「Nothing」と一致するもの

エグベルト・ジスモンチ・ソロ - ele-king

 2016年4月20日練馬文化センターにおけるエグベルト・ジスモンチの単独公演は本当に素晴らしいものだった。なんだか"モノ"が違う演奏に、有り余る現役感に、圧倒された。また同時にあまりに大きなパーカッショニストを失ったことを感じた公演でもあった。

 めくるめくギター演奏がメインの1stセット。パーカッシヴな演奏と言ってしまえばそれまでだが、基本になるリズムのエンジンがまずあって、それを元にまた別の噛み合うリズムやメロディーがついていく。そのリズムの理にかなった構築性と説得力、そして緻密且つ自由に放たれるメロディーとの融合たるや! そうやって発信される音楽は複雑にも聴こえるが、その実はシンプルだ。しかし一人で何人分やっているのだろう。なかなか日本では見られれないスタイルの演奏とその完成度にただただ圧倒された。
 そしてそこにナナ・ヴァスコンセロスを見た気がした。会場にいた全員が見たであろうし、曲間にジスモンチ本人も言っていたと思う。左手がナナのビリンバウだった。
 ナナはそこにいないのに十分なまでの打楽器奏者としての言わば編集能力みたいなものを発揮していた。音楽における編集は重要な要素であるが、ナナは打楽器を通してプリミティヴな形でそれをやってのける。ギターリストでも歌でも例はなんでもよいが、ナナがいるとなんだかいい演奏が出来てしまう、という感じが大いにする。それは打楽器奏者の最も大きな仕事であり、ナナがここまで愛される要因の一つでもある。ジスモンチの左手にナナがいることによって、一気に音楽は昇華したのではないかと思わせるナナの存在と、ジスモンチの信頼みたいなものに感動した。
 MCで、喧嘩して「もうあなたはいらない」とナナに言ったというようなことを喋っていたように思うが、ジスモンチのその信頼の裏返しに自分は聞こえた。

 2ndセットは、どんどんジスモンチの自己に入っていく演奏に見えた。美しい演奏の向こうに見える自己や何か見えないものと格闘していく姿や、その準備のための演奏の完璧なコントロールは、ナナを向いていたかもしれないが、ナナがそこにいるようには思わなかった。正直着いていけないくらいの修行のような感じを受けた。曲間にピアノに両手をついて下を向く姿にも象徴されていた。
 そのピアノという楽器のまま、アンコールでのスクリーンに映ったナナのビリンバウ演奏とのコラボは、まさにナナの打楽器奏者としての懐の大きさが際立った。一気に視界が開けて行くような気がした。

 一体彼らは何を見ていたのであろうか。想像も及ばないものであったかもしれないが、そのベーシックには彼らのトラディショナルへの敬愛が間違いなくあった。それはあまりに大きな土台である。
 島国の隅で活動する一打楽器奏者として、真摯に0からスタートする気持ちにさせてもらうには充分であり、会場にいたほとんどの人に実りあった素晴らしいステージだった。

坂本龍一、Alva Noto、Bryce Dessner - ele-king

 なんと厳しくも、美しい音楽だろうか。まさに極寒の音響空間。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の映画『ザ・レヴェナント 蘇りし者』のサウンド・トラックのことである。

 本作を生み出した音楽家は、坂本龍一、アルヴァ・ノト、ブライト・デスナーの3人。坂本龍一ファンでもある監督から坂本個人にオーダーがあり(『バベル』では“美貌の青空”が使われていた)、坂本がアルヴァ・ノト=カールステン・ニコライに協力を求め、さらに監督がオーケストラ的要素としてブライト・デスナーを起用したという。 ここでは中心人物である坂本龍一に焦点を当てて分析してみたい。

 坂本龍一の音楽には、大きく分けて2つの系譜がある。ひとつはリリカルで叙情的なメロディと浮遊感のある和声で、20世紀フランス印象派、ドビュッシーの系譜に繋がる作曲家の系譜。もうひとつは、未知の音色と音楽を希求して追求する実験的な音楽家としての系譜である。

 このふたつは、坂本龍一という音楽家のなかで分かち難く一体化しており、氏のソロ.・アルバムにおいては、フランス印象派風の響きと電子音楽から無調、未来派によるノイズまで、近代から20世紀以降のあらゆる音楽的な実験のエレメントや、アフリカ音楽から沖縄民謡までの非西欧音楽などが交錯していく。それは初期の『千のナイフ』『B-2ユニット』から近年の『キャズム』『アウト・オブ・ノイズ』まで変わらない。

 いわば巨大な音楽メモリ/装置としての存在、それが坂本龍一なのだ。その意味で、氏は言葉の真の意味でポストモダンな音楽家である。氏は自身に「根拠がない」ことを繰り返し語っていた。ゆえに「外部」が必要になるとも。だからこそ坂本龍一にとって「外部」としてのコンピュータが重要であり、それは「電子音楽」への追求でもあった。自己を相対化すること。じじつ坂本龍一の先鋭的な個性はコラボレーションやサウンド・トラックに表出しやすい。『エスペラント』、『愛の悪魔』などなど。

 だが「外部」はコンピュータに限らない。真の「外部」は「人」ではないか。それゆえ彼は多くのコラボレーションを実践してきた。カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネス、テイラー・デュプリーなど電子音響/エレクトロニカのアーティストとのコラボレーションなどは、コンピュータが「外部」というより、自分の拡張デバイスとなった時代において、当然の帰結であったのだろう。そもそも彼らの音楽は、人との聴覚を拡張するアートであったのだから。

 なかでも『Vrioon』以来、10年を超える共闘を続けているカールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトとの仕事は重要である。音の建築の中に、微かなポエジーとロマンティシズムを称えるカールステンの作品と、坂本との音楽性との相性は(意外にも)良い。残響の果てに溶けあうノイズへの感性が共通するからだろうか。

 そのふたりの新作が本作だ。真冬の、身を切るような、氷の音響。ここでは弦も、電子音響も、音楽の消失点に鳴るような過酷なノイズを生成している。オーケストラとの共演という意味では、2008年の『utp_』を思わせもするが、それよりも遥かに厳しい音のタペストリーだ。

 1曲め“ザ・レヴェナント・メインテーマ”のギリギリまで和声が削ぎ落とされた響きが、本作のトーンを決定していく。まるで絶望の中の光のような音楽。背後に微かに鳴る電子音も素晴らしい。2曲め“ホーク・パニッシュ”はアルヴァ・ノトとブライト・デスナーの曲だが、メインテーマの変奏であるのは明確だろう。3曲め“キャリング・グラス”は坂本とアルヴァ・ノトの共作で、微かな記憶の片鱗のような電子音に、硬質な弦、砂塵のような電子ノイズが折り重なる。5曲め“キリング・ホーク”は坂本単独曲で、『愛の悪魔』を思わせる低体温の電子音に、鋭くも厳しい弦楽が鳴り響く。また、坂本単独曲の13曲め“ザ・レヴェンタント・テーマ2”、“ザ゙・レヴェナント・メイン・テーマ・アトモスフェリック”で聴かれる香水のような芳香を放つピアノも美しい。19曲め“キャット&マウス”は坂本龍一、アルヴァ・ノト、ブライト・デスナーの共作で、電子音からオーケストレーション、アフリカン・リズムが交錯し、音楽史と音楽地図と越境するような刺激的なトラックに仕上がっている。3人の共作では、電子ノイズと打楽器と弦楽が拮抗しあう“ファイナル・ファイト”も緊張感も印象的だ。

 どの曲もサントラの機能性を保持しながらも、しかし独立した楽曲として素晴らしいものである。オリジナル・アルバムとしてカウントしても良いのではないかと思うほどに(『エスペラント』がそうであるように)。

 とはいえ、このような音楽作品に仕上がったのは、やはり「映画」という「外部」が重要に思えるのだ。映画とは監督のものだ(もしくはプロデューサー?)。そこでは音楽家は否が応でも、映画というプロジェクト=「外部」と接することになる。ことイニャリトゥ監督は音楽に拘りを持っている映画作家であり(氏はメキシコでDJもしていたという)、『バードマン』では、アントニオ・サンチェスのドラム・ソロ・トラックを映画音楽のメインに据えるという革新的なことを成し得たほど。つまり音楽への要求は(異様に)高いはず。

 じっさい、その音楽制作は度重なる修正などが6ヶ月ほどに渡り続くという過酷なものであったようだ。加えて坂本は重病の治療から復帰したばかりでもあった。いわば映画という「外部」、病という自身の身体に起きた「外部」という二つの状況のなかで、本当に大切な響きを吸い上げるように、音を織り上げていったのではないか。そこにおいて「外部」としてのコラボレーターの存在は、暗闇を照らす光のような存在だったのではないかとも。

 じじつ、坂本は素晴らしい共演者と巡り合うことで、自身の音楽の深度をより深めてきた音楽家である。このサウンド・トラックの仕事はたしかに過酷であったのだろうが、しかし、生み出された作品は、氏のディスコグラフィにおいて、ほかにはない「光」を放っている。ギリギリまで和声を削いだ響きに、苦闘の果てのルミナスを聴くような思いがするのだ。それは命への光、のようなものかもしれない。

 急いで付け加えておくが、このアルバムにエゴは希薄だ。外部としての映画。外部としてのコラボレーション。相対化し複数化する個。カールステン・ニコライ、ブライト・デスナーらという共演者と音楽は、それぞれの音の層が重なり合い、電子音響でも、アンビエントでも、クラシカルでもない音響を生み出していく。あえていうならばサウンドスケープだ。個がありながらも、個が消え去り、ただ音響が生成すること。

 日本盤ライナーでカールステン・ニコライがタルコフスキーの名を出していたが、たしかに本作には「ポスト・タルコフスキー的宇宙」とでも称したい、現実の世界との音響の境界が消えゆくような音楽の未来=サウンドスケープが鳴り響いているように聴こえてならないのだ。

Kowton - ele-king

 ダブステップ・シーンから登場しながらダブステップ以外の方面からも評価を獲得してきたペヴァラリストと、ブリストルのレコード店アイドルハンズに勤務していたカウトンが2010年代初頭のダンス・ミュージックに対して抱いていた思いを共有したところから、レーベル〈リヴィティ・サウンド〉の原点となるコンセプトが形成された。当時のダブステップはテクノ、ハウス、ヒップホップといった他ジャンルとの融合が図られたり、大型レイヴを盛り上げる恰好のネタにされたりしながら急速に消費し尽くされており、目新しい要素のあるトラックを耳にする機会が少なくなっていた。80年代に回帰したハウスや再発盤が多く発表されるようになったのも同時期だった。
 〈リヴィティ・サウンド〉が始動したころのインタヴューでペヴァラリストは「音楽的に同じところをぐるぐると回っているだけで、革新的なものに対する欲望が失われている」と語っている。つまり革新性の欠如に対する回答としてレーベルが発足されたというわけだ。

「〈リヴィティ・サウンド〉の根底にあるのは、特定の概念にあてはめられることのない新鮮な響きを持ったサウンドを追求するという姿勢だ」

 これは2014年のコンピレーション『リヴィティ・サウンド・リミクシーズ』の国内版ライナーノーツを書かせてもらったときに記した言葉だ。2011年にファーストEP「ビニース・レイダー」を発表して以来、〈リヴィティ・サウンド〉はUKガラージ、テクノ、グライム、ジャングル、ハウスなど、様々な音楽要素を内包しながら、そのいずれにもカテゴライズされることのないダンス・ミュージックを次々と打ち出してきた。この「いずれにも属さない感覚」に惹かれた人は決して少なくないだろう。
 しかし最近のレーベルからはパッドを大胆に使用した、大バコ的ともいえる一種の壮大さを伴うトラックが発表されるようになり、当初のリリースと比べるとテクスチャーやグルーヴ感などの面で明らかにテクノへ接近していることがわかる。そしてレーベルにとってもカウトンにとっても初のアルバムとなる『ユーティリティ』では、その変化が色濃く反映されることになった。

 プレスリリースによると、本作の制作時にカウトンが意識したのはジェフ・ミルズやロバート・フッドによる余計な小細工なしのミニマリズムだったそうだ。収録された9曲はどれも短く、一番長くても5分42秒だ。DJセットでミックスするにあたって最低限の尺が確保され、そこにダンスフロアで機能する要素が濃縮されている。
 本作におけるミニマリズムを支えているのはエフェクトとモジュレーションだ。反復するフレーズのテクスチャーをエフェクトやモジュレーションで変容させることでジワジワとした展開を生んでいる。冷ややかなパッドの起伏を背景にしてモジュレーションのかかったベースリフが徐々に変化していく”サイドゥ”や、ブリープ音に加えるエンベロープとリバーブの量で緊張感を演出する”バランス”、ひび割れたベルの響きが執拗に変化しながらフレーズを形成する”バブリング・ウォーター”はその好例だ。
 他にも”コメンツ・オフ”のシンコペートするキックによるタメの効いたグルーヴや、”ショッツ・ファイアド”で連打されるサブベースなど、ダンスフロアで強烈な体験をもたらしてくれそうなトラックが収められている。キックを大幅に削り落とした”サム・キャッツ”と”ア・ブルーイッシュ・シャドウ”は収録曲のプロトタイプを聞いているかのようだ。どちらもひとつのトラックに成熟する前の段階に留まることで本作のインタールードとして機能している。本作を通して聞くとひとつのアルバム作品として完成度の高さが感じられる。

 気になるのは〈リヴィティ・サウンド〉という文脈で見たときの本作の立ち位置だ。『ユーティリティ』の過半数を超えるトラックではジェフ・ミルズやロバート・フッドの作品に倣うかのように4つ打ちのビートが組まれている。〈リヴィティ・サウンド〉はこれまでにも”シスター”や”サージ”といった4つ打ちのトラックを発表してきた。しかし、レーベル最大の魅力はカテゴライズ不可能なグルーヴ感を持ったトラックにあった。
 例えばヒットを記録した”ヴェレズ”と”アズテック・チャント”はジャングルやテクノの要素を含みながら、そのいずれにも属すものではなく、”モア・ゲームズ”はたしかにグライム的でありながら、そこにはグライムと言い切ることのできない異質さがあった。つまり〈リヴィティ・サウンド〉は特定の音楽フォーマットに沿うことなく、その音楽らしさを感じさせる新たな領域を開拓してきたのであり、革新性の欠如に対する回答として始動したこのレーベルのアイデンティティは既存の枠組みの外側に打ち立てられなければならないはずだ。
 「4つ打ち = カテゴライズ可能な音楽」だと言うつもりは毛頭ないが、本作の収録曲の大半は多くの人にとってテクノ・トラックとして片づけられることになるだろう。その意味で『ユーティリティ』は、既存の枠組みを見事に飛び越えてきた〈リヴィティ・サウンド〉のファースト・アルバムとして逸脱性に乏しい。とはいえ、ダンスフロアにおけるユーティリティ(実用性)が重視された本作では、そんな文脈は省かれてしかるべき余計な要素なのかもしれない。

 森は生きているの、結局最後のスタジオ録音盤となった『グッド・ナイト』は最後にはならなかった。『グッド・ナイト』はこの度ミックスし直され、音も多少加わり、歌もパートによって多少変えられ、アートワークも変わり(裏ジャケが表に来ている)、つまり生まれ変わってアナログ盤としてリリースされる。言わば『グッド・ナイト』の別ヴァージョン。
 それは、本来ならこうだった、こうあるはずだったものに戻されているらしい……しかし、音楽において本来ならこうあるはずだったものなどない。大局的にみれば、すべてはそのときのすべての諸条件によって決定されるもので、結局のところ、このバンドが解散したのも、自らの幻をどこまでも追い求めてしまったからなのだろう。森は生きているには、最初から儚い感覚があった。
 が、そうした彼ら(首謀者は岡田+増村)だからこそ創出されたサウンドが森は生きているの魅力だった。このアナログ盤はその極みかもしれない(噂によれば、解散直前のライヴが素晴らしかったというのだけれど、いつか聴ける日が来るのだろうか……)。
 ソフト・ロックというジャンル用語は、ハード・ロック全盛の70年代における、ある種のイロニーも含まれていたかもしれないし、「ハード」に対立する「ソフト」だった。ところがソフト・ロックの内側の「ハード」を見たときに夢はさらに広がり、それを2010年代の日本で森は生きているという名前のバンドが演奏し、録音した。その夢をさらに完璧にするために、彼らは手を加えた。目が覚めないうちにやるしかなかった。2枚組アナログ盤ヴァージョンの『グッド・ナイト』、ぜひ聴いて欲しい。

森は生きている
グッド・ナイト [Analog]

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Random Access NY 号外 - ele-king

 先週、ディーライトのレディ・ミス・キアーやヴァンパイア・ウィークエンド、ダーティ・プロジェクターズなどのバンドを、https://www.brooklynvegan.com/watch-grizzly-bear-and-epmd-play-the-bernie-sanders-rally-in-prospect-park/

 グリズリー・ベアーは、“While You Wait For the Others”, “Two Weeks”, “Knife”をプレイ。「can't you feel the knife(ナイフを感じないの?)」という歌詞の下りを「can't you feel the bern(バーニー・サンダースを感じないの?)」と歌い、EPMDは、"You Gots to Chill"をプレイ。総勢20,000もの人が集まり、お昼の贅沢な野外コンサートを楽しんだ。私の日本人女子友達は、そうとは知らず、普通にプロスペクト・パークでピクニックをしていたが。

 そして今日月曜日4/18は、最後のキャンペーン(予備選挙の)。場所は、ロングアイランド・シティのハンター・ポイント・サウスパークで、人もセキュリティも気合が入ってる。数々のバーニーグッズの押し売りを潜り抜け(Tシャツだけで何十種類とある)、空港のようなセキュリティチェックを受け、ようやく中に入る。7時からのショーに、人は早々と5時頃から待っていたようだ。

 数人のスピーチの後、TV・オン・ザ・レイディオが登場。“Young Lliars”他6曲をプレイしたが、オーディエンスは、バーニー・サンダーズを出せ、と演奏の最中にも容赦なく「バーニー」コールを投げかける。バーニーの人気はすごいが、バンドに対しての態度はあまり良くない。

 「Bern baby bern」とかいたTシャツを着ているベイビーや「Fuck Trump-Keep America Great」というTシャツのカップルなど、それぞれの思いをTシャツにして着ている人がたくさんいた。最近Tシャツを見ると、なんて書いてあるか注意して見てしまう。

 そして、バーニーが登場するころには、音楽のヴォリュームが倍になり、大きな拍手で彼を迎える。バーニーのスピーチは30分以上にも渡り、これはアメリカの変化への第一歩、自分とクリントン氏の違う所や(彼女はウォール・ストリートから寄付を受け取っているが、自分は受け取っていない)、など、様々な勇敢な言葉でオーディエンスを活気づけていた。彼の一言一言で、バーニー・プラカードが力強く振られ、「そうだそうだ」と、やんやの声援が送られ、人びとがひとつになる姿を、また目の当たりにした。バーニーは、スピーチのしすぎなのか、声が結構枯れていたが、言葉は力強い。さて、明日どうなることやら。(沢井陽子)


special talk:峯田和伸 × クボタタケシ - ele-king

 ここで問題にするのは3部作完結編の新曲「生きたい」そのものではなく、そこに収録された“ぽあだむ”のリミックス。これが、銀杏BOYZ史上初のクラブDJによるリミックス・ヴァージョンなのだ。リミキサーはクボタタケシ。ぼくは、個人的に、これは偏見かもしれないけれど、銀杏BOYZのファナティズムとクラブ・カルチャーの陶酔とは、決して親和性が高いとは思えていなかったので、こんなことが具現化されることがとても意外で、驚きを覚えたのだった。しかしながら、取材で対面したおふたりは、すでに仲良し状態で、ものすごく打ち解けている様子。実際、リミックス・ヴァージョンの出来は素晴らしく、原曲の歌メロを活かしながら、誰の耳にも心地良いであろう滑らかなグルーヴが注がれている。新曲“生きたい”が過剰なまでに生々しい(バンドの崩壊の過程?)を歌っているので、“ぽあだむ”の軽快なリミックスはこのシングルにおいて素晴らしい口直しになっている。
 それでは以下、おふたりの対談をお楽しみください。

個人的にリミックスをやって欲しかったんです。本当に大好きなひとだったので。クボタさんを知ったきっかけはキミドリですね。高校のときに友だちの影響で、洋楽だったり当時のパンクだったりをリアルタイムで聴いていて「うわー! すげー!」って生活を山形で送っていたときです。──峯田


銀杏BOYZ
生きたい/ぽあだむ クボタタケシ REMIX Version II

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今回の“ぽあだむ”ですが、そもそもDJにリミックスを依頼すること自体が初めてなんですよね?

峯田和伸(以下、峯田):はい。

クボタタケシ(以下、クボタ):いやいや、そんなたいしたアレじゃないんですけどね。

峯田:“ぽあだむ”って曲がもともと持っているポップな部分を、クボタさんがもっと引き出してくれると思ったんですよ。

その点は見事に具現化されてますよね。曲のメロディアスな魅力が活かされていると思いました。

峯田:ぼくは制作過程にいっさい顔を出さないで、出来上がりを聴いただけなんですよ。いいものができる予感はあったので、注文も何もしてないんです。

クボタさんにリミックスを頼むまでに、どのような経緯があったんですか?

峯田:個人的にリミックスをやって欲しかったんです。本当に大好きなひとだったので。最近はリミックスをやっていないとのことだったんですが、やってくれないかなと。クボタさんを知ったきっかけはキミドリですね。高校のときに友だちの影響で、洋楽だったり当時のパンクだったりをリアルタイムで聴いていて「うわー! すげー!」って生活を山形で送っていたときです。そこに友だちがキミドリを持ってきたんですよ。ヒップホップなんでしょうけど、ぼくはソニック・ユースとかダニエル・ジョンストンをガーッと鳴らしたあとに、キミドリをバーンと流して遊んでいたんですよ。

なるほど。サウンド的には、ある意味、自然な流れですよね。

峯田:俺、当時はヒップホップの流れがわかんなかったんですよ。ただ、キミドリはぼくのなかでパンクでしたね。ファーストの最後の曲とかパンクっぽかったし(“つるみの塔”)。銀杏ボーイズになってからも、登場のSEでキミドリの“自己嫌悪”って曲を使っていた時期があって。

クボタ:それ知らなかったからびっくりしたんだよね。

元キミドリって話で言えば、1-Drinkではなくクボタさんだったのは?

峯田:〈ユースレコーズ〉の庄司信也くんが、高校でぼくのひとつ下なんですけど、話しているとそいつの口から、クボタさんやオルガンバーのことが出てくるんですよ。でも、「なんでこいつがクボタさんのことを話してんの?」っ感じで悔しかった。俺、ミックス・テープも持ってたので、一緒にいつか仕事をしたいなって思ってたんですよ。

20年くらい前からやりたいと思っていたことだったんですね。

峯田:ぼくが東京に来たのは96年なんですけど、その頃って下北にスリッツって箱があるのを知っていても、実際に行ってみたら無くなっていたりして。だから直接触れ合えたりとかはなかったですね。

クボタ:スリッツが終わったのが95年か。

峯田:それでようやく知り合えて、当時の思い出とかを聞いてみたって感じです。

クボタさんは依頼をもらったとき、どのように思ったんですか?

クボタ:ちょうど最後にやったリミックスが、2004年のワックワックリズムバンドだから、12年ぶりだったんですよ。それまでは依頼されたものをやっていたんですけど、ちょっとDJだけでやってみたいなと思って、制作は全部断ることにして。それで2年くらい前に、そろそろ制作をやりたいなと思っていたときに、庄司くんの紹介で初めて会ったんだよね。庄司くんやゴーイングアンダーグラウンドの松本素生くんとDJイベントで全国を回っていたんですよ。いつも銀杏の話は出ていたんですけど、峯田くんは全然来なくって(笑)。なんで来なかったのか会ったときに聞いたら、「仕事で会ってからレコード屋さんとかに行きたいです」って言ってた。
 それで制作がやりたいなと思っていたときに話をいただいて、銀杏の曲を聴かせてもらったらすごくいい曲で。曲があまりにも完成されちゃっているから、もうどうしようかなと。悪い言い方だけどリミックスって完成されていないものの方が作りやすいけど、逆だとさらによくするのが難しい。しかも一見シンプルに聴こえても、メロディの後ろにコードがすごくいっぱいあって。

歌がすごく綺麗な曲ですよね。

クボタ:聴いた瞬間にどういう風にするのかはすぐに思いつきました。

第三者的な立場から見ると、銀杏ボーイズとクボタさんとはそれなりの距離があったように思ったんですよね。銀杏ボーイズはある時代のファナティックなライヴハウス文化を象徴するバンドだった。いっぽうでクボタさんが出演されているオルガンバーなどは、オシャレ感があるじゃないですか? いい意味で。

クボタ:そんなふうに見えてるんですね。全然オシャレじゃないっすけどね。

とくに90年代末~2000年代初期にかけては、渋谷と下北沢って文化的な距離感がそれなりになかったですか?

峯田:ぼくはリスペクトしているからこそ、簡単に立ち入っちゃいけないなと思っていたかもしれない。もし知り合いになるなら、遊びで「こんにちは。ファンでした」って感じじゃなくて、仕事がしたかったんです。

銀杏ボーイズがDJにリミックスを頼むってこと自体、2000年代初頭では考えられなかったと思うんですよね。だからこの企画そのものが事件ですよね。クボタさんにもそういう感覚ってあったんじゃないんですか?

クボタ:(銀杏ボーイズが)リミックスをひとに頼んだことがないんだもんね?

峯田:全部自分たちでやろうと思っていたし、なるべくそっちの畑には近寄らないようにしてました。ヒップホップだけじゃなくて、いろんなシーンがあると思うんですけど、でもクボタさんはその場所にいながらそこにはいないっていうか。ぼくもその気持ちはなんとなくわかったというか。周りに迎合しないところを見て、たぶんクボタさんはこういうことを思っているんじゃないかなと考えてみたりしましたね。

クボタさんはたしかに一匹狼なところはありますよね。

クボタ:東京がホームなんですけど、あんまりホーム感がない。だからホームレスって呼んでいるんですが(笑)。だから地方へ行ってどんなジャンルのところでやっても、居場所がないなっていうか。昔からそうなんですけどね(笑)。

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いま和物や7インチのブームだったりって言ってるけど、やっと来ました(笑)。今回やってみたら楽しくなっちゃって、頼まれてもいないのに2バージョン作っちゃって。──クボタ

峯田:素人意見ですけど、2003年に出していた『ネオ・クラシック』とか、ヒップホップのDJが作るミックスとはまるっきり違うんですよね。ブラック・ミュージックと関係がない曲を、精神的なヒップホップで繋げているというか。他の方のミックスは、元ネタが聴けるって意味で面白いんですけど、まったくそれとは違う。たぶん根っこにあるのがパンクなんだと思うんです。ブラック・ミュージックなんですけど、ブラック・ミュージックではないところが面白かったんですよね。まさにパンクとヒップホップというか、そこが自分のツボにハマった。このひとはとんでもないなと。

クボタさんはガチガチの洋楽ファンの集まる場所で邦楽をかけていた、数少ないDJのひとりなんです。そういう意味で言えば、銀杏ボーイズをクボタさんがリミックスするのは不自然ではないんですよね。みんながハウスとかヒップホップとか踊っている時代に、クボタさんはサザンオールスターズをかけていましたもんね。

クボタ:サザンのファーストの無名な曲を……(笑)。

そこがクボタさん的には、パンクなんですよね?

クボタ:いま和物や7インチのブームだったりって言ってるけど、やっと来ました(笑)。今回やってみたら楽しくなっちゃって、頼まれてもいないのに2バージョン作っちゃって。

峯田:いや、どっちもすごいですよ。


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クボタ:最初聴いてもらったときはどんな反応をするのかドキドキしましたよ(笑)。だって依頼するのが初めてで、自分たちの曲をすごく大事にしてるっていうからさ。あと曲が長めで6分くらいあって。だいたいリミックスをするときは、ヴォーカル・パートは全部使って、あとは全部変えていたから、今回はコードも複雑だし辛そうだなって創る前は思ってたんだよね。聴いてもらったら「すごくよかったです!」とかって言うんだけど、本人を前にして他に何にも言えないでしょうと(笑)。

クボタさんは銀杏ボーイズにどんな印象を持っていたんですか?

クボタ:名前はもちろん知っていましたけど、申し訳ないんですが、銀杏BOYZは聴いてなかったんですよ。いろんなひとから「銀杏ボーイズの峯田くんがキミドリのこと好きらしいよ」って聞いていたんだけどね。リミックスをするときに全部聴かせてもらって見事にはまってしまって。クラブでかけたりして、「クボタさんどうしたんですか?」って言われたり(笑)。

銀杏ボーイズには単に売れたロック・バンド以上の何かがありますよね。誰もがイエスと言うことをやっていないといいますか。クラブってどっちかっていうと、なるべく誰もがイエスと言うというものを選ぶってところがあるじゃないですか?

クボタ:俺、それはしてこなかったんですよ。それでよくやってきたなと思いますけど(笑)。

リミックスに対するお客さんの反応はどうだったんですか?

クボタ:マスタリング前にCDRで試しにかけていたんですが、反応はすごくよかったです。お客さんが銀杏ボーイズのファンだったのかはわからないけどね。

峯田:お客さんからクボタさんが銀杏の“ぽあだむ”をかけたって聴いてたんですよ。しかも銀杏ヴァージョンじゃなくてストリングスが入っていると。「あれは何なんですか?」って質問がけっこうきましたからね。

クボタさんは一風変わったDJなので一括りにはできないですけど、やっぱりクラブ・カルチャー側の感想に興味があるんですよね。で、今回のシングルに同時に収録されている“生きたい”って曲、やばすぎるじゃないですか。正直に言って、驚きました。内面の葛藤をこれでもかとさらけ出して、克服していくっていうことをやっているんだろうなと思ったんですけど、ある意味で圧倒的な何かがこの曲にはあるんですね。
 それに対して、クラブ・ミュージックって、銀杏ボーイズが抱えているような内面にはあまり触れてこなかったと思うんですね。どちらかというとフィジカルにくるものであるというか。耳から入るものであってハートから入るものではないというかね。もちろん、音楽はすべてハートからと言ったらそれまでなんですけど、優れたソングライターの曲をリミックスするだけには止まらないような気がしたんですよね。

峯田:でも、(クボタさんは)クラブ・イベントでちあきなおみとかをかけるDJですからね。

ちあきなおみは昔のものだからまだわかるんですよ。でも銀杏ボーイズは現在進行形だから意味が違うものだよね。

クボタ:この“生きたい”ができたときが記憶に残っていて。去年の5月4日かな。三重でのDJ帰りに久しぶりに峯田くんに電話したら「“生きたい”って曲ができました」と。実はその日って、俺の親友だったデブラージが亡くなった翌日だったんだよね。しかもタイトルが“生きたい”でしょう? だから「うお」って。それで聴いてみたらすごい曲で、全く長さも感じさせないし。

峯田:最初は歌詞だけメールで送ったんですよ。

クボタ:前の日にあいつの顔は見てきたんだけど、お葬式に行けなくてさ。ホテルでも眠れなくてね。その時にメールで歌詞が送られてきたんですよ。それでタイトルが“生きたい”でしょう? すごいなぁと。歌詞はもちろん全然違うんですけど、ぼくのなかではくるものがあった。だからリミックスではもっとよくしようと思いましたね。

銀杏ボーイズというバンドが無くなっていくプロセスが今回のテーマとしてあるじゃないですか? バンドの崩壊に対する内面的な苦しみみたいなものと、それを克服したい気持ちのせめぎ合いみたいな曲ですよね?

峯田:ひとりになってしまったけど、これからも俺は頑張っていきますよ、という決意表明とは違うんですよ。前向きな気持ちと無念さというか……。だから最初にあの無念さは間違っていたと言わないと、次の一歩に進めないような気がして。簡単に胸を張って心機一転頑張っていきますっていう曲は作れなかったんですよ。そうじゃなくて、一回後悔の念みたいなものを出しておかないと、ポップな曲は作れないんじゃないかと思って。これを作ることによって、なんとなくだけど決着がついたような気がします。それで“生きたい”とは対極にある「まぶしさ」や「ときめき」があれば、作品として面白いかなと。

そういう意味ではバランスが取れて、いまおっしゃっていたような感じにはなっていると思います。だって、このシングルにクボタさんのリミックスがなくて、“生きたい”だけだったら……あまりにも重たいもんね(笑)。

峯田:うん、重たいです(笑)。最初はどういう音でリミックスしてくれるのか予想していたんですよ。オフビートでめっちゃダブでくるのかなとか(笑)。
 でもリミックスを聴いてみたら、ぼくの考えていたものとは全然違ったんですよね。“ぽあだむ”の真ん中にある表情をストリングスを駆使してうまく抽出してくれて、それは銀杏ボーイズには絶対にできなかったことなんで。例えば、ぼくは結婚もしてないし子供もいないですけど、子供はこういう体型で、こういう体質で、こういう洋服が似合うというのをクボタさんに考えてもらった感じなんです。

クボタ:ははは(笑)。

峯田:あー、そうだー似合うなぁっていうか。だから信じてよかったと思いました。

ぼくもさすがだなと思いましたよ。

クボタ:誉め殺し~。

いや本当ですよ! 

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ラヴソングなんですけど、いざ女の子と付き合ってみると、いろいろ汚いところとかも見えてくるじゃないですか? そういう汚いところが前のラヴソングだったら全体の6割を占めていたところを、2割くらいにしとくみたいな。そんな感じですかね。いい曲を作っていきたいです。──峯田


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生きたい/ぽあだむ クボタタケシ REMIX Version II

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クボタ:“ぽあだむ”は速さ的に、ステッパーズ・レゲエみたいにしようかなとか考えたけど、やってみたら全然しっくりこなかった。だったらもっと被せていって、さらに違う方向へ行ってキラキラさせようと。だけどキラキラさせすぎないで、絶妙なところで止めました。だいたいリミックスの場合って、ヴォーカルは小さいんですよ。でも今回は音量を上げて声で引っ張ってもらう感じにしようかなと。

さっきもクボタさんが言っていましたけど、曲の歌メロがすごく残るんですよね。クボタさんは今回のリミックスでそれを狙っていたのかなと思いました。

クボタ:もちろん。原曲のよさは損なっちゃダメだと思ってましたから。

リミックスをするときにふた通りあると思うんです。まずリミキサーの個性がでるパターン。それはそれですごく面白いんですが、今回のクボタさんは明らかに裏方に徹していると言うと変ですが、楽曲のよさをより引き出す点を重視しているというか。

峯田:最初は自分の部屋で聴いたんですけど、その様子は見せられるもんじゃないですよ。クボタさんには「よかったです」と伝えたんですけど、スタッフの軽部くんが音を持ってきてくれたときは、「いやぁ、音楽やっていてよかったな」って言いましたからね。

クボタ:いやぁ、それはよかったな。

峯田:ぼくは音楽を聴くのが好きだから、いろんなリミックスのチェックはしていたんですよ。だから2016年の空気感とかもだいたいはわかるんです。でも、そういう頭でクボタさんのリミックスを聴いたときに、「やっぱりこれだよね」ってなっちゃいましたもん。いまはこれが流行っているとか、これからはこれが来るとかって言われているけど、「これなんだよな」と。

クボタさんがすごいのは、この曲をクラシックにしたというか、10年経っても聴けるものにしたいって思っていたことですよね。

峯田:古びない普遍的なところをついているというか。

大局的に言えば、メロウグルーヴってあるじゃないですか? ああいう括りにこの曲が入っていてもおかしくないですよ。クボタさんはそこを狙っていたでしょ?

クボタ:狙ってないですよ(笑)。ただ単に自分でもびっくりするような曲を作りたいなとは思っていましたけど。だから、気持ち悪いかもしれないけど、この曲は何回も自分で聴いているんですよね。いろんなレコードを聴いたあとにこのリミックスを聴いてみたりね。

峯田:これはぼくの勝手ですけど、たぶん音楽への取り組み方が自分と近いような気がするんですよ。

クボタ:そうかも。

峯田:どこにも属したくはない。あと、聴くひとを信じているってとこですよね。

パンクがルーツなのも同じですよね。

峯田:「俺はこうだから頼むよ」って感じじゃないと思うんですよね。聴いたひとがご自由にって感じで限定したくはないんですよね。銀杏ボーイズはこういうバンドだからとか。そういう時期もあったんですけど、メンバーがいなくなったので、銀杏ボーイズの峯田が主人公なんじゃなくて、曲が主人公でもいいなと思うようになって。この曲をたくさんのひとに聴いてもらえるといいなぁと。

クボタ:できあがってマスタリングに入る前に、ふたりでパンクのレコードの話とかをしていて、俺どうしても欲しいレコードがあったのね。ビッグ・ボーイズ(Big Boys)のレコードだったんだけど、峯田くんがそれをくれたんだよね(笑)。あれは嬉しかったよ。

峯田:ぼくはキミドリの最初のリリースのチラシをいただきました(笑)。

クボタ:あと“オ・ワ・ラ・ナ・イ”のアドバンス・カセット。あとジャックスのカヴァー。リカっていうふたり組の女の子のプロデュースをしたとき、カップリングでジャックスのカバーをしてて。キミドリのときにも、ジャックスをサンプリングしてデモテープを作ったりしてました。

峯田:あと、昔からオシャレなところに怨念を持ち込んでるというか。

ははは(笑)。それは怨念ですか?

峯田:ぼくはキミドリの“自己嫌悪”に怨念を感じたんですよね。コレクターズってバンドがいるじゃないですか? モッズなスタイリッシュさのなかに加藤ひさしさんの怨念があるんです。『さらば青春の光』って映画も、すごく主人公が憂鬱ですよね。スタイリッシュと相反する怨念があるものが好きなんですよね。それはモッズでもヒップホップでもロックでもそうですけど、どこかで様式美とは反対のものがうまい割合で入っているものが惹かれる気がして。

クボタ:そうね。俺も様式美はダメだったから。

過剰なものに対しても思いがあるようにも見えるんですよね。クボタさんってそういう意味でいうと、逆にバランスがいいというか。

峯田:バランスはホントにすごいと思います。言っちゃ悪いんですけど、セックスたぶんうまいんだろうなぁと。

クボタ:ははは(笑)。

峯田:流れを作ったりするのが絶対うまいだろうなぁ(笑)。

クボタ:イントロが長いとかね(笑)。

峯田:ぼくはDJをやったことがないんですけど、この曲を20曲流すとしたら、この曲を主人公にもってくるとか、この曲を引き立たせるためにこの曲を使うっていうのがあると思うんですよ。

クボタ:ある。

峯田:その持っていき方というか、それってバランスとか空気を読むって能力がないとできない気がするんですよ。バンドでもハイライトにたどり着くまでの道のりがやっぱりあるし。ただ盛り上がるだけじゃないような気がする。

クボタさんは構築した空気を自分で壊すのも好きですからね。そこがすごく似てるのかもしれないですね。

クボタ:うん。大好き。すごく盛り上がっているときに静かな曲をかけてやり直したり。

“生きたい”という曲と同じように、クボタさんのリミックスも次の銀杏の方向性につながると思うんですけど、次にやる予定ですか?

峯田:いまスタジオに入っているメンバーには、固有名詞を使ってわかりやすく言うと、オアシスとジャックスをやろうって言ってますね(笑)。前のアルバム2枚でシーケンサーを使ったりノイズを入れたりという意味では、音楽ファンとして額縁は作れたような気がするんですよ。でも歌詞に関してはまだまだだから、あとはそこに絵を入れるというか。音楽ファンにも届くけど、一発聴いてメロディを覚えられるような、そういうものをやりたいですね。あとは風通しのいいものを真ん中にドーンと作りたいです。

ジャックスはわかるんですけど、オアシスはちょっと意外でしたね。でも“ぽあだむ”みたいな曲は、ちょっとメロディはオアシスっぽい感じがします。

峯田:歌とことばでわかりやすいものを作りたいですよね。

ことばで書きたいテーマってありますか?

峯田:ラヴソングなんですけど、いざ女の子と付き合ってみると、いろいろ汚いところとかも見えてくるじゃないですか? そういう汚いところが前のラヴソングだったら全体の6割を占めていたところを、2割くらいにしとくみたいな。そんな感じですかね。いい曲を作っていきたいです。

峯田くんって、好き嫌いを抜きにして強いことばを持っているじゃないですか。クボタさんはそれはどう思いますか?

クボタ:キミドリのときもそうでしたけど、もともとあんまり歌詞って聴かないんですよ。でもちゃんと聴いてみると、一貫しているなというか、自分と違うジャンルではないなというのがよくわかるんです。ただ、いまもあえて歌詞は聴かないようにしてますね。リミックスを依頼されたときはもちろん聴きますけど。

これほど強いことばがあっても音ですか?

クボタ:音です。キミドリのときもそうだったんですけど、歌詞なんか書いたことがなかったし。ジャックスも大好きだったけど、あんまり歌詞とか聴いてなかったんですよね。だけど自分でいざ書いてみると、あんな感じになるから間違ってなかったのかなと(笑)。

峯田くんの場合、ジャックスはやっぱり歌詞ですよね。

峯田:うん。

クボタ:俺は音だったんですよ(笑)。

峯田:ぼくがジャックスを初めて聴いたのはタクシーのなかだったんですよね。タクシーの運転手がAMラジオをつけてて、ジャックスが流れてきた。

クボタ:“からっぽの世界”とかかな。

峯田:そうです。10年くらい前です。ラジオの音質も含めて、あれがもうね。家に帰って急いで調べて、「あれがジャックスか!」と。早川義夫は聴いていたんですけど。あれにはすごく興奮しましたね。

クボタ:だってGS全盛期のときにあの音ですよ。すごいなぁと思って。

そうですよね。お互いそうやって違うからこそ、ミラクルのミックスになった気がします。何か言い残されたことはありますか?

クボタ:早く聴いてほしいし、どう感じられるのかすごく楽しみですね。

峯田:まだクボタさんにリミックスをお願いしたい曲が何曲かあるんです。だから是非またやってほしいですね。

Bill Laurance - ele-king

 ジャズ、ロック、ファンク、ソウル、R&B、アフロ、ラテン、カントリーなど多種の音楽を融合するフュージョン・ジャム・バンドとして知られるスナーキー・パピー。グラミー賞受賞作の『ファミリー・ディナー vol. I』(2014年)の続編『ファミリー・ディナー vol. II』が先にリリースされ、そこではベッカ・スティーヴンス、ローラ・マヴーラ、クリス・ターナーなど進境著しい若手アーティストから、サリフ・ケイタやデヴィッド・クロスビーなど大御所に至る幅広いゲストとの共演を披露していた。彼らの魅力はインプロヴィゼイションに富むライヴ演奏で、このアルバムもライヴ録音によるものだったが、リーダー格のベーシストのマイケル・リーグとともに、バンド結成時からサウンドの核を担ってきたのがピアニスト/鍵盤奏者のビル・ローレンスである。スナーキー・パピーはアメリカで結成されたが、ビル自体はイギリス人で、いまもロンドンを拠点としている(スナーキーの活動時などはアメリカに遠征しているのだろう)。

 クラシック教育を受け、ロンドンのインスティテュート・オブ・コンテンポラリー・ミュージック・パフォーマンスを卒業したビル・ローレンスは、同時に14歳からプロ活動をはじめ、ライヴ・ミュージシャンとしての腕を磨いていった。スナーキー以外にもバレエ、演劇、映画、テレビ、コマーシャル・フィルムなど多方面でも演奏し、ソロ・アルバムも『フリント』(2014年)、『スウィフト』(2015年)と既に2枚発表している。それらソロ作では、クラシックの素養を感じさせる繊細なピアノ・タッチにオーケストレーションを絡め、シネマティック・オーケストラやヘリテッジ・オーケストラなどに通じる壮大で重厚な佇まいの楽曲も披露していた。これらはアメリカ録音で、マイケル・リーグが制作や指揮を行い、演奏にはスナーキー・パピーのメンバーも参加していたのだが、そのスナーキーの『ファミリー・ディナー』のようなポップ寄りの作品とはまた違うアルバムだなという印象を持った。スナーキーはオランダのメトロポール・オーケストラ(現在の指揮者はヘリテッジ・オーケストラのジュールズ・バックリー)とも共演作『シルヴァ』(2015年)を録音するが、その小型編成版的な雰囲気がビルのアルバムから感じられるのは、彼がクラシック教育を受けたことによる部分が大きい。また、『スウィフト』にはエレクトリックなテイストの作品も多かったのだが、ビルが作曲する楽曲にはUKのクラブ・サウンドの影響も表われており、それはビルが日頃接する音楽環境が関係するのだろう。

 『スウィフト』から1年ぶりの新作『アフターサン』はニューオーリンズ録音で、いままでと同じくマイケル・リーグ、ロバート・“シーライト”・スパットというスナーキーの仲間が共同プロデュース/アレンジ、及び演奏で参加する。だが、前2作とはかなりテイストが違うなということをオープニングの“ソチ”を聴いて感じた。アフロ・ビートを取り入れたかなりファンキーなフュージョン・ナンバーで、どちらかといえばスナーキー・パピー本隊が持つライヴ感が露わになっている。前2作にはホーンやストリングス・アンサンブルが入っていたが、本作はビル(キーボード)、マイケル(ベース、ギター)、ロバート(ドラムス)の3人にパーカッションが入った編成で、鍵盤が主要メロディを弾き、シンセによってサウンドを複合していく。従って個々の演奏そのものやインプロヴィゼイションに重きが置かれ、結果として演奏から生み出される熱量やグルーヴが増しているのだろう。それが顕著なのが“タイム・トゥ・ラン”で、ハモンド・オルガンが活躍するアフロ・テイストのジャズ・ファンクとなっている。“バレット”もそうだが、アフロ的なモチーフが多いのが本作の特徴でもある。この曲はディスコ・ダブ的なアレンジが施してあり、そうしたクラブ・サウンドの影響の強さも本作からは伺える。“ア・ブレイズ”はダブ色の濃いナンバーで、表題曲や“ファースト・ライト”でのバレアリック・テイストは70年代フュージョンやジャズ・ロックの現代的な解釈によるものだろう。一方、ピアニストとしてのビルを見ると、“ザ・パインズ”や“ゴールデン・アワー”での叙情的なプレイが光る。“マデリーン”はそうしたリリカルなピアノに対し、クラブ・ミュージックの影響が濃厚な太いビートが組み合わさり、ゴーゴー・ペンギンやバッドバッドナットグッドといった新世代のピアノ・トリオに比類するようなナンバーとなっている。いままでからより力強く進化したことを感じさせるアルバムだ。

黄金の館 - ele-king

 シンガーソングライターとして際立った輪郭を持つ吉田省念。地元京都、そしてインディ・シーンとはまた少し異なる場所で、さまざまなアーティストと時間を重ね、じっくりと一枚のアルバムがまとめられた。ele-kingでも本作のインタヴューを敢行予定。まずは音をチェックされたい。

くるりの活動を経て、暖めてきた楽曲達が遂に完成。
正統なロック・ルーツサウンドからフォーク・ブルース・アヴァンギャルド迄、彼の歩んで来た道のりを凝縮し、京都から発散するほんわりとした甘酸っぱいサウンドにミックスし、ゆったりと濃密な時が進む。多岐にわたる楽器演奏を自ら紬ぎ、素晴らしい豪華ゲスト陣が寄り添う事でその魅力を存分に伝えるメロディアスで爽快なポップ・アルバム!
ゲスト参加ミュージシャンは、細野晴臣、柳原陽一郎(exたま)、伊藤大地、四家卯大、谷健人(Turntable Films)、植田良太、めめ、さいとうともこ(Cocopeliena)。
ドイツに渡り、NEU・クラウスディンガー(ex KRAFTWORK)と共に音楽活動を行っていた尾之内和之をエンジニアに、自宅・省念スタジオで収録した執念の快心作が完成!

■ライ・クーダーや細野晴臣氏のように過去のさまざまな音楽のエッセンスを現代に蘇らせる名工が作った作品の佇まいがあるし、その飾り気のない純朴な歌いっぷりから、京都系フォークシンガーの佳曲集とも言っていいかもしれない。
【柳原陽一郎 ex.たま】

■言葉にならないです。果てしなく胸の奥の奥の真ん中の部分に触れる。揺れる。夢中で聴いている。
【奇妙礼太郎】

■去年、舞台音楽の現場を長く共有した省念くんのソロアルバム『黄金の館』すばらしい作品でぼくもうれしい!なつっこいメロディに朴訥な歌声、かなりねじれたアレンジと底なしのギターアイデアが最高ですよ。こんな人と一緒に音楽を作れてたのが僕は誇らしいです。多くの人に聴いてもらいたい!!
【蔡忠浩 (bonobos)】


作品詳細
吉田省念 / 黄金の館
ヨシダ・ショウネン / オウゴンノヤカタ
発売日:5月18日
価格:¥2,500+税
品番:PCD-25199
Cover Art:HELLOAYACHAN

トラックリスト
1. 黄金の館
2. 一千一夜
3. 晴れ男
4. 水中のレコードショップ
5. 小さな恋の物語
6. デカダンいつでっか
7. 夏がくる
8. LUNA
9. 春の事
10. 青い空
11. 銀色の館
12. 残響のシンフォニー
13. Piano solo

[●作詞・作曲・演奏 吉田省念 ●録音 尾之内和之 ●MIX 吉田省念・尾之内和之]


ツアー情報
■5/14(土) 京都・拾得 「黄金の館」*バンドセット&アルバム先行発売有り
■5/17(火) 京都・磔磔 「月に吠えるワンマン」*ソロでの出演
■5/24(火) 下北沢・レテ「銀色の館 #3」*弾語りソロワンマン
■5/26(木) 三軒茶屋・Moon Factory Coffee *弾語りoono yuukiとツーマン
■6/5(日) 名古屋・KDハポーン「レコハツワンマン」*京都メンバーでのバンドセット guest:柳原陽一郎
■6/14(火) 京都・拾得 「黄金の館」
■6/30(日) 下北沢・440 「レコハツワンマン」 *バンドセット Dr.伊藤大地、Ba.千葉広樹、guest:柳原陽一郎
■7/14(木)京都・拾得 「黄金の館」
■7/18(月) 京都・磔磔 *詳細未定
■7/24(日) 大阪・ムジカジャポニカ
■8/7(日) 京都・西院ミュージックフェスティバル


吉田省念:

京都出身のミュージシャン。
13歳、エレキギターに出会い自ら音楽に興味をもち現在に至る迄、様々な形態で活動を続ける。
18歳、カセットMTRに出会い自宅録音・一人バンドに没頭
これをきに楽器を演奏する事に興味をもつこの10年間は日本語でのソングライティングに力を入れ自らも唄い活動を続ける。
2008年「soungs」をリリース。吉田省念と三日月スープを結成、2009年「Relax」をリリース。
2011年~2013年くるりに在籍 日本のロックシーンにおける第一線の現場を学ぶ。在籍中はギターとチェロを担当し「坩堝の電圧」をリリース。
2014年から地元京都の拾得にてマンスリーライブ「黄金の館」を主催し、様々なゲストミュージシャンと共演。
四家卯大(cello)、植田良太(contrabass)とのセッションを収録したライブ盤「キヌキセヌ」リリース、RISING SUN
ROCK FESTIVAL 2014 in EZOに出演。
2015年ソロアルバムのレコーディングと共に、主演:森山未來 原作:荒木飛呂彦 演出:長谷川寧 舞台「死刑執行中脱獄進行中」の音楽を担当。
既成概念にとらわれない音楽活動を展開中。
website:yoshidashonen.net

Interview with Ryu Okubo - ele-king

 ただいま絶賛個展開催中の新進気鋭のイラストレーター、オオクボリュウ(通称ドラゴン)をつかまえて話を訊いた。
 90年代のある時期までは、新しいモノは新しいモノだった。しかし、新しいモノが必ずしも新しくはない。少なくとも90年代のある時期までは新しいモノが昔のモノよりも面白かった。しかし、新しいモノが必ずしも面白くはない。そんな現代の申し子であるこの若者は、構えることなく、いつも会うときと同じように話してくれた。

本当にそうですよ。絵に関してもそうですもん。これ以上の進化はしなくてもいいというか。でも古いものが好きなんじゃなくて、時間が経っても残る普遍的なものが好きなんです

ドラゴンくんと初めて会った頃に、ルーツを教えてくれたよね。水木しげるからすごく影響を受けたって。

ドラゴン(以下、D):この間、三田さんと水木さんのお葬式に行ったんですよ。

ヒップホップと水木しげるっていうのが、ドラゴンのユニークなところじゃない?

D:『ele-king』の文章、素晴らしかったですよね。ああいうキャッチコピーにこれからしようかな(笑)。

そもそもドラゴンが絵を描きはじめたきっかっけって、漫画だったんでしょう? 

D:でも僕は音楽が好きだったから、最初のきっかっけは映画の『イエロー・サブマリン』ですよ。母親に見せられたんですよ。

えー(笑)!

D:それが小1とかですね。いまでもビートルズは好きなんですよ。音楽がやっぱり良かったですよね(笑)。

リアルタイムの音楽よりもそっちなんだね?

D:当時流行っていたものも聴いていましたけどね。でもビートルズはずっと好きですよ。

日本語ラップもすごく詳しいでしょう。リアルタイムじゃないと思うんだけど、キングギドラの『空からの力』の曲名が順番通りに全部言えるじゃない?

D:あれはクラシックだからみんな言えるんじゃないかな(笑)。でもそれは僕の性格もあると思いますよ。調べ癖がヒドいというか。つまみ食いしないで何でも全部いってみるというか。

じゃあ最初は絵というよりも音楽だったんだね。

D:そうかもしれないですね。

能動的に音楽を聴きはじめたときに、自分の転機になったものは?

D:ビートルズを聴くようになる前に2年間アメリカにいたことがデカいです。4、5歳のときで、マイケル・ジャクソンがすごく流行っていました。『ヒストリー』が出たときですね。当時の4、5歳のアメリカ人はマイケル・ジャクソンを聴いていたんですよ。子供たちはヒップホップを聴いてませんでしたね。トライブとか流行っていたのかもしれないんですけど、子供の耳に入ってくるのは、マイケル・ジャクソンでした。

その体験が自分のなかの文化的方向性の何かを決めてしまったの?

D:そうでしょうね。ノーマルな状態にマイケル・ジャクソンが入ってきたわけですもんね。

それでビートルズを聴いたと。

D:日本に帰ってきてビートルズですね。日本語ラップは流行っていたときに聴きました。リップ・スライムとか、キック・ザ・カン・クルーとか。僕の世代はみんな聴いていますよ。それが小6から中1にかけてのとき。

「あがってんの? さがってんの?」って。

D:あれがスーパーで流れていて、お母さんにキック・ザ・カン・クルーのアルバムを買ってもらいましたね。当時はエミネムも流行っていました。D12とか。

懐かしい。エミネムの『8マイル』も流行ったよね。

D:あの頃って、ハードな曲でもみんな聴いていましたよね。ちょっと変な時代でしたよね。だってキャッチーじゃないのに、アメリカみたいにわけもわからず聴いていたんですから。

じゃあ中学から高校にかけての思春期に大きな影響を与えたものって何? 

D:一番影響を受けたのはザ・フーなんです。

な、なんなんだよ〜、それは! 

D:本当に好きで。ヒップホップは聴いていたんですけど、高校1年生のときに、『トミー』を先生に借りて、映画にものすごく感動しちゃって。そこから3年くらいはあの辺の音楽を聴いていましたよ。ビートルズより後のバンドといいますか。ぼくはいまでもああいうバンドが来日したら見に行きますよ。キンクスとかも、リーダーのレイ・デイヴィスがソロで来日したときもフジロックで見ました。

90年代もそうだったけど、ドラゴンくん世代だとタワーレコードとかで、旧譜とかも普通に手に入るもんね。逆にいうと、古い音楽と新しい音楽が同じように売られてしまっているところもあるからね。例えば、いま流行っている新しい音楽を買うくらいだったら、再発されたフーを買うって感じ?

D:本当にそうですよ。絵に関してもそうですもん。これ以上の進化はしなくてもいいというか。

それは要するに、いいものが出尽くしているから?

D:そうなんですよ。ピカソとかすごく好きですけど、あそこまでいっているから見栄えとしてはあのまんまでいいかなと。

でも自分でカタコトをやったり絵を描いたりする上でさ、すでに過去に素晴らしいものがあるのに、そこで自分が出ていくというのは矛盾じゃない?

D:そうですよねぇ……。いつも考えてはいるんですけど。

「新しさ」とはなんだろう?

D:最近思っているのは、パーソナルになることっていうか。

「新しさ」って必要だと思う?

D:この展示の感じでいうと、見栄えに関しては新しいことをしている意識はないです。本当にキャンパスに絵の具を使って書くだけというか。キャラクターに関しても、新しいものを生み出しているつもりも全然ないんです。白くて丸いキャラクターっているでしょう? キャスパーとか、スヌーピーとか。ああいうスタイルってあると思うんですよ。それにのっとっているというか。でも今回の扱っている「アイフォンを落として割っちゃった」みたいな、最近のひとの悩みというか、それはキャスパーの時代にはありませんでしたよね。ピカソの時代にももちろんない。だから別に外見に関して新しい素材を使うとかそういう気持ちはないですけど、そういうパーソナルな部分を意識していますね。音楽に関しても似ているかみしれません。リヴァイヴァルっていくらあってもいいけど、その時代のひとがやっていて、そのひとのパーソナルなところが出ていれば、俺は面白いかなと思います。

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その当時王道のベスト・ワンされていた音楽にはやっぱり力強さを感じられるんですよね。漫画に関しても似たものを感じます。もちろん例外はありますけど。

2〜3年前だっけ? 快速東京のライヴで知り合って、カタコトのカセットを買って、ドラゴンくんの絵をいろいろ見せてもらったんだよね。ドラゴン君にはすごくたくさんある引き出しのなかで、今回の初めての個展で、いろんな自分を見せるんじゃなくて、ひとつのコンセプチュアルな作品を見せたじゃない?

D:それは意識しましたし、現実的にも出せる作品が溜まっていなかったんです。僕、普段はクライアントワークばかりやっているんで、いざ個展をやろうとしたとき、そんなに作品は溜まっていないというか。だから個展やるときに、ひとつコンセプトを決めて展示するってアイディアにいきがちな部分もあります。

クライアント仕事へのストレスが作品に表れていたりする?

D:それはあるかもしれないです。とはいえ、仕事のようにスケジューリングをして、全部作るのに2ヶ月くらいかかりましたね。終わったのは個展が開始する1週間前でした。普段のクライアントワークで時間は厳守していたので、そこはきっちり守れましたね(笑)。

クライアントワークではどういう仕事が多いの?

D:東京メトロのCMで使われるような絵の仕事とかですかね。

アイフォンとかアマゾンとかって、現代の消費生活を象徴しているものだと思うんだけど、そういうものを屈託無く描くよね?

D:そう思いました(笑)?

うん。例えば僕なんかはアイフォンもアマゾンも利用するけど、複雑な気持ちになるもんね。むちゃくちゃ頭にきたりするけどね。でも仕方がねぇから使うか、みたいな。

D:僕は全然複雑な気持ちじゃないんですよ。でも、そう言ってもらえて良かったです。僕はこれが批判的に捉えられていたら嫌だなと。見方によればすごくベタな現代批判みたいに思われそうで。

あまりにも屈託が無さすぎると思ったくらいですよ(笑)。

D:でも僕はいつもそういう感覚ですよ。否定も肯定もせず、みたいな。

話は変わりますが、カタコトはどうなっているんですか?

D:セカンドは半分くらい進みました。やる気はあるんですが、忙しくて……(笑)。1回アルバム制作を経験しているから、もう1回あれをやるのかぁっていうか(笑)。サクッといかなかった思い出が強いんです。メンバー同士の話し合いもストレスになるし。ひととモノを作るってストレスが溜まりますよね。

カタコトの屈託の無さが好きなんだよね。ストリート系ヒップホップに対するリスペクトもすごくあるんだけど、ヒップホップは幅広いモノだから。でも、カタコトみたいなものは変種だよね(笑)。

D:もうちょっと頑張らないとダメだな(苦笑)。

いま普段聴いている音楽って何?

D:相変わらず何でも聴いていますね。ヒップホップも聴くし、新しいものも聴いていますよ。カニエの新作とか(笑)。聴いてもあんまりなんとも思わなかったですけど。

ドラゴンくんはPSGのMVをやったじゃない? あれはどうやってやったの?

D:あれはPUNPEEくんに「お金はないけど、一緒にやってみませんか?」みたいな感じで誘われたんです。

それはどこでどう繋がったの?

D:これも不思議な話なんですけど、ユーチューブに自分の短いアニメーションを何個か上げていたんですよ。そこに何も考えず、自分の好きなアーティストをたくさんタグ付けしました。例えば、鎮座ドープネスの下に自分のアニメがきたらいいな、ぐらいの気持ちです。そうしたら、PUNPEEくんがたまたま見てくれたんですよ。それが2009年ぐらいなんですけど、その頃ってPSGも出たばっかりのときで。僕はスラックのファーストを予約して買うぐらい好きだったんですよ。『My Space』のときです。だからけっこう早かったというか。

PSGとドラゴンの世界観がハマっていたよね。

D:いまでもあれは言われますからね。相変わらずあの動画の再生回数は伸びてます。



アニメーションはそのときから自分でやっているんだよね。しかもコマ撮りで。

D:やってますね。最初、アニメは能動的に作っていたんですけど、PSG以降は全部頼まれて作るぐらいなので、あまりアニメーションを研究している感じではないんですけどね。だからアニメの絵は見るひとが見れば下手くそだとバレるというか。上手く動かせるひとってもっといるんですよ。いわゆるアニメの作法とかは僕は無視してるんで。

レトロスペクティヴな感覚があるよね。現代の消費生活を象徴するものが描かれていながら、アニメで再生されているのはある意味懐古的だけど、ドラゴンくんのなかに失われてしまったものに対する郷愁ってあるの? 

D:どうなんだろう。無意識的にはあるかもしれないですね。

ドラゴンくんから見て、昭和的な面白さってなんだと思う? 

D:難しいな。何なんでしょうね。でも古いものが好きなんじゃなくて、時間が経っても残る普遍的なものが好きなんです。

古いものが好きなわけじゃないと。

D:スヌーピーって造形もかわいいですけど、ここまで残っているからには、それなりの強度も持っていると思うんです。そこに僕はやられちゃう。ビートルズももちろんそうですけど。

スヌーピーの絵がグッとくるの?

D:絵ももちろんですけど、考えさせられる部分でもグッときてますよ。願わくば、自分の作品においても百年後のことを考えてしまうというか。音楽も、その当時王道のベスト・ワンにされていた音楽にはやっぱり力強さを感じられるんですよね。漫画に関してもそうで、もちろん例外はありますけど。

そう言われると、やはり水木さんは大きな存在なんだね。

D:水木しげるの魅力って絵だけじゃないですよね。

ドラゴンくんの作品は同世代に向けて描いている?

D:特に対象を考えているわけではないです。子供向けに描いてみたいとも思いますけどね。でも、自分が子供の頃を考えると、子供むけじゃないものも面白がっていたので、そこはあんまり子供に合わせる必要はないと思ってます。

映画では何が好きなの? 

D:うーん、何だろう……。映画はいろいろ見ますよ(笑)。タイのアピチャッポンとかすごい好きです。世界観が水木しげる的ですよ。ありえないことが起きているけど、誰も驚かないみたいな。

 

オオクボリュウ「Like A Broken iPhone | アイフォン割れた」開催中

2016年4月8日(金)- 4月24日(日)
トーク・イベント:4月16日(土)19:00-21:00 進行:安部憲行(本展キュレーター)】
時間:12:00-19:00  
休廊日:月曜日
会場:CALM & PUNK GALLERY (東京都港区西麻布1-15-15 浅井ビル1F)

Tel: 03-5775-0825
URL:https://calmandpunk.com/
facebook:https://www.facebook.com/events/1860614200832209/

Chimurenga Renaissance - ele-king

 3月末に首相官邸で行われたアベとムガベの握手がまるで独裁政権の契り合いに見えてしまったからではないけれど、ムガベ大統領が30年以上も牛耳るジンバブエにルーツを持ち、父親がンビラ(親指ピアノ)奏者としてマリンバ・アンサンブルを率いていたテンダイ・マレーアと、コンゴに起源を持つらしきフセイン・カロンの2作目を。マレーアはディゲブル・プラネッツのシュマエル・バトラーとスター・ウォーズ由来らしきシャバズ・パレシィズとして〈サブ・ポップ〉からも2枚のアルバムをリリースしてきた成長株。ユニット名に使われているチムレンガとは戦いとか抵抗といった意味らしく、近年は人権や社会正義を示すようにもなっているという(タイトルの「銃を持った女たち」とは橋元さんのことだろうか?)。

 2年前のデビュー・アルバムはそれこそシャバズ・パレシィズに作風も近く、マルカム・マクラーレンを思わせるシャンガーンなどもありつつ全体としてはヒップホップの範疇に留まるものではあった(映像も楽しめる→https://www.youtube.com/watch?v=2ChY5_uSR-8)。それが、ここではジャケットに貼られたステッカーでも強調しているようにジンバブエのビートとコンゴのギター奏法が前面に押し出され、US風のヒップホップはかろうじて殻を残しているだけに過ぎない。セネガルのヒップホップなどはあまりにもアメリカのコピーでしかなく、アフリカの遺伝子がむしろ移民先で花開くという図はダンス・ミュージック全体に見通せることとはいえ、これだけ面白い例はなかなかないかもしれない。レーベル・サイドはこれに「アフロ-フューチャリスト・ヒップホップ」というレッテルを与えている。

 透明度の高いギター・サウンドが終始、明るいムードを呼び込むのに対し、歌詞はかなり政治的らしく(それはムガベに対するもの? それともアメリカ?)、「およげ!対訳くん」とかで取り上げてくれないかなーと。前作同様、宇多田ヒカルが絶賛していたジーサティスファクションからサッシー・ブラックもMCで参加。アナログ・オンリーのようで、ダウンロード・コードが付いてます。

 アフリカついでに、ドミューンでもけっこう受けたゴールデン・ティーチャーのメンバーが参加したグリーン・ドアー・オールスターズのデビュー作も。これはグラスゴーとガーナ、そして、ベリーズ(旧英領ホンデュラス)から複数のグループが混在としたセッション・バンドで、どうやら主導権を握っているのはグラスゴーのグリーン・ドアーというスタジオ(〈ZEレコーズ〉からマイケル・ドラキュラの名義でアルバムをリリースしていたエミリー・マクラーレンがプロデュース)であり、同じくグラスゴーのハントリーズ&パーマーズ(『クラブ/インディレーベル・ガイドブック』p.55)から主宰のアウンティ・フローやオプティモのJ・D・トウィッチが最終的に宅で仕上げているという過程はどうしてもエイドリアン・シャーウッドのニュー・エイジ・ステッパーズを想起させる。ただし、レゲエではなくアフリカ。アリ・アップの役回りはやはりゴールデン・ティーチャーのキャシー・オージでしょうか。

 オープニングからしばらくはイメージ通りのアフリカ音楽が続き、だんだんダブを多用したり、クラブ的なスキルが比重を増してくる。エンディング近くになってくると、パーカッションの刻み方だけでアフリカ音楽を感じさせるだけで、チムレンガ・ルネッサンス同様、形式性はどんどん希薄になっていく。どこまでやったらレゲエとは呼ばれなくなるかという問いがニュー・エイジ・ステッパーズに存在していたとしたら、同じことがここではアフリカ音楽によって行われていることは間違いない。時にハンドクラップだけ、ハットとコーラスだけでアフリカがそこに立ち現れてくる。

 ハドソン・モホークやラスティといったベース系だけでなく、グラスゴーといえばメアリ・スチュワート人気といい、スコットランドの独立騒ぎであれだけ高揚したんだから、面白い音楽が出てこないほうがおかしいともいえるけれど。

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