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Various

AlternativeIndie RockPost-Punk

Various

Music For Tourists ~ A passport for alternative Japan

CALL AND RESPONSE

Amazon

Casanova.S Sep 02,2024 UP
E王

コンピレーション・アルバムというのは独特の魅力がある形態だと思う。あるテーマに沿った違う人たちの違う曲の連なり、それは一つのチームで一つの街で一つの風景であるのだろうけれど、他のアルバムと比べて個の存在を大きく残している。セレクトした選者の意図のようなものを感じることもあるし、注目バンドを集めた若手の見本市的な側面もあると思う。僕は毎年出る、まだあまり音源をリリースしていないバンドを集めた〈Slow Dance Records〉のコンピレーション・アルバムを楽しみにしているのだけど、知らないバンドを聞いて、これは凄くいいな、フォークっぽい感じだけど、どこのどんな人たちなんだろうなんて、ワクワクしながらあれこれ想像する時間がとても好きだ。その音楽やバンドには歴史があって影響があってそれから目の前に現れたみたいなそんな感じがして、考えていると好奇心が刺激される。
 そしてまた少し考える。サブスクが盛り上がるいまの時代にコンピレーション・アルバムとプレイリストに違いを感じるのだとすれば、それは間に挟まるある種の事情や制約などの違いが生み出す空気感ではないかと。選者が好き勝手に入れられるプレイリストの気軽さに対してコンピレーション・アルバムはもっと格式ばった感じがする(俺の考えた最強イレブンと実際に監督が選び試合に臨んだスタメンとの差みたいなものだ)。あるいは集めた曲を使って目的の空間を作り上げるプレイリストとは異なり、コンピレーションのそれはたとえ初出ではなかったのだとしてもアルバムの為に提供された曲だという違いがあるのかもしれない。ヴァリアス・アーティストなんて表記はプレイリストにはないのだから(あるのは作成者の名前だけ。つまりはそれ自体で一つの塊として閉じられているのが大事なのだ)。

 そんなことを考えながら〈CALL AND RESPONSE〉のコンピ『Music For Tourists ~ A passport for alternative Japan』を聞いている。〈CALL AND RESPONSE〉はブリストル出身の音楽ジャーナリスト、イアン・F・マーティンが運営しているレーベルで、彼自身の手によるライナーによると日本の若手バンドを集めたこのコンピレーションは「観光客のための音楽」なのだという(ここで言う観光客とは音楽を聞く僕らのことだ)。ライナーのなかで彼は言う。観光もまた発見の手段で、たとえばライヴハウスを訪れるという行為は、日常的な社会と現実とは異なる層に存在する別の世界とを隔てる境界線を飛び越えることを意味するのだと。「日本の音楽地図に見立てた、未完の記録」その言葉通りに東京のバンドだけではなく地方のバンドの曲も数多く収録されている。
 そういういった背景を知りアルバムを聞いているとなんだか電車の車窓から次々に切り替わり景色を眺めているような気分になる。目的地なんてなく、どこか遠くに行くためだけに乗っている列車。初期のブラック・ミディを彷彿させる性急なポストパンク、福岡のaldo van eyckの”X"に始まり、音楽に揺られながらぼんやりと窓の外を眺めていると景色が次々に立ち上がってくる。

 サウスロンドン以降のポスト・パンクの匂い、サイケデリックな看板、田園風景に安らぎを感じ、00年代の下北沢のバンドの気配が残った古い鉄塔にエモを感じ、馴染みのロゴが入った新しい建物に親近感を抱く。ぼうっと眺めていると時々知っている風景が広がったりしてあぁあれはこの景色だったのかと思うこともある。それらの景色は突然出来上がったのではなくて歴史があり混ぜられて減って作られてそうして僕ら観光客の前に現れるのだ。
 反復する呪文のような陶酔感を持ったmizumi、厳かなフォークの中に神社の石段の冷たさを感じる帯化、pandagolffのポスト・パンクにひねくれた軽さを感じ、schedarsのクールな音に胸を躍らせる。90年代のUSオルタナサウンドを響かせるBreakman Houseの歌メロはどこか畳の匂いがし、その組み合わせにどうしよもなく胸をかきむしられる。だから画面のなかの検索窓を覗き込む。そうして出てきた長野 松本という文字に想像を巡らせ行ったこことのない街に向かって思いをはせるのだ(そしていつか行きたい街のリストへ入れる)。

 あるいは時おり下車し地元の人の話を聞いたりする。名古屋のWBSBFKはアートワークをとても大事にしているバンドでここに収録されている”haircut ”のlong versionはライヴでしかやっていないのだという(そうして名古屋におけるシーンの話を少し聞く)。その日のイベントでかかったBarbican Estateの音楽はハッとさせるような空気を作り出しいて、そこで味わった感覚がこのコンピに入っている”Fresh Air (alternative version)”へと繋がる道をより魅力的にしていく。

 そんな風にして僕ら音楽を聞く観光客は景色を楽しむ。
 音楽にとって場所とは果たしてどれくらい重要なのだろう? 色んな時代の色んな音楽を際限なく聞けると思ってしまいそうな現代においても、場所というのはきっと大切で目の前の風景に響いて欲しい音が鳴らされ、あるいは眼前の現実をぶち壊すべく音が鳴らされる。それらの音楽が作り出す風景は培われてきた歴史や感性、土壌、文化が混じりあってのもので、我々、好奇心を抱いた観光客はそこに面白さを見出すのだ。
 ブライアン・イーノの作品にちなみ『Music For Tourists』と名付けられたこのアルバムは新な街へと続く扉として素晴らしく機能する。停車する列車の扉を開け探検心を持って外に出てみると、そこには見たことはあっても触れたことのない風景が広がっている。

Casanova.S