「Nothing」と一致するもの

WWWβ - ele-king

 昨年オープンしたWWW Xに続き、新たな「場」が誕生する。クラブPAのワールドスタンダードであるファンクション・ワンを導入し、完全リニューアルしたB1FのWWWラウンジが、「WWWβ(ダブリューダブリューダブリューベータ)」に改称、深夜のクラブ・イベントを軸に新たなプログラムを発信していく。RP・ブー、ボク・ボク、エリシア・クランプトン、インガ・コープランド、インフラ、と、すでに決定している8月のラインナップもじつにアンダーグラウンドかつ豪華な顔ぶれだ。「テスト版」を意味する「β(ベータ)」をコンセプトに、今後もコンテンポラリーでカッティング・エッジなエレクトロニック/ダンス・ミュージック/ヒップホップが展開される「拡張の場」を目指していくとのこと。これは楽しみ!

WWW最深部!

新スピーカーの導入によって完全リニューアルしたWWWラウンジがWWWβ(ベータ)に呼び名を改められ、現代の多様なサウンドを紡ぐ“クラブ・オルタナティブ”をテーマに8月より新装スタート。各イベントの詳細は後日発表。

WWW Lounge completing the renewal with new speakers will be renamed “β” and launch in Aug on the theme “Club Alternative” as the deepest part of WWW spinning a variety of the contemporary sounds. The detail of each event will follow later.

WWWβ | Place to βe in Shibuya

WWWβは渋谷のライブ・スペースWWW / WWW Xにてコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージック/ヒップホップを軸にプログラムされ、“クラブ・オルタナティブ”をテーマに多様なサウンドを紡ぐ、“拡張”の場です。

WWWβ is an extended place programing mainly contemporary Electronic / Dance Music / Hip Hop at WWW and WWW X, Live / Club venues in Shibuya Tokyo, spinning a variety of the sounds on the theme “Club Alternative”.

AUG17’

8.04 fri RP Boo - Local 3 World -
8.10 thu Bok Bok w/ Friends - a2z - *before holidays
8.12 sat Elysia Crampton - Local 4 World -
8.23 wed Inga "Lolina" Copeland - TBA - *daytime event
8.26 sat インフラ INFRA


Lee Gamble - ele-king

 これはちょっとした事件かもしれない。これまで〈Pan〉から『Dutch Tvashar Plumes』『Koch』といった尖った作品を発表し、また自身の主宰する〈UIQ〉から独創的なアーティストの数々を送り出してきたリー・ギャンブルが、なんと〈Hyperdub〉に移籍する。9月15日には新作『Mnestic Pressure』のリリースも決定しており、先行して新曲“Istian”が公開されている。やはり〈Hyperdub〉は目の付け所がいいというか、これはちょっとした事件かもしれない。


 中古レコードショップじゃないところからこういう作品を探し出したかったという密かな希望は満たされた。久し振りに音楽のための音楽を聴いている気分にさせられるようなユーモアが、アルバムをしてベタつかせていない。だからといってただ軽いわけでもなく、ユーモアと不可分のバリエーションが耳を飽きさせない。キャリアからもよく伺えるブラジル音楽を基調とした音楽的説得力に裏付けされた圧倒的ユーモアと、それの独特なコミュニティでの共有によって作り上げられた作品は痛快そのものだ。

 永い間、痛快ということは、民族音楽と言われるものやブルースの専売特許だと思っていた。いい意味での狭さの中の深さが誰しもをスカッとさせるような。『オルガンス山脈』を聴いてそれは古い考えだと気が付いた。
 自国ブラジル音楽への尊敬は、ショーン・オヘイガンがプロデューサーとして参加しても、すでに言われているようにポスト・ロック的実験要素が加わっても、ブラジルらしさを損なっていないことからも伺えるが、リズムに目を向けると、ザ・ブラジルのリズムと言われているビートではない曲、例えば#2のUSインディーにあってもおかしくないようなビートでも、#3のショーン・オヘイガンらしいシンプルなビートでも、#8のカンドンブレのリズムにドラムが入っていても、#10のカシンらしいディスコ調のビートでも、ブラジル音楽から得たリズムの普遍性みたいなものを纏っていて、実に空間豊かである。そこに痛快さが残る余白があるし、ユーモアに説得力を与える一因にもなっている。
 音の柔らかさや、圧倒的なユーモアという点では、ソフト・ロック的だと言えるかもしれないが、60年代後半のソフト・ロックがここまで全体を見渡せていたようには思えない。当たり前にあった自分たちの音楽が土台になってはいるが、その先は、偶然の産物みたいな曲やアレンジで、アルバムに1曲か2曲キラー・チューンがあって、他は退屈な曲で埋め尽くされている作品がほとんどだ(その1曲か2曲を探すのがエキサイティングなのではありますが)。
 一方、『オルガンス山脈』は、必然の賜物だ。2006年にロンドンでの「ドメニコ+2」のショーで出会ったというショーン・オヘイガンのアレンジは、ドメニコのオーガニックなサウンドと相性抜群で、時にショーンの曲にドメニコがアレンジしたかのようにも思えてしまう(それがほんとに行われた時どうなるのかも楽しみだ)。実際、#13はショーンが歌詞、歌、演奏をすべて手掛けていて、ハイ・ラマズの新曲と聴き間違えるというか、そういっても過言ではない。2人の邂逅自体必然だろう。中原氏が指摘している「美しさの中にさりげない実験精神と遊び心と刺激がひそんでいる」という点も、作品をして飽きさせないバリエーションに繋がっている。そして、そのアイデアとセンスの共有の完成度たるや! 誰かが何か言い出して、誰かがそれに返して点とか、創作現場を想像するだけでも胸が躍る。そして、この作品のリズムの豊かさとユーモアに実際に踊る。

 保守でもないけど、土台は必要だし、というか気持ちいい方がいいし、進歩でもないけど、土台を元に新しいものと出会う、と。そんな意志というか柔らかさみたいなものをドメニコからは感じる。
 この機会に、カエターノの子供たちと言われているコミュニティの作品を色々聴き直してみたが、僕は、この作品が一番面白いと言いたい。確かに、ハイ・ラマズのファンということを差し引いているとは言えないが、まぁ差し引く必要もなく、2人の邂逅を素直に喜びつつ、ショーン・オヘイガン本人も言っている、彼らの「good vibes」に浸りたい。

聴くという行為は音が言葉で置き換えられなくても起こり得るということである。 (本書より)

 先日多摩川に行ったら、鬱蒼と茂る土手の草むらのあちこちから、7月の上旬だというのに、早くも虫たちの声が大きく聞こえた。まさに立体音響。臨場感たっぷりのバイノーラル。バイオ・ミュージック。というか、これが自然音。聴かなければ聴こえてこない。ジョン・ケージ風に言えば、聴くことは創造的行為。
 90年代に小山田圭吾はこう言った。作り手の想像力と聴き手の想像力が重なる領域で鳴る音楽を目指す。その領域をアンビエントと呼べるなら、『Mellow Waves』にも、ハウス・ミュージックにも、アンビエントがある。
 この話は、90年代に某イギリス人ライターに言われたことともリンクしている。読者もいっしょに考えてもらえる文章を目指していると彼はぼくに言った。我こそはそのジャンルのプロパーなりという態度はしない。作品の作者は自分なのだから自分が言っていることが正しいなどと作品を作者の奴隷にしない。自然の音は聴く人が聴けば作品になる。芸術家を崇めることを止める代わりに、凡庸な日々こそが芸術になりえる。そもそも実験とは、“問い直し”を意味する。ゆえに実験主義とアンビエントは隣接し、ゆえに実験とは、保守的な社会への抗議にも結びつく。

 デイヴィッド・トゥープの『音の海』には、こうした感覚が巧妙に描かれている。翻訳が出る数年前だったので、ぼくは自分の拙い英語力で苦労しながら原書で読んだものである。翻訳が出てからは、3人の友人に同書日本語版を買わせた。自慢ではないが、ぼくはトゥープをライターとして有名にした『The Face』誌の1984年の黄色い表紙のエレクトロ特集も所有していた。1993年の『The Face』誌の「Ambient Summer」の記事もリアルタイムで読んでいる(『Ambient Works Vol.2』リリース時におけるリチャード・D・ジェイムスのインタヴュー記事も)。影響を受けたと言えるほどトゥープの全著作物を読んでいるわけではないが、尊敬しているライターのひとりであることに間違いはない。
 とはいえ、よくわからないところもあった。たとえば、元々はデレク・ベイリー以降に登場したインプロバイザーのひとりであり、イーノの〈オブスキュア〉からも作品を出しているトゥープは、何故いちはやくジャーナリストとしてヒップホップについて著した『Rap Attack』を上梓したのだろうか──。
 本書には彼の音楽遍歴がこと細かく記されている。トゥープは前衛/実験音楽の徒である前に、ブルースやソウルといったブラック・ミュージックを幼少期から好んでいる。アカデミズムとも繫がる前衛/実験音楽界、とくにその書き手たちは、涙もろい人情的なソウル・ミュージックなどは本気で相手にしない傾向にある。生活のために書いたとトゥープは告白しているが、『Rap Attack』が気持ち良いのは、まだシーンがアンダーグラウンドだった時代(重要人物と会うのに、面倒な手続きを要しなかった時代)に立ち会えたという幸福が重要項目であるにせよ、テキストの根幹に、トゥープの無垢とも言えるブラック・ミュージックへの愛情があるからだろう。もちろん世のなかには、愛が言い訳にしかならない駄文は多々ある。が、音楽に関する経験と思考を重ねた成果を願わくば他者と共有したいと思うとき、結局のところはそこに行き着くものなのだ。
 『フラッター・エコー』はデイヴィッド・トゥープの自伝である。まさかこんなものが読めるとは思わなかったので、嬉しくて、ページをめくるのがもったいない気持ちで本書を読んだ。長年読み続けていたライターの、労苦の絶えなかった人生を知ることができたという喜びも覚えた。とりわけ女性との別れ、そして貧困については赤裸々に書かれているわけだが、彼の人生を見ていると実験音楽やアンビエントといったマニアックな音楽が、知識偏重的でも、高年収専門の音楽でもない、ということがよくわかる。むしろそれは生き方の自由とリンクして、とくに、人生最大の苦境において、自分に残されたオプティミズムのすべてを注いで『音の海』が執筆されたという話は、ぼくを揺さぶるには充分過ぎた。
 『音の海』を読んでいると、世界のいろんな“音”の場面が、人知れず接続して、ゆっくりとスムーズに拡がっているような感覚を覚える。それは音楽書の読書体験としては最高レベルのもので、と同時にそれは、聴くという行為が創造的行為であり、そしていまだ実験的かつ神秘的な体験であることを再認識させる。
 

ライターである私にとって事態をさらに複雑にしているのは、どのようにして言葉で置き換えられることなく音を聴き、その一方で言葉が不在の聴覚体験を言葉で説明するかという問題である。これは不可能に近い。私の一生の仕事であると言える。(本書より)

 

Aphex Twin - ele-king

 フジへの出演を控え、また先日旧譜4タイトルの日本盤が一挙に再リリースされたばかりのエイフェックス・トゥインが、新曲“korg funk 5”を公開した。リチャード・Dの息子の声がフィーチャーされているこのトラックは、コルグ(KORG)とのコラボレイションによるもので、同社のシンセサイザーが使用されている。また、この曲のお披露目と同時に、リチャード・D本人が元コルグのエンジニアである高橋達也におこなったインタヴューも公開されている。

[7/19追記:インタヴューの日本語訳が公開されました。こちらから]


Kutmah - ele-king

 LAのコレクティヴdublabでDJとして活躍し、イベント〈Sketchbook〉を主宰することで後の〈Low End Theory〉や〈Brainfeeder〉が登場する下地を作ったLAビート・シーンの立役者、クートマことジャスティン・マクナルティ。グラフィック・アーティストにしてビート・メイカーでもある彼は、これまで〈Hit+Run〉を中心に多くのミックステープやミックスCDを発表してきたが、このたび遂にそのデビュー・アルバムのリリースが決定した。発売日は7月28日、レーベルは〈Big Dada〉。現在、先行シングルの「Bury Me By The River」と「Cooler Of Evidence」が公開されているが、なんともダーティでロウファイなこの質感……ガスランプ・キラーゴンジャスフィのファンは必聴。

Kutmah
L.A.ビート・シーンの立役者クートマが、
ゴンジャスフィ、ジョン・ウェイン、ネイチャーボーイ・フラコ、タラーク、ジェレマイア・ジェイら豪華ゲストが参加したデビュー・アルバムをリリース!
また先行シングル「Cooler Of Evidence (feat. N8NOFACE)」を公開!

「いよいよ世界中の人々が、ビート・ムーヴメントで最も影響力のあるDJのひとりによるデビュー・アルバムを聴くことになると思うと、嬉しくてたまらない」
フライング・ロータス

「クートマは、穴を掘って首を切るような世界のために、光を灯し続けている。彼はこれを20年近く続けていて、その音楽は常に、我々が愛してやまないヒップホップの基盤にその署名を施してきた。そしてDJとしての数々の予想外な瞬間が、物語にいっそうの彩りを加えている」
ガスランプ・キラー

「自分の目指す方向性に合わせるために、これまでにないタイプの音楽を見つけなくてはいけなかった。型破りなビートと抽象的なライムこそが、おれの探していたものだった。そして、〈Jazz Fudge〉、〈Mo Wax〉、〈Asphodel〉、〈Fondle 'Em〉といったところと並んで、〈Big Dada〉は注目していたレーベルだった」
クートマ

長い間待望されていたクートマのデビュー・アルバム『The Revenge Of Black Belly Button!』(『TROBBB!』)が、7月28日に〈Big Dada〉からリリースされる。本作はゴンジャスフィ、ジョン・ウェイン、ネイチャーボーイ・フラコ、タラーク、ジェレマイア・ジェイ、ゼロ、ザッキー・フォース・ファンク、N8NOFACE、サッチ、アケロ・G・ライト、DJクリス・P・カッツといった豪華ミュージシャンが参加しており、禅僧が瞑想を実践するかのような実験的なサウンドを形成するに至っている。風変わりな鋭いビートと抽象的なラップがあり、その音楽はあからさまなパンクやノイズだけでなく、フォークやブルースまでをも網羅している。
また先行シングルとしてN8NOFACEが参加した「Cooler Of Evidence (feat. N8NOFACE)」が公開された。

Kutmah - Cooler Of Evidence (feat. N8NOFACE)
https://kutmah.lnk.to/trobbb/youtube


Kutmah
The Revenge Of Black Belly Button!
Big Dada

2017/07/28 FRI ON SALE

アルバム・プリオーダー(iTunes)
https://kutmah.lnk.to/trobbb/itunes

Father John Misty - ele-king

 喜劇
 それは狂人が心に描くようなもの!  “ピュア・コメディ”

 アメリカの長寿コメディ・アニメ、『ザ・シンプソンズ』が2000年にトランプ大統領の登場を予言していたとして昨年話題になった。該当のエピソードは、占い師が予言した未来では主人公家族のリサ・シンプソンが大統領に就任するのだが、その前任がドナルド・トランプだった――というものだ。同エピソードではトランプ大統領就任中に経済も治安も最悪の状態になったと描かれており、脚本家は振り返って「アメリカへの警告だった」と語っているそうだが……しかし、それはたしかに「ジョーク」でもあっただろう。笑いが社会を射抜くときそれは風刺となり、ときに警告となる。保守系メディアとして何かと物議を醸しているFOXチャンネルで『ザ・シンプソンズ』のような風刺に富んだコメディが放映されていることは、それ自体アメリカという国の矛盾を象徴しているように見える。

 ファーザー・ジョン・ミスティがサード・アルバムのリリースに先んじて公開した“ピュア・コメディ”のオフィシャル・ヴィデオに登場するアニメ・キャラクターになったドナルド・トランプは、『ザ・シンプソンズ』においてアメリカを破壊したトランプ大統領の姿を連想させる。『The New Yorker』誌のイラストレーターであるエド・スティードによるシュールなアートワークと、アメリカで現在起きている災害・娯楽・産業・政治・社会・宗教……がそのヴィデオでは映されるが、それは「Video by everyone in America」と説明されている。アメリカにいるみんな……を映すものを、「純粋な喜劇」と呼ぶこと。歌詞ではこの世のグロテスクな状況がブラック・ユーモアたっぷりに描かれる。“ボアド・イン・ザ・USA”に代表されるように前作でその片鱗はじゅうぶん見えていたが、ジョシュ・ティルマンはこのサード・アルバムで、風刺作家でありコメディアンとしてのペルソナを進んでかぶっている。ゴージャスなオーケストラと朗々とした歌唱で飾りつけられたピアノ・バラッドである“ピュア・コメディ”は、楽曲自体がショウビズを大真面目に踏襲しているようにも皮肉っているようにも聞こえる。いや、その両方なのだろう。『ピュア・コメディ』は、USインディにおける稀代のトリックスターとしてのティルマンが、その分裂を飲みこまんとする野心に満ちた大作だ。特定の政治的状況を指し示しているわけではないが、アルバムはまるでスラップスティック・コメディのようなこの時代を、それから人間の欲望や社会の混乱を俯瞰的に描写し、それはきわめてアメリカ文化に根差したものとして実現されている。

 70年代前半のUSシンガーソングライター風フォーク・ソング集という基本路線は前作と同様だが、オーケストラのアレンジをより前面に置いた頭3曲にはアメリカのエンターテインメント産業にかつてあった粋を喚び出さんとする気概が感じられる。とりわけブリブリと弾むサックスがカウンターメロディを歌いまくる“トータル・エンターテインメント・フォーエヴァー”のアレンジが放つ大人の色気はどうだろう。「信じられるかい/僕らがこんなところまで来てしまったなんて/この新時代で 自分の欲しいものを手にする自由」とペーソスたっぷりに歌われる痛烈さ、そのねじれた知性。と、同時に満ち満ちた情感。ティルマンはここで現代におけるランディ・ニューマンのポジションへと一歩足を進めたわけだが、いっぽうで批評の死を歌う“バラッド・オブ・ザ・ダイイング・マン”(ボブ・ディラン“バラッド・オブ・ア・シン・マン”の引用だろう)や控えめな室内楽“ア・ビガー・ペーパー・バッグ”、レイドバックしたフォーク・ロック“スムーチー”のようにシンプルなアレンジの楽曲では単純にソングライティングの力で聞かせるし、あるいは“バーディー”のイントロにおけるフォークトロニカ的音響からは、彼が必ずしもレトロの伝道者ではなく、モダンなミュージシャンであることも証明している。ただ逆に言えばテーマとしてもサウンドとしても大きな風呂敷を広げているということでもあり、中心がどこにあるかが判断しにくくはある。
 そのヒントは、アルバムにおけるもっとも長尺の“リーヴィング・LA”に託されているだろう。陶酔的なチェンバー・フォークに乗せてパーソナルな内省がどこか叙事的に綴られるその13分は、歌い手の素の横顔が見え隠れする時間である。ファーザー・ジョン・ミスティの最大のチャームは、おそらくマクロからミクロへとスッと視点が転じる瞬間だ。皮肉と笑いにはぐらかされていた想いがふいに零れ落ちてくる瞬間がFJMのアルバムには存在するが、それこそが彼の歌の生々しさであり、思いやりだ。アコースティック・ギターとピアノの素朴な演奏と誠実なストリングス、そしてよく伸びる歌声ばかりがあるクロージング・ナンバー“イン・トゥエンティー・イヤーズ・オア・ソー”でティルマンは「どこかで読んだことによれば、20年後には多かれ少なかれ、人類の試みは暴力的な限界に達するそうだ/それでも2杯めの酒が届くころ、僕はこうして君を見つめるよ/そう、生きていることが奇跡なんだ」と歌うが、それははっきりと愛の宣言である。そしてアルバムは、「恐れることなど何もない」と繰り返して終わっていく。

 ケンドリック・ラマーの『DAMN.』はすでに「ポスト・トランプ時代を象徴する一枚」として評価されているが、直接的に政治的でなくとも、ある意味でFJMの『ピュア・コメディ』も現在進行形のアメリカ、その混沌――まさに「風刺画」であるエド・スティードによるジャケットをじっと見つめてみよう――を黙示録的に描いていると言える。だが、と同時にティルマンは自身もそのカオスの一部であることを忘れることはなく、そうして生きていくことの悲喜こもごもを真摯に歌い上げている。倒錯した時代に捧げられた狂人によるコメディは、じつはもっともピュアなバラッド集でもある。


RIP: Pierre Henry - ele-king

 1927年12月9日にパリで生まれた「テクノの祖父」が、去る7月5日、パリの病院にて亡くなった。89歳だった。今日のサンプリングは、著作権で取り締まられているものの、もはや創造行為としてすっかり定着している。録音物を加工して、音の要素として使用とすることは、最初は具体音楽(ミュジーク・コンクレート)と呼ばれた。
 その創始者はピエール・シェフェールだが、シェフェールとともにこのスタイルを研究し、世に広めたもうひとりの重要人物がピエール・アンリだった。彼の1967年の『現在のためのミサ(Messe pour le temps présent )』に収録された“サイケ・ロック”は、90年代のDJカルチャーにも再発見されて、ヒットしている。『Machine Danse』(1973)も人気だった。
 もっともこの「テクノの祖父」は、コンピュータとサンプラーの文化を決して評価しなかった。
 

戸川純 with Vampillia - ele-king

 昨年末リリースされた戸川純の歌手活動35周年記念作品『わたしが鳴こうホトトギス』。その興奮冷めやらぬなか、年明けに開催されたリキッドでのライヴは胸に迫るものがあった。そんな戸川純 with Vampilliaは今夏、フジ・ロック・フェスティヴァルに出演することが決定しているが、このたび大阪と広島でワンマン・ライヴが開催されることが発表された。会場は、東心斎橋CONPASS (9月2日)と広島CLUB QUATTRO(9月29日)。詳細は下記より。

戸川純 with Vampillia ワンマンライブ開催が大阪、広島で決定。

FUJI ROCK FESTIVAL '17の出演も決定している、戸川純 with Vampillia ワンマンライブが、2017年9月2日、9月29日に、東心斎橋CONPASSと広島CLUB QUATTROで開催される。

戸川純 with Vampilliaは、Vampilliaによるアレンジ&演奏に、戸川純の今の唄声を乗せる編成である。アーティスト画は、『HUNTER×HUNTER』、『幽☆遊☆白書』等で知られる冨樫義博が手がけている。

『戸川純 with Vampillia ワンマン LIVE』

●2017/9/2 (土) @東心斎橋CONPASS
OPEN 18:00 START 19:00
ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 (前売、当日券ともに1drink ¥600 plus)
出演: 戸川純 with Vampillia
チケット発売日未定

●2017/9/29 (金) @広島CLUB QUATTRO
OPEN 18:30 START 19:30
ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 (共にdrink別)
QUATTRO WEB先行: 7/22 (土) 12:00~7/27 (木) 18:00
https://www.club-quattro.com/
チケット一般発売: 7/29 (土)
ぴあ、ローソン、e+、エディオン広島本店プレイガイド、タワーレコード広島店、QUATTRO店頭、通販


■戸川純

女優、歌手。映画、ドラマ、舞台、CMなど出演作多数。CM『TOTOウォシュレット』(1982年から1995年)、映画『釣りバカ日誌』(1作目から7作目)、映画『いかしたベイビー』(1991年。監督・脚本・主演)、二人芝居『ラスト・デイト』(2006年)など。戸川純ソロ名義、ヤプーズとして音楽活動も行っている。作品に『玉姫様』(1984年)、『好き好き大好き』(1985年)、『昭和享年』(1989年)、自選ベスト3枚組『TOGAWA LEGEND』(2008年)など多数。2016年、歌手生活35周年を迎え記念アルバム、戸川純 with Vampillia『わたしが鳴こうホトトギス』、『戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ』を発表。

■Vampillia

真部脩一(集団行動、進行方向別通行区分)、吉田達也(ruins)、竜巻太郎(turtle island)らも擁する真のジャンル越境音楽。国内では、大阪を中心としたライブ・イベント「いいにおい」シリーズを主催。また、様々な国内外のアーティストと共演している。現在、日本はworld's end girlfriend率いる〈Virgin Babylon Records〉、海外はエンペラー、opethをリリースする〈candlelight records〉と契約。過去エクスペリメンタル音楽の名門〈important records〉からも数作リリースするなど世界中のレーベルから作品を発表。2014年ben frostプロデュースでアイスランドにて制作されたアルバムをリリース。Nadja、The Body、Lustmord,Attila Csihar(Mayhem)、Sunn O)))らとコラボ作品を発表。2015年にはMogwai、The Pop Group、65days of staticと並びアデレード・フェスティヴァルでヘッドライナーをつとめ、2016年のアデレード・フェスティヴァルではGodspeed You! Black Emeperorと2マン。SXSWやヨーロッパ、オーストラリア、アメリカなどで数多くライブを行う他、東京女子流主演映画の音楽や、『Pitchfork』での高得点の獲得、lady gagaの衣装を手掛けるchristian dadaのショー音楽を手掛けることでも知られる。現在Pete Swanson(ex. Yellow Swans)、Extreme Precautions(Mondkopf)らと共にアート・ブラックメタル・テクノ・プロジェクトVMOを結成、1stアルバムがCONVERGEのレーベル〈Deathwish〉傘下の〈Throatruiner〉より発売。また、戸川純歌手生活35周年を迎え、戸川純 with Vampilliaとして記念アルバム『わたしが鳴こうホトトギス』を発表。

shotahirama - ele-king

 先日のインタヴューで音楽に対する情熱を大いに語ってくれたshotahiramaだが、彼の最新アルバム『Maybe Baby』のリリース・パーティが7月16日に中目黒solfaにて開催される。なんと、新作『Maybe Baby』を東京にてフルセットで披露するのは今回が初となるそうだ。それに加え、先日タワレコ渋谷店のインストア・ライヴで繰り広げられた生ドラムを擁するインプロ・セッションも披露される予定とのこと。なお今回のイベントは、実験的な試みを探究するプラットフォーム「nonlinear-nauts」の一環でもあるため、他の出演者たちのパフォーマンスも見逃せない。詳細は下記をチェック。

nonlinear-nauts [exp.011]
shotahirama “Maybe Baby” Release Party

電子音楽/音響~クラブ・サウンドを軸に実験的な取り組みや尖端的なスタイルを追求するアーティストのプラットフォームとなる「nonlinear-nauts(ノンリニアノーツ)」が中目黒solfaにて、ニューヨーク出身の電子音楽家 shotahirama の最新CDアルバム『Maybe Baby』のリリース・パーティとして開催。

日付:2017年7月16日 (日)
時間:open- 16:00 / close- 22:30
場所:中目黒solfa
https://www.nakameguro-solfa.com/schedule/nonlinear-nauts-exp-011-shotahirama-maybe-baby-release-party/
チケット:door- 3,500円(w/f- 3000円)
ゲスト・ライブ:shotahirama band set (Electronics: shotahirama, Drums: Masashi Okamoto)
他出演者:Yaporigami (Detroit Underground / Hz-records / +Mus / Stray Landings), HIRAMATSU TOSHIYUKI (shrine.jp / Hz-records / White), Distra (Electric Pressure), KENTARO HAYASHI, Yoshitaka Shirakura (conflux), Yusuke Takenouchi, STL (nonlinear-nauts), NASAA (nonlinear-nauts)

主催:nonlinear-nauts
https://www.facebook.com/events/464676243902136


■リリース情報
アーティスト: shotahirama
タイトル: Maybe Baby
レーベル: SIGNAL DADA
https://www.amazon.co.jp/dp/B06XY81N1N/
https://tower.jp/item/4485246/
https://www.hmv.co.jp/artist_shotahirama_000000000453324/item_Maybe-Baby_7894375

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