「Nothing」と一致するもの

Vladislav Delay - ele-king

 2014年の終わりから2015年の年始にかけて、冬の空気と似ている冷たい質感のエレクトロニクス・ミュージックを耳が求めていたので、アンディ・ストットの『フェイス・イン・ストレンジャーズ』と、ニコラス・ベルニエ『フリークエンシーズ(A/フラグメンツ)』、そして今回紹介するヴラディスラヴ・ディレイの2年ぶりの新譜『ビザ』などを繰り返し流しつづけた。寒いだけの味気のない冬だが、そんな乾いた正月の空気に、この3作品のクールな音はとても合っていた。

 近年のヴラディスラヴ・ディレイ=サス・リパッティは、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオへの参加(現在は脱退)や、ヴラディスラヴ・ディレイ・カルテットなどの活動も目立ったが、ヴラディスラヴ・ディレイ名義でも、電子音響レーベルの老舗〈ラスター・ノートン〉から、『ヴァンター』(2011年)や『クオピオ』(2012年)などのアルバムを順調にリリースしていた。これらはまさに極寒の音響ダブであり、素晴らしいアルバムであった。となれば、さらなる新作も〈ラスター・ノートン〉からと思いきや、2014年暮れに、突如、自身のレーベル〈リパッティ〉から2年ぶりの新作を発表したのである。しかも久しぶりの「アンビエント・アルバム」というアナウンスであった。
 この作品の成立過程は、いささか特殊であったらしい。サス・リパッティがツアーのために訪れたアメリカで入国を拒否され、ツアーが中止になり、そこで空いてしまった2週間ほどの時間で制作をしたと言われている(仕上げにもう少し時間をかけたようだが)。そのためある種のライヴ感というか、一気呵成に作られたかのような流れを感じさせる仕上がりだ。
 その独特の霞んだ音響は、まさにヴラディスラヴ・ディレイのサウンドである。〈チェイン・リアクション〉からリリースされた傑作『Multila』(1999年)を思い出しもする淡いダブ音響が魅惑的だ。ビートレスというより、霧の中にビートが溶けきってしまったようでもあり、その意味で、本作は単純にアンビエントとはいえない。停滞ではなく、まるで景色が流れていくような展開があるから。

 じじつ、本作の音響は、持続音、パルス、微かなノイズ、などがいくつものエレメントが交錯し、加工されている複雑なものだ。まるで景色が流れていく感覚。この景色が流れゆく感覚は、どこか空港的な雑踏を思い出せもする。旅の中継点で忙しく行き交う人々のように。むろん、サス・リパッティが、足止めをくらったのも当然、空港であろうし、その体験が本作に影響を与えてもいるのだろう。だが個人的に注目したいことは、これまでヴラディスラヴ・ディレイのアルバムはフィンランドの真冬を思わせる極寒の音響ダブであったが、本作は空港や都市の雑踏を思わせる音響に仕上がっている点である。アルバム名が、ヴァンターやクオピオなどフィンランドの都市名から、『ビザ』に変わったのも(自身が入国拒否されたことへの皮肉としても)、その事実を象徴しているように思える。

 また、アンビエントで空港とくれば、ブライアン・イーノの名盤『ミュージック・フォー・エアポート』も思い出してしまうが、本作と『ミュージック・フォー・エアポート』では、流れている時間がまるでちがう点が(当然だが)おもしろい。『ミュージック・フォー・エアポート』は、いわば雑踏の中において、不意に音楽を聴取してしまうような環境音楽である。普段はその音に気がつかなくとも、ふと耳に入ったとき、その音楽によって自身の時間が変化するような感覚とでもいおうか。
 対して本作『ビザ』は、雑踏の中だからこそ静けさを感じるような音響空間がコンポジションされているのだ。多種多様なざわめきがつねに環境化し、結果、それは静寂になる。たしかに本作は、空港や都市において、さまざまな音やノイズが交錯する感覚にとても似ているのである。本作は21世紀の旅行者が聴きとる都市のアンビエンス/アンビエントなのだ。

 アルバムは全5曲収録されているが、中でも特質すべきは、1曲め“Visaton”である。このトラックでは、さまざまなノイズや持続音がミュージック・コンクレートのように接続し、まるでアンビエント・ダブと化したピエール・シェフェールのような音が展開している。22分50秒の長尺だが、構成が絶妙でありまったく飽きない。まるで流れ行く光景のような独自の速度感によって、サウンドの素材がコンポションされているのだ。リズムはビートではなく、サウンドの周期によって影のように鳴っており、やがて明確なループを形成することになるだろう。
 そして、アルバムのクライマックスは、トラックが4曲め“Vihollinen”だろう。非周期的な打撃音に、透明な持続音がレイヤーされていくトラックに、いくつもの音響が交錯し、多層的なノイズ・アンビエントが形成されいる。楽曲途中からは、明確なリズムが刻まれ、いわばヴラディスラヴ・ディレイ的な音響ダブ的な音響空間へと移行するだろう。その音響的な快楽性や、即興的な構成・展開の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。

 それにしても、である。インダストリアル・テクノや、ダーク・アンビエント、グリッチなどのノイズを主体にした電子音楽が、それなりに音楽ファンに受け入れられている現在の状況はやはり興味深い。私見だが、そこにクラッシュしつつある近代世界(モダニズム)の終わりの予兆を感じ取っているからではないかとも思う。壊れつつある世界への予兆。それゆえのエラーへの偏愛。エラーへの同一化。エラーへのアディクト。いわば合理性=モダンへのノイズ・レクイエム。まさに「さらば、言葉よ」とでもいうように(私などは4曲め“Vihollinen”の途中で聴こえる微かなピアノの響きに、近代への鎮魂を(勝手に)聴きとってしまうのだが……)。
 その意味で、年末年始にかけて本作を聴きつづけていたのもあながち的外れともいえないだろう。すぐれた音楽は、時代のサウンド・トラックになりえる。現在的潮流とリンクした重要なアルバムでもある。

interview with Panda Bear - ele-king

 2000年代のUSインディを代表するバンド、いやむしろ2000年代をUSの時代にしてきたアーティストたちを象徴する存在ともいえるアニマル・コレクティヴ。その双輪として彼らの音楽を駆動してきたのは、現在はそれぞれソロとしても活動しているエイヴィ・テアとパンダ・ベアという対照的な才能である。  といった説明はもうとくに不要かもしれない。いまではパンダ・ベアの新作、というだけでじゅうぶんに盤を手にする理由になる。そうなるだけの作品を彼は残した。『パーソン・ピッチ』(2007年)──かの逸盤はさきの10年のシーンに広がるサイケデリックの大きな水脈の上流にあって、それいちまいでチルウェイヴの胎盤にもなったのだ。

 その彼ことノア・レノックスの5枚めとなるソロ・アルバムはその名も『パンダ・ベア、死神に会う(パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーパー)』。「死神」にはリテラルな「死」ではなく、「その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する」イメージが重ねられていると彼は話してくれた。かたちを変えて続いていく命というモチーフは、そもそもアニマル・コレクティヴと名乗る彼らの中に共通する感覚なのかもしれないが、とくにレノックスには色濃いように思う。

 もしあなたにとっての「アニマル・コレクティヴ」が、たとえば『フィールズ』の“グラス”や“パープル・ボトル”のエクスペリメンタリズムだったとしたら、あなたが聴いているのはおそらくエイヴィ・テアだろう。『センティピード・ヘルツ』(2012年)なども筆者からすればエイヴィ色の強いアルバムという印象だ。対して『キャンプファイア・ソングス』(2003年)や『サング・トングス』(2004年)などはパンダ・ベアの息づかいを強く感じる。というか、実際に息が……ノア・レノックスの声がたっぷりと注ぎ込まれたアルバムになっている。
 テアが吹き込むのが瞬間的な生命感の横溢だとすれば、レノックスが吹き込むのはまさに彼のロングトーンそのものともいえる、連続的な息=生き。いま子どもを育てる時間の中で、生活がふたつあるように感じるという彼は、今作において、そのいくつもの命の重なりをヴォーカルの層となして水平に広げていく。彼のいう死=変化はあくまでそのなかでゆっくりと生起していくのだと感じる。大鎌を手にするおどろおどろしいはずの死神は、いまはまるでそれを櫂のようにあやつり、なめらかに時を運んでゆく水先案内人のよう。“トロピック・オブ・キャンサー”などに感じるのは、そうした水平方向への流れをもったサイケデリアだ。かつてはループのなかに夢と無限を見出していた、ミニマルな彼の音楽性は、もしかするとここでひとつの方向をめざしてリニアに延びていくという無限を得たのかもしれない。年齢をかさねてパンダ・ベアが出会ったのは、むしろ生きることをみちびく死神……「思ってねーよ」って言われるとしても、そこはそう、空想したい。

■Panda Bear / パンダ・ベア
米NYを拠点に活動するバンド、アニマル・コレクティヴの中心的メンバーのひとり、パンダ・ベアことノア・レノックス。アニマル・コレクティヴとして現在までに9枚のスタジオ・アルバムを、パンダ・ベアとしては4枚のソロ・アルバムを発表。ソロの3作めとなる『パーソン・ピッチ』(2007年)は米音楽批評サイト「Pitchfork」の年間チャートにおいて第1位を獲得するなど、個人のキャリアにおいても高い評価を得ている。

僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。


Panda Bear
Panda Bear Meets The Grim Reaper

Domino / ホステス

Indie RockPsychedelicAmbient Pop

Tower HMV Amazon iTunes

今作は『キング・タビー・ミーツ・ロッカーズ・アップタウン』や『オーガスタス・パブロ・ミーツ・リー・ペリー・アンド・ザ・ウェイラーズ』からインスピレーションを得たアルバムだとのことですね。ダブに接続する要素は『パーソン・ピッチ(Person Pitch)』の頃から強かったと思いますけれども。

ノア・レノックス:『パーソン・ピッチ』にかぎらず、ダブとの接続は毎回あると思うよ。僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。ああいうタイプのサウンドを聴いて以来、自分が唯一プロデュースしたと思えるサウンドが、ダブのようなサウンドだったんだ。

意識的にダブに接近するのは今回がはじめてではないと。

レノックス:はじめてではないね。でも、今回が他の作品よりも影響が濃く出ているっていうのはあるかもしれない。前からやってはいたけど、もっとわかりにくかったんじゃないかな。リヴァーブやディレイは普段から使っているし、そういった部分は自分にとってジャマイカのプロデューサーとのリンクなんだ。

そうしたプロデューサーたちの作品とはどのように出会って、どのようなところに惹かれたのでしょう?

レノックス:はじめて出会ってから馴染むまでには、じつは時間がかかっていて。18歳のとき、当時いっしょに住んでたルームメイトがダブの大ファンで、彼が聴いてたのを耳にしていたときは、僕はあまり理解できなかったんだ。で、彼があるときキング・タビーの『ルーツ・オブ・ダブ』っていうレコードをくれて、それをヘッドフォンで聴きながら歩くようになってからすぐにファンになった。ダブの深いベース音やザラついたハイハットとスネアのコンボ、リズムやサウンドが大好きになって、すごく特徴のあるサウンドだなと気づいたんだ。ちょっと湿ったような、雨っぽいフィーリングがあるところが魅力的だったんだよ。

今作はリズムが強調されたアルバムでもあると思います。わたしは“シャドウ・オブ・ザ・コロッサス(Shadow of the Colossus)”や“ロンリー・ワンダラー(Lonely Wanderer)”など、過去作もふくめあなたの3拍子や8分の6拍子の曲が大好きなのですが、こうした曲はメロディからできるのでしょうか?

レノックス:今回のアルバムに収録された曲に関しては、最初にできたのはリズム。あとはインストやアレンジを経て、いちばん最後にメロディができるっていうプロセスだった。
 僕がよくやったのは、最初にドラム、そしてシンセのようなインストのサウンドを作ったりサンプルを作って、そこからそれをレゴのブロックのように組み立てていくっていうやり方。その組み合わせ方に変化を加えていくんだよ。基本的には、音を何度も聴いて、そこに小さな捻りや変化を加えていった。で、そうしていくうち、何ヶ月も後になってやっとメロディが頭に思い浮かびはじめるんだ。望遠鏡で何か遠いものを見ていて、焦点が合わないとボヤけてはっきりと見えないでしょう? 最初はそんな感じ。でも、要素や色がわかってくるとはっきりはっきりとイメージが見えてくる。そうやってメロディができていくんだよ。ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。僕は、あまり計画をたててメロディを作ることができないんだ。曲ができ上がるまで待たないといけないんだよね。

ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。

テクノなどはあまり聴かれませんか?

レノックス:よく聴くよ。ダブと同じくらいインスピレーションを受けてる。ハウスのような、他のフォームのダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックよりもテクノを聴いてる。ヒップホップもそうだね。そういった音楽にはつねに影響を受けてるんだ。

ダフト・パンクとのコラボレーション曲(“ドゥーイン・イット・ライト(Doin' it Right)”)は16ビートでしたが、リズムにおいて意識したことや、新しく気づいたことはありましたか?

レノックス:作っていくうちに、ブレイクを使うことにフォーカスを置こうという方向性がだんだん見えてきた。リズム的に、もっと揺れるような、力のこもりすぎていないものを作りたいっていうのもあったね。リズムに関して意識したのはそこ。あとは、僕は普段から、典型的ではないちょっと変わったリズムを作るのが好きなんだ。

今回の録音はさまざまに場所を変えて行ったそうですね。『パーソン・ピッチ』などには「ベッドルームの中で世界を体験する」というような感覚があるのですが、今作は「いろいろな場所でただひとつのノア・レノックスを体験する」というアルバムのように感じました。複数の場所で録音したのはなぜでしょうか?

レノックス:レコーディングではなくて、いろいろな場所で曲を作ったんだよ。ほとんどは家で作って、その他はツアー中。何度か家を引っ越したりもしたから、それで点々とした感じになる。引越しのたびにスタジオをセットアップしてね。あるときはビーチの近くに住んでいて、そこのガレージにスタジオを作って作業していたし、街に住んでいたときは、そのアパートの地下室にスタジオを作って作業をした。あとは、ツアー中のホテルだね。たくさん移動していたからそうなったんだ。
 最終的なレコーディングはちゃんとした場所でやりたかったから、自分の場所ではなくて、ヴィンテージの機材や何百ドルもするギアがある場所を借りたよ。そういう環境はいままであまりなかったけど、ずっとやってみたいと思っていて、今回やっと着手したんだ。

普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。(“クロスワーズ”)

前作にひきつづいて、プロデューサーにソニック・ブームを迎えていますが、彼と試した音作りやアイディアでとくに印象深いことはどんなことですか?

レノックス:ピートは、サウンドを普通では思いつかないような場所に持っていってくれるんだ。彼は普通とはちがう何かを感じとれる。人の耳をくすぐるというか、そういうサウンドを作ることができるのが彼。ピートにはいろいろな才能があるけど、その部分は僕なんかよりかなり優れていると思う。彼の才能の中でも、目立ったクオリティだね。

今回もサンプラーを中心とした曲作りでしょうか。生音の素材がもちいられることが減ったようにも思いますが、いまの録音スタイルについて教えてください。

レノックス:サンプラーを中心としたっていうのは、もちろんこのレコードと『パーソン・ピッチ』をつなぐ要素ではある。でも、『パーソン・ピッチ』のほうがもっとそれに徹していたね。マイクを使ったのはヴォーカルを録るときだけで、あとはすべてハードウェアやコンピュータの中で作業したから、ライヴ・サウンドは本当にわずかだったんだ。『トムボーイ(Tomboy)』はその逆で、ライヴ・パフォーマンスが多かった。全部にマイクを使ったわけじゃないけど、より多くギターの生演奏が使われているからね。
 今回のレコードに関しては、マイクが少ないという点では『パーソン・ピッチ』に帰還している。でも、今回はパーカッションは自分でやったりしてるから、そこはちがうんだ。

一方で、くるみ割り人形のサンプリングなど、ブラスやハープ、ピアノなども中盤では印象的に登場します。楽器の音色としてもっとも好きなものは何ですか?

レノックス:“クロスワーズ(Crosswords)”っていう曲があるんだけど、あれを作っていたときはスタジオにグランドピアノがあって、あのピアノ・パートが“クロスワーズ”の曲の印象を変えたんだ。それまではなかった「個性」を曲に吹き込んでくれた。普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。

[[SplitPage]]

今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。それは、いままでのどの音楽ともちがう。

“ミスター・ノア(Mr Noah)”とはあなたのことですか? ファンキーで、タイトな生ドラムも入り、アルバムのなかではもっともやんちゃなグルーヴを感じる曲ですが、あなたのドラマーとしてのアイデンティティが反映されていると捉えるのは的外れでしょうか?

レノックス:そう。自分のことだよ。セルフ・ポートレイトみたいな曲。ドラマーとしてのアイデンティティか……考えたことなかったな。リズム的にはかなりシンプルだと思うけど。

今作中、もっともパーソナルだと思われる曲と、もっとも自分のこれまでのアーカイヴから離れていると感じられる曲を教えてください。

レノックス:今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。今回は、自分だけの考えや経験とはちがうものを書きたかったんだ。それは、いままでのどの音楽ともちがう。もちろん、曲を書きはじめるときは自分の考え方や経験からスタートするけど、そこから歌詞にひねりを加えたり、フレーズを変えたりしていった。今回は自分のことに関しては語りたくなかったから、みんなが経験したり、誰でも考えるようなことにフォーカスしたんだ。誰もが抱える問題や葛藤、喜びとかね。自分以外の人と、よりコミュニケーションがとれるように。

詞の内容に引っぱられて作られた曲はありますか?

レノックス:それはないね。クールだなと思うアイディアを見つけて、曲の一部で使おうかな、と思うこともある。でも、詩を書いてそこから曲を作るってことはまずない。さっきも言ったように、僕はその方法がわからないからね。

『Panda Bear Meets The Grim Reaper』というのは、とても可愛らしい、愉快なタイトルだと思いました。あなたにとって「The Grim Reaper(死神)」とはどのようなものですか?

レノックス:このアルバムはコンセプト・アルバムではないんだけど、このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。何かが変化して、その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する、みたいな。今回のアルバムの曲がそんな感じだからね。永遠になくなってしまうんじゃなくて、変化して生まれ変わる、というか。

このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。

死神、精霊、生物(Animal Collective)、あなたにまつわる音楽にはそうした自然と超自然のモチーフがとけあって存在していますね。きっとあなたにとって親しいイメージであり、あなた独特の生命観なのだと思いますが、そうしたものに向かうルーツはどんなところにあったと思いますか?

レノックス:自分たちも動物だからだと思う。僕たちもそういったものの一部だから。だからそういったことについて考えるし、音楽にも反映されるんだと思う。動物が持つ衝動と人間の衝動には似ている部分もあるし、逆に動物だけが持つ能力もあるし。人間って路頭に迷ったりするけど、動物は天真爛漫だったり。そこが魅力的なんだ。

あなたのソロ作品はアートワークも素晴らしく、いつも何らかの象徴性をそなえた、とても喚起的なヴィジュアルが用いられていました。今回はうって変わって、タイポグラフィ的なものになっています。これにはあなたからのディレクションがあったのですか?


『Panda Bear Meets The Grim Reaper』のジャケット

レノックス:そうだよ。でも、あれを作ったのはピートの友人のマルコ。ピートと僕のツアーのポスターを作ってくれたのが彼で、そのデザインがすごくよかったから、彼にいくつかデザインしてみてくれと頼んだんだ。そしたら、すごくたくさんアイディアを送ってきてくれてね。その中から、いちばん印象的だったものを使うことにした。他のも素晴らしかったから、そのうち使うと思う。タイトルの単語の頭文字を取って使う(PBMGR)っていうのは僕のアイディアだったけど、あとは全部マルコがデザインしてくれたんだ。

以前にもインタヴューさせていただいたことがあるのですが、そのときあなたは、ポルトガル(ヨーロッパ)は古い歴史を持っていて、アメリカが新しい国だと感じるとおっしゃっていました。ヨーロッパに住まうことで、音楽の歴史性を意識することはありますか?

レノックス:いまはインターネットがあるから、どこからでも、何にでもアクセスできる。だから、どこに住んでいようと何かに影響されずにはいられない時代だと思う。自分のオリジナルだと思っても、それは必ず自分が触れたことのあるものからきているわけだしね。

土地のトラディショナルな音楽から影響を受けることはありますか?

レノックス:住んでいれば触れてはいるから、もちろん影響はされていると思う。でも、自分がどう影響されているのかはわからない。何かに影響されていたとしても、それをコピーしようとは思わないし、その影響が反映されていることに気づいたら、そこに必ず変化を加えるようにしてるんだ。

新しい音楽に触れるのはインターネットを通してであることが多いですか?

レノックス:そうだね。あとは友だちはまわりにいる人たちから情報をもらったり。

業界にいると、情報量がすごそうですね。

レノックス:そうなんだ。音楽に詳しい人がまわりにたくさんいてくれてラッキーだと思う。

『ヤング・プレイヤー(Young Prayer)』や『パーソン・ピッチ』に戻るという意味ではないのですが、次はぜひアコースティックな作品を聴きたいです。いかがでしょう?

レノックス:ははは(笑)。ギターと自分でツアーしたいっていう夢はあるんだ。いまは、機材をいくつも運んで移動するのが面倒くさくて(笑)。だから、バンドとギターでツアーするのって魅力的なんだよね。いつか実現させると思う。いろんな意味でやりやすいと思うから(笑)。

生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。

差支えがなければ教えてください。お子さんは家庭教育と学校教育のどちらでお育てになりたいと思いますか?

レノックス:状況によるね。あとは教師がどんな人かによる。どちらも善し悪しがあると思うから、本当にそのときの環境によると思う。僕の子どもは一人はあまり社交的じゃないから、そういう場合は学校にいってそういうスキルを身につけるのもいいと思うし、もう一人はその逆だから、まわりにある学校の環境や教師によっては家庭教育もいいかもしれないし。場合によるね。

前作のジャケットでは聖母が涙を流していましたが、あなたにとって「父」というとどんな存在で、どんなモデルやイメージを思い浮かべますか?

レノックス:それはつねに変わるんだ。父親になる前はぜんぜんちがうイメージを持ってたけど、なってからそれは変わったし、いまだに変化しつづけてる。まだ自分でもわからないんだ。状況によって変わるんだよね。子どもがいるといないじゃ、生活の視点がまったくちがう。自分の人生を生きているのに、そうじゃないというか……(笑)。生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。自分は学校に通っていなくても、通っているリズムで生活するわけだからね。

ARTHUR RUSSELL - ele-king

 長い時間を経て、ようやく真っ当な評価を与えられ、さらにまた年月のなかで光沢を増していく音楽があるけれど、アーサー・ラッセル(1952-1992)とはまさしくそんなアーティストだ。最近、複数の世代の複数の人との話のなかで「アーサー・ラッセル」の名前が出てきたり、いまになって「アーサー・ラッセルの本を読みましたよ」と言われたり、実感として、アーサー・ラッセルって、また来ているんだなと思う。
 倉本諒(彼のドリーム・プッシャーは今年の台風の目になるだろう……)は、よくよく100%シルク的なものをハウスになりきれてないなんちゃってハウスのような書き方でこバカにしているが、しかし、ハウスそれ自体が、そもそもディスコから「素人ディスコ」とバカにされた音楽であり、そして、ディスコとは当時のダンスの王道であるファンクの側から「ファンクのない音楽」とバカにされた音楽である。つまり、オーソリティーから低俗で軽薄だと揶揄されたものこそが、ディスコであり、ハウスなのだ。しかもそれらを特徴付けるのは、キラキラした気取り屋たちのどろどろの快楽主義。そんな世界に、まったく自由な発想で「実験」と「現代音楽」と「ポップ」を注入したのが、アーサー・ラッセルだった。

 この度、アーサー・ラッセルの以下の4枚のCDが〈Pヴァイン〉から再発された。ぜひこの機会に、ひとりでも多くの音楽ファンが彼の作品に触れてくれたらと思う。(編集部)

■『ファースト・ソート・ベスト・ソート』
 現代音楽時代の、入手困難な初期作品、『Tower Of Meaning』(1983年)+1977年/1978年のライヴ音源『Instrumentals, 1974 - Vol. 2 』(1984年)の未発表曲集 Instrumentals, Vol.1』とのカップリング。アーサー・ラッセルのモダン・クラシックな側面が輝いている。
Amazon

■『ワールド・オブ・エコー』(1986年)
 歌モノを愛したアーサー・ラッセルの名盤。歌とチェロとミキシングによる唯一無二の声のダブ・アルバム。必聴盤。
Amazon

■『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』
 彼は、現代音楽からディスコに接近したが、その後ポップスにも挑戦している。本作は、2004年に〈ラフ・トレード〉からリリースされた、80年代なかば以降のポップ・ソングを収録したアルバムで、トレイシー_ソーンもカヴァーした“ゲット・アラウンド・トゥ・イット”収録。『NME』の「あなたの知らない100枚の偉大なるアルバム」の1枚に選ばれている。
Amazon

■『ラヴ・イズ・オーヴァーテイキング・ミー』
 2008年にリリースされた未発表音源集だが、あまりのデキの良さに、その年の『ピッチフォーク』や『FACT』や『WIRE』などの年間ベストに選ばれている。70年代の作品から91年まで幅広く収録。意外に聞こえるかもしれないが、ラッセルのフォークソングが実はすごく良い。
Amazon


●タワーレコードにて「アーサー・ラッセル・キャンペーン」実施中!

【対象店舗】
タワーレコード渋谷店
タワーレコード新宿店
タワーレコード秋葉原
タワーレコード名古屋パルコ店
タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
タワーレコード梅田大阪マルビル店
タワーレコード難波店
タワーレコード梅田NU茶屋町店6F

【特典内容】(特典は先着購入者順にお渡し、無くなり次第終了。)
“TOWERオリ特 アーサー・ラッセル トートバック”
(※下記対象商品4タイトル中2タイトルの同時購入での先着特典)

【対象商品】(いずれもアーサー・ラッセルの作品です)
・『ワールド・オブ・エコー』(品番:PCD-24376)
・『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』(品番:PCD-24377)
・『ファースト・ソート・ベスト・ソート』(品番:PCD-18781-2)
・『ラヴ・イズ・オーヴァーテイキング・ミー』(品番:PCD-24378)

●ディスクユニオンでは特典付き!

【ディスクユニオン限定特典】

『アーサー・ラッセル/ 4タイトルまとめ買いセット』 をお買上のお客様に先着で、ディスクユニオン・オリジナル『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』のジャケット・デザインのマグカップを差し上げます。
先着となりますのでなくなり次第終了となります。ご了承ください。

https://diskunion.net/clubt/ct/detail/AWY141201-AR1


John Grant with the BBC Philharmonic Orchestra - ele-king

 年末のアメリカのゲイ・カルチャー・マガジンを読んでいると、どうも去年のベスト・ゲイ・ドラマは満場一致で『LOOKING』に決定のようだ。『LOOKING』はテン年代最高のゲイ・ムーヴィー『ウィークエンド』(日本では映画祭上映のみで一般上映なし。これは由々しき問題である。)の監督アンドリュー・ヘイもいちぶメガホンを取ったドラマ・シリーズで、要するに何がウケたかというとその普通さである。サンフランシスコに住む、とくに何が突出しているでもない――そのへんのインディ男子と変わらない――、収入もそこそこのゲイたちの曖昧な孤独と欲望に彩られた日常……すなわち、ゲイとして生きていくこともべつに苦難ではない時代の、それでもゲイ固有の人生にまつわる機微を親密に描いている。日本で見ているとどうしても「サンフランシスコは進んでるな~」という感想になりがちなのだが、しかし逆に言えば、サンフランシスコのゲイ・タウンに住んでも彼らは切実に愛を探しつづけることから逃れられないようなのだ。

 アンドリュー・ヘイが『ウィークエンド』で大々的に映画音楽として使い、そして『LOOKING』でさりげなく挿入していたのがジョン・グラントだった。たしかに、その男の歌は「普通のゲイたち」の日常のサウンドトラックにふさわしいのかもしれない。グラントはまさにどこにでもいるような、ひげ面のちょっとベアが入ったゲイ中年で、歌っていることも赤裸々なラヴ・ソングに時折ゲイ的なスパイスが入る……といったものだ。自ら華麗な舞台を設定したり(ルーファス・ウェインライト)、メタファーと隠語を多用して社会風刺したり(ペット・ショップ・ボーイズ)、ハイ・アートを拠りどころにしながら根源的に愛と死を見つめたり(アントニー・ハガティ)、その異物性を一種復讐的にさらけ出したり(パフューム・ジーニアス)、鋭い知性で黒い笑いをまき散らしたり(マトモス)……することはない。ネルシャツを着てニット帽をかぶって、別れた恋人への恨みやHIVポジティヴとして生きることを朗々と歌い上げる。皮肉と自虐的な笑いを散りばめつつ、しかし飾らずに、ただ自分の人生と感情に正直に語るばかりだ。

 そしてその正直さゆえだろうか、ジョン・グラントは、とくにヨーロッパでアイコニックな存在にまで上りつめた(UKのゲイ・カルチャー・マガジン『ATTITUDE』のマン・オブ・ザ・イヤー、『ガーディアン』表紙など)。上りつめた、と言っても、本人はとくにスタンスを変えずに世界各地を回りながらひとりのゲイ中年の孤独と愛を歌いつづけている。このライヴ盤はしばしばインディ・ロック・ミュージシャンと企画ライヴを行っているBBCフィルハーモニック・オーケストラとの共演盤で、たしかに彼のドラマティックなメロディにはオーケストラの華麗なアレンジも合っているのだが、とくに「ゴージャス!」「壮大!」というほどの大仰さはなく、むしろラフさがかなり残る聴きやすさがいい。それこそルーファス・ウェインライトのようなオペラに対する執着も感じられず、彼のシンガーとしての魅力が素朴に浮かび上がっている。

 もう1枚の同発がグラントがヴォーカルを取っていたザ・サーズ(と読むそうです)のベスト・アルバムで、これは間違いなくソロがヒットしたことによる再発盤。僕のようにソロでグラントのことを知ったリスナーでもこの2枚をざっと聴けばキャリアが総括できるようになっている。70年代のシンガーソングライター・アルバムを思わせるフォーク・ロック/カントリー・ポップが多くを占めていて、シンプルなバラッドが魅力的ではある……まあ、地味と言えば地味だが。どうも初期はコクトー・ツインズのサイモン・レイモンドがプロデュースをしていたらしく、そう言われれば道筋が見えてくるような気はする。いずれにせよ、ガス・ガスのプロデュースによって一気にシンセ・ポップに接近したソロの最近作『ペイル・グリーン・ゴースツ』が全キャリアの最高傑作であることは疑いようがなく、とにかくジョン・グラントの聴きどきはいまだということはあらためて強調しておきたい(ハーキュリーズ・アンド・ラヴ・アフェアとの共演シングルも含め)。

 そして彼の音楽に耳を傾けていてあらためて思うのは、その歌にはどこか心を落ち着かせる作用があるということである。それは癒し、ではもちろんなくて、“ヴェトナム”で「俺が唯一落ち着くのは、お前がこの先誰といようと、お前が孤独だってわかることだよ」と別れた男に歌われると、ああ、そうだよな、と思うことだ。それは明らかにグラント自身に向けても歌われていて、その歌声にはどこか「真実」にいたる以前の「事実」の厳格な手ごたえがある。そうして、聴き手も「お前自身の孤独と向き合え」と告げられるのだ。それはまず前提なのだと。
 インタヴューによると、ジョン・グラントは親にゲイであることを認められなかったそうだ。そのことは“ジーザス・ヘイツ・ファゴット”で「ジーザスはカマ野郎が嫌いなんだよ、息子よ」よおどけて歌われているが、それは彼があらためて口にするこの世の「事実」だ。神や信仰や「家族の価値」を理由に同性愛者を排斥する人間が世界にまだたくさんいるのはたんなる現実だ、と彼は歌うのだ。それが肉親であっても。

 だからこそ、ライヴ盤のハイライトになっている“グレイシャー”には息を呑むものがある。「自分の人生を生きたいだけ 知る限りの一番いいやり方で/だけどあいつらは言い続けるんだ お前にそれは許されていないと」という歌い出しは、「同性愛者の人権を守る施策は必要ない」と口走る政党が政権を執るこの国においてもたんなる「事実」だ。では、すべてのゲイの人生に捧げられたこの曲の、「だけどこの痛みは、きみに向かって行く氷河/深い谷を彫り 壮大な風景を創り上げていく」というコーラスは、その先の「真実」なのだろうか、いや……。
 “グレイシャー”の感動的なアウトロを聴いていると、どうしてグラントがオーケストラと共演したのかがようやく理解できる。そこでは彼のやり方で本当に「壮大な風景」が創り上げられているからだ。

 ジョン・グラントはごく普通のゲイ中年である……肉親に愛されなかったことも、HIVポジティヴだということも、別れた恋人に醜い憎悪をぶつけずにいられないことも、それでも愛を歌わずにはいられないことも、ゲイにとって……いやゲイでなくても、なんら特別なことではない。「真実」なんてものは知らなくても、自分に正直であり続け、そして彼はただ、ありったけの願いを深い声で歌ったのだった。

THOMAS DINGER - ele-king

 兄のクラウス・ディンガー(『クラウトロック大全』P48参照)とともに、『ノイ!75』のB面とラ・デュッセルドルフの諸作を録音後、ソロ活動、1-Aドュッセルドルフ名義での活動をしつつ、2002年に肝不全のため49歳で他界したトーマス・ディンガーの2000年の録音物が小柳カヲル氏の〈SUEZAN STUDIO〉からリリースされた。クラウトロックのファン、とくにノイ!のファンなら、2000年、47歳のときの彼がどんな音楽を作っていたのか知りたいところだろう。
 1曲、黒人霊歌の“漕げよマイケル”の素晴らしいカヴァーがあるが、それ以外の曲は、ひじょうに抽象的な、ダーク・アンビエントな、エレクトロニック・サウンドを展開している。誰に似ているのかと訊かれたら、ピート・ナムルックに似ているとしか言いようがないのだけれど、UKの(良い意味で)ファッショナブルなインダストリアルとは明らかに別の切り口というか、わずか500部の限定リリースなので、興味のある方はぜひ聴いてみましょう。当時、お蔵入りになったことが信じられないくらい、上質な音楽であることは間違いない。


Sean Mccann - ele-king

 ショーン・マッカン。マスタッシュを蓄えた坊やのような風貌、父のお古のような非現代的でサイズ合わないワードローブに身を包み、シガーとコニャックを愛する青年ショーンは、僕がLAで出会った人物の中でももっとも妙な男だ。いや、LAの人間なのにウィードを吸わないから妙って言ってるわけではない。ショーンの美意識は時代性に左右されない普遍的な輝きをつねに放っているのだ。
 膨大な量のCD-Rとカセットによる自主リリースは、同時代のLAローカル・アーティストの精力的な活動のアーカイヴとは少し異なる趣きにも感じられるのだ。たとえば属するシーンであったり、ともに切磋琢磨する他のアーティスト(おそらくマシュー・サリヴァンがショーンにとってのそれだが)が判然としない。同時代のアーティストからほとんど影響を受けていないと言っても過言ではないのだ。
 孤独こそが奏でることのできる美しき旋律。言い過ぎだろうか。また、職人芸とも呼べるマスタリング・ワークスにも定評があり、現在のUSエクスペリメンタル・シーンの影の立役者でもある。

 とはいえ、短い時間であったけれど、彼といっしょに暮らしていて、実際にショーンが同時代のアーティストにいれこんでいる印象はなかったし、LAらしい快楽的なヴィジョンを求めている趣きもないし、LAFMSのようにカリフォルニア的ユルさをもって実験音楽に臨んでいるわけでもないのは知っている。わからないのはあの若さでこれほどまでストイックかつアカデミックに現代音楽を探求する彼の孤独だ。

 トロイ・シェーファー(セカンド・ファミリー・バンド、ワームズ・ブラッドなどなど)のソロ作品やアイデア・ファイアー・カンパニーなどをリリースするショーンの嗜好を具現化したレーベル、〈レシタル(Recital)〉から間もなくリリースされる彼の最新アルバムを一足先に拝聴させていただいているが、これが大作である。異なる時と場で制作された本作──スペインのアルメリアに出張中、タコとオリーヴを食べながらワインとチーズを嗜みつつ、ホテルの一室でUSBマイクから採取したヴォーカルを過度にPCでプロセシングしたものをテープに落とし込んでさらに弄び、異国情緒を表現したピアノ旋律を重ねた異常なトラックで幕を開け、ジョン・ケージの『層状のエッセイ』に多大に触発されたヴォイス・ワークスへつづく。そして、カナダにてザ・シン・エッジ・ニュー・ミュージック・コレクティヴ(the Thin Edge New Music Collective)へ初めて自ら楽譜を書き上げて演奏を依頼した、数学的ルール下にあるシーケンスを用いた意欲作によって本編はクライマックスを迎え、もっともショーンの心象風景に、ドライかつ孤独に迫るピアノ・ワークスで幕を閉じる。

 マシューデイヴィッドからハウ・トゥ・ドレス・ウェルまで、現代のUSインディ・アーティストが影響を声高に語るショーンの最新作、心に染み入るぜ。

 それから、異国の地、異なる言語メディアでコッソリと謝ります。冷蔵庫の食べ物を盗み喰いしていたのは僕です。ショーン・マッカン、だって君が買ってくるものが一いちばんおいしそうだったからね。

 日本におけるジャズ・ヒップホップ・シーンの開拓者といえば、Nujabesである。あの不幸な交通事故から、今年の2月で5周忌を迎える。彼の〈Hydeout Productions〉レーベルから発表された美しい曲の数々はいまも世界中で聴かれているし、再評価されている。そして、同レーベルにはいくつかの美しいハウス・トラックがあり、それは彼が敬愛するJoe Claussell率いるMental Remedyを意識し作曲されたものだ。
 いま、共同制作を実現する機会が訪れなかったJoe Claussellとの悲願のコラボレーションがクラウドファンディングで実現しようとしている。
本プロジェクトは、NujabesがJoe Claussellへ未発表音源を贈り、ここでしか手に入らない生演奏アンサーリミックスを実現するというもの。Nujabesのそのメロディを鮮やかに蘇らせ、メッセージを込めるトリビュート企画。

 プロジェクトの目標金額に達した場合、Joe Claussellが率いるミュージシャンとの生演奏リミックスの制作を依頼し、最高のカタチでNujabesの想いを実現させる。
 支援者にはミックスCD、データ、レコードといった様々な形で届けられることとなる。
 プロジェクトページは以下。

■TRUNK MARKET
https://trunkmarket.jp/project/s/project_id/10

 現在25日を経過し42%の達成率となっている。
 近日中にプロジェクトのトレーラー、BedwinがデザインしたTシャツが掲載される予定。
 ぜひ、みんなの力でこの企画を実現させよう!

2014 Retrospective - ele-king

 CDや配信、あるいはカセットと較べて12インチ・シングルはもはや圧倒的に贅沢品である。値段も驚くほど高くなった。消費者的にはたんに惰性で買っていただけなのに、商品の持つ意味が時代とともにこれだけ変わっていった例も珍しいとは思う。70年代には売り物でさえなく、デザインもそこそこにプロモーション盤として配られていただけ。80年代にはリミックス文化を発展させることにより音楽がアルバム単位で売られることを脅かすほど商品の最先端となり、90年代にはそのままアンダーグラウンドのメディアにも等しい存在になった。ゼロ年代には一転して早くもノスタルジーを漂わせたかと思えば、いまや、チープな高級品とでもいうのか、FKAツィッグスのネックレス付きデザインのように投機の対象にもなれば、以下で取り上げた〈センシュアル・レコーズ〉のように依然としてアンダーグラウンドのメディアとして配信では買えない情報を運んでくることもある。畳みかけるようなイタロ-ディスコの再発盤も含めて、その多義性は計り知れなくなってきて、アナログ盤だと法的なサンプリング規制は見逃されるという面(=使い方)もあるらしい。かつて、12インチ・シングルを買い漁りながら、その存在意義について思いを巡らせるようなことはなかった。高級品なのかゴミなのか、なんとも妙な気分で(結局は)買い集めてしまった12インチ・シングルから2014年のハイライトをご紹介。

January

Dario Reimann - White Cypher EP llllllll

 フランクフルトの新勢力で、ダリオ・ライマンが新たに設立した〈センシュアル・レコーズ〉からダブ・ミニマルの新機軸を聴かせる「マニーカウント・ダブ(Moneycount Dub)」。催眠的なループを引き立てるようにユルめのパーカッションがどんどん入れ替わり、お金を数えているような気持ち……にはならないな。金融都市ならではの感覚か? ルーマニア系からの影響が明らかな他の3曲よりもだんぜんユニークだと思うんだけど……。

Feburary

AxH - Destroy Tempa

 ボストンからアンドリュー・ハワードによるフィジカル1作め。アフリカン・パーカッションを縦横に組み合わせ、だらだらと呪術的なムードを煽るエスニック・ダブステップ。BPM少し早めがいいかも。ケテイカーことリーランド・カービーが〈アポロ〉から放った「ブレイクス・マイ・ハート・イーチ・タイム」も意外なほどファンタジー気分。

March

Grems - Buffy Musicast

 フランスからすでに5枚のアルバム・リリースがあるミカエル・エヴノの単独では初のシングル(ユニット名のグレムスはアイスランド語で欲求不満)。フランス語のせいか、10年前のTTCを思わせる間の抜けたヒップ・ホップがほんとに久しぶり(関係ないけどホワイ・シープ?『REAL TIMES』にTTCからキュジニエにラップで参加してもらってます)。この月はNYから韓国系のアーティストにモデルやDJが集まったダスト(Dust)によるイタロ・ディスコとアシッド・ハウスの混ざったような「フィール・イット」もおもしろかった。映像はホラー過ぎてR指定

April

Katsunori Sawa - Holy Ground EP Weevil Neighbourhood

 スティーヴン・ポーターの名義でDJノブともスプリット・シングルをリリースしていた京都の澤克典によるセカンド・ソロ。日本人にありがちな清潔感がまったくなく、しかも、インダストリアル・テイストを優美に聴かせる抜群のセンス。12月にはインダストリアル・ダブステップのアンソーンと組んだボーケ(BOKEH)名義もよかった。

May

Hidden Turn - Big Dirty 31 Records

 ドク・スコットのレーベルからジュークとドラムン・ベースを完全に融合させてしまったような(たぶん)新人のデビュー作。「もうちょっと話題になってもよさそう」というクリシェはこういうときに使う。

June

Reginald Omas Mamode IV - As We Move Five Easy Pieces

 シングルの作り方がもうひとつ上手くないモー・カラーズ(『ele-king Vol.15』、P.82)に代わって、お仲間がそれらしいシングルを出したという感じでしょうか。ゆったりとしたトライバル・リズムは、これもモー・カラーズと同じくインド洋に浮かぶモーリシャス共和国の「セガ」と呼ばれるリズムに由来するんだろうか。

July

Tessela - Rough 2 R&S Records

 「ハックニー・パロット」や「ナンシーズ・パンティ」が大人気のわりにもうひとつピンとこなかったエド・ラッセルによる6作めで、これはドカンときましたw。レニゲイド・サウンドウェイヴがベース・ミュージックを通過すればこうなるかなと。90年前後のブレイクビーツ・テクノが完全に更新されている。

August

Blond:ish - Wunderkammer Kompakt

 モントリオールから名義通りブロンド女性2人組によるフィジカル3作め。「ラヴァーズ・イン・リンボEP」(『ハウス・ディフィニティヴ』、P.262)で覗かせていたモンド係数を大幅にアップさせたアシッド・ミニマルの発展形。とくにカップリングの“バーズ・イート・バーズ”でその妙味が冴え渡る。

September

New York Endless - Strategies Golf Channel Recordings

 グレン・ブランカのリイッシューなどにもかかわっていたダン・セルツァーが、なんと現在はディスコ・ダブの受け皿となっている〈ゴルフ・チャンネル〉から。ユニット名や曲調から察するに、1月のダリオ・ライマンやハンヌ&ロアー「ブラ!」と同様、中期のクラフトワークにインスパイアされているのはたしか。ロアシからSH2000「ミスティカル・ブリス」もなかなか。

October

Lakker - Mountain Divide EP R&S Records

 エイフェックス・ツインがオウテカとミックスして使ったことで一躍有名になったアイルランドの2人組による8作めで、これも4月でピックアップしたカツノリ・サワとはちがった意味でインダストリアル・テイストの優美なダブステップを聴かせる。中盤から乱打されるハイハットのじつにアシッドなこと。前の年にはルーシーの〈ストロボスコピック・アルテファクツ〉でハード・ミニマルをやっていて、その変化と連続性はかなり興味深い。

November

Future Brown - Wanna Party Warp Records

〈フェイド・トゥ・マインド〉周辺からファティマ・アル・カディリやングズングズら4人組によるデビュー作。シカゴのMC、ティンクをフィーチャーしたグライムはイギリス産にはないニュー・エイジ色とMIAから現実感をなくしたような手触りが新鮮。

December

Ana Helder - Don't Hide Be Wild C meme

 マティアス・アグアーヨのレーベル(『ハウス・ディフィニティヴ』、P.194)から80年代初頭を思わせる、なんとも大味のエレクトロ・ハウス。彼女自身の声なのかサンプリングなのかわからないけれど、あまりに蓮っ葉な発音が気になる(アルゼンチンからスリーフォード・モッズへのアンサーというか……)。

Dean Blunt - ele-king

 年末年始は、妻子が実家へとさっさと帰るので、ひとりでいる時間が多く持てることが嬉しい。本当は、ひとりでいる時間を幸せに感じるなんてこと自体が幸せで贅沢なことなのだろう。そんなことを思ってはいけないのかもしれないが、年末年始、僕は刹那的なその幸せを満喫したいと思って、実際にそうした。
 たいしたことをするわけではない。ひたすら、自分が好きなレコードやCDを聴いているだけ。聴き忘れていた音楽を聴いたり、妻子がいたら聴かないような音楽を楽しんだり、しばらく聴いていなかった音楽を久しぶりに聴くと自分がどう感じるのかを試したり。もちろん片手にはビール。お腹がすいたら料理したり。たまにベランダに出たり。たまに読書をしたり。たまにネットを見たり。寝る時間も惜しんでひとりの時間を満喫した。
 そんな風に、ひたすら音楽を聴いているなかで、僕はディーン・ブランドの新作を気に入ってしまった。
 最初に聴いたときは、このところの彼のソロ作品の「歌モノ」路線だなぁぐらいにしか思わなかったのだけれど、家の再生装置のスピーカーでしっかり聴いていると、正直な話、この作品を年間ベストに入れなかったことを悔やむほど良いと思った。僕には、ハイプ・ウィリアムス時代の衝撃が邪魔したとしか言いようがない。

 たしかに、『ブラック・メタル』という(北欧のカルト的ジャンルとは無関係。むしろ人種的ジョークさえ含むかのような、深読みのできる)作品タイトルも、真っ黒なスリーヴケースも、そして、意味ありげで意味がない曲名も、ディーン・ブランドの調子外れの歌も、まあ面白いのだが、ハイプ・ウィリアムス時代から聴いているリスナーにとっては相変わらずといえば相変わらずで、「ああー、いつものディーン・ブランドだなー」で済んでしまう話だ。実際、僕もそう済ませていたきらいがある。

 ところが、年末年始のひとりの時間のなかで『ブラック・メタル』をじっくり聴いたときには、何か特別な作品に思えた。家にある、いろいろなジャンルの音楽を聴いているなかで再生したのが良かったのだろう。松山晋也さんが『ミュージック・マガジン』でこの作品を個人のベスト・ワンにしていた理由も、僕なりに納得できた。これは……言うなれば、セルジュ・ゲンズブールなのだ。もしくは、(他から盗用した)おおよそ全体にわたるギター・サウンドの暗い透明感からしてドゥルッティ・コラム的とも言える。


 
 これだけ世の中でEDMが流行れば、その対岸にある文化も顕在化するはずだ。ヒューマン・リーグがヒットした反対側ではネオアコが生まれ、ユーロビートが売れた時代にマンチェスター・ブームがあったように。
 ディーン・ブランドがこのアルバムの前半で、ギター・サウンドにこだわり、パステルズをサンプリングしていることも、そうした時代の風向きとあながち無関係ではないだろう。夕焼けを見ながら『ブラック・メタル』を聴いていると、えも言われぬ哀愁を感じる。ディーン・ブランドのくたびれた歌声と女声ヴォーカルとの掛け合いは、僕のブルーな気持ちをずいぶん和らげてくれる。ハイプ・ウィリアムスという先入観なしで聴くべきだった。
 とはいえ、ムーディーなまま終わるわけではない。『ブラック・メタル』は後半からじょじょに姿を変えていく。ダブがあり、ノイジーなビートがあり、最後のほうには最高のテクノ・ダンストラックも収録されている。


David Bowie - ele-king

 僕は、昨年、『Jazz The New Chapter』という本を2冊出した。それは、それだけジャズ・シーンは新譜が充実していたからこそできたものだし、同時にいまは黄金時代と呼んでもおかしくないくらいに次から次へと新しい才能が出てきているような状況だからこそ出せたというのもある。今年、ティグラン・ハマシアンにインタヴューしたときに、彼が「いまは才能あるミュージシャンがたくさんいる。僕はこの時代に生まれてラッキーだった。」というようなことを言っていたが、当事者が自覚するほど充実しているのかと思ったものだ。

 さて、そんな中でジャズとヒップホップの蜜月は日々取りざたされている。ロバート・グラスパーの周辺のミュージシャンたちがコモンやマクスウェル、Q-Tipといったアーティストのサポートをしているだけでなく、今年はジェイソン・モランやマーク・ジュリアナがミシェル・ンデゲオチェロとコラボレートし、新作のリリースが決まったディアンジェロはクリス・デイヴをバンドの核に据えている。ブラック・ミュージックの世界では、彼ら新たなジャズ・ミュージシャンの存在がサウンドを決めているケースも多いと言っていいだろう。ただ、ロックの世界はとなると、そんなケースがまだ見られなかったのが実情だった。ディアンジェロにおけるクリス・デイヴのように、ロックで真っ先にジャズの最先端を起用するのは誰か。進化する生演奏を取り込むことができるロック・ミュージシャンは誰か。そんなことをいつも考えていたが、まさかそれがデヴィッド・ボウイだとは思いもよらなかった。

 この「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」で、ボウイはマリア・シュナイダー・オーケストラとのコラボレーションを選択した。マリア・シュナイダーは、マイルス・デイビスとの数々の仕事でジャズの歴史を作ってきた伝説的な作編曲家ギル・エヴァンスの弟子のひとりであり、現在ではジャズ界最高のビッグバンドを率いる作編曲家だ。グラミー賞をジャズとクラシックの両部門で受賞していることからもわかるように、その楽曲はジャズの躍動感とクラシックの洗練が共存している唯一無二、マリア・シュナイダーならではのサウンドに彩られている。さらにブラジル音楽やタンゴ、スパニッシュなど、さまざまな要素を自在に取り込む柔軟性も持ち合わせ、そのサウンドは日々進化している。

 なかでも特徴的なのが、アグレッシヴな力強さと柔らかなテクスチャーの両方を自在にコントロールする鉄壁のホーン・セクション。代表曲の”ハング・グライディング(Hang Gliding)”ではハンググライダーが地上から離れ、ぐんぐん高度を上げ、時に気流に巻き込まれながらも上昇し、最後に大きな風をつかまえて悠々と空を泳ぐ状況が描かれるが、その風や気流の動きが手に取るようにわかるのがこのバンドの最大の魅力だろう。楽器を完璧にコントロールできる名手たちの繊細な演奏が「空気の動き」さえも表現してしまうのだ。

 そんなマリア・シュナイダー・オーケストラをボウイはロックの文脈で見事に乗りこなしてしまった。ただし、そのために的確な調整を加えているのが、ボウイ(&プロデューサーのトニー・ビスコンティ)とマリアのすごさだろう。

 マリアは昨年クラシックでグラミー賞を受賞したことからもわかるようにどちらかというと正確さや繊細さに重きを置いてきたこともあり、近年はギターがロックやエレクトロニック・ミュージックもイケる個性派ベン・モンダーから、セロニアス・モンク・コンペティションの優勝者でもある若手のラーゲ・ルンドに変わっていた。それがこのロック仕様バンドではあえてベン・モンダーを呼び戻している。彼女の1995年の『カミング・アバウト(Coming About)』では、ベン・モンダーがエレキギターでノイズを振りまいているが、そのころを思い起こさせるサウンドがひさびさに聴けたという意味でマリア・ファンには貴重なセッションとなったと言える。そして、同じように当時はクラリネット奏者のスコット・ロビンソンがバス・クラリネットで、ブリブリゴリゴリとフリーキーなフレーズをぶちかまして不穏な空気を加えていたが、ここでもそれが復活している。ノイジー&エレクトリックなサウンドでジミ・ヘンドリックスをカヴァーしたりしていた師匠ギル・エヴァンスのサウンドを彷彿とさせる初期のマリアのサウンドが帰ってきたと言っていいだろう。

 そして、最大の変更点は現在ジャズ・シーンの最先端といえる奇才ドラマー、マーク・ジュリアナの起用だ。これまでマリアのバンドでは不動のドラマー、クラレンス・ペンがいた。マリアが書くあらゆるサウンドをあらゆるリズムを一人で叩き分ける驚異のドラマーのクラレンスにマリアは全幅の信頼を寄せていたはずだ。それをここではマーク・ジュリアナを起用し、ロック仕様に一気に振り切ってみせた。おそらくマリアのバンドのソロイストでもあるダニー・マッキャスリンが自身のアルバム『キャスティング・フォー・グラヴィティ(Casting for Gravity)』でドラムにマーク・ジュリアナを起用していることから、ダニーつながりで起用されたと思われる。この作品はボーズ・オブ・カナダの”アルファ・アンド・オメガ(Alpha & Omega)”を生演奏でカヴァーするなど、エレクトロニック・ミュージックをジャズ化する試みが成功し、グラミーにもノミネートされた傑作だ。その胆はマークのまるでマシーンのようなビートだ。現在、ブラッド・メルドーとのデュオ・ユニット、メリアーナで世界中を驚かせているマークは、スクエアプッシャーやエイフェックスツインからの影響を公言するようにエレクトロニック・ミュージックのビートを生演奏ドラムでトレースし、さらにそこにインプロヴィゼーションのスリルを乗せ、ドラム演奏の新たな可能性を提示している奇才だ。
 この”スー”でも、疾走するポリリズミックなドラミングがロックの耳にも耐えうるパワフルなグルーヴを与えているだけでなく、シンバルとスネアの乾いた響きを軸に、手数は増えても音色は増やさずに最小単位のフレーズのシンプルなループを軸にしたマークならではのびっちびちにタイトなドラミングが楽曲に新鮮な響きをもたらしている。そっけないまでに音色を絞ったフィルなども含めて、ミニマルかつミニマムなドラムはロックとテクノを通過した耳で聴けば、そのすさまじさに気づくことができるだろう。現在ジャズ・ミュージシャンが提示できるもっとも新たな可能性がここにはある。

 しかし、この最新形ジャズ・ドラマーを扱ったのがデヴィッド・ボウイだとは。次はダーティー・プロジェクターズ的なマーク・ジュリアナらと近い世代のロック・バンドに扱ってもらいたいものだ。この曲が、そんなジャズとロックの蜜月がはじまってくれるきっかけになることを願って。



David Bowie: Vocals

Maria Schneider Orchestra:

Maria Schneider: Arranger, Conductor
Donny McCaslin: Tenor Soloist
Ryan Keberle: Trombone Soloist

Jesse Han: Flute, Alto Flute, Bass Flute
David Pietro: Alto Flute, Clarinet, Soprano Sax
Rich Perry: Tenor Sax
Donny McCaslin: Soprano Sax, Tenor Sax
Scott Robinson: Clarinet, Bass Clarinet, Contrabass Clarinet

Tony Kadleck: Trumpet, Fluegelhorn
Greg Gisbert: Trumpet, Fluegelhorn
Augie Haas: Trumpet, Fluegelhorn
Mike Rodriguez: Trumpet, Fluegelhorn

Keith O'Quinn: Trombone
Ryan Keberle: Trombone
Marshall Gilkes: Trombone
George Flynn: Bass Trombone, Contrabass Trombone

Ben Monder: Guitar
Frank Kimbrough: Piano
Jay Anderson: Bass
Mark Guiliana: Drums
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972