「Nothing」と一致するもの

interview with Takashi Hattori - ele-king


服部峻 - Moon
noble

ElectronicJazzSynthExperimentalProg.

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 2013年の暮れにひっそりと、だがレーベルオーナーの強い熱意とともにリリースされたミニ・アルバム『UNBORN』を耳にして、作曲家・服部峻の並々ならぬ才能に末恐ろしさを感じさせられた聴き手は少なくなかったことにちがいない。ミニマリスティックに反復するバス・クラリネットの響きから始まるそれは、ジャジーなドラムスが演奏に加わると、少しずつ何かがゆがみ、ねじれ、気づけばどことも知れぬ夢幻の世界に聴き手を誘っていく。眼前にありありと演奏する姿が浮かぶほど緻密に構築された「生音」のあたたかさが、しかしけっして現実世界にはありえないような仕方で、奇妙な空間を導出していく。眼にしたはずの演奏者は、具に観察してみるならば、いまやヒエロニムス・ボスの絵画のように不可解だ。今回のインタヴューで服部峻はなんどか「快楽成分」なる言葉を発していたが、正しく彼の音楽から聴こえてくる狂乱は「快楽の園」だった――だがすぐさまそうした連想を断ち切るようにしてひややかなグリッチ・ノイズが通り過ぎてゆく瞬間に、聴き手はこれが現代の楽園であることにいまいちど刮目させられることになる。それは録音芸術のひとつの幸福なありかたとでも言えばいいだろうか。

 ふだん生活する世界においてさえ、過剰に有意味化された「無音」とまるで意味が剥落した「騒音」とに取り囲まれながら、音盤を前にしたわたしたちは果たしてなにを聴いているといえるのだろうか? 少なくとも服部峻の音楽において「聴こえない音楽」を云々することは徒労だ。それに聴覚的類似から「現代音楽」や「民族音楽」や「ジャズ」や「ノイズ」やその他のあらゆる既成のジャンルを並べ立てて彼の音楽を語っても仕様がない。それはそうした言葉を闊達自在にすり抜けていく。そしてこの意味で彼の音楽は優れてポップ・ミュージックなのである。だがそれは同時にわたしたちを「軽やかな聴衆」にしておくことにとどまるものではない。楽園として立ち現れた服部峻の音楽が、アップル・ミュージックを渉猟する現代の聴き手に対して投げかける「聴こえない問い」を、快楽のただなかで手掴みにする機会をも与えてくれるからである。

 そして前作の発表からちょうど2年が経ったいま、服部峻の新たなアルバム『MOON』がリリースされる。初のフル・アルバムであり、来年公開予定の映画『TECHNOLOGY』のサウンドトラックでもある。音だけ先に届けられた。それはアルバムがたんなる映画の付属品ではないことを意味する。だがたしかに映画がなければ生まれ得ない作品でもあった。その理由は下記インタヴューをご参照いただければと思う。今回のインタヴューでは、これまでほとんど謎に包まれていた作曲家・服部峻の経歴から音楽観までを語っていただいた。もちろんアルバムのことも。『UNBORN』の制作過程の話であったり、『MOON』の誕生秘話といったものが、彼の音楽に新たな視点をもたらすことになるだろう。

■服部峻 / Takashi Hattori
大阪在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年12月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を〈円盤レコード〉より発表。2015年11月、自身初のフル・アルバム『MOON』を〈noble〉よりリリース。

中学を卒業すると同時に大阪から上京して一人暮らしをはじめたんですが、渋谷のタワレコが好きで、よく5階のニューエイジのコーナーに行っていたら、ちょうど菊地成孔さんの『デギュスタシオン・ア・ジャズ』が発売されていて。

さっそくですが、服部さんがこれまでどのように音楽と関わってきたのかを、とりわけ最初のアルバム『UNBORN』より前のことを教えていただけませんか。

服部:最初に音楽に触れたのはピアノ教室に通っていたときですね。母が音楽療法士だったこともあって小さい頃から習わされていたんです。そこに通いながら、小学校の高学年になる頃には家で作曲をしたりしていて。もっと高度なこともやりたいと思って、中学3年生のときには音楽学校に通って、MIDIの打ち込みを教わってアレンジの手法を勉強したりしていました。中学を卒業すると同時に大阪から上京して一人暮らしをはじめたんですが、渋谷のタワレコが好きで、よく5階のニューエイジのコーナーに行っていたら、ちょうど菊地成孔さんの『デギュスタシオン・ア・ジャズ』が発売されていて。それまで菊地さんのことは知らなかったのですが、調べてみると東京大学でジャズの講義をしているとあって、面白そうだから通ってみることにしました。

のちに『東京大学のアルバート・アイラー』として書籍化された講義ですね。

服部:そうです。15歳だったんですが、高校をサボってモグりにいってました(笑)。そしたら9月に映画美学校というのが開講して、そこで菊地さんが音楽理論の講師を務める、と聞いたので、これは行くしかない! と思ってそこに通うことにしました。だから菊地成孔さんからは強い影響を受けていると思います。そのころはライヴとか、音楽活動らしい活動はしてなかったのですが、楽曲を制作してデモテープを送ったりということはしていて。そしたら音楽ディレクターの加茂啓太郎さんに声をかけていただいて、あるレーベルのデビュー予備軍としてスタジオを使わせてもらえるようになったんです。エレクトロニカのアーティストとして。でも当時ぼくは高校生で一人暮らしをしていて、生活していくのが精一杯で、体力がなかったというか、あまり曲が作れなかった。10代の終わりになってからやっと根性が出てきたというか、楽曲制作をこなしていくことができるようになったというか。だからそのときはあまり期待に応えることができなかったし、積極的に音楽活動をしていたというわけでもなかったですね。

服部さんはそれまでどのような音楽を聴いていたんですか?

服部:子どもの頃はクラシック音楽をよく聴いていて、エリック・サティが好きだったので真似して曲を作ったりしていました。でもやっぱり上京してからいろいろな音楽を聴きだすようになって、そっちの影響のほうが大きいと思います。映画美学校の岸野雄一さんとか、その界隈の方たちにいろいろ教えてもらったりして。それと、同じ時期に菊地さんの東大講義をサポートしてる団体主催のインプロ・ワークショップがあったんですね。それをジャズのアドリブのワークショップだと思い込んで応募してみたら、ジョン・ゾーンのコブラをやることになって、想像していたものとぜんぜんちがった(笑)。でも遊び感覚で参加することができてとても楽しかったです。横川理彦さんとかイトケンさんとか、外山明さんなんかが講師を務めていて。その時に横川さんから「ディアンジェロを聴いてみたらいいと思う」って言われて……。

ジャズのアドリブのワークショップだと思い込んで応募してみたら、ジョン・ゾーンのコブラをやることになって。(中略)その時に横川理彦さんから「ディアンジェロを聴いてみたらいいと思う」って言われて……。

インプロのワークショップでディアンジェロを勧められたんですか(笑)?

服部:そうなんです(笑)。でもそのときに初めてディアンジェロを聴いて、ものすごく感銘を受けて、いまでもブラック・ミュージックは大好きです。

コブラには何の楽器で参加されたんですか?

服部:カシオトーンを持っていたのでそれで参加しました。僕そんなに持っている楽器の数は多くなくて。すでにプロツールスを持っていたので、それを使ってエレクトロニカだとか、電子音楽ですね、そういうのを作っていたので。当時から完全にラップトップ派です。そこからまた欲深いんですけど、映像なんかも作りはじめたりして、映像と音楽を合わせてYoutubeにアップしたりしました。

現代音楽や、実験音楽と言われるようなものは好んで聴いたりしていましたか?

服部:高校生の頃はよく聴いていたんですけど、じつはそういう路線に傾倒したりはせず、いまはポップスばかり聴いているんですよ。電子音で終始「ピーーーーー」って鳴ってるだけみたいな、ああいうのはあんまり聴かない。池田亮司さんなんかは音圧の快楽みたいなところで攻めてくるから「サイコー!」だと思うんですけど、もっと堅苦しい、アート寄りのコンセプチュアルな音楽は、なんだか血が騒がないというか、音楽としての快楽成分が少ないっていうのかな。調性がないじゃないですか。いまはフランク・オーシャンとかクリス・ブラウンとかにハマってます。

現代音楽でもたとえば、ミニマル・ミュージックとかは快楽的なものもあると思うのですが、どうですか?

服部:はい、フィリップ・グラスとか大好きです。でも好きなアーティストは誰かって訊かれたら、やっぱり宇多田ヒカルとかになってしまう(笑)。でもポップスって盛り込む要素に比重がかかっているじゃないですか。何をテーマにするか。そういうのは楽曲制作をするときにすごく参考になります。

やっぱりぼくは音楽としての構造がギリギリあるものの方が好きなんです。完全にフリーっていうのはあまり……。「むちゃくちゃ」って快楽成分を感じないというか。

上京していきなりコブラに参加されたようですが、即興音楽に興味が向かうことはなかったんですか?

服部:そうですね……やっぱりぼくは音楽としての構造がギリギリあるものの方が好きなんです。構造がなくなるギリギリの領域で、かろうじて保たれている音楽というか、本当はあるんだけど瞬間的になくなったりもする、というような。完全にフリーっていうのはあまり……。「むちゃくちゃ」って快楽成分を感じないというか。やっぱり人間は、人類共通の感覚というのか、うれしいときには笑顔になるし、悲しいときには泣く。ものを食べたときの「おいしい」という感覚とか「いい匂い」みたいな価値観って、言語とか肌の色とか関係なく、そこは世界共通。音楽を聴く上での「気持ちよさ」にも、きっと人類に共通する感覚があると思うんですね。DNAに刷り込まれてるというか。
 だから、たとえば現代音楽の世界でいくら「新しいことをやっている」と言われても、人間が本来「気持ちいい」と感じる共通的な価値観からあまりにも乖離したものだった場合、ぼくはあまり魅力を感じない。退屈な音楽だなと感じると思う。やっぱりどこかにそういう「聴いていて気持ちいい」要素は絶対あってほしいと思うし、自分が作る音楽には入れたいと思う。「テクノロジーとしての目新しさ」に固着するんじゃなくて、新しい快感、今までにない旨み成分のようなものを音楽で模索したいなと思っています。一言でいうと、血が騒ぐ音楽ですよね。たとえば黒人音楽にはブルーノートとかフェイクとか、十二音階の鍵盤の、外側にある領域、ピッチがぐにゃりと可塑する瞬間があるじゃないですか。ピアノの外にある音、そういうものにこそ魅力があると思っていて。リズムとかも、ディアンジェロは完全にズレているわけじゃないですか。でもきっちりと刻んでしまうとグルーヴは生まれてこない。どこかズレていたりヨレていたり、はみ出ていたりするところに快楽成分が潜んでいるんだと思うんです。だからそういうものを独自に研究して自分なりのアプローチで、いままでにない「聴いていて気持ちいい・新しい発見のある」音楽を作っていきたいと思っています。

“Humanity”という楽曲を制作している途中にちょうど震災と福島の原発事故が起きたんですね。あれで自分のなかから複雑な調性音楽が湧き上がってきたというか

そうした音楽がひとつの作品として結実したものが前作『UNBORN』でもあるわけですね。あのアルバムはどういった経緯で制作していったんですか?

服部:曲作りはずっと続けていて、高円寺にある円盤というレコードショップの店長、田口さんからCDを出さないか、というお話をいただいたんです。それで既存の3曲と、お話をいただいてから新たに作った3曲の、合計6曲でアルバムを完成させたのですが、そのころから音楽活動にもやっと本腰を入れ始めたというか。それまでは自分の作風があまり固まっていなかったんですが、なんとかしてアルバムをまとめなきゃ、とにかく作品として仕上げなきゃ! と『UNBORN』を制作していくなかで、徐々に自分の作風も固まっていったと思います。

アルバムを制作することが音楽活動に向かうきっかけになったんですね。

服部:はい。でもたんにアルバムが完成したから作風が固まったというわけでもないんです。『UNBORN』に収録されている“Humanity”という楽曲を制作している途中にちょうど震災と福島の原発事故が起きたんですね。あれで自分のなかから複雑な調性音楽が湧き上がってきたというか。震災の衝撃のようなものを受けて、自然と自分の作風が変わっていった。それまではのほほんと曲を作っていたんですけど、そういった安全な場所から世界が転がり落ちていくような感覚を体験して、インスピレーションのようなものを得たといいますか。精神的なダメージは大きかったんですけど、原発事故のニュースなんかを見ていると、どんどんアイデアが出てきた。そこから、放射能についてとか、電力のこととかいろいろと調べていくうちに、変な話なのですが、アーティストとして表現欲をものすごく掻き立てられて。だからそれ以降の作品は作風が変わりました。“Humanity”を完成させるのに拘らず、丁度、長い曲というのもあっていろいろと実験してみたんです。

アルバム制作と重なるようにして起きた震災と原発事故が服部さんのなかで音楽活動の境目になっているということですね。

服部:そうですね。それ以前は私生活ものんびりだったので(笑)、このままじゃいけないと思って。やらないと、って。なのでじつは『UNBORN』っていうタイトルにも、そういう意味を込めたんです。日本がこれからどうなるかはわからない、でもここを境に新しい人たちがどんどん出てくるだろうっていう意味を。いまは時代の変わり目なんだけど、未来は予測不能な状態にあるじゃないですか。でもまだ誕生していないけど、絶対に何かが生まれ出てくるはずだという確信だけはあったんです。「渦中の音楽」。それをタイトルに込めました。

『UNBORN』に収録されている楽曲のなかで震災前に作っていたのはどれなんですか?

服部:後半の“World’s End Champloo”と“Lost Gray”の2曲が完全に震災前で、“Humanity”が震災を跨いでいて、前半の3曲が震災後の新曲なんです。ちなみにタネ明かしすると、『UNBORN』っていうアルバムは楽曲の制作順序と逆に曲順を並べていて、それは宇多田ヒカルのベストアルバムの真似ですね(笑)。まぁそれはいいんですけど、やっぱり震災前に作った曲を聴き返してみると、かわいらしいというか、作風がちょっとちがうなと思う。今回のアルバム『MOON』は当然「震災以降」の作風で統一されてますが、『UNBORN』は「以前」と「以降」が境目を跨いで同居した作品なんです。

Takashi Hattori “Humanity”

“World’s End Champloo”はもともと映画に使われた楽曲だったと聞きました。

服部:そうなんです。ぼくの友だちで映画監督の遠藤麻衣子さんという人がいて、彼女が沖縄を舞台にした『KUICHISAN』っていう映画を撮ったんですね。高江って場所を知ってますか? 沖縄の東村にあるジャングルみたいなところで、いまヘリパッド問題っていう政治的な問題も抱えてて。パワースポット的なスポットでもあって、時空が歪んでる場所。その高江に住んでる音楽家の石原岳さんの三男の子が主演を務めていて。高江自体は映画の中心的な舞台ではないんですが、シーンとして映っています。この映画のエンドロールに使われている楽曲で、沖縄が舞台なので“World’s End Champloo”という曲名にしました。インディ映画なので、日本で大々的に上映とかはしてなくて、非流通の作品なのですが。それが遠藤監督の第1作。去年、次の2作めを撮るから同じように音楽をやってくれと頼まれたんですよ。『UNBORN』を発表したら、やっぱり反響があって、ちょうど新しいアルバムを出さないかという話もいただいていたんですね。だから最初はサントラとしてアルバムを出そう! と思って、遠藤監督の誘いも引き受けました。

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西洋のテクノロジーと東洋のテクノロジーの衝突がインドを舞台に起こっている、というような内容なんですが、「これはインドに行かないとわからない」って言われて、それにはぼくも納得したんです。すぐビザを申請して、飛びました。

遠藤麻衣子さんとはどこで知り合ったんですか?

服部:バンドで知り合ったんです。自分がリーダーだったわけではなくて、シンセノイズで参加していたバンドがあって。高円寺の〈円盤〉では10代のときにちょいちょいライヴしてました。でもバンド自体はぼくも遠藤もそんなにやる気がなくて。だからそこで知り合ったけどバンドはすぐ辞めて、二人でよく遊んだりしてたんです。で、そんな彼女の頼みだから、2作目の映画音楽の話も引き受けたんですけど、最初はなかなかうまく曲が作れなかった。
 インドを舞台にした『TECHNOLOGY』という映画なんですけど、実験的な内容で、プロトタイプの映像を見て、反応に困ってしまったというか。ストーリーがあるわけでもないし、セリフもあまりなく、結末も「ヌヌ~ン……」みたいな映画で。だからどういう音楽をつけたらいいのかアイデアが浮かんでこなかった。それで遠藤にあれこれ問いただして、最終的に喧嘩みたいになっちゃったんです。自分としては、本当は協力したいけど、内容が内容なだけにやりたくないって。彼女がどんな曲を求めているのかスケッチされたノートも送ってもらったりしたんですけど、そこには「全てを超越した音楽」とか「神が眠る音楽」とか抽象的なことしか書いてなくて、その文章がまた映画の内容とも乖離してる。それでスカイプでまたミーティングして、最終的には口論になり、終いには「ほんとバカ」みたいな悪口の言い合いになってしまった(笑)。そのときに「そんなにできないんならお前、インドに行ってこい!」って言われて、その時はインドなんて本当に行けるとも思っていなかったので、「行ってやらぁ!」って言っちゃったんですね。それがトントンと話が進んで、9月に本当に1週間だけインドに行けることになったんです。遠藤は、今回の映画で「西洋と東洋の文明衝突」みたいなものをテーマにしていて、西洋文明が最近うまく機能しなくなっていて、それを東洋の文明が飲み込みかけている、その西洋のテクノロジーと東洋のテクノロジーの衝突がインドを舞台に起こっている、というような内容なんですが、「これはインドに行かないとわからない」って言われて、それにはぼくも納得したんです。すぐビザを申請して、飛びました。
 ぼくは海外には、いままでニューヨークとかオーストラリアとかコペンハーゲンには行ったことがあったのですが、アジアには行ったことがなかったんです。だから初めてのアジアで、インドの下調べもせずに、ツアーでもなく。とにかく現地で見るもの見てこなきゃ、という状況。何が何でもインスピレーションを得ないといけない。それで、一週間しかないし、ぼくは英語も話せないのでやっぱり本当に大変でしたね。最終的にニューデリーとアーグラとワーラーナシの、北インドの3都市を回ったんですけど、やっぱり刺激的で、これはオリジナル・アルバムとしても作れるかも、という今回のサントラ兼オリジナルアルバムという複合コンセプトも浮かんできて。それに原点の映画音楽の製作も、インドを巡って見聞きしたものを、そこから出てきた激しいアイデアをとにかく形にすれば遠藤監督の映画にも合うんじゃないかとも思って。

ニューデリーとアーグラとワーラーナシの、北インドの3都市を回ったんですけど、やっぱり刺激的で、これはオリジナル・アルバムとしても作れるかも、という今回のサントラ兼オリジナルアルバムという複合コンセプトも浮かんできて。

それで帰ってきてすぐ楽曲制作に着手しようとしたらぶっ倒れてしまった。約3ヶ月間、耳も聞こえなくなってしまったんですね。帰国直後は、鼓膜が詰まってしまったのと、副鼻腔炎っていうのを発症してしまったのと、あと肺もやられて喉もやられて。熱も出てお腹もこわして。皮膚まで膿んできたんですよ。全身ダウン状態でした。だから曲を作り始めたのは2015年になってからなんです。トップバッターでデリーをイメージした“Old & New”っていう曲がすぐにできたんですね。これは映画のためというよりも自分がインドで体験したことをもとに作ったんです。でもそれを監督に送ったらとても気に入ってもらえて。そこから他の曲もどんどん作っていきました。映画のほうも第2稿第3稿と映像が送られてきて、それを見ているとだんだん言いたいこともわかってきた。で、“Old & New”で使ったフレーズを別の曲にも使ったりして、他の曲に広げていくと、こんどは広がりすぎて映画の中で使いきれないほどアイデアがどんどんできてきて。映画のオーダーにはないけど気に入った音の素材ができたとき、それを発展させて一曲に仕上げて送ったり。『MOON』は最初はサントラとして引き受けて、予定では6曲くらいの感覚だったのですが、インドから帰ってきてどんどん構想が膨らんで、これはフル・アルバムにできると確信して、最終的には12曲になった。実際の映画に使われているのは曲のほんの一部分だったりが多いので、『MOON』は純粋なサントラとは言えないし、でもオリジナル・アルバムとまではいかないし、だからとても特殊な作品に仕上がったと思います。音楽的にもヴァラエティ豊かでエキセントリックなものになりました。

『MOON』はアルバムの冒頭からサックスがフィーチャーされているのがとても印象的なのですが、それには何か意味があるんですか?

服部:『TECHNOLOGY』に出てくる男の子がサックスを吹くんですよ。なので映画を観ていただけたらアルバムの楽しみ方も広がってくると思います。たとえば他にも、5曲めの“Rickshaw”っていう曲は、映画でも使われているんですが、アルバムに収録されている音源とはちがっていたり。だから映画で使われている音源と『MOON』というアルバムのなかに収録された楽曲との差異も楽しんでもらえたら、と思います。

インドの楽器を多用しているのも映画との関連からなんですか?

服部:そうですね。やっぱりオーダーがあるので、それは参考に作っています。あと高校生のころにタブラ・マシーンを渋谷の楽器屋さんで買って、それを録音して使ったり。ほとんど使っていなかったんでやっと日の目を見ることができました(笑)。

ふだんインド音楽を聴いたりはしていたんですか?

服部:はい、もともとワールド・ミュージックが好きだったのでけっこう聴いてはいました。もしも映画にストーリーがあって、ドラマがあったりしたら、曲もそれに寄り添ってインド音楽のようにしようと挑戦したかもしれないですけど、そこまでオーダーもなかったですし、実験色の強い映画なので、音楽も好き放題にできました。遠藤監督もその方向を求めていたと思います。

仲直りはできたんですか?

服部:喧嘩はいまだに根をひいていますね……。

(笑)

服部:映画が完成したら「よかったね」ってなるかもしれないですけど。

じゃあ来年になるんですかね。

服部:そうですね。当初の予定では今年中の完成を目指していたんですけど、映画の製作はやっぱり資金面が大変みたいで、来年完成、公開予定です。

ぜんぶ打ち込みで作ってます。打ち込みというのもアレだし、本当は「魔法です」って言いたいところなんですけど。既存のループを貼りつけているわけじゃなくて、フレーズは細かいところまでひとつひとつ作曲してピアノロールに打って作ってます。

『UNBORN』と比べて、『MOON』では制作手法を変えたりはしましたか?

服部:インドに行って自分のなかで浮かんできたものなんですけど、今回は主旋律をあまり使わないようにしました。『UNBORN』はほぼ全曲に主旋律があるんですよ。でも『MOON』では“Pink”っていう曲以外はほぼ主旋律がないんです。これは映画の中で結婚のテーマみたいな感じで使われる曲なんですけど。今回はループ・フレーズを多用してますね。

サンプリングした音源を貼り付けたりしているんですか?

服部:いや、「Logic」を使ってぜんぶ打ち込みで作ってます。打ち込みというのもアレだし、本当は「魔法です」って言いたいところなんですけど。既存のループを貼りつけているわけじゃなくて、フレーズは細かいところまでひとつひとつ作曲してピアノロールに打って作ってます。なので音程を微妙に上げたりとかできるんですよ。アーティキュレーションを変えたりとか。

それは何かの生演奏を参照してそういうニュアンスを付け加えていくんですか?

服部:うーん、というよりは頭の中でできることを何でもやってしまいたいと思っていて。とにかく細かいところまで作り込みたいので。ちがうアーティキュレーションを何回も書き出して、それで上手くいくのを採用したりしているんです。シンセとかでもランダマイズさせて10回ほど書き出して、同じフレーズでも10通りの波形ができるので、ポイントポイントでいちばんいい瞬間っていうのを切り抜いて、フェードで繋げてひとつの音にするのがぼく得意なんです。ずっとエレクトロニカを作っていたからそういう波形編集が十八番なんですね。ぐにょぐにょって変化する音が得意というか。ひとつにつながっているんだけど、ぐにゃぐにゃ変わってくみたいな。なので音色的には楽器なんですけど、生音を目指しているというわけではなくて、どっちかというとむしろパソコンを使った制作でしかできないような表現をやりたいと思っています。だから実際のアーティキュレーションを忠実に再現させたいかというとそういうわけでもない。実際の楽器にはあり得ないオクターブの飛び方とか、息継ぎのない木管系のグリッサンドとか、ユニークなほうが聴いてて面白いし、自分も作ってて面白いと思える。バンドでの活動だったりすると、ミュージシャン同士のセッションで次にどうなるかわからない、何が起こるかわからない要素を楽しみながら作り上げていけるじゃないですか。ひとりでの制作の場合、とくにインストって精神世界そのものみたいな感じで、とにかく浮かんでくるものをできるだけ形にしようと思っています。

実際のアーティキュレーションを忠実に再現させたいかというとそういうわけでもない。実際の楽器にはあり得ないオクターブの飛び方とか、息継ぎのない木管系のグリッサンドとか、ユニークなほうが聴いてて面白いし、自分も作ってて面白いと思える。

服部さんの音楽を生演奏で実現させたいと思うことはないんですか?

服部:ありますあります。むしろ理想はぜんぶ生演奏というか、実演したいですよね、曲のとおりに。ただ実際にやるとなると難しすぎて弾けないんですよね。早すぎて。だから困っていますが、いつかオーケストラを使って本当にやれたらなと思っています。

生演奏を参照していないだけに、実現困難なアーティキュレーションを施したりしていますよね。

服部:そうなんですよ。自由に作っているので。あとスケールも頻繁に変えてしまうので、実際にやるとなると、たとえばピアノだと1小節ごとに4回チューニングを変えなきゃならなかったり。だからまずはそれを演奏できるピアノを開発しないと駄目ですね(笑)。

電子楽器だったらできそうですけどね。

服部:そうそう、電子楽器だったらできるんですけど、とにかく実演したいです。

生音と電子音というと、たとえば最近は初音ミクに代表されるボーカロイドを使って、デスクトップ上で「声」を生成することもできるようになっています。服部さんはご自身の楽曲制作にボーカロイドを取り入れようと思ったことはありませんか?

服部:現状としてはあまり好きな音ではないですね、でもやっていることはじつは自分といちばん近いと思っていて。曲作りのやり方が。ノートを振って指令を出すわけじゃないですか。こういう歌い方でここを曲げてとか。でもボーカロイドを使った優れた作品はどんどん出てくると思う。いまはまだ音がガビガビというか、いかにも「機械」な感じで、その感じがむしろ好まれている節もあると思うんだけど。今後技術的にも確実に進歩していくだろうし、たとえば忠実にマライア・キャリーみたいな声質で、しかも張りあげ声からホイッスルヴォイスから、デスヴォイスやウィスパーヴォイスだったりが、ぜんぶ再現できるようになっていくと思うんです。それで椎名林檎みたいな歌詞を歌わさせられる。そうなったらぼくもボーカロイドに手を出すと思います(笑)。そういうことができるようになると、そうとう面白くなってくると思う。あれも究極のひとりミュージックじゃないですか。ぼくもひとりで作る音楽というのを突き詰めていきたいので、ボーカロイドを使った作品にはつねに注目はしています。

クリス・ブラウンとか宇多田ヒカルとかが大好きなんです。だからそういう音楽もやりたいんですよね。でもそれと並行して自分の表現も続けていきたいですね。ひとりでやる音楽だと、じつはもう次にどんなアルバムを作ろうか考えているんです。でも完成させるのに10年くらいかかりそう。

お話をうかがっていて、服部さんにとっての「電子音」は、「生音」に対立する別のものというよりも、「生音」の概念を拡張していくものとして捉えられているように感じます。

服部:やっぱり生の魅力っていうのはあるわけじゃないですか。たとえばデジタルと言われるものはつねにアナログの技術に押されてきたっていう側面がある。そういうアナログの魔力とか、生音の魅力にはどうやったって勝てない時代がずっと続いていたと思うんです。でも最近になってよくやく、デジタルでしかできない表現もどんどん増えてきて、ぼくはそれを追求していきたいし、それが面白いんです。いまだにアナログ至上主義者みたいな人たちはいて、そういう人たちはCDでさえ許せなかったりしますよね。レコードじゃないとダメっていう。でもデジタルの世界でも、ハイレゾ音源までいくと、そうでないと注ぎ込むことのできない情報量と、伝達の早さの魅力がある。アナログとデジタルはそれぞれ良さがあって、どちらかに甲乙つけるのはもはやナンセンスだと思います。
 音楽的にもデジタルでの作曲は、リアルでは再現できない領域の演奏が試せる。曲の小節間でチューニングを変えたりとか、フレーズごとにインストゥルメントを変えてフェードで繋げたりとか。生の楽器って、楽器そのものがもつ制限のなかで人間がどうやって演奏するのかという問題がある。でも機械のなかではそういった制限はないから、より自由な作曲ができる。そこは大きな魅力だと思います。ぼくはべつにアナログや生音のアンチなのではなくて、生音でもデジタル・ミュージックでも、どちらの世界も分け隔たりなく聞ける、リスペクトできる、純粋に楽しむことのできるような音楽シーン作りに貢献したいです。

ご自身の楽曲を生演奏で実現することのほかに、今後やりたいことはなにかありますか?

服部:さっきも言ったのですが、ぼくクリス・ブラウンとか宇多田ヒカルとかが大好きなんです。だからそういう音楽もやりたいんですよね。〈エイベックス〉とかそっち系で楽曲を提供する仕事をしたい。でもそれと並行して自分の表現も続けていきたいですね。ひとりでやる音楽だと、じつはもう次にどんなアルバムを作ろうか考えているんです。というかずっと前から考えていて、タイトルも曲順も決まっていて。でもそれは超大作というか、完成させるのに10年くらいかかりそう。本当はそれをデビュー作にしたかったんですけどね。でもそれがなかなか難しいので、『UNBORN』のなかにその伏線を張った曲を3つ入れたんです。とはいえ、とてつもなく時間がかかりそうなので、それを完成されられるかどうか、いまはまだなんとも言えません(笑)。

その構想しているアルバムは、実際に曲作りをはじめたりしているんですか?

服部:まだ着手はしていないんです。ライフワークじゃないですけど、ゆっくり作っていきたいと思っていて。そう考えるとやっぱり10年くらいかかるんじゃないかなぁ。でも、最近曲を作るスピードがどんどん早くなっているんですよ。『MOON』の最後に“Forgive Me”っていう曲があって、あれは映画のエンドロールに使われているんですが、15日間で完成させて、自分としては相当早かったんです。むかしは、たとえば“Humanity”なんかは1年くらいかけて作っていたので。だからこのまま曲作りのスピードが上がっていけば、10年も待たずにでき上がるかもしれないですよね。まぁ、いまはまだなんとも言えません(笑)。

素通りできないインストア・ライヴ - ele-king

 まだまだ魅せる、まだまだ聴かせる。フラットな世界、“匂い”を失ったトーキョーをスクリーンにして、トレンディ&アーバンなホログラムを踊らせる(かのように見える!)シンセ・ポップ・ユニット、Hocoriが、タワーレコード渋谷を舞台に観せてくれるものは何か──。
 インストア・ライヴの報が寄せられたが、それにともなってたくさん楽しい情報が連なっているようだ。ライヴ会場限定で販売されていた音源もタワーレコード渋谷店限定で購入可能となる模様。来週土曜はお店の前を素通りできないぞ!

 桃野陽介(モノブライト)と関根卓史(golf / SLEEPERS FILM)によるユニット Hocori[ホコリ]が、タワーレコード渋谷店1Fにて11月21日(土)にインストアライブを行うことが決定した。
 これはタワーレコード渋谷店のリニューアル3周年を記念して、「誰かのヒーローになれる服」をコンセプトに展開しているアパレルブランド”ユキヒーロープロレス”を率いる、新進気鋭のデザイナー・手嶋幸弘[テシマユキヒロ]氏とコラボレーションしたイベントにちなんでの出演となる。この日は、その他にもFREEDOMS所属の人気レスラー・葛西純[カサイジュン]選手らによる特別マッチ、そして2Fタワーカフェ横にユキヒーロープロレス常設ブースがオープンし、関連グッズや手嶋氏の感性でセレクトされたCDや書籍などが並ぶ予定だ。リニューアル”3”周年にかけてHocoriのインストアライブを含め、これら3つのイベントの参加者にはハズレなしの抽選会も今回のスペシャルDAYのみ、実施されるのでお楽しみに。

 さらにこれを受けて、ラフォーレ原宿と阪急うめだ百貨店のユキヒーロープロレスポップアップショップ及び、ライブ会場でしか販売されてこなかった、Hocori×ユキヒーロープロレスのコラボ盤「Tag」がタワーレコード渋谷店限定で11月*日(*)より販売されることも決定した。この作品は1st mini album『Hocori』のリリースに先駆けて発表されていた全3曲入りCDで、関根卓史がこの盤のために手がけたオリジナルミックスを収録。そして収録楽曲の歌詞や世界観からインスピレーションを受けた手嶋幸弘氏がジャケットデザインを手掛けた。店内には彼らのシンボルとなっている、世界で一つのHocoriオリジナルネオンサインも展開されているので、この機会にぜひタワーレコード渋谷店へ足を運んでみてはどうだろうか。

■「タワーレコード渋谷 3rd ANNIVERSARY NO ENTRANCE MUSIC , NO PRO-WRESTLING !!」
11月21日(土)13:00~15:00内 タワーレコード渋谷店1F
※観覧無料

■「Tag」
品番:CNBN-01
価格:¥1,080(税込)
収録楽曲:
1. Lonely Hearts Club(Tag mix)
2. Tenkeiteki Na Smoothie(Tag mix)
3. God Vibration Instrumental
※タワーレコード渋谷店限定販売

■収録曲「Lonely Hearts Club」Music Video


TOKYO BLACK STAR - ele-king

 アレックス・フロム・トーキョーが新設したレーベル〈World Famous〉(世界で有名)からの第一弾……Tokyo Black Starの新作EP「Edo Express EP」がリリースされてから早10日が経っている。
 ええと、アリックスクン……ではなくアレックスは、90年代後半の東京のアンダーグラウンド・シーン、それも当時“ディープ・ハウス”と呼ばれたシーンで活躍した在日フランス人DJで、ここ10年以上は、ずうっとニューヨークを拠点にワールド・フェイマスな活躍をしてらっしゃる(欧米/アジアの主要都市をはじめ、先日もはコロンビアでDJしたそうで、毎年必ずイスラエルでもまわしている)。「明日なき世界で暮らしているかのような熱狂」のなかで、DJをし続けているのだという。
 で、熊野功雄(エンジニアとして有名)とのプロジェクト、Tokyo Black Starの4曲入りの新作「Edo Express(江戸急行) EP」がレーベルの第一弾として先頃リリースされたってわけ。
 そのなかの曲、“Mitokomon”を聴いてみよう。

 なぜか江戸時代の政治家の名前が曲名になっているのだが、曲はとてもユニークな(アップセッターズがハウスをやったような)ラテン・ディープ・ラガ・ハウスで、主旋律はまるで昔の西部劇のようだ。
 彼らが好きなエレクトロ・ファンクな曲もあれば、“Meltdown”などという、電力自由化を控えた我々にとって、ある意味実に重たい主題を投げかけるような曲もある。いずれにせよ、密度の高い4曲です。ぜひレコード店で手にとって欲しい。

The Silence - ele-king

 ちょうど『ミスター・ロンリー』のころだからもう10年ちかく前になるが、来日したハーモニー・コリンの取材もあらかた終わり、90年代はいまよりいくらかましだったよな、と次の取材までに空いた時間をたがいに世の中への不平をあげつらいながらつぶしていると、そういえばきみはゴーストのメンバーだったっけ、と彼は不意にいう。ゴースト? あの日本のサイケデリック・バンドの? 私は聴きかえした。うなずくハーモニー。つぶらな瞳だ。ミスター・コリン、たしかに私はご覧のような長髪だし、ゴーストのリーダーの馬頭に取材したこともあるし、彼らは好きなバンドだがざんねんながらそうではない。私はそう返答しながらしかし内心ギクッとした。どれくらいギクッとしたかというと「ねじ式」でメメクラゲに刺された主人公に「あなたは私のおっかさんではないですか?」とつめよられる老婆ほどギクッとした。なぜハーモニーはそんなことを訊いたのか、その理由はトレンディドラマに出てきそうな配給会社の宣伝ウーマンが私たちのあいだに割って入ったのでこんにちにいたるまで訊かずじまいだが、ひとは他者のことばで事実以上の真実の回路をひらくことがある。

 ゴーストをはじめて聴いたのはPSFから92年に出たオムニバス『Tokyo Flashback』の第二弾で、ハイライズやマヘル・シャラル・ハシュ・バズ、四人時代のゆらゆら帝国、石原洋さんが率い、ピース・ミュージックの中村さんがメンバーのころのホワイト・ヘヴンにもちろん灰野さんの不失者といった錚々たる面々のなかでもゴーストのアコースティック・サイケデリック・サウンドはひときわ異彩を放っており、当時ちょうど二十歳で、サード・イヤー・バンドはおろか、アシッドのなんたるかも知らなかった私は彼らの静謐なミニマリズムの奥に青い熾火に似たものをくすぶらせるエソテリックなアンサンブルにただただ耳を傾けるしかなかった。彼らの単独作品を手に入れたのはそれから時間が経ってからで、PSFのファーストは翌年、94年のサード『Temple Stone』は次作『Lama Rabi Rabi』のレコードといっしょに買ったので、90年代後半、ゴーストはすでに〈ドラッグ・シティ〉との契約を契機に海外に主戦場を求めていた。といういい方のおそらく半分はただしくない。ボアダムスしかりゼニゲバしかり、90年代を境に日本のアンダーグラウンドが海外に積極的に打って出たのは、地理的音楽的越境性を顕揚する風潮に乗った部分はあるにせよ、資本による逆輸入を念頭にした戦略ではなく、それは音楽を聴くこと、いかに聴くかということと不可分ではなかったが、それをつぶさに検証するのは本稿の主旨ではない。もっとゴーストもその例外ではなかった。いやむしろもっとも成功した例のひとつといってもいい。冒頭のハーモニーの発言をご想起されたい。彼らのサイケデリックは無国籍のエキゾチシズムと、それを側面から異化する情緒的──これを和的と換言するのはいささかためらわれるが──な旋律をもち、その総和として彼らの世界はたちあらわれる。そこには要素の混淆があり、海外のリスナーが日本のバンドにいだくエキゾチシズムはおそらく、徹底したこの折衷と、そこにひそませた批評性にある。ゴーストはそれを生きた。90〜2000年代、彼らは作品を重ね、それらは初期の秘境的な空間性を、その空間に政治的な視点さえもちこみ高めるものだったが、2007年のライヴ盤『Overture: Live In Nippon Yusen Soko 2006』を最後に活動は間遠に。ここにおさめたライヴには私も足を運び、圧倒されるともに一抹の不安を憶えもした、といえば遡及的な短絡かもしれないが、音盤にも、ゴーストの存在証明、グループ名になぞらえれば、不在となることではじめて存在する幽霊めいた存在の証明をたしかにおぼえるものがあった。

 馬頭將器がザ・サイレンスを結成したのは2013年、ソロ・ツアーで訪れたスペインのサラゴサで旧知の岡野太との再会が契機となった。元サバート・ブレイズ、ライヴ・アンダー・ザ・スカイ(好きだったんです)で現在は非常階段の一員でもある岡野の来西は河端一のアシッド・マザーズに参加するためで、ふたりが会うのはゴーストの96年のアメリカツアー以来、じつに17年ぶりだった。馬頭はそのころ、長らく活動休止状態だったゴーストの解散を考えていたが、次の活動にふみきる手だてがなく、悶々としていた。ツアー中のあわただしい時間のなか、小一時間ふたりはホテルで話しこみ、ともに音楽活動をはじめることを約束し別れた翌年春、馬頭はゴーストの解散を宣言し、直後に岡野との新しいバンドの構想を得て、ゴーストの盟友荻野和夫に編曲とプロデュースを依頼、荻野はベースのヤン・アンド・ナオミのヤン・スティグター、バリトンサックスとフルートにブラック・シープの吉田隆一をハントし、荻野がオルガンとエレキ・ピアノを担当する布陣におちついた。バンド名はヨガの沈黙の行により、馬頭は「静寂はいかなる音圧よりも重く、耳を聾する程の静寂は意識と無意識の境界線上でのみ我らが表現し得る」という。

 今年3月にリリースしたセルフ・タイトルのファースト、間を置かず発表する本作『Hark The Silence』について、ゴーストとの異同をいえば、アコースティックを効果的にもちいた多楽器主義のそれを彷彿するところもあるが、かつて形式の影にみえかくれしていたものがザ・サイレンスではのびのびと羽をのばしている。ギターのファズ・サウンドとレズリースピーカーをもちいたオルガンのハードなサウンドメイク、馬頭の日本語の訛りの英詞による歌唱に寄り添う吉田のバリサクがときにワールド的にときに(昭和)歌謡的な妖しささえかもす『The Silence』を馬頭の無二のソングライターの資質と各人の間口の広さを聴かせるものだとすると、冒頭の三部構成の“Ancient Wind”でじわじわとたちあがり畳みかける『Hark The Silence』ではより直截に合奏の一体感に主眼を置いている。同時期の録音というこの2作は彼らの内実の充実を如実に伝えるが、そればかりか、たとえば『The Silence』の“Black Is The Colour of My True Love's Hair”、『Hark The Silence』の“Little Red Record Company”、“Galasdama”といったカヴァー曲では系譜を垣間見せると同時にある種の遊び心も感じさせる。無数のヴァージョンがあるアパラチアン・フォークのトラッド“Black Is The Colour”はニーナ・シモンというよりパティ・ウォーターズだし(吉田がジュゼッピ・ローガン役)、デーモン&ナオミの“Little Red〜”は人脈的な結びつきをほのめかすとともにうたもの(サイケ)でのアレンジの妙味を聴かせる。“Galasdama(ガラス玉)”は裸のラリーズのカヴァーとのことだが、「造花の原野」の文言を表題に引いたこの曲は“造花”の歌詞と曲を基調に“夜より深く”を接ぎ木したもので、間奏の八分の六拍子パートの躍動とその後のギターおよびヴォーカル・アレンジふくめ、ラリーズというよりサイケデリックなるものの解釈において一日も二日もの長をおぼえさせるだけでなく、“Ancient Wind”は造花の原野をも吹き抜けたのではないかと私の妄想をもトリップさせる、その一助となるのは近藤祥昭の手になる録音で、アナログの音質にこだわった音録りは“DEX #1”のマッスな音群も、“Fireball”の演奏の空間を、馬頭にならうなら耳を聾する沈黙の支配するそこを的確にとられている。このような心技体のそろったアルバムの国内リリースがないのは国民の耳が節穴だからか、〈Pヴァイン〉の〈ドラッグ・シティ〉担当者が社内でよほど虐げられているからにちがいないが、私たちはさいわいなことに海外のファンにはない地の利がある。フランク・ザッパの命日にあたる12月4日、秋葉原の〈グッドマン〉でザ・サイレンスはワンマン公演をおこなうという(来春には北米ツアーをひかえているとのことなので、ハーモニー・コリンもひと安心である)。ゲストは想い出波止場〜アシッド・マザーズの津山篤と東京NPO法人。NPOは「なかなかポジティブな男達」の略なのだそうだ。よくわからないが、忘れられない夜になるだろう。

NODA - ele-king

Old Grime Chart

2015年。オレたちは最高だと感じる瞬間を何度作り出せただろうか。
強度の高いイカした楽曲とフィジカルで雑なパフォーマンスでもってまあまあ健闘してきたと思う。上半期のリリースだってエメラルドもヘブンディスチャージもマジで最高だっただろ?
だけどオレの厄介な性格も手伝ってチームとしての孤立と混迷はいよいよ深まるばかりだよマイメン。

(中略)

今年に入って何度も自覚したこと、それはわれわれHave a Nice Day!は流通していくことに対して不適合なコンテンツだってことだ。
「とにかくパーティーを続ける」には他とは少し違ったリリースやイベントの形式が必要になったわけさ。

「Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法」https://goo.gl/lpuEsT より抜粋

 “現場”をクリティカルに創出しながら、それを音楽の生成、作品の制作へとスリリングに変換させてきたHave a Nice Day!──2010年代パーティ・シーンの牽引役。

 彼らが掲げた次なる課題は、「とにかくパーティーを続ける」ための、常とはちがったアプローチ。クラウドファンディングでのアルバム・リリースと、その収益によるフリー・イヴェント(リリース・パーティ)の開催だ。

「当然この金はオレらの音源の制作費にあてることはない」と謳うように、アルバムのための集金がそのままパーティをクリエイトし、その門をあらゆる意味でフリーに開かせることにつながる。こうした仕掛けづくりそのものは、ひとつのリレーショナル・アートのようにさえ感じられるだろう。そんなまどろっこしい言い方を、彼らは嫌うだろうけれども。

 そして、編集部があんな本やこんな本の制作に追われているうちに、必要な金額は集まってしまったようだ。すごい。そういうわけで晴れてフリー・イヴェント(この「フリー」は「タダ」と訳すにはあまりにポジティヴなニュアンス持っている)の開催と相成った模様、ぜひ出かけてみよう!

■企画全貌の詳細
https://camp-fire.jp/projects/view/3382

■イヴェント詳細
Have a Nice Day!「Dystopia Romance」リリースパーティー

Have a Nice Day!の3rdアルバム「Dystopia Romance」リリースパーティーが、2015年11月18日(水)恵比寿リキッドルームで開催されることが決定した。入場料はなんと無料!

フリーパーティーを実現したのは、【Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法】プロジェクト。目標金額100万円を達成し、支援者は全員ドリンク代もなく、完全フリーでの参加になる。また、今回の「Dystopia Romance」の音源は、本プロジェクトでのみ購入可能な期間限定リリースだ。

出演はHave a Nice Day! 、NATURE DANGER GANG。ゲストにLimited Express (has gone?)、おやすみホログラム、Y.I.M、といった豪華出演陣が揃う。
プロジェクトの募集終了は、11月7日(土)23:59まで。ぜひお早めにゲットして欲しい。

【Have a Nice Day!「Dystopia Romance」リリースパーティー】
開催日:2015年11月18日(水)
時間:OPEN 19:30 / START 20:00
会場:恵比寿LIQUDROOM
住所:東京都渋谷区東3-16-6
料金:無料(+1Drink ¥500)
出演:Have a Nice Day! / NATURE DANGER GANG
ゲスト:Limited Express (has gone?) / おやすみホログラム / Y.I.M
DJ:D.J.APRIL


彼女にはその価値がある - ele-king

 インガ・コープランドという名前だけですでに十分な知名度と期待があるだろうが、2012年、ハイプ・ウィリアムスとしての来日の模様はこちらから。強烈なクリティシズムを匂わせながらもついに核心をつかませない、ローファイ電子音楽怪ユニット、ハイプ・ウィリアムスの片割れがふたたび来日、ソロでは日本発となるライヴを披露する。ジャンルの別なく2010年のインディ・ミュージック史に鮮やかなインパクトを刻んだ才能、その現在のモードを目撃せよ──「私にはその価値があるから」。

■INGA COPELAND JAPAN TOUR 2015
“私にはその価値があるから”

11.20 fri at Socore Factory 大阪
風工房’98 / NEW MANUKE / birdFriend / naminohana records / INTEL presents LOW TRANCE
~ Inga Copeland (ex Hype Williams) Tour In Osaka& Madegg ‘N E W’ Release Party ~

OPEN / START : 22:00
ADV : ¥2,500 w/1D | DOOR : ¥3,000 w/1D
more info : https://intelplaysprts.tumblr.com

11.22 sun before Holiday 東京
BONDAID#7 FIESTA! Inga Copeland & Lorezo Senni

START : 23:30 at WWW Tokyo
ADV ¥3,000 | DOOR ¥3,500 | UNDER 23 ¥2,500
more info : https://meltingbot.net/event/bondaid7-fiesta-inga-copeland-lorenzo-senni

11.23 mon at 木揚場教会 / Kiageba Kyokai 新潟
experimental room #20

OPEN 17:30 / START 18:00
ADV ¥3,000 | DOOR ¥3,500円 | NON NIIGATA / 県外 2,500円
UNDER 18 FREE / 18才以下無料
more info : https://www.experimentalrooms.com/

Tour Info : https://meltingbot.net/event/inga-copeland-japan-tour-2015/

■BONDAID#7 FIESTA!

2015.11.22 sun before Holiday
START : 23:30 at WWW Tokyo
ADV ¥3,000 | DOOR ¥3,500 | UNDER 23* ¥2,500

液状化するダンス、レイヴ、アートの融点。ダブの霧に身を潜めるミステリアスなロンドンの才女 Inga Copeland と“点描トランス”と称されるミラノの革新派 Lorenzo Senni を迎えた新感覚の屋内レイヴが開催!

Co La (Software)、Andrew Pekler (Entr’acte)、D/P/I (Leaving)、TCF (Ekster)、M.E.S.H. (PAN)といった世界各地の先鋭的な電子音楽作家を招聘してきた〈melting bot〉プロデュースの越境地下電子イベント〔BONDAID〕が第7回目のラッキー・セブンを迎えて送る祝祭“FIESTA!”を今年で5周年記念を迎える渋谷WWWにて開催。ゲスト・アクトはHype Willimas (Hyperdub)での来日パフォーマンスが大絶賛だったロンドンの女流電子作家Inga Copelandの日本初のソロ・ライブとミラノのサウンド・アートティストLorenzo Senniの〔Sonar〕でも評判となった“点描トランス”と称されるレイザーを使った、こちらも日本初となるインスタレーション“Oracle (神託)”。本公演は今年の6月に東京のLIQUIDROOMと大阪のCONPASSで行われたベルリンの実験/電子レーベル〈PAN〉をフィーチャーしたイベント〔PAN JAPAN SHOWCASE〕に続く、現在のイメージ化するジャンルと抽象化するダンス・ミュージックの坩堝を体現したコンテンポラリーな屋内レイヴ・ナイト。

LIVE :
Inga Copeland [ex Hype Williams / from London]
Lorenzo Senni “Oracle Set” [Editions MEGO / Bookman Editions / Presto!? / from Milan]
Kyoka [raster-noton]
Metome
Renick Bell [Quantum Natives / the3rd2nd]
Koppi Mizrahi [Qween Beat / House of Mizrahi]
& yumeka [OSFC] “Vogue Showcase”

VJ : Ukishita [20TN! / Nice Air Production]

DJ :
Toby Feltwell [C.E]
Sapphire Slows [Not Not Fun / Big Love]
Yusuke Tatewaki [meditations]
HiBiKi MaMeShiBa [Gorge In]
Hibi Bliss [BBC AZN Network]
Pootee
SlyAngle [melting bot]

#LEFTFIELD #ELECTRONIC #RAVE
#TRANCE #DANCEHALL #VOGUE
#TECHNO #GLITCH #GORGE #NEWAGE
#CONTEMPORARY #DANCE #ART

ADV TICKET OUTLET : 10.15 ON SALE

e+ / WWW / RA / Clubberia
disk union (Club / Dance Online, Shibuya Club, Shinjuku Club / Honkan, Shimokitazawa Club, Kichijoji)

*23歳以下のお客様は当日料金より1000円割引になります。ご入場の際に生年月日が記載された身分証明書をご提示下さい。
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの身分証明書をご持参下さい。

主催 : BONDAID
制作 / PR : melting bot
協力 : Inpartmaint / p*dis
会場 : WWW

more info : https://meltingbot.net/event/bondaid7-fiesta-inga-copeland-lorenzo-senni


Ulapton(CAT BOYS) - ele-king

ダンディズムな気分に浸れる10曲(動画)

New Order×Takkyu Ishino - ele-king

 新作『ミュージック・コンプリート』が好調なニュー・オーダーだが、ここに来てビッグ・ニュース。シングル曲“Tutti Frutti”のリミックスを石野卓球が手掛けていたことがわかった。(同曲では、すでにホット・チップによるリミックスが発表されている)
 電気グルーヴの初期の名曲に“N.O.”があり、また、ZIN-SAY時代の曲を集めた編集盤のタイトルが『サブスタンス』であり、また、彼の作曲には、ニュー・オーダー風のメロディアスな展開が多々見受けられる……といったように、若き日の石野卓球が愛したバンドのひとつがニュー・オーダーであることはファンには常識となっている。今回、石野卓球がニュー・オーダーの曲をリミックスしたと知って、思わずガッツポーズしていることだろう。本当に、早く聴きたい。

LV - ele-king

 南ロンドンのLV(当初は3人組だったが、現在はシー・ウィリアムズとウィル・ホロックスのコンビ)といえば、コード9やブリアルに次いで〈ハイパーダブ〉を初期から牽引してきたアーティストだ。他にも〈ヘムロック〉や〈セカンド・ドロップ〉など、ダブステップの名門から作品をリリースしている。UKガラージ、グライムをルーツに持ち、〈キーサウンド〉からリリースされた詩人ジョシュア・アイデンヘンとのコラボ・アルバム『ルーツ』(2011)や、〈ハイパーダブ〉からの単独名義でのファースト・アルバム『スベンザ』(2012)に顕著なように、当初はラッパーやMCをフィーチャーした泥臭くルーツ色の濃いサウンドを得意としていた。『スベンザ』には南アフリカのハウス・ミュージックからの影響もあり、そこからはジューク/フットワークとの結びつきも見出せる。そして、ジョシュアとの2枚目のコラボ作『アイランド』(2014年)では、ダブ、テクノ、エレクトロニカなどさらに多くの要素を融合し、コード9同様にダブステップの進化も担うサウンドとなっていた。つまり、ダブステップの進化・実験性とともに歩んできたのがLVと言える。

 そんなLVの通算4枚めのアルバム『アンシエント・メカニズム』は、何と〈ブラウンズウッド〉からのリリース。ジャイルス・ピーターソン主宰のこのクラブ・ジャズ総本山からのリリースということで、いままでとはまた大きくテイストが異なるものとなっている。中でもトピックとなるのが、アルメニア出身のジャズ・ピアニストのティグラン・ハマシアンとの共演だ。ロバート・グラスパーのようなUS勢とは異なる新世代ジャズの異才として注目を集めるハマシアンだが、そんな彼とLVの初コラボは2012年のこと。ジャイルスのラジオ番組「ワールドワイド」でのライヴ・セッションとして実現した。ハマシアンはジャズに現代音楽やポスト・ロック、エレクトロニカ、さらにアルメニア民謡などまでを融合した独自の音楽性を持つピアニストだが、この共演によってLVが新たな方向を摸索しはじめたのは間違いない。それ以来重ねてきたコラボの成果がこの『アンシエント・メカニズム』なのである。

短いインタルードも含めて全12曲を収録するが、その中でハマシアンをフィーチャーするのは5曲。従ってほぼ半分は両者のコラボと言える。ハマシアン抜きの曲も、そのコラボの延長線上にあるものだ。ハマシアンのアコースティック・ピアノが入ることにより、逆にヴォーカルやMCは排除し、ほぼインスト・アルバムとなった点も特徴だ。数少ないヴォーカル曲の「ヤリモ」と「インフィナイト・スプリング」も、そこで聴かれるのはアルメニア民謡調のコーランのようなもの。かつてのグライムの影響下にある荒々しさとは決別し、リリカルで美しいサウンドとなっている。コラボが行われたベルギーの町の名前である「ロイセレデ」など、耽美的という点ではブリアルにも通じるところもあるが、ダークな中にも透明感や清廉さを湛えているのはハマシアンのピアノの為せる技だろう。LVのビートも「ハンマーズ・アンド・ローゼス」「ジャンプ・アンド・リーチ」「トランジション」のようなブロークンビーツ調が目に付き、いままでの作品に比べてジャズ・ピアノとの親和性の高いものへと変化している。「ダー・ソウイリ」はハマシアンとのコラボ曲ではないものの、北アフリカ音楽からの影響も伺える現代音楽的なモチーフのビート作品で、明らかにハマシアンとの共演が影を及ぼしていることが伺える。ボサノヴァを消化したような3拍子の「バランス・スプリング」は、本作と同時期にリリースされるフローティング・ポインツのアルバム『エレーニア』とともにエレクトロニック・ジャズの傑作だ。ジャズとポスト・ダブステップ、ベース・ミュージックとの融合の新たな1ページを書き加えるアルバムであることは間違いない。

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