「Nothing」と一致するもの

Aaron Cupples - ele-king

 本年2021年初頭に、ベルリンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からリリースされたアルバムを紹介したい。ロンドンのプロデューサー/映画音楽作曲家アーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』という作品である。
 このアルバムはその名のとおり同名映画作品のサウンドトラックだが、いわゆる「映画音楽を収録したアルバム」とは趣が異なっている作品に仕上がっている。いわばドローン、環境音、そしてノイズなどが混然一体となった「映画音響作品」とでもいうべき作品なのである。「音による映画」とでもいうべきか。
 とはいえ映画の「音響そのものをサウンドトラックとしたアルバム」というものはこれまでもいくつかの作品がリリースされていた。音楽だけではなく環境音、俳優の声、ノイズなどを収めている、文字通り映画のサウンドのトラックである。この『Island of the Hungry Ghosts (OST)』はその系譜に連なる作品といえる。

 例えばデレク・ジャーマン監督の遺作である青画面だけの映画『BLUE』のサウンドトラック・アルバムを思い出しておきたい。この映画はスクリーンにイヴ・クラインの青のような色だけが映し出され、そこにサイモン・フィッシャー・ターナーによる多層的な音響が重ねられていく。イメージを欠いた映画は、その音響の豊穣さによって、観客の聴覚を通して無のイメージを生成する。1994年にリリースされた同作のCD版にはサイモン・フィッシャー・ターナーが手掛けた音響が丸ごと収録されていたのだ。「青画面に覆われたイメージを欠いた映画」を、さらに音だけで聴取することによって研ぎ澄まされた音響体験が可能になる。ちなみにブライアン・イーノやモーマスも参加していたことも記しておきたい。
 そして1997年に〈ECM〉からリリースされたジャン=リュック・ゴダール監督、アラン・ドロン主演の映画『ヌーベルヴァーグ』(1990)のサウンドトラックもそのような「音響映画」とでもいうべきアルバムである。音業技師フランソワ・ミュジーが手掛けた『ヌーベルヴァーグ』の音響トラックすべてをCD2枚に収録し、ゴダールとミュジーの「ソニマージュ」を音だけで鑑賞できるアルバムである。同じくECMから2000年にリリースされたゴダール『映画史』のサウンドトラックCDもゴダール自身が手掛けた全8章に及ぶ『映画史』の音響トラックすべてをCD5枚に収録した豪華なボックスセットだった。
 近年では(映画全編ではないが)、〈Sub Rosa〉からリリースされたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督のサウンドトラック『Metaphors』もアピチャッポンの映画に用いられた音響と音楽が収録され、さながら映画の音を用いたアピチャッポンのインスタレーション作品のようなアルバムに仕上がっていた。ありがたいことに日本盤が〈HEADZ〉からリリースされている。

 ここで紹介するアーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』もまたこれら映画音響作品と同様にガブリエル・ブレイディー監督による同名ドキュメンタリー映画作品の音響的サウンドトラック・アルバムである。環境音と音楽の境界線を無化させるようなトラックを収録しているのだ。このアルバムを聴くことで「イメージを持たない映画」が、われわれ聴き手のなかに生成されていくことになる。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』はオーストラリアのクリスマス島のセラピスト、ポーリンリーが、島にある亡命者収容所に収容されている亡命希望者たちと会話し、その活動を支援していくさまに加えて、島の自然や儀式も同時に写し取っていくというドキュメンタリー映画である。レーベルは同作を「自然界、人間界、精神界の間を移動するハイブリッド・ドキュメンタリー」と表現している。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』は、2018年にトライベッカ映画祭で初公開され、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなどの高評価を得た。アーロンによるサウンドトラックも「超自然的なオーラ」「異世界的で実験的な」と高く評価され、英国のインディペンデント映画賞で「ベスト・ミュージック」にノミネートされた。

 映画『Island of the Hungry Ghosts』のサウンドトラックはガブリエル監督とアーロンによって「島」自体を主人公として音響化していくコンセプトで設計された。まずアーロンたちは13フィートに及ぶ自作の弦楽器を自作し、それが発するワイヤー・ドローンと、フィールド・レコーディングされた環境音によって、音とノイズの境界線を溶かすようなサウンドを生み出した。
 ちなみにフィールド・レコーディングを手掛けているのはサウンド・デザイナーのレオ・ドルガンだ(彼は本作におけるアーロンの共作者に近い存在である)。レオ・ドルガンの仕事は完璧に近く、島の自然が発する音を見事に捉え、さながら森林の交響楽のような音を実現している。あのフランシスコ・ロペス的なフィールド・レコーディングのハードコアとでもいうべき録音だ。
 環境音とドローンの豊穣かつ深遠な交錯。『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のサウンドにはそのようなミュージック/ノイズの領域が越境していくような感覚が横溢している。その意味では坂本龍一の名作『async』(2017)に近い作品かもしれない。『async』はサウンドトラックではないが、音(ノイズ)と音楽が交錯し、存在しない「映画」の「音響」のようなアルバムであった。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のノイズや環境音もまた同様である。ここでは環境音が音楽の中に融解し、音楽が環境音の中に溶け合っている。アルバム冒頭の1曲目 “Night” では島の自然が奏でる(発する)環境音のシンフォニーのような音響が、まるでオーケストラのアダージョのようにしっとりと鳴り響く。続く2曲目 “The Understorey” でやわらかいワイヤー・ドローンがレイヤーされ、環境音と持続が互いにゆっくりと浸透する。私見ではこの1曲目と2曲目に「間」に起きる変化こそが、『Island of the Hungry Ghosts』特有の「音の霊性」のようなものを象徴する瞬間ではないかと思う。
 3曲目 “Blowholes” では雨や波の音のような音が鳴り、対して4曲目 “The Long Walk” では世界から不意に解離した人の心の中のようなワイヤー・ドローンが鳴る。静謐な持続音がまるでオーケストレーションされるように音量を増していくだろう。このコンポジションはアーロンの作曲家としての力量を示しているように感じられた。音が浮遊するような緊張感に満ちている。
 5曲目 “Trapped Air” では儀式の始まりを告げるような鐘の音を収録している。その背後には透明な音の霧のように鳴っていることにも注意したい。6曲目 “The Hungry Ghost” では微細な鐘と響くような鐘の音が折り重なり、儀式それじたいの音響のように音響空間を支配する。アルバムのクライマックスのひとつともいえよう(アナログ盤ではここでA面が終わる)。
 7曲目 “Fire & Jungle” では文字通り火を燃やす音から始まり、島の森林に鳴る大自然の音(虫の音の大合唱!)へと変化を遂げていく。8曲目 “The Protester” ではその森林の音響が次第に消え、再びやわらかな絹のようなドローンが生成する。
 9曲目 “Ocean & Prayers” では海の音(波)が鳴り、やがて人の声(祈りか朗読のような)へと変化する。そしてアルバム最終曲10曲目 “Sand Return” ではドローンの折り重なりからオーケストラの序曲のような音の積み重ねを聴かせることで、アルバムは終わりを告げる。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』の全10曲を通して聴くと、ノイズとドローンの反復によって、映画の重要なテーマである「セラピー」と「儀式」の問題を音から浮かび上がらせてくれるかのようだ。まるで心身に浸透する「儀式的音響」のようにも聴こえてくるのである。
 映像から音響へ。音響から環境へ。環境から身体へ。そして身体から心理へ。心身に「効く」音の織物がここにある。そう、『Island of the Hungry Ghosts (OST)』は、稀有な音響設計を誇るサウンドトラックであり、繊細にして豊穣な音響空間を誇る見事な音響作品なのである。

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

 巷には、ゴッドスピード・ユー!ブラックエンペラー(GY!BE)はもう必要ないんじゃないかという言い方がある。90年代末に登場したモントリオールのボヘミアンたちのコミュニティから生まれたこのバンドは、『F♯ A♯ ∞ 』(1997)というその10年においてもっとも重要なロック・アルバムと言われている、世界の崩壊を憎しみと悲しみをもって表現した素晴らしく絶望的なその作品によって我々の前に現れた。政府の腐敗、貧困、悲しみ、刑務所、おそろしく暗い未来──、アルバムには押しつぶされた1ペンスが封入されていた。それから彼らは「Slow Riot For New Zero Kanada E.P.」(1999)の裏ジャケで火焔瓶の作り方を解説し、『Yanqui U.X.O.』(2002)のライナーにおいてはエンターテイメント産業と軍需産業との癒着について実名をもって暴き、新自由主義に支配されたディストピアを描写した。こうした彼らの、これまで執拗に訴え、批判し続けた世界は、今日では誰の目にも明かなものとなっている。ゆえにGY!BEは要らないというある種の皮肉だ。

 まあ、それはさておき、CRASSがそうであったように、GY!BEのような政治的なバンドは、評価され、有名になればなるほど際どいところに追い込まれたりもする。CRASSはまあ、極めてアンダーグラウンドな活動だったがゆえにポップ・カルチャーとはそこそこ距離があったけれど、GY!BEのようにその作品の魅力によって世界中に多くのファンを増やし、あるいは『'Allelujah! Don't Bend Ascend』によって、カナダではそれなりに栄誉ある、200人以上のジャーナリストや関係者の投票で決まるベスト・アルバム賞まで獲ってしまうと、世間はざわついてくるものだ。もっともGY!BEは授賞式には姿を見せず、賞金のすべてを刑務所での楽器代と音楽教育のために寄付したが、かつてアーケイド・ファイヤーやファイストも受賞したその賞に選ばれるほどに、GY!BEとは大きな存在であることを世間に知らしめもした。

 だからといってこのバンドは彼らの信念を曲げはしなかったし、日本を除く先進国では、音楽メディアはもちろんのこと文化を扱う有力新聞のほぼすべてが本作を取り上げているように、むしろポップ・カルチャーに混じってこそ彼らの思想と活動は世界中に伝達されたと言えよう。GY!BEは、作風が明るくなったと言われた前作『Luciferian Towers』(2017)では「医療、住居、食料、水の確保を人権として認めること」「侵略の禁止」「国境の廃止」「産獄複合体の完全解体」などを政府に要求し、そして本作『G_d's Pee AT STATE'S END!(国家の終わりにおける神の小便!)』においても「あらゆる形態の帝国主義の廃止」「刑務所の廃止」「富裕層へのそれがなくなるまでの課税」「警察権力の撲滅」などを要求している(これらのマニフェストは彼らのレコードのインナーないしはbandcampの解説欄で確認できる)。

 さて、その1曲目、7枚目のアルバムの冒頭を彼らは大胆不敵なことに、軍が機密使用する周波数を盗み取り、それらのコラージュからはじめている。タイトルに記されている周波数はそのことで、サブタイトルの“Five Eyes All Blind”にある「ファイヴ・アイズ」とは河野太郎が日本の加入を夢見ている、米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5カ国による機密情報の共有同盟のことだ。なんとも不吉なサウンド・コラージュのなか、闘いの狼煙を上げるかのようなジミ・ヘンドリックスめいたギターがうなりをあげる。そして激しく高揚していく“Job’s Lament”へと繫がっていく。

 おそらくは真性のアナキスト集団であろう彼らはいわゆるリーダー/中心人物を持たない。シンガーも擁さず、政治的なスローガンをがなりたてることもなければ、「ああしろ」「こうしろ」といった強制的なメッセージの発し方もしない。基本的にスローテンポのインストゥルメンタル主体の音楽で、CRASSというよりもシガー・ロスに近い。たとえばGY!BEには、『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』(2000)、つまり「あなたのか細い拳をあげよ、天国へのアンテナのごとく」というタイトルの作品がある。この絶妙な言い回しが暗示するように、闇雲に暴動を煽ったりはしないが気持ちを高揚させ、駆り立てはする。GY!BEはあたかも、この世界に見切りをつけた人たちが、ではそこから何が引き出せるのかという試みのひとつに思える。そして彼らがいくら憎しみや悲しみを主題にしようとその楽曲は美しいのだ。

 美しさは、GY!BEの場合は共鳴から生まれる。複数の楽器が共鳴し合い、重なり合ったときに高揚感がもたらされる。本作は、曲調やその構成もふくめ、いかにもGY!BEな作品で、長年彼らの音楽と付き合ってきたぼくにはもう特別新鮮な気持ちにはならないのだけれど、GY!BEがこうしていまも同じように活動していること自体に勇気づけられるし、じっさいその音楽のなかにも年季の入った力強さを感じる。そして、最後の曲のタイトルに“我々の側は勝たなければならない”という熱い言葉があるように、『G_d's Pee AT STATE'S END!』はGY!BEに共鳴する人たちへの励ましであり、街を行進するための序曲でもあろう。ちなみに今回の彼らのマニフェストにはこんな言葉がある。「このレコードは終わりを待っている我々すべてについてであり、すべての政治が失敗に終わったいま、はじまりを待っている我々すべてについてである」

Meemo Comma - ele-king

 オトナになれ。そういう話だそうだ。ググってネタバレは調査済みだが、映画自体はまだ観ていない。列島が『シン・エヴァ』一色に染まってしまったかのように見えなくもなかったこの3月、遠く海を隔てたUKから「いや、やっぱTV版でしょ」と言わんばかりの挑発的なタイトルを持つアルバムが届けられた。送り主はミーモ・カンマ、本名ラーラ・リックス=マーティン。マイク・パラディナスのパートナーである。これまでに3枚のアルバムをリリース、パラディナスと組んだヘテロティックとしても2枚のアルバムを残している。
 じつは、彼女の影響力は大きい。紙エレ年末号をお持ちの方は、いま一度パラディナスのインタヴューを読み直してみてほしい。黒人たちのメンタル・ヘルスを支援するためのチャリティ・コンピ『Music In Support Of Black Mental Health』は彼女の発案によるものだ。「妻は僕の物事に対する考え方の多くを変えてくれた」「彼女が僕のポリティクスを変えた」と彼は述べている。ふたりの信頼関係は『ワイアー』の「目隠しジュークボックス」や『クワイータス』の相互インタヴュー記事からもうかがい知ることができよう。そんな彼女が日本のアニメ・ファンでもあったことは興味深い。

 タイトル・シークエンスの “Neon Genesis” ではジャングルのリズムが用いられているが、なるほど、その神秘的なヴォーカルの響かせ方は “残酷な天使のテーゼ” (の間奏)を想起させなくもない。この手法は、やはりジャングルの断片がねじこまれた “Tif’eret” やビートレスの “Ein Sof”、“Tzimtzum” といった多くの曲で導入されており、アルバム全体のムードを決定づけている。
 だが、じっさい『エヴァ』からインスパイアされたのはヴィジュアルのほうで、サウンドのレファランスは『攻殻』のサントラだそうだ。たしかに、これは鷺巣詩郎ではない。14歳のリックス=マーティンは初号機ではなく、殻を着たゴーストと出会ったのだ。レーベルの紹介文では「GHOST IN THE SHELL」と「S.A.C.」の両方が言及されている。つまり、親は川井憲次と菅野よう子のふたり、ということになる。ファースト・アルバムのタイトルも『Ghost On The Stairs』だった。そうとう好きなんだろう。
 架空のアニメ・サントラと謳われているとおり、ビートのある曲は戦闘や疾走のシーンを想起させる。“Unit Chai” で戯れる電子音なんかは、タチコマ的なメカがなにかをサーチしているかのようだ。逆にビートのない曲はグライム以降のウェイトレス感を漂わせ、廃墟や心理描写の場面を想像させる。もっともよくできたトラックは “Merkabah” だろう。くぐもったドラムの鳴りとフットワークばりに切り刻まれたヴォーカルの応酬が、生命力あふれるリズムを紡ぎだしている。

 本作のより大きなテーマはずばり、ユダヤ教だ。アダムとイヴ、使徒(天使)、生命の樹……『エヴァ』や『攻殻』、『ハガレン』などのアニメを享受する過程で彼女は、そこにみずからのルーツたるユダヤ教的・旧約聖書的なモティーフが登場することに惹きつけられる。アニメに限らず、多くのSFにはカバラ──ユダヤ教にもとづく神秘主義思想──が影を落としていると、リックス=マーティンは指摘する。たしかに終末論は定番ではあるが、「カバラにも美しくて、希望に満ちた考えがあってね」と彼女は補足する。たとえば、最初の人間には性別がなかった。本作はそのセックスレス/ジェンダレスな発想をSFと結びつけることで、「サイボーグ宣言」への回路を開いている──そんな深読みも可能かもしれない。
 ともあれ彼女がユダヤの思想やモティーフを強く意識するようになったきっかけは、子どもができたことだったという。リックス=マーティン自身はずっとユダヤ人として生きてきたわけだが、パートナーとのあいだに生まれた子たちはそうではない。だから彼らに、自分たちが深い文化的背景を持っていることを知ってほしかった。そのような話を彼女は上述のインタヴューで語っている。親の、心だ。このポジティヴな動機が一見ダークな本作に、ある種の陽気さをもたらしているのだろう。

 たしかにこのアルバムは暗い。けれども悲愴感をまき散らしてはいない。重苦しさとも無縁で、ユーモラスで、ときにコミカルでさえある。そもそも「Neon Genesis」と題したアルバムを『シン・エヴァ』公開のタイミングで発表すること自体、ちょっとしたいたずらのようなものだ(まあ、映画は何度も公開延期の憂き目を見ているので、意図したことではないんだろうけど)。対象との距離が、ここにはある。滅びゆく世界の主人公と同化し、おのれを憐れみながらカタルシスを調達する視聴者の姿は、ここにはない。ラーラ・リックス=マーティンは子を持つ親なのだ。オトナにならざるをえない。
 ならばこれはTV版よりむしろ、『シン・エヴァ』に接近した作品ではないか。いやいや、「オトナになれ」というメッセージはTV版のころからずっと変わっていない、そんな意見も耳に入ってきてはいる。TV版や旧劇が描いていたのは「オトナになる」ことではなく、「他者と出会う」ことだとぼくは解釈しているので、さて新劇がほんとうはどのような結末を迎えたのか、この目でたしかめたくなってきた。

Scotch Rolex - ele-king

 90年代シーフィール作品のリイシューがアナウンスされたばかりだけれど、10年代シーフィールのメンバーであるブライトンのシゲル・イシハラは、もともとノイズ・ミュージシャンであり、DJスコッチ・エッグの名ではチップチューンのアーティストとして知られている(『ゲーム音楽ディスクガイド』監修の hally 氏とも交流あり)。近年はワクワク・キングダムの一員としても活躍中だ。
 その彼がなんと、いまもっとも注目すべきウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tapes〉傘下の〈Hakuna Kulala〉から新作をリリースする(名義もスコッチ・ロレックスへと進化)。同作にはケニアのメタル・デュオ、デュマ2020年のベスト・アルバム30選出)のロード・スパイクハートも参加しているとのことで、これは聴き逃せない。超チェックです。

artist: Scotch Rolex
title: Tewari
label: Hakuna Kulala
release: April 30, 2021

tracklist:
01. UGA262000113 - Omuzira (feat. MC Yallah)
02. Success (feat. Lord Spikeheart)
03. Cheza (feat. Chrisman)
04. Nfulula Biswa (feat. Swordman Kitala)
05. Afro Samurai (feat. Don Zilla)
06. Tewari
07. Juice (feat. MC Yallah)
08. U.T.B. 88
09. Sniper (feat. Lord Spikeheart)
10. Wa kalebule
11. Lapis Lazuli (feat. Lord Spikeheart)

https://hakunakulala.bandcamp.com/album/tewari

Seefeel - ele-king

 1993年に〈Too Pure〉からデビューを果たし、インディ・ロック・バンドでありながらエレクトロニカとの接続に成功した嚆矢、「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとエイフェックス・ツインの溝を埋めるバンド」と謳われた特異なグループ、シーフィールのリイシュー・プロジェクトが始動する。
 混乱しないように整理しておこう。
 
 ●その三。〈Warp〉からの最初の作品となった1994年のEP「Starethrough Ep」とそれにつづく「Fracture / Tied」の2枚の全曲を収録し、2003年に発表されたオウテカのリミックスともう1曲を加えたLP2枚組の『St / Fr / Sp』。
 ●その一。1995年のセカンド・アルバム『Succour』に12曲ものボーナストラック(「Succour+」)を加えたLP3枚組の『Succour (Redux)』。
 ●その二。1996年に〈Rephlex〉から出たサード・アルバム『(Ch-Vox)』にボーナストラック6曲を加えたLP2枚組の『(Ch-Vox) Redux』。
 ●その四。それらアナログ盤3タイトルの全収録曲を網羅し、さらに2019年にデジタルで公開された2曲を追加したCDボックスセットの『Rupt & Flex (1994 - 96)』。

 以上の4タイトルが5月14日に同時発売される。
 正直、ぜんぶ欲しい。財布とネゴシエイト。

Seefeel
完全未発表楽曲を含む22曲ものボーナストラックを収録した超豪華4枚組CDボックスセット『RUPT & FLEX 1994 - 96』を含む再発企画を発表!
5月14日に4タイトル一挙リリース!
名曲 “Spangle” のオウテカ・リミックスが公開!

「ポスト・ロック」の誕生にも大きな影響を与えた電子音響系バンドのパイオニア、シーフィールが、90年代半ばに〈Warp〉と〈Rephlex〉からリリースされた音源を網羅する再発キャンペーンを発表! 長らく入手困難となっていたスタジオ・アルバム『Succour』と『(Ch-Vox)』が、ボーナストラックを収録した拡大盤、EP集『St / Fr / Sp』、そして94年~96年の音源をまとめた4枚組CDボックスセット『Rupt & Flex』が5月14日に一挙リリース! 発表に合わせて、『Rupt & Flex』収録の “Spangle (Autechre Remix)” が公開!

Spangle (Autechre Remix)
https://youtu.be/iyC0kLVDh-M

また、今回の再発のトレーラー映像も公開!

Rupt & Flex 1994 - 96 out 14 May
https://youtu.be/aELqEiic1J4

すべての作品に、これまで未発表のボーナス音源が含まれており、すべての楽曲は、音響系テクノの鬼才 Pole こと Stefan Betke がオリジナルのDATテープからリマスタリングしている。また The Designers Republic による最新アートワーク(『Succour』はアップデート版)、シーフィールのメンバー、マーク・クリフォードとサラ・ピーコックによるライナーノーツが付く。

〈Too Pure〉からのデビュー・アルバム『Quique』によって注目を集めた彼らは、1994年に〈Warp〉と契約。当初は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライド、スロウダイヴを筆頭とするシューゲイザー・サウンドと関連づけて評されていたが、エレクトロニック・サウンドへの傾倒と、サンプラーを駆使するスタイルにより、勢いのあったIDMサウンドとの関連性も語られるようになる。シーフィールの大ファンを公言していたエイフェックス・ツインが、初期のトラック “Time To Find Me” のリミックスを提供し、自身のレーベル〈Rephlex〉とも契約を結んだことで、そのイメージはさらに強まった。

〈Warp〉の設立者、スティーヴ・ベケットは、1stアルバム『Quique』の成功をきっかけに〈Warp〉と契約に至った経緯について、次のように語っている。「シーフィールは〈Warp〉が契約した最初のギター・バンドだった……。彼らは(〈Warp〉という)家族の中では歳が上だったし、純粋なダンス・レーベルであるべき、という(それまでの)不文律を破って非難を浴びたから、我々と契約するのは勇気がいることだったんだ」

シーフィールの最初のEPを聴いたロビン・ガスリーは、マーク・クリフォードをコクトー・ツインズのスタジオに招待し、その後すぐにシーフィールをコクトー・ツインズのツアーに同行させた。マークは、後にコクトー・ツインズのために4曲をリミックスし(EP作品「Otherness」に収録)、彼らの音楽を新たなリスナーに届けるのに貢献している。

1995年3月、〈Warp〉からリリースされた2ndアルバム『Succour』は、1stアルバムのメロディックでギター主導のサウンドから離れ、よりリズミカルで準インダストリアルなテクスチャーを追求したもので、前年にリリースされた2枚のEP作品「Starethrough」と「Fracture / Tied」に続いてリリースされた。1996年に〈Rephlex〉からリリースされた6曲入りのミニ・アルバム『(Ch-Vox)』は、さらに実験的な方向性を示しており、ほとんどの楽曲がマーク・クリフォードが単独で制作したものとなっている。またこの作品は、彼が後に Woodenspoon や Disjecta の名義で〈Warp〉からリリースをするきっかけにもなっている。

バンドは1997年に活動を停止したが、〈Warp〉の設立20周年を祝った Warp20 でのライヴ・パフォーマンス(DJ Scotch Egg と元 Boredoms のドラマー Kazuhisa Iida を加えた新しいラインアップ)をきっかけに、2010年に〈Warp〉からセルフタイトルのアルバムを再びリリースしている。

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Succour (Redux)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤3枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11800

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: (Ch-Vox) Redux
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11802

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: St / Fr / Sp
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11803

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Rupt & Flex (1994 - 96)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤4枚組CDボックスセット商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11804

Dialect - ele-king

 リヴァプールの音楽家、アンドリュー・PM・ハントのダイアレクト名義としては4枚目のアルバムは、一見牧歌的だがどこか奇妙な抽象絵画を見ているようだ。水の音、金属の音、ピアノ、声、フルート、フリーケンシー、弦……、それらが音のカレイドスコープのように変化しながら、バラバラになっていた音たちが整理され、じょじょに曲としての体を成していく。その表題曲“Under~Between”の展開はみごとで、まるで魔法のような音楽だ。
 アルバム全体に、このようなずば抜けた曲ばかりが続くわけではないが、ダイアレクトのこの作品には澄んだトーンがランダムに鳴っているかと思えば曲となり、ふたたび崩れては形を成すかのような、予測のつかない展開のユニークなアプローチが随所にあってなかなか面白い。お決まりの反復もなければ、「これ、聴けや」といった強制もない。サウンド・コラージュであり、アンビエント・スタイルのフリー・インプロヴィゼーションとも言えるが、とにかく曲がその1分後には姿を変えているというか、つかみどころがないのだ。
 15人ほどのアーティストやミュージシャンが暮らす街のコミュニティ──20部屋あるという建物に住んでいる──の面々によってそれは演奏されているという。ゆえに本作にはじつにいろいろな楽器の音──ピアノ、サックス、ハーブ、クラリネット、木琴、笛、などなど──がその他いろいろな音といっしょに入っている。ちなみのその拠点からはほかにいろんな作品が発表されているので、気になる方は探してみましょう。

 ネットで拾い読みした言葉を見ると、「自然とテクノロジー、神話と魔法のあいだの絶え間ない対話による何かを作りたかった」とハントは言っている。それは人間の知性とコントロールの外側の領域を描くという試みだという。デジタルに生成された音とアコースティックな生楽器との共振はさして珍しいものではないが、しかしヴェイパーウェイヴのすぐその横にフォークソングがあるように、今日の我々の生活にはそのせめぎ合いがさまざまな場面である。ハントはそれを平穏さのなかに着地させようとしている。完成まで2年かかったという力作。コロナ禍において、いまだ強制的な隔離政策が続行中のイギリスとすでにゆるゆるの日本とでは、このアルバムのとらえ方が違うかもしれないが、家にいるときの時間を豊にしてくれることはたしか。控え目な幸せが見つかるかも。アンビエント・ミュージック・リスナーはぜひチェックして欲しい。

 なお、このリリースからの収益の一部は、亡命希望者と難民コミュニティのすべての女性のために英国で活動している慈善団体、Refugee Women Connectに寄付される。

MYSTICS - ele-king

 スウェーデンのマーカス・ヘンリクソン、札幌の Kuniyuki Takahashi、そして昨年『ASTRAL DUB WORX』を発表したした東京の J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY) によるコラボ・プロジェクト、MYSTICS がアルバムをリリースする。
 なんでも、「共通する神秘主義的な思考、センスが音楽の中で爆発し、化学変化が起こ」ったそうで、ハウスを基礎にしつつ、尺八や箏、アラビック・ヴァイオリンなどをフィーチャーしたディープな一作に仕上がっているようだ。ダブミックスは内田直之。神秘的な音楽旅行を体験しよう。

新代田FEVER × GOOD HOOK - ele-king

 これまで数々の公演を催し、東京の音楽シーンを支えてきたライヴハウスの新代田FEVERと、多くのミュージシャンのグッズを手がけてきたオンラインショップ GOOD HOOK がコラボレイト、アパレル4アイテムを期間限定で受注販売する。
 Tシャツ、ロングスリーヴTシャツ、アノラックジャケット、サコッシュの4種が発売され、いずれもデザイナー Face Oka による描き下ろしイラストが配される。
 詳しくは下記をチェック。

デザイナーFace Oka氏描き下ろしデザイン
ライブハウス新代田FEVER×GOOD HOOKアパレル4アイテム
期間限定受注販売開始!!

ライブハウス新代田FEVERと多くのミュージシャンのグッズ製作を手がけるPrinters内のGOOD HOOKとのコラボレーションアイテムが期間限定での受注販売を開始。
デザインは新代田や羽根木にゆかりのある人気のデザイナーFace Oka氏の描き下ろし。
アイテムはこれからの季節に重宝できるTシャツ、ロングスリーブTシャツ、と
アウトドアシーンでも活躍できるアノラックジャケット、サコッシュの4点。

Tシャツ、ロングスリーブTシャツは胸のワンポイントとFace Oka氏の世界観が凝縮されたバックデザインが目を魅く。同じくアノラックジャケットはバックデザインは同様ながら、胸のワンポイントロゴが刺繍になっており、高級感ある仕上がり。サコッシュは鮮やかなオレンジボディにモノクロのデザインが落とし込まれた可愛い仕上がりになっている。

写真のモデルはこちらも今シーンで注目を集めつつある、アーティストのA VIRGIN氏。
カメラマンは小野 由希子氏が担当。

・SHINDAITA FEVER × GOOD HOOK TEE Design by Face Oka
Price:4200円 Color:ホワイト SIZE:S~XL
S : 身丈:約63cm / 身幅:約47cm /肩幅:約42cm / 袖丈:約18cm
M : 身丈:約68cm / 身幅:約52cm / 肩幅:約46cm / 袖丈:約22cm
L : 身丈:約72cm / 身幅:約55cm / 肩幅:約50cm / 袖丈:約22cm
XL : 身丈:約75cm / 身幅:約60cm / 肩幅:約55cm / 袖丈:約23cm

・SHINDAITA FEVER × GOOD HOOK LONG SLEEVE TEE Design by Face Oka
Price:4500円 Color:サンドカーキ SIZE:S~XL
S : 身丈:約65cm / 身幅:約49cm /肩幅:約42cm / 袖丈:約60cm
M : 身丈:約69cm / 身幅:約52cm / 肩幅:約45cm / 袖丈:約62cm
L : 身丈:約73cm / 身幅:約55cm / 肩幅:約48cm / 袖丈:約63cm
XL : 身丈:約77cm / 身幅:約58cm / 肩幅:約52cm / 袖丈:約64cm

・SHINDAITA FEVER × GOOD HOOK ANORAK JACKET Design by Face Oka
Price:14000円 Color:ブラック SIZE:S~XL
S : 身丈:約74cm / 身幅:約57cm / 裄丈:約89cm
M : 身丈:約76cm / 身幅:約56cm / 裄丈:約92cm
L : 身丈:約79cm / 身幅:約62cm / 裄丈:約96cm
XL : 身丈:約81cm / 身幅:約66cm / 裄丈:約100cm

・SHINDAITA FEVER × GOOD HOOK SACOCHE Design by Face Oka
Price:3500円 Color:オレンジ SIZE:FREE
タテ16cm × ヨコ23.5cm(底マチ無し)
ショルダーストラップ 152cm(調節可能)
容量:約1.5L

✴受注期間
4月6日(火)20:00~4月16日(金)23:59まで
URL:https://www.goodhook.net/

FACE OKA
台湾人の父と日本人の母を持つ、東京生まれのアーティスト。
アパレル、広告、雑誌を中心に国内外問わずグローバルなアーティストとして活動の幅を広げている。
URL : www.faceoka.com
Instagram : @face_oka

A VIRGIN
2010年 バンドTADZIO結成
2011年 フジロック・ルーキーアゴーゴーにHair Stylistics(中原昌也)と出演
2016年 バンド解散
2018年 ハードコアバンドYALLA(@y_a_l_l_a_)結成
2019年 ソロ活動“A VIRGIN”開始
2020年 ファーストアルバム『“A VIRGIN”』デジタルと限定アナログ(book付き)発売
Instagram:@avirgin519

小野 由希子(Yukiko Ono)
1988年生まれ
埼玉県出身
大学在学中は写真部に所属。ライブ写真やアーティスト写真、CDジャケットなどを中心に手がける。
2017年 映画『GARAGE ROCKIN' CRAZE』撮影協力。
2019年 写真集『LEARNERS ADDICT』刊行。
Instagram:@yukiko_ono

susumu yokota - ele-king

 数が多ければいいというわけではないが、しかし、試しにスポティファイで彼の名を呼び出してみたまえ。横には250万、180万、150万といった大きな数字が並んでいる。彼の音楽は世界じゅうで聴かれ、愛されている。
 日本を代表する電子音楽家がベートーヴェンやチャイコフスキー、サン=サーンスなどのクラシック音楽をサンプリングしたエレクトロニカ作品、2004年に発表された横田進の後期代表作『symbol』がリマスターされ、CDとLPでリイシューされる。
 その大胆なカットアップとビートとの組み合わせ方はいま聴いても斬新で、モダン・クラシカルの観点から見ても特異な、類まれなる作品といえよう。CDは6月2日、LPは8月18日に発売。美しき音の世界へ。

孤高の電子音楽家、横田進が追い求めた美の世界! 自らが主宰したレーベル〈skintone〉名盤リイシューシリーズ第一弾として後期代表作『シンボル』最新リマスタリングCD再発&初LP化!

「楽しみながら作品を作ったことはない、ぶっ飛んで作るか、涙を流しながら作るかだ」と、1997年暮れの池尻での取材で横田はぼくに語っている。『symbol』が涙を流しながら作った作品であることは、何度か彼を取材した人間として言わせてもらえれば、間違いない。 ──野田努(ele-king) * ライナーノーツより

かつて海外メディアから、日本人はなぜレディオヘッドを評価してススム・ヨコタを評価しないのかと言われたように、海外ではロンドンで回顧展が開催されるほどに評価されている横田進。彼の短い人生のなかで作られた、美しい電子音楽の傑作がここにリイシューされる。通算30枚目のアルバム、彼のレーベル〈Skintone〉からは8枚目となる『symbol』は、2004年10月27日にリリースされている。「象徴主義ということを意識して作った」と当時の取材で彼は答えているが、ここには彼の美学が集約されていると言えるだろう。「思えば、僕がやってきたことは象徴主義的だった。精霊であったり、天使であったり、魂であったり、そういうものはつねの自分のなかのテーマとしてあった」、横田は当時こう語っている。クラシック音楽の断片をカットアップしながら、彼が追い求める美を描写した問題作──リマスタリングされて、いよいよその魅力が世界に放たれる!

[susumu yokota]

90年代初頭から音楽活動を開始、1993年にドイツのテクノレーベル〈Harthouse〉から発表した『Frankfurt Tokyo Connection』が国内外で話題となり注目を集めると翌94年には日本人として初めてベルリンのラヴ・パレードに出演、レイヴ・カルチャー黎明期の日本においてシーンを牽引するテクノ/ハウス/エレクトロニカのプロデューサーとして広く知られるようになる。90年代は主に〈Sublime Records〉、90年代末からは自身のレーベル〈skintone〉、さらにはロンドンの〈Lo Recordings〉などインディペンデント・レーベルを拠点に活動を続けていたが、2006年にはハリウッド映画『バベル』に楽曲を提供するなどメジャーなフィールドでも活躍している。長らく続いていた闘病生活の末2015年に永眠、約22年間の活動中に35枚以上のアルバムと30枚以上のシングルをリリースし2012年に発表した『Dreamer』が遺作となったが、没後もシーンの評価が揺らぐことはなく未発表音源のリリースやリイシューなどはコンスタントに行われ、2019年にはロンドンでメモリアル・イベントが開催されるなど今なお世界中のリスナーから愛されているアーティストである。

[アルバム情報]

アーティスト:susumu yokota
タイトル:symbol
レーベル:P-VINE
-CD-
品番:PCD-25324
定価:¥2,750(税抜¥2,500)
発売日:2021年6月2日(水)
-LP-
品番:PLP-7156
定価:¥3,850(税抜¥3,500)
発売日:2021年8月18日(水)

[収録曲]
01. long long silk bridge
02. purple rose minuet
03. traveler in the wonderland
04. song of the sleeping forest
05. the plateau which the zephyr of flora occupies
06. fairy dance of twinkle and shadow
07. flaming love and destiny
08. the dying black swan
09. blue sky and yellow sunflower
10. capriccio and the innovative composer
11. i close the door upon myself.
12. symbol of life, love, and aesthetics
13. music from the lake surface
* LP SIDE A: M1-M6 / SIDE B: M7-M13

Brijean - ele-king

 1970年代風のジャケットのアートワークや『フィーリングス』というタイトルを含め、ブリジャンはドリーミーでロマンティックなスタイルを追求するアーティストだ。カリフォルニアのオークランドを拠点に活動する彼らは、ダグ・スチュアートとブリジャン・マーフィーという男女ふたりからなるユニット。
 ベーシストのダグ・スチュアートは、エンジョイアーというジャズ・ロック・バンドに参加するほか、昨年は『ファミリア・フューチャー』というソロ・アルバムをリリースしている。セッション・ミュージシャンとしてもベルズ・アトラス、ルーク・テンプル、ジェイ・ストーン、メーナーなどの作品に関わってきた。
 パーカッション奏者兼ドラマーのブリジャン・マーフィーは、カリフォルニア大バークレー校の仲間で結成したジャム・ロック・バンドのウォータースライダーを経て、セッション・ミュージシャンとして活動してきた。エレクトロ・ポップ~ディスコ・ユニットのプールサイドはじめ、トロ・イ・モワU.S.ガールズのレコーディングやツアーなどをサポートしている。

 ブリジャン・マーフィーがいろいろなミュージシャンと仕事をしていくなか、ダグ・スチュアートと出会って意気投合し、2018年にふたりのコラボレーションとしてブリジャンがはじまった。ユニット名が表わすようにシンガーでもあるブリジャン・マーフィーをフロントに立て、それをベースからキーボード、プログラミング機材などをマルチに扱うダグ・スチュアートがプロデュースして支えるという格好だ。そして、2019年初夏にファースト・アルバムの『ウォーキー・トーキー』を地元オークランドの〈ネイティヴ・キャット・レコーディングス〉からリリース。プールサイドにも共通するトロピカルなテイストが特徴的で、ブリジャン・マーフィーのパーカッションがラテン的な哀愁を加えていく。
 一方、彼女のコケティッシュな歌声にはヨーロッパ的なアンニュイさがあり、そうしたUS西海岸ともラテンともヨーロッパともつかない無国籍感、キッチュさやいかがわしさがブリジャンの魅力だと言えよう。ハウスやディスコなどのエレクトリック・ビートを用いながらも、パーカッション使いに見られるようにオーガニックな質感を湛えており、サンセット・ビーチが似合うバレアリック・サウンドの一種と言えるものだった。

 それから約1年半ぶりのニュー・アルバムが『フィーリングス』である。今回は〈ゴーストリー・インターナショナル〉からのリリースで、2020年夏に先行シングルとして “ムーディー” が発表された。“デイ・ドリーミング” や “パラダイス” などのタイトルはまるでフェデリコ・フェリーニやミケランジェロ・アントニオーニなど昔のヨーロッパ映画的なネーミングで、ミュージック・ビデオもソフト・サイケな作りとなっている。こうした白日夢のような甘美な佇まいは、トロ・イ・モワのチルウェイヴ期の傑作アルバム『コウザーズ・オブ・ディス』(2010年)や『アンダーニース・ザ・パイン』(2011年)の世界を思い起こさせる。これらのアルバムにはビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』(1966年)にはじまって、モリコーネなどイタリア映画のサントラの影響も詰まっていたので、ブリジャンについてもその影響下にあると言えるかもしれない。

 トロピカル・ムードに包まれた “オーシャン”、スロー・テンポのボサノヴァ曲 “ラサード・イン・ゴールド” などはまさにサントラやライブラリー・ミュージックの世界。“デイ・ドリーミング” はカテゴライズすればハウスになるが、キーボードの音色は1970年代のムード音楽とかジャズ・ファンクのようで、アンドレア・トゥルー・コネクションのディスコ・クラシック “モア・モア・モア” (1975年)あたりが下敷きになっているのではと思わせる。
 ジャズ・ファンク調の “ワイファイ・ビーチ” に見られるように、演奏がしっかりしている点もブリジャンの特徴だ。スローモー・ディスコの “パラダイス” ではストリングスも交えた秀逸なアレンジを見せる。そして、“フィーリングス” に象徴されるように、ブリジャン・マーフィーの歌声はとことんフワフワとして掴みどころがない。歌声を楽器の一部として用いていて、ムード音楽やサントラなどにおけるスキャットと同じ効果をもたらしている。ロマンティクでドリーミーな “ヘイ・ボーイ”、ジャジーな夜の雰囲気に包まれた “ムーディー” などダンサブルなディスコとラウンジをうまく結びつけるところは、かつてのフレンチ・タッチのなかでもお洒落でサントラ的な音作りに長けていたディミトリ・フロム・パリスの『サクレ・ブリュ』(1996年)を思い起こさせる。

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