「Nothing」と一致するもの

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 「新しいミニマル音楽/電子音響」を求めている人にこそ、おすすめしたいアルバムだ。耳を洗うような透明な音がある。人間と機械の「演奏」による強烈なリズムがある。音楽を貫く鋭いパルスがある。鮮烈な反復とそのズレがある。同時にロマンティックな旋律もある。目が覚めるようなリズムのテンポ・チェンジもある。電子音響作品のようでありながら、ピアノ、タブラ、コンピューターという「トリオ」の演奏でもあるという驚き。
 いささか強引な例えるならばシャルルマーニュ・パレスタインのような反復するピアノとマーク・フェルのグリッチ・サウンドの融合とでもいうべきか。いずれにせよ鮮烈なミニマル音楽だ。

 本作『t』は、イタリア・フィレンツェ出身のピアニスト、サムエーレ・ストルファルディと、イタリア出身、アメリカのインディアナポリス在住の電子音楽家トンマーゾ・ロザーティ、タブラ/マルチ・パーカッション奏者のフランチェスコ・ゲラルディの3人によるプロジェクトである。
 彼らはこれまでも継続的にコラボレーションを重ねてきたミュージシャンだ。今年(2023年)も、サムエーレ・ストルファルディはフランチェスコ・ゲラルディらとともにコートジボワールの村人たちとのコラボレーション・アルバム『DAVORIO』をリリースしている。また、サムエーレ・ストルファルディとトンマーゾ・ロザーティは、2019年に『1​.​15K』と、2020年に『Profondo』というピアノとライヴ・エレクトロニクスのデュオ・アルバムをリリースしている。
 だが本年、フランスの〈Elli Records〉からリリースされた『t』は、これまでの作品とはややレベルが違う。圧倒的に深化しているとでもいうべきか。これまでの共演・共作の成果を踏まえつつ、さらに未知の音楽を希求し、それを実現したアルバムであった。

 とにかく1曲目 “waves/flat surface” を聴いていただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=XlKBMlwSsCM)。サムエーレ・ストルファルディによる鋭いパルスのようなピアノに、フランチェスコ・ゲラルディのタブラがビート/キックのように震動する。そのふたつをトンマーゾ・ロサティによるライブエレクトロニクスが繋げていく。さらにそこに「4人目のメンバー」ともいえる「自動演奏システム」が機械的に介入するのだ(自動演奏のシステムはLEDの点滅が同期しており、視覚の面でも演奏家/観客に作用するようになっている)。人間による反復と機械による反復の交錯。いわば「人間/機械」の二項対立を超えた、新しい感覚の「電子音響/エレクトロニカ」が鳴らされていくわけだ。これはかなり斬新な音だといえる。

 4曲目 “bol catalogue” ではサムエーレ・ストルファルディによるクラシカルでロマンティックなピアノの高速のアルペジオからはじまり、やがてテンポ・ダウンし、エレクトロニクスとタブラが入る。6曲目 “deltaX, deltaP of X” ではリズムとピアノが消失し、硬質なトーンによるドローンを展開する。
 8曲目 “er.o:.s:_i o... .n” は強烈な打撃音ではじまり、エレクトロニクスとノイズとリズムに断片的なピアノの折り重なっていく。やがて曲はやや静かなムードへと変化し、細やかなリズムとピアノの美麗な響きが交錯する曲調になる。
 4曲目と8曲目に象徴されるように、本アルバムで追求されているのは「リズムの反復の追求」と「テンポ・チェンジ」ではないかと思う。いわゆる現代音楽的なミニマル・ミュージックのように一定のテンポで旋律やリズムを反復するのではなく、途中で大胆なテンポ・チェンジをおこないながらも、音とリズムが反復し、ときにズレつつ、しかし反復を重ねていくような反復音楽への探求である。本作が「エレクトロニカ」「電子音響」として新しいのは、このような大胆なテンポ・チェンジによる反復音楽を実現している点だと思う。

 ここでタブラというリズム楽器と、その演奏者であるフランチェスコ・ゲラルディの重要性がより明確になる。まったくの想像に過ぎないがアルバム名の『t』とは「tabla」の「t」ではないか。アルバム最終曲13曲目である “t” は、まさにタブラの音からはじまる。それに導かれるように、透明なピアノの美しい旋律とエレクトロニクスによるノイズとリズムが交錯する曲となっているのだ。そして最後の最後にストレートな4つ打ちのリズムが祝祭のようになっていくさまは感動的である。

 電子音響とピアノという組み合わせならば、かの
坂本龍一とアルヴァ・ノトの一連のコラボレーションという金字塔を思い出す人も多いだろう。だが本作の独自性はグリッチ的な感覚やマニシックなミニマル感を「人間」の手によって生成させていく試みであり、加えて大胆なテンポ・チェンジをおこなう反復音楽の実現といえる。
 人間の演奏への機械の介入は、次第に機械のリズムへの人間からの介入に変化してくる。人間と機機の境界線は次第に消失していってしまう。加えて「テンポ・チェンジ」は、サムエーレ・ストルファルディとコートジボワールの村人たちとの『DAVORIO』で展開されたオーガニックなリズムの継承という面もあるだろう。

 響き、コンポジション、インプロヴィゼーション、旋律、リズム。それらが高密度の融合している。まさに人間の演奏と機械との同期と逸脱だ。そう、「人間/機械の境界線」が揺らぐようなアンサンブルが、この作品にはある。

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