「Nothing」と一致するもの

Sunburned Hand Of The Man - ele-king

 先日、dommuneの〈ダブステップ会議〉で話したように、キエラン・ヘブデン(フォー・テット)はここ数年で注目すべき音の冒険家のひとりである。彼自身のレーベル〈テキスト〉から発表したブリアルとのスプリット・シングル、そしてアルバムのリリースに先駆けてリリースされたシングル「ラヴ・シティ」でフィーチャーしたふたりのリミキサー――UKファンキーを代表するロスカといま将来を期待されているジョイ・オービソン――を選択するセンス、そしていまから遡ること2007年、USアンダーグラウンドに広がるフリー・フォークのシーンにおいてその中核をなしているサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンの『ファイアー・エスケイプ』(リリース元はノルウェイの〈スモール・タウン〉で、アートワークはヤマツカ・アイ)のプロデュース......こうした彼の新しい動きに対する素早い働きかけとその成果には舌を巻くばかりだ。それらヘブデン絡みの作品のすべてが良いのだ。

 とくに注目したいのは、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのプロデュースである。何故なら、サンバーンドのようなコミュニティめいた、サイケデリックでフリーキーなインプロヴィゼーション集団に彼のようなエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーが手を加えることは、その筆舌に尽くしがたい音の複雑さを結局のところポップという現代の信仰のもと、ただ手際よく単純化しかねないからである。サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのようなバンドが、何故大量なリリースを続けているかと言えば(1998年からはじめて、すでに50枚以上)、バンドにとっての目的が演奏行為そのものにあり、その演奏プロセスにのみ真実があり、そしてその結果などは極端な話、まあ、どうでもいいからであろう......というのは僕の勝手な憶測だが、もし本当にそうであるのなら、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのプロデュースとはバンドの生命にとっての矛盾となる。そういう観点から言えば、ヘブデンは勇気ある試みをしているのだ。

 サーストン・ムーアの〈エクスタティック・ピース!〉からリリースされた『A』は、『ファイアー・エスケイプ』以来のヘブデンのプロデュース作である。以前バンドが〈エクスタティック・ピース!〉から出したアルバム名が『Z』だったので、それに準じて『A』なのだろう。例によってアートワークが秀逸で、ポスターも封入されている。こうした姿勢はこの10年のUSアンダーグラウンドにおいて顕著で、それが商品である前にアートであることを主張しているようだ。それはまあ、いつものサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンである。もっともメディアからの"フーリー・フォーク"というレッテルを拒むかのように、ここ数年彼らははジェリー・ガルシアとジョン・フェイヒィとの中間で鳴っているようなフォーキーな感触を表に出していない(ように思われる、すべて聴いているわけではないのだけれど)。

 新しく録音されたサウンドは、僕の耳にはこれは、サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンとフォー・テットのコラボレーション作のようだ。フォー・テットのアルバムをサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンがプロデュースしたと言って良いほど『ファイアー・エスケイプ』以上にエレクトロニック色が際だっている。そして〈エクスタティック・ピース!〉の好みが反映されているのだろう、『A』は『Z』同様にささくれ立っている。あるいは『ファイアー・エスケイプ』より悪戯っぽく、フリーキーだ。電子のイズが耳に付くが、もちろん彼らがブラック・ダイスの背中を見ているようなことはない。フォー・テットが最新作で見せたミニマリズムとダブ処理がところどころで顔を出していて、それが『ファイアー・エスケイプ』にはない効果を生んでいる。

 思いつきで作ったような1分ほどの曲が4曲、3~4分の曲が4曲、7分の曲がふたつある。"ナウ・リフト・ジ・アウター・フィンガー"は不規則な電子ノイズとドローンとファンク・ベースの奇妙な混合で、"ロフト・アット・シー"はクラウトロック的ドラミングと抽象的なミニマル・ダブとのブレンドによるスリリングな展開を持った曲。"ア・レッド・ラグ・トゥ・ア・ブル"は酔っぱらったコニー・プランクがスタジオで踊っているような曲だ。"ザ・ブック・オブ・アビリティ"もユニークな曲で、ヘア・スタイリスティックとベーシック・チャンネルのあいだでこだましている。"アクション・フィンガー"はアルバムのなかでは唯一シンプルな曲で、いわば宇宙ステーションで演奏される電子ノイズとノイ!である。

 『A』は、『ファイアー・エスケイプ』の評判の良さも手伝って実現した作品だろう。僕は、いまの時点で『ファイアー・エスケイプ』か『A』と問われれば迷わず『ファイアー・エスケイプ』を選ぶけれど、数ヶ月後には考えを変えているかもしれない。なにせまだ買って間もないからね。入荷してもすぐに売り切れてしまい、再入荷をこの1ヶ月待っていたのである(好きな人がいるのだ、この世界のいたるところに)。

CHART by DISC SHOP ZERO 2010.03 - ele-king

Shop Chart


1

MONKEY STEAK

MONKEY STEAK HYPED UP feat. MC ZULU STEAK HOUSE / UK / 2010.3.3 GET MUSIC

2

F

F ENERGY DISTORTION 7EVEN RECORDINGS / FRANCE / 2010.2.23 GET MUSIC

3

DVA

DVA NATTY HYPERDUB / UK / 2010.2.2 GET MUSIC

4

GINZ & KOOL MONEY KWAME

GINZ & KOOL MONEY KWAME WET WIPE RIDDIM EARWAX / UK / 2010.2.2 GET MUSIC

5

DETACHMENTS

DETACHMENTS CIRCLES (REMIXES PART TWO) THISISNOTANEXIT / UK / 2010.2.2 GET MUSIC

6

FANTASTIC MR FOX

FANTASTIC MR FOX SKETCHES EP BLACK ACRE / UK / 2010.2.16 GET MUSIC

7

DJ ZINC feat. MS DYNAMITE

DJ ZINC feat. MS DYNAMITE WILE OUT ZINC MUSIC / UK / 2010.2.16 GET MUSIC

8

MESAK

MESAK SCHOOL OF MESAK HARMONIA / FINLAND / 2010.2.12 GET MUSIC

9

THE SOUL JAZZ ORCHESTRA

THE SOUL JAZZ ORCHESTRA RISING SUN STRUT / US / 2010.2.12 GET MUSIC

10

STICKY

STICKY JUMEIRAH RIDDIM EP Mixpak / UK / 2010.2.11 »COMMENT GET MUSIC

Burning Star Core - ele-king

 昨年末、正式にリリースされた地味なドローン集『インサイド・ザ・シャドウ』(Rは05年)に続いて、早くもライヴ・アルバムがお目見え。07年にリリースされた驚異の『オペレイター・デッド...ポスト・アバーンドンド』と同じ布陣(つまりヘア・ポリス)に加えて、2人の固定メンバーと、曲によって6人のサポートが出入りしている。つまり、かなりな大所帯の演奏記録。ライヴ・テイクはこれまでRかカセット(それも10本組とか)でリリースされることがほとんどだったのに、97年から08年までの音源から素材を選んで珍しくヴァイナル化され、エディットなどでそれなりに手を加えている模様。レーベルはゆらゆら帝国をニューヨークで迎え撃った〈ノー・クオーター〉。

 KTL、ブラック・マジック・ディスコ(以下、BMD)、そして、バーニング・スター・コアー(以下、BSC)がこぞって07年にサイケデリック・ドローンの頂点を極めたことは『ゼロ年代の音楽』(河出書房新社)のあとがきでも触れた通り。いずれもモノトーンが基調だったドローンをそれぞれのやり方で大きく旋回させ、カラフルに、そして、ゴージャスに変容させ、なかでもBSCのそれは地から湧き出るマグマのごとく、不気味な低音部の蠢きが凄まじかった。

 KTLはアートだろう。実際に、舞台音楽のためにつくられたものだし、マイ・キャット・イズ・アン・エイリアンとジャッキー・オー・マザーファッカーが融合したBDMは前者の資質に引きずられるようにして宇宙空間へと誘うトリップ・ミュージックの極めつけのようなものだった。それに対して、BSCから感じ取れるものは、その大半が暴力衝動に近く、自分でも抑えきれない感情を混乱したまま吐き出しているだけといわれれば、その通りだとしかいいようがない。あらゆる感情が渦を巻き、それらが何も整理されず、混沌としたままであることにしか価値がない。ヒドいものだ。いい大人の聴くものではない。ひとついえることがあるとすれば、1977年は遥かに遠く、セックス・ピストルズではもはや足りないということか。『アセンジョン』辺りのジョン・コルトレーンを音圧を倍増させて聴いているなどというものでは、まったくない。どいつもこいつも死んじまえ。それだけ。そのような気持ちを満たしてくれる音楽は、しかし、意外と少ないものである。

 個人的なことを書いてもしょうがないとは思うけれど、KTLやBMD、そしてとりわけBSCと出会っていなかったら、自分はどうなっていただろうと思う。生きることにはこれといって意味がないとしても、音楽を聴くことでそれに意味を与えることはできる。ここまで世界にファック・ユーを突きつけるということは、まだ、それだけ世界に期待しているということだともいえる。そうでなければいま頃、僕はビートルズのボックス・セットでも買っているに違いない。ハイホー。

intervew with DE DE MOUSE - ele-king

すごくメチャクチャをやる人っていうのが書いてあって。「なんか面白そうだな」って、それで高3のときに初めて買ったのが『リチャード・D・ジェイムス・アルバム』。それが転機になった。転機というか、道を踏み外したというか。

 エイフェックス・ツインがポップ・カルチャーにぽっこりと残した巨大な玉手箱、そのひとつは"子供"、いわばピーターパンである。アニマル・コレクティヴ、コーネリアス、そしてデデマウス......。ロックンロールが思春期のものであるのなら、その思春期とやらを嘲笑するかのように掃除機で吸い取り、あるいはまるめてゴミ箱に投げる。いや、そんな悪意のあるものではない。もっと愉快なものだ、子供たちを楽しませるような。


DE DE MOUSE
「A Journey to Freedom」

rhythm zone/Avex Trax

Amazon

 話を聞くために初めてデデマウスに会った。まるで十数年来の知り合いに会ったような気分だった。彼は息つぎする間もなく喋った。僕に質問する間も与えない。これは彼の策略なのだろうか。言いたいことを言い切って、そして走って逃げていく、子供のように......いや、マンマシンのように。

 2007年にインディ・レーベルから出した『Tide of Stars』がほとんど口コミを中心に驚異的なセールスを記録して、まさに日本のテクノ新世代を代表するひとりとなったデデマウスは、この度、通算3枚目になる新しいアルバム『A Journey to Freedom』をエイベックスから発表する。以下のながーい話を読んでもらえれば、彼の音楽に特有な郷愁の感覚がどこから来ているのかわかってもらえると思う。あるいはまた、彼の音楽の背後にある理想のようなもの、そしてまた彼が音楽に託す思いのようなものも......。いや、それ以上によくわかるのは、彼が心底エレクトロニック・ミュージックを愛しているってことだ。

シロー・ザ・グッドマンって......近いですよね?

デデ:すごく近いです。でも、最近会ってないです。〈ロムズ〉から「(変名で)ださない?」と言われたことがあって、シロー君と高円寺のラーメン屋さんで会いながら。

飲み屋じゃなくて。

デデ:シロー君、シャイじゃないですか。

そう? ああそうかも(笑)。

デデ:シャイなんで、すごく冗談を言うんだけど、あんま目を見てくれなかったり(笑)。

ハハハハ。いやね、シロー・ザ・グッドマンと......年末だったかなぁ。高円寺で一緒に飲んでて、「いやー、オレにとっての失敗はデデマウスを出さなかったことやわ~」とぼやいていたんだよね。

デデ:ハハハハ。ホントに〈ロムズ〉が好きで、デモを送ってたんですよ。

言ってました。なのにオレは......みたいな(笑)。

デデ:でもダメで、そしたら永田(直一)さんが出してくれるっていうんで「じゃ、出しまーす」って。で、その後、シロー君からオファーされたんだけど、「いまさら鞍替えっていうのも何なんで」って(笑)。

最初から出してくれよって(笑)。

デデ:はい(笑)。正直、そう思いました(笑)。

まあ、それはともかく、デデマウスみたいな明白なまでにテクノをやっている新しい世代が、どっから来たのか興味あるんです。僕らの時代は、ハウスがあって、で、テクノがあってという風に、クラブ・カルチャーの歩みとともにあったけど、たぶん、違うじゃない。

デデ:ああ、はい。

どっから?

デデ:小さい頃はテレビのアニメ・ソング。まさに自分が曲作りするとは思わなかった......というか、歌うのが好きで。だからそれで、光GENJIとか歌って、「自分もこーなりたいなー」と(笑)。音楽とは歌って楽しくて儲かって、っていうイメージで(笑)。群馬の片田舎で育ったんで、テレビぐらいしかなかったんですよ。オレは大きくなったらアイドルになるって(笑)。人には言わなかったけど。さすがに中学生になる頃にはアイドルになろうなんて思ってなかったけど、まわりで地味だったヤツが音楽はじめたりして、バンドやったりね、「なんで、あいつが?」って、それがすごく悔しくて。

負けず嫌い(笑)。

デデ:で、家に父親のクラシック・ギターがあったので、友人からXの楽譜をもらって、クラシック・ギターでコピーしようとしたり。

ぜんぜんテクノじゃないね(笑)。

デデ:小学生のとき『シティハンター』のアニメがあって、そのエンディングがTMネットワークだったんですよ。その影響は実は、僕ら世代では大きい。みんな言わないけどね、実は大きいんです(笑)。それと都会に対する憧れが強い。そうなったときに、ダンス・ミュージックのほうが圧倒的にアーバンなわけですよ、Xよりも(笑)。すごくサイバーな感じがして。小室さんもライヴでシンセサイザーに囲まれていたりするじゃないですか。最初はあれが格好良く見えた。で、13~14歳ぐらいの頃から、ダンス・ミュージックいいなって思っていて、それと電気グルーヴですよ。

ああ、そうなんだ。

デデ:最初はよくテレビに出てたから芸人だと思ってたんですよ。でも、電気が"NO"出した頃から聴くようになって。

3枚目の頃から。

デデ:アシッドとかやりだした頃ですね。『テクノ専門学校』を聴いたり。

それは嬉しいね。中学生?

デデ:中3か高1ぐらい。そう、それで独学でキーボードの練習をはじめるんです。あと父親がオーディオマニアで、ヴィデオテープにFM番組を録音するような。

音質が良いからね。しかしホントにマニアだね、それ。

デデ:そうなんです。それで洋楽の格好良さを僕も知ってしまって。で、父親のコレクションにアバ、シック、カイリー・ミノーグなんかがあるわけですよ。そういうのを聴いているときに、ちょうど高2の頃、テクノ・ブームに当たった。ケンイシイさんが出した『ジェリー・トーンズ』とか。ただ、群馬の田舎だったから、ソニーが出していた〈ワープ〉のCDとか、ハードフロアとか、そんなものしか入って来ないんですよ。デリック・メイの『イノヴェイター』とか、もうちょっと後にはケミカル・ブラザース、アンダーワールド......。

まさにテクノ・ブームだよね。

デデ:当時、NHKでテクノの特番があって、〈レインボー2000〉の映像を流したんですよ。そこでアンダーワールドの"ボーン・スリッピー"を初めて聴いて、「これ、聴きたい!」と思って、買ったのが『ダブノーベースウィズマイヘッドマン』で、「あれ?」って(笑)。「こんな曲だっけ?」って。しばらくしてからシングルで出ているのを知ったような(笑)。

ハハハハ。

デデ:まあ、そんな感じだったんです。エイフェックス・ツインを知ったのは『キーボード・マガジン』だったかな。すごくメチャクチャをやる人っていうのが書いてあって、「なんか面白そうだな」って、それで高3のときに初めて買ったのが『リチャード・D・ジェイムス・アルバム』。それが転機になった。転機というか、道を踏み外したというか。

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で、エレクトロニカがブームになって、エイフェックス・ツインもエレクトロニカに括られて、「なんか違うな」って。エレクトロニカって上品なイメージがあったんですよ。そんなものじゃない気がするし、ラップトップの画面を見ながらライヴをしておしまいという、なんか不健全な感じがしたんです。

 

そうだよね。デデマウスの音楽を聴いてまず最初に思うのは、エイフェックス・ツインからの影響だもんね。

デデ:ドラムの打ち込みとかすごいじゃないですか。連打しまくって、感覚だけで作っているっていうか。リズムのバランスも悪いし、あのアルバムのすべてにもっていかれたというか。お気に入りの玩具、ゲーム、そんなようなものというか。いっつも聴いていた。
 衝撃という点ではスクエアプッシャーの『ハード・ノーマル・ダディ』でしたけどね。ジャングルの影響受けながらフュージョンみたいなことやっているし、ホントにびっくりした。96年~97年ぐらいですかね。で、ミュージック(μ-Ziq)も出てくるでしょ。もう、あのブレイクビーツを聴いてまたびっくりしちゃった。スクエアプッシャーの『ビッグ・ローダ』、ミュージック、コーンウォール一派や〈ワープ〉をずーっと聴いていましたね。貪るように聴いた。で、ソニーがしばらくして、〈リフレックス〉の日本盤も出すんですよ。田舎で日本盤しか手に入らないから、それはほとんど買い漁った。あとはもちろんオウテカ。

まあ、通ってるだろうね。

デデ:『キアスティック・スライド』。三田(格)さんがライナー書いていたんじゃないかな。で、その後に出した......。

『LP5』!

デデ:あれがもう最高で! コンピュータが自動生成されたメロディとリズムによるまったく新しい音楽に思えた。

『キアスティック・スライド』や『LP5』はミュージシャンに与えた影響が大きいよね。シロー君たちもあそこら辺からテクノに入ったって言ってたよ。

デデ:ちょうどその頃から学校で上京したんです。もうそうなったら、暇さえあればシスコに行って新譜をチェックするという。

なんか意外と真っ当な道を歩んでいるんだね。

デデ:インターネットがまだ普及していないし。

そうだよね。だけどデデマウスを聴いて、エイフェックス・ツイン、そして〈リフレックス〉からの影響というのはすごくよくわかる。

デデ:そういってもらえると嬉しいんです。僕は、そこは愛を出しているつもりです。

アンダーワールドというほうが意外だよ。

デデ:当時『ロッキングオン』にも流された世代だから(笑)。『ロッキングオン』と『エレキング』に(笑)。リチャード・D・ジェイムスに関する伝説が載ってるじゃないですか。戦車乗ってるとか、1日3曲作ってるとか。

夢のなかで作曲してるとかね(笑)。

デデ:そういうのを全部信じていた(笑)。なんて格好いいんだろうって。

遊んでいる感じがあったよね。当時のエイフェックス・ツインって、20歳そこそこの若者が、業界の大人をからかっている感じがすごくあったでしょ。

デデ:そうそう。ちょっとバカにしている(笑)。それがすごく格好良く思えたんです。暴力的で、悪意に満ちていて、それが最高だって。僕が19~20歳で作った音楽には、ものすごくその影響があったんです。突然ノイズが出てきて、「あーっっははは」って笑ってみせたりとか。
 音響やポスト・ロック系も好きでしたね。モグワイも好きだった。それでもデモを送ったのは〈リフレックス〉でしたけど。で、そうしたら〈リフレックス〉から返事が返って来たんです。まだ英語も読めないし、emailもできなかったんだけど、友だちでパソコン持ってるヤツがいて、彼のところに来たんです。「なんかお前宛に英語でメールが来ているよ」って。そしたらもう怖じ気づいちゃって(笑)。

ハハハハ。

デデ:「これは出せないけど、君は良いものを持っているから、もっと送って欲しい」って。それがものすごくプレッシャーになって、しばらく〈リフレックス〉を意識したものしか作れなかった。

なるほどね。

デデ:そのまま自然体で作れれば良かったんだけど。それでいちどダメになってしまったんです。小心者だから。

まったく小心者には見えないけどね(笑)。

デデ:それくらいからCM音楽の仕事をさせてもらえるようになったんだけど、まだ若いから、カネよりも自分のやりたいことをやるんだって、バイトしてでもやろうと。だけど、90年代末になってくると、かつて自分がエレクトロニック・ミュージックに感じていたワクワク感がどうもなくなってしまって......。

うん、そうだったね。エイフェックス・ツインも「ウィンドウリッカー」(1999年)がピークだったし。

デデ:うん、あれはすごかった。あのフィルの感じとか信じられなかった。

曲もすごかったし、PVもすごかった。ところが2001年の『ドラックス』でエリック・サティとテクノの中間みたいなことになったでしょ。

デデ:でも僕はあれがいちばん好きかもしれないんです。すごくピュアだし。

ああ、たしかに、ピュアであることは間違いないよね。

デデ:みんなはピアノの曲が良いって言うけど、僕はビートが入っている曲が大好きで。ドラムマシンとブレイクビーツの絡みという点では、ものすごく影響も受けた。

なるほどね。

デデ:もちろん「ウィンドウリッカー」や「カム・トゥ・ダディ」は大好きですけど。

ポップということを意識しているよね。

デデ:うん、そうなんです。それでも僕は『ドラックス』のビートものが大好きなんです。構成的にも、ピアノの曲があって、ビートものがあって、まあ、予定調和と言えばそうなんですけど、安心して聴ける。
 「ウインドーリッカー」の後にアルバムが出るって話があったじゃないですか。それをすごく楽しみにしていたんです。当時は大田区に住んでいて、毎日のように川崎のヴァージンに行って、「出てないか? 出てないか?」ってチェックしていたほど楽しみにしていた。でも、結局、あのあと出なかったじゃないですか。ものすごくがっかりしちゃって。あの頃がリチャードに対する気持ちのピークだったかもしれない。

エイフェックス・ツインの音楽のなかにはいろんな要素が入ってるしね。

デデ:そうなんです。エレクトロニック・ミュージックのピークって、やっぱ97年ぐらいがピークだったと思うんです。ジャングルがドラムンベースになって、そこからドリルンベースへと発展して......。で、しばらくしてDMXクルーみたいなエレクトロも出てきて、それはそれで面白いなと思ってたんですけど、正直、それ以外のところではそんな刺激がなくて。ボーズ・オブ・カナダみたいなのも好きでしたけど、あれがエレクトロニカって呼ばれるのが僕にはわからなくて。アブストラクトの流れなんじゃないかなと思っていた。

あるいはサイケデリック・ロックの流れというか。

デデ:そうそう。で、エレクトロニカがブームになって、エイフェックス・ツインもエレクトロニカに括られて、「なんか違うな」って。エレクトロニカって上品なイメージがあったんですよ。そんなものじゃない気がするし、ラップトップの画面を見ながらライヴをしながらおしまいという、なんか不健全な感じがしたんです。もっとフィジカルなものだったと思うし。あと......〈リフレックス〉の悪意を変な風に解釈する日本のエイフェックス・ツイン・フォロワーみたいな人たちがいて。敢えて名前を挙げると〈19頭身〉とか。

いや~、知らない。

デデ:2000年ぐらいにあったんですよ、そういうのが。〈ロムズ〉のコーマとかも初期は関係してましたよ。僕も関わっていたし。なんていうか、相手に対してただ攻撃的になればいいみたいな。「それは違うだろう」っていうのが僕にはあって。

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僕にとって〈ロムズ〉は届かない人たちだったんですよ。みんな独自のオリジナリティというか、スキルを持っていて、自分はまだそれを確立できていないから、自分はその辺の人たちと対等にはなれないけど、近づけるようにがんばってみようって。そこからデデマウスのファーストが作られるんです。

 

エイジ君(コーマ)とは、じゃあ、もう知り合っていたんだ。

デデ:その頃はまだ出会ってないんです。作っていた音楽も違っていたし、僕は僕で、リチャードの幻影を追い求めるのは止めて、もっと自分のコード感を出した曲を作っていたし。コーマ君と出会ったのは2004年ぐらいです。僕の友だちの女性シンガーで、Jessicaという子がいて、それをワールズ・エンド・ガールフレンドやジョセフ・ナッシングがアレンジするっていうことで紹介されたのが最初かな。僕もそれに参加したんです。

そのときはもうデデマウスとして活動していたんだ?

デデ:いちおうしてました。でも、そんなにアクティヴではなかった。23歳の頃かな、いちど〈19頭身〉の人と喧嘩になってしまったことがあって、自分も悪かったんですけど、そういうこともあって自信をなくしている頃で、もう外に出るのが恐くなってしまって(笑)。

ハハハハ。

デデ:恐いなって。だから〈ロムズ〉の人たちもきっと恐いんだろうなと思っていました。で、ジョセフと会ったら、すごく変人だけど、すごく柔らかい人で。で、コーマ君は、〈ロムズ〉の3周年に行ったときかな、僕が「すごく良かったです」って声かけたんです。そこでデモを渡したら、後からメールをくれて「君はストリートっぽい音楽をやるよりもメロディものにいくほうがいいんじゃないかな」みたいな内容で、「あ、やっぱそうなんだ」って思って。それもターニング・ポイントだったな。

ホント、気の良い連中だからね。

デデ:〈ロムズ〉のアニーヴァーサリーは毎年行ってましたよ。

なるほど。たしかにデデマウスからは、キッド606からの影響も感じるんだよね。あのアウトサイダーな感覚というか、アナーキーな感覚というか(笑)。

デデ:それはすごく嬉しい。エイフェックス・ツインやキッド606もそうですけど、僕にとって〈ロムズ〉は届かない人たちだったんですよ。みんな独自のオリジナリティというか、スキルを持っていて、自分はまだそれを確立できていないから、自分はその辺の人たちと対等にはなれないけど、近づけるようにがんばってみようって。そこからデデマウスのファーストが作られるんです。

なるほど。

デデ:エイフェックス・ツインはとんでもなくすごいし、〈ロムズ〉の人たちもすごいし、だったら自分にできることをやるしかないって。そう思えるようになってからアクティヴになりました。

どんな場所でやってたの?

デデ:中野の〈ヘヴィーシック〉とか。自分の近くいたのが、ゲットー・ベースの人が多くて。

おお。

デデ:DJファミリーとか。

僕もミックスCD持ってますよ。

デデ:そう、あの頃ゲットー・ベースすごかったじゃないですか。あの辺の下世話で、BPMが速い感じが好きだったから。

デデマウスの音楽とはあんま繋がらないけど。

デデ:そんなことないですよ。自分のなかではあるんですよ。あの下世話さ、ストリート感、そしてメロディというのは実は自分のなかにあるんです。

なるほどなー。話聞いていてすごく面白いんだけど、デデマウスがいた場所というのは、90年代のテクノ熱がいちど終わってしまって、で、廃墟のなかでなんか子供たちが遊んでいるぞっていう、そんな感じだよね。何もないところでさ。

デデ:シーンを意識してなかったですけどね。踊らせたい、メロディを聴かせたい、それだけとも言える。それでも、〈ロムズ〉まわりの人に聴かせるのは恐かった。自信がなかったんです。それでも支持してくれて......〈ロムズ〉5周年のアニーヴァーサリーには僕も出てるんです。

あ、僕もそれ行ってるかも。アニヴァーサリーにはけっこう行ってたよ。

デデ:けっこう来てるんですよね。サワサキさんも来てたって言ってたし。そういうなかで、僕はB級だってずっと思ってたんです。

ジョセフ・ナッシングは〈プラネット・ミュー〉だし、コーマは〈ファットキャット〉だったりとか、海外からも出していたしね。

デデ:〈プラネット・ミュー〉なんか......僕のなかでは夢ですよ。僕、〈ドミノ〉から返事をもらったことがあったんです。

いいじゃない。

デデ:でもリリースまではいかなかった。ちょうどフランツ・フェルディナンドを出した頃で、良い時期だったんだけど(笑)。「がんばれ」みたいな返事だった。それはそれで自信になったんですけどね。
 ただ、僕もふだんは〈ロムズ〉まわりの人たちとつるんでいたわけじゃなくて、月刊プロボーラーっているじゃないですか?

はい。

デデ:あの辺の、テクノの人たちと一緒にやってることも多かったんです。わりと根無し草的に、いろんなところでやっていた。自分のホームを欲しいなと思っていたけど、ボグダン(ラチンス)の影響があったわけじゃないけど、ライヴでめちゃくちゃやるっていうのが......。

ボグダン! あれ面白かったよね。

デデ:わけもわからず「あー」って叫んで(笑)。ラップトップでもああいうの良いなって思って。自分にカツを入れるためにマイクで「ぎゃー」って叫んでアジテートしたり。

時代のあだ花じゃないけど、ブレイクコアみたいなシーンが花咲いたよね(笑)。

デデ:すごかった。「何? ブレイクコア? 意味わかんなくねぇ?」みたいな(笑)。で、そういうなかで「ぎゃーぎゃー」言いながらライヴやってたんですけど、何かそういう、サーカスの見せ物小屋的なところで「こいつ面白い」と言われることも多くて。それがまた勘違いされる第一歩になってしまったというか。

それこそベルリンでジェフ・ミルズが初めてDJやったときは、まわしたレコードをすべて放り投げるパフォーマンスをやったという伝説があって、やっぱそういうサーカスティックな行為って「オレを見ろ!」ってことなわけでしょ?

デデ:格好いい、それ。やっぱそうなんだね。DJファミリーもね、ジャグリングがうまくて、かけたら前に放り投げるっていうことをやっていた。で、そういうことやられると、見てるほうもやっぱ上がりますよね。

重要ですよ、そういうことは。

デデ:で、あるとき〈ユニット〉でやったことがあって。シロー君も出ていて、シロー君は上でやっていて、下で永田さんがやっていて、で、僕の友だちが永田さんに僕のデモを聴かせてくれて、で、永田さんが「君、いいよ」って言ってくれて、そこからアルバムの話に発展するんです。〈ロムズ〉から出したかったんだけど、〈ロムズ〉は何も言ってくれないし(笑)。

ハハハハ。このインタヴューを真っ先にシロー君に読んでもらおう(笑)。

デデ:いやー、怒られちゃいますよ。

おおらかな人だから、笑ってくれるよ(笑)。

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僕のなかの東京のイメージなんです。自然と人工の殺伐としている風景、あんま人間くさくなくて......子供の頃に読んだ『おしいれのぼうけん 』って本があって、僕、あれが大好きで、保育園でいたずらしていた子が押し入れに閉じこめられてしまう話で、そこにはトンネルがあって、トンネルを抜けると夜の大都市に出るんです。

 

デデ:とにかく、それがきっかけで〈ロー・ライフ〉にも出ることになって。で、そのとき、最初はステージがあったんだけど人が押し寄せてなくなちゃって、僕のまわりに客がわーっといて、「オレの機材守れ! テーブルを持て、みんな!」って言って。で、テーブルを持たせながらライヴやって、そんなに激しい曲じゃないのに何人かの客がダイブしたりして。それを永田さんが見て、「新しい時代がはじまった」と感じたっていうんです。それでファースト・アルバムを出すことが決まるんです。

それはすっごくいい話だね。

デデ:でもね、アルバムを出すのは決まったけど、ディストリビューターも決まっていなかった。それなのにアルバムの噂が広まっていたらしくて、タワレコの人や新星堂の人たちから直接メールが来るんですよ。「アルバムを置きたいから」って。でも、「ディストリビューターがいないんです」って言っていたら、〈ロムズ〉のタカラダ君が、ウルトラ・ヴァイブを紹介してくれた。それで出したら、宣伝してなかったんだけど、みんなが応援してくれて......。

それはホントにいい話だよ。宣伝力ではなく音で売れたんだから。素晴らしいよ。

デデ:ホント、最初は信じられなくて。永田さんから「5千枚いくかもよ」って言われたときにはびっくりしちゃった。

口コミなわけでしょ。

デデ:タイミングも良かったんですよ。何故か、爆発寸前のパフュームと比べられたりして。

違うでしょ!

デデ:キラキラ・テクノみたいな(笑)。なんだかテクノ・ポップと扱われたりして。でも、中田ヤスタカさんとかもDJでかけてくれていたみたいで。ヴィレッジバンガードみたいなお店も大プッシュしてくれたりして......ホントに運が良かった。タイミングが良かっただけなんです。

それを言ったら、エイフェックス・ツインだって電気グルーヴだってURだって、みんなタイミングが良かったんだよ。

デデ:絶対にエイフェックス・ツインや〈ロムズ〉にはかなわない、そう思って違うことをやろうとはじめたのがデデマウスだったから。

デデ君のなかで〈ロムズ〉ってホントに大きかったんだね。

デデ:とても。絶対に自分よりすごいと思っていて......、アイデア、ミキシングのテクニック、すべて自分よりレヴェルが高いと思っていたし。

ファースト・アルバムが売れてもそう思っていたの?

デデ:ずっとそう思っていて、セカンド・アルバムでエイベックスに来たのも、テクノというより、自分はフュージョンにはまっていて、スーパーで流れるような音楽を作りたいって、そういう気持ちだったから。ホームセンターとかスーパーでかかるような音楽を目指したんです。郊外のニュータウンとか、僕、大好きだから。

へー、何でまた?

デデ:僕のなかの東京のイメージなんです。自然と人工の殺伐としている風景、あんま人間くさくなくて......子供の頃に読んだ『おしいれのぼうけん 』って本があって、僕、あれが大好きで、保育園でいたずらしていた子が押し入れに閉じこめられてしまう話で、そこにはトンネルがあって、トンネルを抜けると夜の大都市に出るんです。そこでねずみばあさんが出たりとか、いろいろあるんですけど、僕、その誰もいない夜の大都市というのが強い印象に残っているんですね。たとえば、誰もいない夜の高速道路とか。

群馬というのも影響しているのかね?

デデ:あるかもしれない。僕の家の近くに国道が通っていて、夜になると誰もいないんだけど、オレンジの街灯がばーっとあって。うん、だからそれとリンクしたというのもあるかもしれないけど、何故かニュータウン的なものが僕にとっての東京だったんです。

ふーん、それは興味深い話だね。決して、華やかなところではなく。

デデ:そう、閑散としたところなんです。そしてそこのホームセンターやショッピングモールでかかる安っぽいフュージョン、それをイメージしたんです。

ある種のアンビエントだね、"ミュージック・フォー・ニュータウン"とでも呼べそうな。

デデ:そうそう、ホントにそう。ああいうところでかかる音楽が好きなんです。で、スタジオ・ジブリみたいなのも好きだったから、自分の音楽のなかにどうしたら日本的なものを取り入れることができるのかって考えていて、それが、そう、ニュータウンのフュージョンであり......。

『Sunset Girls』?

デデ:そう、『Sunset Girls』です。だからあの、夏祭りのイメージとかも、その考えから来ているんです。

90年代だったら、テクノの目的意識がはっきりしているじゃない。踊らせるとか、トリップだったりとかさ、だけど、デデマウスみたいなゼロ年代のテクノはそうした拠り所みたいなものを喪失しているんだよね。クラブとかDJに90年代のようにアイデンティファイしている感覚とは違うじゃない。

デデ:自分がどこにアイデンティファイすればいいのか、わからなかったですね。

その感じは音楽に出ていると思いますよ。

デデ:上京して、深夜にクラブに出掛けても、4つ打ちのテクノしかかからないし......ハード・ミニマルは好きでしたけどね。

クラブには遊びに行っていたの?

デデ:頻繁に行くっていうほどではない。友だちが出るからとか、つき合っていた彼女から「ケンイシイの出る〈Womb〉のイヴェントに行こうよ」って誘われて行ったり、そんなものですよ。そういうところ行くと、「なんか違う」って思ってしまって。酒飲んで、4つ打ちで踊るって、音楽を聴いているっていうよりは......なんだろう? それでも昔はクラブで遊ぶのが格好いいっていうのがあったけど、いまはもうそんなのないじゃないですか。しかも自分の求めるテクノって、そういうところからはずれているものだったから。

それは90年代からそうだよ。僕がエイフェックス・ツインを好きでも、最初は肩身狭かったもん。「健吾、オウテカって面白いね」って言っても「んー、でも踊れねーじゃん!」みたいな(笑)。やっぱほら、あの頃はテクノと言っても主流はトランスだったから。〈ワープ〉なんてDJやってる連中からけっこう冷ややかだったんだから。

デデ:僕はその頃、学生で東京にいなかったから良かったのかもしれない(笑)。ただ、僕も、ブレイクコアとか、エイフェックス・ツインとか、そんなのを胸はってDJでかけて「ウォー!」ってなるなんて、考えられなかった。

だいたいね、日本で、エイフェックス・ツインの影響を自分の音楽に取り入れた最初の人って、オレが知る限り、コーネリアスだもん。

デデ:あー。

UKやヨーロッパはすぐにフォロワーが出てきたのにね。日本ではムードマンあたりが多少違っていたぐらいで、あとはおおよそトランスだった。で、ゼロ年代になって、〈ロムズ〉やデデマウスが出てきて、僕は初めてエイフェックス・ツイン・チルドレンが顕在化したと思った。USインディもそうだよね。アニマル・コレクティヴだって、バンドだけど、エイフェックス・ツインからの影響じゃない。だから、エイフェックス・ツインの影響って、意外なことにそのあとの世代から面白い人たちがけっこう出てきている。

デデ:コーネリアスの"スター・フルーツ/サーフ・ライダー"がFMから流れたときはホントにびっくりして。

あれはびっくりした。

デデ:ホントにびっくりした。自分がやりたかったことをやっている。『ファンタズマ』の"スター・フルーツ~"にいくまでの流れが最高なんですよ。

「真似しやがって!」とは思わなかった(笑)?

デデ:それよりも「やられた!」って感じでした。あれでコーネリアスはすごいと思った。

デデマウスやコーネリアスっていうのは似ているよ。音楽性はぜんぜん違うけど、「ファンタジーを見せる」っていうところは同じでしょ。

デデ:そう言ってもらえるとありがたいです。僕、アニメが好きで......古典的なアニメなんですけど。世界名作劇場とか、ルパンとか、少年が少女を救うために自分の身を犠牲にするくらいの気持ちで突っ走るっていうか。『未来少年コナン』とか、僕、大好きで。

ハハハハ。オレ、大昔だけど、ピエール瀧から「見たほうがいい」って言われて貸してもらったことがある。VHSのテープ10本ぐらい(笑)。でもさ、『未来少年コナン』なんて、うちらの世代じゃない。

デデ:だから追体験なんです。宮崎駿を掘り下げていったらそこに行ったというね。昔のアニメが好きなんですよ。野田さんがリアルタイムで見ていたような。

『巨人の星』......、いや、『マジンガーZ』とかだよ。

デデ:『マジンガーZ』はないけど、『ど根性ガエル』は好きですね。

ああ、なるほどね。あの時代の真っ直ぐな感じのアニメね。

デデ:そうそう、ラナを救うために命をかけるコナンの真っ直ぐさがたまらなくて(笑)。

実写ものにはいかなかったの? 『仮面ライダー』とか、『ウルトラセブン』とかさ。

デデ:『ウルトラセブン』は早朝、幼稚園のときに再放送で見ていた。

『ウルトラセブン』は幼稚園児には難しいでしょー。

デデ:もちろん重くて政治的なにおいをわかるようになったのは大人になってからなんだけど、ウルトラマンが格好いいと思っていたから。あとね......ロボコンとか。日曜の早朝に再放送してたんですよ。すごく影響受けましたね。

そのへんは、ジョセフ・ナッシングやエイジ君(コーマ)とも共通する体験なのかな?

デデ:どうでしょうね。実はそこまで話したことがなくて。ジョセフとはUFO話をしたことはあるけど(笑)。どうでもいい宇宙知識をいっぱい仕入れて、それで話したことはあったけど(笑)。アニメに関しては、話したことないですね。僕も最初は恥ずかしかったんです。「ジブリが好き」なんて言うと、だいたい「それって違くない?」って言われて。だからあんま言わなかった。......で、もうひとつデデマウスの影響を言うと、バグルスなんですよ。

バグルスって、あのバグルス?

デデ:そう、「ヴィディオ・キルド・レディオスター~」っていう。父親が持っていて。すごく好きになって、あの人のアルバムも聴いたんです。そしたらそのエンディングで、曲がリプライズするんですね。楽器だけの演奏で。そこがすごく好きで、で、それを僕はファースト・アルバムで最初の曲でやったんです。そう、懐かしさ......それも僕には重要な要素のひとつなんです。で、80年代のポップスって、僕のなかでそれなんです。DX-7の音を聴くとすごく懐かしくなるんです。

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童話的な......、色あせているんだけど、煌びやかなっていうか。で、多摩ニュータウンが好きだったから、休みの日に渋谷に行くんじゃなくて、多摩ニュータウンに行くんです。散歩するんですよ。そこをユーミンやボーズ・オブ・カナダを聴きながら歩くんです(笑)。

 

YAMAHAのDX-7と80年代ポップスって、本当は僕の世代なんだけどね(笑)。

デデ:そこは父親が大きいですよね。だから、ジャスティスみたいなニュー・エレクトロとか、僕のなかではしっくりこないんです(笑)。「これがエレクトロ?」みたいな。いまでも解せない(笑)。

あれは文脈が違うからね。エレクトロって呼ばないでほしいよね。

デデ:僕のなかではやっぱメランコリックな要素がなければエレクトロじゃないというか、すごくそれが重要なんですよ。プローンっていたでしょ?

プローン......?

デデ:〈ワープ〉から1枚だけ出した。

はいはい(笑)。

デデ:〈ワープ〉の10周年記念盤のリミックス集のほうにも参加していて、たしかトリッキー・ディスコをリミックスしていたのかな。とにかく......プローンが好きで。プローンが僕に80年代的な記憶を呼び起こしてくれたんです。自分の記憶の奥底で暴れられているような感じというか。『アンビエント・ワークス』よりもプローンのほうが僕はすごかったんですよ。野田さんたち世代はやっぱ『アンビエント・ワークス』がすごいでしょ?

もちろん。

デデ:僕はあんまそれを感じなかった。初めて聴いた17~18歳の当時はね。それよりもプローンのほうが懐かしさを感じたんです。

あれも変な1枚だったよね。

デデ:イージー・リスニング・ブームからすると遅すぎたし(笑)。童話的な......、色あせているんだけど、煌びやかなっていうか。

なるほど。

デデ:で、多摩ニュータウンが好きだったから、休みの日に渋谷に行くんじゃなくて、多摩ニュータウンに行くんです。散歩するんですよ。そこをユーミンやボーズ・オブ・カナダを聴きながら歩くんです(笑)。

なんでユーミン(笑)?

デデ:ユーミンやキリンジみたいなニュー・ミュージックが好きだったんです。

ぜんぜんエイフェックス・ツインとは繋がらないけどね(笑)。

デデ:だから、それを繋げたかったんですよ。ミュージック(μ-Ziq)っているじゃないですか。

はいはい。マイク・パラディナスですね。

デデ:彼のキッド・スパチュラって名義の作品あるじゃないですか。

最高だったよね。あの、〈リフレクティヴ〉から出ているヤツ?

デデ:あの名義で、『Full Sunken Breaks』(2000年)というアルバムがあって。

あー、それ、聴いてないわ。『スパチュラ・フリーク』しか聴いてない。

デデ:あれが大好きだったんです。キッド・スパチュラ......初期のミュージックと言ってもいいんですけど、簡単というか稚拙というか、ものすごいわかりやすいメロディがあったじゃないですか。『アイ・ケア・ビコーズ・ユー・ドゥ』の1曲目にもそれがあるし。あのアイデアでもって、自分のグッと来るメロディ、コード感でやったらどうなるんだろう?っていうのがあって。

なるほどねー。

デデ:だから、わかりやすいメロディみたいなものを追求したくて。

ミュージックはその辺、すごかったよね。イコライジングされた変態的なブレイクビーツで、しかし上物のシンセがやけにベタなメロディを弾くんだよね(笑)。

デデ:そういう点では、僕、ミュージックからの影響すごいですよ。

あー、言われてみれば、そうだね。

デデ:〈プラネット・ミュー〉はホントに憧れです。

いまはダブステップとグライムのレーベルですよ。

デデ:あー、〈プラネット・ミュー〉から出したかったなー。

ハハハハ。ちょっと話が飛ぶけどさ、ハドソン・モホークみたいな新世代はどう?

デデ:大好き。

やっぱり。

デデ:ニュー・ジャック・スウィングでしょ、あれ。

ハハハハ。うまいこと言うね。R&Bみたいなこともやってるしね。

デデ:プリンスみたいな曲もあるでしょ。「やられたー!」って思った。プレフューズ73のときも「やられたー!」って思ったんだけど、ああいうヴォイス・サンプリングをチョップするの自分もやっていたから。だから、自分はメロディをチョップして、自分なりのものを作ってやるって思った。

そうそう、なんで使っているのが、チベットやインドネシアの少女の声なの?

デデ:ただ手元にあっただけっていう。

アジアに対する妄想があるとか(笑)。

デデ:そういうわけではないんです。ただ、手元にあって使ったら「良いね」って言われて、「じゃ、使ってみようかな」みたいな。

なかばトレードマークになってるでしょ。

デデ:ただ、エイベックスに来たときにあれはもう捨てたかったんですよ。ヴォーカリストを使って、何か他のことをやりたいと思っていたほどなんです。あの声はライヴでも使ってないし......。

しかし......そう考えると、新しいアルバムは好き放題やってるよね。

デデ:うん、そうですね。

僕は6曲目がいちばん好きです。"double moon song"、これ、ホントに良い曲だと思います。テクノが好きな人はこれは好きだと思うよ。

デデ:はっきり言うと、これ、「カム・トゥ・ダディ」の2曲目の"フリム"なんです。ああいう、妖精が飛んでいるような曲を作りたいというのがあった。実はこれ、19歳のときの曲なんです。そのときからほとんど変わってない。ビートがちょっと変わったぐらいで。テクノに対する愛をいちばんストレートに出した曲なんです。

そうだね、ホントにそう思う。

デデ:昔、NHKの深夜番組で風景の映像にアンビエント音楽だけっていうのがあったんです。ボイジャーの映像にテクノがかかるみたいな。そこで『アンビエント・ワークス』の2曲目か3曲目がかかったんです。「いいな~」って思って。そう、そのときの感覚や、"フリム"みたいな感覚、それは僕のなかですごくピュアなものなんです。それをもう1回やってもいいかなと思って。それが結局、今回のアルバムのいちばん中心になった。

3曲目の"sweet gravity"も面白かったな。

デデ:あれはねー、あからさまにやってやれって感じで(笑)。

デデマウス的なアシッド・ハウスというか(笑)。

デデ:アシッドもの好きなんですよ。

やっぱそうなんだ。

デデ:いまやっておけば、4枚目ではもっと出せるかなって(笑)。

ハハハハ。

デデ:だから、自分がやりたかったこと、やってきたことの橋渡し的なことになればいいなと思っているんです。ただ、ぶっちぎり過ぎないようにしようとは思いました。だから、やりたいことをやっているんだけど、デデマウスを客観視して作ったアルバムでもある。ようやく、〈ロムズ〉への劣等感を払拭できたというか、やっとみんなと同じところに立てたのかなというのもある。

〈ロムズ〉は、そこまで大きかったんだね。

デデ:あと去年、タイコクラブに出たとき、そこで見たスクエアプッシャーのライヴがすごく良くって。わかりにくいことをやるのかなと思ったら、初期の頃の名曲と最近のメロディアスなポップスばかり、たとえば"ア・ジャーニー・トゥ・リードハム"とか"カム・オン・マイ・セレクター"とかやるんです。それに励まされて、自分の好きなことをやろうって気持ちをさらに固めた。

ああ、そうか、"ア・ジャーニー・トゥ・リードハム"(1997年の『ビッグ・ローダ』の1曲目)から『A Journey to Freedom』が来ているんだ。

デデ:もう大好きだったから。今回は曲名もすべてパロディなんです。"マイ・フェイヴァリット・スウィング"とか"ニュータウン・ロマンサー"とか。

なるほど。

デデ:最後の曲の"same crescent song"がロキシー・ミュージックの"セイム・オールド・シーン"から来ているというのはわかりづらいかもしれないけど。

絶対にわかりません(笑)。

デデ:それで、ジャケットの方向性が決まったときに、「あ、もうこれは『A Journey to Freedom』でいこう」と。

強烈なジャケだね(笑)。

デデ:強烈ですね(笑)。

下北の駅で見たよ~。でっかいヤツ。

デデ:ハハハハ、ありがとうございます。もう......、血を見るような努力の結果なんで、これ。イラストレーターの先生(吉田明彦)がスクエアの社員の方なんで、社外仕事になってしまうじゃないですか。だから、描いてもらうのに、何度も何度もお願いして断られ、でもお願いしてって。先生自身はやる気になってくれていたんだけど。で、描いてもらえるってことになったときに、自分の入れて欲しい要素をぜんぶ入れてもらおうと思って。だから、背景に団地が描かれている。これ、多摩ニュータウンなんです。奥さんがそっちのほうの方だったので、けっこう感覚的にわかってもらえて。

なるほど。

デデ:誰もいないパレードというテーマもあった。

子供っていうのはテーマとしてずっとあるんでしょ? アルバムも子供の声からはじまっているし。

デデ:僕の場合、子供っていうのは真っ直ぐさみたいなものの象徴としてあるんです。冒険とか......思春期前の真っ直ぐさ。先の見えない真っ暗な未来へと飛び込まされる以前の、真っ直ぐさ。13歳から15歳とか、僕は、その年代のときには恐怖しかなかったけど、希望とかいうものを託して旅立たせたいという気持ちがあって。で、ひとりでは淋しいから仲間がいれば安心だろうって。そういうことなんです。

タイトルが『A Journey to Freedom』だもんね。

デデ:だけど自分が描いたストーリーはけっこうヘヴィーなんです。8曲目の"station to stars"から9曲目の"goodbye parade"って、曲名にもそれは表れている。ってことは......。

そこはいまは言わないでおこうよ。

デデ:そう、隠しているストーリーがある。パレードが葬儀にも見えるから。だけど、僕なりにメッセージがあるんです。誰も頼れる人がいなくなったときがスタート地点じゃないのかなっていう。自分がデデマウスとして活動しているとき、助けてもらえる環境がすごくあった。彼女もいたし......。だけど、彼女もいなくなって、たったひとりになったとき、「がんばらなきゃ」と思って、そこから物事が進むようになったんです。

なんだかんだ言って、デデ君の場合は、表現する場があったじゃない。それは大きいですよ。

デデ:あんま説教臭いのは好きじゃないんだけど。

そういう音楽じゃないしね。ただ......いまのオタク世代になってくると、デデマウスの思春期とは違う窮屈さがあるんだろうね。インターネットで世界に繋がっている錯覚を覚えて部屋からもでない。誰にも傷つけられないし、誰も傷つけない空間にいるっていうかね。デデ君はいろいろ傷ついたり、傷つけたりしたかもしれないけど、傷つくことを恐れて外に出ないっていうのはものすごく恐いことだと思うんだよね。だからCDが売れててもそのファンたちは、オムニバスのライヴになるとあんま来ないっていうか。自分の好きなもの以外の世界を見ようとしないというか。デデ君はだって、DJファミリーだからね(笑)。

デデ:わかりますよ。ニコニコ動画とか、ああいうなかから、ゆとり世代の子たちが出てきているじゃないですか。面白いんだけど、ああいうのを聴いていて何が足りないのかと言うと、リアルさというか、現場で感じる現場感というか。場を経験していないで作っているのがすごくよくわかるんです。フィジカルさがついてないっていうか。まあ、それは若いから当然なんだけど、でも、やっぱ自分が外に出て行って、生の人間を相手していかないと。そういう意味でも『A Journey to Freedom』なんです。

なるほど。話変わるけど、すごいですね、ロンドンの〈ビッグ・チル〉でリリース・パーティだなんて。しかもプラッドと一緒に。

デデ:いや~、プラッド、大好きなんで、ホントに嬉しい。

あの人たちはホントに才能があると思う。作っている音楽もほとんどはずれないでしょ。

デデ:うん、最高ですよ。

しかし、商業的な成功には縁がないんだよ(笑)。

デデ:地味なんですよね。LFOなんかと違って。だけど、僕はホントに尊敬している。『ダブル・フィギア』(2001年)にはとくに影響された。ああいう、微妙にポップなものが好きなんです。そういう意味ではルーク・ヴァイバートが大好きで。一時期はリチャードよりもルーク・ヴァイバートのほうが好きだったくらい。あれほど才能がある人はいない。

ハハハハ、あの人、マジですごいよね。あれこそ根無し草というか、ホントいろんなレーベルから出しているし、「いったい何枚出しているのか?」っていうか。

デデ:わけわからないアシッド・ハウスを出したかと思えばトリップホップやったり......あの人の(ワゴン・クライスト名義で〈ニンジャ・チューン〉から出した)"シャドウズ"って曲のPVが最高で。

ドラムンベースもアンビエントもIDMも、やれることは全部やってるよね。彼がすごいのは、あれだけ作品数出しながら、彼のスタイルってものがないでしょう。あれはすごい。普通はハウスとかIDMスタイルとか、普通はなにかしらあるじゃない。自分のスタイルってものが。あの人は空っぽだよなー(笑)。それで作品が良いからすごいよね(笑)。

デデ:僕、「いちばん好きなのが誰か?」って訊かれたらルーク・ヴァイバートって言うかもしれない。............(以下、延々と同じような話が続くので省略します)

Jose James - ele-king

 ホセ・ジェムスに関して最初に驚いたのは、2009年のムーディーマンのアルバム『アナザ・ブラック・サンデー』で歌っていたことだ。世界は思っているよりも窮屈ではない。小さな島宇宙を喜んでいるのは......(以下、面倒だから省略)......いや、こうした自主規制がよくないのだろう。それが結局のところ、街で遊ぶことと引き替えに、インテリアに囲まれながら誰にも傷つけられることのない空間を無数に作らせているってわけだ。こうした文化状況がどんな人間にとってもっとも都合が良いのかわかっているのだろうか......。

 で、そう、2008年にホセ・ジェイムスがファースト・アルバム『ザ・ドリーマー』を発表したときによく引き合いにだされたのが、アシッド・ジャズの時代に再評価されたジャズ・シンガー、レオン・トーマスである。『ザ・ドリーマー』は、トーマスに代表される昔のメロウ・ジャズのフィーリングを継承しつつ、ディアンジェロのようなモダンR&Bのエッセンを加えて作られたアルバムだった。それは本当に良くできたメロウ・ジャズで、しかもディアンジェロよりもずいぶんとこざっぱりしている。ローランド・カークのゴルペリーな"スプリット・アップ・アバヴ"のカヴァーにもそれがよく表れていた。ピアノはさえずり、ブルース調のベースはうなる。そして彼のソフトな声は滑らかに伸びていく。多くの識者が言うようにそれはたしかに一流なのだろう。が、その一流が、ムーディーマンのゲットー・ソウルと結ぶつくとは思えなかった。

 そればかりか、2年ぶりのセカンド・アルバム『ブラックマジック』ではベンガの曲のカヴァーまで披露している。そう、あまたのダブステッパーのなかでもいまをときめくスターDJのベンガの曲を......である。そしてまあ、ご存じのようにスティーヴン・エリソン――フライング・ロータスの名前で知られる、目下、ジェイ・ディラ以降におけるトップ・プロデューサーとアルバム中の3曲を共作している。いまのトレンドをベタに押さえた組み合わせと言ってまえばそれまでだが、しかし僕のようなリスナーはそれがゆえに「おや?」と興味を示してしまうのだ(逆に言えばそれだけ現在においてダブステップとフライング・ロータスは脅威なのだろう)。日本人のDJ、ミツ・ザ・ビーツも1曲提供している。

 こうしたメンツを考えれば、前作以上にモダンなクラブ・サウンドになるのだろうと思われるかもしれない。前半に関してはそうとも言えるが、大雑把に言えば、ジェイムスのR&Bテイストを加味したメロウ・ジャズは変わらないと言えばそう変わらない......実際、ベンガのカヴァー曲"ウォリアー"やエリソンがトラックを提供した"メイド・フォー・ラヴ"のような野心的な曲もアルバム全体から見れば、言葉は悪いがオマケのようなものだ。"ウォリアー"でもピアノは軽やかに踊り、"メイド・フォー・ラヴ"ではジェイムスのR&Bが展開される。ムーディーマンとの共作"デトロイト・ラヴレター"も、言われなければそれが彼のトラックだとは気がつかないだろう。『アナザ・ブラック・サンデー』の"デザイヤー"で見せたルーズなエロティシズムとは打って変わって、ジェイムスはその曲で清楚なソウルをロマンティックに歌い上げる。エリソンのトラックによるタイトル・ナンバーである"ブラックマジック"はアルバムを象徴しているかもしれない。要するにどこか別の場所に向かうと言うのではなく、『ブラックマジック』はそれがアコースティック・ジャズだろうと打ち込みだろうと、気がつけばメロウ・バラードな響きに帰ってくるのである。アルバムの統一性はほとんどまったく崩れない。

 が、しかし......、ちなみに先行シングル「ブラックマジック」ではふたりのダブステッパー、ジョイ・オービソンとアントールドをリミキサーとして起用している。オービソンにしてもアントールドにしても、ちょっと意外だった。どちらもテッキーな響きに特徴を持つ、昨年から人気急上昇のプロデューサーである。そしてつまり、こうした事態がまた起きている。まるで90年代初頭のような。......世界は思っているよりも窮屈ではないかもしれない。

Various - ele-king

 1995年にロンドンの、当初は〈ON-U〉傘下に設立された〈プレッシャー・サウンズ〉が記念すべき第一弾としてリリースしたのが1974年に編集されたこのアルバムで、だから今回の再発は"再発の再発"ということになる。長らく絶版となっていたが、ファンから再発のリクエストがとくに多かったそうだ。今回の再発のアートワークはオリジナル盤のものを再現したそうだが、〈プレッシャー・サウンズ〉がこのアルバムを皮切りにはじめたリリースの(プリンス・ファー・アイ、イスラエル・ヴァイブレーション、リー・ペリー......etc)、しばらくのあいだ統一性をもたしていたデザインを僕は好きだった。あのデザインは明らかにソウルIIソウル、もしくはアシッド・ジャズの流れを継承するもので、レーベルがどんなリスナーに目を向けていたのかがわかる。ジャングルのシーンを除けば、あの時代、移民文化との接続を積極的に果たしていたのはクラブ・ジャズのシーンだったからだろう。あるいは90年代にヴィンテージ・レゲエを求めて街を彷徨い、再発見を望んでいたのは僕のようなクラブ世代だったからだろう。

 『ハーダー・シェイド・オブ・ブラック』――よりハードな黒い影――などという威勢の良いタイトルのこのアルバムは、1974年にキングストンからロンドンにやって来たレナード・アンソニー・チンによって編集され、そして彼のレーベル〈サンティック〉からリリースされている。レナード・チンはレゲエにおける第二世代のプロデューサーのひとりで、第一世代を1960年代後半にピークを迎えるビッグ・スリー――コクソン・ドッド、デューク・リード、そしてプリンス・バスターとするなら、第二世代のグループとは彼らに続いた世代――ジョー・ギブス、リー・ペリー、クランシー・エクルズ、リンフォード・アンダーソン、ウィンストン・ライリー、バーニー・リー......つまり初期レゲエからルーツへと、もしくはダブへと発展する、その時代にかけて大活躍をするプロデューサーたちである。1968年から1974年にかけてのジャマイカ音楽の発展がどれほどエキサイティングであったのかは識者の言葉に委ねようと思うが、レナード・チンはその偉大なる第二世代におけるもっとも若いひとりだった。1953年生まれのチンは10代半ばで歌手として音楽業界に入り、そして1973年からプロデューサーとして手腕を振るっている。若干20歳のルードボーイのプロデューサーである。『ハーダー・シェイド・オブ・ブラック』のオリジナル・アートワークの写真に写っている格好いい美女は当時のチンの妻だというが、なるほど彼女のスタイルを見ても彼の音楽のルードな姿勢がうかがえるというものだ。

 シンガーや演奏者の顔ぶれを見てもいい。ホレス・アンディ、グレゴリー・アイザックス、アイ・ロイ、ジャー・ウーシュ、ベースはファミリー・マンとリロイ・シブルス、ドラムはカールトン・バレットにティン・レグス、キーボードはオジー・ヒバート、そしてこのアルバムにおけるキーパーソンのひとり、オーガスタス・パブロ。ミキシングはエロール・トンプソン。パブロはチンと同じ歳で、ホレス・アンディやグレゴリー・アイザックスはそのふたつ上だから、録音された頃はみんな20歳そこそこだった。若いエネルギーが集結して、まだ控えめなエフェクトによるダブが出はじめたこの時代のレゲエの、ほんの一握りの煌めきが生まれたのだ。

 僕のお気に入りはホレス・アンディの"プロブレム"と"チルドレン・オブ・イスラエル"(まあ、誰にとってもキラーな曲だが)、グレゴリー・アイザックスの"アイル・ビー・アラウンド"とローマン・スチュワートの"ピース・イン・ザ・ヴァリー"(これらのダブ・ヴァージョンもまた最高である)、そしてアイ・ロイの素晴らしいディージェイの"ヤマハ・ライド"、そしてオーガスタス・パブロの"ラヴァーズ・ムード"と"ハーダー・シェイド・オブ・ブラック"......それからもちろん、チンがザ・ビートルズのノルウェイの森"を知らずにザ・ソウル・ヴェンダーズのカヴァーから入ったという"ベター・シェイド・オブ・ダブ"も忘れるわけにはいかない。今回新たに収録された曲――オーガスタス・パブロの"コロンボ"とそのダブ・ヴァージョンである"スペシャル・ブランチ"、サンティック・オール・スターズによる"ヘル・ボート"と"メキシカン・ロッキング"も良い曲で、アルバムの最後に追加されたキング・タビーのダブも嬉しい限りだ。

 オリジナルは10曲。1995年の再発盤は16曲、今回の再発の再発は21曲もある。曲順も変えてある。自分のコレクションに加えない理由がない。

Joanna Newsom - ele-king

 還俗、と言うんだろうか。僧侶が普通の人に戻ること。これが僧侶ばかりでなく例えば巫女さんなんかにも使える言葉だとすれば、ジョアンナ・ニューサム、彼女はこの新作において「還俗」した。

 数年前、フリー・フォークという概念とともに彼女のファースト・アルバム『ミルク・アイド・メンダー』を手にした方は多いことだろう。リリースが2004年、フリー・フォークという名が人びとの口の端に上るようになったのもこの前後である。デヴェンドラ・バンハートがキュレートしたコンピレーション『ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン』のリリースが同2004年だ(シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンス、ジョゼフィン・フォスター、エスパーズ、バシュティ・バニヤン、ココロージー等を収録)。ジョアンナはこの後、デヴェンドラとともにツアーに出ている。

 世界史的にはウォーカー・ブッシュが大統領二期目の当選を果たしたものの、開戦前に比して支持率は著しく低下、都市リベラル層の反ブッシュ的なムードが高まっていた頃だ。翌2005年には、ブッシュ政権はイラクの大量破壊兵器問題の報告に誤りがあったことを認めるに至っている。ハリケーン・カトリーナがアメリカを襲ったのもこの年だった。アメリカがひとつの時代の終わりへ向かって、加速しはじめた――そんな時期である。フリー・フォークなる音楽は、その一種超俗的な佇まいによって、このように悲惨でめまぐるしいアメリカからの逃走として、あるいは闘争として、人びとの耳と脳裏に鮮やかに刻み込まれた。当時のリベラルで知的なリスナー層はこれを無視できなかったし、『ピッチフォーク』等の左派的メディアが現在持つ影響力を準備したムーヴメントだったとも言える。
 彼女はこの頃、ほんとうに巫女のようだった。大きなペダル・ハープを抱え、悪魔的なロリータ・ヴォイスで独特の歌い回しをする。それはこの世の外のものを引き寄せ、世界を奇妙に揺さぶる。霊感に満ちた、一聴で人の耳を征服してしまう声。実に驚くべきパフォーマンスだった。

 本作において真っ先に感じるのはその声の変化である。しかも1曲めで使用されているのはピアノだ。『ミルク・アイド・メンダー』がジョアンナだと思っていると、軽い戸惑いを覚えるだろう。これは、言わば「普通」である。少女の形をした悪魔の声、あるいは人ではないものと交信する声、あの声はどうしたのだとそう思うはずだ。
 どことなくバルカンな異国情緒をたたえた哀愁フォーク・ナンバー"イージー"。室内楽的なアレンジを施されている点、前作の『イース』を思い起こさせる。『イース』においては、巫女的な彼女、あるいは悪魔的な彼女は世俗の権力を操って女王となった。それを永遠の寿命の中での退屈しのぎとした......そんなふうな想像を掻き立てる。だってアレンジにヴァン・ダイク・パークス、プロデューサーがジム・オルーク、エンジニアがスティーヴ・アルビ二だ。ジャケットも女王の偉容。大作主義的な佇まいも浮世離れしているし、彼女はこのままいくとどこに行き着くのだろうかと、超俗性が極まってカルト・スターに終わってしまうのではないかと個人的には危ぶんだ。が、本作のこの1曲目。ストリングスの綾の向こうから響くのは普通の声だ。もちろんジョアンナの声ではある。が、巫女ではなく、悪魔ではなく、歌うたいの声だと感じる。
 この感触は表題曲である2曲め"ハヴ・ワン・オン・ミー"、3曲目"'81"により顕著だ。この2曲、楽曲と声自体はむしろ『ミルク・アイド・メンダー』に近い。とくに"'81"はハープのみでシンプルに紡がれる、ジョアンナ得意の3拍子の小品で、初期の破壊力のかわりにおだやかな色彩を感じる。4曲目などはジョニ・ミッチェルやローラ・ニーロなど70年代の都会派シンガー・ソングライターの手になるピアノ・ポップといった印象さえ受ける。ディスク2はとくにそうした印象が強い(なんと3枚組の箱入り仕様だ)。なるほど、彼女は「還俗」したのだ。そして新章を開こうとしているのではないだろうか。
 "ハヴ・ワン・オン・ミー"は「黒い娼婦」の歌である。19世紀アイルランドのダンサーで、バイエルン王ルートヴィヒ1世の公妾、通称ローラ(国内盤付属の対訳参照)。スキャンダラスなダンスで手にした彼女の栄光と転落、不遇の晩年に取材した叙事詩だ。3枚分のスリーヴにプリントされたジョアンナの写真はいずれもこの「黒い娼婦」を模したものと思われる。自らをかのローラになぞらえ、俗界に舞い降り、人びとに芸を売って生きていく。言葉が悪いなら、フィギュア・スケートに例えたっていい。少女性や若さにしか宿らない一種のエネルギーを、難度の高い技に変換するだけで多くの人びとを魅了できる競技人生を引退し、より多彩な武器を手に、プロとして人びとに芸を売っていく。そうした覚悟が、下着姿のしなやかな肢体に読み取れなくはない。同時にそこには、絶対に客を飽きさせるものかという自信もある。

 ハープの音色で奏でられる彼女のアパラチアン・フォークは、それがかつてはケルトの森からやってきた音楽であることを遥かに思い起こさせる。中世的で、現代的な感情表現が希薄な、緑青の錆びになめらかに覆われた音楽。全体として彼女は等身大の「私」をテーマとしない。古い伝承や古い詩のような物語を節にのせて誦する。時々は風刺も入る。
 ディスク3はまさに中世の吟遊詩人を思わせる曲群だ。他の2章と同様にピアノの曲ではじめ、ピアノの曲で終えているのが象徴的だが、アップライト・ピアノのようにざらついたカジュアルな音を出している点がまた良い。歌のプレゼンスを助ける、完全に伴奏としての音だ。リコーダーや民族楽器をフィーチャーした曲でも、そうした彩りは彼女の歌でつながる絵巻物の背景に過ぎない。はねるような曲は少なく、しっとりとして引力のある曲で構成されている。
 芸を、歌を売るものとして彼女は帰ってきた。再びプロデューサーに、バート・ヤンシュやデヴェンドラ・バンハートも手がけるノア・ジョージソンを迎えている。おそらく彼女は一生歌いつづけるだろう。そして歴史に名を残すだろう。その準備が整ったという印象だ。

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THEO PARRISH FEAT. BILL BEAVER

THEO PARRISH FEAT. BILL BEAVER Melloghettomental SOUND SIGNATURE / US / 2010/3/1 »COMMENT GET MUSIC
3/13にelevenへ訪れるTheo Parrishの新作は古くからデトロイトにてヴォーカリストとして活動するBill Beaverが参加。DJだけでなくクリエイターとしても孤高の存在であることを証明するアブストラクトなジャズ~ディープ・ソウルを展開。オリジナリティ溢れる楽曲性の高さには、もはや誰も追いつけない。

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VARIOUS ARTISTS

VARIOUS ARTISTS Mahogani Music MAHOGANI / US / 2010/3/1 »COMMENT GET MUSIC
ショーケースコンピとしてリリースされたのが今から4年前。ノンプロにもかかわらず瞬く間にSOLD OUTとなった1枚が再プレス。ボーナスディスクがアーチストアルバムそのものというのもデトロイトならではだが、実はそのアルバム(Nikki-Oというシンガー)はMoodymannを中心にMike GrantやAlton Millerがプロデュース、ここでしか聴けない音源も多数収められています。

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TYCHO

TYCHO Coastal Brake GHOSTLY INTERNATIONAL / US / 2010/3/1 »COMMENT GET MUSIC
最近のリリースがどんどんシューゲイザー系になってきているGHOSTLYから、ex MERCKのTYCHOが限定12"をリリース! キラキラ眩しすぎるシンセのシャワーが多幸感いっぱいのオリジナル、さらに涙腺うるうるのドラマチックな展開が待ち受けるMANUALリミックス、WINDSURFの1/2・HATCKBACKによる生音を活かしたバレアリックなリミックスなど、全曲悶絶必至のメロウ・エレクトロニカ傑作盤!

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AUTECHRE

AUTECHRE Oversteps (Tシャツ付き限定セット: S) WARP/BEAT / JPN / 2010/3/2 »COMMENT GET MUSIC
孤高の革命家・AUTECHREによる記念すべき10thアルバムは、トレードマークである無機質なトラックの殻を破り、メロディーに焦点を当てたかのような問題作!DISK UNIONでは、DESIGNERS REPUBLICが手掛けたこの作品のモノトーンなアートワークをモチーフにしたスペシャルTシャツとCDアルバムをセットにしたファン垂涎の超レア・アイテムを販売!各サイズあります!

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LINKWOOD FAMILY

LINKWOOD FAMILY Miles Away (Intrusion Dubs) FIRECRACKER / UK / 2010/3/8 »COMMENT GET MUSIC
極小プレスで即SOLD OUTとなってしまった12inchが再プレス!!! 毎リリース、ジャンルを問わず、DJ諸氏から熱い賛辞が贈られるFIRECRACKERレーベル。ECHOSPACEのINTRUSIONによるREMIXを2VERSIONを収録し、完全にECHOSPACE色に染め上げたMODERN TECH DUBなHOUSEチューンに仕上がってます。

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JUZU A.K.A. MOOCHY

JUZU A.K.A. MOOCHY Live Mixed @Sound-Channel Osaka On 20090926 PROCEPTION / JPN / 2010/2/22 »COMMENT GET MUSIC
ラッパーRINO LATINA IIをフューチャーした「MOVEMENT EP1」もヒット、間もなくアルバムもリリースされるJUZU A.K.A. MOOCHYによる新作LIVE MIX CD!!!今作は昨年9月、大阪SOUND CHANNELの音源。SOUL、AFRO、BRAZIL、REGGAE、DISCO、FUNK、JAZZなどの生音楽曲で、ラウンジ的リラクゼーションを作り出すMIXに成功!

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AUDIO WERNER

AUDIO WERNER Meanwhile HARTCHEF DISCOS / GER / 2010/3/9 »COMMENT GET MUSIC
まったくハズレなし、毎回スマッシュヒットを飛ばす「イチロー」タイプなAUDIO WERNER。自身のレーベルからの4曲収録のWパックでのリリースですが、視聴せず買ってもOK!?ぐらいの内容で、当然オススメですっ!! さらりと溶け込むシンセと、エレガントなウワもの。うねってる低音が腰にくるハウシーなリズム!!! 参ってしまうほどに使えすぎる!!!

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MARCEL DETTMANN

MARCEL DETTMANN Dettmann Remixed OSTGUT TONTRAGER / GER / 2010/3/9 »COMMENT GET MUSIC
硬質モノ、文字通り鉄板タイトル!!! ベルリン・アンダーグラウンドの「てっぺん」的レーベル「OSTGUT TON」から、MARCEL DETTMANN音源のREMIX集が登場!! MDRからリリースするNORMAN NODGEによる90'S HARD TECHNOっぽいインダストリアル感が表現された2TRACKと、新鋭WINCENT KUNTHのおこもり感満点、地下DUB TRACKを収録。

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VALMAY

VALMAY Radiated Future BLUEPRINT / UK / 2010/3/8 »COMMENT GET MUSIC
2009年の復活劇は、アンダーグラウンドにおける大きなトピックと思います。JAMES RUSKINによるBLUEPRINTからの新プロジェクトVALMAY。実はベテランPAUL MACの変名!! 打ち込まれる尖ったハットと抑えの利いたシンセのバランスは、相当計算されてフロア用に調整されいたり、HARD MINIMAL的ベースラインが光っていたりと、ベテラン・プロデューサーらしいキラーチューン。

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PETER VAN HOESEN & DONATO DOZZY/MATT O'BRIEN

PETER VAN HOESEN & DONATO DOZZY/MATT O'BRIEN Talis/Into The Red CURLE / BEL / 2010/3/2 »COMMENT GET MUSIC
素晴らしいTECHNO作品!!! 来日の度に素晴らしいDJプレイで、ファンを増やしている、イタリアン・アンダーグラウンドのトップDONATO DOZZYと、間もなくアルバムをリリースするベルギーのPETER VAN HOSENによるコラボ!! 90年代のUK TECHNOのような透き通ったシンセのリフと、緻密なプログラミングによる音の粒子。フロアで鳴らせば百万馬力な低音は完璧!!!

CHART by JET SET 2010.03.18 - ele-king

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UNKNOWN ARTIST

UNKNOWN ARTIST WOMAN OF CANDY »COMMENT GET MUSIC
出た!!話題のInternational Feelからド最高な謎リエディット物登場!!先日のHarvey pres. Rocussolusの瞬殺振りも凄まじいものがあったInternational Feelから"I'm Not In Love"ネタに続くリエディット物第2弾!!

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GONJASUFI

GONJASUFI A SUFI & A KILLER »COMMENT GET MUSIC
新世代ビート通過後のフリークアウト・メロウ・ソウル衝撃の傑作!!西海岸ビート・シーンから登場した謎のシンガー/トラックメイカー、Gonjasufiの1st.アルバム!!Flying LotusとGonzalesが正面衝突したような驚異のニュー・サウンド。とにかく聴いて下さい!!

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DJ ASPARAGUS

DJ ASPARAGUS EP#1 -WAN'CHA »COMMENT GET MUSIC
Ur Daddy Loves Uが(B面込みで!)喝采(?)を浴びた新鋭、DJ Asparagusの第2弾リリース!今回も、Wipe The Needleとの"Ur Daddy Loves U"(Gil Scott-Heronの同名曲のRe-Edit)の流れを汲んだ"I Wan'Cha"、Erro"Don't Change"を文字通りファンキーに料理したB/W"Funk For Me"と、今回も両面イケます!

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DONAEORIOT MUSIC

DONAEORIOT MUSIC »COMMENT GET MUSIC
大推薦☆D'N'Bを呑み込んだ進化形UKファンキー・ボムをSkreamがリミックス!!"Party Hard"の特大ヒットも記憶に新しいUKガラージュ・プロデューサー/シンガーDonaeoを、SkreamがD'N'Bリミックスした特大アンセムがこちらっ!!

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V.A.

V.A. IN A CLOUD - NEW SOUNDS FROM SAN FRANCISCO »COMMENT GET MUSIC
これは素晴らしい。サン・フランシスコのインディ・シーンをパックした超グレイト・コンピ!!サン・フランシスコで活動する14アーティストの未発表曲を収録。アナログ・リリースのみの限定500枚。ロウファイ~ガレージ~フォークを中心に素敵な曲がめいっぱい入ってます。ジャケもグレイトです!!

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RUSKO

RUSKO WOO BOOST »COMMENT GET MUSIC
ダブステップ史を塗り替えた天才がDiploのMad Decentから初登場!!■'10年度ベスト候補■流石のDiplo。先物データDJたちの間ではお馴染みの強力新鋭ばかりを起用した超強力リミックス12"へと仕上がりましたっ!!

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V.A

V.A CECILLE ITALY »COMMENT GET MUSIC
人気のCecilleからの興味深い企画コンピが登場!!ミニマルハウス・シーンの最前線を走るCecilleが注目するイタリアン・プロデューサー達を一挙に紹介するコンセプト・コンピレーション!!!

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QATJA S

QATJA S KROM EP »COMMENT GET MUSIC
☆大推薦☆これが当ジャンル'10年の一推しサウンド=フレンチ・テックだ!!当店お馴染みのベルジャン・ジャンパーDr. Rudeとのコラボ12"もリリースしているフレンチ・テック・マスターQatja Sによる特大傑作がこちら!!

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D.I.T.

D.I.T. LONG GONE (PRINS THOMAS EDIT) »COMMENT GET MUSIC
コロラド発の幻のマイナー・ソウル/ファンク・バンド音源の正規再発!!Still Musicの再発専科Past Dueから、Alex From Tokyo、Rondenionによるリエディットも含めて'07年に再発された"Let's Start Dancin"に続く第2弾。

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REZKAR

REZKAR ABOVE THE CLOUDS »COMMENT GET MUSIC
南アフリカからのグッド・ディープ・ハウスをJohn Dalyがリミックス。The Revenge、Dixon、Ame、Tim Sweeney、Jacques Renault、D'Julz、Michael Reinboth、Sasse、Lexxと多くのサポートが集まる話題作!!

Fenno'berg - ele-king

 00年代を予見した音楽としてレイディオヘッドやゴッドスピード・ユーが取り沙汰される時、それは気分的なものを差すことが多い。アラブ・ストラップであれ、フィッシュマンズであれ、90年代末にメランコリックなムードが充満していたことはレイヴ・カルチャーへの反動としても理解できるし、同時多発テロ以降の閉塞感を見通したというのなら、そういう言い方も決して無理ではないだろう。ゴッドスピード・ユーには、しかも、ドローン的な表現との橋渡しになるという音楽的なポテンシャルも少なからずあった。サン O)))やナジャといったドゥームからアルヴァーやヴェルヴェット・カクーンといったブラック・メタルにもその陰は落ち、アンチコン=ヒップ・ホップやブレイクコア=ワールズ・エンド・ガールフレンドがその磁場に引きずり込まれていったことも印象的なモーメントだったといえる。

 予見的な可能性という意味では、しかし、99年も終わろうかという頃にリリースされた『マジック・サウンド・オブ・フェノバーグ』よりも音楽的なポテンシャルの高さを示したアルバムは当時はほかになかった。クリスチャン・フェネス、ジム・オルーク、ピーター・レーバーグという、その後の10年間にわたって存在感をアッピールし続けた3人が抽象的なイメージと具体的なサンプリングをぶつけ合い、勃興期のレイヴ・カルチャーとはまったく異なる混沌がそこには叩きつけられていた(チックス・オン・スピードによる奇怪なアートワークも強烈だった)。それは早くもエレクトロニカの鬼っ子的な表現であり、結果的には実験音楽の復興にも寄与する導線ともなった。あるいはブラック・ダイスというフィルターを経てオーヴァーグラウンドとの接点を探るものとなり、ピーター・レーバーグがサン O)))のスティ-ヴン・オモリーと組む(=KTL)ことでドゥームとのクロスオーヴァーも達成している。ソースはあらゆる方向にぶちまけられたのである。

 KTLが来日した際、レーバーグに話を聞いていると、ふと、彼が「フェノバーグの3枚目が出るよ」と教えてくれた。3年前のことである。なんだよ、ウソだったのかなと思っている頃にようやく『イン・ステレオ』が店頭に並び、輸入盤はすぐに売り切れた。02年にリリースされたセカンド『リターン・オブ・フェノバーグ』(これもチックス・オン・スピードによるアートワークが秀逸)がシャープさを増していたのに対し、3作目は自らがつくりだした混沌を増幅させるようなものではなく、ヨーロッパ的な洗練に磨きがかかっているような印象が強い。唯一のアメリカ人であるジム・オルークが『ザ・ヴィジター』でポスト・クラシカルの決定打といえる方向性にシフトしたことも関係があるのだろう(アメリカのシーンが衰退しているわけではない)。かつては弾け飛ぶように、あるいは、突き刺さるようにアウトプットされていた電子音はここでは何かを撫で回すようにねっとりとした感触に取って代わられ、安直なアンビエント・ドローンへの迎合どころか、部分的にはジョン・ハッセルやラズロ・ホルトバギを思わせるドローン・ジャズとも接合しかねない。なるほどこれはミュージック・コンクレートとクラブ・ミュージックの快楽性を止揚させた成果といえるだろう。そう、クラブ・ミュージックのチープさを批判し、高度な音楽性を訴える者はここまでやるべきではなかったか。

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