「Nothing」と一致するもの

Tenderlonious feat. The 22archestra - ele-king

 テンダーロニアスという風変わりな名前から、ジャズ好きな人ならセロニアス・モンクを想像するかもしれない。実際のところその連想は正解だ。エド・コーソーンのアーティスト・ネームであるテンダーロニアスは、音楽仲間のカマール・ウィリアムスが彼のことを「お前のヴァイブってセロニアス・モンクっぽいな、かなり荒削りだし」と評し、ニック・ネームだったテンダー・エドをもじり、そう呼んだのが始まりだそうだ。テンダーロニアスはミュージシャンであると同時に、〈22a〉というレーベルのオウナーでもあり、カマールのヘンリー・ウー名義でのEPもリリースしている。2013年末に発足した〈22a〉は、いまやロンドンのジャズの盛り上がりを象徴するレーベルだが、このレーベル名はテンダーロニアスが住む家番号からとられたものだ。もともとテンダーロニアスはロンドンの出身ではなく、父親が軍隊に所属していたため、少年時代は海外赴任先での生活が長かったのだが、進学のためにロンドンに移り、現在はUKジャズ・シーンのキー・パーソンのひとりである。

 ひと口にロンドンのジャズと言っても、シャバカ・ハッチングスやジョー・アーモン・ジョーンズ、モーゼス・ボイドなどとはまた異なるサークルにテンダーロニアスは属し、カマール・ウィリアムス、ユナイテッド・ヴァイブレーションズなどのグループに分けられる。こちらのグループはカマール・ウィリアムスに代表されるように、よりクラブ・ミュージックとの接点が大きく、ミュージシャンであると同時にプロデューサー/トラックメイカーという人が多い。
 テンダーロニアスもフルート/サックス奏者であると同時にプロデューサーでトラック制作も行う。そもそもハウスDJをやっていて、レイヴ・カルチャーからドラムンベース、グライムなどを通過してきた。そうしたなかでムーディーマンからJディラなどデトロイトのアーティストから、マッドリブなどの影響も述べている。
 その後、ヒップホップなどのサンプリング・ソースを通じてジャズのレコードを集めるようになり、同時に街の楽器屋にあったソプラノ・サックスをレンタル。ジャズ・サックス奏者のパット・クラムリーのレッスンを受けてサックスをマスターし、強く影響を受けたサックス奏者にはコルトレーンやユセフ・ラティーフがいる。とくにマルチ・リード奏者のユセフ・ラティーフのフルート演奏に魅せられ、次第にサックスからフルートへとスイッチしていく。

 こうしてミュージシャンとなったテンダーロニアスは、ポール・ホワイトの『シェイカー・ノーツ』(2014年)のセッションに参加するが、そこにはユナイテッド・ヴァイブレーションズのドラマーのユセフ・デイズもいて、そこから発展して自身のバンドとなるルビー・ラシュトンを2015年に結成。ユセフ・デイズほか、エイダン・シェパード、ニック・ウォルターズというのが結成時のラインナップで、その後ユセフがカマール・ウィリアムスとのユセフ・カマールの活動のために抜けて、ユナイティング・オブ・オポジッツやサンズ・オブ・ケメットにも客演するエディ・ヒック、モー・カラーズことジョセフ・ディーンマモード、ファーガス・アイルランドが参加している。
 ルビー・ラシュトンというグループ名はテンダーロニアスの祖母の名前を由来とするのだが、ジャズやアフリカ音楽にヒップホップやビートダウンなどのセンスを融合したサウンドで、マッドリブがやっていたジャズ・プロジェクトに近い方向性を持っている。『トゥー・フォー・ジョイ』(2015年)などリリースした3枚のアルバムは全て〈22a〉からだが、〈22a〉のカタログにはモー・カラーズとその兄弟であるレジナルド・オマス・マモード4世とジーン・バッサ、そしてアル・ドブソン・ジュニア、デニス・アイラーといったDJ/トラックメイカーの作品があり、テンダーロニアスもミニ・アルバムの『オン・フルート』(2016年)、デニス・アイラーとの共作『8R1CK C17Y(ブリック・シティ)』(2017年)をリリースしている。直近ではジェイムズ“クレオール”トーマスの『オマス・セクステット』(2018年)というアルバムがリリースされたが、これは前述のディーンマモード3兄弟とその従妹であるジェイムズ・トーマスによる6人編成のバンドである。
 このようにルビー・ラシュトンにしろ、オマス・セクステットにしろ、テンダーロニアスと彼の周辺の仲間がそのまま〈22a〉のラインナップと言えるのだが、そうした〈22a〉のオールスター・アルバムと言えるのが本作である。

 テンダーロニアス・フィーチャリング・22aアーケストラという名義だが、このアーケストラはサン・ラー・アーケストラをもじったものだ。また、フルートを吹くテンダーロニアスのアルバム・ジャケットはユセフ・ラティーフの『アザー・サウンズ』(1959年)をイメージさせ、サン・ラーやユセフ・ラティーフからの影響がテンダーロニアスにも色濃く表われていることを物語る。
 参加メンバーはテンダーロニアス(フルート、シンセ)以下、ユセフ・デイズ(ドラムス)、ファーガス・アイルランド(ベース)、ハミッシュ・バルフォア(キーボード)、レジナルド・オマス・マモード4世(パーカッション)、ジーン・バッサ(パーカッション)、コンラッド(パーカッション)。オーケストラではなくスモール・コンボだが、ルビー・ラシュトンとオマス・セクステットを合体させたような面々だ。『ザ・シェイクダウン』はこうしたメンバーがアビー・ロード・スタジオに集まり、生演奏による8時間のセッションの中で作り上げられた。基本的にはルビー・ラシュトンのセッションを拡大していったものと言えるだろう。

 テンダーロニアスのフルートはユセフ・ラティーフのプレイに似て、土着的でミステリアスな匂いが強い。そうした演奏にアフロ・ジャズやスピリチュアル・ジャズ系のサウンドがマッチしており、タイトル曲の“ザ・シェイクダウン”がその代表と言える。ウォーの“フライング・マシーン”を彷彿とさせるディープなラテン・フュージョンの“エクスパンションズ”、エルメート・パスコアルのようなアフロ・ブラジリアンの“マリア”、モーダルなアフロ・キューバン・ジャズの“ユー・ディサイド”などもそうした系統の作品だ。“SVインタルード”と“SVディスコ”のSVとは、スラム・ヴィレッジのことを指しているそうだ。スラム・ヴィレッジやJディラのようなヒップホップ・ビートを咀嚼したジャズ・ファンクとなっており、カマール・ウィリアムスのサウンドとの近似性も見られる。パーカッシヴな“トーゴ”は民族色がひときわ強く、モー・カラーズからオマス・セクステットあたりの色合いが濃い。“ユセフズ・グルーヴ”ではユセフ・デイズの律動的で力強いドラムがフィーチャーされ、“レッド・スカイ・アット・ナイト”のビートからは人力ブロークンビーツ的なニュアンスも受け取れる。基本的に全て生演奏のジャズ・アルバムであるが、カマール・ウィリアムスの『ザ・リターン』同様にクラブ・サウンドから受けた影響やアイデアが持ち込まれており、やはりいまのUKジャズを象徴していると言える。

 もしあなたが音楽好きだというなら、ブラジル音楽を聴かない手はないと思います。フットボール好きでブラジルのフットボールを見ない手はないのと同じように。
 ブラジルが音楽大国であり、その音楽文化もじっさいのところ素晴らしいことはなんとなくわかっていても、素人にはガイドラインとなるものが必要です。90年代は、クラブ世代が『ブラジリアン・ミュージック』や『ムジカ・ロコムンド』のような本を教科書とし、ひとつひとつのレヴューを読みながら自分の好みに目星を付けて、ほんと片っ端から聴いていたものです。長年に渡ってブラジル音楽を紹介している中原仁さん監修の『21世紀ブラジル音楽ガイド』はその現代版です。ブラジル音楽の新世代と現在進行形の決定版が600作以上紹介されています。
 イングランドで生まれたフットボールがブラジルで再定義されたように、音楽においても北半球には類を見ない強烈なる官能と感情、そして実験と伝統、愛と政治が混在しています。その音楽は、フットボールと同じようにあなたを夢中にさせます。ぜひ好きになってください。

【監修】 
中原仁

【執筆陣】
伊藤亮介、江利川侑介、KTa☆brasil、佐々木俊広、宿口豪、高木慶太、橋本徹、花田勝暁、堀内隆志、村田匠

CONTENTS

序文
本書の見方・表記について
ブラジル地図

◆CHAPTER 01
+2とリオのインディー・ポップ

+2(モレーノ、ドメニコ、カシン)
+2ファミリー
Los Hermanos とメンバーのソロ作
Rio-Bahia connection
+2周辺の次世代
+2の弟世代
女性
男性
男性、BAND

[コラム] 音楽の都リオ〜ドメニコ・ランセロッチに見る21世紀のリズムの継承と革新 KTa☆brasil(ケイタブラジル)

◆CHAPTER 02
ノヴォス・コンポジトーレスとサンパウロ・シーン

ダニ・グルジェルと周辺
シンコ・ア・セコとメンバーのソロ
ノヴォス・コンポジトーレス
タチアナ・パーハ
サンパウロ・シーン/女性
サンパウロ・シーン/男性
エクスペリ・サンバ

◆CHAPTER 03
ミナス新世代

アントニオ・ロウレイロ
ハファエル・マルチニ
男性
ヘシークロ・ジェラル世代
グラヴェオーラほか
女性
インストゥルメンタル
新世代の先輩

[コラム] クルビ・ダ・エスキーナ名曲集 中原仁

◆CHAPTER 04
MPB

アナ・カロリーナ
ヴァネッサ・ダ・マタ
マリア・ヒタ
ホベルタ・サー
女性
女性/モニカ・サルマーゾ
女性
男性
セルソ・フォンセカ
ボサノヴァ

[コラム] アントニオ・カルロス・ジョビン作品集 中原仁

◆CHAPTER 05
Samba Soul / Funky Groove / Urban

セウ・ジョルジ
セウ・ジョルジの仲間
リオ・グルーヴ
サンパウロ・グルーヴ
バンド、ユニット(サンパウロ)
バンド(サンパウロ、リオ、ミナス)
女性シンガー
アーバン

◆CHAPTER 06
Hip Hop / Funk / Drum'n Bass / Electro / Reggae / Street Beat

Hip Hop
Funk(ファンキ)
Drum'n Bass & Electronica
Reggae
Street Beat

[コラム] 21世紀のバツカーダに見る“ボサ・ノーヴァ”! KTa☆brasil(ケイタブラジル)

◆CHAPTER 07
Bahia(バイーア)

イヴェッチ・サンガーロ
Axé(アシェー)
Samba & Áfro Bahia
Áfro Bahia
Pagodão(パゴダォン)

[コラム] アフロ・ブラジレイロの新潮流とカエターノ・ヴェローゾ『Livro』の遺伝子 橋本徹

◆CHAPTER 08
Nordeste & Norte
ノルデスチ(北東部)とノルチ(北部)

Nordeste(北東部)
Norte(北部)

◆CHAPTER 09
Rock / Folk & Country

Rock
Folk & Country (Sertanejo)

◆CHAPTER 10
Samba

テレーザ・クチスチーナと Lapa 新世代
Samba Novo
Pagode(パゴーヂ)
Gafieira(ガフィエイラ)

◆CHAPTER 11
Instrumental

アンドレ・メマーリ
アミルトン・ヂ・オランダ
ヤマンドゥ・コスタ
Choro
Jazz
Jazz / New Age
New Age
Large Ensemble

◆CHAPTER 12
90's 世代

90's 世代
Collaboration

[コラム] ブラジル音楽のプロデューサーと、ブラジルで眠りについた2人の外国人 中原仁

◆CHAPTER 13
Maestro, Legend

MPB
Samba
Bahia, Nordeste, Norte
Instrumental etc.
Bossa Nova Age

◆CHAPTER 14
International

Argentina, Uruguay
Argentina, Cuba, USA
USA, Italia
Portugal, Spain
France, UK, Áftica
Nordeste International
Special Project
アート・リンゼイ

[コラム] NYの名門レーベル Adventure Music が示す21世紀ブラジル音楽の“粋” 橋本徹


バンヒロシ特別インタヴュー - ele-king

ミスター知る人ぞ知る、バンヒロシ
20世紀の音盤が狂い咲きのアナログ化

インタヴュー構成・文 安田謙一(ロック漫筆)

 京都が生んだロックンローラー、バンヒロシ。芸能生活42周年を迎える。ロックンローラーと芸能生活。一見、相反するこのふたつを無意識に同居させる男、それがバンヒロシである。小西康陽、クレイジーケンバンドの横山剣など彼の音楽への偏愛を公言するものも少なくない。それとは別に、マーク・ボラン、デヴィッド・ボウイ、荒井由実などと生身で関わった時間が生む伝説の数々も忘れ難い。知る人ぞ知る、という言葉をこれほど見事に体現した男もそうはいない。「ミスター知る人ぞ知る」の称号を与えたい。
 私(安田)自身、ほぼ40年に近いつきあいがあり、その距離感ゆえ、つい、特異な個性を見失ってしまうことがある。もったいない話である。今年リリースされたバンビーノのアルバム『お座敷ロック』が雑誌レヴューされ、「今の時代に“君の瞳に恋してる”を日本語カヴァーしてしまうセンスがすごい」と評された。なるほど、そういう見方もあるわな、と思いつつも、これをモジるなら「どんな時代にもバンヒロシのセンスはすごい」ということなのだ。それを実感してもらう音源が立て続けにアナログ化される。78年のアップルドールズ、83年のスマッシュ・ヒッツがそれぞれ7インチで、そして、20世紀のバンヒロシの作品集がアルバムでリリースされる。
 それぞれの盤が作られた当時のエピソードを中心にバンヒロシ、御本人に語ってもらった。

■アップルドールズ「あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート」(1978年)

バンヒロシ:高校のときにやってたバンド、京都クールスはクールス、キャロル、ロックンロールのカヴァー・バンドで、そこではヴォーカルとサイドギター。卒業でみな離れ離れになってバンドは解散。で、僕は家業の散髪屋を継ぐということで美容学校に行って、もう音楽は辞めるつもりだった。そしたら美容学校の同級生(ギターの堀家新一とベースの前田雅彦)がバンドやらへんか、と声をかけてきて。じゃあってことで、中学の同級生で大学行ってる、正ちゃん(中村正造)にドラム叩いてもらって。それがアップルドールズ。僕と正ちゃんは18で、あとのふたりは16歳。その美容学校の近くに今でいうパブみたいなんがあって、そこを杉山エンタープライズって音楽事務所がやってて。演歌のいわゆる委託盤をキングとかクラウンから出してた会社やけど、そのころCharとかヤングのサウンドも人気やということでオーディションがあり、5、6バンド出て、中にはめちゃ巧いメタルのバンドみたいなんもあったんやけど、なんか優勝してしまって。歌もので、アイドル系みたいなとこが評価されたんかも。で、「ミックスレコード」で“あの娘になげKISS”を録音して、千枚プレスやったと思う。“あの娘……”はいとこの、のぶちゃん(林信幸)がうちに来て、一緒に作った曲。ジャケは木屋町四条下がったところにあった店の前で、その隣には後に万歳倶楽部になる前のジミー・クラブって店があった場所です。
 そのパブみたいな店で何回かライヴをして。その頃の京都はブルース・ブームがいったん落ち着いて、サザン(オールスターズ)みたいなバンドや、アースシェイカーが磔磔に出てたころやから、僕らはそんなんとまったく関係ないと思ってた。完全な「芸能指向」やから。ナベプロに入って、紅白に出て、かくし芸大会に出るのが夢みたいな。だからライヴハウスにはツテもなくて全然出なくて、営業ばっかりしていた。高島屋や藤井大丸の屋上、ボウリング場とか、河原町のBALの地下にあった村八分が出てたガロってディスコとか、あとレコード屋に幟(のぼり)もって行って「新曲キャンペーン」とかやってた。美容学校卒業して、みんな就職するということでアップルドールズは自然に解散。活動期間は1年半ほどでした。

[レヴュー]
 キャロルを経由したビートルズ愛溢れるポップンロール。発売されたばかりのローランドSH-1の音色が76年(ウイングスの時代)を記録している。甘くて酸っぱいヴォーカルにすべてのジョニー大倉主義者が涙にむせぶだろう。カップリング“グッドナイト・ スウィート・ハート”はポール・マッカートニーを彷彿とさせるど直球のバラード。ほぼ英語詞で、サビが日本語でいうのがいいんです、これがまた。(安田)

■スマッシュ・ヒッツ「テルミー / 恋のハリキリボーイ」(1983年)

バンヒロシ:就職してた兄貴が実家に戻り、僕が家業を継ぐ必要がなくなった。それで昼は家の手伝い、夜はスナックでカラオケの司会なんかしながらお金を貯めて、万歳倶楽部を始めた。それが19の時。バンドへの道はあきらめてたんやけど、店の常連だったニシダさん(福田研)に誘われて、180度これまでの音楽性が違うノイズ・バンド、のいずんづりに入ってギターを弾いた。西部講堂で花火打ち上げたり、めちゃくちゃやってて。バンドはますますノービートになってきて、面白くなくなったんで脱退して、その後でギターを弾いてたのが、らっちゃん(森口邦彦)で、あとハルヲくん(天王寺春夫)もいて。そのふたりが続けてバンドを辞めて、元のいずんづりの三人で万歳倶楽部でグチを言いあってるうちに、当時、出て来たストレイ・キャッツに刺激されて、デヴィッド・ボウイと小林旭を同じようにロカビリーにするみたいなコンセプトではじめたのがスマッシュ・ヒッツ。最初の1年間はふたりの女性コーラスをつけて、レヴィロスを意識したスタイルでライヴやってた。フィフティーズのエイティーズ解釈。そのうちコーラスと初代のドラムが抜けて、さっちゃん(後にバンヒロシのパートナーとなる松永幸子)が加入。そのころ、僕が宝島に連載していた「京都てなもんや通信」を読んだ大門さん(“キッスは目にして!”のヒットを飛ばしたVENUSのプロデューサー、大門俊輔)が声をかけてくれて、レコーディングしよう、と。ドラムスが女の子でカウシルズみたいで可愛いとか言ってくれて。それで、83年、彼が興した〈ダイアモンド・ヘッズ・レコード〉から「テルミー / 恋のハリキリボーイ」をリリース。キングトーンズや、編曲で白井良明、松武秀樹も参加したスリーミンツ、プラネッツのシングルも同時に発売された。“テルミー”はグランド・ファンク・レイルロードの“ハートブレイカー”に影響されて。もともとは「ハートブレイク・ストーリー」ってタイトルやったけど、京都三条にあった散髪屋の屋号「テルミー」から取った。ストーンズじゃなくて(笑)。〈ダイアモンド・ヘッズ〉は原宿のペパーミントがやってるレーベルで、プロダクションみたいにもなってて。東京でライヴやるときはペパーミントの寮に泊まって、お手伝いさんもいて。そこで月に一回は「タモリ倶楽部」とかテレビに出たりとか、そのあと東京にいる一週間は六本木のディスコで営業させられて。一晩、30分8ステージとか。雨の日に全然客がいなくて、ひとりオッサンが彼女かホステスかを連れてきてて。で、僕らが演奏しているときに、店のボーイを呼びよせてメモにリクエスト書いて渡して。それをボーイがステージに持ってきたら「イエスタディ」って書いてて(笑)。ひとりで弾き語りで歌ったよ。終わってからチップで一万円もらう、そんな世界。で、これは違うな、と。ハルヲくんはアメリカに行くと。新しいベースを入れるという案は棄てて、京都に帰ることにした。しばらくサラリーマンしながら、84年に『バンちゃんとロック』を録音して、ソノシートで発売することになった。

[レヴュー]
 “テルミー”はテンプターズ“忘れ得ぬ君”、“神様お願い”あたりから連なる哀愁のGS歌謡。ネオGS・ムーヴメントを数年先駆けている。心象風景を投影する荒涼としたロック風景にすべての松崎由治主義者はすすり泣くだろう。タイトル(だけ)フォーシーズンズから拝借した“恋のハリキリボーイ”は絵に描いたようなネオロカビリー名曲。“テルミー”の良さは別として、スマッシュ・ヒッツ のデビュー曲としてはどう考えてもAB面が反対だろう、と37年前に思ったことを昨日のことのように思い出す。(安田)

■バンヒロシ『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』

バンヒロシ:『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』は1999年までにやった仕事をまとめてみようかなと。(今回再発される)2枚のシングルの曲と、“バンちゃんとロック”と、著作権の関係でソノシートには入れられなかった“十代はゴールデンタイム”のカヴァーもここに入れた。あとスマッシュ・ヒッツの音源とか、ソロで作った宅録音源とか。ジャケットはジャズ漫画という名目で舞台に立っていた木川かえる先生に描いてもらった似顔絵。スマッシュ・ヒッツで京都花月のポケットミュージカルのコーナーでチャーリー浜のバック・バンドやってた最後の日に頼んだもの。完全に私家盤として、CDで24枚しか作ってなくて、それを知り合いだけに配った。で、このCDを聴いた小西くんが昔、ソノシートで愛聴していた「バンちゃんとロック」を思い出して、じゃあ、レディメイドの〈524〉レーベルから再発しよう、というきっかけになった(02年に実現)。その復刻を機に僕のことを知ってくれたJET SETのスタッフがオークションとかで過去の音源を集めていて、24枚しか存在しない非売品のCDも持っていて、それが時を越えて今回、はじめてLPになります。

[レヴュー]
今回復刻される2枚のシングル(「あの娘になげKISS」はA面のみ)に「バンちゃんとロック」のいわば完全版となる5曲、スマッシュ・ヒッツが幻のアルバム『スマッシュ天国』(02年〈love time records〉からCD化)に収録予定だった3曲にライヴ音源、さらにソロ活動として開始していたフォーク・スタイルの音源に宅録テクノ・デモを加えた15曲入り。20世紀のバンヒロシが真空パックされている。なんといっても、木川かえる先生の似顔絵が30センチ四方のサイズで蘇るという事実に打ち震えます。(安田)

 99年春に『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』を作って、その暮れにはこれまでと異なる手法で録音を開始、翌年にはデジタル・ ロカビリー・バンド、バンビーノを結成。01年には4曲入り12インチ・シングル「il bambino ed Rock」を発表。ここに収録された“すっとびヒロシ五十三次”が、横山剣に強い影響を与え、クレイジーケンバンドの楽曲“まっぴらロック”、“京都野郎”に結実する。
 今回、アナログ化される3枚の音盤はそれぞれプレス千枚だったり、私家盤の24枚だったりと極めて希少性が高い。そんなことより! そこに秘められた勢い、色気、アイデア、ユーモア、そして若さをターンテーブルで解放される瞬間を想像して興奮している。20世紀のバンヒロシがダンスフロアに逆襲する。

JET SET presents
バンヒロシ還暦アニバーサリー・スペシャルリリース企画
~ヤァ!ヤァ!ヤァ!バンヒロシがやってくる!~

■第1弾

SMASH HITS
テルミー / 恋のハリキリボーイ (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2018年11月7日(水)

横山剣氏(クレイジーケンバンド)との出会いのきっかけとなった事でも知られる SMASH HITS 名義での代表曲であり、永遠の名曲「テルミー / 恋のハリキリボーイ」。
早すぎたネオGS、和ロカビリーとして和モノ・ファンにも大人気の市場価格高騰中のレア盤です。

■第2弾

アップルドールズ
あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2019年冬発売予定

SMASH HITS 結成前のバンヒロシのデビュー・シングルにして、数々のコレコターから現物にすらお目にかかれない1枚と言われていたアップルドールズ名義での「あの娘に投げキッス / グッドナイトスイートハート」。ファンならずとも見逃せない1枚です。

■第3弾

バンヒロシ
ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ

発売日:2019年春発売予定
CD-Rのみで世界に24枚だけ存在すると言われているメガレアな初期ベスト・アルバムがアナログ盤として遂にリリース決定!

ご予約は下記より。
https://www.jetsetrecords.net/i/816005485719/

D.A.N. - ele-king

 傑作だった2016年のファースト・アルバム『D.A.N.』、それを上回る驚きのクオリティを見せつけた昨年のミニ・アルバム『Tempest』。そこから今回のセカンド・アルバム『Sonatine』までのあいだには、ふたつの魅力的なコラボレーション作品があった。ひとつは元キリンジの堀込泰行の"EYE"で、D.A.N.は楽曲提供と作詞の共作。もうひとつは今年12年ぶりに素晴らしいアルバムをリリースしたサイレント・ポエッツの"Simple"。こちらはヴォーカルの櫻木大悟がゲストとして歌と作詞を担当している。両方とも関わりかたこそ違うものの、質感的にはD.A.N.の音楽の発展形ともいえる堂々とした出来栄えで、かたや日本のポップス、かたや日本のクラブ・ミュージックを牽引してきた重鎮たちの音楽を尊重しつつ、D.A.N.の淡い色に浸して染め上げていたのは見事だった。
 それに加えてアルバムからの先行シングルとしてリリースされた"Chance"と"Replica"の2曲がもたらした新たな感触にすっかり魅了させられたおかげもあって、いままでD.A.N.の曲のなかで存在感を放っていたスティールパンの音色が消え、代わりにシンセを多用してシフトチェンジしたこともさほど違和感なくすんなりと受け入れられた。このアルバムを聴くうえで重要なトピックだったと思う。

 変化と不変の共存のアルバム。初っ端から"Chance"でグイグイと昇り詰めたかと思うと、"Sundance"は初期のハーバートを彷彿させるようなメランコリックなシンセが重なったディープ・ハウスな曲調で、お得意のミニマルなリズムがいわゆる低音のグルーヴはキープのままの状態でじわじわと進んでいき、……これはインスト曲か? と思わせた絶妙なところでファルセットが響く瞬間は、まさにD.A.N.の真骨頂という感じで堪らない。
 続くインスト曲"Cyberphunk"では、歌があってこそだという評価をしてしまったことを取り下げたくなるほど、リズム隊がまるで水を得た魚のように自由に派手に遊んでいてタイトル通り刺激的。暴力的に暗く異彩を放つ中盤の"Pendulum"は、繰り返されるフレーズが渦を巻いておそろしく濃厚なカオスを生み出し、次の"Replica"のインディR&Bに接近した美しく儚い世界をより引き立ているのが素晴らしい。静寂を含んだダウンテンポなリズムに乗せて「呆れるくらい何もない ただそこに流れるBGM 繰り返す夜の狭間で 不意にさみしい」と歌ったフレーズだけで、誰がこの音楽を聴けばいいのかをはっきりと示しているし、今年上半期のナンバーワンに選びたいほどの名曲だと思う。
 そして夜中に聴いたら泣くかもしれないほどドラマチックに浮遊していく"Borderland"でクライマックスに辿り着き、最後の"Orange"で温かくラフに終わりを迎えたあとには、月並みだけれど映画を観終えたような満たされた気分になるとともに、クールに見えた彼らの内側に燃えていた音楽への情熱にいまさらながら気付く。ちなみにソナチネ、と聞くとやはり93年に公開された北野武監督の同タイトルの映画を思い出してしまうのだけれど、思い出したついでに映画で使われていたテーマ曲をあらためて聴いてみると、浮遊感のあるシンセにうねるベースとパーカッションとピアノが絡んだミニマル・ミュージックで、このアルバムに入っていてもおかしくないような雰囲気を醸し出していた。関係があるのかどうかは定かではないが。

 全体的な流れを重視した構成と、主張し合うだけでなくより歌を包み込むように配慮されたサウンドに磨きがかかり、その歌声はよりいっそう官能的に成熟して洗練されている。さらにファースト・アルバムの"Curtain"などでもその才能をほのめかしていたが、D.A.N.の音楽は音ありきでありながら歌詞も非常に面白い。ユーモアの効いた素っ気ない言葉の数々は音に乗ることで妙にロマンチックに変化し、耳に残らずに苦味だけをもたらして、ゆっくりとそのまま消えていく。まるで煙草の煙のように美しく。現行のエレクトロニック・ミュージックとクロスオーヴァーさせながらこんな風にルーツや愛着が透けて見える音を織り込んでバンド・サウンドに変換させ、さらっと自分たちの領域にスマートに落としこんでみせてしまうあたり、正直化け物なんじゃないかと思う。それもひどくいまどきの。これから初めて体験する人たちへの嫉妬心は抑えるとして、いちファンとして全ての音楽好きに聴かせたい作品だと躊躇もなく伝えたい。新しい音楽に出会うことや、好きなものに身を委ねること、それはつまり変化を恐れないことだから。

食品まつり a.k.a Foodman - ele-king

 日本を代表するプロデューサーのひとりである食品まつりことフードマン。フットワークから影響を受けつつ、そこに留まらない数々の試みで多くのリスナーの支持を集めてきた彼が、なんとサン・アロウの主宰するレーベル〈Sun Ark〉と契約、9月21日にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリースする。現在、“MIZU YOUKAN”と“SAUNA”の2曲が公開中。どちら素敵なトラックです。試聴はこちらから。

・世界中から注目を集めるトラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman が9月にニューアルバムをリリース!
・新曲2曲をResident Advisorにて公開!

ダンス・ミュージックの定義を書き換える、他に類を見ない独自性溢れる音楽性で世界中から注目を集める名古屋出身トラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman。国内での精力的な活動に留まらず、近年は全米・ヨーロッパツアーも成功させた彼が、最新アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』を米レーベル〈Sun Ark〉から9月21日にLPおよびデジタル配信でリリースすることを発表した。

ドラムやベースを大胆に排除した楽曲も多く収録され、「ウワ音だけのダンス・ミュージック」をイメージして制作したという本作。シカゴのジューク/フットワークにインスピレーションを受けながら、既存のエレクトロニック・ミュージックの定石を覆し、誰も聞いたことのない音楽を生み出してきた姿勢はそのままに、今までよりエモーショナルでメロディックな表現を取り入れている。

さらにアルバムアナウンスに伴い、先行シングル第1弾となる「MIZU YOUKAN」と「SAUNA」が、Resident Advisor にて先行公開された。タイトル通り水菓子を思わせる涼しげなサウンドが夏にぴったりの「MIZU YOUKAN」と、無類のサウナ好きとしても知られる食品まつりのサウナ愛が情趣漂うメロディーから感じられる「SAUNA」の2曲を聴きながら、食品まつり a.k.a foodman によるこれまでの数多くのリリースの集大成とも言える本アルバムを心待ちにしたい。

■Resident Advisor でのプレミア公開記事はこちらから:
https://www.residentadvisor.net/news.aspx?id=42152

■各配信サービスにて新曲「MIZU YOUKAN」「SAUNA」配信&アルバム予約受付中!
アルバムDL購入には収録曲をイメージした本人手描きのドローイングによる全14ページにわたるブックレットPDF付き!
https://smarturl.it/2pq1mv

■リリース情報
アーティスト:食品まつり a.k.a foodman
タイトル:ARU OTOKO NO DENSETSU
リリース日:2018/9/21
※LP国内発売日未定

[トラックリスト]
01. KAKON
02. PERCUSSION
03. 337
04. AKARUI
05. FUE
06. BODY
07. MIZU YOUKAN
08. CLOCK feat. MACHINA
09. TATA
10. TABIJ2
11. SAUNA
12. MOZUKU feat. PILLOW PERSON

■バイオグラフィー

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの〈Orange Milk〉よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の〈Mad Decent〉からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に〈Orange Milk〉からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース予定。

Brandon Coleman - ele-king

 8月のソニックマニアをまえにし、俄然〈Brainfeeder〉が勢いづいております。ロス・フロム・フレンズ、ドリアン・コンセプトに続いて、ブランドン・コールマンが同レーベルと契約、9月14日に新作をリリースします。カマシ・ワシントンライアン・ポーターの作品でもおなじみの彼ですが、きたるリーダー作ではどんなサウンドを届けてくれるのか。先行公開された“Giant Feelings”を聴いて待っていましょう。

BRANDON COLEMAN
2018年型ファンク・オデッセイ!!!
LA新世代ジャズを牽引する鍵盤奏者が〈BRAINFEEDER〉と契約!
カマシ・ワシントンらLAジャズ集団WCGDメンバーも集結した
ブランドン・コールマン待望の最新アルバム
『Resistance』のリリースが決定!
リード・シングル「Giant Feelings」をMVと共に公開!

隠しディスクを含む3枚組CD(LPは5枚組)でリリースされたカマシ・ワシントンの超大作『Heaven & Earth』に続き、そのカマシ・ワシントン、サンダーキャットらと共にLA新世代ジャズ・シーンを牽引するメイン・プレイヤーにして、スティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド&ファイアといったレジェンドから、チャイルディッシュ・ガンビーノ、アリシア・キーズ、ベイビーフェイス、ケンドリック・ラマー、そしてもちろんフライング・ロータスまで、錚々たるアーティストに絶対不可欠なファンキー&グルーヴを注ぎ込む鍵盤奏者のブランドン・コールマンが、〈Brainfeeder〉と契約! カマシ・ワシントンやマイルス・モズレー、ライアン・ポーターらLAジャズ集団WCGD(ウェスト・コースト・ゲット・ダウン)のメンバーが集結した待望の最新アルバム『Resistance』を9月14日(金)に世界同時リリースする。アルバムの発表に合わせて、カマシ・ワシントンも参加したリード・シングル「Giant Feelings」がMVと共に公開された。本楽曲はもともと、カマシ、マイルス・モズレー、ロナルド・ブルーナー・ジュニア、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーら、WCGDメンバーらとプレイすることを目的に書かれたという。

Brandon Coleman - Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)
https://www.youtube.com/watch?v=tgMHcBx_eKQ

本作『Resistance』では、パーラメント/ファンカデリックのジョージ・クリントンやザップから、ドクター・ドレー、DJクイック、デイム・ファンクにわたる、ファンク王朝の正統な後継作であると同時に、ブランドンにとってのヒーローたち、ハービー・ハンコック、ピーター・フランプトン、ロジャー・トラウトマンといった先駆者の自由と実験の精神を称え、ファンクの新時代の到来を高らかに告げる内容となっている。

カマシのバンド・メンバーでもあり、名作『The Epic』及び最新アルバム『Heaven & Earth』にも名を連ね、ほかにもフライング・ロータスの『You're Dead!』、ライアン・ポーターの『Spangle-Lang Lane』や『The Optimist』、クァンティック&ザ・ウェスタン・トランシエントの『A New Constellation』などLAジャズ周辺作品に参加する一方、ベイビーフェイス、アリシア・キーズなどR&B方面から、スタンリー・クラーク、マーカス・ミラー、ケニー・ギャレット、クリスチャン・マクブライド、ロイ・ハーグローヴら大物ジャズ・ミュージシャンに起用され、さらにスティーヴィー・ワンダー、アース・ウィンド&ファイアというレジェンダリーなアーティストとの共演も果たすなど、超一流のセッション・ミュージシャンとしての腕を磨いてきたブランドン。近年ではラッパー兼俳優のチャイルディッシュ・ガンビーノと共演し、グラミー賞授賞式のステージでバックを務めたことも話題を呼んだ。自身のソロ活動ではアルバム『Self Taught』を2013年にデシタル・リリース(2015年にCD化)している。

本作『Resistance』は、彼のマルチ・ミュージシャンぶりにさらに磨きをかけ、『Self Taught』での音楽性をより強固に、2018年の今にアップデート。主な録音メンバーには、カマシ・ワシントン(サックス)、ライアン・ポーター(トロンボーン)、ロバート・ミラー(ドラムス)、ミゲル・アトウッド・ファーガソン(ヴィオラ、ヴァイオリン)ほか、クリストファー・グレイ(トランペット)、ジーン・コイ(ドラムス)、オスカー・シートン(ドラムス)、ジェイムズ・アレン(パーカッション)、センミ・モウレイ・エルメーダウィ(ギター)らが参加。新たに新進女性ヴァイオリン奏者のイヴェット・ホルツヴァルトほか、コリー・メイソン(ドラムス)、ビリー・オドゥム(ギター)らセッション・ミュージシャンが脇を固め、カマシのバンドのリード・シンガーとして知られるパトリース・クイン、ゴスペルをルーツに持つネオ・ソウル系名シンガーのエンダンビほか、シーラ、ドミニック・シロー、トリシア・バッターニら多彩なヴォーカル陣が名を連ねている。

1980年代のブギー・ディスコ調のスタイルは、現代ならタキシードからデイム・ファンクなどに通じるもので、ジャズ以外の幅広い音楽ファンにもアピールする力を持っている。ハービー譲りのコズミックなメロウネス、スティーリー・ダン譲りのポップさも垣間見られる一方、LAの〈SOLARRecords〉、そしてPファンクやザップ、ロジャー・トラウトマンなどの流れも彷彿とさせる。ミディアム~スロー・ナンバーも秀逸だ。2017年を代表する名アルバムとなったサンダーキャットの『Drunk』と同じベクトルで、ジャズ、ファンク、ソウル、ブギー、AORなどのエッセンスをブレンドした現代のアーバン・ブラック・コンテンポラリー・サウンドが、ここに完成した。

ブランドン・コールマン待望の最新アルバム『Resistance』は9月14日(金)に世界同時リリース! 国内盤CDには、ボーナストラック“Dance with Me”が追加収録され、歌詞対訳と解説書、ステッカーが封入される。またiTunes Storeでアルバムを予約すると、公開された“Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)”がいち早くダウンロードできる。

label: BRAINFEEDER / BEAT RECORDS
artist: Brandon Coleman
title: Resistance

release date: 2018.09.14 FRI ON SALE

国内盤CD:BRC-573
ボーナストラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

[ご予約はこちら]
beatink.com: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9795
amazon: https://amzn.asia/2b5jAHm
Tower Records: https://bit.ly/2zLZQrl
HMV: https://bit.ly/2Lh9nuY

iTunes: https://apple.co/2NuAGPX
apple music: https://apple.co/2zQL8PD
Spotify: https://spoti.fi/2LsWI8t

[Tracklisting]
1. Live For Today
2. All Around The World
3. A Letter To My Buggers
4. Addiction (feat. Sheera)
5. Sexy
6. There’s No Turning Back
7. Resistance
8. Sundae (feat. N’Dambi)
9. Just Reach For The Stars
10. Love
11. Giant Feelings (feat. Patrice Quinn & Techdizzle)
12. Walk Free
13. Dance with Me (Bonus Track for Japan)

BRAINFEEDER XANNIVERSARY POP-UP SHOP
開催日程: 8/10 (金) - 8/12 (日)
場所: GALLERY X BY PARCO

フライング・ロータス主宰レーベル〈BRAINFEEDER〉の10周年を記念した日本初のポップアップ・ショップ開催決定!
8月10日~12日の三日間に渡って、渋谷スペイン坂のギャラリー X にて、日本初のポップアップ・ショップを開催! ここでしか手に入らない10周年記念グッズやレアな輸入グッ ズ、入手困難だった人気グッズの復刻、さらにアート作品の展示や〈BEAT RECOREDS〉のガレージセールなども同時開催! 初日にはDJイベントも!

詳細はこちら:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9778

SONICMANIAに〈BRAINFEEDER〉 ステージが登場!
今年設立10周年を迎えたフライング・ロータス主宰レーベル〈BRAINFEEDER〉。サマーソニックに引けを取らない強力な出演陣が大きな話題となっている今年のソニックマニアでは、フライン グ・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックという最 高の布陣に加え、ドリアン・コンセプト、ジェームスズー、ロス・フロム・フレンズら、フライング・ ロータスが激推しする逸材が一挙集結!

SONICMANIA 2018
www.sonicmania.jp

Ben Khan - ele-king

 トム・ミシュジェイミー・アイザックにと、エレクトロニック・ソウルの新世代たちがつぎつぎに頭角を現している昨今。先日ご紹介したカラムもその新たな息吹のひとつですが、ここへ来てさらなるニュー・カマーの登場です。彼の名はベン・カーン。これまでいくつかのシングルをリリースし注目を集めてきたエレクトロニック・ファンクの新鋭が、この8月、ファースト・アルバムを発表します。プロデューサーはフラッド。同作収録曲のライヴ映像が公開されていますので、まずはそちらをチェックしておきましょう。

・近未来エレクトロニック・ファンク! UK新鋭プロデューサー、ベン・カーンがデビュー作から“a.t.w. (against the wall)”のライヴ映像を公開!
・日本盤は8月29日(水)に発売決定!

英ロンドンを拠点に活動するエレクトロニックR&Bプロデューサー、ベン・カーン。敏腕プロデューサー、フラッド(デペッシュ・モード、スマッシング・パンプキンズ他)を迎えて制作されたセルフ・タイトルのデビュー・アルバムより“a.t.w. (against the wall)”のライヴ映像が公開された。カーン自身とライティング・デザイナーのトバイアス・ライランダー(FKAツイッグス、ドレイク、バレンシアガ他)が本映像を手掛けている。暗闇の中飛び交う無数のレーザーが近未来的な世界を表現している。

新曲“a.t.w. (against the wall)”のライブ映像はこちら
https://youtu.be/1Fzr8nuBNxM

収録曲“Do It Right”のMVはこちら
https://youtu.be/1qfhFaA6dr8

収録曲“2000 Angels”のMVはこちら
https://youtu.be/Rt7TxeZNs9Q

さらに、デビュー・アルバムの日本盤が8月29日(水)に発売されることが決定した! ダウンロード・ボーナストラックに加えて、歌詞対訳とライナーノーツが封入予定。ライナーノーツにはカーンによる1言楽曲解説も記載されているので、ぜひ日本盤を手にとってほしい。


■リリース情報
アーティスト名:Ben Khan (ベン・カーン)
タイトル:Ben Khan (ベン・カーン)
発売日:2018年8月29日(水)
品番:HSE-6836
レーベル:Dirty Hit / Hostess
価格:2,100円+税

※初回仕様限定:ボーナストラック・ダウンロードコード付ステッカー封入(フォーマット:mp3 / 発売日から1年間有効)。ライナーノーツ、歌詞対訳(予定)

Amazon / Tower / HMV / iTunes

[トラックリスト]
01. 2000 angels
02. do it right
03. monsoon daydream
04. ruby
05. a.t.w (against the wall)
06. fool for you
07. the green
08. soul into the sun
09. our father
10. love faded
11. dntwanturluv...
12. merchant prince
13. ruby1strecording
14. waterfall
15. warriors rose

新曲“a.t.w (against the wall)”含む4曲配信開始&アルバム予約受付中!
リンク:smarturl.it/j4398l

■ショート・バイオ
英ロンドンを拠点に活動するエレクトロニックR&Bプロデューサー。2013年にファースト・シングル「Drive (Part 1)」を SoundCloud に公開。同年に発表したセカンド・シングル「Eden」が Pitchfork にて「Best New Track」を獲得し、早耳リスナーを中心に一挙に注目を集める。2014年に「1992 EP」、翌年には「1000 EP」を発表。2018年8月、待望のデビュー・アルバムをリリースする。

Amen Dunes - ele-king

 60年代後半のサイケ・ロックの名盤がアニマル・コレクティヴ『サング・トンズ』を通過して蘇ったような……と書けば、褒めすぎなのはわかっている。だが、〈セイクリッド・ボーンズ〉最後の秘宝といった佇まいだったエイメン・デューンズが、この通算5作めでこれまでにない注目と称賛を集めているのは紛れもない事実だ。はっきりとブレイクスルー作である。21世紀、サイケはインディの内側でインになったりアウトになったりを繰り返してきたが、このニューヨークのサイケデリック・フォーク・バンドはシド・バレットなどを引き合いに出されながら、どこか悠然と、のらりくらりと自分たちの酩酊を鳴らし続け、ますます逃避が難しく感じられるこの時代にこそインディのフロントラインに立った。僕は今年、このアルバムをもっとも多く聴いている。

 00年代のアニマル・コレクティヴのようなゆるいパーカッションの打音とヨレた歌があるが、ただし、『サング・トンズ』~『フィールズ』ほど音響化しているわけではない。よく聴けば奥のほうでノイズや細かな音の処理がされており、モダンな空間設計はあると言えばそうだが、本作を魅力的にしているのはクラシック・ロックの伝統の血筋を引いたソングライティングのたしかさである。これまでも光るものが確実にあったが、TVオン・ザ・レディオ、ビーチ・ハウス、ギャング・ギャング・ダンスなどの仕事で知られるプロデューサー、クリス・コーディの手腕が大きいのだろう、過去のローファイ作よりメリハリの効いた音づくりでメロディが立っている。ギターのアルペジオの柔らかく余韻たっぷりの響きもじつにいい。気持ちよく酔わせてくれる。アルバム冒頭の“Intro”を経て、実質的なオープニング・トラック“Blue Rose”で軽やかにコンガが聴こえてくれば、そこはすでに楽園である。ゆっくりと広がるユーフォリア。エイメン・デューンズは実質デイモン・マクマホンのプロジェクトだが、彼の歌と演奏は力が抜けつつもたしかに人間の体温を感じさせる。
 もうひとつ、『フリーダム』を特徴づけているのは反復だろう。時間が引き伸ばされるようにギターのアルペジオのリフとドラミングが繰り返されるが、それはクラウトロックのマシーナリーさではなく、あくまでオーガニックなものとしてある。シンプルなコード進行の循環と懸命な歌で聴かせる“Time”、ゆるい躁状態にあるようなラリったダンス・フィールが感じられる本作中もっとも軽快な“Calling Paul the Suffering”、存外に厚みのあるギター・サウンドを持った“Dracula”、よりモダンなアンビエントの音響が聴けるクロージング“L.A.”、どれも捨てがたいが、ベスト・トラックには眩いフォーク・ソング“Believe”を推したい。スロウなテンポでメロウなメロディを大事そうになぞる歌。上がりきらずに、しかし静かな盛り上がりを演出する抑揚の効いたリズム。ラスト1分におけるギターの情緒たっぷりの反復がいつまでも続けばいいのにと思う。

 その“Believe”は、マクマホンの母親が末期癌を患った経験から影響を受けてできた歌だそうだ。「あなたのためにしよう/ぼくは落ちこんでなんかない」。これはとてもパーソナルな心の動きがもとになった作品で、彼の震える声はそのまま彼の内面の機微である。前作の『ラヴ』に引き続いての『フリーダム』……と、この期に及んで愛に続いて自由とは、どれだけレイドバックしているんだと思うが、それは愛の夏とは違うもっと小さなものだ。アンノウン・モータル・オーケストラやフォキシジェンなどのいまどきのサイケ・ロック勢にはユーモアや皮肉を交えた知性が感じられるが、エイメン・デューンズはもっと率直に内省的だ。彼が歌う「フリーダム」ははっきりとした言葉にすらならない。「ナナナ、ナナナ、イー、イー、ナナナ、ナナナ、自由を手に、自由を」……。
 足元がフラつくフォーク・ソング“Miki Dora”で歌っているのは、5~60年代のカリフォルニアにおける伝説的なサーファーであるミキ・ドーラのことだという。ファッション・リーダーでカリスマ的な魅力を備えた彼は有名な波乗りとなったが、詐欺でのちに収監されている。アウトローのアイコンなのだという。マクマホンがニューヨークにいながら、なぜ西海岸の夏の海を憧憬せずにいられないのかはわからない。が、彼はここで欠点を持った人間のことを思い出しているのではないだろうか。この、ポップ・ミュージックに立派なステートメントがごった返す時代に。そして歌う……「波は行ってしまった」。ミキ・ドーラは、そして、刑務所のなかにいてもなお「終わらない夏」の象徴なのだと言うひともいたという。『フリーダム』のサイケデリック・フォークの温かさは、行ってしまった「愛の夏」ないしは「終わらない夏」の残響なのだろうか。それでもここに溢れ返る揺らぎと震えは、人間の欠点や弱さをも飲みこんでわたしたちを陶然とさせる。

interview with Eiko ishibashi - ele-king






E王


石橋英子

The Dream My Bones Dream


felicity

ExperimentalSound CollageMinimalPop



Amazon

いまだとらえどころのない、石橋英子の過去作品を簡略して言い表すことはできないけれど、そのすべては決してアプローチしづらいものではない。ポップと呼べるかどうかはさておき、その多くには歌があり、リズミカルな旋律があり、ピアノは美しく響き、なんだかんだ言いながらも優美で、曲によってはかわいいメロディや爽やかさもあったのではないかと思う。それは敢えて描かれた、廃墟から見える青空なのか、あるいは自然に出てきたものなのか、ぼくにはわからないけれど、たとえ破壊的な何者かがその奥底でうごめいていたとしてもそうそう気が付かれないような、表面上の口当たりの良さはあった。シンガーソングライターと勘違いされるほどには。
新作はしかし、そういうわけにはいかない。そして同時に、ムシのいい話で恐縮だが、この作品こそぼくがこの異端者に求めていたものではないかとさえ思う。『The Dream My Bones Dream』は、彼女の新しい文体、新しい描写による新しい冒険だ。まっさらなカンバスに描かれる時間の旅行。遷移する「瞬間」の連続。それがある種のミニマル・ミュージックを呼び起こす。型にはまらない音楽をやることは簡単なことではないし、また、それがゆえに人がすぐに理解しうるものではないかもしれないけれど、この作品には、ゆえに生まれたであろう美しい何かがあると思う。それは難しい話ではない。ただ耳を開けば、聞こえてくるもの。『The Dream My Bones Dream』は素晴らしいアルバムだ。



聴こえてくる音と外の世界と心のなかを混ぜてひとつの方向にむかう。そういう行為を続けているだけかもしれないです。自分がどう世界を見るのか、どう対峙するかというときに、これしかできないからというのがあります。この歳になってますますそう思います。


いやー、素晴らしい作品ですね。

石橋:ありがとうございます。

まずこの作品は、これまでとは音楽に対するアプローチを変えている作品ですよね。4年ぶりのソロ・アルバムになるわけですけれど、この4年の間にカフカ鼾であるとか、公園兄弟とかあって、石橋さんとしてはいろんなチャレンジがあったと思うんですけど、しかし、石橋英子のソロ作品だけを追っている人からすれば、今作には驚きがありますよね。とくに『アイム・アームド』みたいな作品を「石橋英子」というふうに思っている人からみたら、「おや?」っていう感じになると思います。だって、今回のアルバムには、ある意味石橋作品のトレードマークであったピアノの演奏がないんですから!

石橋:トレードマーク(笑)? “To The East”という曲だけピアノを弾いています。あとは、ローズとかCPとかシンセですね。

言ってしまえば、ドローンとかミニマルとか、サウンド・コラージュというかミュージック・コンクレートみたいなものを大幅に導入しています。やっぱり石橋さんの作品のひとつの特徴は、ピアノの響きと変拍子であったり、転調であったり……なんかひとつの石橋作品の世界があると思うんですけど、今回はいまで構築してきたそういう自分の世界をいちどまっさらにして、まったく違うアプローチを見せているんですよね。

石橋:そう聴こえるかもしれませんね。

そういう意味では、大胆な変化に挑戦した作品ですね。歌われている歌詞は、日本語でも英語でもなく中国語であったりしますし。この大きな変化はどのようにして起きたのでしょうか?

石橋:自分ではいままでのそういう特徴といわれているものは、作る音楽にとって必要とされ、自然に出てきたことなので、そういう意味では今回も同じといえば同じなのです。4年の間に、もっと言えば6、7年くらいかな、バンドキャンプにいろいろ上げていた作品とかあるんです。フルートだけで作ったりとか、声だけで作ったりとか、シンセの作品など。
そういうものと、4年の間で自分のまわりに起きたこと、いろんな作品、例えばお芝居や映画の音楽を作ったりとか、ノイズの方と一緒にやったりとか。そういうものが全部出ていると思うんですよね。自分がそれを意識してこのような作品になっていったというよりは、ライヴとかレコーディングとかがないときに、4年間、毎日音を探した結果ではないかと思います。今回のアルバムができるまでの行程はひとりの作業が多かった分、その結果がいままでよりも前に出てきたのだと思います。

じゃあわりとごく自然に?

石橋:そうですね。だから、アプローチとかを変えていったというよりは、例えばこのアルバムにとって列車の音というのがひとつのキーになったので、曲によっては列車をイメージしたドラムのリズムから作っていきました。

2曲目“アグロー”とか、3曲目“アイロン・ヴェール”とか?

石橋:そうですね。ドラムのある曲は全部ドラムから作っていこうかなと思って。

この4年の間に秋田昌美さんとコラボレーションをしたり、海外ツアーに行かれたり。そして最近は地方に引っ越しもされて、東京から離れた。いろいろな経験があるなかで、もっとも大きな影響を与えているものは何ですか?

石橋:作品に直接反映させるつもりはあまりなかったのですが、こういう作品になったキッカケとして、あるとしたら父の死は大きいかもしれないですね。音的なことで言うと、引っ越しをしたこともすごく大きいですね。ドラムをずっと叩いても大丈夫というか、長い時間ドラムを叩いても誰も何も言わない環境(笑)。

それは大きいですね。

石橋:大きい音でスピーカーから音を出しながら音を作っていても誰も何も言わないというのはすごく大きいと思いますね。

いままでは都内で叩いていたんですよね?

石橋:都内で叩いていましたよ。雨戸を閉めて(笑)。いまはドラムが家のなかですごく良い感じに響くんですよね。叩いていてすごく楽しくって。響きで何倍もご飯いけるみたいな(笑)。

しかしドラムから作ったというのは意外ですね。

石橋:1曲目の“プロローグ:ハンズ・オン・ザ・マウス”は、実験的にエレクトリック・フルートでいろいろ音を重ねていくうちにできたり。曲によってアプロ―チが違うのですけど、ドラムのある曲はそうですね。実際の録音のドラムは山本達久さんとジョー・タリアさんに叩いてもらっています。ふたりの繊細なドラムの響きは今回のアルバムの大きな特徴です。“Tunnels To Nowhere”という曲はシンセとコラージュから作りました。

お父さんの死というのは石橋さんにとってはすごく個人的なことであり、リスナーに共有して欲しいということを望んでいるわけではないと思うんですけど。

石橋:はい、全然そこは望んでいないですね。

お父さんの死別みたいなものがこの作品にとってひとつキッカケというか何か方向性であるとか、そういうものを与えたとしたらどんなことですか?

石橋:父は生前に全然語りたがらなかったんですけど、満州の引き上げの人で、そのときの写真とかが出てきて。父の死の前後、母と喋ったり親戚から聞いたりして。やっぱりそのことが気分というか頭を支配していて、いろいろ自分なりに調べていったことが曲に反映されていったということがすごくあると思いますね。満州のことについてどういう状況だったのかとか。父はどうやって引き揚げてきてそのあとどうなったのかとか。どういう状況で暮らしていたのかとか。学校でもそのときの歴史をあまり学ぶことができないので、そんな昔のことではないのに、遠い過去の出来事のようになっていると思いました。外国に短い間だけしか存在しなかった国があり、自分の国の人びとがそこにユートピアを求めたという異常な出来事なのに。

満州国ですね。

石橋:満州国の成り立ちを調べていくうちにいまの日本が置かれている状況とあまり変わらないと思いました。だからといってそのことをテーマの中心に置くつもりはなかったのですが、自分はいまの時代と、昔と未来とがすごく繋がっている感じがします。そのことを考えているうちにできあがっていった音が今回のアルバムを構成していきました。

アルバムの途中に出てくる汽車の音がすごく印象的でした。ところで、今回のアルバムを聴いていて、初めて石橋さんの言葉が耳に入ってきたんですよね(笑)。日本語で歌われている曲の歌詞が。

石橋:面白い(笑)。

いままでは、歌は入ってくるのですが、言葉までクリアに耳に入ってきたのは今回が初めてです。

石橋:歌い方が変わったかもしれないですね。

ぼくだけかもしれませんが(笑)。ところで、いまの満州の話を聞いて、なぜ中国語で歌われたのかもわかりました。

石橋:ドラムで作りはじめたときは考えていませんでしたが、曲になるにつれ、どうしても中国語を必要とする曲になっていったのだと思います。

これはどなたかが中国語に訳しているのですか?

石橋:程璧(チェン・ビー)さんというシンガーソングライターの方に私が書いた詩を翻訳して頂いて、デモを歌ってもらいました。

ぼくは日本人なので、すごく興味深い感覚にとらわれますよね。中国という遠くて近い外国、日本との歴史、当事者でありながら、東アジアをどういう風に見たらいいのか、まだぼくたちはよくわかっていないところがあると思います。

石橋:私も中国に実際行ったことがないし、遠くに感じるときもあります。でも実際、身の回りや歴史を見渡すと私たちの生活やルーツに深く関係している国だし、未来のことを考えるときに避けては通れないと思います。

そうですね。ところで、今回はなぜピアノを全面には出さなかったのですか? ある意味では石橋印と言えるじゃないですか(笑)。

石橋:いやいやいや! 自分がそう思っていないからかもしれないですね。自分をピアニストだと思っていないということはあると思いますね。

『アイム・アームド』みたいなアルバムを出しておいて(笑)。

石橋:そうですね。あれは平川さん(※felicityのA&R氏)の希望で(笑)

あれがすごく好きだって人が多いよね(笑)。

石橋:私は残念な事にまだ自分を「◯◯の人」と言う事ができないんです。

いつも思うのですが、石橋さんの音楽はジャンル分けができないんですよね。

石橋:どこに行っても居心地が悪いですよね(笑)。

いまでも良く覚えているのは、石橋さんに最初にインタヴューをしたときに、自分は本当はステージに立ちたくないんだと仰っていたことです。ステージに立ちたくないし、ピアノも楽しくないと。それがすごく印象に残っています。いまでもそうなんですね。

石橋:そうです、そうです。

で、あのあとも思ったのですが、石橋さんはなぜ音楽を作っているのだろうって。すごく大きな話で失礼ですけれど、そういうふうに思ったんですよ。

石橋:それは私もいつも思います。聴いたことのない音、自分を別の場所に連れていくような不思議な響きを追い求めているだけかもしれないです。楽器はなんでも良くて。ライヴをやっていてもそうだし、作品を作っていてもそうだし。聴いたことがない、見たことがない、音の世界を探しているだけという感じはします。


[[SplitPage]]

父の死の前後、母と喋ったり親戚から聞いたりして。やっぱりそのことが気分というか頭を支配していて、いろいろ自分なりに調べていったことが曲に反映されていったということがすごくあると思いますね。満州のことについてどういう状況だったのかとか。父はどうやって引き揚げてきてそのあとどうなったのかとか。






E王


石橋英子

The Dream My Bones Dream


felicity

ExperimentalSound CollageMinimalPop



Amazon


もうひとつよく覚えている話は、高校生のときに地方に居て、いちばん好きだったことは音楽を聴きながら自転車で徘徊をすることだったと仰っていたことです。それはヘッドホンをして?

石橋:そうですね。ウォークマンとかで聴いていました。

いまの話を聞いて、それとリンクした話なのかなと思いました。

石橋:そうですね。聴こえてくる音と外の世界と心の中を混ぜてひとつの方向にむかう。そういう行為を続けているだけかもしれないです。自分がどう世界を見るのか、どう対峙するかというときに、これしかできないからというのがあります。この歳になってますますそう思います。

どんどん円熟を極めているじゃないですか。

石橋:どうかなあ。

高校生のときにヘッドホンをしながら自転車で徘徊をすることが好きだったということは、当時の石橋さんにとって音楽というものは、シェルターみたいなものだったのですか?

石橋:そうですね。うん。

生々しい日常みたいなものから離れられるもの?

石橋:というよりも、生々しい日常をどう見るかというフィルターみたいなもの。

『キャラペイス』を作ったときもインタヴューをしたと思うんですけれど、『キャラペイス』は甲羅という意味だから、自分は殻に閉じこもるということ。

石橋:そうですね。子供のときも家の部屋でラジオとかを大きな音でかけるとすごく怒られました。でもラジオっ子だったし、音楽を聴くことがすごく好きだったので布団のなかに潜って聴いていたんですよ。だからそういうのもあるかもしれないですね。

石橋さんは子供の頃からというか、思春期の頃からひとりでいても平気なタイプだったんじゃないのかなという気がします。

石橋:平気かどうかはわからないけれど、ひとりでいないといけない時間があったと言ったほうが正しいのかな(笑)。人と何かを共有したい気持ちはあったとは思うのですが、子供の頃は自分の気持ちをちゃんと話せるタイプではなかったので、共有できない事と決めていた方が楽だったのでしょうね。本当は人と共有できていたことなのかもしれないですけどね。

でもそうやすやすと共有させたくないという気持ちが石橋さんの音楽にはあるじゃないですか。

石橋:どうでしょう。そういう気持ちはないですが、ひとりで部屋にこもって日々つくっているものを、わりとそのまま作品にしているわけですから、難しいとは思います。共有したいという気持ちがあっても。

そうでしょうね。作っている以上は。なんだろう、それは僕の質問の仕方がおかしかったんですけど、例えば、音楽のなかで、語られる物語がいろいろあるとしたら、わりと安易に人と人が出会うじゃないですか。そういう音楽ではないんじゃないかと?

石橋:うんうん。そうですね。そういうものに自分は惹かれていないかもしれないですね。やっぱり自分も何回も何回も同じ音楽を聴くことが好きだし、そうやって聴いていくなかで見えてくるものを探したいと思っているし、自分もそういうふうにしか音楽を聴かないのでやっぱりそういうふうに聴いて欲しいなとは思います。

なんとなく共同体意識を持つんだったら、ひとりで居る方が良いくらいな感じ?

石橋:そうですね。人と人が出会うということは同時に別れていることも含まれているから、共同体意識というのはそもそも幻想でしかないと思います。たとえば私が小さな所でライヴをやるとお客さんがひとりでフラッとやってきて、所在なさげにひとりで帰っていくんです。私も所在なく機材を片付けて帰る……でも何かは共有している、そういうのが好きです。


また全然別の話で、こっちの話はもうどうでもいいとは思っているのですが……一昨年にニューキャッスルのフェスに出たときに、即興演奏で共演する予定だった方は私のことをネットで調べ「シンガーソングライター」だと定義し、即興をできない、あるいはやらない人だと思ったそうです。また逆のこともあるのです。どこに行っても端っこですね(笑)。

つい最近、ele-kingでイアン・マーティンがジムさんにインタヴューをさせてもらって。すごく面白かったのですが、石橋さんとジムさんは似ているところがあるなと思ったんですよね。例えば、こないだ松村と一緒にやったインタヴューであれはちょっと失礼な質問だったかなと思ったのは、なんで前野健太さんと一緒にやっているんですか? みたいな質問をしたんですよ。

石橋:いまなぜか私も前野さんのことを思いました!

たとえば、ジムさんって、アカデミックな教養もあるから、ちょっとマニアックな現代音楽家の名前や理論が出てくるんですね。それで「さすがジムさん」みたいなノリがネット上で起きたりするわけです(笑)。
しかし、ジムさんにおいて重要なのは、リュック・フェラーリやローランド・カインのような人のことを並列して、真顔で『L.A.大捜査線/狼たちの街』のことやコメディの下ネタの話までしていることですよね? 現音系をありがたがってしまう人には下ネタは入ってこないんでしょうね(笑)。ちょっと昔の言い方でたとえると、ジムさんは決してハイカルチャーじゃないんですよね。

石橋:全然! 全然!

ローカルチャーと言ったら前野さんに失礼だけど、要するにそういったものを転覆したいから、あのように言っているわけで。石橋さんのなかにも、そこは同じような転覆があるんじゃないかと思います。そこがまた、ある種石橋さんのわかりづらさというものというか……。

石橋:私のなかでは、たぶんジムさんにとっても、ローランド・カインも、前野さんも、フリードキンも全部つながっているので、ハイカルチャーとかローカルチャーとかよくわかりませんが、わかりづらさといえば、前野さんの作品をこの前プロデュースしたときに実感したことがありました。私と岡田(拓郎)さんと、武藤(星児)さんと荒内(佑)君という4人でプロデュースをして。アルバム全体ではなく何曲かだけプロデュースというのは難しいなと思いながら、前野さんの歌がとても素敵なのでチャレンジしてみることにしました。歌の向かう場所を探してアレンジし、演奏の熱量をそのまま音にしたことは古いやり方かもしれませんが、そのやり方がいいと思いました。しかしあのアルバムのなかにあって、パッと聴いた感じは決して聴きやすくはない、と実感しました。前野さんの歌のなかに深く潜りたかった、でもそれがいいのか悪いのかはまた別なのではないかといまでも葛藤しています。
また全然別の話で、こっちの話はもうどうでもいいとは思っているのですが……一昨年にニューキャッスルのフェスに出たときに、即興演奏で共演する予定だった方は私のことをネットで調べ「シンガーソングライター」だと定義し、即興をできない、あるいはやらない人だと思ったそうです。また逆のこともあるのです。どこに行っても端っこですね(笑)。

異端ではあると思いますね。じゃあ何が主流なのか? という話でもあるんですよ。

石橋:そうですね。わかりませんね。

だから石橋さんとか、ジムさんみたいな人は逆にいえば作り甲斐があるんじゃないですか? つまり、それが普通にこれがドローンやミニマルやミュージック・コンクレートだけの作品だったら、それこそピエール・シェフェールとか昔のミニマリストたちの名前をあげて説明をすれば良いだけの話だけど、それでは完結できない何かがあるからこそ歌われたりしているんだろうし。そこがすごく新しいんじゃないかなと思うんですよね。

石橋:シンプルにはみえない。

でもそのシンプルさに対抗をしているわけじゃないですか。

石橋:対抗するつもりはなかったんですけど、こうなっちゃった(笑)。でも対抗するつもりはなかったんです。なんでこうなっちゃったんだろう(笑)。教えてください(笑)。

はははは。でも今回は聴き易いです。逆に言うとドローンとか、ミニマルとかミニマリズムとかそういうものを導入していると言っちゃわない方がむしろ良いのかなと感じます。音のテクスチャーはぜんぜん違いますけど、コンセプト的にはイーノの『ビフォアー・アンド・アフター・サイエンス』とか『アナザー・グリーン・ワールド』とかにもリンクするんじゃかって。だから、聴きづらいとはまったく思わなかったですし、むしろ入りやすかったですよね。

石橋:私のなかですごく繋がっているから、今回変えたぜ! みたいな感じではないんですけど、聴きやすいと言われます。

そりゃそうですよ! ピアノがないんだもん(笑)。ピアノがないし、あぁいういつもある転調とかがないし、根幹にあるのはミニマリズムだしね。でもだからと言って、これがわかりやすいミニマムのアルバムとして着地をしていないんですよ。そこがやっぱり良いんじゃないですかね。

石橋:やっぱり、良い意味でも悪い意味でも正直にしか作品を作れないんだなというふうに思いますね。アルバムを作るにあたってたくさんの音や言葉のメモがあるのですが、これから作品として出すのかどうかは別として、終わってからもしばらくこのテーマがまだ続いている感じがあるんですよね。いつも作品が終わったら、大体いろんなデータとかを消してしまうんですけど。でも今回は消さないでいます。

“サイレント・スクラップブック”からタイトル曲にいく流れがすごく最高でした。 “ゴースト・イン・ア・トレイン”もすごく好きな曲。このタイトルってどういう意味?

石橋:アルバムタイトルですか? そのタイトル曲を弾き語りで作っているときに自然に出てきた言葉だったんです。自分が直接体験してなくても、あるいは話を聞かなくても、あれは、私だったかもしれないと想像する力、あるいはDNAレヴェルで伝わるものがあるということがあるのではないかと思ってそのタイトルにしました。

最後の曲、“エピローグ”はイェイツの詩からとっているんですよね?

石橋:「Innisfree」というサブタイトルはイェイツの詩からとりましたが、歌詞は私が書きました。ジョイスやイェイツの、生きている人と死んでいる人がつながっている世界観に子供の頃にすごく影響を受けたと思います。

“プロローグ”のオーケストラはコラージュですか?

石橋:2本くらいトランペットが入っていますけど、それ以外はフルートを加工してトランペットやホルンやチューバの音にして実際に吹いて作りました。歌は船のなかで歌っている子供のニュアンスを出したくて、タバコのケースのビニールを使いました。

ちなみに録音はいつからいつまで? 構想を含めるとやっぱりお父さんが亡くなられてから? 

石橋:構想を含めたら、3年前くらいからはじまった感じかな? 実際にバンドの方たちにお願いしたのは去年ですね。ドラムの録音をやったりとか、ストリングスの録音をやったりとかは去年ですね。その後、半年くらいひとりの作業と、ジムさんとのミックスについてのやりとりが続きましたね。

とく時間がかかったのって何?

石橋:もちろん曲の土台作りは全部時間がかかっていますが、自分の作業以外だと、ジムさんのミックスじゃないかな。自分の作業はそれぞれ全部に時間がかかっているから……。フルートもたくさんかさねました。

どのくらい重ねたんですか?

石橋:たくさん重ねましたが最終的には20本くらいですね。短波ラジオや汽車の音のコラージュなども結構時間がかかったなぁ。

フルートを録るだけでも相当時間が掛かっていますよね。

石橋:そうですね。

汽車の音はフィールド・レコーディングをしたんですか?

石橋:資料として、当時満州で流れていたであろう昔のロシアの歌のレコードや日本の歌などのレコードなどを集めていて、その中に蒸気機関車のレコードもあり、それは満州の蒸気機関車の音ではなかったのですがそのレコードから録音しました。

それ以外は全部演奏したもの? ミックスしたり、コラージュしたりとか。

石橋:そうですね。あとは短波ラジオの音も録音しました。

短波ラジオはジムさんのアルバムでも楽器として使ったと言っていましたよね。

石橋:そうですね。私も去年ハードオフで見つけて。ジョンさんとツアーをしたのが大きかったかもしれないですね。私もジムさんも。元々ジョンさんが短波ラジオで音源とかを作っていて。ジョン・ダンカンさんのツアーで私たちも短波ラジオモードになりました(笑)。

短波ラジオってどうやって使うんですか?

石橋:短波ラジオはこうやって動かしながら、それにマイクを当てて、そこでかかっているオペラの様な音楽やニュース、雑音やチューニングの音も全部録音して、曲のイメージのなかに置き換えて解釈してコラージュしました。

石橋さんは自分の内面みたいなものを音にはしようと思わないんですか?

石橋:どうなんだろう。

以前、セシル・テイラーがすごく好きだって仰っていましたね。ジャズの人というのはわりと自分の内面を音で表現したりするものじゃないですか。

石橋:内面は出そうとするものじゃなくて、どうしても出てしまうものなので、けっこう自分ではこれでもエモいと思います(笑)。

そうなんですね(笑)。僕が誤解していたな。もっとすごくストイックに作っているのかなと。

石橋:そぎ落としはします。内面を音にしているからこそ、ストイックにならなければと思っています。

いまでもヘッドホンをして自転車で音楽を聴いたりとかはしているんですか? 

石橋:いまは車ですね。車で暗闇のなかを(笑)。音楽を聴きながら車を走らせていますね。暗い夜道を。

あ、もう東京じゃないから。

石橋:暗―いですよ。電灯とかも無いから。暗―い夜道を音楽を聴きながら。

どんな音楽を聴くんですか?

石橋:うーん。いろいろ。いまは車のなかでZ'EVがかかっている。オウテカ、イングラム・マーシャルも車のなかにいっぱいあります。

それを暗闇のなかで聴いて交通事故を起こさないで下さね(笑)。

石橋:はい、気を付けます(笑)。

Jamie Isaac - ele-king

 深夜のチルアウト。彼は午前1時過ぎの深い時間が大好き。ひとりで、ときには友人を誘って、ときには煙をくゆらせながら真夜中に音楽ばかり聴いている。自堕落かつロマンティックな時間帯。なんの生産性もないが幸せな時間帯。そんなときに似合う音楽とは、最近の例で言えば、Burialであり、ザ・XXであり、ジェイムス・ブレイクであり……、そしてジェイミー・アイザックの本作もそうだ。いま売れているトム・ミッシュと同じカテゴリー(南ロンドン出身/ソウル・ジャズ系SSW)にも括られる23歳の若者だが、不眠症に合うのは間違いなくこちら。孤独な音楽。午前4時30分の怠け者。この10年顕著なひとつの潮流=悲しみの男の子たち。

 とはいえ、カリフォルニアで書かれてロンドンで録音されたこのセカンド・アルバムは、ボサノヴァのリズムからはじまる。“Wings”という曲、これがなかなか洒脱で、ごくごく初期のエヴリシング・バット・ザ・ガールとジェイムス・ブレイク世代との出会いというか、じつにスタイリッシュにまとめられている。日本独自のサブジャンル「ネオアコ」的感性にも訴えそうだ。“Slurp”という曲にもブラジルからの影響が聞こえる。(その曲もぼくは気に入っている)
 ジャジーでポップな“Maybe”は、シャーデーとジョー・アーモン・ジョンズとの溝を埋めるかのようだが、しかし歌は終始一貫してか細く、クレッシェンドすることもない。ダブステップ以降のビート感、アトモスフィア、空間的音響、チルアウト、そして夜の世界に見事にマッチしている。それは夏の大三角形のはるか下の、ベッドルームで揺れる蝋燭の炎と共振するかのようだ。曲の主題は、表題曲は不眠症ともリンクしているそうだが、あらかたラヴ・ソングの体をとっている。
 
 猛暑の夜のメランコリー。地球温暖化と異常気象、地震への恐怖、腐敗した政治家たち、暗黒郷と化す街並み。豊かにならない生活……こんな時代でも、いやどんな時代でもか、深夜にひとり、好きな人のことを考えている時間帯は幸せなんだと。まあたしかにね。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972