「Nothing」と一致するもの

DBS presents PINCH Birthday Bash!!! - ele-king

 ピンチはデジタル・ミスティックズと並ぶダブステップのオリジネーターのひとりだ。彼の作品からリスナーたちはダブステップとは一体何なのかを学び、これからこのジャンルで何が起ろうとしているのかも考えられるようになった。
 従来のダンス・ミュージックでは一拍ごとにキックが鳴らされていた。だが、キックの数を半分に減らしたハーフ・ステップという手法とウォブル・ベース(うねるエフェクトが施されたベース音)がダブステップでは主に用いられ、この魔法にかかると140BPMという決して遅くはないスピードが緩やかに進行する。2005年にピンチがスタートしたレーベル〈テクトニック〉の最初のリリースは、Pデューティー(ギンズ名義でも活動)との共作シングルであり、A面に収録された“ウォー・ダブ”は当時のアンダーグラウンドの空気を詰め込んだかのようなダブステップのナンバーだ。
 この曲に対して、B面に収録された“エイリアン・タン”でも140BPMでハーフ・ステップが用いられているが、その上で速く鳴らされるパーカッションやベースのうなり方がそれまでのダブステップとは違ったノリを作り出している。ピンチと同じく、現在もブリストルに住むRSDことロブ・スミスは、ダブステップを140BPMという曲のスピードの中で自由に遊ぶ音楽と定義しているが、ピンチもいち早くその「遊び方」に目をつけた人物だった。

 ピンチは、2013年に新たなレーベル〈コールド・レコーディングス〉をスタートする。2枚目のリリースが、当時19歳でイングランドのバースにある大学で音楽を専攻していた気鋭のプロデューサーのバツ(BATU)だったように、ピンチは新たな才能の発掘にも力を入れている(現地点での〈テクトニック〉からの最新リリースは、ブリストルの若手クルーであるヤング・エコーのひとり、アイシャン・サウンド)。 新人から経験のあるプロデューサーが〈コールド・レコーディングス〉には集まっている。この新しいレーベルでキー・ワードとなるのは、「120-130BPM」だ。

 今週末、ピンチは日本にやって来る。昨年は、エイドリアン・シャーウッドとともにエレクトラグライドでライヴ・セットをプレイしたが、今回はDJピンチとしてDBSのステージに再び立つことになり、本国イギリスでもなかなか体験することができない2時間半のロング・セットを予定している。もちろん、たくさんのレコードとダブ・プレートを携えて、だ。
 その日、同じステージに立つゴス・トラッドは現在、85BPMという未知なる領域を開拓しており、先日のアウトルック・フェスティヴァルにオーサーとして来日していた〈ディープ・メディ〉のレーベル・メイトのジャック・スパロウに、「これは未来だ」と言わしめた。同じくその夜プレイするエナも、ドラムンベースとダブステップを通過した定義することが大変難しい音楽を探究しながらも、国内外を問わず確実な支持を集めている(〈サムライ・ホロ〉から3月にリリースしたEPは既にソールド・アウト)。
 「ポスト・ダブステップ」という言葉が(安易であるにせよ)使われるようになった現在、プロデューサーたちは、大きな変化を常に求められている。だが、この日DBSに集まるピンチを始めとする先駆者たちは、リスナーたちの期待を軽々と越え、これからいったい何が聴かれるべきなのかを決定してしまうような力を持っている。

6.21 (SAT) @ UNIT
DBS presents PINCH Birthday Bash!!!

Feat.
PINCH (Tectonic, Cold Recordings, Bristol UK)
GOTH-TRAD(Live)
ENA
JAH-LIGHT
SIVARIDER

Extra Sound System:
JAH-LIGHT SOUND SYSTEM

Open/Start 23:30
Adv.3,000yen Door 3,500yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 232-858)、 LAWSON (L-code: 79718)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS(090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

Caution :
You Must Be 20 and Over With Photo ID to Enter.
20歳未満の方のご入場はお断りさせていただきます。
写真付き身分証明書をご持参下さい。


ポール・へガティ - ele-king

 ノイズの病がすべての音楽を浸食してから、唯一の希望ある道筋といえば、ノイズの細菌がチーズのバクテリアのように、善良な微生物であるということだ。そして、次のように考えることができる。ノイズは音楽的な健忘状態を生み出す代わりに、これまで聴き手には隠されてきた歓びをもたらすだろう。すべての音楽に存在しているものとはいえ、ノイズの要素は人類にとってのセックスのようなもので、その生と存在にとっては不可欠だが、言及するのは無礼にあたり、無視と沈黙によって覆い隠されている。それ故、音楽におけるノイズの使用はほとんど意識されず、また、議論されてこなかった。おそらく、これは和声や旋律のように深く議論される要素ほどには発展してこなかったからだと思われる。 
──ヘンリー・カウエル「ノイズの歓び(The Joys of Noise)」(1929)より

 ノイズをチーズのバクテリア、つまり俗にいう善玉菌になぞらえた、この楽観的なノイズ論はジョン・ケージよりおよそ一世代前のアメリカ実験音楽の作曲家、音楽理論家、ピアニスト、民族音楽学者、ヘンリー・カウエル(1897―1965)によるものだ。ノイズはあらゆる音楽に偏在し、この世の事物の生成と存在にとって不可欠な要素だが、その内実は性にまつわるタブー同様に見過ごされてきた。そこで、これまでノイズと見なされてきた音、つまり楽音ではない雑然とした音響に改めて光を当ててみようではないか! とカウエルは意気揚々と語る。これが冒頭に引用したエッセイ「ノイズの歓び」の大意だ。このお気楽で全能感溢れるカウエルのノイズ論に水を差すがごとく、カント、アドルノ、バタイユ、アガンベン、ベンヤミン、アタリ、デリダ、ドゥルーズ、ガタリ、アルトー、ベルクソンらの思想とそれらの思考形式を議論の根底に据え、至極シリアスかつ批判的にノイズを考察したのがポール・へガティの『ノイズ/ミュージック』である。

 本書はタイトルからして思わせぶりで、様々な解釈が、いや、深読みが可能だ。これは筆者の単なる思い込みや妄想にすぎないのかもしれないが、「ノイズ」と「ミュージック」のあいだに引かれた「/(スラッシュ)」に注目してみよう(原題は『Noise / Music: A History』邦訳の長い副題とは異なる)。というのも、この「/」が実に厄介なのだ。もしも「ノイズ・ミュージック」(原題ならスラッシュなしでNoise Musicとなるのだろうか)だったならば話は簡単で、字義どおり「ノイズ音楽」についての本だということがわかる。しかし、本書の場合はそう単純ではない。「/」を辞書で引くと「または」「あるいは」という並列の意味を持つ。従って、このタイトルを「ノイズあるいは音楽」と解釈することができる。この場合、ノイズと音楽のあいだにいかなる従属関係もなく、それぞれが別個のものとして存在していると見なされよう。ふたつ目の「/」の深読みは「ノイズ対音楽」である。ここでは、雑音もしくは非楽音としてのノイズ対楽音主体で構成された音楽という図式ができあがる。言い換えるならば、これは不協和音や不快な音響としてのノイズと、快い音響の整然たる形式美による音楽という古典的な二分法だ。最後の深読みは「ノイズとしての音楽」または「音楽としてのノイズ」で、「/」は等号に近い意味を持つ。前者の場合、音楽はノイズに内包される。後者の場合、ノイズは音楽に内包される。

 もう少し「/」の問題にお付き合い願いたい。本書のタイトルが示唆するふたつの事物の関係性(ノイズ/音楽)について考えているうちに思い出されるのがジョン・ケージと同時代のアメリカの作曲家、モートン・フェルドマン(1926―87)だ。キルケゴールの「あれかこれか(Either Or)」を模して「あれでもこれでもない(Neither Nor)」という立場をとったフェルドマンは、一見ノイズとは対極に位置する微弱な音のゆるやかな推移を主体にした作風で知られる。彼自身はノイズを用いた音楽を作曲することはなかったが、新たな音響素材としてのノイズの重要性をエッセイなどで論じ、ノイズをいち早く自作にとりいれたエドガー・ヴァレーズを礼賛した。フェルドマンは音量や音質といった即物的な次元ではなくて、因習打破や実験性の象徴、音楽における時空間の新たなあり方の探求例としてノイズおよびヴァレーズに一種のシンパシーを感じていたのではないかと考えられる。このようなフェルドマンの思想と実践とのパラドックスがノイズをめぐる議論の複雑さ、厄介さ、そしておもしろさだ。ノイズとは音量だけの問題のみならず「静かなるノイズ」もおおいにあり得る。それは実際の音響としてではなく、メタ的なノイズとして立ち現れる。

 以上のように、「/」は本書の論述スタイルを体現する記号だと見なすことができよう。その多様な解釈の可能性と、アドルノの否定弁証法を彷彿させるレトリックによって、へガティは13の視点からノイズ/ミュージックを論じている。ノイズの歴史的背景は「1 はじまり」と「2 テクノロジー」で概観されている。第3章以降は「フリー」や「インダストリアル」など、ノイズを語る上でのキーワードにまつわる各論を展開している。

 著者自身が「序」で述べているように、本書は基本的に理論書の体裁をとるので、個々のミュージシャンやジャンルについて普く言及しているわけではない。また、原書の出版が2007年ということもあり、ノイズ音楽の最新動向を捉えているわけでもない。とはいえ、その対象はダダやシュルレアリズム、ケージらによる実験音楽、ミュージック・コンクレートにはじまり、ロック、パンク、プログレを経て、フリー・ジャズおよびフリー・インプロヴィゼーション、インダストリアル、ノー・ウェイヴ、ヒップホップ、エレクトロ、グリッチ、サウンド・アートまでを守備範囲とする。

 一般的には「ノイズ」にカテゴライズされることはあまりないミュージシャンの名前もたくさん出てくる。「3 フリー」ではデレク・ベイリーやオーネット・コールマンの思想と実践がアドルノの退廃音楽論と絡めて論じられている。ロックおよびパンクにかんしていえば、「6 不条理」にてセックス・ピストルズ、PiL、クラス、DNAが虚無主義や資本主義経済との関係性から語られている。彼らの活動に根底にある疎外や反逆性は概念としての「ノイズ性(noisiness)」にとって不可欠な要素である。

 もちろん、スロッビング・グリッスル、ホワイトハウス、ノイバウテン、ザ・スワンズ、SPK、ライバッハといった、いまとなってはその筋の大御所も大々的にとりあげられている。彼らについて、あるときはバタイユの倒錯的な美学とともに、また、あるときはフーコー的な権力とともに語られている。著者によれば、彼らの音楽は「因習的なキリスト教的、芸術的、道徳的、資本主義的思想や生き方への徹底的な批判」をその本質的な要素とする。これらの音響的な具現化がインダストリアル、ひいてはノイズ音楽全般に通底しているともいえるだろう。この議論の延長で、「8 パワー」の後半にてヒップホップ、とくにパブリック・エナミーに言及しているのは非常におもしろい。サンプリングとDJイング、つまりテクノロジーが音による暗示を可能にし、権力への抵抗と運動への動員を喚起する。インダストリアル・ミュージックにもカットアップやサンプリングが用いられるが、どちらかというと虚無主義や倒錯的な色合いが強い。両者には共通する要素がいくつかあるものの、この点にヒップホップとインダストリアルとの概念上の違いを見出すことができるだろう。

 本書のなかでとりわけ目をひくのが「9 ジャパノイズ」と「10 メルツバウ」の章だ。「ジャパノイズ」の章はもっとも紙幅が割かれている。「ジャパノイズ」の章では、日本のノイズ音楽およびそのシーンの特異性ではなく、むしろそれがいかにコロニアリズムやワールド・ミュージックの文脈、そして日本という特異性とは無関係であるかを論じることが目的とされている。しかしながら、「ジャパニーズ・ノイズが禅であるとすれば、それは〈緊縛〉でもある」というくだりなどを見ると、「日本」という特異性にやや引っ張られている感も否めない。そして、この問題は「ジャパノイズ」という呼称が日本のノイジシャンたちから不興を買う傾向にあることとも通じているのではないだろうか。

 終章「13 聴取」は短い章だが、「聴取なしには音もノイズも沈黙も存在し得ない。」というケージの考えを端緒として、デリダのいうところの、差延としてのノイズと音楽の間の差異化のダイナミズムをとおして本書全体を総括しようと試みる。音を発することよりも聴くことと聞くこと、もっといえば聴き従うことによってノイズは様々な意味や場所の間を常にぐるぐる変転している。円環状のイメージを頭に描きながらこの章を読んだ。

 本書では、著者から読者へのエクスキューズなしに、実際の音響現象としてのノイズ──楽音ではない音、いわゆる爆音、不快な音、不協和な音──と、メタファーや表象としてのノイズ──異端、異物、否定、禁忌など──とが使いわけられている。自分が読んでいる箇所の「ノイズ」ははたしてどちらなのか、読者は常にその判断を迫られる。ここでミスリードを犯してしまうと、そこに書かれている事柄がいまいち判然としない。これが本書を読む上での最大の困難さであろう。次々と出てくる固有名詞の応酬よりも、その「ノイズ」がいったいどの次元でのノイズなのか? レトリックに足元をすくわれることなく、冷静に読み進めてみると、「ノイズとはなんたるか」がいたるところで明言されていることに気付く。まるで著者によるマニフェストのようだ。だが、そういう場合でも、前後の文脈をよくたしかめる必要がある。それは肯定なのか、否定なのか。そして否定の否定なのか。

 たとえば「9 ジャパノイズ」の章では、ノイズにおける自己の喪失と他者性という大仰な議論が展開されている。そこではノイズは次のように位置づけられている。「またしても、ノイズは破綻する運命にあり、ノイズとはこのような破綻であり、だがまるで破綻しないかのように見せかけ、残滓として破綻のなかに生き続ける」と。これはかつてのアングラ演劇にでも出てきそうな科白だ。この場合の「ノイズ」はカタストロフ的な音響現象としての、そして自己の消失と破綻の表象としてのノイズという両側面を有する。このような調子でノイズのあり方が様々なかたちで語られている。ノイズとはなんたるかがひとたび明言されると、その言説は途端に破綻し、さらなる新たな問い「ノイズとは?」が生じる。この雲をつかむようにすり抜ける無間地獄が本書を覆っている。

 本書が参照しているジャック・アタリ『ノイズ:音楽/貨幣/雑音(Bruits: Essai sur l'économie politique de la musique)』がフランスで刊行されたのは1977年(邦訳の初版は1985年)。アタリの『ノイズ』は本稿でいうところのメタファーとしてのノイズ論の先駆けであり、どちらかといえば経済学、思想史、文化史の色合いが強い。ダグラス・カーンの『ノイズ ウォーター ミート:芸術におけるサウンドの歴史 (Noise Water Meat: A History of Sound in the Arts)』が1999年に刊行されたのを皮切りに、ノイズやサウンド・アートにまつわる本格的な書籍が続々と世に出はじめた。最近はデヴィッド・ノヴァクの『ジャパノイズ:流通の際(きわ)にある音楽(Japanoise: Music at the Edge of Circulation)』(2013)が日本のノイズに特化したフィールド調査と考察による書籍として話題となった。

 ここに挙げたのはごく一部にすぎないが、ノイズにまつわる音楽論や音楽史が、この10数年のあいだで確実に「きている」感じがする。とくに日本のノイズ音楽には大きな関心が向けられている。話はそれるが、去年、筆者がモロッコのジャジューカ村に行った際、UKやアイルランドの音楽愛好家とメルツバウ、非常階段、インキャパシタンツ、アシッド・マザー・テンプルの話をしておおいに盛り上がった。ここは時流に乗って、日本の書き手も何かやらかさないといけない(すでに日本のノイズ本が何冊か刊行されているが)。昨今のノイズ本の興隆から、筆者は漠然とそんなことを考えている。

 本書は一般的な音楽書というよりも、思想書や哲学書と位置づけた方がよいのかもしれない。もちろんインダストリアル・ミュージックなど、ジャンルとしての「ノイズ音楽」にも言及しているが、よくよく考えてみると、20世紀以降に生じたほぼすべての音楽と、音楽および芸術にかかわる事象を扱っており、本書が対象とする音楽は幅広い。逆にいえば、ノイズを志向しない音楽、つまり冒頭に引用したカウエルの言葉を借りるならば、ノイズの細菌を含まない音楽などありえないのだ。

Marcus Schmickler & Julian Rohrhuber - ele-king

 マーカス・シュミックラーは1980年代後半から活動するドイツの電子音楽家である。彼が2010年に〈エディションズ・メゴ〉からリリースした『パレス・オブ・マーベラス[クイアード・ピッチ]』は、(知られざる)電子音楽の傑作としてマニアの耳を掴んで離さない。この作品は「シェパード・トーン=無限音階を新たに解釈した」という技法で作られたという。いわば初期電子音楽の現在的な解釈のような音なのだが、その剥き出しの電子音のシークエンスが刺激的であり、脳内で拡張ループされていくような感覚を覚えてしまうほどであった(ちなみに2010年の〈エディションズ・メゴ〉は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『リターナル』やエメラルズ『ダズ・イット・ルック・ライク・アイム・ヒア?』、マーク・マグワイアのソロ『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』をリリースするなど、現在のシンセ・ブームの下地作りをしたようなリリースが相次いだ重要な年だ)。
 
 今回、同じく〈エディションズ・メゴ〉からリリースされたマーカス・シュミックラーの新作も、硬質な電子音の快楽に満ちた傑作である。『パレス・オブ・マーベラス[クイアード・ピッチ]』と同様に、70年代的ともいえる硬派な電子音が鳴り響き、しかし2010年代的な高密度ノイズが嵐のように生成していく。楽曲の基本構造は、伸縮自在な電子ノイズに男女がテクストを読み上げるヴォイスがレイヤー・エディットされることで構成されている。声がノイズ生成のトリガーになっているかのようだ。
 コラボレーターはジュリアン・ローヒューバー。彼は音響合成用プログラム・スーパーコライダーの共同開発者・音楽情報システム工学教授/プログラマーであり、本作に工学的なエレメントを注入している重要人物だ。さらにレーベルのアナウンスによると、本作は哲学者アラン・バディウ(ジャン=リュック・ゴダールの『フィルム・ソシアリスム』にも出演した)の著作にも強い影響を受けているともいう。まさに音響・工学・哲学を横断する作品といえよう。
 
 コンセプトは数字と音の近似性。経済やデジタルデータなどの数字に支配される現在の状況に、音楽固有の数学性の問題をレイヤーし、現在社会のモノゴトを批判的に検証・実施している。その実験がもたらす聴取体験は、まるで映像のない実験映画を聴いているようでもあり、科学実験の成果を報告する架空の映画の音のみを聴いているようでもある(私はゴダールの『楽しい科学』を想起した)。
 本作の実験は、あらゆるモノゴトが飽和状態になった現在において重要な試みとはいえよう。私たちはこのアルバムから社会・経済・音楽という問題に思考を広めることもできるし、アラン・バディウの著作を手に取ることで哲学の問題体系に接することも可能だ(本盤のブックレットも詳細だ)。その意味で思想・音・体験が凍結された複製芸術時代のサウンド・インスタレーションともいえる。

 だが、である。やはり本作においても圧倒的な電子音の快楽が横溢しているのだ。それが何よりも重要である。いくらコンセプトが刺激的でも音が生温いのなら意味はない。本作は違う。デヴィッド・チュードアが暴走したような硬い電子音が運動し、伸縮し、変形し、電子の暴風のように耳の中を走り抜けていく。ああ、なんという気持ち良さ。それはオールドスクールな音などではない。最先端の電子ノイズである。そして男女の声がエディットされ、彼らの読み上げるテクストをトリガーにするようにノイズの嵐が巻きおこる。時折鳴るクリッキーなリズムも魅惑的だ。
 声とノイズ。ガラスのように鋭い電子音。聴覚を刺激する高音。そして球体のように柔らかい音。鼓膜から脳内に注入するような強烈にしてフェティッシュな電子の音のアディクション。何度も何度も何度も耳が求める電子の音の蠢き。この強烈な(電子)ノイズの官能。
 そして、その音響の生成と運動がもたらす官能は、マーカス・シュミックラーとジュリアン・ローヒューバーがプレゼンテーションする数字に支配される現在社会への批判的検証と遠くないはずだ。そう、ノイズの官能とは、管理を超えた余剰=エラーによる快楽であるのだから。

 個人的には(たとえるならば)ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー よりも、マーカス・シュミックラーの方を耳が求めてしまう。なぜか。ノイズ/ミュージック特有のピュアなノイズの残滓が抽出され、極めて官能的なノイズが煌いているからだ。〈タッチ〉からリリースされたトーマス・アンカーシュミットと同じく、まさしく2014年型の電子音楽/ノイズ作品の魅惑が圧縮された傑作と断言してしまおう。
 圧縮されたコンセプトを急速解凍するエクスペリメンス・エレクロニクス・ノイズの魅惑。まさに電子音フェティシュのマニア必聴のアルバムである。

interview with Lone - ele-king


Lone
Reality Testing

R&S RECORDS / ビート

AbstractIDMHip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 僕の目の前にあるアルバムのジャケットの表面では、冷たく映るビルの写真がトイ・カメラの多重露光で作り出したようなカラフルな画像のコラージュに飲み込まれる寸前だ。その異なる2つの世界の境目に悲しい目をした青年がひとりたたずむ。彼はローンという名前で知られるマット・カトラーという男で、このアルバム『リアリティ・テスティング』を作り出した張本人だ。

 ここ日本では、2009年、アクトレスの〈ワーク・ディスク〉から発表した(CDR作品をのぞくと)セカンド・アルバムにあたる『エクスタシー&フレンズ』は、何の宣伝も、たいした情報もなしに、口コミでゆっくり広がった。その透明感とビートは、ボーズ・オブ・カナダがヒップホップをやっているようだとも当時はリスナーから言われたそうだが、実際、ローンは自分のルーツとなった音を臆することなく作品で表現してきた。
 2年前の『ギャラクシー・ガーデン』(スペイシーなイソギンチャクがいるジャケット)では、それまでのヒップホップ的なサウンド構築から離れ、これってマッド・マイクじゃんと言いたくなるようなコード感やリズムに、当時ハドソン・モホークやラスティたちの作品に見られた細切れになったビートのシャワーが降ってくる。決して新しいとは言えないスタイルを彼は参照するのだが、向いている方向が完全に後ろ向きではないのだ。懐くかしく、どこにもない音である。

 前作ではマシーン・ドラムと共演、その後はアゼリア・バンクスにも楽曲をするなど、ローン(lone:孤独の意)という名前からはかけ離れた活動にも着手していたが、今作で彼はまたひとりだけの世界に戻った。故郷のノッティンガムを離れ、マンチェスターに新居を構え、自分専用のスタジオまで家の中に作ってしまった彼は、「ヘッドフォンがあればどこでも一緒」と言い切ってしまう。
 ちなみに、彼のDJセットは基本的にハウスやテクノをメインにした、本人曰く、多くの人を楽しませることを主軸としたものだ。孤独でサービス精神がある。面白い男だ。

 今作『リアリティ・テスティング』でローンが奏でる音はヒップホップ色が強い。それも90年代を想起させるものだ。ジャイルス・ピーターソンが2014年のベスト・トラックに選んだ“2 is 8”では、切り刻んだフレーズのループや乾いたドラムの質感がセンス良く鳴っている。
 もちろん、そのリズムの上には現在の彼を形作るアンビエントやテクノのエレクトロなメロディがある。時代や場所を越えた音楽が自分の経験則でブレンドされ誕生する、現在のシーンにはない「新しい」サウンド。ローンは、やはり孤独な男だった。

DJのときはレコードは使わないんだ。でも音楽を聴くときのメインはレコード。レコードを聴くのも好きだし、レコードのノイズをサンプルするのも好きなんだ。音に暖かくてナイスな質感をもたらしてくれるからね。そういうサウンドが好きなんだ。

前作の『ギャラクシー・ガーデン』から2年が経ちましたが、どのような活動をされていたのでしょうか?

ローン:アルバムを作っていた。『ギャラクシー・ガーデン』をリリースしたあとは、しばらく『ギャラクシー・ガーデン』と似たような曲ばかりを作った。それがあまり好きじゃなかったから、少しタイムアウトをとることにしたんだよ。そこから新しいインスピレーションを探しはじめて、違う音楽を聴きはじめたのさ。前作とは違うものが作りたくてね。で、いちどアイディアが浮かんでからすぐ制作に取りかかって、1年でアルバムを完成させたんだ。つまり、自分が何にハマっているかを見つけ出すのに1年かかったってことだね(笑)。

制作活動以外に何か活動はされてたんですか?

ローン:DJもたくさんしてたし、ツアーでいろんな場所を回ってたんだ。それがなければ、もっと早くアルバムを完成させることが出来たかもしれないけど。そういう他の活動で制作はどうしてもスローダウンしてしまうからね。

いろいろな場所を回るといえば、来日されたこともあるんですよね。あなたは2012年に〈R&S〉のショウ・ケースで来日しており、その後のインタヴューで、日本にまた行きたいと答えていましたが、日本のどんなところが気に入ったのでしょうか?

ローン:そうそう。渋谷のWOMBでプレイしたんだ。あそこは僕のお気に入りの場所だよ。日本は大好きなんだ。本当に最高の旅だった。何を気に入ったかって? 何でもだよ(笑)。自分が住んでる国と全然違うし、食べ物も素晴らしいしね。

日本では何をしたんですか?

ローン:渋谷を歩いたくらい。友だちと一緒にいろいろ食べたり、変な店を回ったり(笑)。めちゃくちゃ楽しかった。

前回のアルバムをリリースしたとき、自分のスタジオを作ることを計画しているとおっしゃっていましたが、どのような楽曲制作環境で今回のアルバムを制作したのでしょうか?

ローン:マンチェスターの予備部屋のあるアパートに引っ越して、その部屋からベッドを出して小さなスタジオを作った。いまでもまだ使ってるし、今回のアルバムもそこで作った。なんてことのない普通の小さなスタジオさ(笑)。すごく小さいんだけど、自分のスペースがあるのってやっぱりいいよね。

これからロンドンに引っ越すんですよね? またスタジオを作らないといけませんね(笑)。

ローン:そうなんだよ(笑)。ロンドンだともっと家賃が高いから大変だけど、また作らなくちゃね。やっぱり自分が住んでるアパートに作りたいな。さすがにまずはどこかのスタジオをレンタルするだろうけど、いずれね。

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エレクトロニック・ミュージックをどうやって組み立てていくかの基礎を知ってるだけで、他の人がどうやってるのかは知らない。そっちの方がオリジナルになれると思うんだ。だから、手法が新しい必要はなくて、「あまり理解してない」、「知識がない」っていうことが他との違いを生み出してるんだと思う。

あなたはデータでDJをしますが、作品に散見されるレコード・ノイズからレコードへの愛着も感じられます。CD、レコードのうち、どのメディアを使って普段音楽を聴きますか?

ローン:そう。DJのときはレコードは使わないんだ。でも音楽を聴くときのメインはレコード。レコードを聴くのも好きだし、レコードのノイズをサンプルするのも好きなんだ。音に温かくてナイスな質感をもたらしてくれるからね。そういうサウンドが好きなんだ。

レコードはよく購入するんですか?

ローン:けっこう買うよ。前よりは買う枚数が減ったけどね。DJのためにデジタルでも曲を買うからさ。でもレコード・ショッピングはいまだに大好だよ。

ダンス・ミュージック以外でよく聴くジャンルとミュージシャンは誰ですか?

ローン:どうだろう……。しょっちゅうエレクトロを聴いてるからな……。よく聴くのはテクノとかヒップホップ。エレクトロ以外のものはあまり聴かない。バンド系の音楽も少しは聴くけど、昔のものが多いかな。あとは昔のソウル・レコードとかで、とくにこれっていうのはない。アルバムの制作中は自分の音楽をずっと聴いているしね。

今回のアルバムを作る上で現在のクラブ・シーンから影響を受けている部分はありますか? 

ローン:うーん、デトロイトのクラブ・ミュージックはそうかもしれないな。新しいデトロイトの音楽からは影響を受けていると思う。でも、クラブ・シーンそのものから影響は受けていない。僕のアルバムは自分のヘッドフォンや車のなかで聴く方があっていると思うから。

前作の『ギャラクシー・ガーデン』ではマシーン・ドラムやアネカと共演をし、2013年にはアゼリア・バンクスに楽曲提供をしています。他のミュージシャンたちと楽曲を制作するうえで心がけていることはありますか?

ローン:他のミュージシャンと作業するってことは、すでにその人たちの音楽、やることが大好きってことがわかって共演しているってこと。だから、ただただその人たちのアイディアを曲に持ってきてもらうってことだけでハッピーなんだ。あとは、彼らが持ってくるものが自分の作品に合うことを期待するだけ。そんなわけで、あまり話し合ったりはしないんだよね。流れに任せるだけ。とにかく彼らのやることが好きだから、一緒に出来るってだけで嬉しいんだ。

現在、コラボレーションしてみたいミュージシャンはいますか?

ローン:いや、いまのところいないね。このアルバムもひとりで作完全にインスト・オンリーで作りたかった。でも、これからだれかと共演することは考えるかもしれない。ラッパーとか面白そうだな。アール・スウェットシャツやジョーイ・バッドアスが大好きなんだけど、彼らとコラボできたら最高だろうね。ラッパーと一緒にヒップホップを作りたい。自分のアルバムでというよりは、彼らのために曲を作る感じかな。

“レストレス・シティ”や“オーロラ・ノーザン・クォーター”といった、特定のモノや状況を表した曲のタイトルが多いですが、そのなかで“2 is 8”は暗号のような響きを持っています。このタイトルは何を示しているのでしょうか?

ローン:あの曲はね……、曲を作っているとき僕はときどき紙に書いたりするんだ。とくに楽器に関しては本格的なトレーニングを受けたわけではないから、どうすればいいかわからないことが多々あるんだよ。だからときに自分のやり方でどうにかその音を作らないといけないことがある。で、その書き留めてたなかに"2 is 8"っていう言葉があって、それが良く見えたんだよね。みんなにはわからないかもしれないけど、"2 is 8"っていうのはこの曲のビートがどうやってできたかっていうのを表した暗号みたいな感じなんだよ(笑)。他人には暗号のように見えるだろうけど、僕にとっては意味があるんだ。

今作を日々の記憶を収めた日記のようなものだと答えていますが、普段の生活でどのようなものから音楽的にインスパイアされますか?

ローン:生活で起こるすべてのこと。友だちや家族、彼女との人間関係とか、自分が聴いている音楽といった自分の周りにあるもの全てだよ。それが自然と音に出てくるんだ。正直、それがどう繋がってるのかとか、どうやって出てくるのかは自分でもわからない。曲を作るとき、僕はあまり考えごとはせずに流れにまかせているからね。曲のなかで何かピンとくるものがあると「これあの日のことかな?」とかあとで思ったりするよ。言葉にしづらいけど、インスパイアされる事柄は、主に人、人生、音楽だね。あとは経験。そこからの影響が大きいと思う。

今作『リアリティ・テスティング(Reality Testing)』とは、心理学で用いられる用語で、自分の内面が現実世界とどれだけ一致しているかを試すことを意味していますよね? なぜこのタイトルをアルバム名にしたのでしょう?

ローン:僕が使っている意味でのリアリティ・テスティングっていうのは、夢のなかでどれくらいリアリティが意識できてるかっていうのをテストすることを表している。夢のなかの自分がどれだけ「目覚めているか」をテストすることだね。僕の音楽には夢っぽい部分もあるし、リアルな部分もある。自分にとっては、アルバムのサウンドが、自分が起きているときと夢のなかにいるときの中立のサウンドに感じられるんだ。だからそのタイトルにしたんだよ。

前作では、リズムやベースやコードから分かるように、テクノやハウスのスタイルが印象的でしたが、今作には“2+8”のような90年代のヒップホップを土台にしているとも思える曲があります。そこにはどのような意図があったのでしょうか?

ローン:さっきも言ったけど、前に作っていたような音楽を再び作りたくなかった。『ギャラクシー・ガーデン』とは全然違うものを作りたかったから、そこでまたヒップホップを聴きはじめてハマっていった。すごくインスパイアされたし、自分の音と混ぜることで結果違う音楽になったけど、最初はストレートなヒップホップを作りたかったくらいなんだよね。

あなたの表現する音は新鮮でユニークですが、そこで使われる手法は現在のあなたの音楽を形作っているヒップホップやテクノのシーンで長年使われてきたものです。決して新しくはないジャンルの音楽に、これからどんな可能性があると思いますか?

ローン:だね。僕はとくに新しいことはやってない。僕は、他人がどうやって曲を作っているかっていうのをあまり学ばないようにしているんだ。エレクトロニック・ミュージックをどうやって組み立てていくかの基礎を知ってるだけで、他の人がどうやってるのかは知らない。そっちの方がオリジナルになれると思うんだ。だから、手法が新しい必要はなくて、「あまり理解してない」、「知識がない」っていうことが他との違いを生み出してるんだと思う。僕は、あまり「これが正しい」とかそういうことは気にしないんだ。ただ自分が音楽作りを楽しんでるだけで。
 可能性はかなりあると思うよ。だって音楽はつねに変わっていくものだからさ。新しいスタイルの音楽はつねに出てきているし、そのヴァリエーションも豊富だよね。いまの時代、より多くの人が音楽を作っているから、いまからスタイルが多様になっていくと思う。これからもっとクレイジーになるんじゃないかな。僕みたいにあまり構成を理解できなくてもミュージシャンになる人がたくさん出てくるわけだからね。自分のやり方で作ったら違うものが出来た、みたいな機会も増えはずだ。だからジャンルの新旧は関係なく、数年後には音楽の可能性はもっと広がっていくと思うよ。

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影響を受けたアーティストっていうのは、ボーナスみたいなものなんだよ。ボーズ・オブ・カナダも他のアーティストに影響は受けているだろうけど、彼らは彼らのやるべきことをやってるわけだからね。自分で自分の曲を作るっていうのがまず前提。


Lone
Reality Testing

R&S RECORDS / ビート

AbstractIDMHip Hop

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あなたはノッティンガム出身ですが、生まれ育った街でどのようにしてクラブ・ミュージックと出会ったのですか?

ローン:10代の頃、ヒップホップのイヴェントがあったらから、そこに行くようになったんだ。クラブ・シーンとはまた違うけど、そこで街に来たお気に入りのDJがプレイするのを聴いていたよ。オウテカとかスクエア・プッシャーみたいな、後々までインスピレーションを受けるアーティストたちもたくさん来ていたね。それがクラブ・ミュージックを体感した最初の経験なんだ。

10代の頃に〈ワープ〉のミュージシャンに大きな影響を受けたそうですが、なぜその音楽に惹き付けられたのですか?

ローン:〈ワープ〉の作品の魅力は、ジャンルが定まっていないこと。他にはない新しい音楽を常に作り出していると思う。そこがエキサイティングだ。ルールに制限されてないしね。テクノのレコードを聴けばどのアーティストでもテクノに聴こえてしまうけど、例えばボーズ・オブ・カナダなんかのレコードは他と全然違う。そこがすごく面白くて、どんどんハマっていったんだよ。

大きな影響を受けたミュージシャンに、あなたはマッドリブや、いま言ったようにボーズ・オブ・カナダを挙げていますが、彼らの音楽は現在のあなたにどんな影響を与えていますか?

ローン:いまは正直どう影響を受けてるかはわからない。いまはもっといろいろな音楽に影響を受けてるからね。もちろん、彼らの初期の音楽には衝撃を受けたのは事実だ。僕の活動の基盤を作ってくれたアーティストたちだということに変わりはない。だから、いまも直接的ではなくても影響は受けてるかもしれないね。
 でも、ずっと同じものから影響を受けていると、退屈してしまうんだ。そうすると、音楽がダメになってしまうと思う。自分をハッピーにするものを作らないとね。彼らも自分たちで音楽を作っているし、僕もそこに影響を受けて曲を作り始めた。影響を受けたアーティストっていうのは、ボーナスみたいなものなんだよ。ボーズ・オブ・カナダも他のアーティストに影響は受けているだろうけど、彼らは彼らのやるべきことをやってるわけだからね。自分で自分の曲を作るっていうのがまず前提。僕が作ろうとしているものもそれと同じなんだ。

それではあなたが音楽を作るようになったきっかけを教えて下さい。

ローン:最初は9か10歳くらいだったと思う。古いレイヴ・ミュージックなんかを聴いていて、自分が最初に気に入った音楽がそういうジャンルだった。自分で言うのもなんだけど、クリエイティヴな子供だったから、自然にそういう音楽の自分のヴァージョンを作りはじめた。テープレコーダーしかなくて、最悪の環境だったけどね(笑)。それから15歳くらいでコンピュータを買ってもっと真剣にやりはじめたんだ。もっと曲作りに興味を持つようになって、自分の世界にどっぷりつかってキーボードを弾いたりするようになった。そんな流れかな。

ノッティンガムからマンチェスターへ引っ越したことは、あなたのキャリアにどう影響を与えましたか?

ローン:たくさんの人に出会ったことは変化のひとつだった。クラブにも行くようになって、自分がクラブで聴きたいと思う音楽を作るようになったっていうのも影響のひとつだね。でも、それ以外はあまり変わってないんだ。家にいてヘッドフォンをつけている分にはどこにいたって同じだからね。


ルーク・ヴァイバートだね。彼がエイフェックスツインとDJしているのを見たんだ。それは自分が行った最初のフェスでのことだから、2002年だと思う。彼らはジャングルやヒップホップをプレイしていて、テクノもたくさんかかっていて、僕が大好きな音楽だらけのセットだったんだ。

日本であなたの人気のきっかけになった作品は2009年発表の『エクスタシー&フレンズ』でした。国によって、あなたの音楽の受け入られ方にどのような違いがありますか?

ローン:違うとは思うけどあまり直接意見は聞かないから、あくまでも現場で自分が感じる範囲での話だけど、日本ではとくにクリエイティヴなものが好まれているような気がする。そっちのほうが日本っていう場所にも合っているしね。日本の文化や映画もクリエイティヴだし。だから、僕の音楽のような作品は日本では受け入れてもらいやすいのかも。

あなたのアルバムのジャケットのアート・ワークはとても刺激的です。『エメラルド・ファンタジー・トラックス』のジャケットのような時間を忘れてしまうような美しい写真を使ったものから、今作の現実と夢の世界が入り交じった抽象的なものまであり、音楽を聴かずともあらゆるイメージが伝わってきます。あなたの作品にとって、ジャケットはどう重要なのでしょうか?

ローン:ジャケットやアートワークは音楽と同じくらい重要なものだ。レコードを聴くときも、僕はいつもアートワークを見る。良いレコードっていうのは、音楽とアートワークのふたつが繋がっていると思うんだ。相乗効果で、それぞれがより良く感じられる。アートワークとの繋がりが強い方が、音楽もより良く聴こえると思うしね。
 だから、自分のレコードでは毎回その繋がりをかかさないようにしているんだ。僕自身のレコードの楽しみ方は、音を聴きながら、またはその後でジャケットやなかのスリーブを見ること。そのアートワークに情報がつまっていたりもするから音楽とアートワークとの繋がりは本当に大切だと思うよ。

ライブセットよりもDJセットを披露することが多いそうですが、なぜ自身を表現する手段としてDJを選んだのですか?

ローン:エレクトロのライブってめちゃくちゃつまらないと思うんだ(笑)。ひとりの人間がコンピュータの後ろに立っているだけだろ? 今年は僕もライヴをするけど、DJの方は音楽に焦点があたっているから好きなんだ。プレイする人間はメインじゃないし、DJがやるべきことは音楽を皆のために選ぶこと。そっちの方がパソコンの後ろに立っているより楽しいんだ。

では自分のライブをやる時は、どうやってオーディエンスを楽しませることが出来ると思いますか?

ローン:まだあまり経験がないから何とも言えないんだけど、アートワークを担当してくれたトム・スコールフィールドにステージへ来てもらおうかと思っているんだ。ビジュアルを取り入れるっていうのが今考えている次のステップかな。ビジュアルの要素があれば、人が見に来る意味が出来ると思うから。

前回のボイラー・ルームでの自身の曲にDJ スピナなどのヒップホップを混ぜ合わせたDJセットが印象的でしたが、現在はどのようなセットでDJをすることが多いですか?

ローン:自分が音楽を作る上で影響を受けた音楽をたくさん流しているよ。でもあまりヒップホップはプレイしないんだ。みんなクラブへダンスをしに来ている場合が多いからね。だからテクノやハウスをプレイすることが多いかな。あと、もちろんそれに影響を受けた自分の音楽もプレイする。あとはセット全体が楽しいことを心がけていて、あんまりシリアスなDJセットはやらないんだよね。

いままでの人生で最高のセットを披露したDJは誰ですか?

ローン:そうだな……。たぶんルーク・ヴァイバートだね。彼がエイフェックスツインとDJしているのを見たんだ。それは自分が行った最初のフェスでのことだから、2002年だと思う。彼らはジャングルやヒップホップをプレイしていて、テクノもたくさんかかっていて、僕が大好きな音楽だらけのセットだった。当時16歳だったから、年齢もあってそういう音楽を探求するのがめちゃくちゃ楽しかったんだよね。サウンドシステムでジャングルみたいな音楽を聴くのは初めてだったから、「ワーオ! 超クレイジーだな!」って感激したんだ(笑)。

あなたのレーベルである〈マジック・ワイヤー・レコーディングス〉の最後のリリースは2012年でしたが、今後のリリースの予定はあるのでしょうか?

ローン:今実はそれに向けてイタリアの若いプロデューサーと一緒に作業しているところなんだ。僕の活動やツアーで忙しかったからなかなか進められてなかった。でもそれが落ち着いたら、今年と来年はもっと新しいアーティストのレコードをたくさんリリースしたいと思っているよ。

最後に次回作をリリースするまでの計画があれば教えて下さい。

ローン:まずはライブだね。今年はツアーでいろいろ回るんだ。でもすぐに次のレコードを作りたいね。ビートのないアンビエント作品っていうのがいま考えているプランで、ドラムの音のない美しいものを作りたいと思っているんだ。どうなるかわからないけど、とりあえずトライしてみて様子を見てみるよ。これから数週間はロンドンへの引っ越しでバタバタするだろうけど、スタジオを見つけ次第、たぶん来月くらいには作業を始められるんじゃないかな。

なるほど。ありがとうございました。

ローン:こちらこそ。また次回日本に行けるのを楽しみにしているよ!

LIL' MOFO - ele-king

奇数月第2水曜日、新宿OPEN "PSYCHO RHYTHMIC" 主催。夜の匂いの染み込んだレコード
を、ざっくりしかし心を込めてプレイ。レゲエ・ヒップホップ・ダンスミュージック、
さまざまなパーティーにて放蕩する人たちの琴線に触れ、お酒も良く出ると評判に。
https://mofobusiness.blogspot.jp/
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/LILMOFOBUSINESS/

2014/6/13 NOMAD(AIR) DAIKANYAMA
2014/6/14 GRASSROOTS HIGASHIKOENJI
2014/6/15 VINCENT RADIO SHIMOKITAZAWA
2014/6/19 GARAM KABUKICHO
2014/6/20 KATA(LIQUIDROOM) EBISU
2014/6/21 GOODLIFE LOUNGE KITASANDO
2014/6/28 TIMEOUT CAFE(LIQUIDROOM) EBISU
2014/6/29 TORANOKO SHOKUDO SHIBUYA

本日の「iPODで聴いてます」 2014.6.4


1
Meyhem Lauren & Buckwild - Silk Pyramids - Thrice Great Records

2
Andre Nickatina - Cupid Got Bullets 4 Me - Fillmoe Coleman Records

3
Delroy Edwards - Slowed Down Funk Vol. 1 - L.A. Club Resource

4
Delroy Edwards - 55 min Boiler Room mix - BOILER ROOM

5
Ben UFO - Never Went to Blue Note - BOILER ROOM

6
Asusu - FABRICLIVE x Hessle Audio Mix - fabric

7
Omar S - Romancing The Stone! - FXHE

8
KALBATA & MIXMONSTER - CONGO BEAT THE DRUM - FREESTYLE

9
HOLLIE COOK - TWICE - Mr Bongo

10
King Krule - 6 FEET BENEATH THE MOON - True Panther

mn - ele-king

 大友良英によるニュージャズ・プロジェクトをはじめとした国内外の即興音楽や、廃盤となった音源の再発、秘蔵音源の発掘など、数々のマイナー音楽を世に問うてきた気鋭のレーベル〈ダウトミュージック〉。その主宰者である沼田順が、非常階段やインキャパシタンツなどでノイズを駆使したラディカルな実践を続ける美川俊治とともに結成したユニットmnによる、ファースト・アルバムとなる『無理難題』が、同レーベルよりリリースされた。かつて「私は演奏者でも評論家でもなく、レーベル運営者である」とまで言っていたオーナーが自身の演奏を発表するというのは禁じ手にみえるかもしれないが、音楽活動というものを幅広い視野で捉えるならば、主宰者がその意向に沿った音楽を送り出すことは至極当然の試みであろう。いわば沼田の音楽に対する批評眼や選別眼が、聴こえる音として具現化されたのである。とはいえノイズを用いた即興演奏による本作品は、広く音楽業界に対して雑音を鳴らしつづける〈ダウトミュージック〉の、その内部における雑音とも捉えることができ、このレーベルがひとつの転換期を迎えていることを示唆しているようでもある。

 聴かれるように本作品においては、美川による電子音やサンプリングを用いたエレクトロニクス・ノイズと沼田による主にギターを用いたノイズが、それぞれ左右のチャンネルにわかれて収録されている。デュオという最小単位での共同作業において、このように各々の仕事が明確に分かたれているということは、演奏者のみならず聴取者であるわたしたちにとっても、いま鳴らされた音が誰によるものなのかという帰属先を即座に認識することを可能にしている。音の掛け合いはまるで「おしゃべり」するかのように繰り広げられており、沼田がノイズを出すと、それに美川が応答し、さらに沼田が返答し、あるいは話題が尽きたのだろうか、しばしの沈黙があたりを包む。この即興によるやりとりの緊迫感は、とくにノイズによって行われる場合、両者の出す音が渾然一体となっているならば、エクスタティックな解放感へと変わるだろう。そしてふたりはこのことを十全に理解しているのであって、最後のトラックでは、わかれたチャンネルが収束し、雪崩のような轟音の渦が聴取者を襲う。この瓦解の瞬間が本作品の白眉であるといっていいだろう。

 本作品はノイズ・ミュージックと呼ばれるもののひとつである。ノイズとはひとまずは楽音に対する雑音であり、静寂に対する喧噪であるといえる。それは音の質感に関わることであって、音の無形性や過剰性を表すものだ。だがポール・ヘガティも言うように、ノイズとは徹底的な否定性でもあり、秩序や規範に対する終わりのない侵犯行為を表してもいるだろう。かつては音の質感としてのノイズが、そのまま否定性を意味することができた。しかしノイズの正統性が形成されるにつれて、ふたつの意味は乖離し、いまや質感としてのノイズが肯定性のもとに謳われている時代である。だからわたしたちはノイズ・ミュージックに権威的な価値判断を下すことができるようになっている。この倒錯的な現状にあって、質感としてのノイズを用いた否定性の顕現はいかにしてなされ得るのか。この解決不能な難問に、沼田と美川は真正面から立ち向かう。美川俊治というノイズの「正統性」を担保にしながら生み出された彼らの音楽は、ならば何に対する否定性であるか? それは〈ダウトミュージック〉それ自体ではなかろうか。思えば演奏家として、大友良英とノー・プロブレムというバンドを組んでもいた沼田が、これまで自身の音楽をレーベルに並べてこなかったのは不思議なくらいである。無問題から無理難題へとすがたを変えて、あらゆる音楽を世に問うていこうとする沼田の覚悟が、本作品からは滲み出ている。

The Bug - ele-king

 ケヴィン・マーティン──UKのエレクトロニック・ミュージック・シーンにおけるレフトフィールド、大いなるアウトサーダー。テクノ・アニマル(ゴストラッドにも多大な影響を与えている)、あるいはエクスペリメンタル・オーディオ・リサーチ(ソニック・ブームとケヴィン・シールズによる電子音楽/アンビエント/ドローン・プロジェクト)などでの活動をはじめ、最近では〈ハイパーダブ〉からのキング・ミダス・サウンドの作品がお馴染みだが、彼にとってもっとも知られたソロ・プロジェクトと言えば、ザ・バグだろう。

 エイフェックス・ツインの〈リフレックス〉から2003年に出した『Pressure』は、ダブ、レゲエ、ブレイクコアが渾然一体となった作品で、2004年に同レーベルからの12インチ、ウォーリアー・クイーンをフィーチャーした「Aktion Pak」は、いま聴いても最高の輝きをほこっている。また、UKグライムやダンスホールのMCたちをごっそりフィーチャーした、2008年のアルバム『London Zoo』は、その年のベスト・アルバムの1枚だった。
 ザ・バグの魅力を手短に言えば、パンク時代のドン・レッツやジョー・ストラマ-、そして90年代初頭のマッシヴ・アタックへと連綿と繋がっている、ジャマイカ音楽にインスパイアされたUKサウンドシステム文化の再解釈にあると言えるだろう。ダブがあり、ラップがあり、そしてメッセージはポリティカルだ。いまでは『London Zoo』は、やがて暗く荒れ狂うロンドンを予見した興味深い作品としても聴ける。

 さて、ケヴィン・マーティンのザ・バグ名義の新作『エンジェル&デビル(Angels & Devils)』が8月16日にリリースされる。
 客演には、デス・グリップスゴンジャスフィ、そして前々から話題になっていたグルーパー、そして、とんでもないアルバムを発表したばかりのインガ・コープランド、そして、例によって、ウォーリアー・クイーンやフロウダンなどといった路上で鍛えられた凄腕のMCたちがいる。
 アルバムには、言葉としても、サウンドとしても、さまざまな暗喩が仕掛けられているが、『エンジェル&デビル』が6年の歳月を経て発表するに相応しい力作であることは間違いない。 

 まずは、アルバムのリリースに先駆けて、デス・グリップスが初めて外部のアーティストとコラボレーションした“Fuck A Bitch”、そして〈ワープ・レコーズ〉の神秘主義者ゴンジャスフィが激しく陶酔する“Save Me”を聴いていただこう。


THE BUG
Angels & Devils

BEAT / NINJA TUNE

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Tower Records >>> https://bit.ly/1peKGxW
HMV >>> https://bit.ly/1peKm2k


interview with Martyn - ele-king


Martyn
The Air Between Words

Ninja Tune/ビート

TechnoHouse

Amazon iTunes

 そもそも2009年にマーティンが脚光を浴びた理由は、ダブステップにインスパイアされたリリースにおいて、わりと直球にデトロイト・テクノからの影響が反映されていたからだった。当時としてはそれがシーンにとってはまだ珍しく、斬新だったわけだが、20年前のレコードが輝いているこの1~2年に関して言えば、時代が要請するひとつのスタイルにまでなっている。まあ、いっときのスタンダードである。
 オランダのアイントホーフェンという街には、90年代に〈Eevo Lute Muzique〉という素晴らしいレーベルがあった。オランダのテクノといえばガバとトランスといった時代に、このレーベルはデトロイトのエモーショナルな旋律とテクノ・ファンクを取り入れることで、大きくて、派手で、ドラッギーで、マッチョで、アグレッシヴなシーンとは別の、小さいがセクシーで親密な道を切り開いた。その同じ街で、90年代半ばのテクノとドラムンベースを聴いて育ったマーティンが、ダンス・ミュージックにおけるへヴィメタルとも形容されるEDMのアメリカで暮らしながら、デトロイティッシュ・サウンドを追求することは必然と言えば必然だ。
 2011年の前作『Ghost People』は〈ブレインフィーダー〉からのリリースだったが、今回の『The Air Between Words』は〈ニンジャ・チューン〉からとなった。方向性にとくに変化はない。彼がこれまでのやってきたことがさらに洗練されているだけである。強いて言うなら、今回はカール・クレイグ・スタイルというか、徹底的にメランコリックで、ジャズの響きを引用しながら、ときにはっとする美しさを打ち出している。フォー・テットが参加して、インガ・カープランドが歌っているのも本作のトピックで、この人選からもおわかりのようにテクノ色が強く、彼らが参加した2曲ともクオリティが高い。とくにフォー・テットとの共作は、ああ、このコード感、デトロイトやなー、である。

デトロイト・テクノが好きな理由は、そこにソウルを感じるからだ。ダンス・ミュージックでありながらメランコリックな感覚があるし、哀愁がある。一方、EDMは基本的にすべてがアグレッシヴなんだよ。

ものすごくお忙しいそうですが、毎週末DJがあるといった感じなのでしょうか?

マーティン:そうだね、毎週末DJはいまも忙しくやってるよ。

最近、TVドラマの『HOUSE OF CARDS』をずっと見てまして、あのドラマの舞台がワシントンじゃないですか。あなたは見てましたか?

マーティン:うん、僕も観てる。僕、あまりTV観ないんだけど、長いシリーズのドラマはたまにちょこちょこ観てて、例えば『True Blood』とかも。『HOUSE OF CARDS』は僕が住んでるワシントンが舞台だからなんだか身近に感じるし、それに少し政治的なエッセンスを感じるのも魅力のひとつかな。僕は政治についてアメリカで少し勉強したりしてたからちょっと興味があるのもあって楽しんでみているよ。

アメリカは大きな国ですし、ヨーロッパと比較してテクノやハウスが広く理解されているとは思えない印象を持っているのですが、実際のところあなたはどう感じていますか?

マーティン:アメリカとヨーロッパでは全然違うというのが僕の印象だね。例えばアメリカにはEDMと呼ばれているシーンがあるけど、EDMは、クラブ・ミュージックというよりは、もっとレイヴ風のものなんだよ。逆にクラブではハウスがメインなんだと思う。だから僕の場合はクラブでギグすることもとても多いんだけど、いまはアメリカでプレイ出来ることをとても楽しんでいるよ。

“Forgiveness Step”という言葉は、今回のアルバムのキーワードですが、何を意味しているのでしょう?

マーティン:“Forgiveness Step”のアイディアは、アルバムにも参加してくれてるコープランドと一緒に作業したものなんだけど、アルバムにもあるように、この曲は3パートに分かれている曲なんだよ。“Forgiveness Step 1”,“2”はアルバムで、“3”はEPに収録されているんだけど、基本的には同じアイディアの元に作った曲ではある。しかし、3曲ともがそれぞれ少し違う意味合いを持つ曲なんだ。
 だから、その言葉と言うよりも、アルバム自体を3段落に分けたかった、というのが大きい。そして、3段落ともつながっているということを明確にしたかった。それに「Forgiveness(許す)」ということを実際する場合には、3段階を踏まないと謝罪したことにならないだろう? そういう意味合いも含まれているんだ。

今回はあなたの重要なルーツであるデトロイト・テクノというコンセプトが、これまで以上に、さらに追求されていますよね?

マーティン:何にせよ、僕がオランダでクラブに行っていたときによくシカゴやデトロイト・テクノがかかってたからね。これも影響を受けたもののひとつかもしれないよね。僕にとっては自分のDNAのなかに組み込まれているような感じだから、もう自然に出てくるものなんだよ。だからとくに意識して追求したというより、自分の好きな音を追求したら自然にそうなったという感じなんだと思う。

デトロイト・テクノやディープ・ハウスと最近のEDMとはどこに違いがあると考えますか?

マーティン:デトロイト・テクノが好きな理由は、そこにソウルをとても感じるからだ。ダンス・ミュージックでありながら、メランコリックな感覚があるし、哀愁がある。一方、EDMは基本的にすべてがアグレッシヴなんだよ。だから、その違いは大きいと思う。もちろん、どんな音楽を聴こうと個人の自由だ。ただし、僕個人に関していえば、やはりエネルギーを魂を感じる音楽が好きだ。単純に楽しくて軽いノリの音楽よりもね。

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今回のアルバム制作をする前、自分の音がなんだか流されているような気がして、自分らしい音が何なのか模索していたんだよ。

ところで、アメリカに移住してから、実際にデトロイトには行かれたのでしょうか? 誰か仲良くなったDJ/プロデューサーはいますか?

マーティン:デトロイトには3回行ったことがあって、1回はフェスだったね。で、2回は自分のショーをやるために行ったんだけど、とても興味深い場所だよね。あんまりデトロイトの人との付き合いはないんだけど、カイル・ホールは知ってるよ。いろいろな人に会うことで刺激を受けるのはいいことだと思うしね。

ヨーロッパのベース・ミュージックと、アメリカで流行っているベース・ミュージックとの違いに戸惑いことはありますか?

マーティン:正直言ってベース・ミュージックがなんなのかよくわからないんだよ。もともとはダブステップからはじまって、ハウス・ミュージックにベースが乗ってるっていうことだろ?

アメリカで流行っているトラップは?

マーティン:ごめん、これについては全くわからないや(笑)。

5年前と比較して、ダンス・カルチャーの良くなったところと悪くなったところについて話してもらえますか?

マーティン:たくさんの音楽があるっていうのはいいことだとは思う。ただ、時代が変わって音楽が聴き手に届く速度は速くなっている。曲が完成してからリスナーに届くまで2~3日で世界中に広まる。そこはいいことだと思うよ。
 でも、たしかに悪い面もある。例えばクラブで演奏しているとオーディエンスは音楽を聴きに来ているというよりも、写真を取ることに必死で、それをFacebookとかinstagramにアップロードして、自分のステータスを周りに伝えることに重きを置いている人が目に付くようになったのは事実だ。演奏を聴いてない人が多いと思う。まあ、プレイしている僕たちも、もっと人の気を惹かせられるようにしなくちゃならないんだろうなとは思うんだけど。

今回のアルバムのひとつの特徴として、古い機材を使って、バック・トゥ・ベーシックな音を追求していることが挙げられますよね?

マーティン:今回のアルバム制作をする前、自分の音がなんだか(時代に)流されているような気がして、自分らしい音が何なのか模索していたんだよ。そんなときに昔の機材を使ってみたら驚くほどしっくりくることがわかって、それをアルバムに反映しようと思ったんだよ。

新作は、ダンス・ミュージックではありますけど、強制的に踊らせるような音楽ではありません。むしろ、前作以上にじっくり家でも聴ける作品になったと思います。あなたは、音楽によって、ただダンスするのではなく、もっといろんなことを感じて欲しいと考えているのでしょう? 

マーティン:音楽を制作している過程ではどういうシチュエーションで聴いてもらえるかとかは、あまり考えずに作っているんだよね。もしそれを聴いて踊ろうがベッドで静かに聴こうが、僕にとってはどっちでもかまわないんだ。良いメロディの良い曲が仕上がればそれでいいわけだからさ。

ジャズのフィーリングは意識して取り込んだものですか?

マーティン:うん、ちょっと意識したかな。僕の家族はみんなジャズが好きなんだけど、家にはつねにジャズのレコードがあったし、自然に触れある環境下にはあったと思うよ。

僕は、とくにアルバムの後半、6曲目の“Two Leads and”以降が、面白く感じましたけれど、あなた自身はこの作品のどんなところが好きですか?

マーティン:前半部分も良いよ(笑)。人によって前半が面白いと言う人もいれば、君のように後半が面白いと思う人もいる。みんなが好きなように解釈してくれていいと思う。僕はもちろん全部を通して好きだけどね(笑)。

UR風のコード展開の、フォーテットとの2曲目“Glassbeadgames”は今回の目玉のひとつですが、彼とはどうして知り合ったんですか?

マーティン:フェスやライヴで何度かしか会ったことがなかったんだけど、会ったら必ず音楽の話をしていた。その話の流れで、いつか一緒にやりたいねって話になった。で、お互いにアイディアを出し合ってオンラインで素材を受け渡ししながら彼と作業したんだ。僕たちふたりとも移動が多いし、スタジオに入る日を調整してやるよりオンラインで作業した方が効率的だからね。

インガ・コープランドを起用していますが、僕は個人的に彼女のユニークなスタンスが大好きです。あなたは彼女の音楽のどんなところが好きですか?

マーティン:彼女が書く、メロディアスで美しいメロディが好きだな。そこがいいなって思う。

歌詞ではどんなことを歌っているのでしょう?

マーティン:歌詞は正直あんまりわからないんだ。僕にとっては、まずは彼女の声が重要であって、とくに歌詞の意味を考えたりしたことはない。彼女も歌詞について、とくに意味については多くを語らないしね。自分の内から出てくるものを反映しているんだと思う。

あなたが最近お気に入りの音楽について話して下さい。ジャンル問わずです。家で、ひとりになったときに聴きたい音楽とか。

マーティン:90年代初頭のテクノをよく聴いているよ。その頃の〈ワープ〉の作品が大好きなんだ。オウテカ、アクトレス、LFOなんかもよく聴いてるね。他にはジャパン、YMOも大好きなんだ。だから、80年代の音楽も良く聴くね。

ところで、ワールドカップが間近ですが、母国のことは気になりますよね? ロビン・ファン・ペリシーやロッベン、スナイデルらのこととか。

マーティン:もちろんサッカーは大好きだよ! そして自分の母国オランダ・チームを応援する。前回はファイナルで負けたから、今回こそ優勝すると思うよ!

ONEOHTRIX POINT NEVER×C.E - ele-king

 OPNってファッションのイメージはないよなー。という偏見は見事に覆されました(笑)。今年の初来日ライヴでもソールドアウト、いまや時代の寵児か、とにかくエレクトロニック・ミュージック・シーンの人気者のとなったOPNが、スケートシング率いるファッション・ブランド、C.Eとのコラボレーション・アイテム(Tシャツ2型、スウェット1型)を発売するという。
 スケシンのデザインは、アルバム『R Plus Seven』のアートワークを元にしたもので、6月23日よりC.Eのオンラインストアにて発売。
 以前、スケシン・デザインのキャバレ・ヴォルーテルのTシャツがele-king storeでもあっという間に売り切れたので、ファンは逃さないようにね!


価格:
Tシャツ各6,800円(税抜)
クルーネックスウェット14,000円(税抜)

問い合わせ先:
Potlatch Limited(ポトラッチ)
www.cavempt.com


・ONEOHTRIX POINT NEVER https://www.pointnever.com
・SHOWstudio https://showstudio.com
・C.E https://www.cavempt.com

copeland - ele-king

 今回のワールドカップには、これまで感じたことのない異様な感覚が漂っている。たしかにワールドカップは、過去、生臭い政治にまみれることはたびたびあった。軍事政権下でのアルゼンチン大会のように、プロパガンダとして利用されることもあった。南アフリカ大会での反対運動も記憶に新しい。が、それにしても、おそらく、この地球上でもっともフットボールを愛している国、この地球上でもっとも華麗なフットボールをものにしている国──と世界中で思われてきた国──のなかで開催を反対する人たちが追い詰められた挙げ句の直接行動を起こし、落書きし、そのことが長く、そしてこれほどまでに顕在化するというのは、やはり、昔のように無邪気にワールドカップを楽しむということができなくなった時代の本格的な到来を意味しているのだろう。ロマーリオ(フランス大会のとき、デプス・チャージは彼を讃える12インチを出している)のように、現在の反対運動に共感を示している元セレソンもいる。もっとも、FIFAだけの仕業でもないし、本当に異様な感じだ。

 インガ・コープランドと呼ばれている女性の音楽は、こうした世界の異変を察知しているもののひとつだ。2010年、彼女とディーン・ブラントと呼ばれている男性とのふたりによるハイプ・ウィリアムス名義のアルバム・タイトル──『人が礼儀を捨てて、現実に目覚めたときに何が起こるのか見極めよ』は、いろいろな意味に解釈できるが、ひとつ言えるのは彼らが何らかの異変/乱れを感じて、それを伝えようとしていたことだ。
 また、彼らは、この高度情報化社会における錯乱を嘲るかのように、「ハイプ・ウィリアムスとはジェス・ストーンのサイドプロジェクトである」というホラ話を流し、自分たちは元八百長ボクシングの殴られ屋で、元アーセルだととか、虚言とケムリで人びとを煙に巻いていたことでも知られている。リスナーは、たんなる電子音以上のものをハイプ・ウィリアムスおよびディーン&コープランドの作品から引き出したわけだが、そうした「読み」がなかったとしても、彼らの作品にはサウンド的な魅力があった。何にせよ、彼らの来日ライヴの強烈な体験がいまだ忘れられない僕がインガ・コープランドのソロ・アルバムを聴かないわけがないのである。ディーン・ブラントとの謎の分裂(?)と、昨年の2枚のソロ・シングルのリリースを経て、彼女はつい最近アルバムを発表した。フィジカルはレコードのみで、レーベル名はない。名義は、彼女の名字だとされている、コープランド。

 ディーヴァとしての歌モノ路線というか異色のシンセ・ポップ、さもなければエクスペリメンタル、ざっくり言って彼女にはふたつ道があったが、本作で選んだのは、前者を装った後者であり、後者を取り入れた前者だ。
 エクスペリメンタルというのは曖昧な言い方だが、来日ライヴを見ている方にはあの凄まじい演奏の延長だと言っておこう。逃した人には、インダストリアルでもテクノでもハウスでもない、つまり焼き直しではない、新しい何かを目指した意欲作だと言っておこう。そう考えるとハイプ・ウィリアムス名義による、ダブの残響音のみで作られたかのようなあの音楽は、根無し草的なディーン・ブラントのソロを聴く限りは、インガ・コープランドが大きな役割を果たしていたのではないかと思えてくる。

 今回は、アクトレスがサポートしているのも大きいだろう。実際のところ、音的にはアクトレスの諸作、そしてアントールドのアルバムが思い浮かぶ。とはいえ、ノイズからはじまり、きぃぃーーーーんと、鼓膜を攻撃するような、危険な周波数のトーン(まさにあのときのライヴで発信されていたトーンである)が重なるこのアルバムは、ある意味では彼らの作品以上に挑発的で、耳障りだ。
 その高周波数音だけがきぃぃーーーーんと残され、音がピタッと途切れた瞬間にアクトレスが全面協力した“若い少女へのアドヴァイス”という曲が続く。この、アルバム中もっとも悲しい曲で、コープランドは都会で暮らす少女に向かって語りはじめる。「部屋を出て街に出るのよ/ロンドンはあなたの死ねる場所?/欺かれたときにはどんな感じがするの?/少女は何をすればいいの?/この街はあなたのものなの?」──こうして、アルバム・タイトルの『何故なら私にはその価値があるから』という、昨年のシングルと連続する自己啓発めいた言葉は反転され、前向きとされる未来への違和感が立ち上がる。

 実を言えば、最初このアルバムを聴いたときには、不完全で、焦点のぼやけた作品に思えたが、聴いているうちにどんどん音楽のなかにのめり込んでしまった。皮肉屋の作品だとも混乱を弄んでいるとも思えないし、間違っても社会派の作品ではないが、社会の異変に関わりを持っていることはたしかだと思えるのだ。また、たとえ音楽に曲名(言葉)がなくても惹きつけられるものがあり、彼女のエモーションを感じる。
 B面1曲目の“Fit 1 ”は、美しい平穏さと抑揚のない彼女の歌と緊張感、そして素晴らしいベースラインの、ポスト・ダブステップの先を見ているリズムがある。B面の最後から2番目の曲が、これまで彼女がシングルで披露してきたシンセ・ポップで、曲名は彼女の名前だとされている“インガ”。思わせぶりの曲名だが、自己主張の感覚はない。その曲では、彼女にしてはヒネりのない言葉、ひとつの真実──「私たちがすべき重要なこと/すべては数字が審査する」──が歌われている。さて、僕は家に帰ってニュースを見よう。今夜は早く寝なければ。なにせ明日の金曜日は早朝に起きなければならないからね。

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