僕は、いまよりさらに酷く出来の悪い、何もわかっちゃいないガキだったので、その撮影技術や美術にこそ興奮を覚えたものの、「社会」なんてものとは1億光年離れたところで観ていたことは間違いない。

 おそらく、もっとも説得力を持っている解釈のひとつは、先住民の大量虐殺の暗喩だが、この映画の音楽をザ・ケアテイカーが手がけていることもエレキング的にはひとつのトピックだ。「歴史はつねに勝者を支持する(History Always Favours The Winners)」なる一文を自身のレーベル名とする彼が、キューブリックの『シャイニング』に触発されて手がけたプロジェクトがザ・ケアテイカーだと言われているのだから、この起用に関しても深読みするのが筋というモノだろう。監督のロドニー・アッシャーは、『シャイニング』の謎解きというドキュメンタリーを通じて再考することの醍醐味を伝え、スタンリー・キューブリック作品のあらゆるディテールには何らかの意図があることをあらためて説いている。世界中にマニアがいるキューブリック作品だから生まれた作品なのだろうが、とりあえず、『シャイニング』とザ・ケアテイカーが好きな人は見なければならない映画でしょう。

 3月5日にSIMI LABがセカンド・アルバムとなる最新作『Page 2 : MIND OVER MATTER』をリリースする。あの鮮烈な登場がすっかり遠い出来事に感じられるくらい、2011年のファースト・アルバム以降、彼らにはいろいろな環境の変化があった。メンバーそれぞれのソロ・アルバムも充実し、菊地成孔と大谷能生のJAZZ DOMMUNISTERSとの取組みなど、音楽性も活動領域においても素晴らしい展開を見せている。
 アルバムに先駆け、今月末にシングルを聴けるのはうれしいニュースだ。ますます目の話せない存在として、2014年の扉を開ける作品を届けてくれるだろう。

■SIMI LAB(シミラボ) / Page 2 : MIND OVER MATTER

品番:SMMT-41,42(通常盤:SMMT-43)
価格:初回限定盤(DVD付き) ¥3,000 + 税 / 通常盤 ¥2,600 + 税
収録曲:15曲予定
発売日:2014年3月5日(水)
Label:SUMMIT

* 初回限定盤のDVDには、約2年間におよぶSIMI LABのメンバー・オフショットや、ライヴ活動、スタジオ風景等で構成された長編映像が収録されます。

※ 収録曲により常識では考えられないようなノイズが入っている曲がありますが、この作品の特性としてお楽しみ下さい。

■SIMI LAB(シミラボ) / We Just

 そして、3月5日のニューアルバム発売に先駆けて、ニューシングル“We Just”を、1月29日よりiTunes Storeにて配信開始致します! ライヴで何度も会場を盛り上げてきた楽曲が遂に配信開始。
 iTunes配信シングルのカップリングには「We Just Hi'Spec Remix」を収録!

品番:SMMT-39
価格 : 1曲=¥250(2曲同時アルバム購入の場合は、2曲で¥450となります。)
規格 : Digital on iTunes
発売日 : 2014.1.29
Label : SUMMIT

1. "We Just" 
Produced by OMSB
2. "We Just Hi'Spec Remix"
Produced by Hi'Spec


Cass McCombs - ele-king

 たしかに田中宗一郎が指摘するように「自由」という言葉は、空気が読めないとかマイペースとかどちらかと言えばネガティヴなニュアンスで、ひとの状態を表すものとしてすっかり定着してしまった。下手したら自分も普通に使ってしまっていて恐ろしいが、そう言えば最近は「あのひとは、めんどくさい」という形容もよく耳にする気がする。そこには「あのひとは面倒な人間だ」という見解と「あのひとと関わるのは(自分が)面倒くさい」という主張とが同時に示されているようで、要するに「あのひととはあまり関わりたくない」というようなネガティヴな意思が婉曲的に表現されていて、どうにも気持ち悪い。似たものに「ややこしい」もあるが、だとすれば、煩雑なコミュニケーションがとにかく忌避される世のなかなんだろう。自由でもなく、めんどくさくもなく、ややこしくもないひとと付き合ってて面白いのかね、とは思うけれども。

 現代のレナード・コーエンとも評されるキャス・マコムスの新作で85分あるダブル・アルバム『ビッグ・ホイール・アンド・アザーズ』は一言で言うととりとめのないレコードで、そしてたぶん、自由で、めんどくさくて、ややこしい1枚だ。長い時間をかけてぐねぐねと曲がった道を辿るサイケデリック・フォーク(・ロック)・アルバムであり、同時に、マコムスそのひとの複雑かつ一筋縄でいかない人間性と分かちがたく結びついていて、聴いているうちにこの入り組んだ構造に振り回されてしまう。
 マコムスは2011年に2枚フル・アルバムを発表していて、『ウィッツ・エンド』はダウナーなバラッドばかりのしかし美しいアルバム、対して『ユーモア・リスク』はわりと軽快なロック・チューンが収められたアルバムだったが、その点では『ビッグ・ホイール~』はどちらかと言えば後者寄りで、そこに『カタコンベ』以前のフォーク/カントリー・ナンバーが加わっている印象をまずは受ける。が、全体を覆うムードはどうもこう、ダラっとしている。それはクオリティの低さを示すのではなく、手練のプレイヤーが集まっており、むしろ演奏自体が聴きどころのアルバムなのだが、小節を繰り返しているうちにふいに曲が終わったり、ぜんぜんムードの異なる曲が素っ気なく並べられたりしているせいでそんな感触があるのだ。ヴァラエティに富んでいると言うよりは、作品としてまとめる気がないように振る舞っているようにも見える。タイトル・トラックの“ビッグ・ホイール”のグルーヴィーな反復、“エンジェル・ブラッド”の柔らかなカントリー、“ザ・バーニング・オブ・ザ・テンプル、2012”のムーディーなジャズ、グラム・ロックすらかすめる“サタン・イズ・マイ・トイ”……引き出しが多くて収拾がつかないのか、こちらを撹乱しようとしているのか、ひたすら作り続けている曲をさらっと並べただけなのか、よくわからない。が、この振れ幅の広さ自体がアルバムのテンションともなっていて、聴けば聴くほどこの気難しいアーティストの多面性の隙間に飲み込まれていく感覚がする。白眉は1枚目の最終曲“エヴリシング・ハス・トゥ・ビー・ジャスト・ソー”から、2枚目の1曲目“イット・ミーンズ・ア・ロット・トゥ・ノウ・ユー・ケア”にかけて、つまりアルバムの真ん中だ。前者の、9分にわたって繰り広げられるメランコリックで靄がかかったように気だるいフォーク・ロック・バラッドから、後者のフュージョン的にキレのあるインストゥルメンタルへと向かうコントラストにこそ、マコムスのコアがあるように僕は思えてならない。そしてどちらでも、とてもいい音のパーカッションが鳴っている。「すべてはただ、そう存在せねばらない」……。

 いま使われている意味での「自由」の対岸に規則正しさや簡潔でわかりやすいコミュニケーションがあったとすれば、相当なインタヴュー嫌いで知られるマコムスはそこから遠く離れたところでひたすら歌を作り続けているし、それらをすぐに伝わるようにプレゼントしない。アルバート・ハーターの何やら禍々しい絵画を引用したアートワークを含めてアウトサイダー・アートめいているが、本人はそんな位置づけすらバカバカしいのかもしれない。わからないから、また再生ボタンを押す。ひとりのシンガーソングライターの作品を聴きこむことは、骨の折れる対話のようだとつくづく思える。
 「ダラっとしている」「まとめる気がないように見える」と書いてはいるがしかし、フォーク・チューン“ブライター!”を1枚目でマクムスが歌い、わざわざ2枚目でハリウッド女優のカレン・ブラックが再び歌っているように、通底するものももちろんある。アルバムでは“ショーン”というサウンド・クリップがインタールード的に3曲挿しこまれているが、これは1969年のドキュメンタリー映画からの引用らしく、ヘイト・アシュベリーのヒッピーに育てられた4歳の女の子のインタヴューが聞ける。60年代の幻想と闇……しかしここからは、こんな無邪気な声がする。「警察は必要だと思う?」「ううん!」。……さて、「自由」とはどういう意味だっただろう。

第15回:キャピタリズムと鐘の音 - ele-king

 なんで年頭になるとわたしは左翼の人になるのだろう。
 昨年の正月は紅白の「ヨイトマケの歌」を見ながら、日本の労働者階級について考えていた。で、今年はケン・ローチ監督のドキュメンタリー『The Spirit Of 45』のDVDを見ていたのだが、この作品はケン・ローチが昨年11月に発足させた新左翼政党レフト・ユニティーのコテコテのプロパガンダ映像である。一部メディアには酷評されたが、しかしこれを見ると、英国には社会主義国だったとしか言いようのない時代があったのだとわかる。

 タイトルで謳われている1945年とは終戦の年だ。
 日本が降伏を宣言し、マッカーサーが神奈川県に降り立った年である。
一方、戦勝国の英国では、国を勝利に導いたチャーチルの保守党が選挙でなぜか大敗し、労働党政権が誕生した年だった。
 保守党政権下の1930年代は貧富の差が極端に拡大した時代だったという。「貧民の子供はよく死んだ」と証言している老人がいるが、国の至るところにスラムが出現し、貧者が集合的に檻の中に入れられ切り捨てられている様子は現代の英国とも重なる。開戦で真っ先に戦地に送られたのはこうした貧民だったわけだが、彼らは戦地で考えていたという。「俺たちはファシズム相手にこれだけ戦えるのだから、戦争が終わったら、力を合わせて自分たちの生活を向上させるために戦えるんじゃないか」と。
 終戦で帰国した兵士たちは、空襲で破壊された街や、戦前よりいっそう荒廃したスラムを見て切実に思ったそうだ。「こりゃいかん。俺ら、別に対外的な強国とかにはならんでいいから、一人ひとりの人間の生活を立て直さな」と。

 それは「ピープルズ・パワー」としか言いようのない下から突き上げるモメンタムだったという。
 戦勝国の名首相(チャーチルは英国で「史上最高の首相」投票があるたびに不動の1位だ)が、戦争で勝った年に選挙で大敗したのである。それは、当時は純然たる社会主義政党であった労働党が、「ゆりかごから墓場まで」と言われた福祉国家の建設を謳い、企業を国営化してスラムの貧民に仕事を与えることを約束し、子供や老人が餓死する必要のない社会をつくると公約して戦ったからだ。労働党にはスター党首などいなかった。彼らは本当にその理念だけで勝ったのだ。

 UKの公営住宅地は、現代では暴力と犯罪の代名詞になっているが、もともとは1945年に政権を握った労働党が建設した貧民のための住宅地だ。あるスラム出身の老人は、死ぬまで財布の中に「あなたに公営住宅をオファーします」という地方自治体からの手紙を入れてお守り代わりにしていたという。浴室やトイレがある清潔な家に住めるようになったということは、彼らにとっては一生お守りにしたくなるほどの福音だったのだ。
1930年代には無職だったスラム住民も、鉄道、炭坑、製鉄業などの国営化によって仕事をゲットし、戦時中に兵士として戦った勢いで働いた。
 「ワーキング・クラスの人間は強欲ではないんです。各人が仕事に就けて、清潔な家に住めて、年に2回旅行ができればそれ以上は望まないんです」
 と、ある北部の女性が『The Spirit of 45』で語っている。
キャピタリズムが「それ以上」を望む人間たちが動かす社会だとすれば、ソーシャリズムとは「それ以下」に落ちている人間たちを引き上げる社会なのだ。

 ロンドン五輪開会式の演出を任されたダニー・ボイルは、NHS(英国の国家医療制度)をテーマの一つにした。
 NHSこそ、1945年に誕生した労働党政権が成し遂げた最大の改革である。「富裕層も貧者も平等に治療を受けられる医療制度」という理念を労働党は現実にしたのだ。
 現代のNHSには様々の問題があり、レントゲン撮ってもらうのにも2ヶ月待たされた。というような細かい文句はわたしはブログで延々と書いてきたし、連合いが癌になった時もGPにいい加減にあしらわれ続けたおかげで末期になるまで発見されなかった。
 が、彼が今も生きているのはNHSが無料で治療してくれたおかげだし、「子供ができない」と相談したらNHSは無料でIVFもやってくれた。うちのような貧民家庭では、NHSが存在しなかったら、連合いは死に、子供はおらず、わたしは独りになっていただろう。

 英国の医療が発達したのもNHSの副産物だったという。それまでは、患者の支払い能力に応じて治療法を選択して売るといういわば医療商人だった医師たちが、費用のことは一切心配せず、「この患者をどうやって治すか」ということのみに没頭できる医療職人となって医療技術を飛躍的に前進させたのである。
 「この国は、たとえ王室がなくなっても、NHSだけは失ってはいけない」
 と『The Spirit of 45』で語っている庶民がいる。
 日本の中継ではほとんど触れられなかったそうだが、ロンドン五輪開会式でダニー・ボイルがあれほどNHSのテーマに時間を割いたのも、「開会式ではNHSの部分が最高だった」と言う英国人が多いのにも理由がある。それは、NHSが英国のピープルズ・パワーを象徴しているからだ。

 しかしそのピープルズ・パワーも時の経過と共に英国病を患い、70年代末に登場したマーガレット・サッチャーがThe Spirit of 45を片っ端から粉砕していくと、英国はキャピタリズム一直線の道を進みはじめ、それは今日まで途絶えることなく続いている。もはや、最後の砦NHSさえ、細切れに民営化されはじめた時代だ。

 英国のワーキング・クラスの人びとの強い階級への帰属意識も、もとを正せば「1945年のスピリット」に端を発しているのだと思う。下からのパワーがチャーチルをも打ち負かし、庶民が自分たちの手で自分たちの生活を向上させた、そんな時代が本当に英国にはあったからだ。実際、「ワーキング・クラスがもっともクールだった」と言われている60年代に、それまでは上流階級の子女の仕事だったジャーナリズムやアートといった業界に下層の子供たちが進出していけたのも、1945年に労働党がはじめた改革のおかげだ。労働者階級の子供たちも大学に行けるようになったからである。それまではそんなことはインポッシブルだった。
 が、現代のUKは、またそのインポッシブルな世の中に逆戻りしている。

 「キャピタリズムはアナキズムだ」と左翼の人びとはよく言う。
 政治が計画を行わず、インディヴィジュアルの競争に任せれば、優れた者だけが残り、ダメなものは無くなって自然淘汰されて行く。という行き当たりばったりのDOG-EAT-DOGな思想は、たしかにアナキーであり、究極の無政府主義とも言える。
 どうりで英国の下層の風景にわたしがアナキーを感じるわけである。「ブロークン・ブリテン」とは、キャピタリズムの成れの果てだったのだ。「アナキズム・イン・ザ・UK」とは、「キャピタリズム・イン・ザ・UK」のことだったのか。と思いながら、『The Spirit of 45』を見ていると(本編とインタヴュー編を合わせると8時間半の大長編だ)、
 「社会主義が最初に出現したのはいつでしょう」
 というケン・ローチの質問に、ある学者がこう答えた。
 「究極的にいえばキリスト教が社会主義だ。だからそれが誕生した時代にはすでにあった」

 たしかに、「金持ちが天国に入るのは、駱駝が針の穴を通るより難しい」と言ったジーザスは、いきなり市場を破壊したこともあるぐらいだからキャピタリズムは大嫌いだったろう。
 しかし、キリスト教だけではない。「どんどん強欲になることを生きる目的にしなさい」とか「勝つことが人間の真の存在意義です」とかいう教義を唱える殺伐とした宗教はまずないだろうから、本来、宗教というものは反キャピタリズムだ。
 社会主義や宗教には、政府や神といった号令をかける人がいて、「みんなで分け合いましょう」とか「富める者は貧しい者を助けましょう」と叫ぶ。わたしは保育園に勤めているが、大人が幼児に最初に教え込まねばならぬのは排泄と「SHARING」である。英国の保育施設に行くと、保育士が「You must share!」と5分おきに叫んでいるのを聞くだろう。つまり、人間というものは本質的に分け合うことが大嫌いなのであり、独り占めにしたいという本能を持って生まれて来るのだ。そう思えば、キャピタリズムというのは人間の本能にもっとも忠実な思想である。本能に任せて生きる人間の社会が、「You must share!」と叫ぶ保育士がいなくなった保育園のようにアナキーになるのは当然のことだ。

             ***********

 ジェイク・バグのレヴューを書いたとき、書きたかったのだがやめたことがある。
 それは彼の歌詞になぜか教会が出てくるということだ。
 今どきのUKの貧民街には教会など存在しない。信者(=寄付)が集まらなければ成り立っていかないので、貧民街からは教会もとっくに撤退している。それに、教会が歌詞のモチーフに使われるUKのポピュラー・ソングなど現代では聞いたこともない。
 レトロな感じの歌詞が書きたかったのね。と最初は思ったが、“ブロークン”に出てくる「谷間に響く教会の鐘の音」とは、いったい何なのだろう。

 キャピタリズムの成れの果てであるブロークンな街に、遠くから響く鐘の音。

 ヒューマニティーという鐘の音に渇望する人間の心を、ジェイク・バグはそうとは知らずに代弁してはいないだろうか。

 『第55回 輝く! レコード大賞』の作曲賞に、“あまちゃん オープニングテーマ”と“潮騒のメモリー”が選ばれた。多くの人と同じように、僕も以前から、大友良英やフィラメントなどを好んで聴いていたので(とくにONJO『アウト・トゥ・ランチ』やグラウンド・ゼロ『ナル・アンド・ヴォイド』などには感銘を受けた)、彼やサチコ・Mの音楽が国民的に愛されることには痛快さと嬉しさを感じるわけだが、それ以上にこの劇中曲の受賞は、昨今のポップスの主流が、ますます「アーティスト」系から「ノベルティ」系へ移行していることを示しているように思えた。

 大瀧詠一はかつて、近代日本の大衆音楽はすべからく日本以外の音楽の影響を受けているとして、これを「世界史分の日本史」と分数のイメージで捉えた(注1)。この「世界史」(=分母)「日本史」(=分子)の位置づけをそれぞれ「企画」「人格」に置き換えて、日本のポップスはすべからくノベルティソングである、と言ったのはマキタスポーツである(注2)。僕らはともすれば、音楽に「アーティスト」の気持ちや主張を読み込みがちだが、その背後にはじつは「企画」としての側面が存在している。つまり日本のポップスは、いかに「アーティスト」が等身大の自分を歌っていようとも、ノベルティソングだということである。日本でロックを歌うということが、あるいはダンス・ミュージックを実践するということが、そもそも「企画」先行で成立しているのである。その意味で、大正期に結成された最初期のジャズ・バンドのひとつであるコスモポリタン・ノヴェルティー・オーケストラが、バンド名に「ノヴェルティー」という言葉を冠している事実は興味深い(注3)。つい忘れがちだが、日本のポップスの背後には少なからず「企画」が隠れている。そしてここ最近、日本のポップスはむしろ、等身大の自分を歌いがちな「アーティスト」系から「企画」性を前面に押し出す「ノベルティ」系へとモードが移行しつつある。

 この変化を感じはじめたのは、AKB48を経て、ももいろクローバー(Z)が出てきたあたりである。彼女たちは、自分たちの気持ちや主張を歌うというより、あるときはプロレス、あるときはヒーローものなど、なかば無理強いされる「企画」に一生懸命応えていく姿勢に魅力があった。ももクロにおいては、元ネタ云々も大事だったが、それ以上に、ムチャぶりの「企画」に応える「全力少女」としての姿が重要だったのだ。僕はグループアイドルについては申し訳ないことに不勉強なのだが、共感を得やすい歌詞で等身大の自分を歌う「アーティスト」が幅を利かせていたときにあって、ももクロの存在を特異に感じたことをよく覚えている。グループアイドル戦国時代とは、日本のポップスにおける「ノベルティ」系の復権として捉えるべきだ。くり返すが、いかに「アーティスト」然としていようが、すべからくノベルティソングなのである。このことを忘却して、「アーティスト」系を優位に置き、アイドルソングやコミックソングなど「ノベルティ」系を劣位に置くのは「遠近法的倒錯」(柄谷行人)(注4)と言わざるを得ない。むしろ、等身大の自分を歌う「アーティスト」然とした振る舞いのほうが、日本のポップスのありかたとしては特異なのだと言えるかもしれない。

 このたびレコ大の作曲賞に選ばれた2曲を筆頭に、300以上の『あまちゃん』の音楽は宮藤官九郎の「脚本ありき」(注5)で作られたものであり、なかでも“潮騒のメモリー”などは堂々たるノベルティソングである。2013年を代表する音楽(と言っていいだろう)が、『あまちゃん』という「企画」が先行された曲の数々だったことは、「ノベルティ」系をひいきしがちな僕としてはたいへん喜ばしいことであった。しかも、曲自体も本当に素晴らしい(注6)。このようなノベルティソング史観からすると、2013年の日本のポップスにおいていちばん重要だったと思えるのは、大友良英が『笑っていいとも!』に出演してタモリとの邂逅を果たしたことである。タモリこそは、かつて『タモリ』『タモリ2』『タモリ3』という偉大なるノベルティ盤を出した人物であった。大友良英は『タモリのオールナイトニッポン』にデモテープを送って、その音源は番組上で流されたことがあるという。ノベルティソングをひっさげて登場した大友が、他ならぬ『笑っていいとも!』でこのエピソードを披露することの、なんと感動的なことよ!

 2013年、“ありがとう”というこれ以上ないほど等身大の言葉でつづられた曲を最後に、ファンキーモンキーベイビーズが解散した。それと入れ替わるように、『あまちゃん』の音楽は毎朝鳴り響いていた。等身大の言葉で作詞をする西野カナは、紅白歌合戦で、はからずも“さよなら”と歌った。2013年は、まことに「アーティスト」系から「ノベルティ」系への移行の年であった。


(1)「大瀧詠一のポップス講座~分母分子論~」(『FM fan』1983.11.25-12.4)

(2)アルバム『推定無罪』発売にともなっておこなわれた、いとうせいこうとの対談での発言。マキタ流「分母分子論」については、今後論じられることが期待される。というか、マキタの新刊では、そのことに触れられているかもしれない

(3)コスモポリタン・ノヴェルティー・バンドについては、毛利眞人『ニッポン・スウィングタイム』(講談社 2010,11)を参照のこと

(4)柄谷行人『日本近代文学の起源』(講談社 1980.8)ここで柄谷の言葉が引用される意味は、大和田俊之「大瀧詠一とアメリカン・ポピュラー・ミュージックの〈起源〉」(『文藝別冊 大瀧詠一〈増補新版〉』2012.8)で確認してほしい

(5)2013年8月7日放送『荻上チキ・Session22』における大友良英の発言。

(6)“あまちゃん オープニングテーマ”の音楽性その他については、村井康司「ダサいぐらい我慢しろよ!――シンプルを恐れないコンポーザー」)が面白かった。

【追記】
この原稿を書き終えた直後、初めて目にしたニュースが大瀧詠一の訃報でした。「ノベルティ」時代の到来とは、なにより大瀧詠一的な時代の到来である、という気持ちを強く持って書いていました。いちファンとして、心よりご冥福をお祈りします。

Optrum - ele-king

 先日、マイナーホラー映画についてのトークや、アイドルや女性打ち込みシンガーソングライターのライヴ等々盛りだくさんな内容のイベントに行ったところ、開演前の場内ではビキビキの電子音と速いリズムの超かっこいい音楽がかかっており、「Jukeでもなさそうだし何だろこれ」と思ったのだが、会場の人に聞いたら実はそれがオプトラムのセカンド・アルバム『Recorded 2』なのだった。「客入れでかけると、なんかアガるんですよね」と言っていた。

 オプトラムは蛍光灯にコンタクトマイクを付けてアンプリファイする「オプトロン」の演奏者・伊東篤宏と、即興シーンで活動しているドラマーの進揚一郎のデュオである。目にも耳にもノイジーな蛍光灯とソリッドなリズムの組み合わせはインパクト満点であり、誰でもひと目で素朴に「かっこいい!」と思うんじゃなかろうか。
 一方で、見た目のインパクトが凄すぎるだけにCDで聞くとその魅力が伝わるのだろうか(「音だけ聞いて意味あるの?」っていう)という素朴な疑問があるかもしれない。だが、このアルバムは逆に音だけだからこそ、ライヴでは伝わりにくい(ことのある)、オプトラムの純粋にサウンド的な魅力を発見させてくれるものになっている。

 発想としてはシンプルで、「オプトロン+ドラム=オプトラム」というバンド名にも現れているように一種「出オチ」みたいなコンセプトのバンドではある。出オチといえば前にブラストロのレヴューでも使った言葉だけれど、そういえばブラストロを初めて観たときには「オプトラム以来の衝撃!」と思ったもんである。
 でも、普通なら出オチで終わるものを終わらせず、それを引っ張り続けて洗練させていくことで生まれる面白さ、みたいなものにある種の価値があるなあと最近は思ってまして、結成10年にして、前作から7年のブランクを経て制作された今作にはそういう面白さがある。

 そもそも伊東はかねてより自分はミュージシャンではないし、オプトロンは楽器ではない(「音具」と呼んでいた)と発言していたのだが、いまやしっかりミュージシャンだし楽器になっている。とくに近年の〈ブラック・スモーカー〉周辺との活動の成果でもあるのかリズム面での進化が前作との大きな違いで、ビート・アルバムみたいなものとしても聴けるんじゃないかと思う。ノイズ/インダストリアルの大御所たちがベース・ミュージックなどに出会ってクラブ・シーンに接近しているような例(ホワイトハウスのウィリアム・ベネットによるカットハンズとか。初音階段……はちょっと違うか)に通じるものもあるような。

 筆者が参加しているバンドの曲に「10年経っても何にもできないよ」という歌詞があって、以前から伊東はこのフレーズを大変気に入ってくれているのだけれど、出オチで終わらせずに10年続けた成果というのはけっこう馬鹿にならないものがある。2013年の12月30日に新大久保アースダムでの年末恒例のライヴで彼らの演奏を観ていろいろ感じるものがあったこともあり、発売からちょっと間が空いちゃったけど10年経ったわけでもないので落穂ひろい的に紹介させていただきました。

- ele-king

Death Grips - ele-king

 恐るべきインターネット時代のならず者集団、デス・グリップスは高速で休みなく走り続けている。彼らの話題は尽きることがない。自身のレーベル、〈サード・ワールズ〉のサイトを閉鎖したり(その後復活)、傑作“陰茎”アルバム『ノー・ラヴ・ディープ・ウェブ』を〈エピック〉に無断でフリーでリークしてメジャー契約を解除されたり(のちになぜかフィジカル・リリース)――突然ライヴを中止したことも1度や2度ではない(昨年の来日公演は無事に開催されて本当に良かった……)。
 いや、もちろんネガティヴな話題ばかりではない。ライヴをキャンセルしようとも、彼らは新曲やヴィデオをコンスタントにリリースし続けている。そのなかにはプロディジーのクラシック、“ファイアスターター”のリミックスもあった。ドラマーのザック・ヒル(ちなみに『ノー・ラヴ・ディープ・ウェブ』のジャケットに写っているものは彼の身体の一部だ)は自身が脚本・監督・音楽を務める短編映画を作っているという噂もある(「そんなもの作ってはいない」と否定する声明も出しているが……)。

 ひょっとしたら、彼らにとっては停滞こそが忌避すべき死なのかもしれない。その一方で、デス・グリップスは死を欲するかのように生き急いでいるようにも見える。最初のミックステープ『エクスミリタリー』から数えて4作目にあたるこのフリー・アルバム、『ガヴァメント・プレイツ』(ダウンロード・イット!)においてもまたデス・グリップスの態度や表現は過激化と先鋭化の一途をたどっており、MCライドは再びギリギリの縁に立って両手の中指を突き立てている。露悪的なまでにタナトスを剥き出しにして、死へとひた走ることによって駆動するかのような音楽――ピッチフォークは「過去もなく、未来もない現在の音楽」と評している。現在時制によってのみ構成されたデス・グリップスを聴いていると、死の欲動を攻撃性という点に特化して21世紀的な表現方法で音楽化するとどうなるのか、という実験に巻き込まれているかのような気分にもなる。
 タイニー・ミックス・テープスはなぜかポール・ヴィリリオを引き合いに出しているが、絶対的な光の速度が現実空間や社会を解体させていることを分析したヴィリリオの仕事を思い出してみれば、デス・グリップスの態度や音楽はまさに速度と情報の暴力だと言えるだろう。

 ともあれ。カニエ・ウェストの『イーザス』よりもずっと暴力的で恐ろしいインダストリアル・ノイズにまみれたラップ・ロックのアルバムであるこの『ガヴァメント・プレイツ』は、これまでの作品のなかでももっとも騒々しく、耳を痛めつける音で溢れかえっている。おそらく、デス・グリップスもまた怒っている。怒りを増幅させて、それを吐き出している。
 しかし、MCライドのラップはますますシンプルになり、曲によってはほとんど素材のような扱いとなっている。もはやラップというよりも叫びやフレーズの反復に終始し、曲によっては激しくチョップされてしている。

 冒頭の“ユー・マイト・シンク・ヒー・ラヴズ・ユー・フォー・ユア・マネー・バット・アイ・ノウ・ワット・ヒー・リアリー・ラヴズ・ユー・フォー・イッツ・ユア・ブランニュー・レオパード・スキン・ピルボックス・ハット”(ボブ・ディランの曲名のパロディか)は、ガラスの割れる音とサイレンのような電子音、左右のチャンネルから耳を圧迫する壊れたワブルベース、ジョーカーのような笑い声、そしてザック・ヒルの重たいドラミングで聞き手を圧倒する。“ディス・イズ・ヴァイオレンス・ナウ(ドント・ゲット・ミー・ロング)”や“フィールズ・ライク・ア・ウィール”、“アイム・オーヴァーフロウ”の性急でジャングルめいたビートは、悪夢をプレゼンするダンス・ミュージックとして提示されている。もともとデス・グリップスのビートは複雑で展開が多いが、“ビッグ・ハウス”や“ガヴァメント・プレイツ”のそれはジュークを思わせるせわしない動きを見せつけている。
 6分にも渡る“ワットエヴァー・アイ・ウォント(ファック・フーズ・ウォッチング)”は、デス・グリップスらしくいくつかのパートで構成されている。時折挿入されるダウンテンポのノイズ・パートはレイムやそういった類のインダストリアル・ビートとほぼ同じ次元で鳴っている一方、性急なダンス・パートは焼けただれた、あるいは壊死したEDMの残骸のような暴力的な臭みを放っている。
 アルバム中もっとも重要な曲はおそらく先行曲の“バーズ”で、ここではまたザックのドラミングとアンディ・モリンakaフラットランダーのプログラミングが組み合わされており、ビートの緩急がどんどん激しく変化していく。MCライドの声は奇妙に歪んでいるが、じつに重たくパラノイアックな“Fuck you”を吐き出している。

 デス・グリップスにはメランコリーはない――もちろん『ガヴァメント・プレイツ』もその例外ではない。あるのは直接的な攻撃性、凶暴性、速度、ノイズ、アナーキズムであり、インターネット時代の破壊者としての態度である。パンクではあるがしかし、理想やアティチュードを掲げてそれに反するものへ「ノー」を突きつけるよりも速く、あらゆるものに中指を立てている。

wakka (SLOPE) - ele-king

1/12にGerry Rooneyがプレイする、僕も大好きなEnoshimaCurryDinner OPPA-LA。そのOPPALAの店長さん曰く、Gerryの音は『ACID LOUNGE』。
そんな『ACID LOUNGE』な曲をセレクトしました。
WAKA Facebook | SLOPE WEB

『ACID LOUNGE』 2014/1/10


1
Velvet Season & The Hearts Of Gold - Truth Machine for Lovers - Lucky Hole

2
Garben Eden - Romantic Archive - Lampuka Records

3
Anthony Naples - Moscato - Mister Saturday Night Records

4
Virgo Four - It's A Crime - Rush Hour

5
Albinos - Photosynthesis - Antinote

6
Pawas - flying drum(losoul remix) - Undulate Recordings

7
Cougarman & General Z - Susan Loves To Jack - Golden Hole

8
Disco Dub Band - Disco Dub (5:00-Re-Edit) - J.D. Records

9
Jeanne Vomit-Terror & Ed Sunspot - The Seat Of Same - Acoustic Division

10
DJ Harvey - Liftman - Black Cock

Gerry Rooney-New Year Japan Tour 2014
sunday””SUNSET””session
2014/1/12sun at EnoshimaCurryDinner OPPA-LA

act
Gerry Rooney
(Velvet Season&The Hearts Of Gold/ Black Cock / Lucky Hole )
DJ IZU
WATARUde( R.M.N. / GOD SERVICE )
wakka( SLOPE )

art work
Bush
soundsystem&pa
松本音響
OPEN/START 15:00 // FIN 22:30

MUSICCHARGE : 3000yen

Special Thanx
AHBpro
Pioneer DJ

more info
0466-54-5625
https://oppala.exblog.jp/

Hidenori Sasaki (zoo tapes) - ele-king

2011年からスタートした佐々木秀典によるAmbient、Drone、Noise、Industrialカセット・レーベル〈zoo tapes〉、Drone Chart。
80年代から10年代まで拡散、発展するimprovised/drone/noise recommend、東京のシーンを中心に2012年入手可能な盤をご紹介。
取り扱いshopはArt into Life、Meditations、S.O.L sound、Futarri CD shop、P.S.F. Records Modern Music、NEdS等。
〈zoo tapes〉は2013年よりDOMMUNEにて20代30代の音楽家を紹介するプログラム「Plateaux of NOISE」現代ノイズ進化論を主宰、現在vol.3まで開催。

https://www.facebook.com/zootapes
https://zootapes.tumblr.com/

13年は良い作品が多くリリースされた。
下記作品を制作したアーティストの事を想うと、作り手の緊張感が爆発し結実を始めた一年だったと言っては大袈裟でしょうか?

2014年はElectronicaとの接続を思案。

00年代以降ノイズの細分化=10年代地下Ambient,Drone,Industrial,Experimental=Plateaux of noise現代ノイズ進化論。


1
Steel Music - Untitled - zoo tapes
 自身が昨年から思案し続けてきた、新しい名義、音楽的には80年代new waveのダークなno vocal music+現在の北欧Industrialシーンに対する私的な返答、Industrial,drone。
販売店のlinkはこちらまで https://zootapes.tumblr.com/shop

2
V.A - 朝に唄えば Music from Le Matin - Neurec
 NeraeのメンバーだったReizen(guitar)その後の活動には常に注目しているのですが、そんな彼が参加したオムニバス作品。なんとIncapacitants美川さんと共に名前が挙がっている、これには驚いた、ReizenとはAndrew Chalkの影響やドローン、実験系のアーティストの話をした印象ばかりが強く残っていた。
美川さんと同列に一枚の作品の中にReizenが存在する、ここから何か始まる、、という予感、楽しみが湧いた一枚。
参加アーティスト、内田静男、康勝栄、Reizen、T.Mikawa、Neurecレーベル主宰はT坂口さん、なんというメンバーなのだろう。
世代を超えた激シブなオムニバスアルバム。

3
Reizen - Untitled - Fylkingen Records
 Reizenの新作が出てしまいました、さてこちらの新作上記オムニバスの参加等、更にそのオリジナリティを突き進めた彼の音世界、激シブです。
色々なところで書かれているので詳細などは割愛しますが、とにかく激シブです。
こちらもLPでのリリースお楽しみ下さい!そして四谷茶会記でのReizen&hakobuneライブシリーズ「音ほぐし」13年は新たにキュレーションとして笹島裕樹さんを迎え、東京では定着した企画になっている。

4
K2 / Hakobune - Disambient - Underground Pollution Rec
 Reizenに美川さんが並んだ事に驚くと同時にK2,hakobuneとのスプリットがリリースされたのも個人的には事件だった内容もK2コラージュnoise、hakobuneドローンとお互いの個性がいかんなく発揮されている、ノイズは日本で、東京でその形を、10年代以降更に進化、細分化している。そんな事を目の当たりにできる盤、しかもレコードで聴ける贅沢。

5
Downcasts - Necklace - Phage Tapes
 日本のノイズシーンの流れに対して、直系の担い手と言っても大袈裟ではないKubota Kazumaの存在を記しておきたい、
自身は00年代中期以降ドローンの状況に身を置いていましたが、彼の存在、名前は東京でのライブ活動、音源制作において、耳に入り続けていた、その活動からはノイズに対する思いがストレートに伝わってくる、今回作品はhakobuneとの共作名義でアメリカはPhage Tapesからリリース、カセットプレイヤーで聴くたのしみを彼らもまた提示してくれている。
他作品では12年にイタリアのレーベル、A Dear Girl Called Wendyからもリリースがある。
Phage Tapes,A Dear Girl Called Wendy知らない方も多いと思うが是非検索してみてほしい、彼らの動き、新しいアプローチでシーンがより重層的になっていく。

6
HARUHISA TANAKA - 88 - PURRE GOOHN
 00年、10年代以降のエレクトロニカを含め細分化されていくノイズ、その進化にまた別の側面を提示、挑戦し、実は12,13年最も分かり易く、実験的なサウンドへのアプローチを見せた田中晴久さん、自身周辺のアンビエント、ドローンのコミュニティにも積極的に参加、関係を築き、その結果生み出されようとしている1stソロ作品。この作品には様々な可能性が秘められている、田中晴久さんは並行してMERMORT sounds film(Bass,Laptop)での活動も行っているが、その経歴の中にNY地下との関係を築いている。
このソロ作品をきっかけに10年代中期に向けて東京のドローン、ノイズがNYに飛び火したとしたら??、未知の領域に挑む活動、今後も楽しみでならない。アルバムは14年2月を発売予定。
田中晴久さんは大久保にある展示、音楽liveも可能な空間、Art Space BAR BUENA のオーナーでもあり多くの企画に携わっている。https://bar-buena.com/

7
.es - Void - P.S.F. Records
 モダーンミュージックのレーベルPSFから新譜としてvoidの音が飛びこんで来たのも今年の印象的な出来事だった、.esはalto saxの橋本孝之さんpianoのsaraさんから成るユニットである。
即興Freeシーンからまさか新鋭が、更に活動基盤を大阪に置くユニットが東京のレーベルでのリリース、.esの音楽は即興であり、構築された音世界、彼らの吹かせた風はどこに着地するのだろうか?また東京にあったFree improvisedの流れとの今後は??興味が尽きない。興味が尽きないのは音を聴けば明白であり、彼らの音楽で即興や生楽器でのimproの魅力を再発見する方が出てくる、又は復活してくる事を願いたい。
他今年リリースの作品は橋本孝之さんのソロ「colourful」、美川さんとのセッションを収録した作品T. Mikawa & .es/September 2012とリリース。個人的には13年出会った中での最重要ユニット!
覆すかもしれないが.esの音はrock=bluesなのではないかと考えを巡らす。

8
Chihei Hatakeyama - Minima Moralia - Kranky
 正直目標というか指針というか99年、2000年代初期、中期に実験的音楽シーン、メディアに登場したアーティストの皆様にはあこがれの気持ちがこの10年代に入っても消えないのだか、いや、おそらく生涯尊敬し続けるだろうアーティストの一人畠山地平さんの06年リリースの1st、アメリカは重要なレーベルKrankyからdroneとカテゴライズされた作品。
DOMMUNEの一回目を5月に終え落ち着く間もなく、murmur records代官山にて畠山地平さんと遭遇、これが実質初対面だったのですが、DOMMUNEの2回目は地平さんとやるしかないと確信した出会いであり、先輩との共同作業はそれは長年の希望だった。DOMMUNEでも紹介したMinima Moralia他、地平さんのレーベル White Paddy Mountainの諸作品fraqsea,Shellingが一時soldになった事が印象的だった。同レーベルではOpitope,neohachi,555,Asunaとリリースがある。

9
Moskitoo - Mitosis - 12k
 畠山地平さんとほぼ同時期、その名は07年からメディアに登場していたmoskitooさん、
新譜が前作と同じく12kから登場したのだ、今の高校生、大学生にはこのような音を聴いてほしい、現在とともに、00年代の空気感にひたれるノスタルジーかつ新しい音に触れる事ができる作品。
ここ数年、街を歩いてて感じる事がある、90年代末00年代初期にあった東京の街の力の衰退というか変化、何が言いたいかって重要なカルチャーの一つCD屋が経営できなくなっている状況、多くのCDショップが閉店してしまった。
経済や音楽を取り巻く状況、メディア、都市の風景は変わり果ててしまったように思う、しかし自力を持った作り手は今も新しい音を届けてくれる。音響派、エレクトロニカという呼称が言われ始めて10年以上経過した、その空気感を伝え続けてくれる作り手の世界に身を投じてみよう、時間は経過している、新しいと思われていたジャンルが型となっている、この項では紹介しきれない関連性のある作品も多い。
シーンを形成したミュージシャンはもっと評価(または再評価)されて良いと思う。discoverって言葉東京じゃ通用しないのでしょうか?そんなはずはない、東京を再発見する事が無意味であるはずがない。

10
hatis noit - Universal Beauty - Self-released
 13年DOMMUNEでの現代ノイズ進化論はvol.3まで開催したのですが、hatis noitさんはそのvol.3に出演。
上記紹介の田中晴久さんのnoiseにvoiceを重ねたパフォーマンスには多くの反響がありtwitterはハチスノイトという名で溢れていた。
vol.3開催の前に、田中晴久さんオーナー、Art Space BAR BUENA大久保にてその彼女のパフォーマンスは初めて展開された。自身のvoiceをエフェクトにてループさせ、リアルタイムで更にvoiceを重ねる、他に使用する楽器は無くvoiceのみ、そのliveは空間を一気に変えてしまうほどの力を持ったパフォーマンスだった。hypnotherapistでもあるhatisさんの表現力には脱帽するしかない、ECMのMeredith Monkの作品に近いような、ブルガリアンヴォイスのようだ、という意見もあった、個人的にはGittin' To Know Y'AllのB面にも近いと思った、ここでは書ききれない可能性がそこにはある。
彼女は夢中夢、Magdalaのvocalとして知られているが、popな側面とnoiseが断絶ではなく有機的に衝突した瞬間だった。
この作品ではhatis noitさんのvoice+loop voiceのみ収録、販売店はmore records,parabolica-bis,Art Space BAR BUENA。

上記に紹介出来なかった北欧の作品を一点
V.A - The Copper Roof Houses - Jartecknet
https://www.discogs.com/Various-The-Copper-Roof-Houses/release/3701156
なぜ海外の先鋭的な音、状況が東京の少数にしか伝わらないのか?その影響が都市に音として反映されないのか?
東京の様々なメディア、販売店、書籍、等々の動きは10年代中期どうなるのか?
引き続きその思いを巡らせながら30代を過ごす事にする。

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